説明

有機EL装置及びその駆動方法並びに電子機器

【課題】 発光層に対して順バイアスと逆バイアスとを交互に印加して駆動する交流駆動を行う場合であっても、実行的な発光時間を短くすることなく表示を行うことができるとともに、ちらつきを抑えることができる有機EL装置及びその駆動方法、並びに当該有機EL装置を備える電子機器を提供する。
【解決手段】 有機EL装置1は、対向する画素電極23と共通陰極50との間に機能層110を備えた構成であり、この機能層110は、発光層と、画素電極23と発光層との間に設けられた陽極バッファ層と、共通陰極50と発光層との間に設けられた陰極バッファ層とを含んで構成される。電源制御回路10は、画素電極23及び共通陰極50に対して、電圧値及び極性が異なる順バイアス電圧と逆バイアス電圧とを交互に印加して駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL装置及びその駆動方法並びに電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
バックライト等を必要としない自発光素子として、近年、有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELという)素子を備えた有機EL装置が注目されている。有機EL素子は、対向する一対の電極間に有機EL層、即ち発光素子を備えて構成されたものであり、フルカラー表示を行う有機EL装置は、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の各色に対応する発光波長帯域を有する発光素子を備えている。対向する一対の電極間に電圧が印加されると、注入された電子と正孔とが発光素子内で再結合し、これより発光素子が発光する。このような有機EL装置に形成される発光素子は、通常1μmを下回るほどの薄膜で形成される。また、有機EL装置は、発光素子そのものが発光するため、従来の液晶表示装置に用いられているようなバックライトも必要ない。従って、有機EL装置は、その厚みを極めて薄型化することができるという利点を有する。
【0003】
ところで、上記の発光素子の発光特性は外部環境に影響されるほか、発光層を構成する分子や、発光層中に存在する微量の不純物にも影響される。例えば、常に一定方向のバイアスが印加される直流駆動により駆動する場合には、不純物イオンが発光層の内部を拡散して特定の部分に蓄積される。この蓄積された不純物イオンが電極から注入された正孔又は電子をトラップし、発光寿命及び輝度が低下するといった問題が生じていた。また、発光時に印加した順バイアスで生じる電界によって、発光層中に存在するイオン性不純物が配向分極やイオン分極を起すことがある。これら配向分極及びイオン分極が発生した発光層の内部電界の方向は、発光に要する順バイアスで生じる電界とは逆の方向であるため、発光時に印加した電圧が有効に寄与することができなくなる。このようなメカニズムによって発光素子の発光特性が劣化する。
【0004】
不純物の要因として、例えばITOを構成するインジウムからなるイオンが挙げられる。また、ヘテロ構造を有する発光素子においては、発光層に隣接する機能層と発光層とが相互拡散により不純物ドーピングされている場合がある。また、発光層にLiFやCa等からなる電極(陰極)が隣接している場合においても電極からの不純物イオンがドーピングされている場合がある。この他にも、発光層や機能層に使用する有機化合物の精製が不十分な場合には、合成時に使用した材料が残留し、不純物となっている場合がある。更に、このような発光素子において、常に一定方向のバイアスが印加される直流駆動を行う場合には、発光素子内部に電荷が蓄積されるため発光寿命及び輝度が低下するといった問題が生じる。
【0005】
これに関して、例えば以下の特許文献1,2等に開示されているように、発光時に発光素子に印加される駆動電圧、即ち順バイアスと、この順バイアスの電圧に対して逆極性となる逆バイアスとを交互に印加する交流駆動を用いた報告がなされている。この交流駆動によって発光層に極性の異なる電圧が交互に印加されることにより、発光素子の内部における電荷及び不純物イオンの蓄積や、不純物イオンにより発生した内部電界が緩和されるため、発光素子の発光寿命及び輝度の低下を抑えることができるというものである。
【特許文献1】特開平9−293588号公報
【特許文献2】特開2004-114506号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の交流駆動により発光素子を駆動する場合において、発光素子は通常、陽極、発光層、及び陰極からなる積層構造を有しているため、陽極側から正の電圧が印加され、陰極側に負の電圧が印加されたとき、即ち順バイアスが印加された時にのみ発光が得られる。つまり、交流駆動を用いて逆バイアスが印加されたときには、発光素子は発光しないことになる。このように実効的な発光時間が短くなると表示が暗くなるという問題が生じていた。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、発光層に対して順バイアスと逆バイアスとを交互に印加して駆動する交流駆動を行う場合であっても、実行的な発光時間を短くすることなく表示を行うことができるとともに、ちらつきを抑えることができる有機EL装置及びその駆動方法、並びに当該有機EL装置を備える電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の有機EL装置は、対向する陽極と陰極との間に少なくとも発光層を備えた有機EL装置であって、前記陽極と前記発光層との間に設けられた導電性材料からなる陽極バッファ層と、前記陰極と前記発光層との間に設けられた導電性材料からなる陰極バッファ層と、前記陽極及び前記陰極に対して、電圧値及び極性が異なる順バイアス電圧と逆バイアス電圧とを交互に印加する駆動装置とを備えることを特徴としている。
この発明によると、導電性材料からなる陽極バッファ層、発光層、及び導電性材料からなる陰極バッファ層からなる構造を対向する陽極と陰極との間に形成しているため、極性の異なる電圧が交互に印加された場合の何れにおいても常に発光が得られる。従って、発光層の内部における電荷及び不純物イオンの蓄積や不純物イオンにより発生する内部電界が緩和され、実効的な発光時間を短くすることなく表示を行うことが可能となるという効果がある。また、電圧値及び極性が異なる順バイアス電圧と逆バイアス電圧とを交互に印加しているため、順バイアス電圧を印加する場合と逆バイアスを印加する場合とで発光層の発光特性が異なっていても、各々のバイアス電圧を印加する場合の発光輝度をほぼ等しくすることができるため、ちらつきを抑えることができるという効果がある。
また、本発明の有機EL装置は、前記順バイアス電圧の電圧値及び前記逆バイアス電圧の電圧値の一方が、他方の電圧値を基準として設定されることを特徴としている。
