説明

有機電子デバイス用のアノード

有機電子デバイス用のアノードが提供される。アノードは、(a)導電性無機材料である第1の層、および(b)金属酸化物である第2の極薄層を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条(e)に基づいて、2008年12月1日出願の米国仮特許出願第61/188,722号の優先権を主張するものであり、この仮特許出願は、その全体が参照により援用される。
【0002】
本開示は、一般に、電子デバイスのアノード、およびそれを形成するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
電子デバイスは、活性層を含む製品の範疇を規定する。有機電子デバイスは、少なくとも1つの有機活性層を有する。かかるデバイスは、電気エネルギーを放射線に変換する(発光ダイオードなど)か、電子的プロセスを介して信号を検出するか、放射線を電気エネルギーに変換する(光電池など)か、または1つもしくは複数の有機半導体層を含む。
【0004】
有機発光ダイオード(「OLED」)は、エレクトロルミネッセンスが可能な有機層を含む有機電子デバイスである。導電性ポリマーを含むOLEDは、電極間に任意の追加層を備えた次のような構成を有することができる。
アノード/EL材料/カソード
【0005】
OLEDで用いられる層を形成する際に、気相堆積および液相堆積を含む様々な堆積技術を用いることができる。液相堆積技術は、インクジェット印刷および連続ノズル印刷などの印刷技術を含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
デバイスがより複雑になり、より高い解像度を備えるようになるにつれて、これらのデバイス用の材料および方法の改善が絶えず必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(a)導電性無機材料を含む第1の層、および(b)金属酸化物を含む第2の極薄層を含む、有機電子デバイス用のアノードが提供される。
【0008】
基板を提供することと、
導電性無機材料を含む第1のアノード層を基板上に形成することと、
金属酸化物を含む第2の極薄アノード層を原子層堆積によって形成することと、
を含む、アノードを形成するための方法がさらに提供される。
【0009】
基板と、
(a)導電性無機材料を含む第1の層、および(b)金属酸化物を含む第2の極薄層を含むアノードと、
少なくとも1つの有機活性層と、
カソードと、
を含む有機電子デバイスがさらに提供される。
【0010】
TFT基板を提供することと、
導電性無機材料を含む第1のアノード層をTFT基板上に形成することと、
金属酸化物を含む第2の極薄アノード層を原子層堆積によって第1の層上に形成することと、
少なくとも1つの有機活性層を液相堆積技術によって形成することと、
カソードを形成することと、
を含む、有機電子デバイスを形成するための方法がさらに提供される。
【0011】
前述の概要および以下の詳細な説明は、単に例示的であり説明のためだけのものであり、添付の特許請求の範囲において定義されるように、本発明を限定するものではない。
【0012】
本開示の主題は、添付の図において、限定ではなく例として示される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】異なるデバイスの漏れ電流のグラフである。
【図2】異なるデバイスの整流比のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
多くの態様および実施形態が上で記載されているが、これらは例示にすぎず、限定されるものではない。当業者は、本明細書を読めば、他の態様および実施形態が本発明の範囲から逸脱せずに可能であることが分かる。
【0015】
実施形態のいずれか1つまたは複数の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかになるであろう。詳細な説明はまず、用語の定義および説明に触れ、その後、アノード、アノードの形成方法、有機電子デバイス、および最後に実施例と続いている。
【0016】
1.用語の定義および説明
下記の実施形態の詳細に触れる前に、いくつかの用語を定義または説明する。
【0017】
用語「活性材料」は、デバイスの動作を電子的に促進する材料を指す。活性材料の例としては、電荷を伝導、注入、輸送または阻止する材料が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、ここで電荷は、電子または正孔のいずれかであり得る。不活性材料の例としては、平坦化材料、絶縁材料および環境障壁材料が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
