説明

有機EL素子及びその製造方法

【課題】可視光領域に光学吸収がある化合物を有機層に用いた場合であっても、背景を十分に認識可能な有機EL素子の製造方法を提供すること。
【解決手段】第1の電極1と、第1の電極1に対向して配置され、その対向面が第1の電極1の対向面の面積より小さい第2の電極2と、第1の電極1と第2の電極2との間に配置された1又は2以上の有機層6と、を備える構造体に、第2の電極2側から光照射する、有機EL素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、ホール注入電極(陽極)と電子注入電極(陰極)との間に、発光性有機化合物を含む発光層等の有機層を備えるものであり、この発光性有機化合物に上記電極から電界を印加することにより励起・発光させる素子である。
【0003】
このような有機EL素子は、発光性有機化合物そのものが発光する自発光型のデバイスであって、液晶のように背面にバックライトを必要としない。さらに、有機EL素子は、電界を印加される領域、すなわち陽極と陰極とで挟まれた領域(発光領域)のみが発光し、電界を印加されない領域、すなわち陽極と陰極とに挟まれていない領域(非発光領域)においてはほとんど発光しない。さらにまた、有機EL素子の有機層に用いる化合物としては光透過性を有するものが多い。
【0004】
これらの特徴を有することから、有機EL素子は、シースルー型の表示装置への応用が期待されている。シースルー型の表示装置とは、それを通して背景を見ることが可能なものをいう。有機EL素子においては、少なくとも非発光領域が光透過性を有するものについて、シースルー型の表示装置として用いることができる可能性がある。シースルー型の表示装置として利用可能な有機EL素子の具体例としては、例えば、特許文献1に開示されている、ホール注入電極及び電子注入電極として透明電極を用いる有機EL素子が挙げられる。
【特許文献1】特開2001−176674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の有機EL素子からシースルー型の表示装置を作成する場合には、次のような問題があった。
【0006】
すなわち、有機層に用いる発光性有機化合物としては、可視光領域(波長約400〜約700nmの領域)に光学吸収があるものも多い。このような化合物を用いた場合には有機層が着色されるため、有機層に光透過性を有する化合物を用いたとしても、表示装置の背景が認識しづらくなるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、可視光領域に光学吸収がある化合物を有機層に用いた場合であっても、背景を十分に認識可能な有機EL素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、第1の電極と、第1の電極に対向して配置され、その対向面が第1の電極の対向面の面積より小さい第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間に配置された1又は2以上の有機層とを備える構造体に、第2の電極側から光照射する有機EL素子の製造方法により、上記課題を解決できることを見出した。
【0009】
このような製造方法によれば、可視光領域に光学吸収がある化合物を有機層に用いた場合であっても、背景を十分に認識可能な有機EL素子が得られる。その理由としては次のようなことが考えられる。
【0010】
本発明の製造方法では、第2の電極がマスクとして作用し、有機層のうち第2の電極により光を遮られない領域に光が照射される。光が照射された領域では、可視光領域に光学吸収のある化合物が光酸化され、可視光領域における光学吸収が十分に小さい酸化物が生成する。これにより、有機層における光が照射された領域、すなわち、上部に第2の電極を有しない領域の光透過性が十分に向上し、有機EL素子の背景を十分に認識することが可能となる。さらに、第2の電極がマスクとして作用するため、有機層のうち第2の電極に覆われた領域では、可視光領域に光学吸収のある化合物がほとんど反応しない。よって、有機EL素子としての機能は確保される。
【0011】
さらに、かかる製造方法では、第2の電極がマスクとして作用するため、化合物が酸化される領域と非発光領域との位置のずれが十分に小さく、例えば10μm未満となる。よって、化合物が酸化される領域と非発光領域との位置がずれることによる見栄えの悪さを生じない。
【0012】
本発明の有機EL素子は、上記本発明の製造方法により得られる。本発明の有機EL素子は上述の優れた効果を有する。
【0013】
