説明

有機物含有水の生物処理方法及び装置

【課題】有機物含有水の生物処理において、担体の追加や通気量の増大、曝気槽の増設等の改造を行うことなく、処理効率を効果的に向上させて、高負荷運転を行った上で、安定した処理水質を維持する。
【解決手段】生物担体を内蔵する曝気槽1に有機物含有水を導入し、酸素含有気体を曝気して生物処理する方法において、酸素源として硝酸(塩)及び/又は亜硝酸(塩)を曝気槽1に添加し、曝気による有機物の生物酸化と、脱窒反応による有機物の分解とを行う有機物含有水の生物処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生活排水、下水、食品工場やパルプ工場をはじめとした広い濃度範囲の有機物含有水の生物処理に利用することができる方法及び装置に関するものであり、特に、既存の設備において、担体の追加や通気量の増大、曝気槽の増設等の改造を行うことなく、簡便な操作で、負荷の増大に対応することが可能な生物処理方法及び生物処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機物含有排水を生物処理する場合に用いられる活性汚泥法は、処理水質が良好で、メンテナンスが容易であるなどの利点から、下水処理や産業廃水処理等に広く用いられている。しかしながら、運転に用いられるBOD容積負荷は0.1〜1.0(一般的に0.5〜0.8)kg/m/日程度であるため、広い敷地面積が必要となる。
【0003】
有機物含有排水の高負荷処理に関しては、担体を添加した生物処理(固定床法、流動床法)が知られている。この方法を用いた場合、1kg/m/日以上のBOD容積負荷で運転することが可能となる。また、生物処理水を固液分離する沈殿池からの汚泥の返送が不要となるため、沈殿池での汚泥管理の手間が省け、維持管理が容易となる。
【0004】
しかしながら、担体を用いた生物処理では、以下のような問題点がある。
【0005】
(1) 高負荷処理を行うためには菌体濃度を高く維持する必要があるが、担体内部にまで細菌を付着させようとすると、DO(溶存酸素)濃度を高くした運転を行う必要がある。また、菌体を高濃度に維持しようとすると担体を多く充填する必要があり、担体コストが上がるだけでなく、DOの溶解効率が下がるため、曝気コストも増大する。
【0006】
(2) 低い担体充填率、低いDO濃度で、高い有機物除去率を達成しようとすると、低負荷での運転を行わなければならなくなる。仮に、過負荷での運転が続くと、有機物除去率が低下するだけでなく、粘性の高い糸状性菌が担体に大量に付着し、臭気発生が問題となる上に、これらが剥離すると、流動床では担体を分離するスクリーンを閉塞させてしまう。また、固定床では流路が閉塞してしまう。
【0007】
このように固定床法、流動床法等を含む担体添加型の生物処理は、有機物含有排水の処理に実用化されており、対象とする排水によっては安定した処理が可能であるが、原水条件に対して、余裕の無い槽容積、担体充填率、曝気量で設計されている装置では、短期間の一時的な水量増加、原水濃度の増大であっても処理が不可能となり、この場合には、担体の追加や曝気槽、ブロワの増設等の改造が必要となる。
【0008】
また、処理効率の向上方法、高負荷処理方法として、多段式の担体添加型生物処理の適用もあるが、この場合であっても、一段目の槽負荷が非常に高くなり、場合によっては、前述の糸状性細菌の増加を引き起こし、スクリーンの閉塞、流路の閉塞、臭気の発生等の問題に繋がる。
【0009】
このような問題を回避するために、担体充填率、槽容積、通気量を決定する際に、最大負荷、夏場のDO低下を想定して装置を設計すると、繁忙期が短期間の工場などでは、繁忙期以外の期間の負荷に対しては、過剰な装置となり、不経済である。
【0010】
なお、原水を処理水で100倍以上に希釈して反応槽に投入すると共に、反応槽内のpHや水温、NH−N濃度、等の条件を制御して、反応槽内で硝化と脱窒とを同時に行うことにより、処理効率の向上を図る方法が提案されているが(特許文献1)、このように大量の処理水を返送することは、反応槽容量の増大につながる。
