説明

有機系燃料を用いた燃料電池

【課題】燃料濃度を計測するためのセンサを省略しつつ、出力に応じた最適な燃料濃度を制御する方法を提供する。
【解決手段】膜−電極接合体と、燃料または酸化剤を流通させる溝を有し、液体有機化合物を燃料とする燃料電池において、前記燃料電池に供給する燃料の供給速度を断続的または周期的に変化させる燃料供給器と、前記燃料電池の電圧または出力の信号を計測する電池計測器と、前記供給速度と前記信号を演算処理して前記供給速度を補正する演算処理器とを具備した燃料電池を特徴とする。この燃料電池により、基準の燃料濃度から周期的に燃料濃度を変動させることにより、電圧または出力を計測し、その電圧または出力の変動幅を計測することによって、基準の燃料濃度が適正か否かを判断することで簡便に出力に応じた最適な燃料濃度を制御することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体有機化合物を燃料とする固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
液体有機化合物を燃料とする固体高分子形燃料電池には、メタノール,エタノール,ジメチルエーテルなどの液体有機化合物を燃料とする固体高分子形燃料電池は、騒音が小さく、運転温度が低い(約70〜80℃)、燃料の補給が容易であることなどの特徴を有する。そのため、可搬式電源,電気自動車の電源、あるいは電動バイクやアシスト式自転車、さらには医療介護用の車椅子やシニアカーなどの軽車両用電源として、幅広い用途が期待されている。
【0003】
これらの用途の中で、メタノールを燃料とする直接メタノール型燃料電池(以下、DMFCと称する。)は、改質器を省略できる点,燃料を室温で補給できる点,出力に対する燃料コストがガソリン等よりも安い点,50〜60℃の低温で発電できるので起動時間が短い点などの利点を有している。特に、燃料をポンプ等により強制的に流通させる“アクティブ式”DMFCは、数十Wから数百Wの高い出力が得られ、電子機器,照明器具などの比較的低電力機器の給電に適している。また、セルサイズの大型化,積層セル数の増加により1kW以上のDMFCを用いれば、移動体にも適用可能である。
【0004】
DMFCは、メタノール濃度を所定の範囲内になるように制御されており、濃度を計測するためのセンサを具備させている。このような濃度制御が必要な理由は、濃度が高くなると電解質膜を透過するメタノール量が増大し、セル電圧あるいは出力を低下させるためである。また、センサを用いずに、燃料電池の状態からメタノール濃度を推定し、濃度を制御する方法も考えられている。
【0005】
従来の技術によると、特許文献1から7に記載されたメタノール濃度の制御方法がある。
【0006】
特許文献1によると、濃度−電圧曲線とメタノール補給時の電圧変化幅から濃度を換算する技術が開示されている。
【0007】
特許文献2は、溶解熱の熱量がメタノール含有量により変化するという原理を利用して、メタノール水溶液中のメタノール濃度を定量的に算出する、直接メタノール型燃料電池の濃度調整装置を開示している。
【0008】
特許文献3は、DMFCに関し、濃度センサを備える必要が無く濃度を制御する方法を開示している。燃料電池の電流と電圧特性曲線から、システム変数電流及びメタノール濃度の小変動を用いて標本抽出を行い、制御を行っている。
【0009】
特許文献4は、燃料電池の発電部に供給される希釈燃料の燃料流量を増減させて、発電部の出力電圧を測定することにより、燃料流量と出力電圧との関係から希釈燃料の濃度を調整する方法を開示している。
【0010】
特許文献5の発明は、燃料電池スタック内の一つの共用セルに燃料を満たしてその発電量に基づいて燃料濃度を算出する技術である。
【0011】
特許文献6は、メタノール流路の端部付近にあるアノード部での電位からメタノール濃度を算出しようとする発明を開示している。端部のアノード部電位は、メタノール濃度が流路の端部で最も低くなり、アノード付近ではメタノール濃度の変化に対する感度が高くなる。この特性を利用し、検出電位を所定の基準値、またはアノードの別の箇所における電位と比較し、その差異を濃度調整に利用している。
【0012】
特許文献7は、DMFCの発電部での出力密度と燃料濃度との関係から、出力密度を見ることにより最適な燃料濃度に調整する燃料電池の運転方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−95679号公報
【特許文献2】特開2005−332597号公報
【特許文献3】特開2004−537150号公報
【特許文献4】特開2006−73486号公報
【特許文献5】特開2007−294334号公報
【特許文献6】特開2004−527067号公報
【特許文献7】特開2004−327354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、メタノール濃度センサを省略することと、濃度を予測した運転制御方法を提示することである。特に、燃料電池の性能が経時的に低下しても、要求された出力に応じた最適なメタノール濃度を調整または補正できる方法を提示し、燃料電池の性能低下を抑制することも目的とした。
【0015】
上述の目的をさらに具体的に詳述する。本発明は、以下の3つの技術課題を同時に克服しようとしている。また、以下の説明では、燃料ならびに酸化剤のそれぞれの排ガスに含まれるメタノールの酸化除去に焦点を当てて説明する。同様に、ホルムアルデヒド,ギ酸を酸化除去することが可能であり、エタノール等の他の液体有機燃料を用いた燃料電池にも応用可能である。
【0016】
