説明

有機EL装置の製造方法、有機EL装置、電子機器

【課題】安定した膜形状の機能層を有する有機EL装置の製造方法、有機EL装置およびこれを備えた電子機器を提供すること。
【解決手段】有機EL装置10の製造方法は、素子基板1上における膜形成領域を区画すると共に、撥液性を有する頭頂部と親液性を有する側壁とを有する隔壁部を形成する隔壁部形成工程と、頭頂部を基準として膜形成領域に機能層形成材料を含む液状体を充填して乾燥することにより機能層のうち少なくとも発光層を形成する機能層形成工程とを備え、隔壁部形成工程は、複数の膜形成領域により構成される塗布領域SAのうち中央領域SA1に比べて周辺領域SA2の膜形成領域を区画する隔壁部の高さが高くなるように隔壁部を形成し、機能層形成工程は、塗布領域SAのうち周辺領域SA2の膜形成領域では、中央領域SA1に比べて塗布量を多くして液状体を充填することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL装置の製造方法、有機EL装置、電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子を有する有機EL装置として、基板上の塗布領域に形成され、それぞれが光を射出する複数の塗布層と、複数の塗布層の形成領域を画定する隔壁とを備え、形成領域のうち塗布領域の端部における第1形成領域の体積は、塗布領域の中央部における第2形成領域の体積よりも大きいとする光学装置が知られている(特許文献1)。
【0003】
上記光学装置において、第1形成領域と第2形成領域との体積を異ならせる手法として、相互の面積を異ならせる、あるいは相互の形成領域を画定する隔壁の厚みを異ならせることが挙げられている。
【0004】
また、特許文献1には、上記光学装置の製造方法についても述べられており、上記形成領域を画定する隔壁は、無機材料からなる第1バンクと、第1バンク上に設けられた有機材料からなる第2バンクとからなる構成が示されている。また、隔壁により画定された形成領域を酸素を処理ガスとするプラズマ処理により親液化し、その後にテトラフルオロメタンを処理ガスとするプラズマ処理を施して、隔壁のうち第2バンクの表面を撥液化している。そして、塗布領域の中央部から端部に向かって離れた位置に配置された形成領域ほど、多くの膜形成材料を含むインクの塗布量を増やして塗布している。つまり、中央部よりも端部に行くに従って体積の大きな形成領域により多くのインクを塗布する。これにより、塗布領域の中央部と端部との間のインクの乾燥速度の違いに起因する塗布層の膜厚ムラを低減できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−16205号公報、頁7、頁8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図26は特許文献1の光学装置における隔壁の構造を示す概略断面図である。上記従来の光学装置の製造方法によれば、図26に示すように、撥液化された第2バンクで画定された形成領域にインクを塗布するので、インクから溶媒を除去する乾燥過程において、インクのエッジが第2バンクの壁面(表面)のどこで固定(ピニング)されるかによって、乾燥後の塗布層の表面形状(あるいは断面形状)が変化する。
つまり、インクの塗布量を塗布領域の中央部と端部とで異ならせたとしても、塗布領域全体に亘って必ずしも均一な塗布層の表面形状が得られないおそれがあるという課題がある。
さらに、塗布領域の中央部と端部とのインクの乾燥速度の差は、例えば塗布領域の大きさや乾燥方法などの乾燥条件によって変動するおそれがある。したがって、塗布領域の面積と上記乾燥速度の差とを考慮して、中央部と端部におけるインクの塗布量を調整する必要がある。言い換えれば、塗布領域において体積が異なる第1形成領域と第2形成領域との配置を予め決定することが困難であるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]本適用例の有機EL装置の製造方法は、基板上において少なくとも発光層を含む機能層が複数設けられた有機EL装置の製造方法であって、前記基板上における膜形成領域を区画すると共に、撥液性を有する頭頂部と親液性を有する側壁とを有する隔壁部を形成する隔壁部形成工程と、前記頭頂部を基準として前記膜形成領域に機能層形成材料を含む液状体を充填して乾燥することにより前記機能層のうち少なくとも前記発光層を形成する機能層形成工程とを備え、前記隔壁部形成工程は、複数の前記膜形成領域により構成される塗布領域のうち中央側に比べて周辺側の前記膜形成領域を区画する前記隔壁部の高さが高くなるように前記隔壁部を形成し、前記機能層形成工程は、前記塗布領域のうち前記周辺側の前記膜形成領域では、前記中央側に比べて塗布量を多くして前記液状体を充填することを特徴とする。
【0009】
この方法によれば、機能層形成工程では、隔壁部により区画された膜形成領域に撥液性を有する頭頂部を基準として液状体を充填するので、乾燥過程において、液状体のエッジは親液性を有する側壁に沿って後退しやがてピニングされる。したがって、頭頂部だけでなく側壁も撥液性を有する場合に比べて、ピニング位置が安定し易い。さらに、塗布領域の中央側に比べて周辺側の隔壁部の高さが高く、中央側に比べて周辺側の膜形成領域に多くの液状体を充填することができ、中央側と周辺側との乾燥速度の差を抑制できる。すなわち、塗布領域における膜形成領域ごとに安定した膜形状の少なくとも発光層を含む機能層を有する有機EL装置を製造できる。
【0010】
[適用例2]上記適用例の有機EL装置の製造方法において、前記隔壁部形成工程は、撥液剤を含有した感光性樹脂材料を用いて前記基板上に塗布膜を形成する工程と、前記塗布膜を熱処理する工程と、熱処理された前記塗布膜をパターニングして前記隔壁部を形成する工程とを含むことを特徴とする。
この方法によれば、塗布膜に含まれた撥液剤は、加熱を受け表層に向かって熱拡散する性質があるので、有機材料からなる隔壁部にフッ素系の処理ガスを用いて撥液性を付与する方法に比べて、安定的に撥液性を付与できる。また、加熱後の塗布膜をパターニングして隔壁部を形成するので、隔壁部の上面すなわち頭頂部に撥液性を付与し、側壁は頭頂部に比べて撥液性を弱めて親液化することができる。したがって、頭頂部と側壁とで液状体に対する濡れ性を異ならせることができる。
【0011】
[適用例3]上記適用例の有機EL装置の製造方法において、前記隔壁部形成工程は、感光性樹脂材料を用いて前記基板上に塗布膜を形成する工程と、前記塗布膜をパターニングして前記隔壁部を形成する工程と、前記隔壁部の前記頭頂部に撥液層を形成する工程とを含むことを特徴とする。
この方法によれば、熱処理工程を削減して隔壁部の頭頂部に撥液性を付与することができる。
【0012】
[適用例4]本適用例の他の有機EL装置の製造方法は、基板上において少なくとも発光層を含む機能層が複数設けられた有機EL装置の製造方法であって、前記基板上における膜形成領域を区画すると共に、撥液性を有する頭頂部と親液性を有する側壁と前記側壁において上面が撥液性を有する少なくとも1つの段差部とを有する隔壁部を形成する隔壁部形成工程と、前記膜形成領域に機能層形成材料を含む液状体を充填して乾燥することにより前記機能層のうち少なくとも前記発光層を形成する機能層形成工程とを備え、前記機能層形成工程は、複数の前記膜形成領域により構成される塗布領域のうち中央側の前記膜形成領域では、前記段差部を基準として前記液状体を充填し、前記塗布領域のうち周辺側の前記膜形成領域では、前記頭頂部を基準として前記中央側に比べて塗布量を多くして前記液状体を充填することを特徴とする。
【0013】
この方法によれば、機能層形成工程は、塗布領域のうち中央側では段差部を基準とし、周辺側では頭頂部を基準として膜形成領域に充填される液状体の塗布量を異ならせることができる。つまり、中央側に比べて周辺側において膜形成領域に充填される液状体の塗布量を多くすることが可能となり、中央側と周辺側とにおける液状体の乾燥速度の差を抑制できる。加えて頭頂部と段差部の上面が撥液性を有し、それに比べて側壁が親液性を有しているので液状体のピニング位置が安定する。さらに、基板の大きさなどの乾燥条件により、乾燥速度の差が生じている中央側と周辺側の区分が変化したとしても、液状体を充填するときの基準を頭頂部と段差部とで使い分ければ対応できる。すなわち、塗布領域における膜形成領域ごとに安定した膜形状の少なくとも発光層を含む機能層を有する有機EL装置を製造できる。
【0014】
[適用例5]上記適用例の有機EL装置の製造方法において、前記隔壁部形成工程は、上面が撥液性を有するように第1隔壁部を形成する第1隔壁部形成工程と、上面が撥液性を有すると共に前記第1隔壁部よりも狭い幅の第2隔壁部を前記第1隔壁部上に形成する第2隔壁部形成工程とを含むことを特徴とする。
この方法によれば、第1隔壁部と第2隔壁部とを積層して上面が撥液性を有する段差部を備えた隔壁部を比較的容易に形成することができる。
【0015】
[適用例6]上記適用例の有機EL装置の製造方法において、前記第1隔壁部形成工程および前記第2隔壁部形成工程は、撥液剤を含有した感光性樹脂材料を用いて前記基板上に塗布膜を形成する工程と、前記塗布膜を熱処理する工程と、熱処理された前記塗布膜をパターニングして前記第1隔壁部、前記第2隔壁部を形成する工程とを含むことを特徴とする。
この方法によれば、塗布膜に含まれた撥液剤は、加熱を受け表層に向かって熱拡散する性質があるので、有機材料からなる隔壁部にフッ素系の処理ガスを用いて撥液性を付与する方法に比べて、塗布膜の上面に安定的に撥液性を付与できる。また、加熱後の塗布膜をパターニングして第1隔壁部、第2隔壁部を形成するので、それぞれの上面に撥液性を付与し、それぞれの側壁は上面に比べて撥液性を弱めることができる。したがって、上面と側壁とで液状体に対する濡れ性を異ならせることができる。なお、第2隔壁部の上面が頭頂部である。
【0016】
[適用例7]上記適用例の有機EL装置の製造方法において、前記第2隔壁部形成工程は、感光性樹脂材料を用いて前記第2隔壁部を前記第1隔壁部上にパターニング形成する工程と、前記第2隔壁部の上面に撥液層を形成する工程とを含むことを特徴とする。
この方法によれば、熱処理工程を削減して第2隔壁部の頭頂部に撥液性を付与することができる。
【0017】
[適用例8]上記適用例の有機EL装置の製造方法において、前記第1隔壁部形成工程は、上面の撥液性が前記第2隔壁部の上面の撥液性よりも低い前記第1隔壁部を形成することが好ましい。
この方法によれば、第2隔壁部の上面すなわち頭頂部を基準として膜形成領域に液状体を充填するときに、充填された液状体が段差部となる第1隔壁部の上面を乗り越えやすくなる。すなわち、膜形成領域にむらなく液状体を充填して第2隔壁部の側壁におけるピニング位置をより安定化できる。
【0018】
[適用例9]上記適用例の有機EL装置の製造方法において、前記機能層形成工程は、塗布する前記液状体の溶媒における沸点が低くなるほど前記膜形成領域に充填する前記液状体の塗布量を多くし、沸点が高くなるほど前記液状体の塗布量を少なくすることが好ましい。
