説明

有機EL装置、その製造方法およびこれを備える電子機器

【課題】封止性能が高く、層同士の密着性を長期にわたって維持しダークスポットの発生
を抑制することが可能な有機EL装置を提供する。
【解決手段】有機EL装置1は、基板10上に形成された複数の有機EL素子12と、基
板10上に形成され複数の有機EL素子12を区分する絶縁性の隔壁14と、複数の有機
EL素子12および隔壁14を覆う絶縁性の封止膜とを備える。隔壁14で区分された有
機EL素子12の区域では、対向電極20と封止膜(第1の封止膜30)の厚さと残留応
力の積の合計である累積残留応力が引っ張りであり、隔壁14に重なる区域では、対向電
極20と封止膜(第1の封止膜30と第2の封止膜32)の累積残留応力が圧縮である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止膜を有する有機EL装置、その製造方法およびこれを備える電子機器に
関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子の一種として、画素電極と対向電極の間に介在し電界により励起して発光する
有機発光層を有する有機EL(electro-luminescent)素子がある。有機EL素子を備え
る装置の製造工程では、外気や水分等により有機発光材料およびカルシウム、マグネシウ
ム、アルミニウム錯体などの電子注入層が劣化するのを防ぐために封止が行われる。この
封止の技術として、極薄の無機化合物膜で有機EL素子を覆う薄膜封止技術が知られてい
る(特許文献1〜4)。薄膜封止はベタ封止とも呼ばれる。
【0003】
有機EL素子を用いた発光パネルまたは画像表示パネルでは、隔壁(セパレータ)が用
いられることが多い(例えば特許文献5)。隔壁は各有機EL素子の画素電極を画定する
ことにより複数の有機EL素子を区分する。隔壁の役割としては、各画素電極の区画のほ
か、画素電極と対向電極の短絡の防止がある。低分子有機ELパネルでは、発光色に応じ
て有機発光層を塗り分ける場合には、隔壁は発光層を区画する機能も有し、パッシブマト
リクス駆動の場合には、隔壁は対向電極を区画する機能も有する。高分子有機ELパネル
では、有機発光層の材料となる液体を貯留する堤防として隔壁は機能する。
【0004】
【特許文献1】特開平9−185994号公報
【特許文献2】特開2001−284041号公報
【特許文献3】特開2000−223264号公報
【特許文献4】特開2003−17244号公報
【特許文献5】特開平10−69146号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有機ELパネルに薄膜封止技術を応用する場合には、封止膜にクラックなどの欠陥が生
じて、封止性能が低下しないことが望ましい。また、封止膜の歪みの方向および大きさに
よっては、対向電極または有機発光層などが変位し、対向電極と画素電極の間に介在する
層、例えば有機発光層がその上下の層から剥離するおそれがある。このような剥離が一部
でも発生すると、その部分は電流が流れないために発光せず、ダークスポットが生じてし
まう。特に、隔壁を有する有機ELパネルに薄膜封止技術を応用する場合には、隔壁と封
止膜の熱膨張係数の相違のため、温度の上下によって封止膜に生ずる歪みが大きいと予測
され、ダークスポットが発生する可能性が高い。
【0006】
そこで、本発明は、封止性能が高く、層同士の密着性を長期にわたって維持しダークス
ポットの発生を抑制することが可能な有機EL装置、その製造方法およびこれを備える電
子機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る有機EL装置は、基板と、前記基板上に形成された複数の有機EL素子と
、前記基板上に形成され前記複数の有機EL素子を区分する絶縁性の隔壁と、前記複数の
有機EL素子および前記隔壁を覆う絶縁性の封止膜とを備え、前記有機EL素子の各々は
、前記基板上に形成された画素電極と、前記画素電極上に形成された発光層と、前記発光
層上に形成された対向電極とを有する。前記隔壁で区分された前記有機EL素子の区域で
は、前記封止膜の残留応力が引っ張りであって、前記対向電極と前記封止膜の厚さと残留
応力の積の合計である累積残留応力が引っ張りであり、前記隔壁に重なる区域では、前記
封止膜の累積残留応力が圧縮である。
【0008】
本発明によれば、隔壁で区分された有機EL素子の区域では、封止膜の残留応力が引っ
張りであって、対向電極と封止膜の累積残留応力(対向電極の厚さと残留応力の積と、封
止膜の厚さと残留応力の積の合計)が引っ張りである。つまり、隔壁で区分された有機E
L素子の区域では、発光層上で封止膜には自らを伸張しようとする応力が残留し、対向電
極には伸張させようとする応力が加わっている。有機EL素子の区域で対向電極と封止膜
での累積残留応力が圧縮の場合には、その区域で対向電極が縮む方向に歪むので対向電極
と画素電極の間に介在する層、例えば有機発光層をその上下の層から引き剥がす方向に働
く応力が発生するが、本発明のように、有機EL素子の区域で対向電極と封止膜での累積
残留応力が引っ張りの場合には、その区域では逆に対向電極と画素電極の間に介在する層
をその上下の層に密着させる方向に働く応力が発生する。従って、隔壁で区分された有機
EL素子の区域で、層同士の密着性を長期にわたって維持しダークスポットの発生を抑制
することが可能である。
【0009】
また、封止性能を高めるには、一般には封止膜の残留応力が圧縮である方が、密度が高
く水または空気の浸透をより抑制できて有利と考えられがちであるが、密度が高い場合に
は脆性クラックが生じやすくなる。これに対して、本発明では、隔壁で区分された有機E
L素子の区域で、封止膜の残留応力が引っ張りなので、脆性クラックが生じがたく封止性
能を却って高めることができる。
他方、本発明では、隔壁に重なる区域では、封止膜の累積残留応力が圧縮である。つま
り、ここでは封止膜自体が隔壁に向けて縮み、封止膜と隔壁の間に何らかの層(装置の種
