説明

有機EL素子

【課題】ベンゾフルオランテン構造とアントラセン構造の両構造の特性を有し、安定性に優れた有機EL材料を提供する。
【解決手段】有機EL素子は、下記一般式(I)で表される化合物を含有する、少なくとも1層の有機化合物層を有する。


(式中、Lは連結基であり、位置1〜12のいずれかの位置と位置13〜22のいずれかの位置とを連結する。連結されなかった位置1〜22には、水素原子、置換または無置換のアリール基、置換または無置換の複素環基、置換または無置換のアルキル基、芳香族アミノ基のいずれかで置換されている。Lは、単結合、置換または無置換のアリーレン基、置換または無置換の複素環基、置換または無置換のアルキレン基のいずれかを表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機EL(電界発光)素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、例えば、数V〜数十V程度の低電圧で発光が可能であり、また、蛍光性有機化合物の種類を選択することにより種々の色の発光が可能なことから、様々な発光素子、表示素子等への応用が期待されている。例えば、青色発光素子では、そのホスト材料、発光材料として、フルオランテン構造や、アントラセン構造のような様々な構造の材料が提案されている(例えば、特許文献1〜3)。
【0003】
フルオランテン構造、特に、ベンゾフルオランテン構造は、蛍光強度が非常に強く、またエネルギーギャップが青色素子のホスト材料、発光材料として適当な材料である。このため、青色発光材料の候補として常に扱われてきたが、実用レベルでの特性を得るには至っていない。
【0004】
一方、アントラセン構造は、高効率・長寿命な有機ELホスト材料として非常に有力な構造であり、特に、青色発光素子用のホスト材料として中心的な役割を果たしている。しかしながら、青色発光素子のより一層の長寿命化が求められ、さらに、素子構造の複雑化に対応するために微妙な物性の変化が求められている状況では、アントラセン構造が青色発光材料として必ずしも十分なものではなくなってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4274668号公報
【特許文献2】特開2003−26616号公報
【特許文献3】特開平08−12600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような微妙な物性の変化に対応できる新しい材料を開発する手法として、異なる構造をもつ材料間でのクロスカップリングが考えられる。クロスカップリングは、二つの構造を組み合わせることで、其々の構造が持つ特徴を一つの材料で達成でき、より広範囲の素子構造に対応するものである。ベンゾフルオランテン構造とアントラセン構造との組み合わせも青色材料として有力な組み合せだと考えられる。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、ベンゾフルオランテン構造とアントラセン構造の両構造の特性を有する有機EL材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の有機EL素子は、
下記一般式(I)で表される化合物を含有する、少なくとも1層の有機化合物層を有する、ことを特徴とする。
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Lは連結基であり、位置1〜12のいずれかの位置と位置13〜22のいずれかの位置とを連結する。連結されなかった位置1〜22には、水素原子、置換または無置換のアリール基、置換または無置換の複素環基、置換または無置換のアルキル基、芳香族アミノ基のいずれかで置換されている。Lは、単結合、置換または無置換のアリーレン基、置換または無置換の複素環基、置換または無置換のアルキレン基のいずれかを表す。)
【0011】
前記Lは、位置1〜5、位置8〜12のいずれかの位置と、位置13〜22のいずれかの位置とを連結することが好ましい。
前記Lは、位置1、2、4、5、8、9、11、12のいずれかの位置と、位置13〜22のいずれかの位置とを連結することが好ましい。
前記Lは、位置1または12の位置と、位置13〜22のいずれかの位置とを連結することが好ましい。
【0012】
前記化合物が、下記一般式(II)あるいは一般式(III)で表されることが好ましい。
【0013】
【化2】

【0014】
【化3】

【0015】
(式中、X〜X20は、水素原子、置換または無置換のアリール基、置換または無置換の複素環基、置換または無置換のアルキル基、芳香族アミノ基の何れかを表す。Lは連結基であり、単結合、置換または無置換のアリーレン基、置換または無置換の複素環基、置換または無置換のアルキレン基の何れかを表す。)
【0016】
前記一般式(II)は、X、X、X、X10、X14、X16、X19が置換されていることが好ましい。
前記一般式(II)は、X、X10、X14、X19が置換されていることが好ましい。
【0017】
前記一般式(III)は、X、X、X、X10、X13、X16、X18が置換されていることが好ましい。
前記一般式(III)は、X、X10、X16が置換されていることが好ましい。
【0018】
前記連結基Lは、例えば、単結合または、置換または無置換のアリーレン基である。
前記有機化合物層は、例えば、発光層である。
前記有機化合物層は、例えば、キャリヤ輸送層である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ベンゾフルオランテン構造とアントラセン構造の両構造の特性を有する有機EL材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の有機EL素子の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の有機EL素子の具体的構成について説明する。本発明の有機EL素子は、下記一般式(I)で表される化合物を含有する、少なくとも1層の有機化合物層を有する。
【0022】
【化4】

