説明

有機EL表示装置およびその製造方法

【課題】互いに異なる形状とされ、等しい電流が印加される第1、第2表示画素を有する有機EL表示装置において、第1表示画素と第2表示画素との間で色ムラを低減することのできる有機EL表示装置およびその製造方法を提供する。
【解決手段】第1、第2表示画素それぞれを、基板10と、基板10上に形成された陽極20と、陽極20上に形成されたホール輸送層50、60と、ホール輸送層50、60上に形成され、発光色の異なる層が複数積層されて構成される発光層70と、発光層70上に形成された電子輸送層80、90と、電子輸送層80、90上に形成された陰極40とを備えて構成し、陽極20と発光層70との間のエネルギー障壁と、陰極40と発光層70との間のエネルギー障壁と、の差の絶対値を0.1eV以下にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに異なる形状とされた第1、第2表示画素を有する有機EL(エレクトロルミネッセンス)表示装置およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、互いに異なる形状とされた第1、第2表示画素を有し、これら第1、第2表示画素それぞれが、基板上に積層された陽極と、陽極上に積層された有機層と、有機層上に積層された陰極とを備えた有機EL素子を用いて構成された有機EL表示装置が知られている。
【0003】
具体的には、このような有機EL表示装置では、第1、第2表示画素を構成するそれぞれの陽極は、文字、数字、記号、7セグメント等の各表示パターンに合わせた形状とされている。そして、各陽極上に積層される有機層は、陽極側から、ホール輸送層、発光層、電子輸送層が順に積層されて構成されている。また、発光層は、第1発光層と、当該第1発光層上に積層され、第1発光層と異なる発光色を発光する第2発光層とを含んで構成されている。つまり、発光層は、異なる発光色を発光する第1、第2発光層を積層して構成されることにより、混色により所定の色の表示光を得ることができるように構成されている。
【0004】
このような有機EL表示装置では、第1、第2表示画素に等しい電流が流れるようにそれぞれの陽極と陰極との間に所定の電圧が印加され、陽極からホールが有機層に注入されると共に陰極から電子が有機層に注入される。そして、有機層中の発光層でホールと電子が再結合し、所望の色の発光が陽極および基板を透過して放出される。
【0005】
しかしながら、このような有機EL表示装置では、陽極が表示パターンに対応した形状とされており、第1、第2表示画素を構成する陽極および陰極のそれぞれの間に電圧を印加して定電流を流す場合、表示パターン(陽極)の形状の違いから第1、第2表示画素に印加される電流の密度に差が生じることになる。このため、第1表示画素と第2表示画素との色度に差が生じてしまい、第1表示画素と第2表示画素との間に色ムラが生じてしまうという問題がある。そして、このような問題は、特に、上記のような異なる発光色を発光する第1、第2発光層を積層して発光層を構成した場合に、第1表示画素と第2表示画素との間で顕著に表れることになる。
【0006】
このため、予め、電流密度に対する色度変化量が0.02以下となるように、すなわち表示画素に印加される電流密度が変化しても色度変化量が0.02以下となるように、陽極と陰極との間に所定の電圧を印加して通電処理を行うことが知られている(例えば、特許文献1参照)。なお、色度変化量が0.02以下であるとは、一般的に色ムラが認識されない程度の色度の差とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−120473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記有機EL表示装置では、通電処理を行って有機層の特性を変化させることになるため、有機層の寿命が低下してしまうという問題がある。
【0009】
本発明は上記点に鑑みて、互いに異なる形状とされ、等しい電流が印加される第1、第2表示画素を有する有機EL表示装置において、第1表示画素と第2表示画素との間で色ムラを低減することのできる有機EL表示装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明者らは、互いに形状の異なる、言い換えると互いに画素面積の異なる第1、第2表示画素を備え、第1、第2表示画素に等しい電流が印加される有機EL表示装置において、種々の検討を行った。そして、発光層に注入されるホールと電子の割合がほぼ等しければ、第1、第2表示画素の形状が互いに異なっていても、第1表示画素と第2表示画素との間の色ムラを抑制できると考え、陽極と発光層との間のエネルギー障壁と、陰極と発光層との間のエネルギー障壁との関係について実験検討を行った。なお、第1表示画素と第2表示画素との間の色ムラを抑制する、つまり、第1表示画素と第2表示画素との間の色ムラが認識されないようにするためには、第1表示画素と第2表示画素との色度の差が0.02以下であればよい。
