説明

有用な二置換アミンの新規な一段合成法

本発明は式(I)の化合物の製造に関する。当該式(I)の化合物又はそれらのリチウム塩は、ガン治療に有用なドラスタチン類似体の製造における中間体として有用である。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二置換アミンを製造するための新規の方法に関する。本発明に係る方法により得られ得るアミンは、ドラスタチン10(Dolastine 10)類似体の製造における有用な中間体である。
【背景技術】
【0002】
ドラスタチン10は、海洋性軟体動物であるタツナミガイ(Dolabella auricularia)から分離された、強力な抗有糸分裂ペプチドとして知られている。ドラスタチン10はチューブリン重合を阻害し、タキサン(taxanes)やビンカ(vincas)とは異なる化学分類に属する(Curr. Pharm. Des. 1999, 5: 139-162)。前臨床試験によって、ドラスタチン10は、細胞培養及び動物モデルにおける様々なマウス及びヒト腫瘍に対して活性を有することが立証された。ドラスタチン10と、2つの合成ドラスタチン誘導体、セマドチン(Cemadotin)及びTZT−1027が、Drugs of the future 1999, 24(4): 404-409に記載されている。その後、ドラプロイン(dolaproine)部に種々のチオ基を有する特定のドラスタチン10誘導体により、ヒトガン異種移植モデルにおいて、抗腫瘍活性及び治療指数が有意に改善されることが見出された(WO 03/008378)。
【0003】
ドラスタチン10及びその誘導体は、5つのサブユニット、即ちDov−、Val−、Dil−、Dap−及びDoeサブユニットからなる。
【化1】

【0004】
これらの化合物の全合成は、WO 03/008378に開示のものも含め、多大な労力を要する上に、低収率であった。これは主に、各サブユニットの取得及びその後の最終生成物の取得に要する、多数の反応工程に伴う損失によるものである。従って、各サブユニットの合成に関しても、新たな改良法の提供が依然として求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこの課題に対処すべく、一般式(I)の化合物を製造するための新規な改良法を提供するものである。一般式(I)は、上述のドラスタチン10誘導体の合成における修飾Doeサブユニットを表わしている。従来知られている修飾Doeサブユニットの合成経路は、通常は四段合成を使用するものである(例えばH. Hashima, M. Hayashi, Y. Kamano, N. Sato, Biorg. Med. Chem, 2000, S, 1757参照)。より正確には、本発明の方法によって、式(I)の化合物の一段合成経路が見出された。これは、当該ドラスタチン10誘導体の全合成における、顕著な改善である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
具体的に、本発明は、式(I)の化合物
【化2】

