有機EL発光素子を用いた画像表示装置
【課題】膜厚バラツキに対する表示特性(輝度、色度)のロバスト化を実現可能な画像表示装置を提供する。
【解決手段】任意の画素が2特性の画素群(A,B)で構成され、画素群(A,B)の各膜厚は、画素の膜厚変化に対する発光輝度の強度変化が凸形状を与える頂点の膜厚よりも、一方が薄く他方が厚い膜厚の組み合わせである。同時に、画素の膜厚変化に対する色度(CIEx、CIEy)の少なくとも1成分の色度変化が凸形状を与える頂点の膜厚よりも、一方が薄く他方が厚い膜厚の組み合わせである。
【解決手段】任意の画素が2特性の画素群(A,B)で構成され、画素群(A,B)の各膜厚は、画素の膜厚変化に対する発光輝度の強度変化が凸形状を与える頂点の膜厚よりも、一方が薄く他方が厚い膜厚の組み合わせである。同時に、画素の膜厚変化に対する色度(CIEx、CIEy)の少なくとも1成分の色度変化が凸形状を与える頂点の膜厚よりも、一方が薄く他方が厚い膜厚の組み合わせである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL発光素子が各画素に配置された画像表示装置に関するものであり、特に、各画素において特定の波長を増強する共振器構造を有するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL発光素子は、電界を印加することによって陽極から注入された正孔と、陰極から注入された電子の再結合エネルギーによって、有機材料から成る発光層が発光する原理を利用した自発光素子である。C.W.Tangらにより、積層型素子による低電圧駆動有機EL発光素子の報告(非特許文献1)がなされて以来、有機材料を構成材料とする有機EL発光素子に関する研究が盛んに行われている。
【0003】
また、有機EL発光素子は、自発光による広い視野角や、充分な動画応答性を有していることから、ディスプレイ素子として理想的な特徴を有している。特に、薄く軽量で、耐衝撃性に優れるため、近年ではモバイル用途向けディスプレイ素子としての技術開発が盛んである。
【0004】
これまでの有機EL発光素子は、発光色の色純度を向上させ、あるいは光取り出し効率を高めるために、共振器構造を導入することにより、発光層で発生する光を制御してきた(特許文献1)。しかし、有機EL発光素子に共振器構造を設けた場合において、共振器性能をバラツキなく発揮させるには、光路長すなわち膜厚について非常に高い精度が要求されてくる。ここで、従来の基本的な共振器構造を説明する。図15は、従来の基本的な共振器構造の第1の例を示す模式的断面図である。図15において、1601は基板、1602は第1電極(反射膜)、1603はバッファ層、1604は正孔輸送層、1605は有機発光層、1606は半透明反射層(半透明反射膜)である。また図15において、1607は第2電極、1608は発光位置、1609は共振部の光学的距離Lを示す。
【0005】
図15に示すように、従来の共振器構造は、半透明反射層(半透明反射膜)1606と第1電極(反射膜)1602の間に有機発光層1605が挟持されている。そして、半透明反射層(半透明反射膜)1606から第1電極(反射膜)1602までの共振部の光学的距離L1609を制御するようになっている。共振条件を満たし、かつ通常用いられる程度のLを膜厚に換算すると、凡そ数10nm乃至数100nmであり非常に薄い。しかも各画素に有機EL発光素子を用いて画像表示装置を構成した際、色純度や光取り出し効率の面内バラツキを考慮するならば、画像表示の全領域において許容できる膜厚バラツキは極僅かになることが容易に推測される。
【0006】
これらの技術課題における対策としては、成膜時の膜厚バラツキを減らすことが重要かつ必要であることはいうまでもない。ただし、発光輝度に関しては、膜厚バラツキの影響を受けたとしても駆動で補正することが可能である。しかし、各画素の入力電力に対する輝度情報を読み取り、用意したメモリに修正データテーブルをストアする必要があり、新たな工程/部材が増えてコスト高になるデメリットはある。
【0007】
これらの技術課題に対して1つの画素内で共振器長が異なる領域を有する構造、若しくは隣接する画素間において共振器長が異なる構造が提案されている(特許文献2)。図16は、従来の基本的な共振器構造の第2の例を示す模式的断面図である。図16において、1701は画素、1702は隣接画素、1703は基板、1704は反射電極、1705は透明電極2、1706は透明電極1、1707は複数の有機層を示す。また、1708は第2電極、1709は接着層、1710はカラーフィルター、1711は封止基板、1712は保護膜を示す。また、1713乃至1718は、RGB画素それぞれの膜厚を示す。図16に示す例では、2種類の共振器長として、以下に示すL1、L2が、RGB画素の各膜厚構成として夫々設定される。
L1=Lave+ΔL、 L2=Lave−ΔL、 (2・Lave)/λ+Φ/(2π)=m
【0008】
ただし、
Lave :光学的距離L1と光学的距離L2との平均光学的距離
Φ :反射電極で生じる反射光の位相シフトΦ1と第2電極で生じる反射光の位相シフトΦ2との和(Φ=Φ1+Φ2)(rad)
λ :第2電極側から取り出したい光のスペクトルのピーク波長
m :Laveが正となる整数
【0009】
このように、干渉ピーク波長から同程度に前後にずらした2ピークを平均ピークとして用いることで、膜厚バラツキに対するピーク変化が緩和される。その結果として、若干の膜厚バラツキがあったとしても、発光特性の一部についてロバスト性を確保することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第01/39554号公報
【特許文献2】特開2007−234581号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】C.W.Tang、S.A.Vanslyke、Applied Physics Letters、51巻、913頁、1987年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、共振器構造を有する有機EL発光素子を画素として用いた画像表示装置においては、成膜時における膜厚バラツキが無視できず表示特性にバラツキが発生してしまう。
【0013】
例えば、特許文献1に示す共振器構造を有する有機EL発光素子を、画素として用いた画像表示装置においては、成膜工程において存在する膜厚ムラが画像表示領域における表示特性ムラになることが予想される。
【0014】
この課題を改善するため、特許文献2では、干渉条件を満たす素子膜厚Lから±ΔLずらした素子膜厚を有する2種の発光素子を組み合わせて用いている。こうすることにより、膜厚ムラに対する干渉特性を平均化することができ、表示特性ムラを抑えることが可能となる。ただし、干渉条件を満たす極値の前後は輝度変化が大きく、その干渉特性に追随して色度変化も大きくなる。このように、干渉条件のみに着目すると、色度変化に対する表示ムラを抑えられない場合がある。
【0015】
本発明は、上述した課題について、膜厚バラツキに対する表示特性(輝度、色度)のロバスト化を実現する構成を提示すると共に、このような構成を用いた画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の有機EL発光素子を用いた画像表示装置は、上述した目的を達成するため、以下の特徴点を備えている。すなわち、本発明の有機EL発光素子を用いた画像表示装置は、反射膜と半透明反射膜との間に有機EL発光層と有機層を挟持し、発光した光を反射膜と半透明反射膜の間で干渉させるものである。そして、任意の画素が2特性の画素群(A、B)で構成され、画素群(A、B)の各膜厚は、画素の膜厚変化に対する発光輝度の強度変化が凸形状を与える頂点の膜厚よりも、一方が薄く他方が厚い膜厚の組み合わせとなっている。これに加えて各画素群(A、B)の膜厚は、画素の膜厚変化に対する色度(CIEx、CIEy)の少なくとも1成分の色度変化が、凸形状を与える頂点の膜厚よりも一方が薄く他方が厚い膜厚の組み合わせとなっている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の有機EL発光素子を用いた画像表示装置によれば、隣接する同色画素間に相補的な効果を持たせることで、成膜時の膜厚バラツキが表示特性に及ぼす影響を緩和することが可能となる。このため、有機EL発光素子を用いた画像表示装置の歩留まりが向上し、低コスト化に大いに貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例1に係る有機EL発光素子の画素断面図。
【図2】本発明の実施例1に係る有機EL発光素子の配置図。
【図3】本発明の実施例1に係る有機EL発光素子におけるRef.、画素A、画素Bの発光特性図。
【図4】有機EL発光素子を駆動するアクティブマトリックス回路の例を示す回路図。
【図5】有機EL発光素子の画素断面図。
【図6】表示領域に存在する膜厚バラツキの説明図((a)は断面、(b)は上面)。
【図7】膜厚変化時の画素A及び画素Bの相関例1の説明図((a)は膜厚増加、(b)は膜厚減少)。
【図8】本発明を適用した際の表示領域に存在する膜厚バラツキ例の説明図。
【図9】膜厚変化時の画素A及び画素Bの相関例2の説明図((a)は膜厚増加、(b)は膜厚減少)。
【図10】2つの画素膜厚に対する等高線グラフ。
【図11】異なる極値に対して画素Aと画素Bを設定した際の画素膜厚に対する等高線グラフ。
【図12】画素群A及び画素群Bの平面配置例の説明図(ストライプ配列)。
【図13】画素群A及び画素群Bの平面配置例の説明図(デルタ配列)。
【図14】本発明の実施形態で用いた有機材料の化学構造式の説明図。
【図15】従来例1の画素断面図。
【図16】従来例2の画素断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態に係る有機EL発光素子を用いた画像表示装置は、発光画素を有している。発光画素とは、反射膜(反射電極)と半透明反射膜(透明電極)との間に有機EL発光層と有機層を挟持し、発光した光を反射膜と半透明反射膜との間で干渉させるようになっている画素をいう(図5参照)。そして、任意の画素が2特性の画素群で構成され、画素群の各膜厚は、画素の膜厚変化に対する発光輝度の強度変化が凸形状を与える頂点の膜厚よりも、一方が薄く他方が厚い膜厚の組み合わせとなっている。同時に、画素の膜厚変化に対する色度(CIEx、CIEy)の少なくとも1成分の色度変化が、凸形状を与える頂点の膜厚よりも一方が薄く他方が厚い膜厚の組み合わせとなっている。
【0020】
ここで、発光輝度の強度変化が凸形状を与える頂点の膜厚とは、干渉条件を満たす1種類の膜厚構成でもよいし、若しくは干渉条件を満たし膜厚の異なる2種類の膜厚構成でもよい。また、2特性の画素群は、平面的にみて1ピクセル毎に市松模様の関係、若しくはそれに準ずる程度で交互配置されていることが好ましい。また、色度(CIEx、CIEy)の少なくとも1つの色度変化とは、緑色画素のCIEy変化であることが好ましい。詳細については後述する。
【0021】
ところで、有機EL発光素子を用いて、文字や絵を表示するためには、素子をマトリックス状に配置して表示装置の形態とすることが必要となる。有機EL発光素子をマトリックス状に配置する方式としては、いわゆるXY単純マトリックス型で時分割のデューティ駆動をさせる方式と、薄膜トランジスタ(TFT)などのアクティブ素子を画素毎に配置したアクティブ駆動方式とが一般的である。単純マトリックス方式は、十分な輝度を得るために素子に大きな電流を流す必要があるため耐久性の面で不利となる。現在、実用に最も近いのはアクティブ駆動型と考えられているが、本発明はアクティブ駆動型に限定されるものではない。
