説明

有機EL素子およびそれを用いた発光装置

【課題】 電極として銀薄膜を用いた場合において、低電圧化および発光効率の高い有機EL素子を提供する。
【解決手段】 基板10の上に、第1電極11と有機化合物層12と第2電極15とを有し、第2電極15から光が取り出される有機EL素子において、第2電極15が、基板10側から下地層13と、金属層14と、を順に有し、金属層14は、Agを含み、膜厚が5.0nm以上20nm以下である金属層であり、下地層13は、リチウムと、酸素と、マグネシウムと、を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極として銀薄膜を用いた構成において、高い発光効率を有する有機EL素子とそれを用いた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、第1電極と第2電極とその2つの電極の間にある有機化合物層で構成され、有機化合物層内の発光層で発光した光は、第1電極または第2電極のうち一方の電極(光取り出し電極)から光が取り出される。そして、光取り出し電極として、電気伝導率、可視光域の透過率が高い金属である銀薄膜を用いることが提案されている。
【0003】
しかし、一般的に20nm以下の銀薄膜は、連続膜ではなく不連続な膜となり、電気導電率が小さくなるだけでなく、可視光領域の光に対して局所表面プラズモン共鳴による吸収が生じ、透過率が低下してしまう。このような銀薄膜の局所表面プラズモン共鳴による吸収を抑制するため、特許文献1には、銀以外の金属からなる下地層と銀または銀合金からなる銀薄膜層からなる積層透明導電膜を電極として用いる有機EL素子が開示されている。さらに、その下地層の銀以外の金属は、金、アルミニウム、銅、インジウム、スズおよび亜鉛よりなる群から選択されることが好ましいことが開示されている。
【0004】
しかし、本願発明者が鋭意検討した結果、特許文献1の積層透明導電膜の構成では、局所表面プラズモン共鳴による吸収の抑制は十分ではないことがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−171637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、銀薄膜を電極として用いた有機EL素子において、高い発光効率が得られることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
基板の上に、第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に配置される発光層を有する有機化合物層と、を有し、前記第2電極から光が取り出される有機EL素子であって、前記第2電極が、前記基板側から下地層と、前記下地層に接する金属層と、を順に有し、前記金属層は、Agを含み、膜厚が5.0nm以上20nm以下である金属層であり、前記下地層は、リチウムと、酸素と、マグネシウムと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、銀薄膜を電極として用いた有機EL素子において、低電圧駆動化および高い発光効率を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の有機EL素子とそれを用いた発光装置の概略図
【図2】参考例1の透過率を示す図
【図3】参考例2乃至4の透過率を示す図
【図4】参考例5乃至8の透過率を示す図
【図5】参考例9の電子オンリー素子の電子注入特性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を参照しながら本発明を説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
以下に図面を参照しながら本発明を説明する。図1(a)は本発明の有機EL素子の概略断面図を示している。本発明の有機EL素子は、基板10上に、第1電極11と、第2電極15と、第1電極11と第2電極15との間に配置される発光層を有する有機化合物層12とを有している。そして、図1(a)で示される有機EL素子は、第2電極15側から光が取り出され、基板10とは反対側から光が取り出される構成(いわゆるトップエミッション型)である。第2電極15は、基板10側から下地層13と、下地層13に接する金属層14とを順に有している。そして、金属層14は、銀(Ag)を含み、膜厚が5.0nm以上20nm以下である薄膜の金属層である。そして、下地層13として、リチウム(Li)と、酸素(O)と、マグネシウム(Mg)を含む層である。これにより、金属層14の局所表面プラズモン共鳴が抑えられ、可視光の吸収が抑制され、透過率の低下が抑制される。さらに、この下地層13によって、Agからなる金属層14から有機化合物層12へ効果的に電子注入障壁が低減されるので、低電圧化が可能となる。