【0023】
(式中、Lは連結基であり、位置1〜12のいずれかの位置と位置13〜22のいずれかの位置とを連結する。なお、式中の番号は、連結基Lの連結位置を示すための番号である。連結されなかった位置1〜22には、水素原子、置換または無置換のアリール基、置換または無置換の複素環基、置換または無置換のアルキル基、芳香族アミノ基のいずれかで置換されている。Lは、単結合、置換または無置換のアリーレン基、置換または無置換の複素環基、置換または無置換のアルキレン基のいずれかを表す。)
【0024】
例えば、上記化合物を発光層に用いることにより、エネルギー順位の関係で従来のホスト材料を用いた場合には機能しなかったドーピング材料を効率良く発光させることが可能となる。また、上記化合物をキャリア輸送層に用いることにより、従来の輸送材料では調整できなかった電子あるいは正孔の輸率を制御することが可能となる。
【0025】
一般式(I)中のアリール基としては、単環もしくは多環のものであってよく、縮合環や環集合も含まれる。このようなアリール基としては、総炭素数6〜20のものが好ましく、具体的には、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基、ペリレニル基およびo−,m−またはp−ビフェニル基等が挙げられ、特に好ましくはフェニル基が挙げられる。これらのアリール基はさらに置換されていてもよく、このような置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0026】
一般式(I)中のアリール基の具体例としては、フェニル基、(o−,m−,p−)トリル基、ピレニル基、ペリレニル基、コロネニル基、ナフチル基、アントリル基、ビフェニリル基、フェニルアントリル基、トリルアントリル基等が挙げられ、特にフェニル基が好ましい。
【0027】
一般式(I)中の複素環基としては、ヘテロ原子としてO,N,Sを含有する5員または6員環の芳香族複素環基、および炭素数2〜20の縮合多環芳香複素環基等が挙げられる。芳香族複素環基および縮合多環芳香複素環基としては、例えば、チエニル基、フリル基、ピロリル基、ピリジル基、キノリル基、キノキサリル基等が挙げられる。これらの複素環基はさらに置換されていてもよく、このような置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0028】
一般式(I)中のアルキル基としては、直鎖状でも分岐を有するものであってもよく、炭素数1〜10のものが好ましく、置換基を有していてもよい。この場合の置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。一般式(I)中のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、(n−,i−)プロピル基、(n−,i−,s−,t−)ブチル基等が挙げられる。
【0029】
一般式(I)中の芳香族アミノ基としては、無置換でも置換基を有するものであってもよいが、置換基を有するものが好ましく、具体的には、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジビフェニリルアミノ基、N−フェニル−N−トリルアミノ基、N−フェニル−N−ナフチルアミノ基、N−フェニル−N−ビフェニリルアミノ基、N−フェニル−N−アントリルアミノ基、N−フェニル−N−ピレニルアミノ基、ジナフチルアミノ基、ジアントリルアミノ基、ジピレニルアミノ基等が挙げられる。
【0030】
連結基Lのアリーレン基としては、具体的には、フェニレン基、ビフェニレン基、アントリレン基等の通常のアリーレン基の他、2個ないしそれ以上のアリーレン基が直接連結したものが挙げられる。また、連結基Lのアリーレン基は、2個ないしそれ以上のアリーレン基が、アルキレン基、−O−、−S−または−NR−が介在して連結するものであってもよい。ここで、Rはアルキル基またはアリール基を表す。これらのアリール基はさらに置換されていてもよく、このような置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0031】
連結基Lの複素環基としては、ヘテロ原子としてO,N,Sを含有する5員または6員環の芳香族複素環基、および炭素数2〜20の縮合多環芳香複素環基等が挙げられる。芳香族複素環基および縮合多環芳香複素環基としては、例えば、チエニル基、フリル基、ピロリル基、ピリジル基、キノリル基、キノキサリル基等が挙げられる。これらの複素環基はさらに置換されていてもよく、このような置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0032】
連結基Lのアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基等が好ましい。
【0033】
以下に、連結基Lの具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
【化5】

【0035】
連結基Lは、単結合または、置換または無置換のアリーレン基であることが好ましい。また、置換または無置換のアリーレン基は、置換または無置換のフェニレン基であることが好ましい。
【0036】
本発明の化合物は、その分子量が1000以下であることが好ましい。また、置換基としては置換または無置換のアリール基であることが好ましく、特に、フェニル基であることが好ましい。その他のXは、水素原子であることが好ましい。
【0037】
本発明の化合物は、連結基Lが、位置1〜5、及び、位置8〜12のいずれかの位置と位置13〜22のいずれかの位置とを連結することが好ましい。これらの位置で連結することにより、蒸着時のような高温環境下で連結部分の構造と容易に環化しにくく、長波長成分を持つ不純物を生成するおそれがないためである。この結果、寿命の低下、発光色の著しい変化等の弊害が生じにくくなる。
【0038】
本発明の化合物は、連結基Lが、位置1、2、4、5、8、9、11、12のいずれかの位置と、位置13〜22のいずれかの位置とを連結することがより好ましい。これらの位置で連結することにより、寿命の低下、発光色の著しい変化等の弊害がさらに生じにくくなるためである。
【0039】
本発明の化合物は、連結基Lが、位置1または12の位置と、位置13〜22のいずれかの位置とを連結することが最も好ましい。これらの位置で連結することにより、寿命の低下、発光色の著しい変化等の弊害が最も生じにくくなるためである。
【0040】
特に、本発明の化合物は、下記一般式(II)あるいは一般式(III)で表されることが好ましい。
【0041】
【化6】

