説明

有機系艶消し材

【課題】塗料や樹脂成型品をはじめとする種々の用途に幅広く用いることができる透明性に優れ、艶消し効果の高い有機系艶消し材を提供する。
【解決手段】全ポリマー成分の50重量%以上がポリアクリロニトリルまたはポリメチル(メタ)アクリレートからなる重合体の樹脂微粒子であって、円形度が0.50〜0.94であり、かつ体積平均粒子径が50μm以下である有機系艶消し材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料や樹脂成型品をはじめとする種々の用途に幅広く用いることができる透明性に優れ、艶消し効果の高い有機系艶消し材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微粉ケイ酸等の無機物や有機微粒子等を艶消し材として用いた艶消し塗料組成物はよく知られている。このうち微粉ケイ酸等の無機物のほとんどは不定形であり艶消し性に優れるが、透明性が悪いため白化現象を起こし下地の色調を阻害してしまう問題点があった。
【0003】
一方、透明性が良く、下地の色調を損なうことなく艶消し性が得られやすいことから、例えば、アクリル、ウレタン、ナイロン等の有機微粒子が有機系艶消し材として提案されている(特許文献1、2参照)。
しかしながら、それら有機微粒子は球状もしくは略球状であり、より高い艶消し効果を得るためには添加量を増やす必要があり、塗料化段階での取扱性を著しく低下させる問題点があった。
【0004】
こうした問題を解決できる技術として、不定形のポリカーボネート樹脂粒子が提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、そこで用いられている有機微粒子はポリカーボネート樹脂に限定されており、例えばアクリル系の塗料、インキに混ぜ使用する場合は塗料、インキ樹脂との屈折率差が大きく透明性が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−288400公報
【特許文献2】特開2004−51901公報
【特許文献3】特開2007−233329公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、インキ、塗料や樹脂成型品をはじめとする種々の用途に幅広く用いることができる透明性に優れ、艶消し効果の高い有機系艶消し材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の有機系艶消し材は、円形度0.70〜0.94の粒子であって、全ポリマー成分の50重量%以上がポリアクリロニトリルまたはポリメチル(メタ)アクリレートからなる重合体の樹脂微粒子であり、体積平均粒子径が50μm以下であるため、この有機系艶消し材を添加し得られた塗膜、樹脂成型品は優れた透明性と艶消し性を有し、塗料や樹脂成型品をはじめとする種々の用途に幅広く用いることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の有機系艶消し材を用いれば、少量添加で高い艶消し効果を得ることができるため、従来の艶消し材で問題とされていた塗料、樹脂成型品の透明性の低下を軽減でき、下地の色調を生かした艶消し塗料や透明性に優れた光学材料など透明性と艶消し性を両立した塗料、インキ組成物や樹脂成型品などを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例3で得られた不定形樹脂微粒子を示した拡大顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の有機系艶消し材の形状は不定形である。本発明において不定形とは、粒子を一方向から見た像(粒子投影像)の周囲に凹凸があるものをいい、下記式によって定義される円形度で真円を示す1.0よりどれだけ小さい値となるかで判定する。
粒子投影像の円形度=(粒子投影面積と同じ面積の円の周長)/(粒子投影像の周長)
粒子投影像の円形度の平均値=球形粒子の円形度
なお、上記の円形度は、例えば、シスメックス株式会社製フロー式粒子像分析装置「FPIA−3000S」を用いて測定することができる。
【0011】
本発明の有機系艶消し材の円形度は、0.70〜0.94の範囲が好ましく、0.80〜0.90の範囲がより好ましい。また、本発明の有機系艶消し材がこのような不定形の形状である事から艶消し性が高くなるものと思われる。
【0012】
