説明

望遠鏡主鏡部装置

【課題】 主反射鏡を支持する構造の熱変形を抑制し、望遠鏡の指向方向誤差を抑制することができる望遠鏡主鏡部装置を得ることを目的とする。
【解決手段】 上側パイプ部材10及び下側パイプ部材11をセンターハブ9へ連結し、この連結箇所において、各パイプ部材の端部をセンターハブ9内の空間に開口するようにする。送風機15により、側面カバー12、下面カバー13及び主反射鏡1により囲まれる空間から外部に向けて排気する。このとき、上側パイプ部材10と下側パイプ部材11の主反射鏡外縁側の端部から外部空気が取り込まれ、管内を通って、センターハブ9内の空間に流れ、側面カバー12、下面カバー13及び主反射鏡1により囲まれる空間に空気が流入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主反射鏡を支持する構造の熱変形を抑制し、望遠鏡の指向方向誤差を低減することができる望遠鏡主鏡部装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今の天文学の分野では、より遠方の天体からの観測波をより高精度・高分解能で受信する要求が高まってきている。このため、望遠鏡の反射鏡面性能や、望遠鏡の指向性能はより高い精度が必要とされ、また一方では、望遠鏡の大口径化が望まれ、望遠鏡装置全体の大型化・重量化が進んでいる。このように大型化する望遠鏡装置においては、例えば、日照によって、装置内の各部での熱入力条件が異なることにより、温度分布が生じ、複雑な熱変形が生じて指向方向がずれたり、また、風圧によっても装置全体が変形し、指向方向に誤差が生じ、要求される高い指向性能を得ることが困難となる。指向誤差を良好とするための従来技術として、例えば、特許文献1には、アンテナ装置の回転構造部の日射による熱変形を抑制する構造が開示されている。この特許文献1に開示された構造は、構造部材の外周をその外周面に対して間隔を置いてカバーで覆い、カバーを形成する複数のカバー区分をバンドで束ね、リブにより補強したというものである。このようなカバーを設けることによって、カバーへの日射による熱量は、構造部材とカバーとの間の空気により伝達されるが、その伝達される熱量が僅かであるとして、構造部材の熱変形を小さくすることができ、アンテナの指向精度に及ぼす影響を減少させることができるとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平03―042902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、特許文献1に開示された熱変形を抑制する構造においては、個々の構造部材にカバーを設ける構成としているが、構造部材の数が増加するような部分、例えば、大型望遠鏡の主反射鏡の背面に設けた支持トラス構造などでは、部材数が数十から百以上にも及ぶ場合があり、取り付けるカバーの部品点数が増加するという問題点があり、また、主反射鏡の支持トラス構造の表面のいたるところに主反射鏡パネルを取り付ける取付点があり、取付点と機械的に干渉しないようにカバーを取り付けるための構造が複雑化するという問題点があった。また、特許文献1に開示された熱変形を抑制する構造においては、カバーへの日射による熱量は構造部材とカバーとの間の空気により伝達され、その伝達される熱量が僅かであるとしているが、カバー部分の温度が変化すれば構造部材の温度もそれに従って変化するので、構造部材全体で見たときに日射による熱入力分布が均一でなくなると、構造部材の局所的な温度変化が生じ、局所的に熱変形する可能性がある。例えば、上記のように主反射鏡をその背面から支持する支持トラス構造においては、支持トラス構造全体の寸法が大きく、日射条件によっては、日射を直接受ける部分と、主反射鏡や支持トラス構造の中心部構造によって陰になる部分とが生じ、熱入力の分布が発生し、支持トラス構造が局所的に熱変形することにより、主反射鏡パネルの面精度が劣化し、さらには、望遠鏡の指向方向誤差を生じてしまうという問題点もあった。
【0005】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたもので、主反射鏡を支持する構造の熱変形を抑制し、望遠鏡の指向方向誤差を抑制することができる望遠鏡主鏡部装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明に係る望遠鏡主鏡部装置は、観測源からの観測波を反射する主反射鏡と、この主反射鏡に対向して設けられ、主反射鏡からの反射波を反射する副反射鏡と、上記主反射鏡の下部において上記主反射鏡を支持する支持構造部であって、上記主反射鏡の中央部の下部に設けたセンターハブ、このセンターハブから上記主反射鏡の周縁部へ放射状に延在して設けた複数のパイプ部材を有する支持構造部と、この支持構造部の下面及び周縁部の側面に設けたカバーと、上記支持構造部の下面に設けられ、上記パイプ部材の端部より空気を流入せしめ、上記パイプ部材の管内を通して上記カバーと上記主反射鏡により囲まれる空間へ流入させて排出する送風機とを備えたものである。
