説明

有機電界発光素子及びその製造方法、並びに有機電界発光表示装置及びその製造方法

【課題】安価に、かつ、有機電界発光素子の電力効率を損なうことなく、現に輝度ムラが生じている部分に対して、in−situで輝度ムラを補正することができる有機電界発光素子の製造方法及び有機電界発光表示装置の製造方法の提供。
【解決手段】有機電界発光素子の発光面内の輝度ムラが生じている部分に電磁波を照射して輝度ムラを補正する輝度ムラ補正工程を含む有機電界発光素子の製造方法、及び有機電界発光素子を複数配列させてなる有機電界発光表示装置を作製する有機電界発光表示装置作製工程と、前記有機電界発光表示装置の発光面内の輝度ムラが生じている部分に電磁波を照射して発光面内の輝度ムラを補正する輝度ムラ補正工程とを含む有機電界発光表示装置の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子及びその製造方法、並びに有機電界発光表示装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機電界発光素子は、面発光が可能であることから、次世代のディスプレイ、照明デバイス、バックライトなどとして期待されている。しかし、有機電界発光素子は、電流デバイスであるため、大きな電流を流す必要があり、特に素子の発光面を大面積にすると、配線抵抗に起因して発光面内で印加される電圧にムラが生じ、発光面内に流れる電流が変化して大きな輝度ムラを生じるという問題があった。
【0003】
大きな発光面積を有する有機電界発光素子においては、通常、陽極として酸化インジウム錫(ITO)等の透明電極を用いる。電極間に電圧を印加する際に、ITOは抵抗率が大きいため、陽極給電部から遠くなるに従い電圧が降下する。それにより、有機層に印加される電圧は陽極給電部から遠くなるに従い降下し、そのため陽極給電部付近では輝度が高く、陽極給電部遠方では輝度が低くなるといった輝度ムラが生じる。
【0004】
前記の輝度ムラの問題を解決するため、例えば、配線抵抗による電圧降下を抑制するために、導電性の高い金属配線を網目状に設置する方法、発光面の外周部にITOよりも低抵抗率を有する金属で補助電極を形成する方法などが知られている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、大きなパネルになるほど外周部からのITOの電圧降下の影響が大きく、面内輝度ムラを十分に抑制するのは困難であった。また、輝度ムラ補正のため補助配線を多数設置することで、コストが大きく増加し、大面積の有機電界発光デバイスの商品化を妨げる大きな障害となっていた。
【0005】
また、他の方法としては、例えば、有機層の厚みを発光面内で変化させて、輝度ムラを改善する方法が提案されている(特許文献2参照)。この提案では、電極の電圧降下の影響が大きい部分で有機層膜厚を薄くすることで、輝度ムラを補償している。しかし、このように有機層の厚みに分布を持たせると、光の干渉によって色度ムラが生じるという問題があった。また、この提案では、発光面内に再現性よく膜厚変化をつけることが容易でなく、製造過程及び製造後に生じた予期せぬ輝度ムラに対しては対応できないという問題があった。
【0006】
更に、電極の給電部からの距離によって発生する電極内の電圧降下による面内の輝度ムラを、キャリアの注入効率乃至電荷輸送層の抵抗を面内で変化させることにより補償する方法が提案されている(特許文献3参照)。しかし、キャリアの注入効率を低下させたり、電荷輸送層の抵抗を下げたりすると、駆動電圧が大きくなり、電力効率の低下につながるという問題があった。また、上記提案と同様に、製造過程及び製造後に生じた予期せぬ輝度ムラに対しては対応できないという問題があった。
【0007】
一方、有機電界発光素子を画素として、その発光面を配列させたディスプレイなどの表示装置では、画素を駆動する薄膜トランジスタ(TFT)の製造ムラのために有機電界発光素子部分に流れる電流が画素毎に異なってしまうことを原因とした発光面内の輝度ムラが生じることが知られている。
【0008】
これを防止するためにTFTの数を増やしたり、製造方法を変更したりすることでムラを抑制する試みがなされている。
例えば、表示部の輝度の変化を検出し、この輝度の変化に応じて前記陽極の駆動電圧又は駆動電流を可変して前記表示部の輝度を一定に補正することが提案されている(特許文献4参照)。
しかしながら、この提案では、輝度変化を検出する装置、駆動電圧又は駆動電流を可変するための配線及び装置などを設置する必要があり、コストが増大するという問題があった。
【0009】
したがって、有機電界発光素子に他の配線、装置などを設置したり、有機電界発光素子を構成する層の厚み乃至抵抗を面内で変化させて素子を作製したりする必要がなく、素子の電力効率を減少させずに、in−situで、発光面内の輝度ムラを補正することができる有機電界発光素子及び有機電界発光表示装置の製造方法は未だ得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−214684号公報
【特許文献2】特開平11−40362号公報
【特許文献3】特開2006−222392号公報
【特許文献4】特開平11−109918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、安価に、かつ、有機電界発光素子の電力効率を損なうことなく、現に輝度ムラが生じている部分に対して、in−situで輝度ムラを補正することができる有機電界発光素子及びその製造方法、並びに有機電界発光表示装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、
<1> 有機電界発光素子の発光面内の輝度ムラが生じている部分に電磁波を照射して輝度ムラを補正する輝度ムラ補正工程を含むことを特徴とする有機電界発光素子の製造方法である。
<2> 有機電界発光素子の発光面内の輝度分布を求めて輝度ムラを検出する輝度ムラ検出工程を更に含む前記<1>に記載の有機電界発光素子の製造方法である。
<3> 電磁波の照射が、電磁波の透過率を調整する露光マスクを介して行なわれる前記<1>から<2>のいずれかに記載の有機電界発光素子の製造方法である。
<4> 電磁波の照射が、電磁波の照射時間を変えながら、発光面上を走査して行われる前記<1>から<2>のいずれかに記載の有機電界発光素子の製造方法である。
<5> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の製造方法で製造された有機電界発光素子であって、
発光面内における素子構成が同一であり、かつ、
発光面内から切り出した任意の2つの断片に同じ電圧をかけて電流密度を測定した場合に、前記電流密度が高い断片(A)と、電流密度が低い断片(B)との電流密度の差の割合〔(A−B)/A〕が、10%以上であることを特徴とする有機電界発光素子である。
<6> 正孔注入層を有し、前記正孔注入層にアリールアミン構造を部分骨格として有する有機化合物を含む前記<5>に記載の有機電界発光素子である。
<7> 陽極及び陰極を有し、前記陽極及び前記陰極の少なくともいずれかが、金属酸化物電極である前記<5>から<6>のいずれかに記載の有機電界発光素子である。
<8> 可視光透過率が、20%以上である前記<5>から<7>のいずれかに記載の有機電界発光素子である。
<9> 可撓性を有する前記<5>から<8>のいずれかに記載の有機電界発光素子である。
<10> 電磁波照射で使用された波長の電磁波を吸収する電磁波吸収層を発光面上に更に有してなる<5>から<9>に記載の有機電界発光素子である。
【0013】
<11> 有機電界発光素子を複数配列させてなる有機電界発光表示装置を作製する有機電界発光表示装置作製工程と、
前記有機電界発光表示装置の発光面内の輝度ムラが生じている部分に電磁波を照射して発光面内の輝度ムラを補正する輝度ムラ補正工程とを含む有機電界発光表示装置の製造方法である。
<12> 有機電界発光装置の発光面内の輝度分布を求めて輝度ムラを検出する輝度ムラ検出工程を更に含む前記<11>に記載の有機電界発光表示装置の製造方法である。
<13> 電磁波の照射が、電磁波の透過率を調整する露光マスクを介して行なわれる前記<11>から<12>のいずれかに記載の有機電界発光表示装置の製造方法である。
<14> 電磁波の照射が、電磁波の照射時間を変えながら、発光面上を走査して行われる前記<11>から<12>のいずれかに記載の有機電界発光表示装置の製造方法である。
<15> 前記<11>から<14>のいずれかに記載の製造方法で製造された有機電界発光表示装置であって、
発光面内における同一発光色の有機電界発光素子の素子構成が同一であり、かつ、
発光面内から切り出した同一発光色の任意の2つの有機電界発光素子に同じ電圧をかけて電流密度を測定した場合に、前記電流密度が高い素子(A)と、電流密度が低い素子(B)との電流密度の差の割合〔(A−B)/A〕が、10%以上であることを特徴とする有機電界発光表示装置である。
