有機EL素子の製造方法、有機ELディスプレイ
【課題】発光特性を発光色に応じて最適化可能な有機EL素子の製造方法、この製造方法を用いて製造された有機EL素子を備えた有機ELディスプレイを提供すること。
【解決手段】本適用例の有機EL素子の製造方法は、素子基板1上に複数の画素電極としての陽極31を形成する画素電極形成工程と、複数の陽極31をプラズマガスに曝すプラズマ処理工程と、プラズマ処理が施された複数の陽極31上に発光層を含む機能層32R,32G,32Bを形成する機能層形成工程と、機能層32R,32G,32Bを覆うように共通電極としての陰極34を形成する共通電極形成工程と、を備え、プラズマ処理工程は、複数の陽極31のうち、少なくとも1色の発光色に対応する陽極31に対して他の陽極31をマスクしてプラズマガスに曝すことにより、当該陽極31のプラズマ処理条件が他の陽極31に対して異なるようにプラズマ処理する工程を含む。
【解決手段】本適用例の有機EL素子の製造方法は、素子基板1上に複数の画素電極としての陽極31を形成する画素電極形成工程と、複数の陽極31をプラズマガスに曝すプラズマ処理工程と、プラズマ処理が施された複数の陽極31上に発光層を含む機能層32R,32G,32Bを形成する機能層形成工程と、機能層32R,32G,32Bを覆うように共通電極としての陰極34を形成する共通電極形成工程と、を備え、プラズマ処理工程は、複数の陽極31のうち、少なくとも1色の発光色に対応する陽極31に対して他の陽極31をマスクしてプラズマガスに曝すことにより、当該陽極31のプラズマ処理条件が他の陽極31に対して異なるようにプラズマ処理する工程を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(エレクトロルミネセンス)素子の製造方法、有機ELディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子の製造方法としては、有機層の付着前に、ベース電極が、プラズマ反応器内において酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトンおよびそれらの混合物から選択されたプラズマガスに曝されるエレクトロルミネセンス発生装置のベース電極の洗浄方法が知られている(特許文献1)。
【0003】
また、陽極の表面の水との接触角が10°以下になるように陽極の表面を洗浄処理した後、陽極の表面の仕事関数を0.5ev以上大きくする表面処理を行い、この後に、陽極の上に有機発光層および陰極を形成する有機エレクトロルミネセンス素子の製造方法が知られている(特許文献2)。
【0004】
これらの洗浄方法または表面処理は、いずれもベース電極あるいは陽極の仕事関数を大きくしてホールの注入効率を高めることにより、有機EL素子の動作特性を改善しようとするものである。
【0005】
【特許文献1】特開平10−92585号公報
【特許文献2】特開2004−63210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1および特許文献2の有機EL素子の製造方法では、ベース電極(あるいは陽極)を画一的な処理条件で洗浄または表面処理することを提案している。しかしながら、これらの洗浄または表面処理を行うことによりホールの注入効率を高めても、発光色に対応して形成された有機発光層に必ずしも適合していないおそれがあった。言い換えれば、画一的な処理条件では、有機EL素子の発光特性を発光色に対応して最適化できないおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]本適用例の有機EL素子の製造方法は、基板上に複数の画素電極を形成する画素電極形成工程と、前記複数の画素電極をプラズマガスに曝すプラズマ処理工程と、プラズマ処理が施された前記複数の画素電極上に発光層を含む機能層を形成する機能層形成工程と、前記機能層を覆うように共通電極を形成する共通電極形成工程と、を備え、前記プラズマ処理工程では、前記複数の画素電極のうち、少なくとも1色の発光色に対応する画素電極に対して他の画素電極をマスクしてプラズマガスに曝すことにより、当該画素電極のプラズマ処理条件が前記他の画素電極に対して異なるようにプラズマ処理する工程を含むことを特徴とする。
【0009】
この方法によれば、プラズマ処理工程では、処理対象の画素電極以外の他の画素電極をマスクして当該画素電極のプラズマ処理条件が他の画素電極に対して異なるようにプラズマ処理する。したがって、発光色に対応した機能層に対する画素電極の表面状態、いわゆる仕事関数を発光色ごとに最適化して、安定した発光特性が得られる有機EL素子を製造することができる。
【0010】
[適用例2]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記プラズマ処理条件が前記プラズマガスに対する曝露時間、またはプラズマパワーであることを特徴とする。
この方法によれば、曝露時間、またはプラズマパワーを調整することにより、画素電極の仕事関数を発光色ごとに比較的容易に最適化することができる。
【0011】
[適用例3]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記機能層が形成される前記画素電極の表面層がITO膜からなり、前記プラズマガスが酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトンのいずれかのガス、またはこれらのガスから少なくとも2つ以上選ばれた混合ガスであることを特徴とする。
この方法によれば、酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトンのいずれかのガス、またはこれらのガスから少なくとも2つ以上選ばれた混合ガスをプラズマ化して、プラズマガスに対する曝露時間、またはプラズマパワーを調整することにより、ITO膜の表面の仕事関数を制御することができる。
【0012】
[適用例4]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、ホールと電子とが結びつく再結合領域が、前記発光層と一致もしくはその近傍となるように、各画素電極の前記プラズマ処理条件を設定することが好ましい。
この方法によれば、高い発光効率を実現することができる。
【0013】
[適用例5]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記プラズマ処理工程では、常磁性の前記マスクを用いることが好ましい。
この方法によれば、プラズマ処理工程において、プラズマの生成状態がマスクによって影響されず、安定したプラズマ処理が可能である。
【0014】
[適用例6]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記マスクがシリコンからなるとしてもよい。
この方法によれば、湿式または乾式にてシリコンをエッチングして、プラズマ処理用のマスクを高精度に形成することができる。
【0015】
[適用例7]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記プラズマ処理工程では、発光色ごとに用意した前記マスクを用いるとしてもよい。
この方法によれば、基板上における様々な有機EL素子の配置に対応できる。
【0016】
[適用例8]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記基板上に同一形状の画素領域がマトリクス状に配置され、前記プラズマ処理工程では、同一発光色の前記画素領域の配置に対応した開口部を有するマスクを、処理対象の前記画素電極を有する前記画素領域に前記開口部が対向するように配置して、当該画素電極をプラズマ処理し、当該画素電極以外の他の画素電極をプラズマ処理する際には、前記マスクを相対移動させることを特徴とする。
この方法によれば、1つのマスクを用いてすべての画素電極を画素電極ごとに設定された処理条件でプラズマ処理することができる。
【0017】
[適用例9]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記機能層形成工程では、前記画素電極ごとに発光色に対応した前記機能層を個別に形成することを特徴とする。
この方法によれば、個別に形成された機能層の発光特性を発光色ごとに最適化できる。
【0018】
[適用例10]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記機能層形成工程では、前記画素電極ごとに複数色の発光が可能な複数種の前記発光層を含む前記機能層を形成するとしてもよい。
この方法によれば、複数種の発光層のうち発光色に対応して画素電極の仕事関数を最適化できる。
【0019】
[適用例11]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記複数の画素電極をすべてプラズマ処理した後に、前記機能層を形成することを特徴とする。
この方法によれば、製造工程を遡ることなく、効率的に有機EL素子を製造することができる。
【0020】
[適用例12]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、発光色に対応した前記画素電極をプラズマ処理した後に、当該画素電極以外の他の画素電極をマスクした状態のままで当該画素電極上に前記機能層を形成するとしてもよい。
この方法によれば、当該画素電極をプラズマ処理した後に、続けて機能層を形成するので、機能層形成までの時間を短縮して、プラズマ処理後の画素電極の表面状態を維持し、より安定した発光特性が得られる有機EL素子を製造することができる。
【0021】
[適用例13]本適用例の有機ELディスプレイは、上記適用例の有機EL素子の製造方法を用いて製造された複数の有機EL素子を備えることを特徴とする。
この構成によれば、発光色ごとに安定した発光特性が得られる有機EL素子を備えているので、優れた表示品位を有する有機ELディスプレイを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。
【0023】
(実施形態1)
<有機ELディスプレイ>
図1は、有機ELディスプレイを示す概略正面図である。図1に示すように、本実施形態の有機ELディスプレイ10は、有機EL素子12(図2参照)が複数配列された素子基板1と、複数配列した有機EL素子12を封着する封着層35(図2参照)を介して素子基板1を封止する封止基板2とを備えている。
【0024】
素子基板1は、有機EL素子12を駆動する駆動素子を備えた回路部11(図2参照)を有している。複数の有機EL素子12は、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の発光が個別に得られる。そして、表示領域6において同一色の発光が得られる有機EL素子12が、同一方向に配列する所謂ストライプ方式で素子基板1上に配置され表示画素7を構成している。なお、表示画素7は、実際には非常に微細なものであり、図示の都合上拡大している。
【0025】
素子基板1は、封止基板2よりも一回り大きく、額縁状に張り出した部分には、駆動素子であるTFT(Thin Film Transistor)素子8(図2参照)を駆動する2つの走査線駆動回路部3と1つのデータ線駆動回路部4が設けられている。素子基板1の端子部1aには、これらの駆動回路部3,4と外部駆動回路とを接続するためのフレキシブルな中継基板5が実装されている。
【0026】
図2は、有機ELディスプレイの要部構造を示す概略断面図である。図2に示すように、有機ELディスプレイ10において、有機EL素子12は、画素電極としての陽極31と、陽極31を区画する隔壁部33と、陽極31上に形成された有機膜からなる発光層を含む機能層32とを有している。また、機能層32を介して陽極31と対向するように形成された共通電極としての陰極34を有している。
【0027】
隔壁部33は、フェノールまたはポリイミドなどの絶縁性を有する感光性樹脂からなり、表示画素7を構成する陽極31の周囲を一部覆って、複数の陽極31をそれぞれ区画するように設けられている。
【0028】
陽極31は、素子基板1上に形成されたTFT素子8の3端子のうちの1つに接続しており、例えば、透明電極材料であるITO(Indium Tin Oxide)を厚さ100nm程度に成膜した電極である。なお、図示省略したが、陽極31の下層(平坦化層28側)に、絶縁層を介してAlからなる反射層が設けられている。当該反射層は、機能層32における発光を封止基板2側に反射するものである。また、当該反射層はAlに限定されず、発光を反射する機能(反射面)を有していればよい。例えば、絶縁性の有機材料あるいは無機材料を用いて凹凸を有する反射面を形成する方法、陽極31自体を反射機能を有する導電材料で構成し、表面層にITO膜を形成する方法などが挙げられる。
【0029】
陰極34は、同じく、ITOなどの透明電極材料により形成されている。
【0030】
