説明

有機ELディスプレイの製造方法及び有機ELディスプレイ

【課題】正孔注入層の形成と隔壁上における撥液性の付与とを同時に行うことができ、高いパターニング精度で有機EL素子を形成することができる有機ELディスプレイの製造方法を提供する。
【解決手段】基板11上における、隔壁12により区画された画素領域20aに形成され、一対の電極層21、24間に正孔注入層22と発光層23とが積層された積層構造を有する有機EL素子を備えた、有機ELディスプレイの製造方法において、画素領域20aに形成された一の電極層21の上面をフルオロカーボンガスのプラズマにより処理することによって、一の電極層21上に正孔注入層22を形成する正孔注入層形成工程と、形成された正孔注入層22上に、発光層23の材料を含む液体23aを塗布することによって、発光層23を形成する発光層形成工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に形成された有機EL素子を備えた有機ELディスプレイ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、有機化合物よりなる発光層にそれぞれ反対側から電子と正孔とを注入し、注入した電子と正孔との再結合により発光層を電気的に励起し、発光させる発光素子である。液晶ディスプレイやプラズマディスプレイに代わる次世代のディスプレイを実現するための発光素子として注目されている。
【0003】
有機EL素子は、その構成材料により、高分子系有機EL素子と低分子系有機EL素子とに大別される。そして、高分子系有機EL素子は印刷法により、低分子系有機EL素子は蒸着法及び印刷法のいずれかにより作製される。複数の有機EL素子を画素として有する有機ELディスプレイの表示を多色化する方法として、蒸着法によるときは、所定パターンのマスク越しに異なる発光色の発光材料を所望の画素に対応する画素領域に蒸着して形成する方法が行われている。一方、印刷法によるときは、発光材料を溶剤に溶かしてインクとし、インクジェット法等により異なる発光色のインクを所望の画素に対応する画素領域に印刷して形成する方法が行われている。
【0004】
インクジェット法により有機ELディスプレイの表示を多色化する場合、基板上に各画素に対応する画素領域を区画する隔壁を設け、酸素ガスプラズマ及びCFガスプラズマを用いた連続表面処理を経て、インクを塗布して正孔注入層と発光層を形成する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。酸素ガスプラズマを用いた表面処理により、ITO(Indium Tin Oxide)等の透明電極よりなる陽極上を親液化し、CFガスプラズマによる表面処理により隔壁上を撥液化することができる。このため、インクの濡れ性を基板上における領域毎に制御することができる。従って、隔壁上を介して隣接する画素に塗布したインクが流出することを防止することができ、微細なパターニングが可能になる。
【0005】
一方、有機EL素子では、発光効率を向上させるために、正孔注入層を陽極と発光層との間に形成することがある。例えば、銅フタロシアニン(Copper Phthalocyanine;CuPc)、酸化モリブデン(MoO)が正孔注入層として用いられている。また、フルオロカーボン膜が正孔注入層として用いられることもある(例えば特許文献2参照)。また、高分子系材料の正孔注入層として、ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(Poly(3,4-ethylenedioxythiophene)/Polystyrenesulfonate;PEDOT/PSS)が用いられることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−310282号公報
【特許文献2】特開2000−150171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記のような有機EL素子を画素として備えた有機ELディスプレイでは、次のような問題がある。
【0008】
PEDOT/PSSは水溶性であり、塗布成膜後に水分を完全に除去しないと有機EL素子が劣化しやすい。また、PEDOT/PSSに含まれるSOイオンも有機EL素子を劣化させることがある。従って、PEDOT/PSSを正孔注入層として含む有機EL素子を長寿命化することは難しい。特許文献1に示す例では、フルオロカーボン膜を用いているものの、正孔注入層と発光層との間のバッファ層として用いており、正孔注入層として用いていない。また、特許文献1に示す例では、正孔注入層としてPEDOT/PSSを用いている。従って、特許文献1に示す例では、有機EL素子を長寿命化することが難しい。
【0009】
一方、CFガスプラズマによる表面処理の後にPEDOT/PSSを成膜した場合、隔壁上の撥液性が低下し、インクジェット法による微細なパターニングができなくなる。特許文献1に示す例では、フルオロカーボン膜を用いているものの、親液性、撥液性を制御することについて記載されていない。
【0010】
また、特許文献1に示す例では、フルオロカーボン膜の形成と、PEDOT/PSSの形成とを同一の工程で行うことはできない。そのため、フルオロカーボン膜により隔壁上において撥液性を付与するとしても、隔壁上における撥液性の付与と、正孔注入層の形成とを別々に行う必要がある。
【0011】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、隔壁により区画された画素領域に有機EL素子を形成する、有機ELディスプレイ及びその製造方法において、正孔注入層の形成と隔壁上における撥液性の付与とを同時に行うことができ、正孔注入層の材料に起因する有機EL素子の劣化を防止することができ、高いパターニング精度で有機EL素子を形成することができる有機ELディスプレイ及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために本発明では、次に述べる手段を講じたことを特徴とするものである。