<16> 有機電界発光素子が、正孔注入層を有し、前記正孔注入層にアリールアミン構造を部分骨格として有する有機化合物を含む前記<15>に記載の有機電界発光表示装置である。
<17> 有機電界発光素子が、陽極及び陰極を有し、前記陽極及び前記陰極の少なくともいずれかが、金属酸化物電極である前記<15>から<16>のいずれかに記載の有機電界発光表示装置である。
<18> 可視光透過率が、20%以上である前記<15>から<17>のいずれかに記載の有機電界発光表示装置である。
<19> 可撓性を有する前記<15>から<18>のいずれかに記載の有機電界発光表示装置である。
<20> 電磁波照射で使用された波長の電磁波を吸収する電磁波吸収層を発光面上に更に有してなる<15>から<19>に記載の有機電界発光表示装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、安価に、かつ、素子の電力効率を損なうことなく、現に輝度ムラが生じている部分に対して、in−situで輝度ムラを補正することができる有機電界発光素子及びその製造方法、並びに有機電界発光表示装置及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、実施例1における輝度ムラ補正前の有機電界発光素子の発光面内輝度分布を示すグラフである。
【図2】図2は、実施例1における輝度ムラ補正後の有機電界発光素子の発光面内輝度分布を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例1における輝度ムラ補正後の有機電界発光素子から得た5mm角のサンプルA及びBの電圧−電流密度特性を示すグラフである。
【図4】図4は、比較例1における輝度ムラ補正後の有機電界発光素子から得た5mm角のサンプルC及びDの電圧−電流密度特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(有機電界発光素子の製造方法及び有機電界発光表示装置の製造方法)
本発明の有機電界発光素子の製造方法は、少なくとも、有機電界発光素子の発光面内の輝度ムラが生じている部分に電磁波を照射して輝度ムラを補正する輝度ムラ補正工程を含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
本発明の有機電界発光表示装置の製造方法は、少なくとも、有機電界発光素子を複数配列させてなる有機電界発光表示装置を作製する有機電界発光表示装置作製工程と、有機電界発光表示装置の発光面内の輝度ムラが生じている部分に電磁波を照射して輝度ムラを補正する輝度ムラ補正工程とを含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
【0017】
<輝度ムラ補正工程>
前記輝度ムラ補正工程は、有機電界発光素子又は有機電界発光表示装置の発光面内の輝度ムラが生じている部分に電磁波を照射して輝度ムラを補正する工程である。
ここで、前記輝度ムラが生じている部分とは、前記有機電界発光素子においては、1つの素子の発光面内で輝度にバラツキがあり、輝度の高低差が生じている部分を指し、前記有機電界発光表示装置においては、1つの有機電界発光素子(画素)の発光面内で輝度にバラツキがある部分に加えて、前記有機電界発光表示装置に配列された同一発光色の素子間において輝度にバラツキがある部分を含む。
【0018】
本発明の輝度ムラ補正の方法としては、電磁波照射を用いることを必須とする。前記有機電界発光素子又は有機電界発光表示装置の発光面において電磁波が照射された部分では、駆動電圧が増大し、輝度が低下するため、輝度が高い部分に電磁波を照射し、輝度が低い部分には電磁波を照射しないように電磁波の照射量を調整することで、現に発生している輝度ムラを補正することができ、均一な光量分布の発光面を有する有機電界発光素子又は有機電界発光表示装置が得られる。
このような輝度ムラ補正方法によれば、補助配線、駆動回路、輝度ムラ補正のための装置などを設ける必要がないため、低コスト化を図ることができる。
【0019】
本発明において用いる電磁波としては、真空波長にして10−17m〜10m程度の範囲のものであり、γ線、X線、紫外線、可視光線、赤外線などを包含する。これらの中でも、紫外線乃至可視光線が好ましい。
電磁波照射の装置の光源としては、例えば、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、水素(重水素)ランプ、希ガス(例えば、キセノン、アルゴン、ヘリウム、ネオン等)放電ランプ、窒素レーザー、エキシマレーザー(例えば、XeCl、XeF、KrF、KrCl等)、水素レーザー、ハロゲンレーザー、各種可視−赤外レーザーの高調波などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
電磁波照射装置としては、上記各種光源から光を出射させることができれば、特に制限はなく、市販品を用いることができる。該市販品としては、例えば、褪色試験機(光源:キセノンランプ、新東科学株式会社製)、青紫色半導体レーザーKLX−120mWタイプ(発光ピーク:405nm、株式会社キコー技研製)などが挙げられる。
【0021】
前記電磁波の照射量としては、輝度のバラツキの大きさ(輝度の高低差)によって相対的に決定され、一義的には決定できないが、輝度の高い部分ほど、照射量を多く設定することが好ましい。すなわち、輝度の高い部分の輝度低下幅を相対的に大きくし、輝度の低い部分の輝度低下を抑えるようにすることで、発光面全体としての光量を維持しつつ、輝度分布の均一化を図ることができる。
【0022】
前記有機電界発光素子の発光面における輝度ムラに応じて電磁波を照射する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、電磁波の照射が、電磁波の透過率を調整する露光マスクを介して行なわれること、又は、電磁波の照射が、電磁波の照射量を変えながら、発光面上を走査して行われることが好ましい。また、前記走査の方法としては、例えば、自動制御のxyステージ(中央精機株式会社製、ALD−220−C2P)に電磁波を照射するレーザーを設置し、xy方向にレーザーを移動させる方法が挙げられる。
【0023】
前記電磁波の照射量を変化させる方法としては、照射時間を変化させる方法、照射強度を変化させる方法などが挙げられる。輝度が高い部分に対しては、照射時間を長く又は照射強度を強くし、輝度が低い部分に対しては、照射時間を短く又は照射強度を弱くすることが好ましい。
【0024】
<輝度ムラ検出工程>
本発明の有機電界発光素子の製造方法及び有機電界発光表示装置の製造方法は、前記輝度ムラ補正工程において電磁波照射強度を決定するため、有機電界発光素子の発光面内の輝度分布を求めて輝度ムラを検出する輝度ムラ検出工程を更に含むことが好ましい。
前記輝度の測定方法としては、特に制限はなく、例えば、コニカミノルタ社製CS−1000などによって測定することができる。このようにして輝度の測定を発光面全体を走査しながら行うことにより、発光面全体における輝度分布を求めることができる。
【0025】
前記輝度ムラ検出方法により求められた輝度分布から、電磁波照射量を設定する方法としては、例えば、輝度分布を白黒の色調に変換し、この白黒画像をもとに、前記補正用マスクを作製する方法が挙げられる。前記補正用マスクとしては、照射する電磁波の透過率を面内で調節するものが好ましく、その階調表現としては、面積階調で作製してもよいし、濃淡階調で作製してもよい。輝度ムラを補正するために電磁波照射量を面内で変化させる方法として、面積階調によるマスクを用いると、再現性よく輝度ムラを補正できるという利点があるが、長時間素子を発光させた場合には、逆に輝度ムラが生じやすいという欠点がある。また、濃淡階調によるマスクを用いる場合では、素子の特性に応じて複雑な濃淡を持つマスクを作製する必要があり、マスク作製が煩雑となるという欠点があるが、長時間素子を発光させた際に輝度ムラの発生を防止できるという利点がある。したがって、用途に応じてこれらを使い分けることが好ましい。
【0026】
以下では、本発明による有機電界発光素子の素子構成を説明する。
前記有機電界発光素子は、通常、一対の電極、即ち陽極と陰極と、両電極の間に発光層と正孔注入層とを含む有機層を有し、更に必要に応じて、正孔輸送層、電子輸送層、正孔ブロック層、電子ブロック層、電子注入層等の各機能層、基板、保護層などのその他の成分を含む。
【0027】
前記有機電界発光素子は、通常、前記陽極上に正孔注入層を設けた積層構成を有する。該積層構成と発光層との間に前記正孔輸送層を有することが好ましく、前記陰極と前記発光層との間に前記電子輸送層を有することが好ましい。また、前記電子輸送層と前記陰極との間に前記電子注入層を設けてもよい。更に、前記発光層と前記正孔輸送層との間に正孔輸送性中間層(電子ブロック層)を設けてもよく、前記発光層と前記電子輸送層との間に電子輸送性中間層(正孔ブロック層)を設けてもよい。各有機層は複数の二次層に分かれていてもよい。