用語「アノード」は、正電荷キャリアを注入するために特に効率的な電極を意味することを意図している。ある実施形態において、アノードは、4.7eVを超える仕事関数を有する。
【0019】
用語「正孔輸送」は、比較的効率的かつ小さな電荷損失で、層、材料、部材または構造の厚さを通過する正電荷の移動を容易にするような層、材料、部材または構造を指す。
【0020】
用語「層」は、用語「フィルム」と同義的に使用され、所望の領域を覆うコーティングを意味する。この用語は、サイズによって制限されない。この領域は、デバイス全体の大きさであってもよく、または実際の視覚的表示などの特殊機能領域ほど小さくてもよく、もしくは1つのサブピクセルほど小さくてもよい。層およびフィルムは、気相堆積、液相堆積(連続および不連続技術)および熱転写を含む任意の従来の堆積技術によって形成することができる。
【0021】
用語「非導電性」は、材料を示す場合には、材料、すなわち大きい電流が流れないようにする材料を意味することを意図している。一実施形態において、非導電性材料は、約106Ω−cmより大きいバルク抵抗率を有する。ある実施形態において、バルク抵抗率は、約108Ω−cmより大きい。
【0022】
用語「極薄」は、それが層を示す場合、100Å以下の厚さを有する層を意味することを意図している。
【0023】
本明細書において使用される場合、用語「含んでなる」、「含んでなること」、「含む」、「含むこと」、「有する」、「有すること」、またはそれらの他のあらゆる変形は、非排他的な包含を扱うことを意図している。たとえば、ある一連の要素を含むプロセス、方法、物品、または装置は、それらの要素のみに必ずしも限定されるわけではなく、そのようなプロセス、方法、物品、または装置に関して明示されないかまたはそれらに固有のものでもない他の要素を含むことができる。さらに、相反する明示的な記載がない限り、「または」は、包含的な「または」を意味するのであって、排他的な「または」を意味するのではない。たとえば、条件AまたはBが満たされるのは:Aが真であり(または存在する)Bが偽である(または存在しない)、Aが偽であり(または存在しない)Bが真である(または存在する)、ならびにAおよびBの両方が真である(または存在する)のいずれか1つによってである。
【0024】
また、本発明に記載の要素および成分を説明するために単数形(「a」または「an」)も使用されている。これは単に便宜的なものであり、本発明の範囲の一般的な意味を提供するために行われている。この記述は、1つまたは少なくとも1つを含むものと読むべきであり、明らかに他の意味となる場合を除けば、単数形は複数形も含んでいる。
【0025】
元素周期表の縦列に対応する族番号は、「CRC Handbook of Chemistry and Physics」、第81版(2000〜2001年)に見られるような「新表記法(New Notation)」規約を使用する。
【0026】
特に定義しない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されている意味と同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似または等価の方法および材料を、本発明の実施形態の実施または試験において使用することができるが、好適な方法および材料について以下に説明する。本明細書において言及されるあらゆる刊行物、特許出願、特許、およびその他の参考文献は、特定の段落が引用されない限りそれらの記載内容全体が援用される。矛盾が生じる場合には、定義を含めて本明細書に従うものとする。さらに、材料、方法、および実施例は、単に説明的なものであり、限定を意図したものではない。
【0027】
本明細書に記載されない程度に、特定の材料、処理行為、および回路に関する多くの詳細が、従来のものであり、有機発光ダイオードディスプレイ技術、光検出器技術、光起電力技術、および半導体部材技術の範囲内のテキストブックおよび他の出典に見出されるであろう。
【0028】
2.アノード
OLEDデバイスは、有機金属層アノードおよびカソード層を有する多層スタックからなり、有機層のスタックが、金属層の間にある。有機スタックの厚さは、非常に薄い。OLEDデバイスは、順バイアス(FB)条件下、または逆バイアス(RB)条件下であっても、電流フローが増加する場所の役割をする可能性がある微細欠陥を有する傾向がある。FB下では、欠陥は、残りのピクセルが、隣接するピクセルより暗く見えるようにするか、またはさらにドット落ち(「dead」pixel)におけるように完全に暗く見えるようにするほどの電流を引き込む。RBでは、欠陥は、過度の漏れ電流またはさらにデバイスの故障に帰着し得る。