この発明によると、順バイアス電圧の電圧値及び逆バイアス電圧の電圧値の一方を他方の電圧値を基準にして設定しているため、一方の極性の電圧を印加したときに得られる輝度を他方の極性の電圧を印加したときに得られる輝度に合わせ込むことができるという効果がある。
また、本発明の有機EL装置は、前記順バイアス電圧の電圧値及び前記逆バイアスの電圧値が、前記発光層の発光輝度のばらつきが所定値以下になるように設定されることを特徴としている。
ここで、前記所定値は、前記発光層の最高輝度を、前記発光層の発光により表現される階調数で除算して得られる輝度以下に設定されることを特徴としている。
これらの発明によれば、発光層の発光輝度のばらつきを所定値以下、具体的には発光層の最高輝度を発光層の発光により表現される階調数で除算して得られる輝度以下にしている。このため、順バイアス電圧を印加した場合と逆バイアス電圧を印加した場合との発光輝度の差があっても、この差がちらつきとして視認されることは殆ど無くなるという効果がある。しかも、バイアス電圧及び逆バイアス電圧の設定にある程度の許容範囲が生ずるため、設定が容易になるという効果がある。
また、本発明の有機EL装置は、前記発光層が、赤色を発光する赤色発光層、緑色を発光する緑色発光層、及び青色を発光する青色発光層を備えており、前記駆動装置は、前記赤色発光層、緑色発光層、及び青色発光層毎に、印加する前記順バイアス電圧及び逆バイアス電圧の電圧値を異ならせることを特徴としている。
この発明によると、赤色発光層、緑色発光層、及び青色発光層毎に印加する順バイアス電圧及び逆バイアス電圧の電圧値を異ならせているため、赤色発光層、緑色発光層、及び青色発光層の間に発光特性の差異があったとしても各々の層の発光輝度を等しく設定することが可能になるという効果がある。
また、本発明の有機EL装置は、前記駆動装置が、前記有機EL装置に表示される表示画像のフレーム単位、又はフレームを複数に時分割したサブフレーム毎に前記順バイアス電圧と逆バイアス電圧とを交互に印加することを特徴としている。
この発明によると、表示画像のフレーム単位、又はフレームを複数に時分割したサブフレーム毎に順バイアス電圧と逆バイアス電圧とを交互に印加しており、表示画像の切り替えタイミングと同一のタイミングで順バイアス電圧と逆バイアス電圧とが切り替えられるため、表示画像の表示品質の低下を招くことはなく、また表示駆動装置の複雑化を招くことはない。
また、本発明の有機EL装置は、前記陽極バッファ層及び前記陰極バッファ層が、導電性高分子からなることを特徴とする。
また、前記陽極バッファ層及び前記陰極バッファ層は、エチレンジオキシチオフェンを含む高分子化合物からなることが望ましい。
尚、前記陽極バッファ層及び前記陰極バッファ層は、PEDOT/PSSであってもよい。
ここで、前記陽極バッファ層及び前記陰極バッファ層のシート抵抗は、100Ωcmよりも小さいことが望ましい。
上記課題を解決するために、本発明の有機EL装置の駆動方法は、対向する陽極と陰極との間に少なくとも発光層を備えた有機EL装置を駆動する駆動方法において、前記陽極と前記発光層との間には導電性材料からなる陽極バッファ層が、前記陰極と前記発光層との間には導電性材料からなる陰極バッファ層がそれぞれ設けられており、前記陽極及び前記陰極に対して、電圧値及び極性が異なる順バイアス電圧と逆バイアス電圧とを交互に印加することを特徴としている。
この発明によると、対向する陽極と陰極との間に、導電性材料からなる陽極バッファ層、発光層、及び導電性材料からなる陰極バッファ層からなる構造が形成されており、この構造に対して、電圧値及び極性が異なる順バイアス電圧と逆バイアス電圧とを交互に印加しているため、極性の異なる電圧が交互に印加された場合の何れにおいても常に発光が得られ、しかも順バイアス電圧を印加する場合と逆バイアスを印加する場合とで発光層の発光特性が異なっていても、各々のバイアス電圧を印加する場合の発光輝度をほぼ等しくすることができる。この結果として、ちらつきを抑えることができるという効果がある。
ここで、本発明の有機EL装置の駆動方法は、前記順バイアスの電圧値及び前記逆バイアス電圧の電圧値の一方が、他方の電圧値を基準として設定されることを特徴としている。
この発明によると、順バイアス電圧の電圧値及び逆バイアス電圧の電圧値の一方を他方の電圧値を基準にして設定しているため、一方の極性の電圧を印加したときに得られる輝度を他方の極性の電圧を印加したときに得られる輝度に合わせ込むことができるという効果がある。
また、本発明の有機EL装置の駆動方法は、前記順バイアス電圧の電圧値及び前記逆バイアスの電圧値が、前記発光層の発光輝度のばらつきが所定値以下になるように設定されることを特徴としている。
ここで、前記所定値は、前記発光層の最高輝度を、前記発光層の発光により表現される階調数で除算して得られる輝度以下に設定されることを特徴としている。
これらの発明によれば、発光層の発光輝度のばらつきを所定値以下、具体的には発光層の最高輝度を発光層の発光により表現される階調数で除算して得られる輝度以下にしている。このため、順バイアス電圧を印加した場合と逆バイアス電圧を印加した場合との発光輝度の差があっても、この差がちらつきとして視認されることは殆ど無くなるという効果がある。しかも、バイアス電圧及び逆バイアス電圧の設定にある程度の許容範囲が生ずるため、設定が容易になるという効果がある。
また、本発明の有機EL装置の駆動方法は、前記発光層が、赤色を発光する赤色発光層、緑色を発光する緑色発光層、及び青色を発光する青色発光層を備えており、前記赤色発光層、緑色発光層、及び青色発光層毎に、電圧値及び極性が異なる順バイアス電圧と逆バイアス電圧とを交互に印加することを特徴としている。
この発明によると、赤色発光層、緑色発光層、及び青色発光層毎に印加する順バイアス電圧及び逆バイアス電圧の電圧値を異ならせているため、赤色発光層、緑色発光層、及び青色発光層の間に発光特性の差異があったとしても各々の層の発光輝度を等しく設定することが可能になるという効果がある。
また、本発明の有機EL装置の駆動方法は、前記有機EL装置に表示される表示画像のフレーム単位、又はフレームを複数に時分割したサブフレーム毎に前記順バイアス電圧と逆バイアス電圧とを交互に印加することを特徴としている。
この発明によると、表示画像のフレーム単位、又はフレームを複数に時分割したサブフレーム毎に順バイアス電圧と逆バイアス電圧とを交互に印加しており、表示画像の切り替えタイミングと同一のタイミングで順バイアス電圧と逆バイアス電圧とが切り替えられるため、表示画像の表示品質の低下を招くことはない。
本発明の電子機器は、上記の有機EL装置を備えたことを特徴としている。
