説明

有機EL素子および有機EL表示パネル

【課題】良好な素子特性を有し高い生産性を実現することが可能な有機EL素子を提供する。
【解決手段】有機EL素子100では、支持基板101上に下部電極102、正孔注入層103、正孔輸送層104、発光層105、電子輸送層106、電子注入層107および上部電極108が形成されて構成された素子基板120が、封止膜110によって封止される。封止膜110は、ピンホール等の欠陥部分を通じて外部から侵入する劣化因子と接触すると体積変化を示して該欠陥部分を修復する自己修復層113を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、有機EL素子および有機EL表示パネルに関する。ただし、本発明の利用は、前述の有機EL素子および有機EL表示パネルには限らない。
【背景技術】
【0002】
各種情報産業機器の表示ディスプレイや発光素子等においては、薄型化が図られるとともに視認性や耐衝撃性等に優れることから、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と略す)の利用が進んでいる。有機EL素子は、支持基板上に一対の電極に挟持された有機層が形成された構成を有する。有機層は、機能の異なる複数の層が積層されて構成され、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、および電子注入層を含んで構成される。
【0003】
かかる有機EL素子では、素子の外部から内部に水分、酸素、各種ガス等の劣化因子が侵入すると有機層が劣化し、それにより、ダークスポットと呼ばれる非発光領域が生じる。そこで、従来では、有機EL素子が封止缶や封止基板により封止される。しかしながら、封止缶や封止基板で封止された有機EL素子により有機EL表示パネルを構成すると、パネルの厚さが封止基板を含んだ厚さとなるため厚くなり、薄型化の妨げとなる。
【0004】
例えば、支持基板上に有機層を形成して有機EL素子を形成するとともにこの素子を封止基板で封止して有機EL表示パネルを構成すると、有機層の厚さは約0.2μmと薄いのでパネルの厚さには影響せず、よって、支持基板および封止基板の厚さによってパネルの厚さが決まる。支持基板および封止基板を約0.7mmの厚さとすることから、かかる構成の有機EL表示パネルの厚さは約1.4mmとなる。ここで、有機EL表示パネルでは薄型化が要求されることから、さらに有機EL表示パネルの厚さを薄くする必要がある。
【0005】
有機EL表示パネルの薄型化を図る構成として、封止缶および封止基板の代わりに、封止膜により有機EL素子を封止する構成がある。例えば、厚さ約5μmの封止膜を形成して有機EL素子を封止した場合、かかる有機EL素子によって構成される有機EL表示パネルの厚さには封止膜の厚さが影響せず、よって、支持基板の厚さによってパネルの厚さが決まる。したがって、例えば支持基板の厚さが約0.7mmであれば、有機EL表示パネルの厚さは約0.7mmとなる。
【0006】
また、封止膜による封止では、封止缶や封止基板で封止をする場合に比べて、さらに次のような有利な効果が奏される。すなわち、封止缶や封止基板を用いて有機EL素子を封止すると、支持基板と反対側(すなわち封止側)から光を取り出すトップエミッション型の有機EL素子では、封止缶や封止基板の光の屈折率が光の取り出しに影響を及ぼし、制御が困難であるが、封止膜により有機EL素子を封止すると、光を取り出す側の封止膜の屈折率の制御が容易になる。それゆえ、効率よく光の取り出しを行うことが可能となる。
【0007】
有機EL素子を封止膜により封止する構成には、封止膜を多層構造としたものがある。例えば、有機EL素子の凹凸部を被覆するバッファ層と、このバッファ層上に積層されたバリア層とを含む二層以上から封止膜が構成される(例えば、特許文献1参照。)。
【0008】
【特許文献1】特開平10−312883号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
封止膜はスパッタリング等の方法により成膜されるが、このようにして成膜される封止膜では、膜厚を厚くすることが困難である。それゆえ、ピンホール等の欠陥のない封止膜を成膜することは困難であるため、この欠陥を通じて、有機EL素子に外部から水分、酸素、各種ガス等の劣化因子が侵入する。このような外部からの劣化因子の侵入により、有機EL素子を構成する有機層が劣化し、その結果、ダークスポットの発生等を引き起こして素子特性を劣化させる。
【0010】
具体的に、スパッタリングによる封止膜の形成では、成膜時に異物がスパッタリング材料とともに有機EL素子の表面に付着することがあるため、成膜された封止膜には異物が付着している。そして、この異物が封止膜から剥離すると、異物が剥離した部分に孔、すなわちピンホールが形成される。膜厚の薄い封止膜にこのようなピンホールが形成されると、ピンホールを通じて外部と有機EL素子とが連通するため、ピンホールから劣化因子が有機EL素子の内部に侵入する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明にかかる有機EL素子は、基板上に配設された対向する一対の電極間に少なくとも発光層を含む有機層を形成する素子基板を備え、前記素子基板の表面を封止層で被覆する有機EL素子において、前記封止層は、所定の環境において体積変化を示す層を備えることを特徴とする。
【0012】
請求項6の発明にかかる有機EL表示パネルは、基板上に配設された対向する一対の電極間に少なくとも発光層を含む有機層を形成する素子基板を備え前記素子基板の表面を封止層で被覆する有機EL素子によって構成される有機EL表示パネルにおいて、前記有機EL素子の前記封止層は、所定の環境において体積変化を示す層を備えることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、この発明にかかる有機EL素子および有機EL表示パネルの好適な実施の形態を詳細に説明する。この実施の形態は、良好な素子特性を有し高い生産性を実現することが可能な有機EL素子を提供すること、および、このような有機EL素子により構成された良好な品質の有機EL表示パネルを提供することを目的の一つとする。
