説明

有機無機複合材料及びその製造方法、それを用いた機能性電極及びそれを用いた機能性素子

【課題】初期発色特性及び経時発色安定性に優れる機能性素子を提供することを目的とする。
【解決手段】機能性有機材料と金属酸化物とがシラノール結合により結合された有機無機複合材料を提供する。特にシラノール結合が、シランカップリング剤と反応させることにより形成されるのが好ましい。また、かかる有機無機複合材料を電極上に均一に積層し発色層を形成することによりエレクトロクロミック表示素子用表示電極等の機能性電極を提供することもでき、かかる機能性電極、対向電極及び両電極間に配置された電解質層によりエレクトロクロミック表示素子等の機能性素子を提供することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ペーパー等として利用可能な有機無機複合材料、機能性電極及び機能性素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紙に替わる電子媒体として電子ペーパーの開発が盛んにおこなわれている。従来のディスプレイであるCRTや液晶ディスプレイに対して電子ペーパーに必要な特性としては、フレキシブルな反射型表示素子であり、かつ、高い白反射率・高いコントラスト比を有すること、高精細な表示ができること、表示にメモリ効果があること、低電圧で駆動できること、薄くて軽いこと、安価であることなどが挙げられる。例えば、エレクトロクロミック化合物の発色/消色を利用したエレクトロクロミック表示素子は、反射型の表示素子であること、メモリ効果があること、低電圧で駆動できることから、電子ペーパーの候補として材料開発からデバイス設計まで広く研究開発されている。また、材料構造によって様々な色を発色できるため多色表示素子としても期待されている。
【0003】
近年これら電子ペーパーに代表される電子デバイスを実現させるための材料として有機−無機複合材料の研究が盛んに行われている。例えば特許文献1には、電極上に配置されたナノ結晶質層にエレクトロクロミック化合物を吸着させて用いた例が示されている。しかしこれまでは、この例のように有機機能性材料のカルボン酸やサリチル酸等の酸性基末端を無機微粒子の水酸基に吸着させているものがほとんどであった。これらのような酸性基を用いても、無機微粒子上に有機化合物を吸着させることは可能であるが、その結合力はそれほど強固でないため、素子作成時や繰り返し使用後、もしくはアルカリ性条件ではさらに容易に有機化合物と無機微粒子との結合が切れてしまうというような問題があった。
一方、グレッツェルらが提唱した色素増感型太陽電池(非特許文献1)は上記エレクトロクロミック素子と同じように無機微粒子上に光増感機能を持つ色有機化合物を吸着させた構成であるが、同様の問題を有している。
【特許文献1】特表2000−506629号公報
【特許文献2】特開2004−191418号公報
【非特許文献1】Nature,353,737(1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、初期発色特性及び経時発色安定性に優れる有機無機複合材料及びその製造方法、それを用いた機能性電極及びそれを用いた機能性素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、金属酸化物と機能性有機材料とをシラノール結合を介して結合させることにより、上記課題が解決できることを見出した。無機微粒子の有機化合物による表面処理は以前から広く行われており、電子デバイスに用いられた例としても、特許文献2にシランカップリング剤で金属酸化物を処理してその表面特性を改良した例が示されている。しかしこれら無機微粒子にシラノール結合を介して有機化合物を結合させた例はいずれも無機微粒子の表面特性の改質をめざしたものであり、金属酸化物にシラノール結合を介して機能性有機材料を結合させてエレクトロクロミック表示素子用電極や光電変換素子用電極等の機能性電極、エレクトロクロミック表示素子や光電変換素子等の機能性素子を作成した例はこれまでなかったものである。これまでの水素結合を利用
した吸着が経時で特性が劣化する理由としては、吸着力がそれほど強くなく有機材料の無機微粒子から脱離が起こるためと考えられる。それに対してシラノール結合は結合が強固であるため、経時でも有機材料の脱離がほとんど起こらないため経時安定性に優れるものになると考えられる。また、有機材料を無機微粒子状に密に吸着可能になるため初期発色濃度が向上すると考えられる。
