説明

有機高分子薄膜の形成方法及び形成装置

【課題】有機高分子薄膜を、基体表面上に、高い成膜効率で、再現性良く且つ安定的に形成し得る技術を提供する。
【解決手段】真空状態の複数の蒸発源容器32a,32b内で蒸発させた複数種類の原料モノマーを、真空状態の成膜室10内に導入して、成膜室10内に配置された基体12の表面上で重合させることにより、基体12の表面上に有機高分子薄膜を形成する真空蒸着重合操作を繰り返し行うに際して、毎回、原料モノマーの蒸発操作の開始時に、原料モノマーが、蒸発源容器32a,32b内に液体状態で一定の量だけ存在するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機高分子薄膜の形成方法と形成装置とに係り、特に、有機高分子薄膜を基体の表面上に真空蒸着重合によって、より有利に形成する方法と、そのような有機高分子薄膜の形成方法を効果的に実現可能な形成装置とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、有機高分子薄膜(合成樹脂薄膜)の形成方法の一種として、真空蒸着重合法が知られている。これは、真空中で複数種類の原料モノマーを蒸発させて、それらを基体の表面上で重合させることにより、基体の表面上に有機高分子薄膜を形成するものである(例えば、下記特許文献1参照)。
【0003】
そのような真空蒸着重合法による有機高分子薄膜の形成方法を実施する際には、通常、専用の装置が使用されている。この有機高分子薄膜の形成装置は、一般に、内部に基体が配置される成膜室と、別々の種類の原料モノマーをそれぞれ別個に収容し、且つ内部が真空とされた状態下で、各原料モノマーをそれぞれ蒸発させて、成膜室内に導入させる複数の蒸発源容器とを有している。そして、かかる形成装置においては、各蒸発源容器内で蒸発して、真空状態の成膜室内に導入された原料モノマーが、成膜室内に配置された基体の表面上で重合されるようになっており、以て、基体の表面上に、それらの重合物からなる有機高分子薄膜を形成可能とされているのである。
【0004】
このような従来の有機高分子薄膜の形成装置には、同一の成膜室内で、上記の如き真空蒸着重合操作を繰り返し行うことにより、かかる成膜室内に交替で配置される複数の基体の表面上に有機高分子薄膜をそれぞれ形成する、所謂バッチ式タイプのものがある。また、成膜室内に配置された基体の巻回物から基体を巻き出しつつ、真空蒸着重合操作を連続して実施することにより、巻回物から巻き出された基体の表面上に、有機高分子薄膜を連続的に形成する、所謂連続式タイプのものもある。
【0005】
ところで、真空蒸着重合法によって、例えば、ポリイミド膜、芳香族ポリユリア膜、芳香族ポリアミド膜等、反応性の高い(反応の活性化エネルギーが小さい)原料モノマーの組合せによって得られる有機高分子薄膜を基体の表面上に形成する際には、例えば、上記の如き形成装置における成膜室内の各蒸発源容器と基板との間に、通常の真空蒸着法で用いられるようなシャッターを設けて、それを開閉するだけで、基体の表面上での原料モノマー比を化学量論比となすことが出来る。それによって、基体の表面上に形成される有機高分子薄膜を所望の組成と為し得ると共に、膜厚を容易に制御可能となる。そして、そのため、原料モノマーが反応性の高いもの同士の組合せである場合、バッチ式タイプの形成装置を用いて、真空蒸着重合操作を繰り返し行う際にあっても、また、連続式タイプの形成装置を用いて、真空蒸着重合操作を連続的に実施する際にあっても、基体の表面上に、一定の組成と膜厚とを有して、常に安定的に形成され得るのである。
【0006】
一方、脂肪族ポリユリア膜、脂肪族ポリアミド膜、ポリエステル膜、ポリウレタン膜等、反応性の低い(反応の活性化エネルギーが大きい)原料モノマーの組合せによって得られる有機高分子薄膜を基体の表面上に形成する際には、単に、シャッターの開閉だけでは、基体の表面上での原料モノマー比を化学量論比となすことが、容易ではなかった。このため、そのような反応性の低い原料モノマーの組合せによって得られる有機高分子薄膜の組成と膜厚とを制御することは難しかった。それ故、バッチ式タイプの形成装置を用いて、真空蒸着重合操作を繰り返し行ったり、連続式タイプの形成装置を用いて、真空蒸着重合操作を連続的に実施したりしたときには、基体の表面上に、有機高分子薄膜を再現性良く形成することは、極めて困難であったのである。
【0007】
かかる状況下、例えば、特開平5−171415号公報(特許文献2)には、成膜室内の各蒸発源容器の開口部に開閉装置を設けると共に、それら各蒸発源容器に真空排気装置を設置した有機高分子薄膜の形成装置が、明らかにされている。また、そこには、かかる形成装置を用いれば、蒸発した原料モノマーの各蒸発源容器内からの放出量を個別にコントロールすることが出来ると共に、開閉装置を閉じたときの各蒸発源容器内の真空度を成膜中の真空度と同一とすることが出来、それらの結果として、再現性・安定性の良い成膜が可能となることが、記載されている。しかしながら、このような形成装置にあっては、蒸発源容器内と成膜室内との間に圧力差が生じないため、各原料モノマーの蒸発量が不可避的に少なくなり、それによって、成膜速度(単位時間当たりの成膜量)が小さくなって、成膜効率が低下するといった問題が内在していた。
【0008】
また、特開平7−26023号公報(特許文献3)には、各蒸発源容器にキャリアガスを通過させて、蒸発した原料モノマーを含んだキャリアガスを成膜室内に導入するようにした装置が、開示されている。そして、そこには、キャリアガスの流量調節により、各原料モノマーの成膜室内の導入量を、それぞれ高精度に制御可能となり、以て、各原料モノマーを成膜室内に化学量論比となるように導入可能となることが、明らかにされている。しかしながら、このような装置では、成膜室内に、原料モノマーがキャリアガスと共に導入されるため、原料モノマーだけが成膜室内に導入される場合に比して、成膜室内に存在する原料モノマーの量が少なくなってしまう。その結果、かかる装置にあっても、成膜効率が低下するといった不具合が生ずることが避けられなかった。
【0009】
さらに、特開2002−275619号公報(特許文献4)には、各蒸発源容器に、任意の時間間隔で開閉可能なパルスバルブを設けてなる装置が、開示されている。そこには、かかる装置によれば、各原料モノマー毎に、成膜室内への導入時間を任意に設定することが出来、以て、各原料モノマーの成膜室内への導入量を個別に制御可能となることが、明らかにされている。ところが、このような装置では、各蒸発源容器内の原料モノマーの減少によって、原料モノマーの単位時間当たりの蒸発量が変動するため、かかる原料モノマーの蒸発量の変動に合わせて、開閉装置の開閉時間を、一々調節する必要があった。しかも、前記した反応性の低い原料モノマーの組合せによって得られる有機高分子薄膜は、制御条件の変動によって、膜厚や品質の再現性に多大な影響を受けることから、かかる従来装置では、常に一定の組成と膜厚とを有する有機高分子薄膜を再現性良く得ることが、極めて困難であったのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭61−78463号公報
【特許文献2】特開平5−171415号公報
【特許文献3】特開平7−26023号公報
【特許文献4】特開2002−275619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、高い成膜効率が発揮され、しかも、原料モノマーの組合せに拘わらず、常に所定の組成と膜厚とを有する同質の有機高分子薄膜が、再現性良く、安定的に得られる有機高分子薄膜の形成方法を提供することにある。また、本発明にあっては、そのような方法を有利に実現可能な有機高分子薄膜の形成装置を提供することをも、解決課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記した課題、又は本明細書全体の記載や図面から把握される課題を解決するために、以下に列挙する各種の態様において、好適に実施され得るものである。また、以下に記載の各態様は、任意の組み合わせにおいても、採用可能である。なお、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに何等限定されることなく、明細書全体の記載並びに図面に開示の発明思想に基づいて、認識され得るものであることが、理解されるべきである。
【0013】
<1> 真空状態の複数の蒸発源容器内で蒸発させた複数種類の原料モノマーを、真空状態の成膜室内に導入して、該成膜室内に配置された基体の表面上で重合させることにより、該基体の表面上に有機高分子薄膜を形成する真空蒸着重合操作を繰り返し行うことによって、該成膜室内に交替で配置される複数の基体の表面上に、有機高分子薄膜をそれぞれ形成するに際して、前記繰り返し行われる真空蒸着重合操作において、毎回、前記原料モノマーの蒸発操作の開始時に、該原料モノマーが、前記蒸発源容器内に液体状態で一定の量だけ存在するようにしたことを特徴とする有機高分子薄膜の形成方法。
【0014】
<2> 前記繰り返し行われる真空蒸着重合操作において、毎回、前記原料モノマーの蒸発操作の開始前に、該原料モノマーが、液体状態で、前記蒸発源容器内に必要量だけ供給されることにより、該原料モノマーの蒸発操作の開始時に、該原料モノマーが、該蒸発源容器内に液体状態で一定の量だけ存在せしめられるようになっている上記態様<1>に記載の有機高分子薄膜の形成方法。
【0015】
<3> 前記繰り返し行われる真空蒸着重合操作において、毎回、前記原料モノマーの蒸発操作の開始から、前記基体の表面上への前記有機高分子薄膜の形成操作の終了までの間、該原料モノマーが、前記蒸発源容器内に液体状態で常に一定の量だけ存在せしめられるようになっている上記態様<1>に記載の有機高分子薄膜の形成方法。
【0016】
<4> 前記繰り返し行われる真空蒸着重合操作において、毎回、前記原料モノマーの蒸発操作の開始から、前記基体の表面上への前記有機高分子薄膜の形成操作の終了までの間に、該原料モノマーが、その蒸発による減少量に応じた量だけ、前記蒸発源容器内に液体状態で間欠的に又は連続的に供給されることにより、該原料モノマーが、該蒸発源容器内に液体状態で常に一定の量だけ存在せしめられるようになっている上記態様<3>に記載の有機高分子薄膜の形成方法。
【0017】
