説明

有機系キレート剤を主剤とした洗浄剤組成物

【課題】人体への安全性や環境負荷低減の観点から疑問がある界面活性剤を使用することのない洗浄剤を提供する。
【解決手段】有機系キレート剤を洗浄作用主剤とし、界面活性剤を含有しない洗浄剤であって、水溶液にしたときに、該キレート剤の含有率が0.01重量%から50重量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機系キレート剤を洗浄作用主剤とする洗浄剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
実質的に界面活性剤を使用することのない洗浄剤組成物であって、従来の界面活性剤を洗濯作用主剤とした合成洗剤と同等もしくはそれ以上の洗濯性能及び使い勝手を有する、アルカリ緩衝剤を洗濯作用主剤とする洗浄剤組成物及びそれを用いた洗濯方法がある(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特許第3481615号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、人体への安全性や環境負荷低減の観点から疑問がある界面活性剤を使用することのない洗浄剤であって、従来の界面活性剤を洗浄作用主剤とした合成洗剤と同等以上の洗浄性能、使い勝手が得られる、有機系キレート剤を洗浄作用主剤とする洗浄剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の洗浄剤組成物は、有機系キレート剤を洗浄作用主剤とし、界面活性剤を含有しない洗浄剤であって、水溶液にしたときに、該キレート剤の含有率が0.01重量%から50重量%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、合成洗剤と同等以上の高い洗浄性能と使い勝手を備えた、有機系キレート剤を洗浄主剤とする洗浄剤を提供することができる。また、本発明にかかる洗浄剤によれば、不潔を嫌う清潔志向と、洗剤成分の被洗物への残留を嫌う健康志向との、一見矛盾する現代日本の消費者ニーズの両者を、きわめて高い水準で充足することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
まず、洗浄のメカニズムについて説明すると、基質(被洗物)と汚れを引き付ける力は分子間力を含めてそのほとんどが弱い静電気力によるものである。そこで、この引き付け合う力を弱めて、物理的な力により汚れを基質から剥離させ、洗浄液中に分散させてやれば汚れを除去できる。
【0008】
物理的な力とは、たとえば、トイレ、浴室、台所周り、床など拭き掃除が中心となる場面では、主に人的な力を、衣類の洗浄において洗濯機を使用するような場面では、主にその機械力などを意味する。また洗浄液とはふき取り布に含水されたものをも含む概念である。
【0009】
しかし、洗浄剤水溶液中のカルシウムイオン、マグネシウムイオンをはじめとする多価陽イオン(硬度成分)は洗浄剤水溶液中において、表面が負に帯電した基質と汚れの双方に橋渡しをする(いわゆる多価陽イオンブリッジ)かたちで両者を引き付けるため、汚れの基質からの剥離を阻害する。
【0010】
本発明者らはこの点に着目し、洗浄剤水溶液中における硬度成分の無効化を高い水準で達成することが、被洗物の洗浄性能を高める上できわめて重要な要素であると考えるに至った。
【0011】
そうした考え方に沿って鋭意開発を進めているなかで、本発明者らは、洗浄剤水溶液中の硬度成分は単に洗浄用水中に含まれているもののみならず、被洗物や汚れに付着しているものも洗浄の過程で洗浄剤水溶液中に溶出してきており、それら全てを含めた硬度成分が洗浄力の阻害要因となっている実態を知った。
【0012】
これら硬度成分を主に有機系キレート剤をもって阻害しさえすれば、物理的な力を加えることにより汚れを剥離させる事が出来る。また、カルシウム塩など硬度成分を含んだ汚れを、有機系キレート剤が分解除去するという洗浄作用と、さらに分散剤による汚れの再付着防止効果を付加することにより多くの洗浄場面で必要とされ猶余りある充分な洗浄力を有する洗浄剤を提供できることを知った。
