説明

有機EL装置

【課題】耐久性が高く長寿命の有機EL装置を提供すること。
【解決手段】 本発明の有機EL装置は、有機EL素子を有する有機ELパネルと、選択反射フィルムとを備える有機EL装置であって、該選択反射フィルムが、該有機EL素子よりも視認側に配置され、該有機EL素子から出射された波長400nm〜700nmの可視光線を70%以上透過し、かつ外部からの波長800nm〜1000nmの近赤外線を50%以上反射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL装置に関する。より詳細には、本発明は、耐久性が高く長寿命の有機EL装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子を用いた有機EL装置は、自発光型表示装置として近年脚光を浴びている。有機EL表示パネルは自発光型であるため、視野角が広く、応答速度が速い。また、バックライトが不要であるため、薄型軽量化が可能である。
【0003】
有機EL素子の有機発光層、有機EL素子を駆動させる有機トランジスタ等を構成する有機材料は、物理的もしくは化学的に不安定であり、このような有機材料の不安定性が有機EL装置の表示特性の劣化を招く。そのため、一般的に、有機EL装置においては、有機EL素子が配置された基板に封止部材を貼り付けるなどして、有機材料を外気から遮断し、水分および酸素による有機材料の劣化を防いでいる。
【0004】
さらに、光(赤外光、紫外光も含む)、および光による温度上昇もまた上記有機EL装置の表示特性を低下させる要因である。光に着目した技術としては、赤外線から有機トランジスタを保護するための保護層を有する有機EL装置(特許文献1)、アクティブマトリクス回路の入射光に応答する部分に、入射光を吸収又は反射する層を有する固体有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイ(特許文献2)が開示されている。しかし、これらの技術では、有機EL素子の有機発光層の温度上昇を低減することができず、十分な耐久性を有する有機EL装置は得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/106826号パンフレット
【特許文献2】特表2008−523624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、耐久性が高く長寿命の有機EL装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の有機EL装置は有機EL素子を有する有機ELパネルと、選択反射フィルムとを備える有機EL装置であって、該選択反射フィルムが、該有機EL素子よりも視認側に配置され、該有機EL素子から出射された波長400nm〜700nmの可視光線を70%以上透過し、かつ外部からの波長800nm〜1000nmの近赤外線を50%以上反射する。
好ましい実施形態においては、上記選択反射フィルムが、前記有機ELパネルの外側に配置されている。
好ましい実施形態においては、上記選択反射フィルムの波長700nmにおける透過率T(700)と波長900nmにおける透過率T(900)との比(T(700)/T(900))が5より大きい。
好ましい実施形態においては、上記選択反射フィルムが、屈折率の異なる層の積層体である。
好ましい実施形態においては、上記屈折率の異なる層が、屈折率の異なるポリエステル樹脂層である。
好ましい実施形態においては、上記屈折率の異なる層が、屈折率の異なる無機材料含有層である。
好ましい実施形態においては、上記選択反射フィルムが、グランジャン配向したコレステリック高分子液晶の固化層を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、有機ELパネルの有機EL素子よりも視認側に選択反射フィルムを配置して、外部からの近赤外線を反射させることにより、有機EL素子の電極(陽極、陰極)の温度上昇を抑制し、有機発光層の熱劣化を低減させることができるので、耐久性が高く長寿命の有機EL装置を提供することができる。また、当該選択反射フィルムを用いることにより、有機EL素子から出射される可視光線は透過させることができるので、輝度を低下させることなく耐久性の高い有機EL装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の好ましい実施形態による有機EL装置の概略断面図である。
【図2】本発明の好ましい実施形態による有機EL装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
