説明

有機発光素子およびその製造方法

本発明は、第1電極、2層以上の有機物層、および第2電極を含む有機発光素子であって、前記第1電極は、導電層および前記導電層と接するn−型有機物層を含み、前記第1電極のn−型有機物層と前記第2電極との間に位置する有機物層のうちの1層は、前記第1電極のn−型有機物層とNP接合を形成するp−型有機物層であり、前記層のエネルギー準位が下記式(1)および(2)を満足することを特徴とし、前記p−型の有機物層と前記第2電極との間に位置する有機物層のうちの1層以上はアルカリ土類金属によってn−型ドーピングされることを特徴とする有機発光素子およびその製造方法を提供する。式: 0eV<EnL−EF1≦4eV (1);および、EpH−EnL≦1eV (2)〔前記式(1)および(2)において、EF1は前記第1電極の導電層のフェルミエネルギー準位であり、EnLは前記第1電極のn−型有機物層のLUMO(lowest unoccupied molecular orbital)エネルギー準位であり、EpHは前記第1電極のn−型有機物層とNP接合を形成するp−型有機物層のHOMO(highest occupied molecular orbital)エネルギー準位である〕。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極から有機物層への電荷注入のためのエネルギー障壁を下げ、駆動電圧が低く、高効率および高輝度を有する有機発光素子およびその製造方法に関する。本出願は2008年1月18日に韓国特許庁に提出された韓国特許出願第10−2008−0005812号の出願日の利益を主張し、その内容の全ては本明細書に含まれる。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、通常、2個の電極とこれらの電極の間に介在した有機物層とを含む。有機発光素子は、2個の電極から有機物層に電子および正孔を注入して電流を可視光に変換させる。このような有機発光素子は、性能を向上させるために、電流を可視光に変換させる有機物層の他に電子/正孔注入層または電子/正孔輸送層をさらに含むことができる。
しかし、金属、金属酸化物または導電性ポリマーからなる電極と有機物層との間の界面は不安定である。したがって、外部から加えられる熱、内部発生熱、または素子に加えられる電界は素子の性能に悪影響を与える。また、電子/正孔注入層または電子/正孔輸送層とこれに隣接する他の有機物層との間の伝導エネルギー準位(conductive energy level)差のために素子動作のための駆動電圧が大きくなり得る。したがって、電子/正孔注入層または電子/正孔輸送層と他の有機物層との間の界面を安定化させるだけでなく、電極から有機物層に電子/正孔を注入するエネルギー障壁を最小化して電子/正孔の注入を容易にすることが非常に重要である。
【0003】
有機発光素子は、2個以上の電極とこれらの電極の間に位置する有機物層との間のエネルギー準位差を調節する方法で開発されてきた。例えば、正極電極を正孔注入層のHOMO(highest occupied molecular orbital)エネルギー準位と類似するフェルミエネルギー準位(Fermi energy level)を有するように調節するか、または正孔注入層のために正極電極のフェルミエネルギー準位と類似するHOMOエネルギー準位を有する物質を選択する。しかし、正孔注入層は、正極電極のフェルミエネルギー準位だけでなく、正孔注入層と接する正孔輸送層または発光層のHOMOエネルギー準位を考慮して選択しなければならないため、正孔注入層用物質を選択するには制限がある。
【0004】
したがって、有機発光素子を製造するにおいて、一般的に電極のフェルミエネルギーを調節する方法が採択されている。一般的に用いられる正極電極と接する有機物層のHOMO準位が約5.0〜5.5eVである物質を用いることにより、正極電極用物質はフェルミエネルギー準位が5.0〜5.5eVで高いフェルミエネルギー準位を有する物質に制限され、このような物質としてはITO、IZO、Au、NiおよびMoなどが挙げられる。負極電極も電子の輸送を担当する電子輸送層のLUMOエネルギー準位とフェルミエネルギー準位を合わせて選択する。一般的に用いられる電子輸送層のLUMO準位は約3.0eV領域を有し、よって、負極電極用物質としてはフェルミエネルギー準位が3.0eVより低い物質を用いることが好ましい。このような物質としてはリチウム(Li)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)などが挙げられるが、大半が不安定な状態であるため、アルミニウム(Al)、銀(Ag)などのような相対的にフェルミエネルギー準位が高い金属を用い、電子注入を円滑に行うために電極と電子輸送層との間に電子注入層が用いられる。この時、用いられる電子注入層としてはLiF、NaF、KFなどのような物質があり、このような物質は電子輸送層への電子注入エネルギー障壁を下げる役割をすると知られている。
【0005】
正極電極および負極電極として用いられる電極物質の選択は、有機物層への電荷注入を円滑にするため、電極物質のフェルミエネルギー準位によって制限される。高いフェルミエネルギー準位を有するITO、IZOなどのような透明電極物質は正極電極として用いられる反面、低いフェルミ準位を有しつつ反射度の高いAl、Agなどのような物質は負極電極として用いられる。このような電極物質の選択の制限の問題により、大部分の有機発光素子の場合、透明な正極電極側に光を抽出する構造をしている。最近では、光を負極側に抽出する必要に応じて、反射度の良い正極電極と透過度に優れた負極物質が必要となり、また、負極と正極の2方向に光を抽出する透明有機発光素子の開発においても優れた光透過度を有する負極物質の要求は益々増大するようになった。透明負極物質としては、フェルミエネルギー準位の低いMg、Ag、MgAg、Ca、CaAgなどの物質を薄く蒸着して、半透明特性を有する材料が用いられている。このような半透明負極物質は、透明度を良くするために電極の厚さを薄くするので電気伝導度が低下する問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】韓国特許公開第2003−0067773号
【特許文献2】米国特許第5,645,948号
【特許文献3】WO05/097756号
【特許文献4】韓国公開特許2007−0118711号
【特許文献5】韓国公開特許2007−0052764号
【特許文献6】韓国公開特許2007−0118711号
【特許文献7】日本特許公開2007−39405号
【特許文献8】米国特許公開2007/0122656号
【特許文献9】日本特許公開2004−107263号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来技術の問題点を解決するために、電極から有機物への電荷注入のためのエネルギー障壁を下げ、有機発光素子の駆動電圧を下げ、様々な電極物質を制限されることなく正極および負極電極に用いることができる、性能に優れ、製造工程が簡素化した有機発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
第1電極、2層以上の有機物層および第2電極を含む有機発光素子であって、
前記第1電極は導電層および前記導電層と接するn−型有機物層を含み、前記第1電極のn−型有機物層と前記第2電極との間に位置する有機物層のうちの1層は前記第1電極のn−型有機物層とNP接合を形成するp−型有機物層であり、前記層のエネルギー準位が下記式(1)および(2)を満足することを特徴とし、
前記p−型有機物層と前記第2電極との間に位置する有機物層のうちの1層以上はアルカリ土類金属によってn−型ドーピングされることを特徴とする有機発光素子を提供する。
0eV<EnL−EF1≦4eV (1)
pH−EnL≦1eV (2)
〔前記式(1)および(2)において、EF1は前記第1電極の導電層のフェルミエネルギー準位であり、EnLは前記第1電極のn−型有機物層のLUMO(lowest unoccupied molecular orbital)エネルギー準位であり、EpHは前記第1電極のn−型有機物層とNP接合を形成するp−型有機物層のHOMO(highest occupied molecular orbital)エネルギー準位である。〕
【0009】
また、本発明は、
第1電極、2層以上の有機物層および第2電極を含む有機発光素子の製造方法であって、
導電層上に前記導電層と接するようにn−型有機物層を形成して第1電極を形成するステップ、
前記第1電極のn−型有機物層上に前記n−型有機物層と接するようにp−型有機物層を形成するステップ、
前記p−型有機物層上に(over)アルカリ土類金属を用いてn−型ドーピングされた有機物層を形成するステップ、および
前記アルカリ土類金属によってn−型ドーピングされた有機物層上に前記アルカリ土類金属を用いてn−型ドーピングされた有機物層と接するように第2電極を形成するステップ
を含み、前記層のエネルギー準位が下記式(1)および(2)を満足することを特徴とする有機発光素子の製造方法を提供する。
0eV<EnL−EF1≦4eV (1)
pH−EnL≦1eV (2)
〔前記式(1)および(2)において、EF1は前記第1電極の導電層のフェルミエネルギー準位であり、EnLは前記第1電極のn−型有機物層のLUMO(lowest unoccupied molecular orbital)エネルギー準位であり、EpHは前記第1電極のn−型有機物層とNP接合を形成するp−型有機物層のHOMO(highest occupied molecular orbital)エネルギー準位である。〕
【0010】
また、本発明は、
第2電極、2層以上の有機物層および第1電極を含む有機発光素子の製造方法であって、
第2電極を形成するステップ、
前記第2電極上に前記第2電極と接するようにアルカリ土類金属を用いてn−型ドーピングされた有機物層を形成するステップ、
前記n−型ドーピングされた有機物層上に(over)p−型有機物層を形成するステップ、および
前記p−型有機物層上に前記p−型有機物層と接するようにn−型有機物層を形成し、前記n−型有機物層上に前記n−有機物層と接するように導電層を形成して第1電極を形成するステップ
を含み、前記層のエネルギー準位が、下記式(1)および(2)を満足することを特徴とする、有機発光素子の製造方法を提供する。
0eV<EnL−EF1≦4eV (1)
pH−EnL≦1eV (2)
〔前記式(1)および(2)において、EF1は前記第1電極の導電層のフェルミエネルギー準位であり、EnLは前記第1電極のn−型有機物層のLUMO(lowest unoccupied molecular orbital)エネルギー準位であり、EpHは前記第1電極のn−型有機物層とNP接合を形成するp−型有機物層のHOMO(highest occupied molecular orbital)エネルギー準位である。〕
【0011】
また、本発明は、第1電極、2層以上の有機物層および第2電極を含む繰り返し単位として、前記第1電極は導電層および前記導電層と接するn−型有機物層を含み、前記第1電極のn−型有機物層と前記第2電極との間に位置する有機物層のうちの1層は前記第1電極のn−型有機物層とNP接合を形成するp−型有機物層であり、前記層のエネルギー準位は下記式(1)および(2)を満足し、前記p−型有機物層と前記第2電極との間に位置する有機物層のうちの1層以上はアルカリ土類金属によってn−型ドーピングされることを特徴とする繰り返し単位を2以上含み、1つの繰り返し単位の前記第2電極は直列に連結された隣接する繰り返し単位の前記第1電極に連結されることを特徴とするスタック型有機発光素子を提供する。
0eV<EnL−EF1≦4eV (1)
pH−EnL≦1eV (2)
〔前記式(1)および(2)において、EF1は前記第1電極の導電層のフェルミエネルギー準位であり、EnLは前記第1電極のn−型有機物層のLUMO(lowest unoccupied molecular orbital)エネルギー準位であり、EpHは前記第1電極のn−型有機物層とNP接合を形成するp−型有機物層のHOMO(highest occupied molecular orbital)エネルギー準位である。〕
【0012】
また、本発明は、第1電極および第2電極と、前記第1電極と第2電極との間に配置された2以上の発光単位および前記発光単位の間に配置された中間電極層を含むスタック型有機発光素子であって、
前記第1電極は導電層および前記導電層と接するn−型有機物層を含み、
前記中間電極層は導電層および前記導電層と接するn−型有機物層を含み、
前記発光単位は各々前記第1電極または前記中間電極層のn−型有機物層とNP接合を形成するp−型有機物層を含み、前記層のエネルギー準位は下記式(1)および(2)を満足し、前記発光単位は各々アルカリ土類金属によってn−型ドーピングされた有機物層をさらに含むことを特徴とするスタック型有機発光素子を提供する:
0eV<EnL−EF1≦4eV (1)
pH−EnL≦1eV (2)
前記式(1)および(2)において、EF1は前記第1電極または中間電極層の導電層のフェルミエネルギー準位であり、EnLは前記第1電極または中間電極層のn−型有機物層のLUMO(lowest unoccupied molecular orbital)エネルギー準位であり、EpHは前記第1電極または中間電極層のn−型有機物層とNP接合を形成するp−型有機物層のHOMO(highest occupied molecular orbital)エネルギー準位である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る有機発光素子は、電荷注入のためのエネルギー障壁が低いだけでなく、電荷輸送有機物層の電荷輸送能力に優れ、効率、輝度、駆動電圧などの素子性能に優れる。また、電極物質として様々な物質を用いることができるため、素子製造工程を簡素化することができ、同一の物質で正極および負極を形成することができるため、高輝度の積層構造の有機発光素子を得ることができる。また、負極電極および中間電極としてフェルミエネルギー準位の高いITO、IZOなどの電極を用いることができるため、高輝度の有機発光素子の製作が可能であり、正極と負極電極として全て透明なITOおよびIZO電極を用いることによって透明有機発光素子の製作が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の例示的な一具体例による有機発光素子において、正孔注入用第1電極内にn−型有機物層を適用する前と後の前記第1電極のエネルギー準位を示す。
【図2】図2は、本発明の例示的な一具体例による有機発光素子において、正孔注入用第1電極のn−型有機物層(n−type organic compound layer)とp−型有機物層(p−type organic compound layer)との間に形成されたNP接合を示すものである。
【図3】図3は、本発明の例示的な一具体例による正構造の有機発光素子を示す模式的な断面図である。
【図4】図4は、従来技術による有機発光素子のエネルギー準位を示す。
【図5】図5は、本発明の例示的な一具体例による有機発光素子のエネルギー準位を示す。
【図6】図6は、本発明の例示的な一具体例によるスタック型有機発光素子を示す模式的な断面図である。
【図7】図7は、本発明の例示的な一具体例によるスタック型有機発光素子を示す模式的な断面図である。
【図8】図8は、金フィルムおよび前記金フィルム上に位置するHATフィルムのUPS(Ultraviolet Photoelectron Spectrum)データを示すグラフである。
【図9】図9は、本発明の例示的な一具体例による逆構造の有機発光素子を示す模式的な断面図である。
【図10】図10は、本発明の例示的な一具体例による反射型負極電極と透明正極電極とを用いた正構造の前面発光有機発光素子を示す模式的な断面図である。
【図11】図11は、本発明の例示的な一具体例による反射型正極電極と透明負極電極とを用いた正構造の背面発光有機発光素子を示す模式的な断面図である。