【0013】
本発明の一実施例によれば、基板上における、隔壁により区画された画素領域に形成され、一対の電極層間に正孔注入層と発光層とが積層された積層構造を有する有機EL素子を備えた、有機ELディスプレイの製造方法において、前記画素領域に形成された一の電極層の上面をフルオロカーボンガスのプラズマにより処理することによって、前記一の電極層上に前記正孔注入層を形成する正孔注入層形成工程と、形成された前記正孔注入層上に、前記発光層の材料を含む液体を塗布することによって、前記発光層を形成する発光層形成工程とを有する、有機ELディスプレイの製造方法が提供される。
【0014】
また、本発明の一実施例によれば、基板上における、隔壁により区画された画素領域に、有機EL素子が形成されてなる有機ELディスプレイにおいて、前記有機EL素子は、前記画素領域に形成された一の電極層と、前記一の電極層の上面をフルオロカーボンガスのプラズマにより処理することによって、前記一の電極層上に形成された、フルオロカーボン膜を含む正孔注入層と、前記正孔注入層上に、前記発光層の材料を含む液体を塗布することによって形成された、発光層と、前記発光層上に形成されており、前記一の電極層との間に前記正孔注入層と前記発光層とが積層された積層構造を形成する、他の電極層とを有し、前記隔壁は、前記隔壁の上面を前記プラズマにより処理することによって、前記隔壁の上面に形成された、フルオロカーボン膜を含む撥液層を有する、有機ELディスプレイが提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、隔壁により区画された画素領域に有機EL素子を形成する、有機ELディスプレイ及びその製造方法において、正孔注入層の形成と隔壁上における撥液性の付与とを同時に行うことができ、正孔注入層の材料に起因する有機EL素子の劣化を防止することができ、高いパターニング精度で有機EL素子を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施の形態に係る有機ELディスプレイの概略構成を示す断面図である。
【図2】実施の形態に係る有機ELディスプレイの製造方法の各ステップにおける手順を説明するためのフローチャートである。
【図3】実施の形態に係る有機ELディスプレイの製造方法の各ステップにおけるディスプレイ基板の状態を模式的に示す図である。
【図4】実施の形態に係る有機ELディスプレイの製造方法の各ステップにおけるディスプレイ基板の状態を模式的に示す図である。
【図5】比較例に係る有機ELディスプレイの製造方法の各ステップにおける手順を説明するためのフローチャートである。
【図6】比較例に係る有機ELディスプレイの製造方法の各ステップにおけるディスプレイ基板の状態を模式的に示す図である。
【図7】実施の形態におけるステップS16において、隔壁の上面に塗布された液滴の挙動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明を実施するための形態について図面と共に説明する。
【0018】
始めに図1を参照し、実施の形態に係る有機ELディスプレイの構成について説明する。図1は、有機ELディスプレイ10の概略構成を示す断面図である。
【0019】
図1に示すように、有機ELディスプレイ10は、ディスプレイ基板11上に、有機EL素子よりなる画素20を複数有する。画素20は、陽極21、正孔注入層22、発光層23及び陰極24を有する。また、画素20は、一対の電極層である陽極21、陰極24の間に、正孔注入層22と発光層23とが積層された積層構造を有する。また、画素20は、ディスプレイ基板11上における、隔壁12により区画された画素領域20aに形成されている。従って、各画素20における陽極21、正孔注入層22、発光層23及び陰極24は、隔壁12により、隣接する画素20における陽極21、正孔注入層22、発光層23及び陰極24とそれぞれ分離している。
【0020】
なお、陽極21は、本発明における一の電極層に相当する。
【0021】
ディスプレイ基板11の材料として、ガラスやプラスチックフィルム等の透明な基板を用いることができる。また、ディスプレイ基板11であって、陽極21の下側の部分、又は陽極21と隣接する部分には、例えば薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor;TFT)よりなるトランジスタ素子を用いた図示しないアクティブマトリクス回路が形成されていてもよい。アクティブマトリクス回路が形成されているときは、各画素20は、アクティブ駆動することができ、応答特性に優れ、高精細な映像を表示することができる。
【0022】
前述したように、隔壁12は、画素20が形成される画素領域20aを区画するものである。隔壁12の材料は、絶縁性を有する材料であってインクジェット法等により塗布されるインクにおける溶媒に溶解しないものであればよく、特に限定されるものではない。
【0023】
陽極21は、陰極24と一対で発光層23を上下両側から挟んで電圧を印加可能に設けられるものであり、有機EL素子を発光させるときは、陰極24に対して相対的に正の電位が与えられる。本実施の形態では、図1に示すように、陽極21は、発光層23の下側に設けられている。陽極21の材料として、ITO、IZO(登録商標;Indium Zinc Oxide)等の透明電極材料を用いることができる。
【0024】
正孔注入層22は、陽極21と発光層23との間の電位障壁を緩和し、陽極21側から発光層23に正孔を注入しやすくするためのものである。正孔注入層22は、後述する正孔注入層形成工程において、陽極21の上面を例えばCHFガス等のフルオロカーボンガスのプラズマで処理することによって、陽極21上に形成される膜を用いる。正孔注入層22は、フルオロカーボン膜を含むものであってもよい。また、フルオロカーボン膜は、フルオロカーボンガスがプラズマ重合することによって形成された高分子膜であってもよい。
【0025】