【0029】
この問題にアプローチする1つの方法は、より厚い有機層を用いることだった。第2のアプローチは、下部電極を表面処理して、電界集中を低減することだった。第3のアプローチは、底部(アノード)電極の表面を滑らかにすることである。しかしながら、これらのアプローチは、他のデバイス特性に有害な影響を有するか、かつ/または望ましくない処理ステップを伴う可能性がある。したがって、この短絡問題を克服する新しい方法を発見できるならば、有益であろう。
【0030】
本明細書で説明する新しいアノードは、(a)導電性材料を含む第1の層、および(b)金属酸化物を含む第2の極薄層を含む。ある実施形態において、第1の層は、実質的に導電性材料からなり、第2の層は、実質的に金属酸化物からなる。第2の層は、ピクセル領域の外で電流フローを阻止して上記の欠陥を防ぐことができるようにし、一方でデバイスにおける電流フローが所望のデバイス特性を保持できるようにする適切な抵抗率を有する。
【0031】
表面をプラズマ酸化できる限りは、任意の従来の透明な導電性材料をアノード用に用いてもよい。本明細書に用いられる場合、用語「表面」は、それがアノードに適用されるときには、露出されて、基板によって直接覆われていないアノード材料の外部境界を意味することを意図している。アノード層は、正方形、矩形、円、三角形、楕円形などの平面形状を有するパターン化されたアレイ構造で形成され得る。一般に、電極は、ステンシルマスクを用いた選択的堆積、またはブランケット堆積、および一部を取り除いてパターンを形成する従来のリソグラフィー技術などの従来の方法を用いて形成され得る。
【0032】
ある実施形態において、電極は透明である。ある実施形態において、電極は、インジウムスズ酸化物(ITO)などの透明な導電性材料を含む。他の透明な導電性材料は、たとえばインジウム亜鉛酸化物(IZO)を含む。
【0033】
適切な材料の例としては、インジウムスズ酸化物(「ITO」)、インジウム亜鉛酸化物(「IZO」)、アルミニウムスズ酸化物(「ATO」)、アルミニウム亜鉛酸化物(「AZO」)、ジルコニウムスズ酸化物(「ZTO」)、亜鉛酸化物、スズ酸化物、元素金属、金属合金、およびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるものではない。電極の厚さは、一般に、約50〜150nmの範囲にある。
【0034】
アノードの第2の層は、金属酸化物の極薄層である。層は、ある実施形態において30Å未満の厚さを有し、ある実施形態において20Å未満の厚さを有する。ある実施形態において、層は、5〜15Åの範囲の厚さを有する。
【0035】
ある実施形態において、金属酸化物は、50Åの層用に1×106〜1×109Ω−cmの範囲の抵抗率を有する。ある実施形態において、抵抗率は、1×106〜5×107の範囲にある。ある実施形態において、金属酸化物は、第3〜13族金属の酸化物およびランタニド金属の酸化物からなる群から選択される。ある実施形態において、金属は、アルミニウム、モリブデン、タングステン、ニッケル、クロム、バナジウム、ニオブ、イットリウム、サマリウム、プラセオジム、テルビウムおよびイッテルビウムからなる群から選択される。
【0036】
3.アノードを形成するための方法
アノードの第1の層は、任意の従来の技術によって形成することができる。層は、化学もしくは物理気相堆積法またはスピンコーティング法によって形成され得る。化学気相堆積は、プラズマ化学気相堆積(「PECVD」)または有機金属化学気相堆積(「MOCVD」)として実行し得る。物理気相堆積には、イオンビームスパッタリングを含むスパッタリングの全ての形態と同様に、電子ビーム蒸着および抵抗蒸着を含むことができる。物理気相堆積の特定の形態には、RFマグネトロンスパッタリングおよび誘導結合プラズマ物理気相堆積(「IMP−PVD」)が含まれる。これらの堆積技術は、半導体製造技術分野内では周知である。
【0037】
極薄金属酸化物層は、連続的で再現可能な層を結果としてもたらす任意の従来の方法によって堆積することができる。
【0038】
一実施形態において、アノードを形成するための方法は、
基板を提供することと、
導電性無機材料を含む第1のアノード層を基板上に形成することと、
金属酸化物を含む第2の極薄アノード層を原子層堆積によって形成することと、
を含む。
【0039】
原子層堆積(ALD)は、層成長によって層を生成するための実績のある技術であり、したがって単分子層の規模で高度に再現可能および制御可能である。それは、挿入用に意図されている工程段階において容易にスケーラブルであり、低コストである。ALDによって堆積できる材料には、絶縁体または正孔輸送体になる多くの候補が含まれるが、これらのいずれも、板厚方向において電気抵抗の制御を可能にする方法でデバイスに組み込むことができる。
