説明

有機金属化合物

【課題】有機金属化合物の提供。
【解決手段】電子供与基置換アルケニルリガンドを含有する有機金属化合物が提供される。かかる化合物は蒸着前駆体としての使用に特に好適である。かかる化合物を用い、例えばALDおよびCVDなどにより薄膜を堆積させる方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、一般に、有機金属化合物の分野に関する。特に、本発明は、薄膜の化学気相堆積および原子層堆積に有用な有機金属化合物の分野に関する。
【0002】
原子層堆積(「ALD」)法において、表面を2以上の化学反応物質の交互に流れる蒸気にさらすことにより、共形薄膜(conformal thin film)が堆積される。第一前駆体(または反応物質)からの蒸気は、表面上に所望の薄膜が堆積されるその表面に導入される。未反応蒸気が次に真空下で系から除去される。次に、第二前駆体からの蒸気が前記表面に導入され、第一前駆体と反応させられ、過剰の第二前駆体蒸気が除去される。ALD法における各工程は典型的には所望の膜の単層を堆積させる。所望の膜厚が得られるまで、この一連の工程が繰り返される。一般に、ALD法はかなり低い温度、例えば、200〜400℃で行われる。正確な温度範囲は堆積される特定の膜ならびに用いられる特定の前駆体に依存する。ALD法は純粋な金属ならびに金属酸化物、金属窒化物、金属炭窒化物、および金属ケイ化窒化物を堆積させるために用いられてきた。
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0194703号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ALD前駆体は、反応容器内において十分な濃度の前駆体蒸気が適用な時間内に基体表面上に単層を堆積させることを保証するために十分揮発性でなければならない。前駆体はさらに、時期尚早に分解することなく、かつ望ましくない副反応なく蒸発するために十分安定でもなければならないが、基体上に所望の膜を形成するために十分反応性でなければならない。揮発性と安定性の特性のこのような要求されるバランスが原因で、好適な前駆体が全体的に欠乏している。
【0004】
従来の前駆体はホモレプティックである。すなわち、前駆体は単一のリガンド基を有する。ホモレプティック前駆体は均一な化学特性をもたらし、かくして、リガンドの官能性と堆積法を一致させ、調和させる特有の利点をもたらす。しかしながら、単一のリガンド基のみの使用は、他の最重要な前駆体特性、例えば、表面反応(例えば、化学吸着)および気相反応(例えば、第二の補充前駆体との反応)を支配する金属中心の遮蔽、前駆体の揮発性の調節、並びに前駆体に必要な熱安定性を達成することなどに対する制御性の低下をもたらす。例えば、テトラキス(ジアルキルアミノ)ハフニウムが現在、HfClの塩化物を含まない代替物として使用されている。しかしながら、この種類に属するの化合物は、貯蔵中および/または反応容器に到達する前に時期尚早に分解する傾向がある。熱安定性を付与する別の有機基で1以上のジアルキルアミノ基を置換することが試みられてきたが、他の基の官能性と合致することができず、および所望の安定性を達成することができないために、ほとんど成功していない。特定のアルケニル置換基14族化合物が、米国特許出願公開第2004/0194703号(Shenai−Khatkhateら)において、金属有機化学蒸着法(「MOCVD」)のための蒸着前駆体として開示されている。かかる化合物は、特定のALD条件下で必要な揮発性と熱安定性(または他の性質)のバランスを提供することができない。堆積要件を満たし、本質的に炭素を含まない膜を製造する好適で安定な前駆体が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、式(EDG−(CRy’−CR=CR−(CRy”+m(m−n)(式中、各RおよびRは独立して、H、(C−C)アルキルおよびEDGから選択され;RはH、(C−C)アルキル、EDGまたはEDG−(CRy’であり;RはHまたは(C−C)アルキルであり;各RおよびRは独立して、Hおよび(C−C)アルキルから選択され;EDGは電子供与基であり;M=金属;L=アニオン性リガンド;Lは中性リガンドである;y’=0〜6;y”=0〜6;m=Mの価数;n=1〜7;p=0〜3)を有する有機金属化合物を提供する。かかる化合物は、様々な蒸着法、例えば、化学蒸着法(「CVD」)および特にMOCVDにおける前駆体としての使用に好適であり、ALDに特に好適である。前記の所望の有機金属化合物および有機溶媒を含む組成物も提供される。かかる組成物は、ALDおよび直接液体注入法(direct injection process)における使用に特に好適である。