【0013】
《有機系キレート剤》
本発明において最重要成分として位置づけられる有機系キレート剤は、洗浄剤水溶液中の多価陽イオン(硬度成分)と化学結合し金属イオン錯体を形成することで洗浄剤水溶液中の硬度成分を無効化するというメカニズム、およびカルシウム塩など硬度成分を含んだ汚れを分解除去するというメカニズムを通じて、本発明において洗浄作用主剤としての役割を担うものであり、a) キレート化速度が速いこと、b) キレート処理能力が高いこと、c) キレート効果が安定していること、d) 安全性が高いこと、e) 生分解性が良好なこと、f) 溶解性が良好なこと、の諸条件を満足するものが好適に用いられる。
【0014】
ここで、本発明に係る有機系キレート剤として使用可能な物質を例示すると、シュウ酸(OA: oxalic acid)、クエン酸(CA:citric acid)、酒石酸(TA: tartaric acid)、グルコン酸(GA: gluconic acid)などの有機カルボン酸及び有機カルボン酸のナトリウム塩、ジヒドロキシエチルグリシン(DEG: N-(2-hydroxylethyl) glycine)、トリエタノールアミン(TEA: triethanolamine)、N-(2-ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸(HEIDA: N-(2-hydroxyethyl) iminodiacetic acid)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン四酢酸(HEDTA:N-(hydroxyethyl)ethylenediamine tetraacetic acid)などのナトリウム塩であるヒドロキシアミノカルボン酸系キレート剤、カルボキシメチルタルトロン酸(CMT: O-carboxymethyltartronic acid)、カルボキシメチルオキシコハク酸(CMOS: O-carboxymethloxysuccinic acid)などのナトリウム塩であるエーテルカルボン酸系キレート剤、ポリアクリル酸とアクリル酸/マレイン酸共重合体(コポリマー)などのナトリウム塩であるビニル型高分子電解質系キレート剤、並びに、NTA (ニトリロ三酢酸:Nitrilo Triacetic Acid )、DTPA (ジエチレントリアミン五酢酸:Diethylene Triamine Pentaacetic Acid )、HEDTA (ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸:Hydroxyethyl Ethylene Diamine Triacetic Acid ) 、EDTA (エチレンジアミン四酢酸:Ethylene Diamine Tetraacetic Acid )、MGDA (メチルグリシン二酢酸:MethylGlycineDiacetic Acid ) 、GLDA(Lグルタミン酸二酢酸:Dicarboxymethyle Glutamic Acid)、ASDA(アスパラギン酸二酢酸:Aspartate Diacetic Acid)、EDDS(エチレンジアミンコハク酸:Ethylenediamine Disuccinic Acid)、HIDS(ヒドロキシコハク酸:Hydroxye Iminodisuccinic Acid)、IDS(イミノジコハク酸:Iminodisuccinic Acid)等のナトリウム塩であるカルボン酸系キレート剤が好適に用いられる。なかでも、生分解性が良好な、MGDA、GLDA、ASDA、EDDS、HIDS、IDS等が、環境負荷低減の面から好ましい。
【0015】
なお、本発明でいう有機系キレート剤とは、上述したような有機系キレート剤を単独で使用する態様、並びに、複数の有機系キレート剤を組み合わせて使用する態様の両者を包括する概念である。
【0016】
本発明に用いて好適な有機系キレート剤を洗浄性能の側面から選択する際の定量的条件としては、用途に応じたpH範囲において最大カルシウム錯化能が大きい物ほど使用量の削減の観点から好ましい。