【0006】
本発明の有機無機複合材料等は、以下の構成を有する。
(1)金属酸化物上に機能性有機材料が担持されてなる有機無機複合材料において、機能性有機材料と金属酸化物とがシラノール結合により結合されることを特徴とする有機無機複合材料である。機能性有機材料と金属酸化物とがシラノール結合により強固に結合することにより耐久性に優れたものとなる。
【0007】
(2)前記シラノール結合が、シランカップリング剤と金属酸化物とを反応させることにより形成されていることを特徴とする上記(1)に記載の有機無機複合材料が好ましい。
本発明の有機無機複合材料は、金属酸化物と機能性有機材料とをシラノール結合を介して結合している状態にあればよいが、シランカップリング剤を用いることにより、容易に素子の形成が可能となる。
【0008】
(3)前記シランカップリング剤が、反応性末端を有することを特徴とする上記(2)に記載の有機無機複合材料が好ましい。また前記シランカップリング剤は反応性末端を複数有していても良い。
本発明で用いるシランカップリング剤はシランカップリング剤自体が機能性を有していても良いが、反応性末端を有していればその反応性末端を介して機能性有機材料を連結することが可能となる。
【0009】
本発明で用いられる反応性末端を有するシランカップリング剤の具体的な例としては、1,2−ジクロロエチルトリクロロシラン、1,2−ジブロモエチルトリクロロシラン、10−ウンデセニルジメチルクロロシラン、11−ブロモウンデシルジメチルクロロシラン、11−ブロモウンデシルトリクロロシラン、11−ブロモウンデシルトリメトキシシラン、1−クロロエチルトリクロロシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシルエチル)トリメトキシシラン、2−(4−ピリジルエチル)トリエトキシシラン、2−アミノエチルアミノメチルトリメトキシシラン、2−クロロエチルトリクロロシラン、2−シアノエチルトリクロロシラン、3−(2、4−ジニトロフェニルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3−(トリヒドロキシシリル)−1−プロパンスルホン酸、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アリルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルジメチルクロロシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリクロロシラン、3−シアノプロピルトリクロロシラン、3−ブロモプロピルトリエトキシシラン、3−ブロモプロピルトリクロロシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、4−(2−(トリクロロシリル)エチル)ピリジン、4−クロロフェニルクロロシラン、4−クロロフェニルトリエトキシシラン、4−クロロフェニルトリメトキシシラン、7−オクテニルトリクロロシラン、N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、アリルトリクロロシラン、ウレイドプロピルトリエトキシシラン、クロロメチルトリエトキシシラン、クロロメチルトリクロロシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、トリメトキシビニルシラン、ビニルトリクロロシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン、等が挙げられるがこれらに限るものではない。
【0010】
(4)前記反応性末端が、下記式から選ばれる構造を有することを特徴とする上記(3)
に記載の有機無機複合材料であるのが好ましい。
【0011】
【化1】

【0012】
(5)前記シランカップリング剤が、トリクロロシラン化合物であることを特徴とする上記(2)〜(4)のいずれか一に記載の有機無機複合材料が好ましい。
(6)前記シランカップリング剤が、トリアルコキシシラン化合物であることを特徴とする上記(2)〜(4)のいずれか一に記載の有機無機複合材料が好ましい。
(7)前記シランカップリング剤が、モノクロロシラン化合物であることを特徴とする上記(2)〜(4)のいずれか一に記載の有機無機複合材料が好ましい。
