説明

有機EL素子の製法

【課題】有機EL層の選択的成膜の生産性が高く放熱性がよく有機EL層が変質・劣化する恐れのないトップエミッション型の有機EL素子の製法を提供する。
【解決手段】上面に有機EL保護膜を付着し下面に透明電極膜を付着した有機フィルムを形成する段階と、透明電極膜の下面に3原色に対応する有機EL層の複数の組を形成し、有機EL層の下表面に陰極用電極を形成する段階(段階2)と、上下両面が絶縁膜で被覆された金属母体からなる金属薄膜を用意する段階と、金属薄膜の上面に各々導電性接着剤層を備えた画素駆動ユニットのアレイを形成する段階と、有機フィルム下面の陰極用電極と金属薄膜上面の導電性接着剤層が接着される段階とを含み、段階2において有機フィルムが離隔された第1、第2のリールに巻かれ、両リールの中間部において有機フィルムの下面の透明電極膜に有機EL層がマスクを介して選択的に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子の製法に係り、特に、トップエミッション型の有機EL素子のロールツーロール量産を可能にする製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、略して「有機EL素子」という。)は、近年の薄膜形成技術の進歩により、厚さnmクラスの高純度、良質の積層膜が形成できるようになり、5V程度の低電圧動作が可能となった。
このようにして有機EL素子は、低消費電力、高品質で、薄型で、さらには曲面表示も可能な、次世代表示システム用の素子として注目されている。
【0003】
有機EL素子では、所定の有機分子成分からなる複数の膜を上下に積層して有機EL層とし、その上下両側に各々電極層を付着してOLED(有機発光ダイオード)を形成し、両電極を通じて所定の電圧又は電流を印加して電子とホールを有機EL層に注入し、電子とホールが再結合する際に発光する現象を利用する。
【0004】
周知のように有機EL層には低分子型と高分子型の2種類があり、例えば非特許文献1には、通常各々の成膜には、低分子型の場合、高精度シャドウマスクによる蒸着方式が採られ、高分子型の場合、分子量が大きすぎて蒸着が困難であるので、溶剤に溶かして塗布する方式が採られることが記述されている。
即ち、高分子型の場合、インクジェットによる印刷方式などが使えるので、低分子型の場合よりも輝度に難があるが、安価に製造できる。
【0005】
いずれにしても、最近需要の多いカラー高精細表示用の場合、通常ガラス基板上に、有機EL層を3種類の画素の微細パターンに合わせて選択的に成膜し積層する必要があり、特に高精度シャドウマスキングの場合その成膜装置は高価で重く嵩張る上にスループットが低く、即ち生産性が上げられなかった。
【0006】
さらに、上記の発光を外部に導いて表示機能を果たさせるためには、上下に備えた電極の内、少なくとも一方の電極は透明でなければならない。
透明電極膜としては、電気伝導度と透明度の両立を図ることができる材質としてITO(酸化インジウム錫)が普及しているが、一般にはITOの電気抵抗を下げるためアニールが必要であり、且つ、ITOの表面の平滑度を上げるため(粗度を下げるため)研磨が必要であった。
【0007】
有機EL層はITOのアニールの際に高温になると変質してしまうので、有機EL層は、ITOより後に形成する必要があった。
即ち、積層順が[基板−第1電極(ITO)−有機EL層−第2電極(不透明電極でもよい)]となり、基板側から発光させる(ボトムエミッション)ため、基板も透明でなければならず、通常、ガラス基板を用いている。
しかしながら、ガラス基板は熱伝導性が悪く、作動中の発熱に対し放熱が不十分で高温になり有機EL層の劣化を招き易い。
【0008】
さらに、高速高精細の表示システムを得るためには、アクティブマトリクス(TFT)駆動にしなければならないが、その場合、TFTトランジスタを基板とITO電極の間に形成しなければならないので、TFTトランジスタの存在する分だけ開口率が低下し、発光の外部変換効率が低下する。
即ち、所要の発光量を確保するためには消費電力が増大し、従って消費電力に比例する発熱量が増大し、さらに高温になってしまい、有機EL層の劣化を一層招き易い。
【0009】
そこで、第2電極を透明化して[基板―TFT−第1電極−有機EL層−第2電極(ITO)]とし、基板の反対側から発光させる(トップエミッション)方式が望ましいが、通常の手順では、上記のように、第2電極の形成により有機EL層を変質させてしまう。