【0012】
なお、特に図示しないが、基板側から光が取り出される(いわゆるボトムエミッション型の)有機EL素子においても本発明は適用可能である。具体的には、有機EL素子が、基板側から第2電極、有機化合物層、第1電極の順に積層され、第2電極が基板側から下地層、金属層の順に積層される構成とすればよい。
【0013】
本発明に用いられる第2電極15の金属層14は、好ましくはAgを90体積%以上含むAg薄膜からなる金属層である。Ag薄膜としては、例えば、AgにPd、Cu、Mg、Au等が微量(10体積%未満)含まれる金属層が挙げられる。金属層14の膜厚は、電気導電率及び可視光領域(波長400nm乃至780nm)での透過率の観点から、5.0nm以上20nm以下であることが好ましく、さらに、8.0nm以上12nm以下であることが好ましい。
【0014】
本発明に用いられる第2電極15の下地層13は、LiOと、Mgとを含む混合層である。下地層13に含まれるMgは、下地層に対して体積比率10体積%以上50体積%以下となるのが好ましい。より好ましくは、下地層におけるMgの体積比率が10体積%以上30体積%以下である。
【0015】
なお、LiOのMgに対する密度比をρ、下地層におけるMgの体積比率をX体積%、下地層におけるMgの重量比率をY重量%とすると、重量比率Yは、Y=100/(1+ρ(100/X−1))で表される。LiOの密度は2.013g/cm、Mgの密度は1.738g/cmなので、ρは1.158である。よって、X=10ならY=8.75となり、X=50ならY=46.33となる。つまり、下地層におけるMgの比率が10体積%以上50体積%以下であるとは、下地層におけるMgの比率が8.8重量%以上46.3重量%以下であることをいう。さらに、下地層におけるMgの比率が10体積%以上30体積%以下であるとは、下地層におけるMgの比率が8.8重量%以上27.0重量%以下であることをいう。重量比率に関しては小数点1桁までを有効数字とする。
【0016】
なお、LiOのMgに対する密度比をρ、LiOのMgに対するモル比をρ、下地層におけるMgの体積比率をX体積%、下地層におけるMgのモル比率をZモル%とすると、モル比率Zは、Z=100/(1+(ρ/ρ)(100/X−1))で表される。LiOの分子量密度は29.88g/cm、Mgの分子量密度は24.31g/cmなので、ρは1.229であり、ρ/ρは、0.9423である。よって、X=10ならZ=10.55となり、X=50ならZ=51.49となる。つまり、下地層におけるMgの比率が10体積%以上50体積%以下であるとは、下地層におけるMgの比率が10.6モル%以上51.5モル%以下であることをいう。さらに、下地層におけるMgの比率が10体積%以上30体積%以下であるとは、下地層におけるMgの比率が10.6モル%以上31.3モル%以下であることをいう。モル比率に関しては小数点1桁までを有効数字とする。
【0017】
また、第2金属層14のAgの比率は、好ましくは83.0重量%以上であり、最適には90.0重量%以上である。また、第2金属層14のAgの比率は、好ましくは92.4モル%以上であり、最適には、95.0モル%以上である。
【0018】
下地層13の膜厚は、2.0nm以上20nm以下であれば良く、好ましくは、4.0nm以上16nm以下である。さらに好ましくは6.0nm以上10nm以下である。
【0019】
下地層が上記の構成であれば、青色(波長450nm)よりも長波長の光に対して、第2電極の透過率がAg単層の透過率よりも大きくなる。透過率の低下を抑制するメカニズムは、よく分かっていないが以下のようなことが考えられる。Mgの酸化物生成自由エネルギーがリチウム(Li)よりも低いためLiOとMgとの混合層中でLiOが一部還元され、Liが発生して、下地層の金属層側の界面にLiが存在していると考えられる。一方、LiとAgとは原子的に結合しやすい。このため、下地層の金属層側の界面のLiを核として、下地層の金属層側の界面を面内方向に広がりながら成膜され、連続膜となりやすい。このため、Agが薄膜であるにもかかわらず、Agの局所表面プラズモン共鳴が抑えられ、可視光の吸収が抑制されると考えられる。
