説明

有機ELデバイス

【課題】有機EL素子基板と、封止基板上にバリア層無しに高効率の色変換層を搭載してなる色変換フィルタ基板とを、充填剤を介して面対向に貼り合せてなる色変換方式トップエミッション型有機ELデバイスを低コストで提供すること。
【解決手段】透明基板に有機EL層を搭載する有機EL素子基板(51)と、封止基板に色変換層を搭載してなる色変換フィルタ基板(50)とを、搭載する層を内側にして充填層(7)を介して面対向に貼り合せてなる色変換方式トップエミッション型有機ELデバイスにおいて、前記色変換層は少なくとも2層(20G、21G)の積層からなり、各層(20G、21G)は同色を発光する異なる色変換材料から構成されることを特徴とする有機ELデバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子基板と、色変換フィルタ基板とを、それぞれに搭載した機能層を内側にして面対向に配置し、充填剤を介して貼り合せてなる色変換方式トップエミッション型の有機ELデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子を用いて多色発光を実現する方法の一つとして色変換方式がある。この色変換方式は有機EL素子の発光を吸収し、吸収波長と異なる波長分布の発光を行う色変換層を有機EL素子の前面に配設して多色発光とする方法である。その色変換層としては高分子樹脂層へ蛍光色素を分散させたものが知られている(特許文献1)。この色変換方式は有機ELを単色とすることができるため製造が容易であり、大画面ディスプレイへの展開が積極的に検討されている。また、色変換層とカラーフィルタ層を組み合わせることによって良好な色再現性が得られる等の特徴を有している。
【0003】
しかし、前記特許文献1で開示されている色変換層で十分な色変換能を得るためにはその層厚を10μm程度まで厚くする必要がある。さらに、その色変換層の上面に有機EL素子基板を配置するためには、色変換層表面の凹凸を平滑にする技術や、色変換層から生じる水分の有機EL層への拡散を防ぐために水分を遮断する技術等の特殊な技術を必要とするので、ディスプレイパネルのコストアップにつながる問題がある。
【0004】
前述の色変換層から生じる水分の問題を回避するために、有機EL素子の電極間に水分を用いないドライプロセスによって色変換能を有する層を配設する方法が提案されている(特許文献2)。最適な色変換層材料を選択すれば、特許文献2に開示された層構造により、性能劣化の原因となる水分発生の惧れがなく、高い色変換効率かつ薄膜(1μm以下)の色変換層を実現できる。
【0005】
また、別の方法として、カラーフィルタ層の水分が有機EL素子基板に拡散するのを防止するために色変換層上にバリア層を配設する方法が知られている。さらに異なる方法として、前述のドライプロセスを発展させ、構成材料をインク化し、インクジェット法で色変換層をパターニングする方法も考えられる(特許文献3)。
ただし、前記インクジェット法により、精密パターニングを行う際は、インクの粘度を低くして微量液滴を精密吐出させる必要性があることから、増粘原因となるインク固形分比をあまり上げられない。このことに伴って、必要な厚さの層厚に対応する液滴の体積は必然的に大きくなる。そのままではパターン精度に影響するため、基板側に液滴に広がりを抑えるバンクを形成することにより、大きい液滴でもパターン精度を維持する方法が提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−286033号公報
【特許文献2】特開平2−216790号公報
【特許文献3】特開2000−122072号公報
【特許文献4】特開2005−203215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、前述のように、水分発生のないように色変換層をドライプロセスで形成する方法および色変換層で水分がたとえ発生してもバリア層を設けることにより、その水分の有機EL層への拡散を遮断するように構成した有機ELデバイスの作成を実際に試みた。具体的な層構成としては、たとえば、透明基板と、1種または複数種のカラーフィルタ層と、第一バリア層と、色変換層と、第二バリア層と、透明電極と、有機EL層と、反射電極とをこの順に形成し、前記カラーフィルタ層がウェットプロセスで形成され、前記色変換層ならびに第一および第二バリア層がドライプロセスで形成される構成の有機ELデバイスである。
【0008】
しかしながら、前記水分の問題をドライプロセスとバリア層とにより解消する構成の前記有機ELデバイスでは、新たに、以下に説明するような種々の問題が発生し、不充分であることが判った。それらの問題の一つは前記色変換層の上にドライプロセスでバリア層を形成する際の成膜工程(スパッタ法あるいはCVD法)で発生する、プラズマ、高エネルギー粒子(中性原子またはイオン化原子)、高速電子または紫外線などによって、前記色変換層中の色変換色素の分解およびそれに伴う色変換能の低下ないし消失が起きることである。
【0009】
第二の問題は、前記色変換層上に層厚数μmのバリア層が存在することにより、バリア層による光吸収による損失、バリア層の上下の界面での光反射による損失が発生することである。この損失は、さらに、前記バリア層の層厚の分だけ有機EL素子基板と色変換フィルタ基板との間隙の距離が大きくなることにより有機EL素子の発光のうち正面方向からの角度が大きい方向に出射された成分が隣接画素の側に伝播することによっても生じる。これらの損失の結果、有機EL素子の発光が元々の画素部の色変換層に所望どおりに入射せず、減少するので、発光効率が低下するのである。
【0010】
第三の問題は、前記バリア層の層厚の分だけ有機EL素子基板と色変換フィルタ基板との間隙が大きくなって、有機ELデバイスの駆動時に、有機EL素子の発光のうち正面方向からの角度が大きい方向に出射された成分が隣接画素の側に伝播し、有機EL素子の出射光が隣接画素に漏れ出すという、いわゆるクロストークが起きることである。以上述べたバリア層の形成に伴う問題は、インクジェット塗布法によって色変換層を形成して色変換フィルタ基板に搭載しようとする場合にも、同様に起きる。
【0011】