【特許文献1】特公平1−22039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、有機物含有水の生物処理において、担体の追加や通気量の増大、曝気槽の増設等の改造を行うことなく、処理効率を効果的に向上させて、高負荷運転を行った上で、安定した処理水質を維持することができる有機物含有水の生物処理方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、曝気槽に硝酸(塩)及び/又は亜硝酸(塩)を添加して、酸素が届かない担体内部において、脱窒細菌による有機物分解を行わせることにより、担体充填率や曝気槽容量、曝気量の増大を要することなく、処理効率を高めることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
なお、本明細書において、「硝酸(塩)」とは「硝酸」と「硝酸塩」のいずれか一方又は双方を意味し、「亜硝酸(塩)」とは「亜硝酸」と「亜硝酸塩」のいずれか一方又は双方を意味する。以下において、「「硝酸(塩)及び/又は亜硝酸(塩)」を「NOx」と略記する場合がある。
【0014】
本発明(請求項1)の有機物含有水の生物処理方法は、生物担体を内蔵する一槽式または多段型の曝気槽に有機物含有水を導入し、酸素含有気体を曝気して生物処理する方法において、酸素源として硝酸(塩)及び/又は亜硝酸(塩)含有液を前記曝気槽に添加し、該曝気槽内で曝気による有機物の生物酸化と、脱窒反応による有機物の分解とを行うことを特徴とする。
【0015】
請求項2の有機物含有水の生物処理方法は、請求項1において、前記生物担体は、前記曝気槽内で曝気により流動する担体であることを特徴とする。
【0016】
請求項3の有機物含有水の生物処理方法は、請求項1又は2において、前記曝気槽が直列多段に設けられ、後段の曝気槽の処理水の一部が1〜3槽目のいずれかまたは複数の曝気槽に返送されることを特徴とする。
【0017】
請求項4の有機物含有水の生物処理方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記硝酸(塩)及び/又は亜硝酸(塩)含有液を添加する曝気槽の有機物担体負荷(kg−CODCr/m−担体/日)と溶存酸素(mg/L)との比を2.0以上とすることを特徴とする。
【0018】
請求項5の有機物含有水の生物処理方法は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記脱窒反応による有機物の分解を行うべき、分解対象の溶解性CODCrの1/6〜1/2重量倍の硝酸(塩)及び/又は亜硝酸(塩)(NO−N換算)含有液を添加することを特徴とする。
【0019】
請求項6の有機物含有水の生物処理方法は、請求項1ないし5のいずれか1項において、前記生物担体の充填率が前記曝気槽容積の5〜50%であることを特徴とする。
【0020】
請求項7の有機物含有水の生物処理方法は、請求項1ないし6のいずれか1項において、前記生物担体は、最も短い一辺又は直径が2mm以上であることを特徴とする。
【0021】
本発明(請求項8)の有機物含有水の生物処理装置は、生物担体を内蔵する曝気槽と、該曝気槽に有機物含有水を導入する手段とを有し、該曝気槽にて酸素含有気体を曝気して生物処理する装置において、酸素源として硝酸(塩)及び/又は亜硝酸(塩)を前記曝気槽に添加する手段を有し、該曝気槽内で曝気による有機物の生物酸化と、脱窒反応による有機物の分解とを行うことを特徴とする。
【0022】
請求項9の有機物含有水の生物処理装置は、請求項8において、前記生物担体は、前記曝気槽内で曝気により流動する担体であることを特徴とする。
【0023】
請求項10の有機物含有水の生物処理装置は、請求項8又は9において、前記曝気槽が直列多段に設けられ、後段の曝気槽の処理水の一部を最前の曝気槽に返送する手段を有することを特徴とする。
【0024】
請求項11の有機物含有水の生物処理装置は、請求項8ないし10のいずれか1項において、前記硝酸(塩)及び/又は亜硝酸(塩)を添加する曝気槽の有機物担体負荷(kg−CODCr/m−担体/日)と溶存酸素(mg/L)との比を2.0以上とすることを特徴とする。
【0025】