【0014】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1にかかる有機EL素子は、基板上に配設された対向する一対の電極間に少なくとも発光層を含む有機層を形成する素子基板を備え、この素子基板の表面を封止層で被覆する有機EL素子であって、封止層は、所定の環境において体積変化を示す層を備える。ここで、本実施の形態における当該体積変化を示す層とは、具体的には、所定の環境下において可塑性を示す材料から構成された層である。かかる層では、所定部分が局所的に当該所定の環境下に置かれると、この部分を構成する材料が局所的に可塑性を示して形状が変化する。そして、このような形状変化に伴って、かかる層が体積変化を示す。
【0015】
例えば、本実施の形態の有機EL素子は、支持基板上に下部電極、少なくとも発光層を含む有機層、および上部電極が形成された構成を有する素子基板を備え、この素子基板の表面が、封止層で被覆されて封止されている。封止層は厚さが薄く、薄膜(すなわち封止膜)を形成している。そして、この封止層が、所定の環境、具体的には水、酸素、および有機成分等の劣化因子と接触する環境において体積変化を示す層を備える。
【0016】
例えば、封止層中に形成された欠陥部分から劣化因子が侵入してこの体積変化を示す層と接触すると、この層の劣化因子との接触部分が体積変化を示して該欠陥部分を被覆する。すなわち、この層は、欠陥部分から侵入した劣化因子と接触する環境において、該欠陥部分を修復する機能を有する。以下においては、このような機能を有する層を、自己修復層と呼ぶ。
【0017】
この自己修復層を備えた本実施の形態の有機EL素子によれば、ピンホール等の欠陥が封止層中に生じても、この欠陥部分から侵入した劣化因子との接触により自己修復層が形状を変化させ、欠陥部分の空間を埋め尽くすことにより当該欠陥部分を自己修復するので、当該欠陥部分からの劣化因子の素子内への侵入が防止される。したがって、ダークスポットの発生や拡大等が抑制され、良好な素子特性と高い生産性を実現することが可能となる。
【0018】
また、本実施の形態の有機EL素子の封止層は、自己修復層の他に、バリア性を有する材料で形成されたバリア層と、バッファ性を有する材料で構成されたバッファ層とをさらに備えている。ここで、バリア性を有する材料とは、例えば、水や酸素や有機成分等の劣化因子の透過性の低い材料や、これらの劣化因子に対して安定した材料のことである。また、バッファ性を有する材料とは、層間の密着性を高める材料や、層間に配設することにより良好な層状態を実現可能とする材料のことである。
【0019】
自己修復層は、有機EL素子の素子基板に対して、バリア層よりも内側に配設されるとともに、バッファ層よりも外側に配設されている。例えば、封止層は、素子基板の上に、素子基板側からバッファ層、自己修復層、およびバリア層がこの順で積層されて構成される。
【0020】
このように自己修復層がバリア層よりも内側に配設されることにより、バリア層によって、ピンホール等の欠陥が生じていない場合における自己修復層を、水、酸素、有機成分等の劣化因子が存在する外部環境から保護することが可能となる。したがって、上記のように封止層に欠陥部分が発生し当該欠陥部分から劣化因子が侵入する場合以外では、自己修復層は体積変化を示さず、固体状態が保持される。このようなバリア層は、少なくとも封止層の最外層に配設することが好ましい。それにより、保護効果がより有効に奏される。
【0021】
また、自己修復層がバッファ層よりも外側に配設されることにより、素子基板と自己修復層との間にバッファ層が配設された構成が実現される。例えば、素子基板の表面が凹凸形状を有する場合に、バッファ層を配設せずに素子基板上に自己修復層やバリア層を直接配設すると、素子基板表面の凹凸の影響によって自己修復層やバリア層に欠陥が発生しやすく、また、これらの層において緻密な構成を実現することが難しい。
【0022】
これに対して、本実施の形態のように素子基板と自己修復層との間にバッファ層を配設すると、バッファ層が素子基板表面の凹凸を埋めるため、平滑面に自己修復層を形成することが可能となる。このため、自己修復層やその上に形成されるバリア層において、欠陥の発生が防止され良好な状態を実現することが可能となる。このようなバッファ層は、少なくとも素子基板の表面に配設することが好ましい。それにより、素子基板の上方に配設される封止層において、良好な層状態が実現される。以下に、本実施の形態の具体的な実施例について、添付図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明の実施例1にかかる有機EL素子の構成を示す模式的な断面図である。図1に示すように、有機EL素子100は、素子の基本構成である素子基板120と、この素子基板120を被覆する封止膜110とを備える。素子基板120は、支持基板101上に、陽極である下部電極102、正孔注入層103、正孔輸送層104、発光層105、電子輸送層106、電子注入層107、および陰極である上部電極108が順に積層された構成を有する。また、封止膜110は、バッファ層111、内側バリア層112、自己修復層113、および外側バリア層114が順に積層された構成を有する。
【0024】
支持基板101を構成する材料は、ガラス、石英、プラスチック、木材、紙等の材料から適宜選択される。ガラス以外の材料から構成される支持基板101では、有機EL素子100の水、酸素、各種ガス等の劣化因子が素子内部へ侵入するのを防止するために、支持基板101の内面にSiO2等の保護膜(図示せず)が形成される。
【0025】
ここでは、ガラスから構成される支持基板101を使用している。ガラスには、ソーダ・ライムガラス、ホウケイ酸ガラス、低アルカリガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等の種類がある。これらのガラスの最大の相違点は、含まれているアルカリ成分、つまりナトリウムやカリウムの含有量、および二酸化ケイ素の含有量の違いにあり、用途に応じて、適宜これらのガラスを使い分けている。
【0026】
例えば、アルカリ成分の含有量が高いソーダ・ライムガラス(アルカリ成分の含有量13%)、ホウケイ酸ガラス(アルカリ成分の含有量13%)、および低アルカリガラス(アルカリ成分の含有量7%)等から構成される青板の支持基板101は、安価であるが、含有されるナトリウム、カリウム等が溶け出して有機EL素子100の劣化等を生じさせるおそれがある。このため、支持基板101の表面をSiO2で被覆する必要がある。
【0027】