本発明はまた、第1の電極と、第1の電極上に配置された1又は2以上の有機層と、有機層上に第1の電極と対向するように配置された第2の電極とを備える有機EL素子であって、第2の電極の対向面が第1の電極の対向面の面積より小さく、上部に第2の電極を有する有機層の領域の最大光学吸収率は、上部に第2の電極を有しない有機層の領域の最大光学吸収率よりも大きい有機EL素子を提供する。ここで、「最大光学吸収率」とは、測定対象の可視光領域での光学吸収スペクトルにおける最大の吸収率を示す。
【0014】
このような有機EL素子によれば、可視光領域に吸収がある化合物を有機層に用いた場合であっても、背景を十分に認識可能である。
【0015】
本発明の有機EL素子においては、上部に第2の電極を有しない有機層の領域の最大光学吸収率が10%以下であることが好ましい。これによれば、有機EL素子の背景をより確実に認識することができる。
【0016】
本発明はさらに、第1の電極と、第1の電極上に配置された1又は2以上の有機層と、有機層上に第1の電極と対向するように配置された第2の電極とを備える有機EL素子であって、第2の電極の対向面が第1の電極の対向面の面積より小さく、少なくとも1つの有機層が、可視光領域に光学吸収のある化合物を含有する可視光吸収有機層であり、上部に第2の電極を有する可視光吸収有機層の領域の単位体積当たりの上記化合物の酸化物量が、上部に第2の電極を有しない可視光吸収有機層の領域の単位体積当たりの上記化合物の酸化物量よりも小さい有機EL素子を提供する。
【0017】
このような有機EL素子によれば、上部に第2の電極を有しない可視光吸収有機層の領域において、可視光領域における光学吸収が十分に小さい酸化物の単位体積当たりの量が十分に大きいため、背景を十分に認識可能である。
【0018】
本発明の有機EL素子においては、上部に第2の電極を有しない可視光吸収有機層の領域の単位体積当たりの上記化合物の酸化物量は、70質量%以上であることが好ましい。これによれば、有機EL素子の背景をより確実に認識することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、可視光領域に光学吸収がある化合物を有機層に用いた場合であっても、背景を十分に認識可能な有機EL素子及びその製造方法を提供することができる。さらに、本発明の製造方法により得られる有機EL素子によれば、上部に第2の電極を有しない有機層の領域と非発光領域との位置がずれることによる見栄えの悪さを生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明は下記実施形態に限定されるものではない。なお、同一又は同等の要素については同一の符号を付し、説明が重複する場合にはその説明を省略する。
【0021】
[有機EL素子の製造方法]
図1は、本発明の有機EL素子の製造方法の好ましい一実施形態を示す模式断面図である。
【0022】
図1に示す従来公知な方法により製造可能な構造体100は、基板4、第1の電極1、有機層6、及び、第1の電極より主面の面積が小さい第2の電極2を備える。第1の電極1は基板4上に設けられ、有機層6は第1の電極1と基板4とを覆うように設けられ、第2の電極2は、第1の電極に対向するように有機層6上に設けられている。また、有機層6は、可視光領域に光学吸収のある有機化合物を含有する。
【0023】
可視光領域に光学吸収のある有機化合物は、光学吸収性を有する有機化合物であって、光を照射することにより、光酸化、光異性化、光分解等を引き起こし光学吸収率が低下するものであればよい。その好ましい具体例としては、縮合多環芳香族アミン誘導体、複素縮合多環芳香族を骨格に有する有機化合物、ピロール誘導体、ピロメテン骨格を有する有機化合物、フタロシアニン誘導体、有機金属錯体(中心金属Al、Ir、Pt、Cu、Ru)、及びキノリノール金属錯体が挙げられる。この中で、ナフタセン誘導体、アミノアントラセン誘導体、アントラセン誘導体、アミノアントラセン誘導体、ペンタセン誘導体、ペリレン誘導体、インデノペリレン誘導体、ジインデノペリレン誘導体、クマリン誘導体、ベンゾフルオランテン誘導体、フェナントロリン誘導体及びフェナンスレン誘導体がより好ましい。このような可視光領域に光学吸収のある有機化合物は、発光性有機化合物であってもよく、その他の機能を有する有機化合物であってもよい。
【0024】
また、可視光領域に光学吸収のある有機化合物は、ナフタセン骨格、アミノアントラセン骨格、アントラセン骨格、アミノアントラセン骨格、ペンタセン骨格、ペリレン骨格、インデノペリレン骨格、ジインデノペリレン骨格、クマリン骨格、ベンゾフルオランテン骨格、フェナントロリン骨格、フェナンスレン骨格等の光学吸収性のある骨格を、共役部分や側鎖部分に有する高分子化合物であってもよい。