【0017】
《分散剤》
分散剤は基質から剥離した汚れを洗浄液中に取り込み再付着を防止する上で重要であるが、さらに表面張力低下効果のある水溶性高分子を用いることで、撥水作用のある金属石鹸(石鹸カス)や油性の汚れに対してキレート剤を効果的に作用させることができる。
【0018】
本発明に係る分散剤として使用可能な物質を例示すると、一般的な分散剤として、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子物質が挙げられる。さらに表面張力低下作用がある分散剤として、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、部分鹸化ポリビニルアルコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース等の非イオン性水溶性高分子物質が挙げられる。
【0019】
《増粘剤》
増粘剤は液ダレを押さえ、できるだけ長く洗浄剤を被洗物に留まらせ、洗浄剤成分の効果を十分発揮させるために重要である。
【0020】
分散剤の項で述べた水溶性高分子も粘度増加作用を持つので、一剤で分散剤と増粘剤二つの効果を期待できる。粘度増加作用を主体とする場合は分子量が高めのものを使用すれば、少ない量でより粘度を増加できるため、使用量削減の観点から好ましい。
【0021】
また無機系増粘剤を使用することで、有機系増粘剤では得られない粘性を持たせることが出来、有機物使用量の低減効果も期待できる。
【0022】
無機系増粘剤としてはケイ酸アルミニウムマグネシウム、合成ヘクトライト、ベントナイト(Na-モンモリロナイト)、合成スメクタイト、セピオライトなどが挙げられる。
【0023】
《pH調整剤》
本発明に係る洗浄剤は、用途に応じた適宜なpHをとることができる。たとえば、尿石の除去を目的としたトイレ掃除用途には、尿石を酸で溶かし、溶出した汚れのカルシウム塩等硬度成分をキレートすることを意図した酸性領域の洗浄剤を設計することができる。
【0024】
また、皮膚接触に際する安全性を考慮した、もしくは動物性繊維製衣類の洗濯用途を想定した、中性領域の洗浄剤を設計することもできる。
【0025】
あるいは、換気扇、窓、床などの洗浄用途に、油脂、たんぱく質汚れ等の洗浄を特に意図したアルカリ性領域の洗浄剤を設計することもできる。
【0026】
ここで上述の各液性領域への特定の用途や汚れの対応関係は、あくまで一例に過ぎず、それぞれの液性領域へそれぞれの用途や汚れを対応させ得ることは言うまでもない。
【0027】
pHの調整において、液性を下げたい場合には、たとえばクエン酸やりんご酸などの有機酸、または塩酸などの無機酸をpH調整剤として使用することができるが、特に有機酸はキレート効果がありより好ましい。液性を上げたい場合には、炭酸ナトリウムや炭酸カリウム、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムをpH調整剤として使用することができる。pH緩衝作用を高める目的で重炭酸塩などを加えても良い。
【0028】
なお、有機系キレート剤の選択には、用途に応じたpH範囲内で最もキレート能が高く安定度の高い有機系キレート剤を選択すればよいが、こうしたpH調整剤と組み合わせることで、たとえば、有機系アルカリキレート剤を酸〜中性領域で使用するというように、有機系キレート剤自体の液性に縛られることなく、適宜な有機系キレート剤を選択することもできる。
【0029】
《洗浄剤組成並びに使用濃度の考え方》
上述した洗浄剤を市場に提案する際において、その洗浄剤組成並びに標準使用量をどのように設定すべきかが問題となる。
【0030】
まず汚れや被洗物の量に対して最も洗浄液の量が多い洗濯の場合を例示する。
【0031】
被洗物を洗浄する際に適切な洗浄剤組成並びに使用量は、洗浄用水の硬度により大きく左右されるため、洗浄剤組成並びに使用量を各国毎に異ならせる必要がある。例えば、日本国では通常70ppm付近であるのに対し、米国では110ppm以上、欧州では180ppmを越える高硬度の水を洗浄用水として使用しているのが実情である。そうすると、洗浄用水の硬度に応じて、有機系キレート剤の必要量が変化してゆくとともに、標準使用量も加減する必要がある。