A.有機EL装置の全体構成
図1は、本発明の好ましい実施形態による有機EL装置の概略断面図である。この有機EL装置100aは、有機ELパネル110と有機ELパネル110の視認側に配置された選択反射フィルム120とを備える。有機ELパネル110は、基板111と、基板111上に配置された有機EL素子112と、有機EL素子112を封止するように配置された封止部材113とを備える。有機EL素子112は、陽極10と、有機発光層20と、陰極30とを基板111側からこの順に備える。陽極10は基板111側に配置される。選択反射フィルム120は基板111の有機EL素子が配置されていない側に配置される。図示しないが、実用的には、有機EL素子112は、任意の部材をさらに備え得る。例えば、有機EL素子112は、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層等をさらに備え得る。
【0011】
図2は、本発明の好ましい実施形態による有機EL装置の概略断面図である。この有機EL装置100bは、選択反射フィルム120が基板111と有機EL素子112との間に配置されている。
【0012】
上記有機ELパネル110は、好ましくは、図1または図2に示すように、基板側に可視光線を出射するボトムエミッション方式の有機ELパネルである。
【0013】
上記選択反射フィルム120は、有機EL素子112よりも視認側に配置される。上記選択反射フィルム120は、図1に示すように、上記有機ELパネル110の外側に配置されていてもよいし、図2に示すように、上記有機ELパネル110の内側に配置されていてもよい。好ましくは、選択反射フィルム120は、有機ELパネル110の外側に配置される。上記選択反射フィルム120が、有機ELパネル110の外側に配置されれば、基板および封止部材による近赤外線の吸収をも防ぐことができ、有機発光層の劣化を効果的に抑制することができる。
【0014】
本発明の有機EL装置の駆動方式は、任意の適切な方式が採用され得る。本発明の有機EL装置の駆動方式としては、例えば、アクティブマトリクス駆動方式、パッシブマトリクス駆動方式が挙げられる。
【0015】
B.有機ELパネル
上記有機ELパネルは、基板、基板上に配置された有機EL素子および当該有機EL素子を封止する封止部材を有する。上記有機ELパネルは、上記有機EL素子の視認側に選択反射フィルムをさらに有していてもよい。
【0016】
B−1.基板
上記基板は、任意の適切な基板を採用し得る。上記基板としては、例えば、ガラス基板、セラミックス基板、半導体基板、金属基板、プラスチック基板等が挙げられる。上記有機ELパネルがボトムエミッション方式である場合は、ガラス基板、アクリル樹脂基板等の透明基板を用いることが好ましい。
【0017】
上記基板は、必要に応じて、表面処理層を有していてもよい。表面処理層としては、他例えば、透湿防止層、ガスバリア層、ハードコート層、アンダーコート層等が挙げられる。
【0018】
B−2.有機EL素子
上記有機EL素子は、陽極と、有機発光層と、陰極とをこの順に有する。上記有機EL素子は、陽極と陰極との間に電圧が印加されたときに、陽極から注入されたホール(正孔)と陰極から注入された電子とが有機発光層中で再結合することにより発光する。
【0019】
有機EL素子は上記のような作用で発光する性質上、陽極および陰極のうち少なくとも一方が透明であることが好ましい。代表的には、透明な陽極が用いられる。
【0020】
上記陽極の厚みは、当該陽極を構成する材料に応じて、任意の適切な厚みが採用され得る。上記陽極の厚みは、代表的には、好ましくは10nm〜200nm、さらに好ましくは10nm〜100nmである。
【0021】
上記陽極を構成する材料としては、仕事関数の大きい(例えば、4eV以上)、金属、酸化金属、合金、電気伝導性化合物、これらの混合物等が挙げられる。上記陽極を構成する材料の具体例としては、金、銀、クロム、ニッケル等の金属;ヨウ化銅、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化スズ、酸化亜鉛等の導電性透明材料が挙げられる。
【0022】
上記陽極の形成方法は、任意の適切な方法を採用し得る。上記陽極の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等が挙げられる。
【0023】
上記陰極の厚みは、好ましくは10nm〜1000nmであり、さらに好ましくは10nm〜200nmである。
【0024】