本発明で用いるシランカップリング剤は、シラノール結合を形成可能なものであればよいが、トリアルコキシシラン化合物もしくはトリクロロシラン化合物が合成容易であり好ましい。トリクロロシラン化合物は反応性が高く、様々な金属酸化物に短時間で吸着可能であり、トリアルコキシシランは比較的反応性が低いため反応の進行制御が容易となる。もしくはモノクロロシラン化合物を用いれば、シランカップリング剤のオリゴマー化を防止できるため金属酸化物への吸着量制御が容易となる。
【0013】
本発明の有機無機複合材料として用いる金属酸化物は、エレクトロクロミック特性を有する機能性有機材料とシラノール結合を形成可能なものならその材質や形態は特に限定されるものではないが、機能性有機材料の特性に合う金属酸化物が好ましく用いられる。
【0014】
(8)前記金属酸化物の例としては、下記に限定されるものではないが、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、アルミナ、ジルコニア、セリア、シリカ、イットリア、ボロニア、マグネシア、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、カルシア、フェライト、ハフニア、三酸化タングステン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化バナジウム、チタン酸バリウム、アルミノケイ酸塩、リン酸カルシウム、アルミノシリケート等を主成分とする金属酸化物が挙げられ、これらの金属酸化物を単独で用いても2種以上を混合して用いても良い。好ましくは酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、アルミナ、ジルコニア、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化インジウム、酸化タングステン、から選ばれる一種、もしくはそれらの混合物であるのが好ましい。さらにその電気的特性と物理的特性から酸化チタンが特に好ましく用いられる。
【0015】
(9)前記金属酸化物が、平均一次粒径200nm以下の無機微粒子からなることを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれか一に記載の有機無機複合材料が好ましい。
ここで、本発明に係る有機無機複合材料をエレクトロクロミック素子として利用する場合には、金属酸化物が平均一次粒子径200nm以下の無機微粒子であれば、金属酸化物の比表面積は十分大きく、すなわちより多くの発色団が吸着もしくは結合可能となり、本発明の有機無機複合材料はより発色に優れたものとなる。
(10)前記金属酸化物が、平均一次粒径30nm以下の微粒子からなることを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれか一に記載の有機無機複合材料が好ましい。
ここで、本発明に係る有機無機複合材料をエレクトロクロミック素子として利用する場合には、金属酸化物が平均一次粒子径30nm以下の微粒子であれば、金属酸化物等に対
する光の透過率が大幅に向上するため、本発明の有機無機複合材料はさらに発色に優れたものとなる。
【0016】
(11)前記機能性有機材料がエレクトロクロミック特性を有することを特徴とする上記(1)〜(10)のいずれか一に記載の有機無機複合材料である。本発明の有機無機複合材料は、様々な用途に渡って応用が考えられる。例えば、エレクトロクロミック表示素子用としても好適に用いることができる。
本発明に用いるエレクトロクロミック特性を有する機能性有機材料としては、電気により色調を変化しうる発色団を有し、直接的もしくは間接的に金属酸化物とシラノール結合を形成可能なものであればよい。前記発色団の具体的な例としては、アゾベンゼン系、アントラキノン系、ジアリールエテン系、ジヒドロプレン系、スピロオキサジン系、スピロチオピラン系、スピロピラン系、チオインジゴ系、テトラチアフルバレン系、トリフェニルメタン系、トリフェニルアミン系、ナフトピラン系、ビオロゲン系、ピラゾリン系、フェナジン系、フェニレンジアミン系、フェノキサジン系、フェノチアジン系、フタロシアニン系、フルオラン系、フルギド系、ベンゾピラン系、メタロセン系、等公知のエレクトロクロミック化合物が挙げられるが、耐久性に優れるビオロゲン系が特に好ましい。
【0017】