【0025】
また、構造体100における有機層6は、発光性有機化合物を含む単層の発光層からなるものであってもよく、それぞれ異なる機能を有する複数の層からなるものであってもよい。
【0026】
この構造体100に第2の電極2側から光照射することによって、有機層6のうち上部に第2の電極を有しない領域の可視光領域に光学吸収のある有機化合物が酸化され、図2に示す本実施形態の有機EL素子200が得られる。なお、かかる製造方法における光は、より効率的に可視光領域に光学吸収のある有機化合物を酸化させる観点から、UV光(紫外線)であることが好ましい。
【0027】
[有機EL素子]
図2は、上述の製造方法により得られる、本発明に係る有機EL素子の第1実施形態を示す模式断面図である。有機EL素子200において、有機層6のうち上部に第2の電極2を有する領域7においては可視光領域に光学吸収のある有機化合物がほとんど酸化されていない。また、上部に第2の電極2を有しない領域8においては可視光領域に光学吸収のある有機化合物の酸化物を多く、例えば単位体積当たり70質量%以上含有する。この酸化物は可視光領域における光学吸収が十分に小さい。よって、領域8の最大光学吸収率は十分に低く、例えば10%以下となり、有機EL素子200の背景を十分に認識することが可能となる。
【0028】
このような有機EL素子に第1の電極1及び第2の電極2から電圧を印加した場合には、基板4側から見て、領域7の部分が発光し、領域8の部分については背景を十分に認識することができる。また、パターン化された第2の電極を用いれば、そのパターンに応じた発光を得ることもできる。なお、パターンを形成した場合のその幅は、例えば、10〜1000μmとすることができる。
【0029】
図3は、本発明に係る有機EL素子の第2実施形態を示す模式断面図である。図3に示す有機EL素子300は、第1の電極1と、第1の電極1上に設けられた発光層10と、発光層10上に設けられた、第1の電極より主面の面積が小さい第2の電極2とを備える。
【0030】
図4は、本発明に係る有機EL素子の第3実施形態を示す模式断面図である。図4に示す有機EL素子400は、互いに対向して配置されている第1の電極1と、第1の電極より主面の面積が小さい第2の電極2とにより、ホール輸送層11、発光層10及び電子輸送層12が挟持された構造を有している。ホール輸送層11、発光層10及び電子輸送層12はいずれも有機層に相当し、第1の電極1側からこの順に積層されている。
【0031】
なお、図示していないが、図3及び図4にそれぞれ示す有機EL素子300及び400は、図2に示す有機EL素子と同様、発光層10のうち上部に第2の電極を有しない領域において、可視光領域に光学吸収のある有機化合物の酸化物を多く含有し、その背景を十分に認識することが可能である。
【0032】
また、有機EL素子300及び400において第1の電極1は基板4上に形成されている。さらに、図示していないが、発光層として異なる構成材料(材料の種類、材料の含有割合)を含有する発光層を複数積層して設けてもよい。
【0033】
上記実施形態においては、第1の電極1及び第2の電極2がそれぞれホール注入電極(陽極)及び電子注入電極(陰極)として機能し、電源Pによる電界の印加により、第1の電極1からホール(正孔)が注入されるとともに、第2の電極2から電子が注入され、これらの再結合に基づいて発光層10(第1実施形態においては有機層6)中の発光性有機化合物が発光する。
【0034】
このような有機EL素子において、発光層10、ホール輸送層11及び電子輸送層12の好適な厚さは、いずれも5〜200nmである。
【0035】
(基板)
基板4としては、ガラス、石英等の非晶質基板、Si、GaAs、ZnSe、ZnS、GaP、InP等の結晶基板、Mo、Al、Pt、Ir、Au、Pd、SUS等の金属基板等を用いることができる。また、結晶質又は非晶質のセラミック、金属、有機物等の薄膜を所定基板上に形成したものを用いてもよい。この中で、基板の透明性の観点から、ガラスや石英等の基板を用いることが好ましく、特に、安価なガラスの基板を用いることが好ましい。基板には、発色光の調整のために、色フィルター膜や蛍光物質を含む色変換膜、あるいは誘電体反射膜等を設けてもよい。
【0036】
(第1の電極)
第1の電極1はホール注入電極(陽極)として機能する。そのため、第1の電極1の材料としては、第1の電極1に隣接する有機層にホールを効率よく注入できる材料が好ましく、かかる観点からは仕事関数が4.5〜5.5eVである材料が好ましい。
