説明

有機EL素子の製造方法

【課題】像の映り込みや視認性の低下が改善された優れた表示特性を有する色変換方式の有機EL素子の簡便な製造方法の提供。
【解決手段】透明基板上に透明電極を形成する工程と;透明電極の上に、発光層と、反射電極との界面をなす表面層とを少なくとも含み、表面層の上面が凹凸である有機EL層を形成する工程と;有機EL層の上に反射電極を形成する工程とを有し、有機EL層の表面層の形成において、凝集性材料を堆積させることによって表面層に凹凸を形成することを特徴とする有機EL素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子の製造方法に関し、特に、外部から光が入射し素子内で反射することによって引起される像の映りこみを改善する凹凸が有機EL層の表面に形成された有機EL素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置に適用される発光素子の一例として、有機化合物の薄膜積層構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」と称する)が知られている。有機EL素子については、1987年に高効率の発光を実現する2層積層構造の有機EL素子が発表され(非特許文献1参照)、それ以来現在に至るまでに様々な有機EL素子が開発され、その一部は実用化され始めている。
【0003】
一般に有機EL素子は、透明基板の上に、光の取り出し側となる透明電極と、反射電極と、それら電極で挟持される有機EL層とを有する構造となっている。このような有機EL素子は、通常、平坦な透明基板上に、透明電極、有機EL層、反射電極を順次積層することによって作製されるため、各層の表面は平坦となっている。平坦な有機EL層/反射電極は鏡面を形成し、光の取り出し側となる透明電極と反対方向に発光した光を透明電極側に反射するように作用することで、有機EL層から発光された光の利用効率を高める効果がある。有機EL層は、少なくとも発光層を含み、通常2層以上の積層構造からなり、その総膜厚は200nm以下と非常に薄い。そのため、素子内に外部から光が入射すると、光は有機EL層を容易に透過する。この結果、鏡面である有機EL層/反射電極界面において、有機EL層を透過した外光は鏡面反射(正反射)されて、像の映りこみを発生させるという問題点がある。また、鏡面反射された外光が透明電極側に戻って表示面での視認性を低下させるという問題を生じる。
【0004】
外部からの光が素子内の反射電極で反射することによって生じる表示特性の低下を解決する方法の1つとして、散乱板のような反射防止膜を表示面前面に設けて、外部からの光の入射および像の映りこみを抑止する方法がある。しかし、このような方法によれば、散乱板によって、有機EL層からの発光もまた散乱されることになり、表示画像がぼやける傾向がある。
【0005】
【特許文献1】特開2003−243152号公報
【特許文献2】特開2001−74919号公報
【非特許文献1】C. W. Tang, S. A. Van Slyke, Appl. Phys. Lett., 51, 913(1987)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現状に鑑み、表示画像のぼやけを生じることなく、像の映りこみを改善する方法が検討されてきている。表示素子の分野では、外部から素子内に入射した光を散乱できるような凹凸面を形成するいくつかの方法が知られている。例えば、有機EL素子の反射電極表面に凹凸を形成する方法として、基板上に感光性材料を設け、それらをフォトマスク露光および現像によって凹凸形状にパターニングすることによって基板表面に凹凸を形成し、次いで透明電極、有機EL層および反射電極を順次積層する方法が知られている(特許文献1参照)。しかし、上述の方法では、基板に凹凸を形成するための独立した工程が必要となり煩雑である。
【0007】
凹凸面を形成する他の方法として、基板上に凹凸を形成するようにビーズを並べ、これらをガラス、樹脂、金属酸化物といった硬化性バインダーによって固定したものを型取りし、鋳型に硬化性材料を注入することで凹凸面を有する散乱体を形成する方法がある(特許文献2参照)。しかし、上述の方法もまた、工程数が多く煩雑であるため、より簡便な方法が望まれている。
【0008】
上述の方法では、工程の煩雑さに加えて、基板そのものに凹凸が形成されるために、基板上に順次積層される透明電極、有機EL層、および反射電極といった全ての層が凹凸に形成されることになる。各層の平坦性が損なわれると、各層の膜厚が不均一になり特性にバラツキが生じるだけでなく、リークやショートといった問題が生じやすくなり、有機EL素子の信頼性が低下する可能性がある。したがって、有機EL素子の信頼性を低下することなしに、優れた表示特性を実現することが可能な有機EL素子およびそれを製造する簡便な方法に対する要望がある。