【0011】
図4は、互いに形状の異なる第1、第2表示画素を備え、第1、第2表示画素に等しい電流が印加される有機EL表示装置において、第1表示画素と第2表示画素との色度の差と、陽極と発光層との間のエネルギー障壁と陰極と発光層との間のエネルギー障壁との差の絶対値との関係を示す図である。なお、図4では、第1表示画素と第2表示画素との面積比が25:1とされており、第1表示画素の色度を基準として、第2表示画素の第1表示画素の色度に対する色度の差を色度の差Δとしている。
【0012】
図4(a)は、第1、第2表示画素におけるCIE色度座標のx値の色度の差Δxと、陽極と発光層との間のエネルギー障壁と陰極と発光層との間のエネルギー障壁との差の絶対値ΔEとの関係を示す図であり、図4(b)は、第1、第2表示画素におけるCIE色度座標のy値の色度の差Δyと、陽極と発光層との間のエネルギー障壁と陰極と発光層との間のエネルギー障壁との差の絶対値ΔEとの関係を示す図である。
【0013】
図4に示されるように、本発明者らは、陽極と発光層との間のエネルギー障壁と、陰極と発光層との間のエネルギー障壁との差の絶対値が0.1eVの以下である場合に、第1表示画素と第2表示画素との色度の差を0.02以下にすることができることを実験的に見出した。
【0014】
このため、請求項1に記載の発明では、第1、第2表示画素それぞれは、基板(10)と、基板(10)上に形成された陽極(20)と、陽極(20)上に形成されたホール輸送層(50、60)と、ホール輸送層(50、60)上に形成され、発光色の異なる層が複数積層されて構成される発光層(70)と、発光層(70)上に形成された電子輸送層(80、90)と、電子輸送層(80、90)上に形成された陰極(40)と、を備えて構成され、陽極(20)と発光層(70)との間のエネルギー障壁と、陰極(40)と発光層(70)との間のエネルギー障壁と、の差の絶対値が0.1eV以下とされていることを特徴としている。
【0015】
このような有機EL表示装置では、第1、第2表示画素それぞれは、陽極(20)と発光層(70)との間のエネルギー障壁と陰極(40)と発光層(70)との間のエネルギー障壁との差の絶対値が0.1eV以下とされているため、第1表示画素と第2表示画素との色度の差を0.02以下とすることができ、第1表示画素と第2表示画素との間の色ムラを抑制することができる。
【0016】
また、請求項2に記載の発明のように、第1、第2表示画素と異なる形状とされ、第1、第2表示画素と等しい電流が印加される第3表示画素を有し、第3表示画素を、第1、第2表示画素と同様の構成とし、陽極(20)と発光層(70)との間のエネルギー障壁と陰極(40)と発光層(70)との間のエネルギー障壁との差の絶対値を0.1eVより大きくし、第1表示画素および第2表示画素との間で、色度の差が0.02以下となる面積比とすることができる。
【0017】
さらに、請求項3に記載の発明のように、請求項1または2に記載の発明において、第1、第2表示画素の形状に応じて、電流のパルス幅またはデューティ比を調整する電流調整手段を備えてもよい。また、請求項4に記載の発明のように、請求項2に記載の発明において、第1〜3表示画素の形状に応じて、電流のパルス幅またはデューティ比を調整する電流調整手段を備えてもよい。
【0018】
これらのような有機EL表示装置では、第1、第2表示画素、または第1〜第3表示画素の形状に応じて、電流のパルス幅またはデューティ比を調整する電流調整手段を備えているため、発光期間を調整することができ、色ムラに加えて輝度ムラも抑制することができる。
【0019】
請求項5は、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の有機EL表示装置の製造方法であることを特徴としている。具体的には、基板(10)に導電性材料を配置した後、導電性材料に対してエキシマUV処理、または、プラズマ処理を行うことにより、仕事関数を調整して陽極(20)を形成する工程を含むことを特徴としている。
【0020】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態における有機EL素子の断面構成を示す図である。
【図2】エキシマUVの照射時間と仕事関数との関係を示す図である。
【図3】本発明の第1実施形態における有機EL素子の1例を示すエネルギーダイアグラムである。