類によっては対向電極および発光機能層またはこれらのいずれか)がある場合、その層を
隔壁に向けて押し付けるように作用する。従って、隔壁に重なる区域で、層同士の密着性
を長期にわたって維持しダークスポットの発生を抑制することが可能である。
【0010】
好ましくは、前記封止膜は、前記複数の有機EL素子および隔壁を覆う第1の封止膜と
、前記隔壁に重なる区域にて前記第1の封止膜上に形成された第2の封止膜を有しており
、前記第1の封止膜の残留応力が引っ張りであって、前記第2の封止膜の残留応力が圧縮
である。隔壁に重なる区域で、圧縮応力が残留する第2の封止膜を形成することにより、
本発明に係る有機EL装置の構成を簡単に実現することができる。また、隔壁に重なる区
域で、第1の封止膜が対向電極から剥離しようとすることを圧縮応力が残留している第2
の封止膜が抑制する。
【0011】
前記隔壁は格子状に形成され、前記複数の有機EL素子は前記格子状の隔壁に区分され
てマトリクス状に配置され、少なくとも前記隔壁の格子のコーナーの部分に重なる区域で
は前記第2の封止膜に切れ目がないと好ましい。格子状の隔壁のコーナーの部分で圧縮性
の第2の封止膜に切れ目がないことにより、第2の封止膜が第1の封止膜と対向電極を隔
壁に向けて効率的に押し付けることができる。従って、引っ張り応力が残留している第1
の封止膜によって層同士の密着性が阻害されるのを抑制することができる。
【0012】
このような概略的に二層の封止膜を有する有機EL装置を製造する好適な方法は、前記
基板上に前記複数の有機EL素子および前記隔壁を形成する工程と、前記複数の有機EL
素子および前記隔壁を覆うように前記第1の封止膜を形成する工程と、前記隔壁で区分さ
れた前記複数の有機EL素子の区域にそれぞれ重なる複数のマスクと、前記複数のマスク
を連結する連結部とを有するマスクアセンブリを、前記マスクが前記有機EL素子の区域
に重なるとともに前記連結部が前記隔壁に部分的に重なるように配置する工程と、前記第
2の封止膜に圧縮応力が残留するように、前記マスクアセンブリおよび前記隔壁上に前記
第2の封止膜を堆積させる工程と、前記マスクアセンブリを取り除く工程を備える。
マスクアセンブリは、複数のマスクと、複数のマスクを連結する連結部すなわち橋とを
有しており、この製造方法では、複数のマスクが隔壁で区分された複数の有機EL素子の
区域にそれぞれ重なって、連結部が隔壁に部分的に重なるようにマスクアセンブリが配置
される。従って、複数の有機EL素子の区域にマスクを簡単に一括して重ねることができ
、有機EL素子の区域を避けて隔壁に重なる区域に第2の封止膜を簡単に形成することが
できる。
【0013】
さらに、前記複数の有機EL素子および前記隔壁を形成する工程では、前記複数の有機
EL素子をマトリクス状に形成し、前記マスクアセンブリを配置する工程では、前記連結
部が前記有機EL素子のマトリクスの斜め方向に隣り合う有機EL素子同士の間の部分に
重なることを避けて、前記有機EL素子のマトリクスの行方向および列方向の少なくとも
いずれかで隣り合う有機EL素子同士の間の部分に重なるように前記連結部を配置すると
好ましい。
複数の有機EL素子がマトリクス状に配列された構造では、隔壁は格子状に形成される
。マトリクスの斜め方向に隣り合う有機EL素子同士の間の部分、つまり格子のコーナー
の部分で第1の封止膜と対向電極を隔壁に向けて押し付けることは、引っ張り応力が残留
している第1の封止膜によって層同士の密着性が阻害されるのを抑制するために効果があ
る。マスクアセンブリの連結部をマトリクスの斜め方向に隣り合う有機EL素子同士の間
の部分を避けて配置することにより、格子状の隔壁のコーナーの部分では圧縮性の第2の
封止膜に切れ目がなくなるので、第2の封止膜は第1の封止膜と対向電極を隔壁に向けて
効率的に押し付けることができる。
【0014】
本発明に係る電子機器は、上述した有機EL装置を備えることを特徴とする。このよう
な電子機器として、有機EL装置を表示装置に適用したパーソナルコンピュータ、携帯電
話機、および携帯情報端末などが該当し、また、有機EL装置を露光ヘッドに用いた電子
写真方式のプリンタや複写器が該当する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る様々な実施の形態を説明する。図面にお
いては、各部の寸法の比率は実際のものとは適宜に異ならせてある。
<第1の実施の形態>
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る有機EL装置1を示す断面図であり、図2は
有機EL装置1の平面図である。
【0016】
有機EL装置1は、基板10と基板10上に形成された複数の有機EL素子12を備え
る。基板10には、有機EL素子12に給電して発光させるための配線が配置されている
が、配線の図示は省略する。図示しないが、有機EL素子12に給電するための回路を基
板10に配置してもよい。
【0017】
基板10には隔壁(セパレータ)14が形成されている。隔壁14は、絶縁性の透明材
料、例えばアクリル、ポリイミドなどにより形成されている。図2に示すように、隔壁1
4は、複数の縦壁14aと複数の横壁14bを有しており、縦壁14aと横壁14bは交
叉点すなわちコーナー部14cで互いに交叉し格子を構成する。後述するように、複数の
有機EL素子12は格子状の隔壁14に区分されてマトリクス状に配置されている。
【0018】
図1に示すように、有機EL素子12の各々は、画素電極16、発光機能層18および
対向電極20を有する。画素電極16は陽極であり、基板10上に形成され隔壁14で包
囲されている。発光機能層18は、少なくとも発光層を含み、発光層は正孔と電子が結合
して発光する有機EL物質から形成されている。この実施の形態では、有機EL物質は低
分子材料であって、白色光を発する。発光機能層18を構成する他の層として、電子ブロ
ック層、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層および正孔ブロック層の一部