【非特許文献1】Kathleen M.Vaeth,Information Display 6/03(2003),pp12−17、SID.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、有機EL素子の抱える上記の諸問題を一括して解決するために、有機EL層の選択的成膜の生産性が高く、放熱性がよく、有機EL層が変質・劣化する恐れのない、しかもトップエミッション型の有機EL素子の製法を提供することを目的とする。
【0011】
本発明は、又これに加えて可撓性のある、トップエミッション型有機EL素子の製法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明による有機EL素子の製法は請求項1に記載のとおり、上面に有機EL保護膜を付着し、下面に透明電極膜を付着した有機フィルムを形成する段階(ステップ11)と、前記透明電極膜の下面に、3原色R、G、Bに対応する有機EL層の複数の組を形成し、さらに前記有機EL層の下表面に陰極用電極を形成する段階(ステップ21)と、上下両面が絶縁膜で被覆された金属母体からなる金属薄膜を用意する段階(ステップ31)と、前記金属薄膜の上面に、各々導電性接着剤層を備えた画素駆動ユニットのアレイを形成する段階(ステップ41)と、前記有機フィルム下面の陰極用電極と、前記金属薄膜上面の導電性接着剤層が接着される段階(ステップ51)とを含み、前記ステップ21において、前記有機フィルムが離隔された第1、第2のリールに巻かれ、前記第1、第2のリールの中間部において、前記有機フィルムの下面の透明電極膜に、前記有機EL層がマスクを介して選択的に形成される、ことを特徴とする。
【0013】
また、請求項2に記載のとおり、下面に透明電極膜を、剥離層を介して付着した有機フィルムを形成する段階(ステップ12)と、前記透明電極膜の下面に、3原色R、G、Bに対応する有機EL層の複数の組を形成し、さらに前記有機EL層の下表面に陰極用電極を形成する段階(ステップ22)と、上下両面が絶縁膜で被覆された金属母体からなる金属薄膜を用意する段階(ステップ32)と、前記金属薄膜の上面に、各々導電性接着剤層を備えた画素駆動ユニットのアレイを形成する段階(ステップ42)と、前記有機フィルム下面の陰極用電極と、前記金属薄膜上面の導電性接着剤層が接着される段階(ステップ52)と、前記有機フィルムを前記剥離層と共に除去する段階(ステップ62)とを含み、前記ステップ22において、前記有機フィルムが離隔された第1、第2のリールに巻かれ、前記第1、第2のリールの中間部において、前記有機フィルムの下面の透明電極膜に、前記有機EL層がマスクを介して選択的に形成される、ことを特徴とする。
【0014】
また、請求項3に記載のとおり、下面に、3原色R、G、Bに対応する有機EL層の各々を付着した3本の有機フィルムを形成する段階(ステップ13)と、上下両面が絶縁膜で被覆された金属母体からなる金属薄膜を用意する段階(ステップ23)と、前記金属薄膜の上面に、各々、導電性接着剤層を介して、もしくは直接に、陰極用電極を備えた画素駆動ユニットのアレイを形成する段階(ステップ33)と、所定の突起を備えた押し型を用意する段階(ステップ43)と、前記有機フィルムのいずれか(例えばR(赤))を順次、左右に離隔して設けたリールにかけ、前記有機フィルムの前記リールの中間部を前記金属薄膜と前記押し型で挟み、前記押し型の突起が前記金属薄膜の対応する(赤)画像駆動ユニットに対向するよう位置決めし、前記押し型を下げて有機フィルムを前記金属薄膜側に押し付け、有機EL層の一部が、押し型の突起に対応する部分から1パネル分一括して前記金属薄膜の陰極用電極上に転写される段階(ステップ53)とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明による有機EL素子の製法によれば、ロールツーロールの連続生産が可能であり、トップエミッション型有機EL素子を経済的に提供できる。
【0016】
特に、本発明による有機EL素子の製法によれば、有機EL層の形成にあたり、簡易なスタンプ方式を使うこともできるので、輝度の良い低分子型の場合でも安価に選択的成膜ができる。
【0017】
しかも、基板母体が金属であるので基板からの放熱性が高いので動作中の温度上昇を抑え、有機EL層の劣化を招かず、製造中に有機EL層を高温に晒さないので、有機EL層の変質を招かず、しかも工程が簡単であるので、信頼性の高いトップエミッション型有機EL素子を経済的に提供できる。
【0018】