【図12】図12は、本発明の例示的な一具体例による反射型正極電極と透明負極電極とを用いた逆構造の前面発光有機発光素子を示す模式的な断面図である。
【図13】図13は、本発明の例示的な一具体例による反射型負極電極と透明正極電極とを用いた逆構造の背面発光有機発光素子を示す模式的な断面図である。
【図14】図14は、本発明の例示的な一具体例による透明正極電極と透明負極電極とを用いた正構造の両面発光有機発光素子を示す模式的な断面図である。
【図15】図15は、本発明の例示的な一具体例による透明正極電極と透明負極電極とを用いた逆構造の両面発光有機発光素子を示す模式的な断面図である。
【図16】図16は、NP接合適用技術およびn−型ドーピング有機物適用技術のうちNP接合だけを適用した有機発光素子の電子および正孔の移動を図式化したものである。
【図17】図17は、NP接合適用技術およびn−型ドーピング有機物適用技術のうちn−型ドーピング有機物だけを適用した有機発光素子の電子および正孔の移動を図式化したものである。
【図18】図18は、NP接合およびn−型ドーピング有機物を全て適用した有機発光素子の電子および正孔の移動を図式化したものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体的に説明する。但し、添付図面および以下の詳細な説明は、その性質上、例示的なものであって、本発明を制限するためのものではなく、本発明は、本発明の範囲を逸脱することなく様々な変形が可能である。
本発明の例示的な一具体例による有機発光素子は、第1電極、第2電極、および前記第1電極と前記第2電極との間に位置するp−型半導体特性を有する有機物層(以下、“p−型有機物層”)を含む。前記p−型有機物層は正孔注入層、正孔輸送層、または発光層を含む。前記有機発光素子は前記p−型有機物層と前記第2電極との間に少なくとも1つの有機物層をさらに含み、これらの有機物層のうちの1層以上はアルカリ土類金属によってn−ドーピングされることを特徴とする。前記有機発光素子が複数の有機物層を含む場合、前記有機物層は互いに同一の物質または他の物質で形成されてもよい。
【0016】
前記第1電極は導電層および前記導電層と接するn−型半導体特性を有する有機物層(以下。“n−型有機物層”)を含む。前記導電層はn−型有機物層と接しているため、従来の電極物質として用いることのできる材料より様々な材料が用いられ得る。例えば、前記導電層としては、金属、金属酸化物、または導電性ポリマーを含む材料が用いられ得る。前記導電性ポリマーは電気導電性ポリマーを含むことができる。第1電極の導電層は第2電極と同一の物質で形成されてもよい。
【0017】
前記n−型有機物層は前記導電層のフェルミエネルギー準位と前記p−型有機物層のHOMOエネルギー準位に対して所定のLUMOエネルギー準位を有する。前記第1電極のn−型有機物層は、前記第1電極のn−型有機物層のLUMOエネルギー準位と前記第1電極の導電層のフェルミエネルギー準位のエネルギー差、および前記p−型有機物層のHOMOエネルギー準位と前記n−型有機物層のLUMOエネルギー準位のエネルギー差が減少するように選択される。したがって、正孔が前記第1電極のn−型有機物層のLUMOエネルギー準位を通じて前記p−型有機物層のHOMOエネルギー準位に容易に注入される。
【0018】
前記第1電極のn−型有機物層のLUMOエネルギー準位と前記第1電極の導電層のフェルミエネルギー準位のエネルギー差は0eV超過4eV以下であることが好ましい。このエネルギー差は、物質選択の観点では、約0.01〜4eVであることがより好ましい。前記p−型有機物層のHOMOエネルギー準位と前記第1電極のn−型有機物層のLUMOエネルギー準位のエネルギー差は1eV以下であることが好ましく、約0.5eV以下(0eVは含まれない)であることがより好ましい。このエネルギー差は、物質選択の観点では、−1eV以上1eV以下であることが好ましく、約0.01〜1eVであることがより好ましい。
【0019】
前記第1電極のn−型有機物層のLUMOエネルギー準位と前記第1電極の導電層のフェルミエネルギー準位のエネルギー差が4eVより大きければ、正孔注入のエネルギー障壁に対する表面双極子(surface dipole)またはギャップ状態(gap state)の効果が減少する。前記p−型有機物層のHOMOエネルギー準位と前記n−型有機物層のLUMOエネルギー準位のエネルギー差が1eVより大きければ、前記p−型有機物層と前記第1電極のn−型有機物層との間のNP接合が容易になされないために正孔注入のための駆動電圧が上昇する。すなわち、本発明において、NP接合は、n−型有機物層とp−型有機物層が物理的に接することだけでなく、前述したエネルギー関係を満足しなければならない。
【0020】
本発明において、導電層のフェルミ準位およびn−型有機物層のLUMO準位およびn−型有機物層と界面を形成するp型有機物層のHOMO準位が非常に重要な役割をする。
【0021】
既存の有機発光素子においては、正極電極から有機物のHOMO準位に直接正孔が注入される方法を利用しているが、本発明においては、電極にLUMO準位の大きいn−型有機物を用いてn−型有機物とp型有機物がNP接合を形成するようにし、このNP接合によって電荷発生(Charge generation)をするようにした。また、電極として用いられた導電層とn−型有機物層との間の電荷の移動を、n−型有機物のLUMO準位に移動するようにした。
【0022】
この場合、NP接合から電荷を発生させるためには、p−型有機物のHOMO準位がn−型有機物のLUMO準位より大きい値を有する場合、p−型有機物のHOMO準位の電子がn−型有機物の空いているLUMO準位にエネルギー差による自発的移動が可能となる。この場合、p−型有機物のHOMO準位には正孔が生成され、n−型有機物のLUMO準位には電子が生成されており、これが電荷発生(charge generation)の原理である。反対のエネルギー準位からは自発的な電荷発生は起こらず、この場合、電荷発生のためには、界面における双極子などによる真空準位の変化が必要である。本発明においては、NP界面から双極子影響による真空準位(VL)移動が約1eV程度可能であることを明らかにし、自発的な電荷発生が可能な条件で、p−型有機物のHOMO準位をn−型有機物のLUMO準位に比べて1eVまたはそれより大きいエネルギー準位に限定した。
【0023】
また、導電層のフェルミ準位とn−型有機物質のLUMO準位は、先でNP接合から発生した電子と正孔中のn−型LUMO準位の電子が導電層へ移動が可能な値を有しなければならない。本発明の場合、導電層とn−型有機物層との界面から導電層の自由電子がn−型有機物質のLUMO準位に移動することによる真空準位(VL)変化、ギャップ状態または双極子形成などによって電荷の移動が可能となる。
【0024】
本発明において、n−型有機物のLUMO準位が導電層のフェルミより4eV大きい値を有しなければならないという条件は、Ca導電層(フェルミ準位2.6eV)、n−型有機物HAT(LUMO準位〜5.7V)を用いた有機発光素子の実験結果による値である。
【0025】
図1(a)および図1(b)は、各々、本発明の例示的な一具体例による有機発光素子において、正孔注入用第1電極内にn−型有機物層を適用する前と後の前記第1電極のエネルギー準位を示す。図1(a)において、前記導電層は、n−型有機物層のLUMOエネルギー準位(FnL−)より低いフェルミエネルギー準位(EF1)を有する。真空準位(VL)は、導電層およびn−型有機物層から電子を空気中へ出すことのできるエネルギー準位を示す。
【0026】
有機発光素子が第1電極の一部分としてn−型有機物層を用いる場合、導電層はn−型有機物層と接触するようになる。図1(b)において、電子は導電層からn−型有機物層に移動するため、前記2層のフェルミエネルギー準位(EF1、2)は等しくなる。その結果、表面双極子が導電層とn−型有機物層との間の界面に形成され、真空準位、フェルミエネルギー準位、HOMOエネルギー準位、およびLUMOエネルギー準位は図1(b)に示すように変わる。
【0027】
したがって、導電層のフェルミエネルギー準位とn−型有機物層のLUMOエネルギー準位の差が大きくても、正孔注入のためのエネルギー障壁は前記導電層とn−型有機物層とを接触させることによって減少させることができる。また、前記導電層がn−型有機物層のLUMOエネルギー準位より低いフェルミエネルギー準位を有する場合、電子は導電層からn−型有機物層に移動し、前記導電層とn−型有機物層との間の界面にギャップ状態を形成する。したがって、電子輸送のためのエネルギー障壁は最小化する。
【0028】
前記n−型有機物層はこれに限定されないが、約5.24eVのLUMOエネルギー準位を有する2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)、フッ素−置換された3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)、シアノ−置換されたPTCDA、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、フッ素−置換されたNTCDA、シアノ−置換されたNTCDA、またはヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレン(HAT)を含む。
【0029】
本発明に係る有機発光素子は、正孔を注入する第1電極のn−型有機物層に接触するp−型有機物層を含む。したがって、NP接合が素子内に形成される。図2は、前記第1電極のn−型有機物層とp−型有機物層との間に形成されたNP接合を示す。
【0030】
NP接合が形成された場合、第1電極のn−型有機物層のLUMO準位とp−型有機物層のHOMO準位との間のエネルギー準位差は減少する。したがって、外部電圧や光源によって正孔または電子が容易に形成される。すなわち、NP接合によってp−型有機物層内には正孔が、第1電極のn−型有機物層内には電子が容易に形成される。前記NP接合から正孔と電子が同時に発生するため、電子は第1電極のn−型有機物層を通して第1電極の導電層に輸送され、正孔はp−型有機物層に輸送される。
【0031】
NP接合がp−型有機物層に正孔を効率的に輸送するためには、第1電極のn−型有機物層のLUMO準位とp−型有機物層のHOMO準位との間のエネルギー準位差が所定レベルにあることが好ましい。すなわち、p−型有機物層のHOMO準位と前記第1電極のn−型有機物層のLUMO準位のエネルギー準位差は、例えば、約1eV以下であることが好ましく、約0.5eV以下であることがより好ましい。
【0032】
前記p−型有機物層は正孔注入層、正孔輸送層、または発光層であってもよい。
【0033】
また、本発明に係る有機発光素子は、前記p−型有機物層と前記アルカリ土類金属によってn−型ドーピングされた層との間または前記アルカリ土類金属によってn−型ドーピングされた層と前記第2電極との間に少なくとも1つの有機物層をさらに含むことができる。
【0034】
本発明に係る有機発光素子は、前述したp−型有機物層と第2電極との間に位置する有機物層のうちの1層以上がアルカリ土類金属によってn−型ドーピングされることを特徴とする。
【0035】
本発明においては、上記のようにアルカリ土類金属によってn−型ドーピングされた有機物層によって有機物層の電荷キャリアの密度を上昇させ、素子内において電荷輸送効率を向上させることができ、電極へのエネルギー障壁を最小化して駆動電圧を下げることができる。また、高いフェルミエネルギー準位を有する負極電極を用いることができるため、透明および効率の高い積層型有機発光素子の製作が可能である。本発明において、前記アルカリ土類金属によってn−型ドーピングされた有機物層は、電子注入層、電子輸送層または電子輸送および注入層であることが好ましい。また、前記アルカリ土類金属によってn−型ドーピングされた有機物層は第2電極と接する層であることが好ましい。特に、本発明においては、前述したように、導電層とn−型有機物層を含む第1電極および前記第1電極のn−型有機物層とNP接合をなすp−型有機物層により、第1電極から有機物層への正孔注入のためのエネルギー障壁を大幅に下げることができる。これにより、第1電極から有機発光素子の発光領域までの正孔注入および輸送が効率的に行われる。このような正孔注入効率の高い本発明に係る有機発光素子において、前記p−型有機物層と第2電極との間に位置する有機物層、例えば、電子注入および/または輸送の役割をする有機物層にアルカリ土類金属をn−型ドーピングして電子輸送能力を向上させる場合、素子の発光領域には正孔だけでなく電子も高い濃度で到達することができる。これにより、本発明に係る有機発光素子においては、発光領域においてバランシング(balancing)を達成することができる。ここで、バランシングとは、発光領域において、再組合して発光に参加する正孔と電子の密度が最大化しつつ等しいようにすることを意味する。本発明に係る有機発光素子は、より優れた低電圧、高輝度および高効率の特性を示すことができる。
【0036】
図16は、NP接合適用技術およびn−型ドーピング有機物適用技術のうちNP接合だけを適用した有機発光素子の電子と正孔の移動を図式化したものである。NP接合適用技術およびn−型ドーピング有機物適用技術のうちNP接合だけを適用した有機発光素子の場合、正孔の注入特性と輸送特性だけが向上され、発光層において正孔の濃度が電子の濃度に比べて相対的に高くなって正孔と電子のバランシングが低下する。その結果、正孔の注入特性および輸送特性の向上による駆動電圧の減少はあるが、発光輝度の低下が発生するため、発光輝度に対する電流電圧の乗算で表現されるワット(Watt)比率である発光効率の上昇を期待できない。
【0037】
図17は、NP接合適用技術およびn−型ドーピング有機物適用技術のうちn−型ドーピング有機物だけを適用した有機発光素子の電子と正孔の移動を図式化したものである。NP接合適用技術およびn−型ドーピング有機物適用技術のうちn−型有機物ドーピングだけを適用した有機発光素子の場合、電子の注入特性と輸送特性だけが向上され、発光層において電子の濃度が正孔の濃度に比べて相対的に高くなって正孔と電子のバランシングが低下する。その結果、電子の注入特性および輸送特性の向上による駆動電圧の減少はあるが、発光輝度の低下が発生し、よって、発光輝度に対する電流電圧の乗算で表現されるワット(Watt)比率である発光効率の上昇を期待できない。
【0038】
図18は、NP接合技術およびn−型ドーピング有機物適用技術を全て適用した有機発光素子の電子と正孔の移動を図式化したものである。NP接合およびn−型ドーピング有機物を同時に用いる場合、NP接合による正孔の注入特性および輸送特性の向上と、n−型ドーピングによる電子の注入特性および輸送特性の向上とが共に起こり、発光層において電子と正孔の濃度がバランシングをなし、電荷の注入特性および輸送特性の向上による大幅な駆動電圧の減少と、電子と正孔のバランシングによる輝度の向上とが引き起こされる。したがって、発光輝度に対する電流電圧の乗算で表現されるワット(Watt)比率である発光効率の高い有機発光素子の製作が可能である。
【0039】
本発明において、有機物層をドーピングするアルカリ土類金属としてはカルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)、ベリリウム(Be)およびマグネシウム(Mg)からなる群から選択された1種以上を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
前記アルカリ土類金属によってn−型ドーピングされた有機物層において、ドーピングされる有機物層の材料は特に限定されないが、電子注入または輸送物質が用いられ得る。例えば、イミダゾール基、オキサゾール基、チアゾール基、キノリンおよびフェナントロリン基から選択された官能基を有する化合物を用いることができる。
【0040】
前記イミダゾール基、オキサゾール基およびチアゾール基から選択された官能基を有する化合物の具体的な例としては、下記化学式1または2の化合物がある:
【0041】
【化1】