正孔注入層22を形成するときは、後述するようなリアクティブイオンエッチング(Reactive Ion Etching;RIE)装置に設けられた、対向する二つの電極の一方により基板を保持し、基板を保持している一方の電極の電位を他方の電極よりも低くした状態で、二つの電極の間にプラズマを発生する。そして、発生したプラズマを基板に向けて照射することによって、陽極21の上面と隔壁12の上面12aとをプラズマにより処理する。
【0026】
このとき、隔壁12の上面12aがプラズマ処理されることによって、隔壁12の上面12aに撥液層12bが形成される。フルオロカーボンガスのプラズマにより処理することによって形成される膜は、表面エネルギーが小さく、撥液性を有するからである。これにより、ディスプレイ基板11の表面における、隔壁12の上面12aと隔壁12の側面12cとの間で、異なる撥液性を付与することができ、隣接する画素20の間にインクが流出することを防止でき、微細なパターニングが可能となる。
【0027】
撥液層12bは、正孔注入層22を形成する際に、隔壁12の上面12aにおける撥液性が、隔壁12の側面12cにおける撥液性よりも高くなるように、隔壁12の上面12aに形成されたものである。また、撥液層12bは、正孔注入層22上に発光層23の材料を含む液体を塗布する際に、隔壁12の上面12aに塗布された液体を、隔壁12の側面12cを伝って画素領域20a内に移動させることによって、発光層23が隔壁12の上面12aに形成されることを防止するものである。
【0028】
なお、撥液層12bは、フルオロカーボン膜を含むものであってもよい。また、フルオロカーボン膜は、フルオロカーボンガスがプラズマ重合することによって形成された高分子膜であってもよい。
【0029】
発光層23は、陽極21側から注入された正孔と、陰極24側から注入された電子とが再結合することによって励起子(エキシトン)が発生し、発生した励起子が基底状態に戻ることによって蛍光又は燐光を発光するためのものである。発光層23は、正孔注入層22上に、発光層23の材料を含む液体を塗布することによって形成されたものである。あるいは、発光層23は、発光層23の材料を含む液体をインクジェット法により塗布することによって形成されたものでもよい。発光層23の材料は、溶媒に可溶であってインクジェット法等により塗布されるインクを作製することができる材料であればよく、特に限定されるものではない。発光層23の材料として、例えばポリフルオレン、ポリフェニレンビニレン、ポリビニルカルバゾール等の各種の高分子材料、α−NPD(4,4'-bis(N-(1-naphthyl)-N-phenyl-amino)biphenyl;4,4'-ビス(N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ)ビフェニル)、PBD(2-(4-biphenylyl)-5-(4-tert-butyl-phenyl)-1,3,4-oxadiazole;2-(4-ビフェニリル)-5-(4-t-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール)、Ir(ppy)(tris(2-phenylpyridine)iridium;トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム)等の各種の低分子材料若しくは色素材料又はこれらの混合物でもよい。
【0030】
また、各画素20に対応する画素領域20aを、異なる色を発光する発光層23の材料で塗り分けることによって、多色表示が可能な有機ELディスプレイを製造することができる。
【0031】
陰極24は、陽極21と一対で発光層23を上下両側から挟んで電圧を印加可能に設けられるものであり、有機EL素子を発光させるときは、陽極21に対して相対的に負の電位が与えられる。本実施の形態では、図1に示すように、陰極24は、発光層23の上側に設けられている。陰極24の材料として、Ca、Al等の仕事関数の比較的小さな金属よりなる電極材料を用いることができる。また、陰極24がCa、Al等、大気中で劣化しやすい材料であるときは、陰極24の上面は、図示しない封止剤により封止されていてもよい。
【0032】
なお、陰極24は、本発明における他の電極層に相当する。
【0033】
なお、本実施の形態では、正孔注入層22上に発光層23が直接形成されている例について説明する。しかし、正孔注入層22と発光層23との間に、正孔輸送層等の各種の機能層を形成してもよい。これにより、有機EL素子を低電圧化、高発光効率化、長寿命化等することができ、有機EL素子の性能を更に向上させることができる。
【0034】
また、図1では、陽極21及び陰極24が、画素領域20a毎に分離するように形成された例を示す。しかし、陽極21及び陰極24は、いずれか一方が、隣接する画素領域20aとの間で繋がるように、形成されていてもよい。あるいは、画素領域20aが二次元的に配列するときに、それぞれ互いに直交する方向に沿って、隣接する画素領域20aとの間で繋がるように、形成されていてもよい。
【0035】
次に、図2から図4を参照し、本実施の形態に係る有機ELディスプレイの製造方法について説明する。図2は、有機ELディスプレイの製造方法の各ステップにおける手順を説明するためのフローチャートである。図3及び図4は、有機ELディスプレイの製造方法の各ステップにおけるディスプレイ基板11の状態を模式的に示す図である。
【0036】
本実施の形態に係る有機ELディスプレイの製造方法は、図2に示すように、ステップS11からステップS18の各ステップを有する。
【0037】
ステップS11では、図3(a)に示すように、ディスプレイ基板11上に、陽極21を形成するための導電膜21aを成膜する。導電膜21aとして例えばITOを用いるときは、例えばスパッタ法により成膜することができる。
【0038】
なお、前述したように、ディスプレイ基板11として、例えばTFTよりなるトランジスタ素子を用いたアクティブマトリクス回路が形成されたものを用いてもよい。
【0039】
