説明

有機EL表示装置とその製造方法

【課題】
少なくとも画素電極と陰極と有機発光層を含む有機発光媒体層からなり、両電極から有機発光層に電流を流すことにより有機発光層を発光させる有機EL表示装置において、有機発光材料からなる有機発光インキを用いて隔壁で仕切られた画素電極内に有機発光層を形成する際に、有機発光層の隔壁近傍における膜厚の変化による画素内における輝度ムラや電界集中による絶縁破壊の無い有機EL表示装置を提供することを課題とする。
【解決手段】
隔壁が第一隔壁と第二隔壁を有し、絶縁性を有する第一隔壁によって画素電極の一部を覆うように形成すること、且つ、第二隔壁を第一電極の上部に対して内側に位置するように設けることにより上記課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光層が高分子材料からなる有機EL表示装置とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置は、ふたつの対向する電極の間に有機発光材料からなる有機発光層が形成され、両電極から有機発光層に電流を流すことで発光させるものであるが、効率よく発光させるには有機発光層の膜厚が重要であり、100nm程度の薄膜にする必要がある。さらに、これをディスプレイパネル化するには高精細にパターニングする必要がある。
【0003】
有機発光層を形成する有機発光材料には、低分子材料と高分子材料があり、一般に低分子材料は真空蒸着法等により薄膜形成し、このときに微細パターンのマスクを用いてパターニングするが、この方法では基板が大型化すればするほどパターニング精度が出難いという問題がある。また、真空中で成膜するためにスループットが悪いという問題がある。
【0004】
そこで、最近では高分子の有機発光材料を溶媒に溶かして塗工液にし、これをウェットコーティング法で薄膜形成する方法が試みられるようになってきている。薄膜形成するためのウェットコーティング法としては、スピンコート法、バーコート法、突出コート法、ディップコート法等があるが、高精細にパターニングしたりRGB3色に塗り分けしたりするためには、これらのウェットコーティング法では難しく、塗り分け・パターニングを得意とする印刷法による薄膜形成が最も有効であると考えられる。
【0005】
しかし、これらの高分子の有機発光材料を溶媒に溶解または分散させて有機発光インキとした場合、有機発光材料の溶解性から濃度を1%前後とする必要があった。この有機発光インキを印刷する方法としては、弾性を有するゴムブランケットを用いるオフセット印刷法(特許文献1)や、同じく弾性を有するゴム版や樹脂版を用いる凸版印刷法(特許文献2)、さらにインクジェット法(特許文献3)などが提案されている。
【0006】
オフセット印刷法は画線が形成されている版にインキを付け、そのインキを弾性をもつ平滑なブランケットに転移させ、さらにブランケットから被印刷基板にインキを転写することで印刷する方式であるが、被印刷基板に印刷する前のブランケット上にあるインキは半乾燥状態にあり、半乾燥状態のインキパターンが被印刷基板に転写印刷される。ただし、オフセット印刷法に用いられるブランケットは有機発光インキに用いられる芳香族有機溶剤に対して膨潤や変形を起こしやすいという問題がある。
【0007】
これに対し、凸版印刷法やインクジェット法にて被印刷基板上に有機発光層を形成する場合、濃度が1%前後の有機発光インキがそのままの状態で被印刷基板に転写される。したがって、有機発光インキをRGB三色に塗りわけする場合、有機発光インキが隣の画素電極まで広がってしまい、混色が生じてしまう。したがって、インキの広がりをを抑えるために、隔壁を設けること、隔壁によって仕切られた画素電極内に有機発光インキを印刷することが提案されている。
【0008】
隔壁を形成し、有機発光インキを用いて有機発光層を設けた場合、隔壁の側面が有機発光インキに対し親インキ性を示すと、乾燥後に隔壁近傍の有機発光層の膜厚が画素中央の膜厚と比較して大きくなってしまう。よって、隔壁近傍と画素中央における有機発光層の膜厚の差により画素内において輝度ムラが発生する。
【0009】
逆に、隔壁の側面が有機発光インキに対し撥インキ性示すと、隔壁近傍の有機発光層の膜厚が画素中央の膜厚と比較して小さくなる。このとき、隔壁近傍の有機発光層において、その膜厚が小さいために電界集中による破壊が発生してしまう。また、画素内における輝度ムラも発生する。
【0010】
図1に隔壁が一層構成の場合の有機EL表示装置の断面模式図を示した。図1(a)は全体図であり、透光性基板1上に陽極である画素電極2がパターン形成されており、画素電極2の縁部に隔壁3が形成されている。
