説明

有機薄膜太陽電池

【課題】金等の高価な材料を使用しないで、変換効率の高い新たな有機薄膜太陽電池を提供することを目的とする。
【解決手段】有機薄膜太陽電池であって、太陽光に対して透明な基板10と、前記基板上に設けられた透明な電極20と、前記電極上に設けられたポリ3,4−エチレンジオキシチフェン(PEDOT):ポリスチレン・スルホン酸(PSS)複合薄膜30と、前記複合薄膜上に設けられたポリヘキシルチオフィンとフラーレン誘導体による複合光起電力薄膜層40と、前記複合光起電力薄膜層上に設けられたパラジウム金属薄膜層50と、前記パラジウム金属薄膜層上に設けられた半絶縁層60と、前記半絶縁層上に設けられた電極70と、を備えた有機薄膜太陽電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜太陽電池に関し、より詳しくは、有機薄膜太陽電池のコスト上昇を抑えて効率を向上することに関する。
【背景技術】
【0002】
現在は、地球温暖化を防止するため、クリーンエネルギーの開発が要望されている。
その中で、太陽電池による発電は、世界規模で推進されている。
【0003】
有機薄膜太陽電池は、2つの異種電極間に、電子供与性および電子受容性の機能を有する有機薄膜を配置する構造となっており、シリコンなどに代表される無機太陽電池に比べ製造工程が容易であり、かつ低コストで大面積化が可能であるという利点を持つ。しかし、現在有機太陽電池の発電効率は、シリコンなどに代表される無機太陽電池に比べ低くその改善が重要な課題となっていた。
【0004】
そこで、この改善の研究が世界中で活発に行われている。例えば、金ナノ粒子を使用して、粒子のプラズモン共鳴により光吸収が増強され、その結果、有機太陽電池の効率が向上したことが報告されている(非特許文献1等参照)。
【0005】
また、不対電子に着目して高効率化を達成する有機薄膜太陽電池の提案がある。これは、基板上に形成された第1電極層と、正孔取出し層と、光電変換層と、第2電極層とを有する有機薄膜太陽電池において、正孔取出し層を、導電性高分子材料と不対電子をもつ低分子化合物とする有機薄膜太陽電池である。不対電子に注目しているものの、電子スピンを測定することは無く、導電性高分子の正孔移動を円滑に行い、光電変換効率を向上させるものである。(特許文献1等参照)。
【0006】
【非特許文献1】Xiaohong Chen et al.,“Plasmon Eenhancement of bulk heterojunction organic photovoltaic devices by electrode modification”Applied Physics Letters 93, 123302(2008)
【特許文献1】特開2006−278583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、金は、希少金属で高価であり、太陽電池のように大量に使用するには適切ではない。また、有機薄膜太陽電池の効率は低くさらに向上することが重要であった。
【0008】
本発明は、以上のような課題を解決し、金等の高価な材料を使用しないで、変換効率の高い新たな有機薄膜太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、有機薄膜太陽電池の効率を向上するのに、各種の金属薄膜の効用を鋭意研究し、パラジウム等が有用であることに着目して、下記の発明を完成するに至った。
【0010】
(1) 有機薄膜太陽電池であって、太陽光に対して透明な基板と、前記基板上に設けられた透明な電極と、前記電極上に設けられたポリ3,4−エチレンジオキシチフェン(PEDOT):ポリスチレン・スルホン酸(PSS)複合薄膜と、前記複合薄膜上に設けられたポリヘキシルチオフィンとフラーレン誘導体による複合光起電力薄膜層と、前記複合光起電力薄膜層上に設けられたパラジウム金属薄膜層と、前記パラジウム金属薄膜層上に設けられた半絶縁層と、前記半絶縁層上に設けられた電極と、を備えた有機薄膜太陽電池。
【0011】
(1)に記載の有機薄膜太陽電池によれば、太陽光に対して透明な基板と、前記基板上に設けられた透明な電極と、前記電極上に設けられたポリ3,4−エチレンジオキシチフェン(PEDOT):ポリスチレン・スルホン酸(PSS)複合薄膜と、前記複合薄膜上に設けられたポリヘキシルチオフィンとフラーレン誘導体による複合光起電力薄膜層と、前記複合光起電力薄膜層上に設けられたパラジウム金属薄膜層と、前記パラジウム金属薄膜層上に設けられた半絶縁層と、前記半絶縁層上に設けられた電極と、を備えるので透明な基板を通して吸収した太陽光がパラジウム金属薄膜層まで到達する。パラジウム金属薄膜層による表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance)効果により、太陽光によるエネルギーを効率よく吸収して発電効率を高めることができる。
【0012】
ここで、半絶縁層とは、パラジウム金属薄膜層と電極とを表面プラズモン共鳴効果を発揮するように絶縁し、かつパラジウム金属薄膜層の電荷を電極に供給する層である。具体的にはフッ化リチウムによる層が望ましいが、それに限られるものではない。
【0013】