【0022】
以下、図面を参照して、本発明に係る有機EL発光素子を用いた画像表示装置の実施形態を説明する。なお、以下の説明では、画素及び画素群に同一の符号を付して説明する場合がある。
【0023】
図4は、本発明の実施形態に係る画像表示装置、例えば、アクティブマトリックス型画像表示装置の構成例を示す回路図である。図4に示す例では、画素回路501がマトリックス状に多数配置されて表示領域を構成している。ここでは、図面の簡略化のために、i行乃至i+1行、i列乃至i+1列の2行2列分の画素配列を例にとって示している。この表示領域には、画素回路501の各々に対して、走査信号Y(i)乃至Y(i+1)が順に与えられる。これによって、各画素506を行単位で選択する走査線502と、各画素に画像データ、例えば輝度データX(i)乃至X(i+1)を供給する信号線503とが配線されている。以下の説明では、画素回路501として、i行i列の画素(i,i)を例にとって説明する。ただし、他画素の画素回路501についても、全く同じ回路構成となっている。なお、画素回路としては、この回路例に限定されるものではない。
【0024】
この画素回路501は、画素を選択するための選択素子部507と、駆動素子部508のゲート電圧を維持するための保持容量部510と、有機EL発光素子509を駆動するための駆動素子部508とを有する構成となっている。なお選択素子部507と駆動素子部508とを合わせて画素トランジスタと呼ぶ。そして、輝度データが信号線503から電圧の形で与えられ、有機EL発光素子509にはデータ電圧に応じた電流が流れるようになっている。
【0025】
具体的な接続関係として、有機EL発光素子509は、その陽極が電源線504(電源電圧Vdd)に接続されている。駆動素子部508は、有機EL発光素子509の陰極とグランド線505との間に接続されている。保持容量部510は、駆動素子部508のゲートとグランド線505との間に接続されている。選択素子部507は、信号線503と駆動素子部508のゲートとの間に接続され、そのゲートが走査線502に接続されている。選択素子部507と駆動素子部508は、薄膜トランジスタ(TFT)で構成され、必要電流量やサブピクセルサイズにより、アモルファスシリコン半導体、ポリシリコン半導体、低温ポリシリコン半導体、透明酸化物半導体を選択することが可能である。
【0026】
以下、注目画素(群)を画素(群)A、その近傍の同色画素(群)を画素(群)Bと定義する。また、以下の説明では、画素若しくは画素群の表現は内容に応じて適宜使い分ける。また、画素膜厚とは、図5に示すように有機EL発光素子内で発光した光が素子内部で多重干渉・反射するために必要となる界面間の画素膜厚607を意味する。図5は、有機EL発光素子の画素断面図である。なお、図5において、601は基板、602は反射電極、603は有機層、604は発光層、605は透明電極、606は空気界面、607は画素膜厚をそれぞれ示す。
【0027】
この有機EL発光素子では、画素膜厚607を2つ(n次で共振する画素膜厚1、n+1次で共振する画素膜厚2)含んでいるが、以下の原理説明部においては画素膜厚を1つとする。
【0028】
また、異なる色で発光する素子の発光効率を比較するための指標として、「輝度/CIEy」を定義する。CIEyは、CIE1931標準表色系で定義されているxy色度図におけるy値である。輝度が刺激値Yと一致するようにとれば、y=Y/(X+Y+Z)より、「輝度/CIEy」は3刺激値和となる。「輝度/CIEy」は、同じ輝度で発光する素子においてCIEyが異なると、その分だけ駆動電力が異なることを意味する。すなわち、「輝度/CIEy」値が高いほど、相対的に発光効率は高くなり、同輝度を発光するための駆動電力は相対的に少なくなる。実際にデバイスを制御する際は、電力を制御するので、「輝度/CIEy」で考えることは便利である。以下、説明に応じて、輝度、輝度/CIEyを使い分ける。色度表現としてはCIE−XYZ表色系のxy色度図が多く用いられるが、目的に応じてCIELUV空間、CIELAB空間などで表現しても構わない。
【0029】
図6は、画像表示装置の表示領域において、有機EL発光素子の膜厚バラツキの発生例を説明する説明図であり、図6(a)は断面図、図6(b)は上面図である。図6において、701は画素A、702は画素B、703は膜厚変動(膜厚バラツキ)、704は目標膜厚、705は表示領域、706は等価膜厚線をそれぞれ示す。
【0030】
基板へ有機層を成膜するには、原料の有機材料を金属製坩堝に配置し、真空チャンバー内において坩堝を加熱し、有機材料を昇華・蒸発させる手法が一般的である。この成膜手法は、蒸発源と基板の距離が近いほど膜厚が厚く、距離が遠いほど膜厚が薄くなる傾向にある。この現象は蒸発の指向性、及び蒸発材料の拡散距離に依存したものであり、再現性は比較的高い。そのため、蒸着源が基板中心に位置している場合は、図6(a)、図6(b)に示すような膜厚バラツキを生じやすい。
【0031】
また、無機膜の電極層などは、スパッタ成膜による手法が一般的である。例えば、RF対向スパッタ成膜の場合は、プラズマ密度の分布が成膜バラツキに強い相関がある。プラズマ密度の分布は装置構成に依存するものであり、これについての再現性も比較的高い。スパッタ成膜は、真空加熱蒸着に比べて膜厚バラツキが少ないものの、領域全体で±3乃至±5%以内というのが一般的である。
【0032】
図6(a)から明らかなように、隣接する画素A、画素Bでの画素膜厚の差は小さいので、それによる発光特性の差は問題となりにくい。問題となるのは、表示領域スケールで存在する緩やかな膜厚バラツキである。特に、有機EL発光素子に共振器構成を用いている場合、面内の平均膜厚±5%レベルの膜厚バラツキがあれば、輝度特性、色度特性の変化として充分認識される。
【0033】
図7は、膜厚バラツキに対して輝度をロバスト化する場合を示すもので、膜厚変化時の画素A及び画素Bの相関例1の説明図である。図7において、801は画素A、802は画素B、803は画素A’、804は画素B’、805は極大値、806は画素A’’、807は画素B’’をそれぞれ示す。
【0034】
まず、輝度をロバスト化したい場合は、膜厚変化に対し輝度が相補的に変化するように、画素群A801と画素群B802の画素膜厚を構成する。ここで、相補的に変化するとは、例えば画素膜厚が増加(減少)した場合に、画素A801の輝度は増加(減少)し、画素A’803(A’’806)へ特性が変化することを意味する。また、画素B802の輝度は減少(増加)し、画素B’804(B’’807)へ特性が変化することを意味する。画素膜厚が増加/減少しようとも、画素A801と画素B802がこのような関係を維持して変化すれば、画素A801と画素B802の平均的な輝度特性は、膜厚変化に対して変化が小さい、所謂ロバスト化されたものとなる。すなわち、画素群A801と画素群B802の輝度が相補特性を有するには、画素膜厚の変化に対する輝度の変化が、画素群A801と画素群B802とで、どちらか一方は増加し、一方は減少することが必要である。
【0035】
このような画素群Aと画素群Bの関係を実現するには、図8に示すような画素膜厚の変化をする2つの組み合わせが必要である。図8は、本発明を適用した際の表示領域に存在する膜厚バラツキ例の説明図である。図8において、901は画素A、902は画素B、903は画素A’、904は画素B’、905は画素A’’、906は画素B’’、907及び908は膜厚変動(膜厚バラツキ)、909は輝度の極大値近傍を与える画素膜厚をそれぞれ示す。
【0036】
画素A901と画素B902の膜厚バラツキ(907、908)を略相似とするには、同じ成膜工程で成膜量が異なるように調整すればよい。膜厚バラツキ(907、908)が略相似であるため、表示領域内における注目画素(画素A901)の位置が移動しても、画素群A901と画素群B902の画素膜厚の差は略一定となる。そして、輝度の極大値を、画素A901と画素B902で挟むよう夫々の画素膜厚を決定すれば、相補機能を持つ画素A901と画素B902の組み合わせを実現できる。
【0037】
しかし、現実には輝度だけではなく、輝度及び色度の双方についてロバスト性を考慮すべきである。図9を用いて、膜厚バラツキに対して輝度及び色度をロバスト化する場合について説明する。図9は、膜厚変化時の画素A及び画素Bの相関例2の説明図である。図9において、1001は画素A、1002は画素B、1003は画素A’、1004は画素B’、1005は極大値、1006は目標色度、1007は画素A’’、1008は画素B’’をそれぞれ示す。
【0038】
例えば、画素膜厚に対する色度座標のグラフを書いたときに、目標色度1006が鋭い極大形状である場合を想定する。この場合は、緩やかに輝度が変化する領域を用いて、目標色度1006の極大値を挟み込むように画素(群)A1001、画素(群)B1002を設定する。緩やかに輝度が変化する領域を選択するために、干渉輝度最大を与える構成の膜厚付近は避ける。
【0039】
すると、画素膜厚が増加・減少しても、画素A1001と画素B1002による平均輝度は略一定で、画素A1001とB1002のどちらか一方は目標色度1006に近づくことになる。このように画素A1001、画素B1002を設定することで、膜厚バラツキに対する色度バラツキを減少することができる。この場合において、画素群A1001と画素群B1002の色度が相補特性を有するには、画素膜厚の変化に対する色度座標の変化が、画素群A1001と画素群B1002とで、どちらか一方は増加し、一方は減少することが必要である。
【0040】
本説明では、画素膜厚が1つの場合を説明したが、実際には2つ以上の画素膜厚(共振器構成)を含む素子構成が多い。その際は、画素膜厚を例えば2軸にとり、図10に示すような輝度と色度に関する等高線グラフを作成するなどして相補特性を満たす画素群の組み合わせを考える。ここで、輝度の等高線グラフにおいて1つの凸形状を与える場合を、1つの干渉条件を満たすと考える。この条件を実現するには、凸形状の頂点を与える画素膜厚1及び画素膜厚2の膜厚を満たす素子構成が必要となる。
【0041】
図10は、色度の目標座標が極大値である場合において、膜厚バラツキに対して輝度、色度をロバスト化した場合の一例を示すものであり、2つの画素膜厚に対する等高線グラフである。図10において、1101は画素A、1102は画素B、1103は輝度の極大値、1104は目標色度、1105は輝度の等高線グラフ、1106は色度の等高線グラフをそれぞれ示す。
【0042】
画素A1101、画素B1102は、極大形状を与える目標色度1104を挟み込み、かつ、膜厚変化に対して輝度が緩やかに相補的に変化する膜厚構成に設定している。必ずしも輝度最大を与える頂点1103をはさむ必要はないが、輝度の変化が凸となる両端部に画素A、画素Bを設定することが必要である。このようにすることで膜厚バラツキに対して、輝度変化を抑えつつ色度変化も補正することが可能となる。
【0043】
また、画素A1101と画素B1102を、異なる2つの極大値(凸形状の頂点)に対して夫々設定することも可能である。ここで、輝度の等高線グラフ1105において、2つの凸形状を与える場合を、2つの干渉条件と考える。「画素膜厚1、画素膜厚2」の個別の干渉次数として、「a、b」と「a、b+1」の2つ、若しくは「a、b」と「a+1、b」の2つのような条件を意味する。
【0044】