<5> 真空状態の複数の蒸発源容器内で蒸発させた複数種類の原料モノマーを、真空状態の成膜室内に導入して、該成膜室内に配置された基体の表面上で重合させることにより、該基体の表面上に有機高分子薄膜を形成する真空蒸着重合操作を、該成膜室内に配置された該基体の巻回物から該基体を巻き出しつつ行うことによって、該巻回物から巻き出される該基体の表面上に、有機高分子薄膜を連続的に形成するに際して、前記真空蒸着重合操作の開始から終了までの間、前記原料モノマーが、前記蒸発源容器内に液体状態で常に一定の量だけ存在するようにしたことを特徴とする有機高分子薄膜の形成方法。
【0018】
<6> 前記真空蒸着重合操作の開始から終了までの間に、前記原料モノマーが、その蒸発による減少量に応じた量だけ、前記蒸発源容器内に液体状態で間欠的に又は連続的に供給されることにより、該原料モノマーが、該蒸発源容器内に液体状態で常に一定の量だけ存在せしめられるようになっている上記態様<5>に記載の有機高分子薄膜の形成方法。
【0019】
<7> 前記複数種類の原料モノマーが、脂肪族ジイソシアネートと脂肪族ジアミノである上記態様<1>乃至<6>のうちの何れか一つに記載の有機高分子薄膜の形成方法。
【0020】
<8> 前記有機高分子薄膜が、脂肪族ポリユリア膜と脂肪族ポリアミド膜とポリエステル膜とポリウレタン膜のうちの何れか一つである上記態様<1>乃至<6>のうちの何れか一つに記載の有機高分子薄膜の形成方法。
【0021】
<9> 複数の基体が交替で配置される成膜室と、複数種類の原料モノマーをそれぞれ別個に収容し、且つ内部が真空とされた状態下で、該複数種類の原料モノマーをそれぞれ蒸発させて、それらを真空状態の該成膜室内に導入せしめる複数の蒸発源容器とを含み、該複数の蒸発容器内で蒸発して、真空状態の該成膜室内に導入された該複数種類の原料モノマーを、該成膜室内の前記基体の表面上で重合させて、該基体の表面上に有機高分子薄膜を形成する真空蒸着重合操作を繰り返し行うことにより、該成膜室内に交替で配置される該複数の基体の表面上に、有機高分子薄膜をそれぞれ形成し得るように構成された有機高分子薄膜の形成装置であって、前記繰り返し行われる真空蒸着重合操作において、毎回、前記原料モノマーの蒸発操作の開始時に、該原料モノマーが、前記複数の蒸発源容器内に、それぞれ液体状態で一定の量だけ収容されているように、該原料モノマーを、液体状態で、該複数の蒸発源容器内にそれぞれ供給する供給機構が設けられていることを特徴とする有機高分子薄膜の形成装置。
【0022】
<10> 大気圧以上の圧力下において、前記原料モノマーを液体状態で収容する原料モノマー収容槽と、該収容槽と前記蒸発源容器とを相互に連通する連通路と、該連通路上に設置された第一の開閉機構とを含んで、前記供給機構が構成されて、該蒸発源容器内が真空とされた状態下で、該第一の開閉機構が開作動せしめられることにより、該蒸発源容器内の圧力と大気圧との差による吸引作用によって、該収容槽内の原料モノマーが、前記真空蒸着重合操作の1回の実施により使用された分だけ、該連通路を通じて、該蒸発源容器内に自動的に供給されるようになっている上記<9>に記載の有機高分子薄膜の形成装置。
【0023】
<11> 基体の巻回物が配置される成膜室と、複数種類の原料モノマーをそれぞれ別個に収容し、且つ内部が真空とされた状態下で、該複数種類の原料モノマーをそれぞれ蒸発させて、それらを真空状態の該成膜室内に導入せしめる複数の蒸発源容器とを含み、該複数の蒸発容器内で蒸発して、真空状態の該成膜室内に導入された該複数種類の原料モノマーを、該成膜室内の前記基体の表面上で重合させて、該基体の表面上に有機高分子薄膜を形成する真空蒸着重合操作を、該成膜室内の前記巻回物から該基体を巻き出しつつ実施することにより、該巻回物から巻き出される該基体の表面上に、有機高分子薄膜を連続的に形成し得るように構成された有機高分子薄膜の形成装置であって、前記真空蒸着重合操作の開始から終了までの間、前記原料モノマーが、前記複数の蒸発源容器内に、液体状態で常に一定の量だけ収容されているように、該原料モノマーを、液体状態で、該複数の蒸発源容器内にそれぞれ供給する供給機構が設けられていることを特徴とする有機高分子薄膜の形成装置。
【0024】
<12> 前記原料モノマーを液体状態で収容し、且つ収容された該原料モノマーを蒸発させる原料モノマー液収容室と、該原料モノマー液収容室に対して第二の開閉機構を介して接続されて、該原料モノマー液収容室内で蒸発した原料モノマーを収容する原料モノマー蒸気収容室とを、前記蒸発源容器が有して構成されている上記態様<9>乃至<11>のうちの何れか一つに記載の有機高分子薄膜の形成装置。
【0025】
<13> 前記蒸発源容器の前記原料モノマー蒸気収容室と前記成膜室とが、該成膜室内の圧力が予め定められた設定値となるように開閉するコントロールバルブを介して接続されて、該コントロールバルブの開作動により、該蒸発源容器内で蒸発した原料モノマー蒸気が、該成膜室内に導入されるようになっている上記態様<12>に記載の有機高分子薄膜の形成装置。
【発明の効果】
【0026】
すなわち、本発明に従う有機高分子薄膜の形成方法において、真空蒸着重合操作を繰り返し行う場合には、原料モノマーの蒸発操作の開始時点で蒸発源容器内に存在する原料モノマーが、液体状態で、毎回同じ量とされる。このため、繰り返して行われる真空蒸着重合操作において、特別な制御を何等行わなくとも、1回の操作での各原料モノマーの蒸発量を、それぞれ、常に同一の量と為し得る。また、本発明に従う有機高分子薄膜の形成方法において、真空蒸着重合操作を連続的に実施する場合には、真空蒸着重合操作の開始から終了までの間、蒸発源容器内に存在する原料モノマーが、液体状態で、常に一定の量とされる。このため、そのような連続的な真空蒸着重合操作の実施に際しても、特別な制御を何等行うことなしに、成膜中における単位時間当たりの各原料モノマーの蒸発量を、それぞれ、常に同一の量と為し得る。
【0027】
それ故、本発明手法では、蒸発した各原料モノマーの成膜室内への導入量を、変動のない、常に一定の条件で制御することが可能となる。これにより、使用される原料モノマーの組合せが、例えば、基体表面上での滞在時間が互いに異なる、反応性の低い原料モノマー同士の組合せであっても、それらの原料モノマーを、それぞれ、成膜室内に、必要な量だけ、常に安定的に導入することが出来、以て、基体の表面上での原料モノマー比を、容易に且つ確実に化学量論比と為すことが可能となる。
【0028】
そして、その結果、使用される原料モノマーの種類(組合せ)に拘わらず、また、真空蒸着重合操作を繰り返し行う場合にあっても、或いは真空蒸着重合操作を連続的に実施する場合にあっても、常に所望の組成と一定の膜厚とを有する有機高分子薄膜を、有利に形成することが出来る。
【0029】
しかも、本発明手法では、所定量の原料モノマーを成膜室内に導入するのに、キャリアガス等が何等用いられることがなく、また、蒸発源容器内と成膜室内との間の圧力差が小さくされるようなこともない。それ故、所定量の原料モノマーが、成膜室内に、極めて効率的に導入され得る。
【0030】
従って、かくの如き本発明に従う有機高分子薄膜の形成方法によれば、高い成膜効率が有利に発揮され、しかも、原料モノマーの組合せに拘わらず、常に所定の組成や膜厚を有する同質の有機高分子薄膜が、基体の表面上に、再現性良く、安定的に形成され得ることとなるのである。
【0031】
そして、本発明に従う有機高分子薄膜の形成装置にあっては、上記の如き特徴的な本発明手法が有利に実現され得、それにより、かかる本発明に従う有機高分子薄膜の形成方法において奏される作用・効果と実質的に同一の作用・効果が、極めて有効に享受され得ることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に従う構造を有する有機高分子薄膜の形成装置の一実施形態を示す説明図である。
【図2】図1に示された形成装置を用いて、基体の表面上に有機高分子薄膜を形成する際の一工程例を示す説明図であって、蒸発源容器内を真空としている状態を示している。
【図3】図2に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、蒸発源容器内で原料モノマーを加熱して、蒸発させている状態を示している。
【図4】図3に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、蒸発した原料モノマーを蒸発源容器内から成膜室内に所定の量だけ導入している状態を示している。
【図5】図4に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、1回の成膜操作後における蒸発源容器内の状態を示している。
【図6】図5に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、1回の成膜操作後に、原料モノマー収容槽から蒸発源容器内に原料モノマーを液体状態で供給している状態を示している。
【図7】図6に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、原料蒸発源容器内に原料モノマーを液体状態で供給した後の状態を示している。
【図8】図7に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、原料モノマー収容槽内に原料モノマーを液体状態で補充している状態を示している。
【図9】本発明に従う構造を有する有機高分子薄膜の形成装置の別の実施形態を示す説明図である。
【図10】本発明に従う構造を有する有機高分子薄膜の形成装置の更に別の実施形態を示す説明図である。
【図11】本発明に従う構造を有する有機高分子薄膜の形成装置の他の実施形態を示す説明図である。
【図12】本発明手法に従って、成膜操作を繰り返し行って、複数の基体表面上に有機高分子薄膜をそれぞれ形成したときの原料モノマー導入側圧力の経時変化を、繰り返し行われる成膜操作の所定の回数毎に示したグラフである。
【図13】従来手法に従って、成膜操作を、所定の圧力制御の下で繰り返し行って、複数の基体表面上に有機高分子薄膜をそれぞれ形成したときの原料モノマー導入側圧力の経時変化を、繰り返し行われる成膜操作の所定の回数毎に示したグラフである。
【図14】従来手法に従って、成膜操作を、圧力制御を何等行うことなく繰り返し実施して、複数の基体表面上に有機高分子薄膜をそれぞれ形成したときの原料モノマー導入側圧力の経時変化を、繰り返し行われる成膜操作の所定の回数毎に示したグラフである。
【図15】従来手法に従って、成膜操作を、圧力制御を何等行うことなく繰り返し実施して、複数の基体表面上に形成された有機高分子薄膜のそれぞれの赤外線吸収スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0034】