または全部を備えていてもよい。発光機能層18は、隔壁14で画定された複数の画素電
極16および隔壁14に重なって接触している。従って、発光機能層18は複数の有機E
L素子12に共通である。対向電極20は陰極であり、発光機能層18の全面に接触して
いる。つまり、対向電極20は、複数の有機EL素子12に共通するように、隔壁14で
画定された複数の画素電極16の区域および隔壁14上に広がっている。
【0019】
発光機能層18および対向電極20は複数の有機EL素子12に共通であるが、個々の
画素電極16は他の画素電極16から離れているため、個々の画素電極16と対向電極2
0の間で電流が流れたときには、その画素電極16に重なった位置でのみ発光機能層18
が発光する。従って、隔壁14は複数の有機EL素子12を区分し、隔壁14で包囲され
た部分つまり画素電極16の部分を有機EL素子12の区域と呼ぶことができる。
【0020】
この実施の形態の有機EL装置1では、画素電極16は、仕事関数が大きく反射率の高
い金属材料、例えば、ニッケル、金、白金等またはそれらの合金から形成され、対向電極
20はITO(indium tin oxide)、IZO(indium zinc oxide)、またはZnO
のような透明酸化物導電材料から形成されている。従って、発光層からの光は、対向電
極20を透過して外部に放出される。すなわち有機EL装置1は、基板10の反対側に光
を放出するトップエミッションタイプである。
【0021】
対向電極20上には、無機化合物から形成された封止膜が配置されている。図1に示す
ように、封止膜は、対向電極20の全面に接触して、複数の有機EL素子12および隔壁
14を覆う第1の封止膜30と、隔壁14に重なる区域にて第1の封止膜30上に形成さ
れた第2の封止膜32を有する。第1の封止膜30および第2の封止膜32は、窒化珪素
や酸窒化珪素などのガス透過率が低い無機材料から形成されている。これらの窒化珪素や
酸窒化珪素は、非晶質材料であってもよいし、結晶材料であってもよいし、水素を含んで
いてもよい。
【0022】
図2において、太線で囲まれ多数のドットが付された部分が第2の封止膜32である。
このように第2の封止膜32は、隔壁14のコーナー部14cに重なる複数の区域に配置
され、有機EL素子12に重なる区域には配置されない。隔壁14の縦壁14aおよび横
壁14bに重なる区域には、第2の封止膜32は部分的に重なるが、これらの区域では、
部分的に第2の封止膜32の切れ目があり、第1の封止膜30がその切れ目で露出する。
但し、隔壁14のコーナー部14cに重なる区域では第2の封止膜32には切れ目がない

【0023】
図示しないが、第2の封止膜32および第1の封止膜30を覆うように他の層を設ける
ことも可能である。例えば、これらを覆うように有機材料から形成された平坦化層を設け
、その平坦化層の凹凸の少ない表面にさらに封止層を形成してもよい。また、発光機能層
18の発光層は白色光を発するので、この有機EL装置1をカラー画像表示装置として使
用する場合、図示しないがカラーフィルタが有機EL装置1の図1中の上方に配置される

【0024】
この実施の形態では、対向電極20と第1の封止膜30の累積残留応力(対向電極20
の厚さと残留応力の積と、第1の封止膜30の厚さと残留応力の積の合計)が引っ張りで
あるのに対して、対向電極20と第1の封止膜30と第2の封止膜32の累積残留応力(
対向電極20の厚さと残留応力の積と、第1の封止膜30の厚さと残留応力の積と、第2
の封止膜32の厚さと残留応力の積の合計)は圧縮である。従って、隔壁14で区分され
た有機EL素子12の区域(画素電極16の区域)では、対向電極20と封止膜の厚さと
残留応力の積の合計である累積残留応力が引っ張りであり、隔壁14、特にコーナー部1
4cに重なる区域では、対向電極20と封止膜の累積残留応力が圧縮である。
【0025】
対向電極20の材料である透明酸化物導電材料には、一般に圧縮応力が残留するため、
第1の封止膜30は、引っ張り応力が残留するように形成される。対向電極20と第1の
封止膜30の累積残留応力は、4000Pa・cm以上であると好ましい。例えば、対向
電極20の残留応力がゼロの場合には、200MPaの引っ張り応力が残留する厚さ20
0nmの第1の封止膜30を形成すれば、対向電極20と第1の封止膜30の累積残留応
力は4000Pa・cmになる。
【0026】
また、第2の封止膜32は圧縮応力が残留するように形成される。対向電極20と第1
の封止膜30と第2の封止膜32の累積残留応力は、1000Pa・cm以上であると好
ましく、4000Pa・cm以上であると後述する効果が安定的に得られてさらに好まし
い。
【0027】
このように残留応力を制御することが可能な封止膜の製造方法としては、例えば、CV
D(chemical vapor deposition)等の気相成長法、スパッタリング、またはイオンプ
レーティングといった膜を堆積させる公知の技術がある。これらの成膜方法で、圧力、成
膜速度、基板温度などの条件を制御することによって、残留応力を制御することが可能で
ある。これらの条件と実現される残留応力の関係は、成膜装置に依存する。実際の成膜装
置で温度を制御する場合には、(1)基板を加熱しながら膜成分を堆積させる工程と、(
2)加熱および堆積を中断する工程と、(3)堆積を行わないで基板を自然に冷却する工
程を繰り返す。これにより、一つの膜の完成まで所定の温度範囲に基板を維持する。封止
膜は概略的に二層(第1の封止膜30と第2の封止膜32)であるが、このような工程の
繰り返しのため、第1の封止膜30および第2の封止膜32の各々は、樹木の年輪のよう
な多層構造を有することになり、破断した場合には、観察によってその多層構造が確認で
きる。
【0028】
この実施の形態によれば、隔壁14で区分された有機EL素子12の区域では、封止膜
の残留応力が引っ張りであって、対向電極20と封止膜の累積残留応力が引っ張りである
。つまり、隔壁14で区分された有機EL素子12の区域では、発光機能層18上で封止
