説明

有機EL表示素子及びその製造方法

【課題】
経時的な表示欠陥が生じないまたは生じ難い有機EL表示素子およびその製造方法を得る。
【解決手段】
本発明の一態様は、電極間に設けられた有機発光層を備え、基板21に設けられたカラーフィルタ22及びオーバーコート層23と、オーバーコート層23の上に設けられた無機質固体層24と、無機質固体層24の上に設けられた複数の透明な第1の電極25と、第1の電極25の上に設けられた発光層27と、発光層27の上に形成された第2の電極28とを備え、第1の電極間の領域において、無機質固体層24に透水経路が表示領域全体にわたって均一に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機エレクトロルミネッセンス(以下、本明細書では、有機ELと略称する。)表示素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カラーフィルタ上に有機EL表示素子(例えば特許文献1参照)を形成するディスプレイパネルが研究されているが、カラーフィルタ膜が含有する微量の水分や溶媒などが有機EL素子を劣化させることを防ぐために、カラーフィルタと有機EL素子との間に水または有機物の層間方向への通過を妨げるバリア用の無機質固体層を形成していた。
【0003】
しかし現実には無機質固体層は完全ではありえず、それらでは、素子完成後経時的に、図1に示すようなシミ状の非発光部が生じるという問題が知られている。図1は、有機EL表示素子の発光層の開口部(画素)1にシミ状の非発光部2が生じた様子を示す、模式的平面図である。このようなシミ状非発光部は、表示欠陥をもたらす原因になり得る。
【0004】
【特許文献1】特開2001−60495号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように従来の有機EL表示素子では、経時的な表示欠陥が生じてしまうという問題点があった。
【0006】
本発明は上述の問題点に鑑みてなされたものであって、経時的な表示欠陥が生じないまたは生じ難い有機EL表示素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、電極間に設けられた有機発光層を有する有機EL表示装置であって、基板上に設けられた有機質層(例えば、本実施の形態におけるカラーフィルタ22、オーバーコート層23)と、前記有機質層の上に設けられた無機質固体層(例えば、本実施の形態における無機質固体層24)と、前記無機質固体層の上に設けられた複数の透明な第1の電極(例えば、本実施の形態における第1の電極25)と、前記複数の第1の電極のそれぞれの上に設けられた有機発光層(例えば、本実施の形態における発光層27)と、前記有機発光層の上に形成された第2の電極(例えば、本実施の形態における第2の電極28)とを備え、前記第1の電極間の領域において、前記無機質固体層に透水経路が表示領域全体にわたって略均一に設けられているものである。これにより有機EL表示素子の経時的な表示欠陥の発生を防ぐことができる。
【0008】
本発明の第2の態様は、電極間に配置された有機発光層に対応する画素を複数備える有機EL表示素子であって、基板上に設けられた有機質層と、前記有機質層の上に設けられた無機質固体層と、前記無機質固体層の上に設けられた複数の透明な第1の電極と、前記複数の第1の電極のそれぞれの上に設けられた有機発光層と、前記有機発光層の上に形成された第2の電極とを備え、前記無機質固体層において、前記第1の電極間の領域に形成された透水経路が略全ての画素に対応して設けられているものである。これにより有機EL表示素子の経時的な表示欠陥の発生を防ぐことができる。
【0009】
本発明の第3の態様は、上述の有機EL表示素子において、前記透水経路が全ての画素と画素との間に少なくとも一つ以上形成されているものである。
【0010】
本発明の第4の態様は電極間に設けられた有機発光層を有する有機EL表示素子であって、基板上に設けられた有機質層と、前記有機質層の上に設けられた無機質固体層と、前記無機質固体層の上に設けられた複数の透明な第1の電極と、前記複数の第1の電極のそれぞれの上に設けられた有機発光層と、前記有機発光層の上に形成された第2の電極とを備え、経時的な表示欠陥が生じないよう前記無機質固体層に透水経路が形成される厚さで前記無機質固体層の層厚が設けられているものである。これにより有機EL表示素子の経時的な表示欠陥の発生を防ぐことができる。
【0011】
本発明の第5の態様は、電極間に設けられた有機発光層を有する有機EL表示素子であって、基板上に設けられた有機質層と、前記有機質層の上に設けられた無機質固体層と、前記無機質固体層の上に設けられた複数の透明な第1の電極と、前記複数の第1の電極のそれぞれの上に設けられた有機発光層と、前記有機発光層の上に形成された第2の電極とを備え、前記第1の電極間の領域において前記無機質固体層が1〜20nm以下の層厚で配置されているものである。これにより有機EL表示素子の経時的な表示欠陥の発生を防ぐことができる。
【0012】
本発明の第6の態様は、前記無機質固体層の層厚が1〜10nmで形成されている上記の有機EL表示素子である。さらに5〜10nmであることが好ましい。
【0013】
本発明の第7の態様は、前記無機質固体層の厚さが表示領域内において略均一に設けられている上記の有機EL表示素子である。これにより、簡易な工程で経時的な表示欠陥を防ぐことができる。
【0014】
本発明の第8の態様は、前記第1の電極が配置された領域の無機質固体層の層厚が、前記第1の電極間の領域の無機質固体層の層厚より厚い上記の有機EL表示素子である。
【0015】
本発明の第9の態様は、前記無機質固体層が酸化ケイ素層を備える上記の有機EL表示素子である。これにより、第1の電極の密着性を向上することができる。
【0016】
前記無機質固体層が前記酸化ケイ素膜の上に設けられた酸化ジルコニウム層をさらに有していてもよい。これにより、第1の電極の表面の凹凸を小さくすることができる。
【0017】
本発明の第11の態様は、基板に有機質層を形成するステップと、表示領域において前記有機質層の上に無機質固体層を覆うように形成するステップと、前記無機質固体層の上に複数の透明な第1の電極を形成するステップと、前記複数の第1の電極のそれぞれの上に有機発光層を形成するステップと、前記第1の電極の上に設けられた有機発光層の上に第2の電極を形成するステップと、前記有機発光層を形成する前に前記基板を乾燥して、前記第1の電極間の領域において前記無機質固体層に表示領域全体にわたって略均一に設けられた透水経路を介して前記有機質層の水又は有機物を除去するステップとを備えるものである。これにより、経時的な表示欠陥の少ない有機EL表示素子を製造することができる。
【0018】