また、本発明による有機EL素子の製法によれば、可撓性があるので、必要ならば曲面表示の可能な、トップエミッション型有機EL素子を経済的に提供できる。
【0019】
本発明によるトップエミッション型有機EL素子の製法によれば、特にアクティブマトリクス(TFT)駆動の場合、開口率がTFTによって制限されないので、発光の外部変換効率が大きく、同じ光量の場合は消費電力を低減でき、動作中の温度上昇を抑え、有機EL層の劣化をさらに防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
図1は、第1の実施例における有機EL素子の製法の手順を示す断面模式図、図2は、第1の実施例における有機EL層の形成方法の蒸着部部分を示す模式図、図3は、第1の実施例における有機EL層の形成方法の全体を示す2種類の模式図、図4は、第2の実施例における有機EL素子の製法の手順を示す断面模式図、そして、図5は、第3の実施例における有機EL層の形成方法を示す模式図である。
【実施例1】
【0021】
図1を参照すると、本発明によるトップエミッション型有機EL素子は次の手順ステップ11〜51で形成される。
【0022】
ステップ11で、図1(A)に示すように、有機フィルム100の上面に有機EL層保護膜120を、下面に透明電極膜140を付着したものを用意する。
ここで、有機フィルム、有機EL層保護膜、透明電極膜の材質としては例えば各々、PET(Poly−Ethylene−Terephthalate)、窒化シリコン(SiN)又は酸化窒化シリコン(SiON)、ITO(酸化インディウム錫)が選ばれる。
【0023】
ステップ21で、図1(B)に示すように、有機フィルム100の下面側、即ち透明電極膜140の下表面に、3原色R、G、Bに対応する有機EL層160R、160G、160Bの複数の組が形成され、さらにその下表面に陰極用電極180が形成される。
【0024】
次にステップ31で、別途、図1(C)に示すように、金属母体200の上下両面を絶縁層202、204で被覆した金属薄膜を用意する。
金属母体の材質としては、加工性、熱伝導性が高く、経済的に入手できることが望ましく、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)もしくはそれらを含む合金が好適である。
その場合、これらの絶縁層は、母体金属の酸化によって形成できる。
【0025】
ステップ41で、アクティブマトリクス駆動型の場合、同じく図1(C)に示すように、上面の絶縁層202の上表面に例えばポリシリコン層又はアモルファスシリコン層220を堆積し、画素駆動ユニット225のアレイが形成される。
【0026】
個々の画素駆動ユニット225は上記有機EL層160R、160G、160Bに対応し、原理的には、1個のTFTトランジスタからなり、そのゲートとソースは各々行・列をなす駆動配線(図示せず)に接続され、そのドレーンは(必要ならば、導電性金属層を介して)導電性接着剤層240に接続される。
このようにして、「導電性接着剤層240を備えた画素駆動ユニット225のアレイ」が得られる。
【0027】
次に、ステップ51では、上記ステップ21とステップ41の産物である図1(B)と図1(C)が、両者の間の双方向矢印が示すように接着され、図1(D)の有機EL素子が得られる。
【0028】
ここで図2を参照すると、上記ステップ21において、有機EL層160R、160G、160Bの形成に当たっては、透明電極膜140の下表面側にシャドウマスク310をかけ、下方に低分子型有機EL層の蒸着源330として、例えば図2のタイミングでは赤(R)を容れたルツボ320を置いて、有機EL層材料340を飛散させる。
有機EL層材料340のうち、シャドウマスク310の開口部(図2では、160Rに対応している)に飛来したものだけが、透明電極膜140に堆積する、即ち、蒸着される。
【0029】
さらに図3(A)を参照すると、本発明の有機EL素子の製法によれば、有機フィルム100は、左右のリール351、352に巻かれており、本図のタイミングでは、左から右へ移送され、途中、2つの押さえリール355、356を介してクーリングキャンロール359の周辺に沿ってクーリングキャンロールの最下部を通過する際に、上記のシャドウマスク310、ルツボ320、蒸着源330、有機EL層材料340からなる蒸着部のセットにより、有機EL層が例えば1パネル分一括して選択的に蒸着される。
【0030】
1パネル分の蒸着が完了すると、有機フィルム100は1パネル分右へ巻き取られ、次のパネルの蒸着段階に移る。