(12)前記機能性有機材料が光電変換機能を有することを特徴とする上記(1)〜(10)のいずれか一に記載の有機無機複合材料である。機能性有機材料として光電変換機能を有する有機化合物を用いた時、本発明の有機無機複合材料は、光電変換素子用としても好適に用いることができる。ここで光電変換機能を有する有機化合物とは、可視光域および/または赤外光領域に吸収を持つ有機化合物をいう。
本発明に用いる光増感機能を有する機能性有機材料としては、可視光域および/または赤外光領域に吸収を持つ有機化合物であり、直接的もしくは間接的に金属酸化物とシラノール結合を形成可能なものであればよい。光電変換機能を有する有機化合物としては、クマリン系、アゾ系、シアニン系、スピロピラン系、キサンテン系、等の有機色素、ルテニウム錯体やその4級塩化合物、ポルフィリン系、フタロシアニン系、等の金属錯体色素、及びそれらの混合物等を用いることができるが、これらに限られるものではない
【0018】
(13)前記(11)に記載されたエレクトロクロミック特性を有する有機無機複合材料が電極上に積層され発色層を形成したことを特徴とするエレクトロクロミック表示素子用表示電極である。ここで電極とは表示極用基板と表示極用電極よりなるものを指すが、表示極用基板が表示極用電極として機能していてもよい。
このような構成を採用することにより、電極間における電子の移動がしやすくなり、応答性に優れるとともに耐久性に優れたものとなる。電極の材料としては、ITO、FTO等の透明電極、銅、亜鉛、金、白金、鉄、アルミニウムなどの金属等、電気伝導性を有するものであれば特に限定されるものではない。
【0019】
(14)前記エレクトロクロミック表示素子用表示電極が、透明電極であることを特徴とする上記(13)に記載のエレクトロクロミック表示素子用表示電極である。
例えば、ITO、FTO等の透明電極を用いれば、本発明のエレクトロクロミック表示素子用表示電極は電極側から視認できるようになるため透明電極を用いることがより好ましい。
【0020】
(15)前記(12)に記載された有機無機複合材料が電極上に積層され光電変換層を形成したことを特徴とする、光電変換素子用電極である。ここで光電変換素子用電極とは光電変換用基板と光電変換用電極よりなるものを指すが、光電変換用基板が光電変換用電極として機能していてもよい。このような構成を採用することにより、電極間における電子の移動がしやすくなり、変換効率に優れるとともに、耐久性に優れたものとなる。電極の材料としては、ITO、FTO等の透明電極、銅、亜鉛、金、白金、鉄、アルミニウムな
どの金属等、電気伝導性を有するものであれば特に限定されるものではない。
【0021】
(16)前記電極が、透明電極であることを特徴とする上記(15)に記載のエレクトロクロミック表示素子用表示電極である。
例えば、ITO、FTO等の透明電極を用いれば、本発明の光電変換素子用電極は電極側から光を受光できるようになるため透明電極を用いることがより好ましい。
【0022】
(17)上記(13)又は(14)に記載されたエレクトロクロミック表示素子用表示電極と、該エレクトロクロミック表示素子用表示電極に対して間隔をおいて設けられた対向電極と、両電極間に配置された電解質層とを備えたエレクトロクロミック表示素子である。本発明のエレクトロクロミック表示素子用表示電極は、エレクトロクロミック表示素子用としても優れた特性を有する。
【0023】
ここで対向電極とは、対向用基板、対向用電極よりなるものを指すが、対向用基板が対向用電極として機能していても良い。さらに電解質層は表示電極と対向電極との間に設けられている。電解質としては公知の非水系電解質、水系電解質のいずれも使用可能であり限定されないが、本発明で好ましく用いられる電解質の例としては公知の有機電解液、高分子固体電解質及びゲル電解質、イオン性液体等が挙げられる。
【0024】
(18)前記エレクトロクロミック表示素子において、酸化チタン白色微粒子からなる白色反射層を設けたことを特徴とする上記(17)に記載のエレクトロクロミック表示素子である。白色反射層を設ける事により、本発明のエレクトロクロミック表示素子は視認性に優れたものとなる。
本発明のエレクトロクロミック表示素子の構成例を図1に示す。ただし、本発明のエレクトロクロミック表示素子の構成は、図1に限られるものではない。
【0025】
(19)上記(15)又は(16)に記載された光電変換素子用電極と、該光電変換素子用電極に対して間隔をおいて設けられた対向電極と、両電極間に配置された電解質層とを備えた光電変換素子である。
