説明

有機発光表示装置

【課題】互いに異なる複数組の発光色を呈する画素すべてにおいて、同一の換算手段が適用可能な有機発光表示装置を提供する。
【解決手段】陽極及び陰極に挟持された、少なくとも発光層を含む複数の有機化合物層からなり、互いに異なる発光色を呈する複数の画素を有する有機発光表示素子を備える。有機発光素子の駆動による輝度低下に伴って発生する電圧値又は電流値の変化を検出する手段と、検出された情報に基づく補正量を決定するために参照する換算条件を記憶する記憶手段とを備える。そして、換算条件が互いに異なる発光色を呈する有機発光素子でそれぞれ同様となるように、陽極と陰極との間の抵抗を調節する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物を用いた発光素子を利用した表示装置に関するものであり、さらに詳しくは、有機化合物からなる薄膜に電界を印加することにより光を放出する有機EL素子を用いた有機発光表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子(有機EL、有機エレクトロルミネッセンス素子)を用いた有機発光表示装置が現在盛んに研究開発されている。有機発光素子を実用化するにあたり様々な問題があるが、特に駆動に伴う輝度低下が問題となっており、寿命を改善するために、材料の開発やデバイスの開発だけではなく、駆動による輝度低下を補償する方式の研究開発も行われている。
【0003】
駆動による輝度低下を補償する概念としては、低下した輝度分(図1参照)を補うだけの電流をさらに印加することで、一定輝度になるよう補正する(図2参照)。
【0004】
一定輝度に補正する方式としては、直接輝度を読み取り、その情報に基づき一定輝度になるよう補正する方式がある。また、予め劣化の情報を取得しておき、発光時の電流値や電圧値を検出し、それらの情報に基づき駆動による輝度低下に補正をかける方式がある。
【0005】
そのような劣化補償の方法の1つとして、予め取得した駆動による輝度低下に対する累積値情報に基づいて、発光時の累積値情報から補正する方式が開示されている(特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2004−145257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、発光色が異なる発光素子の場合、一般的には、素子の駆動による輝度低下特性も異なるため、累積値情報は発光色の数だけ必要となる。また、電圧値又は電流値の変化を検知して補正する場合においても、発光色が異なると、素子の駆動による輝度低下と電圧値又は電流値の変化は対応しない。そのため、特許文献1に記載された技術では、発光色の数だけ回路、検出器、メモリ等が必要になるという課題があった。
【0008】
本発明は上述した事情に鑑み提案されたもので、互いに異なる複数組の発光色を呈する画素すべてにおいて、同一の換算手段が適用可能な有機発光表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述した目的を達成するため、以下の特徴点を有している。すなわち、本発明の有機発光表示装置は、陽極及び陰極からなる1対の電極と、この1対の電極に挟持された少なくとも発光層を含む複数の有機化合物層からなり、互いに異なる発光色を呈する複数の画素を有する有機発光素子を備えている。また、この有機発光表示装置は、有機発光素子の駆動による輝度低下に伴って発生する電圧値又は電流値の変化を検出する手段と、検出された情報に基づく補正量を決定するために参照する換算条件を記憶する記憶手段と、を備えている。そして、互いに異なる発光色を呈する有機発光素子において、それぞれ換算条件が同様となるように、陽極と陰極との間の抵抗を調節することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の有機発光表示装置によれば、1つの劣化情報を発光色の異なる発光素子に適用するために、電極間の抵抗を調節することにより、すべての発光素子の電圧値又は電流値の変化と、発光素子の駆動による輝度低下とを対応させることができる。したがって、互いに異なる複数組の発光色を呈する画素すべてに対して、同一の換算手段を適用して輝度劣化の補正を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の有機発光表示装置の実施形態を説明する。
【0012】
本発明の有機発光表示装置は、陽極及び陰極からなる1対の電極と、この1対の電極に挟持された少なくとも発光層を含む有機化合物層からなり、互いに異なる発光色を呈する複数の画素を有する有機発光素子を備えている。また、この有機発光表示装置は、有機発光素子の駆動による輝度低下に伴って発生する電圧値又は電流値の変化を検出する手段と、検出された情報に基づく補正量を決定するために参照する換算条件を記憶する記憶手段と、を備えている。そして、換算条件が互いに異なる発光色を呈する有機発光素子でそれぞれ同様となるように、陽極と陰極との間の抵抗を調節するようになっている。
【0013】
具体的には、駆動による輝度の低下が相対的に大きい有機発光素子では、抵抗が相対的に大きくなるように調節し、駆動による輝度の低下が相対的に小さい有機発光素子では、抵抗が相対的に小さくなるように調節する。
【0014】