【0040】
ALDは、自己停止ガス−固体反応の連続的使用に基づいたフィルム堆積技術として定義することができる。ALD法において、典型的には2つの反応物が用いられる。各反応物は、窒素ガスによってチャンバの中へ次々に運ばれ、サンプル表面上への吸着に帰着する。反応物パルス間に、チャンバは空にされて、反応物間の気相反応を防ぐ。吸着された反応物間の反応は基板表面上で起こり、ガス反応副産物の脱着が続く。表面反応は、反応律速であり、したがって質量流量は、律速ではない。したがって、生成されるフィルムは、非常にコンフォーマルであり、単分子層の厚さである。ALDで成長される第2の層は、欠陥のない最高の性能を提供する抵抗率基準を満たすように選択される。
【0041】
金属酸化物およびそれらを形成するために用いられる反応物のいくつかの非限定的な例が、以下の表に提供される。
【0042】
【表1】

【0043】
ALD法は、一般に、いくつかのパラメーターを制御することによって実行される。パルスは、チャンバに入るキャリアガスフローに反応材料が露出される秒単位の時間である。ある実施形態において、パルスは、0.1〜1.0秒の範囲にある。露出は、各反応物が、表面において吸着/反応できるようにするために、フローをオフにしてチャンバに保持される秒単位の時間である。ある実施形態において、露出は、5〜50秒である。ポンプ動作は、別の反応物が入れられる前に、各反応物が、その露出ステップ後に送り出される秒単位の時間である。ある実施形態において、ポンプ時間は、3〜20秒の範囲にある。上記のように、ALDにおける各反応物は、別々にやって来る。サイクルは、露出のサイクルペアの数である。ある実施形態において、サイクル数は、5〜20の範囲にある。フローは、キャリアガス流量である。ある実施形態において、フローは、10〜50標準立方センチメートル/分(SCCM)の範囲にある。
【0044】
4.有機電子デバイス
用語「有機電子デバイス」または時には単に「電子デバイス」は、1つまたは複数の有機半導体層または材料を含むデバイスを意味することを意図している。有機電子デバイスとしては、限定するわけではないが、(1)電気エネルギーを放射線に変換するデバイス(たとえば、発光ダイオード、発光ダイオードディスプレイ、ダイオードレーザー、または照明パネル)、(2)電子的プロセスを用いて信号を検出するデバイス(たとえば、光検出器、光伝導セル、フォトレジスタ、フォトスイッチ、フォトトランジスタ、光電管、赤外線(IR)検出器、またはバイオセンサー)、(3)放射線を電気エネルギーに変換するデバイス(たとえば、光起電デバイスまたは太陽電池)、(4)1つまたは複数の有機半導体層を含む1つまたは複数の電子部品を含むデバイス(たとえば、トランジスタまたはダイオード)、または項目(1)〜(4)におけるデバイスの任意の組み合わせが挙げられる。
【0045】
ある実施形態において、有機電子デバイスは、
基板と、
(a)導電性無機材料を含む第1の層、および(b)金属酸化物を含む第2の極薄層を含むアノードと、
少なくとも1つの有機活性層と、
カソードと、
を含む。
【0046】
基板は、剛性または可撓性とすることができるベース材料でり、かつ1つまたは複数の材料の1つまたは複数の層を含み得るが、これらの材料は、限定するわけではないが、ガラス、ポリマー、金属もしくはセラミック材料、またはこれらの組み合わせを含むことができる。ある実施形態において、基板はガラスである。
【0047】
ある実施形態において、基板は、TFT基板である。TFT基板は、電子技術分野で周知である。ベース支持体は、有機電子デバイスの技術分野において用いられるような従来の支持体であり得る。ベース支持体は、可撓性または剛性であってもよく、有機または無機であってもよい。ある実施形態において、ベース支持体は透明である。ある実施形態において、ベース支持体はガラスまたは可撓性有機フィルムである。公知のように、TFTアレイがこの支持体上またはこの支持体内に配置されてもよい。この支持体は、約12〜2500ミクロンの範囲の厚さを有し得る。
【0048】
用語「薄膜トランジスタ」または「TFT」は、電界効果トランジスタの少なくとも1つのチャネル領域が基本的に基板の基材の一部でない電界効果トランジスタを意味することを意図している。一実施形態において、TFTのチャネル領域は、a−Si、多結晶ケイ素、またはそれらの組み合わせを含む。用語「電界効果トランジスタ」は、導電性がゲート電極にかかる電圧によって影響されるトランジスタを意味することを意図している。電界効果トランジスタとしては、接合型電界効果トランジスタ(JFET)または金属−酸化物−半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)を含む金属−絶縁体−半導体電界効果トランジスタ(MISFET)、金属−窒化物−酸化物−半導体(MNOS)電界効果トランジスタなどが挙げられる。電界効果トランジスタは、n型(n型キャリアがチャネル領域内を流れる)またはp型(p型キャリアがチャネル領域内を流れる)であり得る。電界効果トランジスタは、エンハンスメント型(enhancement−mode)トランジスタ(チャネル領域がトランジスタのS/D領域と比較して異なる導電型を有する)またはデプレッション型(depletion−mode)トランジスタ(トランジスタのチャネルおよびS/D領域が同じ導電型を有する)であり得る。