膜(ここでは第1の封止膜30)には自らを伸張しようとする応力が残留し、対向電極2
0には伸張させようとする応力が加わっている。有機EL素子12の区域で対向電極20
と封止膜での累積残留応力が圧縮の場合には、その区域で対向電極20が縮む方向に歪む
ので対向電極20と画素電極16の間に介在する層、例えば有機発光層をその上下の層か
ら引き剥がす方向に働く応力が発生する。有機発光層は、他の層に比べて、他の層との密
着性に劣るために、引き剥がす方向に働く応力によって実際に剥離するおそれがある。し
かし、この実施の形態のように、有機EL素子12の区域で対向電極20と封止膜での累
積残留応力が引っ張りの場合には、その区域では逆に対向電極20と画素電極16の間に
介在する層をその上下の層に密着させる方向に働く応力が発生する。従って、隔壁14で
区分された有機EL素子12の区域で、層同士の密着性を長期にわたって維持しダークス
ポットの発生を抑制することが可能である。
【0029】
また、封止性能を高めるには、一般には封止膜の残留応力が圧縮である方が、密度が高
く水または空気の浸透をより抑制できて有利と考えられがちであるが、密度が高い場合に
は脆性クラックが生じやすくなる。これに対して、この実施の形態では、隔壁14で区分
された有機EL素子12の区域で、封止膜(ここでは第1の封止膜30)の残留応力が引
っ張りなので、脆性クラックが生じがたい。さらには、有機EL素子12の区域だけでな
く隔壁14上でも、第1の封止膜30の累積残留応力が引っ張りであり、脆性クラックが
生じがたく封止性能を却って高めることができる。
【0030】
他方、この実施の形態では、隔壁14に重なる区域では、対向電極20と封止膜の累積
残留応力が圧縮である。つまり、ここでは封止膜は、自らの残留応力によって隔壁14に
向けて押し付けられ、さらに封止膜と隔壁14の間にある層(対向電極20および発光機
能層18)を隔壁14に向けて押し付けるように作用する。従って、他の層との密着性に
劣る有機発光層が隔壁14上に配置されているにもかかわらず、隔壁14に重なる区域で
、層同士の密着性を長期にわたって維持しダークスポットの発生を抑制することが可能で
ある。
【0031】
この実施の形態では、封止膜を広大で引っ張り性の第1の封止膜30と、隔壁14に重
なる局部的な圧縮性の第2の封止膜32から形成することによって、封止層と対向電極2
0からなる層の残留応力が上記のように分布することを簡単に実現している。
【0032】
隔壁14に重なる区域で、第1の封止膜30が対向電極20から剥離しようとすること
を圧縮応力が残留している第2の封止膜32が抑制する。特に、上述の通り、格子状の隔
壁14のコーナー部14cに重なる区域では第2の封止膜32には切れ目がない。これに
より、第2の封止膜32が第1の封止膜30と対向電極20を隔壁14に向けて効率的に
押し付けることができる。従って、引っ張り応力が残留している第1の封止膜30によっ
て層同士の密着性が阻害されるのを抑制することができる。
【0033】
次に、このような概略的に二層の封止膜を有する有機EL装置を製造する方法を説明す
る。まず、公知の手法で基板10上に複数の画素電極16をマトリクス状に形成する。次
に隔壁14を格子状に形成する。例えば隔壁14の材料となるアクリルまたはポリイミド
に感光性材料を混合して、フォトリソグラフィーの手法で露光により隔壁14をパターニ
ングすることができる。さらに、隔壁14および画素電極16を覆うように発光機能層1
8を蒸着などの公知の手法で堆積させて、発光機能層18の全体を覆う対向電極20を形
成する。このようにして、有機EL素子12および隔壁14を形成する。
【0034】
この後、複数の有機EL素子12および隔壁14を覆うように第1の封止膜30を形成
する。上述したように、第1の封止膜30は、残留応力を制御することが可能な封止膜の
製造技術によって、引っ張り応力が残留するように形成される。
【0035】
さらに、図3および図4に示すように、マスクアセンブリ40を第1の封止膜30上に
配置する。図4において、多数のドットが付された部分が、第1の封止膜30のうちマス
クアセンブリ40で覆われずに露出する部分である。マスクアセンブリ40は、マトリク
ス状に配置された複数のマスク42と、縦と横に(マトリクスの行方向および列方向)に
隣り合うマスク42を連結する多数の連結部44を有する。マスク42と連結部44は、
同一材料から一体に形成してもよいし、別の材料から別個に形成して接合してもよい。複
数のマスク42は、隔壁14で区分された複数の有機EL素子12の区域(画素電極16
の区域)にそれぞれ重なるようにマトリクス状に配置されており、個々のマスク42は、
隔壁14の縦壁14aと横壁14bに支持される。
【0036】
マスクアセンブリ40を第1の封止膜30上に配置する時、マスクアセンブリ40の連
結部44すなわち橋は、隔壁14に部分的に重ねられる。具体的には、マスクアセンブリ
40を配置する工程では、連結部44が有機EL素子12のマトリクスの斜め方向に隣り
合う有機EL素子12同士の間の部分で隔壁14のコーナー部14cに重なることを避け
て、有機EL素子12のマトリクスの行方向および列方向で隣り合う有機EL素子12同
士の間の部分で隔壁14の縦壁14aと横壁14bに重なるように連結部44を配置する

【0037】
この後、マスクアセンブリ40および第1の封止膜30上に全体的に第2の封止膜32
を堆積させる。上述したように、第2の封止膜32は、残留応力を制御することが可能な
封止膜の製造技術によって、圧縮応力が残留するように形成される。この後、マスクアセ
ンブリ40を取り除く。これによって、マスクアセンブリ40上に堆積した第2の封止膜
32は、マスクアセンブリ40と共に取り除かれ、図4のドットが付された第1の封止膜
30上に堆積した第2の封止膜32がマトリクス状に残される。格子状の隔壁14のコー
ナー部14cに重なる区域では第2の封止膜32には切れ目が生じない。このようにして
図1および図2に示す構造の有機EL装置1が製造される。