【0032】
そこで、本発明では、例えば、A)低硬度で硬度範囲の小さい地域(0〜120ppm程度)と、B)高硬度で硬度範囲の大きい地域(120〜350ppm超)に分けて、洗浄剤組成並びに標準使用量を各地域別に設定することで、洗浄用水の硬度変化による洗浄事情の相違に起因した上記の問題を吸収することとした。
【0033】
前者のA地域の場合には、硬度:90ppmの日本標準洗浄用水を用いて洗浄剤組成並びに標準使用量を設定し、ごく限られた高硬度地域においては使用量を適宜増やすことで対応すればよい。
【0034】
後者のB地域の場合には、欧州における硬度分類のタイプII(125−250ppm)を想定し、硬度:250ppmの欧州標準洗浄用水を用いて洗浄剤組成並びに標準使用量を設定するとともに、使用地域での硬度分類及び汚れの程度に応じて使用量を適宜増減させることで対応すればよい。
【0035】
具体的には、例えばキレート能(最大カルシウム錯化能)が200mg/gのキレート剤を配合しようとする場合には、日本標準洗浄用水(硬度:90ppm)では、下記計算式より、キレート剤の最低必要量は0.45g/Lとなる。
【0036】
洗浄用水の硬度/使用する有機系キレート剤のキレート能(最大カルシウム捕捉能)=90/200=0.45g/L
先に例示したキレート能はpH11.0時の数値であり、中性範囲の液性で使用する場合はキレート能の低下分を補正しなければならない。弱アルカリ範囲の洗濯に比べおよそ2倍程度の使用濃度が推奨される。
【0037】
本発明に係る洗浄剤のうち分散剤の使用濃度は、洗浄用水の硬度によらず、0.001重量%から0.05重量%である。
【0038】
一方、欧州標準洗浄用水(硬度:250ppm)の使用を想定した場合に、例えばキレート能(最大カルシウム錯化能)が200mg/gのキレート剤を配合しようとする場合には、キレート剤の最低必要量(濃度)は1.25g/Lとなる。
【0039】
先の述べたとおり中性範囲で設定する場合は2倍程度のキレート剤濃度とすべきである。
【0040】
なお、本発明の必須構成成分の他に、例えば洗浄用酵素、酸素系漂白剤、殺菌剤、香料、起泡剤などの添加剤を加える場合には、加えた添加剤の分だけ使用量を増やせばよい。
【0041】
前述した洗濯の場合を除くと、ほとんどの場合、被洗物に付着した汚れの周辺に洗浄剤を散布し、ブラシや拭き取り布で汚れを擦り取る、あるいは拭き取り布に洗浄剤を含侵させて拭き取る方法となるため、洗浄剤水溶液の使用量は少ないが、汚れや被洗物周辺の洗浄液に含まれるキレート剤や分散剤の必要濃度は基本的に同じと考えられる。ただし、トイレの便器や浴室の洗浄の場合など、洗浄剤以外の水が存在するときは、その水に含まれる多価陽イオンによりキレート剤が消費されたり、キレート剤や分散剤が希釈されたりする結果となるため、それを考慮した高めの濃度設定が必要となる。洗浄剤を実使用濃度水溶液にしたとき、洗浄作用主剤であるキレート剤の最小含有率は0.01重量%、分散剤の最小含有率は0.001重量%である。また濃縮洗浄液として使用の都度希釈する場合、濃度は洗浄作用主剤であるキレート剤の溶解度に依存するが、必要最低濃度のおよそ5000倍程度の濃縮が可能である。
【0042】
粉末洗浄剤として商品化する場合は、溶解度を考慮しなくて良いので、先に例示した各薬剤の含有率合計量の残分である溶媒を除いた合計重量から含有率が計算される。
【0043】
《添加剤》
本発明の洗浄剤は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、必要に応じて、増粘剤、発泡剤、艶出し剤、香料、着色料、除菌成分、研磨剤、アルコールやグリセリン等工程剤、洗浄用酵素、漂白剤、など用途に応じて各種の従来型洗浄剤に常用成分として含まれる物質をさらに含んでもよい。
【0044】