この構成によれば、良好な表示特性を有する電子機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態による有機EL装置及びその駆動方法並びに電子機器について詳細に説明する。尚、以下に説明する実施形態は、本発明の一部の態様を示すものであり、本発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下に示す各図においては、各層や各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部材毎に縮尺を異ならせてある。
【0010】
〔有機EL装置〕
図1は、本発明の一実施形態による有機EL装置の配線構造を示す模式図である。図1に示す有機EL装置1は、スイッチング素子として薄膜トランジスタ(TFT)を用いたアクティブマトリクス方式のもので、複数の走査線101と、各走査線101に対して直角に交差する方向に延びる複数の信号線102と、各信号線102に並列に延びる複数の電源線103R,103G,103B)とからなる配線構成を有し、走査線101と信号線102との各交点付近に画素領域Xを形成したものである。尚、以下の説明では、電源線103R,103G,103Bを区別せずに、これらを総称する場合には電源線103という。
【0011】
電源線103Rに沿って配列された画素領域Xは赤色発光する領域であり、電源線103Gに沿って配列された画素領域Xは緑色発光する領域であり、電源線103Bに沿って配列された画素領域Xは青色発光する領域である。このように、本実施形態の有機EL装置1は、同色の発光領域が信号線102及び電源線103に沿って配列され、走査線101に沿う方向に赤色発光領域、緑色発光領域、及び青色発光領域が順に繰り返される所謂縦ストライプ構造を有している。各電源線103R,103G,103Bは、電源制御回路10に接続されている。信号線102には、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン、及びアナログスイッチを備えるデータ線駆動回路100が接続されている。また、走査線101には、シフトレジスタ及びレベルシフタを備える走査線駆動回路80が接続されている。
【0012】
画素領域X各々には、走査線101を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用TFT112と、このスイッチング用TFT112を介して信号線102から共有される画素信号を保持する保持容量113と、保持容量113によって保持された画素信号がゲート電極に供給される駆動用TFT123と、この駆動用TFT123を介して電源線103に電気的に接続したときに電源線103から駆動電流が流れ込む画素電極(電極)23と、この画素電極23と共通陰極(電極)50との間に挟み込まれた機能層110とが設けられている。このような画素電極23と共通陰極50と機能層110とにより、発光素子、即ち有機EL素子が構成されている。
【0013】
上記構成の有機EL装置1によれば、走査線101が駆動されてスイッチング用TFT112がオン状態になると、そのときの信号線102の電位が保持容量113に保持され、保持容量113の状態に応じて、駆動用TFT123のオン・オフ状態が決まる。そして、駆動用TFT123のチャネルを介して電源線103から画素電極23に電流が流れ、更に機能層110を介して共通陰極50に電流が流れる。すると、機能層110は、これを流れる電流量に応じて発光する。
【0014】
図2は、本発明の一実施形態による有機EL装置1の構成を模式的に示す平面図である。図2に示す通り、本実施形態の有機EL装置1は、光透過性と電気絶縁性とを備える基板20と、スイッチング用TFT(図示せず)に接続された画素電極が基板20上にマトリックス状に配置されてなる画素電極域(図示せず)と、画素電極域の周囲に配置されるとともに各画素電極に接続される電源線103(103R,103G,103B)と、少なくとも画素電極域上に位置する平面視ほぼ矩形の画素部3(図2中一点鎖線枠内)とを備えて構成されている。尚、本実施形態において画素部3は、中央部分の実表示領域4(図中二点鎖線枠内)と、実表示領域4の周囲に配置されたダミー領域5(一点鎖線及び二点鎖線の間の領域)とに区画されている。
【0015】
実表示領域4には、それぞれ画素電極を有する表示領域R,G,Bが図中のA−B方向及びC−D方向に規則的に配置されている。また、実表示領域4の図2中両側には、走査線駆動回路80,80が配置されている。この走査線駆動回路80,80は、ダミー領域5の下層側に位置して設けられている。また、実表示領域4の図2中上方側には検査回路90が配置されており、この検査回路90はダミー領域5の下層側に配置されて設けられている。この検査回路90は、有機EL装置1の作動状況を検査するための回路であって、例えば検査結果を外部に出力する検査情報出力手段(図示せず)を備え、製造途中や出荷時における表示装置の品質、欠陥の検査を行うことができるように構成されている。
【0016】
走査線駆動回路80及び検査回路90の駆動電圧は、所定の電源部から駆動電圧導通部310(図3参照)及び駆動電圧導通部340(図4参照)を介して印加されている。また、これら走査線駆動回路80及び検査回路90への駆動制御信号及び駆動電圧は、この有機EL装置1の作動制御を司る所定のメインドライバ等から駆動制御信号導通部320(図3参照)及び駆動電圧導通部350(図4参照)を介して送信及び印加されるようになっている。尚、この場合の駆動制御信号とは、走査線駆動回路80及び検査回路90が信号を出力する際の制御に関連するメインドライバ等からの指令信号である。
【0017】
図3は図2のA−B線に沿う断面図であり、図4は図2のC−D線に沿う断面図である。図3,図4に示す通り、有機EL装置1は、基板20と封止基板30とが封止樹脂40を介して貼り合わされてなるものである。基板20、封止基板30、及び封止樹脂40で囲まれた領域においては、封止基板30の内面に水分や酸素を吸収するゲッター剤45が貼着されている。また、その空間部は窒素ガスが充填されて窒素ガス充填層46となっている。このような構成のもとに、有機EL装置1内部に水分や酸素が浸透するのが抑制され、これにより有機EL装置1はその長寿命化が図られたものとなっている。
【0018】
基板20としては、所謂トップエミッション型の有機EL装置である場合には、この基板20の対向側である封止基板30側から発光光を取り出す構成であるため、透明基板及び不透明基板の何れも用いることができる。不透明基板としては、例えば、アルミナ等のセラミック、ステンレススチール等の金属シートに表面酸化等の絶縁処理を施したものの他に、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0019】
