説明

有機粘土を剥離してナノ複合体を製造する方法

熱可塑性ポリマー(TPO)及び剥離した有機粘土を含むナノ複合体は、剥離剤が有機粘土を剥離するように、少なくとも1種の溶融したTPOポリマーを、少なくとも1種の有機粘土及びH−TEMPO又はH−TEMPOのアミン前駆体のうちの少なくとも1種の剥離剤を剥離条件の下で接触させることを含む方法によって調製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2008年6月30日出願の米国特許出願第61/076,914号に対する優先権を主張し、全内容が参照により、本出願に組み込まれている。
【0002】
本発明は、熱可塑性ポリマー、特に熱可塑性オレフィン(TPO)ポリマー用の充填剤に関する。1つの態様では、本発明は多層ケイ酸塩充填剤、特に有機粘土に関し、別の態様では、本発明は充填剤をポリマーと混合する際に、ケイ酸塩充填剤を層間剥離する方法に関する。さらに別の態様では、本発明はTPOポリマー及び層間剥離したケイ酸塩充填剤を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
熱可塑性ポリマー、とりわけ、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/プロピレン/ジエンモノマー(EPDM)ゴムなどのTPOポリマーが、多種多様な用途に特によく適している。しかしながら、種々のエンジニアリングプラスチック、たとえばナイロン、ポリスルホン、ポリカーボネートなどに比べて剛性及び靱性特性が低いため、熱可塑性ポリマーは、一般に1種又は複数の充填剤と混合してこれらの特性を向上させている。平面形態、すなわち、アスペクト比が比較的高い充填剤は、非平面形態、すなわち、アスペクト比が低い充填剤よりもTPOポリマーに良好な剛性及び靱性を与える傾向がある。一般的な平面充填剤は、有機粘土及びタルクであり、一般的な非平面充填剤はガラスビーズである。
【0004】
平面充填剤の形態は、各カードが充填剤の1つの平面体を表しているカード1組(a deck)になぞらえることができる。充填剤たとえば有機粘土の平面体又は層は、平面体間に位置する交換可能な陽イオンとのイオン結合により互いに保持されている。カード又は平面体を互いから引き離すこと、すなわち、層間剥離することができる場合、その1組又は充填剤は混合する任意のもの、たとえばTPOポリマーとの混和が改善されよう。平面体は、通常、天然の陽イオンをより大きな原子又は分子と交換することによって互いに引き離され、平面体間に導入された間隔が大きいほどよく混和される。この平面体間の間隔が、互いに滑ることなく有意な程度にまで増加する(1組のカード間のスペースは拡大する(膨潤する)が、その1組は全体的な形状を保持している)と、充填剤は層間挿入される。この間隔が平面体同士が滑る程度にまで増加する(1組のカードはもはや上下に配置されるのではなく、散在しているがある程度の重なりを保っており、したがって「カード1組」は低くなるが、はるかに広く及び/又は長くなる)と、充填剤は、剥離される。剥離した充填剤は通常、「剥離した」平面体及び層間挿入平面体の混和物であり、たとえば「散在した」平面体の幾つかは、「低い」カード数組の膨潤平面体である。
【0005】
平面充填剤でTPOポリマーの剛性及び/又は靱性が増大させることに関しては、理想的には充填剤を、充填剤の平面体が単層になる、すなわち、1組のカードで上下に存在するものがなくなる程度まで、剥離することである。TPOポリマーは無極性であり、すべてではないにしても、多くの平面充填剤、特に有機粘土は極性であるので、TPOポリマーの存在下に充填剤を剥離すること、すなわち、剥離していない有機粘土及びTPOポリマーが互いに混合接触している条件の下で剥離することにより、充填剤の個々の層とポリマーを完全にすなわち均一に混和することを達成するのは、非常に困難である。現在までの努力は、満足な成功を収めてはいない。
【0006】
モンモリロナイトは、有機粘土、多層ケイ酸塩である。天然状態において、その層同士は、層間に位置する交換可能な陽イオンとのイオン結合により互いに保持されている。Macromolecules、1997、6333〜6338ページでカワスミらが論じたように、このようなケイ酸塩を軟化又は溶融したポリプロピレンと混合すると、ポリプロピレンが比較的非極性ポリマーであるので、陽イオンが第4級アンモニウムイオンである場合でさえ、生じるせん断力はケイ酸塩層を層間剥離するすなわち剥離するのに十分ではない。