この方法によれば、溶媒の蒸気圧の違いに起因する液状体の乾燥速度の差をより緩和することができる。
【0019】
[適用例10]上記適用例の有機EL装置の製造方法において、前記基板上には、複数の前記塗布領域が面付けされており、前記基板の中心を基準として、前記塗布領域における前記中央側と前記周辺側とが区分されているとしてもよい。
基板の大きさが大きくなるほど塗布された液状体の乾燥速度の差が大きくなり易いが、この方法によれば、液状体の乾燥速度の差に対する基板の大きさの影響度を抑えることができる。
【0020】
[適用例11]上記適用例の有機EL装置の製造方法において、前記中央側と前記周辺側とが前記塗布領域を単位として区分されているとしてもよい。
この方法によれば、塗布領域の大きさが比較的に小さい場合には、膜形成領域に塗布される液状体の塗布量が塗布領域ごとに設定されることになり、液状体の塗布量の管理が容易となる。
【0021】
[適用例12]本適用例の有機EL装置は、基板上における複数の膜形成領域を区画すると共に、撥液性を有する頭頂部と親液性を有する側壁とを有する隔壁部と、前記複数の膜形成領域に前記頭頂部を基準として機能層形成材料を含む液状体を充填して乾燥することにより得られた少なくとも発光層を含む機能層とを備え、前記複数の膜形成領域により構成される塗布領域のうち中央側に比べて周辺側の前記膜形成領域を区画する前記隔壁部の高さが高いことを特徴とする。
この構成によれば、側壁における液状体のピニング位置が安定し、塗布領域における中央側と周辺側との液状体の乾燥速度の差が抑制され、膜形成領域ごとに安定した膜形状の少なくとも発光層を含む機能層を有する有機EL装置を提供できる。
【0022】
[適用例13]本適用例の他の有機EL装置は、基板上における複数の膜形成領域を区画すると共に、撥液性を有する頭頂部と親液性を有する側壁と前記側壁において上面が撥液性を有する少なくとも1つの段差部とを有する隔壁部と、前記複数の膜形成領域により構成される塗布領域のうち中央側の前記膜形成領域に前記段差部を基準として機能層形成材料を含む液状体が充填され、前記塗布領域のうち周辺側の前記膜形成領域に前記頭頂部を基準として前記液状体が充填されて乾燥することにより得られた少なくとも発光層を含む機能層と、を備えたことを特徴とする。
この構成によれば、側壁における液状体のピニング位置が安定し、隔壁部における頭頂部と段差部とを基準として塗布領域における中央側と周辺側とで膜形成領域に充填される液状体の塗布量を容易に異ならせ乾燥速度の差を抑制可能となる。よって、膜形成領域ごとに安定した膜形状の少なくとも発光層を含む機能層を有する有機EL装置を提供できる。また、基板の大きさなどの乾燥条件により、塗布領域における乾燥速度の差が生ずる中央側と周辺側の区分が変化しても、液状体充填時の基準を頭頂部と段差部とで使い分けすれば対応できる。
【0023】
[適用例14]上記適用例の他の有機EL装置において、前記段差部の上面における撥液性は、前記頭頂部に比べて低いことが好ましい。
この構成によれば、頭頂部を基準として膜形成領域に液状体を充填するときに、充填された液状体が段差部の上面を乗り越えやすくなる。すなわち、膜形成領域にむらなく液状体を充填させ、隔壁部の側壁におけるピニング位置をより安定させることができる。
【0024】
[適用例15]本適用例の電子機器は、上記適用例の有機EL装置の製造方法を用いて製造された有機EL装置、あるいは上記適用例の有機EL装置を備えたことを特徴とする。
この構成によれば、膜形成領域ごとに安定した膜形状の少なくとも発光層を含む機能層を有する有機EL装置を備えているので、発光特性が安定した電子機器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(a)は有機EL装置の構成を示す概略正面図、(b)は有機EL装置の構造を示す概略断面図。
【図2】有機EL装置の電気的な構成を示す等価回路図。
【図3】有機EL素子の構成を示す模式図。
【図4】(a)および(b)は実施例1の隔壁部の構成を示す概略断面図。
【図5】実施例1の有機EL装置の製造方法を示すフローチャート。
【図6】(a)〜(e)は実施例1の有機EL装置の製造方法を示す概略断面図。
【図7】(f)〜(j)は実施例1の有機EL装置の製造方法を示す概略断面図。
【図8】実施例2の隔壁部の構成を示す概略断面図。
【図9】実施例2の有機EL装置の製造方法を示すフローチャート。
【図10】(a)〜(f)は実施例2の有機EL装置の製造方法を示す概略断面図。
【図11】(g)〜(j)は実施例2の有機EL装置の製造方法を示す概略断面図。
【図12】(k)〜(p)は実施例2の有機EL装置の製造方法を示す概略断面図。
【図13】(a)〜(c)は塗布領域、中央領域、周辺領域の設定の仕方を示す概略平面図。
【図14】実施例1に対する変形例1の隔壁部の構成を示す概略断面図。
【図15】実施例2に対する変形例2の隔壁部の構成を示す概略断面図。
【図16】実施例2に対する変形例3の隔壁部の構成を示す概略断面図。
【図17】実施例2に対する変形例4の隔壁部の構成を示す概略断面図。
【図18】実施例2に対する変形例5の隔壁部の構成を示す概略断面図。
【図19】実施例2に対する変形例6の隔壁部の構成を示す概略断面図。
【図20】実施例2に対する変形例7の隔壁部の構成を示す概略断面図。
【図21】実施例2に対する変形例8の隔壁部の構成を示す概略断面図。
【図22】実施例2に対する変形例9の隔壁部の構成を示す概略断面図。
【図23】変形例10の隔壁部の構成を示す概略平面図。
【図24】(a)は変形例11の隔壁部の構成を示す概略平面図、(b)は(a)のD−D’線で切った概略断面図。
【図25】(a)は電子機器の一例としての携帯型電話機を示す図、(b)は電子機器の一例としての薄型テレビを示す図。
【図26】特許文献1の光学装置における隔壁の構造を示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。なお、使用する図面は、説明する部分が認識可能な状態となるように、適宜拡大または縮小して表示している。
【0027】
(第1実施形態)
<有機EL装置>
本実施形態の有機EL装置について、図1〜図3を参照して説明する。図1(a)は有機EL装置の構成を示す概略正面図、同図(b)は有機EL装置の構造を示す概略断面図、図2は有機EL装置の電気的な構成を示す等価回路図、図3は有機EL素子の構成を示す模式図である。
【0028】
図1(a)に示すように、本実施形態の有機EL装置10は、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の発光(発光色)が得られる発光画素7を有している。発光画素7は略矩形状であり、発光領域EAにおいて複数配置されている。同色の発光が得られる発光画素7が図面上において垂直方向(列方向あるいは発光画素の長手方向)に配列し、異なる発光色の発光画素7が図面上において水平方向(行方向あるいは発光画素の短手方向)にR,G,Bの順で配列している。すなわち、異なる発光色の発光画素7が所謂ストライプ方式で配置されている。なお、異なる発光色の発光画素7の平面形状と配置は、これに限定されるものではない。
【0029】
図1(b)に示すように、有機EL装置10は、赤(R)、緑(G)、青(B)、3色の発光が得られる発光画素7を構成する有機EL素子20R,20G,20Bが設けられた素子基板1と、封止基板2とを有している。封止基板2は封止樹脂層30を介して素子基板1と対向配置され、シール材(図示省略)により素子基板1に接着されている。これにより、外部からの水分や気体の浸入を防いで有機EL素子20R,20G,20Bの発光寿命を確保している。
【0030】
各有機EL素子20R,20G,20Bはそれぞれの発光色が得られる発光層を含む機能層を有するものである。有機EL素子20R,20G,20Bからの発光が、素子基板1側から取り出される、所謂ボトムエミッション構造となっている。それゆえに、素子基板1は透明なガラス等の基材が用いられている。封止基板2は透明または不透明な基材の両方を用いることができる。
【0031】
有機EL素子20の上記機能層は、膜形成領域(平面的にはほぼ矩形状な発光画素7の領域に相当)に機能層形成材料を含む液状体を充填して乾燥することにより形成されている。本実施形態では、複数の膜形成領域からなる塗布領域SAを中央側の領域SA1と周辺側の領域SA2とに区分して液状体を塗布することにより、膜形成領域ごとに安定した膜形状の機能層が形成されている。詳しくは、後述する有機EL装置の製造方法において説明する。なお、以降の説明において、上記領域SA1を中央領域SA1と呼び、上記領域SA2を周辺領域SA2と呼んで区別する。
【0032】
このような有機EL装置10を例えば表示装置として用いるならば、異なる発光色が得られる3つの発光画素7を1つの表示画素単位として、それぞれの発光画素7を電気的に制御することによりフルカラー表示を実現できる。
【0033】
図2に示すように、有機EL装置10は、発光画素7を駆動制御するスイッチング素子として薄膜トランジスター(Thin Film Transistor、以下TFTと略記する)を用いたアクティブマトリクス型の有機EL装置である。
【0034】
有機EL装置10は、走査線駆動部3に接続された複数の走査線5aと、データ線駆動部4に接続された複数のデータ線6と、各走査線5aに並列して設けられた複数の電源線5bと、を備えている。互いに絶縁され交差する走査線5aとデータ線6とによって区画された領域に対応して設けられた駆動回路部によって発光画素7の発光制御が行われている。
【0035】
駆動回路部は、走査線5aを介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用のTFT11と、このTFT11を介してデータ線6から供給される画素信号を保持する保持容量13と、該保持容量13によって保持された画素信号がゲート電極に供給される駆動用のTFT12とを備えている。この駆動用のTFT12を介して電源線5bに電気的に接続したときに該電源線5bから駆動電流が流れ込む陽極としての画素電極23と、この画素電極23と陰極としての共通電極27との間に挟み込まれた機能層24とを有している。
【0036】
走査線5aが駆動されてスイッチング用のTFT11がオン状態になると、そのときのデータ線6の電位が保持容量13に保持され、該保持容量13の状態に応じて、駆動用のTFT12のオン・オフ状態が決まる。そして、駆動用のTFT12を介して、電源線5bから画素電極23に電流が流れ、さらに機能層24を介して共通電極27に電流が流れる。機能層24は、これを流れる電流量に応じて発光する。すなわち、画素電極23と共通電極27と機能層24とにより、発光単位としての有機EL素子20が構成されている。なお、駆動回路部の構成は、これに限定されるものではなく、例えば、3つ以上の薄膜トランジスターを含むものでもよい。