又はその塩の製造法であって、
式(II)の化合物
【化3】

又はその塩を、亜リン酸又は次亜リン酸の存在下、ヨウ化水素酸と反応させ;
前記反応生成物を所望により、水酸化リチウムの添加によって、式(III)の化合物
【化4】

に変換する
(ここで、
1及びR2は、互いに独立に、ハロゲン、C1−C8アルコキシカルボニル、スルファモイル、C1−C8アルキルカルボニルオキシ、カルバモイロキシ、シアノ、モノ−又はジ−C1−C8アルキルアミノ、C1−C8アルキル、C1−C8アルコキシ、フェニル、フェノキシ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、C1−C8アルキルチオ、ヒドロキシ、C1−C8アルキルカルボニルアミノ、ヘテロシクリル(heterocyclyl)、1,3−ジオキソリル、1,4−ジオキソリル、アミノ又はベンジルを表わし;
3は、C1−C4アルキルを表わし;
nは、2、3又は4であり;
kは、1、2又は3である)、方法に関する。
【0007】
式(III)のリチウム化合物は新規であり、本発明の更なる目的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本明細書で使用される「C1−C4アルキル」又は「C1−C8アルキル」という語は、それぞれ最大4つ又は8つの炭素原子を有する、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を意味する。このようなアルキル基の例としては、メチル、エチル、n−プロピル、2−メチルプロピル(イソブチル)、1−メチルエチル(イソプロピル)、n−ブチル、1,1−ジメチルエチル(t−ブチル又はtert−ブチル)又はt−ペンチル等が挙げられる。これらのアルキル基は無置換でもよいが、1又は2以上の置換基、好ましくは1から3の置換基、最も好ましくは1つの置換基により、置換されていてもよい。置換基は、ヒドロキシ、アルコキシ、アミノ、モノ−又はジアルキルアミノ、アセトキシ、アルキルカルボニルオキシ、カルバモイロキシ、アルコキシカルボニル、カルバモイル、アルキルカルバモイロキシ、ハロゲン、シクロアルキル又はフェニルからなる群より選択される。R3のC1−C4アルキル基としては、メチル基が好ましい。
【0009】
「C1−C8アルコキシ」という語は、−O−(C1−C8アルキル)を意味する。ここで「C1−C8アルキル」は上述した意味を表わす。
【0010】
「C1−C8アルキルチオ」という語は、−S−(C1−C8アルキル)を意味する。ここで「C1−C8アルキル」は上述した意味を表わす。
【0011】
本明細書で使用される「シクロアルキル」という語は、3から10、好ましくは3から7、より好ましくは5又は6の炭素原子を有する、飽和の単環又は二環式の炭化水素基を意味する。このようなシクロアルキルの例としては、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル又はデカヒドロ−ナフタレンが挙げられる。
【0012】
本明細書で使用される「ヘテロシクリル」という語は、上に定義されたシクロアルキル基において、1、2又は3の炭素原子、好ましくは1又は2の炭素原子が、N、S又はOのヘテロ原子により置換されたものを表わす。このようなヘテロシクリル基の例としては、モルホリニル、ピペリジニル、ピペラジニル、[1,4]オキサチアニル、ピロリジニル、テトラヒドロチオフェニル等が挙げられる。
【0013】
本明細書で使用される「スルファモイル」という語は、基−S(O)2−NH2を指す。
【0014】
「カルバモイル」という語は、基−C(O)−NH2を指し、「カルバモイロキシ」という語は、基−O−C(O)−NH2を指す。
【0015】
「C1−C8アルキルカルバモイロキシ」という語は、上に定義されたC1−C8アルキル基が、親構造に対しカルバモイロキシラジカルを介して結合した、−O−C(O)−NH−(C1−C8アルキル)等の基を指す。
【0016】
「C1−C8アルキルカルボニルオキシ」という語は、上に定義されたC1−C8アルキル基が、親構造に対しカルボニルオキシラジカルを介して結合した、アルキル−C(O)−O−等の基を指す。従って、基「C1−C8アルキルカルボニルオキシ」は、基C1−C8アルキル−O−C(O)−を指す。
【0017】
「C1−C8アルキルカルボニルアミノ」という語は、上に定義されたC1−C8アルキル基が、親構造に対しカルボニルアミノラジカルを介して結合した、C1−C8アルキル−C(O)−NH−等の基を指す。
【0018】
「ハロゲン」という語は、フッ素、臭素、ヨウ素及び塩素を指す。
【0019】
本明細書で使用される「室温(rt)」という語は、本発明に係る方法が実施される場所の環境温度を意味する。よって当該「室温」は、例えば15℃から35℃の範囲、好ましくは18℃から27℃の範囲、最も好ましくは18℃から23℃の範囲の温度である。
【0020】
式(I)又は(II)の化合物の塩は、当該化合物に対する従来の酸添加によって得られる。酸添加は、当業者にはよく知られている手順である。当該式(I)又は(II)の塩は、鉱酸の添加により得られるものであることが好ましい。「鉱酸」という語は、無機酸、例えば塩酸、硝酸、硫酸等を表わす語として、当業者にはよく知られている。本発明によれば、当該式(I)又は(II)の塩を形成するために、塩酸を使用することが特に好ましい。
【0021】
本発明の一実施形態によれば、上述した方法において、
3がメチルであり;
nが2であり;
kが1である。
【0022】
本発明の別の実施形態によれば、上述した方法において、式(1)の化合物
【化5】

又はその塩を得るために、式(2)の化合物
【化6】

又はその塩を、亜リン酸又は次亜リン酸の存在下、ヨウ化水素酸と反応させ、式(1)の化合物又はその塩を生成させる。
【0023】
本発明の更に別の実施形態によれば、上述した方法において、式(1)の化合物
【化7】