【図4】第1、第2表示画素におけるCIE色度座標の色度の差と、陽極と発光層との間のエネルギー障壁と陰極と発光層との間のエネルギー障壁との差の絶対値との関係を示す図である。
【図5】実施例2および比較例2の有機EL素子において、それぞれの有機EL素子に印加される電流密度と、CIE色度座標の色度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。本実施形態の有機EL表示装置は、互いに形状の異なる、言い換えると互いに画素面積の異なる第1、第2表示画素を備えたものである。これら第1、第2表示画素は、文字、数字、記号、7セグメント等を表示するものであり、有機EL素子を用いて構成されている。なお、本実施形態では、第1、第2表示画素は、面積比が25:1とされている。
【0023】
まず、以下に、第1、第2表示画素を構成する有機EL素子の構成について説明する。図1は、本実施形態における有機EL素子の断面構成を示す図である。なお、第1、第2表示画素は、基本構成が同じであり、陽極の形状のみが異なるものである。
【0024】
図1に示されるように、第1、第2表示画素を構成する有機EL素子は、基板10上に形成された陽極20と、陽極20上に形成された有機層30と、有機層30上に形成された陰極40とが順に積層されて構成されている。
【0025】
基板10は、例えば、ソーダガラス、バリウムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス等のガラスか、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリメチルメタクリ レート、ポリプロピレン、ポリエチレン等のプラスチック、石英、陶器等のセラミック等が用いて構成されている。
【0026】
陽極20は、導電性材料が真空蒸着、スパッタリング、化学蒸着(CVD)等がされることにより配置され、フォトリソグラフィー等がされることによって各表示パターンに対応した形状とされている。例えば、第1表示画素が数字である場合には第1表示画素を構成する有機EL素子の陽極20は当該数字に対応した形状とされると共に、第2表示画素が記号である場合には第2表示画素を構成する有機EL素子の陽極20は当該記号に対応した形状とされている。
【0027】
また、陽極20を構成する導電性材料としては、例えば、透明であり、エッチングにより微細パターンを形成しやすい酸化錫と酸化インジウムとの混合系であるITO等の金属酸化物が用いられる。そして、陽極20は、当該導電性材料に対して、エキシマUV処理やプラズマ処理等を行うことにより、具体的には後述するが、有機層30との関係で任意の仕事関数を有するようにされている。図2は、エキシマUVの照射時間と仕事関数との関係を示す図である。図2に示されるように、例えば、陽極20は、5.5eVの仕事関数を有するように、エキシマUVが20秒間照射されて形成されている。
【0028】
有機層30は、本実施形態では、第1、第2ホール輸送層50、60と、発光層70と、第1、第2電子輸送層80、90とが順に積層されることにより構成されている。
【0029】
第1ホール輸送層50は陽極20上に積層されており、第2ホール輸送層60は第1ホール輸送層50上に積層されている。そして、これら第1、第2ホール輸送層50、60は、例えば、化学式1〜4に示す材料等を用いて構成される。
【0030】
【化1】

【0031】
【化2】

【0032】
【化3】

【0033】
【化4】

化学式1は最高被占軌道(以下、単にHOMOという)のエネルギー準位が5.2evである4,4’,4”トリス[(1 ナフチル)フェニルアミノ]トリフェニルアミン、化学式2はHOMOのエネルギー準位が5.3evであるN,N’ビス{4[(1ナフチル)フェニルアミノ]フェニル)}N,N’ジフェニルベンジジン、化学式3はHOMOのエネルギー準位が5.4evであるN,N’ビス[4(4’ジフェニルアミノビフェニル)] N,N’ジフェニルベンジジン、化学式4はHOMOのエネルギー準位が5.5evであるN,N’ビス[4(4’ジフェニルアミノビフェニル)]N,N’ジフェニル1,1’ビス(4アミノフェニル)メチレンである。
【0034】
発光層70は、第2ホール輸送層60上に積層されており、所定の発光色を発光する第1発光層71と、当該発光色と異なる発光色を発光する第2発光層72とが積層されて構成されている。すなわち、発光層70は、異なる発光色を発光する第1、第2発光層71、72が積層されて構成されることにより、混色により所定の色の表示光を得ることができるように構成されている。
【0035】