【0037】
図3に示すように、有機EL素子20は、駆動回路部(図示省略)が形成された基板としての素子基板1上に設けられている。素子基板1上において、画素電極23と共通電極27との間に機能層24が配置されている。本実施形態における機能層24は、異種の有機薄膜である正孔注入層24h、中間層24m、発光層24Lが順に積層されたものである。
機能層24は、前述したように機能層形成材料を含む液状体を画素電極23を含む膜形成領域に塗布して乾燥することにより形成されている。機能層24において輝度むらが少ない安定した発光を得るには、各有機薄膜の断面形状にむらがない状態で成膜されていることが重要である。とりわけ、発光層24Lの断面形状にむらがある、すなわち膜厚むらがあると、膜厚の薄い部分の電気的な抵抗が小さくなり、その部分を流れる電流が大きくなって輝度むらが生ずる。あるいは、発光層24Lにおける発光寿命を縮めてしまうおそれがある。
【0038】
そこで発明者は、膜形成領域を区画する隔壁部の構成とその表面における撥液性や親液性の付与のしかたを工夫すると共に、上記液状体の塗布方法を工夫することで、安定した膜形状(断面形状)の機能層を有する有機EL装置10並びにその製造方法を開発した。以降、有機EL装置10における隔壁部の実施例を挙げて説明する。
【0039】
(実施例1)
有機EL装置10における実施例1の隔壁部の構成と有機EL装置10の製造方法について、図4〜図7を参照して説明する。図4(a)および(b)は実施例1の隔壁部の構成を示す概略断面図、図5は実施例1の有機EL装置の製造方法を示すフローチャート、図6(a)〜(e)および図7(f)〜(j)は実施例1の有機EL装置の製造方法を示す概略断面図である。
【0040】
図4(a)は実施例1の第1隔壁部34を示し、同図(b)は同じく実施例1の第2隔壁部35を示すものである。第1隔壁部34および第2隔壁部35は、それぞれ素子基板1上において画素電極23が設けられた膜形成領域Aを区画しており、第1隔壁部34の高さh1に対して第2隔壁部35の高さh2が高くなっている。
【0041】
具体的には、塗布領域SAにおける中央領域SA1に設けられた膜形成領域Aは、第1隔壁部34によって区画されている。一方で塗布領域SAにおける周辺領域SA2に設けられた膜形成領域Aは、第1隔壁部34よりも高さが高い第2隔壁部35によって区画されている。
【0042】
第1隔壁部34および第2隔壁部35の形成方法については、後述する有機EL装置10の製造方法において詳しく述べるが、いずれも撥液剤を含む感光性樹脂材料を用いて形成されており、それぞれの頭頂部34a,35aが撥液性を有している。また、それぞれの側壁34b,35bには親液性が付与されている。
【0043】
第1隔壁部34と第2隔壁部35の高さを異ならせることにより、区画された膜形成領域Aにおける液状体受容部分の体積を中央領域SA1と周辺領域SA2とで異ならせることができる。したがって、周辺領域SA2に設けられた膜形成領域Aに中央領域SA1に比べてより多くの液状体を充填可能としている。
【0044】
これにより、液状体の乾燥過程における中央領域SA1と周辺領域SA2との乾燥速度の差を抑制(緩和)できる。また、側壁34b,35bが親液性を有しているので、前述した特許文献1のように隔壁部としての第2バンクの表面をテトラフルオロメタンを用いてプラズマ処理し、撥液性を付与する場合に比べて、塗布された液状体のピニング位置が安定する。
【0045】
図5に示すように、実施例1の有機EL装置10の製造方法は、隔壁部形成工程(ステップS1)と、正孔注入層形成工程(ステップS2)と、中間層形成工程(ステップS3)と、発光層形成工程(ステップS4)と、共通電極形成工程(ステップS5)とを備えている。なお、ステップS2〜ステップS4が機能層形成工程に相当する。
【0046】
ステップS1の隔壁部形成工程では、図6(a)に示すように、素子基板1は、透明なガラスやプラスチックなどの基板が用いられている。画素電極23はITO(Indium Tin Oxide)などの透明導電膜を用いて形成されている。
【0047】
まず、素子基板1の画素電極23が設けられた側の表面を覆うように撥液剤を含む感光性樹脂材料を用いて、塗布膜34Pを形成する。塗布膜34Pの厚みh1はおよそ2μmである。このような塗布膜34Pの形成方法としては、液状の感光性樹脂材料をスピンコート法やロールコート法などにより均一に塗布して乾燥させ成膜する方法が挙げられる。
感光性樹脂材料としては例えばフェノール系やエポキシ系あるいはポリイミド系の所謂レジスト材料が挙げられる。また、撥液剤としては、例えばフッ素系化合物が挙げられ、本実施形態では、DIC社製のフッ素系添加剤R−30を用いた。該撥液剤の主成分はパーフルオロアルキル系材料である。含有量がおよそ0.2wt%となるように上述したレジスト材料の溶液(以降、レジスト溶液と呼ぶ)に該撥液剤を添加した。
【0048】
次に、成膜された塗布膜34Pを熱処理する。加熱温度は、およそ100℃〜120℃である。熱処理工程は、新たな工程ではなく所謂ポストベークの温度を含有された撥液剤の熱拡散を考慮して設定したものである。熱処理を施すことによって、図6(b)に示すように、撥液剤は塗布膜34Pの表層に向かって熱拡散する性質を持っている。したがって、塗布膜34Pの表面近傍では撥液剤の濃度が高く、バルクでは濃度が低下した状態が得られる。図6(b)では塗布膜34Pにおける撥液剤の拡散状態をグラデーションで表した。撥液剤の拡散状態は、実際には目に見えるものではないが、IMAなどの表面分析を行うことで解明することができる。
【0049】
そして、塗布膜34Pをフォトリソグラフィー法により露光・現像することにより、図6(c)に示すように、所望の幅を有する第1隔壁部34を形成する。これにより、第1隔壁部34の上面すなわち頭頂部34aに撥液性が付与され、頭頂部34aに比べて撥液性が低下した側壁34bを形成することができる。
【0050】
前述したように、このような第1隔壁部34は、塗布領域SAのうち中央領域SA1における膜形成領域Aを区画するように形成する。図示省略したが、塗布領域SAのうち周辺領域SA2における膜形成領域Aを区画するように、同様な方法を用いて第2隔壁部35を形成する。第2隔壁部35の高さh2は、およそ3.5μ〜4.0μmである。
【0051】
次に、このようにして形成された第1隔壁部34と第2隔壁部35とを有する素子基板1に対して酸素を処理ガスとするプラズマ処理を施す。そうすると、撥液性を有する頭頂部34a以外の側壁34bと画素電極23の表面に親液性が付与される。第2隔壁部35の側壁35b(図4(b)参照)においても同様である。そして、ステップS2へ進む。
【0052】
ステップS2の正孔注入層形成工程では、図6(d)に示すように、第1隔壁部34により区画された中央領域SA1の膜形成領域Aに正孔注入層形成材料を含む液状体70を塗布する。所定量の液状体70を確実に膜形成領域Aに充填するため、本実施形態では、吐出ヘッド50のノズルから液状体70を液滴として膜形成領域Aに吐出する液滴吐出法(インクジェット法)が採用されている。吐出ヘッド50は所謂インクジェットヘッドと呼ばれるものであって、複数の微細なノズルを有し、ノズルから膜形成領域Aに向けて液滴が吐出される。画素電極23上に着弾した液状体70は、膜形成領域Aにおいて濡れ広がると共に液滴の吐出が進むに連れて表面張力により盛り上がる。また、頭頂部34aが液状体70の充填における基準(目安)となり、頭頂部34aを越えない程度に充填される。頭頂部34aは撥液性を有しているので、液状体70は頭頂部34aを越え難く、たとえ越えたとしても弾かれて第1隔壁部34によって区画された膜形成領域Aに収容される。また、第1隔壁部34の側壁34bおよび画素電極23の表面は、先のプラズマ処理によって親液性を有しているのでむらなく液状体70を充填することが可能である。
もちろん、中央領域SA1における液状体70の塗布と同時に、第2隔壁部35により区画された周辺領域SA2の膜形成領域Aにも液状体70を塗布する。その際に、周辺領域SA2では中央領域SA1の上記所定量に比べて多い(およそ2倍)塗布量の液状体70を充填する。
【0053】
図6(e)に示すように、所定量の液状体70が膜形成領域Aに塗布された素子基板1をランプアニールや減圧乾燥などの方法で乾燥して、熱処理(200℃、10分程度)を施すことにより、正孔注入層24hを成膜する。
乾燥過程で中央領域SA1に塗布された液状体70は第1隔壁部34の側壁34bにおいて確実にピニングされるので、断面形状が安定しほぼ一定の膜厚を有する正孔注入層24hが得られる。同様に、乾燥過程で周辺領域SA2に塗布された液状体70は第2隔壁部35の側壁35bにおいて確実にピニングされるので、断面形状が安定しほぼ一定の膜厚を有する正孔注入層24hが得られる。
周辺領域SA2の膜形成領域Aに中央領域SA1に比べて塗布量が多い(2倍)液状体70を充填したとしても、第2隔壁部35の高さh2が第1隔壁部34の高さh1のほぼ2倍であるため、乾燥過程で液状体70が第2隔壁部35における側壁35bの高い位置でピニングされる。つまり、液状体70に含まれる正孔注入層形成材料は、高さが高い第2隔壁部35のほうが側壁35bの表面においてより多く固定(固化)される。
また、中央領域SA1と周辺領域SA2とにおける液状体70の塗布量を異ならせているため、乾燥速度の差が抑制されている。それゆえに、画素電極23上に成膜された正孔注入層24hは安定した断面形状を有すると共に、その厚みは、中央領域SA1と周辺領域SA2とで比較すると実質的な差がほとんど生じていない。
【0054】
液状体70は、例えば溶媒としてトリエチレングリコール(TEG)60wt%と水(純水)40wt%とを含み、正孔注入層形成材料として、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等のポリチオフェン誘導体にドーパントとしてのポリスチレンスルホン酸(PSS)を加えた混合物(PEDOT/PSS)を0.5wt%含んだ溶液である。
このような液状体70を用い、中央領域SA1における乾燥後の膜厚がおよそ50nmとなるように液状体70の上記所定量を設定し、周辺領域SA2では、該所定量に対して2倍の塗布量で液状体70を塗布した。これにより、安定した膜形状の正孔注入層24hを塗布領域SAに設けられた複数の膜形成領域Aに亘って形成することができた。
なお、PEDOT/PSS以外の正孔注入層形成材料としては、ポリスチレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレンやその誘導体が挙げられる。そして、ステップS3へ進む。
【0055】
