説明

有機金属化合物中の不純物測定方法および不純物測定装置

【課題】 有機金属化合物の液体材料中のパーティクル等不純物を定量的に判定し、品質管理するための迅速かつ安価な有機金属化合物中の不純物測定方法および不純物測定装置を提供すること。
【解決手段】 所定の容量を有する試料セル1と、試料セル1の内部に液体材料を導入する試料導入部1aと、試料セル1から液体材料を供出する試料供出部1bと、試料セル1の内部に特定波長域の近紫外光〜可視光〜近赤外光を照射する光源部2と、試料セル1からの透過光または/および散乱光を受光する受光部3a,3bと、を有する濁度計10を備え、試料セル1の内部をパージするドライな不活性ガスを供給するパージガス供給部を有するとともに、検出された濁度から液体材料中の不純物濃度を算出することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機金属化合物中の不純物測定方法および不純物測定装置に関し、例えば、半導体や太陽電池等の生産装置や研究設備等において使用される有機金属化合物中に含まれる不純物の測定方法および不純物測定装置に関するものである。なお、本願にいう「有機金属化合物」とは、広く工業的に用いられる有機金属化合物、例えば、ジメチル亜鉛(DMZn)やジエチル亜鉛(DEZn)などの有機亜鉛化合物,トリメチルアルミニウム(TMA)などの有機アルミニウム化合物あるいはノルマルブチルリチウム(n−BuLi)などの有機リチウム化合物などを挙げることができる。
【背景技術】
【0002】
半導体や太陽電池等を生産する製造装置や新たな素材を開発する研究設備、あるいは高純度品が要求される半導体の材料等として、上記のような有機金属化合物が多く使用されている。こうした有機金属化合物は、高純度の液体材料として使用される一方、熱、空気、あるいは光に対して不安定である物質が多く、これらに暴露されると酸化、分解、変性といった劣化を引き起こすことがある。こうした劣化に伴い、液体材料中にはパーティクル等不純物の発生すること多く、パーティクルは、半導体プロセス装置の故障や成膜後の膜質低下原因となることから、製造・研究あるいは製品の特性に大きな影響を与えることがある。従って、こうした不純物の除去,精製処理が必要になるとともに、材料中のパーティクル等の不純物を定量的に判定し、品質管理するための迅速かつ安価な方法を確立することが急務である。
【0003】
一般的に、半導体製造プロセス向けの液体材料では、アッセイ(純分)と金属不純物量、塩素含有量により品質保証される。このとき、アッセイの分析には、ガスクロマトグラフィー(GC)またはプロトン核磁気共鳴装置(1H−NMR)、金属不純物の分析には、誘導結合プラズマ質量分析法(ICPMS)、塩素成分の分析には、イオンクロマトグラフィー法(IC)が用いられる。
【0004】
例えば、近年半導体プロセスにおいて多用されているDMZn等不純物を含んだ有機亜鉛化合物の粗製物を、製造工程において混入するハロゲン成分等を除去処理し、効果的に高純度に精製出来る有機亜鉛化合物の精製方法と同時に、処理された有機亜鉛化合物中のハロゲン濃度を測定する方法が提案されている(特許文献1参照)。具体的には、有機亜鉛化合物を合成した反応液を単蒸留して反応溶媒を除去し、得られた有機亜鉛化合物の粗製物を活性炭と接触させ、混入している不純物を吸着除去させる方法と合わせて、ジエチル亜鉛中の不純物として、ヨウ化メチル(MeI)および塩化メチル(MeCl)が挙げられ、その測定には、ガスクロマトグラフィースペクトル及び発光分光分析計を用いた方法が提案されている(特許文献1段落0026,0027参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06−41151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のような有機金属化合物の液体材料中の不純物の測定方法あるいは測定装置では、以下のような種々の課題が生じることがあった。