【0011】
図1(b)、図1(c)は図1(a)の1画素分を拡大したものである。隔壁で仕切られた画素電極2の上に正孔輸送層4が形成されており、正孔輸送層の上に有機発光層が形成されている。図1(a)は隔壁の側面が有機発光インキに対し親インキ性を示している場合であり、隔壁近傍の有機発光層の膜厚が画素中央の膜厚と比較して大きくなっている。図1(c)は隔壁の側面が有機発光インキに対し撥インキ性を示している場合であり、隔壁近傍の有機発光層の膜厚が画素中央の膜厚と比較して小さくなっている。
【0012】
以上のような、有機発光インキに対する隔壁の親インキ性や撥インキ性による隔壁近傍の有機発光層の膜厚の変化によって発生する画素内の輝度ムラや電界集中による破壊を防ぐためには、有機発光インキまたは隔壁の形成材料を適宜選択する必要がある。これらの材料の選定では、有機発光インキや隔壁材料に添加剤を混合することが提案されているが、これらの添加剤は有機EL表示装置の発光特性に悪影響を与えることがあり、添加剤の選定は非常に困難であった。
【0013】
凸版印刷法とは広義には画線部が凸形状をしている版すなわち凸版を用いるすべての印刷法をいうが、本発明で述べる凸版印刷法とはゴム版または樹脂版からなる凸版を用いる印刷法を示すこととする。また、印刷業界ではゴム凸版を用いるものをフレキソ印刷といい、樹脂凸版を用いるものを樹脂凸版印刷と区別して呼んでいるが、本発明では両者を特に区別せず、凸版印刷法と呼ぶこととする。凸版印刷法で用いられるゴム版や樹脂版は、現在は感光性のゴム版や樹脂版が主に用いられるが、凸版の材質も多様化し、感光性ゴム版と感光性樹脂版の区別も不明確になってきており、本発明ではこの区別も特に設けず、両者とも感光性樹脂凸版と呼ぶこととする。
【0014】
感光性樹脂凸版とは、画線部にのみ光が透過するマスクを利用して感光性樹脂を露光し画線部を硬化させ、未硬化部分を溶剤等で洗い流すことで凸版を形成された凸版であるが、主に溶剤で洗い出す溶剤現像タイプと水で洗い出す水現像タイプのものがあり、それぞれ版材が疎水性成分を主成分とするか、親水性成分を主成分とするかで異なる。主成分が疎水性成分である溶剤現像タイプの感光性樹脂凸版は有機発光インキ溶剤として用いられるトルエンやキシレン等の芳香族系の有機溶剤に対する耐性がなく、有機EL印刷用の版材としては不適切である。しかし、親水性成分である水現像タイプの感光性樹脂凸版は、芳香族系の有機溶剤に対する耐性が高い。
【0015】
インクジェット法はインクジェットノズルから有機発光インキを被印刷部位に複数回滴下し有機発光層を形成する方式であり、ノズルと被印刷基板に距離があり、インキは自身の重量でのみ隔壁で仕切られた被印刷部位に広がる。一方、凸版印刷法では凸版の凸部を被印刷部位に接触させるため、版による押しつけと隔壁により形成された空間を凸版が埋めることにより、インキは隔壁で囲まれた画素内を横方向に広げられる。
【0016】
インクジェット法では被印刷部位の縁部である隔壁近傍において有機発光インキが印刷されずにインキハジキが発生しやすい。インキハジキが発生した場合、有機EL表示装置とした際にショートしてしまうという問題があった。これに対し、凸版印刷法ではインキハジキが発生しにくいという長所を有する。
【特許文献1】特開2001−93668号公報
【特許文献2】特開2001−155858号公報
【特許文献3】特開2002−305077号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明では、有機発光材料からなる有機発光インキを用いて隔壁で仕切られた画素電極内に有機発光層を形成する際に、有機発光層の隔壁近傍における膜厚の変化による画素内における輝度ムラや電界集中による絶縁破壊の無い有機EL表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために請求項1に係る発明は、少なくとも画素電極と陰極と有機発光層を含む有機発光媒体層からなり、両電極から有機発光層に電流を流すことにより有機発光層を発光させる有機EL表示装置において、透光性基板上にパターニングされた画素電極と隔壁があり該隔壁間に有機発光層を設けた有機EL表示装置であって、前記隔壁が絶縁性を有する第一隔壁の上部に第二隔壁を有し、第一隔壁によって画素電極の一部が覆われており、且つ、第一隔壁の上部に対して第二隔壁が内側に位置するように設けられていることを特徴とする有機EL表示装置とした。
【0019】