また、複数の有機化合物層は、発光層と陰極の間に形成されるとともに、有機化合物と電子注入ドーパント材料とを含む電子注入層を含ませることが可能である。この場合には、駆動による輝度の低下が相対的に大きい有機発光素子では、電子注入層中の電子注入ドーパント材料の濃度が相対的に薄くなるように調節する。一方、駆動による輝度の低下が相対的に小さい有機発光素子では、電子注入層中の電子注入ドーパント材料の濃度が相対的に濃くなるように調節する。ここで、電子注入ドーパント材料は、アルカリ金属又はアルカリ金属化合物とすることが可能であり、アルカリ金属化合物は、Cs2CO3とすることが可能である。
【0015】
また、複数の有機化合物層は、発光層と陰極の間に形成された電子輸送層を含ませることが可能である。この場合、駆動による輝度の低下が相対的に大きい有機発光素子では、電子輸送層の厚みが相対的に厚くなるように調節する。一方、駆動による輝度の低下が相対的に小さい有機発光素子では、電子輸送層の厚みが相対的に薄くなるように調節する。
【0016】
さらに、複数の発光色は、赤色、緑色、青色を含むものとし、有機発光素子の駆動による輝度の低下が相対的に大きい素子は、青色発光の有機発光素子とすることが可能である。
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の有機発光表示装置の実施形態を具体的に説明する。
【0018】
図1は、有機発光素子の駆動に伴う劣化の1つである輝度低下を模式的に示したものである。また、図2は輝度補正を示す概念図、図3は高抵抗化を示す概念図である。
【0019】
図1に示すように、有機発光素子は、駆動することにより輝度が低下する。また、有機発光素子は自発光であるため、発光の累積時間が異なると発光輝度に差ができ、それがムラ斑となってしまう。そこで、輝度低下した素子に対して輝度低下を補償するために、輝度低下した分だけ印加電流を増加することで、ほぼ一定輝度を保つ補正を行うことができる(図2参照)。
【0020】
また、有機発光素子の駆動に伴う輝度低下は、輝度低下の他に高抵抗化がある(図3(a)参照)。定電圧駆動であれば電流低下を引き起こし(図3(b)参照)、定電流駆動であれば高電圧化を引き起こす(図3(c)参照)。
【0021】
図4(a)は、素子Aの駆動による輝度低下と高抵抗化特性を模式的に示したグラフである。また、図4(b)は素子Aの駆動による輝度低下を縦軸に、それに対応する抵抗の変化を横軸に示した模式図である。
【0022】
図4(a)に示すように、駆動による輝度低下は、一般的に発光開始時に大きな劣化を伴う初期劣化があり、その後はある一定の劣化速度に落ち着くようになる。高抵抗化についても同様であり、駆動初期に大きく高抵抗化し、その後はある一定の劣化速度に落ち着くようになる。すなわち、図4(b)に示すように、駆動による輝度低下に対して、抵抗の変化が直線的に変化する。これらの変化が1対1に対応するため、特定条件における電圧値又は電流値を検出すれば、駆動による輝度低下の変化量も分かる。この情報に基づいて、駆動による輝度低下分を補うよう印加電流を増加させることで、輝度を一定に保つことが可能となる。但し、輝度劣化や高抵抗化は発光色により変わるため、それぞれ一致することはほとんどない。
【0023】
図5は、特性の異なる素子A、B、Cの駆動による輝度低下と抵抗変化特性の模式図及びそれらの素子の抵抗変化−輝度低下の模式図である。
【0024】
素子Bは、素子Aに対して、抵抗変化特性は等しいが、駆動による輝度低下が大きい特性を示す素子である(図5(a)、(b)参照)。また、素子Cは素子Aに対して、駆動による輝度低下は等しいが、高抵抗化が大きい特性を示す素子である(図5(a)、(c)参照)。これらの抵抗変化−輝度低下特性は異なるため、それぞれの素子特性に対応させた補正換算手段が必要となる(図5(d)参照)。
【0025】
図6は、駆動による輝度低下特性の異なる素子A’、B’、C’の輝度低下と抵抗変化特性の模式図を示す。
【0026】
素子A’と比較して駆動による輝度低下の大きな素子B’に対しては、より高抵抗化するように素子構成を変える(図6(a)、(b)参照)。また、素子A’と比較して駆動による輝度低下の小さな素子C’に対しては、高抵抗化を抑えるように素子構成を変える(図6(a)、(c)参照)。図6(d)に示すように、これらの抵抗変化−輝度変化特性がほぼ一致するよう素子構成を変えることで、それぞれの素子特性に対応させた補正換算手段が必要ではなくなり、同一の補正換算手段でそれぞれの素子の駆動による輝度低下を補正することが可能となる。
【0027】
高抵抗化特性を変える方法の1つとして、電子注入層中のアルカリ金属の濃度を変える方法がある。例えば、駆動による輝度劣化の大きな素子B’であれば、アルカリ金属の濃度を薄くすることで、より高抵抗化することが可能である。また、輝度低下の小さな素子C’であれば、アルカリ金属の濃度を濃くすることで、高抵抗化を抑制することが可能である。
【0028】
他に、高抵抗化特性を変える方法としては、膜厚や材料を変える方法がある。発光層以外の層を共通にした場合には、発光層の特性が異なるため、抵抗変化−輝度低下特性が一致することは少ない。そこで、電子輸送層の膜厚や材料を発光層に合わせて変えることで、抵抗変化−輝度低下特性をほぼ一致させることが可能となる。
【0029】
図7は、電流を印加し、電圧を読み取り、輝度低下を補正する方式を採用した有機発光表示装置を示す概略図である。
【0030】
このような方式を採用した有機発光表示装置は、発光素子に電流を印加するための電流源、発光素子、ある電流を印加した際の電圧を読み取る検出部、及びその情報と事前に取得した劣化情報から電流源に補正をかける補正部とを備えている。