(i)上記のような従来の液体材料中の不純物測定方法では、自己分解によるパーティクル等の不純物の発生や変色を定量的に検出することはできなかった。
(ii)例えば、アッセイを「1H−NMR」により確認する場合、不純物がNMR溶媒に可溶かつ分子内にプロトンを有する構造でなければ検出できないが、パーティクルは固体であるため、1H−NMRでは検出不可能である。また、不純物が、有機金属化合物の分子構造の一部が変化した液体であっても、分解前と類似の分子構造であれば、主成分とのNMRシグナルの分離が不十分となり、検出感度が低下する。
(iii)金属の分析では、製造工程や充填工程からの汚染に起因する金属不純物を検出することができるが、自己分解により生成した不純物は、分解前と同じ金属元素含有量であることから検出できない。
(iv)また、塩素の分析においても、金属の分析と同様、塩素系の不純物は自己分解によって増減しないため検出することができない。
(v)さらに、ガスクロマトグラフィーによる方法では、上記例のようにMeIやMeClを定量分析することはできるが、それ以外の形態で存在するヨウ素や塩素を分析することはできない上、感度が不十分である。
(vi)パーティクルを測定する方法としては、液体用パーティクルカウンタによる測定が知られているが、空気中で不安定な有機金属化合物のような物質の測定には、気密性を保持する大型で高価な設備が必要である。また、測定には、一定量の液体材料を測定装置に導入しつづける必要があり、高価な液体材料を大量に消費することとなるため好ましくない。
(vii)液体材料を蒸発乾固させて、残渣の重量を測定する方法は、計測可能な量のパーティクルを捕集するために多くの液体材料が必要である。また、液体材料が金属化合物である場合には、残渣を酸溶液として金属成分を測定する方法がある。この方法ではICPMS、ICPOESといった大型測定装置が必要であり、測定時間も長時間となる。
【0007】
本発明の目的は、有機金属化合物の液体材料中のパーティクル等不純物を定量的に判定し、品質管理するための迅速かつ安価な有機金属化合物中の不純物測定方法および不純物測定装置を提供することにある。特に、高純度が要求される半導体プロセス向けの液体材料を安定的に高純度を維持しながら供給することができるように、反応性の高い液体材料中の微量の不純物を高感度かつ安全に測定することができる有機金属化合物中の不純物測定方法および不純物測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、以下に示す有機金属化合物中の不純物測定方法および不純物測定装置によって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
本発明は、有機金属化合物中の不純物測定方法であって、有機金属化合物の液体材料を測定対象とし、所定の容量を有する濁度計の試料セル内部の該液体材料に照射される特定波長域の近紫外光〜可視光〜近赤外光の吸収量または/および散乱量から、該液体材料の濁度を検出することによって、該液体材料の不純物の濃度を測定することを特徴とする。
【0010】
自己分解性を有する有機金属化合物の液体材料が原料等として使用される半導体製造プロセス等においては、液体材料中の不純物を選択的に測定することができる測定方法が要求される。つまり、本来精製処理された有機金属化合物中には、殆ど不純物は存在せず、そのまま製造プロセスにおいて利用することができるものであるにも拘らず、送給過程(貯留工程や加熱工程を含む)における自己分解によって生じたパーティクルは、製造プロセスにおいて有害であるばかりではなく、その測定方法が不明であったために、その存在およびその影響を確認することが困難であるとともに、除去あるいは制御することが困難であった。本発明は、こうしたパーティクルが光を吸収あるいは散乱させる性質を有することを利用し、濁度として検出することによって、液体材料中の自己分解によって発生し液体材料中に散在するパーティクルの濃度測定が可能であることを見出したものである。つまり、自己分解によって生じるパーティクルは、その元となる有機金属化合物の当該金属の化合物であるとともに、固体として安定した性質を有するもの(それゆえ製造プロセスにおいて問題となる)であり、従って、液体材料中に分離しながら分散して存在しているという特性を利用し、液体材料の濁度という指標を用いることによって、非常に精度よくパーティクル等不純物を測定することが可能となった。さらに、こうしたパーティクル等不純物を定量的に判定することによって、高純度が要求される半導体プロセス向けの液体材料を、安定的に高純度を維持しながら供給することが可能となった。