一方、アルカリ成分の含有量が低い無アルカリガラス(アルカリ成分の含有量0%)、石英ガラス(アルカリ成分の含有量0%)は、高価であるが、ナトリウムやカリウム等が溶け出さない利点を有する。それゆえ、これらは、例えばTFT(薄膜トランジスタ)を利用したアクティブ駆動型の有機EL素子100の基板として利用される。また、上記のような青板の支持基板101は、表面があれているので表面処理を行う必要がある。特に、青板の支持基板101は、表面処理として研磨工程が必要である。
【0028】
また、支持基板101の構成材料の要件として、支持基板101側から光の取り出しを行うボトムエミッション型の有機EL素子100では、支持基板101が透明性を有する必要がある。一方、封止膜110側から光の取り出しを行うトップエミッション型の有機EL素子100では、支持基板101は透明でなくてもよく、この場合には、例えば、支持基板101の裏面に反射膜が形成されて光の反射を行う構成となっている。
【0029】
陽極として機能する下部電極102は、仕事関数の高い材料、すなわち電子を引き抜きやすい材料から構成されることが好ましい。例えば、Cr、Mo、Ni、Pt、Au等からなる金属膜やITO、IZO等の酸化金属膜等の導電膜で構成される。また、下部電極102の構成要件として、支持基板101側から光の取り出しを行うボトムエミッション型の有機EL素子100では、下部電極102が透明性を有する必要がある。
【0030】
また、ここでは図示を省略しているが、有機EL素子100では、下部電極102から素子外部に引き出された配線、すなわち引出電極が配設されている。引出電極は、有機EL素子100によって構成される後述の有機EL表示パネルにおいて、パネル駆動用の集積回路やドライバ等の外部回路に有機EL表示パネルを接続するための電極である。このような引出電極は、低抵抗金属材料から構成されることが好ましく、例えば、Ag、Cr、Al等の金属やその合金等、あるいは金属酸化物であるITOやIZO等からなる導電膜によって構成される。
【0031】
下部電極102および引出電極(図示せず)の形成時には、まず、蒸着、スパッタリング等の方法により支持基板101の内面全体に上記のような導電膜を形成し、その後、フォトリソグラフィー等の方法によりこの導電膜を所定の形状にパターニングして下部電極102および引出電極(図示せず)を形成する。ここで、下部電極102および引出電極(図示せず)は、単層の導電膜によって構成されてもよく、また、種類の異なる導電膜が複数積層された多層構造であってもよい。
【0032】
例えば、ITOやIZO等の酸化金属膜に、Ag、Ag合金、Al、Cr等の低抵抗金属からなる膜を積層した二層構造であってもよく、また、Ag等の金属膜の保護層としてさらにCu、Cr、Ta等の耐酸化性の高い材料からなる膜を積層した三層構造であってもよい。このような多層構造の下部電極102および引出電極(図示せず)の形成時には、該電極の各層を構成する膜を順次成膜して積層した後、パターニングを行う。
【0033】
下部電極102上には、有機層である正孔注入層103、正孔輸送層104、発光層105、電子輸送層106、および電子注入層107が順次積層されている。これらの各層103〜107は、従来の有機EL素子において使用されている高分子または低分子の有機材料によって構成される。以下に、これらの各層103〜107の詳細を説明する。
【0034】
まず、正孔注入層103は、下部電極102からの正孔注入を容易かつ速やかにするために配設されるものである。したがって、下部電極102のHOMOレベルと非常に近い位置にある材料で構成されることが好ましい。具体的に、正孔注入層103を構成する材料は、イオン化ポテンシャルが小さい材料によって構成される。また、正孔輸送層104は、正孔注入層103に注入された正孔を発光層105に速やかに輸送するために配設されるものである。したがって、正孔の輸送性が高い材料から構成されることが好ましい。
【0035】
これらの正孔注入層103および正孔輸送層104の構成材料は、従来公知の化合物の中から任意に選択することが可能である。具体例として、銅フタロシアニン(Cu−Pc)等のポリフィリン化合物、m−MTDATA等のスターバースト型アミン、ベンジジン型アミンの多量体、4,4'−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]−ビフェニル(NPB)、N−フェニル−p−フェニレンジアミン(PPD)等の芳香族第三級アミン、4−(ジ−P−トリルアミノ)−4'−[4−(ジ−P−トリルアミノ)スチリル]スチルベンゼン等のスチルベン化合物や、トリアゾール誘導体、スチリルアミン化合物、バッキーボール、C60等のフラーレン等の有機材料が用いられる。また、ポリカーボネート等の高分子材料中に低分子材料を分散させた高分子分散系の材料を使用してもよい。
【0036】
発光層105における発光は、一重項励起状態から基底状態に戻る際の発光(蛍光)であってもよく、また、三重項励起状態から基底状態に戻る際の発光(りん光)であってもよい。発光の機構に応じて、発光層105の構成材料が適宜選択される。発光層105の構成材料としては、公知の発光材料を使用することが可能である。
【0037】
具体的な発光材料として、4,4'−ビス(2,2'−ジフェニルビニル)−ビフェニル(DPVBi)等の芳香族ジメチリディン化合物、1,4−ビス(2−メチルスチリル)ベンゼン等のスチリルベンゼン化合物、3−(4−ビフェニル)−4−フェニル−5−t−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)等のトリアゾール誘導体、アントラキノン誘導体、フルオノレン誘導体等の蛍光性有機材料、(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム錯体(Alq3)等の蛍光性有機金属化合物、ポリパラフィニレンビニレン(PPV)系、ポリフルオレン系、ポリビニルカルバゾール(PVK)系等の高分子材料等が用いられる。また、三重項励起子からのりん光を発光に利用できる有機材料、例えば、白金錯体やイリジウム錯体等の有機材料を使用してもよい。
【0038】
また、発光層105は、例えば上記の発光材料のみから構成されてもよく、あるいは、上記の正孔輸送層104の構成材料や、後述の電子輸送層106の構成材料や、ドナーやアクセプタ等の添加剤や、発光性ドーパント等を含有してもよい。これらを含有する場合、例えば、発光層105を構成する材料中にこれらが分散される。
【0039】