第1発光層71は、第2ホール輸送層60上に積層されており、第2ホール輸送層60を構成するホール輸送性材料と、後述する第1電子輸送層80を構成する電子輸送性材料と、蛍光色素材料としてのルブレンとが混合されて構成されている。すなわち、第1発光層71では、黄色発光が行われるようになっている。
【0036】
第2発光層72は、第1発光層71上に積層されており、第2ホール輸送層60を構成するホール輸送性材料と、後述する第1電子輸送層80を構成する電子輸送性材料と、蛍光色素材料としてのぺリレンとが混合されて構成されている。すなわち、第2発光層72では、青色発光が行われるようになっている。
【0037】
第1電子輸送層80は、第2発光層72上に積層されており、例えば、化学式5に示す電子輸送性材料を用いて構成されている。そして、第2電子輸送層90は、第1電子輸送層80上に積層されており、例えば、化学式6に示す電子輸送性材料を用いて構成されている。
【0038】
【化5】

【0039】
【化6】

化学式5は、最低空軌道(以下、単にLUMOという)のエネルギー準位が2.8eVであるアダマンタン誘導体である。化学式6は、LUMOのエネルギー準位が3.1eVであるトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3)である。
【0040】
陰極40は、第2電子輸送層90上に積層されており、例えば、リチウム、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、リチウム、銀、銅、アルミニウム、インジウム等の金属若しくは金属酸化物又は電導性化合物を単独又は組合せて蒸着等することにより形成されている。また、本実施形態では、陰極40の仕事関数は、第2電子輸送層90よりも小さくされている。
【0041】
さらに、第1、第2表示画素を構成するそれぞれの有機EL素子は、陽極20の仕事関数、第1、第2ホール輸送層50、60を構成するホール輸送性材料、第1、第2電子輸送層80、90を構成する電子輸送性材料、陰極40の仕事関数が適宜選択されて、陽極20と発光層70との間のエネルギー障壁と陰極40と発光層70との間のエネルギー障壁との差の絶対値が0.1eV以下となるようにされている。このような有機EL素子として、例えば、次のように陽極20の仕事関数等を選択することができる。図3は、本実施形態における有機EL素子の1例を示すエネルギーダイアグラムである。
【0042】
図3に示されるように、例えば、仕事関数が5.5eVとなるようにITOをエキシマUV処理やプラズマ処理して陽極20とし、第1ホール輸送層50のHOMOのエネルギー準位が5.3eV、第2ホール輸送層60のHOMOのエネルギー準位が5.5eV、第1電子輸送層80のLUMOのエネルギー準位が2.8eV、第2電子輸送層90のLUMOのエネルギー準位が3.1eV、陰極40の仕事関数が3.1eVより小さくなるように適宜材料等を選択して有機EL素子を構成することができる。
【0043】
このような有機EL素子では、陽極20の仕事関数が5.5eV、第1ホール輸送層50のHOMOのエネルギー準位が5.3eV、第2ホール輸送層60のHOMOのエネルギー準位が5.5eVとされているため、陽極20と発光層70との間のエネルギー障壁、つまり、ホールが陽極20から発光層70に達するまでのエネルギー障壁は0.2eVとなる。
【0044】
また、第1電子輸送層80のLUMOのエネルギー準位が2.8eV、第2電子輸送層90のLUMOのエネルギー準位が3.1eV、陰極40の仕事関数が3.1eVより小さくされているため、陰極40と発光層70との間のエネルギー障壁、つまり、電子が陰極40から発光層70に達するまでのエネルギー障壁は0.3eVとなる。
【0045】
したがって、図3に示す有機EL素子では、陽極20と発光層70との間のエネルギー障壁と、陰極40と発光層70との間のエネルギー障壁との差の絶対値が0.1eVとなる。
【0046】
以上のようにして、第1、第2表示画素を構成する有機EL素子が構成されており、本実施形態では、この有機EL素子を含んで有機EL表示装置が構成されている。
【0047】
そして、このような有機EL表示装置では、第1、第2表示画素にそれぞれ等しい電流が印加されることにより、陽極20から第1、第2ホール輸送層50、60を介してホールが発光層70に到達し、陰極40から第1、第2電子輸送層80、90を介して電子が発光層70に到達する。その結果、発光層70において、ホールと電子の再結合が起こり、所望の色の発光が陽極20および基板10を透過して放出される。
【0048】
以上説明したように、本実施形態では、互いに形状の異なる、言い換えると互いに画素面積の異なる第1、第2表示画素を備えており、第1、第2表示画素それぞれは、陰極40の仕事関数、第1、第2ホール輸送層50、60のHOMOのエネルギー準位、第1、第2電子輸送層80、90のLUMOのエネルギー準位、陰極40の仕事関数が適宜選択されて、陽極20と発光層70との間のエネルギー障壁と陰極40と発光層70との間のエネルギー障壁との差の絶対値が0.1eV以下となるようにされている
