説明

望遠鏡

【課題】観察像の電子画像を撮影する機能を有する望遠鏡であって、見た目上コンパクトであり、重量バランスが良く、かつ、低温時等の悪条件下においても電池性能の劣化を防止することができる望遠鏡を提供すること。
【解決手段】本発明の地上望遠鏡1は、対物光学系11と、接眼部2と、対物光学系11の光軸Oに沿った光路68を後方へ向かって進行してきた光束を方向転換させ、光路68と平行に位置する撮影光路69を光束が前方へ向かって進行するように光束を導光する導光光学系5と、撮影光路69の終端に設置され、対物光学系11を介して形成される像を撮像する撮像素子16と、撮像素子16を保持する撮像素子基板14と、撮像素子基板14の、撮像素子16と反対の面側に隣接して設けられ、電源となる電池を装填可能な電池室70とを備え、撮像素子16で発生した熱が電池室70に装填された電池へ伝わるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観察像の電子画像を撮影する機能を有する望遠鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
野鳥観察などを行う際に地上望遠鏡が用いられている。この地上望遠鏡として、対象物の像を観察するだけでなく、電子画像として撮影・記録する機能をも備えたデジタル撮影機能付きの地上望遠鏡が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載されたデジタル撮影機能付きの地上望遠鏡では、特許文献1の図1および図3に示されるように、本体ケース65の横(側面)の張り出した部分の中にCCD撮像素子44が設置されている。この地上望遠鏡では、対物光学系を透過した光束は、ビームスプリッタ59で二つに分割され、そのうちの一方の光束は、ポロプリズム47を介して後方の接眼部73へ導かれ、他方の光束は、横に折り返してCCD撮像素子44へ入射する。なお、上記の符号は、特許文献1における符号である。
【0004】
しかしながら、このような特許文献1に記載の地上望遠鏡では、本体ケース65の横の部分が大きく張り出しているので、無骨かつ実際以上に大きく見えてデザイン的に不利であるのみならず、実用上も、重心が高く、手中に収めたときのバランスが悪く、撮影した際に像ブレ等の支障を来たすおそれがある。また、特許文献1では図示されていないが、実機では電源としての電池を搭載する必要があり、電池を搭載する位置によっては、重い電池のせいで、さらに重心が高くなったりバランスが悪くなる可能性がある。また、特許文献1に記載の地上望遠鏡は、接眼部73が対物光学系の光軸と平行になったストレートタイプのものであるが、接眼部73が対物光学系の光軸に対し傾斜したアングルタイプの地上望遠鏡に適用しようとした場合には、本体ケース65の張り出し部分と接眼部73とが干渉し、構造を成立させにくいという問題もある。
【0005】
また、デジタル撮影機能付きの地上望遠鏡一般の問題として、冬季の低温環境下で使用した場合、低温のために電池性能が劣化し、電池持続時間が短くなるという問題もある。
【0006】
【特許文献1】登録実用新案第3074642号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、観察像の電子画像を撮影する機能を有する望遠鏡であって、見た目上コンパクトであり、重量バランスが良く、かつ、低温時等の悪条件下においても電池性能の劣化を防止することができる望遠鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記(1)〜(12)の本発明により達成される。
(1) 観察像を撮影する機能を有する望遠鏡であって、
対物光学系と、
前記対物光学系を介して形成される像を観察するための接眼部と、
前記対物光学系の光軸に沿った光路を後方へ向かって進行してきた光束を方向転換させ、前記光路と平行に位置する撮影光路を前記光束が前方へ向かって進行するように前記光束を導光する導光光学系と、
その受光面を後方に向けた姿勢で前記撮影光路の終端に設置され、前記対物光学系を介して形成される像を撮像する撮像素子と、
前記撮像素子を保持する撮像素子基板と、
前記撮像素子基板の、前記撮像素子と反対の面側に隣接して設けられ、当該望遠鏡の電源となる電池を装填可能な電池室とを備え、
前記撮像素子で発生した熱が前記電池室に装填された電池へ伝わるように構成されていることを特徴とする望遠鏡。
【0009】
このような本発明の望遠鏡によれば、撮像素子で発生した熱を電池室に装填された電池へ伝達し、撮像素子の温度上昇を抑えるとともに、電池を暖めることができる。これにより、撮像素子から得られる撮像信号のノイズ低減化が図れるとともに、望遠鏡を冬季など気温が低い悪条件下で使用する場合であっても、電池の放電特性が悪化するのを防止することができるので、電池持続時間が短くなるのを防止することができる。