本発明の有機系艶消し材は樹脂を粉砕することで不定形を得られるが、そのための粉砕方法は特に限定されず、例えば、ブレードミル、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、ロールなどの汎用の粉砕装置に供給することで得られる。
【0013】
また本発明の有機系艶消し材は、全ポリマー成分の50重量%以上がポリアクリロニトリルまたはポリメチル(メタ)アクリレートからなる重合体は、その組成を粉砕前の樹脂の製造段階で決定する。全ポリマー成分の50重量%以上がポリアクリロニトリルまたはポリメチル(メタ)アクリレートであれば他の重合性単量体などと共重合させて得られた粒子でも何ら問題はない。このような重合性単量体としては、例えばスチレン、p−メチルスチレン等のスチレン系モノマー、またアクリル酸エチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート等のアクリル酸エステルモノマー、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ラウリル、ジメチルアミノエチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル系モノマー、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル、酢酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル系モノマー、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のN−アルキル置換(メタ)アクリルアミド、メタクリロニトリル等のニトリル系モノマー、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の多官能モノマー等が挙げられる。このような重合性単量体は、単独で、または2種類以上を組合せて用いてもよい。
本発明に用いる艶消し材は全ポリマー成分中にポリアクリロニトリルまたはポリメチル(メタ)アクリレートの含有率が50重量%以上であり、好ましくは70%以上である。
又、ポリアクリロニトリルまたはポリメチル(メタ)アクリレートと共重合させる単量体としては耐溶剤性の面より2官能以上のメタクリル酸エステル系モノマーを入れることが好ましい。
【0014】
なお粉砕前の樹脂の製造方法としては、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、シード重合法、分散重合法など既知の方法が挙げられ特に限定されるものではない。
【0015】
(有機系艶消し材における体積平均粒子径)
本発明の有機系艶消し材における体積平均粒子径は、例えばシスメックス株式会社製フロー式粒子像分析装置「FPIA−3000S」を用いて測定することができる。
【0016】
また本発明の有機系艶消し材の体積平均粒子径は、50μm以下が好ましく、20μm以下のものがより好ましい。平均粒子径がこの範囲であれば高い艶消し効果が得られるが、逆にこの範囲より大きいと均一に塗工することが困難となり、塗膜表面にざらつきを与えるほか塗膜物性の低下を引き起こす可能性が高くなる。またこの範囲より小さいと塗料化や樹脂混錬段階での分散が極めて困難となるほか、艶消し性が著しく低下する。
【0017】
本発明の有機系艶消し材は、塗料、インキ組成物のほか樹脂成型品などに含有させて用いることができる。具体的に、まず、塗料、インキ組成物を製造する方法としては、本発明の有機系艶消し材及びバインダ樹脂を有機溶剤に添加することによって艶消し塗料、インキ組成物を得ることができる。上記バインダ樹脂は特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂が挙げられ、具体的には、例えば、アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、シリコーン樹脂、メラミン樹脂などが挙げられる。なお、塗膜に透明性を付与する場合には、アクリル系樹脂、アクリルーシリコーン系樹脂などを好適に用いることが好ましい。
【0018】
上記有機溶剤は、バインダ樹脂を溶解するものであれば、特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、酢酸エチル、酢酸ブチル、イソプロピルアルコール、アセトン、アニソールなどが挙げられ、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
