説明

木材処理用樹脂組成物

【課題】木材の質感を維持しつつ木部を汚染等から保護することができ、その保護性能に優れている、植物由来の油脂を用いた木材処理用材樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 (A)植物性乾性油及び/又は植物性半乾性油、及び、
(B)下記一般式(1)、
X−Si(CH3n3-n (1)
〔但し、式中、Xは、イソシアネート基又はエポキシ基であり、Yは加水分解性基であり、nは、0、1又は2である。〕
で示される有機ケイ素化合物及び/又はその部分加水分解縮合物、
を含有することを特徴とする木材処理用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材処理用樹脂組成物、木材処理剤の改質剤、及び改質木材に関する。
【背景技術】
【0002】
木造建築物の内外装部材や家具部材の多くは、木部の保護と美観の維持を目的に樹脂組成物を用いて、塗装、含浸、注入などの処理をされることが多い。
今日、使用されている樹脂の殆どは、優れた性能や取り扱いの簡便さのために、石油系の合成樹脂を主成分としたものである。例えば木材の塗料に用いられる合成樹脂の代表的なものとしては、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、フッ素材脂、ポリエステル樹脂等が挙げられ、これらを含む塗料は、木材表面に強固な塗膜を形成して、木部を汚染等から守ることを目的として設計されている。
【0003】
しかしながら、石油系の合成樹脂は、資源の枯渇問題や地球温暖化ガスの放出問題等の環境問題を抱えている。こうした合成樹脂を、植物由来の樹脂で代替することは、石油資源の消費を抑えることができ、地球温暖化などの環境問題に貢献する効果的な手段の一つである。
また、石油系の合成樹脂を用いた塗料は、強固な塗膜を木部表面に形成するために、手触りなどの木材本来の質感が損なわれるという欠点がある。
【0004】
従来、木材用の塗料として、植物由来の乾性油又は半乾性油に、乾燥促進剤として脂肪酸金属塩を添加し硬化促進を図った、オイルフィニッシュと呼ばれる植物油脂由来の塗料がある。この塗料は、植物由来の油脂を主成分としているため、環境や健康に良いイメージを有することに加え、木材中に染み込み、木材表面に塗膜を形成しないため、木の質感を損なわない木材処理用樹脂組成物として知られている。
しかしながら、これら植物油脂由来の塗料は、乾燥性が悪く、例えば重ね塗りする場合には、少なくとも12時間、場合によっては24時間以上も塗装間隔を設ける必要があるなど、作業性が悪かった。
【0005】
また、重大な欠点として、これら植物油脂由来の樹脂組成物は、木部を汚染から保護する効力が低く、例えばアルカリ性の水溶液をこぼして放置しておくと、木部がアルカリ汚染で黒色化されやすいという欠点があった。
【0006】
こうした欠点を改善した塗料として、油脂類にジイソシアネートやトリイソシアネートを架橋剤として添加した、油変性ウレタン樹脂塗料〈非特許文献1参照)と呼ばれるものがある。しかし、この塗料は、従来の問題点であった、乾燥性や木部の汚染からの保護力は改善されているものの、その塗料を用いて塗装された塗装面は、ポリウレタン樹脂塗料のそれに近く、木材の質感を損ねてしまうという欠点があった。
【0007】
他方、これら植物由来の油脂類の反応性は極めて低いことが知られており、これを改良する目的で、油脂そのものをエポキシ化し、反応性を高めたものに熱反応性架橋剤を添加したり(特許文献1参照)、エポキシ化された油脂にさらにフェノール樹脂などの合成樹脂を反応させたり(特許文献2参照)するといった工夫がなされてきた。
こうした試みは、油脂の反応性を高めて、硬化物性に優れた樹脂組成物を得るのには有効な手法ではあるが、やはり油脂を化学修飾することなく、直接反応に供することができるほうが、汎用性やコスト面、作業プロセス面でも好ましい。
【0008】
尚、特許文献3には、有機ケイ素化合物に樹脂として吸水性ポリマーを混合することが記載され、引用文献4には、有機ケイ素化合物と木材由来のリグノフェノール樹脂とを混合して硬化物を得ることが記載されている。
【0009】
【非特許文献1】大越 誠ら、「木材の塗装」、海青社発行、木材塗装研究会編、2005年12月、p80
【特許文献1】特開2004−256596号公報
【特許文献2】特開2006−241331号公報
【特許文献3】特開2001−260104号公報