例えば、図11は、画素膜厚1を固定して、画素膜厚2を厚くし画素膜厚2に関する干渉次数を+1増し、2つの極大値を考慮したもので、異なる極値に対して画素Aと画素Bを設定した際の画素膜厚に対する等高線グラフである。図11において、1201は画素A、1202は画素B、1203は輝度の極大値、1204は目標色度、1205は輝度の等高線グラフ、1206は色度の等高線グラフをそれぞれ示す。
【0045】
「画素膜厚1、画素膜厚2」の個別の干渉次数としては、「a、b」と「a、b+1」の2つに相当する。この場合は、画素A1201を干渉次数(a、b)頂点の膜厚構成より薄い側、画素B1202を干渉次数(a、b+1)頂点の膜厚構成より厚い側に設定する。このような構成を選択する理由としては、画素膜厚2(画素膜厚1を除く)に陰極が含まれ、陰極厚さを増やすことによる配線抵抗を低下できる場合が考えられる。先程と同様に画素Aと画素Bは輝度最大を与える頂点1203をはさむ必要はないが、輝度の変化が凸となる両端部に画素A、画素Bを設定することは必要である。
【0046】
本発明の画像表示装置における画素群Aと画素群Bの配置については、平面的にみて1ピクセル毎に隣接配置されていることが好ましい。交互に隣接配置することで、画素群Aと画素群Bの特性を効果的に平均化することができる。例えば、ピクセル配置がストライプ配置の場合は、図12に示すような市松模様に配置すれば、画素群Aと画素群Bを交互に隣接した配置が可能である。図12は、画素群A及び画素群Bの平面配置例の説明図である。図12において、1301はRed_画素A、1302はGreen_画素A、1303はBlue_画素A、1304はRed_画素B、1305はGreen_画素B、1306はBlue_画素Bをそれぞれ示す。
【0047】
また、現在、ストライプ配置以外にも様々なピクセル配置が考えられているが、市松模様に準ずるよう略交互に隣接配置すれば問題ない。例えば、図13にデルタ配置における画素群Aと画素群Bの配置例を示す。図13は、画素群A及び画素群Bの平面配置例の説明図である。図13において、1401はRed_画素A、1402はGreen_画素A、1403はBlue_画素A、1404はRed_画素B、1405はGreen_画素B、1406はBlue_画素Bをそれぞれ示す。
【0048】
本発明の画像表示装置は、人の視認限界以上の高解像度な画素形態で実施されることが望ましい。そうすれば、画素群Aと画素群Bの夫々が相補変化する様子は区別認識できず、実質的に画素群Aと画素群Bで平均化された発光特性が認識されるはずである。実際にどの程度の解像度にするかは、アプリケーション仕様により決定されるべきだが、例えば対角3“パネルサイズならば100乃至150ppi以上の解像度があることが好ましい。
【0049】
本発明の画像表示装置における画素群Aと画素群Bは、有機EL発光素子を構成する少なくとも1層以上の膜厚が夫々異なるものとする。どの層を変化させ相補的に機能させるかは、プロセス条件、タクト、コストなど、その他要件も考慮して決める。
【0050】
表示領域の全色に対して、本発明を適用する必要はなく、特定の1色に対して本発明を適用しても構わない。例えば、最も視感度の高い緑色のみに適用することは、プロセスコストを考慮すると非常に効果的である。
【0051】
加えて、表示領域全体において本発明の効果を発揮させることが望ましいが、素子構成から決まる「輝度、色度」の特性、並びに画素群Aと画素群Bの設定膜厚の関係から完全に実現できない場合もありうる。しかし、本発明を適用しない場合に比較して、如何に表示領域全体での特性効率を落とさずに特性バラツキを抑えられるかは、あくまでチューニング作業の範疇である。
【0052】
次に、本発明の実施形態に係る画像表示装置、特に表示パネル部について説明する。基板に対する光取り出し方向の違いから、デバイス構成は大きく2種類(ボトムエミッション、トップエミッション)に分別される。ボトムエミッション構成の場合は、基板を透過して光を取り出すために、ガラス基板、透明電極、有機EL発光素子、反射電極という順で設けられているのが一般的である。また、トップエミッション構成の場合は、基板の反対側へ光を取り出すために、ガラス基板、反射電極、有機EL発光素子、透明電極という順で設けられているのが一般的である。ボトムエミッション構成、トップエミッション構成の夫々に長所、短所があり、アプリケーションに応じて適切に構成を選択する。反射電極は、金属膜、若しくは透明電極と金属膜を併用した組み合わせでも問題なく、設計仕様を満たすように適宜選択することが可能である。そして、有機EL発光素子の大気接触側には、吸湿材を内部に配したガラスキャップ、若しくは充分な防湿機能を有する封止膜が設置され、デバイスの雰囲気安定性を確保する。
【0053】
これらの構成要素について、さらに詳細に説明する。有機EL発光素子を形成する基板としては、ガラス、Siウエハ、アルミナなどのセラミック、透明樹脂、ステンレスに絶縁膜を付けたものなど基板が用いられる。ボトムエミッション構成では、光透過性のよい部材を使用する。基板上には、素子駆動用の配線、トランジスタ部、駆動素子部のトランジスタのゲート電圧を保持するための保持容量部、上記電子デバイスを各々導通させるための配線がホトリソ工程により形成・配置されている。なお、素子駆動用の配線は、電源線、信号線、選択線、グランド線からなり、トランジスタ部は、駆動素子部、選択素子部からなる。
【0054】
有機EL発光素子における電極として、陽極は、正孔を正孔輸送層に注入する役割を担うものであり、4.5eV以上の仕事関数を有することが効果的である。本発明に用いられる陽極材料は特に限定されるものではないが、例えば、酸化インジウム錫合金(ITO)、酸化インジウム、酸化亜鉛系等の酸化物透明電極材料を用いることができる。
【0055】
また、陰極としては、電子輸送帯又は発光層に電子を注入する目的で、仕事関数の小さい材料が好ましい。陰極材料は特に限定されない。具体的にはインジウム、アルミニウム、マグネシウム、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、アルミニウム−リチウム合金、アルミニウム−スカンジウム−リチウム合金、マグネシウム−銀合金、並びにこれらの混合物等を使用できる。ここで、これらの電極は、陽極、陰極のうち何れかの電極が可視光の領域において透明で、もう一方の電極が高反射率を有するものとする。また、これらの電極の厚さは、電極として本来の機能を果たす厚さであれば特に限定されることはないが、好ましくは0.02μm乃至2μmの範囲である。
【0056】
本発明における有機EL発光部の素子構造は、上記電極間に有機層を1層あるいは2層以上積層した構造であり、特にその構造に制約を受けない。例として、次の5つを挙げることができる。
(1)陽極、発光層、陰極
(2)陽極、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、陰極
(3)陽極、正孔輸送層、発光層、陰極
(4)陽極、発光層、電子輸送層、陰極
(5)陽極、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極
【0057】
正孔輸送層、発光層、電子輸送層、正孔注入層、電子注入層に用いられる有機化合物は、低分子材料、高分子材料若しくはその両方により構成され、特に限定されるものではない。さらに、必要に応じて無機化合物を用いてもよい。
【0058】
以下に、これらの化合物例を挙げる。
【0059】
正孔輸送性材料としては、陽極からの正孔の注入を容易にし、また注入された正孔を発光層に輸送するに優れた移動度を有することが好ましい。正孔注入輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、次のものが用いられる。例えば、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、オキサゾール誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、及びポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(シリレン)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられる。もちろん、これらに限定されるものではない。
【0060】
発光材料としては、発光効率の高い蛍光材料や燐光材料が用いられる。本発明に用いられる発光材料は特に限定されず、通常発光材料として使用されている化合物であれば何を使用してもよい。例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム錯体(Alq3)やビスジフェニルビニルビフェニル(BDPVBi)、1,3−ビス(p−t−ブチルフェニル−1,3,4−オキサジアゾールイル)フェニル(OXD−7)、N,N’−ビス(2,5−ジ−t−ブチルフェニル)ペリレンテトラカルボン酸ジイミド(BPPC)、1,4ビス(p−トリル−p−メチルスチリルフェニルアミノ)ナフタレンなどである。
【0061】
電子輸送性材料としては、注入された電子を発光層に輸送する機能を有するものから任意に選ぶことができ、正孔輸送材料のキャリア移動度とのバランス等を考慮し選択される。電子注入輸送性能を有する材料としては、次のものが用いられる。例えば、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、ペリレン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フルオレノン誘導体、アントロン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機金属錯体等が挙げられる。もちろん、これらに限定されるものではない。
【0062】
正孔注入材料としては、MoO3,WO3,V2O5等の遷移金属酸化物や、銅フタロシアニン(Cupc)等が挙げられる。
【0063】
また、電子注入材料としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属、若しくはその化合物等が挙げられ、前述した電子輸送性材料に、0.1%以上数十%以下含有させることにより、電子注入性を付与することができる。電子注入層は、必要不可欠な層ではないが、この後に、透明陰極を形成する際の成膜時に受けるダメージを考慮すると、良好な電子注入性を確保するために10nm以上100nm以下程度挿入した方が好ましい。
【0064】
また、陽極、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、正孔注入層、電子注入層、陰極の製造方法としては、一般に真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング、プラズマにより形成する方法がある。また、適当な溶媒に溶解させて、公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により形成することもできる。ただし、本発明を適用するには、表示領域内に発生する膜厚バラツキ、膜厚を正確に把握していることが必要である。加えて、膜厚バラツキ、膜厚値の再現性が得られる場合においてのみ、成膜手法を自由に選択することができる。
【0065】
陽極、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、正孔注入層、電子注入層、陰極の成膜が終わった後に、酸素や水分等との接触を防止する目的で保護層が設けられる。保護層としては、窒化シリコン、窒化酸化シリコン等の金属窒化物膜や、酸化タンタル等の金属酸化物膜、ダイヤモンド薄膜を挙げることができる。また、フッ素樹脂、ポリパラキシレン、ポリエチレン、シリコン樹脂、ポリスチレン樹脂等の高分子膜、さらには、光硬化性樹脂等を用いてもよい。トップエミッション構成の場合は、光取り出し側の透明陰極上に保護層が形成されるので、透湿度/透明度の仕様を満たす必要がある。