又はその塩を得るために、式(2a)の化合物
【化8】

又はその塩を、亜リン酸又は次亜リン酸の存在下、ヨウ化水素酸と反応させ、式(1)の化合物又はその塩を生成させる。
【0024】
本発明の更に別の実施形態によれば、上述した方法において、当該ヨウ化水素酸との反応が、次亜リン酸の存在下で行なわれる。
【0025】
本発明の更に別の実施形態によれば、上述した方法において、当該ヨウ化水素酸との反応が、亜リン酸の存在下で行なわれる。
【0026】
本発明の更に別の実施形態によれば、上述した方法において、当該反応が、2から3当量のヨウ化水素酸の存在下で行なわれる。
【0027】
本発明の更に別の実施形態によれば、上述した方法において、当該反応が、2.5当量のヨウ化水素酸の存在下で行なわれる。
【0028】
本発明の更に別の実施形態によれば、上述した方法において、当該反応が、室温から120℃までの範囲の温度下で行なわれる。
【0029】
本発明の更に別の実施形態によれば、上述した方法において、当該反応が、50℃から110℃までの範囲の温度下で行なわれる。
【0030】
本発明の別の目的は、式(I)の化合物又はその塩を、更に水酸化リチウムと反応させ、対応する式(III)の化合物
【化9】

(R1、R2、R3及びnは、上述の定義を表わす)を得ることである。
【0031】
本発明の更に別の目的は、上記記載の反応において、式(1)の化合物又はその塩を、更に水酸化リチウムと反応させ、式(3)の化合物
【化10】

を得ることである。
【0032】
従って、本発明の更なる目的として、式(III)の化合物
【化11】

(ここで、
1及びR2は、互いに独立に、ハロゲン、C1−C8アルコキシカルボニル、スルファモイル、C1−C8アルキルカルボニルオキシ、カルバモイロキシ、シアノ、モノ−又はジ−C1−C8アルキルアミノ、C1−C8アルキル、C1−C8アルコキシ、フェニル、フェノキシ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、C1−C8アルキルチオ、ヒドロキシ、C1−C8アルキルカルボニルアミノ、ヘテロシクリル(heterocyclyl)、1,3−ジオキソリル、1,4−ジオキソリル、アミノ又はベンジルを表わし;
3は、C1−C4アルキルを表わし;
nは、2、3又は4であり;
kは、1、2又は3である)が提供される。
【0033】
このような化合物としては、例えば、式(3)の化合物、
2−(3−ヒドロキシフェニル)−エチル−メチル−アミン、リチウム塩が挙げられる。
【0034】
本発明の更に別の実施形態によれば、上述した方法において、式(I)の化合物又はその塩、又は式(III)の化合物を更に反応させ、式(A)の化合物
【化12】

を得るために、
a)式(I)の化合物又はその塩、又は式(III)の化合物を、式(B)のN−保護3−ピロリジン−2−イル−プロピオン酸誘導体
【化13】

と反応させ;
続いて、tert−ブトキシカルボニル基を、ピロリジンのN−原子において開裂し、式(C)の化合物
【化14】

を生成させ、
b)前記式(C)の化合物を、更に、式(D)の化合物
【化15】

と反応させ、式(A)の化合物を生成させる
(R1、R2及びR3は、本明細書において前述した定義であり;
4、R5、R6及びR7は、互いに独立に、C1−C4アルキルを表わす)。
【0035】
本発明の更に別の実施形態によれば、上述した方法において、式(A−1)の化合物
【化16】

を製造するために、
a)式(1)の化合物又はその塩、又は式(3)の化合物を、式(B−1)の化合物
【化17】

と反応させ、
続いて、tert−ブトキシカルボニル保護基を、ピロリジンのN−原子において開裂し、式(C−1)の化合物
【化18】

を生成させ、
b)式(C−1)の化合物を、更に、式(D−1)の化合物
【化19】

と反応させ、式(A−1)の化合物を生成させる。
【0036】
本発明の更に別の実施形態は、上に定義した式(A)の化合物の製造における、本発明に係る方法の使用である。
【0037】
本発明の更に別の実施形態は、上に定義した式(A−1)の化合物の製造における、本発明に係る方法の使用である。
【0038】
本発明の更に別の実施形態は、上に定義した式(A)の化合物の製造における、本発明に係る方法により得られ得る式(I)の化合物又はその塩の使用である。
【0039】
本発明の更に別の実施形態は、上に定義した式(A)の化合物の製造における、本明細書で上に定義した式(III)の化合物の使用である。
【0040】
本発明の更に別の実施形態は、本明細書で上に定義した式(A−1)の化合物の製造における、本発明に係る方法により得られ得る式(1)の化合物又はその塩の使用である。
【0041】
本発明の更に別の実施形態は、本明細書で上に定義した式(A−1)の化合物の製造における、上に定義した式(3)の化合物の使用である。
【0042】
本発明の方法は、以下の一般的な反応スキーム(スキーム1)に従って実施することができる。ここで、別に明示しない限り、R1、R2、R3、k及びnは、本明細書で上述した定義を表わす。スキーム1における式(I)及び(II)の化合物には、上に定義したそれらの塩も含まれると解される。
【化20】