このようにして、例えば蒸着源を赤(R)にセットして、1リール分の有機EL層160Rの蒸着を完了すると、蒸着源330を緑(G)に入れ替え、有機フィルムの位置決めを1画素分シフトして、図2の160Gにシャドウマスク310の開口が来るように設定して、リールを右から左に巻き戻しながら、緑(G)を選択蒸着していく。
最後に、リールを再び左から右へ巻き取りながら、同様にして青(B)を選択蒸着する。
【0031】
有機EL層の蒸着は、有機フィルム100をクーリングキャンロール359の周辺に沿って走らせ、接触させている際に冷却しながら行われる。
3原色分の有機EL層を蒸着した後、全有機EL層にわたってアルミニウム又はマグネシウム−銀合金からなる陰極用電極180が、シャドウマスクを介して成膜される。
この成膜にも、上記と同様のロールツーロールシステムを使うことができる。
【0032】
図3(B)を参照すると、クーリングキャンロール359の周辺に沿って、3原色に対応する3つの蒸着部のセット(310R、320R、330R、340R)、(310G、320G、330G、340G)、(310B、320B、330B、340B)を設けると、シャドウマスク310の位置決め、蒸着源330は3セット各々固定することができ、1回のランで3層の有機EL層を完成することができ、生産性が上がる。
【0033】
このようなロールツーロールシステムは、可撓性のある有機フィルム100を基板として採用した本発明により初めて実現できたものであり、従来のようなガラスなどの固形基板の場合、非能率的な1パネル毎の個別処理を依存していたのに対し、効率的な連続処理が可能になり、製造原価を削減できる。
【0034】
なお、上記ステップ41においても、金属母体200の可撓性を活用して、画素駆動ユニット225のアレイ及び導電性接着剤層240の形成にあたり、その工程の一部又は全部を同様のロールツーロールシステムによることができる。
【0035】
このようにして得られたアクティブマトリクス駆動型の有機EL素子の動作を簡単に説明すると、図1(D)において、透明電極膜140に例えば最高電位を与え、特定の行(ゲート)駆動配線のみに選択電位を与え、すべての列(ソース)駆動配線に各々の対応画素の色調に見合うデータ電位を与えると、選ばれた画素の3色R、G、Bに対応する導電性接着剤層240(ドレーン)、従って陰極用電極180の電位は、そのデータ電位に等しくなり、次に同じ行が選択されて新しいデータ電位に更新されるまで維持される。
【0036】
このようにして、透明電極膜140、有機EL層160R、160G、160B、陰極用電極180からなる各画素のOLED(有機発光ダイオード)には所望の電圧が印加されることになり、各画素は所望の色調を呈色させることができる。
【0037】
なお、有機フィルム100の上面は有機EL保護膜120により覆われているので、パネルごとに切断した後で、有機フィルム100の外周部を適切なシール材で封止すれば、有機EL保護膜120と有機フィルム100を封止ガラスの代替として利用することができる。
即ち、封止用としてのガラスキャップを省くことができる。
【0038】
パッシブマトリクス駆動型の有機EL素子は、例えば、上記ステップ11で透明電極膜140を複数の列ストリップをなすようにパターニング形成し、上記ステップ21で、陰極用電極180を複数の行ストリップをなして透明電極膜と直交し、その各交点に有機EL層が位置するようにパターニング形成し、上記ステップ41で、「導電性接着剤層を備えた画素駆動ユニットのアレイ」として、金属薄膜の上面の絶縁層202上に、ポリシリコン層又はアモルファスシリコン層220の堆積と画素駆動ユニット225のアレイの形成を省略し、代りに複数の行ストリップをなす陰極用電極180に対応する形状の導電性接着剤層240のみからなるアレイを形成することにより得られる。
【実施例2】
【0039】
本実施例では、図4を参照すると、ステップ12で、図4(A)に示すように、上記実施例1におけるステップ11に対応する図1(A)と異なり、上面に有機EL保護膜がなく、下面に透明電極膜140が剥離層130を介して付着された有機フィルム100を用意する。
【0040】
後の工程、ステップ22〜52は図4(B)〜(D)に示すように、上記実施例1のステップ21〜51と同じであるが、本実施例では最後にステップ62で、図4(E)に示すように、有機フィルム100を剥離層130と共に除去する。
【0041】