上記陰極を構成する材料としては、仕事関数の小さい(例えば、4eV未満)、金属、酸化金属、合金、電気伝導性化合物、これらの混合物等が挙げられる。上記陰極を構成する材料の具体例としては、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、リチウム、ナトリウム、セシウム、銀、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、リチウム−アルミニウム合金が挙げられる。また、上記陰極は、必要に応じて2層以上の積層構造であってもよい。
【0025】
上記陰極の形成方法は、任意の適切な方法を採用し得る。上記陽極の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等が挙げられる。
【0026】
上記有機発光層は、電圧印加時に、正孔と電子の再結合の場を提供して発光させる機能を有する層である。上記有機発光層は、有機発光材料を含む。上記有機発光層は単層構造でもよく、2層以上の積層構造であってもよい。積層構造の場合、それぞれの層が異なる発光色で発光してもよい。
【0027】
上記有機発光層の厚みは、任意の適切な厚みを採用し得る。好ましくは、5nm〜5μmである。
【0028】
上記有機発光材料は、任意の適切なものが採用され得る。上記有機発光材料は、低分子発光材料であってもよいし、高分子発光材料であってもよい。低分子発光材料の具体例としては、4,4’−(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニル等のオレフィン系発光材料;9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン、9,10−ビス(3,5−ジフェニルフェニル)アントラセン、9,10−ビス(9,9−ジメチルフルオレニル)アントラセン、9,10−(4−(2,2−ジフェニルビニル)フェニル)アントラセン、9,10’−ビス(2−ビフェニリル)−9,9’−ビスアントラセン、9,10、9’、10’−テトラフェニル−2,2’−ビアントリル、1,4−ビス(9−フェニル−10−アントラセン)ベンゼン等のアントラセン系発光材料;2,7,2’,7’−テトラキス(2,2−ジフェニルビニル)スピロビフルオレン等のスピロ系発光材料;4,4’−ジカルバゾルビフェニル、1,3−ジカルバゾリルベンゼン等のカルバゾール系発光材料;1,3,5−トリピレニンベンゼン等のピレン系発光材料等が挙げられる。
【0029】
上記有機発光層の形成方法は、使用する有機発光材料の種類に応じて、任意の適切な方法を採用し得る。上記有機発光層の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、インクジェット法等が挙げられる。
【0030】
B−3.封止部材
上記封止部材は、上記有機EL素子を封止するように上記基板上に配置され、上記基板と協働して、有機EL素子を外気から遮断する。上記封止部材を配置することにより、水分および酸素による上記有機発光層の発光特性の劣化を防止することができる。上記封止部材は、図1および図2に示すように、有機EL素子を覆う封止缶の形態であってもよいし、図示していないが、有機EL素子上に当該有機EL素子を覆うように形成させた封止膜の形態であってもよい。また、封止缶と封止膜とを併用してもよい。
【0031】
上記封止部材および上記基板により形成された空間には、乾燥剤を配置したり、乾燥した不活性ガスが封入してもよい。このような乾燥剤の配置および/または乾燥した不活性ガスの封入によれば、水分および酸素による上記有機発光層の発光特性の劣化を効果的に防ぐことができる。上記乾燥剤としては、例えば、酸化バリウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム等が挙げられる。上記乾燥した不活性ガスとしては、例えば、乾燥空気、乾燥窒素等が挙げられる。
【0032】
上記封止部材の肉厚は、好ましくは、1nm〜1mmである。
【0033】
上記封止部材が封止缶の形態である場合、上記封止部材を構成する材料としては、酸素や水分を遮断し得る限り、任意の適切な材料を採用し得る。上記封止部材を構成する材料の具体例としては、ガラス;ニッケル鋼、アルミニウム等の金属;ポリエステル、ポリアミド等の樹脂が挙げられる。なかでも、好ましくはガラスである。有機ELパネルがトップエミッション方式の場合は、透明度の高い材料を選択する必要がある。
【0034】
上記封止部材が封止缶の形態である場合、上記封止部材は、封止樹脂を用いて、上記基板に固定される。封止樹脂としては、例えば、熱硬化樹脂や紫外線硬化樹脂が用いられ得る。好ましくは、紫外線硬化型のエポキシ樹脂である。