本発明の第12の態様は、電極間に配置された有機発光層に対応する画素を複数備える有機EL表示素子の製造方法であって、基板に有機質層を形成するステップと、表示領域において前記有機質層の上に無機質固体層を覆うように形成するステップと、前記無機質固体層の上に複数の透明な第1の電極を形成するステップと、前記複数の第1の電極のそれぞれの上に有機発光層を形成するステップと、前記第1の電極の上に設けられた有機発光層の上に第2の電極を形成するステップと、前記有機発光層を形成する前に前記基板を乾燥して、前記無機質固体層において前記第1の電極間の領域に形成された透水経路であって、略全ての画素に対応して設けられている透水経路を介して前記有機質層の水又は有機物を除去するステップとを備えるものである。これにより、経時的な表示欠陥の少ない有機EL表示素子を製造することができる。
【0019】
本発明の第13の態様は、基板に有機質層を形成するステップと、前記有機質層の上に無機質固体層を形成するステップと、前記無機質固体層の上に複数の透明な第1の電極を形成するステップと、前記複数の第1の電極のそれぞれの上に有機発光層を形成するステップと、前記第1の電極の上に設けられた有機発光層の上に第2の電極を形成するステップとを備え、前記有機発光層を形成する前に、前記基板を乾燥して、前記無機質固体層に設けられた透水経路を介して前記有機質層の水又は有機物を除去するステップを備え、前記無機質固体層を形成するステップでは、経時的な表示欠陥が生じないように前記透水経路が形成される厚さで前記無機質固体層を形成するものである。これにより、経時的な表示欠陥の少ない有機EL表示素子を製造することができる。
【0020】
本発明の第14の態様は、電極間に配置された有機発光層に対応する画素を複数備える有機EL表示素子の製造方法であって、基板に有機質層を形成するステップと、前記有機質層の上に無機質固体層を形成するステップと、前記無機質固体層の上に複数の透明な第1の電極を形成するステップと、前記複数の第1の電極のそれぞれの上に有機発光層を形成するステップと、前記無機質固体層を形成するステップでは、前記第1の電極間の領域において前記無機質固体層を1〜20nmの層厚で形成するものである。これにより、経時的な表示欠陥の少ない有機EL表示素子を製造することができる。
【0021】
本発明の第15の態様は、前記無機質固体層を形成するステップでは、無機質固体層の層厚を1〜5nmで形成するものである。
【0022】
本発明の第16の態様は、前記無機質固体層を形成するステップでは、基板温度が100℃以下で前記無機質固体層を形成するものである。
【0023】
本発明の第17の態様は、前記無機質固体層を形成するステップでは、基板温度が200℃以上で前記無機質固体層を形成するものである。
【0024】
本発明の第18の態様は、前記有機発光層を形成する前に、前記第1の電極間の領域において、前記無機質固体層の少なくとも一部を除去するステップをさらに備えるものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、経時的な表示欠陥が生じないまたは生じ難い有機EL表示素子およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、本発明の実施の形態を図、実施例等を使用して説明する。これらの図、実施例等および説明は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。なお、同一の符号は同一の要素を表すものとする。
【0027】
有機EL表示素子の多層構造は、たとえば、基板上にカラーフィルタを設け、その上に平坦化の目的のためにオーバーコート層を設け、その上に水または有機物の層間方向への通過を妨げる無機質固体層を設け、その上に透明な第1の電極を設け、その上(第1の電極の非基板面側)に第2の電極を設け、第1の電極と第2の電極との層間に、開口部を備えた絶縁材層と発光層とを設ける多層構造となっている。
【0028】
この様子を、図2により例示的に説明する。基板21の上に赤、青、緑等のカラーフィルタ22を設ける。これを被覆して平坦面を作るようにオーバーコート層23を設け、その上に無機質固体層24を設け、その上にパターン化された第1の電極25を設け、その上に、開口部29を備えた絶縁材層26と発光層27と第2の電極28とを設ける。このようにして、有機EL表示素子の多層構造が構成されている。第1の電極が陽極、第2の電極が陰極であることが一般的である。なお、上述の構成において、各層や電極の上とは、その層等の上に直接設けられている場合に限らず、その層等との間に別の層等が配置されている構成を含むものとする。従って、各層間あるいは各層と電極との間に別の層が形成されていてもよい。
【0029】
有機EL表示素子は、通常、透明な第1の電極を信号電極とし、第2の電極を走査電極としてパッシブマトリックス駆動を行うようにする。素子形成上、この構成のものが製造しやすいからである。また、逆に、透明な第1の電極を走査電極とし、第2の電極を信号電極として形成することもできる。さらに、第1の電極と第2の電極をTFTの走査電極または信号電極とすることもできる。
【0030】
このカラーフィルタやオーバーコート層は有機質からなる層(有機質層)であり、水や有機溶媒等の有機物を保有しやすく、スパッタリング等による第1の電極作製時に、これらの有機質層から発生する水や有機物により、第1の電極の良好な膜形成が阻害される場合がある。また、その後においても、第1の電極の上に設けられた発光層に水や有機物が拡散して、発光を妨げることも知られている。
【0031】
そこで、第1の電極の下に、水や有機物の拡散を防止するための、酸化ケイ素等からなる無機質固体層を設け、この上に、第1の電極を作製することが行われている。有機質層の上に直接第1の電極を設けると、有機質層と第1の電極との間に十分な接着力が得られない場合が多いが、無機質固体層を設けると、この問題も解消できる。
【0032】
しかしながら、無機質固体層はピンホールを生じやすく、そのような場合には、有機質層に含まれていた水や有機物がこのピンホールを伝って発光層の発光を阻害する。第1の電極は、複数の、通常はストライプ状のパターンからなっている。無機質固体層のピンホールがこのパターンが置かれている領域にある場合には、第1の電極により、水や有機物の移動が阻止されるが、このパターンが置かれていない領域にある場合には、水や有機物の移動を阻止できないからである。
【0033】
また、無機質固体層を形成する前に有機質層を乾燥し、水や有機物を徹底的に除去できたとしても、有機EL表示素子の製造中に、使用された水や有機物が、この無機質固体層のピンホールを伝って、図4の矢印に示すようにカラーフィルタやオーバーコート層に侵入する。このような機会は、第1の電極のパターン化等の際のエッチングの洗浄やフォトリソ処理におけるレジストの剥離、絶縁材層の現像やその洗浄等の際に生じる。