【0042】
【化7】

【0043】
(式中、X〜X20は、水素原子、置換または無置換のアリール基、置換または無置換の複素環基、置換または無置換のアルキル基、芳香族アミノ基の何れかを表す。Lは連結基であり、単結合、置換または無置換のアリーレン基、置換または無置換の複素環基、置換または無置換のアルキレン基の何れかを表す。)
【0044】
一般式(II)、及び、一般式(III)中のアリール基、複素環基、アルキル基、芳香族アミノ基、アリーレン基、アルキレン基は、一般式(I)中のアリール基、複素環基、アルキル基、芳香族アミノ基、アリーレン基、アルキレン基と同様である。
【0045】
一般式(II)のX、X、X、X10、X14、X16、X19は置換されていることが好ましい。これらが置換されていることで、一般式(II)の材料が結晶化を起こしにくく、良好なアモルファス膜を形成できるためである。また、これらは化学的に活性の高い位置であり、これらの置換位置が空いていると、素子駆動中に何らかの活性種による攻撃を受け、劣化の原因になるおそれがあるためである。特に、一般式(II)のX、X10、X14、X19は、置換されていることが好ましい。これらの置換位置が空いていると、蛍光強度が著しく低下するおそれがあるためである。
【0046】
一般式(III)のX、X、X、X10、X13、X16、X18は置換されていることが好ましい。これらが置換されていることで、一般式(III)の材料が結晶化を起こしにくく、良好なアモルファス膜を形成できるためである。また、これらは化学的に活性の高い位置であり、これらの置換位置が空いていると、素子駆動中に何らかの活性種による攻撃を受け、劣化の原因になるおそれがあるためである。特に、一般式(III)のX、X10、X16は置換されていることが好ましい。これらの置換位置が空いていると、蛍光強度が著しく低下するおそれがあるためである。
【0047】
以下に、本発明の化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【0049】
次に、上記化合物を含有する有機化合物層を少なくとも1層有する、本発明の有機EL素子について説明する。図1は、本発明の有機EL素子の構成例を示す図である。図1に示すように、有機EL素子1は、基板2上に、陽極3、正孔注入輸送層4、発光層5、電子注入輸送層6、陰極7を順次有する。
【0050】
基板2は、透明または半透明の材料から形成されていることが好ましく、例えば、ガラス板、透明プラスチックシート、半透明プラスチックシート、石英、透明セラミックスあるいはこれらを組み合わせた複合シートから形成されている。なお、基板2は、不透明な材料から形成されていてもよい。この場合、有機EL素子1は、図1に示される積層順序が逆になる。さらに、基板2に、例えば、カラーフィルター膜、色変換膜、誘電体反射膜等を組み合わせることにより、発光色をコントロールしてもよい。
【0051】
陽極3は、比較的仕事関数の大きい金属、合金または電気電導性化合物を電極物質として使用することが好ましい。陽極3に使用する電極物質としては、例えば、金、白金、銀、銅、コバルト、ニッケル、パラジウム、バナジウム、タングステン、酸化錫、酸化亜鉛、ITO(インジウム・ティン・オキサイド)、ポリチオフェン、ポリピロールなどが挙げられる。これらの電極物質は、単独で使用してもよく、複数併用してもよい。陽極3は、これらの電極物質を、例えば、蒸着法、スパッタリング法等の気相成長法により、基板2の上に形成することができる。また、陽極3は、一層構造であっても、多層構造であってもよい。
【0052】
正孔注入輸送層4は、陽極3からの正孔(ホール)の注入を容易にする機能、注入された正孔を輸送する機能、および電子を妨げる機能を有する化合物を含有する層である。正孔注入輸送層4は、フタロシアニン誘導体、トリアリールメタン誘導体、トリアリールアミン誘導体、オキサゾール誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、ピラゾリン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリフェニレンビニレンおよびその誘導体、ポリチオフェンおよびその誘導体、ポリ−N−ビニルカルバゾール誘導体などを少なくとも1種用いて形成することができる。また、本発明の上記化合物を正孔注入輸送層4に用いることもできる。この場合、従来の正孔注入輸送材料では調整できなかった正孔の輸率を制御することが可能となる。なお、正孔注入輸送機能を有する化合物は、単独で使用してもよく、あるいは複数併用してもよい。
【0053】
発光層5は、正孔(ホール)および電子の注入機能、それらの輸送機能、正孔と電子の再結合により励起子を生成させる機能を有する化合物を含有する層である。上記化合物は発光層5に用いることが好ましく、上記化合物を含有する有機化合物層は発光層5であることが好ましい。上記化合物を発光層5に用いることにより、エネルギー順位の関係で従来のホスト材料を用いた場合には機能しなかったドーピング材料を効率良く発光させることが可能となる。
【0054】
本発明では、発光層5に上記化合物のほかに、他の蛍光性物質を含有させてもよい。蛍光性物質としては、例えば、キナクリドン、ルブレン、スチリル系色素等の化合物、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム等の8−キノリノールないしその誘導体を配位子とする金属錯体色素などのキノリン誘導体、テトラフェニルブタジエン、アントラセン、ペリレン、コロネン、12−フタロペリノン誘導体、フェニルアントラセン誘導体、テトラアリールエテン誘導体等が挙げられる。
【0055】
発光層5をホスト化合物とドーパント(ゲスト化合物)とにより構成し、上記化合物を、ホスト化合物として用いて発光層5を形成したり、ドーパントとして用いて発光層5を形成してもよい。
【0056】
上記化合物をドーパントとして用いる場合、上記化合物の含有量は0.01〜20wt%、さらには0.1〜15wt%であることが好ましい。ホスト化合物と組み合わせて使用することによって、ホスト化合物の発光波長特性を変化させることができ、長波長に移行した発光が可能になるとともに、素子の発光効率や安定性が向上する。一方、上記化合物をホスト化合物として用いる場合、上記化合物の含有量は80〜99.99wt%、さらには85〜99.9wt%であることが好ましい。
【0057】
電子注入輸送層6は、陰極7からの電子の注入を容易にする機能、電子を輸送する機能および正孔を妨げる機能を有するものである。電子注入輸送層6は、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム等の8−キノリノールなしいその誘導体を配位子とする有機金属錯体などのキノリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、ペリレン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、ニトロ置換フルオレノン誘導体、チオピランジオキサイド誘導体などを少なくとも1種用いて形成することができる。また、本発明の上記化合物も電子注入輸送層として好ましい材料である。この場合、従来の電子注入輸送材料では調整できなかった電子の輸率を制御することが可能となる。
【0058】
正孔注入輸送層4および電子注入輸送層6は、発光層5に用いる化合物の正孔注入、正孔輸送、電子注入、電子輸送の各機能の高さを考慮し、必要に応じて設けられる。例えば、発光層5に用いる化合物の正孔注入輸送機能または電子注入輸送機能が高い場合には、正孔注入輸送層4または電子注入輸送層6を設けずに、発光層5が正孔注入輸送層4または電子注入輸送層6を兼ねる構成とすることができる。また、場合によっては正孔注入輸送層4および電子注入輸送層6のいずれも設けなくてよい。
【0059】
また、正孔注入輸送層4および電子注入輸送層6は、それぞれにおいて、注入機能を持つ層と輸送機能を持つ層とに別個に設けてもよい。例えば、電子注入輸送層6を電子注入層と電子輸送層とに分けて設層する場合は、電子注入輸送層用の化合物のなかから好ましい組合せを選択して用いることができる。このとき、陰極7側から電子親和力の値の大きい化合物の層の順に積層することが好ましく、陰極7に接して電子注入層、発光層に接して電子輸送層を設けることが好ましい。電子親和力と積層順との関係については電子注入輸送層を2層以上設けるときも同様である。
【0060】
陰極7は、比較的仕事関数の小さい金属、合金または電気電導性化合物を電極物質として使用することが好ましい。陰極に使用する電極物質としては、例えば、リチウム、リチウム−インジウム合金、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、カルシウム、マグネシウム、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、インジウム、ルテニウム、チタニウム、マンガン、イットリウム、アルミニウム、アルミニウム−リチウム合金、アルミニウム−カルシウム合金、アルミニウム−マグネシウム合金、グラファイト薄膜等が挙げられる。これらの電極物質は、単独で使用してもよく、あるいは複数併用してもよい。陰極は、これらの電極物質を、例えば、蒸着法、スパッタリング法、イオン化蒸着法、イオンプレーティング法、クラスターイオンビーム法等の方法により、電子注入輸送層の上に形成することができる。また、陰極は一層構造であっても、多層構造であってもよい。なお、有機EL素子の発光を効率よく取り出すために、陽極3または陰極7の少なくとも一方の電極が、透明ないし半透明であることが好ましく、一般に、発光光の透過率が80%以上となるように陽極3の材料、厚みを設定することがより好ましい。
【実施例】
【0061】
以下、本発明の具体的な実施例を比較例とともに示し、本発明をさらに詳細に説明する。
【0062】
合成例1(化合物1の合成)
【化12】