【0009】
従って、本発明の課題は、像の映り込みや視認性の低下が改善された優れた表示特性を有する色変換方式の有機EL素子を製造するための簡便な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するために外部から入射した光を散乱させるには、反射面となる有機EL層/反射電極の界面が凹凸であれば良く、有機EL層の他の層はできるだけ平坦であることが望ましい。本発明者らは、映りこみを抑制するための凹凸構造を有する有機EL素子およびその製造方法について鋭意検討した結果、有機材料を蒸着させて有機EL層を形成する際に、凝集性材料を用いることによって、良好な凹凸面が容易に得られることを見出し、本件発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、凹凸を有する有機EL層/金属電極界面による散乱によって、外光による映りこみおよび視認性の低下といった問題が改善され、優れた表示特性を有する有機EL素子を実現することが可能である。また、本発明の有機EL層は、平坦な透明基板上に形成された透明電極上に形成されるので、有機EL層を構成する各層の下面は平坦である。したがって、有機EL層を構成する各層(表面層を除く)の平坦性が損なわれることがなく、表面層以外の各層の膜厚は均一であって特性にバラツキが生じることがなく、リークやショートといった問題が生じることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の有機EL素子の製造方法は:透明基板10上に透明電極20を形成する工程と;透明電極20の上に、発光層33と、反射電極との界面をなす表面層とを少なくとも含み、表面層の上面が凹凸である有機EL層30を形成する工程と;有機EL層30の上に反射電極を形成する工程とを有し、有機EL層30の表面層の形成において、有機EL層30の表面層の形成において、凝集性材料を堆積させることによって、表面層に凹凸を形成して、図1に示すような有機EL素子を得ることを特徴とする。本発明の方法によって製造された有機EL素子は、反射電極40と有機EL層30との界面が凹凸になっているため、外部から素子内に入射した光は、反射電極40の凹凸面で散乱され、像の映り込みおよび視認性の低下が改善される。
【0013】
最初に、本発明の製造方法によって得られる有機EL素子の各構成要素について説明する。透明基板10は、その上に積層される層の形成に用いられる条件(溶媒、温度等)に耐えるものであるべきであり、および寸法安定性に優れていることが好ましい。透明基板10として用いることができる材料は、ガラス、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース(TAC)、プロピオニルセルロース、ブチリルセルロース、アセチルプロピオニルセルロース、ニトロセルロース等のセルロースエステル;ポリアミド;ポリカーボネート;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−1,2−ジフェノキシエタン−4,4’−ジカルボキシレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリスチレン;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂;ポリカーボネート;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリエーテルケトン;ポリエーテルイミド;ポリオキシエチレン;ノルボルネン樹脂などの高分子材料であってもよい。高分子材料を用いる場合、透明基板10は剛直であっても可撓性であってもよい。透明基板10は可視光に対して80%以上の透過率を有することが好ましく、86%以上の透過率を有することがさらに好ましい。
【0014】
透明電極20は、光の取り出し側となるために可視光の領域である380〜780nmの波長において80%以上の透過率を有することが望ましい。透明電極20は、IZO(In−Zn酸化物)、ITO(In−Sn酸化物)、Sn酸化物、In酸化物、Zn酸化物、Zn−Al酸化物、Zn−Ga酸化物、またはこれらの酸化物に対してF、Sbなどのドーパントを添加した導電性透明金属酸化物を用いて形成することができる。本発明においては、透明電極20を陽極として使用することが望ましい。また、有機EL素子のディスプレイなどとしての使用に際して、透明電極20を複数の部分電極から構成してもよい。
【0015】