次に、前記色変換層の材料に関する問題について説明する。前記色変換層の材料は、低分子系の材料と高分子系の材料に大別できる。一般に、高い色変換効率が得られる材料は低分子系の色変換層材料である。色変換効率の点で低分子系の色変換層材料に勝る高分子系の色変換層材料を見つけることは通常困難である。しかしながら、低分子系の色変換層材料は、一般に、成膜した場合の膜の物理/化学的強度が低く、高分子系樹脂の前駆体やオイルなどの液状の物質に触れると容易に溶出するという欠点がある。その結果、封止基板に低分子系材料からなる色変換層を搭載して色変換フィルタ基板とし、この色変換フィルタ基板に面対向に配置させた有機EL素子基板との間を充填剤を介して貼り合せて色変換方式トップエミッション型有機ELデバイスを作製する際には、前記色変換層中の低分子系材料が前記充填剤に溶出しないようにすることが欠かせないので、前述した問題を抱えていてもバリア層の形成が必須の要件とならざるを得ない。
【0012】
一方、高分子系の色変換層材料は、一般に、膜の物理/化学的強度が高く、樹脂の前駆体やオイルなどの液状の物質に対しても不溶ないし難溶であり、前記充填剤に対しても耐溶性があるものが多い。その結果、高分子系の色変換層材料を色変換層に用いた場合は色変換層を充填剤から保護するバリア層を形成する必要が無くなる。したがって、前述したバリア層形成に伴う問題を回避することができる。しかし、色変換効率の点では、前述のように低分子系より優れた高分子系の色変換層材料を得ることは通常、困難であるので、高分子系材料を色変換層に用いると、色変換効率の高い画素が得られ難くなる。その結果、低色変換効率の高分子系材料で、高色変換効率の低分子系材料の色変換層と同等の発光強度を得るためには、高分子系材料の色変換層の層厚を厚くしなければならないということが問題となる。
【0013】
本発明は、以上説明した問題点に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、有機EL素子基板と、封止基板上にバリア層無しに高効率の色変換層を搭載してなる色変換フィルタ基板とを、充填剤を介して面対向に貼り合せてなる色変換方式トップエミッション型有機ELデバイスを低コストで提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、透明基板に有機EL層を搭載する有機EL素子基板と、封止基板に色変換層を搭載してなる色変換フィルタ基板とを、搭載する層を内側にして充填層を介して面対向に貼り合せてなる色変換方式トップエミッション型有機ELデバイスにおいて、前記色変換層は少なくとも2層の積層からなり、各層は同色を発光する異なる色変換材料から構成されることを特徴とする有機ELデバイスとすることにより、前記本発明の目的が達成される。
【0015】
前記充填層に接する側の色変換層は、前記充填層に接しない色変換層より色変換効率が高い色変換層材料を主成分とすることが好ましい。
また、前記充填層に接する側の色変換層は高分子系色変換層材料であり、前記充填層に接しない色変換層は低分子系色変換材料であることが好ましい。
さらに、前記封止基板と前記色変換層の間にカラーフィルター層を備える構成とすることもできる。
またさらに、前記色変換層をインクジェット法により形成する有機ELデバイスとすることも好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、有機EL素子基板と、封止基板上にバリア層無しに高効率の色変換層を搭載してなる色変換フィルタ基板とを、充填剤を介して面対向に貼り合せてなる色変換方式トップエミッション型有機ELデバイスを低コストで提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の有機ELデバイスにかかる色変換フィルタ基板の概略断面図である。
【図2】比較例1にかかる色変換フィルタ基板の概略断面図である。
【図3】比較例2にかかる色変換フィルタ基板の概略断面図である。
【図4】比較例3にかかる色変換フィルタ基板の概略断面図である。
【図5】本発明にかかる色変換フィルタ基板を用いた有機ELデバイスの概略断面図である。
【図6】本発明にかかる有機EL素子基板の拡大断面図である。
【図7】本発明にかかる有機EL素子層の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の有機ELデバイスの好適な実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下、説明する実施例は、単なる一例に過ぎず、本発明が下記実施例の記載に限定されるものではない。本発明の有機ELデバイスとしては、多色発光の有機ELディスプレイや白色発光や単色発光の有機EL照明や有機ELバックライトなどが含まれるが、以下の説明では、有機ELディスプレイを中心に説明する。
【0019】
(色変換フィルタ基板)
図1は本発明にかかる有機ELデバイスの一つである有機ELディスプレイに用いられる色変換フィルタ基板の概略断面図である。図1に示すように、支持体となる透明基板10上に、有機層としてブラックマトリクス層40および多色発光にするためのカラーフィルタ層30(R,G,B)を配設する。
【0020】
ここで、本発明の色変換フィルタ基板50で用いる透明基板10には、光透過性に富み、かつ、ブラックマトリクス層40、カラーフィルタ層30(R,G,B)、および後述する色変換層20および有機EL素子層(図1には示されない封止電極、有機EL層等を含む構成、後述の図5では符号37)などを形成する際のプロセス条件(溶媒、温度等)に耐える材料を用いる必要がある。さらに寸法安定性に優れていることが好ましい。さらに、多色発光ディスプレイの性能低下を引き起こさないものであれば良く、例としては、透明無機ガラス基板、各種透明プラスチック基板、各種透明フィルム等が挙げられる。
【0021】
また、各カラーフィルタ層のサブピクセル間に可視域を透過しないブラックマトリクス層40を配設して、コントラストの向上を図ることができる。ブラックマトリクス層40は、通常の液晶ディスプレイ用フラットパネルディスプレイ用の既知材料を用いて形成することができる。
また、本発明の色変換フィルタ基板で用いるカラーフィルタ層30(R,G,B)は、前記透明基板10上に作成される。このカラーフィルタ層30(R,G,B)もまた、液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイに用いられる既知材料と同等の材料を用いて形成することができ、近年はフォトレジストに顔料を分散させた、顔料分散型カラーフィルタ層がよく用いられる。フラットパネルディスプレイ用のカラーフィルタ層は、400nm〜550nmの波長を透過する青色カラーフィルタ層、500nm〜600nmの波長を透過する緑色カラーフィルタ層、600nm以上の波長を透過する赤色カラーフィルタ層のそれぞれを配列したものが一般的である。