本実施形態の有機ELディスプレイ10は、いわゆるトップエミッション型の構造となっており、陽極31と陰極34との間に駆動電流を流して機能層32で発光した光を上記反射層で反射させて封止基板2側から取り出す。したがって、封止基板2は透明なガラス等からなる基板を用いる。また、素子基板1は、透明基板および不透明基板のいずれも用いることができる。不透明基板としては、例えば、アルミナ等のセラミックス、ステンレススチール等の金属シートに表面酸化などの絶縁処理を施したものの他に、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0031】
素子基板1には、有機EL素子12を駆動する回路部11が設けられている。すなわち、素子基板1の表面にはSiO2を主体とする下地保護層21が下地として形成され、その上にはシリコン層22が形成されている。このシリコン層22の表面には、SiO2および/またはSiNを主体とするゲート絶縁層23が形成されている。
【0032】
また、シリコン層22のうち、ゲート絶縁層23を挟んでゲート電極26と重なる領域がチャネル領域22aとされている。なお、このゲート電極26は、図示しない走査線の一部である。一方、シリコン層22を覆い、ゲート電極26を形成したゲート絶縁層23の表面には、SiO2を主体とする第1層間絶縁層27が形成されている。
【0033】
また、シリコン層22のうち、チャネル領域22aのソース側には、低濃度ソース領域および高濃度ソース領域22cが設けられる一方、チャネル領域22aのドレイン側には低濃度ドレイン領域および高濃度ドレイン領域22bが設けられて、いわゆるLDD(Light Doped Drain)構造となっている。これらのうち、高濃度ソース領域22cは、ゲート絶縁層23と第1層間絶縁層27とにわたって開孔するコンタクトホール25aを介して、ソース電極25に接続されている。このソース電極25は、電源線(図示せず)の一部として構成されている。一方、高濃度ドレイン領域22bは、ゲート絶縁層23と第1層間絶縁層27とにわたって開孔するコンタクトホール24aを介して、ソース電極25と同一層からなるドレイン電極24に接続されている。
【0034】
ソース電極25およびドレイン電極24が形成された第1層間絶縁層27の上層には、例えばアクリル系の樹脂成分を主体とする平坦化層28が形成されている。この平坦化層28は、アクリル系やポリイミド系等の、耐熱性絶縁性樹脂などによって形成されたもので、TFT素子8やソース電極25、ドレイン電極24などによる表面の凹凸をなくすために形成された公知のものである。
【0035】
そして、陽極31が、この平坦化層28の表面上に形成されると共に、該平坦化層28に設けられたコンタクトホール28aを介してドレイン電極24に接続されている。すなわち、陽極31は、ドレイン電極24を介して、シリコン層22の高濃度ドレイン領域22bに接続されている。陰極34は、GNDに接続されている。したがって、スイッチング素子としてのTFT素子8により、上記電源線から陽極31に供給され陰極34との間で流れる駆動電流を制御する。これにより、回路部11は、所望の有機EL素子12を発光させカラー表示を可能としている。
【0036】
なお、有機EL素子12を駆動する回路部11の構成は、これに限定されるものではない。
【0037】
機能層32は、正孔注入層(HIL)、正孔輸送層(HTL)、有機膜からなる発光層、電子輸送層(ETL)、電子注入層(EIL)と呼ばれる複数の薄膜層からなり、陽極31側からこの順で積層されている。
【0038】
機能層32を構成する正孔注入層(HIL)の形成材料としては、例えば、銅フタロシアニン(CuPc)や、ポリテトラヒドロチオフェニルフェニレンであるポリフェニレンビニレン、1,1−ビス−(4−N,N−ジトリルアミノフェニル)シクロヘキサン、トリス(8−ヒドロキシキノリノール)アルミニウム(Alq3)等が挙げられる。特に銅フタロシアニン(CuPc)が好適である。また、正孔輸送層(HTL)としては、トリフェニルアミン誘導体(TPD)、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体等が挙げられる。
【0039】
発光層の形成材料としては、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の発光材料が用いられる。例えば、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、ペリレン誘導体、ポリメチン系、キサテン系、クマリン系、シアニン系などの色素類、8−ヒドロキノリンおよびその誘導体の金属錯体、芳香族アミン、テトラフェニルシクロペンタジエン誘導体等が挙げられる。これらの正孔注入層(HIL)、正孔輸送層(HTL)、発光層の形成材料は所謂低分子系材料であり、真空蒸着法により成膜することができる。
【0040】
電子輸送層(ETL)の形成材料としては、例えば、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタンおよびその誘導体、ベンゾキノンおよびその誘導体、ナフトキノンおよびその誘導体、アントラキノンおよびその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタンおよびその誘導体、フルオレン誘導体、8−ヒドロキシキノリンおよびその誘導体の金属錯体等が挙げられる。
【0041】
電子注入層(EIL)としては、LiF(フッ化リチウム)などのアルカリ金属化合物が挙げられる。
【0042】
このような有機EL素子12を有する素子基板1は、透明な熱硬化型エポキシ樹脂等を封着部材として用いた封着層35を介して透明な封止基板2と隙間なくベタ封止されている。
【0043】
本実施形態の有機EL素子12は、後述する有機EL素子の製造方法を用いて製造されており、機能層32を形成する前に、発光色に対応した陽極31ごとに設定された処理条件でプラズマ処理が施されている。また、プラズマ処理条件は、ITO膜からなる陽極31の最表面の仕事関数が、発光色ごとに適合するように設定されている。それゆえに機能層32において発光特性が向上し、高い輝度特性が得られる。
【0044】
なお、本実施形態の有機ELディスプレイ10は、トップエミッション型に限定されず、共通電極としての陰極34を反射機能を有する不透明なAl等の導電材料を用いて成膜し、有機EL素子12の発光を陰極34で反射させて、素子基板1側から取り出すボトムエミッション型の構造としてもよい。
【0045】
<有機EL素子の製造方法>
次に、本実施形態の有機EL素子の製造方法について説明する。図3は有機EL素子の製造方法を示すフローチャート、図4(a)〜(g)は有機EL素子の製造方法を示す概略断面図である。なお、図4(a)〜(g)では、回路部11および反射層を図示省略している。回路部11は、公知の製造方法を用いてTFT素子8などの構成要素を形成すればよい。
【0046】
図3に示すように、有機EL素子12の製造方法は、画素電極として複数の陽極31を形成する画素電極形成工程(ステップS1)と、陽極31を区画するように隔壁部33を形成する隔壁部形成工程(ステップS2)とを備えている。また、各発光色(R,G,B)ごとに陽極31の表面をプラズマ処理するプラズマ処理工程(ステップS3、ステップS4、ステップS5)と、プラズマ処理された陽極31上に発光色ごとの機能層32をそれぞれ形成する機能層形成工程(ステップS6、ステップS7、ステップS8)と、共通電極としての陰極34を形成する共通電極形成工程(ステップS9)とを備えている。
【0047】
図3のステップS1は、画素電極形成工程である。ステップS1では、図4(a)に示すように、回路部11が形成された素子基板1の表面(実際には平坦化層28の表面)に複数の陽極31を形成する。まず、反射層となるAlを厚さ200nm程度に形成する。そして、フォトレジスト塗布、露光、現像、エッチング、レジスト剥離を行うこと(フォトリソグラフィ法)により、所定のパターン形状を有する反射層を形成する。次に、反射層を覆うように透明な絶縁膜(例えば、SiO2やSiN、あるいはこれらの混合物からなる)を形成した後に、ITO膜を成膜してパターニングする。これによれば、高い寸法精度で陽極31を形成できる。また、平坦化層28に設けられたコンタクトホール28aを介して陽極31とドレイン電極24とが電気的に接続されるように、反射層およびITO膜をパターニングすることは言うまでもない。そして、ステップS2へ進む。
【0048】
図3のステップS2は、隔壁部形成工程である。ステップS2では、図4(b)に示すように、素子基板1の表面に形成された陽極31の一部を覆って区画するように隔壁部33を形成する。具体的には、素子基板1の表面を全面覆うように感光性樹脂材料を厚さおよそ2μmで塗布して成膜する。次にフォトマスクを用いて陽極31上の不要な感光性樹脂材料の部分を露光して現像することにより取り除く。そして、ポストベーク(加熱)することにより、隔壁部33の形状を安定化させると共に、素子基板1との密着性を確保する。これにより、画素電極としての陽極31を有する複数の画素領域Aを隔壁部33により区画する。そして、ステップS3へ進む。
【0049】
図3のステップS3は、プラズマ処理(R)工程である。ステップS3では、図4(c)に示すように、画素領域Aの大きさに相当する開口部110aを有するマスク110と、素子基板1とを位置決めする。この際に、赤色(R)の発光色に対応する陽極31(R)を有する画素領域Aと開口部110aとが合致するように位置決めする。マスク110を素子基板1に密着させた状態、すなわち、他の画素領域Aをマスクした状態で、陽極31(R)の表面を、酸素を処理ガスとしてプラズマ処理する。そして、ステップS4に進む。
【0050】
図3のステップS4は、プラズマ処理(G)工程である。ステップS4では、図4(d)に示すように、今度は、素子基板1に対して緑色(G)の発光色に対応する陽極31(G)を有する画素領域Aと開口部110aとが合致するようにマスク110を相対移動させて密着させる。この状態で、陽極31(G)の表面をプラズマ処理する。そして、ステップS5へ進む。
【0051】
図3のステップS5は、プラズマ処理(B)工程である。ステップS5では、図4(e)に示すように、今度は、素子基板1に対して青色(B)の発光色に対応する陽極31(B)を有する画素領域Aと開口部110aとが合致するようにマスク110を相対移動させて密着させる。この状態で、陽極31(B)の表面をプラズマ処理する。これらステップS3〜ステップS5におけるプラズマ処理の詳しい方法は、後述するが、発光色ごとに予めプラズマ処理条件が設定されている。なお、各陽極31(R),31(G),31(B)を処理する順番は、これに限定されない。そして、ステップS6へ進む。
【0052】
図3のステップS6は、機能層形成(R)工程である。ステップS6では、図4(f)に示すように、上記プラズマ処理において利用したマスク110を用いて、再び、開口部110aと赤色(R)の発光色に対応する陽極31(R)を有する画素領域Aと合致するようにマスク110を位置決めして密着させる。すなわち、陽極31(G)や陽極31(B)を有する他の画素領域Aをマスクした状態で、真空蒸着法により機能層32Rを陽極31(R)上に形成する。
【0053】
同様にして、ステップS7の機能層形成(G)工程では、機能層32Gを陽極31(G)上に形成し、ステップS8の機能層形成(B)工程では、機能層32Bを陽極31(B)上に形成する。なお、陽極31上に各機能層32R,32G,32Bを形成する順番は、これに限定されない。また、上記プラズマ処理工程および機能層形成工程では、素子基板1とマスク110とが隔壁部33を介して密着するので、プラズマ処理された陽極31や機能層32の表面にマスク110が直接に触れない。したがって、マスク110の接触による不具合が回避されている。そして、ステップS9へ進む。
【0054】
図3のステップS9は、共通電極形成工程である。ステップS9では、図4(g)に示すように、各機能層32R,32G,32Bと隔壁部33とを覆うように、共通電極としての陰極34を、真空蒸着法で形成する。陰極34はITOであり、膜厚は、100〜200nmである。これにより、陽極31と陰極34との間に機能層32(32R,32G,32B)を有する有機EL素子12が形成される。
【0055】
なお、有機EL素子12が形成された素子基板1は、封着層35を介して封止基板2と接着され有機ELディスプレイ10を構成する。このようなベタ封止構造は、侵入する水分や気体から有機EL素子12を保護して、所定の発光寿命を確保するものである。ステップS9において、陰極34を形成した後に、ガスバリア性を有する透明なSiO2またはSiN、あるいはこれらの混合物からなる膜をさらに積層してもよい。これにより、より長い発光寿命を実現することができる。
【0056】
<プラズマ処理方法>
次に、ステップS3〜ステップS5におけるプラズマ処理方法について、図を参照して詳しく説明する。図5(a)および(b)は、プラズマ処理装置を示す概略図である。
【0057】
まず、プラズマ処理工程において用いられるプラズマ処理装置の1例について説明する。図5(a)に示すように、プラズマ処理装置100は、被処理体であるワークWとマスク110とを収納する第1の室101aと、第1の室101aに連通し、プラズマ発生源102が設けられた第2の室101bとを有するチャンバー101を備えている。