第一の課題は、燃料電池の温度や外気温の温度が変化しても、燃料電池に供給される燃料濃度が最適か否かを判断することである。以下では、代表的な燃料としてメタノールを選択し、DMFCについて、本発明で解決しようとする第一の課題を詳述する。
【0017】
燃料排ガスは、以下の反応による二酸化炭素が主成分となる(式1を参照。)。この反応(式1)は、アノード上の酸化反応(式2)とカソード上での還元反応(式3)の半電池反応式の和となっており、1セル当たり6電子の授受によりCO2が1モル生成されることを意味する。
CH3OH+3/2O2→CO2+2H2O …(式1)
CH3OH+H2O→CO2+6H++6e- …(式2)
3/2O2+6H++6e-→3H2O …(式3)
【0018】
図1は、DMFCシステム101の基本構成である。この図に基づいて、第一の課題を説明する。
【0019】
DMFC本体102は、DMFCシステム101のほぼ中央にある。このDMFC本体102の発電に使われるメタノール含有燃料は、メタノール容器103に充填されている。メタノール容器103に貯蔵されているメタノールは100%のメタノールでも良いが、一般的には水で希釈されたメタノール水溶液が用いられる。この中から必要量のメタノールが、バルブやポンプからなる燃料供給手段104によって燃料混合タンク108に導入される。燃料供給ライン105の途中にメタノールを供給することも可能である。前記燃料供給手段104は、メタノール濃度が所定濃度以下になったときに動作するものとする。これらの制御には、マイコン等の自動制御機構が用いられる。本システム101では、制御器109を用い、制御器109から信号ケーブル125を介して、燃料供給手段104の動作を制御している。
【0020】
また、燃料混合タンク108に蓄えられている燃料中のメタノール濃度が上限値を超えたときには、純水供給手段107が作動し、純水容器106から必要な水が燃料混合タンク108に供給され、メタノール濃度は適正な範囲に維持される。燃料供給ライン105の途中に純水を供給することも可能である。純水供給手段107の動作も、信号ケーブル126を介して制御器109によって制御されている。
【0021】
燃料混合タンク108のメタノール水溶液は、上述の方法によって所定の濃度範囲に調整される。その燃料の一部は、燃料循環ポンプ112によって吸い上げられ、燃料循環ライン105に取り込まれた後、DMFC本体102のアノード側に供給される。アノードでは、式2に従ってメタノールが酸化される。その後、メタノールの排液は、燃料循環ライン105を経由して、再び燃料混合タンク108に戻される。
【0022】
燃料循環ポンプ112とDMFC本体102の間には、メタノール濃度計測手段129を設置し、DMFC本体102のアノードに供給される直前のメタノール濃度を計測している。メタノール濃度計測手段129には、燃料の密度や屈折率,赤外光の吸収量などの計測値からメタノール濃度を算出するセンサを用いることができる。メタノール濃度計測手段129にて計測したメタノール濃度のデータは、信号ケーブル130を通じて制御器109に転送され、そのデータに応じて燃料供給手段104または純水供給手段107の動作にフィードバックされる。
【0023】
メタノールの酸化反応(式2)によって発生した二酸化炭素は、DMFC本体102では、溶存あるいは微小な気泡として存在する。その二酸化炭素は燃料循環ライン105を経由して燃料混合タンク108に移り、その気相に大半の二酸化炭素が存在する。さらに、その気相の圧力が増加すると、気液分離器110を通してシステム101の外部に放出される。なお、気液分離器110は、触媒反応器も組み込んで、燃料排ガス中に含まれる微量のメタノール等の有機物を除去させても良い。
【0024】
空気は、ファン,ブロアなどの空気供給手段140により空気供給ライン141を経由して、DMFC本体102のカソード側に供給される。カソードでは、水の生成反応が進行する(式3)。発電後の排ガスは、空気排出ライン142を通過した後、システム101の外部に放出される。
【0025】
DMFC本体102のアノード側に供給する燃料に含まれるメタノール濃度は、メタノール濃度計測手段129にて計測されている。ここで、計測される物理量は、通常、温度の影響を受ける。例えば、密度は、燃料の熱膨張の影響を受ける。また、計測器自身の計測感度の温度依存性も問題となる。
【0026】
燃料温度は、DMFC本体102から排出される燃料温度に支配される。この温度は、電流値(または出力),外気温の変化、あるいはセル抵抗の経時変化の影響を受ける。特に、出力が変化した前後では、DMFC本体102の温度が過渡的に変動するので、安定した温度に到達するまでのメタノール濃度の計測精度が不正確になりやすい。
【0027】
したがって、DMFC本体102から排出される燃料温度が変動すれば、それに応じて温度の補正が必要となる。また、経時的な補正も、安定した濃度管理を行うために、重要な技術課題となる。
【0028】
本発明が解決しようとする第二の課題は、出力要求値が変化したときに、それに応じた最適な燃料濃度を設定できるようにすることである。
【0029】
DMFCでは、アノード(燃料極)に存在するメタノールが電解質膜を透過し、カソード(酸化剤極)に移動し、カソード上で酸素とメタノールの直接的酸化反応が起こることが知られている。これはいわゆるメタノール・クロスオーバーという現象である。これが起こると、カソードの電位が著しく低下し、電池全体では端子間電圧の低下,出力の低下が起こり、問題となっている。
【0030】