【0007】
請求項2の発明に係る望遠鏡主鏡部装置は、請求項1の発明に係る望遠鏡主鏡部装置において、上記カバーと上記主反射鏡により囲まれる空間内に、上記支持構造部の下面側から上方向に延在して設けたルーバを備えたものである。
【0008】
請求項3の発明に係る望遠鏡主鏡部装置は、請求項1の発明に係る望遠鏡主鏡部装置において、上記送風機の前面に設けられた送風機カバーを備えたものである。
【0009】
請求項4の発明に係る望遠鏡主鏡部装置は、請求項1の発明に係る望遠鏡主鏡部装置において、上記送風機からの排気を上記パイプ部材へ循環させるダクトを備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、主反射鏡の下部に設けた支持構造部のパイプ部材の端部から空気を流入せしめ、管内を通して、支持構造部内の空間に流入させるので、支持構造部のパイプ部材に入力される熱を排熱し、支持構造部の局所的な熱変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態1に係る望遠鏡装置の全体の外観を表わす外観図である。
【図2】主反射鏡1及び支持構造部3を表わす斜視図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る支持構造部の断面を表わす断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1
【0013】
本発明の実施の形態1に係る望遠鏡主鏡部装置を図1乃至図3に基づき説明する。図1はこの発明の実施の形態1に係る望遠鏡主鏡部装置を含む望遠鏡装置の外観を表わす外観図である。図1において、1は主反射鏡、2は副反射鏡である。3は主反射鏡1の下部に設けられ主反射鏡1を支持する支持構造部であり、4は支持構造部3から延在し、副反射鏡2を支持するステー部である。5は観測波を受信する観測装置である。6は仰角軸部であり、U字状のヨーク部7により仰角軸まわりに回動可能に支持されている。主反射鏡1、副反射鏡2、支持構造部3、ステー部4、観測装置5、仰角軸部6、及び後述のカバーや送風機等を含む装置を望遠鏡主鏡部装置と呼び、この望遠鏡主鏡部装置は仰角軸部6とともに仰角軸まわりに回動する。8は装置架台であり、ヨーク部7を方位軸まわりに回動可能に支持する。
【0014】
図2は主反射鏡1及び支持構造部3を表わす斜視図である。支持構造部3において、9は主反射鏡1の中央部の下部に設けたセンターハブであり、このセンターハブは高い剛性を有するように設計される。このセンターハブ9から主反射鏡1の周縁部へ向けてパイプ部材を設けており、このパイプ部材は上側パイプ部材10と下側パイプ部材11とからなる。12は主反射鏡の周縁部の側面に設けた側面カバーであり、13は支持構造部3の下面を覆う下面カバーである。14は隣合う上側パイプ部材10(又は隣合う下側パイプ部材11)のほぼ中間位置に設けた隔壁である。なお、図2において、下面カバー13と隔壁14を引き出し線により付した箇所は、これらの部材が外部から見えるように、側面カバー12を取り外して内部が見えるようにしたものであり、実際には、この箇所にも他の箇所(例えば両隣の箇所)と同様に側面カバー12がある。
【0015】
次に支持構造部3における空調機能について説明する。図3はこの発明の実施の形態1に係る支持構造部の断面を表わす断面図である。15は支持構造部3の下面に設けた送風機であり、16は送風機の前面に設けた送風機カバー、17は送風機カバー16と、上側パイプ部材10及び下側パイプ部材11とを連結するダクト、18はダクトカバー、19は支持構造部3内に設けられ、支持構造部3の下面側から上方向に延在して設けたルーバである。上側パイプ部材10及び下側パイプ部材11をセンターハブ9へ連結しているが、この連結箇所において、各パイプ部材の端部がセンターハブ9内の空間へ開口するように連結し、上側パイプ部材10及び下側パイプ部材11の管内の空気がセンターハブ9内の空間へ流入できるようにする。また、上側パイプ部材10及び下側パイプ部材11の主反射鏡外縁側の端部は開口しており、この端部から取り込まれる空気は管内を通って、センターハブ9側へ流出されるものとする。センターハブ9内の空間は、側面カバー12、下面カバー13及び主反射鏡1により囲まれる空間と連通している。
【0016】