このようにして実施例2では、有機フィルム100が残存しないので、有機EL層を外気から保護し、しかもトップエミッション構造を実現するために、パネルごとに切断した後、透明な封止用ガラスキャップ(図示しない)を適切な接着剤を介して、有機EL層を覆うように、金属薄膜からなる金属基板に装着する。
【実施例3】
【0042】
本実施例では、図5を参照すると、ステップ13では、図5の中央部に示したように、有機フィルム100の下面に有機EL層160を全体に付着したものを3種類(160R、160G、160B)用意する。
【0043】
次にステップ23で、図5の下部に示したように、上記実施例1のステップ31及び41の組と同様にして、上、下両面に絶縁層202、204を備えた金属母体200からなる金属薄膜を用意し、次にステップ33で、同じ図5の下部に示したように、絶縁層202の上面にTFTトランジスタを含む画像駆動ユニット225が形成されたポリシリコン層又はアモルファスシリコン層220を備えた金属薄膜を用意する。
ただし上記実施例1の場合と異なり、各画像駆動ユニット225の上面には、導電性接着剤層240を介して陰極用電極180が予め備えられている。
(本実施例では、この導電性接着剤層240を省いて、陰極用電極180を直接、各画像駆動ユニット225の上面に形成することができる。)
【0044】
次にステップ43で、図5の上部に示したように、1パネル分の、所定の突起412を備えた押し型(スタンプ)410を用意する。
突起412のサイズ及びピッチは、高精細表示の画素に合わせてあり、いずれもサブミクロン級である。
【0045】
従来のフォトリソグラフィのようなフォトレジストを使用せず、精密金型でエンボス加工を施すことにより、平面だけではなく曲面に対しても微細なパターンを形成することができるナノインプリント技術が現在開発されている。
【0046】
本発明による有機EL素子の製法は、このようなナノインプリント技術を利用して初めて実用化の目処が立ったものである。
即ち、押し型410としては、シリコン基板などをエッチング加工した母型をそのまま用いてもよいし、ネガパターンをシリコン又はガラス基板に形成し、これを母型に電鋳でポジパターンを形成した電鋳金型を用いてもよい。
これらのエンボス加工装置は、グローブボックスに収容されている。
【0047】
ステップ53で、図5に示したように、有機EL層160として最初に‘赤’用の160Rを付着した有機フィルム100を、左、右のリール351、352間にかけ、金属薄膜と押し型410の間を通し、押し型の突起412の位置を、‘赤’用の金属薄膜上の陰極用電極180の直上になるように定めておき、押し型を下げて有機フィルム100を金属薄膜側に押し付けると、有機EL層160の一部が、押し型の突起に対応する部分160aから1パネル分一括して陰極用電極上に転写される。
【0048】
同様にして、有機EL層160G、160Bを使って、‘緑’、‘青’が対応する陰極用電極上に転写される。
最後に、別途作成した透明電極膜140(図示せず)で、これらの有機EL層を含む金属薄膜全面を覆うと、アクティブマトリクス駆動型の場合の画素が完成する。
【0049】
本実施例によれば、有機EL層は、透明電極膜140上にシャドウマスクなどにより選択的に蒸着成膜されるのではなく、任意の有機フィルム上に全面形成できるので、透明電極膜やシャドウマスクとの相互干渉を考慮する必要が無く、最適の有機フィルム素材を選んで、全面成膜と言う単純な条件下で最善の性能を出せるよう製造条件を追及できる。
【0050】
また、1パネル内の画素の位置及び寸法精度は、押し型410の寸法精度で決まり、押し型の寸法精度は、初期値が母型の寸法精度で決まり、化学的に不活性、即ち耐溶剤性が強い材質を選ぶならば、一旦得られた押し型の寸法精度は安定である。
また、シリコンなどをサブミクロン級精度で加工して母型を得ることは、現行技術では容易である。
【0051】
以上を合わせると、高性能、高精細の有機EL素子を、その主構成要素である透明電極膜、有機EL層、陰極用電極の各々について単独で最適の製造条件を追及しながら形成でき、共通の母型で決められる寸法精度に基づきロールツーロール連続生産が可能になるので、高性能、高精細の有機EL素子が安価に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】第1の実施例における有機EL素子の製法の手順を示す断面模式図である。
【図2】第1の実施例における有機EL層の形成方法の蒸着部部分を示す模式図である。
【図3】第1の実施例における有機EL層の形成方法の全体を示す、(A)(B)2種類の模式図である。