先ず、図1には、本発明に従う構造を有する有機高分子薄膜の形成装置の一実施形態が、概略的に示されている。かかる図1から明らかなように、本実施形態の有機高分子薄膜形成装置は、成膜室10を有している。この成膜室10は、従来装置と同様に、内部を密閉し得る耐圧容器からなっており、図示しない蓋部にて覆蓋可能な取出し口(図示せず)を有している。そして、この取出し口を通じて、板状の基体12が、内部に収容され、或いは内部から取り出され得るようになっている。つまり、複数の基体12が、成膜室10に、一つずつ順番に出し入れされて、交替で配置され得るようになっているのである。
【0035】
また、かかる成膜室10には、その内圧を検出する成膜室内圧力センサ14が設置されている。更に、成膜室10の側壁部には、排気パイプ16が接続されている。この排気パイプ16は、その先端において、電動式の真空ポンプ18に連結されており、また、その中間部には、成膜室内圧コントロールバルブ20が設けられている。それら成膜室内圧力センサ14と真空ポンプ18と成膜室内圧コントロールバルブ20は、何れも、図示しないコントローラに対して電気的に接続されている。
【0036】
かくして、成膜室内圧コントロールバルブ20が開作動した状態で、真空ポンプ18が作動することにより、基体12が配置された成膜室10内が、真空状態(減圧状態)とされるようになっている。そして、その際に、成膜室内圧力センサ14による検出値が予め定められた設定値(目標値)となるように、成膜室内圧コントロールバルブ20が、コントローラによる制御の下で開閉作動し、以て、成膜室10の内圧(真空度)が調節されるようになっている。
【0037】
また、排気パイプ16上の成膜室内圧コントロールバルブ20と真空ポンプ18との間には、トラップ装置22が設置されている。このトラップ装置22は、公知の構造を有し、成膜室10内の空気中の水分や、後述する真空蒸着重合法による成膜操作によって生ずる水分、或いは成膜操作において余剰となった原料モノマー等を捕捉し得るようになっている。
【0038】
さらに、成膜室10における排気パイプ16との接続側とは反対側には、容積の小さな混合室23が、成膜室10と連通して、設けられている。この混合室23内には、二つの拡散板24,24が、成膜室10内に配置された基体12と所定距離を隔てて対向位置するように設置されている。そして、そのような混合室23には、二つの原料モノマー導入パイプ26a,26bが、接続されている。それら各原料モノマー導入パイプ26a,26bは、混合室23内に配置された二つの拡散板24,24の基体12との対向面とは反対側の面に向かって開口している。
【0039】
また、各原料モノマー導入パイプ26a,26bの延長方向の中間部には、原料モノマー導入側圧力コントロールバルブ28a,28bがそれぞれ設けられている。更に、それら各原料モノマー導入側圧力コントロールバルブ28a,28bよりも成膜室10への接続側に位置する各原料モノマー導入パイプ26a,26b部分には、かかる部分の内圧を検出する導入側圧力センサ30a,30bがそれぞれ設置されている。それら原料モノマー導入側圧力コントロールバルブ28a,28bと導入側圧力センサ30a,30bは、図示しないコントローラに対して、電気的に接続されている。
【0040】
そして、そのような二つの原料モノマー導入パイプ26a,26bの先端部に、第一蒸発源容器32aと第二蒸発源容器32bとが、それぞれ接続されている。それら第一及び第二蒸発源容器32a,32bは、互いに同一の構造を有している。即ち、第一及び第二蒸発源容器32a,32bは、何れも、内部が密閉された、上下方向に延びる耐圧容器からなっている。また、その外周上には、第一及び第二蒸発源容器32a,32bの内側空間を加熱するためのヒータ33a,33bが、それぞれ配設されている。
【0041】
このような第一及び第二蒸発源容器32a,32bにおいては、その上下方向の中間部に、第二の開閉機構としての仕切りバルブ34a,34bが設けられて、上側部分と下側部分とに仕切られている。そして、かかる仕切りバルブ34a,34bの開作動によって、上側部分と下側部分とが互いに連通させられる一方、仕切りバルブ34a,34bの閉作動により、上側部分と下側部分との間が非連通に遮断されるようになっている。
【0042】
そして、ここでは、第一蒸発源容器32aの下側部分が、原料モノマーの液体状態である第一原料モノマー液35aを収容する第一原料モノマー液収容室36aとされており、また、その上側部分が、かかる第一原料モノマー液35aが蒸発した第一原料モノマー蒸気37aを収容する第一原料モノマー蒸気収容室38aとされている(図3参照)。一方、第二蒸発源容器32bも、第一蒸発源容器32aと同様に、その下側部分が、第一蒸発源容器32a内に収容される原料モノマーとは異なる種類の原料モノマーの液体状態である第二原料モノマー液35bを収容する第二原料モノマー液収容室36bとされており、また、その上側部分が、かかる第二原料モノマー液35bが蒸発した第二原料モノマー蒸気37bを収容する第二原料モノマー蒸気収容室38bとされている。
【0043】
なお、第一及び第二原料モノマー液収容室36a,36bと第一及び第二原料モノマー蒸気収容室38a,38bは、第一及び第二原料モノマー液35a,35bと第一及び第二原料モノマー蒸気37a,37bとを、それぞれ、少なくとも、後述する1回の真空蒸着重合操作によって基体12の表面上に有機高分子薄膜を形成するのに必要とされる量において収容可能な容積を有している。それら各収容室36a,36b,38a,38bの容積の上限は、特に限定されるものではないが、第一及び第二原料モノマー液収容室36a,36bと第一及び第二原料モノマー蒸気収容室38a,38bとが、真空蒸着重合操作を50回以下の回数において実施可能な量において収容可能な大きさとされていることが、望ましい。何故なら、各収容室36a,36b,38a,38bの容積が、それ以上大きいと、大量の原料モノマー(第一及び第二原料モノマー液35a,35bと第一及び第二原料モノマー蒸気37a,37b)を一度に加熱しなければならなくなって、後述するヒータ33a,33bによる原料モノマーの加熱効率が著しく低下する恐れがあるからである。
【0044】
そして、このような第一蒸発源容器32aの第一原料モノマー蒸気収容室38aと第二蒸発源容器32bの第二原料モノマー蒸気収容室38bとに対して、原料モノマー導入パイプ26a,26bが、それぞれ接続されている。また、それら第一及び第二原料モノマー蒸気収容室38a,38bには、それらの内圧を検出する原料モノマー蒸気圧検出センサ40a,40bが、それぞれ設置されている。この原料モノマー蒸気圧検出センサ40a,40bと前記ヒータ33a,33bは、図示しないコントローラに接続されている。
【0045】
かくして、本実施形態の有機高分子薄膜形成装置においては、真空ポンプ18の作動時に、原料モノマー導入側圧力コントロールバルブ28a,28bが開作動されることにより、第一及び第二蒸発源容器32a,32b内が、成膜室10や混合室23と共に真空状態とされるようになっている。また、内部が真空とされた第一及び第二蒸発源容器32a,32bが、仕切りバルブ34a,34bの開作動下で、ヒータ33a,33bにてそれぞれ加熱されることによって、第一及び第二蒸発源容器32a,32bの第一及び第二原料モノマー液収容室36a,36b内に収容された、互いに異なる種類の第一及び第二原料モノマー液35a,35bが蒸発し、そして、それらが、第一及び第二蒸発源容器32a,32bの第一及び第二原料モノマー蒸気収容室38a,38b内にそれぞれ導かれて、第一及び第二原料モノマー蒸気37a,37bとして、各々収容されるようになっている。
【0046】
なお、このような第一及び第二原料モノマー液35a,35bの蒸発操作は、原料モノマー導入パイプ26a,26b上の原料モノマー導入側圧力コントロールバルブ28a,28bが、それぞれ、閉作動させられた状態で実施される。また、その際には、原料モノマー蒸気圧検出センサ40a,40bにて検出される第一及び第二原料モノマー蒸気収容室38a,38bの内圧が所定の値となるように、ヒータ33a,33bの加熱温度が、それらをそれぞれ検出する熱電対等の熱センサ(図示せず)検出値に基づいて、図示しないコントローラにて調節される。そして、第一及び第二原料モノマー蒸気収容室38a,38bの内圧が所定の値となった状態下で、導入側圧力センサ30a,30bの検出値が所定の値となるように、図示しないコントローラの制御の下で、原料モノマー導入側圧力コントロールバルブ28a,28bが開閉作動されることにより、第一及び第二蒸発源容器32a,32bの第一及び第二原料モノマー蒸気収容室38a,38b内から、第一及び第二原料モノマー蒸気37a,37bが、各原料モノマー導入パイプ26a,26bを通じて、混合室23内や成膜室10内に導入されるようになっている。
【0047】
そして、本実施形態の有機高分子薄膜形成装置にあっては、特に、上記の如き第一及び第二蒸発源容器32a,32bの第一及び第二原料モノマー液収容室36a,36b内に、原料モノマーを、それぞれ液体状態で供給する原料モノマー供給機構42が、第一及び第二蒸発源容器32a,32bに対応して、それぞれ一つずつ設けられており、この原料モノマー供給機構42が、従来装置には見られない特別な構造を有しているのである。
【0048】
すなわち、原料モノマー供給機構42は、第一原料モノマー液35aや第二原料モノマー液35bを収容する収容槽44と、かかる収容槽44内の第一原料モノマー液35aや第二原料モノマー液35bを吸い上げる、連通路としての吸上げ管45とを有している。
【0049】
この原料モノマー供給機構42の収容槽44は、内部が密閉されたタンクからなり、その上壁部には、原料モノマー供給管46と不活性ガス供給管48とが接続されている。原料モノマー供給管46の中間部には、原料モノマー供給用バルブ50が設けられる一方、不活性ガス供給管48の中間部には、収容槽内ガス圧力調整バルブ52が設置されている。また、原料モノマー供給管46の先端部は、原料モノマー投入用ホッパ54に接続されており、不活性ガス供給管48の先端部は、ヘリウムガスやネオンガス、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガスが充填された不活性ガスボンベ56に接続されている。
【0050】