【0022】
平坦化層(図示せず)は、カラーフィルタ層30およびブラックマトリクス層40を形成する際に生じる段差が、これらの層30、40より上方に形成される各層の寸法精度に悪影響を与えないようにするために形成される層であり、必要に応じ配設する層であり、無くすることもできる。このため、平坦化層(図示せず)は、光透過性に富み、かつ、カラーフィルタ層30(R,G,B)を劣化させることのない材料およびプロセスを選択して形成する必要がある。図1では各カラーフィルタ層30の上面が既にそれぞれ平坦化されているため、前記平坦化層は省略されている。
【0023】
平坦化層に適用可能な材料としては、光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂を、光および/または熱処理して、ラジカル種、イオン種を発生させて重合または架橋させ、不溶不融化させたものが一般的である。また、光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂は、パターニングを行うために、硬化をする前は有機溶媒またはアルカリ溶液に可溶性であることが好ましい。そのような光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂としては、
(1)アクロイル基、メタクロイル基を複数有するアクリル系多官能モノマーまたはオリゴマーと、光または熱重合開始剤とからなる組成物膜を、光または熱処理して、光ラジカルまたは熱ラジカルを発生させて重合させた樹脂、
(2)ポリビニル桂皮酸エステルと増感剤とからなる組成物を、光または熱処理により二量化させて架橋した樹脂、
(3)鎖状または環状オレフィンとビスアジドとからなる組成物膜を、光または熱処理によりナイトレンを発生させて、オレフィンと架橋させた樹脂、ならびに
(4)エポキシ基を有するモノマーと光酸発生剤からなる組成物膜とを、光または熱処理により酸(カチオン)を発生させて重合させた樹脂などが挙げられる。
【0024】
特に前記(1)の光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂を用いた場合には、フォトプロセスによるパターニングが可能であり、耐溶剤性、耐熱性等の信頼性の面でも好ましい。
その他、前記(1)以外の、光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂としては、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルサルホン、ポリビニルブチラール、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ノルボルネン系樹脂、メタクリル樹脂、イソブチレン無水マレイン酸共重合樹脂、環状オレフィン系等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、イミド系樹脂、ウレタン系樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂、あるいはポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート等と3官能性もしくは4官能性のアルコキシシランとを含むポリマーハイブリッド等が挙げられる。
【0025】
平坦化層の形成方法としては、塗布法を用いることができ、特に、フォトプロセスを用いることが好ましい。層厚は特に制限はないが平坦性を保つためには2μm以上が好ましい。
続いて、バンク層5を形成する。バンク層5の材料としては、前記平坦化層と同様の前記有機樹脂を用いることができ、形成方法は塗布法を用いることができ、特に、フォトプロセスを用いることが好ましい。バンク層5の層厚は、後述する色変換層材料をインクジェット塗布法で形成する際に、バンク層5は、層厚が薄いと液滴が画素外にあふれるため、好ましくは層厚3μm以上が良い。
【0026】
また、バンク層5の材料として無機材料を用いても良い。たとえば、SiOx、SiNx、SiNxOy、AlOx、TiOx、TaOx、ZnOx等の無機酸化物、無機窒化物等を使用することができる。バンク層5の形成方法としては特に制約はなく、スパッタ法、CVD法、真空蒸着法等の手法により形成できる。この際のバンク層5のパターニングはドライエッチングにて行う。好ましくは、プラズマエッチングを用いる。バンク層5として用いた無機材料と、エッチングの際の選択比の取れるフォトレジストを用いてパターンをバンク層5上に形成し、CF4、SF6、CHF3、Ar等のガスを用いてドライエッチングを行い、バンク層5をパターニングする。さらに、ガスをO2に変え、O2プラズマエッチングを行うことにより、パターニングに使用したレジストをエッチングする。反応性を高めるために、CF4などのフッ素系のガスを若干添加しても良い。
【0027】
また、必要に応じて別途後述するインクと下地、バンク層5との濡れ性を変化させるために親水処理もしくは撥水処理を行っても良い。
本発明にかかる色変換層20は、前述のバンク層5が形成された透明基板10上にインクジェット法にて作製する。前記透明基板10には、前述のバンク層5が形成されているためインクが所定の位置に配置されているバンク層5で囲まれるため、前記所定バンク層5の部位以外には広がらず精度の高いパターンで色変換層20を形成することができる。
【0028】
色変換層20は光源からの光を吸収し、異なる波長分布の蛍光を発する機能を有する。インクジェット法により形成する場合の色変換層20に適用できる色素材料としては、大別して低分子系と高分子系のものがある。以下、高分子系材料という場合は、おおよそ分子量2000以上のものを言う。
低分子系の色素材料としては、Alq3(トリス8−キノリノラトアルミニウム錯体)などのアルミキレート系色素、3−(2−ベンゾチアゾリル)−7−ジエチルアミノクマリン(クマリン6)、3−(2−ベンゾイミダゾリル)−7−ジエチルアミノクマリン(クマリン7)、クマリン135などのクマリン系色素などが知られている。あるいはまた、ソルベントイエロー43、ソルベントイエロー44のようなナフタルイミド系色素、ジエチルキナクリドン(DEQ)などのキナクリドン誘導第;4−ジシアノメチレン−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM−1、(I))、DCM−2(II)、およびDCJTB(III)などのシアニン色素;4,4−ジフルオロ−1,3,5,7−テトラフェニル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン(IV)、ルモゲンFレッド、ナイルレッド(V)などが知られている。あるいはまた、ローダミンB、ローダミン6Gなどのキサンテン系色素、またはピリジン1などのピリジン系色素のような有機蛍光色素が知られている。