【0037】
また、有機EL素子の発光波長領域である波長400〜700nm、特にRGB各色の波長における第1の電極1の透過率は、50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更に好ましい。第1の電極1の透過率が50%未満であると、発光層10からの発光が減衰されて画像表示に必要な輝度が得られにくくなる。
【0038】
光透過率の高い第1の電極1は、各種酸化物で構成される透明導電膜を用いて構成することができる。かかる材料としては、酸化インジウム(In)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム(IZO)等が好ましく、中でも、ITOは、面内の比抵抗が均一な薄膜が容易に得られる点で特に好ましい。ITO中のInに対するSnOの比は、1〜20質量%が好ましく、5〜12質量%がより好ましい。また、IZO中のInに対するZnOの比は12〜32質量%が好ましい。上記材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
なお、第1の電極1を構成する酸化物の組成は化学量論組成から多少偏倚していてもよい。例えば、ITOは、通常、InとSnOとを化学量論組成で含有するが、ITOの組成をInOx・SnOyで表すとき、xは1.0〜2.0の範囲内、yは0.8〜1.2の範囲内であればよい。
【0040】
また、第1の電極1に酸化シリコン(SiO)等の透明な誘電体を添加することにより、第1の電極1の仕事関数を調整することができる。例えば、ITOに対して0.5〜10mol%程度のSiOを添加することによりITOの仕事関数を増大させ、第1の電極1の仕事関数を上述の好ましい範囲内とすることができる。
【0041】
第1の電極1の厚さは、上述の光透過率を考慮して決定することが好ましい。例えば酸化物透明導電膜を用いる場合、その厚さは、好ましくは50〜500nm、より好ましくは50〜300nmであることが好ましい。第1の電極1の厚さが500nmを超えると、光透過率が不充分となると共に、基板4からの第1の電極1の剥離が発生する場合がある。また、厚さの減少に伴い光透過性は向上するが、厚さが50nm未満の場合、発光層10等へのホール注入効率が低下すると共に膜の強度が低下する傾向にある。
【0042】
(第2の電極)
第2の電極2は電子注入電極(陰極)として機能する。第2の電極2の材料としては、金属材料、有機金属錯体、金属塩等が挙げられ、発光層10等への電子注入が容易となるように仕事関数が低い材料が好ましい。
【0043】
第2の電極2を構成する金属材料の具体的態様としては、Li、Na、K、Cs等のアルカリ金属、Mg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属、LiF、CsI等のアルカリ金属ハロゲン化物等が挙げられる。また、La、Ce、Sn、Zn、Zr等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属と特性が近い金属を用いることができる。これらの中でも、Caは仕事関数が非常に低いため特に好ましい。
【0044】
第2の電極2としてアルカリ金属又はアルカリ土類金属を用いる場合は、その厚さは、好ましくは0.1〜100nm、より好ましくは1.0〜50nmである。また、第2の電極2としてアルカリハロゲン化物を用いる場合の厚さは、発光層10への電子注入能力の点からできるだけ薄い方が好ましく、具体的には、10nm以下が好ましく、1nm以下がより好ましい。上記の材料からなる第2の電極2は、例えば、真空蒸着法等によって形成可能である。
【0045】
第2の電極2を構成する有機金属錯体の具体的態様としては、β−ジケトナト錯体、キノリノール錯体等が挙げられる。有機金属錯体が有する金属は、仕事関数が低いものがよく、例えば、Li、Na、K、Cs等のアルカリ金属、Mg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属、更には、La、Ce、Sn、Zn、Zr等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属と特性が近い金属が好適である。
【0046】
上記の材料からなる第2の電極2は、例えば、有機金属錯体を所定溶媒に加えた塗布液を、スピンコート法等の塗布法により、第2の電極2が接続する層(例えば、発光層10)上に塗布し、塗布液から溶媒を除去することで形成可能である。
【0047】