また、請求項2に係る発明は、前記第一隔壁の高さが0.5μm以下であることを特徴とする請求項1記載の有機EL表示装置とした。
【0020】
また、請求項3に係る発明としては、前記第二隔壁の高さが0.3μm以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の有機EL表示装置とした。
【0021】
また、請求項4に係る発明としては、前記有機発光インキを隔壁で仕切られた被印刷部位に対し印刷し有機発光層を形成する方法が凸版印刷法であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の有機EL表示装置の製造方法とした。
【発明の効果】
【0022】
本発明において、隔壁が第一隔壁と第二隔壁を有し、絶縁性を有する第一隔壁を画素電極の一部を覆うように設けること、及び第二隔壁を第一隔壁の上部に対して内側に位置するように設けること、第一隔壁の高さを0.5μm以下とすることにより、第一隔壁を設けた部分以外の画素電極のみに電流が流れ、均一な膜厚を有する有機発光層部分のみを発光させることが可能になった。
【0023】
すなわち、隔壁近傍の有機発光層の膜厚の変化が大きい部分は、第一隔壁と第二隔壁の段差部分にあり電流が流れないために、画素内のムラや電界集中による絶縁破壊の無い有機EL表示装置を得ることができた。
【0024】
また、第二隔壁の高さを0.3μm以上とすることにより、有機発光インキを被印刷部位内に印刷した際に有機発光インキが隣の画素電極まで広がってしまうこを防ぎ、混色の無い有機EL表示装置を得ることができた。
【0025】
また、有機発光インキを凸版印刷法を用いて隔壁で仕切られた画素電極に印刷することによって、画素電極内全面に印刷でき、インキハジキの無い有機EL表示装置を得ることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の実施形態を説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の有機EL表示装置の断面の模式図を図2に示す。
【0027】
図2(a)は全体図であり、透光性基板1上に陽極である画素電極2がパターン形成されており、画素電極2の間に第一隔壁3aとその上に第二隔壁3bが形成されている。図2(b)は図2(a)の1画素分を拡大したものである。隔壁で仕切られた画素電極2の上に正孔輸送層4が形成されており、正孔輸送層の上に有機発光層が形成されている。
【0028】
陽極である画素電極と陰極の間に電流を流したとき、図2(b)において2本の点線ではさまれた、第一隔壁によって覆われていない有機発光層の膜厚が均一な部分のみに電流は流れる。したがって、第二隔壁近傍の有機発光層の膜厚変化の大きい部分には電流が流れないため、画素内の輝度ムラや電界集中による絶縁破壊の無い有機EL表示装置となる。
【0029】
有機EL表示装置における有機EL素子は透光性基板1上に形成される。透光性基板1としては、ガラス基板やプラスチック製のフィルムまたはシートを用いることができる。プラスチック製のフィルムを用いれば、巻き取りにより高分子EL素子の製造が可能となり、安価にディスプレイパネルを提供できる。そのプラスチックとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート等を用いることができる。また、これらのフィルムは水蒸気バリア性、酸素バリア性を示す酸化ケイ素といった金属酸化物、窒化ケイ素といった酸化窒化物や、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物からなるバリア層が必要に応じて設けられる。
【0030】
透光性基板の上には陽極としてパターニングされた画素電極2が設けられる。画素電極2の材料としては、ITO(インジウムスズ複合酸化物)、IZO(インジウム亜鉛複合酸化物)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、亜鉛アルミニウム複合酸化物等の透明電極材料が使用できる。なお、低抵抗であること、耐溶剤性があること、透明性があることなどからITOが好ましい。ITOはスパッタ法により透光性基板上に形成され、フォトリソ法によりパターニングされライン状の画素電極2となる。
【0031】
ライン状の画素電極2を形成後、隣接する画素電極の間に画素電極の端部を覆うようにして絶縁性を有する第一隔壁3aが形成される。第一隔壁の高さは0.5μm以下であることが好ましい。画素電極は通常、0.1μmから0.2μmの膜厚で形成されており、第一隔壁の高さが0.5μmを超える場合、第一隔壁の側面近傍において有機発光層の膜厚変化が大きくなり、画素内で輝度ムラが発生してしまう。第一隔壁の高さは画素電極の一部を覆っている範囲で、できるだけ低い方が好ましい。