有機EL層30は、少なくとも発光層を含み、必要に応じて正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層および/または電子注入層を含む。正孔注入層および正孔輸送層は、陽極より注入された正孔を発光層に伝達し、発光層からの電子の移動を遮断する機能を有する。また、電子注入層および電子輸送層は、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有する。すなわち、正孔注入層および/または正孔輸送層を発光層と陽極との間に介在させることによって、より低い電界で多くのキャリアが発光層に注入され、注入されたキャリア(正孔および電子)は正孔注入層または正孔輸送層と発光層との界面において蓄積および再結合して発光し、その結果、発光効率が向上することになる。
【0016】
図2に、正孔注入層31/正孔輸送層32/発光層33/電子輸送層34/電子注入層35の5層構成からなる本発明の有機EL層30の例を示した。図2に示した構成以外にも、有機EL層30は、たとえば以下のような構成を取ることができる。
(1)陽極/有機発光層/電子注入層/陰極
(2)陽極/有機発光層/電子輸送層/陰極
(3)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
(4)陽極/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
(5)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/陰極
(6)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(7)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
(本発明において、望ましくは、陽極は透明電極20であり、陰極は反射電極40である)
【0017】
本発明の有機EL層30の反射電極との界面を形成する表面層は、凹凸の上面を有する。有機EL層の表面層は反射電極の下地層になるため、表面層の凸凹が反射電極にも反映されて微細な凹凸構造が形成されることになる。本発明の有機EL素子においては、反射電極40を陰極として使用することが望ましい。そのため、反射電極40と有機EL層30との界面を形成する表面層は、電子注入層35または電子輸送層34であることが好ましい。
【0018】
このような構成を採ることによって、本発明の有機EL層30は、平坦な透明基板10上に形成された透明電極20上に形成されるので、有機EL層30を構成する各層の下面は平坦である。したがって、有機EL層30を構成する各層(表面層を除く)の平坦性が損なわれることがなく、各層の膜厚は均一であって特性にバラツキが生じることがなく、リークやショートといった問題が生じることがない。
【0019】
以下に、有機EL層30を構成する各層について述べる。発光層33は、透明電極20および反射電極40に電圧が印加されることによって注入されるキャリア(正孔および電子)が再結合することで発光が生じる層である。発光層33の材料は、所望の色調に応じて選択することが可能である。例えば青色から青緑色の発光を得るためには、ベンゾチアゾール系、ベンゾイミダゾール系、ベンソオキサゾール系などの蛍光増白剤、金属キレート化オキソニウム化合物、スチリルベンゼン系化合物、芳香族ジメチリディン系化合物などを使用することができる。より具体的には、4,4’−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)が挙げられる。また、種々の波長域の発光を得るために、ホスト化合物(ジスチリルアリーレン化合物、4,4’−ビス[N−(3−トリル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(TPD)、アルミニウム錯体(たとえばトリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム錯体(Alq)など)にドーパント(ペリレン、キナクリドン類、ルブレンなど)を添加したものを使用することもできる。
【0020】
正孔注入層31および正孔輸送層32の材料は特に限定されることなく、公知の材料を用いてそれら正孔注入層31および正孔輸送層32を形成することができる。たとえば、正孔注入層31は、フタロシアニン類(銅フタロシアニン(CuPc)など)またはインダンスレン系化合物を使用して形成することができる。また、正孔輸送層32は、例えば、TPD、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(α−NPD)、4,4’,4”−トリス(N−3−トリル−N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)、N,N,N’,N’−テトラビフェニル−4,4’−ビフェニレンジアミン(TBPB)といったトリアリールアミン系材料を使用して形成することができる。