【0035】
上記封止部材が封止膜の形態である場合、上記封止部材を構成する材料は、好ましくは、上記封止樹脂と同様の樹脂である。
【0036】
C.選択反射フィルム
上記選択反射フィルムは、波長400nm〜700nmの可視光線を70%以上透過し、かつ波長800nm〜1000nmの近赤外線を50%以上反射し得る機能を有する。上記のように、このような選択反射フィルムを有機EL素子よりも視認側に配置すれば、有機ELパネルの構造上、外部からの近赤外線は視認側から有機ELパネルへ入射するので、有機EL素子が近赤外線を吸収するのを防ぐことができる。さらに、上記選択反射フィルムが、有機ELパネルの外側に配置されれば、基板および封止部材による近赤外線の吸収をも防ぐことができ、有機発光層の劣化を効果的に抑制することができる。
【0037】
上記選択反射フィルムの波長800nm〜1000nmの近赤外線反射率は、できるだけ高いことが好ましい。具体的には、選択反射フィルムの波長800nm〜1000nmの近赤外線反射率は、50%以上であり、好ましくは50%〜100%であり、より好ましくは70%〜100%であり、さらに好ましくは80%〜100%であり、特に好ましくは90%〜100%である。近赤外線反射率がこのような範囲であれば、近赤外線を吸収することによる有機EL素子の陽極および陰極の温度上昇を抑制することができる。さらに、選択反射フィルム自体が紫外線を吸収することによる有機ELパネルおよび有機EL素子の温度上昇を抑制することができる。
【0038】
上記選択反射フィルムの波長400nm〜700nmの可視光線透過率は、できるだけ高いことが好ましい。具体的には、選択反射フィルムの波長400nm〜700nmの可視光線透過率は、70%以上であり、好ましくは70%〜100%であり、より好ましくは75%〜100%であり、さらに好ましくは80%〜100%であり、特に好ましくは85%〜100%である。可視光線透過率がこのような範囲であれば、有機EL素子からの出射光を十分に透過し得るので、高輝度の有機ELを得ることができる。
【0039】
上記選択反射フィルムの波長700nmにおける透過率T(700)と波長900nmにおける透過率T(900)との比(T(700)/T(900))は、好ましくは5より大きく、より好ましくは5〜200、さらに好ましくは8〜200である。このように可視光線を選択的に透過し得る選択反射フィルムであれば、近赤外線を吸収することによる有機EL素子の陽極および陰極の温度上昇を抑制し、かつ有機EL素子からの出射光を十分に透過し得る。このような選択反射フィルムを用いることにより、高輝度かつ耐久性に優れる有機LE装置を得ることができる。
【0040】
上記選択反射フィルムは、好ましくは、屈折率が異なる層の積層体またはコレステリック高分子液晶の固化層である。上記選択反射フィルムが、コレステリック高分子液晶の固化層である場合、上記(T(700)/T(900))を大きくすることができる。
【0041】
(屈折率が異なる層の積層体)
上記屈折率が異なる層の積層体は、代表的には、屈折率が異なる2種類の層(高屈折率層および低屈折率層)が交互に多数積層した積層体である。上記積層体は、各層の屈折率と厚みとを調整することにより、反射波長を制御することができる。上記屈折率が異なる層の積層数は、所望の反射波長および屈折率が異なる層の屈折率差に応じて、任意の適切な積層数を採用し得る。代表的には、10層〜300層である。
【0042】
上記積層体を構成する高屈折率層の屈折率は、好ましくは1.70以上であり、より好ましくは1.8〜3.0であり、さらに好ましくは1.9〜3.0である。
【0043】
上記積層体を構成する低屈折率層の屈折率は、好ましくは1.55以下であり、より好ましくは1.20〜1.55であり、さらに好ましくは1.20〜1.53である。
【0044】
上記高屈折率層と上記低屈折率層との屈折率差は、好ましくは0.03〜1.5であり、より好ましくは0.05〜1.5である。
【0045】
上記積層体を構成する層の厚みは、所望の反射波長および層の屈折率に応じて、任意の適切な厚みを採用し得る。代表的には、積層体を構成する各層の厚みは10nm〜500nmである。
【0046】