【0042】
前記化学式1において、R〜Rは互いに同じであるか異なってもよく、各々独立に、水素原子;ハロゲン原子、アミノ基、ニトリル基、ニトロ基、C〜C30のアルキル基、C〜C30のアルケニル基、C〜C30のアルコキシ基、C〜C30のシクロアルキル基、C〜C30のヘテロシクロアルキル基、C〜C30のアリール基およびC〜C30のヘテロアリール基からなる群から選択された1つ以上の基で置換されたかまたは非置換のC〜C30のアルキル基;ハロゲン原子、アミノ基、ニトリル基、ニトロ基、C〜C30のアルキル基、C〜C30のアルケニル基、C〜C30のアルコキシ基、C〜C30のシクロアルキル基、C〜C30のヘテロシクロアルキル基、C〜C30のアリール基およびC〜C30のヘテロアリール基からなる群から選択された1つ以上の基で置換されたかまたは非置換のC〜C30のシクロアルキル基;ハロゲン原子、アミノ基、ニトリル基、ニトロ基、C〜C30のアルキル基、C〜C30のアルケニル基、C〜C30のアルコキシ基、C〜C30のシクロアルキル基、C〜C30のヘテロシクロアルキル基、C〜C30のアリール基およびC〜C30のヘテロアリール基からなる群から選択された1つ以上の基で置換されたかまたは非置換のC〜C30のアリール基;またはハロゲン原子、アミノ基、ニトリル基、ニトロ基、C〜C30のアルキル基、C〜C30のアルケニル基、C〜C30のアルコキシ基、C〜C30のシクロアルキル基、C〜C30のヘテロシクロアルキル基、C〜C30のアリール基およびC〜C30のヘテロアリール基からなる群から選択された1つ以上の基で置換されたかまたは非置換のC〜C30のヘテロアリール基であり、互いに隣接する基と脂肪族、芳香族、脂肪族ヘテロまたは芳香族ヘテロの縮合環を形成するか、スピロ結合をなしてもよく;Arは水素原子、置換もしくは非置換の芳香族環または置換もしくは非置換の芳香族複素環であり;XはO、SまたはNRであり;Rは水素、C〜Cの脂肪族炭化水素、芳香族環または芳香族複素環である。
【0043】
【化2】

【0044】
前記化学式2において、XはO、S、NRまたはC〜Cの2価炭化水素基であり;A、DおよびRは各々水素原子、ニトリル基(−CN)、ニトロ基(−NO)、C〜C24のアルキル、C〜C20の芳香族環またはヘテロ原子を含む置換された芳香族環、ハロゲン、または隣接する環と縮合環を形成することができるアルキレンまたはヘテロ原子を含むアルキレンであり;AとDは連結して芳香族またはヘテロ芳香族環を形成することができ;Bは、nが2以上である場合には、連結ユニットとして複数の複素環を共役または非共役になるように連結する置換もしくは非置換のアルキレンまたはアリーレンであり、nが1である場合には、置換もしくは非置換のアルキルまたはアリールであり;nは1〜8の整数である。
【0045】
前記化学式1の化合物の例としては韓国特許公開第2003−0067773号に記載された化合物を含み、前記化学式2の化合物の例としては米国特許第5,645,948号に記載された化合物とWO05/097756号に記載された化合物とを含む。前記文献はその内容の全てが本明細書に含まれる。
【0046】
具体的には、前記化学式1の化合物には下記化学式3の化合物も含まれる:
【0047】
【化3】