(2) 前記パラジウム金属薄膜層の厚みが1nmから8nmである(1)に記載の有機薄膜太陽電池。
【0014】
(2)に記載の有機薄膜太陽電池によれば、パラジウム金属薄膜層の厚みが1nmから8nmと適切な厚みであるので、効率を高くするとともに、パラジウム金属資源の節約をすることができる。
【0015】
(3) 有機薄膜太陽電池であって、太陽光に対して透明な基板と、前記基板上に設けられた透明な電極と、前記電極上に設けられたポリ3,4−エチレンジオキシチフェン(PEDOT):ポリスチレン・スルホン酸(PSS)複合薄膜と、前記複合薄膜上に設けられたポリヘキシルチオフィンとフラーレン誘導体による複合光起電力薄膜層と、前記複合光起電力薄膜層上に設けられた銅金属薄膜層と、前記銅金属薄膜層上に設けられた半絶縁層と、前記半絶縁層上に設けられた電極と、を備えた有機薄膜太陽電池。

【0016】
(3)に記載の本発明の有機薄膜太陽電池によれば、太陽光に対して透明な基板と、前記基板上に設けられた透明な電極と、前記電極上に設けられたポリ3,4−エチレンジオキシチフェン(PEDOT):ポリスチレン・スルホン酸(PSS)複合薄膜と、前記複合薄膜上に設けられたポリヘキシルチオフィンとフラーレン誘導体による複合光起電力薄膜層と、前記複合光起電力薄膜層上に設けられた銅金属薄膜層と、前記銅金属薄膜層上に設けられた半絶縁層と、前記半絶縁層上に設けられた電極と、を備えるので、透明な基板を通して吸収した太陽光が、パラジウム金属薄膜層まで到達する。銅金属薄膜層による表面プラズモン共鳴効果により、太陽光によるエネルギーを効率よく吸収して発電効率を高めることができる。
【0017】
(4) 前記半絶縁層の厚みが0.2nmから1nmである請求項1から請求項3のいずれかに記載の有機薄膜太陽電池。
【0018】
(4)に記載の本発明の有機薄膜太陽電池によれば、半絶縁層の厚みが0.2nmから1nmと適切な厚みであるので、パラジウム薄膜金属層又は銅薄膜金属層で表面プラズモン共振効果を適切に発生させ、その効果により発生した電気を適切に電極に伝達することが出来る。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、金、銀等の高価な材料を用いないで同等以上の性能を有する有機薄膜太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の有機太陽電池の構成を示す1例である。
【図2】本発明の有機太陽電池の製造工程を示す1例である。
【図3】有機太陽電池の性能を測定する方法を説明する図ある。
【図4】太陽電池の性能を測定する方法を説明する図ある。
【図5】本発明の有機太陽電池の性能を示す図である。
【図6】本発明の有機太陽電池の性能を示すデータである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、これはあくまでも一例であって、本発明の技術的範囲はこれに限られるものではない。
<実施例1>
【0022】
図1は、本発明の有機薄膜太陽電池の基本構造を示す。基本構造は、図1(a)は、本発明の金属薄膜有機太陽電池の断面を示す図であり、図1(b)は、本発明の金属有機薄膜太陽電池のAl電極側から見た図である。
【0023】
有機薄膜太陽電池の材料は、共役低分子系と共役ポリマー系とがある。共役低分子系は、P型有機半導体とN型有機半導体とみなせる共役低分子を積層した構造の有機薄膜太陽電池としている。共役ポリマー系は、P型有機半導体の共役ポリマーとN型有機半導体としてフラーレン誘導体とを混合して得られた薄膜から、バルクへテロ接合構造とした有機薄膜太陽電池としている。
【0024】
図1(a)に示すように、太陽光に対して透明なガラス基板10上に、透明な電極20、例えばITO(Indium Tin Oxide)が設けられる。電極20上に設けられたポリ3,4−エチレンジオキシチフェン(PEDOT):ポリスチレン・スルホン酸(PSS)複合薄膜30が設けられる。複合薄膜30上に設けられたポリヘキシルチオフィンとフラーレン誘導体による複合光起電力薄膜層40が設けられる。複合光起電力薄膜層40上に設けられたパラジウム金属薄膜層50が設けられ、その上にフッ化リチウム層60が設けれ、その上にアルミ電極が図1(b)のように設けられる。ガラス基板10の照射された太陽光は、電極22と電極72より電気エネルギーに変換されて取り出される。
【0025】
図2は、本発明で使用する有機薄膜太陽電池の製造方法を示す1例である。ガラス基板10上に透明な電極20、例えばITO(Indium Tin Oxide)を設ける(S10)。次に、ポリ3,4−エチレンジオキシチフェン(PEDOT):ポリスチレン・スルホン酸(PSS)複合薄膜30を30nmの厚さでスピンコートする(S20)。
次に、ポリヘキシルチオフィンとフラーレン誘導体を溶媒クロロベンゼンに溶かしてスピンコートし厚さ70nmの複合光起電力薄膜層40を設ける(S30)。その上に真空蒸着法により、1.2nmのパラジウム金属薄膜50を形成する(S40)。そして、真空蒸着法により、半絶縁層である厚さ0.4nmのフッ化リチウム50を積層する(S50)。その後アルミ電極70を形成する(S60)。そして、140℃で8分間アニールをする(S70)。
【0026】