第2の電極2を構成する金属塩の具体的態様としては、Ag、Al、Au、Be、Bi、Co、Cu、Fe、Ga、Hg、Ir、Mo、Mn、Nb、Ni、Os、Pb、Pd、Pt、Re、Ru、Sb、Sn、Ti、Zr等の塩が挙げられる。
【0048】
これらの金属塩は有機金属塩、無機金属塩のいずれであってもよい。有機金属塩としては、置換又は未置換の脂肪族カルボン酸塩、二価カルボン酸塩、芳香族カルボン酸塩、アルコラート、フェノラート、ジアルキルアミド等が挙げられる。また、無機金属塩としてはハロゲン化物等が挙げられる。
【0049】
脂肪族カルボン酸塩の脂肪族カルボン酸は、飽和脂肪族カルボン酸、不飽和脂肪族カルボン酸のいずれであってもよい。飽和脂肪族カルボン酸塩としては、酢酸、プロピオン酸、オクタン酸、イソオクタン酸、デカン酸、ラウリン酸等の金属塩が挙げられる。また、不飽和脂肪族カルボン酸塩としては、オレイン酸、リシノレイン酸、リノール酸等の金属塩が挙げられる。
【0050】
二価カルボン酸塩としては、例えば、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸等二価カルボン酸の金属塩が挙げられ、芳香族カルボン酸塩としては、安息香酸、o−tert−ブチル安息香酸、m−tert−ブチル安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、サリチル酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸等の金属塩が挙げられ、中でもサリチル酸の金属塩が好ましい。
【0051】
アルコラートはアルコールの金属塩である。アルコラートを構成するアルコール成分としては、例えば、エタノール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール等の一級アルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール等の二級アルコール、tert−ブチルアルコール等の三級アルコール等が挙げられる。
【0052】
フェノラートはフェノール類の金属塩である。フェノラートを構成するフェノール成分が有する水酸基の個数は特に制限されないが、好ましくは1〜2個である。また、かかるフェノール成分は水酸基の他に置換基(好ましくは炭素数1〜8の直鎖又は分岐アルキル基)を有していてもよい。本発明では、フェノール、ナフトール、4−フェニルフェノール等が好ましく用いられる。
【0053】
また、無機金属塩であるハロゲン化物としては、例えば、塩素、フッ素、臭素、ヨウ素等の金属塩が挙げられる。
【0054】
上記の材料からなる第2の電極2は、例えば、金属塩を所定溶媒に加えた塗布液を、スピンコート法等の塗布法により、第2の電極2が接続する層(例えば、発光層10)上に塗布し、塗布液から溶媒を除去することにより形成可能である。
【0055】
なお、第2の電極2は上述の電極上にさらに補助電極が設けられたものであってもよい。このような第2の電極2によれば、発光層10等への電子注入効率を向上させることができ、また、発光層10等への水分又は有機溶媒の侵入を防止することができる。補助電極の材料としては、仕事関数及び電荷注入能力に関する制限がないため、一般的な金属を用いることができるが、導電率が高く取り扱いが容易な金属を用いることが好ましい。また、特に第2の電極2が有機材料を含む場合には、有機材料の種類や密着性等に応じて適宜選択することが好ましい。
【0056】
補助電極に用いられる材料としては、Al、Ag、In、Ti、Cu、Au、Mo、W、Pt、Pd、Ni等が挙げられるが、中でもAl及びAg等の低抵抗の金属を用いると電子注入効率を更に高めることができる。また、TiN等の金属化合物を用いることにより一層高い封止性を得ることができる。これらの材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。また、2種以上の金属を用いる場合は合金として用いてもよい。このような補助電極は、例えば、真空蒸着法等によって形成可能である。
【0057】
なお、上述の第2の電極2としてパターン化されたものを用いれば、そのパターンに応じた発光を得ることができる。また、補助電極がさらに設けられた第2の電極2を用いる場合には、補助電極のみがパターン化されたされたものを用いることによっても、そのパターンに応じた発光を得ることができる。
【0058】
(発光層)
発光層10の材料としては、電子とホールとの再結合により励起子が生成し、その励起子がエネルギーを放出して基底状態に戻る際に発光するような発光性有機化合物であれば、特に限定されることなく用いることができ、可視光領域に光学吸収のある発光性有機化合物を用いることもできる。