【0011】
本発明は、上記有機金属化合物中の不純物測定方法であって、前記液体材料の濁度の基準となる所定濃度の不純物を含む1の該液体材料、あるいは同一条件で作製され、含まれる不純物濃度の異なる複数の該液体材料について、予め検出された濁度と、該液体材料を蒸散・乾固処理を行った残渣から得られた不純物濃度との相関から、該液体材料の検量線を作成するとともに、未知の有機金属化合物の液体材料について、該液体材料の濁度を検出し、検出された濁度から前記検量線に基づき、該液体材料の不純物の濃度を得ることを特徴とする。
有機金属化合物中の不純物の測定おいては、既述のような製造工程において原料等源泉が明確な物質については、各工程毎の処理・管理が好ましい。本発明は、上記のように、自己分解によって生じるパーティクルという、従前法では測定が難しく、また発生時点あるいは発生工程の特定が非常に困難な不純物を、測定する方法を見出したものであり、測定値のトレーサビリティを得るためにも、その基準を明確にする必要がある。つまり、自己分解によって生じるパーティクルは、固体として安定した性質を有し、液体材料中に分離しながら分散して存在しているという特性を有するとともに、不純物のない液体材料は蒸散によって残留しないという特性を利用し、不純物の基準を、液体材料の蒸散・乾固処理を行った残渣とし定量性を確保することによって、現実のプロセスにおいて問題となる成分とのトレーサビリティの高い測定値を得ることができることを見出した。具体的には、予め検出された濁度と、蒸散・乾固処理を行った残渣から得られた不純物の量(濃度)との相関から、非常に高い測定精度を有する有機金属化合物中の不純物測定方法を提供することが可能となった。
【0012】
本発明は、有機金属化合物中の不純物測定方法であって、
以下の1次処理プロセス、
(1)予め所定濃度の不純物を含む有機金属化合物の液体材料が、準備される。
(2)所定の容量を有する濁度計の試料セル内部が、予めドライな不活性ガスによってパージされる。
(3)前記試料セルに、前記(1)で準備された前記液体材料が、所定量導入される。
(4)該液体材料の濁度が、検出される。
(5)所定量の該液体材料の蒸散・乾固処理が行われ、残渣量から前記液体材料中の不純物の量が得られる。
(6)前記(5)によって得られた不純物の量から、前記液体材料中の不純物濃度が算出される。
(7)前記(4)によって得られた濁度と、前記(6)によって算出された不純物濃度との相関関係が得られる。
および、以下の2次処理プロセス、
(8)前記試料セルに、未知の有機金属化合物の液体材料が、所定量導入される。
(9)該液体材料の濁度が、検出される。
(10)上記(7)で得られた相関関係から、該液体材料中の不純物濃度が算出される。
を有することを特徴とする。
上記のように、本発明は、自己分解性を有する有機金属化合物の自己分解によって生じるパーティクルの特有の性質を利用して、不純物としての濃度測定を可能にした。つまり、液体材料中での固体状での分離・分散性および蒸散による液固分離性を、前者を濁度、後者を残渣量として、それぞれ異なる検出手段によって定量し、双方の相関を明確にすることによって、非常に精度の高い不純物の測定が可能となったものである。本発明は、こうした測定方法を2つの処理プロセスとして捉え、各操作を明確にすることによって、インラインでの使用が可能で、品質管理するための迅速かつ安価で、高感度かつ安全に測定することができる有機金属化合物中の不純物測定方法および不純物測定装置を提供することが可能となった。