【0010】
また、撮像素子までに必要な光路長を、望遠鏡を大型化することなしに確保することができる。
【0011】
また、撮像素子および電池室を上記のように配置したことにより、実際より小さく見え、製品デザイン上、有利であるとともに、重量バランスが良く、安定して保持することができるので、像ブレを防止することができ、安定した観察および撮影を行うことができる。
【0012】
(2) 前記撮像素子で発生した熱を前記電池室側へ放熱させる、金属材料で構成された放熱部材を有する上記(1)に記載の望遠鏡。
【0013】
これにより、撮像素子で発生した熱をより高い効率で電池室内の電池へ伝達することができ、気温の低い悪条件下における電池の放電特性低下をより確実に防止することができる。
【0014】
(3) 前記放熱部材は、前記電池室に装填された電池と接触し得るように設置されている上記(2)に記載の望遠鏡。
【0015】
これにより、撮像素子で発生した熱をより高い効率で電池室内の電池へ伝達することができ、気温の低い悪条件下における電池の放電特性低下をより確実に防止することができる。
【0016】
(4) 前記電池室は、金属材料で構成されており、該電池室の、電池が収納される内壁面側は、絶縁性を有する薄膜により被覆されている上記(3)に記載の望遠鏡。
【0017】
これにより、放熱部材の熱は、電池室内の電池に直接伝わるだけでなく、電池室自体にも伝わる。そして、電池室に伝わった熱が電池室の内壁面から電池へと伝わる。よって、電池室内の電池に全方向から熱が伝わるので、電池全体をむら無く暖めることができる。
【0018】
(5) 前記放熱部材は、前記撮像素子基板の、前記撮像素子と反対の面側に重ねて設置されたほぼ板状の部材で構成されている上記(2)ないし(4)のいずれかに記載の望遠鏡。
【0019】
これにより、撮像素子基板全体の熱を効率良く電池室内の電池へ伝達することができ、気温の低い悪条件下における電池の放電特性低下をより確実に防止することができる。
【0020】
(6) 前記導光光学系は、前記対物光学系を透過した光束を前記接眼部へ向かう光束と前記撮像素子へ向かう光束とに分割するビームスプリッタを有する上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の望遠鏡。
【0021】
これにより、対物光学系を透過した光束を、簡単な構造で、接眼部と撮像素子とに振り分けることができる。
【0022】
(7) 前記対物光学系の光軸に沿った方向から見たとき、前記光軸を介して前記接眼部のほぼ反対側に前記撮像素子および前記電池室が位置する上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の望遠鏡。
【0023】
これにより、重量バランスがさらに良くなり、より安定して保持することができるので、像ブレをより確実に防止することができ、より安定した観察および撮影を行うことができる。
【0024】
(8) 前記接眼部の中心線と、前記対物光学系の光軸と、前記撮像素子の受光面の中心とがほぼ同一平面上に位置する上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の望遠鏡。
【0025】
これにより、重量バランスがさらに良くなり、より安定して保持することができるので、像ブレをより確実に防止することができ、より安定した観察および撮影を行うことができる。
【0026】
(9) 前記接眼部の中心線が前記対物光学系の光軸に対し傾斜しており、かつ、前記接眼部の中心線と前記対物光学系の光軸とがほぼ同一平面上に位置する上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の望遠鏡。
【0027】
これにより、使用者が接眼部を介して観察像を覗いたとき、接眼部から前方への延長線上の真正面にある物が観察対象物となるので、観察対象物を容易かつ迅速に捕捉することができる。
【0028】
(10) 前記対物光学系を介して形成される像のピントを調整する際に操作するピント操作部材とこのピント操作部材の操作によって光軸方向に移動するフォーカスレンズとを有する合焦手段をさらに備え、
前記対物光学系の光軸に沿った方向から見たとき、前記光軸を介して前記ピント操作部材の概ね反対側に前記撮像素子および前記電池室が位置する上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の望遠鏡。
【0029】