ステップS3の中間層形成工程では、図7(f)に示すように、第1隔壁部34により区画された中央領域SA1の膜形成領域Aに中間層形成材料を含む液状体80を同じく吐出ヘッド50から液滴として吐出した。液状体80は、頭頂部34aを基準(目安)として第1隔壁部34で区画された膜形成領域Aにむらなく充填可能な所定量を吐出する。所定量の液状体80を膜形成領域Aに吐出しても頭頂部34aが撥液性を有していることから、液状体80は頭頂部34aを乗り越えない。言い換えれば、頭頂部34aを基準としてこれを乗り越えない程度の所定量で吐出ヘッド50から液状体80を吐出する。
中央領域SA1への液状体80の塗布と同時に、周辺領域SA2にも液状体80を塗布する。その際には、中央領域SA1における上記所定量に対してほぼ2倍の塗布量の液状体80を周辺領域SA2の膜形成領域Aに充填する。
【0056】
液状体80は、溶媒として例えばシクロヘキシルベンゼン(CHB)30wt%とイソプロピルビフェニル(IPB)70wt%とを含み、中間層形成材料として正孔輸送性を示す例えばポリオレフィン系ポリマー蛍光材料やトリフェニルアミン系ポリマーを0.1wt%含んだ溶液である。
中央領域SA1における乾燥後の膜厚がおよそ10nmとなるように上記所定量を設定し、周辺領域SA2では、該所定量の2倍の塗布量で液状体80を塗布した。
そして、図7(g)に示すように、液状体80が塗布された素子基板1を減圧乾燥して、例えば窒素などの不活性ガス雰囲気で熱処理(130℃、1時間程度)を施す。
【0057】
各膜形成領域Aに充填された液状体80は、正孔注入層形成工程における液状体70と同様に、第1隔壁部34の側壁34b(第2隔壁部35の側壁35b)において確実にピニングされる。また、塗布領域SAにおける中央領域SA1と周辺領域SA2との乾燥速度の差が抑制されている。その結果、乾燥後に先に成膜された正孔注入層24hの表面に沿って断面形状が安定した中間層24mが塗布領域SAに亘って得られる。そして、ステップS4へ進む。
【0058】
ステップS4の発光層形成工程では、図7(h)に示すように、第1隔壁部34により区画された中央領域SA1の膜形成領域Aに吐出ヘッド50から発光層形成材料を含む所定量の液状体90を液滴として吐出した。また、第2隔壁部35により区画された周辺領域SA2の膜形成領域Aにも吐出ヘッド50から上記所定量に対してほぼ2倍の塗布量の液状体90を液滴として吐出した。液状体90は、頭頂部34a,35aを基準として第1隔壁部34および第2隔壁部35で区画されたそれぞれの膜形成領域Aにむらなく充填される。もちろん、液状体90も第1隔壁部34の頭頂部34aや第2隔壁部35の頭頂部35aを乗り越えない程度に吐出される。
【0059】
液状体90は、溶媒中に赤色、緑色、青色の蛍光または燐光を発光する発光層形成材料を含んだものを用いる。好適な発光層形成材料としては、ポリオレフィン系ポリマー蛍光材料やポリフルオレン誘導体(PF)が挙げられる。なお、PF以外の発光層形成材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、PEDOT等のポリチオフェニレン誘導体、ポリメチルフェニレンシラン(PMPS)等を用いることができる。また、これらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素等の高分子材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクドリン等低分子材料をドープしたものを用いてもよい。
実施例1では、シクロヘキシルベンゼン(CHB)30wt%とイソプロピルビフェニル(IPB)70wt%とを含む溶媒にポリオレフィン系ポリマー蛍光材料を0.7wt%含んだ溶液を用いた。
中央領域SA1における乾燥後の膜厚がおよそ80nmとなるように上記所定量を設定し、周辺領域SA2では、該所定量の2倍の塗布量で液状体90を塗布した。
【0060】
そして、図7(i)に示すように、液状体90が塗布された素子基板1を減圧乾燥して、例えば窒素などの不活性ガス雰囲気で熱処理(130℃、1時間程度)を施す。
塗布された各色の液状体90は、それぞれ対応する膜形成領域Aを区画する第1隔壁部34の側壁34bや第2隔壁部35の側壁35bにおいて確実にピニングされる。また、中央領域SA1と周辺領域SA2との乾燥速度の差が抑制されている。したがって、先に成膜された中間層24mの表面に沿って断面形状が安定した発光層24Lが塗布領域SAに亘って得られる。なお、液状体90は、発光色ごとの吐出ヘッド50から対応する同色の膜形成領域Aに対して吐出されることは言うまでもない。そして、ステップS5へ進む。
【0061】
ステップS5の共通電極形成工程では、図7(j)に示すように、形成された各色の発光層24Lと第1隔壁部34および第2隔壁部35を覆うように陰極としての共通電極27を形成する。これにより有機EL素子20が完成する。
共通電極27の材料としては、Ca、Ba、Mg、Al等の金属とLiF等のフッ化物とを組み合わせて用いるのが好ましい。特に機能層24に近い側に仕事関数が小さいCa、Ba、LiFの膜を形成し、遠い側に仕事関数が大きいMg、Alを形成するのが好ましい。また、共通電極27の上にSiO2、SiN等の保護層を積層してもよい。このようにすれば、共通電極27の酸化を防止することができる。
共通電極27の形成方法としては、蒸着法、スパッタ法、CVD法等が挙げられる。特に機能層24の熱による損傷を防止できるという点では、蒸着法が好ましい。
実施例1では、Caをおよそ5nm、Alをおよそ300nm、この順に蒸着して反射性を有する共通電極27を形成した。
【0062】
駆動回路部と有機EL素子20とが形成された素子基板1と、封止基板2とを封止樹脂層30を介し、シール材を用いて接合することにより有機EL装置10が完成する。
【0063】
このような実施例1の有機EL装置10の製造方法によれば、機能層24における正孔注入層24h、中間層24m、発光層24Lをそれぞれ安定した膜厚および断面形状で歩留りよく形成することができる。すなわち、異なる発光色ごとに輝度むらが低減されたボトムエミッション型の有機EL素子20を有する有機EL装置10を歩留りよく製造することができる。
【0064】
(実施例2)
次に、有機EL装置10における実施例2の隔壁部の構成と有機EL装置10の製造方法について、図8〜図12を参照して説明する。図8は実施例2の隔壁部の構成を示す概略断面図、図9は実施例2の有機EL装置の製造方法を示すフローチャート、図10(a)〜(f)および図11(g)〜(j)ならびに図12(k)〜(p)は実施例2の有機EL装置の製造方法を示す概略断面図である。
実施例2の隔壁部の構成は、実施例1に対して第1隔壁部上に第2隔壁部を積層させたものである。したがって、実施例1と同じ構成には同じ符号を付して、詳細の説明は省略する。
【0065】
図8に示すように、画素電極23を含む膜形成領域Aを区画する実施例2の隔壁部36は、第1隔壁部34と、第1隔壁部34上に設けられ、第1隔壁部34よりも幅狭に設けられた第2隔壁部35とを有している。第1隔壁部34と第2隔壁部35とにより段差部36aが構成されている。
第1隔壁部34の上面34aと、第2隔壁部35の上面すなわち頭頂部35aとに撥液性が付与されている。また、第2隔壁部35の頭頂部35aに対して第1隔壁部34の上面34aは低い撥液性を有している。
すなわち、隔壁部36は、その断面形状において側壁に段差部36aを有している。その上面34aは、素子基板1の表面に対してほぼ平行で平であると共に、隔壁部36の頭頂部35aに比べて低い撥液性を有している。隔壁部36の側壁は、段差部36aの上面34aに比べてその下方側と上方側とで液状体に対してさらに低い撥液性(言い換えれば、親液性)を示す。
第1隔壁部34の高さh1はおよそ2μmであり、第2隔壁部35の高さh2もおよそ2μmである。したがって、隔壁部36の高さhは、およそ4μmである。
【0066】
図9に示すように、実施例2の有機EL装置10の製造方法は、第1隔壁部形成工程(ステップS11)と、第2隔壁部形成工程(ステップS12)と、正孔注入層形成工程(ステップS13)と、中間層形成工程(ステップS14)と、発光層形成工程(ステップS15)と、共通電極形成工程(ステップS16)とを備えている。ステップS13〜ステップS15が機能層形成工程に相当する。
【0067】
ステップS11の第1隔壁部形成工程では、図10(a)に示すように、まず素子基板1の画素電極23が設けられた側の表面を覆うように前述した撥液剤(DIC社製のフッ素系添加剤R−30)を含む感光性樹脂材料を用い、スピンコート法やロールコート法などの塗布方法で均一に塗布し乾燥させて塗布膜34Pを形成する。塗布膜34Pの厚みh1はおよそ2μmである。
感光性樹脂材料としては例えばフェノール系やエポキシ系あるいはポリイミド系の所謂レジスト材料が挙げられ、該撥液剤を含有量がおよそ0.2wt%となるように添加した。
【0068】
次に、成膜された塗布膜34Pを熱処理する。加熱温度は、およそ100℃〜120℃である。熱処理を施すことによって、図10(b)に示すように、撥液剤は塗布膜34Pの表層に向かって熱拡散する。したがって、塗布膜34Pの表面近傍では撥液剤の濃度が高く、バルクでは濃度が低下した状態が得られる。
【0069】
そして、塗布膜34Pをフォトリソグラフィー法により露光・現像することにより、図10(c)に示すように、所望の幅を有する第1隔壁部34を形成する。これにより、第1隔壁部34の上面34aに撥液性が付与され、上面34aに比べて撥液性が低下した側壁34bを形成することができる。そして、ステップS12へ進む。
【0070】
ステップS12の第2隔壁部形成工程では、第1隔壁部34を形成したと同様な方法で第2隔壁部35を形成する。具体的には、図10(d)に示すように、上記撥液剤を含む感光性樹脂材料を用いて第1隔壁部34を覆うように塗布膜35Pを形成し、同じく熱処理を施す。塗布膜35Pの厚みh2はおよそ2μmである。このときの撥液剤の含有量はおよそ1.0wt%であり、第1隔壁部34を形成したときに比べて濃度を高くしている。
【0071】
次に塗布膜35Pをフォトリソグラフィー法により露光・現像して、図10(e)に示すように、第1隔壁部34に比べて幅が狭い第2隔壁部35を第1隔壁部34上に形成する。
素子基板1の表面に平行な方向における第1隔壁部34間の間隔L1に比べて第2隔壁部35間の間隔L2を大きく設定することで、隔壁部36の側壁に段差部36aが形成される。段差部36aの上面34aは撥液性が維持されている。また、隔壁部36の頭頂部すなわち第2隔壁部35の上面35aは、上記撥液剤の濃度を高くしたことにより、段差部36aの上面34aに比べて高い撥液性を有する。
【0072】
なお、第1隔壁部34の厚みh1と第2隔壁部35の厚みh2は、塗布される液状体の種類とその濃度や膜形成領域Aに対する充填量を考慮して決められるものである。段差部36aの幅L3は、段差部36aを乗り越えた液状体のピニング性を考慮すると、およそ1μm以上が望ましい。さらに、隣接する膜形成領域A間で塗布された液状体が混じり合わないように第2隔壁部35の幅L4を設定することが望ましい。そして、ステップS13へ進む。
【0073】