【0013】
本発明は、有機金属化合物中の不純物測定装置であって、有機金属化合物の液体材料を測定対象とし、所定の容量を有する試料セルと、該試料セルの内部に前記液体材料を導入する試料導入部と、該試料セルから前記液体材料を供出する試料供出部と、該試料セルの内部に特定波長域の近紫外光〜可視光〜近赤外光を照射する光源部と、該試料セルからの透過光または/および散乱光を受光する受光部と、を有する濁度計を備え、前記試料セルの内部をパージするドライな不活性ガスを供給するパージガス供給部を有するとともに、検出された濁度から前記液体材料中の不純物濃度を算出することを特徴とする。
上記のように、従前困難であった有機金属化合物中の不純物測定が、液体材料の濁度という指標を用いることによって、非常に精度のよくできることを見出した。また、該有機金属化合物は、自己分解性を有するとともに、微量の水分や酸素等と反応し不純物を発生し易いことから、濁度計を構成する試料セルの内部を確実に清浄化する必要がある。本発明は、こうした要請を具体化できる構成を有する有機金属化合物中の不純物測定装置を提案するものである。
【0014】
また、本発明は、上記有機金属化合物中の不純物測定装置であって、前記濁度計を収納する筐体、あるいは前記試料セルを含む密閉可能な空間部を備え、前記パージガス供給部からのパージガスによって、該筐体あるいは該空間部の内部が不活性ガス雰囲気を形成することを特徴とする。
有機金属化合物中の不純物測定装置においては、有機金属化合物が流通する試料セルの内部のパージが重要であるとともに、外気との遮断が好ましい。本発明は、試料セルのみならず、これを含む空間部、さらには濁度計全体をパージ処理することによって、2重の安全性を確保するもので、特に試料セルへの液体材料の導入や試料セルの保守等におけるマニュアル操作があれば、測定対象物からの不純物の発生を未然に防止する点において、非常に有効に機能する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る有機金属化合物中の不純物測定装置の1の構成例を示す概略図
【図2】本発明に係る有機金属化合物中の不純物測定方法による検証結果を例示する図
【図3】従来法に係る有機金属化合物中の不純物測定の検証結果を例示する図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。本発明に係る有機金属化合物中の不純物測定方法(以下「本方法」という)および不純物測定装置(以下「本装置」という)は、有機金属化合物の液体材料を測定対象とし、所定の容量を有する濁度計の試料セル内部の該液体材料に照射される特定波長域の近紫外光〜可視光〜近赤外光の吸収量または/および散乱量から、該液体材料の濁度を検出することによって、該液体材料の不純物の濃度を測定することを特徴とする。
【0017】
ここでいう「液体材料」は、不純物としてパーティクル等を含む液体材料であって、有機金属化合物、特に自己分解性を有する有機金属化合物を対象とする。一般に、常温(20〜30℃)常圧(約0.1MPa)で液体の有機金属化合物をいうが、ここでは、広く加圧条件下あるいは所定の温度条件下において液化された溶媒をも含む。具体的には、既述のように、DMZnやDEZnなどの有機亜鉛化合物等を挙げることができる。
【0018】
<本装置の概要>
図1は、本装置の構成例を示す概略図である。本装置は、所定の容量を有し、測定対象の液体材料Aが導入される試料セル1と、試料セル1の内部に特定波長域の近紫外光〜可視光〜近赤外光を照射する光源部2と、試料セルからの透過光および散乱光を受光する受光部3a,3bと、を有する濁度計10を備える。検出された濁度データは、演算部20によって濁度から液体材料中の不純物濃度の算出に用いられる。演算部20は、外部のパーソナルコンピュータ等を用いることができるとともに、濁度計10の一部を構成することも可能である。試料セル1には、その内部に液体材料を導入する試料導入部1aと、試料セル1から液体材料を供出する試料供出部1bが接続される。なお、本装置では、濁度を透過光および散乱光の両方で検出する構成を例示しているが、いずれか一方のみを検出する構成を使用することも可能である。なお、これら構成要素の配列や設置の要否については、図1の構成に限定されるものでないことはいうまでもない。