【0028】
前記発光層を含む有機層は、公知の方法に従って形成することができるが、例えば、蒸着法、スパッタ法等の乾式製膜法、湿式塗布方式、転写法、印刷法、インクジェット方式、などにより好適に形成することができる。
【0029】
前記有機電界発光素子全体の性状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、透明(半透明を含む)でも不透明でもよく、透明な場合は、無色透明でも有色透明でもよい。また、使用目的に応じて可撓性を持っていてもよい。
なお、素子が透明である場合、可視光透過率としては、少なくとも20%以上であり、40%以上が好ましく、60%以上がより好ましい。また、透明有機電界素子では、前記陽極及び前記陰極を両方ともに光透過性とするため、電極の配線抵抗が大きくなりやすく、本発明の効果が大きい。
また、可撓性を有する有機電界素子では、電極として割れにくい酸化亜鉛インジウム(IZO)が用いられたり、電極の厚みを薄くしたりする必要があり、配線抵抗が大きくなりやすく、本発明の効果が大きい。
【0030】
<<電極>>
前記有機電界発光素子は、一対の電極、即ち陽極と陰極とを含む。前記有機電界発光素子の性質上、陽極及び陰極のうち少なくとも一方の電極は透明であることが好ましい。通常、陽極は有機化合物層に正孔を供給する電極としての機能を有していればよく、陰極は有機化合物層に電子を注入する電極としての機能を有していればよい。
前記電極としては、その形状、構造、大きさ等については特に制限はなく、有機電界発光素子の用途、目的に応じて公知の電極材料の中から適宜選択することができる。
前記電極を構成する材料としては、例えば、金属、合金、金属酸化物、導電性化合物、これらの混合物などが挙げられる。
【0031】
−陽極−
前記陽極を構成する材料としては、例えば、アンチモンやフッ素などをドープした酸化錫(ATO、FTO)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の導電性金属酸化物;金、銀、クロム、ニッケル等の金属;これらの金属と導電性金属酸化物との混合物又は積層物;ヨウ化銅、硫化銅等の無機導電性物質;ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等の有機導電性材料、これらとITOとの積層物などが挙げられる。これらの中でも、導電性金属酸化物が好ましく、生産性、高導電性、透明性等の観点から、ITOが特に好ましい。
【0032】
前記陽極の形成方法については、特に制限はなく、公知の方法に従って行うことができ、例えば、印刷方式、コーティング方式等の湿式方式;真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的方式;CVD、プラズマCVD法等の化学的方式などが挙げられる。これらの中から、前記陽極を構成する材料との適性を考慮し、適宜選択した方法に従って前記基板上に形成することができ、例えば、陽極の材料としてITOを選択する場合には、直流又は高周波スパッタ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法などによって形成することができる。なお、後述する陰極の材料として金属などを選択する場合には、その1種又は2種以上を同時又は順次にスパッタ法などによって形成することができる。
【0033】
−陰極−
前記陰極を構成する材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルカリ金属(例えばLi、Na、K、Cs等)、アルカリ土類金属(例えばMg、Ca等)、金、銀、鉛、アルミニウム、ナトリウム−カリウム合金、リチウム−アルミニウム合金、マグネシウム−銀合金、インジウム、イッテルビウム等の希土類金属などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいが、安定性と電子注入性とを両立させる観点からは、2種以上を併用することが好ましい。
これらの中でも、電子注入性の点で、アルカリ金属及びアルカリ土類金属が好ましく、保存安定性に優れる点で、アルミニウムを主体とする材料が好ましい。
前記アルミニウムを主体とする材料とは、アルミニウム単独、アルミニウムと0.01質量%〜10質量%のアルカリ金属、又はアルカリ土類金属との合金若しくはこれらの混合物(例えば、リチウム−アルミニウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金など)をいう。
【0034】
前記陰極の形成方法については、特に制限はなく、公知の方法に従って行うことができ、前述の陽極の形成方法と同様の方法を用いることができる。
【0035】
なお、前記陽極及び陰極を形成する際にパターニングを行う場合は、フォトリソグラフィー等による化学的エッチングによって行ってもよいし、レーザー等による物理的エッチングによって行ってもよい。また、マスクを重ねて真空蒸、スパッタなどによって行ってもよいし、リフトオフ法乃至印刷法によって行ってもよい。
【0036】
前記電極には、酸素、窒素、希ガスなどを用いた表面処理を行ってもよい。
前記表面処理としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、プラズマ処理、イオンビームスパッタリング等の各種スパッタリング、紫外線照射処理、ラジカルビーム処理など、公知の表面処理方法が挙げられる。これらの中でも、短時間で処理でき、さまざまなガス雰囲気下で行なうことができる点で、プラズマ処理が好ましい。
【0037】
前記プラズマ処理としては、ガスをプラズマ化して基板表面を処理できれば装置、条件などは適宜選択できるが、プラズマ化したガスによって電極表面の凹凸が大きくならない条件で行なうことが必要である。電極表面の凹凸が処理前に比較して大きくなるような条件は好ましくなく、有機電界発光素子にした際に電極間のショートが発生しやすくなる可能性がある。
【0038】
<<正孔注入層>>
前記正孔注入層は、陽極又は陽極側から正孔を受け取り陰極側に輸送する機能を有する層である。前記正孔注入層は、単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
前記正孔注入材料としては、低分子化合物であってもよく、高分子化合物であってもよく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ピロール誘導体、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、チオフェン誘導体、有機シラン誘導体、カーボンなどが挙げられる。これらの中でも、アリールアミン骨格を有する材料を正孔注入層に用いた有機電界発光素子で電磁波露光により駆動電圧が上昇しやすくなる点で、アリールアミン誘導体が好ましい。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
前記正孔注入層の形成方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができるが、例えば、蒸着法、スパッタ法等の乾式製膜法、湿式塗布方式、転写法、印刷法、インクジェット方式などにより好適に形成することができる。
【0040】
本発明に用いることができる正孔注入材料の具体例として、以下の化合物を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【化1】

【0041】
前記正孔注入層は、pドープされていてもよく、具体的には電子受容性化合物を含有する。
前記pドープされた正孔注入層は、正孔注入材料と、電子受容性化合物を共蒸着することで形成することができる。
【0042】
前記電子受容性化合物としては、電子受容性で有機化合物を酸化する性質を有すれば、無機化合物でもよく、有機化合物でもよい。
前記無機化合物としては、例えば、塩化第二鉄、塩化アルミニウム、塩化ガリウム、塩化インジウム、五塩化アンチモン等のハロゲン化金属;五酸化バナジウム、三酸化モリブデン等の金属酸化物などが挙げられる。
前記有機化合物としては、例えば、置換基としてニトロ基、ハロゲン、シアノ基、トリフルオロメチル基等を有する化合物;キノン系化合物、酸無水物系化合物、フラーレンなどが挙げられる。
これらの電子受容性化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0043】
前記電子受容性化合物の含有量としては、材料の種類によって異なり、一義的には決定できないが、正孔注入層材料に対して、0.01質量%〜50質量%が好ましく、0.05質量%〜20質量%がより好ましく、0.1質量%〜10質量%が特に好ましい。
前記使用量が、前記好ましい範囲内であると、正孔注入層内のキャリヤ数が増加するために正孔注入性、輸送性が改善する。一方、前記含有量が50質量%を超えると、逆にキャリヤ数が減少したりして結果的に正孔注入性、輸送性が低下する可能性があり、好ましくない。