また、所謂ボトムエミッション型の有機EL装置である場合には、基板20側から発光光を取り出す構成であるので、基板20としては、透明或いは半透明のものが採用される。例えば、ガラス、石英、樹脂(プラスチック、プラスチックフィルム)等が挙げられ、特にガラス基板が好適に用いられる。尚、本実施形態では、基板20側から発光光を取り出すボトムエミッション型とし、よって基板20としては透明或いは半透明のものを用いるようにする。封止基板30としては、例えば電気絶縁性を有する板状部材を採用することができる。また、封止樹脂40は、例えば熱硬化樹脂或いは紫外線硬化樹脂からなるものであり、特に熱硬化樹脂の一種であるエポキシ樹脂よりなっているのが好ましい。
【0020】
また、基板20上には、画素電極23を駆動するための駆動用TFT123等を含む回路部11が形成されている。図5は、駆動用TFT123等を含む回路部11の拡大図である。基板20の表面にはSiOを主体とする下地保護層281が下地として形成されており、その上にはシリコン層241が形成されている。このシリコン層241の表面には、SiO及び/又はSiNを主体とするゲート絶縁層282が形成されている。
【0021】
また、上記のシリコン層241のうち、ゲート絶縁層282を挟んでゲート電極242と重なる領域がチャネル領域241aとされている。尚、このゲート電極242は、図示しない走査線101の一部である。一方、シリコン層241を覆い、ゲート電極242を形成したゲート絶縁層282の表面には、SiOを主体とする第1層間絶縁層283が形成されている。
【0022】
また、シリコン層241のうち、チャネル領域241aのソース側には、低濃度ソース領域241b及び高濃度ソース領域241Sが設けられる一方、チャネル領域241aのドレイン側には低濃度ドレイン領域241c及び高濃度ドレイン領域241Dが設けられて、いわゆるLDD(Light Doped Drain)構造となっている。これらのうち、高濃度ソース領域241Sは、ゲート絶縁層282と第1層間絶縁層283とに亘って開孔するコンタクトホール243aを介して、ソース電極243に接続されている。このソース電極243は、前述した電源線103(図1参照、図5においてはソース電極243の位置に紙面垂直方向に延在する)の一部として構成されている。一方、高濃度ドレイン領域241Dは、ゲート絶縁層282と第1層間絶縁層283とに亘って開孔するコンタクトホール244aを介して、ソース電極243と同一層からなるドレイン電極244に接続されている。
【0023】
ソース電極243及びドレイン電極244が形成された第1層間絶縁層283の上層は、例えばアクリル系の樹脂成分を主体とする第2層間絶縁層284によって覆われている。この第2層間絶縁層284は、アクリル系の絶縁膜以外の材料、例えば、SiN、SiO等を用いることもできる。そして、ITOからなる画素電極23が、この第2層間絶縁層284の表面上に形成されるとともに、第2層間絶縁層284に設けられたコンタクトホール23aを介してドレイン電極244に接続されている。即ち、画素電極23は、ドレイン電極244を介して、シリコン層241の高濃度ドレイン領域241Dに接続されている。
【0024】
以上説明した基板20の上部に形成された下地保護膜281から第2層間絶縁層284までが回路部11を構成している。尚、走査線駆動回路80及び検査回路90に含まれるTFT(駆動回路用TFT)、即ち、例えばこれらの駆動回路のうち、シフトレジスタに含まれるインバータを構成するNチャネル型又はPチャネル型のTFTは、画素電極23と接続されていない点を除いて前記駆動用TFT123と同様の構造とされている。
【0025】
画素電極23が形成された第2層間絶縁層284の表面は、画素電極23と、例えばSiO等の親液性材料を主体とする親液性制御層25と、アクリルやポリイミド等からなる有機バンク層221とによって覆われている。尚、本実施形態における親液性制御層25の「親液性」とは、少なくとも有機バンク層221を構成するアクリル、ポリイミド等の材料と比べて親液性が高いことを意味するものとする。そして、親液性制御層25に設けられた開口部25a及び有機バンク層221に設けられた開口部221aの開口内部が画素領域をなしている。尚、各色表示領域(画素領域)の境界には、金属クロムをスパッタリング等にて成膜した不図示のBM(ブラックマトリクス)が、有機バンク層221と親液性制御層25との間に位置して形成されている。
【0026】
そして、各画素領域における画素電極23の上方には、発光素子(有機EL素子)R,G,Bが設けられている。発光素子R,G,Bは、陽極として機能する画素電極23、陽極バッファ層70、有機EL物質からなる発光層60(60R、60G、60B)、陰極バッファ層52、及び共通陰極50が順に形成されて構成されている。発光素子R,G,Bは、順バイアス印加時には、陽極バッファ層70から注入された正孔と、陰極バッファ層52から注入された電子とが発光層60で結合することにより、赤色、緑色、又は青色の発光をなすようになっている。また、逆バイアス印加時には、陽極バッファ層70から注入された電子と、陰極バッファ層52から注入された正孔とが発光層60で結合することにより、赤色、緑色、又は青色の発光をなすようになっている。
【0027】
陽極として機能する画素電極23は、本例ではボトムエミッション型であることから透明導電材料によって形成されている。透明導電材料としてはITOが好適とされるが、これ以外にも、例えば酸化インジウム・酸化亜鉛系アモルファス透明導電膜(Indium Zinc Oxide :IZO/アイ・ゼット・オー)(登録商標))(出光興産社製)等を用いることができる。尚、本実施形態ではITOを用いるものとする。また、トップエミッション型である場合には、特に光透過性を備えた材料を採用する必要はなく、例えばITOの下層側にAl(アルミニウム)等を設けて反射層として用いることもできる。
【0028】
陽極バッファ層70の形成材料としては、特に3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)の分散液、即ち、分散媒としてのポリスチレンスルフォン酸に3,4−ポリエチレンジオキシチオフェンを分散させ、更にこれを水やイソプロピルアルコール等の極性溶媒に溶解させたものが好適に用いられる。陽極バッファ層70のシート抵抗値は100Ωcmよりも小さいことが望ましく、本実施形態では0.1Ωcm以下のものが好適に用いられる。
【0029】
発光層60を形成するための材料としては、蛍光或いは燐光を発光することが可能な公知の発光材料が用いられる。また、本実施形態では、フルカラー表示を行うべく、その発光波長帯域が光の三原色にそれぞれ対応して形成されている。即ち、発光波長帯域が赤色に対応した発光層60R、緑色に対応した発光層60G、青色に対応した発光層60Bの三つの発光層により、1画素が構成され、これらが階調して発光することにより、有機EL装置1が全体としてフルカラー表示をなすようになっている。