【0034】
そして、いったんカラーフィルタやオーバーコート層に侵入した水や有機物はこのピンホール以外に逃げ道がないため、その後、乾燥処理を施しても十分除去しきれず、有機EL表示素子の完成後、このピンホールを通って、図5の矢印に示すように発光層へと侵入し、その発光を抑えて非発光部分を生じさせる。
【0035】
上記の経時的な表示欠陥はこのようなメカニズムによって発生しているものと考えられる。なお、図4は第1の電極の非基板面側に他の層が形成されていない時点での断面構造を示している。しかし、第1の電極の非基板面側に他の層が形成された後の構造についても同様の問題が生じる。
【0036】
すなわち、基板上に、透明な第1の電極が備えられ、第1の電極の非基板面側に第2の電極が備えられ、第1の電極と第2の電極の層間に発光層が備えられ、第1の電極と基板との層間に有機質層が備えられ、第1の電極と有機質層との層間に、水または有機物の層間方向への通過を妨げる無機質固体層が備えられた有機EL表示素子は、無機質固体層にピンホールが存在すると、経時的に、図1に示すようなシミ状の非発光部が生じ、表示欠陥をもたらす。対策として、無機質固体層を厚くすることが考えられるが、それでもピンホールを完全に除去することは困難であり、製造コストの上昇等の問題も生じる。
【0037】
この問題は、第1の電極と有機質層との層間であって、かつ、第1の電極のパターンが置かれていない領域の少なくとも一部に、無機質固体層を0〜5nmの層厚で有するようにすることで解決でき、経時的な表示欠陥が生じないまたは生じ難い有機EL表示素子を実現することができる。
【0038】
この様子を、図3により説明する。同図は本発明に係る有機EL表示素子の模式的側断面図である。基板21の上に赤、青、緑等のカラーフィルタ22を設け、これを被覆して平坦面を作るようにオーバーコート層23を設け、その上に無機質固体層24を設け、その上にパターン化された第1の電極25を設け、その上に、開口部29を備えた絶縁材層26と発光層27と第2の電極28とを設ける。このようにして、有機EL表示素子の多層構造が構成されているが、第1の電極の一様な層を形成後第1の電極をパターン化する際に、第1の電極とその下の無機質固体層とさらにその下のオーバーコート層の一部とをエッチングにより除去したため、第1の電極のパターンが置かれていない領域(以下、「パターンが置かれていない領域」を単に「パターン間」あるいは「第1の電極間」と言う場合がある。)の無機質固体層の層厚が0nmになっている場合を例示している。本発明において、「無機質固体層が0nmの層厚で備えられてなる」場合には、このように、パターンが置かれていない領域の全部に、無機質固体層が存在していない場合も含まれる。
【0039】
このようにすれば、第1の電極の作製時には、無機質固体層24により、カラーフィルタ22、オーバーコート層23中から、水や有機物が無機質固体層24上に拡散することを防止でき、第1の電極25と無機質固体層24との間の接着力を確保できる。
【0040】
また、第1の電極作成後の各層の作製時に使用した水や有機物は、第1の電極のパターン間の無機質固体層が除去されたため、図6の矢印に示すように、カラーフィルタ22、オーバーコート層23中に拡散しやすくなるが、その後の乾燥等により、図7の矢印に示すように、容易に除去することが可能となる。なお、図6は、図4と同様、第1の電極の非基板面側に他の層が形成されていない時点での断面構造を示しているが、第1の電極の非基板面側に他の層が形成された後の構造についても同様に考えられる。
【0041】
従って、有機EL表示素子の内部を最終的にシールする際に内部の水や有機物を十分除去しておけば、経時的な表示欠陥の発生を防止できる。なお、図7は発光層27と第2の電極28とを設けた図になっているが、水や有機物の除去の時期としては、このような時期に限定されるものではなく、有機EL表示素子の内部を最終的にシールするまでの任意の段階で1回以上行うことが可能である。
【0042】
第1の電極のパターン間の無機質固体層は、必ずしも0nmである必要はなく、0〜5nmの範囲の層厚があればよい。たとえ0nmでなくても、無機質固体層が十分に薄いと、水や有機物の除去が可能となるからである。たとえば、2nm程度以下になると均一に成膜することが難しく、部分的に無機質固体層が存在しない領域が出てくる。ここでいう無機質固体層の層厚は平均値である。
【0043】
第1の電極のパターン間の無機質固体層の層厚が0.5〜5nmであることが好ましい場合が多い。水や有機物の侵入を防止できると共に、無機質固体層を通して水や有機物の除去が可能となるからである。
【0044】
ただし、無機質固体層が表面に露出する部分の、酸、アルカリ、有機溶剤、プラズマやブラシ等への耐プロセス性を考慮すると、無機質固体層の層厚は透水性を維持する範囲で厚いほうが好ましい。無機質固体層の成膜条件、素子蒸着前の乾燥条件との関係で無機質固体層の層は、5〜10nmであることが好ましい場合もある。
【0045】
例えば、無機質固体層としてSiO膜をスパッタ成膜により形成する場合は、基板温度200〜230℃で成膜した場合、10nm程度の厚さでも透水性が十分高い。上記のとおり耐プロセス性の観点では、無機質固体層の層厚は厚い方が好ましい。この場合は、無機質固体層の層は、5〜10nmとして、素子蒸着前の乾燥を200〜250℃で加熱乾燥の工程を用いたところ良好な結果を得た。
【0046】
同様に、無機質固体層として、基板温度100℃以下でスパッタ成膜したSiO膜を用いる場合は、厚さ10nmでは透水性が足りないことがわかっている。この場合は、無機質固体層の層は、1〜5nmとすればよい。
【0047】
本発明においては、第1の電極の配置前に、水や有機物が有機質層に侵入するのを防止するため、第1の電極の基板面側に、無機質固体層が、0〜20nmの層厚で配置されることが好ましい。この無機質固体層は、パターン間の無機質固体層と同一の層として作製されたものでも、別々の層として作製されたものでもよい。同一面に存在しなくてもよいが、水や有機物が有機質層に侵入するのを防止するため、有機質層と第1の電極との層間に配置される。同一の層として作製されたものである場合は、第1の電極のパターン間の無機質固体層の層厚が0〜5nm、第1の電極のパターンが置かれている領域(以下パターン下という場合もある)の無機質固体層の層厚が0〜20nmということになる。
【0048】
第1の電極のパターンが置かれている領域の無機質固体層の層厚も0〜5nmであってもよい。
【0049】