【0044】
<<発光層>>
前記発光層は、電界印加時に、陽極、正孔注入層、又は正孔輸送層から正孔を受け取り、陰極、電子注入層、及び電子輸送層のいずれかから電子を受け取り、正孔と電子の再結合の場を提供して発光させる機能を有する層である。
前記発光層は、発光材料を含む。該発光層は発光材料のみで構成されていてもよいし、ホスト材料と発光材料の混合層でもよい(後者の場合、発光材料を「発光性ドーパント」もしくは「ドーパント」と称する場合がある)。
更に、前記発光層中に電荷輸送性を有さず、発光しない材料を含んでいてもよい。
【0045】
前記発光層の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2nm〜500nmが好ましく、外部量子効率の観点から、3nm〜200nmがより好ましく、5nm〜100nmが特に好ましい。
また、前記発光層は1層であっても2層以上であってもよく、それぞれの層が異なる発光色で発光してもよい。
【0046】
−発光材料−
前記発光材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、蛍光発光材料であってもよいし、燐光発光材料であってもよい。また、これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記発光性ドーパントは、ホスト化合物との間で、イオン化ポテンシャルの差(ΔIp)と電子親和力の差(ΔEa)が、1.2eV>ΔIp>0.2eV、及び/又は1.2eV>ΔEa>0.2eVの関係を満たすドーパントであることが、駆動耐久性の観点から好ましい。
前記発光層中の発光性ドーパントの含有量としては、発光層中に一般的に発光層を形成する全化合物質量に対して、0.1質量%〜50質量%が好ましく、耐久性、外部量子効率の観点から1質量%〜50質量%がより好ましく、2質量%〜40質量%が特に好ましい。
【0047】
−−燐光発光材料−−
前記燐光発光材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、遷移金属原子又はランタノイド原子を含む錯体などが挙げられる。
前記遷移金属原子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばルテニウム、ロジウム、パラジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、金、銀、銅、白金などが挙げられる。これらの中でも、レニウム、イリジウム、白金が好ましく、イリジウム、白金が特に好ましい。
【0048】
前記錯体の配位子としては、例えば、G.Wilkinson等著,Comprehensive Coordination Chemistry, Pergamon Press社1987年発行、H.Yersin著,「Photochemistry and Photophysics of Coordination Compounds」 Springer−Verlag社1987年発行、山本明夫著「有機金属化学−基礎と応用−」裳華房社1982年発行等に記載の配位子などが挙げられる。
【0049】
前記錯体は、化合物中に遷移金属原子を1つ有してもよいし、2つ以上有するいわゆる複核錯体であってもよい。なお、異種の金属原子を同時に含有していてもよい。
【0050】
前記燐光発光材料としては、例えば、米国特許第6303238号明細書、米国特許第6097147号明細書、WO00/57676号パンフレット、WO00/70655号パンフレット、WO01/08230号パンフレット、WO01/39234号パンフレット、WO01/41512号パンフレット、WO02/02714号パンフレット、WO02/15645号パンフレット、WO02/44189号パンフレット、WO05/19373号パンフレット、WO2004/108857号パンフレット、WO2005/042444号パンフレット、WO2005/042550号パンフレット、特開2001−247859号公報、特開2002−302671号公報、特開2002−117978号公報、特開2003−133074号公報、特開2002−235076号公報、特開2003−123982号公報、特開2002−170684号公報、EP1211257号明細書、特開2002−226495号公報、特開2002−234894号公報、特開2001−247859号公報、特開2001−298470号公報、特開2002−173674号公報、特開2002−203678号公報、特開2002−203679号公報、特開2004−357791号公報、特開2006−93542号公報、特開2006−261623号公報、特開2006−256999号公報、特開2007−19462号公報、特開2007−84635号公報、特開2007−96259号公報等に記載の燐光発光化合物などが挙げられる。
これらの中でも、Ir錯体、Pt錯体、Cu錯体、Re錯体、W錯体、Rh錯体、Ru錯体、Pd錯体、Os錯体、Eu錯体、Tb錯体、Gd錯体、Dy錯体、Ce錯体が好ましく、Ir錯体、Pt錯体、Re錯体がより好ましく、金属−炭素結合、金属−窒素結合、金属−酸素結合、金属−硫黄結合の少なくとも一つの配位様式を含むIr錯体、Pt錯体、Re錯体が更に好ましく、発光効率、駆動耐久性、色度等の観点から、3座以上の多座配位子を含むIr錯体、Pt錯体、Re錯体が特に好ましい。
【0051】
本発明に用いることができる燐光発光材料の具体例として、以下の化合物を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0052】
【化2】

【0053】
【化3】

【0054】
【化4】

【0055】
−−蛍光発光材料−−
前記蛍光発光材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ベンゾオキサゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾチアゾール、スチリルベンゼン、ポリフェニル、ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン、ナフタルイミド、クマリン、ピラン、ペリノン、オキサジアゾール、アルダジン、ピラリジン、シクロペンタジエン、ビススチリルアントラセン、キナクリドン、ピロロピリジン、チアジアゾロピリジン、シクロペンタジエン、スチリルアミン、芳香族ジメチリディン化合物、縮合多環芳香族化合物(例えば、アントラセン、フェナントロリン、ピレン、ペリレン、ルブレン、又はペンタセン等)、8−キノリノールの金属錯体;ピロメテン錯体や希土類錯体に代表される各種金属錯体;ポリチオフェン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン等のポリマー化合物;有機シラン、これらの誘導体などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0056】
−ホスト材料−
前記ホスト材料は、電荷輸送材料であることが好ましい。該ホスト材料は、1種であっても2種以上であってもよい。
前記電荷輸送材料としては、正孔輸送性に優れる正孔輸送性ホスト材料、及び電子輸送性に優れる電子輸送性ホスト材料を用いることができる。
【0057】
−−正孔輸送性ホスト材料−−
前記正孔輸送性ホスト材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ピロール、インドール、カルバゾール、アザインドール、アザカルバゾール、トリアゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、ピラゾール、イミダゾール、チオフェン、ポリアリールアルカン、ピラゾリン、ピラゾロン、フェニレンジアミン、アリールアミン、アミノ置換カルコン、スチリルアントラセン、フルオレノン、ヒドラゾン、スチルベン、シラザン、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、ポルフィリン系化合物、ポリシラン系化合物、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、アニリン系共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン等の導電性高分子オリゴマー、有機シラン、カーボン膜、又はそれらの誘導体、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、インドール誘導体、カルバゾール誘導体、芳香族第三級アミン化合物、チオフェン誘導体が好ましく、分子内にカルバゾール基を有するものがより好ましく、t−ブチル置換カルバゾール基を有する化合物が特に好ましい。
【0058】
−−電子輸送性ホスト材料−−