【0007】
ウスキらは、USP5,973,053で、関連性はあるが異なる2つのアプローチを使用してこの課題を解決した。第1のアプローチ(カワスミらによっても記述されている)は、第4級アンモニウムで交換した多層ケイ酸塩を無水マレイン酸改質ポリプロピレンオリゴマーと混合した後、未改質ポリプロピレンポリマーを加えるものであった。無水マレイン酸改質ポリプロピレンオリゴマーは、混合工程のせん断条件の下で、ケイ酸塩を剥離するのに十分な極性を有していた。
【0008】
ウスキらの第2のアプローチは、第4級アンモニウムで交換した多層ケイ酸塩を無水マレイン酸改質ポリプロピレンポリマーと混合することであった。無水マレイン酸改質ポリプロピレンポリマーは、混合工程のせん断条件の下で、ケイ酸塩を剥離するのに十分な極性を有していた。
【0009】
ウスキらは、無水マレイン酸改質ポリプロピレンオリゴマーを使用しない場合、無水マレイン酸改質ポリプロピレンポリマーの平均分子量を約100,000に制限すべきであると指摘した。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施形態では、本発明はTPOポリマー及び剥離した有機粘土を含むナノ複合体を製造する方法であるが、この方法は、剥離剤が有機粘土を剥離するように、少なくとも1種の溶融したTPOポリマーを、少なくとも1種の有機粘土及びH−TEMPO又はH−TEMPOのアミン前駆体のうちの少なくとも1種の剥離剤と剥離条件の下で接触させることを含む。
【0011】
別の実施形態では、本発明はTPOポリマー、剥離した有機粘土、及びH−TEMPO又はH−TEMPOのアミン前駆体のうちの少なくとも1種を含むマスターバッチである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1において使用した剥離した有機粘土(Cloisite(登録商標)15A)の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
米国特許実務のために、参照されるどのような特許、特許出願又は刊行物の内容も、その全体が参照により組み込まれるものとする(又は、その相当する米国版が、同じように参照により組み込まれる)。特に、合成技術の開示、定義、及び当分野における一般知識に関して(本開示において具体的に示されるどのような定義とも矛盾しない程度に)、参照により組み込まれる。
【0014】
本開示の数値範囲は、おおよそであり、他に指示がない限り範囲の外側の値を含んでもよい。数値範囲は1単位の刻みで、下方値及び上方値を含めてそこからすべての値を含む。ただし、任意の低い値と任意の高い値の間に少なくとも2単位の間隔があることを条件とする。例として、たとえば分子量、添加剤含量などの組成特性、物理特性又は他の特性が、100から1,000までである場合、100、101、102などのすべての個別の値、及び100〜144、155〜170、197〜200などの部分範囲がはっきりと列挙されることを意図している。1未満の値を含む範囲、又は1を超える分数(たとえば1.1、1.5など)を含む範囲については、1単位は、適宜、0.0001、0.001、0.01又は0.1であるとみなされる。10未満の1桁の数字(たとえば1〜5)を含む範囲については、1単位は、通常0.1であるとみなされる。これらは具体的に意図している例に過ぎず、列挙した最低値と最高値の間のすべての数値の可能な組み合わせが、本開示において明確に記されているとみなすべきである。とりわけ組成物の成分含量については、数値範囲を本開示内に示す。
【0015】
「混合物」及び類似の用語は、2種以上の化合物、通常2種以上のポリマーの組成物を意味する。このような混合物は混和していてもよく、そうでなくともよい。このような混合物は相分離していてもよく、そうでなくともよい。透過電子分光法、光散乱、X線散乱、又は当分野で公知の任意の他の方法から決定されたこのような混合物は1個又は複数のドメイン構造を含んでもよく、そうでなくともよい。本発明に関しては、混合物は2種以上の熱可塑性ポリマー(すべて未溶融、1種、2種又はそれより多種溶融)又は熱可塑性ポリマー(溶融するしないにかかわらず)及び有機粘土(剥離するしないにかかわらず)を含む。
【0016】
「組成物」及び類似の用語は、2種以上の成分の混和物又は混合物を意味するものとする。本発明の1つの組成物は、熱可塑性ポリマー、剥離していない有機粘土及びH−TEMPOを含む混和物であり、本発明の別の組成物は、TPOポリマー及び剥離した有機粘土を含む混和物である。