【0019】
本装置は、さらに、試料セル1の内部をパージするドライな不活性ガスを供給するパージガス供給部(図示せず)を有することが好ましい。具体的には、試料導入部1aあるいは試料供出部1bにパージガス供給路(図示せず)を接続し、試料セル1の内部にドライな不活性ガスを供給することによって、試料セル1内壁部に吸着する水分等と反応性の高い有機金属化合物との反応による不純物の発生を防止することができる。不活性ガスとしては、例えば窒素やアルゴンのように水分等の不純物が少なく、入手が容易なガスが好ましい。不活性ガスは、予め設定した所定の供給流量で、不活性ガス導入部4を介して試料セル1に導入される。導入された不活性ガスは、順次、試料セル1等液体材料等(液相成分等を含む)の移送と同様の流路に給送されることによって、液体材料等が接する流路や部材をパージすることができる。このとき、流路や部材を加熱することによって、流路内壁に吸着している不純物を効果的にパージすることができる。
【0020】
本装置では、試料セル1内部の不活性ガスによるパージだけではなく、濁度計10を収納する筐体(図示せず)、あるいは試料セル1を含む密閉可能な空間部(図示せず)を備え、上記パージガス供給部からのパージガスによって、該筐体あるいは該空間部の内部が不活性ガス雰囲気を形成することも可能である。外気との遮断によって、2重の安全性を確保するとともに、試料セルの保守等における安全なマニュアル操作を可能にした。
【0021】
〔不純物濃度の測定〕
本装置(本方法)は、液体材料中の濁度から、有機金属化合物中の不純物濃度の測定ができることを特徴とする。つまり、演算部20において、入力された濁度データを基に、予め記憶された濁度データと不純物濃度データとの相関から、不純物濃度データに変換される。つまり、本装置におけるこうした機能および測定方法は、有機金属化合物自体の特性と、有機金属化合物において不純物が発生する要因および不純物の特性を検証して得られた、以下の知見から見出された。
(i)純粋な有機金属化合物は、加熱等によって全て蒸散し、その痕跡(残渣)が残留することがない。従って、蒸散処理によって、不純物の抽出の可能性がある。
(ii)精製処理された有機金属化合物は、自己分解によって不純物を発生し、その不純物は、当該金属あるいは金属反応生成物および金属化合物の一部変換された非溶解成分から構成される。従って、固体として安定した性質を有し、有機金属化合物の蒸散によって、蒸散することなく残渣として残留する。
(iii)発生した不純物は、液体材料中において微粒子(パーティクル)を形成し、不純物同士は、分離しながら分散して存在する。従って、不純物を含む液体材料は、光透過性あるいは光散乱性を有する。よって、これを濁度として検出すれば、定量性を確保することができる。
【0022】
本装置(本方法)は、上記知見(i)および(ii)を利用し、不純物の基準を、液体材料の蒸散・乾固処理を行った残渣を計量することによって、定量性を確保することができる。つまり、精製された有機金属化合物の場合には、採取された液体材料(重量Wo)のうち、有機金属化合物を蒸散させて得た残渣の量(重量Wa)を不純物の量とすることができることから、液体材料中の不純物濃度Ca(=Wa/Wo)が算出される。また、知見(ii)からは、現実のプロセスにおいて問題となる成分と当該基準となる不純物との間に高いトレーサビリティを得ることができる。さらに、知見(iii)から、この問題となる成分と濁度として検出される成分との間においても高いトレーサビリティを有することが導き出すことができる。具体的には、後述するジエチル亜鉛における「濁度とパーティクル」との検証結果および本発明者による他の有機金属化合物における検証の通り、両者は非常によい相関を有していることが判った。これによって、予め各有機金属化合物について、かかる相関関係を検量線として演算部20に記憶しておき、不純物濃度が未知の該有機金属化合物の液体材料について濁度を検出することによって、検出された該液体材料の濁度データから、該検量線を用いて該液体材料の不純物濃度を算出することができる。