請求項12の有機物含有水の生物処理装置は、請求項8ないし11のいずれか1項において、前記脱窒反応による有機物の分解を行うべき、分解対象の溶解性CODCrの1/6〜1/2重量倍の硝酸(塩)及び/又は亜硝酸(塩)を添加することを特徴とする。
【0026】
請求項13の有機物含有水の生物処理装置は、請求項8ないし12のいずれか1項において、前記生物担体の充填率が前記曝気槽容積の5〜50%であることを特徴とする。
【0027】
請求項14の有機物含有水の生物処理装置は、請求項8ないし13のいずれか1項において、前記生物担体は、最も短い一辺又は直径が2mm以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、曝気槽に、酸素の代りに、硝酸(塩)及び/又は亜硝酸(塩)を添加して、酸素が届かない担体内部で脱窒細菌による脱窒反応で、有機物を分解することにより、担体表面近くの細菌では除去し切れなかった残存有機物を除去することができる。
【0029】
このため、有機物含有水の生物処理において、処理効率を効果的に向上させて、高負荷運転を行った上で、安定した処理水質を維持することができる。
【0030】
本発明では、既存の設備において、高負荷時に、硝酸(塩)及び/又は亜硝酸(塩)を添加するという簡便な操作で、担体の追加や通気量の増大、曝気槽の増設等の改造を行うことなく、負荷の増大に対応することができる。
【0031】
このような本発明の有機物含有水の生物処理方法及び装置は、曝気のみの処理では、溶解性CODCr濃度が30mg/L以上残留するような、処理能力に限界のある設備であって、敷地の制約により、曝気槽を増設したり、ブロワを増設することが困難な設備において、高負荷の増大に工業的に有利に対応することを可能とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下に、図面を参照して本発明の有機物含有水の生物処理方法及び装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0033】
図1〜3は、本発明の有機物含有水の生物処理装置の実施の形態を示す系統図である。図1〜3において、同一機能を奏する部材には同一符号を付してある。
【0034】
図1の装置は、担体2を投入した一過式曝気槽(汚泥返送なし)1を1槽設けて、原水(有機物含有水)の生物処理を行うものであり、原水は配管11より曝気槽1に導入され、原水中の有機物が曝気槽1内の浮遊細菌と担体付着細菌により、曝気下酸化分解され、生物処理水は曝気槽1内のスクリーン3を透過して配管12より取り出される。
【0035】
図1においては、この曝気槽1に配管13より硝酸(塩)及び/又は亜硝酸(塩)(NOx)を添加して生物処理効率の向上を図る。
【0036】
図2,3は、曝気槽を2槽の曝気槽1A,1Bに分割し、多段処理方式としたものであり、図2,3の装置では、原水は、配管11より第1曝気槽1Aに導入されて原水中の有機物が曝気槽1A内の浮遊細菌と担体付着細菌により、曝気下酸化分解され、生物処理水は曝気槽1A内のスクリーン3を透過して配管14より第2曝気槽1Bに導入され、この第1曝気槽1Aの処理水中の残留有機物が曝気槽1B内の浮遊細菌と担体付着細菌により、曝気下酸化分解され、生物処理水は曝気槽1B内のスクリーン3を透過して配管12より取り出される。
【0037】
このような、多段処理方式では、最前(1段目)の曝気槽1Aが高負荷となり、前述のような弊害を発生することがある。
【0038】
そこで、図2の装置では、第1段目の曝気槽1Aに配管13よりNOxを添加して、図1の装置と同様に担体内での脱窒反応により残留有機物の分解除去を促進する。
【0039】
また、図3の装置では、後段の曝気槽1Bの処理水の一部を配管15より前段の曝気槽1Aに返送する。即ち、このような多段処理を適用すると、後段の曝気槽1Bでの自己消化が促進され、汚泥発生量は低減するが、処理水中に流出する窒素濃度(硝酸、亜硝酸濃度)が増大する。このような場合には、NOx−Nを含む後段の曝気槽1Bの処理水をNOx源として前段の曝気槽1Aに返送することが好ましい。この場合には、配管13より系外から添加するNOxの添加量を削減することができるか、或いは、NOxの添加を不要とすることができる。図3の装置では、処理の安定性向上に加え、処理水のNOx−N濃度の低減を図ることができ、より一層効率的な処理を行える。