【0029】
また、高分子系の色素材料としては、ポリフェニレン、ポリアリーレン、ポリフルオレンに代表される高分子蛍光材料が知られている。
インクを形成する際の溶媒としては、前記色素材料を溶解すれば良く、トルエン等のベンゼン系などの非極性溶媒、クロロホルム、アルコール、ケトン系などの極性溶媒などを用いることができ、単体もしくは混合溶媒として使用してもよい。
【0030】
インクを形成する環境については、水分・酸素の影響を排除するため、不活性ガス中(たとえば、窒素やアルゴンガス中)で形成することが好ましい。インクの乾燥は、溶媒が蒸発する温度で乾燥すればよく、前述不活性ガス中もしくは真空中(減圧下)で乾燥することが好ましい。
(有機ELディスプレイ)
図5は、前述の色変換フィルタ基板50と、封止基板39上に有機EL素子層(透明電極34、有機EL層36、および反射電極38を含む)37が搭載された有機EL素子基板51を天地反転させた状態の有機EL素子基板51とを充填剤7と接着層46を介して貼り合わせて得られる有機ELディスプレイ100を示す積層体の概略断面図である。以下、図5に示す有機ELディスプレイ100の形成工程を順次説明する。
【0031】
図5の概略断面図に示される有機EL素子層37は、独立して駆動制御される複数のEL発光部を有してもよい。たとえば、透明電極34および反射電極38の両方をそれぞれ複数のストライプ状の部分電極として形成し、反射電極38の構成要素である部分電極の延在方向と、透明電極34の構成要素である部分電極の延在方向とを有機EL層36を挟んで交差させる構造である。この際、形成される複数の交差部がそれぞれ独立の前記EL発光部となる。このような交差構造による独立した複数のEL発光部はパッシブマトリクス駆動の有機EL素子となる。パッシブマトリクス駆動の有機EL素子における、前述した両電極の交差の態様は、直交させることが好ましい。
【0032】
後に示す実施例で説明するように、本発明はアクティブマトリクス駆動トップエミッション型有機ELディスプレイの場合でも有効である。すなわち、本発明は、前述のパッシブマトリクス駆動の有機ELディスプレイに限定されない。図5に示すパッシブマトリクス駆動のトップエミッション型の有機ELディスプレイの製造工程について、以下説明する。
【0033】
第一に、図1の概略断面図に示すように、透明基板10に、ブラックマトリクス層40、カラーフィルタ層30(R,G,B)、バンク層5、赤色変換層20R、第一緑色変換層20G、第二緑色変換層21Gが形成された色変換フィルタを作製する。
第二に、図6に示すように、透明基板10とは別個に用意した封止基板39上に、反射電極38、有機EL層36および透明電極34をこの順に形成したトップエミッション型有機EL素子基板51を作製する。封止基板39は、透明基板10と同様の材料に加えて、トップエミッション型であるため、シリコンおよびセラミックなどの不透明な材料とすることができる。この有機EL素子基板51においては、封止基板39上の有機EL素子層37を覆うようにバリア層6を備えている(図5、図6)。このバリア層6を配設することにより、有機EL素子層37を酸素・水分から保護することができる。なお、このバリア層6の材料および形成方法は、従来技術の色変換フィルタ基板における従来のバリア層と同じもの(図6ではSiNx)を用いることができる。また、このバリア層6は、単層であっても複層であってもよい。
【0034】
第三に、図5に示すように、色変換層20とバリア層6とが対向するように、色変換フィルタ基板50とトップエミッション型有機EL素子基板51とを貼り合わせることによってトップエミッション型有機ELディスプレイ100を得る。反射電極38、有機EL層36および透明電極34は従来と同様な方法で形成することができる。色変換フィルタ基板50とトップエミッション型有機EL素子基板51との接着は、透明基板10、封止基板39の周縁部に設けた接着層46を用いて行うことができる。接着層46は、たとえば、UV硬化接着剤とすることができる。また、両基板の接着の前に任意選択的に色変換フィルタ30とトップエミッション型有機EL素子基板51の間に充填剤7が注入される。その際、必要に応じて、バンク層5の上にフォトスペーサー71を設置することにより、前記両基板の間隔を所定の距離に制御することも好ましい。
【0035】
アクティブマトリクス駆動の有機ELディスプレイ(トップエミッション型)100を形成する場合の手順は、以下のとおりである。すなわち、図6において、まず、封止基板39上に各画素を駆動するための複数のTFT(薄膜トランジスタ)などのスイッチング素子(図示せず)を形成するとともに、反射電極38をEL発光部の画素またはサブピクセルに対応する複数の部分電極として形成し、対応するスイッチング素子と部分電極とを1対1に接続する。
【0036】
反射電極38に適用可能な材料としては、高反射率の金属、高反射率のアモルファス合金、または高反射率の微結晶性合金を用いることが好ましい。高反射率の金属としては、たとえば、Al、Ag、Mo、W、NiおよびCrなどから選ぶことができる。高反射率のアモルファス合金としては、たとえば、NiP、NiB、CrPまたはCrBが挙げられる。高反射率の微結晶性合金としては、たとえば、NiAlが挙げられる。
【0037】
反射電極38は、陰極、陽極のいずれとすることもできる。反射電極38を陰極として使用する場合には、反射電極38と有機EL層36との間にLiなどの陰極バッファ層65を形成し、有機EL層36に対する電子注入効率を向上させることが好ましい。あるいはまた、前述の高反射率特性を有する、金属、アモルファス合金または微結晶性合金に対して仕事関数が小さい材料、すなわち、リチウム、ナトリウムもしくはカリウム等のアルカリ金属、またはカルシウム、マグネシウムもしくはストロンチウムなどのアルカリ土類金属を添加して合金化することも、電子注入効率を向上させる観点で好ましい。
【0038】