【0006】
本発明はさらに、膜を堆積させる方法であって:基体を反応容器中に提供し;気体状の前記有機金属化合物を反応容器に移送し;金属を含む膜を基体上に堆積させる工程を含む方法を提供する。別の実施態様において、本発明は、膜を堆積させる方法であって:基体を反応容器中に提供し;第一前駆体として気体状の前記有機金属化合物を反応容器に移送し;第一前駆体化合物を基体の表面上に化学吸着させ;任意の化学吸着されていない第一前駆体化合物を反応容器から除去し;気体状の第二前駆体を反応容器に移送し;第一および第二前駆体を反応させて、基体上に膜を形成し;任意の未反応第二前駆体を除去する工程を含む方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本明細書全体にわたって使用される場合、文脈が明らかに他を示さない限り、次の略号は次の意味を有する:℃=摂氏度;ppm=100万分の1部;ppb=10億分の1部;RT=室温;M=モル;Me=メチル;Et=エチル;i−Pr=イソ−プロピル;t−Bu=tert−ブチル;c−Hx=シクロヘキシル;Cp=シクロペンタジエニル;Py=ピリジル;COD=シクロオクタジエン;CO=一酸化炭素;Bz=ベンゼン;Ph=フェニル;VTMS=ビニルトリメチルシラン;およびTHF=テトラヒドロフラン。
【0008】
「ハロゲン」とは、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素を意味し、「ハロ」とは、フルオロ、クロロ、ブロモおよびヨードを意味する。同様に、「ハロゲン化」とは、フッ素化、塩素化、臭素化およびヨウ素化を意味する。「アルキル」は、直鎖、分岐鎖および環状アルキルを包含する。同様に、「アルケニル」および「アルキニル」はそれぞれ直鎖、分岐鎖および環状アルケニルおよびアルキニルを包含する。
【0009】
特に他に注記しない限り、全ての量は重量パーセントであり、全ての比はモル比である。全ての数値範囲は境界値を包含し、かかる数値範囲が合計して100%までにされることが明らかである場合を除いては任意の順序で組み合わせ可能である。
【0010】
本発明の有機金属化合物は、一般式(EDG−(CRy’−CR=CR−(CRy”+m(m−n)を有し、式中、各RおよびRは独立して、H、(C−C)アルキルおよびEDGから選択され;RはH、(C−C)アルキル、EDGまたはEDG−(CRy’であり;RはHまたは(C−C)アルキルであり;各RおよびRは独立して、Hおよび(C−C)アルキルから選択され;EDGは電子供与基であり;M=金属;L=アニオン性リガンド;Lは中性リガンドである;y’=0〜6;y”=0〜6;m=Mの価数;n=1〜7;及びp=0〜3である。式中、m≧nである。ある実施態様において、y’=0〜3である。別の実施態様において、y”=0〜3である。さらに別の実施態様において、y”=0〜2であり、さらに別の実施態様において、y”=0である。下付き文字「n」は本発明の化合物中のEDG置換アルケニルリガンドの数を表す。Mの価数は典型的には2〜7(すなわち、典型的にはm=2〜7)、さらに典型的には3〜7、なおいっそう典型的には3〜6である。ある実施態様において、各R〜Rは独立して、H、メチル、エチル、プロピル、ブチル、および電子供与基(「EDG」)、さらに詳細には、H、メチル、エチルおよびプロピルから選択される。別の実施態様において、R、RおよびRのそれぞれは、独立して、Hおよび(C−C)アルキルから選択される。さらに別の実施態様において、RはEDG−(CRy’である。ある実施態様において、(m−n)≧1である。すなわち、有機金属化合物はヘテロレプティックである。
【0011】