【0040】
このように後段の曝気槽の処理水を前段の曝気槽に返送する場合、後段の曝気槽の更に後段に凝集沈殿や加圧浮上といった固液分離手段がある場合は、その固液分離前の生物処理水を返送する方が、固液分離装置を小型化することができる点で有利である。
【0041】
本発明において、多段処理を行う場合、曝気槽は2段に限らず、3段以上に直列に設けても良いが、NOxを添加する場合、NOxの添加は、最も負荷の高い第1段目の曝気槽に添加することが好ましく、1〜3槽目の曝気槽のいずれか、または複数の曝気槽に添加しても良い。また、処理水の返送は最も処理水のNOx−N濃度の高い最後段の曝気槽の処理水を、最も負荷の高い第1段目の曝気槽に返送することが好ましく、1〜3槽目の曝気槽のいずれか、または複数の曝気槽に返送してもよい。この返送により、添加するNOx含有液の補助または代替とすることができる。
【0042】
このように後段の曝気槽の処理水の一部を前段の曝気槽に返送する場合、装置全体の処理水量を過度に大きくすることなく、また装置当たりの処理水量を低減することなく、返送による上記効果を十分に得る上で、例えば、後段の曝気槽の処理水のうちの原水流入量の25〜200%量程度を前段の曝気槽に返送することが好ましい。
【0043】
以下に、本発明における曝気槽へのNOx添加による生物処理効率の向上機構を図4を参照して説明する。
【0044】
図4において、10は多孔質担体であり、一般的な曝気量では、この担体10の内部10A(ドットを付した部分)には酸素が届かず、無酸素状態となっている。曝気槽にNOxを添加すると、このような担体10の無酸素領域10AにNOxが浸透する。また、この無酸素領域10A内に有機物が侵入すると、無酸素領域10Aに存在するNOxを利用して嫌気性の脱窒細菌による脱窒反応が起こり、有機物が分解される。そして、NOxは窒素ガスに分解され、有機物はCOと水に分解される。この結果、担体充填率を高めたり、曝気量を増やしたり、曝気槽容量を増大させたりすることなく、NOxの添加のみで曝気槽内の生物処理で担体表面では除去し得なかった残留有機物を担体内での脱窒反応で効果的に分解除去して、曝気槽全体での生物処理効率を高めることができる。
【0045】
本発明において、曝気槽内に保有される担体の形状については任意であり、球状、ペレット状、中空筒状、立方体又は直方体形状、棒状、その他の異形形状のいずれでも良い。
【0046】
また、担体の素材についても任意であり、天然素材、無機素材、高分子素材などを用いることができ、更にゲル状物質であっても良いが、望ましくは、多孔質のポリウレタン製流動担体(スポンジ担体)のような曝気槽内の曝気により流動する担体である。流動性担体であれば、曝気下での流動で、担体内部の無酸素領域へのNOx及び有機物の取り込み、脱窒分解生成物である窒素ガスや水、COの無酸素領域からの排出を効率的に行うことができる。この場合、多孔質担体の孔径は、担体の流動性、担体内外へのガスや液の流入出の効率の面から0.01〜0.5mm程度であることが好ましい。
【0047】
また、担体の大きさについては、小さいと、図4に示す無酸素領域を形成し得ないため、担体内に酸素が届く表層領域と、酸素が届かない内部領域(無酸素領域)との両方を確保することができるように、ある程度大きい方が好ましい。このような観点から、担体は、その形状にもよるが、最も短い一辺の長さないしは直径が2mm以上、特に3mm以上であることが好ましい。ただし、担体の大きさが過度に大きいと、流動性、取り扱い性、細菌が付着するための比表面積の確保の面で好ましくないことから、最も長い一辺の長さないしは直径が10mm以下であることが好ましい。
【0048】
また、曝気槽への担体の充填率は、曝気槽の負荷に応じて適宜決定されるが、曝気槽容積の5〜50%(体積%)とすることが好ましい。担体充填率が5%未満でも50%を超えても生物処理効率が低下する傾向にある。担体内の無酸素領域での脱窒活性の面からは担体充填率は特に5〜20%とすることが好ましい。
【0049】