第1の電極のパターン下の無機質固体層に0〜5nmの範囲の薄い層厚がない場合としては、図8Aに示すように、無機質固体層24をいったん5nmを超える厚さに形成し、その後、図8Bに示すように、第1の電極のパターン間の無機質固体層を0〜5nmの範囲にまでエッチングする例を挙げることができる。あるいは、第1の電極を形成後、基板の表面を研磨して、第1の電極のパターン間の領域の無機質固体層を除去することも可能である。この場合、第1の電極の表面も研磨されるため、全体的に厚みが減少する。図8Bは、当面電極パターン間の無機質固体層をすべて除去した例であるが、0〜5nmの範囲の層厚を残す場合や、図3のようにオーバーコート層を含めて除去する場合も本発明の範疇に属することはいうまでもない。
【0050】
第1の電極のパターン下の無機質固体層に5nm以下の層厚がある場合としては、図2の無機質固体層24を最初から5nm以下の層厚で形成する例を挙げることができる。この場合には、第1の電極のパターン間の無機質固体層もすでに0〜5nmの範囲に入っているのでさらにエッチングする必要はないが、水や有機物の除去を容易にするためさらにエッチングすることもできる。
【0051】
なお、第1の電極のパターン間の無機質固体層に0〜5nmの層厚があるという本発明の要件は、上記の例によって限定されるわけではない。第1の電極のパターン下の無機質固体層の一部が0〜5nmの範囲の層厚を有する場合や、第1の電極のパターン間の無機質固体層の一部が0〜5nmの範囲の層厚を有する場合も含まれる。具体的にどの程度の層厚が好ましいか、どの程度の部分を0〜5nmの範囲の層厚にすることが好ましいかは、モデル的に試験等を行い、経時的な表示欠陥の発生を防止できるかどうかを検討することで容易に定めることができる。
【0052】
さらに、上記の効果は、第1の電極のパターン間の無機質固体層の層厚が、第1の電極のパターン下の無機質固体層の層厚より小さいことによる効果であると考えることもできる。すなわち、いったん形成した無機質固体層について、第1の電極のパターン間の無機質固体層の層厚が、第1の電極のパターン下の無機質固体層の層厚より小さいようにする工程を加えることにより、第1の電極の作製時の不都合を防止し、その後の水や有機物の除去を容易にすることができる。この場合の層厚は平均値で判断することができる。
【0053】
より厳密に言えば、第1の電極のパターン下の無機質固体層のうちでも、本発明に係る有機EL表示素子を基板面に直交する方向から見た場合に、第2の電極との交差部をなす部分の層厚よりも、第1の電極間の無機質固体層の層厚が薄ければよい。
【0054】
このような構成は、第1の電極と第2の電極の交差部の少なくとも一部に、無機質固体層をあらかじめ形成し、第1の電極のパターンを形成した後に、第1の電極のパターンを置かない領域に対応する前記無機質固体層をエッチング処理することで得ることができる。あるいは基板の表面を研磨することにより第1の電極のパターンを置かない領域に対応する前記無機質固体層を除去することができる。
【0055】
第1の電極のパターン間の無機質固体層を0〜5nmの層厚になす方法としては、公知のどのような方法でもよいが、第1の電極のパターニング後、パターンを置かない領域に対応する無機質固体層をエッチング処理する方法がもっとも合理的である。エッチングはドライエッチングとウエットエッチングのいずれでも、またその両方を採用してもよい。
このとき、第1の電極のパターンの下にある無機質固体層が一部エッチングされてアンダーカットを生じる場合もあるが、絶縁材層等で充填できる限り、特に問題はない。
【0056】
あるいは、第1の電極を形成後、基板の表面を研磨して、第1の電極間の領域の無機質固体層を除去することも可能である。研磨することにより、第1の電極間の領域の向き質層に加えて、第1の電極の表面も除去されるため、第1の電極の表面の凹凸を小さくすることができる。この場合、第1の電極の厚みも減少する点を考慮して、第1の電極を厚めに成膜しておく。
【0057】
さらに水分等の乾燥除去に対して好適な第1の電極間の無機質固体層の層厚は、上述の値に限られるものではない。例えば、無機質固体層及び第1の電極の成膜条件に応じて無機質固体層の膜質が変化するため、乾燥除去に好適な層厚が変化する。具体的には、無機質固体層及び第1の電極の成膜温度が高い場合、層厚が5nmよりも厚くても水分の乾燥除去に適している。一方、無機質固体層及び第1の電極の成膜温度が低い場合、層厚が5nmよりも薄くても水分の乾燥除去に適している傾向にある。なお、無機質固体層と第1の電極は、通常、同じスパッタ装置にて成膜されるため、略同じ温度で形成される。
【0058】
例えば、成膜温度が200℃程度と高温の場合、第1の電極間の無機質固体層の層厚は0〜20nmであることが好ましい。なお、例えば、第1の電極にITOを用いた場合、200℃以上で成膜すると多結晶のITOが形成される。一方、成膜温度が100℃以下と低温の場合、層厚は5nmより薄いことが好ましい。100℃以下で成膜するとが非晶質のITOが形成される。また、後工程における耐久性の観点から、無機質固体層の層厚を1nm以上とすることが望ましい。このように形成した無機質固体層に有機質層中の水分又は有機物の乾燥除去に好適である。もちろん、無機質固体層は上記の層厚になるように成膜してもよいし、一度上記の膜厚よりも厚く成膜した後で、その一部をエッチング等により除去しても良い。
【0059】
乾燥除去に好適な無機質固体層には乾燥工程において有機質層中の水又は有機物が有機質層からその上層に透過するための透水経路が形成されている。ここで透水経路とは、カラーフィルタ22及びオーバーコート層23に含まれている水分又は有機物が乾燥工程において無機質固体層を透過する経路である。すなわち、乾燥工程において、水分等は透水経路において層間を移動可能であるため、無機質固体層に形成された透水経路を介して有機質層の水分等が除去される。第1の電極を形成した後に乾燥工程を行う場合、第1の電極間に形成された透水経路を通って水分等が除去される。
【0060】
この透水経路は無機質固体層において表示領域全体にわたって均一に形成されていることが望ましい。また、第1の電極を形成後に乾燥工程を行う場合は、第1の電極のパターン間に均一に形成されていることが望ましい。透水経路がある一定の密度以上で均一に形成されていない場合、有機質層の水分等を十分除去することができないため、図1に示すように透水経路がない部分にシミ状の非発光部が観察される。
【0061】
無機質固体層において、電極間に形成された有機発光層に対応する画素の全てに対応して透水経路が形成されていることが望ましい。すなわち、図1に示すようなマトリクス状の画素がある場合、全ての画素の周辺領域(1つの画素と隣り合う画素との間の領域)には少なくとも1つの透水経路が形成されていることが望ましい。さらに全ての画素において画素と画素との間の領域に透水経路が少なくとも1つ以上形成されていることが望ましい。これにより、有機質層の水分等が十分に除去されるため、全ての画素に対して経時的な表示欠陥の発生を防ぐことができる。
【0062】