本発明の有機金属化合物を形成するために様々な金属を好適に用いることができる。典型的には、Mは第2族〜第16族金属から選択される。本明細書において用いられ場合、「金属」なる用語は、半金属ホウ素、珪素、ヒ素、セレンおよびテルルを包含するが、炭素、窒素、リン、酸素および硫黄を包含しない。ある実施態様において、M=Be、Mg、Sr、Ba、Al、Ga、In、Si、Ge、Sb、Bi、Se、Te、Po、Cu、Zn、Sc、Y、La、ランタニド金属、Ti、Zr、Hf、Nb、W、Mn、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、IrまたはPtである。別の実施態様において、M=Al、Ga、In、Ge、La、ランタニド金属、Ti、Zr、Hf、Nb、W、Mn、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、IrまたはPtである。
【0012】
EDGに好適な電子供与基は、金属にπ電子安定化をもたらす任意のものである。電子供与基は、酸素、リン、硫黄、窒素、アルケン、アルキンおよびアリール基の一以上を含む任意のものであり得る。電子供与基の塩、例えば、そのアルカリまたはアルカリ土類金属塩も用いることができる。電子供与基の例としては、これらに制限されることはないが、ヒドロキシル(「−OH」)、(C−C)アルコキシ(「−OR」)、カルボニル(「−C(O)−」)、カルボキシ(「−COX−」)、カルボ(C−C)アルコキシ(「−COR−」)、カーボネート(「−COR−」)、アミノ(−NH−)、(C−C)アルキルアミノ(「−NHR」)、ジ(C−C)アルキルアミノ(「−NR」)、(C−C)アルケニルアミノ、ジ(C−C)アルケニルアミノ、(C−C)アルキニルアミノ、ジ(C−C)アルキニルアミノ、メルカプト(「−SH」)、チオエーテル(「−SR」)、チオカルボニル(「−C(S)−」)、ホスホノ(「PH」)、(C−C)アルキルホスフィノ(「−PHR」)、ジ(C−C)アルキルホスフィノ(「−PR」)、ビニル(「C=C」)、アセチレニル(「C≡C」)、ピリジル、フェニル、フラニル、チオフェニル、アミノフェニル、ヒドロキシフェニル、(C−C)アルキルフェニル、ジ(C−C)アルキルフェニル、(C−C)アルキルフェノール、(C−C)アルコキシ−(C−C)アルキルフェニル、ビフェニルおよびビピリジルが挙げられる。電子供与基は、もう一つ別の電子供与基、例えば、ヒドロキシフェニル、アミノフェニルおよびアルコキシフェニルを含むことができる。ある実施態様において、EDGは、アミノ、(C−C)アルキルアミノ、ジ(C−C)アルキルアミノ、(C−C)アルケニルアミノ、ジ(C−C)アルケニルアミノ、(C−C)アルキニルアミノ、およびジ(C−C)アルキニルアミノから選択される。さらに別の実施態様において、EDGはNH、メチルアミノ、ジメチルアミノ、エチルアミノ、ジエチルアミノ、エチルメチルアミノ、ジ−イソ−プロピルアミノ、メチル−イソ−プロピルアミノ、アリルアミノ、ジアリルアミノ、プロパギルアミノおよびジプロパギルアミノから選択される。さらに別の実施態様において、EDGはアリール部分であり、特に、芳香族複素環、例えば、ピリジンである。
【0013】
様々なアニオン性リガンド(L)を本発明において用いることができる。かかるリガンドは負電荷を有する。可能なリガンドとしては、これらに制限されるわけではないが:ヒドリド、ハライド、アジド、アルキル、アルケニル、アルキニル、カルボニル、ジアルキルアミノアルキル、イミノ、ヒドラジド、ホスフィド、ニトロシル、ニトロイル、ナイトライト、ニトレート、ニトリル、アルコキシ、ジアルキルアミノアルコキシ、シロキシ、ジケトネート、ケトイミネート、シクロペンタジエニル、シリル、ピラゾレート、グアニジネート、ホスホグアニジネート、アミジネート、ホスホアミジネート、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノおよびアルコキシアルキルジアルキルアミノが挙げられる。かかるリガンドのいずれかが、1以上の水素が別の置換基に、例えばハロ、アミノ、ジシリルアミノおよびシリルに置換されるなど、任意に置換されていてもよい。