上記積層体を構成する層としては、例えば、屈折率の異なる2種類のポリエステル樹脂層、屈折率の異なる2種類の無機材料含有層等が挙げられる。好ましくは、屈折率の異なる2種類の無機材料含有層である。屈折率の異なる2種類の無機材料含有層により上記積層体を構成すれば、2種類の無機材料含有層の屈折率差を大きくし得るので、積層数を少なくすることができる(例えば、10層〜40層)。上記積層体は、必要に応じて、さらに他の層を有していてもよい。当該他の層としては、導電性材料層が挙げ挙げられる。上記積層体が導電性材料層を有すれば、プラズマ反射を利用して、紫外線および熱線を反射させることができる。上記導電性材料層を構成する材料としては、酸化インジウム錫、銅、アルミ、金等の導電性材料が挙げられる。
【0047】
上記ポリエステル樹脂層の屈折率は、例えば、ポリエステル樹脂層の融点を調整することにより制御することができる。上記屈折率の異なるポリエステル樹脂層間の融点の差は、好ましくは15℃〜50℃である。当該融点の差が15℃未満であれば、十分な屈折率差を設けることができない。また、当該融点の差が50℃より大きければ、上記屈折率の異なるポリエステル樹脂層間の密着性が不十分となるおそれがある。
【0048】
上記ポリエステル樹脂層を構成する材料としては、例えば、結晶性ポリエステル、および結晶性ポリエステルと共重合成分との共重合体が挙げられる。結晶性ポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートが挙げられる。なかでも、好ましくはポリエチレンナフタレートである。上記共重合成分の具体例としては、例えば、イソフタル酸、2,6―ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族カルボン酸;アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸;ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノール等の脂環族ジオールが挙げられる。共重合成分の種類および量は、所望の融点(すなわち屈折率)に応じて、任意の適切な種類および量を採用し得る。
【0049】
上記屈折率の異なる2種類のポリエステル樹脂層からなる積層体は、好ましくは、2軸延伸して得られる2軸延伸多層積層フィルムである。2軸延伸することにより、接着層または粘着層を介さずに各層を密着させることができ、また、厚みの均一な積層体を得ることができる。
【0050】
上記2軸延伸多層積層フィルムは、例えば、(1)それぞれ別の押出し機により2種類のポリエステル樹脂を押出し成形し、(2)押出し成形された2種類のポリエステルを溶融状態で交互に貼り合わせて多層未延伸シートを成形し、(3)当該多層未延伸シートを回転ドラム上にキャストして多層未延伸フィルムを成形し、(4)当該多層未延伸フィルムを2軸延伸機により、2軸に延伸して得ることができる。上記延伸時の温度は、融点の高いポリエステル樹脂のガラス転移温度をTgとして、好ましくは、Tg(℃)〜Tg+50(℃)である。上記延伸の面積倍率は、好ましくは5倍〜50倍である。
【0051】
上記無機材料含有層の屈折率は、無機材料の種類により制御することができる。高屈折率の無機材料としては、例えば、酸化チタン、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛等が挙げられる。低屈折率の無機材料としては、例えば、カルシウム、バリウム、リチウム、マグネシウムのフッ化物、シリカ等が挙げられる。
【0052】
上記無機材料含有層の形成方法は、任意の適切な方法を採用し得る。上記無機材料含有層の形成方法の具体例としては、スパッタ法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、レーザ蒸着法、化学気相法(CVD法)、塗布法、スプレー法等の膜形成方法が挙げられる。
【0053】
(コレステリック高分子液晶の固化層)
上記コレステリック高分子液晶の固化層のコレステリック高分子液晶は、グランジャン配向している。グランジャン配向とは、構成分子がらせん構造をとり、そのらせん軸が面方向にほぼ垂直に配向している状態をいい、グランジャン配向したコレステリック高分子液晶の固化層とは、その配向状態が固定されている層をいう。
【0054】
上記コレステリック高分子液晶の固化層は、螺旋ピッチと同じ波長で、かつ螺旋の向きと逆向きの円偏光を反射する性質を示す。したがって、コレステリック高分子液晶の固化層を選択反射フィルムとして用いる場合は、コレステリック高分子液晶の固化層の螺旋ピッチおよび平均屈折率を調整することにより、反射波長を制御することができる。なお、選択反射波長λは、下記式(1)で表すことができる。
λ=n・P ・・・(1)
上記式(1)において、nはコレステリック高分子液晶の平均屈折率を表し、Pはコレステリック高分子液晶の螺旋ピッチを表す。