又、塗料、インキ組成物には、レベリング剤、表面改質剤、脱泡剤、顔料などの着色剤などの公知の各種添加剤が添加されてもよい。
【0019】
上記艶消し塗料、インキ組成物は、例えば、有機溶剤にバインダ樹脂を溶解した後に本発明の有機系艶消し材を添加して、サンドミル、ボールミル、アトライター、高速回転撹拌装置、三本ロールなどを用いて均一に分散、混合させても製造することができる。
【0020】
本発明の有機系艶消し材は、上記のような溶剤系の塗料、インキ組成物に限定されず無溶剤系、水性、粉体など各種塗料、インキ組成物にも用いることができる。
【0021】
一方、本発明の有機系艶消し材は熱可塑性または熱硬化性マトリックス樹脂に練り込んで成形することにより艶消し効果のある樹脂成型品を製造することが出来る。
これらのマトリックス樹脂としてはポリメチルメタクリレート樹脂、MS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂など透明性に優れ、耐候性が良く、剛性のある樹脂が好ましく用いられる。
本発明の樹脂成形品は樹脂と有機系艶消し材は混合機で混合し、溶融混練機で混練した後、押し出すことでシート状の艶消しの樹脂成形品を得ることができる。また溶融混練後、ペレットとして取り出し、このペレットを溶融後射出成形することでも艶消し樹脂成形品を得ることが出来る。
【0022】
上述の用途は一例であり、本発明の有機系艶消し材は、その他の幅広い用途にも用いることができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例および比較例により本発明の効果を説明するが、本発明の範囲はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0024】
(1)塗料組成物の調製
溶剤系アクリルバインダー(バナレジン:新中村化学(株)製、樹脂濃度:35重量%、希釈溶剤:メチルエチルケトン/トルエン=1/1)100重量部に対してメチルエチルケトン50重量部、試料粒子を3.5重量部加え、ホモジナイザーで10分間攪拌し各種評価用の塗料組成物を得た。
【0025】
(1)艶消し性評価
艶消し性は、塗料組成物を塗工、乾燥して得られたフィルムサンプルの光沢度で評価する。
すなわち、ポリエチレンテレフタレートフィルム(コスモシャイン#A4300:東洋紡績(株)製、フィルム厚み:100μm)上に各試料を混合した塗料組成物をバーコーター#15で塗工し、50℃の熱風乾燥機中で30分乾燥しPETフィルムサンプルを得る。そのフィルムサンプル表面を光沢度計(堀場製IG−310)の60°光沢度で評価した。数値が低いほど艶消し性が高いと判断した。 評価基準としては、艶消し性に優れる光沢度20未満を◎、良好な20以上30未満を○、劣る30以上を×とする。
【0026】
(2)透明性評価
透明性は、塗料組成物を塗工、乾燥して得られたフィルムサンプルの全光線透過率で評価する。
すなわち、艶消し性評価同様に、各試料を混合した塗料組成物を塗工、乾燥し得られたPETフィルムサンプルを、ヘイズメーター(日本電色工業株式会社製「NDH−2000」)で測定し全光線透過率を算出した。評価基準としては、全光線透過率が90%以上を透明性○、85%以上90未満を透明性△、85%未満を透明性×とする。
【0027】
(3)塗工外観評価
得られたフィルムサンプルの塗工面の凝集物(ブツ)の有無及び筋状になる現象(スジ)の有無を目視にて確認して、下記の基準によって評価した。
○:ブツ又はスジがない。
△:わずかにブツ又はスジがある。
×:ブツ又はスジがある。
【0028】
<実施例1>
(1)粉砕前のポリアクリロニトリル系樹脂の合成
脱イオン水778部にポリビニルアルコール(クラレ製PVA217)10部、硫酸ナトリウム10部、硫酸銅・5水和物1部を溶解した水溶液をガラス製反応槽に仕込む。 次いで単量体としてアクリロニトリルを160部、メタアクリル酸メチルを40部、触媒として2,2’―アゾビス(2−メチルバレロニトリル)2部を溶解したものを反応槽に添加し、攪拌しながら液温度を50℃に上昇させ5時間温度保持させることでポリアクリロニトリル系樹脂の水分散体を得た。
その後、ポリアクリロニトリル系樹脂の水分散体を固液分離し、70℃の熱風乾燥機で乾燥し本発明の粉砕前のポリアクリロニトリル系樹脂を得た。
(2)有機系艶消し材の作成
(1)で得られた粉砕前のポリアクリロニトリル系樹脂を竪型ミル(石川島播磨重工業製SH−75型)で粉砕し、本発明の有機系艶消し材を得た。