【0066】
また、ガラス、気体不透過性フィルム、金属などをカバーし、適当な封止樹脂により素子自体をパッケージングすることもできる。また、防湿性を高めるために、保護層内に吸湿材を含有させてもよい。
【実施例】
【0067】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、画像表示装置における画素領域を取り上げて詳細に説明するが、他の画素領域部についても同様である。
【0068】
有機EL発光素子の同色画素の構成膜厚を1つの設計値に固定して成膜したものをリファレンス(以下、Ref.と記す)とし、Ref.を相補するために設定した2つの画素を画素A、画素Bとする。
【0069】
<実施例1>
実施例1では、緑色のみの発光素子を用いた画像表示装置において、膜厚バラツキに対する輝度、色度のロバスト化を達成した。
【0070】
図1に、本発明を適用した画像表示装置における有機EL発光素子の断面図を示す。また、下記表1に、本実施例で用いたRef.、画素群A、画素群Bについての膜厚構成を示す。画素膜厚1の領域では正孔輸送層106、画素膜厚2の領域では陰極層110の膜厚を変更することで、画素A101、画素B102を設定した。図3の光学シミュレーションによる相対輝度の等高線グラフ中に、Ref.、画素群A、画素群Bの設定膜厚の関係を示す。
【0071】
画素配置としては、図2に示すような1画素サイズ60μm×90μm、画素間部40μm、640×480画素で、緑色1色のみの表示装置を作製した。画素A201と画素B202を1ピクセル毎に市松模様に配置し、画素群A、画素群Bとした。Ref.についても同様の構成で、緑色1色のみの640×480画素を配置した。また、図14に本実施例で用いた有機材料の化学構造式を示す。
【0072】
図3に示すように、画素膜厚に対する色度マップによると、緑色CIEyの目標色度近傍が極大値形状を有している。そのため、「輝度/CIEy」の値が膜厚バラツキに対して急激に変化しない領域に、画素群A、画素群Bを設定した。具体的には、「輝度/CIEy」の極大値直上を跨ぐのではなく、等高線の等位線上の近辺を選んだ。このように、輝度及び色度の双方を相補できるように考慮した。
【0073】
上述した有機EL表示装置は、以下に示す方法で作成した。まず、支持体としてのガラス基板上に、低温ポリシリコンからなるTFT駆動回路を形成した。1画素の位置座標[X(i)、Y(i)]に対応した電流及び信号を制御供給できるように配線した。具体的には、画素長辺に沿ってグランド線、信号線、共通電源線を配置し、画素短辺に沿って走査線を配置した。その上にアクリル樹脂からなる平坦化膜を形成してTFT基板103とした。
【0074】
さらに、この上に反射性金属のAg合金(AgPdCu)を約100nmスパッタリング法にて形成して反射電極104をパターニングし、透明導電膜のITOをスパッタリング法にて77nm形成して陽極層105をパターニングした。さらに、アクリル樹脂により素子分離膜を形成し、陽極付き基板を作成した。これをイソプロピルアルコール(IPA)で超音波洗浄し、次いで、煮沸洗浄後乾燥した。その後、UV/オゾン洗浄してから、有機化合物を真空蒸着により成膜した。
【0075】
洗浄された陽極層105上に、正孔輸送層106としてFL03を成膜した。画素Aと画素Bの膜厚を塗り分けるためにシャドーマスクを用い、画素群Aの正孔輸送層として110nm、画素群Bの正孔輸送層として130nmを成膜した。この際の真空度は1×10-4Pa、蒸着レートは、0.2nm/secであった。
【0076】
次に、有機EL発光層107として、シャドーマスクを用いて、Green発光層を成膜した。Green発光層としては、ホストとしてAlq3と、発光性化合物クマリン6を共蒸着して40nmの発光層を設けた。蒸着時の真空度は1×10-4Pa、成膜速度は0.2nm/secの条件で成膜した。
【0077】
さらに、共通の電子輸送層108として、バソフェナントロリン(Bphen)を真空蒸着法にて10nmの膜厚に形成した。蒸着時の真空度は1×10-4Pa、成膜速度は0.2nm/secの条件であった。次に、共通の電子注入層109として、BphenとCs2CO3を共蒸着(重量比90:10)し、20nmの膜厚に形成した。蒸着時の真空度は3×10-4Pa、成膜速度は0.2nm/secの条件であった。
【0078】
この電子注入層109まで成膜した基板を、真空を破ること無しにスパッタ装置に移動し、陰極層(透明陰極)110としてIZOを成膜した。画素AのIZO膜は60nm、画素BのIZO膜は70nmとして成膜した。さらに、吸湿剤を内側に配した封止用ガラス基板111を封止用接着剤で封着し、有機EL表示装置を得た。
【0079】
Ref.の膜厚値は、下記表1に示すように、正孔輸送層を120nm、陰極のIZO膜厚を65nmとし、それ以外の膜厚については、画素A、画素Bと同じである。
【0080】
【表1】
【0081】
作製した有機EL表示装置において、1フレーム16.7msecにプログラミングされた駆動信号を駆動ドライバに入力し、各画素回路から有機EL発光素子へ発光電流を供給した。そして、画素群A、画素群Bの各膜厚値における上限値、平均値、下限値と思われる領域の発光を測定した。
【0082】
Ref.品と相補品の測定結果を、下記表2に示す。相補することで、膜厚バラツキに対する輝度のバラツキ幅は13.9%から13.3%(対自己平均値でのバラツキ比)となり、色度のバラツキ幅はCIEx:0.105から0.082と小さくなり、また、CIEy:0.026から0.014と小さくなった。この結果から明らかなように、膜厚バラツキに対する輝度及び色度のロバスト性向上が認められた。
【0083】
【表2】
【0084】
<実施例2>
実施例2における発光素子の作製方法、及び画像表示装置の構成は、実施例1に順ずるものである。ただし、画素Aと画素Bは、図3のマップ図に示す1つの極値を挟むように構成するのではなく、異なる2つの極値について設定した。そのため、(HTL膜厚、IZO膜厚)を下記表3に示すように、画素A(110,60)、画素B(130,205)の組み合わせとした。本実施例においては、表示装置全画素の半分の陰極厚さを厚くすることで配線抵抗を下げる副次的な効果を狙った。
【0085】
【表3】
【0086】
作製した有機EL表示装置において、1フレーム16.7msecにプログラミングされた駆動信号を駆動ドライバに入力し、各画素回路から有機EL発光素子へ発光電流を供給した。そして、画素群A、画素群Bの各膜厚値における上限値、平均値、下限値と思われる領域の発光を測定した。
【0087】
Ref.品と相補品の測定結果を、下記表4に示す。相補することで、膜厚バラツキに対する輝度のバラツキ幅は13.9%から13.2%(対自己平均値でのバラツキ比)と小さくなり、色度のバラツキ幅はCIEx:0.105から0.085と小さくなり、CIEy:0.026から0.016と小さくなった。この結果から明らかなように、膜厚バラツキに対する輝度及び色度のロバスト性向上が認められた。さらに、本実施例では、陰極の配線抵抗を低下させたことによる消費電力の低下についても確認できた。
【0088】
【表4】
【0089】
<実施例3>
実施例3では、緑色素子のみに相補画素群(A,B)を設定したRGBフルカラーの画像表示装置を作製した。パネルサイズは3”QVGA(150ppi)で、横320ピクセル×縦240ピクセル×3色のストライプ配列とした。発光面積のエリアは、各色の素子分離膜、BM配置等の関係から40%開口とした。発光素子の作製方法、及び画像表示装置の基本構成は、実施例1に順ずるものである。下記表5に赤色素子の具体的な膜厚構成を示し、下記表6に緑色素子の具体的な膜厚構成を示し、下記表7に青色素子の具体的な膜厚構成を示す。
【0090】
【表5】
【0091】
【表6】
【0092】
【表7】
【0093】
作製した有機EL表示装置において、1フレーム16.7msecにプログラミングされた駆動信号を駆動ドライバに入力し、各画素回路から有機EL発光素子へ発光電流を供給した。そして、画素群A、画素群Bの各膜厚値における上限値、平均値、下限値と思われる領域の緑色発光を測定した。下記表8に、相対輝度と色度のバラツキ幅についての測定データを示す。
【0094】
【表8】
【0095】
Ref.品と相補品の測定結果を比較した。相補することで、膜厚バラツキに対する輝度のバラツキ幅は14.9%から11.3%(3.6%減)と小さくなり、色度のバラツキ幅はCIEx:0.107から0.082と小さくなり、CIEy:0.055から0.038と小さくなった。このように、相補することにより、膜厚バラツキに対する輝度及び色度のロバスト性向上が認められた。
【0096】
このように、視感度の高い緑色の発光特性をロバスト化したRGBフルカラーの画像表示装置を作製することができた。
【産業上の利用可能性】
【0097】
ディスプレイやモニターに代表される画像表示装置のコストダウン施策において、マザー基板の大型化は必至である。有機EL表示装置においてもこの流れは確実だが、有機EL発光素子のような薄膜デバイスを大面積/均一に形成することは非常に難しい。しかし本発明の画像表示装置によれば、新たな装置・技術を導入・開発することなく、歩留まりを向上させることが可能となる。有機EL発光素子の製造課題を解決する技術として、展開される可能性は極めて高い。
【符号の説明】
【0098】
101:画素A、102:画素B、103:TFT基板、104:反射電極、105:陽極層、106:正孔輸送層、107:有機EL発光層、108:電子輸送層、109:電子注入層、110:陰極層、111:封止用ガラス基板、112:画素膜厚A1、113:画素膜厚A2、114:画素膜厚B1、115:画素膜厚B2、116:窒素雰囲気
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL発光素子が各画素に配置された画像表示装置に関するものであり、特に、各画素において特定の波長を増強する共振器構造を有するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL発光素子は、電界を印加することによって陽極から注入された正孔と、陰極から注入された電子の再結合エネルギーによって、有機材料から成る発光層が発光する原理を利用した自発光素子である。C.W.Tangらにより、積層型素子による低電圧駆動有機EL発光素子の報告(非特許文献1)がなされて以来、有機材料を構成材料とする有機EL発光素子に関する研究が盛んに行われている。
【0003】
また、有機EL発光素子は、自発光による広い視野角や、充分な動画応答性を有していることから、ディスプレイ素子として理想的な特徴を有している。特に、薄く軽量で、耐衝撃性に優れるため、近年ではモバイル用途向けディスプレイ素子としての技術開発が盛んである。
【0004】
これまでの有機EL発光素子は、発光色の色純度を向上させ、あるいは光取り出し効率を高めるために、共振器構造を導入することにより、発光層で発生する光を制御してきた(特許文献1)。しかし、有機EL発光素子に共振器構造を設けた場合において、共振器性能をバラツキなく発揮させるには、光路長すなわち膜厚について非常に高い精度が要求されてくる。ここで、従来の基本的な共振器構造を説明する。図15は、従来の基本的な共振器構造の第1の例を示す模式的断面図である。図15において、1601は基板、1602は第1電極(反射膜)、1603はバッファ層、1604は正孔輸送層、1605は有機発光層、1606は半透明反射層(半透明反射膜)である。また図15において、1607は第2電極、1608は発光位置、1609は共振部の光学的距離Lを示す。