以降の実施例2における正孔注入層形成工程、中間層形成工程、発光層形成工程は、実施例1と同様に塗布領域SAのうち中央領域SA1と周辺領域SA2とにおける液状体の塗布量を異ならせるものであるが、実施例1に対して液状体充填時における基準(目安)が異なっている。したがって、同一工程ではあるが説明の都合上、中央領域SA1における液状体の塗布を先に説明し、周辺領域SA2における液状体の塗布を後に説明するものである。
【0074】
ステップS13の正孔注入層形成工程では、図10(f)に示すように、隔壁部36により区画された中央領域SA1の膜形成領域Aに前述したように吐出ヘッド50から正孔注入層形成材料を含む所定量の液状体70を液滴として塗布する。
【0075】
このとき、隔壁部36の段差部36aを基準(目安)として、段差部36aを越えない程度の所定量の液状体70を塗布する。塗布された液状体70をむらなく膜形成領域Aに行き渡らせるために、液状体70を塗布する前にO2(酸素)を処理ガスとするプラズマ処理を施してもよい。これにより、無機材料からなる画素電極23の表面と、撥液剤の濃度が低い第1隔壁部34の側壁34b(第2隔壁部35の側壁35b)とに親液性を付与することができる。
【0076】
そして、ランプアニールや減圧乾燥などの方法で液状体70を乾燥させ、熱処理(200℃、10分程度)を施すことにより、正孔注入層24hを成膜する。乾燥過程で液状体70は第1隔壁部34の側壁34bにおいて確実にピニングされるので、断面形状が安定しほぼ一定の膜厚(およそ50nm)を有する正孔注入層24hが得られる。そして、ステップS14へ進む。
【0077】
ステップS14の中間層形成工程では、図11(g)に示すように、隔壁部36により区画された中央領域SA1の膜形成領域Aに吐出ヘッド50から中間層形成材料を含む所定量の液状体80を液滴として塗布する。
【0078】
このとき、隔壁部36の段差部36aを基準(目安)として、段差部36aを越えない程度の所定量の液状体80を塗布する。
【0079】
そして、図11(h)に示すように、液状体80が塗布された素子基板1を減圧乾燥して、例えば窒素などの不活性ガス雰囲気で熱処理(130℃、1時間程度)を施すことにより、中間層24mを成膜する。乾燥過程で液状体80は第1隔壁部34の側壁34bにおいて確実にピニングされるので、断面形状が安定しほぼ一定の膜厚(およそ10nm)を有する中間層24mが得られる。そして、ステップS15へ進む。
【0080】
ステップS15の発光層形成工程では、図11(i)に示すように、隔壁部36により区画された中央領域SA1の発光色ごとの膜形成領域Aに吐出ヘッド50から発光層形成材料を含む所定量の液状体90を液滴として塗布する。
【0081】
このとき、隔壁部36の段差部36aを基準(目安)として、段差部36aを越えない程度の所定量の液状体90を塗布する。
【0082】
そして、図11(j)に示すように、液状体90が塗布された素子基板1を減圧乾燥して、例えば窒素などの不活性ガス雰囲気で熱処理(130℃、1時間程度)を施すことにより、発光色ごとに発光層24Lを成膜する。乾燥過程で液状体90は第1隔壁部34の側壁34bにおいて確実にピニングされるので、断面形状が安定しほぼ一定の膜厚(およそ80nm)を有する発光層24Lが得られる。
【0083】
一方、塗布領域SAのうちの周辺領域SA2では、ステップS13の正孔注入層形成工程において、図12(k)に示すように、隔壁部36における第2隔壁部35の頭頂部35aを基準(目安)として液状体70を塗布する。このときの液状体70の塗布量は、中央領域SA1における上記所定量に対してほぼ2倍であり、頭頂部35aを越えない程度とする。
【0084】
同じく、ステップS14の中間層形成工程において、図12(m)に示すように、隔壁部36における第2隔壁部35の頭頂部35aを基準(目安)として液状体80を塗布する。このときの液状体80の塗布量は、中央領域SA1における上記所定量に対してほぼ2倍であり、頭頂部35aを越えない程度とする。
【0085】
同じく、ステップS15の発光層形成工程において、図12(n)に示すように、隔壁部36における第2隔壁部35の頭頂部35aを基準(目安)として発光色ごとの液状体90を塗布する。このときの液状体90の塗布量は、中央領域SA1における上記所定量に対してほぼ2倍であり、頭頂部35aを越えない程度とする。
【0086】
このように周辺領域SA2において各液状体70,80,90を塗布することにより、図12(p)に示すように、膜形成領域Aにおいて安定した膜形状を有する正孔注入層24h、中間層24m、発光層24Lを積層形成することができる。また、中央領域SA1と周辺領域SA2とでそれぞれの液状体70,80,90の塗布量を異ならせることにより、乾燥速度の差が抑制(緩和)され、相互にほぼ同等の膜厚と類似の膜形状を有する機能層24が形成される。
【0087】
なお、段差部36aを有する隔壁部36によって区画された膜形成領域Aにおいて頭頂部35aを基準(目安)として各液状体70,80,90を充填するとき、段差部36aの上面34aの撥液性は頭頂部35aに比べて低いので、充填された各液状体70,80,90が比較的容易に段差部36aを乗り越えて第2隔壁部35の側壁35bにまで到達し易い。したがって、乾燥過程において各液状体70,80,90は、第2隔壁部35の親液処理された側壁35bに安定的にピニングされる。それゆえに、周辺領域SA2において中央領域SA1よりも多くの塗布量で各液状体70,80,90を塗布しても、それぞれに含有している機能層形成材料が側壁35bの表面および段差部36aにおいて固定(固化)されるため、中央領域SA1とほぼ同等の膜厚とすることができる。
【0088】
なお、上記実施例1および実施例2では、周辺領域SA2の膜形成領域Aに塗布される液状体70,80,90の塗布量を中央領域SA1の所定量に比べてほぼ2倍としたが、これに限定されるものではない。実際には、隔壁部により区画された膜形成領域Aに各有機膜をそれぞれどの程度の厚みで形成するのか考慮して、隔壁部の高さと上記所定量や上記塗布量を設定する。
【0089】
次に、塗布領域SAと中央領域SA1および周辺領域SA2の平面的な設定について、図13を参照して説明する。図13(a)〜(c)は塗布領域、中央領域、周辺領域の設定の仕方を示す概略平面図である。
【0090】
上記実施例1および実施例2では、1つの素子基板1に対して塗布領域SAとこれに含まれる中央領域SA1および周辺領域SA2を設定している。しかしながら、実際の有機EL装置10の製造にあたっては、1つの素子基板1に複数の有機EL素子20を形成するよりも、より大きなマザー基板に複数の素子基板1を面付けして、それぞれに複数の有機EL素子20を形成するほうが効率的である。
【0091】
例えば、図13(a)に示すように、マザー基板W1にはマトリクス状に複数(9個)の素子基板1が面付けされている。それぞれの素子基板1に対応して複数の有機EL素子20を形成し発光領域EAとする。塗布領域SAおよび中央領域SA1ならびに周辺領域SA2は、マザー基板W1に塗布される液状体の乾燥条件を考慮して決める必要があり、取り分けマザー基板W1の大きさが大きいほど、中心部と外周部との乾燥速度の差が大きくなり易い。したがって、塗布領域SAは、複数の素子基板1が面付けされた領域を含むように設定し、例えば中央領域SA1は、中央に位置した素子基板1とマザー基板W1の外周に沿って配置された8つの素子基板1のうち中央寄りの部分を含む四角形の領域とする。したがって、周辺領域SA2は、塗布領域SAにおける外縁と中央領域SA1との間の領域である。
【0092】
また、例えば、図13(b)に示すように、マザー基板W1における塗布された液状体の乾燥速度は、マザー基板W1の平面的な中心から外周に向かって早くなる傾向があるため、中央領域SA1はマザー基板W1の上記中心を中心とした円形あるいは楕円形であることが好ましい。
【0093】
また、例えば、図13(c)に示すように、素子基板1の面積が比較的に小さくマザー基板W1に面付けしたときに、多数の素子基板1がマトリクス状に面付けされる場合、面付けされた1つの素子基板1を単位として、塗布領域SAのうちの中央領域SA1および周辺領域SA2を設定してもよい。このようにすれば、液状体の塗布量を中央領域SA1と周辺領域SA2とで異ならせる塗布管理が容易となる。より具体的には、吐出ヘッド50を用いて液状体を吐出するために作成する吐出データ(吐出位置、吐出量など)の作成が容易となる。
【0094】
有機EL装置10における素子基板1やマザー基板W1の大きさは設計事項であって、前述したように実際の乾燥条件を加味して中央領域SA1や周辺領域SA2の設定を行う必要がある。したがって、上記実施例1のように周辺領域SA2の膜形成領域Aを区画する第2隔壁部35の高さを第1隔壁部34よりも高くするには、試行が必要である。
これに対して、上記実施例2の隔壁部36の構成は、膜形成領域Aへの液状体の充填時における基準(目安)を頭頂部35aと段差部36aとで使い分ければよいので、図13(a)〜(c)に示した中央領域SA1および周辺領域SA2の設定に対して、柔軟に対応ができるという特徴を有している。
【0095】
次に、膜形成領域Aに充填される液状体の所定量(塗布量)について、補足説明する。
本実施形態の有機EL装置10における有機EL素子20とりわけ機能層24の構成は、これに限定されるものではない。上記実施例1および上記実施例2における液状体70,80,90の構成は、機能層形成材料の種類などにより溶媒の選択も変わる。
【0096】
例えば、液状体70における溶媒は、正孔注入層形成材料として水溶性のPEDOT/PSSを用いたので、トリエチレングリコール(TEG)60wt%と水(純水)40wt%とを含む溶媒構成SL1とした。これに対して、TEGよりも沸点が低い例えばジエチレングリコール(DEG)を添加すれば、乾燥性を改善できる(言い換えれば、乾燥時間を短縮できる)。例えば、TEG40wt%とDEG20wt%と水(純水)40wt%とを含む溶媒構成SL2としてもよい。そのときには、膜形成領域Aに充填する液状体70の所定量を溶媒構成SL1に比べて例えばおよそ2倍とすることが好ましい。つまり、溶媒構成SL2では液状体70の溶媒の沸点が低下し(蒸気圧が上昇し)、乾燥速度が早くなるので、所定量(塗布量)を増やすことによって中央領域SA1と周辺領域SA2との乾燥速度の差が著しくなることを抑制(緩和)できる。ちなみに、TEGの沸点は287℃であり、DEGの沸点は244℃である。
【0097】