電子輸送層106は、電子注入層107に注入された電子を速やかに発光層105に輸送するために配設されるものである。したがって、電子の輸送性が高い材料から構成されることが好ましい。また、電子注入層107は、上部電極108から容易にかつ速やかに電子注入が行われるように配設されるものである。したがって、上部電極108のLUMOレベルと非常に近い位置にある材料で電子親和力の大きな材料で構成されることが好ましい。
【0040】
電子注入層107および電子輸送層106の構成材料は、従来公知の化合物の中から任意の材料を適宜選択して用いることができる。具体例としては、PyPySPyPy等のシラシクロペンタジエン(シロール)誘導体、ニトロ置換フルオレノン誘導体、アントラキノジメタン誘導体等の有機材料、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム(Alq3)等の8−キノリノール誘導体の金属錯体、メタルフタロシアニン、3−(4−ビフェニル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−4−フェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)等のトリアゾール系化合物、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチル)−1,3,4−オキサジアゾ−ル(PBD)等のオキサジアゾール系化合物、LiO2等の酸化金属、バッキーボール、C60、カーボンナノチューブ等のフラーレンが使用できる。
【0041】
正孔注入層103、正孔輸送層104、発光層105、電子輸送層106、および電子注入層107の形成時には、従来の成膜方法、例えば、スピンコーティング法やディッピング法等の塗布法、スクリーン印刷法、インクジェット法等の印刷法等のウェットプロセス、レーザ転写法等のドライプロセス、蒸着法等を用いることが可能であり、これらを組み合わせて成膜を行ってもよい。蒸着法における成膜材料の加熱には、抵抗加熱、誘導加熱、誘電加熱、電子ビーム加熱、レーザ加熱等を行ってもよい。
【0042】
陰極を構成する上部電極108は、仕事関数の低い材料、すなわち電子が飛び出しやすい材料で構成することが好ましい。例えば、アルカリ金属(Li,Na,K,Rb,Cs)、アルカリ土類金属(Be,Mg,Ca,Sr,Ba)、希土類金属等の金属やその化合物、またはそれらを含む合金からなる金属膜から構成される。
【0043】
ここで、有機EL素子100が上部電極108側から光を取り出すトップエミッション型である場合には、上部電極108は透明性を有する必要がある。一方、支持基板101側から光を取り出すボトムエミッション型である場合には、上部電極108が透明性を有する必要がなく、この場合には、例えば上部電極108が反射膜としての機能するか、または別途で反射膜が形成される。
【0044】
また、ここでは図示を省略しているが、上部電極108にも、下部電極102の場合と同様、上部電極108から素子外部への引出配線である引出電極が配設されている。引出電極(図示せず)の材料や構成については、下部電極102の引出電極(図示せず)の場合と同様である。また、引出電極(図示せず)および上部電極108の構造ならびに形成方法については、下部電極102で前述した通りである。
【0045】
続いて、本実施例の有機EL素子100の特徴的構成である封止膜110について説明する。封止膜110は、バッファ層111と、内側バリア層112と、自己修復層113と、外側バリア層114とを備える。有機EL素子100では、かかる構成の封止膜110によって、素子基板120の表面全体、具体的には素子基板120の上面および端面が被覆されて封止される。
【0046】
なお、封止膜110の構成は、本実施例の構成に限定されるものではなく、これ以外であってもよい。例えば、本実施例の封止膜110では、自己修復層113よりも素子基板120側にバッファ層111と内側バリア層112とが一層ずつ配設されているが、これ以外に、バッファ層111と内側バリア層112とが対で配設されるとともにこの対が所定数積層された構成であってもよい。この場合には、交互にバッファ層111と内側バリア層112とが複数層積層され、さらにその上に、自己修復層113と外側バリア層114とが順次積層される。かかる構成では、最外層に位置するバリア層が外側バリア層114に相当し、自己修復層113よりも素子基板120側に位置するバリア層が内側バリア層112に相当する。
【0047】
また、例えば、外側バリア層114が多層構造を有してもよく、あるいは、自己修復層113と外側バリア層114との間に、さらにバッファ層111が配設されてもよい。さらに、内側バリア層112が省略された構成であってもよい。なお、バッファ層111や外側バリア層114が省略された構成も可能ではあるが、素子基板120と封止膜110との関係からバッファ層111を配設することが好ましく、また、有機EL素子100全体としての保護および劣化因子不存在下での自己修復層113の固体状態維持の点から、外側バリア層114を配設することが好ましい。
【0048】
ここでは、バッファ層111は、下部に位置する層(ここでは素子基板120に相当)の表面の凹凸を埋めて平滑化するために配設されるものである。バッファ層111を形成することによって、バッファ層111の上部に位置する層(ここでは内側バリア層112、自己修復層113、外側バリア層114に相当)が欠陥の低減された緻密な層となる。バッファ層111を構成する材料は、例えば、光硬化性樹脂や熱硬化性樹脂等が用いられる。具体的に、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリパラキシレン、パーフルオロオレフィンやパーフルオロエーテル等のフッ素系高分子、CH3OMやC25OM等の金属アルコキシド、ポリイミド前駆体、ペリレン系化合物等、Ca等の金属膜があげられる。
【0049】
また、内側バリア層112および外側バリア層114は、素子基板120を保護するために配設されるものであり、特に、外側バリア層114は、外部環境からの素子基板120および自己修復層113の保護のために配設される。例えば、外側バリア層114は、水分の透過性が低くかつ水分に対して安定な材料や、酸素透過性が低くかつ酸素に対して安定な材料から構成される。このような外側バリア層114により、素子基板120を外部環境下で存在する水や酸素から保護することが可能となる。
【0050】