【0005】
図15に示すように、従来の共振器構造は、半透明反射層(半透明反射膜)1606と第1電極(反射膜)1602の間に有機発光層1605が挟持されている。そして、半透明反射層(半透明反射膜)1606から第1電極(反射膜)1602までの共振部の光学的距離L1609を制御するようになっている。共振条件を満たし、かつ通常用いられる程度のLを膜厚に換算すると、凡そ数10nm乃至数100nmであり非常に薄い。しかも各画素に有機EL発光素子を用いて画像表示装置を構成した際、色純度や光取り出し効率の面内バラツキを考慮するならば、画像表示の全領域において許容できる膜厚バラツキは極僅かになることが容易に推測される。
【0006】
これらの技術課題における対策としては、成膜時の膜厚バラツキを減らすことが重要かつ必要であることはいうまでもない。ただし、発光輝度に関しては、膜厚バラツキの影響を受けたとしても駆動で補正することが可能である。しかし、各画素の入力電力に対する輝度情報を読み取り、用意したメモリに修正データテーブルをストアする必要があり、新たな工程/部材が増えてコスト高になるデメリットはある。
【0007】
これらの技術課題に対して1つの画素内で共振器長が異なる領域を有する構造、若しくは隣接する画素間において共振器長が異なる構造が提案されている(特許文献2)。図16は、従来の基本的な共振器構造の第2の例を示す模式的断面図である。図16において、1701は画素、1702は隣接画素、1703は基板、1704は反射電極、1705は透明電極2、1706は透明電極1、1707は複数の有機層を示す。また、1708は第2電極、1709は接着層、1710はカラーフィルター、1711は封止基板、1712は保護膜を示す。また、1713乃至1718は、RGB画素それぞれの膜厚を示す。図16に示す例では、2種類の共振器長として、以下に示すL1、L2が、RGB画素の各膜厚構成として夫々設定される。
L1=Lave+ΔL、 L2=Lave−ΔL、 (2・Lave)/λ+Φ/(2π)=m
【0008】
ただし、
Lave :光学的距離L1と光学的距離L2との平均光学的距離
Φ :反射電極で生じる反射光の位相シフトΦ1と第2電極で生じる反射光の位相シフトΦ2との和(Φ=Φ1+Φ2)(rad)
λ :第2電極側から取り出したい光のスペクトルのピーク波長
m :Laveが正となる整数
【0009】
このように、干渉ピーク波長から同程度に前後にずらした2ピークを平均ピークとして用いることで、膜厚バラツキに対するピーク変化が緩和される。その結果として、若干の膜厚バラツキがあったとしても、発光特性の一部についてロバスト性を確保することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第01/39554号公報
【特許文献2】特開2007−234581号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】C.W.Tang、S.A.Vanslyke、Applied Physics Letters、51巻、913頁、1987年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、共振器構造を有する有機EL発光素子を画素として用いた画像表示装置においては、成膜時における膜厚バラツキが無視できず表示特性にバラツキが発生してしまう。
【0013】
例えば、特許文献1に示す共振器構造を有する有機EL発光素子を、画素として用いた画像表示装置においては、成膜工程において存在する膜厚ムラが画像表示領域における表示特性ムラになることが予想される。
【0014】
この課題を改善するため、特許文献2では、干渉条件を満たす素子膜厚Lから±ΔLずらした素子膜厚を有する2種の発光素子を組み合わせて用いている。こうすることにより、膜厚ムラに対する干渉特性を平均化することができ、表示特性ムラを抑えることが可能となる。ただし、干渉条件を満たす極値の前後は輝度変化が大きく、その干渉特性に追随して色度変化も大きくなる。このように、干渉条件のみに着目すると、色度変化に対する表示ムラを抑えられない場合がある。
【0015】
本発明は、上述した課題について、膜厚バラツキに対する表示特性(輝度、色度)のロバスト化を実現する構成を提示すると共に、このような構成を用いた画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の有機EL発光素子を用いた画像表示装置は、上述した目的を達成するため、以下の特徴点を備えている。すなわち、本発明の有機EL発光素子を用いた画像表示装置は、反射膜と半透明反射膜との間に有機EL発光層と有機層を挟持し、発光した光を反射膜と半透明反射膜の間で干渉させるものである。そして、任意の画素が2特性の画素群(A、B)で構成され、画素群(A、B)の各膜厚は、画素の膜厚変化に対する発光輝度の強度変化が凸形状を与える頂点の膜厚よりも、一方が薄く他方が厚い膜厚の組み合わせとなっている。これに加えて各画素群(A、B)の膜厚は、画素の膜厚変化に対する色度(CIEx、CIEy)の少なくとも1成分の色度変化が、凸形状を与える頂点の膜厚よりも一方が薄く他方が厚い膜厚の組み合わせとなっている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の有機EL発光素子を用いた画像表示装置によれば、隣接する同色画素間に相補的な効果を持たせることで、成膜時の膜厚バラツキが表示特性に及ぼす影響を緩和することが可能となる。このため、有機EL発光素子を用いた画像表示装置の歩留まりが向上し、低コスト化に大いに貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例1に係る有機EL発光素子の画素断面図。
【図2】本発明の実施例1に係る有機EL発光素子の配置図。
【図3】本発明の実施例1に係る有機EL発光素子におけるRef.、画素A、画素Bの発光特性図。
【図4】有機EL発光素子を駆動するアクティブマトリックス回路の例を示す回路図。
【図5】有機EL発光素子の画素断面図。
【図6】表示領域に存在する膜厚バラツキの説明図((a)は断面、(b)は上面)。
【図7】膜厚変化時の画素A及び画素Bの相関例1の説明図((a)は膜厚増加、(b)は膜厚減少)。
【図8】本発明を適用した際の表示領域に存在する膜厚バラツキ例の説明図。
【図9】膜厚変化時の画素A及び画素Bの相関例2の説明図((a)は膜厚増加、(b)は膜厚減少)。
【図10】2つの画素膜厚に対する等高線グラフ。
【図11】異なる極値に対して画素Aと画素Bを設定した際の画素膜厚に対する等高線グラフ。
【図12】画素群A及び画素群Bの平面配置例の説明図(ストライプ配列)。
【図13】画素群A及び画素群Bの平面配置例の説明図(デルタ配列)。
【図14】本発明の実施形態で用いた有機材料の化学構造式の説明図。
【図15】従来例1の画素断面図。
【図16】従来例2の画素断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態に係る有機EL発光素子を用いた画像表示装置は、発光画素を有している。発光画素とは、反射膜(反射電極)と半透明反射膜(透明電極)との間に有機EL発光層と有機層を挟持し、発光した光を反射膜と半透明反射膜との間で干渉させるようになっている画素をいう(図5参照)。そして、任意の画素が2特性の画素群で構成され、画素群の各膜厚は、画素の膜厚変化に対する発光輝度の強度変化が凸形状を与える頂点の膜厚よりも、一方が薄く他方が厚い膜厚の組み合わせとなっている。同時に、画素の膜厚変化に対する色度(CIEx、CIEy)の少なくとも1成分の色度変化が、凸形状を与える頂点の膜厚よりも一方が薄く他方が厚い膜厚の組み合わせとなっている。
【0020】
ここで、発光輝度の強度変化が凸形状を与える頂点の膜厚とは、干渉条件を満たす1種類の膜厚構成でもよいし、若しくは干渉条件を満たし膜厚の異なる2種類の膜厚構成でもよい。また、2特性の画素群は、平面的にみて1ピクセル毎に市松模様の関係、若しくはそれに準ずる程度で交互配置されていることが好ましい。また、色度(CIEx、CIEy)の少なくとも1つの色度変化とは、緑色画素のCIEy変化であることが好ましい。詳細については後述する。
【0021】
ところで、有機EL発光素子を用いて、文字や絵を表示するためには、素子をマトリックス状に配置して表示装置の形態とすることが必要となる。有機EL発光素子をマトリックス状に配置する方式としては、いわゆるXY単純マトリックス型で時分割のデューティ駆動をさせる方式と、薄膜トランジスタ(TFT)などのアクティブ素子を画素毎に配置したアクティブ駆動方式とが一般的である。単純マトリックス方式は、十分な輝度を得るために素子に大きな電流を流す必要があるため耐久性の面で不利となる。現在、実用に最も近いのはアクティブ駆動型と考えられているが、本発明はアクティブ駆動型に限定されるものではない。
【0022】
以下、図面を参照して、本発明に係る有機EL発光素子を用いた画像表示装置の実施形態を説明する。なお、以下の説明では、画素及び画素群に同一の符号を付して説明する場合がある。
【0023】
図4は、本発明の実施形態に係る画像表示装置、例えば、アクティブマトリックス型画像表示装置の構成例を示す回路図である。図4に示す例では、画素回路501がマトリックス状に多数配置されて表示領域を構成している。ここでは、図面の簡略化のために、i行乃至i+1行、i列乃至i+1列の2行2列分の画素配列を例にとって示している。この表示領域には、画素回路501の各々に対して、走査信号Y(i)乃至Y(i+1)が順に与えられる。これによって、各画素506を行単位で選択する走査線502と、各画素に画像データ、例えば輝度データX(i)乃至X(i+1)を供給する信号線503とが配線されている。以下の説明では、画素回路501として、i行i列の画素(i,i)を例にとって説明する。ただし、他画素の画素回路501についても、全く同じ回路構成となっている。なお、画素回路としては、この回路例に限定されるものではない。
【0024】
この画素回路501は、画素を選択するための選択素子部507と、駆動素子部508のゲート電圧を維持するための保持容量部510と、有機EL発光素子509を駆動するための駆動素子部508とを有する構成となっている。なお選択素子部507と駆動素子部508とを合わせて画素トランジスタと呼ぶ。そして、輝度データが信号線503から電圧の形で与えられ、有機EL発光素子509にはデータ電圧に応じた電流が流れるようになっている。
【0025】
具体的な接続関係として、有機EL発光素子509は、その陽極が電源線504(電源電圧Vdd)に接続されている。駆動素子部508は、有機EL発光素子509の陰極とグランド線505との間に接続されている。保持容量部510は、駆動素子部508のゲートとグランド線505との間に接続されている。選択素子部507は、信号線503と駆動素子部508のゲートとの間に接続され、そのゲートが走査線502に接続されている。選択素子部507と駆動素子部508は、薄膜トランジスタ(TFT)で構成され、必要電流量やサブピクセルサイズにより、アモルファスシリコン半導体、ポリシリコン半導体、低温ポリシリコン半導体、透明酸化物半導体を選択することが可能である。
【0026】