これにより、重量バランスがさらに良くなり、より安定して保持することができるので、像ブレをより確実に防止することができ、より安定した観察および撮影を行うことができる。
【0030】
(11) 当該望遠鏡が通常に使用されるときの姿勢において、前記撮像素子および前記電池室は、前記対物光学系の光軸に沿った光路の鉛直下方に位置する上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の望遠鏡。
【0031】
これにより、重量バランスがさらに良くなり、より安定して保持することができるので、像ブレをより確実に防止することができ、より安定した観察および撮影を行うことができる。
【0032】
(12) 三脚座をさらに備え、
前記三脚座は、前記電池室の近傍に設けられている上記(1)ないし(11)のいずれかに記載の望遠鏡。
【0033】
これにより、三脚座の位置が重心位置に近くなり、三脚に装着した際にバランスが極めて良く、特に優れた安定性が得られる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、撮像素子で発生した熱を電池室に装填された電池へ伝達し、撮像素子の温度上昇を抑えるとともに、電池を暖めることができる。これにより、撮像素子から得られる撮像信号のノイズ低減化が図れるとともに、望遠鏡を冬季など気温が低い悪条件下で使用する場合であっても、電池の放電特性が悪化するのを防止することができるので、電池持続時間が短くなるのを防止することができる。
【0035】
また、撮像素子までに必要な光路長を、望遠鏡を大型化することなしに確保することができる。
【0036】
また、撮像素子および電池室を上記のように配置したことにより、実際より小さく見え、製品デザイン上、有利であるとともに、重量バランスが良く、安定して保持することができるので、像ブレを防止することができ、安定した観察および撮影を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の望遠鏡を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1および図2は、それぞれ、本発明の望遠鏡を地上望遠鏡に適用した場合の実施形態を示す斜視図および断面側面図、図3は、図2の一部を拡大した断面側面図である。なお、図1においては、本体13の内部構成を示すため、本体13の側面を切り欠いて図示している。
なお、以下の説明では、図1中の左側および図2中の右側を「前」、図1中の右側および図2中の左側を「後ろ」と言い、図1および図2中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0038】
図1に示すように、本発明の地上望遠鏡(スポッティングスコープ)1は、対物光学系11を内蔵した鏡筒12と、鏡筒12の後方に設置され、鏡筒12を支持する本体13とを有している。この地上望遠鏡1は、遠方の物体を拡大して観察する望遠鏡としての機能のほか、本体13内に搭載された撮像素子16によって観察像の電子画像を撮影するカメラとしての機能をも有している。なお、撮像素子16としては、例えばCCD(Charge Coupled Device)撮像素子やCMOSセンサー等を用いることができる。
【0039】
本体13の後部には、ほぼ円筒状に突出する接眼部2が設置されている。接眼部2には、アイピース9(図1中では図示せず)を着脱自在に装着することができる。アイピース9は、接眼光学系91および視野枠92を内蔵する。接眼部2に装着するアイピース9を、接眼光学系91の焦点距離が異なる他のアイピース9に交換することにより、地上望遠鏡1の観察倍率を変えることができる。また、ズーム式のアイピース9を接眼部2に装着して使用してもよい。
【0040】
本体13内には、フォーカスレンズ(焦点調節レンズ)31と、撮像素子16を搭載した撮像素子基板14と、対物光学系11およびフォーカスレンズ31を透過した光束を撮像素子16および接眼部2へ導光する導光光学系(プリズムユニット)5と、撮像素子16への入射光束の通路すなわち撮影光路69を開閉するシャッター19と、電池を装填可能な電池室70とが設置されている。
【0041】
フォーカスレンズ31は、ガイド軸332に沿って光軸方向に移動可能に設置されている。本体13の上部付近には、ピントリング32が設置されている。このピントリング32を回転させると、その回転運動が円筒カム機構等のフォーカスレンズ移動機構33によってフォーカスレンズ31の光軸方向の移動に変換される。これにより、観察像および撮影像のピント合わせを行うことができる。このように、フォーカスレンズ31、ピントリング32およびフォーカスレンズ移動機構33により、対物光学系11を介して形成される像のピントを合わせる合焦手段3が構成される。