【0048】
前記化学式3において、R〜Rは互いに同じであるか異なり、各々独立に、水素原子、C〜C20の脂肪族炭化水素、芳香族環、芳香族複素環または脂肪族または芳香族縮合環であり;Arは直接結合、芳香族環または芳香族複素環であり;XはO、SまたはNRであり;Rは水素原子、C〜Cの脂肪族炭化水素、芳香族環または芳香族複素環であり;但し、RおよびRが同時に水素である場合は除外される。
【0049】
また、前記化学式2の化合物には下記化学式4の化合物も含まれる:
【0050】
【化4】

【0051】
前記化学式4において、ZはO、SまたはNRであり;RおよびRは水素原子、C〜C24のアルキル、C〜C20の芳香族環またはヘテロ原子を含む置換された芳香族環、ハロゲン、またはベンザゾール環と縮合環を形成することができるアルキレンまたはヘテロ原子を含むアルキレンであり;Bは、nが2以上である場合には、連結ユニットとして複数のベンザゾールを共役または非共役になるように連結するアルキレン、アリーレン、置換されたアルキレン、または置換されたアリーレンであり、nが1である場合には、置換もしくは非置換のアルキルまたはアリールであり;nは1〜8の整数である。
【0052】
好ましい化合物としてイミダゾール基を有する化合物としては下記構造の化合物がある:
【0053】
【化5】

【0054】
前記キノリン基を有する化合物の例としては下記化学式5〜11の化合物がある。
【0055】
【化6】

【0056】
前記化学式5〜11において、
nは0〜9の整数であり、mは2以上の整数であり、
は水素、メチル基、エチル基などのアルキル基、シクロヘキシル、ノルボルニルなどのシクロアルキル基、ベンジル基などのアラルキル基、ビニル基、アリル基などのアルケニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基などのシクロアルケニル基、メトキシ基などのアルコキシ基、アルコキシ基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子で置換されたアルキルチオ基、フェノキシ基などのアリールエーテル基、アリールエーテル基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子で置換されたアリールチオエーテル基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基などのアリール基、フリル基、チエニル基、オキサゾリル基、ピリジル基、キノリル基、カルバゾリル基などの複素環基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、カルボニル基、カルボキシル基、エステル基、カルバモイル基、アミノ基、ニトロ基、トリメチルシリル基などのシリル基、エーテル結合によって珪素を有する基であるシロキサニル基、隣接置換基との間の環構造から選択され;前記置換基は非置換もしくは置換されてもよく、nが2以上である場合に置換基は互いに同じであるか異なってもよく、
Yは前記Rの基の2価以上の基である。
【0057】
前記化学式5〜11の化合物は韓国公開特許2007−0118711号に記載されており、この文献の全ては本明細書に参考として含まれる。
【0058】
前記フェナントロリン基を有する化合物の例としては下記化学式12〜22の化合物が挙げられるが、これらの例だけに限定されるものではない。
【0059】
【化7】

【0060】
前記化学式12〜15において、
mは1以上の整数であり、nおよびpは整数であり、n+pは8以下であり、
mが1である場合、R10およびR11は水素、メチル基、エチル基などのアルキル基、シクロヘキシル、ノルボルニルなどのシクロアルキル基、ベンジル基などのアラルキル基、ビニル基、アリル基などのアルケニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基などのシクロアルケニル基、メトキシ基などのアルコキシ基、アルコキシ基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子で置換されたアルキルチオ基、フェノキシ基などのアリールエーテル基、アリールエーテル基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子で置換されたアリールチオエーテル基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基などのアリール基、フリル基、チエニル基、オキサゾリル基、ピリジル基、キノリル基、カルバゾリル基などの複素環基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、カルボニル基、カルボキシル基、エステル基、カルバモイル基、アミノ基、ニトロ基、トリメチルシリル基などのシリル基、エーテル結合によって珪素を有する基であるシロキサニル基、隣接置換基との間の環構造から選択され;
mが2以上である場合、R10は直接結合または前述した基の2価以上の基であり、R11はmが1である場合と同様であり、
前記置換基は非置換もしくは置換されてもよく、nまたはpが2以上である場合に置換基は互いに同じであるか異なってもよい。
【0061】
前記化学式12〜15の化合物は韓国公開特許2007−0052764号および2007−0118711号に記載されており、この文献の全ては本明細書に参考として含まれる。
【0062】
【化8】

【0063】
前記化学式16〜19において、R1a〜R8aおよびR1b〜R10bは各々水素原子、置換もしくは非置換の核原子数5−60のアリール基、置換もしくは非置換のピリジル基、置換もしくは非置換のキノリル基、置換もしくは非置換の1−50のアルキル基、置換もしくは非置換の炭素数3−50のシクロアルキル基、置換もしくは非置換の核原子数6−50のアラルキル基、置換もしくは非置換の炭素数1−50のアルコキシ基、置換もしくは非置換の核原子数5−50のアリールオキシ基、置換もしくは非置換の核原子数5−50のアリールチオ基、置換もしくは非置換の炭素数1−50のアルコキシカルボニル基、置換もしくは非置換の核原子数5−50のアリール基で置換されたアミノ基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基またはカルボキシル基であり、これらは互いに結合して芳香族環を形成することができ、Lは置換もしくは非置換の炭素数6−60のアリーレン基、置換もしくは非置換のピリジニレン基、置換もしくは非置換のキノリニレン基または置換もしくは非置換のフルオレニレン基である。前記化学式16〜19の化合物は日本特許公開2007−39405号に記載されており、この文献の全ては本明細書に参考として含まれる。
【0064】
【化9】

【0065】
前記化学式20および21において、d、d〜d10およびgは各々水素または芳香族または脂肪族炭化水素基であり、mおよびnは0〜2の整数であり、pは0〜3の整数である。前記化学式20および21の化合物は米国特許公開2007/0122656号に記載されており、この文献の全ては本明細書に参考として含まれる。
【0066】
【化10】

【0067】
前記化学式22において、R1c〜R6cは各々水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアラルキル基、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換の複素環基またはハロゲン原子であり、Ar1cおよびAr2cは各々下記構造式から選択される。
【0068】
【化11】