【0017】
「混合接触」及び類似の用語は、混和押出し機内で、その運転中に、2種のポリマー間又はポリマーと充填剤間の接触など成分が互いに密着している混合物又は組成物の2種以上の成分を意味するものとする。
【0018】
「剥離した有機粘土」及び類似の用語は、層間剥離した有機粘土、すなわち、その構成層が、天然の状態に対して、一部の重なり以外互いに引き離された有機粘土を意味するものとする。剥離した有機粘土は、本発明に関しては、層間挿入した有機粘土を含む。
【0019】
「剥離剤」及び類似の用語は、剥離条件の下で、TPOポリマーの存在下に有機粘土を層間剥離することができるH−TEMPO又はH−TEMPOのアミン前駆体を意味するものとする。
【0020】
「剥離条件」及び類似の用語は、H−TEMPO又はH−TEMPOのアミン前駆体が溶融したTPOポリマーの存在下に、有機粘土を層間剥離するために必要な温度、圧力、せん断、接触時間及び他のパラメータを意味するものとする。
【0021】
「ナノ複合体」及び類似の用語は、層間挿入した有機粘土又は剥離した有機粘土を含む組成物を意味するものとする。通常は、分子スケールで有機粘土の層又は平面体は、電子顕微鏡で測定した場合、約6層を超えない厚みである。ナノ複合体としては、マスターバッチ及び完全に配合した組成物を挙げることができる。
【0022】
「マスターバッチ」及び類似の用語は、他の組成物への添加及び他の組成物での希釈を目的とした1成分の濃厚量を含む中間組成物又は前駆体組成物を意味するものとする。本発明に関しては、マスターバッチとは、有機粘土を別のポリマーに導入するために、剥離するしないにかかわらず、ポリマー中に担持された有機粘土の過剰量を含む組成物である。マスターバッチ中の有機粘土の量は、通常、別のポリマーにマスターバッチを添加すると、得られる組成物が、有機粘土のより低いが望ましい濃度を含むような量である。マスターバッチのポリマー及びマスターバッチを添加する組成物のポリマーは、通常は同一である。
【0023】
本発明の方法は、任意の適切な熱可塑性のポリマー樹脂又はポリマー樹脂混合物及び剥離した有機粘土のナノ複合体を製造するために用いることができる。適切な熱可塑性ポリマー樹脂としては、たとえば、ポリエチレン又はポリプロピレンのホモポリマー及びコポリマーなどのポリオレフィン、エチレン/酢酸ビニル(EVA)コポリマー又は別名エチレンプロピレンゴム(EPR)のエチレン−プロピレンエラストマー、エチレン−プロピレン・ジエンモノマー(EPDM)から製造されたターポリマーエラストマー、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリシロキサンなどを挙げることができる。有機粘土は、極性の官能基を備えたポリマー、たとえばEVA、PVCなどの存在下よりも、極性の官能基の無いポリマー、たとえばポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、EPR、EPDMなどの存在下のほうが、より良好に剥離する。
【0024】
好ましい実施形態では、この方法はTPOエラストマー、特にEPDMからナノ複合体を製造するために用いられる。EPDM内では有機粘土の剥離を成し遂げるのは困難である。一般に、EPDMゴム内の有機粘土を剥離するためには無水マレイン酸コポリマーが必要である。したがって、本発明は予想外の極めて望ましいものである。
【0025】
別の好ましい実施形態では、本発明の方法は、TPO樹脂及び有機粘土のナノ複合体を製造するために用いられる。この実施形態の一変法において、TPO樹脂は、ポリオレフィン(中密度又は低密度ポリエチレン又はポリプロピレンなど)及び熱可塑性エラストマー(EPDM又は超低密度ポリエチレンなど)の混合物であり、通常は機械的な(反応装置内とは違う)混合物である。ポリプロピレン系TPO製品の低温衝撃靱性が比較的劣るので、低温でポリプロピレン系TPO製品を使用することには制限がある。このため、ポリプロピレンは通常エラストマー及び/又は充填剤と混合して仕上げ品に耐低温衝撃性を与える。
【0026】