【0043】
ステップ1:円滑な脱酸素反応は、ヨウ化水素酸(45〜70%、好ましくは55〜58%の市販水溶液)を用い、亜リン酸(これは単独又は市販の水溶液(〜50%)として使用できる)の存在下、還流温度において実現される。ここで亜リン酸は、反応中に形成されるヨウ素を還元してヨウ化物とする役割を有する。レドックス反応は、反応混合物の色変化により示される。即ち、反応開始時には黄色であったものが、反応中は濃茶色に、そして反応終了時には淡黄色に変化する。次リン酸水溶液(〜50%)は、例えば市販のものが使用され、亜リン酸と同様、形成されるヨウ素を還元する役割を有する。亜リン酸は(次亜リン酸も同様に)、0.9から1.5当量の範囲、好ましくは1.0から1.2当量の範囲、最も好ましくは1.1当量程度の僅かな過剰量で使用することができる。ヨウ化水素酸は、反応サイクル中に回収されるため、触媒量で使用される。化学量論的量又は僅かな過剰量で使用することが好ましい。ヨウ化水素酸は、反応物としての役割と同時に、反応用の溶媒としての役割も持たせることが最も好ましい。このような場合、ヨウ化水素酸の使用量は、2.0から3.0当量、好ましくは2.5当量とすることができる。反応は、その発熱特性から、室温から120℃の範囲の温度、好ましくは50℃から110℃の範囲の温度で行なわれる。式(I)の化合物の単離は、反応混合物を適切な塩基、好ましくは水酸化カリウムを用いて中和した後、水溶性である式(I)の化合物を1−ブタノールで抽出し、最後に蒸留することにより行なう。
【0044】
ステップ2:或いは、高真空蒸留を避けるために、粗生成物をテトラヒドロフラン中、水酸化リチウムで処理することにより、生成物を式(III)のLi塩として単離することもできる。当該式(III)のLi塩は、その後の反応シークエンスに直接使用でき、これによって、上述した式(A)又は(A−1)の、対応するドラスタチン10誘導体が得られる。
【実施例】
【0045】
以下の実施例は、本発明の理解を助けるために提供するものである。本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、任意の変更を加えることが可能であると解される。
【0046】
特に別途明示しない限り、略称は以下の意味で使用する。
min 分(minute(s))
h 時間(hour(s))
rt 室温(room temperature)
NMR 核磁気共鳴法(nuclear magnetic resonance)
GC ガスクロマトグラフィー(gas chromatography)
TLC 薄層クロマトグラフィー(thin layer chromatography)
HPLC 高速液体クロマトグラフィー(high performance liquid chromatography)
mp 融点(melting point)
【0047】
実施例1:2−(3−ヒドロキシフェニル)−エチル−メチル−アミン(1)の合成
【0048】
反応フラスコに、50.92gの塩酸L−(−)−フェニレフリン(2a×HCl;250mmol)及び82.5mlのヨウ化水素酸(625mmol;57%水溶液)を充填した。得られた黄色溶液を攪拌しながら、22.55gの亜リン酸(275mmol)を加えたところ、内部温度が僅かに低下した。この懸濁液を油浴で加熱した(油浴温度100℃)。内部温度約50〜55℃において反応が開始し、反応混合物の色が濃茶色に変化するとともに、内部温度が短時間で最高111℃まで上昇した。反応の進行をHPLC分析により監視した。濃茶色の反応混合物を100〜105℃で約80min攪拌することにより、透明黄色溶液が得られた。この溶液を0〜5℃に冷却し、105.5mlの水酸化カリウム水溶液(50%水溶液、13.51M;1.425mol)を滴下により1hかけて加え、その間、温度を20℃よりも低く保った。最終的なpHは11.0となった。この乳状懸濁液を分液漏斗に移し、80mlの1−ブタノールで2度抽出した。