【0049】
TFT基板はまた、表面絶縁層を含むが、この絶縁層は、有機平坦化層または無機パッシベーション層とすることができる。これらの層に有用であることが周知の任意の材料および厚さを用いることができる。
【0050】
新しいアノードの第1および第2の層は、上記のような基板上に堆積される。
【0051】
1つまたは複数の有機層は、バッファ層、正孔輸送層、光活性層、電子輸送層および電子注入層の1つまたは複数を含む。層は、列挙した順序で配置される。
【0052】
用語「有機バッファ層」または「有機緩衝材料」は、導電性材料または半導体有機材料を意味することを意図しており、下位層の平坦化、電荷輸送特性および/または電荷注入特性、酸素または金属イオンなどの不純物の捕捉(scavenging)、および有機電子デバイスの性能を促進または改良するための他の態様を含むがこれらに限定されるものではない、有機電子デバイスの1つまたは複数の機能を有していてもよい。有機緩衝材料は、ポリマー、オリゴマー、または小分子であってもよく、溶液、分散体、懸濁液、エマルジョン、コロイド混合物、または他の組成物の形態であってもよい。
【0053】
有機バッファ層は、ポリアニリン(PANI)またはポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)などのポリマー材料(これらはプロトン酸でドープされることが多い)で形成することができる。プロトン酸は、たとえば、ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)などであり得る。有機バッファ層は、銅フタロシアニンおよびテトラチアフルバレン−テトラシアノキノジメタン系(TTF−TCNQ)などの電荷輸送化合物などを含み得る。一実施形態において、有機バッファ層は、導電性ポリマーおよびコロイド形成性ポリマー酸の分散体から作製される。そのような材料は、たとえば、米国特許出願公開第2004−0102577号明細書、同第2004−0127637号明細書、および同第2005−0205860号明細書に記載されている。有機バッファ層は、典型的に、約20〜200nmの範囲の厚さを有する。
【0054】
正孔輸送材料の例は、たとえば、Y.Wangによる「Kirk Othmer Encyclopedia of Chemical Technology」、第4版、第18巻、837−860頁(1996年)にまとめられている。正孔輸送分子とポリマーとの両方を使用することができる。慣用的に使用される正孔輸送分子としては、:4,4’,4”−トリス(N,N−ジフェニル−アミノ)−トリフェニルアミン(TDATA);4,4’,4”−トリス(N−3−メチルフェニル−N−フェニル−アミノ)−トリフェニルアミン(MTDATA);N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジアミン(TPD);1,1−ビス[(ジ−4−トリルアミノ)フェニル]シクロヘキサン(TAPC);N,N’−ビス(4−メチルフェニル)−N,N’−ビス(4−エチルフェニル)−[1,1’−(3,3’−ジメチル)ビフェニル]−4,4’−ジアミン(ETPD);テトラキス−(3−メチルフェニル)−N,N,N’,N’−2,5−フェニレンジアミン(PDA);α−フェニル−4−N,N−ジフェニルアミノスチレン(TPS);p−(ジエチルアミノ)ベンズアルデヒドジフェニルヒドラゾン(DEH);トリフェニルアミン(TPA);ビス[4−(N,N−ジエチルアミノ)−2−メチルフェニル](4−メチルフェニル)メタン(MPMP);1−フェニル−3−[p−(ジエチルアミノ)スチリル]−5−[p−(ジエチルアミノ)フェニル]ピラゾリン(PPRまたはDEASP);1,2−trans−ビス(9H−カルバゾール−9−イル)シクロブタン(DCZB);N,N,N’,N’−テトラキス(4−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TTB);N,N’−ビス(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ビス−(フェニル)ベンジジン(α−NPB);および銅フタロシアニンなどのポルフィリン化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。