【0030】
発光層60の形成材料として具体的には、(ポリ)フルオレン誘導体(PF)、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)等のポリシラン系等が好適に用いられる。 また、これらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素等の高分子系材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等の低分子材料をドープして用いることもできる。なお、ここでいう「高分子」とは、分子量が散百程度の所謂「低分子」よりも分子量の大きい重合体を意味し、上述の高分子材料には、一般に高分子と呼ばれる分子量10000以上の重合体の他に、分子量が10000以下のオリゴマーと呼ばれる低重合体が含まれる。
【0031】
尚、本実施形態では、赤色の発光層60Rの形成材料としてMEHPPV(ポリ(3−メトキシ6−(3−エチルヘキシル)パラフェニレンビニレン)を、緑色の発光層60Rの形成材料としてポリジオクチルフルオレンとF8BT(ジオクチルフルオレンとベンゾチアジアゾールの交互共重合体)の混合溶液を、青色の発光層60Rの形成材料としてポリジオクチルフルオレンを用いている。また、これら各発光層60については、特にその厚さについては制限がなく、また各色毎に好ましい厚さも変わるものの、例えば青色発光層60Bの厚さとしては、60〜70nm程度とするのが好ましい。
【0032】
陰極バッファ層52の構成材料としては、陽極バッファ層70と同様、特に3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)の分散液、即ち、分散媒としてのポリスチレンスルフォン酸に3,4−ポリエチレンジオキシチオフェンを分散させ、更にこれを水やイソプロピルアルコール等の極性溶媒に溶解させたものが好適に用いられる。陰極バッファ層52のシート抵抗値は100Ωcmよりも小さいことが望ましく、本実施形態では0.1Ωcm以下のものが好適に用いられる。
【0033】
共通陰極50は、図3〜図5に示す通り、実表示領域4及びダミー領域5の総面積より広い面積を備え、それぞれを覆うように形成されたものである。この共通陰極50は化学的に安定な導電性材料であれば特に限定されることなく任意のもの、例えば金属や合金等を使用することが可能であり、具体的にはAl(アルミニウム)が好適に用いられる。この共通陰極50の厚さとしては、100nm〜500nm程度とするのが好ましく、特に200nm程度とするのが好ましい。厚みが100nm未満では保護機能が十分に得られない虞があり、厚みが500nmを越えると製造時における熱的負荷が高くなり、発光層60に劣化や変質等の悪影響を及ぼす虞があるからである。尚、本実施形態ではAuによって共通陰極50を形成している。また、特にトップエミッション型の有機EL装置とする場合には、十分に薄い共通陰極50を形成してこれに透光性を持たせることが可能であり、或いは透光性を有するITO等の導電性材料を用いて共通陰極50を形成することも可能である。
【0034】
このような構成からなる有機EL装置1にあっては、陽極バッファ層及び陰極バッファ層によって、極性の異なる電圧が交互に印加された場合の何れにおいても常に発光が得られる。従って、発光素子の内部における電荷及び不純物イオンの蓄積や不純物イオンにより発生する内部電界が緩和され、実効的な発光時間を短くすることなく表示を行うことが可能となる。
【0035】
図6は、1つの発光素子の駆動系を模式的に示す図である。図6に示す通り、発光素子は、画素電極23、陽極バッファ層70、発光層60、陰極バッファ層52、及び共通陰極50から構成されており、画素電極23が交流電源PSの陽極に接続されており、共通陰極50が交流電源PSの陰極に接続されている。尚、交流電源PSは、図1に示す電源制御回路10に相当するものである。上述した通り、本実施形態の有機EL装置1は、画素電極23と共通陰極50との間に印加されるバイアスが、順バイアス及び逆バイアスの何れであっても発光は得られるが、その発光特性は順バイアス印加時と逆バイアス印加時とでは異なる。
【0036】
図7は、本実施形態の有機EL装置1に設けられる発光素子の発光特性の一例を示す図である。図7に示すグラフは、横軸に発光素子に設けられた画素電極23と共通陰極50との間に印加する電圧を取り、縦軸に発光素子から得られる発光輝度を取ってある。図7に示す通り、順バイアスを印加した場合(図7中の横軸が正の場合)には電圧の値が大きくなるにつれて徐々に輝度が高くなっており、逆バイアスを印加した場合(図7中の横軸が負の場合)には電圧の絶対値が大きくなるにつれて徐々に輝度が高くなっていることが分かる。このグラフから順バイアスを印加した場合、及び逆バイアスを印加した場合の何れの場合にも発光が得られていることが分かる。
【0037】
しかしながら、絶対値が等しい順バイアス及び逆バイアスをそれぞれ印加した場合に得られる発光輝度は異なっている。例えば、順バイアスとして+5Vの電圧を印加した場合に得られる輝度よりも、逆バイアスとして−5Vの電圧を印加した場合に得られる輝度が低くなっている。このため、絶対値が等しい順バイアス及び逆バイアスを交互に印加すると発光輝度の周期的な変動が生じてしまい、これがちらつきとなって現れることになる。本実施形態では、このちらつきを防止するために、電源制御回路10が各電源線103R,103G,103Bに対して電圧値及び極性が異なる順バイアスと逆バイアスとを交互に印加している。
【0038】
具体的には、順バイアスを基準として逆バイアスの電圧値を設定し、順バイアスを印加した場合に得られる発光輝度と逆バイアスを印加した場合に得られる発光輝度の差(ばらつき)を所定値以下としている。例えば、図7に示す通り、順バイアスとして+7.5Vを印加した場合に得られる輝度がLであるとすると、逆バイアスの電圧値はこの輝度Lが得られる値とする。図7に示す例では逆バイアスの電圧値は−10Vに設定されている。
【0039】
尚、順バイアスを印加した場合に得られる輝度と、逆バイアスを印加した場合に得られる輝度が同一であることが望ましい。しかしながら、同一にするのが難しい場合には、順バイアスを印加した場合の発光素子の最高輝度をLmaxとし、発光素子の発光により表現される階調数をDとすると、順バイアスを印加した場合に得られる発光輝度と逆バイアスを印加した場合に得られる発光輝度の差がΔL≦Lmax/Dとなるように、逆バイアスを設定するのが好ましい。上記の階調数は、例えば2=64階調、又は2=128階調である。
【0040】