【0059】
その具体例としては、アルミニウム錯体、ベリリウム錯体、亜鉛錯体、イリジウム錯体若しくは希土類金属錯体等の有機金属錯体化合物、アントラセン、ナフタセン、ベンゾフルオランテン、ナフトフルオランテン、スチリルアミン若しくはテトラアリールジアミン又はこれらの誘導体、ペリレン、キナクリドン、クマリン、DCM若しくはDCJTBなどの低分子有機化合物、あるいは、ポリアセチレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体若しくはポリチオフェン誘導体等のπ共役系ポリマー、又は、ポリビニル化合物、ポリスチレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアクリレート誘導体若しくはポリメタクリレート誘導体等の非π共役系の側鎖型ポリマー若しくは主鎖型ポリマー等に色素を含有させたものなどの高分子有機化合物などを挙げることができる。なお、可視光領域に光学吸収のある発光性有機化合物を発光層に用いる場合には、発光層が上述の可視光吸収有機層に相当する。
【0060】
また、発光層10の構成材料として、ホスト材料とドーパント材料を組み合わせて用いると好ましい。比較的蛍光性の強いドーパント材料を用いることによりホスト材料の発光波長特性を変化させることができ、発光波長を長波長に移行することが可能になるとともに、素子の発光効率や安定性が向上する。このような場合の発光層10におけるドーパント材料の含有量は、ホスト材料とドーパント材料の組み合わせにより異なるが、一般的には、0.01〜30.0質量%、さらには0.1〜10質量%であることが好ましい。
【0061】
ホスト材料としては、上述した化合物のうち、1,10−フェナントロリン誘導体、有機金属錯体化合物、ナフタレン、アントラセン、ナフタセン、ペリレン、ベンゾフルオランテン、ナフトフルオランテンなどの芳香族炭化水素化合物及びそれらの誘導体、さらにはスチリルアミン若しくはテトラアリールジアミン誘導体などが好ましい。ドーパント材料としては、上述した化合物のうち、有機金属錯体化合物、ナフタレン、アントラセン、ナフタセン、ペリレン、ベンゾフルオランテン、ナフトフルオランテンなどの芳香族炭化水素化合物及びそれらの誘導体、さらにはスチリルアミン若しくはテトラアリールジアミン誘導体、あるいはキナクリドン、クマリン、DCM及びそれらの誘導体が好ましい。
【0062】
発光層10は、必要に応じて、少なくとも1種以上のホール輸送性化合物と少なくとも1種以上の電子輸送性化合物との混合層とすることも好ましく、この混合層中にドーパントを含有させるとより好ましい。混合層では、キャリアのホッピング伝導パスが生成し、各キャリアは極性的に優勢な物質中を移動するので、逆方向のキャリア注入は起こり難くなると考えられる。これにより、発光層10を構成する有機材料が損傷を受け難くなるので、有機EL素子の駆動寿命が延びるという利点がある。
【0063】
混合層に用いるホール輸送性化合物及び電子輸送性化合物としては、1,10−フェナントロリン誘導体、有機金属錯体化合物、アントラセン、ナフタセン、ベンゾフルオランテン、ナフトフルオランテンなどの芳香族炭化水素化合物またはこれらの誘導体を用いると好ましい。ホール輸送性化合物としては、強い蛍光を有するアミン誘導体を用いても好ましく、そのようなアミン誘導体としては、例えば、トリフェニルジアミン誘導体、スチリルアミン誘導体若しくは芳香族縮合環を有するアミン誘導体が挙げられる。
【0064】
この場合のホール輸送性化合物と電子輸送性化合物との好ましい混合比は、それぞれのキャリア移動度及びキャリア濃度により異なるが、一般的には、ホール輸送性化合物と電子輸送性化合物との混合比(質量比)が、1:99〜99:1であると好ましく、10:90〜90:10であるとより好ましく、20:80〜80:20程度であると更に好ましい。
【0065】
(ホール輸送層)
ホール輸送層11には、低分子材料、高分子材料のいずれのホール輸送性材料も使用可能である。ホール輸送性低分子材料としては、例えば、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、テトラフェニルジアミノビフェニル誘導体などが挙げられる。また、ホール輸送性高分子材料としては、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸共重合体(PEDOT/PSS)、ポリアニリン/ポリスチレンスルホン酸共重合体(Pani/PSS)などが挙げられる。これらのホール輸送性材料は、1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