慣用的に使用される正孔輸送ポリマーとしては、ポリビニルカルバゾール、(フェニルメチル)ポリシラン、ポリ(ジオキシチオフェン)、ポリアニリン、およびポリピロールが挙げられるが、これらに限定されるものではない。前述のような正孔輸送分子を、ポリスチレンおよびポリカーボネートなどのポリマー中にドープすることによって正孔輸送ポリマーを得ることも可能である。正孔輸送層は、典型的に、約40〜100nmの範囲の厚さを有する。発光材料はまた、いくつかの電荷輸送特性を有してもよいが、用語「正孔輸送層」は、主な機能が発光である層を含むことを意図していない。
【0055】
用語「光活性」は、電圧を印加することによって励起されたときに発光する材料(発光ダイオードまたは化学電池中など)、あるいは放射エネルギーに応答し、印加バイアス電圧を使用しまたは使用せずに信号を発生する材料(光検出器中など)を意味する。任意の有機エレクトロルミネッセンス(「EL」)材料を光活性層に使用することができ、そのような材料は当該技術分野で周知である。そのような材料としては、小分子有機蛍光化合物、蛍光性およびリン光性の金属錯体、共役ポリマー、ならびにそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。光活性材料は、単独で、あるいは1つまたは複数のホスト材料との混合物として存在し得る。蛍光化合物の例としては、ナフタレン、アントラセン、クリセン、ピレン、テトラセン、キサンテン、ペリレン、クマリン、ローダミン、キナクリドン、ルブレン、それらの誘導体、およびそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。金属錯体の例としては、トリス(8−ヒドロキシキノラト)アルミニウム(Alq3)などの金属キレート化オキシノイド化合物;Petrovらの米国特許第6,670,645号明細書ならびにPCT出願公開の国際公開第03/063555号パンフレットおよび国際公開第2004/016710号パンフレットに開示されるようなフェニルピリジン、フェニルキノリン、またはフェニルピリミジンの配位子を有するイリジウム錯体などの、シクロメタレート化されたイリジウムおよび白金のエレクトロルミネッセンス化合物、ならびに、たとえば、PCT出願公開の国際公開第03/008424号パンフレット、国際公開第03/091688号パンフレット、および国際公開第03/040257号パンフレットに記載されるような有機金属錯体、ならびにそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。共役ポリマーの例としては、ポリ(フェニレンビニレン)、ポリフルオレン、ポリ(スピロビフルオレン)、ポリチオフェン、ポリ(p−フェニレン)、それらのコポリマー、およびそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。光活性層は、典型的に、約50〜500nmの範囲の厚さを有する。
【0056】
「電子輸送」は、層、材料、部材または構造について言及される場合、そのような層、材料、部材または構造を通過して別の層、材料、部材または構造への負電荷の移動を促進または容易にするそのような層、材料、部材または構造を意味する。任意の電子輸送層140に用いられ得る電子輸送材料の例としては、トリス(8−ヒドロキシキノラト)アルミニウム(AlQ)、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(p−フェニルフェノラト)アルミニウム(BAlq)、テトラキス−(8−ヒドロキシキノラト)ハフニウム(HfQ)およびテトラキス−(8−ヒドロキシキノラト)ジルコニウム(ZrQ)などの金属キレート化オキシノイド化合物;ならびに2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)、3−(4−ビフェニリル)−4−フェニル−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール(TAZ)、および1,3,5−トリ(フェニル−2−ベンズイミダゾール)ベンゼン(TPBI)などのアゾール化合物;2,3−ビス(4−フルオロフェニル)キノキサリンなどのキノキサリン誘導体;4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(DPA)および2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(DDPA)などのフェナントロリン;ならびにそれらの混合物が挙げられる。電子輸送層は、典型的に、約30〜500nmの範囲の厚さを有する。発光材料はまた、いくつかの電荷輸送特性を有してもよいが、用語「電子輸送層」は、主な機能が発光である層を含むことを意図していない。