これに対し、反射電極38を陽極として使用する場合には、反射電極38と有機EL層36との間に、導電性透明金属酸化物の層(図示せず)を設けて有機EL層36に対する正孔注入効率を向上させることが好ましい。導電性透明金属酸化物として適用可能な材料としては、ITO(酸化インジウムスズ)、酸化スズ、酸化インジウム、IZO(酸化インジウム亜鉛)、酸化亜鉛、亜鉛−アルミニウム酸化物、亜鉛−ガリウム酸化物、またはこれらの酸化物にFもしくはSbなどのドーパントを添加した材料を用いることができる。
【0039】
反射電極38の形成方法としては、用いる材料に依存して、真空蒸着、スパッタ、イオンプレーティング、またはレーザーアブレーションなど、当該技術分野において公知の形成方法を用いることができる。なお、図5に示す概略断面図とは異なり、複数の部分電極からなる反射電極38が必要となる場合には、所望の形状を付与するマスクを用いて複数の部分電極からなる反射電極38を形成することもできる。
【0040】
(有機EL素子層37の形成工程)
次いで、図7に示すように、反射電極38上に陰極バッファ層65を挟んで有機EL層36を形成する。有機EL層36は、少なくとも有機発光層(EML)67を含み、必要に応じて正孔注入層(HIL)69、正孔輸送層(HTL)68、電子輸送層(ETL)66および/または電子注入層を介在させる構造を有する。具体的な有機EL素子層37の層構造としては、下記の構造を採用することができる。
【0041】
(1)陽極/有機発光層/陰極
(2)陽極/正孔注入層/有機発光層/陰極
(3)陽極/有機発光層/電子注入層/陰極
(4)陽極/正孔注入層/有機発光層/電子注入層/陰極
(5)陽極/正孔輸送層/有機発光層/電子注入層/陰極
(6)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子注入層/陰極
(7)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
なお、前記(1)〜(7)の層構造中、陽極および陰極は、透明電極34または反射電極38のいずれかである。
【0042】
有機EL素子層37を構成する各層の材料としては、公知のものを使用することができる。また、有機EL素子層37を構成する各層は、蒸着法などの当該技術において公知の任意の方法を用いて形成することができる。
図1に示すような赤色色変換層20R及び第一緑色色変換層20Gを用いる場合には、有機EL層36が青色から青緑色の発光を実現することが肝要である。青色から青緑色の発光を得るための有機発光層に適用可能な材料としては、たとえばベンゾチアゾール系、ベンゾイミダゾール系、もしくはベンゾオキサゾール系などの蛍光増白剤、金属キレート化オキソニウム化合物、スチリルベンゼン系化合物、または芳香族ジメチリディン系化合物などを用いることが好ましい。また、図5に示す概略断面図では、有機EL層36での発光は、必要に応じて白色光とすることもできるが、この場合には、公知の赤色ドーパントを使用することが肝要である。さらに透明電極34を一体型の共通電極として形成する。透明電極34に適用可能な材料としては、ITO(酸化インジウムスズ)、酸化スズ、酸化インジウム、IZO(酸化インジウム亜鉛)、酸化亜鉛、亜鉛−アルミニウム酸化物、亜鉛−ガリウム酸化物、またはこれらの酸化物にFもしくはSbなどのドーパントを添加した導電性透明金属酸化物を用いることができる。また、透明電極34は、真空蒸着法、スパッタ法または化学気相堆積(CVD)法を用いて形成した後に、フォトリソグラフ法等を用いてパターニングすることにより得ることができる。このような形成法の中でも、特にスパッタ法を用いることが、一般的であり好ましい。
【0043】
透明電極34は、陽極、陰極のいずれとすることもできる。透明電極34を陰極として使用する場合には、透明電極34と有機EL層36との間に、図5では図示しない陰極バッファ層(図7では符号65)を形成し、有機EL層36に対する電子注入効率を向上させることが好ましい。陰極バッファ層65に適用可能な材料としては、Li、Na、KもしくはCsなどのアルカリ金属、BaもしくはSrなどのアルカリ土類金属、これらを含む合金、希土類金属、またはこれら金属のフッ化物などを用いることができる。陰極バッファ層65の層厚は、透明性を確保する観点から、10nm以下とすることが好ましい。これに対し、透明電極34を陽極として使用する場合には、透明電極34と有機EL層36との間に、図示しない導電性透明金属酸化物の層を設けて有機EL層36に対する正孔注入効率を向上させることが好ましい。導電性透明金属酸化物として適用可能な材料としては、ITO、酸化スズ、酸化インジウム、IZO、酸化亜鉛、亜鉛−アルミニウム酸化物、亜鉛−ガリウム酸化物、またはこれらの酸化物にFもしくはSbなどのドーパントを添加した材料を用いることができる。
【0044】
さらにバリア層6を配設して、有機EL素子基板51を得る。最後に、この有機EL素子基板51と、事前に作製しておいた色変換フィルタ基板50とを接着剤によって貼り合わせることにより、アクティブマトリクス駆動の有機ELディスプレイを得る。
【実施例】
【0045】
(実施例1)
実施例1の方法によって作製された色変換フィルタ基板50を図1に、有機ELディスプレイ100を図5に示す。
(色変換フィルタ基板50の作成)
「カラーフィルタ層30」
200mm×200mm×0.7mm厚の1737ガラス(コーニング社製)基板10上に、ブラックマトリクス層(CK−7001:富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ製)40、赤色カラーフィルタ層(CR−7001:富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ製)30R、緑色カラーフィルタ層(CG−7001:富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ製)30G、青色カラーフィルタ層(CB−7001:富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ製)30Bを用い、フォトリソグラフ法にてカラーフィルタ層30を形成する。各層の層厚はそれぞれ1μmである。
【0046】
作製したブラックマトリクス層40の矩形状開口部のそれぞれ(サブピクセルに相当する)は、長さ方向131μm×幅方向37μmを有し、隣接する矩形状開口部間の間隔は長さ方向および幅方向のいずれも10μmであった。カラーフィルタ層30は長さ方向に延びる複数のストライプ形状部分になるように形成した。また、複数のストライプ形状部分のそれぞれは、47μmの幅を有し、84μmの間隔で配置する。
【0047】
「バンク層5の形成」