【0063】
(9,10−ジフェニルアントラセン−2−ボロン酸の合成)
2−ブロモアントラキノン6.8g(23.7mmol)を脱水トルエン50ml、脱水エーテル50mlの混合溶媒に懸濁させ、−20℃に冷却した。ここにフェニルリチウムのブチルエーテル溶液(1.9mmol/ml)を26.3ml(50mmol)加え6時間反応させた後、蒸留水を加えて反応を停止した。次に、分離した有機層を用いてカラムクロマトグラフィーを行い、ジオール体を得た。次いで、得られたジオール体と、ヨウカカリウム39g(237mmol)と、次亜リン酸ナトリウム1水和物41g(390mmol)とを酢酸に溶解し6時間還流した。冷却後に析出物をろ過し、カラムクロマトグラフィーを用いて精製を行い、4.68g(11.4mmol)の2−ブロモ−9,10−ジフェニルアントラセンを得た。収率は48.3%であった。
【0064】
2−ブロモ−9,10−ジフェニルアントラセン4.68g(11.4mmol)を脱水THFに溶解し、−80度に冷却した。ここに7.9ml(12.5mmol)のnブチルリチウムのnヘキサン溶液を滴下し、更に40分後に3.33g(22.8mmol)のホウ酸トリエチルを加えた。2時間反応を行った後に希塩酸溶液を加え12時間放置した。次に、分離した有機層を用いて再結晶を行い、3.07g(8.2mmol)の9,10−ジフェニルアントラセン−2−ボロン酸を得た。収率は72%であった。
【0065】
(9−ブロモ−7,12−ジフェニルベンゾフルオランテンの合成)
5.9g(32.4mmol)のアセナフテンキノンと7.5g(35.7mmol)の1,3−ジフェニル−2−プロパノンとをエタノール150mlに懸濁させ、水酸化カリウム2gを溶解させたエタノール溶液を加えた。還流温度まで加熱したところで更に同量の水酸化カリウムのエタノール溶液を加え、5分間反応させた。氷冷後に析出した固体をろ過し、エタノール洗浄を行い、8.24g(23.1mmol)の7.9−ジフェニルシクロペンタ[a]アセナフチレン−8−オンを得た。収率は71.3%であった。
【0066】
8.24g(23.1mmol)の7.9−ジフェニルシクロペンタ[a]アセナフチレン−8−オンを300mlのジクロロメタンに溶解し、還流温度に保持した。ここに5.4g(46.2mmol)の亜硝酸イソアミルのジクロロメタン溶液と、5g(23.1mmol)の2−アミノ−5−ブロモ安息香酸のジクロロメタン溶液とを同時に1時間かけて滴下した。さらに12h還流を行った後、メタノールを加え、析出物をろ過した。次に、析出物をキシレンに溶解し、12時間還流させた。次いで、カラムクロマトグラフィーを用いて精製を行い、3.96g(8.2mmol)の9−ブロモ−7,12−ジフェニルベンゾフルオランテンを得た。収率は35.5%であった。
【0067】
(化合物1の合成)
1.4g(3.74mmol)の9,10−ジフェニルアントラセン−2−ボロン酸と、1.8g(3.74mmol)の9−ブロモ−7,12−ジフェニルベンゾフルオランテンと、触媒としてのテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム100mgとをトルエン80ml、エタノール20mlの混合溶媒に溶解した。ここに2Mの炭酸ナトリウム水溶液40mlを加え90℃にて12時間反応した。反応終了後に有機層を分離し、カラムクロマトグラフィーによる精製を行い、1.83g(2.5mmol)の化合物1を得た。収率は66.8%であった。
【0068】
得られた化合物1をマススペクトル、赤外線吸収スペクトル、NMRを用いて同定した。
【0069】
合成例2(化合物2の合成)
【化13】