【0026】
ここで対向電極とは、対向用基板、対向用電極よりなるものを指すが、対向用基板が対向用電極として機能していても良い。さらに電解質層は光電変換素子用電極と対向電極との間に設けられている。電解質としては公知の非水系電解質、水系電解質のいずれも使用可能であり限定されないが、本発明で好ましく用いられる電解質の例としては公知の有機電解液、高分子固体電解質及びゲル電解質、イオン性液体等が挙げられる。
【0027】
(20)機能性有機材料と反応可能な官能基を有するシランカップリング剤を金属酸化物に反応させた後、その官能基に機能性有機材料を反応させることによって機能性有機材料と金属酸化物とをシラノール結合により結合し有機−無機複合材料を形成することを特徴とする上記(2)〜(12)のいずれか一に記載の有機無機複合材料の製造方法である。このような製造方法を用いる事により、前記シラノール結合を有する有機無機複合材料を容易に製造する事が可能となり、またこれまでは無機材料に担持が困難であった構造の機能性有機材料を担持する事が可能となり、これまで世の中になかった機能を有する機能性材料を提供する事が可能となった。
【発明の効果】
【0028】
請求項1に係る発明は、金属酸化物上に機能性有機材料が担持されてなる有機無機複合材料において、機能性有機材料と金属酸化物とがシラノール結合により結合されることにより、耐久性に優れた有機無機複合材料を提供可能とする。
請求項2に係る発明は、シランカップリング剤を用いることにより、耐久性に優れた有
機無機複合材料を容易に提供可能とする。
請求項3に係る発明は、反応性末端を有するシランカップリング剤を用いることにより、様々な機能を有する有機無機複合材料を提供可能とする。
請求項4に係る発明は、シランカップリング剤が上記(化1)に示す反応性末端を有することにより、容易に様々な機能を有する有機無機複合材料を提供可能とする。
請求項5に係る発明は、高い反応性により容易に有機無機複合材料を提供可能とする。
請求項6に係る発明は、有機無機複合材料の生成反応が容易に制御可能となる。
請求項7に係る発明により、有機無機複合材料作製時において金属酸化物への吸着量制御が容易となる。
請求項8に係る発明により、エレクトロクロミック特性を有する、耐久性に優れた有機無機複合材料を提供できる。
請求項9に係る発明により、光増感機能を有する、耐久性に優れた有機無機複合材料を提供できる。
【0029】
請求項10に係る発明により、耐久性に優れたエレクトロクロミック表示素子用表示電極を提供できる。
請求項11に係る発明により、電極側から視認可能なエレクトロクロミック表示素子用表示電極を提供できる。
請求項12に係る発明により、耐久性に優れた光電変換素子用電極を提供できる。
請求項13に係る発明により、耐久性に優れたエレクトロクロミック表示素子を提供できる。
請求項14に係る発明により、視認性に優れたエレクトロクロミック表示素子を提供できる
請求項15に係る発明は、耐久性に優れた光電変換素子を提供できる。
請求項16に係る発明により、有機無機複合材料の容易な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に本発明を実施例並びに比較例によって具体的に説明する。
(実施例1)
−表示電極の作製−
酸化スズ透明電極膜が全面に付いたガラス基板を用い、マスキングにより一部分(面積1cm2)に酸化チタン微粒子分散液(テイカ株式会社製TKS−203)をスピンコー
ト法で塗布し450℃で1時間加熱、厚さ約2μmの酸化チタン層を設けた。次に、この微粒子膜の付いた電極を3−ブロモプロピルトリエトキシシラン5wt%トルエン溶液100mlに浸漬させ、トリエチルアミンを5g加えて24時間置いた後、洗浄・乾燥した。さらにこの電極を、1−エチル−4−(4−ピリジル)ピリジニウムクロリドの5wt%水溶液に80℃で100時間浸漬させ、洗浄・乾燥し表示電極とした。
【0031】
−対向電極の作製−
一次粒径300nmの酸化チタン粒子(石原産業株式会社製CR−50)5gおよびポリエステル樹脂(大日本インキ社製ファインディックM−8076)の50%MEK溶液1gをテトラヒドロフラン溶液10mlに分散させた。厚さ0.2mmの亜鉛板に調製した分散液をワイヤーバーを用いて全面に塗布・乾燥した。膜厚は約5μmであり、紙と同様な白色を示した。
―エレクトロクロミック表示素子の作製―