このため、上記図4に示されるように、第1表示画素と第2表示画素との色度の差を0.02以下とすることができ、第1表示画素と第2表示画素との間の色ムラを抑制することができる。
【0049】
また、このような有機EL表示装置では、通電処理を行って有機層30の特性を変化させることがないため、有機層30の寿命が低下することも抑制することができる。
【0050】
なお、このような有機EL表示装置において、電流のパルス幅やデューティ比を調整する電流調整手段を備えてもよい。例えば、本実施形態のように、第1表示画素と第2表示画素との面積比が25:1とされている場合には、第1表示画素と第2表示画素とに印加される電流密度比は1:25となる。このため、第1表示画素に印加される電流と第2表示画素に印加される電流とのパルス幅を電流調整手段により調整して25:1とすることにより、つまり、第1、第2表示画素の発光期間を調整することにより、輝度ムラを抑制することもできる。同様に、第1表示画素に印加される電流と第2表示画素に印加される電流とのデューティ比を電流調整手段により調整して25:1とすることにより、輝度ムラを抑制することができる。
【0051】
次に、本第1実施形態について、限定するものではないが、以下の実施例および比較例を参照して、より具体的に述べる。なお、上記図4は、本実施形態における以下の各実施例と比較例との結果を示す図であり、第1表示画素の色度を基準として、第2表示画素の第1表示画素の色度に対する色度の差を色度の差Δとして示している。また、図4では、第2表示画素に電流密度が200mA/cm2となるように電流を印加したときの第1表示画素の色度に対する第2表示画素との色度の差と、陽極20と発光層70との間のエネルギー障壁と陰極40と発光層70との間のエネルギー障壁との差の絶対値ΔEとの関係を示している。
[実施例1]
まず、基板10としてガラス基板を用い、基板10上に、仕事関数が5.5eVとなるようにエキシマUV処理を行ったITOを陽極20として形成した。そして、陽極20上に、HOMOのエネルギー準位が5.2evである4,4’,4”トリス[(1 ナフチル)フェニルアミノ]トリフェニルアミンを含んで構成される第1ホール輸送層50を20nm積層した。また、第1ホール輸送層50上に、HOMOのエネルギー準位が5.5evであるN,N’ビス[4(4’ジフェニルアミノビフェニル)]N,N’ジフェニル1,1’ビス(4アミノフェニル)メチレンを含んで構成される第2ホール輸送層60を20nm積層した。
【0052】
その後、第2ホール輸送層60上には、第2ホール輸送層60を構成するN,N’ビス[4(4’ジフェニルアミノビフェニル)]N,N’ジフェニル1,1’ビス(4アミノフェニル)メチレン、第1電子輸送層80を構成するアダマンタン誘導体、ルブレンが混合されて構成される第1発光層71を20nm積層した。続いて、第1発光層71上に、第2ホール輸送層60を構成するN,N’ビス[4(4’ジフェニルアミノビフェニル)]N,N’ジフェニル1,1’ビス(4アミノフェニル)メチレン、第1電子輸送層80を構成するアダマンタン誘導体、ペリレンが混合されて構成される第2発光層72を20nm積層した。
【0053】
そして、第2発光層72上に、LUMOのエネルギー準位が2.8eVであるアダマンタン誘導体を含んで構成される第1電子輸送層80を20nm積層した。次に、第1電子輸送層80上に、LUMOのエネルギー準位が3.1eVであるトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3)を含んで構成される第2電子輸送層90を10nm積層した。また、第2電子輸送層90上に、LiFを0.5mm積層し、その上にAlを100nm積層して仕事関数が3.1eVより小さい陰極40を形成し、当該有機EL素子を用いて構成される有機EL表示装置を形成した。
【0054】
すなわち、第1、第2表示画素を構成する有機EL素子のそれぞれが、陽極20と発光層70との間のエネルギー障壁が0.3eVであると共に陰極40と発光層70との間のエネルギー障壁が0.3eVであり、陽極20と発光層70との間のエネルギー障壁と陰極40と発光層70との間のエネルギー障壁との差が0である試料を用意した。
【0055】
そして、この試料において、第1、第2表示画素に等しい電流を流したところ、図4に示されるように、第1表示画素と第2表示画素との間の色度の差Δx、Δyをそれぞれ0.02以下とすることができ、第1表示画素と第2表示画素との間の色ムラを抑制することができた。