【0058】
第1の室101a内には、プラズマ発生源102に対してワークWを対向させ、X軸方向およびY軸方向においてほぼ水平に把持する一対の把持部103a,104aと、各把持部103a,104aに連接して、ワークWをZ軸方向に移動させる2組の移動部103b,104bとを備えている。移動部103b,104bは、第1の室101aの天井部101dから垂設されている。すなわち、各把持部103a,104aと移動部103b,104bとにより、ワークWを保持する一対の保持部103,104を構成している。また、マスク110をワークWとプラズマ発生源102との間にほぼ水平に支持するテーブル状の支持部105と、支持部105に設けられマスク110をX軸およびY軸によって規定される平面内おいて位置決めするための一対の駆動部106a,106bを備えている。なお、支持部105は、第1の室101aの側壁に設けられているが、Z軸方向に立設させてもよい。
【0059】
第1の室101aの天井部101dには、一対の透明な窓部107a,107bが設けられている。その上方には、これに対応して同じく一対の撮像部108a,108bが設けられている。これらの撮像部108a,108bは、窓部107a,107bを介して透明なワークWを透過し、マスク110に設けられたアライメントマーク(図示省略)を観察可能な状態となっている。ワークWが不透明な基材ならば、アライメントマークとしてワークWに孔を穿っておき、この孔とマスク110のアライメントマークとを合わせる方法や、ワークWとマスク110とを外形基準で位置を合わせる方法が挙げられる。
【0060】
第2の室101bの内底部101cに設けられたプラズマ発生源102は、公知のプラズマ発生源を用いればよく、例えば、高周波プラズマやDCプラズマ等が挙げられる。
【0061】
図5(b)を参照して、プラズマ処理装置100の動作について説明する。チャンバー101には、処理前のストッカー(図示省略)と処理後のストッカー(図示省略)とが連結されている。処理前のストッカーには、処理面を下方に向けて、複数のワークWが収納されている。処理前のストッカーから搬出されたワークWは、Y軸方向に搬送されて把持部103a,104aに把持される。ワークWにもアライメントマークが形成されており、マスク110のアライメントマークとの相対的な位置関係を撮像部108a,108bにより観察して、ワークWに対するマスク110の位置情報を入手する。該位置情報に基づいて、駆動部106a,106bを駆動することにより、ワークWとマスク110とを位置合わせする。位置合わせが終了すると、移動部103b,104bは、把持部103a,104aを下降させ、ワークWとマスク110とを密着させる。
【0062】
チャンバー101は、真空ポンプなどの減圧手段に接続されており、プラズマを生成可能な状態に室内を減圧する。減圧下において、外部から処理ガスを所定の流量で第1の室101a内に導入すると共に、プラズマ発生源102を稼動させて、処理ガスをプラズマ化したプラズマガスを発生させる。プラズマガスにマスク110を介してワークWを曝露することにより、マスキングされていないワークWの処理面をプラズマ処理することができる。
【0063】
ワークWとマスク110との位置関係を変えてプラズマ処理する場合には、プラズマガスの生成を中断した後に、移動部103b,104bを駆動して、ワークWとマスク110との密着を解除する。この間に残留する処理ガスを排出する。次に、駆動部106a,106bを駆動して、所望の移動量でマスク110を移動させる。移動部103b,104bを再び駆動して、ワークWとマスク110とを密着させる。そして、処理ガスを導入してプラズマガスを生成し、プラズマ処理を行う。
【0064】
このようにしてプラズマ処理されたワークWは、処理後のストッカーに搬入される。ワークWを第1の室101a内で搬送する手段は、アームを備えたロボットを採用することができる。あるいは、ワークWの非処理面を吸着して搬送する方法を採用してもよい。
【0065】
また、プラズマガスにワークWを曝露する曝露時間を確実に制御するために、プラズマ発生源102を遮蔽するシャッターなどの手段を設けることが望ましい。
【0066】
このようなプラズマ処理装置100には、図示省略したが、第1の室101a内の減圧度を計測する真空計、ワークWの温度を計測する温度センサー、処理ガスの流量を調整する調整弁、処理後の処理ガスを排出する排出機構などが設けられ、これらを含めて各部を制御する制御部を備えていることは言うまでもない。制御部は、上記曝露時間やプラズマガスを生成するプラズマパワーを制御して、適正にワークWをプラズマ処理する動作を行わせる。
【0067】
次に、マスク110の形態について説明する。図6(a)および(b)は、マスクの形態を示す概略平面図である。
【0068】
図6(a)に示すように、プラズマ処理装置100にセットされるマスク110は、画素領域A(図4(f)参照)の平面視の形状とほぼ同一な複数の開口部110aを有している。複数の開口部110aは、マスク110のマスキング領域(図5(a)参照)において、同色の発光色が得られる画素領域Aの配列に対応して設けられている。その配置は、X軸方向において画素領域Aの配置ピッチPxの3倍、すなわち3Pxにて配置されている。また、Y軸方向において画素領域Aの配置ピッチPyと同じ寸法で配置されている。この場合、開口部110aの形状が矩形状であるが、これに限定されるものではない。少なくとも処理対象の画素領域A以外の画素領域Aをマスキングすることができればよく、画素領域Aの大きさよりもやや大きい、あるいはやや小さいサイズとしてもよい。
【0069】
図6(a)に示すような開口部110aの配置によれば、画素領域Aの形状や配置に対応してプラズマ処理を行うことができる。画素領域AのX軸方向およびY軸方向の配置が一定の配置ピッチPx,Pyでない変則的な場合には、プラズマ処理条件が異なる画素領域Aの配置に対応して開口部110aが形成された複数のマスク110を用意すればよい。
【0070】
また、本実施形態の有機ELディスプレイ10の製造にあたって使用するマスク110は、図6(a)に示したものに限定されず、例えば、図6(b)に示すように、開口部120aが同色の画素領域Aの配置に対応してY軸方向にストライプ状に開口したマスク120を用いてもよい。すなわち、開口部120aのX軸方向の配置ピッチは、同様に3Pxである。
【0071】
このようなマスク110の材料としては、プラズマ処理装置100において発生したプラズマを妨げるような強磁性を示すものは相応しくない。プラズマ発生源102によるプラズマの形成は、磁場によりコントロールされている。強磁性の材料を用いると、プラズマの形成状態に影響を及ぼす他に、開口部110aにおけるプラズマガスに対する陽極31の曝露状態にも影響を及ぼすおそれがある。したがって、常磁性の材料が好ましく、例えばシリコンなどの材料が挙げられる。シリコンを材料としたマスク基材を用いれば、湿式や乾式のエッチング方法により、高精度に開口部110aを形成することが可能である。言い換えれば、画素領域Aの形状や配置に対して容易に対応したマスク110を提供することができる。
【0072】
上記マスク110または上記マスク120を用いれば、X軸方向にマスク110(120)を相対移動させて、1つのマスク110(120)で3種(3色)の画素領域Aをそれぞれ異なるプラズマ処理条件でプラズマ処理することが可能である。
【0073】
次に、プラズマ処理条件について説明する。図7は曝露時間およびプラズマパワーと仕事関数との関係を示すグラフ、図8は有機EL素子におけるエネルギーダイヤグラムを示す概略図である。
【0074】
上記プラズマ処理装置100を用い、ワークWとして陽極31が形成された素子基板1をプラズマパワーと曝露時間とを設定してプラズマ処理することにより、図7に示すような陽極31の仕事関数(ev)のグラフが得られた。このときのプラズマ処理条件としては、プラズマパワーが50Wと100Wであり、プラズマ発生源102とマスク110との距離L(図5(a)参照)はおよそ100mm、処理ガスである酸素ガスの流量は24sccmである。
【0075】
なお、陽極31の仕事関数(ev)は、理研計器(株)製の光電子分光装置AC−2を用いて測定を行った。
【0076】
ITOからなる陽極31において、処理前の仕事関数(ev)は、およそ5.05evであった。プラズマパワーが50Wのとき、曝露時間が2分までは、仕事関数(ev)が5.7evまで上昇し、曝露時間を2分以上としても5.7ev以上とはならない。プラズマパワーが100Wのとき、曝露時間が1分までは、仕事関数が5.8ev近くまで上昇し、曝露時間を1分以上かけてもそれ以上とはならない。言い換えれば、仕事関数(ev)が直線的に変化する範囲では、曝露時間を制御することによって、陽極31の仕事関数(ev)を制御可能なことがわかる。あるいは、曝露時間を一定としてもプラズマパワーを制御すれば、陽極31の仕事関数(ev)を制御可能なことがわかる。
【0077】
図8に示すように、本実施形態の有機EL素子12におけるエネルギーダイヤグラムによれば、陽極側から注入されるホール(正孔)の注入量と陰極側から注入される電子の注入量とが適度にバランス(キャリアバランス)すると共に、ホールと電子とが結びつく再結合領域が、発光層と一致、もしくはその近傍に形成されることが望ましい。一方、発光層は、発光色ごとに選定された有機材料によって構成されるため、正孔注入層(HIL)よりも低いイオン化ポテンシャル(HOMO)を有するとは限らない。このようなキャリアバランスと再結合領域の形成は、発光色ごとにホールの注入量と電子の注入量とを制御することにより達成される。
【0078】
電子の注入量(電流量)を一定とすれば、キャリアバランスと再結合領域の形成はホールの注入量に依存する。ホールの注入量は、陽極31の仕事関数と、正孔注入層(HIL)の仕事関数すなわちHOMOレベルとに関連する。この場合、プラズマ処理前のITOからなる陽極31の仕事関数は、およそ4.7〜5.1evである。陽極31を形成した後に、異物や汚れを除去する洗浄工程などの表面処理を加えた場合には、当該表面処理によっても変動する。例えば、正孔注入層(HIL)をCuPc(銅フタロシアニン)とした場合には、HOMOレベルが5.3evとなる。HOMOレベルが陽極31の仕事関数よりも高いので、陽極31をプラズマ処理することにより、その表面における仕事関数を上昇させると、ホールは正孔注入層(HIL)に対して移動し易くなる。言い換えれば、陽極31と正孔注入層(HIL)との間のエネルギー障壁のレベルを変えることができる。すなわち、陽極31の仕事関数を制御することにより、ホールの注入量を制御して、発光色ごとの有機EL素子12の発光特性を最適化することが可能である。
【0079】
したがって、各機能層32R,32G,32Bの実際の構成に対応して、図7に示した仕事関数のグラフに基づいて、適正な陽極31の仕事関数となるように、発光色ごとにプラズマ処理条件(曝露時間またはプラズマパワー)を決定する。発光色ごとにプラズマ処理条件が異なる場合や少なくとも1色の発光色に対応した陽極31のプラズマ処理条件が、他の発光色に比べて異なる場合が考えられる。
【0080】
上記実施形態1の効果は、以下の通りである。
(1)有機EL素子12の製造方法によれば、プラズマ処理工程において、陽極31の表面における仕事関数が、発光色に応じて形成される機能層32に適合するように、プラズマ処理条件(プラズマガスに対する曝露時間またはプラズマパワー)が設定されている。したがって、発光色に対応した有機EL素子12ごとに、ホールと電子とが結びつく再結合領域が、発光層と一致もしくはその近傍となるように、また適度なキャリアバランスが得られるように、ホールの注入量が最適化される。すなわち、発光特性(輝度特性、発光寿命など)が改善された有機EL素子12を製造することができる。
【0081】
(2)プラズマ処理工程において用いられるマスク110は、同一発光色の画素領域Aの形状および配置に対応した複数の開口部110aを有している。したがって、開口部110aを処理対象の画素領域Aに対向配置すれば、他の発光色の画素領域Aをマスクして、発光色ごとに陽極31のプラズマ処理条件を異ならせることができる。また、1つのマスク110を用いて、すべての陽極31のプラズマ処理が可能であると共に、3色の機能層32を形成する機能層形成工程においても利用可能である。
【0082】
(3)マスク110は、常磁性のシリコンからなるマスク基材を用いており、精度よく開口部110aを形成可能であると共に、プラズマ処理装置100においてプラズマガスに対するワークWの曝露状態に影響を与えない。すなわち、処理対象の陽極31を隈なくプラズマ処理することができる。
【0083】
(4)有機ELディスプレイ10は、上記有機EL素子12の製造方法を用いて製造された複数の有機EL素子12を備えている。有機EL素子12は、発光特性(輝度特性、発光寿命など)が改善されているため、優れた表示品質を有する有機ELディスプレイ10を提供することができる。
【0084】
(実施形態2)
<他の有機EL素子とその製造方法>