上記のようにして作成した薄膜有機太陽電池について、ソーラーシミュレータを用いた疑似太陽光(フィルターAM1.5、パワー100mW/cm)の光を照射して測定した。図3は、薄膜有機太陽電池の効率の測定法を説明する図である。
【0027】
図3に示すように、透明な電極20とアルミ電極70の交差する部分を測定エリア84と定め、測定の為に測定エリア84の形状にあわせた試料用マスク80と、黒紙で測定範囲以外の光を遮断する遮光用マスク90を準備した。測定時は、試料用マスク80を薄膜有機太陽電池の表側、すなわち、ガラス基板10上に張り付け、遮光用マスク90を試料用マスク80上に張り付けた。また、透明電極(ITO電極)20には、Agペースト73をつけ、端子24と端子74に接続した。そして図3に示すように疑似太陽光を透明基板10側から照射した。
【0028】
このようにして、測定したデータは、図4に示すように解析される。図4に示すように暗い状態で測定した値(図4上の一点鎖線)に対して、疑似太陽光を照射した値(図4上の実線)のような曲線を描く。この曲線上で電圧と電流を掛けた最大生成電力Pmaxを入射光エネルギーで割り算して、最大光エネルギー変換効率を求める。
また、図4に示すような短絡電流密度Jscと開放電圧Voc測定し、これらを乗じた値を分母とし、最大生成電力Pmaxを分子として、フィルファクターFFを算出する。
【0029】
本発明の実施例1である、1.4nmの厚さのパラジウム薄膜を用いた例では、図5、図6に示すように、金属膜を用いない例よりも効率が0.73%向上していることが判明した。また、貴金属である金、銀を用いたサンプルよりも効率上昇率が大きいことが判明した。
【0030】
以上のようにして、金、銀等の高価な材料を用いないで同等以上の性能を有する有機薄膜太陽電池を提供することができることが判明した。
<実施例2>
【0031】
実施例2は、パラジウムにかえて、銅の薄膜を使用する例である。銅は、電気産業にて多く使用されている。銅も金、銀、パラジウムと同様に結晶構造は、面心立法構造である(長島弘三、富田功著「一般化学」ページ95参照)。また、銅は周期表で原子番号29であり、パラジウムは原子番号46であり、同じN殻の電子分布をもつ(長島弘三、富田功著「一般化学」ページ26,27参照)。
【0032】
今回の試作品では、他の金属膜と同じ厚さの1.4nmであり、構成、製作方法は、図1と図2のパラジウムを銅に置く変えたのみであるので、説明を省略する。
【0033】
図5、図6に示すように、銅の金属薄膜を使用した場合に、使わないケースより、0.24%効率が向上している。したがって、表面プラズモン共鳴効果が表れていると推定される。
【0034】
また、表面プラズモン共鳴効果が表れる適切な厚みを選定することにより、金薄膜を使用した有機太陽電池に匹敵する性能を有する有機太陽電池を実現する可能性がある。
【0035】
以上のようにして、金、銀等の高価な材料を用いないで同等以上の性能を有する有機薄膜太陽電池を提供することができる。
【0036】
本発明の実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることができる。そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0037】
10 透明基板
20 透明電極
22 正極端子
30 PEDOT:PSS複合膜
40 複合光起電力薄膜
50 パラジウム又は銅薄膜層
60 フッ化リチウム層
70 アルミ電極
72 負極端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機薄膜太陽電池であって、
太陽光に対して透明な基板と、
前記基板上に設けられた透明な電極と、
前記電極上に設けられたポリ3,4−エチレンジオキシチフェン(PEDOT):ポリスチレン・スルホン酸(PSS)複合薄膜と、
前記複合薄膜上に設けられたポリヘキシルチオフィンとフラーレン誘導体による複合光起電力薄膜層と、
前記複合光起電力薄膜層上に設けられたパラジウム金属薄膜層と、
前記パラジウム金属薄膜層上に設けられた半絶縁層と、
前記半絶縁層上に設けられた電極と、
を備えた有機薄膜太陽電池。
【請求項2】
前記パラジウム金属薄膜層の厚みが1nmから8nmである請求項1に記載の有機薄膜太陽電池。
【請求項3】
有機薄膜太陽電池であって、
太陽光に対して透明な基板と、
前記基板上に設けられた透明な電極と、
前記電極上に設けられたポリ3,4−エチレンジオキシチフェン(PEDOT):ポリスチレン・スルホン酸(PSS)複合薄膜と、
前記複合薄膜上に設けられたポリヘキシルチオフィンとフラーレン誘導体による複合光起電力薄膜層と、
前記複合光起電力薄膜層上に設けられた銅金属薄膜層と、
前記銅金属薄膜層上に設けられた半絶縁層と、
前記半絶縁層上に設けられた電極と、
を備えた有機薄膜太陽電池。
【請求項4】
前記半絶縁層の厚みが0.2nmから1nmである請求項1から請求項3のいずれかに記載の有機薄膜太陽電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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