メタノール濃度を下げると、相対的にメタノール・クロスオーバー量が低減することができるが、高出力を要求されている条件では、燃料不足による出力低下が起こる。また、メタノール濃度が高いと、低出力条件で、メタノール・クロスオーバーによる出力低下が出力に対し大きな割合になってしまう。すなわち、燃料の利用効率の低いシステムになってしまう。
【0031】
そのような理由により、出力に応じたメタノールの最適濃度を制御できる運転方法がより望ましい。これが、本発明の第二の課題である。
【0032】
第三の課題は、触媒性能の低下が起こっても、最適なメタノール濃度を自律的に調整できる運転方法を提供することである。これは、システムの使用期間が長期になり、セル性能が経時的に低下したときに問題となる。
【0033】
DMFC本体102に用いられている膜−電極接合体(以下、MEAと称する。)、ガス拡散層、あるいはセパレータは、長期間の運転により、徐々に性能や性状が変化していく。例えば、MEAの電極触媒の活性は、運転時間とともに徐々に触媒粒子の溶出,凝集等により、低下していく傾向がある。また、ガス拡散層は、撥水性が低下していき、生成水が十分に排出されなくなり、電極層が過剰に濡れてしまい活性が低下する現象(フラディング)が起こる場合がある。さらに、セパレータの表面性状が変わると、生成水が流路に滞留し、空気の流れを阻害する現象(プラッギング)が起こる場合がある。あるいは、セパレータとガス拡散層と接触抵抗が増大し、セル電圧が低下することもある。このような複雑なメカニズムによって、セルの出力が徐々に低下していく。
【0034】
したがって、セル性能が低下した場合に、出力を可能な限り下げないように、あるいはセルの寿命を可能な限り延長しうるような燃料濃度の調整を可能になれば、非常に有効な燃料制御技術となる。そこで、触媒性能の低下が起こっても、最適なメタノール濃度を自律的に調整できる運転方法を提供することを、第三の課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0035】
そこで、発明者らは、3つの課題を解決するために鋭意検討した結果、新規な方法と構造を構築するに至った。なお、本発明で対象とする燃料電池は、イオンを透過させる電解質膜の表面に接合された燃料極と酸化剤極からなる膜−電極接合体と、燃料または酸化剤を流通させる溝を有し、液体有機化合物を燃料とする燃料電池である。
【0036】
第一の解決手段は、燃料電池に供給する燃料の供給速度を断続的または周期的に変化させる燃料供給器と、燃料電池の電圧または出力の信号を計測する電池計測器と、前記供給速度と前記信号を演算処理して前記供給速度を補正する演算処理器を、燃料電池に具備させることである。
【0037】
第二の解決手段は、第一の解決手段の燃料電池において、前記燃料がメタノールであって、前記燃料供給器から供給される燃料供給速度が2つの数値(V1,V2)の間で変動し、かつ、前記V1と前記V2が前記燃料電池に流れる電流(I)と式4の関係になるように制御することである。
V1<I×n/6F≦V2 …(式4)
【0038】
ただし、nは前記燃料電池のセル数を表し、V1とV2は単位時間当たりに供給されるメタノールのモル数である。
【0039】
第三の解決手段は、前記燃料供給速度のV2が、前記燃料電池に流れる電流(I)に応じて、式5になるように設定することである。
V2=I×n/6F+C1 …(式5)
【0040】
ただし、C1は電気化学的に酸化されずに前記燃料電池から放出されるメタノール損失速度(単位時間当たりのモル数)である。
【0041】
第四の解決手段は、燃料供給速度がV2のときに前記燃料電池の平均セル電圧または出力が、予め規定した値よりも小さくなったときに、V2を増加させ、新たな設定値にて燃料を供給するように前記演算処理器が動作させることである。
【0042】
第五の解決手段は、燃料供給速度がV2のときに前記燃料電池の平均セル電圧または出力が、予め規定した値よりも大きくなったときに、V2を減少させ、新たな設定値にて燃料を供給するように前記演算処理器が動作させることである。
【発明の効果】
【0043】
本発明の方法および構造を、液体有機化合物を燃料として用いた燃料電池に適用することで、高効率な運転をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】直接メタノール形燃料電池システムの構成を表す参考図を示す。
【図2】本発明の燃料電池システムの構成を示す。
【図3】メタノール濃度が安定発電可能範囲にあるときのセル電圧(出力)の変化状況を示す。
【図4】メタノール濃度が安定発電可能範囲にあるときのセル電圧(出力)パターンを示す。
【図5】メタノール濃度が安定発電可能範囲から外れたときのセル電圧(出力)の変化状況を示す。
【図6】メタノール濃度が安定発電可能範囲から外れたときのセル電圧(出力)パターンを示す。
【図7】本発明の単セルの断面構造を示す。
【図8】本発明の燃料電池本体の断面構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図2は、本発明のDMFCシステム201の基本構成を示す。本システム201のほぼ中央にDMFC本体202がある。このDMFC本体202の発電に使われるメタノール含有燃料は、メタノール容器203に充填されている。メタノール容器203に貯蔵されているメタノールは100%のメタノールでも良いが、一般的には水で希釈されたメタノール水溶液が用いられる。この中から必要量のメタノールが、バルブやポンプからなる燃料供給手段204によって、燃料供給ライン215から燃料混合タンク208に導入される。燃料供給ライン205の途中にメタノールを供給することも可能である。