アニオン性リガンドの例としては、これに限定されないが:(C−C10)アルキル、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、シクロプロピル、シクロペンチルおよびシクロヘキシル;(C−C10)アルケニル、例えば、エテニル、アリル、およびブテニル;(C−C10)アルキニル、例えば、アセチレニルおよびプロピニル;(C−C10)アルコキシ、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、およびブトキシ;シクロペンタジエニル、例えば、シクロペンタジエニル、メチルシクロペンタジエニルおよびペンタメチルシクロペンタジエニル;ジ(C−C10)アルキルアミノ(C−C10)アルコキシ、例えば、ジメチルアミノエトキシ、ジエチルアミノエトキシ、ジメチルアミノプロポキシ、エチルメチルアミノプロポキシおよびジエチルアミノプロポキシ;シリル、例えば、(C−C10)アルキルシリルおよび(C−C10)アルキルアミノシリル;およびアルキルアミジネート、例えば、N,N’−ジメチルメチルアミジナート、N,N’ジエチル−メチルアミジナート、N,N’−ジエチル−エチルアミジナート、N,N’−ジ−イソ−プロピル−メチルアミジナート、N,N’−ジ−イソ−プロピル−イソ−プロピルアミジナート、およびN,N’−ジメチル−フェニルアミジナート;(C−C10)アルキルアミノ、例えば、メチルアミノ、エチルアミノ、およびプロピルアミノ;ジ(C−C10)アルキルアミノ、例えば、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、エチルメチルアミノおよびジプロピルアミノ;(C−C)アルケニルアミノ;ジ(C−C)アルケニルアミノ、例えば、ジアリルアミノ;(C−C)アルキニルアミノ、例えば、プロパギルアミノ;並びにジ(C−C)アルキニルアミノ、例えば、ジプロパギルアミノが挙げられる。2以上のLリガンドが存在する場合、かかるリガンドは同一であっても、異なっていてもよい。すなわち、Lリガンドは独立して選択される。ある実施態様において、少なくとも一つのLリガンドが存在する。
【0014】
中性リガンド(L)は本発明の化合物において任意である。かかる中性リガンドは全体的な電荷を有さず、安定剤として機能することができる。中性リガンドとしては、これらに制限されることはないが、CO、NO、アルケン、ジエン、トリエン、アルキン、および芳香族化合物が挙げられる。中性リガンドの例としては、これらに限定されないが:(C−C10)アルケン、例えば、エテン、プロペン、1−ブテン、2−ブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、ノルボルネン、ビニルアミン、アリルアミン、ビニルトリ(C−C)アルキルシラン、ジビニルジ(C−C)アルキルシラン、ビニルトリ(C−C)アルコキシシランおよびジビニルジ(C−C)アルコキシシラン;(C−C12)ジエン、例えば、ブタジエン、シクロペンタジエン、イソプレン、ヘキサジエン、オクタジエン、シクロオクタジエン、ノルボルナジエンおよびα−テルピネン;(C−C16)トリエン;(C−C10)アルキン、例えば、アセチレンおよびプロピン;および芳香族化合物、例えば、ベンゼン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、トルエン、o−シメン、m−シメン、p−シメン、ピリジン、フランおよびチオフェンが挙げられる。中性リガンドの数は、Mについて選択された特定の金属に依存する。典型的には、中性リガンドの数は0〜3である。2以上の中性リガンドが存在する場合、かかるリガンドは同一であっても、異なっていてもよい。
【0015】
本発明の有機金属化合物は、当該分野において知られている様々な方法により調製することができる。例えば、EDG置換アルケニルグリニャールを金属ハロゲン化物と好適な溶媒、例えば、THFまたはジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒中で反応させて、本発明のEDG置換アルケニル有機金属化合物を形成することができる。あるいは、EDG置換アルケニルリチウム化合物を好適な金属反応物質、例えば、金属ハロゲン化物、金属酢酸塩または金属アルコキシドと、好適な溶媒、例えば、ヘキサン中で反応させて、所望のEDG置換アルケニル有機金属化合物を形成することができる。
【0016】
前記有機金属化合物は、薄膜の蒸着のための前駆体として用いるのに特に好適である。かかる化合物は、様々なCVD法ならびに様々なALD法において用いることができる。ある実施態様において、2以上のかかる有機金属化合物をCVDまたはALD法において用いることができる。2以上の有機金属化合物が用いられる場合、かかる化合物は、同じ金属であるが、異なるリガンドを有するものを含有するか、あるいは異なる金属を含有し得る。別の実施態様において、1以上の本発明の有機金属化合物を1以上の他の前駆体化合物とともに用いることができる。
