説明

木材成形品の加工方法

【課題】木材成形品を加工する際にクラックや欠け等が発生しない新規な木材成形品の加工方法を提供する。
【解決手段】木材成形品の素材となる木材を軟化させる木材軟化工程と、この軟化された木材を所定の厚みに圧縮加工する木材圧縮工程Dと、この木材3を切削加工することにより所定形状のブランクを得るブランク製造工程Gと、得られたブランクを軟化させるブランク軟化工程と、軟化されたブランクを圧縮加工して目的形状の木材成形品に成形するブランク圧縮工程と、上記圧縮状態位置を所定温度で所定時間保持する形状保持工程とを含む木材成形品の加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材を所定形状に加工する木材成形品の加工方法に関し、特に、携帯電話やデジタルカメラ等の筺体などのように、複雑な形状に加工することができる木材成形品の加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話、デジタルカメラ等の携帯通信端末や携帯電子機器の筐体やカバーには金属や樹脂の素材が多く用いられてきたが、これらの素材は、廃棄物処理に費用がかかるとともに、美観の点において満足できない部分があることから、表面に木目模様が露出して独特の自然の風合いや外観を備える素材として木材が注目されている。
【0003】
ところで、こうした木材を加工する方法として、これまでには食品用トレイ等の曲面部材を成形する方法が開示されている。この方法は、吸水軟化させた木材を圧縮し、この圧縮状態を保持して一次固定をし、この一次固定された木材を圧縮方向と平行にスライスして板状の一次固定品を形成し、この板状の一次固定品を加熱吸水処理して軟化させた後、水噴霧を行いながら成形金型により曲げ加工して目的形状の成形品を成形し、この成形品に樹脂水溶液を塗布して二次固定するものである(特許文献1参照)。
【0004】
この特許文献1に開示された発明では、板状の一次固定品を成形金型の凹凸面の間に挿入して押し曲げ加工するものであることから、携帯通信端末や携帯電子機器の筐体のように、形状が複雑なものや直角部又は直角に近い角部を有する成形品を成形することができなかった。この問題点を解決するものとして、原木である無圧縮状態の無垢木材から切削加工により三次元形状のブランクを成形し、この切削加工されたブランクを高温高圧の水蒸気雰囲気中で所定時間放置して水分を吸収させることにより軟化し、この軟化されたブランクを高温高圧の水蒸気雰囲気中に配置され成形金型により圧縮加工して目的形状の成形品に成形し、この成形品を所定時間放置して形状を固定し、この形状固定された成形品を大気中で金型により圧縮するとともに加熱して目的形状に整形する加工方法が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3078452号公報
【特許文献2】特開2007−160730号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献2による木材成形品の加工方法では、ブランク加工が、原木である無圧縮状態の無垢木材から切削加工により三次元形状に成形されるものであって、この段階では木材の軟化がなされていない脆い原木のままであることから、切削工具の切削抵抗に抗しきれずにブランクにクラックや欠け等が発生し易い問題があった。さらに、前記ブランクを目的形状の成形品に圧縮加工する際にも、その前工程において水分を吸収させることによる軟化処理はされているが、ブランクの圧縮強さは原木の状態から促進されないことから、圧縮加工の際の圧縮圧力に抗し切れず成形品の角部や木口部等にクラックや欠け等が頻繁に生じ易いという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上述した従来の技術による木材成形品の加工方法が有する課題を解決するために提案されたものであって、三次元形状のブランクを切削加工する際にブランクにクラックや欠け等が発生しないとともに、ブランクを目的形状に圧縮加工する際に角部や木口部等にクラックや欠け等が生じない木材成形品の加工方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するため、第1の発明(請求項1記載の発明)に係る木材成形品の加工方法は、木材成形品の素材となる木材を、密閉空間において水蒸気により所定温度で所定時間加熱して該木材を軟化させる木材軟化工程と、この軟化された木材を、上記水蒸気により加熱された状態のまま第1の金型により所定の厚みに圧縮加工する木材圧縮工程と、この木材圧縮工程を経た木材を、上記密閉空間から取り出し、この木材を切削加工することにより所定形状のブランクを得るブランク製造工程と、このブランク製造工程により得たブランクを、密閉空間において水蒸気により所定温度で所定時間加熱して軟化させるブランク軟化工程と、このブランク軟化工程により軟化されたブランクを、上記水蒸気により加熱された状態のまま第2の金型により圧縮加工して目的形状の木材成形品に成形するブランク圧縮工程と、このブランク圧縮工程に次いで、上記第2の金型の圧縮状態位置のまま上記ブランク圧縮工程における温度よりも上昇させて所定時間保持する形状保持工程と、を含んでなることを特徴とするものである。
【0009】
この第1の発明では、ブランク製造工程において所定形状のブランクに切削加工される木材は、密閉空間において水蒸気により所定温度で所定時間加熱して該木材を軟化させる木材軟化工程と、この軟化された木材を、上記水蒸気により加熱された状態のまま第1の金型により所定の厚みに圧縮加工する木材圧縮工程とを経る。こうした各工程を経ることにより、木材の靱性及び圧縮強さが高められる。したがって、こうした各工程を経て上記靱性及び圧縮強さが高められた木材を切削加工して、ブランクを製造する際、切削工具の切削抵抗により、得られたブランクにクラックや欠け等が発生することを防止することができる。なお、上記木材圧縮工程により圧縮加工される木材の所定の厚みは、少なくとも、その後のブランク製造工程において切削加工によりブランクを得るための厚みがあればよい。また、ブランク圧縮工程において目的形状の木材成形品に圧縮加工されるブランクは、該ブランクの圧縮加工前のブランク軟化工程により靱性が高められていることから、ブランクを圧縮加工する圧縮圧力により木材成形品の角部や木口部等にクラックや欠け等が生じることを防止することができる。また、ブランク圧縮工程において目的形状に圧縮加工された木材成形品は、その後の形状保持工程により上記第2の金型の圧縮状態位置のまま上記ブランク圧縮工程における温度よりも上昇させて所定時間保持されることから、ブランク圧縮工程において成形された目的形状の保持を図ることができる。すなわち、この第1の発明においては、ブランクを製造する前になされる木材軟化工程及び木材圧縮工程を経ることから、ブランクを製造する際におけるクラック等の発生を防止できるとともに、製造したブランクから最終製品である木材成形品を得る際に経る上記工程により、該木材成形品にクラック等が発生することを防止できるため、製品の歩留りを向上させることができる。特に、本発明によれば、トレイや皿などのような単純な木材成形品のみならず、例えば携帯通信端末や携帯電子機器の筐体のように、形状が複雑なものや直角部又は直角に近い角部を有する木材成形品であっても、歩留り良く成形することができる。