乾燥工程における水分等の除去に好適な透水経路が無機質固体層に形成されている否かを判別するためには、例えば、真空チャンバー内に基板を載置して基板を加熱する。透水経路が十分に形成されている場合は、透水経路を介して水分等が抜け出てくるため。チャンバー内の圧力上昇が確認される。すなわち、チャンバー内の圧力が上昇した場合、透水経路が十分形成されており、無機質固体層の透水経路が乾燥除去に適していることが確認される。一方、チャンバー内の圧力が上昇しない場合、透水経路が不十分であり、水分等を十分に除去することができないため、無機質固体層の透水経路が乾燥除去に適していないことが確認される。このようにして、透水経路が乾燥除去に好適に設けられているか否かを判別することができる。
【0063】
上述のように厚みが数nmの極薄の無機質固体層は成膜パワーを低くすることあるいは成膜時間を短くすることにより形成される。例えば、移動成膜をするインライン式のスパッタ装置において、成膜時間を短くするため、基板の搬送速度を速くすることにより極薄の無機質固体層を形成することができる。例えば、正確に測定することができる膜厚と実際に成膜する極薄層の膜厚の比に基づいて、搬送速度を変えて成膜する。これにより、成膜時間を短くすることができ、極薄の無機質固体層を均一に形成することができる。
【0064】
また以下の方法で形成した極薄の無機質固体層の膜厚を触針式段差計で測定することもできる。有機質層、無機質固体層、透明電極パターンが積層されている状態の試料を用いる。透明電極パターンをマスクとして無機質固体層をエッチングする。透明電極がITO膜、無機質固体層がSiO2膜のとき希フッ酸をエッチング液に用いれば、SiO2膜のみがエッチングによって除去され、下層の有機質膜はエッチングされない。
【0065】
この後、ITO膜をエッチングで除去する。このようにすることにより、有機質膜上にSiO2膜のパターンが残る。これを触針式段差計で測定する。通常、触針式段差計で1〜10nmの段差を精度よく測定することは困難である。しかし、透明電極パターンとして有機EL表示素子のマトリクス素子用パターンを用いれば、高密度に段差が形成されるため、触針式段差計で周期的に複数の段差を測定できる。
【0066】
そのため、ノイズと段差の区別がしやすく、測定精度を向上させることができる。こうして3nm程度以上の段差は再現性よく測定することができる。
【0067】
本発明に係る無機質固体層としては、水や有機物の拡散を防止できる機能を有する材料を用いる。好ましくは第1の電極との接着性が良好なものであれば、どのようなものでも使用することができる。酸化ケイ素(SiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、窒化ケイ素(SiNx)、酸窒化ケイ素(SiOxNy)、酸化タンタル(TaOx)、酸化アルミニウム(AlOx)等の無機化合物を好ましいものとして含むことができる。酸化ケイ素膜が特に好ましい。無機質固体層はスパッタ法などの公知の方法で形成することができる。異種材料からなる多層であってもよい。多層の場合には酸化ケイ素膜を含むことが好ましい。さらに、多層構造の場合、酸化ケイ素膜の上に酸化ジルコニウム膜を形成することが望ましい。これにより、無機質固体層の上に形成される第1の電極の表面の凹凸を小さくすることができる。酸化ジルコニウム層はジルコニウムのターゲットで酸素ガスを用いたスパッタで形成することができる。
【0068】
本発明における基板は有機EL表示素子の支持体であり、ガラス、プラスチックフィルム等の透明な基板が一般的には使用される。より具体的には、アルカリバリアー付きのソーダライムガラス基板または無アルカリガラス基板を用いる場合が多い。また、防湿コートを施したプラスチック基板を用いることもできる。プラスチックの場合には、ポリカーボネート、ポリメタアクリレート、ポリスルホンなどを例示できる。
【0069】
第1の電極としては、インジウム錫酸化物(ITO)薄膜、錫酸化物の膜を使用することができる。また、仕事関数の大きい銀、金等の金属、ヨウ化銅などの無機導電性物質、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子により構成してもよい。第1の電極の層厚は、必要とする透明性に依存するが、可視光の透過率が60%以上、好ましくは80%以上であり、この場合の層厚は一般的には5〜1000nm、好ましくは10〜500nmである。金属電極としてはAl,Cr等が使用できる。
【0070】
第2の電極には公知の有機EL用の電極材料を含め、種々のものが使用できる。たとえば、マグネシウム−アルミニウム合金、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金、アルミニウム等を挙げることができる。
【0071】
発光層に用いる物質としては、蛍光量子収率が高く、第2の電極からの電子注入効率が高く、さらに電子移動度が高い化合物が有効である。公知の有機発光性物質、たとえば、8−オキシキノリン系錯体、テトラフェニルブタジエン、スチリル系色素、オキサジアゾール系色素などを使用することができる。
【0072】
このような発光層の層厚は、通常10〜200nmであり、好ましくは、20〜80nmである。なお、発光層には、正孔輸送層、界面層、電子注入層、電子輸送層等が付随することがあるが、そのような層が存在する場合には、本発明における発光層はそれらも含んだ層を意味する。
【0073】
本発明に係る有機質層としては、有機成分を含むどのような層も含めることができる。要すれば、水や有機物を含有し得る物質よりなる層である。カラーフィルタ、色変換層、干渉制御用透明膜、オーバーコート層、ブラックマトリックスを例示することができる。本発明は、有機質層としてカラーフィルタとオーバーコート層とを含む場合に、実用上特に好ましい。
【0074】
本発明に係る有機EL表示素子は、表示用の画素を確定するため、第1の電極と第2の電極との交差部分に対応せしめられた開口部を有する絶縁層がさらに備えられてなることが好ましい。
【0075】
オーバーコート層や絶縁材層を形成する材料としては、ポリイミド樹脂などの高分子材料がよく用いられるが、特に制限はなく、十分な絶縁性を有する公知の材料を用いることができる。ただし、オーバーコート層は発光部が外部から見えるように、透明性を有することが必要である。オーバーコート層や絶縁材層の形成方法としては、公知の方法を採用できる。
【0076】
本発明に係る有機EL表示素子の製造方法によれば、基板上に、透明な第1の電極を配置し、第1の電極の非基板面側に第2の電極を形成し、発光層を第1の電極と第2の電極の層間に位置するように形成し、第1の電極と基板との間に有機質層を形成し、第1の電極と有機質層との層間であって、かつ、第1の電極のパターンを形成しない領域の少なくとも一部に、水または有機物の層間方向への通過を妨げる無機質固体層を0〜5nmの層厚で配置し、その後水や有機物の除去を行う。ここで除去とは、含有されている水又は有機物の質量を低減することを意味し、必ずしも、物質として存在しない状態にする、ということではない。