【0046】
燃料供給ライン215方向へメタノールを補給するときに作動する前記燃料供給手段204は、燃料循環ライン250を通過させる燃料のメタノール濃度が所定濃度以下になったときに動作するものとする。逆に、メタノール濃度が所定の値を超えているとき、純水供給手段207を作動させ、純水供給ライン216を通じて燃料混合タンク208に純水を補給する。なお、燃料循環ライン250に存在する燃料組成は、流通の途中でメタノールが蒸発や消費されることがないので、燃料タンク208の組成にほぼ同じと考えて良い。この燃料循環ライン250を通過するメタノール濃度を、『ベース濃度』と定義する。
【0047】
次に、ベース濃度を濃度調整器220にて変化させる方法を説明する。
【0048】
燃料供給手段204は、燃料供給ライン222方向にもメタノールを供給することができる。また、純水供給手段207は、純水供給ライン224方向に純水を供給することも可能である。
【0049】
濃度調整器220は、燃料供給手段204または純水供給手段207のいずれか一方あるいは両方を動作させることができる。濃度調整器220は、信号ケーブル221を介して制御器によって所定の動作をするようになっている。
【0050】
例えば、濃度調整器220にてベース濃度を高くする方向に変化させる場合、制御器209より信号ケーブル225から燃料供給手段204を動作させる。燃料は燃料供給ライン222を通じて燃料調整器に送られる。濃度調整器220では、燃料を断続的または周期的に取り込まれるように、制御器209から燃料供給手段204を動作させるものとする。
【0051】
濃度調整器220に取り込まれた燃料は、燃料循環ライン251に注入され、合流点MP(Mixing Point)にてベース濃度のメタノール水溶液と混合され、注入されたときのみメタノール濃度がベース濃度より高くなる。注入時されるメタノールの時間タイミングは、出力に関係なく一定の周期であっても良いし、出力に応じて可変の周期としても良い。あるいは、電池の電圧や温度にしきい値を設けて、電池の特性データに応じて、任意の時間タイミングであっても良い。
【0052】
ここで、燃料容器203の濃度が制御上、高すぎる場合には、制御器209から信号ケーブル225を介して純水供給手段207を動作させ、純水供給ライン224を介して純水を濃度調整器220に取り込むことができる。これにより、注液ライン223から注入されたときの燃料循環ライン251におけるメタノール濃度を、過剰に高くならないようにすることができる。もし、過剰にメタノール濃度が高くなりすぎると、DMFC本体202にてメタノールを消費しきれず、燃料循環ライン215から戻る燃料によって燃料混合タンク内のメタノール濃度が徐々に高くなってしまう問題を引き起こす。
【0053】
また、燃料循環ライン250のメタノール濃度が上限値を超えたときには、純水供給手段207が作動し、純水容器206から必要な水が燃料混合タンク208に供給され、メタノール濃度は適正な範囲に維持される。燃料供給ライン250途中に純水を供給することも可能である。また、燃料調整器220により、純水供給ライン224,注液ライン223を通じて、燃料循環ライン251に純水を補給し、メタノールを希釈することができる。
【0054】
次に、ベース濃度に対し、燃料循環ライン251のメタノール濃度を周期的または断続的に下げる方法を説明する。まず、制御器209から純水供給手段207を駆動させる信号を、信号ケーブル226を介して発する。この信号を受けて、純水供給手段207は、純水供給ライン224を介して燃料調整器220に純水を送る。燃料調整器220は、注液ライン223から燃料循環ライン251に純水を補給し、ベース濃度を下げることができる。純水を添加する時間タイミングは、出力に関係なく一定の周期であっても良いし、出力に応じて可変の周期としても良い。あるいは、電池の電圧や温度にしきい値を設けて、電池の特性データに応じて、任意の時間タイミングであっても良い。
【0055】
また、純水を補給するのではなく、ベース濃度よりも低いメタノール水溶液を注液ライン223から供給し、燃料循環ライン251の濃度をベース濃度と低濃度の間で振幅させることも可能である。この場合は、前述の純水供給とともに、燃料供給ライン222から燃料調整器220へ燃料を取り込み、燃料調整器220で前出の純水と混合し、低濃度メタノール水溶液を燃料循環ライン251に供給することができる。
【0056】
このように、ベース濃度を高濃度側あるいは低濃度側のいずれ方向にも変動させることができる。
【0057】
制御器209が、燃料供給手段204、純水供給手段207を動作させる制御方法は、以下の通りである。制御器209は、DMFC本体202の特性データを、信号ケーブル230を介して取り込んでいる。その特性データは制御器209にて演算処理されて、燃料供給手段204または純水供給手段207を動作させる時間タイミングや、供給速度などの制御条件を決定している。
【0058】
以上で述べた動作機構を考慮して、燃料循環ライン250,251,252でのメタノール濃度の変化の様子を説明する。
【0059】
所定の濃度範囲に制御されたメタノール水溶液は、燃料混合タンク208に一旦、蓄えられる。ここでのメタノール濃度がベース濃度である。この中の一部のメタノール水溶液が、燃料循環ポンプ212によって循環させられる。燃料循環ライン250ではベース濃度になっている。注液ライン223と合流点MP(Mixing Point)より下流でのメタノール濃度は、ベース濃度とそれより高濃度または低濃度の間を変動する。最後に、燃料循環ライン252におけるメタノール濃度は、発電による酸化,メタノール・クロスオーバー等による損失分だけ、燃料循環ライン251における濃度変動パターンを全体的に低濃度側にシフトさせた動きを示す。ただし、そのシフト幅は、出力や温度、あるいは運転時間などによってメタノール・クロスオーバー量が変わるときに、同時に変化する場合がある。