【0017】
バブラー(シリンダーとも呼ばれる)は、堆積反応容器に蒸気相の本発明の有機金属化合物を提供するために用いられる典型的なデリバリーデバイスである。かかるバブラーは、典型的には、注入口、気体入口および出口を含有し、直接液体を注入することを採用する場合には、出口は、堆積チャンバーに連結された気化装置に連結されている。出口は堆積チャンバーに直接連結されていてもよい。キャリアガスは典型的には気体入り口を通ってバブラーに侵入し、前駆体蒸気または前駆体含有気体流れを一緒に引張って行くかまたは受け取る。その後、一緒に引張って行かれたか、または運ばれた蒸気は次に出口を通ってバブラーを出て、堆積チャンバーに運ばれる。様々なキャリアガス、例えば、水素、ヘリウム、窒素、アルゴン、およびその混合物を用いることができる。
【0018】
使用される具体的な堆積装置に応じて、様々なバブラーを用いることができる。前駆体化合物が固体である場合、米国特許第6,444,038号(Rangarajanら)および第6,607,785号(Timmonsら)に開示されたバブラー、ならびに他の様式を用いることができる。液体前駆体化合物に関して、米国特許第4,506,815号(Melasら)および第5,755,885号(Mikoshibaら)において開示されたバブラー、ならびに他の液体前駆体バブラーを用いることができる。ソース化合物はバブラー中に液体または固体として維持される。固体ソース化合物は典型的には堆積チャンバーに移送される前に蒸発または昇華させられる。ALD法に関して用いられるバブラーは、必要な蒸気パルスを提供するために必要とされる程度に迅速に設備の開放および閉鎖をするために空気弁を入り口または出口に有し得る。
【0019】
通常のCVD法において、液体前駆体を供給するためのバブラー、ならびに固体前駆体を供給するための特定のバブラーは、気体入り口に連結されたディップチューブ(dip tube)を含有する。一般に、キャリアガスは前駆体またはソース化合物とも呼ばれる有機金属化合物の表面下に導入され、ソース化合物を通ってその上のヘッドスペースへ上昇し、キャリアガスにソース化合物の蒸気を取り込みまたは運ぶ。
【0020】
ALD法において用いられる前駆体は液体、低融点固体、または溶媒中に配合された固体であることが多い。これらの種類の前駆体を取り扱うために、ALD法において用いられるバブラーは、出口と連結されたディップチューブを含有する。気体は入り口を通ってこれらのバブラーに入り、バブラーを加圧し、前駆体をディップチューブへ押し上げ、バブラーから押し出す。
【0021】
本発明は、前記の有機金属化合物を含むデリバリーデバイスを提供する。ある実施態様において、デリバリーデバイスは、断面を有する内部表面を有する長い円筒形部分、上端閉鎖部分および下端閉鎖部分を有する容器を含み、上端閉鎖部分は、キャリアガスを導入するための入口開口部および出口開口部を有し、長い円筒形部分は、前記の有機金属化合物を含有するチャンバーを有する。
【0022】
ある実施態様において、本発明は、式(EDG−(CRy’−CR=CR−(CRy”+m(m−n)(式中、各RおよびRは独立して、H、(C−C)アルキルおよびEDGから選択され;RはH、(C−C)アルキル、EDGまたはEDG−(CRy’であり;RはHまたは(C−C)アルキルであり;各RおよびRは独立して、Hおよび(C−C)アルキルから選択され;EDGは電子供与基であり;Mは金属であり;L=アニオン性リガンド;Lは中性リガンドである;y’=0〜6;y”=0〜6;m=Mの価数;n=1〜7;及びp=0〜3)を有する有機金属化合物で飽和した流体流れを、断面を有する内部表面を有する長い円筒形部分、上端閉鎖部分および下端閉鎖部分を有し、上端閉鎖部分がキャリアガスを導入するための入口開口部および出口開口部を有し、長い円筒形部分が有機金属化合物を含有するチャンバーを有し;入口開口部はチャンバーと流体連通し、チャンバーは出口開口部と流体連通している容器を含む化学蒸着系に供給するための装置を提供する。さらに別の実施態様において、本発明は、前記有機金属化合物で飽和された流体流れを供給するための1以上の装置を含む、金属膜の化学蒸着のための装置を提供する。
【0023】