また、曝気槽に添加するNOxとしては、硝酸、硝酸塩、亜硝酸、亜硝酸塩のうちのいずれか1種又は2種以上を用いることができるが、例えば硝酸ナトリウム等の水溶液の形態で添加することが、操作上好ましい。
【0050】
曝気槽へのNOxの添加は、NOxの添加により、担体内部の無酸素領域での脱窒反応により除去すべき有機物の量に応じて適宜決定される。通常、曝気槽内の担体添加型生物処理では除去し得ずに残留する。従って、NOx−N換算(NO−N換算及び/又はNO−N換算)重量で、担体内部の脱窒反応で除去する必要がある、有機物に基く溶解性CODCr重量の1/6〜1/2倍、好ましくは1/4〜1/3倍のNOxを添加することが好ましく、このような添加量であれば、担体添加型生物処理では除去し得ない残留溶解性CODCrを、担体内部の無酸素領域での脱窒反応により効果的に分解除去することができる。
【0051】
ところで、本発明により、曝気槽にNOxを添加して担体内部で脱窒反応を起こさせるには、担体内部に無酸素領域を形成し、かつ、NOxだけでなく有機物も担体内に浸透させる必要がある。この条件は、曝気槽の容積負荷、担体充填率、DOに依存し、脱窒を起こさせようとする槽の担体負荷とDOの関係で表すことができる。
【0052】
図5は、この関係を示すものであり、ここでは、0.05kg−N/m/日以上の窒素除去活性が得られる場合を、「担体内での脱窒が起こる」とし、黒マルで示してある。グラフの白マルは脱窒の起こらない条件である。
【0053】
図5より、NOxを添加して、担体内で脱窒を起こさせようとする曝気槽の有機物担体負荷(kg−CODCr/m−担体/日)とDO(mg/L)との比を2.0以上とすれば、脱窒を起こさせることができることができることが分かる。
【0054】
例えば、5mm角スポンジ担体を担体充填率40%で用いた場合の脱型の可否と曝気槽の有機物容積負荷とDOとの関係を示すグラフである図6から明らかなように、担体充填率40%、DO=4mg/Lで運転する場合は、容積負荷3.2kg−CODCr/m−担体/日以上で運転する必要がある。
【0055】
また、脱窒反応を起こさせようとする曝気槽のバルク中に、脱窒反応の炭素源としての溶解性CODCrが30mg−CODCr/L以上、例えば30〜100mg−CODCr/L程度残存するような運転条件に制御して、前述のNOx添加量でNOxを添加することが、脱窒反応をより一層確実に起こさせる上で好ましい。
【0056】
また、担体反応を安定して起こさせるために、脱窒反応を起こさせようとする曝気槽のバルク中のDOが4.0mg/L以下となり、担体内に酸素が浸透せず、担体内に広い無酸素領域が形成されるような条件で曝気槽の曝気を行うことが好ましい。
【0057】
なお、このように、曝気槽の運転条件を、脱窒細菌の増殖に適したものに設定しても、原水中に細菌の増殖に必須な成分が含まれていなければ、脱窒細菌が増殖せず、脱窒による有機物除去効率も向上しない。そこで、曝気槽に栄養剤を添加し、担体内での脱窒を安定して維持することで有機物除去率を安定させるようにすることもできる。図2,3に示すような多段処理において、脱窒細菌の栄養剤を添加する場合、脱窒が最も進行する最前(第1段目)の曝気槽に添加することが望ましい。
【0058】
栄養剤としては、鉄、銅、モリブデン、マグネシウム、カリウム、カルシウム等の脱窒に必須な無機物を1種単独で又は2種以上混合して用いることができる。
【実施例】
【0059】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0060】
(実施例1)
図1に示す、容量が2.86Lの一過式曝気槽(汚泥返送なし)を用いて、原水の処理を行った。担体は、5mm角(一辺が5mmの立方体)のポリウレタンフォーム製のものを用い、曝気槽容積に対し担体充填率20%となるように添加した。槽内DOは1mg/Lとし、曝気槽に対するCODCr容積負荷は5.6kg−CODCr/m/日、HRT2.4時間で運転した。原水CODCr濃度は560mg/Lとし、野菜エキス、魚肉エキス、及び液糖を混合した人工排水を基質として用いた。
【0061】
この条件で一ヶ月間運転したところ、処理水中の溶解性CODCrは57〜80mg−CODCr/Lで安定していた。
【0062】