【0060】
上で説明されなかったその他の機器,配管などの用途・機能は、先に説明した図1のシステムに対応する機器等と同様である。以下、簡単に説明する。
【0061】
DMFC本体202にて、メタノールが酸化されると、式2に従って二酸化炭素が生成する。このガスは、DMFC本体202のアノード側セパレータの流路,アノードのガス拡散層の細孔内部あるいは燃料液体中で、溶存あるいは微小な気泡として存在する。その二酸化炭素は燃料循環ライン252を経由して燃料混合タンク208に移り、その気相に大半の二酸化炭素が存在する。さらに、その気相の圧力が増加すると、気液分離器210を通してシステム201の外部に放出される。なお、気液分離器210は、触媒反応器も組み込んで、燃料排ガス中に含まれる微量のメタノール等の有機物を除去させても良い。
【0062】
空気は、ファン,ブロアなどの空気供給手段240により空気供給ライン241を経由して、DMFC本体202のカソード側に供給される。カソードでは、水の生成反応が進行する(式3)。発電後の排ガスは、空気排出ライン242を通過した後、システム201の外部に放出される。
【0063】
燃料混合タンクに貯蔵される燃料の量は、不足しないように、または、過剰にならないように、適正なレベルに保持されなければならない。そのために、燃料混合タンク208の水位を計測し、その値が上限値あるいは下限値に達しないように、混合タンクに貯蔵される燃料の総量を、燃料供給ライン215から供給される燃料または純水供給ライン216から供給される純水の量で制御することができる。なお、燃料の水位は、フロート式,水圧式,電波式,水晶振動式,超音波式などの公知の水位計、その他公知のセンサを用いることができる。
【0064】
燃料循環ライン250を流れるメタノール濃度は、燃料供給量を断続的あるいは周期的に変化させることができる波形発生装置120と、燃料調整器220を制御し、DMFC本体202の電圧または出力を演算処理する機能を有する制御器209によって制御されている。燃料供給手段204は信号ライン225を介して、純水供給手段207は信号ライン226を介して、制御器209によって制御されている。DMFC本体202の電圧または出力は、信号ライン230を介して、制御器209に取り込まれている。これらの電圧等に応じた動作信号は、制御器209にて解析,処理される。ついで、燃料の供給速度,供給時間などの条件を指定する信号は、信号ライン221を経て燃料調整器220に与えられている。
【0065】
また、必要に応じて、純水供給手段207から純水を燃料調整器220に取り込み、燃料循環手段212に純水を供給することも可能である。これによって、燃料循環ライン251に含まれる燃料濃度を低下させることができる。特に、出力を下げる運転モードに切り替わるときに、本動作は有効になる。
【0066】
その理由は以下の通りである。出力が変化しても、メタノール濃度が変わらなければ、メタノール・クロスオーバー量はほぼ一定値になる傾向がある。その結果、低出力のときにメタノール濃度を下げない限り、メタノール損失量の比率が相対的に増大し、燃料の利用効率が低下する。
【0067】
本発明の燃料制御方法を、図2のシステムに適用したときに得られる信号を説明する。以下では、注液ライン223から供給されるメタノール濃度がベース濃度よりも低い場合を例として、説明する。メタノール濃度パターンは、図4の上に示した。ここでは、電池出力を一定とし、DMFC本体202の温度も一定とした定常状態において、メタノール濃度だけを振幅させた例である。
【0068】
メタノール濃度がベース濃度にあるとき、DMFC本体202のアノード上では、メタノール酸化反応がスムーズに進行し、セル電圧が高くなる。この状態は、図3のメタノール濃度がC3またはC2において、セル電圧がV3,V2、あるいは両者の間にある。
【0069】
仮に、ベース濃度が濃度C2からC3の範囲にあり、ほぼ一定値になっていると、変動濃度が下限濃度C1に達することがなく、電圧パターンが大きく変動することがない。図4下に示した電圧パターンのようにわずかな電圧振動が認められるだけである。なお、制御器209では、電圧の代りに出力パターンを監視,記録しても良い。
【0070】
注液ライン223で供給されるメタノール量が、発電により消費されるメタノール量,メタノール・クロスオーバー等で損失する量の合計より少ない場合は、徐々に、ベース濃度が下がり始める。その結果、図5に示したように、ベース濃度が下がって、変動濃度がC1に到達する状況になる。その結果、変動濃度におけるセル電圧が大きく低下することになる。そのときの状況を、図5のメタノール濃度パターンと電圧パターンで表示した。メタノール濃度パターンは、図4の濃度パターンと比べ、濃度変動幅は変化しないにもかかわらず、全体的に下にシフトする。これに伴い、電圧変動幅が増大している。
【0071】
制御器209では、DMFC本体202の電圧または出力のデータを、信号ケーブル230から取り込み、図4または図6のパターンを計測,解析することになる。具体的には、ベース濃度における電圧(または出力)と変動濃度における電圧(または出力)の差から、ベース濃度が安定運転濃度可能範囲(たとえば、図4のC2からC3の範囲)にあることを確認することができる。上述の電圧差が増大し、V1とV2の幅を越えたときに、ベース濃度が安定運転可能範囲を外れつつあることを判定することができ、ベース濃度を変更する。ベース濃度の変更には、燃料供給ライン215から燃料を補充する。あるいは、燃料供給ライン222から供給される燃料の供給速度を増加させるか、純水供給ライン224から供給される純水の供給速度を小さくするように、制御器209の設定パラメータを補正すれば良い。