【0069】
前記構造式において、R17〜R23は各々水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアラルキル基、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換の複素環基またはハロゲン原子である。前記化学式22の化合物は日本特許公開2004−107263号に記載されており、この文献の全ては本明細書に参考として含まれる。
【0070】
本発明において、アルカリ土類金属によってn−型ドーピングされた有機物層の形成は当技術分野で知られている方法を利用して行うことができ、本発明の範囲が特定方法に限定されるものではない。
【0071】
前記アルカリ土類金属によってn−型ドーピングされた有機物層の濃度は0.02〜50体積%であることが電子注入効率を向上させるのに効率的である。
前記アルカリ土類金属によってn−型ドーピングされた有機物層は、電子注入層、電子輸送層または電子輸送および注入層であってもよい。
【0072】
本発明に係る有機発光素子は、前記p−型有機物層と前記アルカリ土類金属によってn−型ドーピングされた層の間または前記アルカリ土類金属によってn−型ドーピングされた層と前記第2電極との間に少なくとも1つの有機物層をさらに含むこともできる.図3は、本発明の例示的な一具体例による有機発光素子を示す。
【0073】
図3を参照すれば、有機発光素子は、基板31、基板31上の正極32、正極32の上に位置して正極32から正孔を受けるp−型正孔注入層(HIL)33、正孔注入層33の上に位置して発光層35に正孔を伝達する正孔輸送層(HTL)34、正孔輸送層34の上に位置して正孔と電子を利用して発光する発光層(EML)35、発光層35の上に位置して負極37からの電子を発光層35に輸送する電子輸送層(ETL)36、および電子輸送層36の上に位置する負極37を含むことができる。正孔輸送層34、発光層35、および電子輸送層36は同一の有機物質または他の有機物質で形成することができる。
図3において、正極32は正孔注入層33、正孔輸送層34、または発光層35に正孔を輸送し、導電層32aおよびn−型有機物層32bを含む。導電層32aは金属、金属酸化物、または導電性ポリマーで形成される。n−型有機物層32bのLUMOエネルギー準位と導電層32aのフェルミエネルギー準位のエネルギー差は約4eV以下である。p−型正孔注入層33のHOMOエネルギー準位とn−型有機物層32bのLUMOエネルギー準位のエネルギー差は約1eV以下であり、好ましくは約0.5eV以下である。NP接合が正極32のn−型有機物層32bとp−型正孔注入層33との間に形成される。
【0074】
本発明の例示的な他の具体例によれば、有機発光素子は、基板31、基板31の上に位置する正極32、正極32の上に位置するp−型正孔輸送層34、正孔輸送層34の上に位置する発光層35、発光層35の上に位置する電子輸送層36、および電子輸送層36の上に位置する負極37を含むことができる。発光層35および電子輸送層36は同一の有機物質または他の有機物質で形成することができる。
【0075】
本発明の例示的なまた他の具体例によれば、有機発光素子は、基板31、基板31上の正極32、正極32の上に位置するp−型発光層35、発光層35の上に位置する電子輸送層36、および電子輸送層36の上に位置する負極37を含むことができる。電子輸送層36は有機物質で形成することができる。
【0076】
本発明の前記他の例示的な具体例によって正孔輸送層34または発光層35がp−型有機物で形成された場合、p−型正孔輸送層34または発光層35のHOMOエネルギー準位とn−型有機物層32bのLUMOエネルギー準位のエネルギー差は約1eV以下であり、好ましくは約0.5eV以下である。NP接合が正極32のn−型有機物層32bとp−型正孔輸送層34またはp−型発光層35との間に形成される。
【0077】
n−型有機物層32bのLUMOエネルギー準位と導電層32aのフェルミエネルギー準位のエネルギー差が約4eVより大きければ、p−型正孔注入層33への正孔注入のためのエネルギー障壁に対する表面双極子またはギャップ状態の効果が減少する。前記n−型有機物層32bのLUMOエネルギー準位と前記p−型正孔注入層33のHOMOエネルギー準位のエネルギー差が約1eVより大きければ、p−型正孔注入層33またはn−型有機物層32bから各々正孔または電子が容易に発生せず、正孔注入のための駆動電圧が上昇する。
【0078】
図3には基板上に導電層およびn−型有機物層を含む第1電極、有機物層および第2電極が順次積層された実施状態が示されているが、本発明は、基板上に第2電極、有機物層およびn−型有機物層と導電層を含む第1電極が順次積層された逆構造(Inverted Structure)を含む。
【0079】
図4は、従来の有機発光素子の理想的なエネルギー準位を示す。このエネルギー準位においては、正極および負極から各々正孔および電子を注入するためのエネルギー損失が最小化する。図5は、本発明の例示的な一具体例による有機発光素子のエネルギー準位を示す。
【0080】
図5を参照すれば、本発明の他の例示的な具体例による有機発光素子は、導電層およびn−型有機物層(図3参照)を有する正極、p−型正孔注入層(HIL)、正孔輸送層(HTL)、発光層(EML)、電子輸送層(ETL)および負極を含む。前記正極のn−型有機物層のLUMOエネルギー準位と前記正極の導電層のフェルミエネルギー準位のエネルギー差は約4eV以下であり、また、p−型正孔注入層のHOMOエネルギー準位と前記正極のn−型有機物層のLUMOエネルギー準位のエネルギー差は約1eV以下である。正孔/電子注入のためのエネルギー障壁が前記正極のn−型有機物層によって低くなるため、前記正極のn−型有機物層のLUMOエネルギー準位および前記p−型正孔注入層のHOMOエネルギー準位を利用して正孔は正極から発光層に容易に輸送される。
この他、本発明の例示的な具体例による有機発光素子を図9〜図15に例示する。
【0081】
本発明においては、前記正極のn−型有機物層が正極からp−型正孔注入層、p−型正孔輸送層またはp−型発光層への正孔注入のためのエネルギー障壁を下げるため、前記正極の導電層を様々な導電性物質で形成させることができる。例えば、前記導電層は負極と同一の物質で形成することができる。正極が負極と同一の物質で形成される場合、導電性物質が低い仕事関数を有する有機発光素子のようなものが製造される。
【0082】
また、本発明においては、前述した構成によって正孔と電子の輸送能力を向上させ、正孔と電子のバランシングを達成することができるため、LiFのような材料からなる電子注入層を備えていなくても、LiF層のような電子注入層を備えた場合より優れた素子性能を達成することができる。この場合、アルカリ土類金属によってn−型ドーピングされた有機物層が第2電極と接していてよい。しかし、本発明の範囲において、電子注入層を含むことを排除するものではない。
【0083】
本発明は、前述したような原理により、高効率および高輝度のスタック型有機発光素子を提供することができる。スタック型有機発光素子の場合、同一の駆動電圧下でスタックされた有機発光素子単位の数に比例して輝度が増加するため、有機発光素子をスタック型にすれば高輝度の有機発光素子を得ることができる。
【0084】
本発明の一実施状態は、第1電極、2層以上の有機物層および第2電極を含む繰り返し単位として、前記第1電極は導電層および前記導電層と接するn−型有機物層を含み、前記第1電極のn−型有機物層と前記第2電極との間に位置する有機物層のうちの1層は前記第1電極のn−型有機物層とNP接合を形成するp−型有機物層であり、前記層のエネルギー準位は下記式(1)および(2)を満足し、前記p−型有機物層と前記第2電極との間に位置する有機物層のうちの1層以上はアルカリ土類金属によってn−型ドーピングされることを特徴とする繰り返し単位を2以上含み、1つの繰り返し単位の前記第2電極は直列に連結された隣接する繰り返し単位の前記第1電極に連結されることを特徴とするスタック型有機発光素子を提供する:
0eV<EnL−EF1≦4eV (1)
pH−EnL≦1eV (2)
〔前記式(1)および(2)において、EF1は前記第1電極の導電層のフェルミエネルギー準位であり、EnLは前記第1電極のn−型有機物層のLUMO(lowest unoccupied molecular orbital)エネルギー準位であり、EpHは前記第1電極のn−型有機物層とNP接合を形成するp−型有機物層のHOMO(highest occupied molecular orbital)エネルギー準位である。〕
【0085】
前記のようなスタック型有機発光素子の一例が図6に示されている。図6において、正極71は導電層とn−型有機物層とを含む。
【0086】
本発明のまた1つの実施状態は、第1電極および第2電極と、前記第1電極と第2電極との間に配置された2以上の発光単位および前記発光単位の間に配置された中間電極層を含むスタック型有機発光素子であって、
前記第1電極は導電層および前記導電層と接するn−型有機物層を含み、前記中間電極層は導電層および前記導電層と接するn−型有機物層を含み、前記発光単位は各々前記第1電極または前記中間電極層のn−型有機物層とNP接合を形成するp−型有機物層を含み、前記層のエネルギー準位は下記式(1)および(2)を満足し、前記発光単位は各々アルカリ土類金属によってn−型ドーピングされた有機物層をさらに含むことを特徴とするスタック型有機発光素子を提供する。
0eV<EnL−EF1≦4eV (1)
pH−EnL≦1eV (2)
前記式(1)および(2)において、EF1は前記第1電極または中間電極層の導電層のフェルミエネルギー準位であり、EnLは前記第1電極または中間電極層のn−型有機物層のLUMO(lowest unoccupied molecular orbital)エネルギー準位であり、EpHは前記第1電極または中間電極層のn−型有機物層とNP接合を形成するp−型有機物層のHOMO(highest occupied molecular orbital)エネルギー準位である。
【0087】
本発明においては、前述したように、負極および正極が同一の材料で形成することができるため、図6と等価構造である図7に示されたスタック型有機発光素子を得ることができる。図7を参照すれば、本発明に係るスタック型有機発光素子は、正極81と負極87との間に有機物層83と中間電極層85の繰り返し単位が複数積層された構造を有する。正極81および中間電極層85は導電層とn−型有機物層とを含む。前記導電層は、仕事関数が負極87物質のそれと類似する値を有しつつ、可視光線透過率が50%以上である透明な物質で形成されることが好ましい。不透明金属が導電層として用いられる場合、導電層の厚さは透明になるほど薄く形成されなければならない。不透明金属の具体的な例としては、Al、Ag、Cu、Ca、Mg、MgAg、CaAgなどが挙げられる。特に、Al金属を用いて中間電極層85の導電層を形成する場合、前記導電層は、例えば、約5〜10nmの厚さを有してもよいが、これに限定されるものではない。本発明に係るスタック型有機発光素子の中間電極層に含まれる導電層は非常に薄い層、例えば、5Å〜1,000Å、好ましくは10Å〜900Åで用いることができる。
【0088】
前記スタック型有機発光素子において、電極および各有機物層の説明は前述した単層の有機発光素子で説明したものと同様である。
【0089】
以下、本発明の例示的な一具体例による有機発光素子を構成する各層に対して具体的に説明する。
【0090】
以下で説明する各層の物質は単一物質または2以上の物質の混合物であってもよい。
【0091】
正極(Anode)
正極は、正孔注入層、正孔輸送層または発光層のようなp−型有機物層内に正孔を注入する。前記正極は導電層とn−型有機物層とを含む。前記導電層は金属、金属酸化物または導電性ポリマーを含む。前記導電性ポリマーは電気伝導性ポリマーを含むことができる。
【0092】
前記n−型有機物層は第1電極からp−型有機物層に正孔を注入するためのエネルギー障壁を下げるため、前記導電層は様々な導電性物質で形成することができる。例えば、前記導電層は約2〜5.5eVのフェルミエネルギー準位を有する。従来の有機発光素子においては、正極としてフェルミエネルギー準位が5〜6eVである材料しか用いることができなかったが、本発明においては、フェルミエネルギー準位が2〜5eVである材料、特に2〜4eVである材料も用いることができる。導電性物質の例としては、炭素、セシウム、カリウム、リチウム、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、ジルコニウム、インジウム、アルミニウム、銀、タンタル、バナジウム、クロム、銅、亜鉛、鉄、タングステン、モリブデン、ニッケル、金、その他の金属およびこれらの合金;亜鉛酸化物、インジウム酸化物、スズ酸化物、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物およびその他のこれと類似する金属酸化物;ZnO:AlおよびSNO:Sbのような酸化物と金属の混合物などが挙げられる。有機発光素子が前面発光型である場合には、前記導電層として、透明物質だけでなく、光反射率に優れた不透明物質も用いることができる。背面発光型有機発光素子の場合には、前記導電層として透明物質でなければならず、不透明物質が用いられる場合には透明になるほど薄膜に形成しなければならない。前記導電層のフェルミエネルギー準位を調節するために、導電層の表面を窒素プラズマまたは酸素プラズマで処理することができる。
【0093】
プラズマ処理による導電層のフェルミ準位は、酸素プラズマの処理時には大きくなり、窒素プラズマの処理時には低くなる。
【0094】
また、窒素プラズマの場合、導電層の導電性を上げることができ、表面酸素濃度を低下させつつ、表面に窒化物を生成させ、素子の寿命を増加させることができる。しかし、導電層のフェルミ準位が低くなって正孔注入が難しくなり、駆動電圧が上昇する問題がある。
【0095】
本発明に用いられたn−型有機物層とNP接合を用いる方法を利用する場合、導電層のフェルミ準位が低くなってもNP接合による正孔注入特性に影響がないため、窒素プラズマ処理が可能であり、これにより、長寿命、低電圧の素子の実現が可能である。
【0096】
n−型有機物層は前記導電層とp−型有機物層との間に位置し、低電界において正孔をp−型有機物層に注入する。n−型有機物層は、前記正極のn−型有機物層のLUMOエネルギー準位と前記正極の導電層のフェルミエネルギー準位のエネルギー差が約4eV以下であり、前記p−型有機物層のHOMOエネルギー準位と前記n−型有機物層のLUMOエネルギー準位のエネルギー差が約1eV以下になるように選択される。
【0097】
例えば、前記n−型有機物層は、約4〜7eVのLUMOエネルギー準位および約10−8cm/Vs〜1cm/Vs、好ましくは約10−6cm/Vs〜10−2cm/Vsの電子移動度を有する。電子移動度が約10−8cm/Vs未満であれば、n−型有機物層からp−型有機物層に正孔を注入することが容易ではない。電子移動度が1cm/Vsを超過すれば、正孔注入がより効率的になるが、このような物質は、通常、結晶性有機物であるため、非結晶性有機物を用いる有機発光素子には適用し難い。
【0098】
前記n−型有機物層は、真空蒸着できる物質または溶解法(solution process)によって薄膜成形される物質で形成することができる。前記n−型有機物の具体的な例はこれに限定されないが、2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)、フッ素−置換された3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)、シアノ−置換されたPTCDA、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、フッ素−置換されたNTCDA、シアノ−置換されたNTCDAまたはヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレン(HAT)を含む。
【0099】
正孔注入層(HIL)または正孔輸送層(HTL)
正孔注入層または正孔輸送層は正極と負極との間に位置するp−型有機物層で形成することができる。前記p−型正孔注入層またはp−型正孔輸送層と前記n−型有機物層はNP接合を形成するため、このNP接合から形成された正孔は前記p−型正孔注入層またはp−型正孔輸送層を通して発光層に輸送される。
【0100】
前記p−型正孔注入層またはp−型正孔輸送層のHOMOエネルギー準位は、前記n−型有機物層のLUMOエネルギー準位に対して約1eV以下のエネルギー差、好ましくは約0.5eVのエネルギー差を有する。前記p−型正孔注入層またはp−型正孔輸送層はアリールアミン系化合物、導電性ポリマー、または共役部分と非共役部分が共に存在するブロック共重合体などを含むが、これに限定されるものではない。
【0101】
発光層(EML)
発光層においては正孔伝達と電子伝達が同時に起こるため、発光層はn−型特性とp−型特性を全て有してもよい。便宜上、電子輸送が正孔輸送に比べて速い場合にはn−型発光層、正孔輸送が電子輸送に比べて速い場合にはp−型発光層と定義することができる。
【0102】
n−型発光層においては、電子輸送が正孔輸送より速いため、正孔輸送層と発光層の界面付近で発光がなされる。したがって、正孔輸送層のLUMO準位が発光層のLUMO準位より高ければより良い発光効率を示すことができる。n−型発光層はこれに限定されないが、アルミニウムトリス(8−ヒドロキシキノリン)(Alq);8−ヒドロキシキノリンベリリウム(BAlq);ベンズオキサゾール系化合物、ベンズチアゾール系化合物またはベンズイミダゾール系化合物;ポリフルオレン系化合物;シラシクロペンタジエン(silole)系化合物などを含む。
【0103】
p−型発光層においては、正孔輸送が電子輸送より速いため、電子輸送層と発光層の界面付近で発光がなされる。したがって、電子輸送層のHOMO準位が発光層のHOMO準位より低ければより良い発光効率を示すことができる。
【0104】
p−型発光層を用いる場合、正孔輸送層のLUMO準位変化による発光効率の増大効果がn−型発光層を用いる場合に比べて小さい。したがって、p−型発光層を用いる場合には、正孔注入層と正孔輸送層を用いることなく、n−型有機物層とp−型発光層との間のNP接合構造を有する有機発光素子を製造することができる。p−型発光層はこれに限定されるものではないが、カルバゾール系化合物;アントラセン系化合物;ポリフェニレンビニレン(PPV)系ポリマー;またはスピロ(spiro)化合物などを含む。
【0105】
電子輸送層(ETL)
電子輸送層物質としては、負極から電子の注入を受けて発光層に円滑に輸送できるように電子移動度(electron mobility)の大きい物質が好ましい。前記電子輸送層はこれに限定されないが、アルミニウムトリス(8−ヒドロキシキノリン)(Alq);Alq構造を含む有機化合物;ヒドロキシフラボン−金属錯化合物またはシラシクロペンタジエン(silole)系化合物などを含む。
【0106】
負極
負極物質としては、通常、電子輸送層のような有機物層への電子注入が容易に行われるように仕事関数の小さい物質が好ましい。アルカリ土類金属がドーピングされた電子輸送層を用いる場合、仕事関数(フェルミ準位)6.0eV以下の物質まで使用が可能である。前記負極はこれに限定されないが、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウム、チタニウム、インジウム、イットリウム、リチウム、ガドリニウム、アルミニウム、銀、スズ、ニッケル、金、モリブデン、鉄および鉛のような金属またはこれらの合金;LiF/AlまたはLiO/Alのような多層構造物質およびITO、IZOなどのような金属酸化物物質を含む。前記負極は正極の導電層と同一の物質で形成することができる。あるいは、負極または正極の導電層は透明物質を含むことができる。
【0107】
以下、実施例および比較例を通じて本発明の様々な実施状態および特徴をより詳細に説明する。但し、下記実施例は本発明の様々な実施状態および特徴を例示するためのものであって、本発明の範囲が下記実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0108】
実施例1
UPSおよびUV−VIS吸収(absorption)方法によるHATのHOMOとLUMO準位の測定
ヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレン(Hexanitrile hexaazatriphenylene:HAT)をn−型半導体特性の有機物として用いた。HATのHOMO準位を測定するために、UPS(Ultraviolet photoelectron spectroscopy)方法を利用した。この方法は、超真空(<10−8Torr)下で、試料にHeランプから出る真空UV線(21.20eV)を照射する時、試料から出る電子の運動エネルギーを分析することによって、金属の場合には仕事関数を、有機物の場合にはイオン化エネルギー、すなわち、HOMO準位およびフェルミエネルギー準位を知ることができる方法である。すなわち、真空UV線(21.20eV)を試料に照射した時、試料から放出される電子の運動エネルギーは、真空UVエネルギーである21.2eVと測定しようとする試料の電子結合エネルギー(electron binding energy)の差である。したがって、試料から放出される電子の運動エネルギー分布を分析することにより、試料内物質の分子内結合エネルギー分布を知ることができる。この時、電子の運動エネルギー中の最大エネルギー値を有する場合、試料の結合エネルギーは最小値を有するようになる。これを利用し、試料の仕事関数(フェルミエネルギー準位)およびHOMO準位を決定することができる。
【0109】
ここでは、金フィルム(gold film)を用いて金の仕事関数を測定し、前記金フィルムにHAT物質を蒸着しつつ、HAT物質から出る電子の運動エネルギーを分析することによってHATのHOMO準位を測定した。図8は、前記金フィルムとその上の20nmの厚さを有するHATフィルムから出るUPSデータを図示したものである。以下では、H.Ishii,et al.,Advanced Materials,11,605−625(1999)で使われた用語を利用して説明する。
【0110】
図8において、x軸の結合エネルギー(eV)は、金フィルムで測定された仕事関数を基準点にして計算した値である。すなわち、本測定において、金の仕事関数は、照射した光エネルギー(21.20eV)から結合エネルギーの最大値(15.92eV)を引いた値である5.28eVと測定された。前記金フィルム上に蒸着されたHATに照射された光エネルギーから結合エネルギー最大値(15.21eV)と最小値(3.79eV)の差を引いた値と定義されるHATのHOMO準位は9.78eVであり、フェルミエネルギー準位は6.02Vである。
【0111】
前記HATをガラス表面に蒸着して形成した有機物を用いて他のUV−VISスペクトルを得、吸収エッジ(absorption edge)を分析した結果、約3.26eVのバンドギャップ(band gap)を有することが分かった。これにより、HATのLUMOは約6.54eVの値を有することが分かる。この値は、HAT物質のエキシトン結合エネルギー(exciton binding energy)によって変化される。すなわち、6.54eVは前記物質のフェルミ準位(6.02eV)より大きい値であって、LUMO準位がフェルミ準位より小さい値を有するようにするためには、エキシトン結合エネルギーが0.52eV以上でなければならないということが分かる。有機物のエキシトン結合エネルギーは通常0.5eV〜1eVの値を有するため、前記HATのLUMO準位は5.54〜6.02eVの値を有すると予測される。
【0112】
実施例2
ガラス基板上にスパッタ装備を利用して1000Å厚さのIZO(indium zinc oxide)導電層を形成した後、前記IZO上に化学式2−1で示されるHATを約500Å厚さで真空熱蒸着して、IZO導電層およびn−型有機物層を有する透明正極を形成した。HATのHOMOエネルギー準位は約9.78eVであった。次に、化学式2−2で示されるNPBを約400Å厚さで真空熱蒸着してp−型正孔輸送層を形成した。前記p−型正孔輸送層上に化学式2−3で示されるAlq(HOMO準位=約5.7eV)に化学式2−4で示されるC545Tドーパントを6体積%ドーピングし、約300Å厚さで真空熱蒸着して発光層を形成した。
【0113】
前記発光層上に電子輸送層として化学式2−5で示される化合物にMgを30体積%ドーピングし、200Å厚さで真空熱蒸着した。前記ドーピングされた電子輸送層上に1000Å厚さのアルミニウムを順次真空蒸着して負極を形成することによって有機発光素子を完成した。前記過程において、有機物の蒸着速度を約0.4〜0.7Å/secに維持し、アルミニウムの蒸着速度を約2Å/secに維持した。蒸着時における蒸着チャンバー内の真空度は約2×10−7〜5×10−8torrに維持した。
【0114】
【化12】