【特許文献4】特開2006−342270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、木材の質感を維持しつつ木部を汚染等から保護することができ、その保護性能に優れている、植物由来の油脂を用いた木材処理用材樹脂組成物を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、植物由来の油脂を含む木材処理剤(オイルフィニッシュ等)を改質し、該木材処理剤の乾燥性や木部の保護性能を向上させることのできる、木材処理剤の改質剤を提供することにある。
また、本発明の更に他の目的は、木材中の木材表面の近傍に樹脂含浸層を有し、耐汚染性に優れた改質木材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、樹脂組成物の木繊維内部への浸透を妨げることなく、樹脂組成物の乾燥性を向上させ、樹脂重合物の性能を改質する方法を知見した。より詳しくは、本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、乾性油脂又は半乾性油脂に、特定の有機ケイ素化合物及び/又はその部分加水分解縮合物を混合するだけで、木材の質感を損なわずに、乾燥性や木部保護性能等の諸性能が向上した樹脂組成物となることを見出した。本発明は、上記知見に基づき、さらに検討を重ねて完成されたものである。
【0012】
本発明は、(A)植物性乾性油及び/又は植物性半乾性油、及び、
(B)下記一般式(1)、
X−Si(CH3n3-n (1)
〔但し、式中、Xは、イソシアネート基又はエポキシ基であり、Yは加水分解性基であり、nは、0、1又は2である。〕
で示される有機ケイ素化合物及び/又はその部分加水分解縮合物、
を含有することを特徴とする木材処理用樹脂組成物を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、下記一般式(1)、
X−Si(CH3n3-n (1)
〔但し、式中、Xは、イソシアネート基又はエポキシ基であり、Yは加水分解性基であり、nは、0、1又は2である。〕
で示される有機ケイ素化合物及び/又はその部分加水分解縮合物を含んでなり、
植物性乾性油及び/又は植物性半乾性油を含有する木材処理剤の改質に用いられる、木材処理剤の改質剤を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、前記木材処理用樹脂組成物又は前記改質剤で改質された木材処理剤で、被処理木材を処理して得られる改質木材を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の木材処理用樹脂組成物によれば、木材の質感を維持しつつ木部を汚染等から保護することができ、その保護性能に優れている、植物由来の油脂を用いた木材処理用材樹脂組成物を提供することができる。
また、本発明の木材処理剤の改質剤によれば、植物由来の油脂を含む木材処理剤(オイルフィニッシュ等)を改質し、該木材処理剤の乾燥性や木部の保護性能を向上させることができる。
また、本発明の改質木材は、木材中の木材表面の近傍に樹脂含浸層を有し、耐汚染性に優れている。
木材の質感とは、例えば、木材の見た目や手触りをいい、木部とは、樹脂部分を除いた実質の木材部分、特に見た目や手触りに関する実質の木材部分をいう。
【0016】
本発明によれば、木材、特に木部の質感を損なわない木材の保護が可能である。これに対して、特許文献1及び2においても、植物油脂由来の樹脂組成物の用途として塗料を一例として挙げてはいるが、硬化物の物性の評価は、得られたフィルムの物性で評価している。即ち、基材の表面をいかに性能に優れた塗膜で覆うかという視点からの発明であり、質感の維持、特に木繊維内部への樹脂の浸透に関して何ら言及されていない。
【0017】
また、特許文献1では、本発明と同様に有機ケイ素化合物を用いているが、硬化物の物性を高めるために油脂をエポキシ化した上に酸触媒も併用している。本発明によれば、手間のかかる化学修飾や酸触媒の使用を避けることもできる。
さらに、特許文献2では樹脂組成物を得るためにエポキシ化された油脂に、さらにフエノール樹脂を加熱して反応させることを行っており、特許文献3においては、有機ケイ素化合物と混合して用いる樹脂として吸水性ポリマーが挙げられている。即ち、特許文献2及び3においては、化石資源を原料とした合成樹脂を用いていることになる。
【0018】
特許文献4においては、木材由来のリグノフェノール樹脂を有機ケイ素化合物と混合して硬化物を得ているが、これもやはり機械物性に優れた成型体の創生を目的としている。つまり、引用文献4の発明も、基材の表面をいかに性能に優れた塗膜で覆うかという視点からなされており、引用文献4の発明によっては、木材の質感を維持し木部の保護を図ることができない。