また、液状体80,90における溶媒は、中間層形成材料および発光層形成材料として非水溶性のポリオレフィン系ポリマー蛍光材料を用いたので、シクロヘキシルベンゼン(CHB)30wt%とイソプロピルビフェニル(IPB)70wt%とを含む溶媒構成SL3とした。特に発光層24Lの膜厚むらは輝度むらに繋がるためより均一であることが求められる。そこで、ゆっくりと乾燥させ液状体90のレベリングを図ることが好ましく、例えば、CHBよりも沸点が高いIPB100wt%の溶媒構成SL4としてもよい。そのときには、膜形成領域Aに充填する液状体90の所定量を溶媒構成SL3に比べて例えばおよそ半分(0.5)とすることが好ましい。つまり、溶媒構成SL4では液状体90の溶媒の沸点が上昇し(蒸気圧が低下し)、乾燥速度が遅くなるので、所定量(塗布量)を減らすことによって中央領域SA1と周辺領域SA2との乾燥速度の差をより抑制(緩和)できる。ちなみに、CHBの沸点は243℃であり、IPBの沸点は300℃である。
【0098】
なお、上記において溶媒構成SL2の液状体70の所定量を溶媒構成SL1に対しておよそ2倍とし、溶媒構成SL4の液状体90の所定量を溶媒構成SL3に対しておよそ半分(0.5)としたが、これに限定されない。実際には、乾燥条件に基づく各溶媒構成の蒸気圧を考慮して設定する。液状体80の場合も同様である。
【0099】
次に、隔壁部の変形例について、図14〜図24を参照して説明する。図14〜図24は変形例1〜変形例11の隔壁部の構成を示す概略図である。詳しくは図14は上記実施例1に対する変形例1の隔壁部の構成を示す概略断面図であり、図15〜図24は、上記実施例2に対する変形例2〜変形例11の隔壁部の構成を示す概略図である。
【0100】
(変形例1)
図14に示すように、変形例1の第2隔壁部35は、第1隔壁部34を内包している。つまり、塗布領域SAにおけるすべての膜形成領域Aをそれぞれ区画するように第1隔壁部34を形成した後に、周辺領域SA2にあたる膜形成領域Aを区画するように第1隔壁部34を覆って第2隔壁部35を形成する。
このような構成およびその形成方法によれば、第1隔壁部34と第2隔壁部35とを選択的に形成する場合に比べて、隔壁部形成工程を簡略化できる。また、第1隔壁部34の開口に比べて第2隔壁部35の開口を狭くできる。つまり、周辺領域SA2における乾燥速度の調整が可能となる。
【0101】
(変形例2)
図15に示すように、変形例2の隔壁部36Bは、画素電極23の周囲に設けられた構造物40と、構造物40を挟んだ内側と外側とに設けられた第1隔壁部34cと、構造物40上に設けられた第2隔壁部35とにより構成されている。実際には、冒頭で説明したように有機EL装置10は、異なる発光色が得られる発光画素7(図1参照)がストライプ状に配置されているので、異なる発光色の発光画素7間に設けられた構造物40の内側と外側とにはそれぞれ異なる発光色が得られる機能層24が設けられている。また、同じ発光色の発光画素7間に設けられた構造物40の内側と外側とにはそれぞれ同じ発光色が得られる機能層24が設けられている。第1隔壁部34cの配置について言い換えるならば、平面的に見て構造物40の外縁に沿って機能層24が形成される側に第1隔壁部34cが設けられている。構造物40の外側に機能層24を設ける必要がなければ第1隔壁部34cを設けなくてもよい。
【0102】
第1隔壁部34cと第2隔壁部35は、実施例2と同様に撥液剤を含む感光性樹脂材料を用いて形成されている。画素電極23と構造物40とを覆うように該感光性樹脂材料からなる塗布膜を素子基板1上に形成する。塗布膜の膜厚がほぼ構造物40の高さと同程度となるように成膜する。そして、熱処理を施した後に塗布膜を露光・現像して高さが構造物40とほぼ同じで、画素電極23を区画する第1隔壁部34cを形成する。現像工程では、構造物40の上面が露出するように現像を行う。
【0103】
次に、再び撥液剤を含む感光性樹脂材料を用いて、画素電極23と第1隔壁部34cと構造物40とを覆うように塗布膜を形成して熱処理を施す。そして、熱処理された塗布膜を露光・現像して構造物40上に構造物40とほぼ同じ幅の第2隔壁部35を形成する。これにより、構造物40を挟んで形成された第1隔壁部34cと構造物40上に形成された第2隔壁部35とにより、側壁部分に段差部36Baを構成する。
【0104】
上記感光性樹脂材料における撥液剤の含有量は、実施例1と同様に、第1隔壁部34cの場合がおよそ0.2wt%、第2隔壁部35の場合がおよそ1.0wt%である。また、構造物40に外周に沿って設けられた第1隔壁部34cの幅は1μm以上とすることが望ましい。
【0105】
これにより、上面34a’の撥液性が頭頂部35aよりも低くほぼ平らな段差部36Baを得ることができる。
【0106】
画素電極23の周囲に設けられる構造物40としては、例えば、図2に示したように、駆動回路部を構成する走査線5a、電源線5b、データ線6の主たる配線や、TFT11,12や保持容量13などの素子が考えられる。特に上記配線は、Alなどの低抵抗金属材料が用いられ、配線抵抗を確保するためにも数百nmから数千nm(数μm)の厚みで設けられる。また、図2に示すように、走査線5aに対して並行する電源線5bを実際に設ける場合には、走査線5aを形成した後に、これに重なるように絶縁層を介して電源線5bを積層することがある。したがって、構造物40は、単一の構成だけでなく、複数の構成の積層体をも含むものである。上記のような構造物40を利用して隔壁部36Bを形成すれば、隔壁部36Bを形成するためのスペースをわざわざ確保する必要がない。言い換えれば、高精細な発光画素7にも対応可能である。
【0107】
また、上記実施例2では、第1隔壁部34の上面34aに第2隔壁部35の前駆体である塗布膜35Pを形成する際に、上面34aの撥液性によって感光性樹脂材料が弾かれて塗布むらとなるおそれがあった。これに対して、変形例2では、低抵抗金属材料や絶縁層、あるいは半導体層などの無機材料から構成される構造物40上に塗布膜を形成するので、形成面において塗布むらを生ずることなく、安定した形状の第2隔壁部35が得られる。
【0108】
(変形例3)
画素電極23の周囲の構造物を利用する隔壁部は、変形例2に限らない。例えば、図16に示すように、第1隔壁部34cの高さが構造物40’の高さと必ずしも一致しないケースが考えられる。
【0109】
変形例3の隔壁部36Cは、画素電極23の周囲に設けられた構造物40’と、構造物40’を挟んだ内側と外側とに設けられ、構造物40’の高さよりも高い第1隔壁部34cと、構造物40’上に設けられた第2隔壁部35cとにより構成されている。第1隔壁部34cと第2隔壁部35cにより段差部36Caが構成されている。
【0110】
すなわち、構造物40’の高さが第1隔壁部34cの所望の高さと合致しない場合には、隔壁部36Cとしての高さを確保するため、構造物40’上に第2隔壁部35cの高さを調整して設ければよい。
【0111】
また、前述したように、構造物が駆動回路部を構成する配線等からなる場合、走査線5aや電源線5bの延在方向と、データ線6の延在方向とでは構造物の高さが異なることも考えられるので、構造物を含む隔壁部を設ける方向によって、変形例2の隔壁部36Bと変形例3の隔壁部36Cとが混在することもあり得る。
【0112】
(変形例4)
さらには、図17に示すように、変形例4の隔壁部36Dは、画素電極23の周囲に設けられた構造物40’と、構造物40’を挟んだ内側と外側とに設けられ、構造物40’の高さよりも高い第1隔壁部34cと、構造物40’上に設けられた第2隔壁部35dとにより構成されている。
【0113】
第2隔壁部35dの幅は、構造物40’の幅よりも狭い。したがって、第1隔壁部34cと構造物40’と第2隔壁部35dとにより、隔壁部36Dの側壁に溝状の段差部36Daが構成される。隔壁部36Dにより区画された膜形成領域Aに段差部36Daを越えるように例えば液状体80,90を充填すると、溝状の段差部36Daによって液状体80,90が受け止められ、第2隔壁部35dの側壁35bに確実にピニングして、中間層24mや発光層24Lを成膜することができる。
【0114】
なお、前述したように構造物を含む隔壁部を形成する方向によって、これら変形例2〜変形例4の隔壁部36B,36C,36Dの中から選んで組み合わせてもよい。
【0115】
次に説明する変形例5〜実施例9は、上記実施例2に対して隔壁部の構成並びに隔壁部に対する撥液性の付与方法を異ならせた例である。実施例2と同じ構成には同じ符号を付して詳細の説明は省略する。
【0116】
(変形例5)
図18(a)に示すように、変形例5の隔壁部36Eは、画素電極23を区画する第1隔壁部34と、第1隔壁部34上に設けられ、第1隔壁部34よりも幅が狭い第2隔壁部35と、第2隔壁部35上に設けられた撥液層35eとにより構成されている。第1隔壁部34と第2隔壁部35とにより隔壁部36Eの側壁に段差部36Eaが構成されている。段差部36Eaの上面34aには撥液性が付与されている。
【0117】
隔壁部36Eの形成方法は、図18(b)に示すように、実施例2と同様にして撥液剤を含む感光性樹脂材料(レジスト材料)を用いて塗布膜を形成し、熱処理された塗布膜を露光・現像することにより、上面34aに撥液性が付与された第1隔壁部34を形成する。そして、撥液剤を含まない感光性樹脂材料を用いて、第1隔壁部34が形成された素子基板1の表面を覆うように塗布膜を形成し、露光・現像することにより、第1隔壁部34上に幅が狭い第2隔壁部35を形成する。
【0118】
次に、図18(c)に示すように、撥液剤が基材上に塗布されて成膜化された転写部材を周面にゴムなどの弾性体が設けられた転写ローラーによって、成膜化された撥液剤が第2隔壁部35の上面35aに押し付けられるように押圧する。これにより、図18(d)に示すように、基材上に成膜化された撥液剤が第2隔壁部35の上面35aに転写され、撥液層35eが形成される。
【0119】
したがって、第1隔壁部34の上面34aに対する撥液性の付与方法と第2隔壁部35の上面35aに対する撥液性の付与方法とが異なっている。
【0120】
変形例5では、基材として厚さ約20μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)を用い、PETフィルム上に、フッ素系化合物を含有した撥液剤をバーコーターで約80nmの厚さで塗布し、約100℃で加熱乾燥して成膜化した。なお、撥液剤としては、住友スリーエム社製のノベック(登録商標)EGC−1720を用いている。なお、撥液剤としてはシリコーン化合物を含むものも採用することができる。
【0121】
このような隔壁部36Eの構成ならびに形成方法によれば、熱拡散により第2隔壁部35の上面35aに撥液性を付与する場合に比べて、素子基板1に対する熱処理の工程を減らすことができ、省エネルギーに貢献できる。また、隔壁部36Eにおける頭頂部(上面)35aの撥液性と段差部36Eaの上面34aの撥液性の水準を容易に異ならせることができる。熱拡散によって付与される撥液性に比べて転写法によって形成された撥液層35eの方が高い撥液性を容易に実現できる。また、選択的に撥液層35eを形成できるので第2隔壁部35自体の親液性を確保できる。
【0122】
なお、変形例5では、第2隔壁部35の上面に転写法を用いて撥液層35eを形成したが、第2隔壁部35と同様に、撥液剤を含まない第1隔壁部34上に撥液層を転写法により形成してもよい。さらに熱処理の工程を減らすことができる。