【0031】
具体的には、発光素子をある輝度L0で発光させるために、電流源からI0の電流を発光素子に印加する。その時の電圧を検出部で検出し、検出された電圧をV0とする。駆動開始時t0からΔtだけ駆動させた時、ΔLだけ輝度低下し、ΔVだけ高電圧化する。この情報と予め取得しておいた劣化情報とに基づいて、補正後の電流ΔI+I0を印加するように補正部から電流源に信号を送る。Δt駆動後、補正部から信号を受けた電流源は、ΔI+I0の電流を発光素子に印加することで、発光素子は輝度L0で発光する。
【0032】
以上、電流電源及び電圧検出部を用いた方式を例に示したが、電圧電源及び電流検出部を用いた方式でも輝度補正は可能である。また、これらの方式に限らず、駆動時に検出した電圧又は電流の情報から輝度低下を補正する方式であれば、どのような方式であってもよい。
【0033】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0034】
図8は、本発明を代表するトップエミッション型で反射電極が陽極である有機発光素子の概略部分を拡大して示す断面模式図である。また、図9は、有機EL素子の発光領域を示す概念図である。
【0035】
図8に示すように、本発明の実施形態に係る有機発光素子は、TFT付き基板100上に、陽極(反射電極)200、正孔輸送層300、発光層400、電子輸送層500、電子注入層600、陰極700、保護層800を順次設けた構成となっている。例えば、赤緑青の三色からなる表示装置においては、赤、緑,青のEL発光をする赤410、緑420、青430の発光層が、それぞれ形成されている。これらのEL素子に電流を通電することで、陽極200から注入された正孔と陰極700から注入された電子が、赤緑青それぞれの発光層400において再結合し、そこで赤緑青それぞれの光を放出することになる。
【0036】
この際、発光領域は、正孔輸送層300と発光層400と電子輸送層500の関係で決まるが、一般的には、正孔輸送層300と発光層400との界面を最大とし内部に向かって徐々にその強度が減衰する場合が多い(図9参照)。また、この発光した光は、基板100側、もしくは、保護層800側、どちらからでも取り出すことが可能である。しかし、アクティブマトリックス駆動の表示装置を考えた場合、開口率の確保という観点から、保護層800側から光を取り出す、いわゆるトップエミッション構成の表示装置が有利である。
【0037】
本発明で用いる支持体としては、特に限定するものではないが、金属、セラミックス、ガラス、石英等の支持体が用いられる。また、プラスチックシート等のフレキシブルシート上にTFTを作成して、フレキシブル表示装置とすることも可能である。この上に反射電極200が形成してある。この反射電極200は、反射性金属201と透明導電膜202からなる。反射性金属201としては、透明導電膜202との界面における反射率が少なくとも50%以上、好ましくは80%以上であることが望ましく、特に限定されるものではないが、例えば銀やアルミニウムやクロム(銀合金、アルミニウム合金を含む)等が用いられる。また、反射電極200は、光学調整層兼電圧調整層に電荷を注入できればよく、直接、電荷を注入できるのであれば、特に透明電極を有しなくともよい。透明導電膜202としては、酸化物導電膜、具体的には、酸化インジウムと酸化錫の化合物膜(ITO)や酸化インジウムと酸化亜鉛の化合物膜(IZO)等を用いることができる。なお、ここで用いている「透明」とは、可視光に対して80〜100%の透過率を有していることであり、より具体的には、複素屈折率のκが0.05以下、好ましくは0.01以下であることが望ましい。複素屈折率のκは、吸収の程度を示しており、このκが小さいことにより多重反射による減衰を抑えることができるからである。その屈折率や表示装置の発光色にも依存するが、光学調整層兼電圧調整層の厚さが10〜200nm、好ましくは10〜100nmの範囲に入るように透明導電膜202の厚さを設定することが望ましい。これは、消費電力の観点から、低電圧で駆動することが有利だからである。この反射電極200は、各画素にパターニングされ、素子分離膜により分離されている。
【0038】
正孔輸送層300、発光層400、電子輸送層500、電子注入層600に用いられる有機化合物としては、低分子材料で構成されても、高分子材料で構成されても、両者を用いて構成されてもよく、特に限定されるものではない。必要に応じてこれまで知られている材料も使用することができる。
【0039】
以下、これらの化合物例を挙げる。
【0040】
ホール輸送性材料としては、陽極側からのホールの注入を容易にし、また注入されたホールを発光層に輸送するに優れたモビリティを有することが好ましい。ホール注入輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、オキサゾール誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、及びポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(シリレン)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。以下に、具体例の一部を示す。
【0041】
<低分子系ホール注入輸送材料>
【0042】
【化1】