【0019】
本発明においては、再生可能な天然資源である植物油脂と、特定の有機ケイ素化合物及び/又はその部分加水分解縮合物を、常温、常庄で混合することのみでも、目的を達成しうる。また、本発明の木材処理用樹脂組成物は、分子量の小さな有機ケイ素化合物を用いているために、木部への浸透性に非常に優れており、木部表面で塗膜を形成しがたく、木部の質感を損なわずに木材の保護が可能である。
【0020】
さらに、オイルフィニッシュに代表される油脂、もしくは油脂に乾操剤である脂肪酸金属塩を添加したものの反応は、酸素の供給される表面の薄層のみに限定されるのに対して、本発明における油脂と特定の有機ケイ素化合物、及び/又は、その部分加水分解縮合物の混合物は、表面の薄層のみならず比較的内部まで反応・硬化する。本発明の木材処理用樹脂組成物は、木繊維内部に浸透し、効果的に汚染から保護する能力が優れている。
【0021】
本発明は、以下の一又は二以上の利点も有する。
(1)木材処理用樹脂組成物は、油脂と特定の有機ケイ素化合物を常温で混合することのみでも製造可能である(但し、加熱しても良い)。木材処理剤の改質剤は、油脂と特定の有機ケイ素化合物を常温で混合することのみでも目的を達成することができる(但し、加熱しても良い)。
(2)上市されているオイルフィニッシュとは異なり、希釈溶剤を必ずしも必要としない(但し、添加しても良い)。
(3)上市されているオイルフィニッシュとは異なり、乾操剤(脂肪酸金属塩等)を必ずしも必要としない(但し、添加しても良い)。
(4)油脂に混合する有機ケイ素化合物の分子量が小さく、反応性希釈剤のような振る舞いをするので、木材内部への浸透性を、油脂単独に比して高めることができる。
(5)上市されているオイルフィニッシュは乾燥・硬化が酸素の供給される表面近傍のみに限定されるが、本発明においては、比較的内部まで乾燥・硬化を進行しやすい。
(6)再生可能な植物資源である油脂と、地殻内にほば無尽蔵に存在するケイ素とを用いるので、環境にやさしい、木材処理用樹脂組成物、木材処理剤の改質剤、改質木材を提供することができる。
(7)本発明の木材処理剤の改質剤は、上市されているオイルフィニッシュのような木材処理剤に混合するだけの簡単な操作で、例えば塗料として用いる場合、従来の上市されている自然系植物油脂塗料に比して、耐水性をはじめとする種々の性能を飛躍的に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づいて説明する。
(A)成分について
本発明で用いる油脂は、植物性の乾性油及び/又は半乾性油である。
植物性の油脂を用いることで、環境や人体への負荷や影響の削減等を図ることができ、乾性油又は半乾性油を用いることで、反応性に優れた木材処理用樹脂組成物が得られる。
植物性の乾性油又は半乾性油としては、アマニ油、サフラワー油、大豆油、キリ油、荏油、脱水処理したひまし油、クルミ油、ひまわり油、ゴマ油、ナタネ油、ヌカ油、及び綿実油等を好ましく用いることができる。これらの油脂は、1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
また、油脂は、乾燥性を更に高めるために、スタンドオイルやボイルドオイル等の加熱処理されたものであることが好ましい。スタンドオイルは、空気を遮断した状態で高温で過熱し、重合させたオイルであり、ボイルドオイルは、空気を吹き込みながら、あるいは空気に触れさせながら加熱したオイルである。
また、油脂は、本発明の目的を損なわない範囲で、更に反応性を高めることを目的として、エポキシ化等の化学修飾が施されていても良い。
【0023】
(B)成分について
本発明で用いる有機ケイ素化合物は、下記一般式(1)、
X−Si(CH3n3-n (1)
〔但し、式中、Xは、イソシアネート基又はエポキシ基であり、Yは加水分解性基であり、nは、0、1又は2である。〕
で示される特定の有機ケイ素化合物である。
Yで示す加水分解性基は、メトキシ基又はエトキシ基であることが好ましい。
前記一般式(1)で示される有機ケイ素化合物としては、2−(3,4エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4エポキシシクロへキシル)エチルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等を例示することができる。