ステップS12では、図3(b)に示すように、導電膜21aをパターニングして陽極21を形成する。導電膜21aとして例えばITOを用いるときは、導電膜21a上にレジスト膜を成膜し、画素20の形状に対応したパターン露光を行い、現像処理することによって、レジストパターンを形成する。形成したレジストパターンをマスクとして、例えばウェットエッチングにより導電膜21aの一部を溶解除去し、例えばアッシングによりレジストパターンを除去することによって、各画素領域20aに陽極21を形成する。
【0040】
ステップS13では、図3(c)に示すように、隔壁12を形成するための絶縁膜12dを成膜する。絶縁膜12dとして、例えばポリパラキシリレン樹脂を用いることができ、そのときは、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法により成膜することができる。
【0041】
ステップS14では、図3(d)に示すように、絶縁膜12dをパターニングして隔壁12を形成する。絶縁膜12dとして例えばポリパラキシリレン樹脂を用いるときは、絶縁膜12d上にレジスト膜を成膜し、画素20の形状に対応したパターン露光を行い、現像処理することによって、レジストパターンを形成する。形成したレジストパターンをマスクとして、例えばドライエッチングにより絶縁膜12dの一部を除去し、例えばアッシングによりレジストパターンを除去することによって、各画素領域20aに隔壁12を形成する。
【0042】
なお、ステップS14の後、ステップS15の前に、ディスプレイ基板11の表面を例えば酸素(O)プラズマにより処理することによって、陽極21の上面に残存する絶縁膜12dの残渣を除去してもよい。また、ディスプレイ基板11の表面を例えば紫外(Ultra Violet;UV)光及びオゾン(O)ガスで処理することによって、陽極21の上面を洗浄してもよい。
【0043】
ステップS15では、図4(a)に示すように、画素領域20aに形成された陽極21の上面をフルオロカーボンガスのプラズマ(Plasma)PLにより処理することによって、陽極21上に正孔注入層22を形成する(正孔注入層形成工程)。
【0044】
フルオロカーボンガスのプラズマPLによる基板の処理は、前述したRIE装置を用いて行うことができる。RIE装置は、処理室内に対向する上部電極及び下部電極が設けられた平行平板型のプラズマ処理装置であり、下部電極にディスプレイ基板11が保持されるようになっている。そして、下部電極にディスプレイ基板11を保持し、処理室内にフルオロカーボンガスを導入した状態で、上部電極に高周波電力を印加して処理室内にフルオロカーボンガスのプラズマPLを発生させる。そして、ディスプレイ基板11を保持している下部電極の電位を上部電極よりも低くした状態で、発生したプラズマPLを下部電極に保持されているディスプレイ基板11に照射することによって、陽極21の上面と隔壁12の上面12aとをプラズマPLにより処理する。これにより、陽極21上に正孔注入層22が形成されるとともに、隔壁12の上面12aに撥液層12bが形成される。
【0045】
ディスプレイ基板11を保持している下部電極の電位を上部電極の電位よりも低くすること、及びプラズマPLがディスプレイ基板11に照射されること、等によって、プラズマPLと基板の間に自己バイアス電位が発生する。そして、発生した自己バイアス電位によりプラズマPL中の荷電粒子(イオン)等が加速されるため、イオン等は、ディスプレイ基板11の表面に略垂直な方向に直進して到達する。これにより、陽極21の上面及び隔壁12の上面12aはイオン等に照射され、陽極21の上面には正孔注入層22が形成され、隔壁12の上面12aには撥液層12bが形成される。一方、隔壁12の側面12cはイオン等にほとんど照射されず、隔壁12の側面12cには撥液層12bは形成されない。これにより、隔壁12の上面12aにおける撥液性を、隔壁12の側面12cにおける撥液性よりも高くすることができる。
【0046】
すなわち、ステップS15は、隔壁12の上面12aにおける撥液性が、隔壁12の側面12cにおける撥液性よりも高くなるように、隔壁12の上面12aをプラズマPLにより処理するものである。
【0047】
なお、前述したように、正孔注入層22は、フルオロカーボン膜を含むものであってもよい。また、フルオロカーボン膜は、フルオロカーボンガスがプラズマ重合することによって形成された高分子膜であってもよい。
【0048】
また、RIE装置は、上部電極に基板を保持し、上部電極の電位を下部電極の電位よりも低くした状態で、発生したプラズマPLをディスプレイ基板11に向けて照射するものであってもよい。あるいは、二つの電極が水平方向に対向するように設けられており、対向する二つの電極の一方によりディスプレイ基板11を保持し、ディスプレイ基板11を保持している電極の電位を他方の電極よりも低くした状態で、二つの電極の間にプラズマPLを発生し、発生したプラズマPLを基板に向けて照射するものであってもよい。
【0049】
ステップS16では、図4(b)に示すように、画素領域20aに形成された正孔注入層22上に、発光層23の材料を含むインク23aをインクジェット法により塗布する(発光層形成工程)。
【0050】
なお、インク23aは、本発明における液体に相当する。
【0051】
インクジェット法によるインク23aの塗布は、インクジェットプリント装置を用いて行うことができる。インクジェットプリント装置は、水平面内二次元方向に移動自在に設けられ、インク23aを吐出するインクジェットヘッドと、インクジェットヘッドを水平面内二次元方向に移動させる移動機構と、ディスプレイ基板11を水平に保持する基板ステージを有する。
【0052】
前述した、例えばポリフルオレン等の各種の発光層23の材料を、溶媒に溶解してインク23aを作製する。そして、基板ステージにディスプレイ基板11を保持し、移動機構によりインクジェットヘッドを水平面内二次元方向に移動させながら、インク23aをインクジェットヘッドから液滴として吐出し、各画素領域20aに形成された正孔注入層22上に、インク23aを塗布する。