【0072】
逆に電圧差が規定値よりも小さくなりすぎる場合は、ベース濃度がC3よりも高濃度になっていることがわかる。この場合は、純水供給ライン216から純水を補充する。あるいは、純水供給ライン224から供給される純水の供給速度を大きくするか、燃料供給ライン222から供給される燃料の供給速度を小さくするように、制御器209の設定パラメータを補正すれば良い。
【0073】
例えば、純水供給ライン216から補充される純水の供給量と時間インターバル、および燃料供給ライン215から補充される燃料の供給量と時間インターバルが、DMFC本体202の出力に応じて、決った設定条件(プログラム)になっていれば、上述の補正は比較的簡単になる。このような場合、ベース濃度は、燃料混合タンクに直接、補給される純水と燃料によって、ほぼ一定レベルに保持されているので、燃料調整器220へ取り込まれる純水と燃料の補給量と時間タイミングの補正で足りる。加減調整された燃料は、燃料供給ライン222から注液ライン223より、燃料循環ライン251まで送られる。加減調整された純水は、純水供給ライン224から注液ライン223より、燃料循環ライン251まで輸送される。
【0074】
なお、図3および5の説明において、ベース濃度または変動濃度のいずれかがC2に一致しているようになっているが、本発明はこのような限定を意味していない。すなわち、MEAの種類に依存する電流−電圧特性曲線,メタノール・クロスオーバー量などによって、図3,図5の曲線の形状は変化しうる。したがって、かならずしも、ベース濃度等がC2に一致している必要はなく、少なくとも安定発電可能濃度の上下限値としてのC3とC2を設定すれば、本発明を実施することができる。また、濃度調整開始基準となる濃度C1を設定すれば、制御器209の制御パラメータを補正する上で、より好ましい。
【0075】
最も適した運転条件は以下の通りである。まず、燃料混合タンクのベース濃度は、安定条件での濃度値(図3のC3)とする。燃料混合タンク208のメタノール濃度と排出燃料の濃度がほぼ一致させる。ベース濃度が下がってくると、徐々にDMFC本体202にて燃料濃度がC2またはC3の状態に近づく。その結果、下限警報電圧に達する。
【0076】
制御器209では、DMFC本体202の温度のデータを信号ケーブル230から取り込んで、それぞれの温度に応じて、図3のメタノール濃度−セル電圧曲線を用いて、燃料供給条件を決める。
【0077】
また、システムが長期運転により、徐々に出力が低下してきた場合には、制御パラメータの時間補正を実行したり、DMFC本体202から特定周波数のインピーダンス抵抗,DC抵抗値などの信号を、信号ケーブル230から取り込んで、制御パラメータを補正すれば良い。
【0078】
さらに、出力が変化したときには、図3に示したメタノール濃度,セル電圧,出力などの制御パラメータを補正し、出力に応じた最適な運転可能濃度範囲を選択すれば良い。
【0079】
以上で説明した典型例のほかに以下のようなバリエーションが考えられる。先で述べた制御方法はベース濃度を高濃度側の値にした。別の方法として、図3の濃度振幅パターンを逆にして、ベース濃度を低濃度に、変動濃度を高濃度にする方法がある。この場合、注液ライン223からは低濃度のメタノールまたは水を供給する。
【0080】
また、上述で述べたように、3つのパラメータで制御することが望ましい(3値方式)が、2つの制御濃度で制御することも、原理的に可能である。この場合は、図3のメタノール濃度−電圧曲線において、メタノール濃度に対する電圧の微分値(変化率)が、制御器209で計測できる程度に大きい場合に可能である。
【0081】
最もバランスが取れる条件は、燃料混合タンクのベース濃度がC3付近で安定し不変のとき。すなわち電池出口の濃度がベース濃度に一致しているときである。したがって、燃料調整器220で補給するメタノール量は、発電消費量,メタノール・クロスオーバーで消費されるメタノール量,蒸発量の合計にほぼ一致することになる。
【0082】
このような演算制御プログラムを制御器209の記憶・演算部に取り込み、本発明の燃料制御方法を実行することができる。
【0083】
より詳細に燃料の制御条件を検討すると、以下のようになる。まず、燃料調整器(燃料供給器とも呼ぶ。)から供給される燃料供給速度が2つの数値(V1,V2)の間で変動させる。さらに、前記V1と前記V2が前記燃料電池に流れる電流(I)と式4の関係に設定する。
V1<I×n/6F≦V2 …(式4)
【0084】
ただし、nは前記燃料電池のセル数を表し、V1とV2は単位時間当たりに供給されるメタノールのモル数である。
【0085】
また、別の制御のバリエーションとして、前記燃料供給速度のV2を、前記燃料電池に流れる電流(I)に応じて、式5になるように設定する。
V2=I×n/6F+C1 …(式5)
【0086】
ただし、C1は電気化学的に酸化されずに前記燃料電池から放出されるメタノール損失速度(単位時間当たりのモル数)である。
【0087】
さらに別の制御のバリエーションとして、燃料供給速度がV2のときに前記燃料電池の平均セル電圧または出力が、予め規定した値よりも小さくなったときに、V2を増加させ、新たな設定値にて燃料を供給するように前記演算処理器が動作させる。
【0088】