【0043】
【化2】

【0044】
【化3】

【0045】
<高分子系ホール輸送材料>
【0046】
【化4】

【0047】
【化5】

【0048】
【化6】

【0049】
<発光材料>
発光材料としては、発光効率の高い蛍光色素や燐光材料が用いられる。以下に具体例の一部を示す。
【0050】
【化7】

【0051】
<電子輸送性材料>
電子輸送性材料としては、注入された電子を発光層に輸送する機能を有するものから任意に選ぶことができ、ホール輸送材料のキャリア移動度とのバランス等、駆動時の素子の抵抗変化を考慮して選択される。電子注入輸送性能を有する材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、ペリレン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フルオレノン誘導体、アントロン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機金属錯体等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。以下に、具体例の一部を示す。
【0052】
【化8】

【0053】
<電子注入材料>
電子注入材料としては、前述した電子輸送性材料に、アルカリ金属やアルカリ土類金属、もしくはその化合物を0.1〜数十%含有させることにより、電子注入性を付与することができる。素子毎の駆動時の高抵抗化特性を制御するため、素子毎に濃度を変えることができる。駆動による輝度低下の大きな素子の濃度は薄くすることで、より高抵抗化することができ、輝度低下の小さな素子の濃度は濃くすることで、高抵抗化を抑制することができる。例えば、輝度低下の大きな青色発光素子の濃度を薄くし、輝度低下の小さな赤色発光素子の濃度を濃くすることで、抵抗変化−輝度低下特性を近づけることができる。電子注入層600は、必要不可欠な層ではないが、この後に透明陰極700を形成する際の成膜時に受けるダメージを考慮すると、良好な電子注入性を確保するために10〜100nm程度挿入した方が好ましい。
【0054】
本発明の有機化合物層は、一般には真空蒸着法、転写法、イオン化蒸着法、スパッタリング、プラズマ、又は適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により薄膜を形成する。特に、塗布法で成膜する場合は、適当な結着樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。結着樹脂としては、広範囲な結着性樹脂より選択でき、例えば、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ポリスルホン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらは単独又は共重合体ポリマーとして1種又は2種以上混合してもよい。さらに、必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0055】
透明電極700としては、前述したITOやIZO等の酸化物導電膜を使用することができる。電子輸送層500及び電子注入層600との組み合わせにより、電子注入性が良好な組み合わせを適宜選択することが望ましい。また、透明電極は、スパッタリングにより形成することができる。
【0056】
保護層800は、酸素や水分等との接触を防止する目的で設けられる。保護層800としては、窒化シリコン、窒化酸化シリコン等の金属窒化物膜や、酸化タンタル等の金属酸化物膜、ダイヤモンド薄膜、フッ素樹脂、ポリパラキシレン、ポリエチレン、シリコン樹脂、ポリスチレン樹脂等の高分子膜、光硬化性樹脂等が挙げられる。また、ガラス、気体不透過性フィルム、金属などをカバーし、適当な封止樹脂により素子自体をパッケージングすることもできる。また、防湿性を高めるために、保護層内に吸湿材を含有させてもよい。