図8は、本実施形態の有機EL装置の駆動方法の一例を示す図である。図8(a)に示す通り、電源制御回路10は、電圧値が+7.5Vの順バイアスを印加しており、電圧値が−10.0Vの逆バイアスを印加している。この順バイアス及び逆バイアスは、電源線103R,103G,103Bを介して各画素領域Xに交互に供給される。電源制御回路10が順バイアスと逆バイアスとを切り替えるタイミングは、例えばフレーム単位である。このため、有機EL装置1が1秒間に60フレームの画像を描画するものである場合には、1/60秒毎に順バイアスと逆バイアスとが切り替えられる。尚、順バイアスと逆バイアスとを切り替えるタイミングは、複数フレームを単位としても良く、また1フレームが複数のサブフレームからなる場合にはサブフレーム毎に切り替えても良い。
【0041】
図8(b)は、本実施形態の駆動方法を用いて順バイアス及び逆バイアスを交互に印加した場合に得られる発光素子の発光輝度の一例を示す図である。図8(b)に示す通り、順バイアスを印加した場合の発光輝度及び逆バイアスを印加した場合の発光輝度はほぼ等しくなっているのが分かる。図8(b)に示す例では、順バイアスを印加した場合の発光輝度が逆バイアスを印加した場合の発光輝度よりも僅かに高くなっているが、この差が上記のΔL以下であれば、ちらつきとなって視認されることはない。
【0042】
尚、本実施形態の有機EL装置1は、赤色に対応した発光層60R、緑色に対応した発光層60G、青色に対応した発光層60Bの三つの発光層を備えており、前述した通り各々の発光層は異なる材料を用いて形成されているため、発光特性が異なることが考えられる。例えば、発光層60R,60G,60Bの各々に対して同一の順バイアスを印加した場合であっても各々の発光輝度が異なり、また同一の逆バイアスを印加した場合であっても各々の発光輝度が異なることが考えられる。このため、印加する順バイアス及び逆バイアスの電圧値を発光層60R,60G,60B毎に設定することが望ましい。
【0043】
また、発光層60Rに印加する順バイアス及び逆バイアスの切り替えタイミング、発光層60Gに印加する順バイアス及び逆バイアスの切り替えタイミング、並びに発光層60Bに印加する順バイアス及び逆バイアスの切り替えタイミングは同一であることが望ましい。しかしながら、発光層60R,60G,60B各々の順バイアスと逆バイアスの切り替えタイミングを異ならせても良い。
【0044】
次に、本実施形態による有機EL装置1の製造方法の一例について簡単に説明する。図9及び図10は、本発明の一実施形態による有機EL装置1の製造工程を示す断面図である。尚、図9及び図10に示す各断面図は、図2中のA−B線の断面図に対応しており、各製造工程順に示している。まず、図9(a)に示す通り、基板20上の回路部11の表面に、画素電極23を形成する。具体的には、まず基板20の全面を覆うように、ITO等の導電材料からなる導電膜を形成する。その際、第2層間絶縁層284のコンタクトホール23aの内部に導電材料を充填してコンタクトを形成する。そして、この導電膜をパターニングすることにより画素電極23を形成するとともに、コンタクトを介して駆動用TFT123のドレイン電極244に導通させる。これと同時に、ダミー領域のダミーパターン26も形成する。
【0045】
尚、図3及び図4においては、画素電極23及びダミーパターン26を総称して画素電極23としている。ダミーパターン26は、実表示領域に形成されている画素電極23と同様に島状に形成されているが、第2層間絶縁層284を介して下層のメタル配線へ接続しない構成とされている。もちろん、表示領域に形成されている画素電極23とは異なる形状であってもよい。かかる構成の場合には、ダミーパターン26は少なくとも駆動電圧導通部310(340)の上方に位置するものも含むものとする。
【0046】
次いで、図9(b)に示す通り、画素電極23、ダミーパターン26、及び第2層間絶縁層284上に、絶縁層である親液性制御層25を形成する。尚、画素電極23においては一部が開口する態様にて親液性制御層25を形成し、開口部25a(図3も参照)において画素電極23からの正孔移動が可能とされている。続いて、親液性制御層25において、異なる2つの画素電極23の間に位置して形成された凸状部に、BM(図示せず)を形成する。具体的には、親液性制御層25の上記凸状部に対して、金属クロムを用いスパッタリング法にて成膜する。
【0047】
次いで、図9(c)に示す通り、親液性制御層25の所定位置、詳しくは上記BMを覆うように有機バンク層221を形成する。具体的な有機バンク層221の形成方法としては、例えばアクリル樹脂やポリイミド樹脂等のレジストを溶媒に溶解したものを、スピンコート法、ディップコート法等の各種塗布法により塗布して有機質層を形成する。尚、有機質層の構成材料は、後述するインクの溶媒に溶解せず、しかもエッチング等によってパターニングし易いものであればどのようなものでもよい。続いて、有機質層をフォトリソグラフィ技術、エッチング技術を用いてパターニングし、有機質層にバンク開口部221aを形成することにより、開口部221aに壁面を有した有機バンク層221を形成する。尚、この場合、有機バンク層221は、少なくとも駆動制御信号導通部320の上方に位置するものを含むものとする。
【0048】
次いで、有機バンク層221の表面に、親液性を示す領域と、撥液性を示す領域とを形成する。本実施形態においては、プラズマ処理によって各領域を形成するものとする。そのプラズマ処理は、予備加熱工程と、有機バンク層221の上面及び開口部221aの壁面並びに画素電極23の電極面23c、及び親液性制御層25の上面をそれぞれ親液性にする親インク化工程と、有機バンク層の上面及び開口部の壁面を撥液性にする撥インク化工程と、冷却工程とによって構成される。
【0049】
即ち、基材(バンク等を含む基板20)を所定温度、例えば70〜80℃程度に加熱し、次いで親インク化工程として大気圧下で酸素を反応ガスとするプラズマ処理(Oプラズマ処理)を行う。次いで、撥インク化工程として大気圧下で4フッ化メタンを反応ガスとするプラズマ処理(CFプラズマ処理)を行い、その後、プラズマ処理のために加熱された基材を室温まで冷却することで、親液性及び撥液性が所定箇所に付与されることとなる。
【0050】
尚、このCFプラズマ処理においては、画素電極23の電極面23c及び親液性制御層25についても多少の影響を受けるが、画素電極23の材料であるITO及び親液性制御層25の構成材料であるSiO、TiO等はフッ素に対する親和性に乏しいため、親インク化工程で付与された水酸基がフッ素基で置換されることがなく、親液性が保たれる。
【0051】
次いで、陽極バッファ層形成工程によって陽極バッファ層70を形成する。この陽極バッファ層形成工程では、液滴吐出法として、特にインクジェット法が好適に採用される。即ち、このインクジェット法により、陽極バッファ層形成材料を電極面23c上に選択的に配し、これを塗布する。その後、乾燥処理及び熱処理を行い、電極23上に陽極バッファ層70を形成する。陽極バッファ層70の形成材料としては、前述したPEDOT/PSSを水やイソプロピルアルコール等の極性溶媒に溶解させたものが用いられる。