【0010】
なお、木材を軟化させる木材軟化工程では、温度が100〜150℃、圧力が0.101〜0.476MPaの水蒸気雰囲気中において木材を所定時間加熱して、加熱と吸水により軟化処理がなされる。また、木材を圧縮加工する木材圧縮工程では、温度が100〜150℃、圧力が0.101〜0.476MPaの水蒸気雰囲気中において、木材は、圧縮前の厚みに対して圧縮率が10〜60%まで圧縮加工される。また、木材を切削加工するブランク製造工程では、その後のブランク圧縮工程において目的形状の木材成形品に形成される木目模様の美観は、木材の木表側よりも木裏側のほうが良好であることから、該ブランク製造工程ではブランク圧縮工程において木裏側が圧縮加工されるべく木裏側を残すように切削加工することが好ましい。なお、ブランク製造工程により切削加工されるブランクの所定形状は、後工程であるブランク圧縮工程により目的形状の木材成形品に成形するための圧縮加工代が見込まれた形状であって、目的形状の木材成形品と略相似形状である。
【0011】
また、ブランクを軟化させるブランク軟化工程では、温度が100〜150℃、圧力が0.101〜0.476MPaの水蒸気雰囲気中においてブランクを所定時間加熱して、加熱と吸水により軟化処理がなされる。また、ブランクを目的形状の木材成形品に成形するブランク圧縮工程では、温度が100〜150℃、圧力が0.101〜0.476MPaの水蒸気雰囲気中の第2の金型により、圧縮前のブランクを圧縮率が50〜90%まで圧縮加工される。また、木材成形品を形状保持する形状保持工程では、温度が上記ブランク圧縮工程よりも高温の170〜230℃、圧力が上記ブランク圧縮工程よりも高圧の0.791〜2.796MPaの水蒸気雰囲気中において第2の金型の圧縮状態位置を所定時間保持することにより圧縮成形時の形状が保持される。
【0012】
また、第2の発明(請求項2記載の発明)は、上記第1の発明において、前記木材は、前記木材圧縮工程を経た際の圧縮方向における厚みが、前記ブランク製造工程で所定形状のブランクを成形するのに必要最小限の厚みに予め形成されてなり、この予め形成された木材を前記木材軟化工程において軟化させることを特徴とするものである。
【0013】
この第2の発明では、前記木材は、前記木材圧縮工程を経た際の圧縮方向における厚みが、前記ブランク製造工程で所定形状のブランクを成形するのに必要最小限の厚みに予め形成されてなり、こうした必要最小限度の厚みとされた木材について前記木材軟化工程及び木材圧縮工程の各工程を経ることから、以下の作用効果を奏する。
(1)上記木材軟化工程により、木材に含まれた樹脂成分は徐々に木材内部から排出されるが、上述したように、所定形状のブランクを成形するのに必要最小限の厚みに予め形成し、その後に上記木材軟化工程を経ることにより、樹脂成分の分布の偏り(偏在化)を回避することができ、この樹脂成分による(最終製品である)木材成形品の表面の色合いも均一化することが可能となる。
(2)木材軟化工程に要する装置の大型化を回避することができる。
(3)木材軟化工程に要する時間を短縮化することができる。
【0014】
また、ブランク圧縮工程においては、ブランクの表面が加熱されることにより、最終製品である木材成形品の表面は、そのブランクに含まれている樹脂成分の量により変色の程度が異なるところ、従来の木材成形品の加工方法で採用されているように、最終的に得る製品よりも相当大きな木材について、前記木材軟化工程や木材圧縮工程を経て、その後にスライスし、次いでそのスライスされた木材を軟化し曲げ加工した場合では、上記スライスする前の木材には水蒸気が均一に吸収されず、樹脂成分も均一ではないため、スライスした木材毎に樹脂成分も異なり、その結果、最終製品である木材成形品の変色、つや等の程度も個々に異なることとなり、同質の製品を得られない。これに対して本発明では、前記木材圧縮工程を経た際の圧縮方向における厚みが、前記ブランク製造工程で所定形状のブランクを成形するのに必要最小限の厚みに予め形成されてなり、木材軟化工程における木材には水蒸気がほぼ均一に吸収され、樹脂成分の分布が平均的に改善され、最終製品である木材成形品の変色、つや等の程度も均一なものとすることができる。また、本発明によれば、ブランク製造工程において、ブランクを構成する部位以外であって廃棄されることとなる無駄な材料を少なくすることができる。したがって、この発明によれば、均質で無駄のない木材成形品を安価に得ることができる。なお、この発明を構成する「ブランク製造工程で所定形状のブランクを成形するのに必要最小限の厚み」とは、「木材圧縮工程を経た際の圧縮方向における厚み」である。したがって、「木材圧縮工程を経た際の圧縮方向」とは直行する方向においては、複数のブランクを得ることができる木材の大きさであっても良い。
【0015】
また、第3の発明(請求項3記載の発明)は、上記第1又は2の発明において、前記木材の表面は、前記木材圧縮工程において圧縮圧力が加圧される木材の被圧縮面側が板目面であるとともに、前記ブランク圧縮工程において圧縮圧力が加圧されるブランクの被圧縮面側が板目面であるように予め木取りされてなり、この予め木取りされた木材を前記木材軟化工程において軟化させることを特徴とするものである。
【0016】