【0038】
この製造方法では、複数のマスク42が隔壁14で区分された複数の有機EL素子12
の区域にそれぞれ重なって、連結部44が隔壁14に部分的に重なるようにマスクアセン
ブリ40が配置される。従って、複数の有機EL素子12の区域にマスク42を簡単に一
括して重ねることができ、有機EL素子12の区域を避けて隔壁14に重なる区域に第2
の封止膜32を簡単に形成することができる。マスクアセンブリ40の連結部44をマト
リクスの斜め方向に隣り合う有機EL素子12同士の間の部分を避けて配置することによ
り、格子状の隔壁14のコーナー部14c上で圧縮性の第2の封止膜32に切れ目がなく
なるので、第2の封止膜32は第1の封止膜30と対向電極20を隔壁14に向けて効率
的に押し付けることができる。
【0039】
上述したマスクアセンブリ40は、すべての有機EL素子12の区域を覆うが、第2の
封止膜32の形成のために、図5に示すように複数の細片状のマスクアセンブリ40Aを
使用してもよい。図5において、多数のドットが付された部分が、第1の封止膜30のう
ちマスクアセンブリ40Aで覆われずに露出する部分である。マスクアセンブリ40Aの
各々は、直線状(図では縦方向)に配列された複数のマスク42と、縦に隣り合うマスク
42を連結する複数の連結部44すなわち橋を有する。マスク42と連結部44は、同一
材料から一体に形成してもよいし、別の材料から別個に形成して接合してもよい。複数の
マスク42は、隔壁14で区分された複数の有機EL素子12の区域(画素電極16の区
域)にそれぞれ重なるようにマトリクス状に配置されており、個々のマスク42は、隔壁
14の横壁14b(隣り合う画素電極16ひいては有機EL素子12の区域の短辺同士の
間)に支持される。一つのマスクアセンブリ40Aに属する複数のマスク42は、図の縦
方向上の一列にある複数の有機EL素子12の区域を覆う。
【0040】
これらのマスクアセンブリ40Aを第1の封止膜30上に配置する時、マスクアセンブ
リ40Aの連結部44すなわち橋は、隔壁14に部分的に重ねられる。具体的には、マス
クアセンブリ40Aを配置する工程では、連結部44が有機EL素子12のマトリクスの
斜め方向に隣り合う有機EL素子12同士の間の部分および行方向(横方向)に隣り合う
有機EL素子12同士の間の部分で隔壁14のコーナー部14cおよび縦壁14aに重な
ることを避けて、有機EL素子12のマトリクスの列方向(縦方向)で隣り合う有機EL
素子12同士の間の部分で隔壁14の横壁14bに重なるように連結部44を配置する。
【0041】
この後、マスクアセンブリ40Aおよび第1の封止膜30上に全体的に第2の封止膜3
2を堆積させる。上述したように、第2の封止膜32は、残留応力を制御することが可能
な封止膜の製造技術によって、圧縮応力が残留するように形成される。この後、マスクア
センブリ40Aを取り除く。これによって、マスクアセンブリ40A上に堆積した第2の
封止膜32は、マスクアセンブリ40Aと共に取り除かれ、図5のドットが付された第1
の封止膜30上に堆積した第2の封止膜32が細片状に残される。このようにして図6に
示す構造の有機EL装置1が製造される。図6において、太線で囲まれ多数のドットが付
された部分が細片状に残された第2の封止膜32である。格子状の隔壁14のコーナー部
14cに重なる区域だけでなく縦壁14aに重なる区域でも、第2の封止膜32には切れ
目が生じない。マスクアセンブリ40Aの連結部44をマトリクスの斜め方向と横方向に
隣り合う有機EL素子12同士の間の部分を避けて配置することにより、格子状の隔壁1
4のコーナー部14cおよび縦壁14a上で圧縮性の第2の封止膜32に切れ目がなくな
るので、第2の封止膜32は第1の封止膜30と対向電極20を隔壁14に向けて効率的
に押し付けることができる。
【0042】
第2の封止膜32で第1の封止膜30と対向電極20を隔壁14に向けて押し付けるた
めには、第2の封止膜32には可能な限り切れ目がないことが望ましく、従って連結部4
4は少ない方が好ましい。同様の観点からいって、格子状の隔壁14のコーナー部14c
に重なる区域には、第2の封止膜32に切れ目がないことが最も好ましいので、マトリク
スの斜め方向に隣り合う有機EL素子12同士の間の部分には連結部44を配置しないこ
とが最も好ましい。
【0043】
コーナー部14cの次に第2の封止膜32に切れ目がないことが好ましい位置は、格子
状の隔壁14の縦壁14aに重なる区域である。縦壁14aは、画素電極16ひいては有
機EL素子12の区域の長辺を画定するので、縦壁14a上で第2の封止膜32に切れ目
がなければ、より効果的に第2の封止膜32で第1の封止膜30と対向電極20を隔壁1
4に向けて押し付けることができるからである。従って、図5に示す例のマスクアセンブ
リ40Aは、隔壁14のコーナー部14cおよび縦壁14aに連結部44が重なることが
避けられるので、図4に示す例のマスクアセンブリ40よりも好ましいといえる。
【0044】
マスクアセンブリにおける連結部44すなわち橋の位置は、図4および図5の例に限ら
れず、連結部44を隔壁14の縦壁14a(隣り合う画素電極16ひいては有機EL素子
12の区域の長辺同士の間)で支持するように、マスクアセンブリの各々が、横方向に配
列された複数のマスク42と、横に隣り合うマスク42を連結する複数の連結部44を有
するように変更してもよい。但し、このような変更例の配置では、格子状の隔壁14のコ
ーナー部14cに重なる区域では第2の封止膜32に切れ目がなくなるが、格子状の隔壁
14の縦壁14aに重なる区域に連結部44の痕跡として第2の封止膜32の切れ目が残
る。従って、この変更例では、図4のマスクアセンブリ40よりも第1の封止膜30と対
向電極20を隔壁14に向けて押し付け続けることができるかもしれないが、図5のマス
クアセンブリ40Aよりも押し付け続ける効果は高くないと予測できる。
【0045】
<第2の実施の形態>
図7は、本発明の第2の実施の形態に係る有機EL装置2を示す断面図である。第1の