これらの有機ケイ素化合物は、1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0024】
本発明においては、前述の有機ケイ素化合物と共に、あるいは、前述の有機ケイ素化合物に代えて、その有機ケイ素化合物の部分加水分解縮合物を用いることもできる。
本発明で用いる有機ケイ素化合物の部分加水分解縮合物は、アルコキシオリゴマーであることが好ましい。
また、アルコキシオリゴマーは、重合度が2〜100程度であることが好ましい。
部分加水分解縮合物であるアルコキシオリゴマーは、分子内に有機官能性基を含有していることが、油脂との反応性の点から好ましく、有機官能性基は、イソシアネート基及び/又はエポキシ基であることが好ましい。このようなアルコキシオリゴマーは混合物であることが多く、唯一の構造を示すのは難しいが、市販の製品として、X41−1053、X41−1056、KP392(何れも信越化学工業(株)製)等を例示することができる。
有機ケイ素化合物の部分加水分解縮合物は、1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0025】
(木材処理用樹脂組成物)
本発明の木材処理用樹脂組成物は、上述した(A)成分と(B)成分とを混合することにより製造可能である。
前記(A)成分と前記(B)成分の配合(混合)割合は、一概には規定できないが、両者の重量比〔(A)成分:(B)成分)が100:0.1〜100:50であることが好ましく、より好ましくは100:0.5〜100:30であり、さらに好ましくは100:1〜100〜15である。
【0026】
本発明の木材処理用樹脂組成物には、乾燥性の向上の観点から、前記(A)成分及び前記(B)成分に加えて、脂肪酸金属塩等の乾燥剤を含有させることもできる。このような脂肪酸金属塩の一例としては、ナフテン酸コバルト、オクチル酸コバルト、ナフテン酸マンガン、オクチル酸マンガン、ナフテン酸鉛、オクチル醜鉛、ナフテン酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、ナフテン酸カルシウム、オクチル酸カルシウム、ナフテン酸ジルコニウム、オクチル酸ジルコニウム等を例示することができる。これらの乾燥剤は、1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
本発明においては、このような乾燥剤を使用しなくても目的を達することができる。
【0027】
本発明の木材処理用樹脂組成物は、所望により、ワックス、顔料、体質顔料、紫外線吸収剤、紫外線遮蔽剤、光安定剤、硬化触媒、防虫剤、防腐剤、防徴剤等の第3成分を含んでいても良い。
また、作業性や木材に対する浸透性の向上のために、前記(A)成分及び前記(B)成分並びに所望により混合される第3成分が、有機溶剤で希釈されていても良い。有機溶剤は、使用しないか、使用しても、前記(A)成分の重量に対して10倍量以下であることが好ましい。
また、前記(A)成分及び前記(B)成分並びに所望により混合される第3成分の混合方法は、公知の方法を特に制限なく用いることができ、例えば、これらを一つの容器に入れて振っても良いし、攪拌装置で攪拌しても良い。
【0028】
(木材処理剤の改質剤)
本発明の木材処理剤の改質剤は、本発明の木材処理用樹脂組成物における、前記(B)成分、即ち、前記一般式(1)で示される特定の有機ケイ素化合物及び/又はその部分加水分解縮合物を含んでなる。木材処理剤の改質剤は、前記特定の有機ケイ素化合物及び/又はその部分加水分解縮合物のみからなるものであっても良いし、有機溶剤や第3成分を含むものであっても良い。第3成分の例としては、木材処理用樹脂組成物に関して上述した第3成分と同様の各種の成分が挙げられる。
本発明の木材処理剤の改質剤は、植物性の乾性油及び/又は乾性油を含有する木材処理剤に混合されて該処理剤の改質に用いられるが、改質対象の木材処理剤は、植物性の乾性油及び/又は乾性油のみからなるものであっても良いし、これに、有機溶剤や第3成分を含むものであっても良い。植物性の乾性油又は乾性油の具体例としては、前記(A)成分として例示した各種の油脂を例示できる。第3成分の例としては、木材処理用樹脂組成物に関して上述した第3成分と同様の各種の成分が挙げられる。
改質対象の木材処理剤としては、オイルフィニッシュ等の各種市販の木材処理剤が挙げられる。改質対象の木材処理剤と木材処理剤の改質剤とは、木材処理剤の植物性の乾性油及び/又は乾性油と改質剤中の前記(B)成分との配合(混合)割合が、上述した木材処理用樹脂組成物における、前記(A)成分と前記(B)成分との好ましい配合(混合)割合と同様となるように混合することが好ましい。