【0042】
本体13には、各種の操作スイッチ類4と、ディスプレイ15(図1中では図示せず)とがさらに設置されている。
【0043】
操作スイッチ類4は、電源のON/OFFを切り替えるメインスイッチ41、レリーズボタン42、メニューキー43、ディスプレイ15のON/OFFを切り替えるディスプレイキー44、ディスプレイ15に表示されるカーソル等を移動させる上方向キー、下方向キー、左方向キーおよび右方向キーからなる4方向キー45(図1中では図示せず)、選択した内容を確定するOKボタン46(図1中では図示せず)等で構成されている。
【0044】
ディスプレイ15は、例えば液晶表示素子などで構成されている。ディスプレイ15には、撮像素子16で撮像した画像のほか、メニュー画面、各種モードの設定画面などを表示することができる。
【0045】
図2に示すように、導光光学系5は、第1の直角プリズム51と、第2の直角プリズム52と、第3の直角プリズム53と、第4の直角プリズム54と、プリズム55とを有している。
【0046】
第1の直角プリズム51の短辺の面と第2の直角プリズム52の長辺の面とは接合されており、この接合面は、ビームスプリッタ56を構成している。
【0047】
対物光学系11およびフォーカスレンズ31を透過し、対物光学系11の光軸Oに沿った光路68を後方へ向かって進行してきた光束は、第1の直角プリズム51へ入射し、ビームスプリッタ56に到達する。ビームスプリッタ56に到達した光束は、撮像素子16へ向かう透過光と、接眼部2へ向かう反射光とに分割される。
【0048】
ビームスプリッタ56を透過した光束は、第4の直角プリズム54内へ進み、第4の直角プリズム54の二つの短辺の面でそれぞれ反射することにより180°方向転換し、光路68の下側に平行に位置する撮影光路69を前方へ向かって進行する。
【0049】
撮影光路69の終端すなわち前端には、撮像素子16が受光面161を後方に向けた姿勢で設置されている。この撮像素子16は、受光面161の中心が撮影光路69の中心線Oの位置に一致するように配置されている。また、撮影光路69の途中には、縮小光学系18と、シャッター19と、光学フィルターユニット17とが、第4の直角プリズム54側からこの順で設置されている。
【0050】
撮像素子16は、撮像素子基板14上に搭載されている。撮像素子基板14には、撮像素子16を駆動する駆動回路等が形成されている。
【0051】
地上望遠鏡1では、対物光学系11の焦点距離が長いので、撮像素子16までの光路長を長く必要とするが、本発明では、対物光学系11の光軸Oに沿った光路68から180°折り返すようにして撮影光路69を設けたことにより、地上望遠鏡1の全長が大きくなり過ぎることなく、必要な光路長を確保することができる。
【0052】
図3に示すように、撮像素子基板14の、撮像素子16と反対の面側には、電池室70が放熱部材71を介して隣接して設けられている。電池室70には、地上望遠鏡1の電気系統へ電力を供給するための電源となる電池を装填可能になっている。本実施形態における電池室70は、CR−V3形の乾電池200と、充電池300とのいずれをも装填可能な形状になっている。
【0053】
撮像素子16の駆動時、撮像素子16は、発熱する。放熱部材71は、撮像素子16で発生した熱を電池室70側へ放熱させる機能を有するものである。本実施形態では、放熱部材71は、ほぼ板状をなしており、撮像素子基板14の、撮像素子16と反対の面側に重ねて設置されている。放熱部材71は、撮像素子16で発生した熱を電池室70側へ効率良く放熱させることができるように、熱伝導率の高い、金属材料で構成されている。
【0054】
一般に、電池は、低温になるほど、放電特性が悪化する。地上望遠鏡1では、上記のような構成により、撮像素子16で発生した熱を、電池室70に装填された電池へ伝達して、この電池を暖めることができる。これにより、地上望遠鏡1を冬季など気温が低い悪条件下で使用する場合であっても、電池の放電特性が悪化するのを防止することができるので、電池持続時間が短くなるのを防止することができる。
【0055】
また、本実施形態では、放熱部材71の電池室70側の面には、突出部711が形成され、この突出部711は、電池室70の内壁の一部を構成している。よって、突出部711は、電池室70に装填された電池と接触し得るようになっている。これにより、撮像素子16で発生した熱を電池室70に装填された電池へより高効率で直接に伝達することができ、電池の放電特性の悪化をより確実に防止することができる。
【0056】