【0123】
(変形例6)
図19に示すように、変形例6の隔壁部36Fは、素子基板1上において画素電極23の周囲に設けられた構造物43と、構造物43を挟んで内側と外側とに設けられ、構造物43の高さよりも低い第1隔壁部34dとにより構成されている。構造物43の上面には撥液層43aが設けられ、第1隔壁部34dの上面には撥液層34eが設けられている。
隔壁部36Fの側壁において、構造物43と第1隔壁部34dとにより段差部36Faが構成されている。
【0124】
撥液層43aおよび撥液層34eは、変形例5に示した転写法により形成されている。構造物43と第1隔壁部34dとの高さの差、つまり段差部36Faの段差がμmオーダーなので、1回の転写によって撥液層43aと撥液層34eとを形成することができる。
また、転写法を用いて第1隔壁部34dの上面に撥液層34eを形成すると、該上面の構造物43の側壁43bに近い側には転写され難い。つまり、段差部36Faの側壁43b寄りに撥液層34eがない撥液性が低い部分が形成される。
【0125】
また、段差部36Faを越えた部分の構造物43の側壁43bは、主に無機材料を用いて構造物43が形成されているため、液状体70,80,90に対して親液性を示す。
したがって、隔壁部36Fによって区画された膜形成領域Aに液状体70,80,90を充填する際に、段差部36Faが基準(目安)となり、成膜後の断面形状が安定した異種の有機薄膜(正孔注入層24h、中間層24m、発光層24L)が得られる。
【0126】
変形例6によれば、変形例2〜変形例4に比べて第2隔壁部35を形成しなくてもよいので、構成ならびに形成方法が簡略化された隔壁部36Fを提供できる。
【0127】
(変形例7)
図20に示すように、変形例7の隔壁部36Gは、素子基板1上において画素電極23の周囲に設けられた構造物44と、構造物44上に設けられ、構造物44よりも幅が狭い第2隔壁部35とにより構成されている。隔壁部36Gの側壁において、構造物44と第2隔壁部35とにより段差部36Gaが構成されている。
【0128】
段差部36Gaの上面に撥液層44aが設けられ、第2隔壁部35の上面に撥液層35eが設けられている。撥液層44aおよび撥液層35eは、変形例5に示した転写法により形成されている。構造物44上における第2隔壁部35の高さ、つまり段差部36Gaの段差がμmオーダーなので、1回の転写によって撥液層44aと撥液層35eとを形成することができる。
構造物44は、前述したように主に無機材料が用いられており、その側壁44bは親液性を示す。
また、転写法を用いて構造物44の上面に撥液層44aを形成すると、第2隔壁部35の側壁35bに近い側には転写され難い。つまり、段差部36Gaの側壁35b寄りに撥液層44aがない親液性を有する部分が露出する。
【0129】
したがって、隔壁部36Gによって区画された膜形成領域Aに液状体70,80,90を充填する際に、段差部36Gaが基準(目安)となり、成膜後の断面形状が安定した異種の有機薄膜(正孔注入層24h、中間層24m、発光層24L)が得られる。
【0130】
変形例7によれば、変形例2〜変形例4に比べて第1隔壁部34cを形成しなくてもよいので、構成ならびに形成方法が簡略化された隔壁部36Gを提供できる。
【0131】
(変形例8)
図21に示すように、変形例8の隔壁部36Hは、素子基板1上において画素電極23の周囲に設けられた構造物45と、構造物45を挟んで内側と外側とに設けられ、構造物45の高さよりも低い第1隔壁部34dと、構造物45上に設けられ、構造物45よりも幅がわずかに狭い第2隔壁部35により構成されている。第1隔壁部34dの上面には撥液層34eが設けられ、第2隔壁部35の上面には撥液層35eが設けられている。
隔壁部36Hの側壁において、第1隔壁部34dと構造物45と第2隔壁部35とにより段差部36Haが構成されている。
【0132】
撥液層34eおよび撥液層35eは、変形例5に示した転写法により形成されている。第1隔壁部34dの上面と第2隔壁部35の上面との高さの差、つまり段差部36Haの段差がμmオーダーなので、1回の転写によって撥液層34eと撥液層35eとを形成することができる。
また、転写法を用いて第1隔壁部34dの上面に撥液層34eを形成すると、該上面の構造物45の側壁に近い側には転写され難い。つまり、段差部36Haの構造物45寄りに撥液層34eがない撥液性が低い部分が形成される。
【0133】
また、段差部36Haを越えた部分の構造物45は、主に無機材料を用いて形成されているため、液状体70,80,90に対して親液性を示す。
したがって、隔壁部36Hによって区画された膜形成領域Aに液状体70,80,90を充填する際に、段差部36Haが目安となり、成膜後の断面形状が安定した異種の有機薄膜(正孔注入層24h、中間層24m、発光層24L)が得られる。
【0134】
変形例8によれば、段差部36Haにおいて親液性を有する2段の段差を形成することができる。
【0135】
(変形例9)
図22に示すように、変形例9の隔壁部36Kは、素子基板1上において画素電極23の周囲に設けられた構造物46を立体的に内包している。その頭頂部の幅は構造物46の幅とほぼ等しく、頭頂部から素子基板1に至る側壁には、素子基板1の表面とほぼ平行で平らな上面36pを有する段差部36Kaが設けられている。段差部36Kaを挟んで上下に傾斜した側壁36n,36qが設けられている。頭頂部と段差部36Kaの上面とには、撥液層36mが設けられている。
【0136】
このような隔壁部36Kの形成方法としては、画素電極23や構造物46が形成された素子基板1の表面を感光性樹脂材料で覆って塗布膜を形成する。塗布膜を露光・現像して構造物46を内包する隔壁部36Kを形成する。隔壁部36Kの側面に段差部36Kaや傾斜した側壁36n,36qを形成する方法としては、当該部分に対応して露光量を変化させる方法が挙げられる。例えば、ポジ型の感光性樹脂材料を用いた塗布膜であれば、塗布膜を完全に残したい部分はフォトマスクにおいて遮光する。現像により塗布膜を初期の膜厚より減膜させて残したい部分は光の透過率が減少するようにフォトマスクを形成しておく。
【0137】
上記のようにして形成された隔壁部36Kの頭頂部と段差部36Kaの上面とに、変形例5で示した転写法を用いて撥液層36mを形成する。
【0138】
したがって、隔壁部36Kにより区画された膜形成領域Aに液状体70,80,90を充填する際に、段差部36Kaが目安となり、成膜後の断面形状が安定した異種の有機薄膜(正孔注入層24h、中間層24m、発光層24L)が得られる。
【0139】
変形例9によれば、隔壁部36Kを第1隔壁部34や第2隔壁部35に分けて形成せず、一度のフォトリソ(露光・現像)工程で形成できるので、生産性を向上させることができる。
【0140】
(変形例10)
図23に示すように、機能層24が設けられる膜形成領域Aが略矩形状である場合、例えば上記実施例2の隔壁部36における段差部36aは、膜形成領域Aの短辺側(短手側)に沿って設けてもよい。つまり、膜形成領域Aの長辺側(長手側)に沿うB−B’線で切った断面図が図8に相当する。膜形成領域Aの短辺側(短手側)に沿うC−C’線で切った断面図では、段差部36aがない構造となる。
【0141】
膜形成領域Aが平面的に略矩形状であるとき、膜形成領域Aに液状体を充填してゆくと、長辺側から先に溢れてしまう。また、短辺側に液状体を濡れ広がらせることが難しく塗布むらが生じ易い。したがって、短辺側に沿って液状体を確実に充填するのが難しいので、短辺側に沿った隔壁部36に段差部36aを設けて充填の目安とすることが、ピニング位置を安定させて断面形状が安定した有機薄膜を形成することに繋がる。
膜形成領域Aが短手や長手方向を特定し難い例えば平面的に円形であるならば、円周に沿って段差部36aを有する隔壁部36を形成することが望ましい。
【0142】
(変形例11)
また、上記実施例2では1つの膜形成領域Aを隔壁部36によって区画したが、これに限定されない。例えば、図24(a)および(b)に示すように、第1隔壁部34によって個々の有機EL素子20が設けられる領域を区画し、同じ発光色が得られる複数の有機EL素子20を含むように第2隔壁部35を第1隔壁部34上に設けてもよい。
【0143】
異なる発光色の有機EL素子20R,20G,20Bに共通する正孔注入層24hは、第1隔壁部34で区画された領域に液状体70を塗布して形成する。正孔注入層24h上に積層される中間層24mや発光層24Lは、第2隔壁部35により区画された領域に液状体80,90を塗布して形成する。このようにすれば、液状体80,90が塗布される領域が拡張されるので、同色の有機EL素子20に亘ってより安定した断面形状の中間層24mや発光層24Lを含む機能層24を得ることができる。もちろん、乾燥速度の差を抑制(緩和)する観点から中央領域SA1と周辺領域SA2とで液状体80,90の塗布量を異ならせることが好ましい。
【0144】
次に、液状体70,80,90の塗布に関する変形例について説明する。
(変形例12)
上記実施例1および上記実施例2では、隔壁部の頭頂部または段差部を基準(目安)として、中央領域SA1と周辺領域SA2における各液状体70,80,90の塗布量を異ならせたが、これに限定されない。
例えば、有機EL素子20の画素電極23と反射性を有する陰極としての共通電極27との間において所謂共振構造を採用した場合、機能層24と共通電極27との間の光学的な距離を発光色ごとの共振波長に対応させる必要がある。それゆえに、発光色ごとの機能層24の膜厚が変動することは避ける必要がある。したがって、膜厚の変動が輝度むらに影響し難い正孔注入層24hや中間層24mは、塗布領域SAに亘って第1隔壁部34の頭頂部34aまたは隔壁部36の段差部36aを基準(目安)として液状体70,80を充填することにより、極力膜厚を薄く形成する。その上に発光色ごとの液状体90を中央領域SA1と周辺領域SA2とで塗布量を異ならせて膜形成領域Aに充填するとしてもよい。
このような方法によれば、発光色ごとの機能層24の膜厚変動を抑制して、発光色ごとの共振構造に基づく高い輝度が得られる。
言い換えれば、中央領域SA1と周辺領域SA2とで塗布量を異ならせるのは、発光層形成材料を含む液状体90だけでもよい。
【0145】
(第2実施形態)
<電子機器>
次に、本実施形態の電子機器について、図25を参照して説明する。図25(a)は電子機器の一例としての携帯型電話機を示す図、同図(b)は電子機器の一例としての薄型テレビを示す図である。
【0146】
図25(a)に示すように、本実施形態の電子機器としての携帯型電話機500は、操作ボタン503を備えた本体502と、本体502にヒンジを介して折畳式に取り付けられた表示部501とを備えている。
表示部501には、上記実施形態の有機EL装置10が搭載されている。
したがって、機能層24における異種の有機薄膜が安定した断面形状で形成されている有機EL素子20を有しているので、発光寿命が長く見栄えのよい携帯型電話機500を提供することができる。