【0057】
本明細書において使用される場合、用語「電子注入」は、層、材料、部材、または構造について言及される場合、そのような層、材料、部材、または構造が、比較的効率的かつ少ない電荷損失で、そのような層、材料、部材、または構造の厚さを通過する負電荷の移動を促進することを意味することを意図している。任意選択の電子輸送層は無機であってもよく、BaO、LiF、またはLi2Oを含んでもよい。電子注入層は、典型的に、約20〜100Åの範囲の厚さを有する。
【0058】
カソードは、第1族金属(たとえば、Li、Cs)、第2族(アルカリ土類)金属、ランタニドおよびアクチニドを含む希土類金属から選択され得る。カソードは、約300〜1000nmの範囲の厚さを有する。
【0059】
封入層が、アレイならびに周囲の離れた回路にわたって形成されて、ほぼ完成した電気デバイスが形成され得る。
【0060】
ある実施形態において、有機電子デバイスを形成するための方法は、
TFT基板を提供することと、
導電性無機材料を含む第1の層をTFT基板上に形成することと、
金属酸化物を含む第2の極薄層を原子層堆積によって第1の層上に形成することと、
少なくとも1つの有機活性層を液相堆積技術によって形成することと、
カソードを形成することと、
を含む。
【0061】
液相堆積において、有機活性材料が、液体組成物から層に形成される。用語「液体組成物」は、溶液を形成するために材料を溶解させる液体媒体、分散体を形成するために材料を分散させる液体媒体、または懸濁液もしくはエマルジョンを形成するために材料を懸濁させる液体媒体を意味することを意図している。用語「液体媒体」は、純粋な液体、液体の組み合わせ、溶液、分散体、懸濁液、およびエマルジョンを含む液体材料を意味することを意図している。液体媒体は、1つまたは複数の溶媒が存在するか否かにかかわらず用いられる。
【0062】
連続および不連続技術を含む、任意の周知の液相堆積技術を用いることができる。連続堆積技術としては、スピンコーティング、グラビアコーティング、カーテンコーティング、浸漬コーティング、スロットダイコーティング、スプレーコーティング、および連続ノズルコーティングが挙げられるが、これらに限定されるものではない。不連続堆積技術としては、インクジェット印刷、グラビア印刷、およびスクリーン印刷が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
ある実施形態において、バッファ層、正孔輸送層および光活性層は、液相堆積技術によって形成される。電子輸送層、電子注入層およびカソードは、気相堆積技術によって形成される。
【実施例】
【0064】
本明細書で説明する概念を以下の例でさらに説明するが、これらの例は、特許請求の範囲に記載される本発明の範囲を限定するものではない。
【0065】
実施例
これらの例は、本明細書で説明する新しいアノードを有するデバイスの性能を実証する。
【0066】
デバイスは、次の構造を有した。
基板=ガラス
第1のアノード層=180nmの厚さを備えたITO
第2のアノード層=ALDによって形成されたアルミナ
バッファ層=導電性ポリマーおよびポリマーフッ素化スルホン酸(かかる材料は、たとえば、米国特許出願公開第2004/0102577号明細書、同第2004/0127637号明細書、および同第2005/0205860号明細書に記載されている)の水分散液から形成され、40nmの厚さを有する層。
正孔輸送層=アリール(arylamine)含有コポリマー(かかる材料は、たとえば、米国特許出願公開第2008/0071049号明細書に記載されている)であり、20nmの厚さを有する。
光活性層=ホスト:ドーパントが13:1であり、ホストは、アントラセン誘導体(かかる材料は、たとえば米国特許第7,023,013号明細書に記載されている)で、ドーパントは、アリール化合物(かかる材料は、たとえば、米国特許出願公開第2006/0033421号明細書に記載されている)であり、32nmの厚さを有する。
電子輸送層=10nmの厚さの金属キノラート誘導体
カソード=LiF/Al(1/100nm)
【0067】
実施例1において、アルミナ層は、次のALD条件で、7Åの厚さを有した。
【0068】
【表2】

【0069】
実施例2において、アルミナ層は、次のALD条件で12Åの厚さを有した。
【0070】
【表3】

【0071】
比較例Aにおいて、第2のアノード層はなかった。
【0072】