【0053】
なお、前述したように、正孔注入層22と発光層23との間に、正孔輸送層等の各種の機能層が形成されていてもよい。このときは、ステップS15の後、ステップS16の前に、各種の機能層を形成する。そして、ステップS16では、各画素領域20aに形成された各種の機能層上に、インク23aを塗布することになる。
【0054】
前述したように、隔壁12の上面12aには撥液層12bが形成され、隔壁12の側面12cには撥液層12bは形成されていないため、隔壁12の上面12aにおける撥液性は、隔壁12の側面12cにおける撥液性よりも高い。従って、隣接する画素20の間にインク23aが流出することを防止でき、微細なパターニングが可能となる。
【0055】
ステップS17では、図4(c)に示すように、塗布したインク23aを乾燥させることによって、発光層23を形成する(発光層形成工程)。
【0056】
インク23aの乾燥は、例えばインクジェットプリント装置に備えられた、ヒータ等を有する基板ステージを用いて行うことができる。基板ステージは、内部に、通流する電流を制御して温度調節可能なヒータ等を有する。そして、インク23aが塗布されたディスプレイ基板11を基板ステージに保持し、所定の温度に温度調節した状態でインクジェットヘッドによりインク23aを吐出して塗布することによって、塗布したインク23aから溶媒を蒸発させ、インク23aを乾燥させる。
【0057】
あるいは、インクジェットプリント装置の基板ステージにヒータ等を有さず、インクジェットプリント装置と別に設けられた加熱処理装置を用いてステップS17を行ってもよい。このとき、加熱処理装置は、内部に、通流する電流を制御して温度調節可能なホットプレートを有する。そして、インク23aが塗布されたディスプレイ基板11をホットプレートに載置し、所定の温度で所定の時間の間、処理を行い、塗布したインク23aから溶媒を蒸発させることによって、インク23aを乾燥させる。
【0058】
ステップS18では、図4(d)に示すように、各画素領域20aに形成された発光層23上に、陰極24を形成する。陰極24は、例えば、陰極24の材料を溶媒に溶解して作製したインクを、ステップS16と同様にインクジェットプリント装置を用いたインクジェット法により塗布し、ステップS17と同様に塗布したインクを乾燥させることによって形成してもよい。あるいは、陰極24は、例えば、陰極24の材料よりなる導電膜を真空蒸着法により成膜してもよい。
【0059】
図4(d)では、陰極24が、隣接する画素領域20aとの間で繋がるように形成された例を示す。例えば、二次元的に配列する各画素領域20aに有機EL素子を形成し、パッシブマトリクス型の有機ELディスプレイを構成するときは、陽極21及び陰極24を、それぞれ互いに直交する方向に沿って隣接する画素領域20aとの間で繋がるように、形成することができる。また、二次元的に配列する各画素領域20aに有機EL素子を形成し、アクティブマトリクス型の有機ELディスプレイを構成するときは、陽極21を画素領域20a毎に分離するように形成し、陰極24を複数の画素領域20aの間で繋がるように形成することができる。
【0060】
なお、陰極24がCa、Ba、LiF、Al等、大気中で劣化しやすい材料であるときは、ステップS18の後、陰極24の上面を、図示しない封止剤により封止してもよい。
【0061】
また、発光層23と陰極24の間に電子輸送層等の各種の機能層を形成してもよい。
【0062】
次に、図5及び図6を参照し、本実施の形態によると、比較例と比べ、正孔注入層22の形成と隔壁12上における撥液性の付与とを同時に行うことができ、工程数が削減できることを説明する。また、本実施の形態によると、比較例と比べ、正孔注入層22の材料に起因する有機EL素子の劣化を防止することができることを説明する。図5は、比較例に係る有機ELディスプレイの製造方法の各ステップにおける手順を説明するためのフローチャートである。図6は、比較例に係る有機ELディスプレイの製造方法の各ステップにおけるディスプレイ基板11の状態を模式的に示す図である。
【0063】
比較例に係る有機ELディスプレイの製造方法は、図5に示すように、ステップS11からステップS14、ステップS150、ステップS151、ステップS152、ステップS16からステップS18の各ステップを有する。
【0064】
ステップS11からステップS14の各ステップは、図2を用いて説明した本実施の形態に係る有機ELディスプレイの製造方法のステップS11からステップS14の各ステップと同様である。また、ステップS11からステップS14の各ステップにおけるディスプレイ基板11の状態は、図3(a)から図3(d)のそれぞれに示される。
【0065】
ステップS150では、CFガスプラズマを用いた表面処理により、隔壁12の上面12aを撥液化する。ステップS151では、図6(a)に示すように、各画素領域20aに形成された陽極21上に、PEDOT/PSSよりなる正孔注入層122の材料を含むインク122aをインクジェット法により塗布する。
【0066】
ステップS152では、図6(b)に示すように、塗布したインク122aを乾燥させることによって、PEDOT/PSSよりなる正孔注入層122を形成する。
【0067】
ステップS16は、図2に示すステップS16と同様であり、図6(c)に示すように、各画素領域20aに形成された正孔注入層122上に、発光層23の材料を含むインク23aをインクジェット法により塗布する。
【0068】
ステップS17は、図2に示すステップS17と同様であり、図6(d)に示すように、塗布したインク23aを乾燥させることによって、発光層23を形成する(発光層形成工程)。
【0069】
ステップS18は、図2に示すステップS18と同様であり、図6(e)に示すように、各画素領域20aに形成された発光層23上に、陰極24を形成する。図6(e)では、陰極24が、隣接する画素領域20aとの間で繋がるように形成された例を示す。
【0070】