【0023】
〔濁度の測定〕
濁度計10の光源部2は、近紫外光〜可視光〜近赤外光を照射する発光ダイオード(LED)や半導体レーザなどが用いられ、LED等の場合には、図1のように集光レンズ2aによって高密度の光が試料セル1に照射される。このとき、有機金属化合物の種類によって、選択性の高い照射光の波長域が設定される。試料セル1は、光源部2および受光部3a,3bに対して光透過性を有する窓(図示せず)が設けられるとともに、有機金属化合物との反応性がなく、耐蝕性を有する素材により構成されることが好ましい。また、試料セル1は、対象となる液体材料の特性および処理内容によって任意に温度設定される。例えば、低沸点の有機金属化合物の凝縮防止や高沸点の有機金属化合物の吸着防止等に必要な温度条件を確保できる温度が好ましい。受光部3a,3bは、フォトセルやフォトダイオードあるいは光電管などが用いられ、各出力から濁度データが作成される。
【0024】
光源部2から照射された光が、集光レンズ2aによって集光されて試料セルに照射される。このとき、有機金属化合物に対する選択性を上げるために、光学フィルタを設けることが好ましい(図示せず)。試料セル1内の液体材料中の不純物によって吸収された透過光は、受光部3aに到達し、透過光データとして出力される。試料セル1内の液体材料中の不純物によって散乱された散乱光は、受光部3bに到達し、散乱光データとして出力される。これらのデータから濁度が算出される。
【0025】
〔蒸散・乾固処理後の残渣の測定〕
本装置(本方法)においては、所定量の該液体材料の蒸散・乾固処理が行われ、残渣量から得られた液体材料中の不純物の量が基準となる。具体的には、有機金属化合物の液体材料を、加温可能な容器内に所定量採取し、その採取重量Woを測定する。次に、必要に応じて加温し、液体材料の蒸散・乾固処理を行い、有機金属化合物を蒸散させて残渣を得る。精製された有機金属化合物の場合には、この残渣の量Waが不純物の量とすることができる。従って、その残渣の量Waを測定し、液体材料中の不純物の量とすることによって、液体材料中の不純物濃度Ca(=Wa/Wo)が算出される。
【0026】
このとき、残渣の量Waは、その重量を秤量することによって、測定値を得ることができる。また、残渣には金属元素が含まれることから、これに代えて、残渣を酸溶液中に溶解させ、溶液中の金属量を、既述のICPMSあるいはICPOES等の金属分析装置を用いて分析することによって測定値を得ることができる。既述のような未知試料に対する常時の使用ではなく、特定の有機金属化合物の検量線作成のための測定であり、既述のような大きな負担、課題となるものではない。なお、以上の操作は、有機金属化合物の反応性が高いことから、密閉されドライな不活性ガスによってパージされた空間において行なうことが好ましい。
【0027】
<本装置における液体材料中の不純物測定方法>
上記のような構成を有する本装置においては、以下の1次〜2次の処理プロセスに沿って、液体材料中の不純物の測定が行われる。ここで、本方法における〔1〕1次処理プロセスは、検量線作成のための予備的処理操作であり、同一有機金属化合物についての検量線が記憶されていれば、新たな操作は省略することができる。〔2〕2次処理プロセスは、不純物濃度が未知の液体材料中の不純物の測定に該当する。各プロセスの処理時間は、試料セル1その他流路の内容積および液体材料の種類や使用条件によって設定される。
【0028】
〔1〕1次処理プロセス
本方法は、以下の1次処理プロセスを有する。
(1)予め所定濃度の不純物を含む有機金属化合物の液体材料が、準備される。