かくして、原料モノマー供給機構42においては、原料モノマー投入用ホッパ54内に、第一原料モノマー液35aや第二原料モノマー液35bを収容させる一方で、原料モノマー供給管46上の原料モノマー供給用バルブ50を開作動させることにより、第一原料モノマー液35aや第二原料モノマー液35bが、原料モノマー供給管46を通じて、収容槽44内に供給されて、収容されるようになっている(図8参照)。
【0051】
また、不活性ガス供給管48上の収容槽内ガス圧力調整バルブ52を開作動させることにより、収容槽44内の空間部分に、不活性ガスが充満させられるようになっている。そして、それによって、収容槽44内に収容された第一原料モノマー液35aや第二原料モノマー液35bが、大気中の酸素や水分と反応したり、それら酸素や水分との接触により劣化したり、或いは自己重合したりするようなことが、未然に防止され得るようになっている。なお、収容槽内ガス圧力調整バルブ52は、図示しないコントローラに接続されており、不活性ガス供給管48上に設けられた収容槽内圧力センサ58にて検出される収容槽44の内圧が、常に任意の値(ここでは、大気圧以上の所定値)となるように、コントローラの制御により開閉作動する。
【0052】
一方、吸上げ管45は、収容槽44の上壁部を貫通して、上下方向に延び、上端部において、各蒸発源容器32a,32bの各原料モノマー液収容室36a,36bに接続されている。そして、その下端開口部が、収容槽44の底壁部の内面の近傍において開口する一方、上端開口部において、各蒸発源容器32a,32bの各原料モノマー液収容室36a,36b内に連通している。また、収容槽44の外部に位置する吸上げ管45の中間部分には、第一の開閉機構としての原料モノマー吸上げ用バルブ60が設置されている。
【0053】
これにより、ここでは、第一及び第二蒸発源容器32a,32b内が真空とされた状態下で、原料モノマー吸上げ用バルブ60が開作動することにより、大気圧以上の内圧を有する収容槽44内に収容された第一及び第二原料モノマー液35a,35bが、収容槽44と第一及び第二蒸発源容器32a,32bとの内圧の差に基づいて、第一及び第二蒸発源容器32a,32bの第一及び第二原料モノマー液収容室36a,36b内に、吸上げ管45を通じて吸い上げられて、供給されるようになっている。
【0054】
ところで、このような構造とされた本実施形態の形成装置を用いて、成膜室10内に交互に配置される複数の基体12の表面上に、有機高分子薄膜をそれぞれ形成する際には、例えば、以下のようにして、その作業が進められることとなる。
【0055】
すなわち、先ず、図1に示されるように、有機高分子薄膜の形成操作の開始に先立って、成膜室10内に、基体12を配置する。また、その一方で、第一蒸発源容器32aの第一原料モノマー液収容室36a内に、第一原料モノマー液35aを充填する一方、第二蒸発源容器32bの第二原料モノマー液収容室36b内に、第二原料モノマー液35bを充填する。
【0056】
この第一及び第二原料モノマー液35a,35bの第一及び第二原料モノマー液収容室36a,36b内への充填操作は、例えば、第一及び第二原料モノマー液収容室36a,36b内を真空とした状態において、第一及び第二蒸発源容器32a,32b内の仕切りバルブ34a,34bの閉作動下で、原料モノマー吸上げ用バルブ60,60を開作動して、第一及び第二原料モノマー液収容室36a,36bにそれぞれ連通する各収容槽44,44内から、それらに収容される第一及び第二原料モノマー液35a,35bを、各吸上げ管45,45を通じて吸上げさせることにより、実施される。
【0057】
また、そのような第一及び第二原料モノマー液35a,35bの第一及び第二原料モノマー液収容室36a,36b内への充填操作の実施前には、不活性ガスボンベ56内の不活性ガス62を、第一及び第二原料モノマー液35a,35bがそれぞれ収容される各収容槽44,44内に充満させる操作が行われる(図2参照)。このとき、不活性ガス62が充満した各収容槽44,44の内圧(収容槽内圧力センサ58,58による検出値)が、大気圧以上とされていることが、望ましい。それにより、第一及び第二原料モノマー液35a,35bの第一及び第二原料モノマー液収容室36a,36b内への充填操作が、より迅速且つスムーズに実施され得ることとなる。
【0058】
なお、ここで使用される第一及び第二原料モノマー液35a,35bは、基体12の表面上に形成されるべき有機高分子薄膜の種類に応じて、適宜に決定される。例えば、ポリイミド膜を形成する場合にはアミンとカルボン酸無水物が、芳香族ポリユリア膜を形成する場合には、芳香族アミンと芳香族イソシアネートが、芳香族ポリアミド膜を形成する場合には、芳香族アミンと芳香族アシルが、脂肪族ポリユリア膜を形成する場合には、脂肪族(脂環状を含む)アミンと芳香族(脂環状を含む)イソシアネートが、脂肪族ポリアミド膜を形成する場合には、脂肪族(脂環状を含む)アミンと芳香族(脂環状を含む)アシルが、ポリエステル膜を形成する場合には、ポリオールとカルボン酸とが、ポリウレタン膜を形成する場合には、ポリオールとイソシアネートが、それぞれ、第一及び第二原料モノマー液35a,35bとして、使用される。
【0059】
そして、図2に示されるように、有機高分子薄膜の形成操作の開始に当たって、第一蒸発源容器32aと原料モノマー導入パイプ26aとの間に設けられた原料モノマー導入側圧力コントロールバルブ28aを開作動させる。このとき、図示されてはいないものの、第二蒸発源容器32bと原料モノマー導入パイプ26bとの間に設けられた原料モノマー導入側圧力コントロールバルブ28bも開作動させる。そして、その状態下で、真空ポンプ18を作動させて、成膜室10内と混合室23内と原料モノマー導入パイプ26a,26b内と第一蒸発源容器32a(第一原料モノマー蒸気収容室38a)内と第二蒸発源容器32b(第二原料モノマー蒸気収容室38b)内とを、それぞれ真空状態(減圧状態)とする。このような操作によって、成膜室10内の圧力(成膜室内圧力センサ14による検出値)が、一般的には10-3〜100Pa程度とされる。
【0060】
その後、図3に示されるように、原料モノマー導入側圧力コントロールバルブ28aを閉作動させる一方、仕切りバルブ34aを開作動させる。これにより、第一蒸発源容器32a内を密閉すると共に、第一原料モノマー液収容室36aと第一原料モノマー蒸気収容室38aとを相互に連通させる。そして、その状態下で、第一蒸発源容器32aをヒータ33aにて加熱して、第一原料モノマー液収容室36a内の第一原料モノマー液35aを蒸発させる。これにより、第一原料モノマー蒸気37aを発生させて、それを第一原料モノマー蒸気収容室38a内に収容させる。このとき、原料モノマー蒸気圧検出センサ40aによる検出値が、予め定められた設定値となるように、ヒータ33aの温度制御を行って、第一原料モノマー蒸気収容室38a内の蒸気圧を調節する。また、図示されてはいないものの、それと同時に、第二原料モノマー液収容室36b内でも、第二原料モノマー液35bを上記と同様にして蒸発させて、第二原料モノマー蒸気収容室38b内に、第二原料モノマー蒸気37bを収容させる。
【0061】
そして、原料モノマー蒸気圧検出センサ40aによる検出値が設定値となったら、図示しないコントローラの制御の下で、原料モノマー導入側コントロールバルブ28aを、図4に示されるように、開作動させる。これにより、第一原料モノマー蒸気収容室38a内の第一原料モノマー蒸気37aを、原料モノマー導入パイプ26aを通じて、混合室23内、更には成膜室10内に導入させる。このとき、原料モノマー導入パイプ26a上の導入側圧力センサ30aによる検出値が、原料モノマー蒸気圧検出センサ40aによる検出値よりも低く、且つ成膜室内圧力センサ14による検出値よりも高い目標値となるように、原料モノマー導入側コントロールバルブ28aが、図示しないコントローラによる制御の下で開閉作動する。
【0062】
一方、図示されてはいないものの、原料モノマー導入パイプ26b上の導入側圧力センサ30bによる検出値が、原料モノマー蒸気圧検出センサ40bによる検出値よりも低く、且つ成膜室内圧力センサ14による検出値よりも高い目標値となるように、原料モノマー導入側コントロールバルブ28bも、図示しないコントローラによる制御の下で開閉作動する。そうして、第二原料モノマー蒸気収容室38b内の第二原料モノマー蒸気37bを、原料モノマー導入パイプ26bを通じて、混合室23内、更には成膜室10内に導入させる。
【0063】
そして、混合室23内に導入した第一原料モノマー蒸気37aと第二原料モノマー蒸気37bとを、二枚の拡散板24,24にて拡散させた上で、成膜室10内に導入させて、基体12の表面上に導く。そこで、それら第一原料モノマー蒸気37aと第二原料モノマー蒸気37bとを重合させて、重合物を生成する。かくして、かかる重合物からなる有機高分子薄膜を、真空蒸着重合法により、基体12の表面上に形成する。
【0064】
このとき、成膜室10の圧力(成膜室内圧力センサ14による検出値)は、第一原料モノマー液35aと第二原料モノマー液35bとを蒸発させる前、つまり成膜操作の実施前の値よりも高くされていることが、望ましい。そうすることで、成膜室10内に導入された第一原料モノマー蒸気37aと第二原料モノマー蒸気37bとが、基体12の表面上で重合させられることなく、成膜室10内を通過して、トラップ装置22に捕捉されてしまうようなことが、可及的に防止され得る。そして、それにより、成膜室10内に導入される第一原料モノマー蒸気37aと第二原料モノマー蒸気37bとが、より有効に且つ効率的に利用される。その結果、有機高分子薄膜が、基体12の表面に対して効率的に形成されて、単位時間当たりの有機高分子薄膜の形成量の増大が有利に図られ得ることとなる。
【0065】
なお、このような真空蒸着重合法による有機高分子薄膜の形成操作(成膜操作)中において、第一原料モノマー蒸気37aと第二原料モノマー蒸気37bとを成膜室10内に導入するときの導入側圧力センサ30a,30bのそれぞれの検出値の目標値は、第一原料モノマー蒸気37aと第二原料モノマー蒸気37bとが、成膜室10内に配置された基体12の表面上で化学量論比となるように、成膜室10内に導入されるときの値に設定されている。このような目標値は、予備試験等の結果に基づいて、或いは経験に基づいて、予め設定されるものである。
【0066】
また、かかる成膜操作中には、第一及び第二蒸発源容器32a,32bに設置される原料モノマー蒸気圧検出センサ40aの検出値が所定の値となるように、成膜室10内や原料モノマー導入パイプ26a,26b内がヒータ等により加熱されることが、望ましい。また、好ましくは、各収容槽44,44も、そこに収容される第一及び第二原料モノマー液35a,35bの融点以上、沸点未満の温度となるように、ヒータ等で加熱される。更に、成膜室10内の基体12やトラップ装置22は、好適には、任意の温度に冷却されることとなる。