図2を図5と比較し、図4を図6と比較すると、本実施の形態に係る有機ELディスプレイの製造方法は、比較例に係る有機ELディスプレイの製造方法よりも工程数が二つ少なくなっており、工程数が削減されている。
【0071】
また、図2及び図4に示す本実施の形態に係る有機ELディスプレイの製造方法では、ステップS15において、正孔注入層22を形成するとともに、隔壁12の上面12aには撥液層12bを形成することができる。
【0072】
更に、図5及び図6に示す比較例に係る有機ELディスプレイの製造方法では、PEDOT/PSSを正孔注入層122として用いる。PEDOT/PSSは水溶性であり、塗布成膜後に水分を完全に除去しないと有機EL素子が劣化しやすい。また、PEDOT/PSSに含まれるSOイオンも有機EL素子を劣化させることがある。従って、PEDOT/PSSを正孔注入層122として含む有機EL素子を長寿命化することは難しい。
【0073】
一方、図2及び図4に示す本実施の形態に係る有機ELディスプレイの製造方法では、PEDOT/PSSを正孔注入層122として用いていない。従って、PEDOT/PSSに起因して有機EL素子が劣化することを防止できる。
【0074】
従って、本実施の形態によると、比較例と比べ、正孔注入層22の形成と隔壁12上における撥液性の付与とを同時に行うことができ、工程数が削減できるとともに、正孔注入層の材料に起因する有機EL素子の劣化を防止することができる。
【0075】
次に、図7を参照し、本実施の形態によると、高いパターニング精度で有機EL素子を形成することができることを説明する。図7は、本実施の形態におけるステップS16において、隔壁12の上面12aに塗布された液滴23bの挙動を示す図である。
【0076】
図7(a)に示すように、本実施の形態におけるステップS16において、インクジェットヘッドから発光層23の材料を含むインク23aの液滴23bを吐出し、吐出された液滴23bが、隔壁12の上面12aに塗布されたとする。すると、隔壁12の上面12aには撥液層12bが形成されているが、隔壁12の側面12cには撥液層12bが形成されていないため、液滴23bは、図7(b)に示すように、撥液層12bよりも撥液性が低い隔壁12の側面12c側に移動する。そして、液滴23bは、隔壁12の側面12cを伝って正孔注入層22上に移動する。すなわち、インク23aは、隔壁12の側面12cを伝って画素領域20a内に移動する。その結果、図7(c)に示すように、各画素20と隣接する画素20との間にインク23aが流出せず、画素領域20a内にのみインク23aを塗布することができる。すなわち、発光層23が隔壁12の上面12aに形成されることを防止できる。
【0077】
なお、本実施の形態では、発光層形成工程においてインク23aをインクジェット法により塗布する例について説明した。しかし、発光層形成工程において、インク23aを塗布する方法は、画素領域20a毎にインク23aを塗布することができればよく、インクジェット法に限られるものではない。従って、発光層形成工程は、インクジェット法に代え、スクリーン印刷法その他各種の方法を用いてインク23aを塗布するものであってもよい。
【実施例】
【0078】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、実施例により限定されて解釈されるものではない。
(実施例1)
初めに、実施例1として、本実施の形態におけるステップS11からステップS17までの各ステップを行い、ディスプレイ基板11上における、隔壁12により区画された画素領域20aに、高いパターニング精度で有機EL素子を形成することができることの確認を行った。
【0079】
ディスプレイ基板11として、基板厚120μmのポリエチレンナフタレート(Polyethylene naphthalate;PEN)のフィルムを用いた。PENフィルムよりなるディスプレイ基板11を純水中で超音波洗浄した後、ディスプレイ基板11上に、スパッタ法により膜厚80nmのITOよりなる導電膜21aを成膜した(ステップS11)。そして、フォトリソグラフィにより形成したレジストパターンをマスクとし、関東化学株式会社製の透明導電膜エッチング液(商品名ITO−07N)を用いたウェットエッチングにより導電膜21aをパターニングし、ITOよりなる陽極21を形成した(ステップS12)。
【0080】
次に、第三化成株式会社製のポリパラキシリレン樹脂(商品名dix−C)よりなる絶縁膜12dをCVD法により膜厚1μmとなるように成膜した(ステップS13)。そして、東京応化工業株式会社製のネガレジスト(商品名OMR−83)を用いてフォトリソグラフィにより絶縁膜12dをパターニングし、隔壁12を形成した(ステップS14)。隔壁12を形成した後、サムコ株式会社製のRIE装置(商品名PC−300)により、酸素(O)ガスによるプラズマエッチングを行って、ITOよりなる陽極21の上面のポリパラキシリレン樹脂を除去した。一連の処理を行った後、隔壁12の高さは、約3μmであった。また、隔壁12の幅は30μmであり、隔壁12で区画され、各画素20が形成される画素領域20aは、縦108μm×横76μmの寸法を有するものであった。
【0081】
続いて、ITOよりなる陽極21の上面をUV光及びオゾン(O)ガスで洗浄(以下「UV/O処理」という。)した。そして、サムコ株式会社製のRIE装置(商品名RIE−10NR)を用い、CHFガスよりなるフルオロカーボンガスのプラズマにより陽極21の上面を処理することによって正孔注入層22を形成し、隔壁12の上面12aを処理することによって撥液層12bを形成した(ステップS15)。具体的には、CHFガスをプラズマ重合させ、フルオロカーボン膜を成膜することによって、正孔注入層22を形成した。平行平板型の構造を有するRIE装置の上下両電極直径は240mmであり、電極間距離は55mmであり、対向電極(上部電極)が接地されていた。また、成膜条件は、圧力が10Pa、CHFガスの流量が50sccm、高周波電力の周波数が13.56MHz、高周波電力の電力が150W、処理時間が10secであった。
【0082】