これら添加剤のうち、増粘剤については上述した。発泡剤は、同様に洗浄剤を流れ落ちづらくさせることで、洗浄剤使用量の低減にも繋がる。また洗浄用酵素は、有機系キレート剤を必須成分とする本発明の洗浄系では除去し難い汚れ成分を除去するために有用である。洗浄用酵素としては、タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)、脂肪分解酵素(リパーゼ)、セルロース分解酵素(セルラーゼ)、デンプン分解酵素(アミラーゼ)などがある。酵素の配合量は洗浄剤総量に対して1酵素あたりおよそ0.3%から3重量%程度でよい。
【0045】
また、酵素の配合を検討するにあたっては、そのpH範囲において活性値が低下しないものを選択しなければならない。
【0046】
漂白剤としては、過炭酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、過酸化水素などの酸素系漂白剤や次亜塩素酸Naなどの塩素系漂白剤を挙げることができる。
【0047】
殺菌剤は、被洗浄物の殺菌の他、有機物を含む洗浄剤の腐敗やカビを防ぐ効果を目的として配合され、塩化ベンザルコニウムやパラベン、プロピレングリコール、エチルアルコールなどのなかからその使用目的に応じて適宜選択することができる。人体への安全性を考慮すると、柑橘類果実の種子から抽出した抽出液を添加することが望ましい。ここで、柑橘類果実とは、学術名をシトラスパラデシとする、グレープフルーツであり、抽出液自体は高粘性であるため、添加する際には水で希釈するとともに、天然のグリセリン、プロピレングリコールなどの分散剤を用いることが好ましい。シトラパラデシの種子の抽出液は、細菌や微生物の殺菌、抗菌等の制菌効果があるため、本発明の洗浄剤に制菌添加剤として添加すると、被洗浄物の制菌効果が期待できる。その他の殺菌剤として、お茶の葉や竹などから得られる天然殺菌剤を配合してもよい。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の洗浄剤もしくは洗浄剤水溶液の洗浄性能を、従来の洗浄剤及びその洗浄剤水溶液と比較した具体例を説明する。
【0049】
ただし、以下に示す具体的数値は本発明の洗浄剤の使用により得られる洗浄性能の一部を例示的に開示するものであって、本発明を限定する趣旨ではない。なお、本明細書中に開示した、洗濯の場合における洗浄力試験に係る実施例又は比較例の洗浄力については、使用する汚染布のロット番号の違いによって変わってくる場合があるため、汚染布のロット番号が相互に異なる試験間での洗浄力を比較する際には、参考程度に留めておくのが望ましいことを付言しておく。
【0050】
また、洗濯以外では試験者による目視評価を客観的数値で相対比較することが難しいため、試験者の感覚による採点評価とした。
【0051】
(1)洗浄力試験その1(中性洗剤指定繊維衣類の洗濯)
《試験条件》
洗濯機は、株式会社日立製作所製の全自動洗濯機(NW−7P5 CP、7kgタイプ、水位設定50リットル、負荷としてタオル1.5kg)を用い、水温30°Cの水道水(藤沢市水道、pH7.5、全硬度60ppm)でソフトコース(ウールの衣類用)設定とし、洗いを9分(弱洗い)、注水すすぎを1回、脱水を1分×2回実施した。
【0052】
汚染布は、人工皮脂汚れが付着した湿式人工汚染布(財団法人洗濯科学協会製)を主として用いた。この際に、異なる製造ロット間で生じる洗浄率の差分を平均化する目的で、相互に製造ロットが異なる二つの汚染布を用意し、これらの汚染布各5枚(都合10枚)をタオルに縫い付けて洗濯した。この湿式人工汚染布に加えて、一部の試験では、血液が付着した汚染布(EMPA111)、タンパク質であるカカオが付着した汚染布(EMPA112)、赤ワインが付着した汚染布(EMPA114)、並びに、血液とミルクとカーボンブラックが付着した汚染布(EMPA116)を用いた。この際に、EMPA汚染布各3枚(都合18枚)をタオルに縫い付けて洗浄した。
【0053】
《洗浄率の算出》
洗浄率は、下記式により算出した。
【0054】
洗浄率%=(洗浄後汚染布の白度−洗浄前汚染布の白度)
÷(未汚染生地の白度−洗浄前汚染布の白度)×100