以下、注目画素(群)を画素(群)A、その近傍の同色画素(群)を画素(群)Bと定義する。また、以下の説明では、画素若しくは画素群の表現は内容に応じて適宜使い分ける。また、画素膜厚とは、図5に示すように有機EL発光素子内で発光した光が素子内部で多重干渉・反射するために必要となる界面間の画素膜厚607を意味する。図5は、有機EL発光素子の画素断面図である。なお、図5において、601は基板、602は反射電極、603は有機層、604は発光層、605は透明電極、606は空気界面、607は画素膜厚をそれぞれ示す。
【0027】
この有機EL発光素子では、画素膜厚607を2つ(n次で共振する画素膜厚1、n+1次で共振する画素膜厚2)含んでいるが、以下の原理説明部においては画素膜厚を1つとする。
【0028】
また、異なる色で発光する素子の発光効率を比較するための指標として、「輝度/CIEy」を定義する。CIEyは、CIE1931標準表色系で定義されているxy色度図におけるy値である。輝度が刺激値Yと一致するようにとれば、y=Y/(X+Y+Z)より、「輝度/CIEy」は3刺激値和となる。「輝度/CIEy」は、同じ輝度で発光する素子においてCIEyが異なると、その分だけ駆動電力が異なることを意味する。すなわち、「輝度/CIEy」値が高いほど、相対的に発光効率は高くなり、同輝度を発光するための駆動電力は相対的に少なくなる。実際にデバイスを制御する際は、電力を制御するので、「輝度/CIEy」で考えることは便利である。以下、説明に応じて、輝度、輝度/CIEyを使い分ける。色度表現としてはCIE−XYZ表色系のxy色度図が多く用いられるが、目的に応じてCIELUV空間、CIELAB空間などで表現しても構わない。
【0029】
図6は、画像表示装置の表示領域において、有機EL発光素子の膜厚バラツキの発生例を説明する説明図であり、図6(a)は断面図、図6(b)は上面図である。図6において、701は画素A、702は画素B、703は膜厚変動(膜厚バラツキ)、704は目標膜厚、705は表示領域、706は等価膜厚線をそれぞれ示す。
【0030】
基板へ有機層を成膜するには、原料の有機材料を金属製坩堝に配置し、真空チャンバー内において坩堝を加熱し、有機材料を昇華・蒸発させる手法が一般的である。この成膜手法は、蒸発源と基板の距離が近いほど膜厚が厚く、距離が遠いほど膜厚が薄くなる傾向にある。この現象は蒸発の指向性、及び蒸発材料の拡散距離に依存したものであり、再現性は比較的高い。そのため、蒸着源が基板中心に位置している場合は、図6(a)、図6(b)に示すような膜厚バラツキを生じやすい。
【0031】
また、無機膜の電極層などは、スパッタ成膜による手法が一般的である。例えば、RF対向スパッタ成膜の場合は、プラズマ密度の分布が成膜バラツキに強い相関がある。プラズマ密度の分布は装置構成に依存するものであり、これについての再現性も比較的高い。スパッタ成膜は、真空加熱蒸着に比べて膜厚バラツキが少ないものの、領域全体で±3乃至±5%以内というのが一般的である。
【0032】
図6(a)から明らかなように、隣接する画素A、画素Bでの画素膜厚の差は小さいので、それによる発光特性の差は問題となりにくい。問題となるのは、表示領域スケールで存在する緩やかな膜厚バラツキである。特に、有機EL発光素子に共振器構成を用いている場合、面内の平均膜厚±5%レベルの膜厚バラツキがあれば、輝度特性、色度特性の変化として充分認識される。
【0033】
図7は、膜厚バラツキに対して輝度をロバスト化する場合を示すもので、膜厚変化時の画素A及び画素Bの相関例1の説明図である。図7において、801は画素A、802は画素B、803は画素A’、804は画素B’、805は極大値、806は画素A’’、807は画素B’’をそれぞれ示す。
【0034】
まず、輝度をロバスト化したい場合は、膜厚変化に対し輝度が相補的に変化するように、画素群A801と画素群B802の画素膜厚を構成する。ここで、相補的に変化するとは、例えば画素膜厚が増加(減少)した場合に、画素A801の輝度は増加(減少)し、画素A’803(A’’806)へ特性が変化することを意味する。また、画素B802の輝度は減少(増加)し、画素B’804(B’’807)へ特性が変化することを意味する。画素膜厚が増加/減少しようとも、画素A801と画素B802がこのような関係を維持して変化すれば、画素A801と画素B802の平均的な輝度特性は、膜厚変化に対して変化が小さい、所謂ロバスト化されたものとなる。すなわち、画素群A801と画素群B802の輝度が相補特性を有するには、画素膜厚の変化に対する輝度の変化が、画素群A801と画素群B802とで、どちらか一方は増加し、一方は減少することが必要である。
【0035】
このような画素群Aと画素群Bの関係を実現するには、図8に示すような画素膜厚の変化をする2つの組み合わせが必要である。図8は、本発明を適用した際の表示領域に存在する膜厚バラツキ例の説明図である。図8において、901は画素A、902は画素B、903は画素A’、904は画素B’、905は画素A’’、906は画素B’’、907及び908は膜厚変動(膜厚バラツキ)、909は輝度の極大値近傍を与える画素膜厚をそれぞれ示す。
【0036】
画素A901と画素B902の膜厚バラツキ(907、908)を略相似とするには、同じ成膜工程で成膜量が異なるように調整すればよい。膜厚バラツキ(907、908)が略相似であるため、表示領域内における注目画素(画素A901)の位置が移動しても、画素群A901と画素群B902の画素膜厚の差は略一定となる。そして、輝度の極大値を、画素A901と画素B902で挟むよう夫々の画素膜厚を決定すれば、相補機能を持つ画素A901と画素B902の組み合わせを実現できる。
【0037】
しかし、現実には輝度だけではなく、輝度及び色度の双方についてロバスト性を考慮すべきである。図9を用いて、膜厚バラツキに対して輝度及び色度をロバスト化する場合について説明する。図9は、膜厚変化時の画素A及び画素Bの相関例2の説明図である。図9において、1001は画素A、1002は画素B、1003は画素A’、1004は画素B’、1005は極大値、1006は目標色度、1007は画素A’’、1008は画素B’’をそれぞれ示す。
【0038】
例えば、画素膜厚に対する色度座標のグラフを書いたときに、目標色度1006が鋭い極大形状である場合を想定する。この場合は、緩やかに輝度が変化する領域を用いて、目標色度1006の極大値を挟み込むように画素(群)A1001、画素(群)B1002を設定する。緩やかに輝度が変化する領域を選択するために、干渉輝度最大を与える構成の膜厚付近は避ける。
【0039】
すると、画素膜厚が増加・減少しても、画素A1001と画素B1002による平均輝度は略一定で、画素A1001とB1002のどちらか一方は目標色度1006に近づくことになる。このように画素A1001、画素B1002を設定することで、膜厚バラツキに対する色度バラツキを減少することができる。この場合において、画素群A1001と画素群B1002の色度が相補特性を有するには、画素膜厚の変化に対する色度座標の変化が、画素群A1001と画素群B1002とで、どちらか一方は増加し、一方は減少することが必要である。
【0040】
本説明では、画素膜厚が1つの場合を説明したが、実際には2つ以上の画素膜厚(共振器構成)を含む素子構成が多い。その際は、画素膜厚を例えば2軸にとり、図10に示すような輝度と色度に関する等高線グラフを作成するなどして相補特性を満たす画素群の組み合わせを考える。ここで、輝度の等高線グラフにおいて1つの凸形状を与える場合を、1つの干渉条件を満たすと考える。この条件を実現するには、凸形状の頂点を与える画素膜厚1及び画素膜厚2の膜厚を満たす素子構成が必要となる。
【0041】
図10は、色度の目標座標が極大値である場合において、膜厚バラツキに対して輝度、色度をロバスト化した場合の一例を示すものであり、2つの画素膜厚に対する等高線グラフである。図10において、1101は画素A、1102は画素B、1103は輝度の極大値、1104は目標色度、1105は輝度の等高線グラフ、1106は色度の等高線グラフをそれぞれ示す。
【0042】
画素A1101、画素B1102は、極大形状を与える目標色度1104を挟み込み、かつ、膜厚変化に対して輝度が緩やかに相補的に変化する膜厚構成に設定している。必ずしも輝度最大を与える頂点1103をはさむ必要はないが、輝度の変化が凸となる両端部に画素A、画素Bを設定することが必要である。このようにすることで膜厚バラツキに対して、輝度変化を抑えつつ色度変化も補正することが可能となる。
【0043】
また、画素A1101と画素B1102を、異なる2つの極大値(凸形状の頂点)に対して夫々設定することも可能である。ここで、輝度の等高線グラフ1105において、2つの凸形状を与える場合を、2つの干渉条件と考える。「画素膜厚1、画素膜厚2」の個別の干渉次数として、「a、b」と「a、b+1」の2つ、若しくは「a、b」と「a+1、b」の2つのような条件を意味する。
【0044】
例えば、図11は、画素膜厚1を固定して、画素膜厚2を厚くし画素膜厚2に関する干渉次数を+1増し、2つの極大値を考慮したもので、異なる極値に対して画素Aと画素Bを設定した際の画素膜厚に対する等高線グラフである。図11において、1201は画素A、1202は画素B、1203は輝度の極大値、1204は目標色度、1205は輝度の等高線グラフ、1206は色度の等高線グラフをそれぞれ示す。
【0045】
「画素膜厚1、画素膜厚2」の個別の干渉次数としては、「a、b」と「a、b+1」の2つに相当する。この場合は、画素A1201を干渉次数(a、b)頂点の膜厚構成より薄い側、画素B1202を干渉次数(a、b+1)頂点の膜厚構成より厚い側に設定する。このような構成を選択する理由としては、画素膜厚2(画素膜厚1を除く)に陰極が含まれ、陰極厚さを増やすことによる配線抵抗を低下できる場合が考えられる。先程と同様に画素Aと画素Bは輝度最大を与える頂点1203をはさむ必要はないが、輝度の変化が凸となる両端部に画素A、画素Bを設定することは必要である。
【0046】
本発明の画像表示装置における画素群Aと画素群Bの配置については、平面的にみて1ピクセル毎に隣接配置されていることが好ましい。交互に隣接配置することで、画素群Aと画素群Bの特性を効果的に平均化することができる。例えば、ピクセル配置がストライプ配置の場合は、図12に示すような市松模様に配置すれば、画素群Aと画素群Bを交互に隣接した配置が可能である。図12は、画素群A及び画素群Bの平面配置例の説明図である。図12において、1301はRed_画素A、1302はGreen_画素A、1303はBlue_画素A、1304はRed_画素B、1305はGreen_画素B、1306はBlue_画素Bをそれぞれ示す。
【0047】
また、現在、ストライプ配置以外にも様々なピクセル配置が考えられているが、市松模様に準ずるよう略交互に隣接配置すれば問題ない。例えば、図13にデルタ配置における画素群Aと画素群Bの配置例を示す。図13は、画素群A及び画素群Bの平面配置例の説明図である。図13において、1401はRed_画素A、1402はGreen_画素A、1403はBlue_画素A、1404はRed_画素B、1405はGreen_画素B、1406はBlue_画素Bをそれぞれ示す。
【0048】
本発明の画像表示装置は、人の視認限界以上の高解像度な画素形態で実施されることが望ましい。そうすれば、画素群Aと画素群Bの夫々が相補変化する様子は区別認識できず、実質的に画素群Aと画素群Bで平均化された発光特性が認識されるはずである。実際にどの程度の解像度にするかは、アプリケーション仕様により決定されるべきだが、例えば対角3“パネルサイズならば100乃至150ppi以上の解像度があることが好ましい。
【0049】