被圧縮面側が柾目面の場合には、年輪の接線方向に押圧することから、早材部と晩材部の密度差により年輪界に剥離が生じやすくなるところ、この第3の発明では、前記木材の表面は、前記木材圧縮工程において圧縮圧力が加圧される木材の被圧縮面側が板目面であるとともに、前記ブランク圧縮工程において圧縮圧力が加圧されるブランクの被圧縮面側が板目面であるように予め木取りされてなり、前記ブランク圧縮工程においてブランクに加圧される圧縮圧力は、被圧縮面の板目面に対して面直角(木材の年輪の半径方向)に作用し、年輪を構成する硬質な晩材部と軟質な早材部とを交互に挟むように平面的に押圧することから、該ブランク圧縮工程においてブランクを圧縮加工する圧縮圧力により木材成形品の角部や木口部等にクラック等が生じることを一層防止することができる。
【0017】
また、第4の発明(請求項4記載の発明)は、上記第1,2又は3の発明において、前記木材圧縮工程の後には木材形状維持工程を行い、この木材形状維持工程においては、前記木材圧縮工程における密閉空間を開放するとともに、該木材圧縮工程において前記第1の金型により所定の厚みに圧縮された木材の圧縮状態位置を所定時間保持したまま冷却させることを特徴とするものである。
【0018】
この第4の発明では、前記木材形状維持工程において、前記木材圧縮工程における密閉空間を開放するとともに、該木材圧縮工程において前記第1の金型により所定の厚みに圧縮された木材の圧縮状態位置を所定時間保持したまま冷却させることから、前記木材圧縮工程において得られた木材の形状を維持することができる。すなわち、前記木材圧縮工程において、軟化された木材を水蒸気により加熱された状態のまま第1の金型により圧縮加工することにより、木質繊維内の空隙が縮小して圧縮された木材は、前記第1の金型から取り出すと圧縮前の形状に回復しようとするが、所定の厚みに圧縮された木材の圧縮状態位置を所定時間保持したまま冷却することにより、この木材形状維持工程を経ていない木材よりも圧縮後の形状を維持することができる。なお、冷却手段としては、水冷の場合には、圧縮加工された木材に多量の水分を含ませることとなり、前記第1の金型から取り出した後において形状が回復しやすいことから、変形が回復しにくい空冷による冷却が好ましい。
【0019】
また、第5の発明(請求項5記載の発明)は、上記第1,2,3又は4の発明において、前記ブランク軟化工程の前には減圧工程を行い、この減圧工程においては、前記ブランク製造工程により得たブランクを密閉空間に配置するとともに、該密閉空間の雰囲気圧力を大気圧よりも減圧した後、前記ブランク軟化工程において減圧を解除して前記ブランクを軟化させることを特徴とするものである。
【0020】
この第5の発明では、前記減圧工程においては、前記ブランク製造工程により得たブランクを密閉空間に配置するとともに、該密閉空間の雰囲気圧力を大気圧よりも減圧した後、前記ブランク軟化工程において減圧を解除して前記ブランクを軟化させることから、該ブランク軟化工程における前記ブランクの軟化がより一層均一かつ確実になされる。すなわち、前記減圧工程において減圧されることにより前記密閉空間及びブランク内部の空気が排出された後に、前記ブランク軟化工程において減圧を解除し水蒸気により所定温度で所定時間加熱して軟化させるので、前記ブランク内部への水分吸収と加熱とが促進され、軟化が均一かつ確実になされるとともに迅速になされる。なお、この減圧工程における密閉空間の雰囲気温度は100〜140℃、雰囲気圧力は、0.05MPa以下まで減圧することが好ましい。
【0021】
また、第6の発明(請求項6記載の発明)は、上記第1,2,3,4又は5記載の発明において、前記木材成形品及びブランクは、平板部とこの平板部の外周から起立した起立板部とを有してなるとともに、前記木材圧縮工程において用いられる第1の金型は、前記木材軟化工程により軟化された木材が載置される固定型と、この固定型に接近及び離間する移動型とを備えてなり、前記ブランク製造工程においては、上記第1の金型により圧縮された木材の移動型側において上記起立板部を切削加工し、固定型側において平板部を切削加工することにより、上記ブランクを得ることを特徴とするものである。
【0022】
この第6の発明では、前記ブランク製造工程においては、圧縮された木材を平板部とこの平板部の外周から起立した起立板部とを有するブランクに切削する際には、平板部よりも起立板部のほうが切削工具の切削抵抗によりクラックや欠け等が発生しやすいところ、上記第1の金型により圧縮された木材の移動型側において上記起立板部を切削加工し、固定型側において上記平板部を切削加工することにより、上記ブランクを得ることから、上記第1の金型により圧縮された木材の圧縮密度は、移動型側が密になって圧縮強さが高いので、切削加工の際にブランクにクラックや欠け等が発生することをさらに防止することができる。
【発明の効果】
【0023】
上記第1の発明(請求項1記載の発明)に係る木材成形品の加工方法では、ブランクを製造する前になされる木材軟化工程及び木材圧縮工程を経ることから、ブランクを製造する際におけるクラック等の発生を防止できるとともに、製造したブランクから最終製品である木材成形品を得る際に経る上記工程により、該木材成形品にクラック等が発生することを防止できるため、製品の歩留りを向上させることができ、その結果、製造コストの低減を図ることができる。特に、本発明によれば、トレイや皿などのような単純な木材成形品のみならず、例えば携帯通信端末や携帯電子機器の筐体のように、形状が複雑なものや直角部又は直角に近い角部を有する木材成形品であっても、歩留り良く成形することができる。
【0024】
また、第2の発明(請求項2記載の発明)では、前記木材は、前記木材圧縮工程を経た際の圧縮方向における厚みが、前記ブランク製造工程で所定形状のブランクを成形するのに必要最小限の厚みに予め形成されてなり、こうした必要最小限度の厚みとされた木材について前記木材軟化工程及び木材圧縮工程の各工程を経ることから、以下の効果を奏する。
(1)上記木材軟化工程により、所定形状のブランクを成形するのに必要最小限の厚みに予め形成し、その後に上記木材軟化工程を経ることにより、樹脂成分の分布の偏り(偏在化)を回避することができ、この樹脂成分による(最終製品である)木材成形品の表面の色合いも均一化することが可能となることから、品質の向上を図ることができる。
(2)木材軟化工程に要する装置の大型化を回避することができることから、製造コストの低減を図ることができる。
(3)木材軟化工程に要する時間を短縮化することができることから、製造コストの低減を図ることができる。
【0025】