まず、ダクト17及びダクトカバー18を取り付けない場合の動作について説明する。送風機15は、側面カバー12、下面カバー13及び主反射鏡1により囲まれる空間から送風機カバー16及び外部空間に向けて空気を排出するように動作させる。この送風機15の動作により、側面カバー12、下面カバー13及び主反射鏡1により囲まれる空間は負圧となり、上側パイプ部材10と下側パイプ部材11の主反射鏡外縁側の端部から外部空気が取り込まれ、上側パイプ部材10と下側パイプ部材11の管内を通って、センターハブ9内の空間に流れ込む。センターハブ9内の空間に流れ込んだ空気は、側面カバー12、下面カバー13及び主反射鏡1により囲まれる空間を通り、送風機15により排出される。このとき、ルーバ19によって、最短経路を通過しようとする空気流が持ち上げられて、支持構造部3内部の部材とムラ無く熱交換され、支持構造部3内の温度が均一化される。また、送風機カバー16を設けることによって、外部空間での風が送風機15に吹き付けることを防ぎ、空気の排出量が低下しないようにしている。
【0017】
ダクト17及びダクトカバー18を取り付けた場合には、送風機カバー16に排出された排気の一部が、上側パイプ部材10及び下側パイプ部材11の主反射鏡外縁側の端部から再流入することによって、外部環境の影響を軽減させることができ、支持構造部3内部の温度の安定化を図ることができる。
【0018】
このように、上側パイプ部材10及び下側パイプ部材11の内部には、常に空気が通過することになり、日射等によりパイプ部材に入力される熱を、排熱する効果がある。また、空気の循環により、パイプ部材の軸方向での熱伝達も良くなる。従って、上側パイプ部材10と下側パイプ部材11の局所的な温度上昇を抑制し、熱変形を抑制することができ、ひいては、主反射鏡1の局所的な熱変形を低減することができ、望遠鏡の指向方向誤差を抑制することができる。また、送風機15は支持構造部3の下面に設けられているので、この送風機15の故障等に対する修理や交換作業を容易に行うことができる。
【0019】
図3は、主反射鏡1の鏡軸を含む断面を表わしており、これは、主反射鏡1の中心部から外縁部を望む所定の中心角θ分の扇状部分の断面ともいえる。図2で見れば、センターハブ9からそれぞれ24本の上側パイプ部材10及び下側パイプ部材11が主反射鏡1の外縁部へ向かって放射状に設けられており、中心角θ=15°の扇状部分24区画に区分けすることができる。この扇状部分の区画において、隣合う区画で空気の流出入がないように隔壁14を設ける。送風機15は、各区画ごとに設けている。このような区画分けは図2において、必ずしも上側パイプ部材の本数分の区分けをしなければならないというものではなく、数本をまとめて扇状部分1区画とし、全体として区画数を減少させるようにしてもよい。例えば、中心角θ=90°分を1つの区画として、全体を4区画に区分し、各区画を仕切るために隔壁14を4枚設けるようにしてもよく、さらには、各区画ごとに6台の送風機15を所定の円周上に概ね等間隔で配置すれば、送風機15のうち数台の排気能力が低下しても、排気能力が維持されている残りの送風機15によって空気が循環・排気され、支持構造部3の温度の安定化を図ることができる。
【符号の説明】
【0020】
1 主反射鏡
2 副反射鏡
3 支持構造部
4 ステー部
9 センターハブ
10 上側パイプ部材
11 下側パイプ部材
12 側面カバー
13 下面カバー
15 送風機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測源からの観測波を反射する主反射鏡と、この主反射鏡に対向して設けられ、主反射鏡からの反射波を反射する副反射鏡と、上記主反射鏡の下部において上記主反射鏡を支持する支持構造部であって、上記主反射鏡の中央部の下部に設けたセンターハブ、このセンターハブから上記主反射鏡の周縁部へ放射状に延在して設けた複数のパイプ部材を有する支持構造部と、この支持構造部の下面及び周縁部の側面に設けたカバーと、上記支持構造部の下面に設けられ、上記パイプ部材の端部より空気を流入せしめ、上記パイプ部材の管内を通して上記カバーと上記主反射鏡により囲まれる空間へ流入させて排出する送風機とを備えた望遠鏡主鏡部装置。
【請求項2】
上記カバーと上記主反射鏡により囲まれる空間内に、上記支持構造部の下面側から上方向に延在して設けたルーバを備えたことを特徴とする請求項1に記載の望遠鏡主鏡部装置。
【請求項3】
上記送風機の前面に設けられた送風機カバーを備えたことを特徴とする請求項1に記載の望遠鏡主鏡部装置。
【請求項4】
上記送風機から排気を上記パイプ部材へ循環させるダクトを備えたことを特徴とする請求項1に記載の望遠鏡主鏡部装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−8164(P2011−8164A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153711(P2009−153711)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】