白度は、白度計(ミノルタ株式会社製、CR−14、Whiteness Index Color Reader)を用いて、各汚染布における表裏10点を測定し、この測定値を平均することで求めた。
【0055】
《洗浄剤水溶液のpH》
洗浄剤水溶液のpHは、洗浄用水に洗浄剤を添加し、ガラス電極pH計(堀場製作所製)により25°Cで測定した。このとき、示された値が充分に安定した値をもって洗浄剤水溶液のpHとした。
【0056】
《実施例1》
水道水50リットルに、有機キレート剤であるアクリル酸/マレイン酸コポリマー42.5g、有機キレート剤でありpH調整剤であるクエン酸5g、pH調整剤である重炭酸ナトリウム16.7g、表面張力低下作用及び分散剤である部分ケン化ポリビニルアルコール2.2g、分散剤であるカルボキシメチルセルロース0.3gの各成分組成からなり、同成分総量が66.7gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が1.33g/L、pHが7.39の洗濯液を得た。この洗濯液を用いて洗濯したときの洗濯前後における湿式人工汚染布、並びにEMPA汚染布の洗浄率を求めた。結果を表1に示す。
【0057】
《比較例1》
実施例1の比較例として、市販の液体合成洗剤67mlを標準濃度で水道水50リットルに溶解させた洗濯液(アクロン、洗浄剤濃度1.34ml/L、ライオン株式会社製、界面活性剤23%含有、pH7.31)を用いて洗濯したときの、洗濯前後における湿式人工汚染布、並びにEMPA汚染布の洗浄率を求めた。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

《考察》
実施例1は、比較例1に比べ、人口皮脂汚れに対する洗浄力がほぼ同等であることを除き、すべての汚れにおいて明らかに洗浄力が勝っていた。とりわけ、タンパク質であるカカオが付着した汚染布(EMPA112)及び血液とミルクとカーボンブラックが付着した汚染布(EMPA116)において、その洗浄力の差は2〜3倍であった。
【0059】
(2)洗浄力試験その2(浴室用洗浄剤試験)
《実施例2》
精製水77.28gに、有機キレート剤であるGLDA・4Na2.5g、有機キレート剤でありpH調整剤であるクエン酸0.2g、表面張力低下作用及び増粘作用を有する分散剤であるヒドロキシプロピルメチルセルロース0.02g、重曹電解洗浄液20gの各成分組成からなる総量22.72gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が29.4重量%、pHが10の洗浄液を得た。
【0060】
この洗浄液30ccをビーカーに入れ、これにオレイン酸Ca(石鹸カス)5mgを入れてスターラーで30分間攪拌し、分解・分散の状態を観察した(石鹸カスの分解・分散試験)。結果を表2に示す。
【0061】
また、実施例2の洗浄液を浴槽の喫水線上部に着いた汚垢にスプレーし、30秒後に拭き取り、その跡を観察した(皮脂汚垢の拭き取り試験)。この結果を表3に示す。
【0062】
《比較例2》
実施例2の比較例として、市販の浴槽用合成洗浄剤(バスマジックリン、花王株式会社製、界面活性剤10%含有)を用いて、実施例2と同じ条件で、石鹸カスの分解・分散試験及び皮脂汚垢の拭き取り試験を実施した。この結果を表2及び表3にそれぞれ示す。
【0063】
《参考例1》
実施例2の参考例として、pH9.8のアルカリ剤である重曹電解洗浄液(重曹7.5%水溶液の電解生成水の5%水溶液)を用いて、実施例2と同じ条件で、石鹸カスの分解・分散試験及び皮脂汚垢の拭き取り試験を実施した。この結果を表2及び表3にそれぞれ示す。
【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

《考察》
実施例2及び比較例2は、参考例1に比べ、石鹸カスの分解・分散力において勝っていた。実施例2及び比較例2が、石鹸糟を完全に分解し溶解させたのに対して、
参考例1では、石鹸糟が撥水し洗浄液の表面において浮いている状態であった。皮
脂汚垢の拭き取りにおいては、実施例2、比較例2、参考例1のどれもが完全に除