また、第3の発明(請求項3記載の発明)では、前記木材の表面は、前記木材圧縮工程において圧縮圧力が加圧される木材の被圧縮面側が板目面であるとともに、前記ブランク圧縮工程において圧縮圧力が加圧されるブランクの被圧縮面側が板目面であるように予め木取りされてなり、前記ブランク圧縮工程においてブランクに加圧される圧縮圧力は、被圧縮面の板目面に対して面直角(木材の年輪の半径方向)に作用し、年輪を構成する硬質な晩材部と軟質な早材部とを交互に挟むように平面的に押圧することから、該ブランク圧縮工程においてブランクを圧縮加工する圧縮圧力により木材成形品の角部や木口部等にクラック等が生じることを一層防止することができる。
【0026】
また、第4の発明(請求項4記載の発明)では、前記木材形状維持工程において、前記木材圧縮工程における密閉空間を開放するとともに、該木材圧縮工程において前記第1の金型により所定の厚みに圧縮された木材の圧縮状態位置を所定時間保持したまま冷却させることから、前記木材圧縮工程において得られた木材の形状を維持することができ、前記第1の金型から取り出した後において所定の厚みに圧縮された木材の形状が回復することを抑止することができる。
【0027】
また、第5の発明(請求項5記載の発明)では、前記減圧工程においては、前記ブランク製造工程により得たブランクを密閉空間に配置するとともに、該密閉空間の雰囲気圧力を大気圧よりも減圧した後、前記ブランク軟化工程において減圧を解除して前記ブランクを軟化させることから、該ブランク軟化工程における前記ブランクの軟化がより一層均一かつ確実になされ、前記ブランク圧縮工程においてブランクにクラック等が発生することを防止するとともに、表面に表れる変色、つや等の程度も均一なものとすることができる。
【0028】
また、第6の発明(請求項6記載の発明)では、前記ブランク製造工程においては、上記第1の金型により圧縮された木材の移動型側において上記起立板部を切削加工し、固定型側において上記平板部を切削加工することにより、上記ブランクを得ることから、上記第1の金型により圧縮された木材の圧縮密度は、移動型側が密になって圧縮強さが高いので、切削加工の際にブランクにクラックや欠け等が発生することをさらに防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施の形態の木材成形品の加工方法により加工された木材成形品(筐体)を示し、(a)は内面側、(b)は外面側を示す斜視図である。
【図2】本実施の形態のブランク製造工程により加工された切削ブランクを示し、(a)は内面側、(b)は外面側を示す斜視図である。
【図3】本実施の形態の加工工程を示し、(a)及び(b)は製材工程、(c)は第1の金型予熱工程、(d)は木材軟化工程を示す模式図である。
【図4】本実施の形態の加工工程を示し、(a)は木材圧縮工程及び木材形状維持工程、(b)は木材乾燥工程、(c)及び(d)はブランク製造工程を示す模式図である。
【図5】本実施の形態の加工工程を示し、(a)は第2の金型予熱工程、(b)は減圧工程及びブランク軟化工程、(c)はブランク圧縮工程及び成形品形状保持工程を示す模式図である。
【図6】本実施の形態の加工工程を示し、成形品冷却工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための木材成形品の加工方法に係る最良の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0031】
先ず、本実施の形態の木材成形品の加工方法により加工される最終製品の木材成形品11について説明する。この木材成形品11は木材を素材とし、携帯電話の操作部を覆う筐体として使用されるものであって、図1に示すように、概ね四角形状に囲まれた側板部(本発明を構成する起立板部)11a,11b,11c,11dと、これら側板部11a,11b,11c,11dに連なる操作板部(本発明を構成する平板部)11eとを有し、前記側板部11a,11b,11c,11dの各端面11g,11h,11i,11jが開口された有底凹状に形成されている。また、木材成形品11の操作板部11eには、携帯電話の各機能を操作するための各種ボタン類やモニタ部を露出するために本実施の形態の後の別工程により加工される複数の開口窓(符号は省略する)の輪郭形状がそれぞれ形成されている。また、木材成形品11の各表面に表れる木目は、側板部11a,11bには柾目面が表れ、操作板部11eには板目面が表れるように木取りされている。
【0032】
この最終製品である木材成形品11の製造は、後述するブランク圧縮工程K(図5(c)参照)において軟化ブランク8を圧縮加工して圧縮成形品9を成形し、この圧縮成形品9が後述する成形品形状保持工程(本発明を構成する形状保持工程)L及び成形品冷却工程Mを経て得られたものである。また、前記軟化ブランク8の製造は、後述するブランク製造工程G(図4(c)参照)において切削加工により切削ブランク6(図4(d)参照)を形成し、この切削ブランク6が後述する減圧工程I及びブランク軟化工程Jを経て得られたものである。この切削ブランク6の外形は、図2に示すように、その後のブランク圧縮工程Kにより圧縮加工するための圧縮加工代が見込まれた圧縮成形品9と略相似形状であって、周囲に側板部(本発明を構成する起立板部)6a,6b,6c,6dと、これら側板部6a,6b,6c,6dに連なる操作板部(本発明を構成する平板部)6eとを有し、前記側板部6a,6b,6c,6dの各端面6g,6h,6i,6jが開口された有底凹状に形成されている。
【0033】
また、この切削ブランク6の製造は、後述する木材圧縮工程D(図4(a)参照)において軟化木材2を圧縮加工して圧縮木材3を形成し、この圧縮木材3が後述する木材形状維持工程E及び木材乾燥工程Fを経て得られたものであり、この圧縮木材3の外形は、その後のブランク製造工程Gにより切削加工するための切削加工代が見込まれた直方体である。また、前記軟化木材2の製造は、後述する製材工程A(図3(a),(b)参照)において原木Wを製材して木素材1を形成し、この木素材1が後述する木材軟化工程Cを経て得られたものであり、この木素材1の外形は、その後の木材圧縮工程Dにより圧縮加工するための圧縮加工代が見込まれた直方体である。
【0034】
次に、木材成形品の加工方法を実施するための各装置について説明する。この木材成形品の加工方法を実施するための装置としては、後述する各工程において木質を改善するとともに、第1の金型30又は第2の金型50との協動により軟化木材2又は軟化ブランク8を圧縮加工する圧力容器20(図3(c)参照)と、後述する木材圧縮工程Dにおいて軟化木材2を圧縮加工する第1の金型30(図3(c)参照)と、後述するブランク製造工程Gにおいて乾燥木材5を切削加工する木工用NCルータ40(図4(c)参照)と、後述するブランク圧縮工程Kにおいて軟化ブランク8を圧縮加工する第2の金型50(図5(a)参照)とが備えられている。