有機相を合わせ、約100gの硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過し、濾過ケーキを40mlの1−ブタノールで洗浄した。濾液及び洗浄液を合わせ、ロータリーエバポレーターを用いて、40℃/10mbarで減圧濃縮した。約100mlの1−ブタノールで蒸留した後、残存していた溶液(約250ml)を500mlの2口丸底フラスコに移した。Hickmann蒸留装置で蒸留することにより、23.72g(62.7%)の表題化合物を、高粘性の無色油状物として得た。これはrtで凝結し、剛性のガラス状物となった。
【0049】
b.p.117〜129℃/0.4〜0.02mbar(油浴温度150〜185℃)。
【0050】
1H-NMR (300 MHz, CDCl3): 7.20 (t, J = 7.8, 1 arom. H); 6.71 (d with fine structure, J = 7.8, 2 arom. H); 6.65 (s with fine structure, 1 arom. H); ca. 5.9 (very br, ca. 2 H); 2.92 and 2.80 (2 t, J = 6.2; 2 -CH2-); 2.42 (s, CH3).
【0051】
実施例2:2−(3−ヒドロキシフェニル)−エチル−メチル−アミンリチウム塩(3)の合成
【0052】
反応フラスコに、330mlのヨウ化水素酸(2.50mol;57%水溶液)、及び、203.7gの塩酸L−(−)−フェニレフリン(2a×HCl、1.00mol)を充填した。続いて、得られた黄色溶液に90.20gの亜リン酸(1.10mol)を加えたところ、内部温度が7℃に低下した。得られた懸濁液を油浴中で加熱した(油浴温度100℃)。約20min後、内部温度50−55℃において反応が開始し、若干のガス発生が見られるとともに、反応溶液の色が黄色から黒茶色に変化し、内部温度が短時間で最高112℃に上昇した。反応の進行をHPLCにより監視した。黒茶色反応混合物を100〜105℃で30min攪拌することにより、透明黄色溶液が得られた。溶液を0〜5℃に冷却し、365.0mlの水酸化カリウム(50%水溶液;13.51M;4.93mol)を滴下により1hかけて加えるとともに、その間の温度を0〜20℃の範囲に維持することにより、最終的なpHは10.1となった。この透明黄色溶液を分液漏斗に移送し、320mlの1−ブタノールで2度抽出した。透明黄色有機相を合わせて、ロータリーエバポレーターを用いて、40〜45℃/10mbarで減圧濃縮することにより、1,1−ブタノール、水、及び若干の固体ヨウ化カリウムを含有する、253.49gの黄色油状物を得た。この混合物を、1270mlのテトラヒドロフラン、及び、253gの硫酸ナトリウムで処理した。この懸濁液をrtで、1hに亘って激しく攪拌した後、G3ガラス濾過漏斗により濾過し、濾過ケーキを400mlのテトラヒドロフランで洗浄した。濾液及び洗浄液を合わせて、40℃/10mbarで減圧濃縮することにより、1及びヨウ化カリウムを含有する、238.95gの黄色油状物を得た。
【0053】
リチウム塩の形成
温度計、還流冷却器、機械式攪拌機及び不活性ガス供給機を備えた、2lの4口丸底フラスコに、上述の黄色油状物(238.95g)、1200mlのテトラヒドロフラン及び52.45gの水酸化リチウム一水和物(1.25mol)を充填した。この黄色混濁混合物を還流温度に5min加熱した後、40〜45℃に冷却し、ガラスファイバーフィルター(GF−1)で濾過した。得られた透明黄色溶液を20〜25℃に冷却したところ、結晶化が開始した。3h後、この白色懸濁液を0〜5℃に冷却し、この温度で更に18h攪拌した。この白色懸濁液を、予め冷却した(0〜5℃)G3ガラス濾過漏斗で濾過し、濾過ケーキを少量ずつ、予め冷却した(0〜5℃)400mlのテトラヒドロフランで洗浄し、この白色固体を真空下(40℃/10mbar/12h)乾燥することにより、l34.17gの3を、白色結晶性物質として得た。残存溶媒分析により6.28%w/wのテトラヒドロフラン、また、微量分析により3.65%w/wの水の含有が認められた。HPLC定量アッセイ(HPLC quant. assay)は(内部標準に対し)90.0%、アッセイ補正収率は76.8%であった。