電池室70は絶縁材料で形成しても良いが、本実施形態においては、可能な限り電池全体をむら無く暖めることができるようにすべく、電池室70は、放熱部材71と同様に熱伝導率の高い金属材料(たとえばアルミニウム)で形成されている。さらに、電池室70の、電池が収納される内壁面側は、突出部711の表面を含めて、絶縁性の薄膜70aにより被覆されている。この絶縁性の薄膜70aは、例えば陽極酸化により形成することができる。
【0057】
このような構成により、放熱部材71の熱は、電池室70内の電池に直接伝わるだけでなく、電池室70自体にも伝わる。そして、電池室70に伝わった熱が電池室70の内壁面から電池へと伝わる。よって、電池室70内の電池に全方向から熱が伝わるので、電池全体をむら無く暖めることができる。
【0058】
図4および図5は、それぞれ、図1および図2に示す地上望遠鏡における導光光学系を示す斜視図、図6および図7は、それぞれ、図1および図2に示す地上望遠鏡における導光光学系を示す側面図および正面図である。
【0059】
これらの図に示すように、導光光学系5を構成する複数のプリズムは、枠状のフレーム57によって保持されている。
【0060】
ビームスプリッタ56で反射した光束は、以下のようにして、接眼部2へ導光される。ビームスプリッタ56で反射した光束は、第1の直角プリズム51の他方の短辺の面で反射して前方へ進み、第3の直角プリズム53へ入射する。この入射光は、第3の直角プリズム53の二つの短辺の面で順次反射して後方へ向かって出射する。
【0061】
第1の直角プリズム51と第3の直角プリズム53とは、観察像を正立させる正立光学系(ポロプリズム)として機能する。これにより、アイピース9において正立像を観察することができる。
【0062】
第3の直角プリズム53から後方へ向かって出射した光束は、プリズム55に入射する。プリズム55は、光束を対物光学系11の光軸Oに対し傾斜した方向へ向かって出射させる機能を有しており、対物光学系11の光軸Oに対し傾斜した出射面551を有している。プリズム55に入射した光束は、プリズム55内で2回反射し、出射面551から、接眼部2へ向かって出射する(図2参照)。
【0063】
図7に示すように、第1の直角プリズム51、第2の直角プリズム52および第3の直角プリズム53は、対物光学系11の光軸Oに沿った方向から見て、45°傾斜して設置されている。これにより、導光光学系5においては、接眼部2の中心線Oと、対物光学系11の光軸Oと、撮像素子16の受光面161の中心すなわち撮影光路69の中心線Oとを同一平面上に配置することができる。
【0064】
図1および図2に示すように、本実施形態の地上望遠鏡1は、接眼部2の中心線Oが対物光学系11の光軸Oに対し所定角度(図示の構成では45°)傾斜したいわゆるアングルタイプの地上望遠鏡である。一般にアングルタイプの地上望遠鏡の場合、ポロプリズムを介するために、接眼部の中心線が対物光学系の光軸に対しオフセットし、両者が同一平面上にないものが多い。
【0065】
これに対し、本実施形態の地上望遠鏡1は、上述したように、ポロプリズムを構成する第1の直角プリズム51および第3の直角プリズム53を傾斜させて配置したことにより、接眼部2の中心線Oと対物光学系11の光軸Oとを同一平面上に配置することができる。これにより、使用者が接眼部2を介して観察像を覗いたとき、接眼部2から前方への延長線上の真正面にある物が観察対象物となるので、観察対象物を容易かつ迅速に捕捉することができる。
【0066】
導光光学系5を上記のような構成としたことにより、地上望遠鏡1では、対物光学系11の光軸Oに沿った方向から見たとき、中心線Oを介して接眼部2のほぼ反対側に撮像素子16および電池室70が位置するとともに、ピントリング32に対しても中心線Oを介して概ね反対側に撮像素子16および電池室70が位置する。
【0067】
図2に示すように、本体13の下面には、三脚へ固定するための三脚座72が設けられている。この三脚座72は、電池室70および撮像素子基板14の近傍に配置されている。
【0068】
地上望遠鏡1は、通常、三脚座72を用いて三脚に固定した状態で使用される。すなわち、地上望遠鏡1では、図1および図2に示す姿勢が、通常に使用されるときの姿勢である。
【0069】
この姿勢において、接眼部2は、対物光学系11の光軸Oに対し、鉛直上側に傾斜している。撮像素子16および電池室70は、前述したように中心線Oを介して接眼部2のほぼ反対側に位置する。すなわち、撮像素子16および電池室70は、対物光学系11の光軸Oに沿った光路68の鉛直下方に位置することとなる。
【0070】