[実施例2]
本実施例では、陽極20上に、実施例1とは異なるHOMOエネルギー準位が5.3evであるN,N’ビス{4[(1ナフチル)フェニルアミノ]フェニル)}N,N’ジフェニルベンジジンを含んで構成される第1ホール輸送層50を構成した以外は、実施例1と同様の構成の試料を用意した。すなわち、陽極20と発光層70との間のエネルギー障壁が0.2eVであると共に陰極40と発光層70との間のエネルギー障壁が0.3eVであり、陽極20と発光層70との間のエネルギー障壁と陰極40と発光層70との間のエネルギー障壁との差の絶対値が0.1eVである試料を用意した。なお、この試料のエネルギーダイアグラムは、上記図3と同様のものである。
【0056】
そして、この試料において、第1、第2表示画素に等しい電流を流したところ、図4に示されるように、第1表示画素と第2表示画素との間の色度の差Δx、Δyをそれぞれ0.02以下とすることができ、第1表示画素と第2表示画素との間の色ムラを抑制することができた。
[比較例1]
比較例1は、陽極20上に、HOMOのエネルギー準位が5.4eVであるN,N’ビス[4(4’ジフェニルアミノビフェニル)] N,N’ジフェニルベンジジンを含んで構成される第1ホール輸送層50を構成した以外は、実施例1と同様の構成の試料を用意した。すなわち、陽極20と発光層70との間のエネルギー障壁が0.1eVであると共に陰極40と発光層70との間のエネルギー障壁が0.3eVであり、陽極20と発光層70との間のエネルギー障壁と陰極40と発光層70との間のエネルギー障壁との差の絶対値が0.2eVである試料を用意した。
【0057】
そして、この試料において、第1、第2表示画素に等しい電流を流したところ、図4に示されるように、第1表示画素と第2表示画素との間の色度の差Δxが0.02より大きくなり、第1表示画素と第2表示画素との間の色ムラを十分に抑制することができなかった。
[比較例2]
比較例2は、陽極20上に、HOMOのエネルギー準位が5.5eVであるN,N’ビス[4(4’ジフェニルアミノビフェニル)]N,N’ジフェニル1,1’ビス(4アミノフェニル)メチレンを含んで構成される第1ホール輸送層50を構成した以外は、実施例1と同様の構成の試料を用意した。すなわち、陽極20と発光層70との間のエネルギー障壁が0であると共に電子が陰極40と発光層70との間のエネルギー障壁が0.3eVであり、陽極20と発光層70との間のエネルギー障壁と陰極40と発光層70との間のエネルギー障壁との差の絶対値が0.3eVである試料を用意した。
【0058】
そして、この試料において、第1、第2表示画素に等しい電流を流したところ、図4に示されるように、第1表示画素と第2表示画素との間の色度の差Δxが0.02より大きくなり、第1表示画素と第2表示画素との間の色ムラを十分に抑制することができなかった。
【0059】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態の有機EL表示装置は、第1実施形態に対して、陽極20と発光層70との間に単層のホール輸送層50を配置したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0060】
本実施形態では、第1、第2表示画素を構成する有機EL素子は、陽極20上に単層のホール輸送層50が積層され、ホール輸送層50上に発光層70が積層されて構成されている。すなわち、上記第1実施形態と比較して、第2ホール輸送層60を備えない構成とされている。そして、上記第1実施形態のように、陽極20と発光層70との間のエネルギー障壁と陰極40と発光層70との間のエネルギー障壁との差の絶対値が0.1eV以下とされている。
【0061】
本実施形態では、陽極20と発光層70との間に単層のホール輸送層50のみが積層されているが、陽極20と発光層70との間のエネルギー障壁と陰極40と発光層70との間のエネルギー障壁との差の絶対値が0.1eV以下となるようにされているため、このような場合でも上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0062】
次に、本第2実施形態について、限定するものではないが、以下の実施例を参照して、より具体的に述べる。
[実施例3]
本実施例では、ITOに対してエキシマUV処理を行う時間を調整し、具体的には図2に示されるように実施例1と比較して短縮し、仕事関数が5.3eVとなるように陽極20を形成した。そして、陽極20上に、HOMOのエネルギー準位が5.5evであるN,N’ビス[4(4’ジフェニルアミノビフェニル)]N,N’ジフェニル1,1’ビス(4アミノフェニル)メチレンを含んで構成されるホール輸送層50を40nm積層した以外は、実施例1と同様の構成の試料を用意した。すなわち、本実施例では、陽極20と発光層70との間のエネルギー障壁が0.2eVであると共に陰極40と発光層70との間のエネルギー障壁が0.3eVであり、陽極20と発光層70との間のエネルギー障壁と陰極40と発光層70との間のエネルギー障壁との差の絶対値が0.1eVである試料を用意した。