(2)所定の容量を有する濁度計の試料セル内部が、予めドライな不活性ガスによってパージされる。具体的には、不活性ガス供給部において所定の供給圧力に調整された不活性ガスが、試料セル1に導入され、試料供出部1bから供出される。試料セル1の上部に設けられた試料ガス導入部1aから、下部に設けられた試料供出部1bへパージすることが好ましい。また、予めドライな不活性ガスによってパージされた空間(図示せず)に、試料セル1が設けられ、以下の操作を不活性ガス雰囲気で行なうことも可能である。
(3)試料セルに、前記(1)で準備された液体材料が、所定量導入される。具体的には、所定量の液体材料が、試料導入部1aを介して試料セル1に導入される。
(4)該液体材料の濁度が、検出される。具体的には、試料セル1内の液体材料中の不純物によって吸収された透過光が受光部3aに到達し、透過光データとして出力され、不純物によって散乱された散乱光が受光部3bに到達し、散乱光データとして出力され、これらのデータに基づき濁度が演算される。
【0029】
次に、以下の処理プロセスを有する。
(5)所定量の該液体材料の蒸散・乾固処理が行われ、残渣量から液体材料中の不純物の量が得られる。具体的には、上記(4)において検出された液体材料を所定量(Wo)採取し、必要に応じて加温し、液体材料の蒸散・乾固処理を行い、有機金属化合物を蒸散させて残渣を得る。この残渣の量Waを測定し、液体材料中の不純物の量とする。残渣の量Waは、既述のように、重量法あるいは金属分析法等によって測定される。なお、こうした操作は、密閉され上記(2)と同程度にパージされた空間において行なうことが好ましい。
(6)上記(5)によって得られた液体材料の採取重量Woおよび不純物の量Waから、液体材料中の不純物濃度Ca(=Wa/Wo)が算出される。
(7)上記(4)によって得られた濁度と、上記(6)によって算出された不純物濃度との相関関係が得られる。具体的には、演算部20において、両者の相関データから、後述する図2のような、直線あるいは数次曲線に近似された検量線を算出し、記憶する。
【0030】
また、本方法は、以下の2次処理プロセスを有する。
(8)前記試料セルに、未知の有機金属化合物の液体材料が、所定量導入される。具体的には、該液体材料に対して、上記(3)と同様の操作を行なう。
(9)該液体材料の濁度が、検出される。具体的には、該液体材料に対して、上記(4)と同様の操作を行なう。
(10)上記(7)で得られた相関関係から、該液体材料中の不純物濃度が算出される。具体的には、上記(7)において算出された検量線を用い、上記(9)によって検出された濁度から、対応する液体材料中の不純物濃度が算出される。
【0031】
<本方法および本装置における測定精度の検証>
本装置を用い、液体材料としてジエチル亜鉛(DEZn)を対象とし、本方法および本装置における測定精度の検証を行なった。
【0032】
(a)濁度と残渣量との相関(検量線)の検証
(a−1)濁度の測定
ジエチル亜鉛の液体材料のサンプルについて、不活性ガス(N)雰囲気下で濁度計の試料セルに導入し、濁度を測定した。濁度は、波長660nmにおける吸収および散乱光を測定するポリスチレン濁度で表される。
(a−2)残渣量の測定
ジエチル亜鉛中のパーティクルは亜鉛が主成分であると考えられるため、パーティクル含有量はジエチル亜鉛を蒸発乾固して得られた残渣(Znパーティクル)を硝酸水溶液に溶解し、溶液中の亜鉛濃度をICPOESで分析することにより残渣量を測定した。
(a−3)実験結果
図2および下表1に、3つの異なる試料(ジエチル亜鉛)について測定した結果を示す。濁度とZnパーティクル量の間に相関性があり、パーティクル含有量を濁度測定により求めることができることが明らかになった。具体的には、図2のように、直線近似の相関が得られた。
【0033】
【表1】

【0034】
(b)従来法を用いた検証
(b−1)検証条件
上記(a)と同じジエチル亜鉛を従来の方法、すなわち1H−NMR、ICPMS、イオンクロマトグラフィー(以下、IC)用いて分析した
(b−2)検証結果