次に、上記実施形態1のプラズマ処理方法を適用した、他の有機EL素子について説明する。図9は、実施形態2の有機EL素子の構造を示す概略図である。実施形態1と同じ構成の部分は、同じ符号を用いて説明する。
【0085】
図9に示すように、本実施形態の有機EL素子60は、回路部11を有する素子基板1上に形成された画素電極としての陽極51と、共通電極としての陰極59と、これらの電極の間に形成された機能層50とを有している。
【0086】
陽極51は透明なITOからなり、陰極59は反射性を有するAlからなる。すなわち、機能層50からの発光が素子基板1側から取り出されるボトムエミッション型である。この場合も、陽極51と素子基板1との間に反射層を設け、陰極59を透明な導電材料からなる電極とすれば、トップエミッション型の有機EL素子60を構成可能である。
【0087】
機能層50は、CuPcからなる正孔注入層52と、α−NPD(ジフェニルナフチルジアミン)からなる正孔輸送層53と、Alq3をホストとしてアシストドーパントであるルブレンと赤色ドーパントであるDCM2(ジアノメチレンピラン誘導体)とを含むRed発光層54と、BH215をホストとして青色ドーパントであるBD102を含むBlue発光層55と、BH215をホストとして緑色ドーパントであるGD206を含むGreen発光層56と、Alq3からなる電子輸送層57と、LiFからなる電子注入層58とを備えている。本構成は、いわゆる「ドーパント法」に基づく3色の発光層を備え、白色発光を可能としている。ホストであるBH215、ドーパントであるBD102、GD206は、いずれも出光興産製の公知材料である。
【0088】
このような有機EL素子60の製造方法は、ITOをターゲットとしたスパッタリング法あるいはITOを蒸着源とした真空蒸着法によりITO膜を成膜し、これをパターニングすることにより陽極51を形成することができる(画素電極形成工程)。機能層50は、これを構成する各層を真空蒸着法により陽極51上に順次成膜して形成することができる(機能層形成工程)。また、陰極59は、形成された機能層50にダメージを与えないように、Alを蒸着源として真空蒸着することにより形成することができる(共通電極形成工程)。機能層形成工程では、画素領域Aごとの膜構成が同一なため、マスク110を用いなくてもよい。
【0089】
このような有機EL素子60を複数備えた素子基板1と、赤(R)、緑(G)、青(B)の3色のカラーフィルタを備えた封止基板2とを封着層35を介して接着すれば、フルカラー表示が可能な有機ELディスプレイ10を提供することができる(組立工程)。
【0090】
図10は、実施形態2の有機EL素子のエネルギーダイヤグラムである。図10に示すように、有機EL素子60のエネルギーダイヤグラムによれば、陰極59からの電子の注入量が、Red発光層54、Blue発光層55、Green発光層56で変わらないとした場合、R、G、Bの3色のカラーフィルタを介して発光バランスのよい発光色を得るには、Red発光層54、Blue発光層55、Green発光層56の順にホールの注入量が増加するのが望ましい。
【0091】
したがって、CuPcからなる正孔注入層52のHOMOレベルが5.3evであることから、Rのカラーフィルタに対応する陽極51の仕事関数としては5.2〜5.3ev、Bのカラーフィルタに対応する陽極51の仕事関数としては5.4〜5.5ev、Gのカラーフィルタに対応する陽極51の仕事関数としては5.7〜5.8evに調整することが望ましい。
【0092】
よって、図7の仕事関数のグラフに基づいて、陽極51を形成した後のプラズマ処理工程におけるプラズマ処理条件は、次の通りとなる。例えば、プラズマパワーを100Wとしたときには、発光色ごとの陽極51のプラズマガスに対する曝露時間は、赤が15〜25秒、青が30〜45秒、緑が1分以上となる。プラズマ処理工程において、マスク110を用いてプラズマ処理条件を異ならせる点は、実施形態1と同様である。
【0093】
上記実施形態2の効果は、以下の通りである。
(1)上記有機EL素子60は、3色のカラーフィルタを介して得られる発光色に対応して、陽極51のプラズマ処理条件が設定され、プラズマ処理されている。したがって、発光バランスのよい発光色が得られる。
【0094】
(2)上記有機EL素子60と3色のカラーフィルタとを有機ELディスプレイ10に備える構成とすれば、優れた表示品位を有するフルカラー表示が可能な有機ELディスプレイ10を提供することができる。
【0095】
上記実施形態以外にも様々な変形例が考えられる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0096】
(変形例1)上記実施形態1の有機EL素子12において、機能層32の形成方法は、低分子系の形成材料を用いて真空蒸着する方法に限定されない。例えば、高分子系の形成材料を含む分散液を画素領域Aに液滴吐出法(インクジェット法)により、吐出して各層を形成してもよい。すなわち、機能層32を湿式の形成方法を用いても、陽極31のプラズマ処理方法を適用することができる。
【0097】
正孔注入/輸送層の高分子系の形成材料としては、特に3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)の分散液、すなわち、分散媒としてのポリスチレンスルフォン酸に3,4−ポリエチレンジオキシチオフェンを分散させ、さらにこれを水に分散させた分散液が好適に用いられる。この他にも、例えば、ポリスチレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレンやその誘導体などを、適宜な分散媒、例えばポリスチレンスルフォン酸に分散させたものなどが挙げられる。
【0098】
同じく、高分子系の有機発光層の形成材料としては、具体的には、(ポリ)フルオレン誘導体(PF)、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)などのポリシラン系などが好適に用いられる。また、これらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子系材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等の低分子材料をドープして用いることもできる。
【0099】
(変形例2)上記実施形態1の有機EL素子12の製造方法において、製造工程の順番は、これに限定されない。図11は、変形例の有機EL素子の製造方法を示すフローチャートである。例えば、図11に示すように、1つの発光色に対応する画素電極のプラズマ処理が終了したら、続いて当該発光色に対応する機能層を形成する。すなわち、発光色の数に応じて、これをプラズマ処理工程と機能層形成工程とを繰り返す。これによれば、すべての画素電極をプラズマ処理してから、機能層をそれぞれ形成する場合に比べて、プラズマ処理後の経過時間を短縮して機能層を形成するので、経過時間による画素電極の仕事関数の変動を回避できる。すなわち、発光特性がより安定した有機EL素子12を製造することができる。上記実施形態2の有機EL素子60の製造方法においても同様である。
【0100】
(変形例3)上記実施形態1の有機EL素子12の製造方法において、プラズマ処理に用いる装置は、プラズマ処理装置100に限定されない。例えば、大気圧プラズマ処理装置を用いても同様なプラズマ処理と、その効果が期待できる。
【0101】
(変形例4)上記実施形態1のプラズマ処理装置100において用いられる処理ガスは、酸素に限定されない。例えば、酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトンのいずれかのガス、またはこれらのガスから少なくとも2つ以上選ばれた混合ガスを用いても同様な仕事関数の調整が期待できる。
【0102】
(変形例5)実施形態2の有機EL素子60において、機能層50の構成は、これに限定されない。例えば、発光層をRed発光層54とBlue発光層55の二層構成としても、白色発光させることが可能である。したがって、プラズマ処理工程では、発光層の構成とエネルギーダイヤグラムとを鑑みて処理条件を決定すればよい。
【0103】
(変形例6)上記実施形態1の有機EL素子12および上記実施形態2の有機EL素子60を用いる電気光学装置は、有機ELディスプレイ10に限定されない。例えば、感光ドラムを感光させる光プリンタヘッド、複数色の発光が可能な照明装置などが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】有機ELディスプレイを示す概略正面図。
【図2】有機ELディスプレイの要部構造を示す概略断面図。
【図3】有機EL素子の製造方法を示すフローチャート。
【図4】(a)〜(g)は有機EL素子の製造方法を示す概略断面図。
【図5】(a)および(b)はプラズマ処理装置を示す概略図。
【図6】(a)および(b)はマスクの形態を示す概略平面図。
【図7】曝露時間およびプラズマパワーと仕事関数との関係を示すグラフ。
【図8】有機EL素子におけるエネルギーダイヤグラムを示す概略図。
【図9】実施形態2の有機EL素子の構造を示す概略図。
【図10】実施形態2の有機EL素子のエネルギーダイヤグラム。
【図11】変形例の有機EL素子の製造方法を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0105】
1…基板としての素子基板、10…有機ELディスプレイ、12,60…有機EL素子、31,51…画素電極としての陽極、32,50…機能層、34,59…共通電極としての陰極、54…発光層としてのRed発光層、55…発光層としてのBlue発光層、56…発光層としてのGreen発光層、110,120…マスク、110a,120a…開口部、A…画素領域。
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(エレクトロルミネセンス)素子の製造方法、有機ELディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子の製造方法としては、有機層の付着前に、ベース電極が、プラズマ反応器内において酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトンおよびそれらの混合物から選択されたプラズマガスに曝されるエレクトロルミネセンス発生装置のベース電極の洗浄方法が知られている(特許文献1)。
【0003】
また、陽極の表面の水との接触角が10°以下になるように陽極の表面を洗浄処理した後、陽極の表面の仕事関数を0.5ev以上大きくする表面処理を行い、この後に、陽極の上に有機発光層および陰極を形成する有機エレクトロルミネセンス素子の製造方法が知られている(特許文献2)。
【0004】
これらの洗浄方法または表面処理は、いずれもベース電極あるいは陽極の仕事関数を大きくしてホールの注入効率を高めることにより、有機EL素子の動作特性を改善しようとするものである。
【0005】
【特許文献1】特開平10−92585号公報
【特許文献2】特開2004−63210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1および特許文献2の有機EL素子の製造方法では、ベース電極(あるいは陽極)を画一的な処理条件で洗浄または表面処理することを提案している。しかしながら、これらの洗浄または表面処理を行うことによりホールの注入効率を高めても、発光色に対応して形成された有機発光層に必ずしも適合していないおそれがあった。言い換えれば、画一的な処理条件では、有機EL素子の発光特性を発光色に対応して最適化できないおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]本適用例の有機EL素子の製造方法は、基板上に複数の画素電極を形成する画素電極形成工程と、前記複数の画素電極をプラズマガスに曝すプラズマ処理工程と、プラズマ処理が施された前記複数の画素電極上に発光層を含む機能層を形成する機能層形成工程と、前記機能層を覆うように共通電極を形成する共通電極形成工程と、を備え、前記プラズマ処理工程では、前記複数の画素電極のうち、少なくとも1色の発光色に対応する画素電極に対して他の画素電極をマスクしてプラズマガスに曝すことにより、当該画素電極のプラズマ処理条件が前記他の画素電極に対して異なるようにプラズマ処理する工程を含むことを特徴とする。
【0009】
この方法によれば、プラズマ処理工程では、処理対象の画素電極以外の他の画素電極をマスクして当該画素電極のプラズマ処理条件が他の画素電極に対して異なるようにプラズマ処理する。したがって、発光色に対応した機能層に対する画素電極の表面状態、いわゆる仕事関数を発光色ごとに最適化して、安定した発光特性が得られる有機EL素子を製造することができる。
【0010】
[適用例2]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記プラズマ処理条件が前記プラズマガスに対する曝露時間、またはプラズマパワーであることを特徴とする。
この方法によれば、曝露時間、またはプラズマパワーを調整することにより、画素電極の仕事関数を発光色ごとに比較的容易に最適化することができる。