【0077】
水や有機物の除去は、既述のごとく、画素の集合よりなる表示部をシール封止して有機EL表示素子の内部を最終的にシールするまでの任意の段階で1回以上行うことができる。好ましくは第2の電極形成前までに行う。第2の電極形成後では第2の電極がバリアとなり水や有機物の除去の効率が悪い場合が多いからである。より好ましくは発光素子層の有機膜の形成前までに行う。有機膜形成後では、加熱による乾燥を行いにくい場合が多いからである。具体的には、実際の有機EL表示素子の作製工程に応じて定めることができる。
【0078】
水や有機物の除去には乾燥処理が好ましい。乾燥処理の方法は、加熱、乾燥ガスの流通、減圧等、どのようなものでもよい。それらを組み合わせてもよい。
【0079】
より具体的には、乾燥ガスの流通による乾燥雰囲気下や減圧下に加熱乾燥処理することが簡便で信頼性が高く、好ましい。この場合に減圧の程度は適宜選択することができる。
減圧前に乾燥ガスで雰囲気を置換しておく方法も有用である。この乾燥ガスとしては、乾燥空気、窒素、アルゴン等を使用することができる。発光層の形成前に、乾燥処理を行うことが好ましい。工程処理の所要時間の観点から、減圧かつ加熱の方法が好ましい。
【0080】
乾燥処理等による水や有機物の除去後、表示部をシール封止するまでの間、常圧状態または減圧状態の乾燥ガス雰囲気下で必要な処理を行うことが好ましい。乾燥ガスとしては、乾燥空気、窒素、アルゴン等を使用することができる。
【0081】
また、表示部をシール封止して本発明に係る有機EL表示素子を完成するに当たっては、外気の侵入による経時的劣化を防止するため、乾燥ガス雰囲気で封止することが好ましい。この乾燥ガスとしては、窒素、アルゴン等の使用した材料に対し不活性なガスを使用することが好ましい。
【0082】
このようにして、本発明に係る有機EL表示素子は、経時的な表示欠陥が生じないまたは生じ難い電子デバイスとなる。言い換えれば、初期の表示特性をほぼ維持することができるものである。
【0083】
なお、上記は、主に、第1の電極のパターン下の無機質固体層が存在する場合について説明したが、本発明の効果は、第1の電極のパターン間に、水や有機物が拡散することを妨げる無機質固体層が存在しない場合には、第1の電極のパターン下に無機質固体層があるか否か拘わらず成立する。従って、基板上に、透明な第1の電極が備えられ、第1の電極の非基板面側に第2の電極が備えられ、第1の電極と第2の電極の層間に発光層が備えられ、第1の電極と基板との層間に有機質層が備えられた有機EL表示素子であって、第1の電極と有機質層との層間に、水または有機物の層間方向への通過を妨げる無機質固体層が、パターン下もパターン間にも存在しない有機EL表示素子も、本発明に係る有機EL表示素子の範疇に属する。
【0084】
[実施例]
次に本発明の実施例および比較例を詳述する。例1,2,3,6,7,8,9,10,11,12が実施例、例4,5が比較例である。
【0085】
[例1]
ガラス製の基板上に、1.5μm厚のカラーフイルタをフォトリソグラフィにより形成し、その上に、ガラス基板ベースで2μm厚のアクリル樹脂よりなるオーバーコート層をフォトリソグラフィにより形成し、その上に20nm厚のSiO無機質固体層をスパッタリング法により形成し、その上に第1の電極膜としてITOを150nmスパッタリング法により形成した。SiO無機質固体層は、基板温度220℃、ターゲットとしてSiOを、スパッタガスとしてアルゴンを用い、ガス圧0.7パスカルの条件でRFスパッタにより成膜した。ITO膜は、基板温度220℃、スパッタガスとして酸素0.8%添加アルゴンを用い、ガス圧0.7パスカルの条件でDCスパッタにより成膜した。
【0086】
ついで、ITOよりなる第1の電極(陽極)のパターンを塩酸+塩化第二鉄水溶液でウエットエッチングして作製した。この操作により、第1の電極パターン間のSiO無機質固体層が露出した。第1の電極パターンの幅は320μm、パターン間のSiO無機質固体層が露出した部分の幅は30μmとした。
【0087】
ついで、この露出した第1の電極パターン間のSiO無機質固体層を希フッ酸でウエットエッチングした。オーバーコート層は希フッ酸でウエットエッチングされないため、エッチングはSiO無機質固体層にとどまった。この操作により、第1の電極パターン間のオーバーコート層部分が露出し、図8Bに示すように、第1の電極のパターン間の無機質固体層が実質的に存在しない構造が得られた。
【0088】
この構造の上に、フォトリソ法により開口部を有する、感光性ポリイミドよりなる絶縁材層を設け、その上層にクレゾール樹脂よりなる隔壁(陰極セパレータ)を形成した。絶縁材層開口部の第1の電極パターンの幅方向の開口幅は300μmとした。更に、銅フタロシアニンを10nm厚、α−NPD(4,4'−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル)を100nm厚、ルブレンをドーピングしたAlq3(トリス(8−キノリノラト)アルミニウム)を60nm蒸着して発光素子層を形成し、その上に0.5nm厚のLiFと80nm厚のAl電極とを蒸着法により成膜し、電子注入層および陰極(第2の電極)とした。
【0089】
図9に示すように、基板21,カラーフィルタ22、オーバーコート層23,無機質固体層24,第1の電極25,絶縁材層26,発光層27,第2の電極28よりなる積層体について、スリーボンド社製の封止材91と、サエスゲッターズ社製の乾燥剤94を貼付したガラス製の対向基板92とを配し、空間93に乾燥窒素を封入してから表示部をシール封止し、有機EL表示素子を完成した。なお、図9中、カラーフィルタ、絶縁材層、無機質固体層のなかで、パターン化された部分等の表現を省略してある。
【0090】
乾燥は隔壁形成後に真空中200℃で1時間行い、また、発光素子層を蒸着する直前に露点が−80℃前後の乾燥窒素雰囲気で200℃、10分間乾燥し、乾燥工程から蒸着工程に至るプロセスの間ずっと、大気に触れさせることなく、発光素子層の真空蒸着を行った。封止は、乾燥窒素の雰囲気下で封止材を設置し行った。
【0091】
上記有機EL表示素子に対して105℃で24時間保管した後、有機EL表示素子発光層の開口部を観察したところ、図10に示すように、シミ状の非発光部は観察されなかった。
【0092】
[例2]
20nm厚のSiO無機質固体層に代えて同一成膜条件で膜厚だけ異なる5nm厚のSiO無機質固体層を使用し、SiO無機質固体層の希フッ酸によるエッチングを行わず、乾燥時間を変更した以外は例1と同様にした。
【0093】