【0115】
実施例3
電子輸送層にMgの代わりにCaを10体積%でドーピングし、200Å厚さで真空熱蒸着したことを除いては、実施例2と同じ方法により有機発光素子を製作した。
【0116】
実施例4
ガラス基板上に熱蒸着方法を利用して1000Å厚さのアルミニウム導電層を形成した後、前記アルミニウム上に化学式2−1で示されるHATを約500Å厚さで真空熱蒸着して、アルミニウム導電層およびn−型有機物層を有する反射型正極を形成した。次に、化学式2−2で示されるNPBを約400Å厚さで真空熱蒸着してp−型正孔輸送層を形成した。前記p−型正孔輸送層上に化学式2−3で示されるAlq(HOMO準位=約5.7eV)に化学式2−4で示されるC545Tドーパントを6体積%ドーピングし、約300Å厚さで真空熱蒸着して発光層を形成した。
【0117】
前記発光層上に電子輸送層として化学式2−5で示される化合物にCaを10体積%ドーピングし、200Å厚さで真空熱蒸着した。前記ドーピングされた電子輸送層上に150Å厚さのCaを順次真空蒸着して半透明負極を形成することによって有機発光素子を完成した。前記過程において、有機物の蒸着速度を約0.4〜0.7Å/secに維持し、アルミニウムの蒸着速度を約2Å/secに維持した。蒸着時における蒸着チャンバー内の真空度は約2×10−7〜5×10−8torrに維持した。
【0118】
実施例5
ガラス基板上に熱蒸着方法を利用して1000Å厚さのAg導電層を形成した後、前記Ag導電層上に化学式2−1で示されるHATを約500Å厚さで真空熱蒸着して、Ag導電層およびn−型有機物層を有する反射型正極を形成したことを除いては、実施例4と同じ方法により有機発光素子を製作した。
【0119】
実施例6
ガラス基板上に熱蒸着方法を利用して1000Å厚さのCa導電層を形成した後、前記Ca導電層上に化学式2−1で示されるHATを約500Å厚さで真空熱蒸着して、Ca導電層およびn−型有機物層を有する反射型正極を形成したことを除いては、実施例4と同じ方法により有機発光素子を製作した。
【0120】
実施例7
ガラス基板上にスパッタ装備を利用して1000Å厚さのIZO(indium zinc oxide)負極を形成した後、前記IZO上に電子輸送層として前記化学式2−5で示される化合物にCaを10体積%ドーピングし、約200Å厚さで真空熱蒸着した。前記電子輸送層上に前記化学式2−3で示されるAlqに前記化学式2−4で示されるC545Tドーパントを6体積%でドーピングし、約300Å厚さで真空熱蒸着して発光層を形成した。前記発光層上に前記化学式2−2で示されるNPBを約400Å厚さで真空熱蒸着してp−型正孔輸送層を形成した。前記p−型正孔輸送層上に前記化学式2−1で示されるHATを約700Åの厚さで真空熱蒸着し、この上にスパッタを利用してIZO導電層を約1750Åの厚さで蒸着し、IZOおよびHAT n−型有機物層を有する透明正極を形成した。HATのHOMOエネルギー準位は約9.78eVであった。前記過程において、有機物の蒸着速度を約0.4〜0.7Å/secに維持し、IZOの蒸着速度を約0.5Å/secに維持した。蒸着時における蒸着チャンバー内の真空度は約2×10−7〜5×10−8torrに維持した。
【0121】
実施例8
ガラス基板上にスパッタ装備を利用して1000Å厚さのIZO(indium zinc oxide)負極を形成した後、前記IZO上に電子輸送層として前記化学式2−5で示される化合物にCaを10体積%ドーピングし、約200Å厚さで真空熱蒸着した。前記電子輸送層上に前記化学式2−3で示されるAlqに前記化学式2−4で示されるC545Tドーパントを6体積%でドーピングし、約300Å厚さで真空熱蒸着して発光層を形成した。前記発光層上に前記化学式2−2で示されるNPBを約400Å厚さで真空熱蒸着してp−型正孔輸送層を形成した。前記p−型正孔輸送層上に前記化学式2−1で示されるHATを約700Åの厚さで真空熱蒸着し、この上にAl導電層を約1000Åの厚さで蒸着し、AlおよびHAT n−型有機物層を有する正極を形成した。前記過程において、有機物の蒸着速度を約0.4〜0.7Å/secに維持し、IZOの蒸着速度を約0.5Å/secに維持した。蒸着時における蒸着チャンバー内の真空度は約2×10−7〜5×10−8torrに維持した。
【0122】
実施例9
ガラス基板上にスパッタ装備を利用して1000Å厚さのIZO(indium zinc oxide)負極を形成した後、前記IZO上に電子輸送層として前記化学式2−5で示される化合物にCaを10体積%ドーピングし、約200Å厚さで真空熱蒸着した。前記電子輸送層上に前記化学式2−3で示されるAlqに前記化学式2−4で示されるC545Tドーパントを6体積%でドーピングし、約300Å厚さで真空熱蒸着して発光層を形成した。前記発光層上に前記化学式2−2で示されるNPBを約400Å厚さで真空熱蒸着してp−型正孔輸送層を形成した。前記p−型正孔輸送層上に前記化学式2−1で示されるHATを約700Åの厚さで真空熱蒸着し、この上にAg導電層を約1000Åの厚さで蒸着し、Ag導電層およびHAT n−型有機物層を有する正極を形成した。前記過程において、有機物の蒸着速度を約0.4〜0.7Å/secに維持し、IZOの蒸着速度を約0.5Å/secに維持した。蒸着時における蒸着チャンバー内の真空度は約2×10−7〜5×10−8torrに維持した。
【0123】
実施例10
ガラス基板上にスパッタ装備を利用して1000Å厚さのIZO(indium zinc oxide)負極を形成した後、前記IZO上に電子輸送層として前記化学式2−5で示される化合物にCaを10体積%ドーピングし、約200Å厚さで真空熱蒸着した。前記電子輸送層上に前記化学式2−3で示されるAlqに前記化学式2−4で示されるC545Tドーパントを6体積%でドーピングし、約300Å厚さで真空熱蒸着して発光層を形成した。前記発光層上に前記化学式2−2で示されるNPBを約400Å厚さで真空熱蒸着してp−型正孔輸送層を形成した。前記p−型正孔輸送層上に前記化学式2−1で示されるHATを約700Åの厚さで真空熱蒸着し、この上にCa導電層を約1000Åの厚さで蒸着し、Ca導電層およびHAT n−型有機物層を有する正極を形成した。前記過程において、有機物の蒸着速度は約0.4〜0.7Å/secを維持し、IZOは約0.5Å/secの蒸着速度を維持した。蒸着時における蒸着チャンバー内の真空度は約2×10−7〜5×10−8torrを維持した。
【0124】
実施例11
ガラス基板上に熱蒸着装備を利用してアルミニウムで1000Å厚さの反射型負極を形成したことを除いては、実施例7と同じ方法により有機発光素子を製作した。
【0125】
実施例12
ガラス基板上にスパッタ装備を利用して1000Å厚さのIZO(indium zinc oxide)負極を形成した後、前記IZO上に電子輸送層として前記化学式2−5で示される化合物にCaを10体積%ドーピングし、約200Å厚さで真空熱蒸着した。前記電子輸送層上に前記化学式2−3で示されるAlqに前記化学式2−4で示されるC545Tドーパントを6体積%でドーピングし、約300Å厚さで真空熱蒸着して発光層を形成した。前記発光層上に前記化学式2−2で示されるNPBを約400Å厚さで真空熱蒸着してp−型正孔輸送層を形成した。前記p−型正孔輸送層上に前記化学式2−1で示されるHATを約500Åの厚さで真空熱蒸着し、この上にCa導電層を約75Åの厚さで蒸着し、Ca層およびHAT n−型有機物層を有する透明中間電極層を形成した。中間電極層上に電子輸送層として前記化学式2−5で示される化合物にCaを10体積%ドーピングし、約200Å厚さで真空熱蒸着した。前記電子輸送層上に前記化学式2−3で示されるAlqに前記化学式2−4で示されるC545Tドーパントを6体積%でドーピングし、約300Å厚さで真空熱蒸着して発光層を形成した。前記発光層上に前記化学式2−2で示されるNPBを約400Å厚さで真空熱蒸着してp−型正孔輸送層を形成した。前記p−型正孔輸送層上に前記化学式2−1で示されるHATを約700Åの厚さで真空熱蒸着し、この上にスパッタを利用してIZO導電層を約1000Åの厚さで蒸着し、IZOおよびHAT n−型有機物層を有する透明正極電極層を形成して、逆構造の透明積層型有機発光素子を製作した。HATのHOMOエネルギー準位は約9.78eVであった。前記過程において、有機物の蒸着速度を約0.4〜0.7Å/secに維持し、IZOの蒸着速度を約0.5Å/secに維持した。蒸着時における蒸着チャンバー内の真空度は約2×10−7〜5×10−8torrに維持した。
【0126】
比較例1
電子輸送層をMgでドーピングすることなく、前記化学式2−5で示される化合物(HOMO=5.7eV、LUMO=2.8eV)を用いて200Åの厚さで形成し、この電子輸送層上に12Åフッ化リチウムLIF薄膜と1000Å厚さのアルミニウムを順次真空蒸着して負極を形成したことを除いては、実施例2と同じ方法により有機発光素子を製作した。前記過程において、有機物の蒸着速度を約0.4〜0.7Å/secに維持し、LiFの蒸着速度を約0.3Å/sec、アルミニウムの蒸着速度を約2Å/secに維持した。蒸着時における蒸着チャンバー内の真空度は約2×10−7〜5×10−8torrに維持した。
【0127】
比較例2
ガラス基板上にスパッタ装備を利用して1000Å厚さのIZO(indium zinc oxide)正極を形成した後、化学式2−2で示されるNPBを約900Å厚さで真空熱蒸着して正孔輸送層を形成した。正孔輸送層上に化学式2−3で示されるAlq(HOMO準位=約5.7eV)に化学式2−4で示されるC545Tドーパントを6体積%ドーピングし、約300Å厚さで真空熱蒸着して発光層を形成した。
前記発光層上に電子輸送層として化学式2−5で示される化合物にCaを10体積%ドーピングして200Å厚さで真空熱蒸着した。前記ドーピングされた電子輸送層上に1000Å厚さのアルミニウムを順次真空蒸着して負極を形成することによって有機発光素子を完成した。前記過程において、有機物の蒸着速度を約0.4〜0.7Å/secに維持し、アルミニウムの蒸着速度を約2Å/secに維持した。蒸着時における蒸着チャンバー内の真空度は約2×10−7〜5×10−8torrに維持した。
【0128】
【表1】