【0011】
[適用例3]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記機能層が形成される前記画素電極の表面層がITO膜からなり、前記プラズマガスが酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトンのいずれかのガス、またはこれらのガスから少なくとも2つ以上選ばれた混合ガスであることを特徴とする。
この方法によれば、酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトンのいずれかのガス、またはこれらのガスから少なくとも2つ以上選ばれた混合ガスをプラズマ化して、プラズマガスに対する曝露時間、またはプラズマパワーを調整することにより、ITO膜の表面の仕事関数を制御することができる。
【0012】
[適用例4]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、ホールと電子とが結びつく再結合領域が、前記発光層と一致もしくはその近傍となるように、各画素電極の前記プラズマ処理条件を設定することが好ましい。
この方法によれば、高い発光効率を実現することができる。
【0013】
[適用例5]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記プラズマ処理工程では、常磁性の前記マスクを用いることが好ましい。
この方法によれば、プラズマ処理工程において、プラズマの生成状態がマスクによって影響されず、安定したプラズマ処理が可能である。
【0014】
[適用例6]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記マスクがシリコンからなるとしてもよい。
この方法によれば、湿式または乾式にてシリコンをエッチングして、プラズマ処理用のマスクを高精度に形成することができる。
【0015】
[適用例7]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記プラズマ処理工程では、発光色ごとに用意した前記マスクを用いるとしてもよい。
この方法によれば、基板上における様々な有機EL素子の配置に対応できる。
【0016】
[適用例8]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記基板上に同一形状の画素領域がマトリクス状に配置され、前記プラズマ処理工程では、同一発光色の前記画素領域の配置に対応した開口部を有するマスクを、処理対象の前記画素電極を有する前記画素領域に前記開口部が対向するように配置して、当該画素電極をプラズマ処理し、当該画素電極以外の他の画素電極をプラズマ処理する際には、前記マスクを相対移動させることを特徴とする。
この方法によれば、1つのマスクを用いてすべての画素電極を画素電極ごとに設定された処理条件でプラズマ処理することができる。
【0017】
[適用例9]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記機能層形成工程では、前記画素電極ごとに発光色に対応した前記機能層を個別に形成することを特徴とする。
この方法によれば、個別に形成された機能層の発光特性を発光色ごとに最適化できる。
【0018】
[適用例10]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記機能層形成工程では、前記画素電極ごとに複数色の発光が可能な複数種の前記発光層を含む前記機能層を形成するとしてもよい。
この方法によれば、複数種の発光層のうち発光色に対応して画素電極の仕事関数を最適化できる。
【0019】
[適用例11]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記複数の画素電極をすべてプラズマ処理した後に、前記機能層を形成することを特徴とする。
この方法によれば、製造工程を遡ることなく、効率的に有機EL素子を製造することができる。
【0020】
[適用例12]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、発光色に対応した前記画素電極をプラズマ処理した後に、当該画素電極以外の他の画素電極をマスクした状態のままで当該画素電極上に前記機能層を形成するとしてもよい。
この方法によれば、当該画素電極をプラズマ処理した後に、続けて機能層を形成するので、機能層形成までの時間を短縮して、プラズマ処理後の画素電極の表面状態を維持し、より安定した発光特性が得られる有機EL素子を製造することができる。
【0021】
[適用例13]本適用例の有機ELディスプレイは、上記適用例の有機EL素子の製造方法を用いて製造された複数の有機EL素子を備えることを特徴とする。
この構成によれば、発光色ごとに安定した発光特性が得られる有機EL素子を備えているので、優れた表示品位を有する有機ELディスプレイを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。
【0023】
(実施形態1)
<有機ELディスプレイ>
図1は、有機ELディスプレイを示す概略正面図である。図1に示すように、本実施形態の有機ELディスプレイ10は、有機EL素子12(図2参照)が複数配列された素子基板1と、複数配列した有機EL素子12を封着する封着層35(図2参照)を介して素子基板1を封止する封止基板2とを備えている。
【0024】
素子基板1は、有機EL素子12を駆動する駆動素子を備えた回路部11(図2参照)を有している。複数の有機EL素子12は、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の発光が個別に得られる。そして、表示領域6において同一色の発光が得られる有機EL素子12が、同一方向に配列する所謂ストライプ方式で素子基板1上に配置され表示画素7を構成している。なお、表示画素7は、実際には非常に微細なものであり、図示の都合上拡大している。
【0025】
素子基板1は、封止基板2よりも一回り大きく、額縁状に張り出した部分には、駆動素子であるTFT(Thin Film Transistor)素子8(図2参照)を駆動する2つの走査線駆動回路部3と1つのデータ線駆動回路部4が設けられている。素子基板1の端子部1aには、これらの駆動回路部3,4と外部駆動回路とを接続するためのフレキシブルな中継基板5が実装されている。
【0026】
図2は、有機ELディスプレイの要部構造を示す概略断面図である。図2に示すように、有機ELディスプレイ10において、有機EL素子12は、画素電極としての陽極31と、陽極31を区画する隔壁部33と、陽極31上に形成された有機膜からなる発光層を含む機能層32とを有している。また、機能層32を介して陽極31と対向するように形成された共通電極としての陰極34を有している。
【0027】
隔壁部33は、フェノールまたはポリイミドなどの絶縁性を有する感光性樹脂からなり、表示画素7を構成する陽極31の周囲を一部覆って、複数の陽極31をそれぞれ区画するように設けられている。
【0028】
陽極31は、素子基板1上に形成されたTFT素子8の3端子のうちの1つに接続しており、例えば、透明電極材料であるITO(Indium Tin Oxide)を厚さ100nm程度に成膜した電極である。なお、図示省略したが、陽極31の下層(平坦化層28側)に、絶縁層を介してAlからなる反射層が設けられている。当該反射層は、機能層32における発光を封止基板2側に反射するものである。また、当該反射層はAlに限定されず、発光を反射する機能(反射面)を有していればよい。例えば、絶縁性の有機材料あるいは無機材料を用いて凹凸を有する反射面を形成する方法、陽極31自体を反射機能を有する導電材料で構成し、表面層にITO膜を形成する方法などが挙げられる。
【0029】
陰極34は、同じく、ITOなどの透明電極材料により形成されている。
【0030】
本実施形態の有機ELディスプレイ10は、いわゆるトップエミッション型の構造となっており、陽極31と陰極34との間に駆動電流を流して機能層32で発光した光を上記反射層で反射させて封止基板2側から取り出す。したがって、封止基板2は透明なガラス等からなる基板を用いる。また、素子基板1は、透明基板および不透明基板のいずれも用いることができる。不透明基板としては、例えば、アルミナ等のセラミックス、ステンレススチール等の金属シートに表面酸化などの絶縁処理を施したものの他に、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0031】
素子基板1には、有機EL素子12を駆動する回路部11が設けられている。すなわち、素子基板1の表面にはSiO2を主体とする下地保護層21が下地として形成され、その上にはシリコン層22が形成されている。このシリコン層22の表面には、SiO2および/またはSiNを主体とするゲート絶縁層23が形成されている。
【0032】
また、シリコン層22のうち、ゲート絶縁層23を挟んでゲート電極26と重なる領域がチャネル領域22aとされている。なお、このゲート電極26は、図示しない走査線の一部である。一方、シリコン層22を覆い、ゲート電極26を形成したゲート絶縁層23の表面には、SiO2を主体とする第1層間絶縁層27が形成されている。
【0033】
また、シリコン層22のうち、チャネル領域22aのソース側には、低濃度ソース領域および高濃度ソース領域22cが設けられる一方、チャネル領域22aのドレイン側には低濃度ドレイン領域および高濃度ドレイン領域22bが設けられて、いわゆるLDD(Light Doped Drain)構造となっている。これらのうち、高濃度ソース領域22cは、ゲート絶縁層23と第1層間絶縁層27とにわたって開孔するコンタクトホール25aを介して、ソース電極25に接続されている。このソース電極25は、電源線(図示せず)の一部として構成されている。一方、高濃度ドレイン領域22bは、ゲート絶縁層23と第1層間絶縁層27とにわたって開孔するコンタクトホール24aを介して、ソース電極25と同一層からなるドレイン電極24に接続されている。
【0034】
ソース電極25およびドレイン電極24が形成された第1層間絶縁層27の上層には、例えばアクリル系の樹脂成分を主体とする平坦化層28が形成されている。この平坦化層28は、アクリル系やポリイミド系等の、耐熱性絶縁性樹脂などによって形成されたもので、TFT素子8やソース電極25、ドレイン電極24などによる表面の凹凸をなくすために形成された公知のものである。
【0035】
そして、陽極31が、この平坦化層28の表面上に形成されると共に、該平坦化層28に設けられたコンタクトホール28aを介してドレイン電極24に接続されている。すなわち、陽極31は、ドレイン電極24を介して、シリコン層22の高濃度ドレイン領域22bに接続されている。陰極34は、GNDに接続されている。したがって、スイッチング素子としてのTFT素子8により、上記電源線から陽極31に供給され陰極34との間で流れる駆動電流を制御する。これにより、回路部11は、所望の有機EL素子12を発光させカラー表示を可能としている。
【0036】
なお、有機EL素子12を駆動する回路部11の構成は、これに限定されるものではない。
【0037】
機能層32は、正孔注入層(HIL)、正孔輸送層(HTL)、有機膜からなる発光層、電子輸送層(ETL)、電子注入層(EIL)と呼ばれる複数の薄膜層からなり、陽極31側からこの順で積層されている。
【0038】
機能層32を構成する正孔注入層(HIL)の形成材料としては、例えば、銅フタロシアニン(CuPc)や、ポリテトラヒドロチオフェニルフェニレンであるポリフェニレンビニレン、1,1−ビス−(4−N,N−ジトリルアミノフェニル)シクロヘキサン、トリス(8−ヒドロキシキノリノール)アルミニウム(Alq3)等が挙げられる。特に銅フタロシアニン(CuPc)が好適である。また、正孔輸送層(HTL)としては、トリフェニルアミン誘導体(TPD)、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体等が挙げられる。
【0039】
発光層の形成材料としては、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の発光材料が用いられる。例えば、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、ペリレン誘導体、ポリメチン系、キサテン系、クマリン系、シアニン系などの色素類、8−ヒドロキノリンおよびその誘導体の金属錯体、芳香族アミン、テトラフェニルシクロペンタジエン誘導体等が挙げられる。これらの正孔注入層(HIL)、正孔輸送層(HTL)、発光層の形成材料は所謂低分子系材料であり、真空蒸着法により成膜することができる。
【0040】
電子輸送層(ETL)の形成材料としては、例えば、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタンおよびその誘導体、ベンゾキノンおよびその誘導体、ナフトキノンおよびその誘導体、アントラキノンおよびその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタンおよびその誘導体、フルオレン誘導体、8−ヒドロキシキノリンおよびその誘導体の金属錯体等が挙げられる。