【0054】
m.p.: dec. starting from 181℃.
1H-NMR (400 MHz, d6-DMSO): 6.75 (t, J = 7.6, 1 arom. H); 6.27 (d br, 2 arom. H); 6.0 (s br, 1 arom. H); 2.62 (m, -CH2-); 2.46 (m, -CH2-); 2.27 (d, J = 6.0, CH3); 1.26 (m, NH).
【0055】
実施例3:次亜リン酸を用いた2−(3−ヒドロキシフェニル)−エチル−メチル−アミンリチウム塩(3)の代替調製法
【0056】
温度計、機械式攪拌機、及び不活性ガス供給機を備えた350mlの4口丸底フラスコ内で、50.92gの塩酸L−(−)−フェニレフリン(2a×HCl、250mmol)を83mlのヨウ化水素酸に溶解させた(57wt%水溶液、625mmol)。この黄色溶液に、15mlの次亜リン酸を加えた(50wt%水溶液、137.5mmol)。この黄色溶液を油浴中で加熱した(油浴温度105℃)。約50〜55℃において反応が開始し、反応温度が100℃に上昇するとともに、反応混合物の色が黄色から黒茶色に変化した。2h後、95℃において、反応混合物が再び黄色溶液に戻った。この黄色溶液を0〜5℃に冷却し、70mlの水酸化カリウム(50wt%水溶液)を滴下により30minかけて加え、その間は温度を0〜20℃の範囲に維持した。最終的なpHは10.1であった。混濁混合物を分液漏斗に移し、80mlずつ計160mlの1−ブタノールで抽出した。透明黄色の有機相を合わせて、ロータリーエバポレーターを用いて減圧濃縮し、残渣(66.37gの黄色油状物)を330mlのテトラヒドロフランに溶解させ、13gの無水硫酸ナトリウムで処理した。懸濁液をrtで1h攪拌した後、ガラス濾過漏斗で濾過し、濾過ケーキを100mlのテトラヒドロフランで洗浄した。濾液及び洗浄液を合わせて、ロータリーエバポレーターを用い、40℃/400〜10mbarで減圧濃縮することにより、62.78gの黄色油状物を得た。この粗生成物を315mlのテトラヒドロフランに溶解させ、14.57gの水酸化リチウム一水和物(347mmol)で処理した。この黄色混濁混合物を還流温度に5min加熱し、1h以内にrtまで冷却した後、0〜5℃に18h冷却した。この白色懸濁液を、予め冷却したガラス濾過漏斗で濾過し、濾過ケーキを予め冷却した100mlのテトラヒドロフランで洗浄した。この白色結晶を乾燥し(40℃/10mbar/12h)、19.7gの3を得た。微量分析により2.93%w/wの水の含有が認められた。HPLC定量アッセイ(HPLC quant. assay)は(内部標準に対し)96.1%、アッセイ補正収率は48%であった。
【0057】
m.p.: dec. starting from 210℃.
Microanalysis calc. for C9H12NOLi(0.26H2O)(161.83): C 66.80, H 7.80, N 8.66, Li 4.29; H2O 2.89; found: C 66.94, H 7.85, N 8.17/8.34, Li 4.12; H2O 2.93.
【0058】
実施例4:(2S)−2−((1R,2S)−2−{[2−(3−ヒドロキシ−フェニル)−エチル]−メチル−カルバモイル}−1−メチルスルファニル−プロピル)−ピロリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(4)の合成
【化21】