【0035】
まず、圧力容器20は、図3(c)に示すように、円筒状の耐圧壁21の一端側に図示しない開閉扉を有し、該開閉扉の密閉状態により密閉空間25が得られ、該密閉空間25内には、外部に設置された図示しないボイラにより少なくとも0.120MPa以上の飽和水蒸気を供給することができる。また、密閉空間25内を減圧する場合には、外部に設置された図示しない真空ポンプにより少なくとも0.05MPa以下の負圧に真空引きすることができる。この圧力容器20内には、後述する第1の金型30又は第2の金型50を載置する載置台22が底部に固定され、この載置台22と対向する上部には、耐圧壁21の外側に立設された直進油圧アクチュエータである油圧シリンダ(図示は省略)の進退可能なロッド23が、耐圧壁21を貫通して該耐圧壁の内側へ機密保持可能に挿通され、このロッド23の下端には、後述する第1の金型30の押圧型32(本発明を構成する移動型)を固定するための押圧部材24が固定されている。
【0036】
また、軟化木材2を圧縮加工する第1の金型30は、図3(c)に示すように、前記軟化木材2よりやや大き目の空間を有する上端開口の箱型(本発明を構成する固定型)31と、前記圧力容器20内の押圧部材24に固定され前記箱型31内に挿入された前記軟化木材2を押圧して圧縮加工する(図4(a)参照)ための押圧型(本発明を構成する移動型)32とから構成されてなり、図4(a)に示す木材圧縮工程Dにおいて圧縮木材3を圧縮加工するためのものである。また、乾燥木材5を切削加工する木工用NCルータ40は、図4(c)に示すように、床面に据え付けられた据付台41と、図示しない加工治具が上面に取り付けられ前記据付台41上で進退移動可能なテーブル42と、このテーブル42を跨ぐように配置されたコラム43と、このコラム43の上部側面に配置され前記テーブル42と直行する方向に進退移動可能な主軸頭43と、この主軸頭43に上下移動かつ回転可能に配置され加工刃具である切削工具45を着脱可能なスピンドル44とから構成され、切削工具45を回転させるとともに数値制御により三次元動作させて、前記加工治具に装着された乾燥木材5を切削加工するものである。
【0037】
また、軟化ブランク8を圧縮加工する第2の金型50は、図5(a)に示すように、下金型51と、上金型52と、下金型51に圧入されるとともに上金型52に挿通され該上金型52を上下動自在に案内するガイドポスト53,53とから構成されている。一方の下金型51の上面側には、図1(a)に示す最終製品の木材成形品11の側板部11a,11b,11c,11dと、操作板部11eとの各内面側形状を成形するための内面側成形面51aが形成され、他方の上金型52の下面側には、図1(b)に示す木材成形品11の側板部11a,11b,11c,11dと、操作板部11eとの各外面側形状を成形するための外面側成形面52aが形成され、図5(c)に示すブランク圧縮工程Kにおいて圧縮成形品9を圧縮加工するものである。なお、この第2の金型50には、図5(c)に示す圧縮状態から押圧型32を上昇させても、下金型51と上金型52との間の圧縮状態を維持する図示しない圧縮状態維持機構が配置され、図6に示すように圧力容器20外に取り出しても圧縮状態が維持される構成になっている。
【0038】
次に、上記木素材1を用いて最終製品の木材成形品11を製造するための木材成形品の加工方法について説明する。まず、図3(a),(b)に示す製材工程Aは、その後の木材圧縮工程Dにおいて圧縮木材3を圧縮加工する素材である直方体の木素材1を製材する工程であって、この木素材1は、原木Wから図示しない製材機により製材される。この木素材1の大きさは、その後の木材圧縮工程D(図4(a)参照)を経た圧縮木材3の圧縮方向における厚みが、その後のブランク製造工程G(図4(a)参照)で所定形状の切削ブランク6を成形するのに必要最小限の厚みに製材する。したがって、この木素材1を製材するための原木Wの直径は、少なくとも木素材1の断面形状が得られる直径であればよいが、複数の木素材1が製材できる大径の場合には、例えば、図3(a)に示すように、原木Wの断面の中心部Waと、この中心部Waを挟んだ偏心部Wb,Wc,Wd,Weとに製材することができる。
【0039】
なお、原木Wの中心部Waから製材された木素材1の場合は、木口を除く各側面1a,1b,1c,1dが、最終製品である木材成形品11の操作板部11e(図1参照)に良好な木目が得られる木裏側であるとともに、原木Wの中心から略等距離に位置するため、その後の木材圧縮工程D、ブランク製造工程Gにおける加工方向に留意する必要はないが、偏心部Wb,Wc,Wd,Weから製材された木素材1の場合は、原木Wの中心に近い木裏側の側面(符号は省略する)が木材成形品11の操作板部11eを形成すべく、その後の木材圧縮工程D、ブランク製造工程Gにおける加工方向に留意することが好ましい。また、木材圧縮工程Dにおいて圧縮加工される軟化木材2は、図3(d)に示す第1の金型30の押圧型32が当接する上方が急激に圧縮され、下方が緩やかに圧縮されることから、木材成形品11の操作板部11eを形成する予定の木裏側を下方にして圧縮加工することが好ましい。また、その後の木材圧縮工程D及びブランク圧縮工程K(図5(c)参照)においては、最終製品の木材成形品11にクラック等が生じることを防止すべく、被圧縮面側が板目面であるように留意することが好ましい。
【0040】
次の図3(c)に示す第1の金型予熱工程Bは、その後の木材軟化工程C(図3(d)参照)により木素材1を軟化処理するための予熱工程であって、圧力容器20内の載置台22に第1の金型30の箱型31を載置するとともに、ロッド23に固定された押圧部材24に押圧型32を固定した後、圧力容器20の開閉扉を密閉した状態において、この圧力容器20の密閉空間25内に図示しないボイラから飽和水蒸気を供給して140〜180℃に加熱する工程である。この加熱により、圧力容器20とともに第1の金型30も予熱されるので、次の木材軟化工程Cにおいて木素材1を迅速かつ均一に軟化することができる。
【0041】