【0057】
なお、本実施形態では、基板上に陽極を形成した構成の一例を示したが、基板側より陰極(反射電極)、有機化合物層、陽極の順序で構成されていてもよく、電極の選択や、有機EL素子の積層順序には、特に制限はない。さらには、透明基板上に透明電極を形成し、その上に有機EL層、反射性電極を積層したボトムエミッション構成においても本発明を実施することは可能であり、特に限定されるものではない。
【0058】
また、ここでは、いわゆるダブルへテロ構成のEL素子を例にとり説明してきたが、シングルへテロ構成のEL素子にも適応可能である。
【0059】
駆動による輝度低下を補正する方式としては、駆動後の輝度低下と電圧又は電流の変化を予め取得し、取得された輝度低下情報に基づいて駆動時の電圧又は電流の変化から駆動による輝度低下を補正する方式であればよい。より好ましくは、さらに温度変化による特性変化を検出し、補正する方式が好ましい。また、特に、劣化情報をメモリに記憶しておく必要はなく、画素回路のみで電圧又は電流を補正する方式でもよい。
【0060】
表示装置を構成する電源としては、電圧源でも電流源でもよい。また、検出部としては、電圧又は電流の変化が検出できる検出手段であればよい。
【0061】
駆動による輝度低下の変化、電圧又は電流の変化、抵抗の変化については、絶対値であっても相対値であってもよいが、より好ましくは、変化の絶対値を用いる。実際の変化量が分かれば、輝度低下の量が分かるため、発光素子以外の電圧等を考慮しなくてもよい。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記本実施例によって何ら限定されるものではない。
【0063】
<実施例1>
図10は、実施例1における有機発光素子を示す断面模式図である。
【0064】
実施例1は、図10に示すAgとIZOを積層した反射電極を用いたトップエミッション型構造の有機発光素子を以下に示す方法で作製した。
【0065】
まず、反射性金属としてのAg合金(AgPdCu)を約100nmスパッタリング法にて形成してパターニングし、透明導電膜としてのIZOをスパッタリング法にて20nm形成してパターニングして、反射電極200を形成する。さらに、アクリル樹脂により素子分離膜を形成し陽極付き基板を作成する。これをイソプロピルアルコール(IPA)で超音波洗浄し、次いで、煮沸洗浄後乾燥する。その後、UV/オゾン洗浄してから有機化合物を真空蒸着により成膜する。
【0066】
この上に、正孔輸送層300として、下記構造式で示す化合物[I]を成膜する。正孔輸送層としてシャドーマスクを用い、青の画素領域に20nm、緑の領域には30nm、赤の画素領域に30nm成膜する。この際の真空度は1×10-4Pa、蒸着レートは、0.3nm/secである。
【0067】
化合物[I]
【0068】
【化9】

【0069】
次に、発光層400として、シャドーマスクを用いて、RGBそれぞれの発光層を成膜する。Rの発光層410としては、ホストとして下記構造式で示す化合物[II]であるCBPと発光ドーパントとしてIr(4mopiq)3と、アシストドーパントとしてIr(ppy)を共蒸着(体積比89:1:10)して、60nm成膜した。Gの発光層420としては、ホストとしてAlq3と、発光性化合物クマリン6を共蒸着(重量比99:1)して40nmの発光層を設ける。Bの発光層430としては、ホストとして下記構造式で示す化合物[III]と発光性化合物[IV]を共蒸着(重量比90:10)して20nmの発光層を設ける。蒸着時の真空度は1×10-4Pa、成膜速度は0.1nm/secの条件で成膜する。
【0070】
化合物[II]
【0071】
【化10】