【0070】
(10−フェニルアントラセン−9−ボロン酸の合成)
15.14g(58.9mmol)の9−ブロモアントラセン、7.2g(59mmol)のフェニルボロン酸と、触媒として1gのテトラキストリフェニルフォスフィンパラジウムとをトルエン100ml、エタノール25mlの混合溶媒に溶解した。この混合溶媒に2Mの炭酸ナトリウム水溶液50mlを加えて、90℃にて12時間反応を行った。反応終了後に有機層を分離し、カラムクロマトグラフィーを行い、13.65g(53.7mmol)の9−フェニルアントラセンを得た。収率は91.2%であった。
【0071】
13.65g(53.7mmol)の9−フェニルアントラセンをN,Nジメチルホルムアミド100mlに溶解し、10.5g(59mmol)のNブロモこはく酸イミドを加え6時間反応させた。次いで蒸留水を加えて反応を停止した後に析出物をろ過した。回収した析出物をカラムクロマトグラフィーにより精製し、15.97g(48mmol)の9−ブロモ−10−フェニルアントラセンを得た。収率は89.3%であった。
【0072】
14g(42mmol)の9−ブロモ−10−フェニルアントラセンを脱水THFに溶解し、−80度に冷却した。ここに31.2ml(49mmol)のnブチルリチウムのnヘキサン溶液を滴下し、更に40分後に13g(89mmol)のホウ酸トリエチルを加えた。2時間反応を行った後に希塩酸溶液を加え12時間放置した。次いで分離した有機層を用いて再結晶を行い、10g(33.6mmol)の10−フェニルアントラセン−9−ボロン酸を得た。収率は75.2%であった。
【0073】
(化合物2の合成)
0.94g(3.14mmol)の10−フェニルアントラセン−9−ボロン酸、合成例1と同様に合成した1.52g(3.14mmol)の9−ブロモ−7,12−ジフェニルベンゾフルオランテン、触媒としてテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム100mgをトルエン80ml、エタノール20mlの混合溶媒に溶解した。ここに2Mの炭酸ナトリウム水溶液40mlを加え90℃にて12時間反応した。反応終了後に有機層を分離し、カラムクロマトグラフィーによる精製を行い、1.37g(2.09mmol)の化合物2を得た。収率は66.6%であった。
【0074】
得られた化合物2をマススペクトル、赤外線吸収スペクトル、NMRを用いて同定した。
【0075】
合成例3(化合物3の合成)
【化14】

【0076】
(9−フェニル−10−(4−ブロモフェニル)アントラセンの合成)
合成例2と同様に合成した2.46g(8.26mmol)の10−フェニルアントラセン−9−ボロン酸、9.75g(41.3mmol)のpジブロモベンゼン、触媒としてテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム250mgをトルエン60ml、エタノール15mlの混合溶媒に溶解した。ここに2Mの炭酸ナトリウム水溶液30mlを加え90℃にて12時間反応した。反応終了後に有機層を分離し、カラムクロマトグラフィーによる精製を行い、1.48g(3.62mmol)の9−フェニル−10−(4−ブロモフェニル)アントラセンを得た。収率は43.8%であった。
【0077】
(7,12−ジフェニルベンゾフルオランテン−9−ボロン酸の合成)
合成例1と同様に合成した3g(6.21mmol)の9−ブロモ−7,12−ジフェニルベンゾフルオランテンを脱水THFに溶解し、−80度に冷却した。ここに4.3ml(6.8mmol)のnブチルリチウムのnヘキサン溶液を滴下し、更に40分後に1.81g(12.4mmol)のホウ酸トリエチルを加えた。2時間反応を行った後に希塩酸溶液を加え12時間放置した。次いで分離した有機層を用いて再結晶を行い、1.51g(3.37mmol)の7,12−ジフェニルベンゾフルオランテン−9−ボロン酸を得た。収率は54.3%であった。
【0078】
(化合物3の合成)
1.38g(3.37mmol)の9−フェニル−10−(4−ブロモフェニル)アントラセン、1.51g(3.37mmol)の7,12−ジフェニルベンゾフルオランテン−9−ボロン酸、触媒としてテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム100mgをトルエン60ml、エタノール15mlの混合溶媒に溶解した。ここに2Mの炭酸ナトリウム水溶液30mlを加え90℃にて12時間反応した。反応終了後に有機層を分離し、カラムクロマトグラフィーによる精製を行い、2.01g(2.75mmol)の化合物3を得た。収率は81.6%であった。
【0079】
得られた化合物3をマススペクトル、赤外線吸収スペクトル、NMRを用いて同定した。
【0080】
合成例4(化合物4の合成)
【化15】