【0041】
電子注入層(EIL)としては、LiF(フッ化リチウム)などのアルカリ金属化合物が挙げられる。
【0042】
このような有機EL素子12を有する素子基板1は、透明な熱硬化型エポキシ樹脂等を封着部材として用いた封着層35を介して透明な封止基板2と隙間なくベタ封止されている。
【0043】
本実施形態の有機EL素子12は、後述する有機EL素子の製造方法を用いて製造されており、機能層32を形成する前に、発光色に対応した陽極31ごとに設定された処理条件でプラズマ処理が施されている。また、プラズマ処理条件は、ITO膜からなる陽極31の最表面の仕事関数が、発光色ごとに適合するように設定されている。それゆえに機能層32において発光特性が向上し、高い輝度特性が得られる。
【0044】
なお、本実施形態の有機ELディスプレイ10は、トップエミッション型に限定されず、共通電極としての陰極34を反射機能を有する不透明なAl等の導電材料を用いて成膜し、有機EL素子12の発光を陰極34で反射させて、素子基板1側から取り出すボトムエミッション型の構造としてもよい。
【0045】
<有機EL素子の製造方法>
次に、本実施形態の有機EL素子の製造方法について説明する。図3は有機EL素子の製造方法を示すフローチャート、図4(a)〜(g)は有機EL素子の製造方法を示す概略断面図である。なお、図4(a)〜(g)では、回路部11および反射層を図示省略している。回路部11は、公知の製造方法を用いてTFT素子8などの構成要素を形成すればよい。
【0046】
図3に示すように、有機EL素子12の製造方法は、画素電極として複数の陽極31を形成する画素電極形成工程(ステップS1)と、陽極31を区画するように隔壁部33を形成する隔壁部形成工程(ステップS2)とを備えている。また、各発光色(R,G,B)ごとに陽極31の表面をプラズマ処理するプラズマ処理工程(ステップS3、ステップS4、ステップS5)と、プラズマ処理された陽極31上に発光色ごとの機能層32をそれぞれ形成する機能層形成工程(ステップS6、ステップS7、ステップS8)と、共通電極としての陰極34を形成する共通電極形成工程(ステップS9)とを備えている。
【0047】
図3のステップS1は、画素電極形成工程である。ステップS1では、図4(a)に示すように、回路部11が形成された素子基板1の表面(実際には平坦化層28の表面)に複数の陽極31を形成する。まず、反射層となるAlを厚さ200nm程度に形成する。そして、フォトレジスト塗布、露光、現像、エッチング、レジスト剥離を行うこと(フォトリソグラフィ法)により、所定のパターン形状を有する反射層を形成する。次に、反射層を覆うように透明な絶縁膜(例えば、SiO2やSiN、あるいはこれらの混合物からなる)を形成した後に、ITO膜を成膜してパターニングする。これによれば、高い寸法精度で陽極31を形成できる。また、平坦化層28に設けられたコンタクトホール28aを介して陽極31とドレイン電極24とが電気的に接続されるように、反射層およびITO膜をパターニングすることは言うまでもない。そして、ステップS2へ進む。
【0048】
図3のステップS2は、隔壁部形成工程である。ステップS2では、図4(b)に示すように、素子基板1の表面に形成された陽極31の一部を覆って区画するように隔壁部33を形成する。具体的には、素子基板1の表面を全面覆うように感光性樹脂材料を厚さおよそ2μmで塗布して成膜する。次にフォトマスクを用いて陽極31上の不要な感光性樹脂材料の部分を露光して現像することにより取り除く。そして、ポストベーク(加熱)することにより、隔壁部33の形状を安定化させると共に、素子基板1との密着性を確保する。これにより、画素電極としての陽極31を有する複数の画素領域Aを隔壁部33により区画する。そして、ステップS3へ進む。
【0049】
図3のステップS3は、プラズマ処理(R)工程である。ステップS3では、図4(c)に示すように、画素領域Aの大きさに相当する開口部110aを有するマスク110と、素子基板1とを位置決めする。この際に、赤色(R)の発光色に対応する陽極31(R)を有する画素領域Aと開口部110aとが合致するように位置決めする。マスク110を素子基板1に密着させた状態、すなわち、他の画素領域Aをマスクした状態で、陽極31(R)の表面を、酸素を処理ガスとしてプラズマ処理する。そして、ステップS4に進む。
【0050】
図3のステップS4は、プラズマ処理(G)工程である。ステップS4では、図4(d)に示すように、今度は、素子基板1に対して緑色(G)の発光色に対応する陽極31(G)を有する画素領域Aと開口部110aとが合致するようにマスク110を相対移動させて密着させる。この状態で、陽極31(G)の表面をプラズマ処理する。そして、ステップS5へ進む。
【0051】
図3のステップS5は、プラズマ処理(B)工程である。ステップS5では、図4(e)に示すように、今度は、素子基板1に対して青色(B)の発光色に対応する陽極31(B)を有する画素領域Aと開口部110aとが合致するようにマスク110を相対移動させて密着させる。この状態で、陽極31(B)の表面をプラズマ処理する。これらステップS3〜ステップS5におけるプラズマ処理の詳しい方法は、後述するが、発光色ごとに予めプラズマ処理条件が設定されている。なお、各陽極31(R),31(G),31(B)を処理する順番は、これに限定されない。そして、ステップS6へ進む。
【0052】
図3のステップS6は、機能層形成(R)工程である。ステップS6では、図4(f)に示すように、上記プラズマ処理において利用したマスク110を用いて、再び、開口部110aと赤色(R)の発光色に対応する陽極31(R)を有する画素領域Aと合致するようにマスク110を位置決めして密着させる。すなわち、陽極31(G)や陽極31(B)を有する他の画素領域Aをマスクした状態で、真空蒸着法により機能層32Rを陽極31(R)上に形成する。
【0053】
同様にして、ステップS7の機能層形成(G)工程では、機能層32Gを陽極31(G)上に形成し、ステップS8の機能層形成(B)工程では、機能層32Bを陽極31(B)上に形成する。なお、陽極31上に各機能層32R,32G,32Bを形成する順番は、これに限定されない。また、上記プラズマ処理工程および機能層形成工程では、素子基板1とマスク110とが隔壁部33を介して密着するので、プラズマ処理された陽極31や機能層32の表面にマスク110が直接に触れない。したがって、マスク110の接触による不具合が回避されている。そして、ステップS9へ進む。
【0054】
図3のステップS9は、共通電極形成工程である。ステップS9では、図4(g)に示すように、各機能層32R,32G,32Bと隔壁部33とを覆うように、共通電極としての陰極34を、真空蒸着法で形成する。陰極34はITOであり、膜厚は、100〜200nmである。これにより、陽極31と陰極34との間に機能層32(32R,32G,32B)を有する有機EL素子12が形成される。
【0055】
なお、有機EL素子12が形成された素子基板1は、封着層35を介して封止基板2と接着され有機ELディスプレイ10を構成する。このようなベタ封止構造は、侵入する水分や気体から有機EL素子12を保護して、所定の発光寿命を確保するものである。ステップS9において、陰極34を形成した後に、ガスバリア性を有する透明なSiO2またはSiN、あるいはこれらの混合物からなる膜をさらに積層してもよい。これにより、より長い発光寿命を実現することができる。
【0056】
<プラズマ処理方法>
次に、ステップS3〜ステップS5におけるプラズマ処理方法について、図を参照して詳しく説明する。図5(a)および(b)は、プラズマ処理装置を示す概略図である。
【0057】
まず、プラズマ処理工程において用いられるプラズマ処理装置の1例について説明する。図5(a)に示すように、プラズマ処理装置100は、被処理体であるワークWとマスク110とを収納する第1の室101aと、第1の室101aに連通し、プラズマ発生源102が設けられた第2の室101bとを有するチャンバー101を備えている。
【0058】
第1の室101a内には、プラズマ発生源102に対してワークWを対向させ、X軸方向およびY軸方向においてほぼ水平に把持する一対の把持部103a,104aと、各把持部103a,104aに連接して、ワークWをZ軸方向に移動させる2組の移動部103b,104bとを備えている。移動部103b,104bは、第1の室101aの天井部101dから垂設されている。すなわち、各把持部103a,104aと移動部103b,104bとにより、ワークWを保持する一対の保持部103,104を構成している。また、マスク110をワークWとプラズマ発生源102との間にほぼ水平に支持するテーブル状の支持部105と、支持部105に設けられマスク110をX軸およびY軸によって規定される平面内おいて位置決めするための一対の駆動部106a,106bを備えている。なお、支持部105は、第1の室101aの側壁に設けられているが、Z軸方向に立設させてもよい。
【0059】
第1の室101aの天井部101dには、一対の透明な窓部107a,107bが設けられている。その上方には、これに対応して同じく一対の撮像部108a,108bが設けられている。これらの撮像部108a,108bは、窓部107a,107bを介して透明なワークWを透過し、マスク110に設けられたアライメントマーク(図示省略)を観察可能な状態となっている。ワークWが不透明な基材ならば、アライメントマークとしてワークWに孔を穿っておき、この孔とマスク110のアライメントマークとを合わせる方法や、ワークWとマスク110とを外形基準で位置を合わせる方法が挙げられる。
【0060】
第2の室101bの内底部101cに設けられたプラズマ発生源102は、公知のプラズマ発生源を用いればよく、例えば、高周波プラズマやDCプラズマ等が挙げられる。
【0061】
図5(b)を参照して、プラズマ処理装置100の動作について説明する。チャンバー101には、処理前のストッカー(図示省略)と処理後のストッカー(図示省略)とが連結されている。処理前のストッカーには、処理面を下方に向けて、複数のワークWが収納されている。処理前のストッカーから搬出されたワークWは、Y軸方向に搬送されて把持部103a,104aに把持される。ワークWにもアライメントマークが形成されており、マスク110のアライメントマークとの相対的な位置関係を撮像部108a,108bにより観察して、ワークWに対するマスク110の位置情報を入手する。該位置情報に基づいて、駆動部106a,106bを駆動することにより、ワークWとマスク110とを位置合わせする。位置合わせが終了すると、移動部103b,104bは、把持部103a,104aを下降させ、ワークWとマスク110とを密着させる。
【0062】
チャンバー101は、真空ポンプなどの減圧手段に接続されており、プラズマを生成可能な状態に室内を減圧する。減圧下において、外部から処理ガスを所定の流量で第1の室101a内に導入すると共に、プラズマ発生源102を稼動させて、処理ガスをプラズマ化したプラズマガスを発生させる。プラズマガスにマスク110を介してワークWを曝露することにより、マスキングされていないワークWの処理面をプラズマ処理することができる。
【0063】
ワークWとマスク110との位置関係を変えてプラズマ処理する場合には、プラズマガスの生成を中断した後に、移動部103b,104bを駆動して、ワークWとマスク110との密着を解除する。この間に残留する処理ガスを排出する。次に、駆動部106a,106bを駆動して、所望の移動量でマスク110を移動させる。移動部103b,104bを再び駆動して、ワークWとマスク110とを密着させる。そして、処理ガスを導入してプラズマガスを生成し、プラズマ処理を行う。
【0064】
このようにしてプラズマ処理されたワークWは、処理後のストッカーに搬入される。ワークWを第1の室101a内で搬送する手段は、アームを備えたロボットを採用することができる。あるいは、ワークWの非処理面を吸着して搬送する方法を採用してもよい。
【0065】
また、プラズマガスにワークWを曝露する曝露時間を確実に制御するために、プラズマ発生源102を遮蔽するシャッターなどの手段を設けることが望ましい。
【0066】
このようなプラズマ処理装置100には、図示省略したが、第1の室101a内の減圧度を計測する真空計、ワークWの温度を計測する温度センサー、処理ガスの流量を調整する調整弁、処理後の処理ガスを排出する排出機構などが設けられ、これらを含めて各部を制御する制御部を備えていることは言うまでもない。制御部は、上記曝露時間やプラズマガスを生成するプラズマパワーを制御して、適正にワークWをプラズマ処理する動作を行わせる。
【0067】
次に、マスク110の形態について説明する。図6(a)および(b)は、マスクの形態を示す概略平面図である。
【0068】