前記電子輸送性ホスト材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ピリジン、ピリミジン、トリアジン、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾ−ル、オキサゾ−ル、オキサジアゾ−ル、フルオレノン、アントラキノジメタン、アントロン、ジフェニルキノン、チオピランジオキシド、カルボジイミド、フルオレニリデンメタン、ジスチリルピラジン、フッ素置換芳香族化合物、ナフタレンペリレン等の複素環テトラカルボン酸無水物;フタロシアニン又はこれらの誘導体(他の環と縮合環を形成してもよい)、8−キノリノ−ル誘導体の金属錯体、メタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾ−ル、ベンゾチアゾ−ルを配位子とする金属錯体に代表される各種金属錯体などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、耐久性の観点から、金属錯体化合物が好ましく、金属に配位する少なくとも1つの窒素原子又は酸素原子又は硫黄原子を有する配位子をもつ金属錯体がより好ましい。
前記金属錯体化合物としては、例えば、特開2002−235076号公報、特開2004−214179号公報、特開2004−221062号公報、特開2004−221065号公報、特開2004−221068号公報、特開2004−327313号公報等に記載の化合物などが挙げられる。
【0059】
本発明に用いることができる正孔輸送性ホスト材料及び電子輸送性ホスト材料としては、以下の化合物、及びこれらの重水素化体を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
【化5】

【0061】
【化6】

【0062】
【化7】

【0063】
<その他の成分>
本発明の有機電界発光素子は、その他の成分として、目的に応じて選択される、正孔輸送層、正孔輸送性中間層(電子ブロック層)、電子輸送性中間層(正孔ブロック層)、電子輸送層、電子注入層等の各機能層、基板、保護層などを更に有してもよい。
【0064】
<<正孔輸送層>>
前記正孔輸送層は、前記正孔注入層とともに、陽極又は陽極側から正孔を受け取り陰極側に輸送する機能を有する層である。
前記正孔輸送層としては、単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
前記正孔輸送層の材料及び含有される電子受容性化合物としては、例えば、前記正孔注入層と同様のものが挙げられる。
【0065】
<<電子注入層、電子輸送層>>
前記電子注入層、及び電子輸送層は、陰極又は陰極側から電子を受け取り陽極側に輸送する機能を有する層である。これらの層に用いる電子注入材料及び電子輸送材料としては、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよく、具体的には、ピリジン誘導体、キノリン誘導体、ピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、フタラジン誘導体、フェナントロリン誘導体、トリアジン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、フルオレノン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン誘導体、8−キノリノール誘導体の金属錯体及びメタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾール乃至ベンゾチアゾールを配位子とする金属錯体に代表される各種金属錯体、シロールに代表される有機シラン誘導体などが好ましい。
【0066】
前記電子注入層及び電子輸送層には、電子供与性ドーパントを含有させることができる。
前記電子注入層及び電子輸送層に導入される電子供与性ドーパントとしては、電子供与性で有機化合物を還元する性質を有していれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、Li等のアルカリ金属、Mg等のアルカリ土類金属、希土類金属を含む遷移金属、還元性有機化合物などが好ましい。前記金属としては、仕事関数が4.2eV以下の金属が特に好ましく、具体的には、Li、Na、K、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、Cs、La、Sm、Gd、Ybなどが挙げられる。また、還元性有機化合物としては、例えば、含窒素化合物、含硫黄化合物、含リン化合物などが挙げられる。
これらの電子供与性ドーパントは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記電子供与性ドーパントの含有量としては、材料の種類によって異なるが、電子輸送層材料に対して0.1質量%〜99質量%であることが好ましく、1.0質量%〜80質量%であることが更に好ましく、2.0質量%〜70質量%であることが特に好ましい。
【0067】
前記電子注入層及び前記電子輸送層は、上述した材料の1種又は2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
【0068】
<<正孔ブロック層、電子ブロック層>>
前記正孔ブロック層は、陽極側から発光層に輸送された正孔が陰極側に通り抜けることを防止する機能を有する層であり、通常、発光層と陰極側で隣接する有機化合物層として設けられる。
前記電子ブロック層は、陰極側から発光層に輸送された電子が陽極側に通り抜けることを防止する機能を有する層であり、通常、発光層と陽極側で隣接する有機化合物層として設けられる。
前記正孔ブロック層を構成する化合物としては、例えば、BAlq等のアルミニウム錯体、トリアゾール誘導体、BCP等のフェナントロリン誘導体などが挙げられる。
前記電子ブロック層を構成する化合物としては、例えば、前述の正孔輸送材料として挙げたものが利用できる。
前記正孔ブロック層及び電子ブロック層の平均厚みとしては、1nm〜500nmが好ましく、5nm〜200nmがより好ましく、10nm〜100nmが特に好ましい。また、正孔ブロック層及び電子ブロック層は、上述した材料の1種又は2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
【0069】
<<基板>>
前記有機電界発光素子は、基板上に設けられていることが好ましく、電極と基板とが直接接する形で設けられていてもよいし、中間層を介在する形で設けられていてもよい。
前記基板の材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、ガラス(無アルカリガラス、ソーダライムガラス等)等の無機材料;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリイミド、ポリシクロオレフィン、ノルボルネン樹脂、ポリ(クロロトリフルオロエチレン)等の有機材料などが挙げられる。
【0070】
前記基板の形状、構造、大きさなどについては、特に制限はなく、発光素子の用途、目的などに応じて適宜選択することができる。一般的には、前記基板の形状としては、板状であることが好ましい。前記基板の構造としては、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよく、また、単一部材で形成されていてもよいし、2種以上の部材で形成されていてもよい。前記基板は、透明でも不透明でもよく、透明な場合は無色透明でも有色透明でもよい。
【0071】
前記基板には、その表面又は裏面に透湿防止層(ガスバリア層)を設けることができる。
前記透湿防止層(ガスバリア層)の材料としては、例えば、窒化珪素、酸化珪素等の無機物などが挙げられる。
前記透湿防止層(ガスバリア層)は、例えば、高周波スパッタリング法などにより形成することができる。
【0072】
<<保護層>>
前記有機電界発光素子は、全体が保護層によって保護されていてもよい。
前記保護層に含まれる材料としては、水分や酸素等の素子劣化を促進するものが素子内に入ることを抑止する機能を有しているものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、In、Sn、Pb、Au、Cu、Ag、Al、Ti、Ni等の金属;MgO、SiO、SiO、Al、GeO、NiO、CaO、BaO、Fe、Y、TiO等の金属酸化物;SiNx、SiNxOy等の金属窒化物;MgF、LiF、AlF、CaF等の金属フッ化物;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリイミド、ポリウレア、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリジクロロジフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンとジクロロジフルオロエチレンとの共重合体、テトラフルオロエチレンと少なくとも1種のコモノマーとを含むモノマー混合物を共重合させて得られる共重合体、共重合主鎖に環状構造を有する含フッ素共重合体、吸水率1%以上の吸水性物質、吸水率0.1%以下の防湿性物質などが挙げられる。