このような構成により、地上望遠鏡1では、目に付きにくい本体13の下部に撮影素子16や電池室70が収納され、目に付きやすい本体13の上部にそれらを収納するための膨らみを設ける必要がないので、実際より小さく見え、製品デザイン上、有利である。また、本実施形態のようなアングルタイプの地上望遠鏡1を構成する場合、接眼部2の設置位置が制限されることがなく、構造を容易に成立させることができる。
【0071】
さらに、重い電池が本体13の下部に装填されるので、重心を低くでき、手で持ったときや三脚に装着した際の安定性が高いので、像ブレを防止することができ、安定した観察および撮影を行うことができる。特に、本実施形態では、三脚座72を電池室70の近傍に配置したことにより、三脚座72の位置が重心位置に近くなり、三脚に装着した際にバランスが極めて良く、特に優れた安定性が得られる。
【0072】
図8は、図1および図2に示す地上望遠鏡の電気的回路構成を含むブロック図である。以下、この図に基づいて、本実施形態の地上望遠鏡1における、電子画像を撮影するための構成について詳細に説明する。
【0073】
撮像素子16の受光面161の位置は、アイピース9の視野枠92の位置(予定焦点位置)と光学的に等価な位置になるようになっている。
【0074】
撮像素子16の受光面161側に置された光学フィルターユニット17は、光学ローパスフィルターと、赤外線カットフィルターとが積層されてなるものである。光学ローパスフィルターは、被写体光の空間周波数の中から、撮像素子16の画素間隔で決まる標本化空間周波数に近い空間周波数成分を低減させるものである。光学ローパスフィルターを設けたことにより、偽色(モアレ)が生じるのを防止することができる。
【0075】
また、赤外線カットフィルターは、赤外波長成分を除去するものである。赤外線カットフィルターを設置したことにより、撮像素子16が人間の目に見えない赤外光を受光してしまうのを防止することができる。
【0076】
縮小光学系18は、光束を縮小する機能を有している。撮像素子16に入射する光束は、縮小光学系18により、撮像素子16のサイズに合うように縮小されて、受光面161上に結像する。
【0077】
地上望遠鏡1は、電気的回路構成として、CPU(Central Processing Unit)60と、DSP(Digital Signal Processor)61と、記憶手段としてのSDRAM(Synchronous Dynamic Random Access Memory)62と、撮像信号処理回路63と、タイミングジェネレータ64と、画像データ圧縮回路65と、メモリインターフェース66と、記憶手段としてのEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)67とを有している。また、本体13内には、メモリーカード(記録媒体)100を装填可能なスロット(図示せず)が設けられている。
【0078】
CPU60は、予め記憶されたプログラムや操作スイッチ類4からの入力信号に基づいて地上望遠鏡1を統括的に制御する制御手段であり、撮影制御等の各種動作制御を行う。
【0079】
DSP61は、撮像素子16の駆動制御および撮像素子16からの画素信号から画像データを生成する画像生成手段として機能したり、画像データの圧縮処理やメモリーカード100への画像データ記録処理など、画像処理および画像記録の処理動作を統括して制御する制御手段として機能したりするプロセッサであり、CPU60と接続され相互に通信して制御の連携が可能な構成となっている。
【0080】
SDRAM62には、画像データ生成等の作業を行う作業領域や、ディスプレイ15用領域等が予め定められている。
【0081】
タイミングジェネレータ64は、DSP61の制御に基づき、撮像素子16および撮像信号処理回路63に対してサンプルパルスなどを出力し、これらの動作制御を行う。
【0082】
使用者は、アイピース9を覗いて観察を行う際、観察対象物までの距離に応じてピントリング32を操作することにより、観察像のピントを合わせることができる。このとき、観察像の結像位置(空中像)が視野枠92の位置に来たときにアイピース9から覗いた観察像のピントが合うと認識できるように設計されている。別言すると、使用者は、視野枠92の位置に形成される像が明瞭に見えるように、ピントリング32を回してピント合わせを行うように設計されている。
【0083】
そして、使用者は、撮影・記録しておきたい観察像に出会った場合、レリーズボタン42を操作して撮影を行うことにより、その観察像と同じ電子画像を撮影・記録することができる。前述したように、撮像素子16の受光面161は視野枠92の位置と光学的に等価な位置にあるので、この状態では撮像素子16の受光面161上でも被写体像が結像しており、ピントの合った画像を撮影することができる。
【0084】