【図4】第2の実施例における有機EL素子の製法の手順を示す断面模式図である。
【図5】第3の実施例における有機EL層の形成方法を示す模式図である。
【符号の説明】
【0053】
100 有機フィルム
120 有機EL保護膜
130 剥離層
140 透明電極膜
160R、160G、160B 有機EL層
180 陰極用電極
200 金属母体
202、204 絶縁層
220 ポリシリコン層又はアモルファスシリコン層
225 画素駆動ユニット
240 導電性接着剤層
310、310R、310G、310B シャドウマスク
320、320R、320G、320B ルツボ
330、330R、330G、330B 蒸着源
340、340R、340G、340B 有機EL層材料
351、352、355、356 リール
359 クーリングキャンロール
410 押し型(スタンプ)
412 突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面に有機EL保護膜を付着し、下面に透明電極膜を付着した有機フィルムを形成する段階(ステップ11)と、
前記透明電極膜の下面に、3原色R、G、Bに対応する有機EL層の複数の組を形成し、さらに前記有機EL層の下表面に陰極用電極を形成する段階(ステップ21)と、
上下両面が絶縁膜で被覆された金属母体からなる金属薄膜を用意する段階(ステップ31)と、
前記金属薄膜の上面に、各々導電性接着剤層を備えた画素駆動ユニットのアレイを形成する段階(ステップ41)と、
前記有機フィルム下面の陰極用電極と、前記金属薄膜上面の導電性接着剤層が接着される段階(ステップ51)とを含み、
前記ステップ21において、前記有機フィルムが離隔された第1、第2のリールに巻かれ、前記第1、第2のリールの中間部において、前記有機フィルムの下面の透明電極膜に、前記有機EL層がマスクを介して選択的に形成される、
ことを特徴とする有機EL素子の製法。
【請求項2】
下面に透明電極膜を、剥離層を介して付着した有機フィルムを形成する段階(ステップ12)と、
前記透明電極膜の下面に、3原色R、G、Bに対応する有機EL層の複数の組を形成し、さらに前記有機EL層の下表面に陰極用電極を形成する段階(ステップ22)と、
上下両面が絶縁膜で被覆された金属母体からなる金属薄膜を用意する段階(ステップ32)と、
前記金属薄膜の上面に、各々導電性接着剤層を備えた画素駆動ユニットのアレイを形成する段階(ステップ42)と、
前記有機フィルム下面の陰極用電極と、前記金属薄膜上面の導電性接着剤層が接着される段階(ステップ52)と、
前記有機フィルムを前記剥離層と共に除去する段階(ステップ62)とを含み、
前記ステップ22において、前記有機フィルムが離隔された第1、第2のリールに巻かれ、前記第1、第2のリールの中間部において、前記有機フィルムの下面の透明電極膜に、前記有機EL層がマスクを介して選択的に形成される、
ことを特徴とする有機EL素子の製法。
【請求項3】
下面に、3原色R、G、Bに対応する有機EL層の各々を付着した3本の有機フィルムを形成する段階(ステップ13)と、
上下両面が絶縁膜で被覆された金属母体からなる金属薄膜を用意する段階(ステップ23)と、
前記金属薄膜の上面に、各々、導電性接着剤層を介して、もしくは直接に、陰極用電極を備えた画素駆動ユニットのアレイを形成する段階(ステップ33)と、
所定の突起を備えた押し型を用意する段階(ステップ43)と、
前記有機フィルムのいずれか(例えばR(赤))を順次、左右に離隔して設けたリールにかけ、前記有機フィルムの前記リールの中間部を前記金属薄膜と前記押し型で挟み、前記押し型の突起が前記金属薄膜の対応する(赤)画像駆動ユニットに対向するよう位置決めし、前記押し型を下げて有機フィルムを前記金属薄膜側に押し付け、有機EL層の一部が、押し型の突起に対応する部分から1パネル分一括して前記金属薄膜の陰極用電極上に転写される段階(ステップ53)とを含むことを特徴とする有機EL素子の製法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−49222(P2006−49222A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−231522(P2004−231522)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(502028256)株式会社エーエムエス (6)
【Fターム(参考)】