ブラックマトリクス層40上に、新日鐵化学製VPA(ポリビニルアルコール)100重量部:P(リン)5.0重量部の混合溶液を用いフォトリソグラフ法でブラックマトリクス層と同じストライプ状のパターンのバンク層5を形成する。層厚は3.5μmである。
【0048】
「第一緑色色変換層20Gの形成」(低分子系色素を用いた第一色変換層)
窒素雰囲気中で、トルエン1000重量部、第一色素:クマリン6+第二色素:DEQ(ジエチルキナクリドン)50重量部(モル比はクマリン6:DEQ=48:2)のインクを調製する。引き続いて、窒素雰囲気中で、インクジェット装置(UniJet製UJ200)を用いて、インクジェット法によって緑色画素部にインクを滴下し、層厚300nmの第一緑色色変換層20Gを作製する。インクの乾燥は、窒素雰囲気を破ることなく、真空乾燥炉を用い、真空度1.0×10-3Pa、温度100℃で行った。前記クマリン6とDEQからなる第一緑色色変換層20Gは発光効率が高い特長を有する。
【0049】
「第二緑色色変換層21Gの形成」(高分子系色素を用いた第二色変換層)
窒素雰囲気中で、テトラリン1000重量部、ポリ[(9,9−ジヘキシル−2,7−(2−シアノジビニレン)−フルオレニレン(略称CN−PDHFV)50重量部のインクを調製する。CN−PDHFVは高分子系の青色発光材料として知られている。引き続いて、窒素雰囲気中で、インクジェット装置(UniJet製UJ200)を用いて、インクジェット法によって緑色画素部にインクを滴下し、層厚350nmの第二緑色色変換層21Gを作製する。インクの乾燥は、窒素雰囲気を破ることなく、真空乾燥炉を用い、真空度1.0×10-3Pa、温度100℃で行った。前記CN−PDHFVは発光効率は低いが、高分子系の青色発光材料であるので、成膜性が高く、前記第一緑色色変換層20Gを充填剤から保護する機能が高い特長を有する。
【0050】
「赤色色変換層20Rの形成」(高分子系の赤色発光材料を用いた色変換層)
窒素雰囲気中で、テトラリン1000重量部、ポリ[3−(2−エチル−イソシアナート−オクタデカニル)チオフェン]50重量部のインクを調製した。前記ポリ[3−(2−エチル−イソシアナート−オクタデカニル)チオフェン]は、高分子系の赤色発光材料として知られている。引き続いて、窒素雰囲気中で、インクジェット装置(UniJet製UJ200)を用いて、インクジェット法によってバンク層5で囲まれた赤色画素部にインクを滴下し、層厚350nmの赤色色変換層を作製した。インクの乾燥は、窒素雰囲気を破ることなく、真空乾燥炉を用い、真空度1.0×10-3Pa、温度100℃で行った。この赤色色変換層20Rに用いられる前記高分子系の赤色発光材料は高発光効率を有し、かつ、高分子系材料であるため、成膜性が高く、充填剤との接触によっても、溶解することも無いため、一層の色変換層で充分な赤色色変換機能を奏する。
【0051】
(有機EL素子基板51の作成)
「有機EL素子層37の作成」
図6に示すように、200mm×200mm×厚さ0.7mmの無アルカリガラス(イーグル2000:コーニング社)基板(封止基板39)上に、図示しない複数のパネル分のTFT(薄膜トランジスタ)60(図6)と、TFT60を覆う層厚3μmの平坦化樹脂層61とが形成された基板を準備する。この基板の平坦化樹脂層61上に、スパッタ法を用いて層厚300nmのSiO2からなるパッシベーション層62を成膜する。次いで、ドライエッチングを用いて、平坦化樹脂層61およびパッシベーション層62に、駆動トランジスタであるTFT60と反射電極38とを接続するためのコンタクトホール63を形成する。次に、RF−プレーナマグネトロンスパッタ装置を用いて、層厚50nmのIZO膜を成膜する。スパッタガスとしてArを使用した。レジスト(OFRP−800:東京応化製)を用いたフォトリソグラフ法によってIZO膜をパターニングし、サブピクセル毎に島状に分離したIZO下地層64をコンタクトホール63内に形成する。IZO下地層64の島状部のそれぞれ(図6では島状部は一箇所のみ示す、以下同じ)を、コンタクトホール63のところで、前記TFT60とを1対1で接続する。次いで、スパッタ法を用いて層厚10nmのAg膜を形成し、引き続いて同様のパターニングを実施し、IZO下地層64の上に複数のAg膜の島状部分からなる反射電極38を形成する。島状部分のそれぞれは、長さ方向131μm×幅方向37μmの寸法を有し、長さ方向141μm、幅方向47μmのピッチで配置する。
【0052】
次いで、反射電極38を形成した段階の基板を抵抗加熱蒸着装置内に装着し、反射電極38上に層厚1.5nmのLiを堆積させて、陰極バッファ層65を形成する。続いて、有機EL層36を形成するために、真空槽内圧力を1×10-4Paに減圧し、図7に示すように、層厚20nmのAlq3(トリス(8−キノリノラト)アルミニウム)からなるETL(電子輸送層66)を形成する。その上に、層厚30nmのDPVBi(4,4´−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニル)からなるEML(有機発光層67)を成膜する。さらにその上に、層厚10nmのα−NPD(4,4−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル)からなるHTL(正孔輸送層68)および層厚100nmのCuPc(銅フタロシアニン)からなるHIL(正孔注入層69)を順次成膜して、有機EL層36を成膜する。各層の成膜速度は0.1nm/sである。さらに、有機EL層36上に、層厚5nmのMgAgからなるダメージ緩和層70を成膜する。
【0053】
引き続いて、ダメージ緩和層70を形成した段階の基板を、真空を破ることなしに対向スパッタ装置に移動させ、表示部に対応する位置に開口部を設けたメタルマスクを介して、層厚200nmのIZOを堆積させ、透明電極34を形成して有機EL素子層37とする。さらに、透明電極34を形成した段階の基板を、真空を破ることなしにCVD装置に移動させ、層厚2μmのSiNxを堆積させてバリア層6とすることにより、前記図5、図6に示す有機EL素子基板51を作製した。
【0054】
有機EL素子基板51と色変換フィルタ基板50の間隔を一定にするために、図5に示す光硬化性樹脂(CR−600:日立化成工業製)で、直径10μm、高さ4.5μmからなる円柱形状のフォトスペーサ71が141μm間隔でバンク層5上に形成されている色変換フィルタ基板50を、酸素、水分共5ppm以下の雰囲気の貼り合せ装置内に移動させる。この色変換フィルタ基板50のプロセス面(色変換層を形成した面)を上に向けてセットし、ディスペンサを用いて、複数のパネル画面のそれぞれの外周にエポキシ系紫外線硬化接着剤(XNR−5516:ナガセケムテックス社製)を切れ目無く塗布して、接着層46を形成する。引き続いて、各パネル画面の中央付近に、充填剤7として、所定量の熱硬化型エポキシ接着剤(EMI社製EMCASTシリーズ、屈折率1.58)をメカニカルバルブを用いて滴下する。