【0052】
ここで、このインクジェット法による陽極バッファ層70の形成にあたっては、まず、インクジェットヘッド(図示略)に陽極バッファ層形成材料を充填し、インクジェットヘッドと基材(基板20)とを相対移動させながら、インクジェットヘッドの吐出ノズルを親液性制御層25に形成された開口部25a内に位置する電極面23cに対向させる。そして、1滴当たりの液量が制御された液滴を吐出ノズルから電極面23cに吐出する。次に、吐出後の液滴を乾燥処理し、陽極バッファ層材料に含まれる分散媒や溶媒を蒸発させることにより、陽極バッファ層70を形成する。
【0053】
このとき、吐出ノズルから吐出された液滴は、親液性処理がなされた電極面23c上にて広がり、親液性制御層25の開口部25a内に満たされる。その一方で、撥インク処理された有機バンク層221の上面では、液滴がはじかれて付着しない。従って、液滴が所定の吐出位置からずれて、液滴の一部が有機バンク層221の表面にかかったとしても、表面が液滴で濡れることがなく、弾かれた液滴が親液性制御層25の開口部25a内に引き込まれる。
【0054】
焼成温度としては100℃〜200℃の範囲とするのが好ましく、特に120℃程度とするのが好ましい。100℃未満では、形成材料が十分に硬化せず、その上に発光層の形成材料が設けられると、形成材料同士が混ざり含ってしまう虞があるからである。また、含有する溶媒が完全に除去できない虞もある。一方、200℃を越えると、形成材料が熱により変質し劣化してしまう虞があるからである。尚、この陽極バッファ層形成工程以降では、各種の形成材料や形成した要素の酸化・吸湿を防止すべく、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。
【0055】
次いで、図10(a)に示す通り、発光層形成工程による発光層60の形成を行う。この発光層形成工程では、上記の陽極バッファ層70の形成と同様に、液滴吐出法であるインクジェット法が好適に採用される。即ち、インクジェット法により、発光層形成材料を陽極バッファ層70上に吐出し、その後、乾燥処理及び熱処理を行うことにより、有機バンク層221に形成された開口部221a内に発光層60を形成する。この発光層60の形成は、その色毎に行う。尚、インクジェット法(液滴吐出法)を用いることにより、発光層60の形成材料を、所定位置、即ち画素領域のみに選択的に配置することが可能であり、また個々の位置において吐出量を変えることも可能である。また、発光層形成工程では、陽極バッファ層70の再溶解を防止するため、発光層形成材料に用いる溶媒として、陽極バッファ層70に対して不溶な無極性溶媒を用いる。
【0056】
次いで、図10(b)に示す通り、陰極バッファ層52を形成する。陰極バッファ層52の形成工程では、まず発光層60及び有機バンク層221を覆うように陰極バッファ層52を形成する。陰極バッファ層52の形成は、陰極バッファ層52の構成材料を含む液状体を塗布することによって行う。陰極バッファ層52の形成材料として前述したPEDOT/PSSを採用する場合には、分散媒としてのポリスチレンスルフォン酸に3,4−ポリエチレンジオキシチオフェンを分散させ、更にこれを水やイソプロピルアルコール等の極性溶媒に溶解させる。
【0057】
このように、分散媒又は溶媒として極性物質を採用すれば、塗布された液状体に対する発光層60の再溶解を抑制することが可能になる。尚、例外的に発光層60が極性物質に溶出してしまう場合には、分散媒又は溶媒としてトルエン、キシレン、ベンゼン、ヘキサン、シクロヘキサン、テトラデカン、イソオクタン等の非極性物質を用いてもよい。
【0058】
そして、上記のように作製した液状体を、発光層60及び有機バンク層221の表面に塗布する。塗布法にはスピンコート法等を採用することができるが、発光層60や陽極バッファ層70と同様にインクジェット法を採用することも可能である。更に、塗布された液状体を乾燥及び焼成することにより、陰極バッファ層52の被膜を形成する。陰極バッファ層52の成膜温度は、150℃以下とすることが望ましい。150℃を超える温度で熱処理を行うと、有機物によって構成される発光層60の機能を低下させる虞があるからである。この点、導電性材料としてPEDOT/PSSを採用すれば、100℃X10分程度の条件で焼成することが可能であり、発光層60に対するダメージを抑制することができる。
【0059】
次いで、共通陰極50を形成する。共通陰極50には、空気中で安定に使用できる導電性材料であれば限定はないが、陽極との仕事関数が小さい材料が望ましい。陽極にITOを用いた場合であれば、Au(金)を用いることが可能である。その後、図10(c)に示す通り、封止基板30により基板20の表面を封止する。この封止工程では、内側にゲッター剤45を貼り付けた封止基板30を、基板20に対して封止樹脂40により接着する。この封止工程は、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気中で行うのが好ましい。これにより、基板20、封止基板30、及び封止樹脂40によって包囲される空間に、不活性ガスが気密封止される。以上により、本実施形態の有機EL装置1が形成される。
【0060】
以上詳述したように、本実施形態の有機EL装置1及びその製造方法では、陽極バッファ層70及び陰極バッファ層52を導電性高分子によって構成した。この構成によれば、極性の異なる順バイアス及び逆バイアスの何れのバイアスを印加する場合であっても常に発光が得られている。従って、発光素子の内部における電荷及び不純物イオンの蓄積や不純物イオンにより発生する内部電界が緩和され、実効的な発光時間を短くすることなく表示を行うことが可能となる。しかも、電圧値及び極性が異なる順バイアスと逆バイアスとを交互に印加しているため、順バイアスを印加する場合と逆バイアスを印加する場合とで発光素子の発光特性が異なっても、ちらつきを防止することができる。
【0061】
次に、本発明の電子機器について説明する。本発明の電子機器は、上述したEL表示装置1を表示部として備えるものであり、具体的には図11に示すものが挙げられる。図11は、本発明の電子機器の例を示す図である。図11(a)は、携帯電話の一例を示した斜視図である。図11(a)において、携帯電話1000は、上述したEL表示装置1を用いた表示部1001を備える。図11(b)は、腕時計型電子機器の一例を示した斜視図である。図11(b)において、時計1100は、上述したEL表示装置1を用いた表示部1101を備える。図11(c)は、ワープロ、パソコン等の携帯型情報処理装置の一例を示した斜視図である。図11(c)において、情報処理装置1200は、キーボードなどの入力部1201、上述したEL表示装置1を用いた表示部1202、情報処理装置本体(筐体)1203を備える。図11(a)〜(c)に示すそれぞれの電子機器は、上述したEL表示装置1を有した表示部1001,1101,1202を備えているので、表示部を構成するEL表示装置の発光素子の長寿命化が図られたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施形態による有機EL装置の配線構造を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態による有機EL装置1の構成を模式的に示す平面図である。