本発明の実施において使用する有機粘土(親有機性粘土ともいう)は、一般に有機ポリケイ酸塩である。イオン交換機構により天然粘土と有機カチオンを反応させて有機粘土を作製する。天然粘土と同様のラメラ構造を維持したまま、有機カチオンは粘土の天然の中間層陽イオンと交換して親有機性の表面を生成する。通常は、有機カチオンは第4級アンモニウム化合物である。有機粘土の一般例としては、有機構造体が化学的に結合したカオリン又はモンモリロナイトなどの粘土を挙げることができる。本発明で使用する有機粘土は、第4級アンモニウム化合物が過剰であってもよい。有機粘土の製造の詳細は、USP5,780,376に見いだすことができる。有機粘土は、Southern Clay Products,Inc.から入手できる、第4級アンモニウム塩で改質された天然モンモリロナイト粘土のCLOISITE(登録商標)系列など、市販もされている。
【0027】
有機粘土は、組成物たとえばポリマー、有機粘土及び任意の添加剤の総重量の最高25重量パーセント(wt%)まで含むことができる。幾つかの実施形態では、有機粘土の量は、組成物の総重量に基づいて2から6重量%までの範囲である。他の実施形態では、有機粘土の量は、組成物の総重量に基づいて約1%未満、好ましくは0.125から0.25重量%までの範囲である。
【0028】
剥離剤は、H−TEMPO又はH−TEMPOのアミン前駆体であり、H−TEMPOは(I)の化学構造式を有する:
【0029】
【化1】

H−TEMPOのアミン前駆体は、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンである。
【0030】
本発明の実施において使用する剥離剤の量は、所望する剥離の程度に大きく依存している。たとえば、H−TEMPOの5重量%は、有機粘土の少なくとも5重量%を剥離するのに適しており、この場合すべての重量%は組成物の総重量に基づく。
【0031】
この組成物は、難燃剤、並びに炭酸カルシウム、ガラス繊維及び/又はガラスビーズ、大理石ダスト、セメントダスト、長石、シリカ又はガラス、フュームドシリカ、ケイ酸塩、アルミナ、種々のリン化合物、臭化アンモニウム、三酸化アンチモン、三酸化アンチモン、酸化亜鉛、ホウ酸亜鉛、硫酸バリウム、シリコーン、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、酸化チタン、ガラスミクロスフェア、白墨、雲母、粘土、ケイ灰石、オクタモリブデン酸アンモニウム、膨張性化合物、膨張黒鉛、並びにこれらの化合物のうちの2種以上の混合物を含む他の充填剤(形態が平面であるか否かにかかわらず)も含むことができる。充填剤は、シラン、脂肪酸などの様々な表面コーティング又は処理物を含むことができる。塩素化パラフィンなどのハロゲン化炭化水素、ペンタブロモトルエン、デカブロモジフェニルオキサイド、デカブロモジフェニルエタン、エチレン−ビス(テトラブロモフタルイミド)などのハロゲン化芳香族化合物、及び他のハロゲン含有難燃剤を含むハロゲン化有機化合物も使用することができる。これらの他の充填剤は通常、仮に使用する場合、この技術分野では公知で従来と同じ方法及び量、たとえば、組成物の重量に基づいて2〜80、好ましくは5〜70重量%で使用される。1種又は複数のこれらの他の充填剤を本発明の実施において使用する場合、熱可塑性樹脂の存在下に有機粘土を剥離したあとに、充填剤を添加することができる。
【0032】
組成物は、抗酸化剤(たとえば、IRGANOX(商標)1010などのヒンダードフェノール及びIRGAFOS(商標)168などの亜リン酸エステル、両者ともCiba Specialty Chemicalsから入手可能)、紫外線安定剤、粘着剤、光安定剤(ヒンダードアミンなど)、可塑剤(ジオクチルフタレート、又はエポキシ化大豆油など)、熱安定剤、離型剤、粘着付与剤(炭化水素粘着付与剤など)、ワックス(ポリエチレンワックスなど)、加工助剤(油、ステアリン酸などの有機酸、有機酸の金属塩など)、架橋剤(過酸化物又はシランなど)、並びに着色剤及び顔料を含むが、それだけには限らない他の添加剤を含むことができる。ありとあらゆるこれらの他の添加剤を、この組成物の所望する物理的又は機械的特性を、妨げない程度まで、使用することができる。
【0033】