乾燥時間については、オーバーコート層の全面がSiO無機質固体層で覆われており、SiO無機質固体層が存在しない部分がないため、例1に比べ長くする必要があると考えられたので、最初の乾燥について真空中200℃で2時間実施したが、その後の乾燥、封止処理は例1と同様にした。
【0094】
例1と同様の評価の結果、シミ状の非発光部は観察されなかった。
【0095】
[例3]
20nm厚のSiO無機質固体層に代えて、20nm厚のSiO層上に5nm厚のZrO層を積層した無機質固体層を使用し、希フッ酸によるエッチングに代えて、CF4とOとの混合ガスによるドライエッチング法により、SiOとZrOとの積層部分を一括してエッチングした以外は例1と同様にした。
【0096】
図6に示すように、オーバーコート層も1μmほどエッチングされたが、その間隙は絶縁材層により充填されるので、その上の層形成には支障はなかった。
【0097】
なお、乾燥時間については、ドライエッチングを採用したことやオーバーコート層のエッチングにより、例1に比べ短くできると考えられたが、例1と同様の乾燥、封止処理を行った。
【0098】
例1と同様の評価の結果、シミ状の非発光部は観察されなかった。
【0099】
[例4]
SiO無機質固体層の希フッ酸によるエッチングを行わなかったことと、乾燥、封止処理を例2と同様にしたこと以外は例1と同様にした。
【0100】
例1と同様の評価の結果、図1に示すようなシミ状の非発光部が観察された。
【0101】
[例5]
20nm厚のSiO無機質固体層に代えて、20nm厚のSiO層上に200nm厚のSiN層を積層した無機質固体層を使用し、SiO無機質固体層の希フッ酸によるエッチングを行わなかったことと、乾燥、封止処理を例2と同様にしたこと以外は例1と同様にした。
【0102】
例1と同様の評価の結果、例4の半分ほどの数のシミ状の非発光部が観察された。
【0103】
[例6]
ITOよりなる第1の電極(陽極)のパターンを塩酸と塩化第二鉄水溶液との混合液でウエットエッチングして作製、第1の電極パターン間のSiO無機質固体層を露出させるところまで例1と同様にし、ついで研磨処理によりITO膜の表面を平坦化する。この際ITO膜の膜厚は約15nm減少すればよい。
【0104】
ITOパターン間に露出するSiO無機質固体層の膜厚も同様に約15nm減少し、約5nmとなる。これ以降の工程は例1と同様にし、蒸着前の乾燥、封止処理も例1と同様にすればよい。
【0105】
[例7]
20nm厚のSiO無機質固体層に代えて同一成膜条件で膜厚だけ異なる2.5nm厚のSiO層上に2.5nm厚のZrO層を積層した無機質固体層を使用し、SiO無機質固体層の希フッ酸によるエッチングを行わずに、乾燥時間を変更した以外は例1と同様にした。
【0106】
例1と同様の評価の結果、シミ状の非発光部は観察されなかった。
【0107】
[例8]
カラーフィルタ厚を1.2μm、オーバーコート層を1.5μm厚とし、第1の電極のパターン幅は70μm、パターン間のSiO2無機質固体層が露出した部分の幅は20μm、絶縁材層の開口幅を60μmとし、発光素子層を合計膜厚140nmの白色発光素子層に変更した以外は例2と同様に
した。
【0108】
例1と同様の評価の結果、シミ状の非発光部は観察されなかった。
【0109】
[例9]
隔壁形成、水洗後に露点が−80℃前後の乾燥窒素雰囲気で200℃・60分間乾燥し、大気に触れさせることなく、発光素子層の蒸着を行った以外は例8と同様にした。
【0110】
例1と同様の評価の結果、シミ状の非発光部は観察されなかった。
【0111】
[例10]
隔壁形成、水洗後に露点が−50℃前後の乾燥空気雰囲気で200℃・60分間と変更した以外は例9と同様にした。
【0112】
例1と同様の評価の結果、シミ状の非発光部は観察されなかった。
【0113】
[例11]
隔壁形成、水洗後に真空中200℃で1時間加熱乾燥を行った後真空中で室温まで冷却し、いったん大気中を通過したのち発光素子層の真空蒸着を行った以外は例8と同様にした。このときの大気は気温23℃、湿度約50%RHであり、大気中滞在時間は約5分であった。
【0114】
例1と同様の評価の結果、シミ状の非発光部は観察されなかったが、顕微鏡で発光の様子を観察すると、各画素均一に第1の電極端部に近い側に約3μm幅の発光しない部分が形成されていた。
【0115】
例1,2,3,6,7,8,9,10については、顕微鏡で発光の様子を観察したが、各画素の端部まで発光しており、非発光部は観察されなかった。
【0116】
[例12]
隔壁形成、水洗後に特に熱処理等を行うことなく、発光素子層の真空蒸着を行った以外は例8と同様にした。
【0117】
例1と同様の評価の結果、シミ状の非発光部は観察されなかった。しかし、顕微鏡で発光の様子を観察すると、各画素均一に第1の電極端部に近い側に約12μm幅の発光しない部分が形成されていた。顕微鏡で見ると画素の発光している部分がかなり細っているように見えたが、画面全体を肉眼で見てもムラ、しみ等は視認されなかった。画素の縮小が画面全体に均一に起こっているためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】従来例における有機EL表示素子の模式的平面図。
【図2】従来例における有機EL表示素子の模式的側断面図。
【図3】本発明に係る有機EL表示素子の一例の模式的側断面図。
【図4】水や有機物が、カラーフィルタやオーバーコート層に侵入する様子を模式的に示す、有機EL表示素子の断面図。
【図5】水や有機物がカラーフィルタやオーバーコート層から上部の層に侵入する様子を示す、有機EL表示素子の模式的側断面図。
【図6】水や有機物が、カラーフィルタやオーバーコート層に侵入する様子を模式的に示す、本発明に係る有機EL表示素子の断面図。
【図7】水や有機物をカラーフィルタやオーバーコート層から除去する様子を模式的に示す、本発明に係る有機EL表示素子の一例の断面図。
【図8】無機質固体層をいったん5nmを超える厚さに形成し、その後、第1の電極のパターン間の無機質固体層をエッチングにより除去する様子を模式的に示す、有機EL表示素子の一例の断面図。
【図9】本発明に係る有機EL表示素子の一例の模式的側断面図。
【図10】本発明に係る有機EL表示素子の一例の模式的平面図。
【符号の説明】
【0119】
1 発光層の開口部(画素)
2 シミ状の非発光部
21 基板
22 カラーフィルタ
23 オーバーコート層
24 無機質固体層
25 第1の電極
26 絶縁材層
27 発光層
28 第2の電極
29 開口部
91 封止材
92 対向基板
93 空間
94 乾燥剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極間に設けられた有機発光層を有する有機EL表示素子であって、
基板上に設けられた有機質層と、
前記有機質層の上に設けられた無機質固体層と、
前記無機質固体層の上に設けられた複数の透明な第1の電極と、