【0055】
上記選択反射フィルムは、上記コレステリック高分子液晶の固化層を1層のみ有していてもよいし、2層以上を有していてもよい。上記選択反射フィルムは、好ましくは、螺旋の向きが異なる2層のコレステリック高分子液晶の固化層を有する。このような2層構造であれば、右円偏光および左円偏光の両方を反射することができるので、近赤外線反射率の高い選択反射フィルムを得ることができる。また、上記選択反射フィルムは、螺旋の向きが同一の2層のコレステリック高分子液晶の固化層と、これらの層間に配置された2分の1波長板とを有していてもよい。このような構成によっても、右円偏光および左円偏光の両方を反射することができる。
【0056】
上記コレステリック高分子液晶の固化層の1層あたりの厚みは、好ましくは0.5μm〜20μmであり、より好ましくは1μm〜10μmである。
【0057】
上記コレステリック高分子液晶の固化層の形成方法は、任意の適切な方法を採用し得る。上記コレステリック高分子液晶の固化層の形成方法の具体例としては、レーヨン等の布でラビング処理した透明基板上の配向膜にコレステリック高分子液晶を展開した後、当該コレステリック高分子液晶を加熱してグランジャン配向させた後、冷却してグランジャン配向を固定化させる方法が挙げられる。上記配向膜としては、ポリイミド、ポリビニルアルコール等が挙げられる。上記加熱時の温度は、好ましくは、コレステリック高分子液晶のガラス転移温度以上、等方相転移温度以下である。上記カイラル剤は、所望の螺旋ピッチおよび螺旋の向きに応じて、任意の適切なものを採用し得る。
【0058】
上記コレステリック高分子液晶としては、例えば、ポリエステル系、ポリカーボネート系等の主鎖型高分子結晶のメソゲンをつなぐ屈曲鎖に光学活性成分を導入した高分子液晶、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリシロキサン等の骨格主鎖に屈曲鎖(例えば、メチレン鎖)を介して、側鎖(コレステリン誘導体または不斉炭素原子を含む光学活性なメソゲン)を結合した側鎖型高分子液晶が挙げられる。これらの高分子結晶は、単独重合体であってもよく、共重合体であってもよい。また、これらは単独で、または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0059】
上記コレステリック高分子液晶の固化層は、カイラル剤が添加されていてもよい。カイラル剤を添加することにより、コレステリック高分子液晶の螺旋ピッチおよび螺旋の向きを調整することができる。上記カイラル剤の添加量は、所望の螺旋ピッチに応じて、任意の適切な量を採用し得る。上記カイラル剤の種類は、所望の螺旋の向きに応じて、任意の適切な向きを採用し得る。
【0060】
上記コレステリック高分子液晶の固化層は、必要に応じて、任意の適切な添加剤を含み得る。当該添加剤の具体例としては、安定剤、レベリング剤、可塑剤等が挙げられる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。なお、近赤外線透過率および可視光線透過率は、分光光度計(日立ハイテクノロジー社製、製品名「U−4100」を用いて、23℃におけるそれぞれの波長(800nm〜1000nm、400nm〜700nm)の光で測定した。また、近赤外線反射率は、式(100(%)−近赤外線透過率(%))により算出した。
【0062】
(実施例1)
ボトムエミッション型の有機ELパネルのガラス基板表面に、屈折率の異なる2種類のポリエステル樹脂層を交互に積層して得られた積層体(積層数100×2)からなる選択反射フィルムをアクリル系接着剤を介して貼り付けて、有機EL装置を得た。2種類のポリエステル樹脂の屈折率はそれぞれ、1.72、1.64であった。選択反射フィルムの波長800nm〜1000nmの近赤外線反射率は92%、波長400nm〜700nmの可視光線透過率は83%であった。また、選択反射フィルムの波長700nmにおける透過率T(700)と波長900nmにおける透過率T(900)との比(T(700)/T(900))は、9.6であった。
【0063】
(実施例2)
選択反射フィルムとして、屈折率の異なる2種類のポリエステル樹脂層を交互に積層して得られた積層体(積層数100×2)に代えて、二酸化チタン(TiO)層と二酸化シリコン(SiO)層を交互に積層して得られた積層体(積層数15×2)を用いた以外は、実施例1と同様にして有機EL装置を得た。なお、二酸化チタン(TiO)層および二酸化シリコン(SiO)層は、有機ELパネルのガラス基板表面にTiOおよびSiOをそれぞれ交互にスパッタリングすることにより得た。なお、TiOの屈折率は2.4〜2.7であり、SiOの屈折率は1.5である。選択反射フィルムの波長800nm〜1000nmの近赤外線反射率は88%、波長400nm〜700nmの可視光線透過率は85%であった。また、選択反射フィルムの波長700nmにおける透過率T(700)と波長900nmにおける透過率T(900)との比(T(700)/T(900))は、15.9であった。