【0063】
そして、この試料において、第1、第2表示画素に等しい電流を流したところ、上記図4の実施例2と同様の結果となり、第1表示画素と第2表示画素との間の色度の差Δx、Δyそれぞれを0.02以下とすることができ、第1表示画素と第2表示画素との間の色ムラを抑制することができた。つまり、陽極20と発光層70との間に備えられる発光層70は、単層でも複数層でもあってもよく、陽極20と発光層70との間のエネルギー障壁と陰極40と発光層70との間のエネルギー障壁との差の絶対値が0.1eV以下であれば、第1表示画素と第2表示画素との間の色ムラを抑制できることが確認された。
【0064】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態の有機EL表示装置は、第1実施形態に対して、第1、第2表示画素と形状の異なる第3表示画素を備えたものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0065】
本実施形態の第3表示画素は、基本構成は第1、第2表示画素と同様の有機EL素子を用いて構成されており、陽極20と発光層70との間のエネルギー障壁と陰極40と発光層70との間のエネルギー障壁との差の絶対値が0.1eVより大きくされている。そして、第3表示画素は、第1表示画素および第2表示画素との間で、色度の差が0.02以下となる所定の面積比を満たすものとされている。なお、第3表示画素は、例えば、ドット等を表示するものである。
【0066】
このような有機EL表示装置は、例えば、第1、第2表示画素が上記実施例1〜3のいずれかの有機EL素子で構成され、第3表示画素が比較例1または2の有機EL素子で構成される。以下に、第1、第2表示画素を上記実施例2の有機EL素子で構成し、第3表示画素を上記比較例2の有機EL素子で構成したときの面積比について説明する。
【0067】
図5は、実施例2および比較例2の有機EL素子において、それぞれの有機EL素子に印加される電流密度と、CIE色度座標の色度との関係を示す図である。なお、図5(a)はCIE色度座標のx値を示すものであり、図5(b)はCIE色度座標のy値を示すものである。図5に示されるように、実施例2に印加される電流密度が8mA/cm2であり、比較例2に印加される電流密度が200mA/cm2のときに、第2、第3表示画素の色度がほぼ等しくなることが確認される。
【0068】
すなわち、第1、第2表示画素を上記実施例2の有機EL素子で構成し、第3表示画素を上記比較例2の有機EL素子で構成した場合には、第2表示画素に印加される電流密度が8mA/cm2であり、第3表示画素に印加される電流密度が200mA/cm2となるように、つまり、第2表示画素と第3表示画素との面積比が25:1となるように、第2表示画素と第3表示画素とを構成することにより、第2表示画素と第3表示画素との間の色度の差をほぼ無くすことができる。つまり、このように、第2表示画素と第3表示画素とを所定の面積比とすることにより、第2表示画素と第3表示画素との間で色度の差をほぼ無くすことができる。したがって、第1表示画素と第2表示画素との間の色度の差は0.02以下であるため、第1、第2表示画素と第3表示画素との間で色度の差を0.02以下とすることができる。
【0069】
以上説明したように、本実施形態の有機EL表示装置では、第3表示画素は陽極20と発光層70との間のエネルギー障壁と陰極40と発光層70との間のエネルギー障壁との差の絶対値が0.1eVより大きくされているが、第3表示画素は、第1表示画素および第2表示画素との間で、色度の差が0.02以下となる所定の面積比を満たすものとされているため、第1、第2表示画素と第3表示画素との色ムラを抑制することができる。言い換えると、第2表示画素(または第1表示画素)と第3表示画素とが所定の面積比となるような場合には、第3表示画素を構成する有機EL素子を陽極20と発光層70との間のエネルギー障壁と陰極40と発光層70との間のエネルギー障壁との差の絶対値が0.1eVより大きくすることができる。
【0070】
また、第3表示画素をドット等の高電流密度となる部分とした場合には、第3表示画素を比較例2のような陽極20と発光層70との間にエネルギー障壁が存在しない有機EL素子を用いて構成することにより、当該部分に印加される駆動電圧を低減することができ、第1、第2表示画素との間の駆動電圧差を低減することができる。