本発明の画像表示装置における画素群Aと画素群Bは、有機EL発光素子を構成する少なくとも1層以上の膜厚が夫々異なるものとする。どの層を変化させ相補的に機能させるかは、プロセス条件、タクト、コストなど、その他要件も考慮して決める。
【0050】
表示領域の全色に対して、本発明を適用する必要はなく、特定の1色に対して本発明を適用しても構わない。例えば、最も視感度の高い緑色のみに適用することは、プロセスコストを考慮すると非常に効果的である。
【0051】
加えて、表示領域全体において本発明の効果を発揮させることが望ましいが、素子構成から決まる「輝度、色度」の特性、並びに画素群Aと画素群Bの設定膜厚の関係から完全に実現できない場合もありうる。しかし、本発明を適用しない場合に比較して、如何に表示領域全体での特性効率を落とさずに特性バラツキを抑えられるかは、あくまでチューニング作業の範疇である。
【0052】
次に、本発明の実施形態に係る画像表示装置、特に表示パネル部について説明する。基板に対する光取り出し方向の違いから、デバイス構成は大きく2種類(ボトムエミッション、トップエミッション)に分別される。ボトムエミッション構成の場合は、基板を透過して光を取り出すために、ガラス基板、透明電極、有機EL発光素子、反射電極という順で設けられているのが一般的である。また、トップエミッション構成の場合は、基板の反対側へ光を取り出すために、ガラス基板、反射電極、有機EL発光素子、透明電極という順で設けられているのが一般的である。ボトムエミッション構成、トップエミッション構成の夫々に長所、短所があり、アプリケーションに応じて適切に構成を選択する。反射電極は、金属膜、若しくは透明電極と金属膜を併用した組み合わせでも問題なく、設計仕様を満たすように適宜選択することが可能である。そして、有機EL発光素子の大気接触側には、吸湿材を内部に配したガラスキャップ、若しくは充分な防湿機能を有する封止膜が設置され、デバイスの雰囲気安定性を確保する。
【0053】
これらの構成要素について、さらに詳細に説明する。有機EL発光素子を形成する基板としては、ガラス、Siウエハ、アルミナなどのセラミック、透明樹脂、ステンレスに絶縁膜を付けたものなど基板が用いられる。ボトムエミッション構成では、光透過性のよい部材を使用する。基板上には、素子駆動用の配線、トランジスタ部、駆動素子部のトランジスタのゲート電圧を保持するための保持容量部、上記電子デバイスを各々導通させるための配線がホトリソ工程により形成・配置されている。なお、素子駆動用の配線は、電源線、信号線、選択線、グランド線からなり、トランジスタ部は、駆動素子部、選択素子部からなる。
【0054】
有機EL発光素子における電極として、陽極は、正孔を正孔輸送層に注入する役割を担うものであり、4.5eV以上の仕事関数を有することが効果的である。本発明に用いられる陽極材料は特に限定されるものではないが、例えば、酸化インジウム錫合金(ITO)、酸化インジウム、酸化亜鉛系等の酸化物透明電極材料を用いることができる。
【0055】
また、陰極としては、電子輸送帯又は発光層に電子を注入する目的で、仕事関数の小さい材料が好ましい。陰極材料は特に限定されない。具体的にはインジウム、アルミニウム、マグネシウム、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、アルミニウム−リチウム合金、アルミニウム−スカンジウム−リチウム合金、マグネシウム−銀合金、並びにこれらの混合物等を使用できる。ここで、これらの電極は、陽極、陰極のうち何れかの電極が可視光の領域において透明で、もう一方の電極が高反射率を有するものとする。また、これらの電極の厚さは、電極として本来の機能を果たす厚さであれば特に限定されることはないが、好ましくは0.02μm乃至2μmの範囲である。
【0056】
本発明における有機EL発光部の素子構造は、上記電極間に有機層を1層あるいは2層以上積層した構造であり、特にその構造に制約を受けない。例として、次の5つを挙げることができる。
(1)陽極、発光層、陰極
(2)陽極、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、陰極
(3)陽極、正孔輸送層、発光層、陰極
(4)陽極、発光層、電子輸送層、陰極
(5)陽極、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極
【0057】
正孔輸送層、発光層、電子輸送層、正孔注入層、電子注入層に用いられる有機化合物は、低分子材料、高分子材料若しくはその両方により構成され、特に限定されるものではない。さらに、必要に応じて無機化合物を用いてもよい。
【0058】
以下に、これらの化合物例を挙げる。
【0059】
正孔輸送性材料としては、陽極からの正孔の注入を容易にし、また注入された正孔を発光層に輸送するに優れた移動度を有することが好ましい。正孔注入輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、次のものが用いられる。例えば、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、オキサゾール誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、及びポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(シリレン)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられる。もちろん、これらに限定されるものではない。
【0060】
発光材料としては、発光効率の高い蛍光材料や燐光材料が用いられる。本発明に用いられる発光材料は特に限定されず、通常発光材料として使用されている化合物であれば何を使用してもよい。例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム錯体(Alq3)やビスジフェニルビニルビフェニル(BDPVBi)、1,3−ビス(p−t−ブチルフェニル−1,3,4−オキサジアゾールイル)フェニル(OXD−7)、N,N’−ビス(2,5−ジ−t−ブチルフェニル)ペリレンテトラカルボン酸ジイミド(BPPC)、1,4ビス(p−トリル−p−メチルスチリルフェニルアミノ)ナフタレンなどである。
【0061】
電子輸送性材料としては、注入された電子を発光層に輸送する機能を有するものから任意に選ぶことができ、正孔輸送材料のキャリア移動度とのバランス等を考慮し選択される。電子注入輸送性能を有する材料としては、次のものが用いられる。例えば、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、ペリレン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フルオレノン誘導体、アントロン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機金属錯体等が挙げられる。もちろん、これらに限定されるものではない。
【0062】
正孔注入材料としては、MoO3,WO3,V2O5等の遷移金属酸化物や、銅フタロシアニン(Cupc)等が挙げられる。
【0063】
また、電子注入材料としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属、若しくはその化合物等が挙げられ、前述した電子輸送性材料に、0.1%以上数十%以下含有させることにより、電子注入性を付与することができる。電子注入層は、必要不可欠な層ではないが、この後に、透明陰極を形成する際の成膜時に受けるダメージを考慮すると、良好な電子注入性を確保するために10nm以上100nm以下程度挿入した方が好ましい。
【0064】
また、陽極、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、正孔注入層、電子注入層、陰極の製造方法としては、一般に真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング、プラズマにより形成する方法がある。また、適当な溶媒に溶解させて、公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により形成することもできる。ただし、本発明を適用するには、表示領域内に発生する膜厚バラツキ、膜厚を正確に把握していることが必要である。加えて、膜厚バラツキ、膜厚値の再現性が得られる場合においてのみ、成膜手法を自由に選択することができる。
【0065】
陽極、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、正孔注入層、電子注入層、陰極の成膜が終わった後に、酸素や水分等との接触を防止する目的で保護層が設けられる。保護層としては、窒化シリコン、窒化酸化シリコン等の金属窒化物膜や、酸化タンタル等の金属酸化物膜、ダイヤモンド薄膜を挙げることができる。また、フッ素樹脂、ポリパラキシレン、ポリエチレン、シリコン樹脂、ポリスチレン樹脂等の高分子膜、さらには、光硬化性樹脂等を用いてもよい。トップエミッション構成の場合は、光取り出し側の透明陰極上に保護層が形成されるので、透湿度/透明度の仕様を満たす必要がある。
【0066】
また、ガラス、気体不透過性フィルム、金属などをカバーし、適当な封止樹脂により素子自体をパッケージングすることもできる。また、防湿性を高めるために、保護層内に吸湿材を含有させてもよい。
【実施例】
【0067】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、画像表示装置における画素領域を取り上げて詳細に説明するが、他の画素領域部についても同様である。
【0068】
有機EL発光素子の同色画素の構成膜厚を1つの設計値に固定して成膜したものをリファレンス(以下、Ref.と記す)とし、Ref.を相補するために設定した2つの画素を画素A、画素Bとする。
【0069】
<実施例1>
実施例1では、緑色のみの発光素子を用いた画像表示装置において、膜厚バラツキに対する輝度、色度のロバスト化を達成した。
【0070】
図1に、本発明を適用した画像表示装置における有機EL発光素子の断面図を示す。また、下記表1に、本実施例で用いたRef.、画素群A、画素群Bについての膜厚構成を示す。画素膜厚1の領域では正孔輸送層106、画素膜厚2の領域では陰極層110の膜厚を変更することで、画素A101、画素B102を設定した。図3の光学シミュレーションによる相対輝度の等高線グラフ中に、Ref.、画素群A、画素群Bの設定膜厚の関係を示す。
【0071】
画素配置としては、図2に示すような1画素サイズ60μm×90μm、画素間部40μm、640×480画素で、緑色1色のみの表示装置を作製した。画素A201と画素B202を1ピクセル毎に市松模様に配置し、画素群A、画素群Bとした。Ref.についても同様の構成で、緑色1色のみの640×480画素を配置した。また、図14に本実施例で用いた有機材料の化学構造式を示す。
【0072】
図3に示すように、画素膜厚に対する色度マップによると、緑色CIEyの目標色度近傍が極大値形状を有している。そのため、「輝度/CIEy」の値が膜厚バラツキに対して急激に変化しない領域に、画素群A、画素群Bを設定した。具体的には、「輝度/CIEy」の極大値直上を跨ぐのではなく、等高線の等位線上の近辺を選んだ。このように、輝度及び色度の双方を相補できるように考慮した。
【0073】