3つの異なる液体試料(ジエチル亜鉛)中のパーティクルについて、図3に1H−NMRを用いて測定した結果を示し、下表2にICPMSを用いて測定した結果を示し、下表3にICを用いて測定した結果を示す。サンプルNo.1〜3はパーティクル含有量に著しい違いがあるにもかかわらず、これらの分析方法ではその差を検出できないことが明らかな結果となった。
【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【符号の説明】
【0037】
1 試料セル
1a 試料導入部
1b 試料供出部
2 光源部
2a 集光レンズ
3a,3b 受光部
10 濁度計
20 演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機金属化合物の液体材料を測定対象とし、所定の容量を有する濁度計の試料セル内部の該液体材料に照射される特定波長域の近紫外光〜可視光〜近赤外光の吸収量または/および散乱量から、該液体材料の濁度を検出することによって、該液体材料の不純物の濃度を測定することを特徴とする有機金属化合物中の不純物測定方法。
【請求項2】
前記液体材料の濁度の基準となる所定濃度の不純物を含む1の該液体材料、あるいは同一条件で作製され、含まれる不純物濃度の異なる複数の該液体材料について、予め検出された濁度と、該液体材料を蒸散・乾固処理を行った残渣から得られた不純物濃度との相関から、該液体材料の検量線を作成するとともに、
未知の有機金属化合物の液体材料について、該液体材料の濁度を検出し、検出された濁度から前記検量線に基づき、該液体材料の不純物の濃度を得ることを特徴とする請求項1記載の有機金属化合物中の不純物測定方法。
【請求項3】
以下の1次処理プロセス、
(1)予め所定濃度の不純物を含む有機金属化合物の液体材料が、準備される。
(2)所定の容量を有する濁度計の試料セル内部が、予めドライな不活性ガスによってパージされる。
(3)前記試料セルに、前記(1)で準備された前記液体材料が、所定量導入される。
(4)該液体材料の濁度が、検出される。
(5)所定量の該液体材料の蒸散・乾固処理が行われ、残渣量から前記液体材料中の不純物の量が得られる。
(6)前記(5)によって得られた不純物の量から、前記液体材料中の不純物濃度が算出される。
(7)前記(4)によって得られた濁度と、前記(6)によって算出された不純物濃度との相関関係が得られる。
および、以下の2次処理プロセス、
(8)前記試料セルに、未知の有機金属化合物の液体材料が、所定量導入される。
(9)該液体材料の濁度が、検出される。
(10)上記(7)で得られた相関関係から、該液体材料中の不純物濃度が算出される。
を有することを特徴とする有機金属化合物中の不純物測定方法。
【請求項4】
有機金属化合物の液体材料を測定対象とし、所定の容量を有する試料セルと、該試料セルの内部に前記液体材料を導入する試料導入部と、該試料セルから前記液体材料を供出する試料供出部と、該試料セルの内部に特定波長域の近紫外光〜可視光〜近赤外光を照射する光源部と、該試料セルからの透過光または/および散乱光を受光する受光部と、を有する濁度計を備え、前記試料セルの内部をパージするドライな不活性ガスを供給するパージガス供給部を有するとともに、検出された濁度から前記液体材料中の不純物濃度を算出することを特徴とする有機金属化合物中の不純物測定装置。
【請求項5】
前記濁度計を収納する筐体、あるいは前記試料セルを含む密閉可能な空間部を備え、前記パージガス供給部からのパージガスによって、該筐体あるいは該空間部の内部が不活性ガス雰囲気を形成することを特徴とする請求項4記載の有機金属化合物中の不純物測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−132837(P2012−132837A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286454(P2010−286454)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000109428)日本エア・リキード株式会社 (53)
【Fターム(参考)】