【0067】
そして、第一及び第二原料モノマー液収容室36a,36b内での第一及び第二原料モノマー液35a,35bの蒸発操作の開始から所定時間が経過した後、図5に示されるように、原料モノマー導入側圧力コントロールバルブ28aと蒸発源容器32a内の仕切りバルブ34aとを閉作動する。また、図示されてはいないものの、それと同時に、原料モノマー導入側圧力コントロールバルブ28bと蒸発源容器32b内の仕切りバルブ34bとを閉作動する。これにより、基体12の表面上への有機高分子薄膜の形成操作を終了する。
【0068】
そして、表面に有機高分子薄膜が形成された基体12を成膜室10内から取り出した後、次に有機高分子薄膜が表面に形成されるべき別の基体12を成膜室10内に配置する。
【0069】
その一方で、図6に示されるように、原料モノマー導入側圧力コントロールバルブ28aと第一蒸発源容器32a内の仕切りバルブ34aとを閉作動させたままの状態で、第一原料モノマー液収容室36aと収容槽44とを連通する吸上げ管45上の原料モノマー吸上げ用バルブ60を開作動させる。このとき、蒸発源容器32aの第一原料モノマー液収容室36a内は減圧状態とされている一方、収容槽44内の圧力が大気圧以上とされている。そのため、それらの圧力差によって、収容槽44内の第一原料モノマー液35aが、第一原料モノマー液収容室36a内に、吸上げ管45を通じて自動的に吸い上げられる。その後、図7に示されるように、第一原料モノマー液収容室36a内に、第一原料モノマー液35aが充満したら、原料モノマー吸上げ用バルブ60を閉作動させる。
【0070】
また、図示されてはいないものの、第二原料モノマー液収容室36bと収容槽44とを連通する吸上げ管45上の原料モノマー吸上げ用バルブ60も開作動させる。これにより、第二原料モノマー液収容室36b内にも、収容槽44内の第二原料モノマー液35bが自動的に吸い上げられて、充満させられる。その後、原料モノマー吸上げ用バルブ60を閉作動させる。
【0071】
かくして、第一原料モノマー液収容室36a内と第二原料モノマー液収容室36b内とが、前回の成膜操作の実施前と同様に、第一原料モノマー液35aと第二原料モノマー液35bとにて、それぞれ満たされる。これにより、第一原料モノマー液35aが、第一原料モノマー液収容室36a内に、前回の成膜操作によって使用された量だけ補充され、以て、第一原料モノマー液収容室36a内に収容される第一原料モノマー液35aが、前回の成膜操作の開始前と同じ量とされる。それと共に、第二原料モノマー液35bが、第二原料モノマー液収容室36b内に、前回の成膜操作によって使用された量だけ補充され、以て、第二原料モノマー液収容室36b内に収容される第二原料モノマー液35bが、前回の成膜操作の開始前と同じ量とされる。つまり、第一蒸発源容器32a内が、再び、図2に示された状態となり、第二蒸発源容器32b内も、それと同様な状態となる。
【0072】
引き続き、上記と同様に、図2乃至図5に示される如き成膜操作を行って、成膜室10内に新たに配置された基体10の表面に対して、有機高分子薄膜を形成する。その後、再度、図6及び図7に示される如き第一及び第二原料モノマー液35a,35bの補充操作を実施する。そして、これらの成膜操作と補充操作とを繰り返し行うことにより、成膜室10内に交替で配置される複数の基体12の表面上に、有機高分子薄膜をそれぞれ形成するのである。
【0073】
なお、このようなバッチ方式により、複数の基体12の表面に有機高分子薄膜をそれぞれ形成する場合において、第一蒸発源容器32aに連通する収容槽44内の第一原料モノマー液35aの収容量が減少したときには、図8に示されるように、原料モノマー供給用バルブ50を開作動させた状態で、原料モノマー投入用ホッパ54内に第一原料モノマー液35aを投入する。これにより、第一原料モノマー液35aを収容槽44内に供給して、補充する。第二蒸発源容器32bに連通する収容槽44内の第二原料モノマー液35bの収容量が減少した場合も、同様である。
【0074】
このような各収容槽44,44内への第一及び第二原料モノマー液35a,35bの補充操作は、各収容槽44,44に設けられる吸上げ管45,45上の原料モノマー吸上げ用バルブ60,60が閉作動しているときであれば、何時でも実施可能であって、成膜操作中でも行われ得る。また、本実施形態では、各収容槽44,44の内圧が大気圧以上とされているため、各収容槽44,44内への第一及び第二原料モノマー液35a,35bの補充操作の間に、各収容槽44,44内に大気が混入することがない。このような第一及び第二原料モノマー液35a,35bの補充操作時に、不活性ガス62が外部に漏出して、各収容槽44,44内の圧力が低下したときには、収容槽内圧力調整バルブ52,52が開作動して、不活性ガス62が、不活性ガスボンベ56,56内から各収容槽44,44内に直ちに補充される。そうして、各収容槽44,44の内圧が、常に大気圧以上の値に維持されるようになっている。なお、原料モノマー供給管46,46内には、水分を捕捉するフィルタ部材等が設置されていることが望ましい。
【0075】
このように、本実施形態の有機高分子薄膜形成装置を用いれば、真空蒸着重合法による成膜操作を繰り返し行う場合に、第一及び第二原料モノマー液35a,35bの蒸発操作の開始時において、第一及び第二蒸発源容器32a,32bの第一及び第二原料モノマー液収容室36a,36b内への第一及び第二原料モノマー液35a,35bの収容量が、毎回同じ量とされる。このため、繰り返して行われる成膜操作において、特別な制御を何等行わなくとも、1回の操作での第一及び第二原料モノマー液35a,35bの蒸発量が、予め設定されたヒータ33a,33bの加熱温度に応じて、それぞれ、常に同一の量とされ得る。
【0076】
それ故、このような本実施形態の有機高分子薄膜形成装置にあっては、繰り返して行われる成膜操作において、1回の操作での第一及び第二原料モノマー液35a,35bの蒸発量が不可避的に変動してしまう従来装置とは異なって、第一及び第二原料モノマー蒸気37a,37bの成膜室10内へのそれぞれの導入量を、変動のない、常に一定の条件で制御することが可能となる。これにより、第一及び第二原料モノマー液35a,35bが、例えば、反応性の低い種類のものであっても、そのような種類の第一及び第二原料モノマー液35a,35bを、成膜室10内に、必要な量だけ、常に安定的に導入することが出来、以て、基体10の表面上での原料モノマー比を、容易に且つ確実に化学量論比と為すことが可能となる。
【0077】
しかも、本実施形態に係る有機高分子薄膜形成装置では、第一及び第二蒸発源容器32a,32bの第一及び第二原料モノマー蒸気収容室38a,38bの内圧と、原料モノマー導入パイプ26a,26bの内圧と、成膜室10の内圧とが、その順番で段階的に低くされている。これにより、成膜操作中において、第一及び第二原料モノマー蒸気37a,37bが、第一及び第二原料モノマー蒸気収容室38a,38bから成膜室10内に、極めて安定的且つスムーズに導入され得る。
【0078】
従って、かくの如き本実施形態の有機高分子薄膜形成装置を用いれば、高い成膜効率が有利に発揮され得ると共に、第一及び第二原料モノマー蒸気37a,37bの反応性の善し悪しに拘わらず、成膜室10内に交互に配置される複数の基体10の表面に対して、常に、所定の組成と一定の膜厚とを有する同質の有機高分子薄膜が、再現性良く、安定的に形成され得ることとなるのである。
【0079】
また、本実施形態に係る有機高分子薄膜形成装置にあっては、単に、原料モノマー吸上げ用バルブ60,60を開作動するだけで、各収容槽44,44内と第一及び第二原料モノマー液収容室36a,36b内の圧力差に基づいて、各収容槽44,44内に収容された第一及び第二原料モノマー液35a,35bが、第一及び第二原料モノマー液収容室36a,36b内に必要量だけ、自動的に吸い上げられるようになっている。これによって、各原料モノマー供給機構42,42の構造が有利に簡略化され得ると共に、第一及び第二原料モノマー液収容室36a,36b内への第一及び第二原料モノマー液35a,35bの供給作業が、極めて容易に且つ効率的に実施され得るのである。
【0080】
ところで、前記第一の実施形態では、収容槽44内に不活性ガス62を充満させる機構が設けられていたが、これを省略することも出来る。その場合には、例えば、図9に示されるように、収容槽44が、外部に開放した容器にて構成される。そして、原料モノマー供給管46及び不活性ガス供給管48と、それらに設置される原料モノマー供給用バルブ50及び収容槽内圧力調整バルブ52と、収容槽内圧力センサ58と、原料モノマー投入用ホッパ54と、不活性ガスボンベ56とが、何れも省略される。これによって、原料モノマー供給機構42の構造が、効果的に簡素化され得ることとなる。
【0081】
次に、図10には、本発明に従う構造を有し、且つ前記第一及び第二の実施形態とは一部の構造が異なる有機高分子薄膜形成装置の別の例が示されている。本実施形態と、後述する図11に示された、本実施形態とは異なる更に別の実施形態は、第一及び第二蒸発源容器と原料モノマー供給機構の構造が、前記第一及び第二の実施形態とは別異の構造とされている。従って、それら二つの実施形態に関しては、第一及び第二蒸発源容器と原料モノマー供給機構のそれぞれの構造について、以下に説明し、前記第一の実施形態と同様な構造とされた部材及び部位については、図1と同一の符号を付すことにより、それらの詳細な説明を省略した。
【0082】
すなわち、図10から明らかなように、本実施形態の有機高分子薄膜形成装置にあっては、第一蒸発源容器64aが、上下方向に延びる密閉容器からなっている。そして、その下側部分が、第一原料モノマー液収容室66aとされている一方、その上側部分が、第一原料モノマー蒸気収容室68aとされている。この第一蒸発源容器64aにおいては、第一原料モノマー液収容室66aと第一原料モノマー蒸気収容室68aとの間に、バルブ等が何等設けられておらず、それらが常に連通した状態となっている。また、第二蒸発源容器64bも、第一蒸発源容器64aと同様に、その下側部分からなる第二原料モノマー液収容室66bと、その上側部分からなる第二原料モノマー蒸気収容室68bとを有し、それらが常に連通した状態となっている。更に、それら第一及び第二蒸発源容器64a,64bの外周上には、各蒸発源容器64a,64bの内部空間を加熱するヒータ70a,70bがそれぞれ設置されている。
【0083】