また、後述するように自己修復層113は水や酸素等と接触する環境において体積変化を示すが、かかる構成では自己修復層113が外側バリア層114によって外部環境から保護される、すなわち、外部環境下で存在する水や酸素等と遮断された構成となるので、後述の図2で示すように封止膜110中にピンホール200が形成されて水や酸素等が侵入する場合以外は、自己修復層113は体積変化を示さず、よって固体状態が保持される。
【0051】
具体的に、内側バリア層112および外側バリア層114を構成する材料は、例えば、SiN、AlN、GaN等の窒化物、SiO2、Al23、Ta25、ZnO、GeO等の酸化物、SiON等の酸化窒化物、SiCN等の炭化窒化物、金属フッ素化合物、金属膜等があげられる。このようなバッファ層111、内側バリア層112、および外側バリア層114の構成材料や配設数等は、適宜選択および設定されるものである。
【0052】
一方、自己修復層113は、水(ここでは液体状態および気体状態を含む)、酸素、各種ガス、有機成分等の劣化因子との接触により自己修復機能を発現する材料から構成される。ここで、自己修復層113の自己修復機能とは、自己修復層113に生じた欠陥部分(具体的には、後述するピンホール等の欠損部分)に上記のような劣化因子が接触した際に、欠陥部分周辺の自己修復層113が体積変化を示して欠陥部分を埋めるように欠陥部分に流れ込み、それにより、欠陥部分が修復される機能のことである。
【0053】
自己修復層113の具体的な構成材料としては、例えば、水により体積変化を示す材料や、酸素により体積変化を示す材料や、有機EL素子100の外部環境下に存在する酸素以外のガスにより体積変化を示す材料等、外部から侵入する劣化因子との接触により体積変化を示す材料が用いられる。自己修復層113は、このような材料のうちの一種類の材料によって構成されてもよく、また、二種類以上の材料を含んで構成されてもよい。例えば、水との接触により体積変化を示す材料と酸素との接触により体積変化を示す材料とを混合して自己修復層113を構成してもよい。
【0054】
例えば、水または酸素により可塑性を示す材料により自己修復層113が構成されてもよい。かかる材料から構成される自己修復層113では、水または酸素との接触により構成材料が可塑性を示して体積変化を生じ、かかる体積変化に伴って、自己修復層113の形状が変化する。自己修復層113を構成する材料として、具体的に、メタロセン触媒を用いたポリエチレンと熱可塑性樹脂との混合樹脂や、熱可塑性樹脂であるポリオレフィン樹脂に鉄粉とハロゲン化金属との混合物で構成された鉄系酸素吸収剤を配合した酸素吸収性樹脂を用いてもよい。
【0055】
また、塩化物等のハライドや、硫酸塩のようなイオウのオキシ酸塩等の無機酸塩である遷移金属系触媒と、ポリアミド樹脂とを含有する酸素吸収性樹脂を用いてもよい。あるいは、アクリル酸塩重合体架橋物やビニルアルコール−アクリル酸塩共重合体の架橋物等の高吸水性樹脂を用いてもよく、また、ビニルアルコール等の吸水性樹脂とオレフィン系樹脂を混合した酸素吸収性樹脂との混合物や、酸素吸収性ポリアミド樹脂組成物等を用いてもよい。
【0056】
封止膜110を構成する各層111〜114の厚さは、特には限定されるものではなく適宜設定されるが、自己修復層113は、後述する自己修復動作を実現可能な厚さを有するものとする。
【0057】
次に、図2および図3を参照して、封止膜110における自己修復層113の自己修復動作を、封止膜110の成膜工程とともに具体的に説明する。図2および図3は、自己修復層113の自己修復動作を説明するための有機EL素子100の模式的な部分断面図である。なお、図2および図3では、図1に示す素子基板120の詳細な図示を省略している。
【0058】
まず、封止膜110の成膜工程では、図1に示すように、素子基板120の表面全体を覆うようにバッファ層111が形成される。ここでは、光硬化性の樹脂を素子基板120の表面全体にスピンコート等の方法により塗布し、その後、紫外線を照射してこの樹脂を硬化させてバッファ層111が形成される。
【0059】
続いて、このバッファ層111の表面全体を覆うように、内側バリア層112が形成される。ここでは、Si34で構成されたターゲットを用いたスパッタリング法により、SiNX膜からなる内側バリア層112が形成される。さらに、このようにして形成された内側バリア層112の表面全体を覆うように、自己修復層113が形成される。
【0060】
ここでは、ビニルアルコール等の吸水性樹脂とオレフィン系樹脂を混合した酸素吸収性樹脂とを混合したものを自己修復層113の構成材料として用い、この樹脂をスピンコート法により内側バリア層112の表面全体に塗布し、その後、加熱により樹脂を硬化させて自己修復層113が形成される。
【0061】
最後に、上記のようにして形成した自己修復層113の表面全体を覆うように、外側バリア層114が形成される。ここでは、内側バリア層112の場合と同様、Si34で構成されたターゲットを用いたスパッタリング法により、SiNX膜からなる外側バリア層114が形成される。以上のようにして、バッファ層111と、内側バリア層112と、自己修復層113と、外側バリア層114とを備えた封止膜110が形成される。
【0062】
ところで、内側バリア層112および外側バリア層114をスパッタリング法により形成する際には、真空中で発生させたプラズマによりターゲットを叩いてターゲット粒子を飛び出させるとともにこの飛び出したターゲット粒子を成膜面に付着および堆積させることにより膜を形成するが、かかる方法では、ターゲット粒子とともに異物等の不純物が成膜面に付着または堆積することがあるため、内側バリア層112および外側バリア層114を構成する膜に異物等の不純物が付着または混入する場合がある。
【0063】
そして、このように内側バリア層112および外側バリア層114において付着または混入した不純物がこれらの層112,114から剥離すると、封止膜110を構成するバッファ層111、内側バリア層112、自己修復層113、および外側バリア層114の一部が不純物とともに局所的に剥離する。それにより、図2に示すように、封止膜110を構成する各層111〜114を貫通してピンホール200が形成される。
【0064】
このピンホール200の形成により、ピンホール200の内壁を構成するバッファ層111、内側バリア層112、自己修復層113、および外側バリア層114の領域が外部環境にさらされるとともに、ピンホール200を通じて素子基板120も外部環境にさらされる。そして、ピンホール200を通じて、有機EL素子100の外部に存在する(すなわち外部環境下に存在する)水や酸素等の劣化因子が、素子基板120側に侵入しようとする。