【0020】
さらに、このLiが発生することにより、有機化合物層への電子注入障壁が小さくなり、極めて効果的に有機化合物層への電子注入を行うことができると考えられる。また、LiO中のMgが導電パスとして機能するため、絶縁性の高いLiOによる有機EL素子の駆動電圧の上昇を低減できると考えられる。
【0021】
また、Mgの代わりに、Ca等のアルカリ土類金属、またはCs等のアルカリ金属を用いることが可能であり、同様の効果を得ることができると考えられる。
【0022】
また、下地層13に含まれるMgは、下地層内で濃度勾配を有していてもよく、例えば、下地層13中のMgが金属層側に向かって、濃度(体積比率)が大きくなるようにすれば、下地層の金属層側の界面において、Liの存在する量が増えるので好ましい。
【0023】
次に、有機EL素子の他の構成要件について説明する。基板10は、ガラスまたはプラスチックのような誘電体を用いることができる。また、基板10は、支持基板と、その上に設けられたスイッチング素子と、その上に設けられた絶縁層とで構成されるものであってもよい。なお、スイッチング素子は例えば、TFTを用いることができ、有機EL素子の発光を制御するための制御手段となる。
【0024】
第1電極11は、反射率の高いものが好ましく、Al、Ag、Mo、W、Ni、Cr、またはそれらの合金などの金属層を、50nm以上300nm以下の膜厚で用いることができる。この金属層は、蒸着法、スパッタリング法などの公知の方法で形成することができる。さらに第1電極は、金属層の光取り出し側に、SnO、In、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛等の透明酸化物導電層を積層する構成であってもよい。その透明酸化物導電層の膜厚は、5.0nm以上100nm以下が好ましい。なお、透明とは、可視光領域において40%以上の透過率を有することを言う。
【0025】
有機化合物層12は、少なくとも発光層を含み、必要に応じて正孔注入層、正孔輸送層、正孔ブロック層、電子注入層、電子輸送層、電子ブロック層等の機能層を有し、各機能層は適当な順に積層されて構成されている。有機化合物層に用いられる各機能層を構成する材料は、公知の材料を用いることができる。
【0026】
また、第2電極15上に上述した透明酸化物導電層や屈折率の高い有機化合物層、SiNなどの保護層を設けることが可能である。
【0027】
(第2実施形態)
次に、本発明の別な実施形態について説明する。図1(b)のように本発明の発光装置は、有機EL素子からなる画素1を複数有する発光装置であって、これら各画素の発光を制御するTFTなどの制御手段を備えており、画素1が本発明の有機EL素子により構成されている。
【0028】
さらに、この発光装置を表示装置として用いることができる。この場合には、複数の画素ユニットがマトリックス状に配列され、各画素ユニットは、発光色の異なる複数の画素、例えば、赤色発光画素、緑色発光画素及び、青色発光画素で構成されるようにするのが良い。つまり、赤色発光画素は、赤色を発光する有機EL素子により構成されている。赤色発光画素、緑色発光画素及び、青色発光画素を有する発光装置において、各画素が本発明の有機EL素子を有することが好ましい。
【0029】
なお、本発明において画素とは、独立して発光の制御が可能である最小の単位を示す。そして画素ユニットとは、発光色の異なる複数の画素で構成され、各画素の混色によって所望の色の発光を可能とする最小の単位を示す。
【0030】
本実施形態において、すべての画素が本発明の有機EL素子であってもよいし、一部の画素のみが本発明の有機EL素子でもよい。すなわち、本発明の有機EL素子と従来の有機EL素子を両方有する構成であってもよい。この場合は、両者の割合を調整することで、表示装置の発光特性を調整することができる。
【0031】
また、このように両方有する場合には、本発明の有機EL素子と従来の有機EL素子を規則的に配列されてもよいが、本発明の有機EL素子が不規則に点在し配置されていてもよい。
【0032】
また、画素には、光取り出し効率を向上させる手段を備えていてもよい。この手段は各画素それぞれに設けられていてもよいし、特定の画素にのみ設けられていてもよい。