そして、本実施形態では、それら第一及び第二蒸発源容器64a,64bの第一及び第二原料モノマー液収容室66a,66b内に、第一及び第二原料モノマー液35a,35bを供給する原料モノマー供給機構72,72が、それぞれ、特別な構造をもって設置されている。なお、図10から明らかなように、第一原料モノマー液収容室66a内に第一原料モノマー液35aを供給する原料モノマー供給機構72と、第二原料モノマー液収容室66b内に第二原料モノマー液35bを供給する原料モノマー供給機構72は、互いに同一の構造を有している。それ故、以下には、二つの原料モノマー供給機構72,72のうちの代表として、第一原料モノマー液収容室66a内に第一原料モノマー液35aを供給する原料モノマー供給機構72の構造のみについて説明されており、第二原料モノマー液収容室66b内に第二原料モノマー液35bを供給する原料モノマー供給機構72の構造についての説明が省略されていることが理解されるべきである。
【0084】
すなわち、第一原料モノマー液収容室66a内に第一原料モノマー液35aを供給する原料モノマー供給機構72は、内部に第一原料モノマー液35aが収容された油圧シリンダ74を有している。この油圧シリンダ74の先端部には、ノズル76が設けられ、このノズル76を通じて、第一原料モノマー液収容室66aに連通状態で接続されている。また、ノズル76の延出方向の中間部には、開閉バルブ78が設けられている。更に、油圧シリンダ74のピストンロッド80は、図示しない油圧機構に接続されている。それら開閉バルブ78の開閉作動と油圧シリンダ74の突出/引込作動は、図示しないコントローラにて制御されるようになっている。
【0085】
そして、そのようなコントローラによる制御により、開閉バルブ78の開作動状態下で、油圧シリンダ74のピストンロッド80が一定の速度で引込作動することによって、油圧シリンダ74内に収容された第一原料モノマー液35aが、第一原料モノマー液収容室66a内に、ノズル76を通じて一定の流出速度で連続的に供給され得るようになっている。なお、油圧シリンダ74の第一原料モノマー液35a(第二原料モノマー液35b)の収容量は、後述する基体12表面への連続的な成膜操作の開始から終了までの間に使用される第一原料モノマー液35a(第二原料モノマー液35b)の使用量よりも多い量とされていることが、望ましい。
【0086】
また、油圧シリンダ74には、連通パイプ82を介して、収容槽84が接続されている。この収容槽84は、油圧シリンダ74よりも大きな容積を有し、内部には、第一原料モノマー液35aが収容されている。そして、ここでは、連通パイプ82の中間部に設けられた第一の原料モノマー供給用バルブ86を開作動させることにより、収容槽84内の第一原料モノマー液35aが、油圧シリンダ74内に供給されるようになっている。
【0087】
さらに、本実施形態においては、収容槽84が密閉容器からなり、この収容槽84に対して、不活性ガスボンベ56が、不活性ガス供給管48を通じて連結されていると共に、原料モノマー投入用ホッパ54が、原料モノマー供給管46を介して設置されている。また、不活性ガス供給管48上には、収容槽内圧力調整バルブ52が、原料モノマー供給管46上には、第二の原料モノマー供給用バルブ88が、それぞれ設けられている。これにより、前記第一の実施形態と同様にして、第一の原料モノマー液35aが、原料モノマー投入用ホッパ54から収容槽84内に供給されるようになっていると共に、収容槽84内に、不活性ガス62が充満され得るようになっている。
【0088】
また、本実施形態では、成膜室10内に、巻出しロール90と、図示しない電動モータ等により回転駆動可能とされた巻取りロール92とが、所定距離を隔てて設置されている。そして、長尺なフィルム等からなる基体12の巻回物94が、巻出しロール90に外挿された状態で、成膜室10内に配置されている。また、かかる巻回物94においては、それから巻き出された基体12の先端側部分が、巻取りロール92に対して、取り外し可能に且つ一体回転可能にセットされたリール96に固着されている。なお、巻取りロール92を回転駆動させる電動モータは、図示しないコントローラによって、作動が制御されるようになっている。
【0089】
このような構造とされた本実施形態の有機高分子薄膜形成装置を用いて、成膜室10内の巻回物94から巻き出される基体12の表面上に、真空蒸着重合法によって有機高分子薄膜を連続的に形成する場合には、例えば、以下のようにして、その作業が進められることとなる。
【0090】
すなわち、先ず、第一及び第二蒸発源容器64a,64bの第一及び第二原料モノマー液収容室66a,66b内に、第一及び第二原料モノマー液35a,35bを予め定められた量だけ収容させた状態下で、各原料モノマー供給機構72,72の油圧シリンダ74のノズル76上に設けられた開閉バルブ78をそれぞれ閉作動させる。このとき、各原料モノマー供給機構72,72の収容槽84内は、不活性ガスボンベ56から供給される不活性ガスで満たされる。また、そのような収容槽84の内圧は、大気圧以上とされる。
【0091】
その後、前記第一及び第二の実施形態に係る有機高分子薄膜形成装置を用いる場合と同様に、成膜室10内と第一及び第二蒸発源容器64a,64b内とを真空とした状態で、第一及び第二蒸発源容器64a,64bをヒータ70a,70bにて加熱して、それら第一及び第二蒸発源容器64a,64bの第一及び第二原料モノマー液収容室66a,66b内に収容される第一及び第二原料モノマー液35a,35bをそれぞれ蒸発させる。そうして、第一及び第二原料モノマー蒸気37a,37bを、第一及び第二原料モノマー蒸気収容室68a,68b内に収容する。
【0092】
次に、前記第一及び第二の実施形態に係る有機高分子薄膜形成装置を用いる場合と同様に、原料モノマー蒸気圧検出センサ40a,40bによる検出値が設定値となったら、図示しないコントローラの制御の下で、原料モノマー導入側コントロールバルブ28a,28bを開作動させる。これにより、第一及び第二原料モノマー蒸気収容室68a,68b内の第一及び第二原料モノマー蒸気37a,37bを、原料モノマー導入パイプ26a,26bを通じて、混合室23内、更には成膜室10内に導入させる。
【0093】
また、原料モノマー蒸気圧検出センサ40a,40bによる検出値が設定値となったら、図示しないコントローラの制御の下で、巻取りロール92を回転駆動させる電動モータの作動が開始されて、巻取りロール92が一定の速度で回転させられる。これによって、成膜室10内に配置された巻回物94から基体12が、徐々に巻き出される一方で、巻取りロール92にセットされたリール96に巻き取られる。
【0094】
そして、混合室23内に導入した第一原料モノマー蒸気37aと第二原料モノマー蒸気37bとを、二枚の拡散板24,24にて拡散させた上で、成膜室10内に導入して、巻回物94から巻き出される基体12の表面上に導き、そこで、それら第一原料モノマー蒸気37aと第二原料モノマー蒸気37bとを重合させて、重合物を生成する。かくして、かかる重合物からなる有機高分子薄膜を、真空蒸着重合法により、基体12の表面上に形成する。そして、ここでは、第一及び第二原料モノマー蒸気37a,37bが成膜室10内に連続的に導入される一方、基体12が巻回物94から連続的に巻き出される。かくして、真空蒸着重合法により、基体12表面上に有機高分子薄膜を形成する成膜操作が、連続的に実施されることとなる。
【0095】
一方、第一及び第二原料モノマー液35a,35bの蒸発操作により、原料モノマー蒸気圧検出センサ40a,40bによる検出値が設定値となって、上記の如き成膜操作が開始されたときには、それと同時に、図示しないコントローラの制御の下で、各原料モノマー供給機構72,72の油圧シリンダ74のノズル76上に設けられた開閉バルブ78をそれぞれ開作動させると共に、油圧シリンダ74のピストンロッド80の一定速度での引込作動を開始させる。
【0096】
これによって、成膜操作中に、各原料モノマー供給機構72,72の油圧シリンダ74内から、第一及び第二原料モノマー液35a,35bを、第一及び第二蒸発源容器64a,64bの第一及び第二原料モノマー液収容室66a,66b内に、一定の流量で供給する。この操作は、成膜操作が終了するまで継続される。このときの第一及び第二原料モノマー液35a,35bの流量は、第一及び第二原料モノマー液収容室66a,66b内での蒸発により減少する第一及び第二原料モノマー液35a,35bのそれぞれの単位時間当たりの減少量と同一の量とされる。なお、そのような第一及び第二原料モノマー液35a,35bの流量は、予め実施される予備試験や経験等から適宜に設定される。
【0097】
かくして、本実施形態の有機高分子薄膜形成装置においては、真空蒸着重合法による成膜操作の開始から終了までの間、第一及び第二原料モノマー液収容室66a,66b内における第一及び第二原料モノマー液35a,35bの収容量が、常に一定の量に維持されるようになっている。
【0098】
なお、このような連続方式により、長尺な基体12の表面に有機高分子薄膜を連続的に形成する場合において、各原料モノマー供給機構72,72の油圧シリンダ74,74内の第一及び第二原料モノマー液35a,35bが減少したときには、連通パイプ82上の第一の原料モノマー供給用バルブ86を開作動させることにより、収容槽84内の第一及び第二原料モノマー液35a,35bが、各油圧シリンダ74,74内に補充されることとなる。
【0099】
このように、本実施形態の有機高分子薄膜形成装置を用いれば、真空蒸着重合法による成膜操作を連続的に行う場合に、成膜操作の開始から終了までの間、第一及び第二原料モノマー液収容室66a,66b内における第一及び第二原料モノマー液35a,35bの収容量が、常に一定の量に維持される。このため、連続して行われる成膜操作において、特別な制御を何等行わなくとも、単位時間当たりの第一及び第二原料モノマー液35a,35bの蒸発量が、予め設定されたヒータ33a,33bの加熱温度に応じて、それぞれ、常に一定の量とされ得る。
【0100】
それ故、このような本実施形態の有機高分子薄膜形成装置にあっては、連続して行われる成膜操作において、第一及び第二原料モノマー液35a,35bが、例えば、反応性の低い種類のものであっても、そのような種類の第一及び第二原料モノマー液35a,35bを、成膜室10内に、必要な量だけ、常に安定的に導入することが出来、以て、基体12の表面上での原料モノマー比を、容易に且つ確実に化学量論比と為すことが可能となる。
【0101】