【0032】
第一隔壁形成材料は絶縁性を有するものであり、画素電極間にパターン形成できるものであれば構わない。具体的には酸化ケイ素といった金属酸化物や窒化ケイ素といった金属窒化物等が用いられる。これらの金属酸化物は真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、プラズマCVD法により膜形成され、フォトリソグラフィ法によりパターニングされる。また、膜形成時にマスクを使うことも可能である。なお、金属酸化物や金属窒化物以外にも、感光性樹脂を用いることも可能である。感光性樹脂としてはポジ型レジスト、ネガ型レジストのどちらでもよく、具体的にはポリイミド系、アクリル樹脂系、ノボラック樹脂系の感光性樹脂が挙げられる。
【0033】
次に、第一隔壁3aの上に第二隔壁3bを形成する。第二隔壁は第一隔壁の上部に対して内側に位置するように形成する。第一隔壁上部の内側に位置するように第二隔壁を設けることによって、有機EL表示装置とした際に第二隔壁近傍の膜厚変化の大きい有機発光層は絶縁性を有する第一隔壁によって電流が流れないために発光しない。したがって、画素内における輝度ムラや電界集中における絶縁破壊の発生を防ぐことができる。
【0034】
第二隔壁形成材料は第一電極と同じ材料が使用可能であるが、それ以外に導電性を有するものも使用できる。具体的には、クロム等の金属を真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、プラズマCVD法により膜形成し、フォトリソグラフィ法によりパターン化しても構わない。また、第二隔壁形成材料には有機EL表示装置の発光特性に影響を与えない範囲で撥水材料を含有させてもよい。撥水材料を含有させることにより、有機発光インキの混色を防止することができる。
【0035】
第二隔壁の高さは0.3μm以上であることが好ましい。第二隔壁の高さが0.3μmを満たさない場合、有機発光インキが隣の画素電極にまで広がってしまい、混色が生じてしまう。
【0036】
例えばパッシブマトリックスタイプの有機表示装置において、画素電極の間に第一隔壁と第二隔壁を設けた場合、隔壁を直交して陰極層を形成することになる。このように隔壁をまたぐ形で陰極層を形成する場合、隔壁が高すぎると陰極層の断線が起こってしまい表示不良となる。具体的には、第一隔壁と第二隔壁の高さが5.0μmを超えると陰極の断線が起きてしまうため、第一隔壁と第二隔壁の高さは5.0μm以下であることが好ましい。
【0037】
第二隔壁3b形成後、正孔輸送層4を形成する。正孔輸送層形成材料としてはポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVK)誘導体、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等が挙げられる。これらの材料は溶媒に溶解または分散させ正孔輸送材料インキとなり、スリットコーター、スピンコーター、バーコーター、ロールコーター、ダイコーター、グラビアコーター等を用いたコーティング法やオフセット印刷法、凸版印刷法、インクジェット法、スクリーン印刷法等の各種印刷法を用いても良い。
【0038】
正孔輸送層形成材料を溶解または分散させる溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、水等の単独またはこれらの混合溶媒などが挙げられる。特に、水またはアルコール類が好適である。また、有機EL表示装置の発光特性に影響を与えない範囲で、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等が添加されてもよい。
【0039】
また、正孔輸送層形成前に、基板表面にプラズマ処理、UV処理、UVオゾン処理等の表面処理を行ない、画素電極および第一電極の正孔輸送インキに対する濡れ性を向上させてもよい。
【0040】
正孔輸送層4形成後、有機発光層5を形成する。有機発光層は電流を通すことにより発光する層であり、有機発光層を形成する有機発光材料は、例えば、クマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクリドン系、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系、イリジウム錯体系等の発光性色素をポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に分散させたものや、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系やポリフルオレン系の高分子材料が挙げられる。