【0073】
前記保護層の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、MBE(分子線エピタキシ)法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法(高周波励起イオンプレーティング法)、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、ガスソースCVD法、コーティング法、印刷法、転写法などが挙げられる。
【0074】
−封止容器−
前記有機電界発光素子は、封止容器を用いて素子全体が封止されていてもよい。更に、前記封止容器と有機電界発光素子の間の空間には、水分吸収剤又は不活性液体を封入してもよい。
前記水分吸収剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化バリウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、五酸化燐、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化銅、フッ化セシウム、フッ化ニオブ、臭化カルシウム、臭化バナジウム、モレキュラーシーブ、ゼオライト、酸化マグネシウムなどが挙げられる。
前記不活性液体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、パラフィン類、流動パラフィン類;パーフルオロアルカン、パーフルオロアミン、パーフルオロエーテル等のフッ素系溶剤;塩素系溶剤、シリコーンオイル類などが挙げられる。
【0075】
−樹脂封止層−
前記有機電界発光素子は、大気からの酸素や水分による素子性能劣化を樹脂封止層により封止することで抑制することが好ましい。
前記樹脂封止層の樹脂素材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ゴム系樹脂、エステル系樹脂、などが挙げられる。これらの中でも、水分防止機能の観点から、エポキシ樹脂が特に好ましい。前記エポキシ樹脂の中でも熱硬化型エポキシ樹脂、又は光硬化型エポキシ樹脂が好ましい。
【0076】
前記樹脂封止層の作製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、樹脂溶液を塗布する方法、樹脂シートを圧着又は熱圧着する方法、蒸着、スパッタリング等により乾式重合する方法などが挙げられる。
【0077】
−封止接着剤−
前記有機電界発光素子に用いられる封止接着剤は、端部よりの水分や酸素の侵入を防止する機能を有する。
前記封止接着剤の材料としては、前記樹脂封止層で用いる材料と同じものを用いることができる。これらの中でも、水分防止の点からエポキシ系の接着剤が好ましく、光硬化型接着剤あるいは熱硬化型接着剤が特に好ましい。
前記封止接着剤には、フィラーを添加することが好ましい。前記フィラーとしては、例えば、SiO、SiO(酸化ケイ素)、SiON(酸窒化ケイ素)、SiN(窒化ケイ素)等の無機材料が好ましい。該フィラーの添加により、封止接着剤の粘度が上昇し、加工適正が向上し、及び耐湿性が向上する。
前記封止接着剤は、乾燥剤を含有してもよい。前記乾燥剤としては、例えば、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウムなどが挙げられる。前記乾燥剤の添加量は、前記封止接着剤に対し0.01質量%〜20質量%が好ましく、0.05質量%〜15質量%がより好ましい。前記添加量が、0.01質量%未満であると、乾燥剤の添加効果が薄れることになり、20質量%を超えると、封止接着剤中に乾燥剤を均一分散させることが困難になることがある。
本発明においては、前期乾燥剤の入った封止接着剤をディスペンサー等により任意量塗布し、塗布後第2基板を重ねて、硬化させることにより封止することができる。
【0078】
−駆動−
前記有機電界発光素子は、陽極と陰極との間に直流(必要に応じて交流成分を含んでもよい)電圧(通常、2ボルト〜15ボルト)、又は直流電流を印加することにより、発光を得ることができる。
前記有機電界発光素子は、薄膜トランジスタ(TFT)によりアクティブマトリックスへ適用することができる。薄膜トランジスタの活性層としてアモルファスシリコン、高温ポリシリコン、低温ポリシリコン、微結晶シリコン、酸化物半導体、有機半導体、カーボンナノチューブ等を適用することができる。
前記有機電界発光素子は、例えばWO2005/088726号パンフレット、特開2006−165529号公報、米国特許出願公開2008/0237598A1明細書などに記載の薄膜トランジスタを適用することができる。
【0079】
前記有機電界発光素子は、特に制限はなく、種々の公知の工夫により、光取り出し効率を向上させることができる。例えば、基板表面形状を加工する(例えば、微細な凹凸パターンを形成する)こと、基板、ITO層、有機層の屈折率を制御すること、基板、ITO層、有機層の膜厚を制御することなどにより、光の取り出し効率を向上させ、外部量子効率を向上させることが可能である。
前記有機電界発光素子からの光取り出し方式は、トップエミッション方式であってもボトムエミッション方式であってもよい。
【0080】
前記有機電界発光素子は、共振器構造を有してもよい。例えば、透明基板上に、屈折率の異なる複数の積層膜よりなる多層膜ミラー、透明又は半透明電極、発光層、及び金属電極を重ね合わせて有する。発光層で生じた光は多層膜ミラーと金属電極を反射板としてその間で反射を繰り返し共振する。
別の好ましい態様では、透明基板上に、透明又は半透明電極と金属電極がそれぞれ反射板として機能して、発光層で生じた光はその間で反射を繰り返し共振する。
共振構造を形成するためには、2つの反射板の有効屈折率、反射板間の各層の屈折率と厚みから決定される光路長を所望の共振波長の得るのに最適な値となるよう調整される。第1の態様の場合の計算式は、特開平9−180883号公報に記載されている。第2の態様の場合の計算式は、特開2004−127795号公報に記載されている。
【0081】
(有機電界発光素子及び有機電界発光表示装置)
本発明の有機電界発光素子は、本発明の前記有機電界発光素子の製造方法により製造されてなる。
本発明の有機電界発光表示装置は、本発明の前記有機電界発光表示装置の製造方法により製造されてなる。
【0082】
前記有機電界素子としては、上述したように電極、発光層、正孔注入層を含み、これらを含む各機能層としては、本発明の前記有機電界発光素子の製造方法で述べた構成のすべてを適用することができる。
【0083】
上記製造方法で製造された有機電界発光素子は、以下に示す特徴を備えている。すなわち、発光面内における素子構成が同一であり、かつ、発光面内の任意の2つの部分を選択し、発光面に垂直な平面で分断した断片の陽極と陰極との間に同じ電圧をかけた場合に、前記断片に流れる電流密度が高い断片(A)と、電流密度が低い断片(B)との電流密度の差の割合〔(A−B)/A〕が、10%以上である部分を含む。
【0084】
前記有機電界発光表示装置は、本発明の前記有機電界発光素子の製造方法で述べた構成の有機電界発光素子を複数配列してなる。配列の方向、方法などは、有機電界発光素子が発光面を形成している限り特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、その発光面は、単色でもよく、カラーでもよい。また、前記有機電界発光素子としては、上述した構成のすべてを適用することができる。
【0085】
上述の製造方法で製造された有機電界発光表示装置は、以下に示す特徴を備えている。すなわち、発光面内における同一発光色の有機電界発光素子の素子構成が同一であり、かつ、発光面内の同一発光色の有機電界発光素子を任意に2つ選択した場合に、発光面に垂直な平面で分断した前記有機電界発光素子の陽極と陰極との間に同じ電圧をかけた場合に、前記有機電界発光素子に流れる電流密度が高い素子(A)と、電流密度が低い素子(B)との電流密度の差の割合〔(A−B)/A〕が、10%以上である有機電界発光素子を前記発光面内に有する。
【0086】
前記有機電界発光素子及び前記有機電界発光表示装置は、その発光面上に、前記輝度ムラ補正工程で照射した波長の電磁波を吸収する電磁波吸収層を有してもよい。
前記輝度ムラ補正工程において露光された有機電界発光素子は、照射された電磁波の波長に対し感受性があるため、前記有機電界発光素子の発光面に外部からの特定の波長を含む光に曝された場合に輝度が低下してしまうことがある。そこで、意図しない露光を防止するため、輝度ムラ補正を行なった後に、輝度ムラ補正工程で照射した波長の電磁波を吸収する電磁波吸収層を有機電界発光素子の発光面上に設けることが好ましい。
【0087】