(3)塗膜作成
(2)で得られた有機系艶消し材を用いて塗料組成物を調製して塗膜を作成し、透明性、艶消し性及び塗工外観を評価した。
【0029】
<実施例2〜3>
実施例1の(2)の粉砕処理時間を変更しサイズ違いの本発明の有機系艶消し材を得た。又、実施例1と同様にして塗膜の評価を行った。
【0030】
<実施例4>
(1)粉砕前のポリメタクリル酸メチル系樹脂の合成
脱イオン水831部にポリビニルアルコール(クラレ製PVA217)7部、硫酸ナトリウム10部、硫酸銅・5水和物1部を溶解した水溶液をガラス製反応槽に仕込む。 次いで単量体としてメタアクリル酸メチルを135部、エチレングリコールジメタクリレートを15部、触媒として2,2’―アゾビス(2−メチルバレロニトリル)1部を溶解したものを反応槽に添加し、攪拌しながら液温度を50℃に上昇させ5時間温度保持させることでポリメタクリル酸メチル系樹脂の水分散体を得た。その後、ポリメタクリル酸メチル系樹脂を70℃の熱風乾燥機で乾燥し本発明の粉砕前のポリメタクリル酸メチル系樹脂を得た。
(2)有機系艶消し材の作成
(1)で得られた粉砕前のポリアクリロニトリル系樹脂を竪型ミル(石川島播磨重工業製SH−75型)で粉砕し、本発明の有機系艶消し材を得た。
(3)塗膜作成
(2)で得られた有機系艶消し材を用いて塗料組成物を調製して塗膜を作成し、透明性、艶消し性及び塗工外観を評価した。
【0031】
<比較例1>
粉砕時間を短くした以外は実施例1と同様にして比較例の艶消し材を得た。
【0032】
<比較例2>
合成時の撹拌数を上げた以外実施例4と同様にしてポリメタクリル酸メチル系樹脂を得た。得られた粉砕前のポリメタクリル酸メチル系樹脂の平均粒子径は5μmであり、これを艶消し材とした。
【0033】
<比較例3>
市販されているポリカーボネート樹脂を竪型ミル(石川島播磨重工業製SH−75型)で粉砕して艶消し剤を得た。得られた艶消し剤について艶消し性等を評価した。
【0034】
<比較例4>
市販されているシリカ微粒子(富士シリシア化学製サイロイド74)を入手し、艶消し性等を評価した。
【0035】
上記で作成した各種微粒子について、平均粒子径、円形度、60°グロス値、全光線透過率、塗膜外観を評価して、その結果を表1にまとめて示した。
【0036】
【表1】

【0037】
表1から本発明の実施例1〜4の有機系艶消し材は、艶消し性と透明性に優れた塗膜を与えることが理解される。 特に全光線透過率で評価した透明性は、一般に使用されている無機微粒子(比較例4)と比べ格段に優れていることが判る。
また主成分がポリアクリロニトリルやポリメタクリル酸メチルであっても平均粒子径や円形度が請求項の範囲から外れる比較例1、2の試料粒子では、艶消し性、透明性、塗膜外観の全てを満足できず本発明の課題を達成しない。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の艶消し剤は、円形度0.70〜0.94の粒子であって、全ポリマー成分の50重量%以上がポリアクリロニトリルまたはポリメチル(メタ)アクリレートからなる重合体の樹脂微粒子であり、体積平均粒子径が50μm以下であるため、この有機系艶消し材を添加し得られた塗膜、樹脂成型品は優れた透明性と艶消し性を有し、塗料や樹脂成型品をはじめとする種々の用途に幅広く用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全ポリマー成分の50重量%以上がポリアクリロニトリルまたはポリメチル(メタ)アクリレートからなる重合体の樹脂微粒子であって、円形度が0.50〜0.94であり、かつ体積平均粒子径が50μm以下であることを特徴とする有機系艶消し材。
【請求項2】
請求項1記載の有機系艶消し材を含有することを特徴とする塗料。
【請求項3】
請求項1記載の有機系艶消し材を含有することを特徴とするインキ組成物。
【請求項4】
請求項1記載の有機系艶消し材を含有することを特徴とする樹脂成型品。

【図1】
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【公開番号】特開2011−6505(P2011−6505A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148441(P2009−148441)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】