【0065】
ここで、本実施例の有機EL素子100では、図3に示すように、ピンホール200が形成されると、ピンホール200を通じて封止膜110内に侵入した水および酸素と接触する自己修復層113の領域の堆積が局所的に変化する。具体的には、まず、自己修復層113を構成する吸水性樹脂がピンホール200内に侵入した水を吸収するとともに、自己修復層113を構成する酸素吸収性樹脂がピンホール200内に侵入した酸素を吸収する。
【0066】
そして、自己修復層113では、ピンホール200の周辺部分において、水を吸収した吸水性樹脂および酸素を吸収した酸素吸収性樹脂の堆積が局所的に変化してピンホール200内を埋める。それにより、ピンホール200が自己修復層113によって塞がれ、自己修復が行われる。したがって、この自己修復により、素子基板120が外部環境にさらされるのを防止することができ、よって、有機EL素子100の素子基板120内部への酸素や水の侵入を防止することが可能となる。
【0067】
上記構成を有する有機EL素子100では、下部電極102から正孔注入層103に注入された正孔が、正孔輸送層104を経て発光層105に導入される。一方、上部電極108から電子注入層107に注入された電子は、電子輸送層106を経て発光層105に導入される。そして、発光層105に導入された正孔と電子とが結合し、それにより、発光層105で発光が生じる。
【0068】
ここで、有機EL素子100では、前述のように、封止膜110の自己修復層113により素子内部への劣化因子の侵入が防止されるので、有機EL素子100を構成する正孔注入層103、正孔輸送層104、発光層105、電子輸送層106および電子注入層107では、該劣化因子に起因する劣化が抑制されている。したがって、有機EL素子100では、ダークスポットの発生や拡大、および該劣化因子に起因するその他の素子劣化を防止することが可能となる。
【0069】
以上のように、本実施例の有機EL素子100によれば、封止膜110中にピンホール200が形成されても、このピンホール200が自己修復層113によって局所的に自己修復されるので、ピンホール200から素子内部に水分や酸素等の劣化因子が侵入するのを防止して十分な封止を安定して行うことが可能となる。それゆえ、水分や酸素等の劣化因子によって生じる有機EL素子100の素子特性の劣化が防止され、その結果、良好な素子特性、具体的には良好な発光特性等を実現することが可能となる。
【0070】
また、自己修復層113を封止膜110内に形成することにより、封止膜110の厚さを厚くしなくても、劣化因子の侵入を防止することが可能となる。したがって、有機EL素子100の薄型化や生産効率の点で有利な効果が奏されるとともに、封止膜110を厚くすることにより生じる問題が解消される。
【0071】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2にかかる有機EL表示パネルは、実施の形態1の有機EL素子によって構成される。かかる構成の本実施の形態の有機EL表示パネルでは、パネルの構成要素である有機EL素子において、前述のようにダークスポットの発生や拡大等が抑制され良好な素子特性が実現される。したがって、このような有機EL素子で構成された有機EL表示パネルでは、良好な表示特性を有する品質の高いパネルを実現することが可能となる。以下、図4を参照して、本発明の実施の形態2にかかる有機EL表示パネルの実施例について説明する。
【実施例2】
【0072】
図4は、本発明の実施例2における有機EL表示パネルの構成を示す模式的な断面図である。ここでは、パッシブ駆動型のフルカラー表示の有機EL表示パネルについて説明する。この有機EL表示パネルは、トップエミッション型であってもよく、また、ボトムエミッション型であってもよい。
【0073】
図4に示すように、本実施例の有機EL表示パネルは、図1に示す実施例1の有機EL素子100と同様の構成を有する有機EL素子100R,100G,100Bが複数配設されて構成される。有機EL素子100Rは、赤色発光する発光層105Rを備え赤色発光する。また、有機EL素子100Gは、緑色発光する発光層105Gを備え緑色発光する。また、有機EL素子100Bは、青色発光する発光層105Bを備え青色発光する。有機EL表示パネルでは、これらの各発光色の有機EL素子100R,100G,100Bによって赤色画素、緑色画素、および青色画素が形成され、RGB表示によりフルカラー表示が実現される。
【0074】
以下に、本実施例の有機EL表示パネルの詳細な構成を、製造工程と合わせて説明する。まず、有機EL表示パネルの製造工程は、下部電極102を形成する前処理工程と、正孔注入層103、正孔輸送層104、発光層105(105R,105G,105B)、電子輸送層106、電子注入層107および上部電極108を形成して素子基板120を形成する成膜工程と、この素子基板120を封止膜110で封止する封止工程とに大別される。
【0075】
有機EL表示パネルの製造時には、前処理工程において、まず支持基板101上に、実施例1で前述した方法により、所定の間隔でストライプ状に複数の下部電極102が形成される。そして、この下部電極102から引き出されてパネル外部の集積回路やドライバ等に接続される引出電極(図示せず)が、実施例1で前述した方法により形成される。
【0076】
支持基板101上に下部電極102および引出電極(図示せず)が形成されると、続いて、下部電極102間で露出した支持基板101の表面に、絶縁膜401が形成される。また、図示を省略しているが、この絶縁膜401上に、隔壁が形成される。ここでは、上部電極108と下部電極102とが交差して形成される発光領域を囲むように、該発光領域を除いて、ポリイミド、SiO2等から構成される絶縁膜401が形成される。以上のような前処理工程により、支持基板101上に下部電極102、引出電極(図示せず)、絶縁膜401、および隔壁(図示せず)が形成されてなる前処理基板が形成される。
【0077】
続いて、上記のようにして得られた前処理基板に、成膜工程の各処理が施されて正孔注入層103、正孔輸送層104、発光層105、電子輸送層106、および電子注入層107が順次形成される。これらの各層103〜107の形成時における成膜方法は、実施例1において前述した通りである。
【0078】