【0029】
(木材の処理)
本発明の木材処理用樹脂組成物、及び本発明の木材処理剤の改質剤で改質された木材処理剤は、被処理木材を処理して、該被処理木材の耐水性、耐汚染性、寸法安定性及び耐候性の何れか一以上を向上させるために用いられる。以下、本発明の木材処理用樹脂組成物、及び本発明の木材処理剤の改質剤で改質された木材処理剤を総称して、本発明の木材保護剤(又は単に木材保護剤)ともいう。
【0030】
本発明の木材保護剤による被処理木材の処理方法としては、塗布処理、浸漬処理、強制含浸処理等が挙げられる。
塗布処理は、木材保護剤を被処理木材の表面に塗布する処理であり、塗布方法としては、刷毛、スプレー、ロールコーター等の各種公知の方法を特に制限なく採用することができる。
浸漬処理は、木材保護剤に被処理木材を浸漬する処理であり、例えば、容器に入れた木材保護剤中に木材を浸漬する。
強制含浸処理は、木材保護剤を被処理木材中に強制的に含浸(注入)させる処理である。強制含浸処理としては、例えば、減圧法、加圧法、減圧加庄法、温浴法、温冷繰り返し法、液中ロールプレス法等の各種公知の方法を特に制限なく採用することができる。
更に、上述した各種の処理は、同種の処理を繰り返し行っても良く、また、異なる2種以上の処理を組み合わせて順次行っても良い。
【0031】
尚、本発明の木材保護剤による、これらの処理は、木材保護剤中における植物性乾性油及び/又は植物性半乾性油〔前記(A)成分〕の含有率が、1〜99.9重量%となる条件下、特に25〜75重量%となる条件下で行うことが好ましい。本発明の木材処理用樹脂組成物は、前記(A)成分を、そのような濃度で含んでいても良いし、より高い濃度で含み使用時に有機溶剤で希釈して用いられるものであっても良い。
【0032】
本発明の木材保護剤による処理後の木材は、乾燥させることが好ましい。
処理後の木材の乾燥方法としては、木材の塗装等において公知の各種の乾燥方法を特に制限なく用いることができ、自然乾燥や熱風乾燥等が挙げられる。また、特開2003−290714号公報に開示されているような、塗布後に加熱ロールを押圧しながら回転させ、樹脂温度を昇温させる方法を用いることもできる。
【0033】
また、油脂は乾燥(酸化)するとアルデヒドになることが知られており、上述した塗布処理、浸漬処理、強制含浸処理等の処理後に、ホルムアルデヒド等の発生を抑制したり、乾燥性を更に高める目的で、余分な樹脂をウェスなどで拭き取っても良い.
【0034】
本発明の木材保護材で処理する木材(被処理木材)としては、針葉樹や広葉樹を製材して得られた無垢材や、集成材の他、各種の木質材料であっても良い。木質材料としては、合板、単板積層材(LVL)、パーティクルボード、MDF等が挙げられる。
本発明の木材保護剤を用いて塗布、浸漬、強制含浸等の処理を行った後、乾燥させた被処理木材は、本発明の改質木材である。本発明の改質木材においては、本発明の木材保護材が被処理木材中に含浸して硬化層が形成された結果、木材中の木材表面の近傍に硬化樹脂層が形成されている一方、木材の表面上には塗膜が殆ど形成されていない。そのため、木材の質
感が維持される一方、該硬化樹脂層により、耐汚染性等が向上している。硬化樹脂層は、前記(B)成分の前記一般式(1)中の官能基Xが前記(A)成分と反応したり、一般式(1)中の加水分解性基Yが分解・縮合したりして生じた、油脂とケイ素の複合樹脂層と、木材の繊維とを含んでいる。
本発明の改質木材は、被処理木材の表面に垂直な断面を見たときに、本発明の木材保護剤により形成される樹脂を含む部分が、該表面より外側よりも該表面より内側(木材の中心側)に多く存在している。
【0035】
また、本発明に係る木材処理用樹脂組成物は、任意の形態で販売や他の取引等を行うことができる。例えば、前記(A)成分を収容した第1の容器と、前記(B)成分を収容した第2の容器とをセットにして販売等をしたり、前記(A)成分を収容した第1の収容部と前記(B)成分を収容した第2の収容部とを有する複合容器を販売等をしたりすることもできる。これらの場合、前記(A)成分と前記(B)成分とを、木材の処理を行う際に混合して用いることができる。
また、前記(A)成分と前記(B)成分とを混合状態として販売等をすることもできる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例により、本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は、かかる実施例によって何ら限定されるものではない。
【0037】
〔乾燥性の評価〕