【0055】
次に、前記色変換フィルタ基板50のプロセス面の上方で、有機EL素子基板51のプロセス面(バリア層6を形成した面)を下側に向け、相互に面対向するように有機EL素子基板51をセットする。貼り合わせ装置内を10Paまで減圧し、有機EL素子基板51と色変換フィルタ基板50を徐々に30μmまで接近させ、両基板の各画素位置をアライメントし、引き続いて貼り合わせ装置内を大気圧に戻しつつ僅かに荷重を加える。このとき、有機EL素子基板51と色変換フィルタ基板50とは互いに向かって接近し、色変換フィルタ基板50上のフォトスペーサ71先端が有機EL素子基板51上の構造物(バリア層6)に接触する点で停止した。この際、各パネル画面中央に滴下した熱硬化型エポキシ接着剤(充填剤7)は、フォトスペーサによって形成される有機EL素子基板51と色変換フィルタ基板50の構造物の間隙を、各パネル画面の全面にわたって広がった。
【0056】
次に、色変換フィルタ基板50側から接着層46のみに紫外線を照射して仮硬化させ、一般環境に取り出した。その後、自動ガラススクライバーとブレイク装置を使って個々のパネルに分割した。分割した個々のパネルを、1時間にわたって加熱炉にて80℃に加熱し、炉内で30分間自然冷却した。
最後に、ドライエッチングを用いて、有機EL素子基板51の外部接続のための端子領域(図示せず)に形成したバリア層6を除去し、異方導電性接着剤を用いて図示しない制御ICを接着して、有機ELディスプレイ100を完成させた。
【0057】
完成した有機ELディスプレイ100の外観および切断した断面を観察したところ、緑色色変換層20G、21Gが、有機EL素子基板51と色変換フィルタ基板50とを貼り合せる際の充填剤7として用いた熱硬化型エポキシ接着剤に溶出している痕跡はなく、緑色色変換層20G、21Gを含めたいずれの色の画素部も特段の重大な欠陥を生ずることなく整然と形成されていた。また、この有機ELディスプレイ100を駆動したところ、いずれの画素部からも所望の発光が得られた。
【0058】
(比較例1)
比較例1の方法によって作製された色変換フィルタ基板を図2に示す。
前述の実施例1で使用した第二緑色色変換層21Gを形成せず、第一緑色色変換層20Gを層厚350nmに形成したことを除いて、実施例1と同様の方法で有機ELディスプレイを作製した。
【0059】
この場合、第一緑色色変換層20Gが、有機EL素子基板と色変換フィルタ基板とを貼り合せる際の充填剤として用いた熱硬化型エポキシ接着剤に溶出し、緑色画素部として成立しなくなってしまった。
(比較例2)
比較例2の方法によって作製された色変換フィルタ基板を図3に示す。
【0060】
前述の実施例1で使用した第一緑色色変換層20Gを形成せず、実施例1と同じ材料からなる第二緑色色変換層21Gを層厚350nmに形成したことを除いて、実施例1と同様の方法で有機ELディスプレイを作製した。
完成した有機ELディスプレイの外観および切断した断面を観察したところ、第二緑色色変換層21Gが、有機EL素子基板と色変換フィルタ基板とを貼り合せる際の充填剤として用いた熱硬化型エポキシ接着剤に溶出してしまっているようなことはなく、緑色色変換層を含めたいずれの色の画素部も特段の重大な欠陥を生ずることなく整然と形成されていた。
【0061】
しかしながら、緑色画素部の発光効率が、実施例1の場合に比べて、70%の水準にとどまった。これは、第二緑色色変換層21Gが高分子系の材料であって、一般的に低分子系の材料に比べて色変換効率が低いため、比較例2では、高発光効率の低分子系の材料の第一緑色色変換層20Gを含む実施例1に比べて色変換効率が低かったことによるものと考えられる。
【0062】
(比較例3)
比較例3の方法によって作製された色変換フィルタ基板を図4に示す。
前述の実施例1で使用した第二緑色色変換層21Gを形成せず、第一緑色色変換層20Gを層厚350nmに形成し、第一緑色色変換層20Gの形成後にその上面にバリア層を形成したことを除いて、実施例1と同様の方法で有機ELディスプレイを作製した。ここで、バリア層は、第一緑色色変換層20Gの形成に引き続いて、窒素雰囲気を破ることなく、プラズマCVD装置にて、原料ガスとしてモノシラン(SiH4)、アンモニア(NH3)及び窒素(N2)を用いるプラズマCVD法を用いて、層厚3μmの窒化シリコン(SiNx)を堆積させることによって形成した。その際、SiNxを堆積する際に基板温度は100℃以下にて行った。
【0063】
完成した有機ELディスプレイの外観および切断した断面を観察したところ、バリア層が形成されているため、第一緑色色変換層20Gが、有機EL素子基板と色変換フィルタ基板とを貼り合せる際の充填剤として用いた熱硬化型エポキシ接着剤に溶出している痕跡はなく、第一緑色色変換層20Gを含めたいずれの色の画素部も特段の重大な欠陥を生ずることなく形成されていた。
【0064】
しかしながら、緑色画素部の発光効率が、実施例1の場合に比べて、65%の水準にとどまった。その理由は、低分子系の材料からなる第一緑色色変換層20Gの色変換効率は高いものの、第一緑色色変換層20G上に層厚3μmのバリア層が存在することにより、バリア層による光吸収による損失、バリア層の上下の界面での光反射による損失がある。さらに、バリア層の層厚の分だけ有機EL素子基板と色変換フィルタ基板との間隙の距離が大きいことにより有機EL素子層の発光のうち正面方向からの角度が大きい方向に出射された成分が隣接画素の側に伝播して所望どおり元々の画素部の色変換層に入射する割合が減少することによる損失も考えられる。さらにまた、バリア層をプラズマCVD法によって第一緑色色変換層上に形成する際に、色変換層が、プラズマ、高エネルギー粒子(中性原子またはイオン化原子)、高速電子、紫外線などにさらされることによって、ダメージを受けていることも考えられる。
【0065】
また、有機ELディスプレイの駆動時の表示面を観察したところ、有機EL素子基板からの出射光が隣接画素に漏れ出して、いわゆるクロストークの現象が見られた。これは、バリア層の層厚の分だけ有機EL素子基板と色変換フィルタ基板との間隙の距離が大きいことにより有機EL素子の発光のうち正面方向からの角度が大きい方向に出射された成分が隣接画素の側に伝播してしまったことによるものと考えられる。