【0147】
図25(b)に示すように、本実施形態の他の電子機器としての薄型テレビ1000は、表示部1001に上記実施形態の有機EL装置10が搭載されている。
したがって、優れた耐久寿命と美しいフルカラー表示が可能な薄型テレビ1000を提供することができる。
【0148】
なお、有機EL装置10が搭載される電子機器は、携帯型電話機500や薄型テレビ1000に限定されず、例えば、パーソナルコンピューターや携帯型情報端末、ナビゲーター、ビューワーなどの表示部を有する電子機器が挙げられる。
また、有機EL装置10は赤(R)、緑(G)、青(B)の発光色が得られる有機EL素子20R,20G,20Bを有するとしたが、これに限定されない。複数の有機EL素子20から白色などの単色発光が得られる有機EL装置10とすれば、照明装置として利用することもできる。
【0149】
上記実施形態以外にも様々な変形例が考えられる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0150】
(変形例13)
上記第1実施形態において、有機EL素子20は、陽極としての画素電極23と陰極としての共通電極27との間に設けられ、発光層24Lを含む異種の有機薄膜が積層された機能層24を有する構成としたが、これに限定されない。例えば、陰極である共通電極27と発光層24Lとの間に正孔ブロック層、電子輸送層を蒸着法により積層してもよい。正孔ブロック層としては、BAlq、BCPなどが挙げられ、電子輸送層としてはAlq3などが挙げられる。正孔ブロック層は、発光層24Lから正孔が漏れることを抑制する機能を有する。電子輸送層は、発光層24Lに対する電子の輸送性(注入性)を向上させる機能を有する。言い換えれば、陽極と陰極との間に配置されたものを機能層とするならば、機能層は異種の有機薄膜からなるものに限定されず、有機薄膜と無機薄膜とを組み合わせて積層されたものでもよい。
【0151】
(変形例14)
上記第1実施形態において、有機EL素子20はボトムエミッション型であることに限定されない。例えば、画素電極23と共通電極27とをそれぞれ透明性を有するようにITOなどを用いて形成する。好ましくは、さらに素子基板1において画素電極23の下層に反射層を設ける。これにより、機能層24における発光が反射層で反射し、共通電極27側から射出するトップエミッション型としてもよい。
【0152】
(変形例15)
上記第1実施形態の実施例2において、隔壁部36の側壁に設けられる段差部36aは1段だけに限定されない。機能層24における異種の有機薄膜の構成に応じて、複数の段差部36aを設けてもよい。
【0153】
(変形例16)
上記第1実施形態の変形例5では、第1隔壁部34上に形成された第2隔壁部35の上面に転写法により撥液層35eを形成したが、第2隔壁部35と撥液層35eとの積層体を形成する方法は、これに限定されない。例えば、図18(c)に示した転写部材として基材の表面に対して撥液層、感光性樹脂層が順に形成されたものを用いる。これを第1隔壁部34を覆うように転写した後に、露光・現像して第2隔壁部35と撥液層35eとの積層体を形成してもよい。この方法は、上面34aに撥液性が付与された第1隔壁部34を形成する方法としても採用できる。
【符号の説明】
【0154】
1…基板としての素子基板、10…有機EL装置、20…有機EL素子、23…陽極としての画素電極、24…機能層、24h…正孔注入層、24m…中間層、24L…発光層、27…陰極としての共通電極、34…第1隔壁部、34a…第1隔壁部の上面または頭頂部、34e…撥液層、34P…塗布膜、35…第2隔壁部、35a…第2隔壁部の上面または頭頂部、35e…撥液層、35P…塗布膜、36…隔壁部、36a…段差部、70,80,90…液状体、500…電子機器としての携帯型電話機、1000…電子機器としての薄型テレビ、A…膜形成領域、SA…塗布領域、SA1…中央領域、SA2…周辺領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上において少なくとも発光層を含む機能層が複数設けられた有機EL装置の製造方法であって、
前記基板上における膜形成領域を区画すると共に、撥液性を有する頭頂部と親液性を有する側壁とを有する隔壁部を形成する隔壁部形成工程と、
前記頭頂部を基準として前記膜形成領域に機能層形成材料を含む液状体を充填して乾燥することにより前記機能層のうち少なくとも前記発光層を形成する機能層形成工程とを備え、
前記隔壁部形成工程は、複数の前記膜形成領域により構成される塗布領域のうち中央側に比べて周辺側の前記膜形成領域を区画する前記隔壁部の高さが高くなるように前記隔壁部を形成し、
前記機能層形成工程は、前記塗布領域のうち前記周辺側の前記膜形成領域では、前記中央側に比べて塗布量を多くして前記液状体を充填することを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項2】
前記隔壁部形成工程は、撥液剤を含有した感光性樹脂材料を用いて前記基板上に塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜を熱処理する工程と、
熱処理された前記塗布膜をパターニングして前記隔壁部を形成する工程とを含むことを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項3】
前記隔壁部形成工程は、感光性樹脂材料を用いて前記基板上に塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜をパターニングして前記隔壁部を形成する工程と、
前記隔壁部の前記頭頂部に撥液層を形成する工程とを含むことを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項4】
基板上において少なくとも発光層を含む機能層が複数設けられた有機EL装置の製造方法であって、
前記基板上における膜形成領域を区画すると共に、撥液性を有する頭頂部と親液性を有する側壁と前記側壁において上面が撥液性を有する少なくとも1つの段差部とを有する隔壁部を形成する隔壁部形成工程と、
前記膜形成領域に機能層形成材料を含む液状体を充填して乾燥することにより前記機能層のうち少なくとも前記発光層を形成する機能層形成工程とを備え、
前記機能層形成工程は、複数の前記膜形成領域により構成される塗布領域のうち中央側の前記膜形成領域では、前記段差部を基準として前記液状体を充填し、前記塗布領域のうち周辺側の前記膜形成領域では、前記頭頂部を基準として前記中央側に比べて塗布量を多くして前記液状体を充填することを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項5】
前記隔壁部形成工程は、上面が撥液性を有するように第1隔壁部を形成する第1隔壁部形成工程と、
上面が撥液性を有すると共に前記第1隔壁部よりも狭い幅の第2隔壁部を前記第1隔壁部上に形成する第2隔壁部形成工程とを含むことを特徴とする請求項4に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項6】
前記第1隔壁部形成工程および前記第2隔壁部形成工程は、撥液剤を含有した感光性樹脂材料を用いて前記基板上に塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜を熱処理する工程と、
熱処理された前記塗布膜をパターニングして前記第1隔壁部、前記第2隔壁部を形成する工程とを含むことを特徴とする請求項5に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項7】
前記第2隔壁部形成工程は、感光性樹脂材料を用いて前記第2隔壁部を前記第1隔壁部上にパターニング形成する工程と、
前記第2隔壁部の上面に撥液層を形成する工程とを含むことを特徴とする請求項5に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項8】
前記第1隔壁部形成工程は、上面の撥液性が前記第2隔壁部の上面の撥液性よりも低い前記第1隔壁部を形成することを特徴とする請求項5乃至7のいずれか一項に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項9】
前記機能層形成工程は、塗布する前記液状体の溶媒における沸点が低くなるほど前記膜形成領域に充填する前記液状体の塗布量を多くし、沸点が高くなるほど前記液状体の塗布量を少なくすることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項10】
前記基板上には、複数の前記塗布領域が面付けされており、前記基板の中心を基準として、前記塗布領域における前記中央側と前記周辺側とが区分されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項11】
前記中央側と前記周辺側とが前記塗布領域を単位として区分されていることを特徴とする請求項10に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項12】
基板上における複数の膜形成領域を区画すると共に、撥液性を有する頭頂部と親液性を有する側壁とを有する隔壁部と、
前記複数の膜形成領域に前記頭頂部を基準として機能層形成材料を含む液状体を充填して乾燥することにより得られた少なくとも発光層を含む機能層とを備え、
前記複数の膜形成領域により構成される塗布領域のうち中央側に比べて周辺側の前記膜形成領域を区画する前記隔壁部の高さが高いことを特徴とする有機EL装置。
【請求項13】
基板上における複数の膜形成領域を区画すると共に、撥液性を有する頭頂部と親液性を有する側壁と前記側壁において上面が撥液性を有する少なくとも1つの段差部とを有する隔壁部と、
前記複数の膜形成領域により構成される塗布領域のうち中央側の前記膜形成領域に前記段差部を基準として機能層形成材料を含む液状体が充填され、前記塗布領域のうち周辺側の前記膜形成領域に前記頭頂部を基準として前記液状体が充填されて乾燥することにより得られた少なくとも発光層を含む機能層と、を備えたことを特徴とする有機EL装置。
【請求項14】
前記段差部の上面における撥液性は、前記頭頂部に比べて低いことを特徴とする請求項13に記載の有機EL装置。
【請求項15】
請求項1乃至11のいずれか一項に記載の有機EL装置の製造方法を用いて製造された有機EL装置、あるいは請求項12乃至14のいずれか一項に記載の有機EL装置を備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2011−146184(P2011−146184A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4637(P2010−4637)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】