前記複数の第1の電極のそれぞれの上に設けられた有機発光層と、
前記有機発光層の上に形成された第2の電極とを備え、
前記第1の電極間の領域において、前記無機質固体層に透水経路が表示領域全体にわたって略均一に設けられている有機EL表示素子。
【請求項2】
電極間に配置された有機発光層に対応する画素を複数備える有機EL表示素子であって、
基板上に設けられた有機質層と、
前記有機質層の上に設けられた無機質固体層と、
前記無機質固体層の上に設けられた複数の透明な第1の電極と、
前記複数の第1の電極のそれぞれの上に設けられた有機発光層と、
前記有機発光層の上に形成された第2の電極とを備え、
前記無機質固体層において、前記第1の電極間の領域に形成された透水経路が略全ての画素に対応して設けられている有機EL表示素子。
【請求項3】
前記透水経路が全ての画素と画素との間の領域に少なくとも1つ以上形成されている請求項2記載の有機EL表示素子。
【請求項4】
電極間に設けられた有機発光層を有する有機EL表示素子であって、
基板上に設けられた有機質層と、
前記有機質層の上に設けられた無機質固体層と、
前記無機質固体層の上に設けられた複数の透明な第1の電極と、
前記複数の第1の電極のそれぞれの上に設けられた有機発光層と、
前記有機発光層の上に形成された第2の電極とを備え、
経時的な表示欠陥が生じないよう前記無機質固体層に透水経路が形成される厚さで前記無機質固体層の層厚が設けられている有機EL表示素子。
【請求項5】
電極間に設けられた有機発光層を有する有機EL表示素子であって、
基板上に設けられた有機質層と、
前記有機質層の上に設けられた無機質固体層と、
前記無機質固体層の上に設けられた複数の透明な第1の電極と、
前記複数の第1の電極のそれぞれの上に設けられた有機発光層と、
前記有機発光層の上に形成された第2の電極とを備え、
前記第1の電極間の領域において前記無機質固体層が1〜20nmの層厚で配置されている有機EL表示素子。
【請求項6】
前記第1の電極間の領域において、前記無機質固体層の層厚が1〜10nmで形成されている請求項5記載の有機EL表示素子。
【請求項7】
前記無機質固体層の厚さが表示領域内において略均一に設けられている請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機EL表示素子。
【請求項8】
前記第1の電極が配置された領域の無機質固体層の層厚が、前記第1の電極間の領域の無機質固体層の層厚より厚いことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機EL表示素子。
【請求項9】
前記無機質固体層が酸化ケイ素層を備える請求項1〜8のいずれか1項に記載の有機EL表示素子。
【請求項10】
前記無機質固体層として前記酸化ケイ素膜の上に酸化ジルコニウム層がさらに設けられている請求項9に記載の有機EL表示素子。
【請求項11】
基板に有機質層を形成するステップと、
前記有機質層の上に無機質固体層を形成するステップと、
前記無機質固体層の上に複数の透明な第1の電極を形成するステップと、
前記複数の第1の電極のそれぞれの上に有機発光層を形成するステップと、
前記第1の電極の上に設けられた有機発光層の上に第2の電極を形成するステップと、
前記有機発光層を形成する前に前記基板を乾燥して、前記第1の電極間の領域において前記無機質固体層に表示領域全体にわたって略均一に設けられた透水経路を介して前記有機質層の水又は有機物を除去するステップとを備える有機EL表示素子の製造方法。
【請求項12】
電極間に配置された有機発光層に対応する画素を複数備える有機EL表示素子の製造方法であって、
基板に有機質層を形成するステップと、
前記有機質層の上に無機質固体層を形成するステップと、
前記無機質固体層の上に複数の透明な第1の電極を形成するステップと、
前記複数の第1の電極のそれぞれの上に有機発光層を形成するステップと、
前記第1の電極の上に設けられた有機発光層の上に第2の電極を形成するステップと、
前記有機発光層を形成する前に前記基板を乾燥して、前記無機質固体層において前記第1の電極間の領域に形成された透水経路であって、略全ての画素に対応して設けられている透水経路を介して前記有機質層の水又は有機物を除去するステップとを備える有機EL表示素子の製造方法。
【請求項13】
基板に有機質層を形成するステップと、
前記有機質層の上に無機質固体層を形成するステップと、
前記無機質固体層の上に複数の透明な第1の電極を形成するステップと、
前記複数の第1の電極のそれぞれの上に有機発光層を形成するステップと、
前記第1の電極の上に設けられた有機発光層の上に第2の電極を形成するステップとを備え、
前記有機発光層を形成する前に、前記基板を乾燥して、前記無機質固体層に設けられた透水経路を介して前記有機質層の水又は有機物を除去するステップを備え、
前記無機質固体層を形成するステップでは、経時的な表示欠陥が生じないよう前記透水経路が形成される厚さで前記無機質固体層を形成する有機EL表示素子の製造方法。
【請求項14】
電極間に配置された有機発光層に対応する画素を複数備える有機EL表示素子の製造方法であって、
基板に有機質層を形成するステップと、
前記有機質層の上に無機質固体層を形成するステップと、
前記無機質固体層の上に複数の透明な第1の電極を形成するステップと、
前記複数の第1の電極のそれぞれの上に有機発光層を形成するステップと、
前記無機質固体層を形成するステップでは、前記第1の電極間の領域において前記無機質固体層を1〜20nmの層厚で形成する有機EL表示素子の製造方法。
【請求項15】
前記無機質固体層を形成するステップでは、前記無機質固体層の層厚を1〜5nmに形成する請求項14に記載の有機EL表示素子の製造方法。
【請求項16】
前記無機質固体層を形成するステップでは、基板温度が100℃以下で前記無機質固体層を形成する請求項15に記載の有機EL表示素子の製造方法。
【請求項17】
前記無機質固体層を形成するステップでは、基板温度が200℃以上で前記無機質固体層を形成する請求項14に記載の有機EL表示素子の製造方法。
【請求項18】
前記有機発光層を形成する前に、前記第1の電極間の領域において、前記無機質固体層の少なくとも一部を除去するステップをさらに備える請求項11〜17のいずれか1項に記載の有機EL表示素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−19233(P2006−19233A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−222522(P2004−222522)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【出願人】(000103747)オプトレックス株式会社 (843)
【Fターム(参考)】