【0041】
これらの有機発光材料は溶媒に溶解または安定に分散させ有機発光インキとなる。有機発光材料を溶解または分散する溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等の単独またはこれらの混合溶媒が挙げられる。中でも、トルエン、キシレン、アニソールといった芳香族有機溶剤が有機発光材料の溶解性の面から好適である。また、有機発光インキには、有機EL表示装置の発光特性に影響を与えない範囲で、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等が添加されてもよい。
【0042】
図2に有機発光材料からなる有機発光インキを、画素電極、隔壁、正孔輸送層が形成された被印刷基板上にパターン印刷する際の凸版印刷装置の概略図に示した。本製造装置はインクタンク10とインキチャンバー12とアニロックスロール14と凸版が設けられた版16がマウントされた版銅18を有している。インクタンク10には、溶剤で希釈された有機発光インキが収容されており、インキチャンバー12にはインクタンク10より有機発光インキが送り込まれるようになっている。アニックスロール14はインキチャンバー12のインキ供給部に接して回転可能に支持されている。
【0043】
アニックスロール14の回転に伴い、アニックスロール表面に供給された有機発光インキのインキ層14aは均一な膜厚に形成される。このインキ層のインキはアニックスロールに近接して回転駆動される版胴18にマウントされた版16の凸部に転移する。平台20には、透明電極および正孔輸送層が形成された基板が版16の凸部による印刷位置にまで図示していない搬送手段によって搬送されるようになっている。そして、版16の凸部にあるインキは被印刷基板24に対して印刷され、必要に応じて乾燥工程を経て被印刷基板24上に有機発光層が形成される。
【0044】
なお、版16の凸部の形成材料である感光性樹脂版は有機発光インキに用いられる芳香族系有機溶剤に対する耐性から水現像タイプのものを用いるほうがが好ましい。
【0045】
有機発光層5形成後、陰極層6を形成する。陰極層6の材料としては、有機発光層の発光特性に応じたものを使用でき、例えば、リチウム、マグネシウム、カルシウム、イッテルビウム、アルミニウムなどの金属単体やこれらと金、銀などの安定な金属との合金などが挙げられる。また、インジウム、亜鉛、錫などの導電性酸化物を用いることもできる。陰極層の形成方法としてはマスクを用いた真空蒸着法による形成方法が挙げられる。
【0046】
なお、本発明の有機EL素子では陽極である画素電極と陰極層の間に陽極層側から正孔輸送層と有機発光層を積層した構成であるが、陽極層と陰極層の間において有機発光層以外に正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層を必要に応じ選択した積層構造をとることができる。
【0047】
なお、正孔輸送層や正孔注入層、電子ブロック層とは、正孔輸送性及び/若しくは電子ブロック性を有する材料を有する層であり、それぞれ陽極層から有機発光層への正孔注入の障壁を下げる、陽極層から注入された正孔を陰極層の方向へ進める、正孔を通しながらも電子が陽極層の方向へ進行するのを妨げる役割を担う層である。正孔ブロック層、電子輸送層とは電子輸送性及び/若しくは正孔ブロック性を有する材料を有する層であり、それぞれ陰極層から注入された電子を陽極層の方向へ進める。電子を通しながらも正孔が陰極層の方向へ進行するのを妨げる役割を担う層である。
【0048】
最後にこれらの有機EL構成体を、外部の酸素や水分から保護するために、ガラスキャップ7と接着剤8を用いて密閉封止し、有機ELディスプレイパネルを得ることができる。また、透光性基板が可撓性を有する場合は封止剤と可撓性フィルムを用いて封止をおこなう。
【実施例1】
【0049】
まず、150nmの膜厚のITO付ガラス基板をフォトリソグラフィ法により画素電極として0.166mmピッチで0.136mm幅のITO透明ストライプ電極を作製した。次にこの基板をアセトン、純水、ブラシ洗浄、超音波洗浄などの従来のウェットプロセスによる洗浄を行い、UVオゾン処理により洗浄を行なった。
【0050】