(電子輸送層)
電子輸送層12には、低分子材料、高分子材料のいずれの電子輸送材料も使用可能である。電子輸送性低分子材料としては、例えば、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン及びその誘導体、ベンゾキノン及びその誘導体、ナフトキノン及びその誘導体、アントラキノン及びその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン及びその誘導体、フルオレン及びその誘導体、ジフェニルジシアノエチレン及びその誘導体、フェナントロリン及びその誘導体、並びにこれらの化合物を配位子とする金属錯体などが挙げられる。また、電子輸送性高分子材料としては、ポリキノキサリン、ポリキノリンなどが挙げられる。
【0067】
上述した電子輸送層12の構成材料は、1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
本発明に係る有機EL素子は、第2の電極2側から光を照射すること以外は、公知の製造方法で製造できる。有機層の形成方法としては、真空蒸着法、イオン化蒸着法、塗布法等を、有機層を構成する材料に応じて適宜選択して採用できる。
【実施例】
【0069】
(実施例1)
ガラス基板上にRFスパッタ法で、ITO透明電極(陽極)を100nmの厚さに成膜し、線上にITO電極をパターニングした。このITO透明電極付きガラス基板を中性洗剤、アセトン、エタノールを用いて超音波洗浄し、100度以上の環境にて乾燥した後、ITO電極表面を高濃度酸素下でUV光を用いさらに洗浄した。直後に真空蒸着装置に洗浄した基板を投入し1x10−4Pa程度まで減圧した。有機層蒸着時は1x10−4Pa程度の真空度を維持させ以下の成膜を行った。
【0070】
まずITO電極上に、下記式(1)で表されるテトラフェニルジアミノビフェニル誘導体を蒸着速度約0.1nm/秒にて50nmの膜厚に蒸着しホール輸送層とした。さらに、下記式(2)で表されるナフタセン誘導体を蒸着速度約0.1nm/秒にて40nm成膜し発光層とした。その後トリス(8−キノリラート)アルミニウムを、蒸着速度約0.1nm/秒で10nmの厚さに蒸着し、電子輸送層とした。次に、減圧状態を維持しつつフッ化リチウムを蒸着速度約0.01nm/秒で0.3nmの厚さに蒸着し、電子注入電極(陰極)とした。さらに補助電極として蒸着マスクを介してAlを150nm蒸着することでパターニングされた有機EL素子を得た。
【0071】
【化1】

【0072】
【化2】

【0073】
この素子に電流密度10mA/cmを流したところ、駆動電圧が5.5V、発光輝度250cd/mの特性を得た。発光色はCIE色度座標で(0.43,0.55)となりパターニングされた緑色の発光が確認できた。
【0074】
その後大気下にて、360nmをピーク波長とするUV光を陰極側から有機EL素子全体に照射した。UV光照射前、及びUV光をそれぞれ1,5,10分照射した後の有機EL素子における最大光学吸収率を表1に示す。なお、最大光学吸収率は次のようにして算出した。
【0075】
すなわち、測定機器(島津製作所UV3101PC)を用い、それぞれの有機EL素子のAl電極が形成されていない部分について、可視光領域での透過スペクトル及び絶対反射スペクトルを測定した。各波長における透過率と反射率から光学吸収率を算出(式:光学吸収率=1−透過率−反射率)し、光学吸収スペクトルを得た。この光学吸収スペクトルにおける最大の吸収率を最大光学吸収率とした。例えば、UV光照射前の有機EL素子における最大光学吸収率は、波長510nmで27.5%であった。
【0076】
【表1】

【0077】
また、UV光を1,5,10分照射した後の有機EL素子について、それぞれ駆動電圧、発光輝度及び発光色を測定したが、これらは全てUV光照射前と同等の値であった。
【0078】
(参考例1)
ガラス基板を5枚用意し、それぞれのガラス基板上に、上記式(2)で表されるナフタセン誘導体を蒸着速度0.01nm、真空度1×10−4Paにて、厚さ40nm蒸着して有機層を形成し、実施例1の発光層を模式的に再現する積層体を5つ作成した。
【0079】