実施の形態の有機EL装置1はトップエミッションタイプであるが、第2の実施の形態の
有機EL装置2はボトムエミッションタイプである。但し、多くの構成要素が共通してお
り、図7では共通する構成要素を示すために図1と同一の符号を使用し、それらを詳細に
は説明しない。有機EL装置2の平面図は、図2と同様である。以下、主に相違点を説明
する。
【0046】
この実施の形態では、各有機EL素子12の発光機能層18の発光層の有機EL物質は
低分子材料であるが、R(赤)、G(緑),B(青)の三種類の有機EL物質が使用され
る。つまり、Rの波長領域の光を発生する有機EL物質と、Gの波長領域の光を発生する
有機EL物質と、Bの波長領域の光を発生する有機EL物質のいずれかが一つの有機EL
素子12の発光層に使用される。従って、発光機能層18はすべての有機EL素子12に
共通ではなく、塗り分けられている。図7に示すように、発光機能層18は隔壁14の上
面にも達しているが、隔壁14上で隣の発光機能層18とはつながっていない。但し、隔
壁14上のこの部分では発光層は発光しないので、隣り合う有機EL素子の発光機能層1
8がこの部分で重なっていてもよい。発光機能層18は、例えばマスクを利用して、必要
な箇所だけに発光機能層18を蒸着させることにより塗り分けすることができる。対向電
極20は陰極であり、複数の発光機能層18の全面に接触している。つまり、対向電極2
0は、複数の有機EL素子12に共通するように、隔壁14で画定された複数の画素電極
16の区域および隔壁14上に広がっている。
【0047】
ボトムエミッションでは基板10から光を放出するため、画素電極16は、ITO、I
ZO、またはZnOのような透明酸化物導電材料から形成され、対向電極20は、仕事
関数が小さく反射率の高い材料、例えば、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、ま
たはリチウム等またはそれらの合金から形成されている。従って、発光層からの光は、画
素電極16を透過して外部に放出される。
【0048】
対向電極20上には、無機化合物から形成された封止膜が配置されている。第1の実施
の形態と同様に、図7に示すように、封止膜は、対向電極20の全面に接触して、複数の
有機EL素子12および隔壁14を覆う第1の封止膜30と、隔壁14に重なる区域にて
第1の封止膜30上に形成された第2の封止膜32を有する。第1の封止膜30および第
2の封止膜32は、窒化珪素や酸窒化珪素などのガス透過率が低い無機材料から形成され
ている。これらの窒化珪素や酸窒化珪素は、非晶質材料であってもよいし、結晶材料であ
ってもよいし、水素を含んでいてもよい。
【0049】
対向電極20と第1の封止膜30の累積残留応力(対向電極20の厚さと残留応力の積
と、第1の封止膜30の厚さと残留応力の積の合計)が引っ張りであるのに対して、対向
電極20と第1の封止膜30と第2の封止膜32の累積残留応力(対向電極20の厚さと
残留応力の積と、第1の封止膜30の厚さと残留応力の積と、第2の封止膜32の厚さと
残留応力の積の合計)は圧縮である。従って、隔壁14で区分された有機EL素子12の
区域(画素電極16の区域)では、対向電極20と封止膜の厚さと残留応力の積の合計で
ある累積残留応力が引っ張りであり、隔壁14、特にコーナー部14cに重なる区域では
、対向電極20と封止膜の累積残留応力が圧縮である。
【0050】
対向電極20の材料であるアルミニウムなどには、一般に圧縮応力が残留するため、第
1の封止膜30は、引っ張り応力が残留するように形成される。対向電極20と第1の封
止膜30の累積残留応力は、4000Pa・cm以上であると好ましい。例えば、対向電
極20の残留応力がゼロの場合には、200MPaの引っ張り応力が残留する厚さ200
nmの第1の封止膜30を形成すれば、対向電極20と第1の封止膜30の累積残留応力
は4000Pa・cmになる。
【0051】
また、第2の封止膜32は圧縮応力が残留するように形成される。対向電極20と第1
の封止膜30と第2の封止膜32の累積残留応力は、1000Pa・cm以上であると好
ましく、4000Pa・cm以上であると後述する効果が安定的に得られてさらに好まし
い。
【0052】
このような概略的に二層の封止膜は、第1の実施の形態と同様の残留応力を制御するこ
とが可能な封止膜の製造方法において、第1の実施の形態と同様のマスクアセンブリを使
用して、製造することができる。第1の実施の形態と同様に、この実施の形態でも、封止
性能が高く、層同士の密着性を長期にわたって維持しダークスポットの発生を抑制するこ
とが可能な有機EL装置を提供することが可能である。
【0053】
<第3の実施の形態>
図8は、本発明の第3の実施の形態に係る有機EL装置3を示す断面図である。第1の
実施の形態および第2の実施の形態の有機EL装置1,2では発光機能層18の発光層の
有機EL物質は低分子材料であるが、第3の実施の形態の有機EL装置3では発光機能層
18の発光層の有機EL物質は高分子材料である。但し、多くの構成要素が共通しており
、図8では共通する構成要素を示すために図1と同一の符号を使用し、それらを詳細には
説明しない。有機EL装置3の平面図は、図2と同様である。以下、主に相違点を説明す
る。
【0054】
この実施の形態では、各有機EL素子12の発光機能層18の発光層の有機EL物質は
高分子材料であって、インクジェットまたはスピンコートによって、隔壁14で画定され
た空間内に配置される。発光機能層18は隔壁14の上面には形成されず、有機EL素子
12の各々は、個別に発光機能層18を有する。これらの発光機能層18は白色光を発し
てもよいし、Rの波長領域の光を発生する有機EL物質と、Gの波長領域の光を発生する
有機EL物質と、Bの波長領域の光を発生する有機EL物質のいずれかが一つの有機EL
素子12の発光層に使用されるのでもよい。
【0055】
対向電極20は陰極であり、複数の発光機能層18の全面に接触している。つまり、対
向電極20は、複数の有機EL素子12に共通するように、隔壁14で画定された複数の