【図3】図2のA−B線に沿う断面図である。
【図4】図2のC−D線に沿う断面図である。
【図5】駆動用TFT123等を含む回路部11の拡大図である。
【図6】1つの発光素子の駆動系を模式的に示す図である。
【図7】本実施形態の有機EL装置1に設けられる発光素子の発光特性の一例を示す図である。
【図8】本実施形態の有機EL装置の駆動方法の一例を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態による有機EL装置1の製造工程を示す断面図である。
【図10】本発明の一実施形態による有機EL装置1の製造工程を示す断面図である。
【図11】本発明の電子機器の例を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1……有機EL装置
10……電源制御回路(駆動装置)
23……画素電極(陽極)
50……共通陰極(陰極)
52……陰極バッファ層
60……発光層
60R……発光層(赤色発光層)
60G……発光層(緑色発光層)
60B……発光層(青色発光層)
70……陽極バッファ層
1000……携帯電話(電子機器)
1100……時計(電子機器)
1200……情報処理装置(電子機器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する陽極と陰極との間に少なくとも発光層を備えた有機EL装置であって、
前記陽極と前記発光層との間に設けられた導電性材料からなる陽極バッファ層と、
前記陰極と前記発光層との間に設けられた導電性材料からなる陰極バッファ層と、
前記陽極及び前記陰極に対して、電圧値及び極性が異なる順バイアス電圧と逆バイアス電圧とを交互に印加する駆動装置と
を備えることを特徴とする有機EL装置。
【請求項2】
前記順バイアス電圧の電圧値及び前記逆バイアス電圧の電圧値の一方は、他方の電圧値を基準として設定されることを特徴とする請求項1記載の有機EL装置。
【請求項3】
前記順バイアス電圧の電圧値及び前記逆バイアスの電圧値は、前記発光層の発光輝度のばらつきが所定値以下になるように設定されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の有機EL装置。
【請求項4】
前記所定値は、前記発光層の最高輝度を、前記発光層の発光により表現される階調数で除算して得られる輝度以下に設定されることを特徴とする請求項3記載の有機EL装置。
【請求項5】
前記発光層は、赤色を発光する赤色発光層、緑色を発光する緑色発光層、及び青色を発光する青色発光層を備えており、
前記駆動装置は、前記赤色発光層、緑色発光層、及び青色発光層毎に、印加する前記順バイアス電圧及び逆バイアス電圧の電圧値を異ならせることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の有機EL装置。
【請求項6】
前記駆動装置は、前記有機EL装置に表示される表示画像のフレーム単位、又はフレームを複数に時分割したサブフレーム毎に前記順バイアス電圧と逆バイアス電圧とを交互に印加することを特徴とする請求項1から請求項5の何れか一項に記載の有機EL装置。
【請求項7】
前記陽極バッファ層及び前記陰極バッファ層は、導電性高分子からなることを特徴とする請求項1から請求項6の何れか一項に記載の有機EL装置。
【請求項8】
前記陽極バッファ層及び前記陰極バッファ層は、エチレンジオキシチオフェンを含む高分子化合物からなることを特徴とする請求項1から請求項7の何れか一項に記載の有機EL装置。
【請求項9】
前記陽極バッファ層及び前記陰極バッファ層は、PEDOT/PSSからなることを特徴とする請求項1から請求項8の何れか一項に記載の有機EL装置。
【請求項10】
前記陽極バッファ層及び前記陰極バッファ層のシート抵抗は、100Ωcmよりも小さいことを特徴とする請求項1から請求項9の何れか一項に記載の有機EL装置。
【請求項11】
対向する陽極と陰極との間に少なくとも発光層を備えた有機EL装置を駆動する駆動方法において、
前記陽極と前記発光層との間には導電性材料からなる陽極バッファ層が、前記陰極と前記発光層との間には導電性材料からなる陰極バッファ層がそれぞれ設けられており、
前記陽極及び前記陰極に対して、電圧値及び極性が異なる順バイアス電圧と逆バイアス電圧とを交互に印加することを特徴とする有機EL装置の駆動方法。
【請求項12】
前記順バイアス電圧の電圧値及び前記逆バイアス電圧の電圧値の一方は、他方の電圧値を基準として設定されることを特徴とする請求項11記載の有機EL装置の駆動方法。
【請求項13】
前記順バイアス電圧の電圧値及び前記逆バイアスの電圧値は、前記発光層の発光輝度のばらつきが所定値以下になるように設定されることを特徴とする請求項11又は請求項12記載の有機EL装置の駆動方法。
【請求項14】
前記所定値は、前記発光層の最高輝度を、前記発光層の発光により表現される階調数で除算して得られる輝度以下に設定されることを特徴とする請求項13記載の有機EL装置の駆動方法。
【請求項15】
前記発光層は、赤色を発光する赤色発光層、緑色を発光する緑色発光層、及び青色を発光する青色発光層を備えており、
前記赤色発光層、緑色発光層、及び青色発光層毎に、電圧値及び極性が異なる順バイアス電圧と逆バイアス電圧とを交互に印加することを特徴とする請求項11から請求項14の何れか一項に記載の有機EL装置の駆動方法。
【請求項16】
前記有機EL装置に表示される表示画像のフレーム単位、又はフレームを複数に時分割したサブフレーム毎に前記順バイアス電圧と逆バイアス電圧とを交互に印加することを特徴とする請求項11から請求項15の何れか一項に記載の有機EL装置の駆動方法。
【請求項17】
請求項1から請求項10の何れか一項に記載の有機EL装置を備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−235492(P2006−235492A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−53364(P2005−53364)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】