【0033】
本発明の発光装置は、照明やプリンタヘッド、露光装置や表示装置用のバックライト等の様々な用途に適用することができる。また、上述したように本発明の発光装置を表示装置として使用する場合には、テレビ受像機、パーソナルコンピュータのディスプレイ、撮像装置の背面表示部、携帯電話の表示部、携帯ゲーム機の表示部等が挙げられる。その他、携帯音楽再生装置の表示部、携帯情報端末(PDA)の表示部、カーナビゲーションシステムの表示部等が挙げられる。
【実施例】
【0034】
(参考例1)
まず、本発明の有機EL素子の第2電極に用いる下地層と金属層の積層体をガラス基板上に積層した構成での透過率の測定結果を示す。
本参考例は、ガラス基板上に、下地層としてMgの体積比率が異なる2種類のLiOとMgとの混合層を形成し、その上に金属層としてAgの薄膜層を形成する例である。
【0035】
まず、ガラス基板の上に、LiOとMgとを共蒸着した。LiOとMgの成膜速度の和が成膜速度1.0Å/sになって、かつ、下地層に対するMgの体積比率が10体積%、50体積%になるように成膜速度をそれぞれ調整した2つの層を10nm作製した。具体的には、下地層に対するMgの体積比率が10%の場合は、LiOの成膜速度を0.9Å/s、Mgの成膜速度を0.1Å/sで成膜した。成膜時の蒸着チャンバー内の真空度は、2×10−5Pa以上8×10−5Pa以下であった。次に、各下地層の上に、金属層としてAgを成膜速度0.3Å/sとして10nm成膜した。次に、ガラス基板上に成膜した金属層の大気中での酸化を防ぐため、成膜したガラス基板と封止ガラスとを窒素雰囲気中にてエポキシ樹脂接着剤を用いて封止した。
【0036】
(比較例1)
ガラス基板上に下地層を設けずにAgを膜厚10nmで形成した単層の例である。その他の条件は参考例1と同様である。
(比較例2)
ガラス基板上にLiOを成膜速度1.0Å/sとして膜厚10nmで形成して、下地層とした。その他の条件は参考例1と同様である。
(比較例3)
ガラス基板上にLiOを成膜速度1.0Å/sとして膜厚10nmで形成して、その上にMgを成膜速度0.5Å/sで膜厚1.0nmの膜厚として成膜して下地層とした。その他の条件は参考例1と同様である。
(比較例4)
ガラス基板上にAlを成膜速度0.5Å/sとして膜厚2.0nmで形成し、下地層とした。その他の条件は参考例1と同様である。
【0037】
<透過率の測定>
参考例1及び比較例1乃至4の透過率を測定し、図2に示した。透過率の測定は、Ubest V−560(日本分光製)を用い、参考例および比較例で用いたガラス基板と同じロットのガラス基板と封止ガラスのみを封止したサンプルをリファレンスとして用いて行った。
【0038】
図2より、参考例1は、比較例1乃至4よりも透過率が向上していることがわかる。
【0039】
(参考例2)
本発明の有機EL素子の第2電極に用いる下地層と金属層の積層体を有機化合物層上に積層した構成での透過率の測定結果を示す。
【0040】
本参考例は、ガラス基板上に有機化合物層を形成し、その上に、下地層としてMgの体積比率の異なるLiOとMgとの混合層を形成し、その上に金属層としてAgの薄膜層を形成する例である。
【0041】
ガラス基板上に、有機化合物層として下記化合物1を成膜速度1.0Å/sで膜厚20nmで形成した。次に、その上に、下地層が無いもの、および下地層として、LiOとMgとの混合層を形成した。さらに、LiOとMgとの混合層は、下地層に対するMgの体積比率が0,10,30,50,70体積%とした5種類の層をそれぞれ膜厚2.0nmで形成した。LiOとMgの成膜速度に関しては、参考例1の条件と同様であった。次に、下地層の上に金属層としてAgを成膜速度0.3Å/sとして膜厚10nmで成膜した。次に、成膜したガラス基板と封止ガラスとを窒素雰囲気下にてエポキシ樹脂接着剤を用いて封止した。
【0042】
【化1】

【0043】
(参考例3)
下地層としてLiOとMgとの混合層を4.0nmとし、その他の濃度等の条件は参考例2と同様に行った。
【0044】
(参考例4)
下地層としてLiOとMgとの混合層を6.0nmとし、その他の濃度等の条件は参考例2と同様に行った。
【0045】
(参考例5)
下地層としてLiOとMgとの混合層を8.0nmとし、その他の濃度等の条件は参考例2と同様に行った。
【0046】
(参考例6)