去した。
【0066】
(3)洗浄力試験その3(トイレ便器の洗浄(尿石))
《実施例3》
精製水98.35gに、有機キレート剤であるアクリル酸/マレイン酸コポリマー0.85g、有機キレート剤でありpH調整剤であるクエン酸0.7g、表面張力低下作用及び増粘作用を有する分散剤であるヒドロキシプロピルセルロース0.1gの各成分組成からなる総量2.65gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が2.7重量%、pHが4.1の洗浄液を得た。
【0067】
《比較例3》
実施例3の比較例として、市販のトイレ用合成洗浄剤(トイレマジックリン、花王株式会社製、界面活性剤4%含有)を用いた。
【0068】
尿石のついた男子用小便器の中央より左側に実施例3の洗浄剤を、中央より右側に比較例3の合成洗剤を散布し、1分後にブラシで5回擦ったあと水ですすぎ、その跡を観察した。この結果を表4に示す。
【0069】
【表4】

《考察》
実施例3及び比較例3は、尿石汚れをほぼ完全に除去し、尿石汚れを完全に除去した。
【0070】
(4)洗浄力試験その4(衣類のポイント洗い)
衣類の洗濯において、汚れの除去が難しく汚れが蓄積しやすいワイシャツの襟垢汚れは、その部分だけに高濃度の洗剤を塗布してブラシで擦り洗いを行ったあとに通常の洗濯を行う方法がとられる。本発明の洗浄剤では界面活性剤を含有せず、高濃度のキレート剤を配合することにより、高濃度の界面活性剤を含有した、所謂ポイント洗い用洗剤と同等以上の洗浄力を得る事が出来る。
【0071】
《試験方法》
襟垢汚れを想定した人工汚染布にポイント洗い用洗浄剤と、同じく比較用として市販のポイント洗い用合成洗剤(花王社製・アタックポイント洗い、界面活性剤濃度52%)をそれぞれ塗布し洗濯を行った。
【0072】
《試験条件》
ターゴトメーター(攪拌式洗浄力試験装置・型式TM-4 大栄科学精器製作所製)を用い、水温25℃の水道水(藤沢市水道、pH7.5、全硬度60ppm)で水量1Lリットル、回転数120rpm、洗い10分、すすぎ3分×2回を実施した。
【0073】
ポリエステル基布に人工皮脂汚れが付着した人工汚染布(WFK30D・Soil sebum 5センチ×5センチ)の中央部(幅約1センチ)に実施例4の洗浄液を塗布し、洗濯を行った。
【0074】
《実施例4》
有機キレート剤であるGLDA・4Na97.90g、有機キレート剤でありpH調整剤であるクエン酸2.0g、表面張力低下作用及び増粘作用を有する分散剤であるヒドロキシプロピルセルロース0.1gの各成分組成からなる総量100g、pHが10.3の高濃度洗浄液を得た。
【0075】
塗布後の「洗い」に使用される1リットルの水には予め、キレート剤を主剤とする洗浄剤0.67gを添加した。ここで使用したキレート剤を主剤とする洗浄剤の組成は、MGDA-3Na10g、層状ケイ酸Na7.2g、炭酸水素Na0.8g、部分ケン化PVA1.3g、CMC0.2g、プロテアーゼ0.2g、亜硫酸Na0.3g、総量 20gである。
【0076】
《比較例4》
実施例4の比較例として、市販のポイント洗い用合成洗浄剤(アタックポイント洗い、花王株式会社製、界面活性剤 52%含有)を用いた。
【0077】
塗布後の「洗い」に使用される1リットルの水には予め、市販粉末洗剤(花王社製・粉末アタック)を0.67g添加した。
【0078】
《考察》
いずれも通常の洗濯のみでは10%以下の洗浄率であったが、ポイント洗い洗浄剤塗布後は90%を越える洗浄率が得られた。
【0079】
実施例4は、洗浄液が塗布された部分の汚れをほぼ除去した。
【0080】
比較例4は、洗浄液が塗布された部分の汚れをほぼ除去した。
【0081】
【表5】

(5)洗浄力試験その5(スチール壁の汚れ)
スチール壁に付いたヤニ汚れを左右二区画に分け、キレート剤を主剤とする洗浄剤と市販の住居用洗浄剤で拭き取り比較する。
【0082】
《実施例5》
有機キレート剤であるメチルグリシン2酢酸3ナトリウム(MGDA-3Na)0.9g、