【0071】
(他の実施形態)
上記第1〜第3実施形態では、第1、第2表示画素を構成する有機EL素子それぞれは、発光層70と陰極40との間に第1、第2電子輸送層80、90が形成されている例について説明したが、例えば、発光層70と陰極40との間に単層の電子輸送層80のみが配置されている構成としてもよい。すなわち、陽極20と発光層70との間のエネルギー障壁と陰極40と発光層70との間のエネルギー障壁との差の絶対値が0.1eV以下となるように構成されていれば、本発明の効果を得ることができる。
【0072】
また、上記第1〜第3実施形態では、陰極40の仕事関数が第2電子輸送層90よりも小さくされている例について説明したが、もちろん陰極40の仕事関数が第2電子輸送層90より大きくされていてもよく、陽極20と発光層70との間のエネルギー障壁と陰極40と発光層70との間のエネルギー障壁との差の絶対値が0.1eV以下となるようにされていれば、本発明の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0073】
10 基板
20 陽極
30 有機層
40 陰極
50 第1ホール輸送層
60 第2ホール輸送層
70 発光層
71 第1発光層
72 第2発光層
80 第1電子輸送層
90 第2電子輸送層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる形状とされた第1、第2表示画素を有し、前記第1、第2表示画素に等しい電流が印加される有機EL表示装置であって、
前記第1、第2表示画素それぞれは、基板(10)と、前記基板(10)上に形成された陽極(20)と、前記陽極(20)上に形成されたホール輸送層(50、60)と、前記ホール輸送層(50、60)上に形成され、発光色の異なる層が複数積層されて構成される発光層(70)と、前記発光層(70)上に形成された電子輸送層(80、90)と、前記電子輸送層(80、90)上に形成された陰極(40)と、を備えて構成され、前記陽極(20)と前記発光層(70)との間のエネルギー障壁と、前記陰極(40)と前記発光層(70)との間のエネルギー障壁と、の差の絶対値が0.1eV以下とされていることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項2】
前記第1、第2表示画素と異なる形状とされ、前記第1、第2表示画素と等しい電流が印加される第3表示画素を有し、
前記第3表示画素は、基板(10)と、前記基板(10)上に形成された前記陽極(20)と、前記陽極(20)上に形成されたホール輸送層(50、60)と、前記ホール輸送層(50、60)上に形成され、発光色の異なる層が複数積層されて構成される発光層(70)と、前記発光層(70)上に形成された電子輸送層(80、90)と、前記電子輸送層(80、90)上に形成された陰極(40)と、を備えて構成され、前記陽極(20)と前記発光層(70)との間のエネルギー障壁と前記陰極(40)と前記発光層(70)との間のエネルギー障壁との差の絶対値が0.1eVより大きくされており、
前記第3表示画素は、前記第1表示画素および前記第2表示画素との間で、色度の差が0.02以下となる面積比とされていることを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項3】
前記第1、第2表示画素の形状に応じて、前記電流のパルス幅またはデューティ比を調整する電流調整手段を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL表示装置。
【請求項4】
前記第1〜3表示画素の形状に応じて、前記電流のパルス幅またはデューティ比を調整する電流調整手段を備えていることを特徴とする請求項2に記載の有機EL表示装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の有機EL表示装置の製造方法であって、
前記基板(10)に導電性材料を配置した後、前記導電性材料に対してエキシマUV処理、または、プラズマ処理を行うことにより、仕事関数を調整して前記陽極(20)を形成する工程を含むことを特徴とする有機EL表示装置の製造方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−258443(P2011−258443A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132890(P2010−132890)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】