デバイスの漏れ電流を図1に示す。整流比は図2に示す。漏れ電流および整流比の両方とも、第2のアノード層のない比較例と比較して、実施例1および実施例2では著しく良かったことが分かる。
【0073】
以上の明細書において、具体的な実施形態を参照しながら本発明の概念を説明した。しかし、当業者であれば、特許請求の範囲に記載される本発明の範囲から逸脱せずに種々の変更および変形を行えることが理解できるであろう。したがって、本明細書および図面は、限定的な意味ではなく説明的なものであるとみなすべきであり、すべてのこのような変更は、本発明の範囲内に含まれることを意図している。
【0074】
特定の実施形態に関して、利益、その他の利点、および問題に対する解決法を以上に記載してきた。しかし、これらの利益、利点、問題の解決法、ならびに、何らかの利益、利点、または解決法を発生させたり、より顕著にしたりすることがある、あらゆる特徴が、特許請求の範囲のいずれかまたはすべての重要な、必要な、または本質的な特徴として解釈されるものではない。
【0075】
別々の実施形態の状況において、明確にするために本明細書に記載されている特定の複数の特徴は、1つの実施形態の中で組み合わせても提供できることを理解されたい。逆に、簡潔にするため1つの実施形態の状況において説明した種々の特徴も、別々に提供したり、あらゆる副次的な組み合わせで提供したりすることができる。さらに、範囲で提示された値への言及には、その範囲内のありとあらゆる値が含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)導電性無機材料を含む第1の層、および(b)金属酸化物を含む第2の極薄層を含む、有機電子デバイス用のアノード。
【請求項2】
前記導電性無機材料が、インジウムスズ酸化物、インジウム亜鉛酸化物、アルミニウムスズ酸化物、アルミニウム亜鉛酸化物およびジルコニウムスズ酸化物からなる群から選択される、請求項1に記載のアノード。
【請求項3】
前記金属酸化物が、第3〜13族金属およびランタニド金属の酸化物からなる群から選択される、請求項1に記載のアノード。
【請求項4】
前記金属酸化物が、アルミニウム酸化物、モリブデン酸化物、バナジウム酸化物、クロム酸化物、タングステン酸化物、ニッケル酸化物、ニオブ酸化物、イットリウム酸化物、サマリウム酸化物、プラセオジム酸化物、テルビウム酸化物およびイッテルビウム酸化物からなる群から選択される、請求項1に記載のアノード。
【請求項5】
基板を提供することと、
導電性無機材料を含む第1のアノード層を前記基板上に形成することと、
金属酸化物を含む第2の極薄アノード層を原子層堆積によって形成することと、
を含む、アノードを形成するための方法。
【請求項6】
基板と、
(a)導電性無機材料を含む第1の層、および(b)金属酸化物を含む第2の極薄層を含むアノードと、
少なくとも1つの有機活性層と、
カソードと、
を含む有機電子デバイス。
【請求項7】
前記導電性無機材料が、インジウムスズ酸化物、インジウム亜鉛酸化物、アルミニウムスズ酸化物、アルミニウム亜鉛酸化物およびジルコニウムスズ酸化物からなる群から選択される、請求項6に記載のデバイス。
【請求項8】
前記基板がTFT基板である、請求項6に記載のデバイス。
【請求項9】
前記金属酸化物が、第3〜13族金属およびランタニド金属の酸化物からなる群から選択される、請求項6に記載のデバイス。
【請求項10】
前記金属酸化物が、アルミニウム酸化物、モリブデン酸化物、バナジウム酸化物、クロム酸化物、タングステン酸化物、ニッケル酸化物、ニオブ酸化物、イットリウム酸化物、サマリウム酸化物、プラセオジム酸化物、テルビウム酸化物およびイッテルビウム酸化物からなる群から選択される、請求項6に記載のデバイス。
【請求項11】
TFT基板を提供することと、
導電性無機材料を含む第1のアノード層を前記TFT基板上に形成することと、
金属酸化物を含む第2の極薄アノード層を原子層堆積によって前記第1の層上に形成することと、
少なくとも1つの有機活性層を液相堆積技術によって形成することと、
カソードを形成することと、
を含む、有機電子デバイスを形成するための方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2012−510706(P2012−510706A)
【公表日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−538727(P2011−538727)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【国際出願番号】PCT/US2009/066202
【国際公開番号】WO2010/065505
【国際公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】