【0066】
以上、説明したように、本発明によれば、色変換層を保護するバリア層が無いので、前述したように、バリア層での光吸収による損失、バリア層の上下の界面での光反射による損失およびバリア層の層厚の分だけの間隙による有機EL素子の発光のうち元々の画素部の色変換層に入射する割合が減少する損失などによる、発光効率の低下を回避することができる。
【0067】
また、バリア層の層厚の分だけ有機EL素子基板と色変換フィルタ基板との間隙により、有機ELディスプレイの駆動時に、有機EL素子の出射光が隣接画素に漏れ出す、いわゆるクロストークの問題の発生を抑制することができる。
さらに、バリア層の工程の省略により、工数およびコストも削減される。また、充填剤に対する耐溶性の高い材料を充填剤と接触する色変換層に用い、高発光効率の色変換層を下側とする積層タイプの色変換層とすることによって、新たなバリア層を形成する必要性を排除するとともに、従来の技術では実現し難い高発光効率の色変換フィルタ基板とすることが可能となる。
【0068】
その結果、前記第一色変換層の光変換効率を、前記第二色変換層の光変換効率よりも高い材料を選択することができる。すなわち、前記第一色変換層の材料は、充填剤に対する耐溶性が要件とされないため、選択の余地が広がり、充填剤に対する耐溶性が要求される前記第二色変換層の材料に比べて、光変換効率の高いものを選択することが可能となる。
前記第一色変換層に用いる材料は、充填剤に対する耐溶性にかかわらず選択することができ、光変換効率の高いものを選ぶことができる。したがって、前記第一色変換層に用いる材料は、高発光効率の低分子系材料が好ましいが、特に高発光効率の高分子系の材料が見つかれば、高分子系の色変換材料でもかまわない。たとえば、前記第一色変換層に用いる材料として、前記第二色変換層に用いる材料に比べて充填剤への耐溶性や水分やガスへの耐久性に劣るが光変換効率の高い高分子系の材料を用いてもよい。
【0069】
一方、前記第二色変換層に用いる材料は、充填剤に対する耐溶性が要求される。限定するものではないが、充填剤に対する耐溶性が要求されることから、とりわけ高分子系の材料が好ましい。前述の第二色変換層の材料として用いることができる。その場合、前記第二色変換層に用いる高分子系の材料としては、前記の高分子系色変換層材料を使用できる。
【0070】
本発明では、前記第一色変換層を充填剤から保護するための保護層として、同色の色変換層である前記第二色変換層を用いる。特に限定するものではないが、前記第一色変換層と前記第二色変換層とが有機EL素子の発光を波長変換して発する蛍光のピーク波長の差が50nm以下であることが、当該画素の出力光の色純度を確保する上で好ましい。また、同色の色変換層を保護層として用いることによって、同色の色変換機能を持たない層を保護層として用いる場合に比べて、色変換層と保護層とのトータルの層厚当たりの色変換効率を高めることができる。したがって、色変換層と保護層とのトータルの層厚を小さい値に抑えることができる。とりわけ、インクジェット法の場合、インクジェット塗布する層厚が大きくなると、吐出滴下すべきインクの量が非常に多くなり、バンクからあふれやすくなり、バンクの高さを増すことが必要になる。その場合、通常ならば、バンクの高さを増した分だけ有機EL素子基板と色変換フィルタ基板との間隙の距離が大きくなり、有機EL素子の発光のうち正面方向からの角度が大きい方向に出射された成分が隣接画素の側に伝播し、所望どおり元の画素部の色変換層に入射する割合が減少して損失が生じて発光効率が低下する問題が発生する。ところが、本発明では、インクジェット塗布する層厚を抑えることができるので、バンクの高さを増す必要がなく、発光効率を低下させる問題を発生しない。
【符号の説明】
【0071】
5 バンク層
6 バリア層
7 充填層
10 透明基板
20R 赤色色変換層
20G 第一緑色色変換層
21G 第二緑色色変換層
30R 赤色カラーフィルタ層
30G 緑色カラーフィルタ層
30B 青色カラーフィルタ層
34 透明電極
36 有機EL層
37 有機EL素子層
38 反射電極
39 封止基板
40 ブラックマトリクス層
46 接着層
50 色変換フィルタ基板
51 有機EL素子基板
60 TFT
61 平坦化樹脂層
62 パッシベーッション層
63 コンタクトホール
64 IZO下地層
65 陰極バッファ層
66 電子輸送層、ETL
67 有機発光層、EML
68 正孔輸送層、HTL
69 正孔注入層、HIL
70 ダメージ緩和層
71 フォトスペーサ
100 有機ELディスプレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板に有機EL層を搭載する有機EL素子基板と、封止基板に色変換層を搭載してなる色変換フィルタ基板とを、搭載する層を内側にして充填層を介して面対向に貼り合せてなる色変換方式トップエミッション型有機ELデバイスにおいて、
前記色変換層は少なくとも2層の積層からなり、各層は同色を発光する異なる色変換材料から構成されることを特徴とする有機ELデバイス。
【請求項2】
前記充填層に接する側の色変換層は、前記充填層に接しない色変換層より色変換効率が高い色変換層材料を主成分とすることを特徴とする請求項1記載の有機ELデバイス。
【請求項3】
前記充填層に接する側の色変換層は高分子系色変換層材料であり、前記充填層に接しない色変換層は低分子系色変換材料であることを特徴とする請求項1又は2記載の有機ELデバイス。
【請求項4】
前記封止基板と前記色変換層の間にカラーフィルター層を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の有機ELデバイス。
【請求項5】
前記色変換層をインクジェット法により形成することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の有機ELデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−212694(P2012−212694A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−176353(P2012−176353)
【出願日】平成24年8月8日(2012.8.8)
【分割の表示】特願2009−26842(P2009−26842)の分割
【原出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】