表示電極と対向電極を50μmのスペーサーを介して貼り合わせ、セルを作製した。過塩素酸リチウムを炭酸プロピレンに0.2M溶解させた電解質溶液を調製し、このセル内に封入することでエレクトロクロミック表示素子を作製した。
【0032】
(実施例2)
1−エチル−4−(4−ピリジル)ピリジニウムクロリドを1−ヘキシル−4−(4−ピリジル)ピリジニウムブロミドに代えた以外は実施例1と同様にしてエレクトロクロミック表示素子を作製した。
【0033】
(実施例3)
表示電極を以下のように作製した以外は、実施例1と同様にしてエレクトロクロミック表示素子を作製した。
−表示電極の作製−
酸化スズ透明電極膜が全面に付いたガラス基板を用い、マスキングにより一部分(面積1cm2)に酸化チタン微粒子分散液(テイカ株式会社製TKS−203)をスピンコー
ト法で塗布し450℃で1時間加熱、厚さ約2μmの酸化チタン層を設けた。次に、この微粒子膜の付いた電極を3−ブロモプロピルトリクロロシラン0.2wt%トルエン溶液に2時間浸漬させた後、洗浄・乾燥した。さらにこの電極を、1−エチル−4−(4−ピリジル)ピリジニウムクロリドの5wt%水溶液に80℃で100時間浸漬させ、表示電極とした。
【0034】
(実施例4)
−表示電極の作製−
酸化スズ透明電極膜が全面に付いたガラス基板を用い、マスキングにより一部分(面積1cm2)に酸化チタン微粒子分散液(テイカ株式会社製TKS−203)をスピンコー
ト法で塗布し450℃で1時間加熱、厚さ約2μmの酸化チタン層を設けた。次に、この微粒子膜の付いた電極を3−ブロモプロピルトリクロロシラン0.2wt%トルエン溶液に1時間浸漬させた後、洗浄・乾燥した。この電極を、4−4’−ビピリジルの5wt%トルエン溶液に80℃で10時間浸漬さた後、洗浄・乾燥した。さらにこの電極を2−ブロモエタンの10wt%トルエン溶液に80℃で10時間浸漬させた後、洗浄・乾燥し、表示電極とした。
【0035】
−対向電極の作製−
実施例1と同様にして対向電極を作製した。
―エレクトロクロミック表示素子の作製―
表示電極と対向電極を50μmのスペーサーを介して貼り合わせ、セルを作製した。過塩素酸リチウムをアセトニトリルに0.2M溶解させた電解質溶液を調製し、このセル内に封入することでエレクトロクロミック表示素子を作製した。
【0036】
(実施例5)
3−ブロモプロピルトリクロロシランを11−ブロモウンデシルトリクロロシランに代えた以外は、実施例4と同様にしてエレクトロクロミック表示素子を作製した。
【0037】
(実施例6)
酸化スズ透明電極膜が全面に付いたガラス基板を用い、マスキングにより一部分(面積1cm2)に酸化チタン微粒子分散液(テイカ株式会社製TKS−203)をスピンコー
ト法で塗布し450℃で1時間加熱、厚さ約2μmの酸化チタン層を設けた。次に、この微粒子膜の付いた電極をトリス(パラトリクロロシリルプロピルフェニル)アミン5wt%アルコール溶液に48時間浸漬させた後、洗浄・乾燥し表示電極とした。対向電極及び電解質層については実施例1と同様にしてエレクトロクロミック表示素子を作製した。
【0038】
(比較例1)
表示電極を下記のように作製した以外は実施例1と同様にしてエレクトロクロミック表示素子を作製した。
有機エレクトロクロミック化合物として下記式で表される化合物を水に溶解させ、0.02M溶液を調製した。
【0039】
【化2】

【0040】
酸化スズ透明電極膜が全面に付いたガラス基板を用い、マスキングにより一部分(面積1cm2)に酸化チタン微粒子分散液(テイカ株式会社製TKS−203)をスピンコー
ト法で塗布し450℃で1時間加熱、厚さ約2μmの酸化チタン層を設けた。次に、この微粒子膜の付いた電極を上記有機エレクトロクロミック化合物溶液に24時間浸漬させた後、洗浄・乾燥し表示電極とした。
【0041】
(比較例2)
表示電極を下記のように作製した以外は実施例1と同様にしてエレクトロクロミック表示素子を作製した。
有機エレクトロクロミック化合物として下記式で表される化合物を水に溶解させ、0.02M溶液を調製した。
【0042】
【化3】

【0043】
酸化スズ透明電極膜が全面に付いたガラス基板を用い、マスキングにより一部分(面積1cm2)に酸化チタン微粒子分散液(テイカ株式会社製TKS−203)をスピンコー
ト法で塗布し450℃で1時間加熱、厚さ約2μmの酸化チタン層を設けた。次に、この微粒子膜の付いた電極を上記有機エレクトロクロミック化合物溶液に24時間浸漬させた後、洗浄・乾燥し表示電極とした。