次の図3(d)に示す木材軟化工程Cは、先の製材工程Aにおいて予め得られた木素材1の木質を改善するための軟化工程であって、前の第1の金型予熱工程Bにおいて予熱された第1の金型30の箱型31内に前記木素材1を挿入した後(、押圧型32は木素材1に当接させずに)、圧力容器20の開閉扉を密閉した状態において、この圧力容器20の密閉空間25内に図示しないボイラから温度が110〜140℃、圧力が0.143〜0.362MPaの飽和水蒸気を供給し、この飽和水蒸気の雰囲気中において木素材1を1〜30分間加熱して、加熱と吸水による軟化処理がなされた軟化木材2(形状は木素材1と同一)を得る工程である。なお、その後の木材圧縮工程D(図4(a)参照)、ブランク圧縮工程K(図5(c)参照)における被圧縮面が柾目面であると、年輪の接線方向に圧縮圧力が加圧され早材部と晩材部の密度差により年輪界に剥離が生じやすくなることから、前記箱型31内における木素材1の上下に位置する側面(その後の木材圧縮工程Dにおいて圧縮加工される際の被圧縮面)を板目面とすべく、木素材1の板目面を上下にして前記箱型31に挿入することが好ましい。特に、前記木素材1が、図3(a)に示す原木Wの中心部Wa以外の偏心部Wb,Wc,Wd,Weから製材された場合には、原木Wの半径方向が板目面であることから、この板目面を上下にして前記箱型31に挿入することが好ましい。
【0042】
次の図4(a)に示す木材圧縮工程Dは、前の木材軟化工程Cにおいて軟化処理がなされた軟化木材2を圧縮加工する工程であって、圧力容器20内を前の木材軟化工程Cのままである温度が110〜140℃、圧力が0.143〜0.362MPaの飽和水蒸気の雰囲気に維持し、この雰囲気中の第1の金型30内の軟化木材2に対して、図示しない油圧シリンダの作動によりロッド23を下降させ、押圧部材24を介して押圧型32により軟化木材2を押圧して圧縮加工し、前の木材軟化工程Cで得られた軟化木材2に対して圧縮強さが高められた圧縮木材3を得る工程である。この工程における圧縮率={(圧縮前厚み−圧縮後厚み)/圧縮前厚み}×100は、20〜50%まで圧縮させるものであって、例えば、圧縮前の厚みが45mmの軟化木材2に対し圧縮率30%の圧縮加工をする場合には、圧縮される厚みが13.5mmであり、圧縮加工された後に残る圧縮木材3の厚みが31.5mmである。また、第1の金型30内の軟化木材2は、その上下面が板目面であるように前の木材軟化工程Cにおいて挿入されてなり、この木材圧縮工程Dにおいて軟化木材2に加圧される圧縮圧力は、被圧縮面の板目面に対して面直角(木材の年輪の半径方向)に作用し、年輪を構成する硬質な晩材部と軟質な早材部とを交互に挟むように平面的に押圧することから、年輪の半径方向に靱性及び高密度特性が高められ、その後のブランク製造工程G及びブランク圧縮工程Kにおいて圧縮圧力により亀裂等が生じることを防止できる。なお、この木材圧縮工程Dにより圧縮加工された圧縮木材3の密度特性は、第1の金型30の箱型(本発明を構成する固定型)31の底面側よりも、押圧型32(本発明を構成する移動型)側のほうが密に加工される。
【0043】
次の図4(a)に示す木材形状維持工程Eは、前の木材圧縮工程Dにおいて圧縮加工された圧縮木材3の形状を維持させる工程であって、前の木材圧縮工程Dにおいて圧力容器20内に供給していた飽和水蒸気を停止し、該圧力容器20の密閉扉を開放して密閉空間25を開放するとともに、前の木材圧縮工程Dにおいて前記第1の金型30により所定の厚みに圧縮加工された圧縮木材3の圧縮状態位置を保持したまま、該圧縮木材3が常温になるまで冷却し、前の木材圧縮工程Dにおいて圧縮加工された圧縮木材3の形状を維持させた形状維持木材4(形状は圧縮木材3と同一)を得る工程である。この形状維持処理により、前の木材圧縮工程Dにおいて圧縮加工された圧縮木材3を前記第1の金型30から取り出しても、圧縮加工前の形状に回復しない形状維持木材4を得ることができる。なお、この木材形状維持工程Eにおける冷却手段は、圧縮加工された圧縮木材3に多量の水分を含ませる水冷の場合には、圧縮加工前の形状に回復しやすいことから、形状の維持特性が高い空冷が好ましい。
【0044】
次の図4(b)に示す木材乾燥工程Fは、前の木材形状維持工程Eにおいて得られた形状維持木材4を乾燥する工程であって、前の木材形状維持工程Eにおいて得られた形状維持木材4を前記第1の金型30から取り出し、図示しない木材乾燥機内において含水率が5〜15%になるまで乾燥させた乾燥木材5(形状は形状維持木材4と同一)を得る工程である。この乾燥処理により、その後のブランク製造工程G(図4(c),(d)参照)における切削性が高められ、切削加工された切削ブランク6にクラックや欠け等が発生することを防止できる。
【0045】
次の図4(c),(d)に示すブランク製造工程Gは、前の木材乾燥工程Fにおいて乾燥処理された乾燥木材5を切削加工する工程であって、前の木材乾燥工程Fにおいて乾燥処理された乾燥木材5を、木工用NCルータ40のテーブル42に配置された図示しない加工治具に装着し、この乾燥木材5に対して切削工具45を回転させるとともに数値制御により三次元動作させて切削ブランク6を切削加工する工程である。このブランク製造工程Gでは数値制御により三次元加工されるので直角部を有する切削ブランク6を、その後のブランク圧縮工程K(図5(c)参照)により加工される圧縮成形品9と略相似形状に形成することができる。この切削ブランク6の外形は、その後のブランク圧縮工程Kにより圧縮成形品9に圧縮加工するための圧縮加工代が見込まれてなり、図2に示すように、周囲に側板部6a,6b,6c,6dと、これら側板部6a,6b,6c,6dに連なる操作板部6eとを有し、前記側板部6a,6b,6c,6dの各端面6g,6h,6i,6jが開口された有底凹状に形成されている。また、このブランク製造工程Gにより切削加工された切削ブランク6の操作板部6eや端面6g,6h,6i,6jには、先の木材圧縮工程D(図4(a)参照)において圧縮加工された被圧縮面が板目面であるため、図2に示すような板目面が形成される。また、このブランク製造工程Gにおいては、乾燥処理された乾燥木材5を起立する側板部6a,6b,6c,6dと平板状の操作板部6eとを有する切削ブランク6に切削する際には、操作板部6eよりも側板部6a,6b,6c,6dのほうが切削工具の切削抵抗によりクラックや欠け等が発生しやすいが、先の木材圧縮工程Dにより第1の金型30の押圧型32側により圧縮加工された圧縮密度の密な部位により前記側板部6a,6b,6c,6dを切削加工することにより、切削工具の切削抵抗によるクラックや欠け等の発生を防止することができる。なお、その後のブランク圧縮工程K(図5(c)参照)において目的形状の圧縮成形品9に形成される木目模様の美観は、図3(a)に示す原木Wの表皮側の木表側よりも中心側の木裏側のほうが良好であることから、このブランク製造工程Gで加工される切削ブランク6は、その操作板部6eを木裏側により形成するように切削加工することが好ましい。