【0129】
表1から明らかなとおり、電子輸送層にアルカリ土類金属をドーピングすれば、アルカリ土類金属をドーピングすることなくLiFを用いた比較例1の素子に比べ、駆動電圧が下がり、効率が上昇した。実施例2と3から明らかなとおり、アルカリ土類金属であるMgやCaを電子輸送層にドーピングすれば、Al電極から電子の注入が円滑に行われることが分かる。
【0130】
また、比較例1と2から明らかなとおり、NP接合の技術およびn−型ドーピング有機物の技術のうちの1つの技術だけを適用する場合には電圧上昇と輝度低下が発生することが分かり、特にn−型有機物層だけを適用した比較例2の場合には正孔注入特性の低下による駆動電圧の上昇が非常に大きいことが分かる。
【0131】
実施例4、5および6は、正構造の発光素子において、正極電極の導電層の材料として低いフェルミ準位を有する反射型金属を用いたものであって、背面発光素子である。駆動電圧が全て3.6V以下であり、比較例1より低い駆動電圧を示す。これにより、n−型有機物を用いてNP接合を利用する場合、正極導電層として低いフェルミ準位の物質を用いることができることが分かる。本実施例の素子の輝度は、半透明Ca電極を負極として用い、Ca電極による吸収によって相対的に低い輝度を示すことが分かる。
【0132】
実施例7は、n−型有機物層を用いたNP結合構造を適用し、電子輸送層にアルカリ土類金属をドーピングして製作した、逆構造の透明有機発光素子である。正極電極と負極電極を、全て、透明電極であるIZOを用いて製作した。電子輸送層にアルカリ土類金属であるCaを10体積%ドーピングすれば、IZO負極電極から電子輸送層に電子の注入が円滑に行われることが分かる。
【0133】
実施例8、9および10は、n−型有機物層を用いたNP結合構造を適用し、電子輸送層にアルカリ土類金属であるCaを10体積%ドーピングして製作した、逆構造の前面発光素子であり、正極電極としてフェルミ準位の低いAl(4.2eV)、Ag(4.2eV)、Ca(2.6eV)金属を用いたものである。正極電極としてフェルミ準位の高いIZO(5.0eV)を用いた実施例4から、低い駆動電圧において発光特性が観測されることが分かり、発光輝度も900cd/m以上の高い発光特性が観測されることが分かる。また、n−型有機物質を用いたNP接合の素子実現時に低いフェルミ準位を有する金属電極を正極として用いることができることが分かる。
【0134】
実施例11は、負極電極としてAlを用い、正極電極として透明IZOを用いた逆構造の背面発光素子であって、低い駆動電圧と高い輝度特性を示すことが分かる。
【0135】
実施例12は、IZO透明負極、半透明Ca中間電極およびIZO透明正極導電層を用いた逆構造の透明積層型有機発光素子の例である。駆動電圧が単一層素子に比べて2倍増加したが、単一透明素子に比べて発光輝度も2倍以上上昇することが分かる。中間電極として用いたCa電極が積層型素子において負極と正極の導電層としてよく作用することが分かる。
【0136】
上記の実施例から明らかなとおり、本発明において、n−型有機物層を用いたNP接合とn−型ドーピング有機物質とを用いる場合、正極と負極電極のフェルミ準位に対する制限が緩和し、従来使用することができなかった低いフェルミ準位の物質であるCa、Al、Ag、Mgなどの物質を正極材料として用いることができ、また、負極材料としてもIZO、ITOなどのような高いフェルミ準位を有する物質を用いることができるということが分かる。このように正極、負極に用いられる物質の制限が緩和することにより、上記の実施例から明らかなとおり、正構造、逆構造、前面発光、背面発光および両方向発光などのような様々な有機発光素子の製作が可能であることが分かる。
【符号の説明】
【0137】
31 ・・・基板
32 ・・・正極
32a ・・・導電層
32b ・・・n−型有機物層
37 ・・・負極
33 ・・・正孔注入層
34 ・・・正孔輸送層
35 ・・・発光層
36 ・・・n−ドーピング電子輸送層
【図1(a)】