【0072】
化合物[III]
【0073】
【化11】

【0074】
化合物[IV]
【0075】
【化12】

【0076】
さらに、電子輸送層500としてバソフェナントロリン(Bphen)を真空蒸着法にて10nmの膜厚に形成した。蒸着時の真空度は、1×10-4Pa、成膜速度は0.3nm/secの条件であった。
【0077】
次に、電子注入層600として、BphenとCs2CO3をRの画素に重量比87:13、Gの画素に重量比、98:2、Bの画素に90:10で共蒸着して40nmの膜厚の電子注入層610、620、630を形成した。蒸着時の真空度は3×10-4Pa、成膜速度は0.2nm/secの条件であった。
【0078】
この電子注入層まで成膜した基板を、真空を破ること無しにスパッタ装置に移動し、陰極700としてITOを60nm成膜した。さらに保護層800として、窒化酸化シリコンを700nm成膜し、各有機発光素子を得た。
【0079】
図11は、実施例1における有機発光素子の電圧変化−輝度低下特性を示す説明図である。図11に示すように、発光色の異なる有機発光素子において、電子注入層の濃度を塗り分けることにより、電圧変化−輝度低下特性がほぼ一致した。これにより、発光色の異なる有機発光素子からなる有機発光表示装置の輝度低下補正においても、同一の補正換算手段を用いることが可能である。
【0080】
<実施例2>
図12は、実施例2における有機発光素子を示す断面模式図である。
【0081】
実施例2として、図12に示すAgとIZOを積層した反射電極を用いたトップエミッション型構造の有機発光素子を以下に示す方法で作製した。
【0082】
発光層400を形成するまでは、実施例1と同様にして有機発光素子を作製した。
【0083】
次に、シャドーマスクを用い、電子輸送層500としてバソフェナントロリン(Bphen)を真空蒸着法にてRの画素に50nm、GとBの画素にそれぞれ10nmの膜厚で形成した。蒸着時の真空度は1×10-4Pa、成膜速度は0.3nm/secの条件であった。
【0084】
次に、共通の電子注入層として、BphenとCs2CO3を85:15で共蒸着して40nmの膜厚の電子注入層600を形成した。蒸着時の真空度は3×10-4Pa、成膜速度は0.2nm/secの条件であった。
【0085】
この電子注入層600まで成膜した基板を、真空を破ること無しにスパッタ装置に移動し、陰極700としてITOを60nm成膜した。さらに保護層800として、窒化酸化シリコンを700nm成膜し、各有機発光素子を得た。
【0086】
図13は、実施例2及び比較例における有機発光素子の電圧変化−輝度低下特性を示す説明図である。
【0087】
図13に示すように、発光色の異なる有機発光素子において、電子輸送層の膜厚を塗り分けることにより、電圧変化−輝度低下特性がほぼ一致した。これにより、発光色の異なる有機発光素子からなる有機発光表示装置の輝度低下補正においても、同一の補正換算手段を用いることが可能である。
【0088】
<比較例>
図14は、比較例における有機発光素子を示す断面模式図である。
【0089】
比較例として、図14に示すAgとIZOを積層した反射電極を用いたトップエミッション型構造の有機発光素子を以下に示す方法で作製した。
【0090】
比較例では、発光層400を形成するまでは、実施例1と同様にして有機発光素子を作製した。
【0091】
次に、共通の電子輸送層500にとしてバソフェナントロリン(Bphen)を真空蒸着法にて10nmの膜厚に形成した。蒸着時の真空度は1×10-4Pa、成膜速度は0.3nm/secの条件であった。
【0092】
次に、共通の電子注入層600として、BphenとCs2CO3を85:15で共蒸着して40nmの膜厚の電子注入層600を形成した。蒸着時の真空度は3×10-4Pa、成膜速度は0.2nm/secの条件であった。
【0093】
この電子注入層600まで成膜した基板を、真空を破ること無しにスパッタ装置に移動し、陰極700としてITOを60nm成膜した。さらに、保護層800として、窒化酸化シリコンを700nm成膜し、各有機発光素子を得た。
【0094】
図13に示すように、比較例は、実施例2と比較して、電子輸送層が共通である場合は、電圧変化−輝度低下特性が大きく外れてしまう。同一の補正換算手段を用いた場合には、補正前よりも輝度斑が大きくなる可能性もある。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】輝度低下を示す概念図。