有機粘土を、十分に分散して混和する任意の方法によって、熱可塑性ポリマーと混合することができる。通常は、有機粘土を溶融ミキサー、押出し機又は類似した機器において樹脂と溶融混和する。あらゆる種類の添加剤とポリマーを溶融混合する技術は、この分野では公知であり、一般に本発明の実施において使用される。通常は、本発明の実施において有用な溶融混合運転に際して、ポリマー溶融物を形成するのに十分な温度にまで熱可塑性ポリマーを加熱し、次いで押出し機、バンバリーミキサー、ブラベンダーミキサー又は連続ミキサーなどの適切なミキサーの中で有機粘土の所望量と組み合わせる。複合体は、ポリマーの融点以上の温度で、剥離剤を溶融状態のポリマー及び有機粘土に添加し、機械的せん断によって成分を混和して調製することができる。せん断は、押出し機(1軸又は2軸)の一端にポリマー溶融物を投入し、この押出し機の他端でせん断されたポリマーを受けることによって達成することができる。押出し機内の溶融物の温度、溶融物の滞留時間、及び押出し機(1軸、2軸、単位長あたりのフライト数、ねじ溝の深さ、フライトクリアランス、混合領域など)の設計は、それによる制御によってせん断の量が付加される幾つかの変数である。
【0034】
あるいは、ポリマーを最初に粒状化して有機粘土と乾式混和し、次いでこの乾式混和物をポリマーが溶融して流動可能な混和物を形成するまで、ミキサー内で加熱してもよい。剥離剤を、次いでこの流動可能な混和物に添加する。剥離剤を有するこの流動可能な混和物に、次いでミキサー内で所望の組成物を形成するのに十分なせん断をかけてもよい。ポリマーは、有機粘土及び剥離剤の添加に先立ち、ミキサー内で加熱して流動可能な混和物を形成してもよい。有機粘土、ニトロキシド化合物及びポリマー樹脂に、次いで所望の組成物を形成するのに十分なせん断をかける。
【0035】
剥離した有機粘土は、広範囲に剛性及び靱性を向上させることができ、ポリマーのバリア特性を改善することができる。剥離した有機粘土は、要求の厳しい用途においてポリオレフィンが一部のエンジニアリングプラスチックに置き換わることを可能にする。本発明のTPOナノ複合体又はEPDMナノ複合体は、たとえば、自動車、器具、事務機器又は工事用品のパーツなどの製品を作製するために使用することができる。この与えられたバリア性により、ポリオレフィン並びに他の油及び潤滑油に敏感なポリマーを、「ボンネット下の」用途及び関連した自動車用途向けに加工することができる。さらに、剥離した有機粘土は、基板、衣類、電線・ケーブルの被覆、コンピュータハウジング、並びに自動車の内装及び外装部品に及ぶ幅広い最終用途向けの有機粘土の難燃効率を改善することができる。ほかの用途には、1つ又は複数の準備ステップ、たとえば下塗り剤、エッチングなどの適用を必要としないポリオレフィン及び他の無極性プラスチックの塗装適性の改善、及び有機発光ダイオードの効率の向上を挙げることができる。さらに、剥離した粘土の添加によって、種々のポリマーに対して核剤の効率を改善できると同様に、非オレフィン系ポリマーの上方使用温度を改善でき、ひいては光学的透明度、荷重たわみ温度、導電率、剛性などを改善することができる。
【0036】
以下の実施例は、本発明を例示するが、これに限定されるものではない。比率、部、及びパーセントは、別に明記しない限り重量による。
具体的な実施形態
[実施例1〜2及び比較例A〜D]
【0037】
EPDMのNORDEL(登録商標)3722はエチレン/プロピレン/ジエン低結晶性ゴムである。ASTM D−1646による125℃でのNORDELのムーニー粘度は約18である。NORDELは、約71重量パーセントのエチレン及び約0.5重量パーセントのエチリデンノルボルネンである。H−TEMPO及びCLOISITE(登録商標)有機粘土を含む実施例1〜2のそれぞれの組成物を製造する熱可塑性ポリマーとして、NORDELを使用する。CLOISITE A及びBは、粘土内部のナトリウムイオンを脂肪族アンモニウムイオンとイオン交換することによって、モンモリロナイトから作製される。CLOISITE 30は窒素上に1個の脂肪族成分を含み、15Aは窒素上に2個の脂肪族基を有する。CLOISITE Na+は、天然の粘土(すなわち、イオン交換されてない)である。同じEPDMを、比較例A〜Dを製造するために使用する。実施例及び比較例用に、EPDMポリマーを80〜110℃でブラベンダー内で流動化させ、粘土(又はシリカ)を添加し、適用可能な場合、H−TEMPOを添加する。厚さ約80ミルのプラークにフィルムを加圧成形し、ドッグボーン(dog bone)(1インチのゲージ長さ)を切り出して、インストロン引張試験機上で2インチ/mmで測定する。組成物及び弾性率の結果を、表1に記す。
【0038】
【表1】

【0039】