図6(a)に示すように、プラズマ処理装置100にセットされるマスク110は、画素領域A(図4(f)参照)の平面視の形状とほぼ同一な複数の開口部110aを有している。複数の開口部110aは、マスク110のマスキング領域(図5(a)参照)において、同色の発光色が得られる画素領域Aの配列に対応して設けられている。その配置は、X軸方向において画素領域Aの配置ピッチPxの3倍、すなわち3Pxにて配置されている。また、Y軸方向において画素領域Aの配置ピッチPyと同じ寸法で配置されている。この場合、開口部110aの形状が矩形状であるが、これに限定されるものではない。少なくとも処理対象の画素領域A以外の画素領域Aをマスキングすることができればよく、画素領域Aの大きさよりもやや大きい、あるいはやや小さいサイズとしてもよい。
【0069】
図6(a)に示すような開口部110aの配置によれば、画素領域Aの形状や配置に対応してプラズマ処理を行うことができる。画素領域AのX軸方向およびY軸方向の配置が一定の配置ピッチPx,Pyでない変則的な場合には、プラズマ処理条件が異なる画素領域Aの配置に対応して開口部110aが形成された複数のマスク110を用意すればよい。
【0070】
また、本実施形態の有機ELディスプレイ10の製造にあたって使用するマスク110は、図6(a)に示したものに限定されず、例えば、図6(b)に示すように、開口部120aが同色の画素領域Aの配置に対応してY軸方向にストライプ状に開口したマスク120を用いてもよい。すなわち、開口部120aのX軸方向の配置ピッチは、同様に3Pxである。
【0071】
このようなマスク110の材料としては、プラズマ処理装置100において発生したプラズマを妨げるような強磁性を示すものは相応しくない。プラズマ発生源102によるプラズマの形成は、磁場によりコントロールされている。強磁性の材料を用いると、プラズマの形成状態に影響を及ぼす他に、開口部110aにおけるプラズマガスに対する陽極31の曝露状態にも影響を及ぼすおそれがある。したがって、常磁性の材料が好ましく、例えばシリコンなどの材料が挙げられる。シリコンを材料としたマスク基材を用いれば、湿式や乾式のエッチング方法により、高精度に開口部110aを形成することが可能である。言い換えれば、画素領域Aの形状や配置に対して容易に対応したマスク110を提供することができる。
【0072】
上記マスク110または上記マスク120を用いれば、X軸方向にマスク110(120)を相対移動させて、1つのマスク110(120)で3種(3色)の画素領域Aをそれぞれ異なるプラズマ処理条件でプラズマ処理することが可能である。
【0073】
次に、プラズマ処理条件について説明する。図7は曝露時間およびプラズマパワーと仕事関数との関係を示すグラフ、図8は有機EL素子におけるエネルギーダイヤグラムを示す概略図である。
【0074】
上記プラズマ処理装置100を用い、ワークWとして陽極31が形成された素子基板1をプラズマパワーと曝露時間とを設定してプラズマ処理することにより、図7に示すような陽極31の仕事関数(ev)のグラフが得られた。このときのプラズマ処理条件としては、プラズマパワーが50Wと100Wであり、プラズマ発生源102とマスク110との距離L(図5(a)参照)はおよそ100mm、処理ガスである酸素ガスの流量は24sccmである。
【0075】
なお、陽極31の仕事関数(ev)は、理研計器(株)製の光電子分光装置AC−2を用いて測定を行った。
【0076】
ITOからなる陽極31において、処理前の仕事関数(ev)は、およそ5.05evであった。プラズマパワーが50Wのとき、曝露時間が2分までは、仕事関数(ev)が5.7evまで上昇し、曝露時間を2分以上としても5.7ev以上とはならない。プラズマパワーが100Wのとき、曝露時間が1分までは、仕事関数が5.8ev近くまで上昇し、曝露時間を1分以上かけてもそれ以上とはならない。言い換えれば、仕事関数(ev)が直線的に変化する範囲では、曝露時間を制御することによって、陽極31の仕事関数(ev)を制御可能なことがわかる。あるいは、曝露時間を一定としてもプラズマパワーを制御すれば、陽極31の仕事関数(ev)を制御可能なことがわかる。
【0077】
図8に示すように、本実施形態の有機EL素子12におけるエネルギーダイヤグラムによれば、陽極側から注入されるホール(正孔)の注入量と陰極側から注入される電子の注入量とが適度にバランス(キャリアバランス)すると共に、ホールと電子とが結びつく再結合領域が、発光層と一致、もしくはその近傍に形成されることが望ましい。一方、発光層は、発光色ごとに選定された有機材料によって構成されるため、正孔注入層(HIL)よりも低いイオン化ポテンシャル(HOMO)を有するとは限らない。このようなキャリアバランスと再結合領域の形成は、発光色ごとにホールの注入量と電子の注入量とを制御することにより達成される。
【0078】
電子の注入量(電流量)を一定とすれば、キャリアバランスと再結合領域の形成はホールの注入量に依存する。ホールの注入量は、陽極31の仕事関数と、正孔注入層(HIL)の仕事関数すなわちHOMOレベルとに関連する。この場合、プラズマ処理前のITOからなる陽極31の仕事関数は、およそ4.7〜5.1evである。陽極31を形成した後に、異物や汚れを除去する洗浄工程などの表面処理を加えた場合には、当該表面処理によっても変動する。例えば、正孔注入層(HIL)をCuPc(銅フタロシアニン)とした場合には、HOMOレベルが5.3evとなる。HOMOレベルが陽極31の仕事関数よりも高いので、陽極31をプラズマ処理することにより、その表面における仕事関数を上昇させると、ホールは正孔注入層(HIL)に対して移動し易くなる。言い換えれば、陽極31と正孔注入層(HIL)との間のエネルギー障壁のレベルを変えることができる。すなわち、陽極31の仕事関数を制御することにより、ホールの注入量を制御して、発光色ごとの有機EL素子12の発光特性を最適化することが可能である。
【0079】
したがって、各機能層32R,32G,32Bの実際の構成に対応して、図7に示した仕事関数のグラフに基づいて、適正な陽極31の仕事関数となるように、発光色ごとにプラズマ処理条件(曝露時間またはプラズマパワー)を決定する。発光色ごとにプラズマ処理条件が異なる場合や少なくとも1色の発光色に対応した陽極31のプラズマ処理条件が、他の発光色に比べて異なる場合が考えられる。
【0080】
上記実施形態1の効果は、以下の通りである。
(1)有機EL素子12の製造方法によれば、プラズマ処理工程において、陽極31の表面における仕事関数が、発光色に応じて形成される機能層32に適合するように、プラズマ処理条件(プラズマガスに対する曝露時間またはプラズマパワー)が設定されている。したがって、発光色に対応した有機EL素子12ごとに、ホールと電子とが結びつく再結合領域が、発光層と一致もしくはその近傍となるように、また適度なキャリアバランスが得られるように、ホールの注入量が最適化される。すなわち、発光特性(輝度特性、発光寿命など)が改善された有機EL素子12を製造することができる。
【0081】
(2)プラズマ処理工程において用いられるマスク110は、同一発光色の画素領域Aの形状および配置に対応した複数の開口部110aを有している。したがって、開口部110aを処理対象の画素領域Aに対向配置すれば、他の発光色の画素領域Aをマスクして、発光色ごとに陽極31のプラズマ処理条件を異ならせることができる。また、1つのマスク110を用いて、すべての陽極31のプラズマ処理が可能であると共に、3色の機能層32を形成する機能層形成工程においても利用可能である。
【0082】
(3)マスク110は、常磁性のシリコンからなるマスク基材を用いており、精度よく開口部110aを形成可能であると共に、プラズマ処理装置100においてプラズマガスに対するワークWの曝露状態に影響を与えない。すなわち、処理対象の陽極31を隈なくプラズマ処理することができる。
【0083】
(4)有機ELディスプレイ10は、上記有機EL素子12の製造方法を用いて製造された複数の有機EL素子12を備えている。有機EL素子12は、発光特性(輝度特性、発光寿命など)が改善されているため、優れた表示品質を有する有機ELディスプレイ10を提供することができる。
【0084】
(実施形態2)
<他の有機EL素子とその製造方法>
次に、上記実施形態1のプラズマ処理方法を適用した、他の有機EL素子について説明する。図9は、実施形態2の有機EL素子の構造を示す概略図である。実施形態1と同じ構成の部分は、同じ符号を用いて説明する。
【0085】
図9に示すように、本実施形態の有機EL素子60は、回路部11を有する素子基板1上に形成された画素電極としての陽極51と、共通電極としての陰極59と、これらの電極の間に形成された機能層50とを有している。
【0086】
陽極51は透明なITOからなり、陰極59は反射性を有するAlからなる。すなわち、機能層50からの発光が素子基板1側から取り出されるボトムエミッション型である。この場合も、陽極51と素子基板1との間に反射層を設け、陰極59を透明な導電材料からなる電極とすれば、トップエミッション型の有機EL素子60を構成可能である。
【0087】
機能層50は、CuPcからなる正孔注入層52と、α−NPD(ジフェニルナフチルジアミン)からなる正孔輸送層53と、Alq3をホストとしてアシストドーパントであるルブレンと赤色ドーパントであるDCM2(ジアノメチレンピラン誘導体)とを含むRed発光層54と、BH215をホストとして青色ドーパントであるBD102を含むBlue発光層55と、BH215をホストとして緑色ドーパントであるGD206を含むGreen発光層56と、Alq3からなる電子輸送層57と、LiFからなる電子注入層58とを備えている。本構成は、いわゆる「ドーパント法」に基づく3色の発光層を備え、白色発光を可能としている。ホストであるBH215、ドーパントであるBD102、GD206は、いずれも出光興産製の公知材料である。
【0088】
このような有機EL素子60の製造方法は、ITOをターゲットとしたスパッタリング法あるいはITOを蒸着源とした真空蒸着法によりITO膜を成膜し、これをパターニングすることにより陽極51を形成することができる(画素電極形成工程)。機能層50は、これを構成する各層を真空蒸着法により陽極51上に順次成膜して形成することができる(機能層形成工程)。また、陰極59は、形成された機能層50にダメージを与えないように、Alを蒸着源として真空蒸着することにより形成することができる(共通電極形成工程)。機能層形成工程では、画素領域Aごとの膜構成が同一なため、マスク110を用いなくてもよい。
【0089】
このような有機EL素子60を複数備えた素子基板1と、赤(R)、緑(G)、青(B)の3色のカラーフィルタを備えた封止基板2とを封着層35を介して接着すれば、フルカラー表示が可能な有機ELディスプレイ10を提供することができる(組立工程)。
【0090】
図10は、実施形態2の有機EL素子のエネルギーダイヤグラムである。図10に示すように、有機EL素子60のエネルギーダイヤグラムによれば、陰極59からの電子の注入量が、Red発光層54、Blue発光層55、Green発光層56で変わらないとした場合、R、G、Bの3色のカラーフィルタを介して発光バランスのよい発光色を得るには、Red発光層54、Blue発光層55、Green発光層56の順にホールの注入量が増加するのが望ましい。
【0091】
したがって、CuPcからなる正孔注入層52のHOMOレベルが5.3evであることから、Rのカラーフィルタに対応する陽極51の仕事関数としては5.2〜5.3ev、Bのカラーフィルタに対応する陽極51の仕事関数としては5.4〜5.5ev、Gのカラーフィルタに対応する陽極51の仕事関数としては5.7〜5.8evに調整することが望ましい。
【0092】
よって、図7の仕事関数のグラフに基づいて、陽極51を形成した後のプラズマ処理工程におけるプラズマ処理条件は、次の通りとなる。例えば、プラズマパワーを100Wとしたときには、発光色ごとの陽極51のプラズマガスに対する曝露時間は、赤が15〜25秒、青が30〜45秒、緑が1分以上となる。プラズマ処理工程において、マスク110を用いてプラズマ処理条件を異ならせる点は、実施形態1と同様である。
【0093】
上記実施形態2の効果は、以下の通りである。
(1)上記有機EL素子60は、3色のカラーフィルタを介して得られる発光色に対応して、陽極51のプラズマ処理条件が設定され、プラズマ処理されている。したがって、発光バランスのよい発光色が得られる。
【0094】
(2)上記有機EL素子60と3色のカラーフィルタとを有機ELディスプレイ10に備える構成とすれば、優れた表示品位を有するフルカラー表示が可能な有機ELディスプレイ10を提供することができる。
【0095】
上記実施形態以外にも様々な変形例が考えられる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0096】
(変形例1)上記実施形態1の有機EL素子12において、機能層32の形成方法は、低分子系の形成材料を用いて真空蒸着する方法に限定されない。例えば、高分子系の形成材料を含む分散液を画素領域Aに液滴吐出法(インクジェット法)により、吐出して各層を形成してもよい。すなわち、機能層32を湿式の形成方法を用いても、陽極31のプラズマ処理方法を適用することができる。
【0097】