ディスプレイ15には、次のようにして、撮像素子16により撮像された画像をリアルタイムに動画として表示することができる。
【0085】
撮像素子16の受光面161上に結像した被写体像は、光電変換されて電荷データとなり、この電荷データ(信号)は、ディスプレイ15に表示するライブビュー画像データ作成のため、撮像素子16から所定画素分ずつ間引かれて順次読み出され、撮像信号処理回路63にて相関二重サンプリング(CDS)、自動利得制御(AGC)およびアナログ−デジタル変換がなされた後、DSP61へ入力される。DSP61においては、入力された信号に対して所定のカラープロセス処理やγ補正等の信号処理が施され、ライブビュー画像データ(輝度信号データY、二つの色差信号データCr、Cb)が生成される。
【0086】
このライブビュー画像データは、ディスプレイ15の表示画素数に対応して、撮像素子16の有効画素数よりも少ない画素数(間引きしたデータ数)の画像データであり、このライブビュー画像データに基づいてディスプレイ15の表示がなされる。ライブビュー画像データの生成処理は、撮像素子16の読み出しとともに周期的に更新され、ディスプレイ15上では、リアルタイムの動画として表示される。
【0087】
撮影・記録時には、地上望遠鏡1は、次のように動作する。レリーズボタン42が半押しされて測光スイッチ421がオンすると、CPU60は、撮像素子16の出力信号に基づいて露出演算を行う。さらにレリーズボタン42が全押しされてレリーズスイッチ422がオンすると、CPU60は、DSP61へ本露光動作を指示する。本露光指令を受けたDSP61は、撮像素子16の不要電荷掃き出し制御や露出制御(電荷蓄積時間制御)を行った後、前記と同様に撮像信号処理回路63を介し、撮像素子16から画素間引きせずに電荷データを読み出し、SDRAM62に一旦保持する。そして、DSP61は、SDRAM62から読み出した電荷データに対し所定の信号処理を施すことにより、画素データ数の多い記録用静止原画像データを生成する。
【0088】
さらに、DSP61は、生成された記録用静止原画像データから画素データ間引き処理をして、表示用静止画像のスクリーンネイル(例えば640×480画素)を生成し、一定時間、ディスプレイ15に表示させる。また、DSP61は、生成された記録用静止原画像データに画像データ圧縮回路65にて画像データ圧縮処理を施し、これにより得られた例えばJPEG、TIFF等の所定のフォーマットの圧縮画像データをメモリインターフェース66を介して出力して、メモリーカード100に記録する。
【0089】
以上、本発明の望遠鏡を図示の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、望遠鏡を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
【0090】
また、本実施形態の地上望遠鏡1は、接眼部2に対しアイピース9が着脱自在に装着可能な構成であったが、これに限らず、本発明では、接眼部2に対しアイピース9(接眼光学系91)が固着または内蔵され、交換できないように構成されたものであってもよい。
【0091】
また、導光光学系の構成は、図示の実施形態に限定されるものではなく、例えば、ビームスプリッタ56に代えて、クリックリターンミラーを用いてもよい。
【0092】
また、接眼部は、撮像素子で撮像した画像を観察するようにした電子ビューファインダーで構成されていてもよい。
【0093】
また、上述した実施形態においては、本発明を地上望遠鏡に適用した場合について説明したが、本発明は、これに限らず、天体望遠鏡を含めた各種の望遠鏡に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の望遠鏡を地上望遠鏡に適用した場合の実施形態を示す斜視図である。
【図2】本発明の望遠鏡を地上望遠鏡に適用した場合の実施形態を示す断面側面図である。
【図3】図2の一部を拡大した断面側面図である。
【図4】図1および図2に示す地上望遠鏡における導光光学系を示す斜視図である。
【図5】図1および図2に示す地上望遠鏡における導光光学系を示す斜視図である。
【図6】図1および図2に示す地上望遠鏡における導光光学系を示す側面図である。
【図7】図1および図2に示す地上望遠鏡における導光光学系を示す正面図である。
【図8】図1および図2に示す地上望遠鏡の電気的回路構成を含むブロック図である。
【符号の説明】
【0095】
1 地上望遠鏡
11 対物光学系
12 鏡筒
13 本体
14 撮像素子基板
15 ディスプレイ
16 CCD撮像素子
161 受光面
17 光学フィルターユニット
18 縮小光学系
19 シャッター
2 接眼部