画素電極16の区域および隔壁14上に広がっている。
【0056】
有機EL装置3は、ボトムエミッションタイプでもよいし、トップエミッションタイプ
でもよい。画素電極16および対向電極20の材料は、第1の実施の形態または第2の実
施の形態に準ずる。
【0057】
対向電極20上には、無機化合物から形成された封止膜が配置されている。第1の実施
の形態と同様に、図8に示すように、封止膜は、対向電極20の全面に接触して、複数の
有機EL素子12および隔壁14を覆う第1の封止膜30と、隔壁14に重なる区域にて
第1の封止膜30上に形成された第2の封止膜32を有する。第1の封止膜30および第
2の封止膜32は、窒化珪素や酸窒化珪素などのガス透過率が低い無機材料から形成され
ている。これらの窒化珪素や酸窒化珪素は、非晶質材料であってもよいし、結晶材料であ
ってもよいし、水素を含んでいてもよい。
【0058】
対向電極20と第1の封止膜30の累積残留応力(対向電極20の厚さと残留応力の積
と、第1の封止膜30の厚さと残留応力の積の合計)が引っ張りであるのに対して、対向
電極20と第1の封止膜30と第2の封止膜32の累積残留応力(対向電極20の厚さと
残留応力の積と、第1の封止膜30の厚さと残留応力の積と、第2の封止膜32の厚さと
残留応力の積の合計)は圧縮である。従って、隔壁14で区分された有機EL素子12の
区域(画素電極16の区域)では、対向電極20と封止膜の厚さと残留応力の積の合計で
ある累積残留応力が引っ張りであり、隔壁14、特にコーナー部14cに重なる区域では
、対向電極20と封止膜の累積残留応力が圧縮である。
【0059】
対向電極20の材料であるアルミニウムなどには、一般に圧縮応力が残留するため、第
1の封止膜30は、引っ張り応力が残留するように形成される。対向電極20と第1の封
止膜30の累積残留応力は、4000Pa・cm以上であると好ましい。例えば、対向電
極20の残留応力がゼロの場合には、200MPaの引っ張り応力が残留する厚さ200
nmの第1の封止膜30を形成すれば、対向電極20と第1の封止膜30の累積残留応力
は4000Pa・cmになる。
【0060】
また、第2の封止膜32は圧縮応力が残留するように形成される。対向電極20と第1
の封止膜30と第2の封止膜32の累積残留応力は、1000Pa・cm以上であると好
ましく、4000Pa・cm以上であると後述する効果が安定的に得られてさらに好まし
い。
【0061】
このような概略的に二層の封止膜は、第1の実施の形態と同様の残留応力を制御するこ
とが可能な封止膜の製造方法において、第1の実施の形態と同様のマスクアセンブリを使
用して、製造することができる。第1の実施の形態と同様に、この実施の形態でも、封止
性能が高く、層同士の密着性を長期にわたって維持しダークスポットの発生を抑制するこ
とが可能な有機EL装置を提供することが可能である。
【0062】
<変形例>
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に述べる変形が
可能である。
上述した各実施形態においては、すべての有機EL素子12の共通電極として単一の対
向電極20が設けられているが、複数の共通電極を設けて、それぞれの共通電極が異なる
有機EL素子12の陰極となるように配置してもよい。
上述した各実施形態においては、対向電極20は有機EL素子12の陰極であったが、
陽極であってもよい。
【0063】
上述した各実施形態においては、対向電極20は、複数の有機EL素子12に共通する
共通電極であるが、図9に示す変形例の有機EL装置3のように、対向電極20を隔壁1
4で包囲された空間内に設けることによって、有機EL素子12の各々が独立した対向電
極20を有するようにしてもよい。このような個別の対向電極20は、例えばパッシブマ
トリクス駆動で利用される。図9の変形例で、第1の封止膜30は、複数の対向電極20
および隔壁14上に接触して、複数の有機EL素子12および隔壁14を覆い、第2の封
止膜32は、隔壁14に重なる区域にて第1の封止膜30上に形成されている。対向電極
20と第1の封止膜30の累積残留応力(対向電極20の厚さと残留応力の積と、第1の
封止膜30の厚さと残留応力の積の合計)が引っ張りであるのに対して、第1の封止膜3
0と第2の封止膜32の累積残留応力(第1の封止膜30の厚さと残留応力の積と、第2
の封止膜32の厚さと残留応力の積の合計)は圧縮である。従って、隔壁14で区分され
た有機EL素子12の区域では、対向電極20と封止膜の厚さと残留応力の積の合計であ
る累積残留応力が引っ張りであり、隔壁14、特にコーナー部14cに重なる区域では、
封止膜の累積残留応力が圧縮である。このような概略的に二層の封止膜は、第1の実施の
形態と同様の残留応力を制御することが可能な封止膜の製造方法において、第1の実施の
形態と同様のマスクアセンブリを使用して、製造することができる。第1の実施の形態と
同様に、この実施の形態でも、封止性能が高く、層同士の密着性を長期にわたって維持し
ダークスポットの発生を抑制することが可能な有機EL装置を提供することが可能である

【0064】
<応用例>
次に、本発明に係る有機EL装置を適用した電子機器について説明する。図10は、上
記実施形態に係る有機EL装置1を表示装置に適用したモバイル型のパーソナルコンピュ
ータの構成を示す斜視図である。パーソナルコンピュータ2000は、表示装置としての
有機EL装置1と本体部2010とを備える。本体部2010には、電源スイッチ200
1およびキーボード2002が設けられている。この有機EL装置1(2,3)はOLE
D素子70を用いるので、視野角が広く見易い画面を表示できる。
【0065】
図11に、上記実施形態に係る有機EL装置1を適用した携帯電話機を示す。携帯電話
機3000は、複数の操作ボタン3001およびスクロールボタン3002、ならびに表
示装置としての有機EL装置1(2,3)を備える。スクロールボタン3002を操作す
ることによって、有機EL装置1(2,3)に表示される画面がスクロールされる。