【0064】
(実施例3)
選択反射フィルムとして、屈折率の異なる2種類のポリエステル樹脂の多層膜(積層数100×2)に代えて、コレステリック高分子液晶の固化層を用いた以外は、実施例1と同様にして有機EL装置を得た。選択反射フィルムの波長800nm〜1000nmの近赤外線反射率は90%、波長400nm〜700nmの可視光線透過率は86%であった。また、選択反射フィルムの波長700nmにおける透過率T(700)と波長900nmにおける透過率T(900)との比(T(700)/T(900))は、11.4であった。
【0065】
(比較例1)
選択反射フィルムを貼り付けなかったこと以外は、実施例1と同様にして有機EL装置を得た。
【0066】
〈評価〉
上記で得られた有機EL装置を下記の方法で評価した。結果を表1に示す。
(有機ELパネルの温度)
疑似太陽光線照射装置(山下電送社製、製品名 ソーラーシミュレーター「YSS−50」)を用いて、得られた有機EL装置に対し、ガラス基板側から疑似太陽光を1時間照射した後、有機ELパネルの温度をサーモグラフィーで測定した。
(有機EL装置の輝度保持率)
疑似太陽光線照射装置(山下電送社製、製品名 ソーラーシミュレーター「YSS−50」)を用いて、得られた有機EL装置に対し、ガラス基板側から疑似太陽光を500時間照射した後、有機EL発光効率測定装置(プリサイスゲージ社製、製品名「EL1003」)を用いて輝度を測定し、疑似太陽光照射前の初期輝度に対する輝度保持率(500時間照射後の輝度/初期輝度)を測定した。
【0067】
【表1】

【0068】
表1から明らかなように、本発明の有機EL装置は、有機EL素子よりも視認側に選択反射フィルムを配置することにより、有機ELパネルの温度上昇が抑制されている。その結果、有機発光層の熱劣化を低減させることができるので、高い輝度保持率(すなわち、輝度低下の抑制)が実現されている。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の有機EL装置は、表示用途、照明用途等広く用いられ得る。
【符号の説明】
【0070】
10 陽極
20 有機発光層
30 陰極
110 有機ELパネル
111 基板
112 有機EL素子
113 封止部材
120 選択反射フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機EL素子を有する有機ELパネルと、選択反射フィルムとを備える有機EL装置であって、
該選択反射フィルムが、該有機EL素子よりも視認側に配置され、該有機EL素子から出射された波長400nm〜700nmの可視光線を70%以上透過し、かつ外部からの波長800nm〜1000nmの近赤外線を50%以上反射する、
有機EL装置。
【請求項2】
前記選択反射フィルムが、前記有機ELパネルの外側に配置されている、請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項3】
前記選択反射フィルムの波長700nmにおける透過率T(700)と波長900nmにおける透過率T(900)との比(T(700)/T(900))が5より大きい、請求項1または2に記載の有機EL装置。
【請求項4】
前記選択反射フィルムが、屈折率の異なる層の積層体である、請求項1から3のいずれかに記載の有機EL装置。
【請求項5】
前記屈折率の異なる層が、屈折率の異なるポリエステル樹脂層である、請求項4に記載の有機EL装置。
【請求項6】
前記屈折率の異なる層が、屈折率の異なる無機材料含有層である、請求項4に記載の有機EL装置。
【請求項7】
前記選択反射フィルムが、グランジャン配向したコレステリック高分子液晶の固化層を有する、請求項1から3のいずれかに記載の有機EL装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−232041(P2010−232041A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78920(P2009−78920)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】