しかも、本実施形態に係る有機高分子薄膜形成装置では、前記第一及び第二の実施形態に係る有機高分子薄膜形成装置と同様に、第一及び第二蒸発源容器64a,64bの第一及び第二原料モノマー蒸気収容室68a,68bの内圧と、原料モノマー導入パイプ26a,26bの内圧と、成膜室10の内圧とが、その順番で段階的に低くされる。これにより、成膜操作中において、第一及び第二原料モノマー蒸気37a,37bが、第一及び第二原料モノマー蒸気収容室68a,68bから成膜室10内に、極めて安定的且つスムーズに導入され得る。
【0102】
従って、かくの如き本実施形態の有機高分子薄膜形成装置を用いれば、高い成膜効率が有利に発揮され得ると共に、第一及び第二原料モノマー蒸気37a,37bの反応性の善し悪しに拘わらず、成膜室10内において、巻回物94から連続的に巻き出される基体12の表面に対して、常に、所定の組成と一定の膜厚とを有する同質の有機高分子薄膜が、再現性良く、安定的に形成され得ることとなるのである。
【0103】
ところで、前記第三の実施形態では、収容槽84内に不活性ガス62を充満させる機構が設けられていたが、これを省略することも出来る。その場合には、例えば、図11に示されるように、収容槽84が、外部に開放した容器にて、構成される。そして、原料モノマー供給管46及び不活性ガス供給管48と、それらに設置される第二原料モノマー供給用バルブ88及び収容槽内圧力調整バルブ52と、収容槽内圧力センサ58と、原料モノマー投入用ホッパ54と、不活性ガスボンベ56とが、何れも省略される(図10参照)。これによって、原料モノマー供給機構72の構造が、効果的に簡素化され得ることとなる。
【0104】
以上、本発明の具体的な構成について詳述してきたが、これはあくまでも例示に過ぎないのであって、本発明は、上記の記載によって、何等の制約をも受けるものではない。
【0105】
例えば、前記第一及び第二の実施形態では、繰り返し成膜操作を行うに際して、毎回、第一及び第二原料モノマー液35a,35bの蒸発操作の前に、第一及び第二原料モノマー液35a,35bが、第一及び第二原料モノマー液収容室36a,36bと収容槽44,44との内圧差に基づいて、収容槽44,44内から第一及び第二原料モノマー液収容室36a,36b内に吸い上げられて、自動供給されるようになっていた。しかしながら、例えば、ポンプ等の公知のアクチュエータを用いて、第一及び第二原料モノマー液35a,35bを、収容槽44,44内から第一及び第二原料モノマー液収容室36a,36b内に送り出すように為すことも可能である。或いは、アクチュエータ等を何等用いることなく、人的作業により、第一及び第二原料モノマー液35a,35bを、第一及び第二原料モノマー液収容室36a,36b内に供給しても良い。
【0106】
また、前記第三及び第四の実施形態に係る有機高分子薄膜形成装置では、成膜室10内に、長尺な基体12の巻回物94が配置されて、この巻回物94から巻き出される基体12の表面上に、有機高分子薄膜が連続的に形成されるようになっていたが、そのような巻回物94に代えて、前記第一及び第二の実施形態に係る有機高分子薄膜形成装置の成膜室10内に配置されるような板状の基体12の複数を成膜室10内に、交互に配置して、成膜操作を繰り返し行うようにしても良い。そうして、成膜操作を繰り返し行う場合には、1個の基体12の表面に有機高分子薄膜を形成する1回の成膜操作の開始から終了までの間、毎回、第一及び第二原料モノマー液35a,35bを第一及び第二蒸発源容器64a,64b内に常に一定の量だけ存在させるように為すことが出来る。これにより、複数の基体12の表面に対して、所定の組成と一定の膜厚とを有する有機高分子薄膜が、より再現性良く、安定的に形成され得ることとなるのである。
【0107】
前記第三及び第四の実施形態では、第一原料モノマー液35aや第二原料モノマー液35bを、第一原料モノマー液収容室66aや第二原料モノマー液収容室66bに一定の流量で供給するのに、油圧シリンダ74が使用されていたが、そのような油圧シリンダ74に代えて、公知の各種の供給機構が、適宜に使用され得る。
【0108】
また、真空蒸着重合操作の開始から終了までの間、原料モノマーが、蒸発源容器内に液体状態で常に一定の量だけ存在するように為すには、前記第三及び第四の実施形態において例示する如く、各原料モノマー液35a,35bを、各蒸発源容器64a,64b内に、常に一定の流量で連続的に供給する方式の他に、各原料モノマー液35a,35bを、各蒸発源容器64a,64b内に、間欠的に供給する方式も採用され得る。例えば、各蒸発源容器64a,64b内の各原料モノマー液35a,35bの収容量を検出するセンサを各蒸発源容器64a,64bに設置し、各原料モノマー液35a,35bの減少により、この検出センサによる検出値が予め定められた基準値に到達したときに限って、各原料モノマー液35a,35bを各蒸発源容器64a,64b内に所定の量だけ供給する方式も採用可能なのである。
【0109】
前記第一乃至第四の実施形態では、何れも、第一原料モノマー液35aと第二原料モノマー液35bの2種類の原料モノマーが使用されていたが、3種類以上の原料モノマーを用いることも、勿論可能である。その場合には、原料モノマー導入パイプや蒸発源容器、原料モノマー供給機構が、用いられる原料モノマーの種類の数と同数だけ、形成装置に設置されることとなる。
【0110】
また、前記第一乃至第四の実施形態では、蒸発源容器32a,32b,64a,64bが、成膜室10の外部に設置され、原料モノマー導入パイプ26a,26bを介して、成膜室10と連結されていたが、蒸発源容器を成膜室内に設置することも可能である。
【0111】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【実施例】
【0112】
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、また、言うまでもないところである。
【0113】
<実施例1>
先ず、原料モノマーとして、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンとメチレンビス(4−シクロヘキシルアミン)の2種類のものを、液体状態において、それぞれ所定量準備した。また、有機高分子薄膜形成装置として、図1に示される如き構造を有する装置を準備した。なお、ここで使用される有機高分子薄膜形成装置は、成膜室の容積を0.10m3 で、混合室の容積を0.01m3 、第一及び第二蒸発源容器における第一及び第二原料モノマー蒸気収容室のそれぞれの容積を150ml、第一及び第二原料モノマー液収容室のそれぞれの容積を100mlとした。
【0114】
次いで、第一原料モノマー液収容室内に、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンを、第一原料モノマー液収容室の容積と同量の100ml収容させると共に、第二原料モノマー液収容室内に、メチレンビス(4−シクロヘキシルアミン)を、第二原料モノマー液収容室の容積と同量の100ml収容させた。
【0115】
その後、成膜前の原料モノマーの蒸気圧を10Pa、成膜中の原料モノマー導入側圧力を5Paに制御すると共に、成膜前の成膜室内圧力を2.0×10-2Pa、成膜中の成膜室内圧力を8.0×10-1Paに制御しつつ、成膜室内に配置した基体の表面上に対して、真空蒸着重合法により脂肪族ポリユリア膜を形成する成膜操作を、5分間実施した。そして、このような5分間の成膜操作を同一の条件で20回(20バッチ)繰り返し行って、成膜室内に交替で配置される20個の基体の表面上に、脂肪族ポリユリア膜をそれぞれ形成した。また、繰り返し行われる成膜操作において、毎回、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンとメチレンビス(4−シクロヘキシルアミン)の蒸発操作の開始時に、それらの原料モノマーが、第一及び第二原料モノマー液収容室内に、それぞれ液体状態で100mlの量において収容されているように、毎回、かかる蒸発操作に先立って、原料モノマー供給機構により、各原料モノマーを、前回の成膜操作で使用されて、減少した量だけ、液体状態で第一及び第二原料モノマー液収容室内にそれぞれ供給する操作を行った。
【0116】
そして、上記のように20回繰り返して行われた成膜操作によって20個の基体表面に形成された脂肪族ポリユリア膜のそれぞれの厚さと、外観と、組成比とを調べた。その結果を、下記表1に示した。なお、脂肪族ポリユリア膜の厚さは、分光干渉法による膜厚測定装置[USB2000(オーシャン・オプティクス社製)]を用いて測定した。また、脂肪族ポリユリア膜の外観は、目視検査により調べた。更に、脂肪族ポリユリア膜の組成比は、フーリエ変換赤外分光計[NEXUS470(サーモエレクトロン社製)]を用いた、全反射法による測定結果を基に算出した。なお、表1におけるa:bは、原料モノマーa[1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン]:原料モノマーb[メチレンビス(4−シクロヘキシルアミン)]を示している。また、表1には、1バッチ目と5バッチ目と10バッチ目と15バッチ目と20バッチ目に形成される脂肪族ポリユリア膜のそれぞれの厚さと、外観と、組成比のみを示した。
【0117】
また、20回繰り返して行われた成膜操作において、成膜中の成膜室内への原料モノマー導入量に相当する原料モノマー導入側圧力の経時変化を、毎回、調べた。それらを代表して、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンの1バッチ目と5バッチ目と10バッチ目と15バッチ目と20バッチ目のそれぞれの原料モノマー導入側圧力の経時変化を、図12に示した。
【0118】
<比較例1>
比較のために、原料モノマーとして、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンとメチレンビス(4−シクロヘキシルアミン)の2種類のものを、液体状態において、それぞれ所定量準備する一方、原料モノマー供給機構を何等有しない従来の有機高分子薄膜形成装置を準備した。なお、ここで使用される有機高分子薄膜形成装置は、成膜室の容積を0.10m3 で、混合室の容積を0.01m3 、第一及び第二蒸発源容器のそれぞれの容積を250mlとした。
【0119】