上述した有機EL表示装置は、以下に示す方法で作成した。まず、支持体としてのガラス基板上に、低温ポリシリコンからなるTFT駆動回路を形成した。1画素の位置座標[X(i)、Y(i)]に対応した電流及び信号を制御供給できるように配線した。具体的には、画素長辺に沿ってグランド線、信号線、共通電源線を配置し、画素短辺に沿って走査線を配置した。その上にアクリル樹脂からなる平坦化膜を形成してTFT基板103とした。
【0074】
さらに、この上に反射性金属のAg合金(AgPdCu)を約100nmスパッタリング法にて形成して反射電極104をパターニングし、透明導電膜のITOをスパッタリング法にて77nm形成して陽極層105をパターニングした。さらに、アクリル樹脂により素子分離膜を形成し、陽極付き基板を作成した。これをイソプロピルアルコール(IPA)で超音波洗浄し、次いで、煮沸洗浄後乾燥した。その後、UV/オゾン洗浄してから、有機化合物を真空蒸着により成膜した。
【0075】
洗浄された陽極層105上に、正孔輸送層106としてFL03を成膜した。画素Aと画素Bの膜厚を塗り分けるためにシャドーマスクを用い、画素群Aの正孔輸送層として110nm、画素群Bの正孔輸送層として130nmを成膜した。この際の真空度は1×10-4Pa、蒸着レートは、0.2nm/secであった。
【0076】
次に、有機EL発光層107として、シャドーマスクを用いて、Green発光層を成膜した。Green発光層としては、ホストとしてAlq3と、発光性化合物クマリン6を共蒸着して40nmの発光層を設けた。蒸着時の真空度は1×10-4Pa、成膜速度は0.2nm/secの条件で成膜した。
【0077】
さらに、共通の電子輸送層108として、バソフェナントロリン(Bphen)を真空蒸着法にて10nmの膜厚に形成した。蒸着時の真空度は1×10-4Pa、成膜速度は0.2nm/secの条件であった。次に、共通の電子注入層109として、BphenとCs2CO3を共蒸着(重量比90:10)し、20nmの膜厚に形成した。蒸着時の真空度は3×10-4Pa、成膜速度は0.2nm/secの条件であった。
【0078】
この電子注入層109まで成膜した基板を、真空を破ること無しにスパッタ装置に移動し、陰極層(透明陰極)110としてIZOを成膜した。画素AのIZO膜は60nm、画素BのIZO膜は70nmとして成膜した。さらに、吸湿剤を内側に配した封止用ガラス基板111を封止用接着剤で封着し、有機EL表示装置を得た。
【0079】
Ref.の膜厚値は、下記表1に示すように、正孔輸送層を120nm、陰極のIZO膜厚を65nmとし、それ以外の膜厚については、画素A、画素Bと同じである。
【0080】
【表1】
【0081】
作製した有機EL表示装置において、1フレーム16.7msecにプログラミングされた駆動信号を駆動ドライバに入力し、各画素回路から有機EL発光素子へ発光電流を供給した。そして、画素群A、画素群Bの各膜厚値における上限値、平均値、下限値と思われる領域の発光を測定した。
【0082】
Ref.品と相補品の測定結果を、下記表2に示す。相補することで、膜厚バラツキに対する輝度のバラツキ幅は13.9%から13.3%(対自己平均値でのバラツキ比)となり、色度のバラツキ幅はCIEx:0.105から0.082と小さくなり、また、CIEy:0.026から0.014と小さくなった。この結果から明らかなように、膜厚バラツキに対する輝度及び色度のロバスト性向上が認められた。
【0083】
【表2】
【0084】
<実施例2>
実施例2における発光素子の作製方法、及び画像表示装置の構成は、実施例1に順ずるものである。ただし、画素Aと画素Bは、図3のマップ図に示す1つの極値を挟むように構成するのではなく、異なる2つの極値について設定した。そのため、(HTL膜厚、IZO膜厚)を下記表3に示すように、画素A(110,60)、画素B(130,205)の組み合わせとした。本実施例においては、表示装置全画素の半分の陰極厚さを厚くすることで配線抵抗を下げる副次的な効果を狙った。
【0085】
【表3】
【0086】
作製した有機EL表示装置において、1フレーム16.7msecにプログラミングされた駆動信号を駆動ドライバに入力し、各画素回路から有機EL発光素子へ発光電流を供給した。そして、画素群A、画素群Bの各膜厚値における上限値、平均値、下限値と思われる領域の発光を測定した。
【0087】
Ref.品と相補品の測定結果を、下記表4に示す。相補することで、膜厚バラツキに対する輝度のバラツキ幅は13.9%から13.2%(対自己平均値でのバラツキ比)と小さくなり、色度のバラツキ幅はCIEx:0.105から0.085と小さくなり、CIEy:0.026から0.016と小さくなった。この結果から明らかなように、膜厚バラツキに対する輝度及び色度のロバスト性向上が認められた。さらに、本実施例では、陰極の配線抵抗を低下させたことによる消費電力の低下についても確認できた。
【0088】
【表4】
【0089】
<実施例3>
実施例3では、緑色素子のみに相補画素群(A,B)を設定したRGBフルカラーの画像表示装置を作製した。パネルサイズは3”QVGA(150ppi)で、横320ピクセル×縦240ピクセル×3色のストライプ配列とした。発光面積のエリアは、各色の素子分離膜、BM配置等の関係から40%開口とした。発光素子の作製方法、及び画像表示装置の基本構成は、実施例1に順ずるものである。下記表5に赤色素子の具体的な膜厚構成を示し、下記表6に緑色素子の具体的な膜厚構成を示し、下記表7に青色素子の具体的な膜厚構成を示す。
【0090】
【表5】
【0091】
【表6】
【0092】
【表7】
【0093】
作製した有機EL表示装置において、1フレーム16.7msecにプログラミングされた駆動信号を駆動ドライバに入力し、各画素回路から有機EL発光素子へ発光電流を供給した。そして、画素群A、画素群Bの各膜厚値における上限値、平均値、下限値と思われる領域の緑色発光を測定した。下記表8に、相対輝度と色度のバラツキ幅についての測定データを示す。
【0094】
【表8】
【0095】
Ref.品と相補品の測定結果を比較した。相補することで、膜厚バラツキに対する輝度のバラツキ幅は14.9%から11.3%(3.6%減)と小さくなり、色度のバラツキ幅はCIEx:0.107から0.082と小さくなり、CIEy:0.055から0.038と小さくなった。このように、相補することにより、膜厚バラツキに対する輝度及び色度のロバスト性向上が認められた。
【0096】
このように、視感度の高い緑色の発光特性をロバスト化したRGBフルカラーの画像表示装置を作製することができた。
【産業上の利用可能性】
【0097】
ディスプレイやモニターに代表される画像表示装置のコストダウン施策において、マザー基板の大型化は必至である。有機EL表示装置においてもこの流れは確実だが、有機EL発光素子のような薄膜デバイスを大面積/均一に形成することは非常に難しい。しかし本発明の画像表示装置によれば、新たな装置・技術を導入・開発することなく、歩留まりを向上させることが可能となる。有機EL発光素子の製造課題を解決する技術として、展開される可能性は極めて高い。
【符号の説明】
【0098】
101:画素A、102:画素B、103:TFT基板、104:反射電極、105:陽極層、106:正孔輸送層、107:有機EL発光層、108:電子輸送層、109:電子注入層、110:陰極層、111:封止用ガラス基板、112:画素膜厚A1、113:画素膜厚A2、114:画素膜厚B1、115:画素膜厚B2、116:窒素雰囲気
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射膜と半透明反射膜との間に有機EL発光層と有機層を挟持し、発光した光を前記反射膜と前記半透明反射膜との間で干渉させる発光画素を有する画像表示装置において、
任意の画素が2特性の画素群(A,B)で構成され、画素群(A,B)の各膜厚は、画素の膜厚変化に対する発光輝度の強度変化が凸形状を与える頂点の膜厚よりも、一方が薄く他方が厚い膜厚の組み合わせであり、
かつ画素の膜厚変化に対する色度(CIEx、CIEy)の少なくとも1成分の色度変化が凸形状を与える頂点の膜厚よりも、一方が薄く他方が厚い膜厚の組み合わせであることを特徴とする有機EL発光素子を用いた画像表示装置。
【請求項2】
前記発光輝度の強度変化が凸形状を与える頂点の膜厚とは、干渉条件を満たす1種類の膜厚構成であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL発光素子を用いた画像表示装置。
【請求項3】
前記発光輝度の強度変化が凸形状を与える頂点の膜厚とは、干渉条件を満たす2種類の膜厚構成であり、画素の一方はその1種類の膜厚より薄く、画素の他方は他の1種類の膜厚より厚いことを特徴とする請求項1に記載の有機EL発光素子を用いた画像表示装置。
【請求項4】
前記2特性の画素群(A,B)は、平面的にみて1ピクセル毎に市松模様の関係、若しくはそれに準ずる程度で交互配置されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の有機EL発光素子を用いた画像表示装置。
【請求項5】
前記色度(CIEx、CIEy)の少なくとも1成分の色度変化とは、緑色のCIEyの変化であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の有機EL発光素子を用いた画像表示装置。
【請求項1】
反射膜と半透明反射膜との間に有機EL発光層と有機層を挟持し、発光した光を前記反射膜と前記半透明反射膜との間で干渉させる発光画素を有する画像表示装置において、
任意の画素が2特性の画素群(A,B)で構成され、画素群(A,B)の各膜厚は、画素の膜厚変化に対する発光輝度の強度変化が凸形状を与える頂点の膜厚よりも、一方が薄く他方が厚い膜厚の組み合わせであり、
かつ画素の膜厚変化に対する色度(CIEx、CIEy)の少なくとも1成分の色度変化が凸形状を与える頂点の膜厚よりも、一方が薄く他方が厚い膜厚の組み合わせであることを特徴とする有機EL発光素子を用いた画像表示装置。
【請求項2】
前記発光輝度の強度変化が凸形状を与える頂点の膜厚とは、干渉条件を満たす1種類の膜厚構成であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL発光素子を用いた画像表示装置。
【請求項3】
前記発光輝度の強度変化が凸形状を与える頂点の膜厚とは、干渉条件を満たす2種類の膜厚構成であり、画素の一方はその1種類の膜厚より薄く、画素の他方は他の1種類の膜厚より厚いことを特徴とする請求項1に記載の有機EL発光素子を用いた画像表示装置。
【請求項4】
前記2特性の画素群(A,B)は、平面的にみて1ピクセル毎に市松模様の関係、若しくはそれに準ずる程度で交互配置されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の有機EL発光素子を用いた画像表示装置。
【請求項5】
前記色度(CIEx、CIEy)の少なくとも1成分の色度変化とは、緑色のCIEyの変化であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の有機EL発光素子を用いた画像表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−281953(P2010−281953A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134064(P2009−134064)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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