【0044】
(比較例3)
有機エレクトロクロミック化合物を下記式で表される化合物に代えた以外は比較例1と同様にしてエレクトロクロミック表示素子を作製した。
【0045】
【化4】

【0046】
<発消色試験(初期発色特性)>
素子の発消色特性評価は、大塚電子株式会社製分光測色計LCD−5000を用いて拡散光を照射し、反射率を測定することで行った。表1中の反射率とは標準白色板に入射角度30度で照射した際の反射光を基準として、作製した素子の反射光をそれぞれ上記基準出力で除算して百分率(%)で表した値である。なお、発色特性が良好な場合には反射率は低下しており、発色特性が劣化すると反射率が高くなる。電圧の印加には、株式会社東方技研社製ファンクションジェネレーターFG−02を用いた。
電圧を印加しない状態で反射率を測定したところ、いずれのエレクトロクロミック表示素子も約60%と高い値を示した。なお、この測定には、分光測色計を用いて拡散光を照射することでおこなった。表示電極を負極に、対向電極を正極(もしくは表示電極を正極・対向電極を負極)に繋ぎ、電圧2.5V印加したところ、青色に発色した。−1.0Vの電圧を十分印加すると色は消色して再び白色になった。
【0047】
<耐久性試験(経時発色特性)>
上記エレクトロクロミック表示素子を1週間置いた後、再び発消色試験を行った時の白色反射層の様子を観察し、また反射率を測定する事で経時の発色性を評価し耐久性試験とした。
それらの結果を表1に示した。
【0048】
【表1】

【0049】
(*1) ○表示電極の微粒子層のある部分のみが青色に発色した
△表示電極の微粒子層のある部分以外も青色に発色した
×発色はほとんど見られなかった。
(*2)発色時における表示電極の微粒子層のある部分の反射率
【0050】
(実施例7)
−光電変換電極の作製−
酸化チタン(日本アエロジル社製P−25)2g、水6.0g、アセチルアセトン0.2ml、Triton−X100(米国シグマ−アルドリッチ社製、界面活性剤)0.1gを容器に入れ、ペイントシェイカーを用いて2時間分散した。さらに20質量%の量のポリエチレングリコール(分子量20000、和光純薬社製)1.0gを加えて、酸化チタンペーストを調整した。
酸化スズ透明電極膜が全面に付いたガラス基板を用い、マスキングにより一部分(面積1cm2)にこのペーストをスピンコート法により均一に塗布し、自然乾燥の後450℃
で1時間焼成して10μmの酸化チタン膜を形成した。次にこの電極を3−Aminopropyltriethoxysilane 5wt%トルエン溶液200mlに浸漬させ、Triethylamine 2gを加え、8時間還流後、洗浄・乾燥した。さらにこの電極を容器に入れ、Coumarin343 5.7g、N,N’−Diisopropylcarbodiimide 2.5g、N,N’−Diisopropylcarbodiimide 2.7g、THF 200gを容加え、2時間還流後、洗浄・乾燥し本発明の光電変換電極とした。
【0051】
−対向電極の作製−
酸化スズ透明電極膜が全面に付いたガラス基板上に、真空蒸着法によりPt膜を膜厚20nmとなるように堆積し、対向電極とした。
―光電変換素子の作製―
これらの両基板を絶縁性スペーサーを介して、約10μmの間隙を保って重ね合わせ、エチレンカーボネートとアセトニトリルの混合溶媒にヨウ素とテトラプロピルアンモニウムアイオダイドを加えた酸化還元電解質溶液を注入した後、エポキシ系接着剤でシールし、本発明の光電変換素子を作製した。
この光電変換素子の疑似太陽光照射下(AM1.5、100mW/cm2)における光電
変換効率は2.5%であった。さらに、この素子を室温で一週間置いた後の疑似太陽光照射下における光電変換効率は2.5%であった。
【0052】
(比較例4)
−光電変換電極の作製−
酸化チタン(日本アエロジル社製P−25)2g、水6.0g、アセチルアセトン0.2ml、Triton−X100(米国シグマ−アルドリッチ社製、界面活性剤)0.1gを容器に入れ、ペイントシェイカーを用いて2時間分散した。さらに20質量%の量のポリエチレングリコール(分子量20000、和光純薬社製)1.0gを加えて、酸化チタンペーストを調整した。
酸化スズ透明電極膜が全面に付いたガラス基板の一部(面積1cm2)に、このペースト