前記電磁波吸収層としては、特に制限はなく、吸収する波長に応じて適宜選択することができ、例えば、フィルター、フィルムなどが挙げられる。
前記電磁波吸収層を設置する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、有機電界発光素子乃至有機電界発光表示装置全体を包んでもよいし、それらのの発光面を覆うように被せてもよい。
【実施例】
【0088】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0089】
(実施例1)
<有機電界発光素子の製造>
100nm厚のITO付きガラス基板(基板厚み:0.7mm、ジオマテック株式会社製スーパーフラットITO)を洗浄して十分に乾燥した後、神港精機株式会社製EXAM型プラズマクリーニング装置を用いてITO表面を酸素プラズマ処理した。次いで、真空蒸着装置(トッキ株式会社製CM470)に基板を投入し、2−TNATAを厚みが120nmとなるように蒸着させた。次いで、NPDを厚みが4nmとなるように蒸着させた。次いで、HTL−1を厚みが3nmとなるように蒸着させた。次いで、mCPを厚みが3nmとなるように蒸着させた。次いで、発光層として40質量%PT−1をドープしたmCPを厚みが30nmとなるように蒸着させた。更に、Balqを厚みが39nmとなるように、BCPを厚みが1nmとなるように蒸着した。蒸着レートは、いずれも0.2nm/sとした。ついで、LiFを厚みが1nmとなるように蒸着し、最後に陰極としてアルミニウム(Al)を厚みが100nmとなるように蒸着した。LiFの蒸着レートは、0.02nm/sとし、Alの蒸着レートは、1nm/sとした。次に封止ガラスを、UV硬化接着剤(ナガセケムテックス株式会社製XNR5516Z)を用いて接着し、発光面積が15cm×15cmの白色有機電界発光素子を得た。最終的に得られた素子の構成は、ITO(100nm)/2−TNATA(120nm)/NPD(4nm)/HTL−1(3nm)/mCP(3nm)/40質量%PT−1をドープしたmCP(30nm)/BAlq(39nm)/BCP(1nm)/LiF(1nm)/Al(100nm)である。なお、括弧内は、平均厚みを表す。
なお、前記素子構成物のうち、2−TNATA、NPD、HTL−1、mCP、PT−1、BAlq、BCPは、それぞれ下記構造式で表される。
【化8】

【0090】
<輝度ムラ検出>
得られた白色有機電界発光素子にケースレーインスツルメンツ(Keithley Instruments Inc.)社製ソースメジャーユニットSMU−1を用いて7Vの電圧を印加し、15cm×15cmの発光面内の輝度分布を、コニカミノルタ社製CS−1000により5mm間隔で測定した。結果を図1に示す。電源接続部から遠い部分ほどITOの配線抵抗に起因した輝度ムラが観測され、発光面内における最大輝度と最小輝度との比率(最大輝度/最小輝度)は、約3.5であった(表1参照)。
【0091】
<輝度ムラ補正のための電磁波照射>
検出された輝度ムラをアドビ(Adobe)社製フォトショップ(Photoshop)を用いて白黒画像に処理し、輝度が弱いところほど黒が濃くなる画像とした。PETフィルムにグラビア印刷機(倉敷紡績株式会社(クラボウ)製GP−10)で画像を印刷し、輝度ムラ補正用露光マスクを作製した。このマスクを、作製した15cm角の白色有機電界発光素子発光面上に貼り付け、新東科学株式会社製の褪色試験機(光源:キセノンランプ)にいれて2時間電磁波を照射した。マスクを透過して電磁波が照射された部分は、素子が高電圧化し、流れる電流量が少なくなって部分的に輝度が低下した。電磁波照射後の面内輝度ムラを前述のように測定した。結果を図2に示す。
電磁波照射後の発光面内における最大輝度と最小輝度との比率(最大輝度/最小輝度)が1.3となり輝度ムラを補正できた(表1参照)。
【0092】
<電流密度の測定>
輝度ムラ補正後の15cm角の白色有機電界発光素子をグローブボックス(株式会社美和製作所製、MDB−2B)内に入れ、封止ガラスを取り外した。発光面の電源接続部に最も近い位置のサンプルA(5mm×5mm)、及び電源接続部に最も遠い位置のサンプルB(5mm×5mm)をガラス基板ごと切り離した。なお、前記サンプルA及びBの素子構成は同一であるが、サンプルAには電磁波が2時間照射されており、一方、サンプルBには、前記露光マスクにより電磁波がカットされるため、電磁波がほぼ照射されていない。
切り離した素子の下部ITO電極を一部露出させて電源と接続し、すでに露出しているAl陰極と電源の配線とを金線及び金ペーストを用いて接続した。サンプルAとサンプルBの電圧−電流密度特性を図3に示す。図3から明らかなように、サンプルAは、光照射により駆動電圧が上昇しており、サンプルBと全く同じ素子構成であるにもかかわらず、電流が流れにくい状態となっている。7Vの電圧を印加した場合の電流密度は、サンプルAで2.3mA/cmであり、サンプルBで15.3mA/cmであった。電磁波照射により、同じ電圧を印加した際に流れる電流密度が85%低下したことがわかる(電磁波照射されていないものを100%としたときの低下率)。
【0093】
(比較例1)
実施例1と同様にして15cm角の白色有機電界発光素子を作製し、輝度ムラの測定を行った。結果を表1に示す。
前記素子に輝度ムラ補正のための電磁波照射を行わずにグローブボックス内に入れ、封止ガラスを取り外した。発光面の電源接続部に最も近い位置のサンプルC(5mm×5mm)、及び電源接続部に最も遠い位置のサンプルD(5mm×5mm)をガラス基板ごと切り離した。なお、サンプルC及びDは、素子構成が同一であり、ともに電磁波が照射されていない。切り離した素子の下部ITO電極を一部露出させて電源と接続し、すでに露出しているAl陰極と電源の配線とを金線及び金ペーストを用いて接続した。サンプルC及びDの電圧−電流密度特性を図4に示す。図4から明らかなように、サンプルCとDとは、ほぼ同一の電圧−電流特性を示し、同じ電圧を印加した際の電流密度には大きな違いが見られなかった(電流密度の低下率としては、10%未満であった)。
【0094】
(実施例2)
実施例1と同様にして白色有機電界発光素子を作製した。また、測定点を5mm間隔から1mm間隔とした以外は実施例1と同様にして、輝度ムラを検出した。結果を表1に示す。
【0095】
<輝度ムラ補正のための電磁波照射>
得られた素子の発光面内の位置をxy座標とし、輝度をz値として、輝度ムラを数値化した。自動制御のxyステージ(中央精機株式会社製、ALD−220−C2P)に405nmに発光ピークを持つ半導体レーザー(株式会社キコー技研製、青紫色半導体レーザーKLX−120mWタイプ)を設置した。xy方向にレーザーを移動しながら、レーザー(電磁波)を有機電界発光素子に照射し、面内の輝度ムラを補正した。電磁波照射時間は、輝度zが大きいxy座標ほど長くなるように制御した。電磁波照射された部分は、素子が高電圧化し、流れる電流量が少なくなって輝度が低下した。電磁波照射後の面内輝度ムラを測定したところ、発光面内における最大輝度と最小輝度との比率(最大輝度/最小輝度)が1.3となり、輝度ムラを補正できた。
【0096】
(実施例3)
<有機電界発光素子の作製>
100nm厚のITO付きガラス基板(基板厚み0.7mm)を洗浄して十分に乾燥した後、ITO表面を酸素プラズマ処理した。次いで真空蒸着装置に基板を投入し、2−TNATAを厚みが120nmとなるように蒸着させた。次いで、α−NPDを厚みが4nmとなるように蒸着させた。次いで、HTL−1を厚みが3nmとなるように蒸着させた。次いで、mCPを厚みが3nmとなるように蒸着させた。次いで、発光層として40質量%のPT−1をドープしたmCPを厚みが30nmとなるように蒸着させた。更に、Balqを厚みが39nmとなるように、BCPを厚みが1nmとなるように蒸着した。蒸着レートは、いずれも0.2nm/sとした。ついで、LiFを厚みが1nmとなるように蒸着し、アルミニウム(Al)を厚みが0.5nmとなるように蒸着し、更にAgを厚みが20nmとなるように蒸着した。LiFの蒸着レートは、0.02nm/sとし、Al及びAgの蒸着レートは、0.5nm/sとした。次に封止ガラスを、UV硬化接着剤を用いて接着し、発光面積が15cm×15cmの白色有機電界発光素子を得た。
【0097】
<輝度ムラ検出>
実施例1において、印加電圧を7Vから8Vに変更した以外は、実施例1と同様にして、輝度分布を測定した。その結果、実施例1と同様に、電源接続部から遠い部分ほどITOの配線抵抗に起因した輝度ムラが観測され、発光面内における最大輝度と最小輝度との比率(最大輝度/最小輝度)は、4.3であった(表1参照)。陰極を透明にするために金属膜厚を減らしたことでさらに実施例1の素子以上に輝度ムラが発生したものと思われる。
【0098】
<輝度ムラ補正のための電磁波照射>
実施例1において、電磁波の照射時間を2時間から2.6時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、電磁波を照射した。