【0021】
有機EL層の表面層を形成しない電子輸送層の場合、その材料は特に限定されることなく、公知の材料を用いてそれら電子輸送層34を形成することができる。たとえば、2−(4−ビフェニル)−5−(p−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)のようなオキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、フェニルキノキサリン類、アルミニウムのキノリノール錯体(例えばAlq)などを使用して、電子輸送層34を形成することができる。
【0022】
有機EL層30の表面層となる電子輸送層34または電子注入層35を凝集性材料を用いて形成することができる。本発明における凝集性材料は、低分子量(分子量600以下)の平面的構造を有する材料であることが好ましい。なぜなら、このような材料は、凝集しやすく、容易に凹凸の表面を提供できるからである。本発明において用いることができる凝集性材料としては、F−TCNQ(2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン)、FDCNQI(N,N’−ジシアノ−2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−キノンジイミン)、ClDCNQI(N,N’−ジシアノ−2,5−ジクロロ−1,4−キノンジイミン)、ClDCNQI(N,N’−ジシアノ−2,5−ジクロロ−3,6−ジフルオロ−1,4−キノンジイミン)、FDCNNQI(N,N’−ジシアノ−2,3,5,6,7,8−ヘキサフルオロ−1,4−ナフトキノンジイミン)、CNTTAQ(1,4,5,8−テトラヒドロ−1,4,5,8−テトラチア−2,3,6,7−テトラシアノアントラキノン)などを挙げることができる。用いる材料によって作用機構は異なる可能性があるが、有機EL層30と反射電極40との密着性の向上またはトンネル効果などによって、反射電極40からの電子注入性が向上するものと考えている。凝集性材料を用いて電子輸送層34または電子注入層35を形成する場合、電子輸送層34または電子注入層35は0.1〜5nm、好ましくは0.1〜2nmの膜厚(凹凸構造を有するため膜の平均厚さと平均高さとは一致しないが、本発明における「膜厚」とは基板表面に関する平均厚さを意味する)を有することが望ましい。
【0023】
本発明において、反射電極40は、陰極として使用することが望ましい。陰極としての使用を考慮すると、反射電極40は、4.8eV未満の仕事関数を有する金属および合金から形成することが好ましい。例えば、Al、Ag、Mg、Mn、またはそれら金属を含有する合金(AlLi、MgAgなど)が好ましい。また、アルカリ金属フッ化物またはアルカリ土類金属フッ化物/金属(たとえば、LiF/Al)などの積層電極を使用することもできる。また、有機EL素子のディスプレイなどとしての使用に際して、反射電極40を複数の部分電極から構成してもよい。
【0024】
本発明で使用される反射電極40は、有機EL層30の形成時に形成された表面層の凹凸を反映して、微細な凹凸構造を有することになる。反射面となる反射電極40の表面が凹凸となっていることにより、外部から素子内に入射した光を散乱させることができ、像の映り込み、および視認性の低下といった現象を改善することが可能である。
【0025】
以下に、本発明の製造方法の各工程について述べる。本発明の製造方法の第1工程は、透明基板10上に透明電極20を形成する工程である。透明電極20の形成は、蒸着法、スパッタ法または化学気相堆積(CVD)法、好ましくはスパッタ法を用いて実施される。また、有機EL素子のディスプレイなどとしての使用に際して、透明電極20を複数の部分電極から形成することが所望される場合には、導電性透明金属酸化物を全面にわたって均一に形成し、その後に所望のパターンを与えるようにエッチングを行って、複数の部分電極からなる透明電極20を形成してもよい。あるいはまた、所望の形状を与えるマスクを用いて複数の部分電極からなる透明電極20を形成してもよい。あるいはまた、リフトオフ法を適用してパターニングを行うことも可能である。
【0026】
本発明の製造方法の第2工程は、透明電極20の上に、発光層33と、キャリア移動性色変換層と、反射電極との界面をなす表面層とを少なくとも含み、表面層の上面が凹凸である有機EL層30を形成する工程である。本工程は、所望の構成に応じて、正孔注入層31、正孔輸送層32、発光層33、電子輸送層34および/または電子注入層35の各構成層の材料を蒸着法によって堆積させることで実施される。抵抗加熱蒸着法または電子ビーム加熱蒸着法のいずれを用いてもよい。各構成層の形成は、通常1×10−4Pa以下、好ましくは5×10−5Pa以下、より好ましくは1×10−5Pa以下の圧力下で実施される。