堆積チャンバーは典型的には、少なくとも一つあるいは多くの基体がその中に配置される加熱された容器である。堆積チャンバーはアウトレットを有し、これは典型的には副生成物をチャンバーから抜き取り、適当ならば減圧を提供するために真空ポンプに連結している。MOCVDは大気圧または減圧で行うことができる。堆積チャンバーは、ソース化合物の分解を誘発するために十分高い温度に維持される。典型的な堆積チャンバー温度は200℃から1200℃であり、さらに典型的には200〜600℃であり、選択される的確な温度は有効な堆積を提供するために最適化される。任意に、堆積チャンバー中の温度は、基体が高温に維持される場合には、あるいは他のエネルギー、例えばプラズマが高周波(「RF」)源により生じる場合には、全体として低下させることができる。
【0024】
堆積のための好適な基体は、電子装置製造の場合においては、シリコン、シリコンゲルマニウム、炭化珪素、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム、リン化インジウムなどであり得る。このような基体は、集積回路の製造において特に有用である。
【0025】
堆積は所望の特性を有する膜を製造するために望ましい限り続けられる。典型的には、膜の厚さは、堆積を停止した際に、数百オングストロームから数千オングストローム以上である。
【0026】
したがって、本発明は:a)基体を蒸着反応容器中に提供する工程;b)前駆体として気体状の前記有機金属化合物を反応容器に移送する工程;およびc)金属を含む膜を基体上に堆積させる工程を含む、金属膜を堆積させるための方法を提供する。典型的なCVD法において、前記方法は、反応容器中で前駆体を分解する工程をさらに含む。
【0027】
金属含有薄膜は、基体を一度に一つ、膜が形成される元素のそれぞれの前駆体化合物の蒸気に交互に付すことにより、ALDによりほぼ完全な化学量論で製造される。ALD法において、基体は第一前駆体の蒸気に付され、前記第一前駆体は基体の表面と、反応が起こるために十分高い温度で反応することができ、これにより第一前駆体(またはその中に含まれる金属)の単原子層が基体の表面上に形成され、かくして形成された表面であって、その上に第一前駆体原子層を有するものを第二前駆体の蒸気に付し、前記第二前駆体は第一前駆体と、反応が起こるために十分高い温度で反応し、これにより、所望の金属膜の単原子層が基体の表面上に形成される。形成される膜が所望の厚さに達するまで、第一および第二前駆体を交互に使用することにより、この手順を続けることができる。かかるALD法において用いられる温度は、典型的には、MOCVD法において用いられるものよりも低く、200℃〜400℃の範囲でよいが、選択された前駆体、堆積される膜、および当業者に知られている他の基準に応じて、他の好適な温度を用いることができる。
【0028】
ALD装置は典型的には、真空雰囲気を提供するための真空チャンバー手段;真空チャンバー手段中に配置された一対の手段であって、少なくとも1個の基体を支持するための支持手段および2つの異なる前駆体のそれぞれ少なくとも2つの蒸気のソースを形成するためのソース手段;並びに、まず前駆体の一つの単原子層、次いで他の前駆体の単原子層を基体上に提供するために、前記一対の手段の他方に対して一方の手段を操作するための、前記一対の手段の前記一方と操作可能に連結された操作手段:を含む。ALD装置の説明に関しては米国特許第4,058,430号(Suntola)参照。
【0029】
さらなる実施態様において、本発明は、膜を堆積させる方法であって:基体を蒸着反応容器中に提供し;第一前駆体として気体状の上記有機金属化合物を反応容器に移送し;第一前駆体化合物を基体の表面上に化学吸着させ;任意の化学吸着されなかった第一前駆体化合物を反応容器から除去し;気体状の第二前駆体を反応容器に移送し;第一および第二前駆体を反応させて、基体上に膜を形成し;任意の未反応第二前駆体を除去する工程を含む、膜を堆積させる方法を提供する。第一および第二前駆体を移送する交互工程ならびに第一および第二前駆体を反応させる工程は所望の厚さの膜が得られるまで繰り返される。前駆体を反応容器から除去する工程は、真空下で反応容器を排気すること、および非反応物質気体を用いて反応容器をパージすることの1以上を含み得る。第二前駆体は、第一前駆体と反応して所望の膜を形成する任意の好適な前駆体であり得る。かかる第二前駆体は場合によってはもう一つ別の金属を含有してもよい。第二前駆体の例としては、これに限定されないが、酸素、オゾン、水、過酸化水素、アルコール、亜酸化窒素およびアンモニアが挙げられる。