【図2】輝度補正を示す概念図。
【図3】高抵抗化を示す概念図。
【図4】素子Aの輝度低下−抵抗変化特性の模式図。
【図5】素子A、B、Cの輝度低下−抵抗変化特性の模式図。
【図6】素子A’、B’、C’の輝度低下−抵抗変化特性の模式図。
【図7】電流を印加し、電圧を読み取り、輝度低下を補正する方式を採用した有機発光表示装置を示す概略図。
【図8】本発明における有機発光素子の一例を示す断面模式図。
【図9】有機EL素子の発光領域を示す概念図。
【図10】実施例1における有機発光素子を示す断面模式図。
【図11】実施例1における有機発光素子の電圧変化−輝度低下特性を示す説明図。
【図12】実施例2における有機発光素子を示す断面模式図。
【図13】実施例2及び比較例における有機発光素子の電圧変化−輝度低下特性を示す説明図。
【図14】比較例における有機発光素子を示す断面模式図。
【符号の説明】
【0096】
100 基板
200 陽極(反射電極)
201 反射性金属
202 透明導電膜
300 正孔輸送層
400 発光層
410 赤色発光層
420 緑色発光層
430 青色発光層
500 電子輸送層
510 赤色画素の電子輸送層
520 緑色画素の電子輸送層
530 青色画素の電子輸送層
600 電子注入層
610 赤色画素の電子注入層
620 緑色画素の電子注入層
630 青色画素の電子注入層
700 陰極
800 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極及び陰極からなる1対の電極と、この1対の電極に挟持された少なくとも発光層を含む複数の有機化合物層とからなり、互いに異なる発光色を呈する複数の画素を有する有機発光素子を備えた有機発光表示装置において、
前記有機発光素子の駆動による輝度低下に伴って発生する電圧値又は電流値の変化を検出する手段と、検出された情報に基づく補正量を決定するために参照する換算条件を記憶する記憶手段と、を備えるとともに、
前記換算条件が互いに異なる発光色を呈する有機発光素子でそれぞれ同様となるように、前記陽極と前記陰極との間の抵抗を調節することを特徴とする有機発光表示装置。
【請求項2】
駆動による輝度の低下が相対的に大きい有機発光素子では、抵抗が相対的に大きくなるように調節し、
駆動による輝度の低下が相対的に小さい有機発光素子では、抵抗が相対的に小さくなるように調節することを特徴とする請求項1に記載の有機発光表示装置。
【請求項3】
前記複数の有機化合物層は、前記発光層と前記陰極の間に形成されるとともに、有機化合物と電子注入ドーパント材料とを含む電子注入層を含み、
駆動による輝度の低下が相対的に大きい有機発光素子では、電子注入層中の電子注入ドーパント材料の濃度が相対的に薄くなるように調節し、
駆動による輝度の低下が相対的に小さい有機発光素子では、電子注入層中の電子注入ドーパント材料の濃度が相対的に濃くなるように調節することを特徴とする請求項2に記載の有機発光表示装置。
【請求項4】
前記電子注入ドーパント材料は、アルカリ金属又はアルカリ金属化合物であることを特徴とする請求項3に記載の有機発光表示装置。
【請求項5】
前記アルカリ金属化合物は、Cs2CO3であることを特徴とする請求項4に記載の有機発光表示装置。
【請求項6】
前記複数の有機化合物層は、前記発光層と前記陰極の間に形成された電子輸送層を含み、
駆動による輝度の低下が相対的に大きい有機発光素子では、電子輸送層の厚みが相対的に厚くなるように調節し、
駆動による輝度の低下が相対的に小さい有機発光素子では、電子輸送層の厚みが相対的に薄くなるように調節することを特徴とする請求項2に記載の表示装置。
【請求項7】
前記複数の発光色は、赤色、緑色、青色を含み、
前記有機発光素子の駆動による輝度の低下が相対的に大きい素子は、青色発光の有機発光素子であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の有機発光表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−16023(P2010−16023A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−171989(P2008−171989)
【出願日】平成20年7月1日(2008.7.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】