【0066】
図12に、上記実施形態に係る有機EL装置1を適用した情報携帯端末(PDA:Pers
onal Digital Assistant)を示す。情報携帯端末4000は、複数の操作ボタン400
1および電源スイッチ4002、ならびに表示装置としての有機EL装置1(2,3)を
備える。電源スイッチ4002を操作すると、住所録やスケジュール帳といった各種の情
報が有機EL装置1に表示される。
【0067】
本発明に係る有機EL装置が適用される電子機器としては、図10から図12に示した
もののほか、デジタルスチルカメラ、テレビ、ビデオカメラ、カーナビゲーション装置、
ページャ、電子手帳、電子ペーパー、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テ
レビ電話、POS端末、ビデオプレーヤ、タッチパネルを備えた機器等が挙げられる。ほ
かに、電子写真方式を利用した画像印刷装置における像担持体に光を照射して潜像を形成
するプリンタヘッドのような発光源も、そのような電子機器に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る有機EL装置を示す断面図である。
【図2】図1の有機EL装置の平面図である。
【図3】図1の有機EL装置の製造の一工程を示す断面図である。
【図4】図1の有機EL装置の製造の一工程を示す平面図である。
【図5】図1の有機EL装置の製造の一工程の変形例を示す平面図である。
【図6】図5の変形例の工程を使用した場合の図1の有機EL装置の平面図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係る有機EL装置を示す断面図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態に係る有機EL装置を示す断面図である。
【図9】本発明の変形例に係る有機EL装置を示す断面図である。
【図10】本発明に係る有機EL装置を有するパーソナルコンピュータの外観を示す斜視図である。
【図11】本発明に係る有機EL装置を有する携帯電話機の外観を示す斜視図である。
【図12】本発明に係る有機EL装置を有する携帯情報端末の外観を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0069】
1,2,3…有機EL装置、10…基板、12…有機EL素子、14…隔壁、14a…
縦壁、14b…横壁、14c…コーナー部、16…画素電極、18…発光機能層、20…
対向電極、30…第1の封止膜、32…第2の封止膜、40,40A…マスクアセンブリ
、42…マスク、44…連結部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された複数の有機EL素子と、
前記基板上に形成され前記複数の有機EL素子を区分する絶縁性の隔壁と、
前記複数の有機EL素子および前記隔壁を覆う絶縁性の封止膜とを備え、
前記有機EL素子の各々は、前記基板上に形成された画素電極と、前記画素電極上に形
成された発光層と、前記発光層上に形成された対向電極とを有し、
前記隔壁で区分された前記有機EL素子の区域では、前記封止膜の残留応力が引っ張り
であって、前記対向電極と前記封止膜の厚さと残留応力の積の合計である累積残留応力が
引っ張りであり、
前記隔壁に重なる区域では、前記封止膜の累積残留応力が圧縮であることを特徴とする
有機EL装置。
【請求項2】
前記封止膜は、
前記複数の有機EL素子および隔壁を覆う第1の封止膜と、
前記隔壁に重なる区域にて前記第1の封止膜上に形成された第2の封止膜を有しており
、前記第1の封止膜の残留応力が引っ張りであって、前記第2の封止膜の残留応力が圧縮
であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項3】
前記隔壁は格子状に形成され、前記複数の有機EL素子は前記格子状の隔壁に区分され
てマトリクス状に配置され、少なくとも前記隔壁の格子のコーナーの部分に重なる区域で
は前記第2の封止膜に切れ目がないことを特徴とする請求項2に記載の有機EL装置。
【請求項4】
請求項2に記載の有機EL装置を製造する方法であって、
前記基板上に前記複数の有機EL素子および前記隔壁を形成する工程と、
前記複数の有機EL素子および前記隔壁を覆うように前記第1の封止膜を形成する工程
と、
前記隔壁で区分された前記複数の有機EL素子の区域にそれぞれ重なる複数のマスクと
、前記複数のマスクを連結する連結部とを有するマスクアセンブリを、前記マスクが前記
有機EL素子の区域に重なるとともに前記連結部が前記隔壁に部分的に重なるように配置
する工程と、
前記第2の封止膜に圧縮応力が残留するように、前記マスクアセンブリおよび前記隔壁
上に前記第2の封止膜を堆積させる工程と、
前記マスクアセンブリを取り除く工程を備えることを特徴とする有機EL装置の製造方
法。
【請求項5】
前記複数の有機EL素子および前記隔壁を形成する工程では、前記複数の有機EL素子
をマトリクス状に形成し、
前記マスクアセンブリを配置する工程では、前記連結部が前記有機EL素子のマトリク
スの斜め方向に隣り合う有機EL素子同士の間の部分に重なることを避けて、前記有機E
L素子のマトリクスの行方向および列方向の少なくともいずれかで隣り合う有機EL素子
同士の間の部分に重なるように前記連結部を配置することを特徴とする請求項4に記載の
有機EL装置の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の有機EL装置を備える電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−220580(P2007−220580A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−42022(P2006−42022)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】