フルオロカーボン膜を成膜した後、ITOよりなる陽極21の上面(以下「ITO上面」という。)及び隔壁12の上面12a(以下「隔壁上面」という。)の双方について、それぞれ水及びトルエンに対する接触角を測定した。測定した接触角を、表1に示す。
【0083】
【表1】

表1に示すように、ITO上面、隔壁上面ともに、フルオロカーボン膜の成膜後は、UV/O処理後(フルオロカーボン膜の成膜前)に比べて、水及びトルエンに対する接触角がともに増加している。すなわち、UV/O処理後(フルオロカーボン膜の成膜前)は、ITO上面、隔壁上面において、それぞれ撥液性が小さく(親液性が大きく)、インクの液滴が広範囲に広がってしまうのに対し、フルオロカーボン膜の成膜後は、ITO上面、隔壁上面において、それぞれ撥液性が大きくなり、インクの液滴が広範囲に広がらないことが分かる。
【0084】
続いて、インクジェット法により発光層23を形成した(ステップS16及びステップS17)。発光層23の材料として、式(1)
【0085】
【化1】

で表される昭和電工株式会社製の共重合ポリマーを用いた。発光層23の材料を濃度20mg/mlになるように有機溶媒に溶解してインクを作製した。そして、インクジェットプリント装置により、各画素領域20a内に形成されたフルオロカーボン膜よりなる正孔注入層22上にインクを塗布し、乾燥させることによって発光層23を形成した。
【0086】
このとき、インクの作製条件と、インクジェットプリント装置によりインクを塗布する時の基板ステージの温度条件を変更し、実施例1−1から実施例1−4の4条件を行った。実施例1−1から実施例1−4におけるインクの作製条件と、基板ステージの温度条件を、表2に示す。
【0087】
【表2】

実施例1−1から実施例1−4の4条件について、発光層23を形成した後、画素領域20a内の発光層23の形状をZygo Corporation社製の干渉顕微鏡(商品名New View 6200)で測定し、画素領域20a内における発光層23の平面膜厚分布を測定した。その結果、実施例1−1から実施例1−4のすべてのインクの作製条件と、基板ステージの温度条件において、画素領域20a内全面に発光層23が形成され、塗り残しは観察されなかった。また、平面膜厚分布の断面プロファイルから、発光層23の膜厚は、有機EL素子に好適な50〜100nmの範囲内であった。従って、各画素領域20aを異なる色を発光する発光層23の材料で塗り分けることができ、多色表示が可能な有機ELディスプレイを製造できることが確認された。
(実施例2)
次に、実施例2として、ディスプレイ基板11上に、隔壁12を設けないこと以外は、本実施の形態におけるステップS11、ステップS12、ステップS15からステップS18までの各ステップを行って有機EL素子を作製し、正孔注入層22の材料に起因する有機EL素子の劣化を防止することができることの確認を行った。
【0088】
ディスプレイ基板11としてガラス基板を用いた。実施例1と同様の条件で、スパッタ法により膜厚80nmのITOよりなる導電膜21aを成膜した(ステップS11)。そして、フォトリソグラフィにより形成したレジストパターンをマスクとし、ウェットエッチングにより導電膜21aを3mm×3mmの領域にパターニングし、ITOよりなる陽極21を形成した(ステップS12)。
【0089】
その後、隔壁12の形成(ステップS13及びステップS14)を行わず、ITOよりなる陽極21上に、実施例1と同様の方法により、フルオロカーボン膜を成膜することによって、正孔注入層22を形成した(ステップS15)。
【0090】
続いて、式(1)に示した共重合ポリマーを、トルエンを溶媒として溶解し、溶媒に溶解した共重合ポリマーを窒素雰囲気中でスピンコート法により塗布(ステップS16)し、窒素雰囲気中130℃で1時間の間、乾燥(ステップS17)させることによって、膜厚90nmの発光層23を形成した。
【0091】
その後、発光層23上に、真空蒸着装置により膜厚3nmのBaを蒸着し、その上に膜厚100nmのAlを蒸着する積層蒸着によって、陰極24を形成した(ステップS18)。そして最後に、陰極24までが形成された、ガラス基板よりなるディスプレイ基板11上に、UV硬化樹脂によりガラスキャップを接着し、封止を行った。
(比較例1)
比較例1として、ITOよりなる陽極21上に、ステップS15に代え、H.C. Starck社製のPEDOT/PSS(商品名Clevios P VP CH8000)をスピンコート法により塗布(ステップS151)し、大気中180℃で1時間の間、乾燥(ステップS152)させることによって、膜厚30nmの正孔注入層122を形成した。その後のプロセス、すなわち発光層23及び陰極24の形成(ステップS16からステップS18)並びに封止は実施例2と同様である。
(比較例2)
比較例2として、正孔注入層を形成せず(ステップS15、ステップS151、ステップS152のいずれも行わず)、ITOよりなる陽極21上に発光層23を直接形成した。その後のプロセス、すなわち発光層23及び陰極24の形成(ステップS16からステップS18)並びに封止は実施例2と同様である。
【0092】
実施例2、比較例1及び比較例2を行って作製した有機EL素子のそれぞれについて、最大発光効率及び輝度半減時間を測定した。輝度半減時間は、初期輝度を1000cd/mとして連続駆動したときに輝度が半減する時間として定義した。測定した最大発光効率及び輝度半減時間の値を、表3に示す。
【0093】
【表3】

表3に示すように、最大発光効率の値は、比較例1において32cd/A、実施例2において31cd/A、比較例2において4cd/Aであった。すなわち、フルオロカーボン膜よりなる正孔注入層22を有するときの最大発光効率は、PEDOT/PSSよりなる正孔注入層122を有するときの最大発光効率と略同じであり、正孔注入層を有しないときの最大発光効率よりも大きい。従って、フルオロカーボン膜は、正孔注入層として、PEDOT/PSSと略同等の機能を有する。
【0094】