【0027】
さらに、有機EL層の最上層、すなわち表面層の形成は、通常1×10−4Pa以下、好ましくは5×10−5Pa以下、より好ましくは1×10−5Pa以下の圧力下で、加熱条件を制御して0.05nm/s以下、好ましくは0.01〜0.001nm/sの範囲内の成膜速度で、F−TCNQ、FDCNQI、ClDCNQI、ClDCNQI、FDCNNQI、CNTTAQなどの凝集性材料を堆積させることによって形成される。このような範囲内の成膜速度とすることによって、被成膜面上により多くの凝集核を発生せしめ、表面層の凹凸を顕著にし、入射する外光を散乱させることが可能となる。本過程において形成される表面層は電子輸送層34または電子注入層35であることが望ましい。
【0028】
本発明の製造方法の第3の工程は、上面に凹凸を有する表面層を含む有機EL層30の上に反射電極40を形成する工程である。反射電極40の形成は、蒸着法、スパッタ法または化学気相堆積(CVD)法、好ましくは蒸着法を用いて実施される。また、有機EL素子のディスプレイなどとしての使用に際して、反射電極40を複数の部分電極から形成することが所望される場合には、所望の形状を与えるマスクを用いる蒸着法によって、複数の部分電極からなる反射電極40を形成してもよい。あるいはまた、有機EL層30の形成前に逆テーパー形状の断面を有する反射電極分離隔壁を設け、前述のように有機EL層30を形成し、そして反射電極材料を蒸着することによって、複数の部分電極からなる反射電極40を形成してもよい。
【0029】
本発明の製造方法によれば、反射電極40との界面をなす有機EL層30の表面層を形成する際に凝集性材料を用いることによって、必要とされる有機EL層の上面のみに凹凸を形成し、それによって反射電極40に微細な凹凸形状を付与することができる。したがって、従来の凹凸形成法と比較してより簡便に凹凸形状を形成することができ、かつ有機EL層30/反射電極40の界面以外を平坦に形成することによって、特性のバラツキ、リークまたはショートなどの故障の発生を防止することができる。このように形成された反射電極40の凹凸形状は、外部からの入射光を散乱せしめ、映りこみおよび視認性の低下といった問題点を抑制することを可能にする。
【0030】
本発明の製造方法によって得られる有機EL素子は、複数の独立した発光部を形成することによってディスプレイ用途などに応用することが可能である。複数の独立した発光部を形成する1つの方法は、透明電極20を第1の方向に延びる複数のストライプ形状の部分電極から形成し、反射電極40を第2の方向に延びる複数のストライプ形状の部分電極から形成し、第1の方向と第2の方向とが交差、好ましくは直交するようにすることである。このような構造において、透明電極20および反射電極40の特定の部分電極に電圧を印加すると、それら部分電極の交差する位置で発光が起き、いわゆるパッシブマトリクス駆動が可能となる。あるいはまた、透明電極20および反射電極40の一方を複数の部分電極から形成し、それら複数の部分電極のそれぞれをスイッチング素子(たとえばTFTなど)と1対1に接続し、透明電極20および反射電極40の他方を一体型の共通電極とすることで、いわゆるアクティブマトリクス駆動が可能となる。
【0031】
さらに、複数の独立した発光部を有する有機EL素子をディスプレイ用途に応用する場合、特定の波長域の光を透過させる1種または複数種のカラーフィルタ層、特定の波長域の光を吸収してより長波長の光を発する1種または複数種の色変換層、複数種のカラーフィルタ層/色変換層によってもたらされる段差を解消するための平坦化層、水分ないし酸素の透過を遮断して有機EL素子の劣化を防止するパッシベーション層などの層を必要に応じて設けることができる。たとえば、透明基板10と透明電極20との間に、カラーフィルタ層(および/または色変換層)/平坦化層/パッシベーション層の積層構造を設けてもよい。あるいはまた、透明基板10の透明電極とは反対側の表面上に、カラーフィルタ層および/または色変換層を設けてもよい。あるいはまた、有機EL素子の透明基板10とは別の透明基板上にカラーフィルタ層(および/または色変換層)/パッシベーション層の積層体を設けたフィルタ基板を作製し、有機EL素子とフィルタ基板を貼り合わせてディスプレイを形成してもよい。カラーフィルタ層、色変換層、平坦化層およびパッシベーション層は、既知の任意の材料を用いて形成してもよい。
【実施例】
【0032】
[実施例1]