電磁波が照射された部分は素子が高電圧化し、流れる電流量が少なくなって、輝度が低下した。照射後の面内輝度分布を測定したところ、発光面内における最大輝度と最小輝度との比率(最大輝度/最小輝度)が1.3となり、輝度ムラを補正できた(表1参照)。
【0099】
(実施例4)
<有機電界発光素子の作製>
実施例1において、基板をITO付きガラス基板からIZO付きフィルム基板(基板:PET、厚み0.1mm)に変更した以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製し、発光面積が15cm×15cmのフレキシブル白色半透明有機電界発光素子を得た。
【0100】
<輝度ムラ検出>
実施例1において、印加電圧を7Vから9Vに変更した以外は、実施例1と同様にして、輝度分布を測定した。その結果、実施例1と同様に、電源接続部から遠い部分ほどIZOの配線抵抗に起因した輝度ムラが観測され、発光面内における最大輝度と最小輝度との比率(最大輝度/最小輝度)は、5.1であった(表1参照)。フレキシブル性を持たせるために導電性の低いIZOを電極に用いたために実施例1の素子以上に輝度ムラが発生したものと思われる。
【0101】
<輝度ムラ補正のための電磁波照射>
実施例1において、電磁波の照射時間を2時間から3.1時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、電磁波を照射した。
電磁波が照射された部分は、素子が高電圧化し、流れる電流量が少なくなって、輝度が低下した。照射後の面内輝度ムラを測定したところ、発光面内における最大輝度と最小輝度との比率(最大輝度/最小輝度)が1.3となり、輝度ムラを補正できた(表1参照)。
【0102】
実施例1〜4及び比較例1における素子の特性、電磁波照射の形態、発光面内の輝度ムラを以下の表1に示す。
【0103】
【表1】

【0104】
(実施例5)
<有機電界発光表示装置の作製>
実施例1において、ITO基板と陰極成膜を以下のように変更した以外は、実施例1と同様にして、モノクロ表示装置を作製した。
100nm厚のITO付きガラス基板(基板厚み0.7mm、基板大きさ100mm角)をウエットエッチングによりパターニングし、幅1mm、長さ80mmのITO電極を平行に40本配列した基板を作製した。なお、各電極と隣接する電極との間隔は、0.5mmとした。
次いで、陰極形状が、幅1mm、長さ80mmとなるように陰極マスクを作製した。実施例1と同様に有機膜を蒸着した基板にITO電極と垂直方向に陰極が形成されるように前記マスクを配置し、実施例1と同様に陰極を作製した。
得られた有機電界発光素子は、画素サイズ1mm×1mm、画素数40×40の単純マトリクスのモノクロ表示装置となった。
【0105】
<輝度ムラ検出>
作製した前記表示装置を30フレーム/秒でパッシブ駆動し、中央の画素の平均輝度(パッシブ駆動しているので点滅しているが、消灯している時間も含めた平均輝度)が150cd/mとなるように電流値を設定した以外は、実施例1と同様にして、表示面内の輝度分布を測定した。このとき、表示面内の最大輝度/最小輝度は、2.3であった。
【0106】
<輝度ムラ補正のための電磁波照射>
実施例1において、電磁波の照射時間を2時間から1.1時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、電磁波を照射した。電磁波が照射された部分は、素子が高電圧化し、流れる電流量が少なくなって、輝度が低下した。照射後の面内輝度ムラを前述のように測定したところ、発光面内における最大輝度と最小輝度との比率(最大輝度/最小輝度)が1.3となり、輝度ムラを補正できた(表2参照)。
【0107】
<輝度ムラの主観評価>
得られた有機電界発光表示装置の表示画面を前述した駆動方法で全面を150cd/mで発光させ、10名の評価者に下記の5段階で輝度ムラの官能評価を行わせた。それぞれの評価点数の平均値を輝度ムラ主観評価の評価点数とした。
〔評価基準〕
5:非常に良い
4:良い
3:普通
2:悪い
1:非常に悪い
【0108】
(実施例6)
実施例5において、輝度ムラ補正のための電磁波照射を実施例2と同様の電磁波照射方法に変えた以外は、実施例5と同様にして、輝度ムラ補正したモノクロ表示装置を作製し、評価を行った。
【0109】
(比較例2)
実施例5において、輝度ムラ補正を行わなかった以外は、実施例5と同様にして、モノクロ表示装置を作製し、評価を行った。
【0110】
実施例5及び6、並びに比較例2における素子の特性、電磁波照射の形態、素子間の輝度ムラ及び輝度ムラ評価を以下の表2に示す。
【0111】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の有機電界発光素子及び有機電界発光表示装置は、特に制限はなく、従来から知られている様々な用途に使用することができるが、表示素子、ディスプレイ、バックライト、電子写真、照明光源、記録光源、露光光源、読み取り光源、標識、看板、インテリア、光通信等に好適に利用できる。
本発明の製造方法は、上記に利用できる有機電界発光素子及び有機電界発光表示装置に生じた輝度ムラを安価に、かつ、有機電界発光素子の電力効率を損なうことなく、現に輝度ムラが生じている部分に対して、in−situで補正することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機電界発光素子の発光面内の輝度ムラが生じている部分に電磁波を照射して輝度ムラを補正する輝度ムラ補正工程を含むことを特徴とする有機電界発光素子の製造方法。
【請求項2】
有機電界発光素子の発光面内の輝度分布を求めて輝度ムラを検出する輝度ムラ検出工程を更に含む請求項1に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項3】
電磁波の照射が、電磁波の透過率を調整する露光マスクを介して行なわれる請求項1から2のいずれかに記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項4】
電磁波の照射が、電磁波の照射時間を変えながら、発光面上を走査して行われる請求項1から2のいずれかに記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の製造方法で製造された有機電界発光素子であって、
発光面内における素子構成が同一であり、かつ、
発光面内から切り出した任意の2つの断片に同じ電圧をかけて電流密度を測定した場合に、前記電流密度が高い断片(A)と、電流密度が低い断片(B)との電流密度の差の割合〔(A−B)/A〕が、10%以上であることを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項6】
正孔注入層を有し、前記正孔注入層にアリールアミン構造を部分骨格として有する有機化合物を含む請求項5に記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
陽極及び陰極を有し、前記陽極及び前記陰極の少なくともいずれかが、金属酸化物電極である請求項5から6のいずれかに記載の有機電界発光素子。
【請求項8】
可視光透過率が、20%以上である請求項5から7のいずれかに記載の有機電界発光素子。
【請求項9】
可撓性を有する請求項5から8のいずれかに記載の有機電界発光素子。
【請求項10】
電磁波照射で使用された波長の電磁波を吸収する電磁波吸収層を発光面上に更に有してなる請求項5から9に記載の有機電界発光素子。
【請求項11】
有機電界発光素子を複数配列させてなる有機電界発光表示装置を作製する有機電界発光表示装置作製工程と、
前記有機電界発光表示装置の発光面内の輝度ムラが生じている部分に電磁波を照射して発光面内の輝度ムラを補正する輝度ムラ補正工程とを含む有機電界発光表示装置の製造方法。
【請求項12】
有機電界発光装置の発光面内の輝度分布を求めて輝度ムラを検出する輝度ムラ検出工程を更に含む請求項11に記載の有機電界発光表示装置の製造方法。
【請求項13】
請求項11から12のいずれかに記載の製造方法で製造された有機電界発光表示装置であって、
発光面内における同一発光色の有機電界発光素子の素子構成が同一であり、かつ、
発光面内から切り出した同一発光色の任意の2つの有機電界発光素子に同じ電圧をかけて電流密度を測定した場合に、前記電流密度が高い素子(A)と、電流密度が低い素子(B)との電流密度の差の割合〔(A−B)/A〕が、10%以上であることを特徴とする有機電界発光表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−134070(P2012−134070A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286742(P2010−286742)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】