また、燃料供給速度がV2のときに前記燃料電池の平均セル電圧または出力が、予め規定した値よりも大きくなったときに、V2を減少させ、新たな設定値にて燃料を供給するように前記演算処理器が動作することとしても良い。なお、演算処理器とは、図2の制御器209と等価である。
【0089】
これらの一連の制御状態をユーザーが認識しやすくするために、前記演算処理器においてV1から前記燃料電池の状態に数値化し、前記燃料電池の表示部に前記状態を図柄または数値で表示させると、使い勝手の向上に資する。
【0090】
次に、本発明の燃料制御方法を、図2のシステムに適用した例を説明する。図7は、本発明のDMFC本体を構成する単セルの断面構造の一例である。図8は、本発明のDMFC本体の断面構造を示し、その一例である。
【0091】
まず、単セル構造について説明する。単セルは、アノード流路705を有するセパレータ704とカソード流路707を有するセパレータ706の間に、アノード701と固体高分子電解質膜703とカソード702の三層構造となるMEAが挟持されている。
【0092】
セパレータ706は、酸化剤流路707を有する。酸化剤流路707はセパレータ706の下面にあり、触媒層とガス拡散層からなるカソード702に接している。ここで、触媒層はカソード702に含まれ、電解質膜703の表面に接着されている。
【0093】
カソード702は、触媒層とガス拡散層から構成される。触媒層はカソード702に含まれ、電解質膜703の表面に固定されている。触媒層は白金微粒子を黒鉛粉体に担持させたものが一般的であるが、他の触媒を用いても良い。この触媒層の上にガス拡散層を設ける。
【0094】
セパレータ704には、燃料流路705が形成され、その流路705はアノード701に接している。
【0095】
触媒層は、白金微粒子を黒鉛粉体に担持させ、あるいは、燃料酸化の過程で生じる一酸化炭素を酸化除去する機能を有するルニテウム等の助触媒と白金を合金にした微粒子を黒鉛粉体に担持させ、さらに電解質バインダーで結合させたものである。他の触媒を用いても良い。この触媒層の上にガス拡散層を設ける。
【0096】
電解質膜703の両面にアノード701とカソード702を接合したものを、本形態では膜−電極接合体(以下、MEAと称する。)と称する。ガス拡散機能を有するもの、例えばガス拡散層は、アノード701やカソード702に含まれるものとする。電解質膜703は、アノード701で生じた水素イオン(H+)をカソード702へ輸送する媒体として働く。
【0097】
燃料電池の反応(式2と式3)は、まず、アノード701において、メタノール等の液体有機燃料から水素イオンが生成する際に、電子も引き抜かれることから始まる。この電子は、セパレータ704に受け渡され、外部回路を経由した後にセパレータ706に伝達され、最終的にアノード701で生じた同数の電子がカソード702に送られる。
【0098】
酸化剤(酸素)は、流路707からカソード702に供給され、電解質膜701を透過した水素イオンと反応し、生成水を生じさせる。
【0099】
燃料と酸化剤は、MEAとセパレータにより分離され、直接、化学反応が起こらないようにしている。また、これらの反応物質は、ガスケット708,709によって外部へ漏れないようにしている。
【0100】
二枚のセパレータの間にガスケット708,MEAの電解質膜部分,ガスケット709とを積層し、圧着させることによって、燃料や酸化剤の漏洩を防止している。ガスケットには、エチレン・プロピレンゴム,フッ素ゴム,シリコンゴム等の耐酸化性,耐還元性,耐水性の弾性体を用いることができる。エポキシ樹脂を接着剤として用い、硬化させてガスケットの代用としても良い。
【0101】
各単セルに酸化剤を供給するために、酸化剤供給マニホールドをセパレータ704,706の一部を貫通するように設けている。このマニホールドからそれぞれの単セルに供給され、カソード702にて酸化された後に、酸化剤排出マニホールドを経由して、電池の外部に排出される。ガスケット708,709はセパレータ704,706と電解質膜701の間に挿入され、酸化剤と燃料の漏洩を防止している。
【0102】
なお、酸化剤供給マニホールドから流路707にまでを連通する通路は、セパレータ706の面内に形成されている。しかし、それを平面図に示すと、図7の左側にあるガスケット709の一部と重なるように見えるため、図7では省略した。
【0103】
また、流路710から酸化剤排出マニホールドに至るまでの流路も、セパレータ706の面内に形成されているが、平面図に描くとガスケット709の一部と重なったように見えるため、同様に省略した。
【0104】
同様に燃料の供給マニホールドと排出マニホールドは、図7の単セル断面に図示すると酸化剤マニホールドと重なり合うために、省略した。
【0105】
このような単セルを複数個、製作し、セルスタックとしたものが、図8のDMFC本体である。図7の単セルは、図8では501で示している。複数の単セル801を直列に接続し、両末端に集電板813,814を設置し、さらに絶縁板807を介して外側より端板809で締め付ける。端板が絶縁性の材料であれば、絶縁板607を省略することができる。締め付け部品として、ボルト816,ばね817,ナット818を用いる。
【0106】
燃料は、図8に示す端板809に設けた燃料供給用コネクター810から供給し、各単セル801を通過して、燃料がMEAのアノード上にて酸化された後に、反対の端板809に設けた排出用コネクター822から排出される。ここで、燃料は、メタノール等の液体有機燃料を用いることができる。
【0107】