【図1(b)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極、2層以上の有機物層、および第2電極を含む有機発光素子であって、
前記第1電極は、導電層、および前記導電層と接するn−型有機物層を含み、前記第1電極のn−型有機物層と前記第2電極との間に位置する有機物層のうちの1層は、前記第1電極のn−型有機物層とNP接合を形成するp−型有機物層であり、前記層のエネルギー準位が下記式(1)および(2)を満足することを特徴とし、
前記p−型有機物層と前記第2電極との間に位置する有機物層のうちの1層以上はアルカリ土類金属によってn−型ドーピングされることを特徴とする有機発光素子:
0eV<EnL−EF1≦4eV (1)
pH−EnL≦1eV (2)
〔前記式(1)および(2)において、EF1は前記第1電極の導電層のフェルミエネルギー準位であり、EnLは前記第1電極のn−型有機物層のLUMO(lowest unoccupied molecular orbital)エネルギー準位であり、EpHは前記第1電極のn−型有機物層とNP接合を形成するp−型有機物層のHOMO(highest occupied molecular orbital)エネルギー準位である〕。
【請求項2】
前記アルカリ土類金属によってn−型ドーピングされた有機物層が、電子注入層、電子輸送層、または電子輸送および注入層であることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項3】
前記アルカリ土類金属によってn−型ドーピングされた有機物層が、第2電極と接することを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項4】
前記有機発光素子が、基板上に、第1電極、有機物層、および第2電極が下側から順次積層された構造であることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項5】
前記有機発光素子が、基板上に、第2電極、有機物層、および第1電極が下側から順次積層された構造であることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項6】
前記p−型有機物層が、正孔注入層、正孔輸送層、または発光層であることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項7】
前記p−型有機物層と前記アルカリ土類金属によってn−型ドーピングされた層との間、または前記アルカリ土類金属によってn−型ドーピングされた層と前記第2電極との間に、少なくとも1つの有機物層をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項8】
前記第1電極のn−型有機物層が、2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)、フッ素−置換された3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)、シアノ−置換されたPTCDA、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、フッ素−置換されたNTCDA、シアノ−置換されたNTCDA、およびヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレン(HAT)からなる群から選択された有機物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項9】
前記第1電極の導電層が、金属、金属酸化物、および導電性ポリマーからなる群から選択された物質からなることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項10】
前記第1電極の導電層と前記第2電極とが、同一の物質で形成されることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項11】
前記第1電極の導電層および前記第2電極のうちの少なくとも1つが、透明物質を含むことを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項12】
前記n−型有機物層が、約4〜7eVのLUMOエネルギー準位および約10−8cm/Vs〜1cm/Vsの電子移動度を有することを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項13】
前記アルカリ土類金属が、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)、ベリリウム(Be)およびマグネシウム(Mg)からなる群から選択された1種以上を含むことを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項14】
前記アルカリ土類金属によってn−型ドーピングされた有機物層のドーピング濃度が、0.02〜50体積%であることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項15】
第1電極、2層以上の有機物層、および第2電極を含む有機発光素子の製造方法であって、
導電層上に前記導電層と接するようにn−型有機物層を形成して第1電極を形成するステップ、
前記第1電極のn−型有機物層上に前記n−型有機物層と接するようにp−型有機物層を形成するステップ、
前記p−型有機物層上に(over)アルカリ土類金属を用いてn−型ドーピングされた有機物層を形成するステップ、および
前記アルカリ土類金属によってn−型ドーピングされた有機物層上に、前記アルカリ土類金属を用いてn−型ドーピングされた有機物層と接するように第2電極を形成するステップ
を含み、前記層のエネルギー準位が下記式(1)および(2)を満足することを特徴とする、有機発光素子の製造方法:
0eV<EnL−EF1≦4eV (1)
pH−EnL≦1eV (2)
〔前記式(1)および(2)において、EF1は前記第1電極の導電層のフェルミエネルギー準位であり、EnLは前記第1電極のn−型有機物層のLUMO(lowest unoccupied molecular orbital)エネルギー準位であり、EpHは前記第1電極のn−型有機物層とNP接合を形成するp−型有機物層のHOMO(highest occupied molecular orbital)エネルギー準位である〕。
【請求項16】
前記p−型有機物層を形成するステップと、前記アルカリ土類金属によってn−型ドーピングされた有機物層を形成するステップとの間に、有機物層を形成するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項15に記載の有機発光素子の製造方法。
【請求項17】
第2電極、2層以上の有機物層、および第1電極を含む有機発光素子の製造方法であって、
第2電極を形成するステップ、
前記第2電極上に前記第2電極と接するようにアルカリ土類金属を用いてn−型ドーピングされた有機物層を形成するステップ、
前記n−型ドーピングされた有機物層上に(over)p−型有機物層を形成するステップ、および
前記p−型有機物層上に前記p−型有機物層と接するようにn−型有機物層を形成し、前記n−型有機物層上に前記n−有機物層と接するように導電層を形成して第1電極を形成するステップ
を含み、前記層のエネルギー準位が下記式(1)および(2)を満足することを特徴とする、有機発光素子の製造方法:
0eV<EnL−EF1≦4eV (1)
pH−EnL≦1eV (2)
〔前記式(1)および(2)において、EF1は前記第1電極の導電層のフェルミエネルギー準位であり、EnLは前記第1電極のn−型有機物層のLUMO(lowest unoccupied molecular orbital)エネルギー準位であり、EpHは前記第1電極のn−型有機物層とNP接合を形成するp−型有機物層のHOMO(highest occupied molecular orbital)エネルギー準位である〕。
【請求項18】
前記アルカリ土類金属によってn−型ドーピングされた有機物層を形成するステップと、前記p−型有機物層を形成するステップとの間に、有機物層を形成するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項17に記載の有機発光素子の製造方法。
【請求項19】
第1電極、2層以上の有機物層、および第2電極を含む繰り返し単位として、前記第1電極は導電層および前記導電層と接するn−型有機物層を含み、前記第1電極のn−型有機物層と前記第2電極との間に位置する有機物層のうちの1層は前記第1電極のn−型有機物層とNP接合を形成するp−型有機物層であり、前記層のエネルギー準位が下記式(1)および(2)を満足し、前記p−型有機物層と前記第2電極との間に位置する有機物層のうちの1層以上が、アルカリ土類金属によってn−型ドーピングされることを特徴とする繰り返し単位を2以上含み、
1つの繰り返し単位の前記第2電極は直列に連結された隣接する繰り返し単位の前記第1電極に連結されることを特徴とする、スタック型有機発光素子:
0eV<EnL−EF1≦4eV (1)
pH−EnL≦1eV (2)
前記式(1)および(2)において、EF1は前記第1電極または中間電極層の導電層のフェルミエネルギー準位であり、EnLは前記第1電極または中間電極層のn−型有機物層のLUMO(lowest unoccupied molecular orbital)エネルギー準位であり、EpHは前記第1電極または中間電極層のn−型有機物層とNP接合を形成するp−型有機物層のHOMO(highest occupied molecular orbital)エネルギー準位である。
【請求項20】
前記アルカリ土類金属によってn−型ドーピングされた有機物層が、電子注入層、電子輸送層、または電子輸送および注入層であることを特徴とする、請求項19に記載のスタック型有機発光素子。
【請求項21】
前記アルカリ土類金属によってn−型ドーピングされた有機物層が第2電極と接することを特徴とする、請求項19に記載のスタック型有機発光素子。
【請求項22】
前記第1電極のn−型有機物層が、2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)、フッ素−置換された3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)、シアノ−置換されたPTCDA、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、フッ素−置換されたNTCDA、シアノ−置換されたNTCDA、およびヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレン(HAT)からなる群から選択された有機物を含むことを特徴とする、請求項19に記載のスタック型有機発光素子。
【請求項23】
前記アルカリ土類金属が、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)、ベリリウム(Be)およびマグネシウム(Mg)からなる群から選択された1種以上を含むことを特徴とする、請求項19に記載のスタック型有機発光素子。
【請求項24】
第1電極および第2電極と、前記第1電極と第2電極との間に配置された2以上の発光単位、および前記発光単位の間に配置された中間電極層を含む、スタック型有機発光素子であって、
前記第1電極は導電層および前記導電層と接するn−型有機物層を含み、前記中間電極層は導電層および前記導電層と接するn−型有機物層を含み、前記発光単位は各々前記第1電極または前記中間電極層のn−型有機物層とNP接合を形成するp−型有機物層を含み、前記層のエネルギー準位が下記式(1)および(2)を満足し、前記発光単位が、各々アルカリ土類金属によってn−型ドーピングされた有機物層をさらに含むことを特徴とする、スタック型有機発光素子:
0eV<EnL−EF1≦4eV (1)
pH−EnL≦1eV (2)
〔前記式(1)および(2)において、EF1は前記第1電極または中間電極層の導電層のフェルミエネルギー準位であり、EnLは前記第1電極または中間電極層のn−型有機物層のLUMO(lowest unoccupied molecular orbital)エネルギー準位であり、EpHは前記第1電極または中間電極層のn−型有機物層とNP接合を形成するp−型有機物層のHOMO(highest occupied molecular orbital)エネルギー準位である〕。
【請求項25】
前記アルカリ土類金属によってn−型ドーピングされた有機物層が、前記中間電極層または前記第2電極と接することを特徴とする、請求項24に記載のスタック型有機発光素子。
【請求項26】
前記アルカリ土類金属によってn−型ドーピングされた有機物層が、電子注入層、電子輸送層、または電子輸送および注入層であることを特徴とする、請求項24に記載のスタック型有機発光素子。
【請求項27】
前記第1電極のn−型有機物層が、2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)、フッ素−置換された3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)、シアノ−置換されたPTCDA、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、フッ素−置換されたNTCDA、シアノ−置換されたNTCDA、およびヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレン(HAT)からなる群から選択された有機物を含むことを特徴とする、請求項24に記載のスタック型有機発光素子。
【請求項28】
前記アルカリ土類金属が、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)、ベリリウム(Be)およびマグネシウム(Mg)からなる群から選択された1種以上を含むことを特徴とする、請求項24に記載のスタック型有機発光素子。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公表番号】特表2011−510450(P2011−510450A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−543066(P2010−543066)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【国際出願番号】PCT/KR2009/000283
【国際公開番号】WO2009/091231
【国際公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(500239823)エルジー・ケム・リミテッド (1,221)
【Fターム(参考)】