(実施例1)
ボイルアマニ油100gに対して、3イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製の「KBE−9007」,イソシアネート基を含有する有機ケイ素化合物)30gを混合し、十分攪拌して、実施例1の木材処理用樹脂組成物を得た。
(実施例2)
ボイルアマニ油100gに対して、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製の「KBM−403」,エポキシ基を含有する有機ケイ素化合物)15gを混合し、十分攪拌して、実施例2の木材処理用樹脂組成物を得た。
(実施例3)
ボイルアマニ油100gに対して、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(エポキシ基を含有する有機ケイ素化合物)の部分加水分解縮合物(信越化学工業(株)製の「X41−1053」)15gを混合し、十分攪拌して、実施例3の木材処理用樹脂組成物を得た。
(比較例1)
ボイルアマニ油100gを、そのまま比較例1の木材処理用樹脂組成物として用いた。
【0038】
(評価試験)
実施例1〜3及び比較例1で得られた木材処理用樹脂組成物を、それぞれ、フィルムアプリケーターを用いてガラス板上に約10μmの厚さで塗布し、室温で放置して乾燥させた。
それぞれ、塗布後12時間毎に指で触り、樹脂の乾燥状態を以下の基準で評価した。表1に、半乾燥状態及び乾燥状態となるまでの時間を示した。
(乾燥状態の評価基準)
未乾燥 :樹脂を指で触ったときに、指に樹脂が付着する。
半乾燥:指に樹脂が付着しないが樹脂面に指跡が残る。
乾燥 :指に樹脂が付着せず樹脂面に指跡も残らない。
【0039】
【表1】

【0040】
実施例1〜3の木材処理用樹脂組成物は、何れも、比較例1の木材処理用樹脂組成物に比して、乾燥時間が短縮している。
【0041】
〔木部保護性能の評価〕
(実施例4)
市販のオイルフィニッシュ塗料(サンユーペイント(株)製の「Rio−Kaze77」,ボイルアマニ油,乾燥剤,ワックス及び有機溶剤を含む)100gに対して、3イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(イソシアネート基を含有する有機ケイ素化合物)15gを混合し、十分攪拌して、処理剤を得た。
得られた処理剤を、オーク材に刷毛で塗布し、室温で24時間自然乾燥させた。塗布量は25〜35g/m2を目標に行った。
【0042】
(実施例5)
ボイルアマニ油100gに対して、3イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(イソシアネート基を含有する含有する有機ケイ素化合物)15gを混合し、十分攪拌して、処理剤を得た。得られた処理剤をオーク材に刷毛で塗布し、室温で24時間自然乾燥させた。この塗布及び乾燥の操作を2回線り返した。さらに、3回目の塗装を行い、3回目の塗装後のみ、すぐに余分な塗料をウェスで拭き取った。塗布量は、何れの回についても、25〜35g/m2を目標に行った。
【0043】
(実施例6)
ボイルアマニ油100gに対して、3−グリシドキシプロピルエトキシシラン(信越化学工業(株)製の「KBM−403」,エポキシ基を含有する有機ケイ素化合物)15gを混合し、十分攪拌して、処理剤を得た。得られた処理剤をオーク材に刷毛で塗布し、室温で24時間自然乾燥させた。この塗布及び乾燥の操作を2回線り返した。さらに、3回目の塗装を行い、3回目の塗装後のみ、すぐに余分な塗料をウェスで拭き取った。塗布量は、何れの回についても、25〜35g/m2を目標に行った。
【0044】
(実施例7)
ボイルアマニ油100gに対して、3−グリシドキシプロピルエトキシシラン(エポキシ基を含有する有機ケイ素化合物)の部分加水分解縮合物(信越化学工業(株)製の「X41−1053」)15gを混合し、十分攪拌して、処理剤を得た。得られた処理剤をオーク材に刷毛で塗布し、室温で24時間自然乾燥させた。この塗布及び乾燥の操作を2回線り返した。さらに、3回目の塗装を行い、3回目の塗装後のみ、すぐに余分な塗料をウェスで拭き取った。塗布量は、何れの回についても、25〜35g/m2を目標に行った。
尚、実施例1〜3、実施例5〜7,比較例1,3においては、ボイルアマニ油として、何れも、市販のボイルアマニ油((有)シマモト製「ボイル油」)を用いた。
【0045】
(比較例2)