【0059】
16.95gの2−(3−ヒドロキシフェニル)−エチル−メチル−アミンリチウム塩(3;97.1mmol)を190mlのテトラヒドロフラン中に含む溶液に対して、14.68mlのメタンスルホン酸をrtで2min以内に加えたところ、温度が61℃に上昇した。この灰色味を帯びた混濁溶液を5min攪拌した後、54.07mlのトリエチルアミンをrtで5min以内に加えたところ、温度が31℃に上昇した。この透明灰色溶液をrtで10min攪拌した後、19.64gの(2S)−2−[(1R,2S)−2−カルボキシ−1−メチルスルファニル−プロピル]−ピロリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(B−1;64.73mmol)を加えた。得られた透明黄色溶液に対して、12.42gの1−ヒドロキシ−ベンゾトリアゾール水和物(80.92mmol)をrtで加え、続いて35.78gの(ベンゾトリアゾール−1−イロキシ)−トリス(ジメチルアミノ)−ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(80.92mmol)を加えたところ、温度が39℃に上昇した。この透明黄色溶液をrtで60min攪拌したところ、ほぼ完全に転換されていることがHPLCにより認められた。この黄色溶液をrtで更に1.5h攪拌した後、85mlのtert−ブチルメチルエステルで希釈した。この溶液を、2×190mlの塩酸(1M)を用い、次いで2×190mlの炭酸水素ナトリウム溶液(1M)を用いて順に洗浄した後、約90gの硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過及び減圧濃縮(40℃/10mbar)することにより、30.93gの粘性の黄色油状物を得た。この物質は78.2%の表題生成物4及び7.3%のフェノールエステル副生成物であるtert−ブチル(2S)−2−[(1R,2S)−3−(3−{2−[[(2S,3R)−3−[(2S)−1−(tert−ブトキシカルボニル)ピロリジン−2−イル]−2−メチル−3−(メチルチオ)プロパノイル]−(メチル)アミノ]エチル}フェノキシ)−2−メチル−1−(メチルチオ)−3−オキソプロピル]ピロリジン−1−カルボキシレート(即ち、4のフェノール位をB−1でエステル化した化合物)を含有していることが、HPLCにより確認された。4度の洗浄水溶液全てを190mlのtert−ブチルメチルエステルで逆抽出し、抽出液を合わせて乾燥し、濾過及び減圧濃縮することにより、更に2.32gの粘性の黄色油状物を得た。この物質は81.0%の生成物4を含有する一方、フェノールエステル副生成物を含んでいないことが、再度のHPLCで確認された。これらの物質を合わせることにより32.71gの粗生成物4を得た。
【0060】
水酸化ナトリウム処理によるフェノールエステル副生成物の鹸化
32.6mlの水酸化ナトリウム(28%;9.1M;297mmol)を、32.71gの上記粗生成物(最大74.9mmol)を163mlのメタノール中に含む溶液にrtで加え、この溶液をrtで15minに亘り攪拌した。HPLCにより、フェノールエステル副生成物が完全に開裂していることが示された。引き続き、メタノールを真空下(20℃/10mbar)で除去し、残存赤色溶液に17.16mlの酢酸を加えてpH7に中和したところ、油状物が沈殿した。その後、160mlの酢酸エチルをこの混合物に加え、その結果生じた透明な二相を分離した。有機相を160mlの塩酸(1M)及び2×160mlの炭酸水素ナトリウム(1M)で洗浄し、約90gの硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過及び真空下で減圧濃縮(40℃/40mbar)することにより、28.8gの透明黄色泡沫を得た(HPLCによる純度83.2%)。
【0061】
クロマトグラフィー
上述の粗製物質(28.8g)を20mlの酢酸エチルに溶解させ、864gのシリカゲル(Brunschwig 63〜200μm、60A)を用いたクロマトグラフィーに供した。溶出液としては酢酸エチル/ヘプタン(2:1)を用いた。これにより、25.70gの表題化合物4を、透明黄色泡沫として得た(HPLCによる純度97.5%)。
【0062】
結晶化
上記物質(25.70g)を186mlのジイソプロピルエーテルに溶解させ、還流温度に5min加熱した。得られた黄色溶液をrtまで放冷し、種晶を加えて更に0〜5℃に冷却し、この温度で19hに亘り攪拌した。得られた白色懸濁液を、予め冷却した(0〜5℃)ガラス濾過漏斗を用いて濾過し、濾過ケーキを少量ずつ、予め冷却した100mlのジイソプロピルエーテルで洗浄した。この白色結晶性物質を乾燥(40℃/10mbar/4h)することにより、23.10gの表題化合物4(B−1基準で81.7%)を、白色結晶として得た(HPLCによる純度99.5%)。
【0063】
m.p. 109-109.5℃.
1H-NMR (400 MHz, CDCl3): 7.2-7.1 (m, 1 arom. H); 6.85-6.45 (m, 3 arom. H and OH); 4.1-3.15 (m, 6 H); 2.96 and 2.87 (2 s, N-CH3, 2 rotamers); 2.9-2.6 (m, 3 H); 2.12 and 2.11 (2 s, S-CH3, 2 rotamers); 2.0-1.65 (m, 4H); 1.51 and 1.45 (2 s br, tBu, 2 rotamers); 1.26 (s br, -CH-CH3).