これらの積層体のうち4つについて、有機層側から360nmをピーク波長とするUV光を、それぞれ1,3,5,10分照射した。UV光の照射を行わなかった積層体(UV光照射時間が0分の積層体)、及びUV光をそれぞれ1,3,5,10分照射した積層体の最大光学吸収率及び有機層中の上記式(2)で表されるナフタセン誘導体の酸化物の単位体積当たりの割合を表2に示す。また、それぞれの積層体における光学吸収スペクトルを図5に示す。さらに、図6は、露光時間に対する最大光学吸収率と酸化物の単位体積当たりの割合との関係を示すグラフであり、図7は、酸化物の単位体積当たりの割合と最大光学吸収率との関係を示すグラフである。
【0080】
【表2】

【0081】
なお、最大光学吸収率は実施例1と同様の方法で測定し、酸化物の単位体積当たりの割合は次のようにして測定した。すなわち、積層体の有機層をそれぞれトルエン溶媒に溶解させ、濃度200ppm程度の溶液とした。得られた溶液について高速液体クロマトグラフィー(HEWLETT PACKARD G1312A)を用いて純度分析することにより、酸化物の単位体積当たりの割合を測定した。
【0082】
また、それぞれの積層体について目視で着色を確認したところ、UV光照射前、及びUV光を1分照射したものについては、着色が気になったが、UV光を3分照射したものについては着色がほとんど気にならなくなり、UV光を5分照射したもの、10分照射したものに関しては着色が全く認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の有機EL素子の製造方法の好ましい一実施形態を示す模式断面図である。
【図2】本発明に係る有機EL素子の第1実施形態を示す模式断面図である。
【図3】本発明に係る有機EL素子の第2実施形態を示す模式断面図である。
【図4】本発明に係る有機EL素子の第3実施形態を示す模式断面図である。
【図5】積層体における光学吸収スペクトルを示す図である。
【図6】露光時間に対する最大光学吸収率と酸化物の単位体積当たりの割合との関係を示すグラフである。
【図7】酸化物の単位体積当たりの割合と最大光学吸収率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0084】
1…第1の電極、2…第2の電極、4…基板、6…有機層、10…発光層、11…ホール輸送層、12…電子輸送層、100…構造体、200,300,400…有機EL素子、P…電源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と、前記第1の電極に対向して配置され、その対向面が前記第1の電極の対向面の面積より小さい第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置された1又は2以上の有機層と、を備える構造体に、前記第2の電極側から光照射する、有機EL素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法により得られる有機EL素子。
【請求項3】
第1の電極と、該第1の電極上に配置された1又は2以上の有機層と、該有機層上に前記第1の電極と対向するように配置された第2の電極とを備える有機EL素子であって、
前記第2の電極の対向面が前記第1の電極の対向面の面積より小さく、
上部に前記第2の電極を有する前記有機層の領域の最大光学吸収率は、上部に前記第2の電極を有しない前記有機層の領域の最大光学吸収率よりも大きい、有機EL素子。
【請求項4】
前記上部に前記第2の電極を有しない前記有機層の領域の最大光学吸収率は10%以下である、請求項3記載の有機EL素子。
【請求項5】
第1の電極と、該第1の電極上に配置された1又は2以上の有機層と、該有機層上に前記第1の電極と対向するように配置された第2の電極とを備える有機EL素子であって、
前記第2の電極の対向面が前記第1の電極の対向面の面積より小さく、
少なくとも1つの前記有機層が、可視光領域に光学吸収のある化合物を含有する可視光吸収有機層であり、
上部に前記第2の電極を有する前記可視光吸収有機層の領域の単位体積当たりの前記化合物の酸化物量が、上部に前記第2の電極を有しない前記可視光吸収有機層の領域の単位体積当たりの前記化合物の酸化物量よりも小さい、有機EL素子。
【請求項6】
前記上部に前記第2の電極を有しない前記可視光吸収有機層の領域の単位体積当たりの前記化合物の酸化物量は、70質量%以上である、請求項5記載の有機EL素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−251397(P2008−251397A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−92745(P2007−92745)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】