そして、第一蒸発源容器内と第二蒸発源容器内とに、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンとメチレンビス(4−シクロヘキシルアミン)とを、それぞれ100mlずつ収容させた後、前記実施例1と同様な圧力制御を行いつつ、成膜室内に配置した基体の表面上に対して、真空蒸着重合法により脂肪族ポリユリア膜を形成する成膜操作を、5分間実施した。そして、この5分間の成膜操作を同一の条件で20回(20バッチ)繰り返し行って、成膜室内に交替で配置される20個の基体の表面上に、脂肪族ポリユリア膜をそれぞれ形成した。なお、ここでは、実施例1とは異なって、1回の成膜操作後に、原料モノマーを第一及び第二蒸発源容器内に、毎回、補充する操作を、何等行わなかった。
【0120】
そして、20回繰り返して行われた成膜操作によって20個の基体表面に形成された脂肪族ポリユリア膜のそれぞれの厚さと、外観と、組成比とを、実施例1と同様にして、調べた。その結果を、下記表1に併せて示した。また、20回繰り返して行われた成膜操作において、成膜中の原料モノマー導入側圧力の経時変化を、毎回、調べた。それらを代表して、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンの1バッチ目と5バッチ目と10バッチ目と15バッチ目と20バッチ目のそれぞれの原料モノマー導入側圧力の経時変化を、図13に示した。
【0121】
<比較例2>
更なる比較のために、前記実施例1と比較例1とにおいて原料モノマーとして使用された1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンとメチレンビス(4−シクロヘキシルアミン)のそれぞれの所定量と、比較例1で使用された有機高分子薄膜形成装置と同じ装置とを、それぞれ準備した。
【0122】
そして、第一蒸発源容器内と第二蒸発源容器内とに、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンとメチレンビス(4−シクロヘキシルアミン)とを、それぞれ100mlずつ収容させた後、前記実施例1や比較例1のような圧力制御を、何等行うことなく、成膜室内に配置した基体の表面上に対して、真空蒸着重合法により脂肪族ポリユリア膜を形成する成膜操作を、5分間行った。そして、この5分間の成膜操作を同一の条件で20回(20バッチ)繰り返し行って、成膜室内に交替で配置される20個の基体の表面上に、脂肪族ポリユリア膜をそれぞれ形成した。また、ここでは、比較例1と同様に、1回の成膜操作後に、原料モノマーを第一及び第二蒸発源容器内に、毎回、補充する操作を、何等行わなかった。なお、成膜前の原料モノマー蒸気圧や成膜室内圧力は、実施例1や比較例1と同様とした。
【0123】
そして、20回繰り返して行われた成膜操作によって20個の基体表面に形成された脂肪族ポリユリア膜のそれぞれの厚さと、外観と、組成比とを、実施例1と同様にして、調べた。その結果を、下記表1に併せて示した。また、20回繰り返して行われた成膜操作において、成膜中の原料モノマー導入側圧力の経時変化を、毎回、調べた。それらを代表して、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンの1バッチ目と5バッチ目と10バッチ目のそれぞれの原料モノマー導入側圧力の経時変化を、図14に示した。更に、1バッチ目と5バッチ目と10バッチ目にそれぞれ形成された脂肪族ポリユリア膜の赤外吸収スペクトルを図15に併せて示した。なお、図15中の原料モノマーaは、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンを示し、原料モノマーbは、メチレンビス(4−シクロヘキシルアミン)を示している。
【0124】
【表1】

【0125】
図12から明らかなように、本発明に従う構造を有する有機高分子薄膜形成装置を用いた本発明手法により、成膜操作を繰り返し行う実施例1においては、1バッチ目から20バッチ目に至るまで、成膜中における原料モノマー導入側圧力が、一定の値に維持されている。これは、成膜操作の繰り返し回数に拘わらず、1回の成膜中における原料モノマーの成膜室内への導入量が、常に一定の値に維持され得ることを如実に示している。また、上記表1から明らかなように、実施例1では、1バッチ目から20バッチ目に至るまで、基体表面に形成される脂肪族ポリユリア膜の全てにおいて良好な外観が確保され得るだけでなく、膜厚が、30μmの一定の厚さとされ、しかも、組成比の変動もない。これらの結果から、本発明に従う構造を有する有機高分子薄膜形成装置を用いた本発明手法により、成膜操作を繰り返し行うことによって、複数の基体の表面上に、良好な品質と一定の膜厚を有する有機高分子薄膜が、再現性良く、安定的に形成され得ることが、明確に認識され得るのである。
【0126】
これに対して、図13及び図14から明らかなように、従来装置を用いた従来手法によって成膜操作を繰り返し行う比較例1と比較例2においては、何れも、成膜操作の繰り返し回数が増加するのに伴って、成膜中における原料モノマー導入側圧力の経時的変化が徐々に大きくなっている。これは、成膜操作の繰り返し回数が増えるに従って、1回の成膜中における原料モノマーの成膜室内への導入量が徐々に大きく変動することを示している。また、上記表1から明らかなように、従来装置を用いた従来手法によって成膜操作を繰り返し行う比較例1と比較例2では、成膜操作の繰り返し回数が増えるに従って、脂肪族ポリユリア膜の外観が低下すると共に、その膜厚も漸減し、更に、組成比の変動も大きくなっている。しかも、図15に示されるように、比較例2においては、成膜操作の繰り返し回数が増加するのに伴って、脂肪族ポリユリア膜が、その組成比において、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(原料モノマーa)がリッチな状態に変化していることが認められる。これらの結果から、従来装置を用いた従来手法によって成膜操作を繰り返し行う場合には、複数の基体の表面上に形成する有機高分子薄膜の再現性が得られないことが、明確に認識され得るのである。
【符号の説明】
【0127】
10 成膜室 12 基体
32a,64a 第一蒸発源容器 32b,64b 第二蒸発源容器
35a 第一原料モノマー液 35b 第二原料モノマー液
36a,66a 第一原料モノマー液収容室
36b,66b 第二原料モノマー液収容室
37a 第一原料モノマー蒸気 37b 第二原料モノマー蒸気
38a,68a 第一原料モノマー蒸気収容室
38b,68b 第二原料モノマー蒸気収容室
42,72 原料モノマー供給機構 44,84 収容槽
45 吸上げ管 46 原料モノマー供給管
74 油圧シリンダ 94 巻回物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空状態の複数の蒸発源容器内で蒸発させた複数種類の原料モノマーを、真空状態の成膜室内に導入して、該成膜室内に配置された基体の表面上で重合させることにより、該基体の表面上に有機高分子薄膜を形成する真空蒸着重合操作を繰り返し行うことによって、該成膜室内に交替で配置される複数の基体の表面上に、有機高分子薄膜をそれぞれ形成するに際して、
前記繰り返し行われる真空蒸着重合操作において、毎回、前記原料モノマーの蒸発操作の開始時に、該原料モノマーが、前記蒸発源容器内に液体状態で一定の量だけ存在するようにしたことを特徴とする有機高分子薄膜の形成方法。
【請求項2】
真空状態の複数の蒸発源容器内で蒸発させた複数種類の原料モノマーを、真空状態の成膜室内に導入して、該成膜室内に配置された基体の表面上で重合させることにより、該基体の表面上に有機高分子薄膜を形成する真空蒸着重合操作を、該成膜室内に配置された該基体の巻回物から該基体を巻き出しつつ行うことによって、該巻回物から巻き出される該基体の表面上に、有機高分子薄膜を連続的に形成するに際して、
前記真空蒸着重合操作の開始から終了までの間、前記原料モノマーが、前記蒸発源容器内に液体状態で常に一定の量だけ存在するようにしたことを特徴とする有機高分子薄膜の形成方法。
【請求項3】
複数の基体が交替で配置される成膜室と、複数種類の原料モノマーをそれぞれ別個に収容し、且つ内部が真空とされた状態下で、該複数種類の原料モノマーをそれぞれ蒸発させて、それらを真空状態の該成膜室内に導入せしめる複数の蒸発源容器とを含み、該複数の蒸発容器内で蒸発して、真空状態の該成膜室内に導入された該複数種類の原料モノマーを、該成膜室内の前記基体の表面上で重合させて、該基体の表面上に有機高分子薄膜を形成する真空蒸着重合操作を繰り返し行うことにより、該成膜室内に交替で配置される該複数の基体の表面上に、有機高分子薄膜をそれぞれ形成し得るように構成された有機高分子薄膜の形成装置であって、
前記繰り返し行われる真空蒸着重合操作において、毎回、前記原料モノマーの蒸発操作の開始時に、該原料モノマーが、前記複数の蒸発源容器内に、それぞれ液体状態で一定の量だけ収容されているように、該原料モノマーを、液体状態で、該複数の蒸発源容器内にそれぞれ供給する供給機構が設けられていることを特徴とする有機高分子薄膜の形成装置。
【請求項4】
基体の巻回物が配置される成膜室と、複数種類の原料モノマーをそれぞれ別個に収容し、且つ内部が真空とされた状態下で、該複数種類の原料モノマーをそれぞれ蒸発させて、それらを真空状態の該成膜室内に導入せしめる複数の蒸発源容器とを含み、該複数の蒸発容器内で蒸発して、真空状態の該成膜室内に導入された該複数種類の原料モノマーを、該成膜室内の前記基体の表面上で重合させて、該基体の表面上に有機高分子薄膜を形成する真空蒸着重合操作を、該成膜室内の前記巻回物から該基体を巻き出しつつ実施することにより、該巻回物から巻き出される該基体の表面上に、有機高分子薄膜を連続的に形成し得るように構成された有機高分子薄膜の形成装置であって、
前記真空蒸着重合操作の開始から終了までの間、前記原料モノマーが、前記複数の蒸発源容器内に、液体状態で常に一定の量だけ収容されているように、該原料モノマーを、液体状態で、該複数の蒸発源容器内にそれぞれ供給する供給機構が設けられていることを特徴とする有機高分子薄膜の形成装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−84773(P2011−84773A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−238179(P2009−238179)
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(308013436)小島プレス工業株式会社 (386)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】