一方、表3に示すように、初期輝度1000cd/mにおける輝度半減時間の値は、実施例2において20時間、比較例1において2.5時間、比較例2において0.5時間であった。すなわち、フルオロカーボン膜よりなる正孔注入層22を有するときの輝度半減時間は、PEDOT/PSSよりなる正孔注入層122を有するとき、及び、正孔注入層を有しないときに比べて格段に長くなっている。従って、フルオロカーボン膜を正孔注入層として用いることによって、PEDOT/PSSを用いるときに比べ、有機EL素子が劣化することを防止できることが確認された。
【0095】
これらの結果は、陽極21の上面をフルオロカーボンガスのプラズマにより処理することによって形成される正孔注入層22と、発光層23とが積層された積層構造を有することに起因するものである。そして、これらの結果は、隔壁12により画素領域20aが区画されているか否かに関わらず共通するものである。従って、隔壁12により画素領域20aが区画されている場合でも、陽極21の上面をフルオロカーボンガスのプラズマにより処理することによって形成される正孔注入層22は、PEDOT/PSSと略同等の正孔注入層としての機能を有する。更に、陽極21の上面をフルオロカーボンガスのプラズマにより処理することによって形成される正孔注入層22は、PEDOT/PSSに起因して有機EL素子が劣化することを防止できる。
【0096】
以上、本発明の好ましい実施の形態について記述したが、本発明はかかる特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0097】
10 有機ELディスプレイ
11 ディスプレイ基板
12 隔壁
12a 上面
12b 撥液層
12c 側面
20 画素(有機EL素子)
20a 画素領域
21 陽極
22 正孔注入層
23 発光層
24 陰極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上における、隔壁により区画された画素領域に形成され、一対の電極層間に正孔注入層と発光層とが積層された積層構造を有する有機EL素子を備えた、有機ELディスプレイの製造方法において、
前記画素領域に形成された一の電極層の上面をフルオロカーボンガスのプラズマにより処理することによって、前記一の電極層上に前記正孔注入層を形成する正孔注入層形成工程と、
形成された前記正孔注入層上に、前記発光層の材料を含む液体を塗布することによって、前記発光層を形成する発光層形成工程と
を有する、有機ELディスプレイの製造方法。
【請求項2】
前記正孔注入層形成工程は、前記隔壁の上面における撥液性が、前記隔壁の側面における撥液性よりも高くなるように、前記隔壁の上面を前記プラズマにより処理するものである、請求項1に記載の有機ELディスプレイの製造方法。
【請求項3】
前記正孔注入層形成工程は、対向する二つの電極の一方により前記基板を保持し、前記基板を保持している前記一方の電極の電位を他方の電極の電位よりも低くした状態で、前記二つの電極の間に発生したプラズマを前記基板に照射することによって、前記一の電極層の上面と前記隔壁の上面とを前記プラズマにより処理するものである、請求項2に記載の有機ELディスプレイの製造方法。
【請求項4】
前記発光層形成工程は、前記隔壁の上面に塗布された前記液体を、前記隔壁の側面を伝って前記画素領域内に移動させることによって、前記発光層が前記隔壁の上面に形成されることを防止するものである、請求項2又は請求項3に記載の有機ELディスプレイの製造方法。
【請求項5】
前記正孔注入層形成工程は、前記一の電極層上にフルオロカーボン膜を含む前記正孔注入層を形成するものである、請求項1から請求項4のいずれかに記載の有機ELディスプレイの製造方法。
【請求項6】
前記正孔注入層形成工程は、プラズマ重合により前記正孔注入層を形成するものである、請求項5に記載の有機ELディスプレイの製造方法。
【請求項7】
前記発光層形成工程は、前記液体をインクジェット法により塗布することによって、前記発光層を形成するものである、請求項1から請求項6のいずれかに記載の有機ELディスプレイの製造方法。
【請求項8】
基板上における、隔壁により区画された画素領域に、有機EL素子が形成されてなる有機ELディスプレイにおいて、
前記有機EL素子は、
前記画素領域に形成された一の電極層と、
前記一の電極層の上面をフルオロカーボンガスのプラズマにより処理することによって、前記一の電極層上に形成された、フルオロカーボン膜を含む正孔注入層と、
前記正孔注入層上に、前記発光層の材料を含む液体を塗布することによって形成された、発光層と、
前記発光層上に形成されており、前記一の電極層との間に前記正孔注入層と前記発光層とが積層された積層構造を形成する、他の電極層と
を有し、
前記隔壁は、前記隔壁の上面を前記プラズマにより処理することによって、前記隔壁の上面に形成された、フルオロカーボン膜を含む撥液層を有する、有機ELディスプレイ。
【請求項9】
前記撥液層は、前記正孔注入層を形成する際に、前記隔壁の上面における撥液性が、前記隔壁の側面における撥液性よりも高くなるように、前記隔壁の上面に形成されたものである、請求項8に記載の有機ELディスプレイ。
【請求項10】
前記撥液層は、前記液体を塗布する際に、前記隔壁の上面に塗布された前記液体を、前記隔壁の側面を伝って前記画素領域内に移動させることによって、前記発光層が前記隔壁の上面に形成されることを防止するものである、請求項9に記載の有機ELディスプレイ。
【請求項11】
前記発光層は、前記液体をインクジェット法により塗布することによって形成されたものである、請求項8から請求項10のいずれかに記載の有機ELディスプレイ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−238377(P2011−238377A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106612(P2010−106612)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】