下地層としてLiOとMgとの混合層を10nmとし、その他の濃度等の条件は参考例2と同様に行った。
【0047】
(参考例7)
下地層としてLiOとMgとの混合層を16nmとし、その他の濃度等の条件は参考例2と同様に行った。
【0048】
(参考例8)
下地層としてLiOとMgとの混合層を20nmとし、その他の濃度等の条件は参考例2と同様に行った。
【0049】
<透過率の測定>
参考例2乃至8の透過率を測定し、図3、図4に示した。透過率の測定は、参考例1及び比較例1乃至4で行ったものと同様である。
【0050】
図3(a)、(b)、(c)は、参考例2乃至4における下地層(下地層なしも含む)と金属層との積層体の透過率の下地層におけるMgの体積濃度に対する依存性を示している。また、図4(a)、(b)、(c)、(d)は、参考例5乃至8における下地層(下地層なしも含む)と金属層との積層体の透過率の下地層におけるMgの体積濃度に対する依存性を示している。下地層の膜厚が4.0nm以上16nm以下であれば、下地層におけるMgの体積比率が10体積%以上50体積%以下で、青(波長450nm)より長波長の領域において、下地層のないAgのみの構成よりも透過率が大きくなる。さらに下地層の膜厚が4.0nm以上10nm以下であれば、下地層におけるMgの体積比率が10体積%以上50体積%以下で、青(波長450nm)より短波長の領域においても、下地層のないAgのみの構成よりも透過率が大きくなる。さらに、下地層の膜厚が6.0nm以上10nm以下であれば、下地層におけるMgの体積比率が10体積%以上50体積%以下で、全可視光領域において透過率が高く維持される。
【0051】
なお、下地層におけるMgの体積比率が70%では、Mgの濃度が大きくなりすぎるため、Mg自体の光の吸収により透過率が低下してしまうと考えられる。
【0052】
(参考例9)
次に、本発明の有機EL素子の第2電極に用いる下地層と金属層の積層体の電子注入特性評価について示す。
【0053】
まず、パターンが形成されたITOガラス基板上に前記化合物1を成膜速度1.0Å/sで膜厚50nmで成膜した。その有機化合物層の上に、LiOとMgの成膜速度の和が成膜速度1.0Å/sとなるようにし、かつ、下地層に対するMgの体積比率が10体積%、50%になるように成膜速度を調整した層を膜厚4.0nmで2種類の下地層を形成した。次に金属層であるAgを0.3Å/sで膜厚10nmで成膜し、電子オンリー素子を作製した。作製した素子は、窒素雰囲気中のグローブボックスにて、乾燥剤を入れた封止ガラスとガラス基板の成膜面とをエポキシ樹脂接着剤を用いて封止した。
【0054】
(比較例5)
下地層としてLiOのみを成膜速度1.0Å/sで膜厚2.0nm、4.0nm、10nmで成膜した以外は、参考例9と同様である。
【0055】
<電子注入特性の測定>
作製した電子オンリー素子のITOを陽極、金属層であるAgを陰極として電圧を印加し、印加電圧時の電流値を計測した。図5に示す電圧―電流特性から、参考例9の素子は、いずれも電子注入性が良い構成であることがわかる。さらに、下地層にMgを含有しないLiOのみからなる層(比較例5)の素子よりも低電圧化している。これは、Mgの還元性によりLiOからLiが発生し、その結果、有機化合物層と下地層との界面の電子注入障壁が低下しているためと考えられる。また、LiOのみの下地層が膜厚4.0nmの素子は高電圧化し、LiOのみの下地層が膜厚10nmの素子には電流が流れなかった。この結果からも、下地層であるLiO中のMgが導電パスとしても良好に機能していることがわかる。なお、図5において、LiOのみの下地層が膜厚10nmの素子に関するデータは図示されていないのは、電流が流れなかったために、データを得られなかったためである。
【0056】
(実施例1)
次に本発明の有機EL素子について説明する。以下の構成はトップエミッション型の有機EL素子である。
【0057】
本実施例は、青色の有機EL素子の例で図1にその構成が示されている。まず、ガラス基板10上に、アルミニウム合金(AlNd)を100nmの膜厚でスパッタリング法にて成膜し、酸化インジウム亜鉛をスパッタリング法にて40nmの膜厚で成膜し、第1電極11を形成した。
【0058】
次に、有機化合物層12を形成する。まず、下記化合物2を90nmの膜厚となるように成膜して第1正孔輸送層を形成した。次に、下記化合物3を10nmの膜厚となるように成膜して第2正孔輸送層を形成した。次に、下記化合物4と下記化合物5とをそれぞれ成膜速度0.98Å/s、0.02Å/sで共蒸着し、膜厚35nmの発光層を形成した。次に、上記化合物1を膜厚60nmとなるように蒸着し、電子輸送層を形成した。