次に、日本ゼオン社製ポジレジストZWD6216−6をスピンコータにて全面に0.3um形成する。フォトリソグラフィーによりITOストライプギャップ上に約50um幅で形成し、約200℃でベークし、第一隔壁を形成した。次に、Crをスパッタリング法を用いて全面に成膜し、その後フォトリソグラフィーによりギャップ30um幅で第一絶縁隔壁の中央に乗るようにパターニングを行い第二隔壁を形成した。
【0051】
次に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)を水に分散した正孔輸送インキを用い、スピンコート法にて正孔輸送層を形成した。次に、有機発光材料であるポリフェニレンビニレン誘導体を濃度1%になるようにトルエンに溶解させた有機発光インキを用い、隔壁に挟まれた画素電極の真上にそのラインパターンに合わせて有機発光層を凸版印刷法で印刷をおこなった。
【0052】
その上にCa、Alからなる陰極層を画素電極のラインパターンと直交するようなラインパターンで抵抗加熱蒸着法によりマスク蒸着して形成した。最後にこれらの有機EL構成体を、外部の酸素や水分から保護するために、ガラスキャップと接着剤を用いて密閉封止し、有機EL表示装置を得た。得られた有機EL表示装置の表示部の周縁部には各画素電極に接続されている陽極側の取出し電極と、陰極側の取出し電極があり、これらを電源に接続することにより、得られた有機EL表示装置の表示確認をおこなった。
【0053】
その結果、得られた有機EL表示装置の発光状態は良好であり、画素内における輝度ムラや絶縁破壊やショートによる発光不良は確認されなかった。
【実施例2】
【0054】
日本ゼオン社製ポジレジストZWD6216−6をスピンコータにて全面に0.3um形成し、その後フォトリソグラフィーによりギャップ30um幅で第一絶縁隔壁の中央に乗るようにパターニングを行い第二隔壁を形成した。第二隔壁形成方法以外は実施例1と同様に有機EL表示装置を形成した。
【0055】
得られた有機EL表示装置について表示確認を行ったところ、発光状態は良好であり、画素内における輝度ムラや絶縁破壊やショートによる発光不良は確認されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】隔壁が1層構成の場合の有機発光層の断面の模式図。
【図2】本発明の有機ELパネルにおける有機EL表示装置の断面の模式図。
【図3】本発明における凸版印刷装置の概略図。
【符号の説明】
【0057】
1:透光性基板
2:画素電極
3:隔壁
3a:第一隔壁
3b:第二隔壁
4:正孔輸送層
5:有機発光層
6:陰極層
7:ガラスキャップ
8:接着剤
10:インクタンク
12:インキチャンバー
14:アニロックスロール
14a:インキ層
16:版
18:版銅
20:平台
24:被印刷基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも画素電極と陰極と有機発光層を含む有機発光媒体層からなり、両電極から有機発光層に電流を流すことにより有機発光層を発光させる有機EL表示装置において、透光性基板上にパターニングされた画素電極と隔壁があり該隔壁間に有機発光層を設けた有機EL表示装置であって、前記隔壁が絶縁性を有する第一隔壁の上部に第二隔壁を有し、第一隔壁によって画素電極の一部が覆われており、且つ、第一隔壁の上部に対して第二隔壁が内側に位置するように設けられていることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項2】
前記第一隔壁の高さが0.5μm以下であることを特徴とする請求項1記載の有機EL表示装置。
【請求項3】
前記第二隔壁の高さが0.3μm以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の有機EL表示装置。
【請求項4】
前記有機発光インキを隔壁で仕切られた被印刷部位に対し印刷し有機発光層を形成する方法が凸版印刷法であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の有機EL表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−286309(P2006−286309A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−102676(P2005−102676)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】