運転開始から一ヵ月後、10重量%硝酸ナトリウム水溶液を、原水に対し、20mg−N/Lとなるように添加したところ、処理水中の溶解性CODCr濃度は25〜34mg−CODCr/Lまで低下した。
【0063】
(比較例1)
実施例1と同じ条件で、硝酸ナトリウムを添加せずに運転を継続したところ、処理水中の溶解性CODCr濃度は57〜80mg−CODCr/Lのままであり、低下することはなかった。
【0064】
(比較例2)
実施例1の条件で、担体充填率を30%まで上げ、DO>2mg/Lで運転すると、処理水中の溶解性CODCr濃度は28〜42mg−CODCr/Lまで低下したが、この場合には担体コスト、曝気コストが高くつく。
【0065】
実施例1及び比較例1,2における処理水の溶解性CODCr濃度の経時変化を図7に示す。
【0066】
実施例1及び比較例1,2より、本発明によれば、担体充填率、曝気量を抑えた上で、処理効率の向上を図ることができることが分かる。
【0067】
(実施例2)
図2に示す、容量が2.86Lの一過式曝気槽(汚泥返送なし)を2槽直列につないだ2段生物処理にて、原水の処理を行った。担体は、実施例1で用いたと同様の5mm角のポリウレタンフォーム製のものを用い、各曝気槽の容積に対し20%となるように添加した。DOは前段曝気槽で1mg/L、後段曝気槽で3mg/Lとし、装置全体に対するCODCr容積負荷は5.6kg−CODCr/m/日、HRT2.4時間で運転した。原水CODCr濃度は560mg/Lとし、野菜エキス、魚肉エキス、及び液糖を混合した人工排水を基質として用いた。
【0068】
この条件で一ヶ月間運転したところ、処理水中の溶解性CODCrは28〜37mg−CODCr/Lで安定していたが、前段の曝気槽のスクリーンがスライムで閉塞するため、毎日洗浄する必要があった。
【0069】
そこで、10重量%硝酸ナトリウム水溶液を、原水に対し、10mg−N/Lとなるように添加したところ、スライムによる閉塞は解消し、処理水中の溶解性CODCrは28〜33mg−CODCr/Lまで低下した。
【0070】
処理水中の硝酸性窒素濃度は20mg−N/Lで安定していた。
【0071】
(実施例3)
図3に示す、容量が2.86Lの一過式生物処理槽(汚泥返送なし)を2槽直列につないだ2段生物処理にて、原水の処理を行った。担体は、実施例1で用いたと同様の5mm角のポリウレタンフォーム製のものを用い、各曝気槽の容積に対し20%となるように添加した。DOは前段曝気槽で1mg/L、後段曝気槽で3mg/Lとし、装置全体に対するCODCr容積負荷は5.6kg−CODCr/m/日、HRT2.4時間で運転した。原水CODCr濃度は560mg/Lとし、野菜エキス、魚肉エキス、及び液糖を混合した人工排水を基質として用いた。また、後段の曝気槽の処理水の50%(原水流量の100%)に相当する40ml/分をポンプで引き抜き、前段へ返送した。
【0072】
この条件で、一ヶ月間運転したところ、スライムによる閉塞は発生せず、処理水中の溶解性CODCrは25〜35mg−CODCr/Lで安定していた。さらに処理水の硝酸性窒素濃度は10mg−N/Lまで低下した。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の有機物含有水の生物処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【図2】本発明の有機物含有水の生物処理装置の別の実施の形態を示す系統図である。
【図3】本発明の有機物含有水の生物処理装置の異なる実施の形態を示す系統図である。
【図4】本発明に係る担体内部での脱窒反応機構の説明図である。
【図5】脱窒反応の可否と、有機物担体負荷及びDOとの関係を示すグラフである(図中、ドットを付した領域が、脱窒の起きる領域である。)。
【図6】脱窒反応の可否と、曝気槽の有機物容積負荷及びDOとの関係を示すグラフである(図中、ドットを付した領域が、脱窒の起きる領域である。)。
【図7】実施例1及び比較例1,2における処理水の溶解性CODCrの経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0074】
1,1A,1B 曝気槽
2 担体