【0030】
本発明の有機金属化合物がALD法または直接液体注入法において用いられる場合、これらは有機溶媒と組み合わせることができる。有機溶媒の混合物を用いてもよい。好適には有機金属化合物に対して不活性である任意の有機溶媒を用いることができる。有機溶媒の例としては、これらに制限されることはないが、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、直鎖アルキルベンゼン、ハロゲン化炭化水素、シリル化炭化水素、アルコール、エーテル、グリム、グリコール、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、スルホン酸、フェノール、エステル、アミン、アルキルニトリル、チオエーテル、チオアミン、シアネート、イソシアネート、チオシアネート、シリコン油、ニトロアルキル、アルキルニトレート、およびその混合物が挙げられる。好適な溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジグリム、n−ブチルアセテート、オクタン、2−メトキシエチルアセテート、エチルラクテート、1,4−ジオキサン、ビニルトリメチルシラン、ピリジン、メシチレン、トルエン、およびキシレンが挙げられる。直接液体注入法において用いられる場合、有機金属化合物の濃度は、典型的には、0.05〜0.25M、さらに典型的には0.05〜0.15Mの範囲である。有機金属化合物/有機溶媒組成物は、溶液、スラリーまたは分散液の形態であってよい。
【0031】
本発明の有機金属化合物および有機溶媒を含む組成物は、直接液体注入を用いる蒸着法における使用に好適である。好適な直接液体注入法は、米国特許出願公開第2006/0110930号(Senzaki)に記載されているものである。
【0032】
本発明によりさらに提供されるのは、電子装置を製造する方法であって、前記方法のいずれか一つを用いて金属含有膜を堆積させる工程を含む方法である。
【0033】
本発明は、蒸着、特にALDのためのヘテロレプティック前駆体の使用を可能にする溶液であって、EDG置換アルケニルリガンドの使用により、官能性、所望の熱安定性、適切な金属中心遮蔽性およびよく支配された表面ならびに気相反応の、好適なバランスを有するものを提供する。
【0034】
次の実施例は本発明の様々な態様を説明することが期待される。
【実施例】
【0035】
実施例1
(1−ジメチルアミノ)アリル(η6−p−シメン)ルテニウムジイソプロピルアセトアミジネートは次のようにして合成させることが予想される:
【0036】
【化1】

【0037】
ジクロロ(η6−p−シメン)ルテニウム二量体をリチウムジイソプロピルアセトアミジネートと、THF中、室温(約25℃)で、磁気または機械的撹拌および反応速度を制御するために有効な加熱/冷却システムを備えた三口丸底フラスコ中で反応させる。混合物を室温で一夜撹拌した後、(1−ジメチルアミノ)アリルマグネシウムブロミドを低温(約−30℃)で添加する。結果として得られた混合物を次いで一夜、窒素の不活性雰囲気下で撹拌する。試薬を連続して滴下し、ゆっくりと混合して、反応の発熱を制御する。粗生成物が次に濾過後に反応物から分離されると予想され、高収率が期待される。目的生成物は、FT−NMRにより決定したときに有機溶媒を実質的に含まない(<0.5ppm)と予想され、ICP−MS/ICP−OESにより測定したときも金属不純物も実質的に含まない(<10ppb)と予想される。
【0038】
実施例2
ビス(1−ジイソプロピルアミノアリル)ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウム(IV)は以下のように合成されると考えられる。
【0039】
【化2】

【0040】
ジクロロビス(シクロペンタジエン)ジルコニウムを(1−ジメチルアミノ)アリルマグネシウムブロミドとTHF中、低温(約−30℃)で、磁気または機械的撹拌および反応速度を制御するために有効な加熱/冷却システムを備えた三口丸底フラスコ中で反応させる。混合物を一夜室温で撹拌する。粗生成物が次に濾過後に反応物から分離されると予想され、高収率が期待される。目的生成物は、FT−NMRにより決定したときに有機溶媒を実質的に含まない(<0.5ppm)と予想され、ICP−MS/ICP−OESにより決定したときも金属不純物も実質的に含まない(<10ppb)と予想される。