【0081】
(2−(4−ブロモフェニル)−9,10−ジフェニルアントラセンの合成)
合成例1と同様に合成した3.74g(10mmol)の9,10−ジフェニルアントラセン−2−ボロン酸、9.44g(40mmol)のpジブロモベンゼン、触媒としてテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム300mgをトルエン60ml、エタノール15mlの混合溶媒に溶解した。ここに2Mの炭酸ナトリウム水溶液30mlを加え90℃にて12時間反応した。反応終了後に有機層を分離し、カラムクロマトグラフィーによる精製を行い、2.32g(5.15mmol)の2−(4−ブロモフェニル)−9,10−ジフェニルアントラセンを得た。収率は51.5%であった。
【0082】
(化合物4の合成)
1.35g(3mmol)の2−(4−ブロモフェニル)−9,10−ジフェニルアントラセン、合成例3と同様に合成した1.34g(3mmol)の7,12−ジフェニルベンゾフルオランテン−9−ボロン酸、触媒としてテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム100mgをトルエン60ml、エタノール15mlの混合溶媒に溶解した。ここに2Mの炭酸ナトリウム水溶液30mlを加え90℃にて12時間反応した。反応終了後に有機層を分離し、カラムクロマトグラフィーによる精製を行い、1.68g(2.08mmol)の化合物4を得た。収率は69.3%であった。
【0083】
得られた化合物4をマススペクトル、赤外線吸収スペクトル、NMRを用いて同定した。
【0084】
合成例5(化合物5の合成)
【化16】

【0085】
(9−ブロモ−3,4,7,12−テトラフェニルベンゾフルオランテンの合成)
6.8g(20mmol)の3,4ジブロモアセナフテンキノン、6.1g(50mmol)のフェニルボロン酸、触媒としてテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム1gをトルエン80ml、エタノール20mlの混合溶媒に溶解した。ここに2Mの炭酸ナトリウム水溶液40mlを加え90℃にて12時間反応した。反応終了後に有機層を分離し、カラムクロマトグラフィーによる精製を行い、3.85g(11.5mmol)の3,4−ジフェニルアセナフテンキノンを得た。収率は57.5%であった。
【0086】
3.85g(11.5mmol)の3,4−ジフェニルアセナフテンキノンと2.7g(12.9mmol)の1,3−ジフェニル−2−プロパノンをエタノール50mlに懸濁させ、水酸化カリウム0.4gを溶解させたエタノール溶液を加えた。還流温度まで加熱したところで更に同量の水酸化カリウムのエタノール溶液を加え、5分間反応させた。氷冷後に析出した固体をろ過し、エタノール洗浄を行い、2.82g(5.55mmol)の3,4,7.9−テトラフェニルシクロペンタ[a]アセナフチレン−8−オンを得た。収率は48.3%であった。
【0087】
2.82g(5.55mmol)の3,4,7.9−テトラフェニルシクロペンタ[a]アセナフチレン−8−オンを100mlのジクロロメタンに溶解し、還流温度に保持した。ここに1.3g(11.1mmol)の亜硝酸イソアミルのジクロロメタン溶液と1.2g(5.55mmol)の2−アミノ−5−ブロモ安息香酸の亜硝酸イソアミルのジクロロメタン溶液とを同時に1時間かけて滴下した。さらに12h還流を行った後、メタノールを加え、析出物をろ過した。次に、析出物をキシレンに溶解し、12時間還流させた。次いでカラムクロマトグラフィーを用いて精製を行い、0.76g(1.2mmol)の9−ブロモ−3,4,7,12−テトラフェニルベンゾフルオランテンを得た。収率は21.6%であった。
【0088】
(化合物5の合成)
0.76g(1.2mmol)の9−ブロモ−3,4,7,12−テトラフェニルベンゾフルオランテン、合成例1と同様に合成した0.45g(1.2mmol)の9,10−ジフェニルアントラセン−2−ボロン酸、触媒としてのテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム15mgをトルエン40ml、エタノール10mlの混合溶媒に溶解した。ここに2Mの炭酸ナトリウム水溶液20mlを加え90℃にて12時間反応した。反応終了後に有機層を分離し、カラムクロマトグラフィーによる精製を行い、0.78g(0.88mmol)の化合物5を得た。収率は73.3%であった。
【0089】
合成例6(化合物6の合成)
【化17】

【0090】
pジブロモベンゼンを2,6−ジブロモピリジンに変えた以外は合成例4と同様にして化合物6を得た。
【0091】
合成例7(化合物7の合成)
【化18】