【0046】
次の図5(a)に示す第2の金型予熱工程Hは、その後の減圧工程I(図5(b)参照)により切削ブランク6を減圧処理し、ブランク軟化工程J(図5(b)参照)により減圧ブランク7を軟化処理するための予熱工程であって、圧力容器20内の載置台22に下金型51及び上金型52を含む第2の金型50を載置するとともに、押圧部材24に押圧型32を固定した後、圧力容器20の開閉扉を密閉した状態において、この圧力容器20の密閉空間25内に図示しないボイラから飽和水蒸気を供給して140〜180℃に加熱する工程である。この加熱により、圧力容器20とともに第2の金型50も予熱されるので、その後のブランク軟化工程Jにおいて減圧ブランク7を迅速かつ均一に軟化することができる。
【0047】
次の図5(b)に示す減圧工程Iは、先のブランク製造工程G(図4(c),(d)参照)において得られた切削ブランク6内を減圧するための工程であって、前の第2の金型予熱工程Hにおいて予熱された第2の金型50の下金型51上に前記切削ブランク6を装着した後(、上金型52は切削ブランク6に当接させずに)、圧力容器20の開閉扉を密閉した状態において、この圧力容器20内の密閉空間25の圧力を図示しない真空ポンプにより0.05MPa以下まで減圧し、その後のブランク軟化工程J(図5(b)参照)における軟化を均一かつ確実にするための減圧ブランク7(形状は切削ブランク6と同一)を得る工程である。この減圧工程Iにおいて減圧されることにより、前記切削ブランク6の内部の空気が排出された後に、その後のブランク軟化工程Jにおいて減圧を解除し飽和水蒸気により加熱して減圧ブランク7を軟化させるので、減圧ブランク7内部への水分吸収と加熱とが促進され、軟化が均一かつ確実になされるとともに迅速になされる。なお、この減圧工程Iにおいては、前の第2の金型予熱工程H(図5(a)参照)における圧力容器20及び第2の金型50の予熱温度140〜180℃に対して、第2の金型50は110〜150℃を維持することが好ましい。
【0048】
次の図5(b)に示すブランク軟化工程Jは、前の減圧工程Iにおいて得られた減圧ブランク7を軟化処理するための工程であって、圧力容器20の開閉扉を前の減圧工程Iのままの密閉した状態において図示しない真空ポンプを停止して真空引きを解除し、この圧力容器20の密閉空間25内に図示しないボイラから温度が110〜140℃、圧力が0.143〜0.362MPaの飽和水蒸気を供給し、この飽和水蒸気雰囲気中において減圧ブランク7を1〜10分間加熱して、加熱と吸水による軟化処理がなされた軟化ブランク8(形状は減圧ブランク7と同一)を得る工程である。このブランク軟化工程Jにおける軟化により靱性が高められていることから、次のブランク圧縮工程K(図5(c)参照)において圧縮成形品9に圧縮加工する際の圧縮圧力により該圧縮成形品9の角部や木口部等にクラックや欠け等が生じることを防止することができる。
【0049】
次の図5(c)に示すブランク圧縮工程Kは、前のブランク軟化工程Jにおいて軟化処理された軟化ブランク8を圧縮加工する工程であって、圧力容器20内を前のブランク軟化工程Jのままの温度が110〜140℃、圧力が0.143〜0.362MPaの飽和水蒸気の雰囲気に維持し、この雰囲気中の第2の金型50の下金型51上に装着された軟化ブランク8に対して、図示しない油圧シリンダの作動によりロッド23を下降させ、押圧部材24を介して押圧型32により上金型52を押圧し、該上金型52と下金型51とにより軟化ブランク8を圧縮加工し、目的形状の圧縮成形品9を得る工程である。この工程における圧縮率={(圧縮板厚−圧縮後板厚)/圧縮前板厚}×100は、50〜90%まで圧縮させるものであって、例えば、圧縮前の板厚が5mmの軟化ブランク8に対し圧縮率70%の圧縮加工をする場合には、圧縮される板厚が3.5mmであり、圧縮加工された後に残る圧縮成形品9の板厚が1.5mmである。この圧縮成形品9の外形は、その後の成形品形状保持工程L(図5(c)参照)、成形品冷却工程M(図6参照)を経て得られる図1に示す最終製品の木材成形品11と同一の形状である。このブランク圧縮工程Kにより圧縮加工される軟化ブランク8は、先のブランク製造工程G(図4(c),(d)参照)により切削加工された切削ブランク6の操作板部6eや端面6g,6h,6i,6j(このブランク圧縮工程Kにおける被圧縮面)が板目面であることから、このブランク圧縮工程Kにおいて圧縮成形品9に圧縮加工する際の圧縮圧力により角部や木口部等にクラックや欠け等が生じることを防止することができる。
【0050】
次の図5(c)に示す成形品形状保持工程Lは、前のブランク圧縮工程Kにおいて圧縮加工された圧縮成形品9を形状保持する工程であって、圧力容器20内を前のブランク圧縮工程Kのままの密閉空間25に維持するとともに、前のブランク圧縮工程Kにおいて前記第2の金型50により所定の厚みに圧縮加工された圧縮成形品9の圧縮状態位置を保持したままの状態において、この圧力容器20の密閉空間25内に図示しないボイラから温度が前記ブランク圧縮工程Kよりも高温の180〜220℃、圧力が前記ブランク圧縮工程Kよりも高圧の1.002〜2.319MPaの飽和水蒸気を供給して、この飽和水蒸気雰囲気中において圧縮成形品9を10〜30分間保持し、前のブランク圧縮工程Kにおいて圧縮加工された圧縮成形品9の形状を保持させた形状保持成形品10(形状は圧縮成形品9と同一)を得る工程である。この成形品形状保持工程Lにおいては、前のブランク圧縮工程Kよりも高温・高圧の飽和水蒸気を供給して保持することから、該ブランク圧縮工程Kにおいて圧縮加工された圧縮成形品9の保持を図ることができる。すなわち、この成形品形状保持工程Lを経ない場合には、再び水や熱と接触することによりブランク圧縮工程Kにより圧縮加工された圧縮成形品9の形状を維持することができない。また、この成形品形状保持工程Lを経ることにより、色合いがブランク圧縮工程Kの段階よりも美麗に発色される。
【0051】