正孔注入/輸送層の高分子系の形成材料としては、特に3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)の分散液、すなわち、分散媒としてのポリスチレンスルフォン酸に3,4−ポリエチレンジオキシチオフェンを分散させ、さらにこれを水に分散させた分散液が好適に用いられる。この他にも、例えば、ポリスチレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレンやその誘導体などを、適宜な分散媒、例えばポリスチレンスルフォン酸に分散させたものなどが挙げられる。
【0098】
同じく、高分子系の有機発光層の形成材料としては、具体的には、(ポリ)フルオレン誘導体(PF)、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)などのポリシラン系などが好適に用いられる。また、これらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子系材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等の低分子材料をドープして用いることもできる。
【0099】
(変形例2)上記実施形態1の有機EL素子12の製造方法において、製造工程の順番は、これに限定されない。図11は、変形例の有機EL素子の製造方法を示すフローチャートである。例えば、図11に示すように、1つの発光色に対応する画素電極のプラズマ処理が終了したら、続いて当該発光色に対応する機能層を形成する。すなわち、発光色の数に応じて、これをプラズマ処理工程と機能層形成工程とを繰り返す。これによれば、すべての画素電極をプラズマ処理してから、機能層をそれぞれ形成する場合に比べて、プラズマ処理後の経過時間を短縮して機能層を形成するので、経過時間による画素電極の仕事関数の変動を回避できる。すなわち、発光特性がより安定した有機EL素子12を製造することができる。上記実施形態2の有機EL素子60の製造方法においても同様である。
【0100】
(変形例3)上記実施形態1の有機EL素子12の製造方法において、プラズマ処理に用いる装置は、プラズマ処理装置100に限定されない。例えば、大気圧プラズマ処理装置を用いても同様なプラズマ処理と、その効果が期待できる。
【0101】
(変形例4)上記実施形態1のプラズマ処理装置100において用いられる処理ガスは、酸素に限定されない。例えば、酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトンのいずれかのガス、またはこれらのガスから少なくとも2つ以上選ばれた混合ガスを用いても同様な仕事関数の調整が期待できる。
【0102】
(変形例5)実施形態2の有機EL素子60において、機能層50の構成は、これに限定されない。例えば、発光層をRed発光層54とBlue発光層55の二層構成としても、白色発光させることが可能である。したがって、プラズマ処理工程では、発光層の構成とエネルギーダイヤグラムとを鑑みて処理条件を決定すればよい。
【0103】
(変形例6)上記実施形態1の有機EL素子12および上記実施形態2の有機EL素子60を用いる電気光学装置は、有機ELディスプレイ10に限定されない。例えば、感光ドラムを感光させる光プリンタヘッド、複数色の発光が可能な照明装置などが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】有機ELディスプレイを示す概略正面図。
【図2】有機ELディスプレイの要部構造を示す概略断面図。
【図3】有機EL素子の製造方法を示すフローチャート。
【図4】(a)〜(g)は有機EL素子の製造方法を示す概略断面図。
【図5】(a)および(b)はプラズマ処理装置を示す概略図。
【図6】(a)および(b)はマスクの形態を示す概略平面図。
【図7】曝露時間およびプラズマパワーと仕事関数との関係を示すグラフ。
【図8】有機EL素子におけるエネルギーダイヤグラムを示す概略図。
【図9】実施形態2の有機EL素子の構造を示す概略図。
【図10】実施形態2の有機EL素子のエネルギーダイヤグラム。
【図11】変形例の有機EL素子の製造方法を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0105】
1…基板としての素子基板、10…有機ELディスプレイ、12,60…有機EL素子、31,51…画素電極としての陽極、32,50…機能層、34,59…共通電極としての陰極、54…発光層としてのRed発光層、55…発光層としてのBlue発光層、56…発光層としてのGreen発光層、110,120…マスク、110a,120a…開口部、A…画素領域。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に複数の画素電極を形成する画素電極形成工程と、
前記複数の画素電極をプラズマガスに曝すプラズマ処理工程と、
プラズマ処理が施された前記複数の画素電極上に発光層を含む機能層を形成する機能層形成工程と、
前記機能層を覆うように共通電極を形成する共通電極形成工程と、を備え、
前記プラズマ処理工程では、前記複数の画素電極のうち、少なくとも1色の発光色に対応する画素電極に対して他の画素電極をマスクしてプラズマガスに曝すことにより、当該画素電極のプラズマ処理条件が前記他の画素電極に対して異なるようにプラズマ処理する工程を含むことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項2】
前記プラズマ処理条件が前記プラズマガスに対する曝露時間、またはプラズマパワーであることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項3】
前記機能層が形成される前記画素電極の表面層がITO膜からなり、前記プラズマガスが酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトンのいずれかのガス、またはこれらのガスから少なくとも2つ以上選ばれた混合ガスであることを特徴とする請求項2に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項4】
ホールと電子とが結びつく再結合領域が、前記発光層と一致もしくはその近傍となるように、各画素電極の前記プラズマ処理条件を設定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項5】
前記プラズマ処理工程では、常磁性の前記マスクを用いることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項6】
前記マスクがシリコンからなることを特徴とする請求項5に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項7】
前記プラズマ処理工程では、発光色ごとに用意した前記マスクを用いることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項8】
前記基板上に同一形状の画素領域がマトリクス状に配置され、
前記プラズマ処理工程では、同一発光色の前記画素領域の配置に対応した開口部を有するマスクを、処理対象の前記画素電極を有する前記画素領域に前記開口部が対向するように配置して、当該画素電極をプラズマ処理し、当該画素電極以外の他の画素電極をプラズマ処理する際には、前記マスクを相対移動させることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項9】
前記機能層形成工程では、前記画素電極ごとに発光色に対応した前記機能層を個別に形成することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項10】
前記機能層形成工程では、前記画素電極ごとに複数色の発光が可能な複数種の前記発光層を含む前記機能層を形成することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項11】
前記複数の画素電極をすべてプラズマ処理した後に、前記機能層を形成することを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項12】
発光色に対応した前記画素電極をプラズマ処理した後に、当該画素電極以外の他の画素電極をマスクした状態のままで当該画素電極上に前記機能層を形成することを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の有機EL素子の製造方法を用いて製造された複数の有機EL素子を備えたことを特徴とする有機ELディスプレイ。
【請求項1】
基板上に複数の画素電極を形成する画素電極形成工程と、
前記複数の画素電極をプラズマガスに曝すプラズマ処理工程と、
プラズマ処理が施された前記複数の画素電極上に発光層を含む機能層を形成する機能層形成工程と、
前記機能層を覆うように共通電極を形成する共通電極形成工程と、を備え、
前記プラズマ処理工程では、前記複数の画素電極のうち、少なくとも1色の発光色に対応する画素電極に対して他の画素電極をマスクしてプラズマガスに曝すことにより、当該画素電極のプラズマ処理条件が前記他の画素電極に対して異なるようにプラズマ処理する工程を含むことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項2】
前記プラズマ処理条件が前記プラズマガスに対する曝露時間、またはプラズマパワーであることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項3】
前記機能層が形成される前記画素電極の表面層がITO膜からなり、前記プラズマガスが酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトンのいずれかのガス、またはこれらのガスから少なくとも2つ以上選ばれた混合ガスであることを特徴とする請求項2に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項4】
ホールと電子とが結びつく再結合領域が、前記発光層と一致もしくはその近傍となるように、各画素電極の前記プラズマ処理条件を設定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項5】
前記プラズマ処理工程では、常磁性の前記マスクを用いることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項6】
前記マスクがシリコンからなることを特徴とする請求項5に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項7】
前記プラズマ処理工程では、発光色ごとに用意した前記マスクを用いることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項8】
前記基板上に同一形状の画素領域がマトリクス状に配置され、
前記プラズマ処理工程では、同一発光色の前記画素領域の配置に対応した開口部を有するマスクを、処理対象の前記画素電極を有する前記画素領域に前記開口部が対向するように配置して、当該画素電極をプラズマ処理し、当該画素電極以外の他の画素電極をプラズマ処理する際には、前記マスクを相対移動させることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項9】
前記機能層形成工程では、前記画素電極ごとに発光色に対応した前記機能層を個別に形成することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項10】
前記機能層形成工程では、前記画素電極ごとに複数色の発光が可能な複数種の前記発光層を含む前記機能層を形成することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項11】
前記複数の画素電極をすべてプラズマ処理した後に、前記機能層を形成することを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項12】
発光色に対応した前記画素電極をプラズマ処理した後に、当該画素電極以外の他の画素電極をマスクした状態のままで当該画素電極上に前記機能層を形成することを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の有機EL素子の製造方法を用いて製造された複数の有機EL素子を備えたことを特徴とする有機ELディスプレイ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−193753(P2009−193753A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31424(P2008−31424)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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