すなわち、まず、前処理工程を経て得られた前処理基板の表面に、正孔注入層103が形成され、この正孔注入層103上に、さらに正孔輸送層104が形成される。続いて、この正孔注入層104上に、さらに発光層105が形成される。ここで、発光層105の形成時には、有機EL素子100R,100G,100Bの発光層105の塗り分けが行われ、赤色発光層105R、緑色発光層105G、および青色発光層105Bが形成される。
【0079】
このような発光層105の塗り分けにより、発光色の異なる3種類の画素、すなわち、赤色発光する有機EL素子100Rで構成される赤色画素RPと、緑色発光する有機EL素子100Gで構成される緑色画素GPと、青色発光する有機EL素子100Bで構成される青色画素BPとが隣接して形成される。
【0080】
有機EL素子100R,100G,100Bの赤色発光層105R、緑色発光層105G、青色発光層105Bは、開口パターンの異なる3種類の成膜用マスク(図示せず)を用いて成膜により、容易に実現される。例えば、有機EL素子100Rの領域に選択的に赤色発光層105Rを形成する際には、この領域のみに開口を有する成膜用マスク(図示せず)を使用して成膜を行う。それにより、有機EL素子100Rの領域では、成膜用マスク(図示せず)の開口を透過して赤色発光材料が正孔輸送層104上に堆積し、それにより、赤色発光層105Rが形成される。
【0081】
この時、有機EL素子100G,100Bの領域は成膜用マスク(図示せず)で覆われるため、これらの領域では、赤色発光材料が成膜用マスク(図示せず)の表面に堆積する。それにより、有機EL素子100Rの領域のみに選択的に赤色発光層105Rを形成することが可能となる。
【0082】
そして、上記と同様、有機EL素子100Gの領域に緑色発光層105Gを形成する際には、この領域のみに開口を有する成膜用マスク(図示せず)を使用し、また、有機EL素子100Bの領域に青色発光層105Bを形成する際には、この領域のみに開口を有する成膜用マスク(図示せず)を使用する。また、このような成膜用マスク(図示せず)を用いた赤色発光層105R、緑色発光層105G、および青色発光層105Bの各形成時には、例えば、2回以上繰り返して成膜を行う。それにより、有機EL素子100R,100G,100Bの赤色発光層105R、緑色発光層105G、青色発光層105Bにおける未成膜を防止している。
【0083】
塗り分けが行われて赤色発光層105R、緑色発光層105G、青色発光層105Bで構成された発光層105が形成された後、発光層105の表面に、電子輸送層106が形成される。そして、さらにこの電子輸送層106上に、電子注入層107が形成される。続いて、電子注入層107の表面に、実施例1において前述した方法により、上部電極108が形成される。
【0084】
ここでは、下部電極102と直交するストライプ状の上部電極108が、隔壁パターンによって所定の間隔で複数本形成される。それにより、下部電極102と上部電極108との交差部に位置する発光層105の領域が発光可能となる。本実施例では、有機EL素子100R,100G,100Bによって構成される複数の画素RP,GP,BPがマトリクス状に配置されたパッシブ駆動の有機EL表示パネルが実現される。
【0085】
上部電極108が形成された後には、下部電極102の場合と同様、上部電極108から引き出されてパネル外部の集積回路やドライバ等に接続される引出電極(図示せず)が形成される。引出電極(図示せず)の形成方法については、実施例1において前述した通りである。
【0086】
以上のようにして、成膜工程では、前処理工程で得られた前処理基板上に、正孔注入層103、正孔輸送層104、発光層105(105R,105G,105B)、電子輸送層106、電子注入層107、上部電極108、および引出電極(図示せず)が形成されてなる素子基板120が得られる。そして、この素子基板120に、さらに封止工程で各処理が施されて封止膜110が形成される。
【0087】
具体的に、封止工程では、まず、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気において、実施例1において前述した方法により、素子基板120の表面を覆うバッファ層111が形成され、さらに、内側バリア層112、自己修復層113、および外側バリア層114が順次形成される。このように素子基板120上に順次各層111〜114を形成して封止膜110を形成することにより、素子基板120が封止膜110によって封止される。
【0088】
ここで、このようにして形成された封止膜110では、実施例1の図2で前述したように、成膜時に付着した異物等の不純物の剥離等によって封止膜110中にピンホール200が形成されるが、封止膜110は自己修復層113を含んで構成されているので、実施例1の図3で前述したように、ピンホール200が自己修復層113によって塞がれて自己修復される。それゆえ、ピンホール200を通じた水分や酸素等の劣化因子の素子基板120への侵入を防止することが可能となる。
【0089】
上記のようにして封止膜110により封止された素子基板120に、さらに、スクライブ処理、点灯検査、TAB圧着処理、円偏光板貼付処理、モジュール検査等の各処理が行われる。そして、封止工程におけるこのような各処理を経て、有機EL表示パネルが作製される。
【0090】
以上のように、本実施例の有機EL表示パネルでは、封止膜110に形成されるピンホール200等の欠陥部分が、封止膜110の自己修復層113によって自己修復されるので、封止膜110の欠陥部分を通じて外部から劣化因子が素子内部に侵入することを防止することが可能となる。それゆえ、各有機EL素子100R,100G,100Bでは、ダークスポットの発生や拡大等による素子特性の劣化が防止され、良好な素子特性が実現される。
【0091】
したがって、このような有機EL素子100R,100G,100Bから構成される有機EL表示パネルでは、各画素RP,GP,BPにおいて良好な表示特性等が実現可能となり、よって、高品質、高生産性を安定して実現することが可能となる。また、従来のように封止缶や封止基板を用いて封止する構成の有機EL表示パネルに比べて、薄型化が図られる。さらに、このような自己修復層113は、封止膜110のバッファ層111や内側および外側バリア層112,114と合わせて一連の成膜工程で容易に形成することが可能であり、特別な工程や設備を必要としない。
【0092】