実施例1及び2は、比較例に比べて弾性率が改善されている。実施例1(5%のCloisite 15A及び5%のH−TEMPOを含有)の組成物の弾性率は、CE−D(Nordell 3722未希釈)の組成物の弾性率の2倍である。実施例1及び2は、H−TEMPOと有機粘土の両方を含まない種々の対照よりも高い弾性率を示す。CLOISITE Aは、2個の脂肪族基で置換したものであるが、最も高い弾性率を示す。
【0040】
図の電子顕微鏡写真は、実施例1のCloisite 15Aが剥離していることを示す。
[実施例3〜4及び比較例E]
【0041】
実施例3〜4及び比較例Eの組成物は、表1において記した組成物と同じ材料により、同じ方法で調製する。組成物の体積抵抗率を検査する。この値が高いと良好な絶縁材であることを意味する電気絶縁特性である。組成物及び体積抵抗率の結果を、表2に記す。
【0042】
【表2】

【0043】
H−TEMPO及び有機粘土を添加すると、他の物を混ぜ合わせていない架橋NORDELゴムと比較して、10倍までの高い抵抗率を示す。高抵抗率、低導電率であることは、電気絶縁特性が粘土及びH−TEMPOによる改質によって向上することを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TPOポリマー及び剥離した有機粘土を含むナノ複合体を製造する方法であって、剥離剤が有機粘土を剥離するように、少なくとも1種の溶融したTPOポリマーを、少なくとも1種の有機粘土及びH−TEMPO又はH−TEMPOのアミン前駆体のうちの少なくとも1種の剥離剤と剥離条件の下で接触させることを含む方法。
【請求項2】
有機粘土を溶融したポリマー樹脂と混和して、有機粘土を溶融したポリマー樹脂内に分散させ、溶融した樹脂/有機粘土混合物を得るステップと、
溶融した樹脂/有機粘土混合物に剥離剤を加えるステップと、及び
溶融したポリマー樹脂/有機粘土混合物と剥離剤を混和するステップとをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ポリマー樹脂が、ポリオレフィン、エチレン/酢酸ビニル(EVA)コポリマー、エチレン−プロピレンエラストマー、エチレン−プロピレン・ジエンモノマー(EPDM)から作製したターポリマーエラストマー又はポリ塩化ビニル(PVC)の少なくとも1種を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ポリオレフィンが、ポリエチレン又はポリプロピレンのホモポリマー及びコポリマーを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ポリマー樹脂がEPDMを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
有機粘土が、ナノ複合体の総重量に基づいて25重量%までの量で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
有機粘土が、ナノ複合体の総重量に基づいて2から6重量%までの量で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
有機粘土が、ナノ複合体の総重量に基づいて1重量%未満の量で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
有機粘土が、ナノ複合体の総重量に基づいて0.125から0.25重量%までの量で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
TPOポリマー、剥離した有機粘土、及びH−TEMPO又はH−TEMPOのアミン前駆体のうちの少なくとも1種を含むマスターバッチ。

【図1】
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【公表番号】特表2011−526875(P2011−526875A)
【公表日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516463(P2011−516463)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際出願番号】PCT/US2009/047749
【国際公開番号】WO2010/002598
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(591123001)ユニオン カーバイド ケミカルズ アンド プラスティックス テクノロジー エルエルシー (85)
【Fターム(参考)】