本実施例は、図3に示すように、透明基板10と透明電極20との間に、カラーフィルタ層50、色変換層60、平坦化層70およびパッシベーション層80の積層構造が挿入された多色表示ディスプレイ用の有機EL素子に関する。
【0033】
厚さ0.7mmの透明ガラス基板10に対して、カラーモザイクCB−7001(富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ(株)製)を塗布し、フォトリソグラフ法を用いてパターニングして幅0.1mm、膜厚1μmの第1の方向に延びる複数のストライプ状部分がピッチ0.33mmで配列されている青色カラーフィルター層50Bを形成した。
【0034】
次いで、クマリン6(0.9重量部)を溶剤のプロピレングリコールモノエチルアセテート(PGMEA)120重量部へ溶解させた。光重合性樹脂組成物の「V259PA/P5」(新日鐵化学株式会社)100重量部を加えて溶解させ、塗布液を得た。この塗布溶液を、基板10上にスピンコート法を用いて塗布し、フォトリソグラフ法によりパターニングを実施し、幅0.1mm、膜厚5μmの第1の方向に延びる複数のストライプ形状部分がピッチ0.33mmで配列されている緑色変換層60Gを形成した。
【0035】
さらに、クマリン6(0.5重量部)、ローダミン6G(0.3質量部)、ベーシックバイオレット11(0.3質量部)を、「V259PA/P5」100重量部を加えて溶解させ、塗布液を得た。この塗布溶液を、透明基板10上にスピンコート法を用いて塗布し、フォトリソグラフ法によりパターニングを実施し、幅0.1mm、膜厚5μmの第1の方向に延びる複数のストライプ形状部分がピッチ0.33mmで配列されている赤色変換層60Rを形成した。
【0036】
カラーフィルタ層50および色変換層60が形成された透明基板10に対して、「V259PA/P5」(新日鐵化学株式会社)を塗布し、高圧水銀灯の光を照射して膜厚8μmの平坦化層70を形成した。この際、カラーフィルタ層50および色変換層60のストライプ形状に変形は発生せず、かつ平坦化層70の上面は平坦であった。
【0037】
スパッタ法にて、平坦化層70の上に膜厚300nmのSiOx膜からなるパッシベーション層80を形成した。スパッタ装置はRF−ブレーナマグネトロン、ターゲットはSiを用いた。製膜時のスパッタガスはArと酸素との混合ガスを使用した。
【0038】
パッシベーション層80の上面にスパッタ法にてIZOを全面成膜した。DCスパッタ装置を用い、圧力0.3PaのAr雰囲気中、ターゲットとしてIn−10%ZnOを用い、100Wの電力を印加した。この際の成膜速度は0.33nm/sであった。次いでフォトリソグラフィー法にてパターニングを行い、さらに乾燥処理(150℃)およびUV処理(水銀灯、室温および150℃)を行って、それぞれの副画素(赤色,緑色、および青色)に位置する、幅0.094mm、ピッチ0.11mm、膜厚100nmの第1の方向に延びる複数のストライプ形状の部分電極からなる透明電極20(陽極)を得た。
【0039】
次いで、透明電極20を形成した基板を抵抗加熱蒸着装置内に装着し、正孔注入層31、正孔輸送層32、有機発光層33および電子輸送層34からなる有機EL層30を真空を破らずに順次成膜した。正孔注入層31、正孔輸送層32および有機発光層33の成膜に際して真空槽内圧は1×10−5Paまで減圧した。正孔注入層31として、膜厚100nmのCuPcを積層した。正孔輸送層32として膜厚20nmのTBPBを積層した。そして、発光層33として膜厚40nmのDPVBiを積層した。
【0040】
続いて、1×10−5Paの真空槽内圧において、膜厚20nmのAlqを積層して電子輸送層34を得た。電子輸送層34の上面は平坦であった。続いて、本実施例における有機EL層30の表面層である電子注入層35の成膜を行った。1×10−5Paの真空槽内圧において、0.001nm/sの成膜速度において膜厚1nmのF−TCNQを形成した。得られたF−TCNQの上面は凹凸であった。
【0041】
この後、真空を破ることなしに、第1の方向と直交する第2の方向に延びる幅0.30mm、ピッチ0.33mmのストライプパターンが得られるマスクを用いて、LiF(膜厚1nm)/Al(膜厚100nm)を堆積させ、複数のストライプ形状の部分電極からなる反射電極40を形成して、有機EL素子を得た。
【0042】
こうして得られた有機EL素子をグロープボックス内乾燥窒素雰囲気(水分濃度10ppm以下)に移動させ、ゲッター剤が塗布されている封止ガラス(図示せず)とUV硬化接着剤を用いて封止した。
【0043】
[比較例1]
−TCNQからなる電子注入層35を形成しなかったことを除いて、実施例1と同様の手順に従って有機EL素子を得た。有機EL層30の表面をなす電子輸送層34の上面は平坦であった。
【0044】
[評価]