3 合焦手段
31 フォーカスレンズ
32 ピントリング
33 フォーカスレンズ移動機構
332 ガイド軸
4 操作スイッチ類
41 メインスイッチ
42 レリーズボタン
421 測光スイッチ
422 レリーズスイッチ
43 メニューキー
44 ディスプレイキー
45 4方向キー
46 OKボタン
5 導光光学系
51 第1の直角プリズム
52 第2の直角プリズム
53 第3の直角プリズム
54 第4の直角プリズム
55 プリズム
551 出射面
56 ビームスプリッタ
57 フレーム
60 CPU
61 DSP
62 SDRAM
63 撮像信号処理回路
64 タイミングジェネレータ
65 画像データ圧縮回路
66 メモリインターフェース
67 EEPROM
68 光路
69 撮影光路
70 電池室
70a 薄膜
71 放熱部材
711 突出部
72 三脚座
9 アイピース
91 接眼光学系
92 視野枠
100 メモリーカード
200 乾電池
300 充電池
光軸
中心線
中心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察像を撮影する機能を有する望遠鏡であって、
対物光学系と、
前記対物光学系を介して形成される像を観察するための接眼部と、
前記対物光学系の光軸に沿った光路を後方へ向かって進行してきた光束を方向転換させ、前記光路と平行に位置する撮影光路を前記光束が前方へ向かって進行するように前記光束を導光する導光光学系と、
その受光面を後方に向けた姿勢で前記撮影光路の終端に設置され、前記対物光学系を介して形成される像を撮像する撮像素子と、
前記撮像素子を保持する撮像素子基板と、
前記撮像素子基板の、前記撮像素子と反対の面側に隣接して設けられ、当該望遠鏡の電源となる電池を装填可能な電池室とを備え、
前記撮像素子で発生した熱が前記電池室に装填された電池へ伝わるように構成されていることを特徴とする望遠鏡。
【請求項2】
前記撮像素子で発生した熱を前記電池室側へ放熱させる、金属材料で構成された放熱部材を有する請求項1に記載の望遠鏡。
【請求項3】
前記放熱部材は、前記電池室に装填された電池と接触し得るように設置されている請求項2に記載の望遠鏡。
【請求項4】
前記電池室は、金属材料で構成されており、該電池室の、電池が収納される内壁面側は、絶縁性を有する薄膜により被覆されている請求項3に記載の望遠鏡。
【請求項5】
前記放熱部材は、前記撮像素子基板の、前記撮像素子と反対の面側に重ねて設置されたほぼ板状の部材で構成されている請求項2ないし4のいずれかに記載の望遠鏡。
【請求項6】
前記導光光学系は、前記対物光学系を透過した光束を前記接眼部へ向かう光束と前記撮像素子へ向かう光束とに分割するビームスプリッタを有する請求項1ないし5のいずれかに記載の望遠鏡。
【請求項7】
前記対物光学系の光軸に沿った方向から見たとき、前記光軸を介して前記接眼部のほぼ反対側に前記撮像素子および前記電池室が位置する請求項1ないし6のいずれかに記載の望遠鏡。
【請求項8】
前記接眼部の中心線と、前記対物光学系の光軸と、前記撮像素子の受光面の中心とがほぼ同一平面上に位置する請求項1ないし7のいずれかに記載の望遠鏡。
【請求項9】
前記接眼部の中心線が前記対物光学系の光軸に対し傾斜しており、かつ、前記接眼部の中心線と前記対物光学系の光軸とがほぼ同一平面上に位置する請求項1ないし8のいずれかに記載の望遠鏡。
【請求項10】
前記対物光学系を介して形成される像のピントを調整する際に操作するピント操作部材とこのピント操作部材の操作によって光軸方向に移動するフォーカスレンズとを有する合焦手段をさらに備え、
前記対物光学系の光軸に沿った方向から見たとき、前記光軸を介して前記ピント操作部材の概ね反対側に前記撮像素子および前記電池室が位置する請求項1ないし9のいずれかに記載の望遠鏡。
【請求項11】
当該望遠鏡が通常に使用されるときの姿勢において、前記撮像素子および前記電池室は、前記対物光学系の光軸に沿った光路の鉛直下方に位置する請求項1ないし10のいずれかに記載の望遠鏡。
【請求項12】
三脚座をさらに備え、
前記三脚座は、前記電池室の近傍に設けられている請求項1ないし11のいずれかに記載の望遠鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−154663(P2006−154663A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−348870(P2004−348870)
【出願日】平成16年12月1日(2004.12.1)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】