同様に、酸化剤は、図8に示す左側の端板809に設けた酸化剤供給側コネクター611から供給され、反対の端板809の排出側コネクター823から排出される。空気は、電池の外部に設置した空気ファンから配管を通じて供給した。
【0108】
このような部品構成にて、25個の単セル801からなるセルスタックを製作した。
【0109】
実際に、図6の構成の200W級DMFCに燃料と空気を供給し、電池特性ならびにメタノールの除去性能を検討した。本発明のスタックをS1とする。
【0110】
比較のため、本発明の触媒反応器(図2)および内部触媒層(図8)を削除したスタックにつても比較,検討した。このスタックをS2とする。
【0111】
図2の燃料タンク203に保管するメタノール水溶液の濃度は50%、燃料循環ラインを流通するときのメタノール水溶液は3〜6%とした。制御器209で制御するベース濃度は3%、変動濃度は1%とした。ベース濃度の保持時間が60秒であるのに対し、変動濃度の保持時間は10秒とした。制御パラメータの補正開始電圧V1は350mV、安定発電可能電圧のV2,V3はそれぞれ370mV,390mVとした。
【0112】
酸化剤利用率は10%になるように、ファン211の電圧を設定した。
【0113】
次に、電流15A(電流密度は0.2A/cm2とした。)にて発電を行ったとき、定格出力100Wを得た。なお、電池温度は55から60℃に制御した。
【0114】
本発明の燃料制御方法により、100時間の連続発電運転をすることができた。
【符号の説明】
【0115】
101,201 液体有機化合物を燃料とする固体高分子形燃料電池を具備するシステム
102,202 固体高分子形燃料電池
103,203 燃料原液を貯蔵する容器
104,204 燃料供給手段
106,206 純水容器
107,207 純水供給手段
108,208 燃料混合タンク
109,209 制御器
110,210 気液分離器
112,212 燃料循環ポンプ
113,115,213,215,222 燃料供給ライン
114,116,214,216,224 純水供給ライン
125,126,130,221,225,226,230 信号ライン
127,128,227,228 燃料排ガス排出ライン
129 燃料濃度計測手段
140,240 空気供給手段
141,241 空気供給ライン
142,242 空気排出ライン
150,250,251,252 燃料循環ライン
220 燃料調整器
223 注液ライン
701 アノード
702 カソード
703 固体高分子電解質膜
704 アノード流路を有するセパレータ
705 アノード流路
706 カソード流路を有するセパレータ
707 カソード流路
708,709 ガスケット
801 単セル
802 膜−電極接合体(MEA)
804 本発明のセパレータ(単セル用)
805 ガスケット(シール)
807 絶縁板
809 端板
810,822 燃料ガス配管用コネクター
811,823 酸化剤ガス配管用コネクター
813,814 集電板
816 ボルト
817 ばね
818 ナット
819 外部電力線
820 DC−DCコンバータまたはインバータ
821 外部に設置した負荷
831 集電板に接し、片面のみに流路を形成したセパレータ
MP 注液ライン223と燃料循環ライン251の合流点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンを透過させる電解質膜の表面に接合された燃料極と酸化剤極からなる膜−電極接合体と、燃料または酸化剤を流通させる溝を有し、液体有機化合物を燃料とする燃料電池において、
前記燃料電池に供給する燃料の供給速度を断続的または周期的に変化させる燃料供給器と、
前記燃料電池の電圧または出力の信号を計測する電池計測器と、
前記供給速度と前記信号を演算処理して前記供給速度を補正する演算処理器とを具備した燃料電池。
【請求項2】
前記燃料がメタノールであって、前記燃料供給器から供給される燃料供給速度が2つの数値(V1,V2)の間で変動し、かつ、前記V1と前記V2が前記燃料電池に流れる電流(I)と式1の関係にあることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
V1<I×n/6F≦V2 …(式1)
(ただし、nは前記燃料電池のセル数を表し、V1とV2は単位時間当たりに供給されるメタノールのモル数である)
【請求項3】
前記燃料供給速度のV2が、前記燃料電池に流れる電流(I)に応じて、式2になるように設定されていることを特徴とする請求項2記載の燃料電池。
V2=I×n/6F+C1 …(式2)
(ただし、C1は電気化学的に酸化されずに前記燃料電池から放出されるメタノール損失速度(単位時間当たりのモル数)である)
【請求項4】
燃料供給速度がV2のときに前記燃料電池の平均セル電圧または出力が、予め規定した値よりも小さくなったときに、V2を増加させ、新たな設定値にて燃料を供給するように前記演算処理器が動作することを特徴とする請求項2記載の燃料電池。
【請求項5】
燃料供給速度がV2のときに前記燃料電池の平均セル電圧または出力が、予め規定した値よりも大きくなったときに、V2を減少させ、新たな設定値にて燃料を供給するように前記演算処理器が動作することを特徴とする請求項2記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−54285(P2011−54285A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199195(P2009−199195)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】