次の図6に示す成形品冷却工程Mは、前の成形品形状保持工程Lにおいて形状保持された形状保持成形品10を冷却する工程であって、前の成形品形状保持工程Lにおいて圧力容器20内に供給されていた飽和水蒸気を遮断するとともに、図5(c)に示す圧力容器20の押圧型32を上昇させた後、前記第2の金型50及び該第2の金型50に装着された形状保持成形品10を圧力容器20外に取り出し(この第2の金型50内の形状保持成形品10は、図示しない圧縮状態維持機構により圧縮状態が維持されている)、形状保持成形品10を常温まで冷却させて木材成形品11(図1参照)を得る工程である。この木材成形品11は、図1に示すように、概ね四角形状に囲まれた側板部11a,11b,11c,11dと、これら側板部11a,11b,11c,11dに連なる操作板部11eとを有し、前記側板部11a,11b,11c,11dの各端面11g,11h,11i,11jが開口された有底凹状に形成されている。なお、この成形品冷却工程Mにおける冷却手段は、形状保持された形状保持成形品10に多量の水分を含ませる水冷よりも、形状の保持特性が高い空冷が好ましい。
【0052】
なお、本発明に係る木材成形品の加工方法により木材成形品11を加工するための木素材1の大きさは、前記製材工程A(図3(a)参照)において、前記木材圧縮工程D(図4(a)参照)を経た圧縮木材3の圧縮方向における厚みが、前記ブランク製造工程G(図4(a)参照)で所定形状の切削ブランク6を成形するのに必要最小限の厚みに製材されてなることから、所定形状の切削ブランク6を成形するのに必要な大きさよりも相当大きな木材から加工する場合に比べて、前記木材軟化工程C、ブランク軟化工程J等の木質を改善する各工程において木材に吸水される水蒸気が偏ることなくほぼ均一に吸収されるため、樹脂成分の分布が水蒸気により平均的に改善され、最終製品である木材成形品11の変色の程度を均一なものとすることができる。また、本発明に係る木材成形品の加工方法では、従来のように所定形状の切削ブランク6を成形するのに必要な大きさよりも相当大きな木材により木材軟化工程Cや木材圧縮工程Dを経た後に所定形状の切削ブランク6を成形するのに必要な厚みにスライスするのではなく、これらの工程を経る前に必要最小限の厚みに製材された単一の木素材1に対して加工されることから、木材軟化工程C、ブランク軟化工程J等により得られる軟化特性が単一の木材についてほぼ均一になされるとともに、木材相互の間についてもほぼ均一になされる。
【0053】
また、図1に示す木材成形品11の形状は、本実施の形態の木材成形品の加工方法により加工される最終形状であって、操作板部11eの外面側から内面側に窪んで形成された携帯電話の各機能を操作するための各種ボタン類やモニタ部を露出するための開口窓が形成される各部分(符号は省略する)は、本実施の形態とは別の加工工程により各開口窓を開口する加工がなされるものである。
【符号の説明】
【0054】
1 木素材
2 軟化木材
3 圧縮木材
4 形状維持木材
5 乾燥木材
6 切削ブランク
7 減圧ブランク
8 軟化ブランク
9 圧縮成形品
10 形状保持成形品
11 木材成形品
20 圧力容器
25 密閉空間
30 第1の金型
40 木工用NCルータ
50 第2の金型
W 原木

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材成形品の素材となる木材を、密閉空間において水蒸気により所定温度で所定時間加熱して該木材を軟化させる木材軟化工程と、
この軟化された木材を、上記水蒸気により加熱された状態のまま第1の金型により所定の厚みに圧縮加工する木材圧縮工程と、
この木材圧縮工程を経た木材を、上記密閉空間から取り出し、この木材を切削加工することにより所定形状のブランクを得るブランク製造工程と、
このブランク製造工程により得たブランクを、密閉空間において水蒸気により所定温度で所定時間加熱して軟化させるブランク軟化工程と、
このブランク軟化工程により軟化されたブランクを、上記水蒸気により加熱された状態のまま第2の金型により圧縮加工して目的形状の木材成形品に成形するブランク圧縮工程と、
このブランク圧縮工程に次いで、上記第2の金型の圧縮状態位置のまま上記ブランク圧縮工程における温度よりも上昇させて所定時間保持する形状保持工程と、
を含んでなることを特徴とする木材成形品の加工方法。
【請求項2】
前記木材は、前記木材圧縮工程を経た際の圧縮方向における厚みが、前記ブランク製造工程で所定形状のブランクを成形するのに必要最小限の厚みに予め形成されてなり、この予め形成された木材を前記木材軟化工程において軟化させることを特徴とする請求項1記載の木材成形品の加工方法。
【請求項3】
前記木材の表面は、前記木材圧縮工程において圧縮圧力が加圧される木材の被圧縮面側が板目面であるとともに、前記ブランク圧縮工程において圧縮圧力が加圧されるブランクの被圧縮面側が板目面であるように予め木取りされてなり、この予め木取りされた木材を前記木材軟化工程において軟化させることを特徴とする請求項1又は2記載の何れかの木材成形品の加工方法。
【請求項4】
前記木材圧縮工程の後には木材形状維持工程を行い、この木材形状維持工程においては、前記木材圧縮工程における密閉空間を開放するとともに、該木材圧縮工程において前記第1の金型により所定の厚みに圧縮された木材の圧縮状態位置を所定時間保持したまま冷却させることを特徴とする請求項1,2又は3記載の何れかの木材成形品の加工方法。
【請求項5】
前記ブランク軟化工程の前には減圧工程を行い、この減圧工程においては、前記ブランク製造工程により得たブランクを密閉空間に配置するとともに、該密閉空間の雰囲気圧力を大気圧よりも減圧した後、前記ブランク軟化工程において減圧を解除して前記ブランクを軟化させることを特徴とする請求項1,2,3又は4記載の何れかの木材成形品の加工方法。
【請求項6】
前記木材成形品及びブランクは、平板部とこの平板部の外周から起立した起立板部とを有してなるとともに、
前記木材圧縮工程において用いられる第1の金型は、前記木材軟化工程により軟化された木材が載置される固定型と、この固定型に接近及び離間する移動型とを備えてなり、
前記ブランク製造工程においては、上記第1の金型により圧縮された木材の移動型側において上記起立板部を切削加工し、固定型側において上記平板部を切削加工することにより、上記ブランクを得ることを特徴とする請求項1,2,3,4又は5記載の何れかの木材成形品の加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−214657(P2010−214657A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61764(P2009−61764)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(504294385)名古屋木材株式会社 (4)
【Fターム(参考)】