キレート剤でありpH調整剤であるクエン酸0.17g、精製水98.93gの各成分組成からなる総量100g、pH9.80の洗浄剤とした。
【0083】
洗浄液をスプレー塗布し、直ぐに乾いた木綿布で5回拭き取った。
【0084】
《比較例5》
実施例5に比較例として、市販の住居用洗浄剤(かんたんマイペット、花王株式会社製、界面活性剤0.3%)を実施例5と同じ方法で拭き取り試験を行った。
【0085】
《考察》
実施例5、比較例5とも汚れをほぼ完全に除去した。
【0086】
【表6】

なお、本明細書中に開示している洗浄力試験は、特にことわらない限り本試験条件に則して実施されている。
【0087】
《使用薬剤の特定》
本明細書中で開示した使用薬剤については下記のものを使用した。
【0088】
1.重炭酸ナトリウム:Eグレード品(トクヤマ社製)
2.ポリビニルアルコール(PVA):ポバール JP−05S(日本酢ビ・ポバール社製)
3.カルボキシメチルセルロース(CMC):セロゲン BSH−12(第一工業製薬社製)
4.クエン酸(無水):試薬(和光純薬工業社製)
5.ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC):メトローズ 90SH-400(信越化学工業社製)
6.GLDA-4Na:キレストCMG-40(キレスト社製) 40%水溶液
7.アクリル酸/マレイン酸コポリマー:ソカランCP7(BASF社製)
8.HPC:HPC M(日本曹達社製)
9,MGDA-3Na:トリロンM(BASF社製)
10,亜硫酸Na(無水):試薬(和光純薬工業製)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機系キレート剤を洗浄作用主剤とし、界面活性剤を含有しない洗浄剤であって、水溶液にしたときに、該キレート剤の含有率が0.01重量%から50重量%である洗浄剤組成物。
【請求項2】
前記キレート剤は、カルボン酸系キレート剤であることを特徴とする請求項1に記載の洗浄剤組成物。
【請求項3】
分散剤を含有し、水溶液にしたときに、該分散剤の含有率が0.001重量%から5重量%である請求項1または2に記載の洗浄剤組成物。
【請求項4】
前記分散剤は、洗浄剤水溶液の表面張力を低下させる作用を有する水溶性高分子であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の洗浄剤組成物。
【請求項5】
前記分散剤は、洗浄剤水溶液の粘度を増加させる作用を有する水溶性高分子であること特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の洗浄剤組成物。
【請求項6】
前記分散剤は、洗浄剤水溶液の表面張力を低下させる作用および粘度を増加させる作用をもつ水溶性高分子の一または二以上の組合せであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の洗浄剤組成物。
【請求項7】
増粘剤を添加した請求項1〜6のいずれかに記載の洗浄剤組成物。
【請求項8】
前記増粘剤は無機系増粘剤であることを特徴とする請求項7に記載の洗浄剤組成物。
【請求項9】
除菌成分を添加した請求項1〜8のいずれかに記載の洗浄剤組成物。
【請求項10】
香料、着色料を添加した請求項1〜9のいずれかに記載の洗浄剤組成物。
【請求項11】
実使用濃度の洗浄液のpHが6〜8に調整された、動物繊維性衣類の洗濯に使用される請求項1〜10のいずれかに記載の洗浄剤組成物。
【請求項12】
実使用濃度が0.15g/Lから15g/Lである請求項11に記載の洗浄剤組成物。

【公開番号】特開2008−163240(P2008−163240A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−355867(P2006−355867)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(394021270)ミズ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】