実施例4で用いたものと同じ市販のオイルフィニッシュ塗料を、オーク材に刷毛で塗布し、室温で24時間自然乾燥させた。この塗布及び乾燥の操作を2回線り返した。さらに、3回目の塗装を行い、3回目の塗装後のみ、すぐに余分な塗料をウェスで拭き取った。塗布量は、何れの回についても、25〜35g/m2を目標に行った。
(比較例3)
実施例5で用いたものと同じボイルアマニ油をオーク材に刷毛で塗布し、室温で24時間自然乾燥させた。この塗布及び乾燥の操作を2回線り返した。さらに、3回目の塗装を行い、3回目の塗装後のみ、すぐに余分な塗料をウェスで拭き取った。塗布量は、何れの回についても、25〜35g/m2を目標に行った。
【0046】
(評価試験)
実施例4,5及び比較例2,3で得られた試験材(処理後の木材)について、室温で1週間養生後、木部保護性能の評価拭験を行った。即ち、1%、3%、及び5%の炭酸ナトリウム水溶液を作成し、該液を、試験剤の表面に滴下した後、放置し、表面性状の変化を観察した。表面性状を、下記の評価基準で評価し、その結果を表2に示した。
尚、試験材の木部改質面(樹脂塗布面)が遮水性に劣っていれば、滴下した水溶液は木部へ吸収され木部とアルカリ成分(炭酸ナトリウム)が反応し、黒変する。
【0047】
(表面性状の評価基準)
○ :変化なし。
△ :わずかに黒変した。
× :明らかに黒変した。
【0048】
【表2】

【0049】
表2中の、実施例4と比較例2の結果の対比、実施例5と比較例3の結果の対比から明らかなように、実施例4の処理剤は、比較例2の処理剤に対して木部の保護性能に優れており、実施例5の処理剤は、比較例3の処理剤に対して木部の保護性能に優れている。
また、実施例6,7の処理剤は、比較例3の処理剤に対して木部の保護性能に優れている。
実施例4は、比較例2と変わらない程度に木部の質感(表面の見掛けや手触り)を維持しており、実施例5は、比較例3と変わらない程度に木部の質感を維持していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)植物性乾性油及び/又は植物性半乾性油、及び、
(B)下記一般式(1)、
X−Si(CH3n3-n (1)
〔但し、式中、Xは、イソシアネート基又はエポキシ基であり、Yは加水分解性基であり、nは、0、1又は2である。〕
で示される有機ケイ素化合物及び/又はその部分加水分解縮合物、
を含有することを特徴とする木材処理用樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)成分が、アマニ油、サフラワー油、大豆油、キリ油、荏油、脱水処理したひまし油、クルミ油、ひまわり油、ゴマ油、ナタネ油、ヌカ油、綿実油からなる群から選択される一種以上であることを特徴とする、請求項1記載の木材処理用樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)成分が、スタンドオイル又はボイルドオイルであることを特徴とする、請求項1又は2記載の木材処理用樹脂組成物。
【請求項4】
前記有機ケイ素化合物の部分加水分解縮合物として、分子内に有機官能性基を含有するアルコキシオリゴマーを含むことを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載の木材処理用樹脂組成物。
【請求項5】
前記アルコキシオリゴマーの前記有機官能性基が、イソシアネート基又はエポキシ基であることを特徴とする、請求項4記載の木材処理用樹脂組成物。
【請求項6】
前記(A)成分と前記(B)成分の混合割合が重量比〔(A)成分:(B)成分)で100:0.1〜100:50であることを特徴とする、請求項1〜5の何れかに記載の木材処理用樹脂組成物。
【請求項7】
下記一般式(1)、
X−Si(CH3n3-n (1)
〔但し、式中、Xは、イソシアネート基又はエポキシ基であり、Yは加水分解性基であり、nは、0、1又は2である。〕
で示される有機ケイ素化合物及び/又はその部分加水分解縮合物を含んでなり、
植物性乾性油及び/又は植物性半乾性油を含有する木材処理剤の改質に用いられる、木材処理剤の改質剤。
【請求項8】
請求項1〜6の何れかに記載の木材処理用樹脂組成物又は請求項7に記載の木材処理剤の改質剤で改質された木材処理剤で木材を処理して得られる改質木材。

【公開番号】特開2009−148914(P2009−148914A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326788(P2007−326788)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000183428)住友林業株式会社 (540)
【Fターム(参考)】