なお、上記においては、各画素RP,GP,BPを構成する各有機EL素子100R,100G,100Bの発光層105を塗り分けてフルカラー表示を実現する有機EL表示パネルについて説明したが、白色の単色発光の発光層105を備え、各画素RP,GP,BPごとに赤色、緑色、青色のカラーフィルタが配設されてフルカラー表示を実現するカラーフィルタ方式の有機EL表示パネルであってもよい。
【0093】
また、白色や青色等の単色発光の発光層105と蛍光材料による色変換層とを組み合わせたカラーマッチング方式によりフルカラー表示を実現する有機EL表示パネルであってもよい。さらに、単色の発光層105の発光領域に電磁波照射等の処理を施して複数の発光色を実現するフォトブリーチング方式や、発光色が異なる発光層105を有する複数の有機EL素子を積層して一つの画素を形成するSOLED(transparent Stacked OLED)方式の有機EL表示パネルであってもよい。
【0094】
また、上記においてはパッシブ駆動の有機EL表示パネルについて説明したが、TFTにより駆動するアクティブ駆動の有機EL表示パネルにも、本発明は適用可能である。また、本発明にかかる有機EL表示パネルは、前述のようにボトムエミッション型およびトップエミッション型のいずれであってもよいが、トップエミッション型の場合には、特に、従来の封止缶や封止基板を用いて封止を行う場合に比べて、光を取り出す際における封止膜110の屈折率の影響を小さくすることが可能となるため、より有利な効果が奏される。
【0095】
また、実施例1の有機EL素子100および実施例2の有機EL表示パネルを構成する有機層の構成は、図1および図4に示す正孔注入層103、正孔輸送層104、発光層105、電子輸送層106および電子注入層107を備えた構成に限定されるものではない。例えば、発光層105、正孔輸送層104、および電子輸送層106は、単層構成でなく多層構成であってもよい。また、正孔輸送層104および電子輸送層106のいずれかを省略してもよく、あるいは両方を省略してもよい。また、キャリアブロック層等の有機層を、用途に応じて挿入してもよい。
【0096】
また、下部電極102を陰極とし上部電極108を陽極とする構成であってもよく、この場合には、図4の支持基板101側から、電子注入層103、電子輸送層104、発光層105、正孔輸送層106および正孔注入層107が順に形成される。
【0097】
また、実施例1の有機EL素子100および実施例2の有機EL表示パネルにおいては、封止膜110の自己修復層113が一層である場合について説明したが、自己修復層113を複数含む構成であってもよい。例えば、水との接触により体積変化を示す材料から構成される第1の自己修復層と、酸素との接触により体積変化を示す材料から構成される第2の自己修復層113とを含む構成であってもよく、この場合、第1および第2の自己修復層113は連続して積層されるか、または、内側バリア層113やバッファ層112が第1および第2の自己修復層113の間にさらに配設されて介在する。このように、性質の異なる複数の自己修復層113を備える構成においても、上記効果が奏される。
【0098】
また、例えば、水との接触により体積変化を示す材料と酸素との接触により体積変化を示す材料とが混合されて形成された実施例1および実施例2の自己修復層113を、内側バリア層113やバッファ層112を介して複数積層した構成であってもよい。このように同質の自己修復層113を複数積層する場合においても、上記効果が奏される。
【0099】
さらに、本発明にかかる製造方法により製造された有機EL素子は、表示パネル以外の用途でも使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の実施例1における有機EL素子の構成を示す模式的な断面図である。
【図2】図1の有機EL素子の封止膜における自己修復層の自己修復動作を説明するための模式的な部分断面図である。
【図3】図1の有機EL素子の封止膜における自己修復層の自己修復動作を説明するための模式的な部分断面図である。
【図4】本発明の実施例2における有機EL表示パネルの構成を示す模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0101】
100 有機EL素子
101 支持基板
102 下部電極
103 正孔注入層
104 正孔輸送層
105 発光層
106 電子輸送層
107 電子注入層
108 上部電極
110 封止膜
111 バッファ層
112 内側バリア層
113 自己修復層
114 外側バリア層
120 素子基板
200 ピンホール



【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に配設された対向する一対の電極間に少なくとも発光層を含む有機層を形成する素子基板を備え、前記素子基板の表面を封止層で被覆する有機EL素子において、
前記封止層は、所定の環境において体積変化を示す層を備えることを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記封止層の前記層は、水、酸素および有機成分の少なくともいずれか一つとの接触により体積変化を示す材料を含むことを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記封止層はさらにバリア層を備え、
前記封止層の前記層は、前記素子基板に対して前記バリア層よりも内側に配設されることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記バリア層は、前記素子基板に対して、前記封止層の最も外側に配設されることを特徴とする請求項3に記載の有機EL素子。
【請求項5】
前記封止層はさらにバッファ層を備え、
前記バッファ層は、前記素子基板の表面に配設されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の有機EL素子。
【請求項6】
基板上に配設された対向する一対の電極間に少なくとも発光層を含む有機層を形成する素子基板を備え前記素子基板の表面を封止層で被覆する有機EL素子によって構成される有機EL表示パネルにおいて、
前記有機EL素子の前記封止層は、所定の環境において体積変化を示す層を備えることを特徴とする有機EL表示パネル。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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