各実施例および比較例で得られた有機EL素子について、蛍光灯下での映りこみ(目視評価)、拡散反射率(%:分光光度計を用いて測定)、クロストーク(緑色副画素のみを発光させたときの発光の色度(CIE))、および駆動電圧(V:200μAの電流を流すのに必要な電圧)について評価を行った。結果を第1表に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
第1表から分かるように、本発明に従う実施例1においては、映りこみが発生せず、かつ比較例1の素子よりも大きな拡散反射率を有することから、有機EL層30/反射電極40の凹凸界面において、外部からの入射光が効率よく散乱されていることが分かる。
【0047】
さらに、クロストークの評価では、比較例1の素子のみCIEの色度座標(x,y)値が大きく黄色方向に偏移しており、緑色副画素における発光層の発光が隣接する赤色副画素に入射してクロストークが発生していることが分かる。それに対して本発明の実施例1の素子では、所望の色相の緑色光が得られており、クロストークが発生していないことが分かる。「クロストーク」とは、実施例および比較例に示すように、有機EL素子が複数の独立した発光部を有し、複数種の色変換層を有するディスプレイ用途のデバイスにおいて、横方向に伝搬した光が隣接する別種の色変換層に入射して所望されない色の光を発する現象を意味する。
【0048】
また、凝集性材料からなる電子注入層35を有する本発明の実施例1の素子は比較例1の素子に比べてより低い駆動電圧を有しており、有機EL層30へのキャリア注入がより円滑に行われていることが分かる。なお、実施例1および比較例1の素子において、駆動中のリークおよびショートのような故障の発生は認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の有機EL素子の一例を示す模式的断面図である。
【図2】本発明の有機EL層の構成の一例を示す模式的断面図である。
【図3】多色表示用途の本発明の有機EL素子の一例を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
【0050】
10 基板
20 透明電極
30 有機EL層
31 正孔注入層
32 正孔輸送層
33 発光層
34 電子輸送層
35 電子注入層
40 反射電極
50(B) カラーフィルタ層(青色)
60(G,R) 色変換層(緑色、赤色)
70 平坦化層
80 パッシベーション層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上に透明電極を形成する工程と、
前記透明電極の上に、発光層と、反射電極との界面をなす表面層とを少なくとも含み、前記表面層の上面が凹凸である有機EL層を形成する工程と、
前記有機EL層の上に反射電極を形成する工程と
を有し、前記有機EL層の表面層の形成において、凝集性材料を堆積させることによって、表面層に凹凸を形成することを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項2】
前記凝集性材料が、2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン、N,N’−ジシアノ−2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−キノンジイミン、N,N’−ジシアノ−2,5−ジクロロ−1,4−キノンジイミン、N,N’−ジシアノ−2,5−ジクロロ−3,6−ジフルオロ−1,4−キノンジイミン、
N,N’−ジシアノ−2,3,5,6,7,8−ヘキサフルオロ−1,4−ナフトキノンジイミン、1,4,5,8−テトラヒドロ−1,4,5,8−テトラチア−2,3,6,7−テトラシアノアントラキノンからなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項3】
前記表面層の形成が、0.05nm/s以下の成膜速度で実施されることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項4】
前記透明電極を形成する工程の前に、1種または複数種のカラーフィルタ層、1種または複数種の色変換層、平坦化層、およびパッシベーション層からなる群から選択される1つまたは複数の層を形成する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−172949(P2007−172949A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−367266(P2005−367266)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】