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物
【化1】

又はその塩を製造するための方法であって、
式(II)の化合物
【化2】

又はその塩を、亜リン酸又は次亜リン酸の存在下、ヨウ化水素酸と反応させ;
前記反応生成物を所望により、水酸化リチウムの添加によって、式(III)の化合物
【化3】

に変換する
(ここで、
1及びR2は、互いに独立に、ハロゲン、C1−C8アルコキシカルボニル、スルファモイル、C1−C8アルキルカルボニルオキシ、カルバモイロキシ、シアノ、モノ−又はジ−C1−C8アルキルアミノ、C1−C8アルキル、C1−C8アルコキシ、フェニル、フェノキシ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、C1−C8アルキルチオ、ヒドロキシ、C1−C8アルキルカルボニルアミノ、ヘテロシクリル(heterocyclyl)、1,3−ジオキソリル、1,4−ジオキソリル、アミノ又はベンジルを表わし;
3は、C1−C4アルキルを表わし;
nは、2、3又は4であり;
kは、1、2又は3である)、方法。
【請求項2】
3がメチルであり;
nが2であり;
kが1である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
式(1)の化合物
【化4】

又はその塩を得るために、式(2)の化合物
【化5】

又はその塩を、亜リン酸又は次亜リン酸の存在下、ヨウ化水素酸と反応させ、式(1)の化合物又はその塩を生成させる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
式(1)の化合物
【化6】

又はその塩を得るために、式(2a)の化合物
【化7】

又はその塩を、亜リン酸又は次亜リン酸の存在下、ヨウ化水素酸と反応させ、式(1)の化合物又はその塩を生成させる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
当該ヨウ化水素酸との反応が次亜リン酸の存在下で行なわれる、請求項4記載の方法。
【請求項6】
当該ヨウ化水素酸との反応が亜リン酸の存在下で行なわれる、請求項4記載の方法。
【請求項7】
式(I)の化合物又はその塩を、更に水酸化リチウムと反応させ、対応する式(III)の化合物
【化8】

(ここで、R1、R2、R3及びnは、請求項1における定義を表わす)を得る工程を含んでなる、請求項1記載の方法。
【請求項8】
請求項3又は4に従って得られ得る、式(1)の化合物又はその塩を、更に水酸化リチウムと反応させ、式(3)の化合物
【化9】

を得る、請求項7記載の方法。
【請求項9】
式(III)の化合物
【化10】

(ここで、
1及びR2は、互いに独立に、ハロゲン、C1−C8アルコキシカルボニル、スルファモイル、C1−C8アルキルカルボニルオキシ、カルバモイロキシ、シアノ、モノ−又はジ−C1−C8アルキルアミノ、C1−C8アルキル、C1−C8アルコキシ、フェニル、フェノキシ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、C1−C8アルキルチオ、ヒドロキシ、C1−C8アルキルカルボニルアミノ、ヘテロシクリル(heterocyclyl)、1,3−ジオキソリル、1,4−ジオキソリル、アミノ又はベンジルを表わし;
3は、C1−C4アルキルを表わし;
nは、2、3又は4であり;
kは、1、2又は3である)。
【請求項10】
2−(3−ヒドロキシフェニル)−エチル−メチル−アミン、リチウム塩である、請求項9記載の化合物。
【請求項11】
式(I)の化合物又はその塩、又は式(III)の化合物を、更に反応させることにより、式(A)の化合物
【化11】

を得るために、
a)式(I)の化合物又はその塩、又は式(III)の化合物を、式(B)のN−保護3−ピロリジン−2−イル−プロピオン酸誘導体
【化12】

と反応させ;
続いて、tert−ブトキシカルボニル基を、ピロリジンのN−原子において開裂し、式(C)の化合物
【化13】

を生成させ、
b)前記式(C)の化合物を、更に、式(D)の化合物
【化14】

と反応させ、式(A)の化合物を生成させる
(R1、R2及びR3は、請求項1における定義であり;
4、R5、R6及びR7は、互いに独立に、C1−C4アルキルを表わす)、請求項1記載の方法。
【請求項12】
式(A−1)の化合物
【化15】

を製造するために、
a)式(1)の化合物又はその塩、又は式(3)の化合物を、式(B−1)の化合物
【化16】

と反応させ、
続いて、tert−ブトキシカルボニル保護基を、ピロリジンのN−原子において開裂し、式(C−1)の化合物
【化17】

を生成させ、
b)式(C−1)の化合物を、更に、式(D−1)の化合物
【化18】

と反応させ、式(A−1)の化合物を生成させる、請求項11記載の方法。
【請求項13】
請求項11記載の式(A)の化合物の製造における、請求項1記載の方法の使用。
【請求項14】
請求項12記載の式(A−1)の化合物の製造における、請求項3又は4に記載の方法の使用。
【請求項15】
請求項1記載の方法により得られ得る、式(I)の化合物又はその塩の、請求項11記載の式(A)の化合物の製造における使用。
【請求項16】
請求項9記載の式(III)の化合物の、請求項11記載の式(A)の化合物の製造における使用。
【請求項17】
請求項3又は4に記載の方法により得られ得る、式(1)の化合物又はその塩の、請求項12記載の式(A−1)の化合物の製造における使用。
【請求項18】
請求項12記載の式(A−1)の化合物の製造における、請求項10記載の化合物の使用。
【請求項19】
本願明細書に実質的に記載されている、新規の方法、使用及び化合物。

【公表番号】特表2008−526908(P2008−526908A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−550733(P2007−550733)
【出願日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際出願番号】PCT/EP2006/000046
【国際公開番号】WO2006/074873
【国際公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】