【0092】
pジブロモベンゼンを4,4’−ジブロモトリフェニルアミンに変えた以外は合成例4と同様にして化合物7を得た。
【0093】
合成例8(化合物8の合成)
【化19】

【0094】
pジブロモベンゼンを3,6’−ジブロモカルバゾールに変えた以外は合成例4と同様にして化合物8を得た。
【0095】
合成例9(化合物9の合成)
【化20】

【0096】
(8−ブロモ−7,12−ジフェニルベンゾフルオランテンの合成)
2−アミノ−5−ブロモ安息香酸を2−アミノ−3−ブロモ安息香酸に変えた以外は合成例1と同様にして8−ブロモ−7,12−ジフェニルベンゾフルオランテンを得た。
【0097】
(化合物9の合成)
9−ブロモ−7,12−ジフェニルベンゾフルオランテンを8−ブロモ−7,12−ジフェニルベンゾフルオランテンに変えた以外は合成例3と同様にして化合物9を得た。
【0098】
合成例10(化合物10の合成)
【化21】

【0099】
(8−ブロモ−7,12−ジフェニルベンゾフルオランテンの合成)
2−アミノ−5−ブロモ安息香酸を2−アミノ−3−ブロモ安息香酸に変えた以外は合成例1と同様にして8−ブロモ−7,12−ジフェニルベンゾフルオランテンを得た。
【0100】
(化合物10の合成)
9−ブロモ−7,12−ジフェニルベンゾフルオランテンを8−ブロモ−7,12−ジフェニルベンゾフルオランテンに変えた以外は合成例4と同様にして化合物10を得た。
【0101】
<実施例1>
ガラス基板上にRFスパッタ法で、ITO透明電極薄膜を100nmの厚さに成膜し、パターニングした。このITO透明電極付きガラス基板を、中性洗剤、アセトン、エタノールを用いて超音波洗浄し、煮沸エタノール中から引き上げて乾燥した。透明電極表面をUV/O洗浄した後、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定して、槽内を1×10−4Pa以下まで減圧した。
【0102】
次に、減圧状態を保ったまま、下記構造のN,N’−ジフェニル−N,N’−ビス[N−(4−メチルフェニル)−N−フェニル−(4−アミノフェニル)]−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミンを蒸着速度0.1nm/sec で50nmの膜厚に蒸着し、ホール注入層とした。
【0103】
【化22】

【0104】
次いで、下記構造のN,N,N’,N’−テトラキス(m−ビフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミンを蒸着速度0.1nm/secで10nmの厚さに蒸着し、ホール輸送層とした。
【0105】
【化23】

【0106】
さらに、減圧状態を保ったまま、ホスト材料として合成例1の化合物と、下記構造の化合物をドーパントとして、質量比98:2で、全体の蒸着速度0.1nm/secとして40nmの厚さに蒸着し、発光層とした。
【0107】
【化24】

【0108】
次に、減圧状態を保ったまま、合成例1の化合物1を10nm、続けてトリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)を5nm、蒸着速度0.1nm/secで蒸着し、電子注入輸送層とした。
【0109】
次いで、LiFを蒸着速度0.1nm/secで0.5nmの厚さに蒸着して電子注入電極とし、保護電極としてAlを100nm蒸着し、最後にガラス封止して有機EL素子を得た。
【0110】
この有機EL素子に直流電圧を印加し、初期には10mA/cmの電流密度で、駆動電圧が6.7V、1312cd/mのシアン色発光が確認できた。色度を確認したところ、(x、y)=(0.155、0.359)であった。
【0111】
<実施例2>
実施例1において、発光層のホスト材料を合成例2の化合物2に代えた以外は実施例1と同様にして有機EL素子を得た。
得られた有機EL素子に直流電圧を印加し、初期には10mA/cmの電流密度で、駆動電圧が6.5V、1387cd/mのシアン色発光が確認できた。色度を確認したところ、(x、y)=(0.152、0.345)であった。
【0112】
<実施例3>
実施例1において、発光層のホスト材料を合成例3の化合物3に代えた以外は実施例1と同様にして有機EL素子を得た。
得られた有機EL素子に直流電圧を印加し、初期には10mA/cmの電流密度で、駆動電圧が6.3V、1455cd/mのシアン色発光が確認できた。色度を確認したところ、(x、y)=(0.150、0.337)であった。
【0113】
<実施例4>
実施例1において、発光層のホスト材料を合成例4〜10の化合物4〜10に代えた以外は実施例1と同様にして有機EL素子を得た。得られた有機EL素子に直流電圧を印加し、初期には10mA/cmの電流密度で、実施例3とほぼ同様のシアン色発光が確認できた。色度もほぼ同様の結果であった。
【0114】
<実施例5、比較例1〜3>
ガラス基板上にRFスパッタ法で、ITO透明電極薄膜を100nmの厚さに成膜し、パターニングした。このITO透明電極付きガラス基板を、中性洗剤、アセトン、エタノールを用いて超音波洗浄し、煮沸エタノール中から引き上げて乾燥した。透明電極表面をUV/O洗浄した後、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定して、槽内を1×10−4Pa以下まで減圧した。
【0115】
次に、減圧状態を保ったまま、下記構造のN,N’−ジフェニル−N,N’−ビス[N−(4−メチルフェニル)−N−フェニル−(4−アミノフェニル)]−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミンを蒸着速度0.1nm/sec で30nmの膜厚に蒸着し、ホール注入層とした。
【0116】
【化25】