3 スクリーン
10 多孔質担体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物担体を内蔵する一槽式または多段型の曝気槽に有機物含有水を導入し、酸素含有気体を曝気して生物処理する方法において、酸素源として硝酸(塩)及び/又は亜硝酸(塩)含有液を前記曝気槽に添加し、該曝気槽内で曝気による有機物の生物酸化と、脱窒反応による有機物の分解とを行うことを特徴とする有機物含有水の生物処理方法。
【請求項2】
請求項1において、前記生物担体は、前記曝気槽内で曝気により流動する担体であることを特徴とする有機物含有水の生物処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記曝気槽が直列多段に設けられ、後段の曝気槽の処理水の一部が1〜3槽目のいずれか、または複数の曝気槽に返送されることを特徴とする有機物含有水の生物処理方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記硝酸(塩)及び/又は亜硝酸(塩)含有液を添加する曝気槽の有機物担体負荷(kg−CODCr/m−担体/日)と溶存酸素(mg/L)との比を2.0以上とすることを特徴とする有機物含有水の生物処理方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記脱窒反応による有機物の分解を行うべき、分解対象の溶解性CODCrの1/6〜1/2重量倍の硝酸(塩)及び/又は亜硝酸(塩)(NO−N換算)含有液を添加することを特徴とする有機物含有水の生物処理方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記生物担体の充填率が前記曝気槽容積の5〜50%であることを特徴とする有機物含有水の生物処理方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記生物担体は、最も短い一辺又は直径が2mm以上であることを特徴とする有機物含有水の生物処理方法。
【請求項8】
生物担体を内蔵する曝気槽と、該曝気槽に有機物含有水を導入する手段とを有し、該曝気槽にて酸素含有気体を曝気して生物処理する装置において、酸素源として硝酸(塩)及び/又は亜硝酸(塩)を前記曝気槽に添加する手段を有し、該曝気槽内で曝気による有機物の生物酸化と、脱窒反応による有機物の分解とを行うことを特徴とする有機物含有水の生物処理装置。
【請求項9】
請求項8において、前記生物担体は、前記曝気槽内で曝気により流動する担体であることを特徴とする有機物含有水の生物処理装置。
【請求項10】
請求項8又は9において、前記曝気槽が直列多段に設けられ、後段の曝気槽の処理水の一部を最前の曝気槽に返送する手段を有することを特徴とする有機物含有水の生物処理装置。
【請求項11】
請求項8ないし10のいずれか1項において、前記硝酸(塩)及び/又は亜硝酸(塩)を添加する曝気槽の有機物担体負荷(kg−CODCr/m−担体/日)と溶存酸素(mg/L)との比を2.0以上とすることを特徴とする有機物含有水の生物処理装置。
【請求項12】
請求項8ないし11のいずれか1項において、前記脱窒反応による有機物の分解を行うべき、分解対象の溶解性CODCrの1/6〜1/2重量倍の硝酸(塩)及び/又は亜硝酸(塩)を添加することを特徴とする有機物含有水の生物処理装置。
【請求項13】
請求項8ないし12のいずれか1項において、前記生物担体の充填率が前記曝気槽容積の5〜50%であることを特徴とする有機物含有水の生物処理装置。
【請求項14】
請求項8ないし13のいずれか1項において、前記生物担体は、最も短い一辺又は直径が2mm以上であることを特徴とする有機物含有水の生物処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−46572(P2010−46572A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−210854(P2008−210854)
【出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】