を均一に塗布し、自然乾燥の後450℃で1時間焼成して10μmの酸化チタン膜を形成した。次にこの電極をCoumarin343 2wt%エタノール溶液に浸漬させ、2時間還流・洗浄・乾燥し光電変換電極とした。
【0053】
−対向電極の作製−
実施例7と同様に作製した。
―光電変換素子の作製―
実施例7と同様に作製した。
この光電変換素子の疑似太陽光照射下(AM1.5、100mW/cm2)における光電
変換効率は2.0%であった。さらに、この素子を室温で一週間置いた後の疑似太陽光照射下における光電変換効率は0.5%であった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明のエレクトロクロミック表示素子の構成例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物上に機能性有機材料が担持されてなる有機無機複合材料において、機能性有機材料と金属酸化物とがシラノール結合により結合されることを特徴とする有機無機複合材料。
【請求項2】
前記シラノール結合が、シランカップリング剤と金属酸化物とを反応させることにより形成されていることを特徴とする請求項1に記載の有機無機複合材料。
【請求項3】
前記シランカップリング剤が、反応性末端を有することを特徴とする請求項2に記載の有機無機複合材料。
【請求項4】
前記反応性末端が、下記式から選ばれる構造を有することを特徴とする請求項3に記載の有機無機複合材料。
【化1】

【請求項5】
前記シランカップリング剤が、トリクロロシラン化合物であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一に記載の有機無機複合材料。
【請求項6】
前記シランカップリング剤が、トリアルコキシシラン化合物であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一に記載の有機無機複合材料。
【請求項7】
前記シランカップリング剤が、モノクロロシラン化合物であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一に記載の有機無機複合材料。
【請求項8】
前記機能性有機材料がエレクトロクロミック特性を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一に記載の有機無機複合材料。
【請求項9】
前記機能性有機材料が光電変換機能を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一に記載の有機無機複合材料。
【請求項10】
請求項9に記載された有機無機複合材料が電極上に積層され発色層を形成したことを特徴とするエレクトロクロミック表示素子用表示電極。
【請求項11】
前記電極が、透明電極であることを特徴とする請求項10に記載のエレクトロクロミック表示素子用表示電極。
【請求項12】
請求項9に記載された有機無機複合材料が電極上に積層され光電変換層を形成したことを特徴とする光電変換素子用電極。
【請求項13】
請求項10又は請求項11に記載されたエレクトロクロミック表示素子用表示電極と、該エレクトロクロミック表示素子用表示電極に対して間隔をおいて設けられた対向電極と、両電極間に配置された電解質層とを備えたエレクトロクロミック表示素子。
【請求項14】
請求項13に記載されたエレクトロクロミック表示素子において、酸化チタン白色微粒子からなる白色反射層を設けたことを特徴とするエレクトロクロミック表示素子。
【請求項15】
請求項12に記載された光電変換素子用電極と、該光電変換素子用電極に対して間隔をおいて設けられた対向電極と、両電極間に配置された電解質層とを備えた光電変換素子。
【請求項16】
機能性有機材料と反応可能な官能基を有するシランカップリング剤を金属酸化物に反応させた後、その官能基に機能性有機材料を反応させることによって機能性有機材料と金属酸化物とをシラノール結合により結合し有機無機複合材料を形成することを特徴とする請求項2〜9のいずれか一に記載の有機無機複合材料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−31708(P2007−31708A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−173941(P2006−173941)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】