【0041】
実施例3
次の表に記載される式(EDG−(CRy’−CR=CR−(CRCRy”+m(m−n))Lの有機金属化合物が実施例1または2に記載される手順に従って調製されると予想される。
【0042】
【表1】

【0043】
AMD=N,N’−ジメチル−メチル−アミジネート;PAMD=N,P−ジメチル−メチルホスホアミジネート;KIM=β−ジケトイミネート;BDK=β−ジケトネート;DMAE=ジメチルアミノエチル;DMAP=ジメチルアミノプロピル。
【0044】
前記表において、コンマにより区切られたリガンドは、各リガンドが当該化合物中に存在することを示す。
【0045】
実施例4
ALDまたは直接液体注入法における使用に好適な組成物は、実施例3の化合物のいくつかを特定の有機溶媒と組み合わせることにより調製される。具体的な組成物を次の表に示す。有機金属化合物は、典型的には直接液体注入のために0.1Mの濃度で存在する。
【0046】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(EDG−(CRy’−CR=CR−(CRy”+m(m−n)(式中、各RおよびRは独立して、H、(C−C)アルキルおよびEDGから選択され;RはH、(C−C)アルキル、EDGまたはEDG−(CRy’であり;RはHまたは(C−C)アルキルであり;各RおよびRは独立して、Hおよび(C−C)アルキルから選択され;EDGは電子供与基であり;M=金属;L=アニオン性リガンド;Lは中性リガンドである;y’=0〜6;y”=0〜6;mはMの価数である;n=1〜7;p=0〜3である)を有する有機金属化合物。
【請求項2】
が、ヒドリド、ハライド、アジド、アルキル、アルケニル、アルキニル、カルボニル、ジアルキルアミノアルキル、イミノ、ヒドラジド、ホスフィド、ニトロシル、ニトロイル、ニトレート、ニトリル、アルコキシ、ジアルキルアミノアルコキシ、シロキシ、ジケトネート、ケトイミネート、シクロペンタジエニル、シリル、ピラゾレート、グアニジネート、ホスホグアニジネート、アミジネート、ホスホアミジネート、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノおよびアルコキシアルキルジアルキルアミノから選択される請求項1記載の化合物。
【請求項3】
EDGが酸素、リン、硫黄、窒素、アルケン、アルキンおよびアリール基の1以上を含む請求項1記載の化合物。
【請求項4】
Mが第2族〜第16族金属から選択される請求項1記載の化合物。
【請求項5】
膜を堆積させる方法であって:蒸着反応容器中に基体を提供し;前駆体として気体状の請求項1記載の有機金属化合物を反応容器に移送し;金属を含む膜を基体上に堆積させる工程を含む方法。
【請求項6】
請求項1記載の化合物および有機溶媒を含む組成物。
【請求項7】
膜を堆積させる方法であって:基体を反応容器中に提供し;直接液体注入を用いて請求項6記載の組成物を反応容器中に移送し;金属を含む膜を基体上に堆積させる工程を含む方法。
【請求項8】
膜を堆積させる方法であって:基体を蒸着反応容器中に提供し;第一前駆体として気体状の請求項1記載の有機金属化合物を反応容器に移送し;第一前駆体化合物を基体の表面上に化学吸着させ;任意の化学吸着されなかった第一前駆体化合物を反応容器から除去し;気体状の第二前駆体を反応容器に移送し;第一および第二前駆体を反応させて、基体上に膜を形成し;任意の未反応第二前駆体を除去する工程を含む方法。
【請求項9】
第二前駆体が、酸素、オゾン、水、過酸化物、アルコール、亜酸化窒素およびアンモニアから選択される請求項8記載の方法。
【請求項10】
請求項1記載の化合物を含む蒸着反応に、蒸気相の前駆体を送るためのデリバリーデバイス。

【公開番号】特開2008−110961(P2008−110961A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−197142(P2007−197142)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(591016862)ローム・アンド・ハース・エレクトロニック・マテリアルズ,エル.エル.シー. (270)
【Fターム(参考)】