【0117】
次いで、下記構造のN,N,N’,N’−テトラキス(m−ビフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミンを蒸着速度0.1nm/secで65nmの厚さに蒸着し、ホール輸送層とした。
【0118】
【化26】

【0119】
さらに、減圧状態を保ったまま、ホスト材料として下記構造のナフタセン誘導体を、ドーパントとして下記構造のインデノペリレン誘導体を、質量比99.5:0.5で、全体の蒸着速度0.1nm/secとして40nmの厚さに蒸着し、発光層とした。
【0120】
【化27】

【0121】
次に、減圧状態を保ったまま、ホールブロック層を20nm、蒸着速度0.1nm/secで蒸着した。ホールブロック層の材料としては下記の4つの化合物を用いた素子(HBL1(実施例5)、HBL2〜4(比較例1〜3))を其々作製し、比較検討を行うこととした。
【0122】
【化28】

【0123】
次に、減圧状態を保ったまま、下記構造のナフタセン誘導体を30nm、続けてトリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)を4nm、蒸着速度0.1nm/secで蒸着し、電子注入輸送層とした。
【0124】
【化29】

【0125】
次いで、LiFを蒸着速度0.1nm/secで0.5nmの厚さに蒸着して電子注入電極とし、保護電極としてAlを100nm蒸着し、最後にガラス封止して有機EL素子を得た。
【0126】
この4水準の有機EL素子に1000mA/cmの電流密度で直流電圧を印加し、比較検討を行った。通常1000mA/cmのような高い電界がかかった状態では、キャリアの再結合確立が低下し、結果として発光効率の低下が起きる。このような状況における効率の低下を防ぐにはキャリアブロック層の効果が重要となる。4水準の素子における1000mA/cm駆動時の発光効率および電圧を表1に示す。
【0127】
【表1】

【0128】
表1に示すように、結果より、アントラセンとフルオランテンの中間物性を有する実施例5のHBL1が、電流効率および電圧の両方で、バランス良く高い特性を有している。
【0129】
<比較例4>
実施例1において、発光層のホスト材料を下記構造の化合物とした以外は実施例1と同様にして有機EL素子を得た。
【0130】
【化30】

【0131】
得られた有機EL素子に直流電圧を印加し、10mA/cmの電流密度で測定したところ、駆動電圧が7.7V、1215cd/mの白っぽいシアン色発光となった。色度を確認したところ、(x、y)=(0.205、0.367)であり、目的の色度を達成できなかった。これは、昇華精製時、或いは蒸着時の加熱によりホスト材料中に長波長成分を有する微量の不純物が生成してしまったものと考えられる。この不純物に関しては、昇華精製後の化合物をHPLCで分離後、紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、下記構造の紫外可視吸収スペクトルと一致する事を確認した。
【0132】
【化31】

【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明は、有機EL素子に有用である。
【符号の説明】
【0134】
1 有機EL素子
2 基板
3 陽極
4 正孔注入輸送層
5 発光層
6 電子注入輸送層
7 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物を含有する、少なくとも1層の有機化合物層を有する、ことを特徴とする有機EL素子。
【化1】

(式中、Lは連結基であり、位置1〜12のいずれかの位置と位置13〜22のいずれかの位置とを連結する。連結されなかった位置1〜22には、水素原子、置換または無置換のアリール基、置換または無置換の複素環基、置換または無置換のアルキル基、芳香族アミノ基のいずれかで置換されている。Lは、単結合、置換または無置換のアリーレン基、置換または無置換の複素環基、置換または無置換のアルキレン基のいずれかを表す。)
【請求項2】
前記Lは、位置1〜5、位置8〜12のいずれかの位置と、位置13〜22のいずれかの位置とを連結する、ことを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記Lは、位置1、2、4、5、8、9、11、12のいずれかの位置と、位置13〜22のいずれかの位置とを連結する、ことを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記Lは、位置1または12の位置と、位置13〜22のいずれかの位置とを連結する、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の有機EL素子。
【請求項5】
前記化合物が、下記一般式(II)あるいは一般式(III)で表される、ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の有機EL素子。
【化2】

【化3】

(式中、X〜X20は、水素原子、置換または無置換のアリール基、置換または無置換の複素環基、置換または無置換のアルキル基、芳香族アミノ基の何れかを表す。Lは連結基であり、単結合、置換または無置換のアリーレン基、置換または無置換の複素環基、置換または無置換のアルキレン基の何れかを表す。)
【請求項6】
前記一般式(II)は、X、X、X、X10、X14、X16、X19が置換されている、ことを特徴とする請求項5に記載の有機EL素子。
【請求項7】
前記一般式(II)は、X、X10、X14、X19が置換されている、ことを特徴とする請求項5または6に記載の有機EL素子。
【請求項8】
前記一般式(III)は、X、X、X、X10、X13、X16、X18が置換されている、ことを特徴とする請求項5に記載の有機EL素子。
【請求項9】
前記一般式(III)は、X、X10、X16が置換されている、ことを特徴とする請求項5または8に記載の有機EL素子。
【請求項10】
前記連結基Lは、単結合または、置換または無置換のアリーレン基である、ことを特徴とする請求項1乃至9いずれか1項に記載の有機EL素子。
【請求項11】
前記有機化合物層は、発光層である、ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の有機EL素子。
【請求項12】
前記有機化合物層は、キャリヤ輸送層である、ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の有機EL素子。

【図1】
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【公開番号】特開2011−249653(P2011−249653A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−122772(P2010−122772)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】