【0059】
【化2】

【0060】
次に、第2電極15の下地層13として、LiOの成膜速度を0.7Å/s、Mgの成膜速度を0.3Å/sで、下地層におけるMgが30体積%として膜厚4.0nmで成膜した。次に、金属層14として、Agの成膜速度を0.3Å/sで、Ag薄膜を膜厚10nmで形成した。
【0061】
最後に、窒素雰囲気中のグローブボックスにて、乾燥剤を入れた封止ガラスとガラス基板の成膜面とをエポキシ樹脂接着剤を用いて封止した。
【0062】
この有機EL素子について、電流効率を測定した。電流密度10mA/cmにおける電圧、電流効率は、4.1V、5.2cd/Aであった。本発明の実施例1の有機EL素子で低電圧化および高発光効率が得られた。
【符号の説明】
【0063】
10 基板
11 第1電極
12 有機化合物層
13 下地層
14 金属層
15 第2電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に、第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に配置される発光層を有する有機化合物層と、を有し、前記第2電極から光が取り出される有機EL素子であって、
前記第2電極が、前記基板側から下地層と、前記下地層に接する金属層と、を順に有し、
前記金属層は、銀を含み、膜厚が5.0nm以上20nm以下である金属層であり、
前記下地層は、リチウムと、酸素と、マグネシウムと、を含むことを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記下地層におけるマグネシウムの体積比率が、10体積%以上50体積%以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記下地層におけるマグネシウムの体積比率が、10体積%以上30体積%以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記下地層におけるマグネシウムの重量比率が、8.8重量%以上46.3重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項5】
前記下地層におけるマグネシウムの重量比率が、8.8重量%以上27.0重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項6】
前記下地層におけるマグネシウムのモル比率が、10.6モル%以上51.5モル%以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項7】
前記下地層におけるマグネシウムのモル比率が、10.6モル%以上31.3モル%以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項8】
前記下地層の膜厚が、4.0nm以上16nm以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の有機EL素子。
【請求項9】
前記下地層の膜厚が、6.0nm以上10nm以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の有機EL素子。
【請求項10】
有機EL素子からなる複数の画素と、前記画素の発光を制御する制御手段と、を有する発光装置において、
前記画素を構成する有機EL素子は、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の有機EL素子であることを特徴とする発光装置。
【請求項11】
請求項10に記載の発光装置において、前記複数の画素は、赤色発光画素と緑色発光画素と青色発光画素とを含むことを特徴とする発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−204671(P2011−204671A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13277(P2011−13277)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】