説明

木材防腐性能を有するオリゴマー

木材腐朽菌(例えば、褐色腐朽菌、白色腐朽菌)に有効で、水質汚濁防止法等に規定される特別な処置が不要で、かつ廃材処理時に汚染のない木材防腐剤を提供する。
フェノール類とスチレン類を酸触媒の存在下で反応させて得られるフェノール系オリゴマー又はインデン類、クマロン類及びスチレン類から選ばれる2種以上を主成分とする芳香族オレフィン類を酸触媒の存在下で反応させて得られる芳香族オレフィン系オリゴマーを木材腐朽菌の繁殖防止の有効成分として配合してなる木材防腐剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材腐朽菌の繁殖防止に有効な成分を含有する木材防腐剤に関する。
【背景技術】
【0002】
木材防腐剤、防黴剤の歴史は古く、下記特許文献1や2に示されているように各種の物が知られている。
【特許文献1】特開平8−25311号公報
【特許文献2】特開2002−205301号公報
【特許文献3】特開平3−197520号公報
【特許文献4】特公平6−8409号公報
【特許文献5】特開平10−235612号公報
【0003】
JP8−25311Aに示されているクレオソート油は、木材に対する浸透性、その物自体の耐候性や防腐性が良好である。しかしながら、臭気、皮膚刺激性等の問題があり、その用途が制限されつつある。JP2002−205301Aの従来技術の欄に記載されているCCA系木材防腐剤は、問題視される重金属が含まれており、廃木材の再使用が難しく、また焼却処理を行うと環境問題を引き起こす。
【0004】
これらは、主として加圧注入用木材防腐剤として使用されており、特にクレオソート油は、木材防腐性に優れていることや、加圧注入しやすく、更に設備を腐食させないなど使用が容易であることにより、海中杭、枕木などに好適なものとされている。しかしながら、上記理由により使用が制限されると、海中杭などの腐食性の厳しい環境下にある木材の防腐剤の代替がない、更に、このような海中杭には多量に間伐材が使用されているが、これらの有効利用が困難となるなどの問題がある。
【0005】
JP2002−205301Aには、p−クミルフェノールのような木材腐朽菌土壌細菌等に対し殺菌力を有する木材防腐剤と、アルキルアンモニウムのような褐色木材腐朽菌等に対し殺菌力を有する木材防腐剤とを含有する木材防腐用添加組成物を提案している。
【0006】
一方、JP3−197520Aにはクマロン・インデン樹脂が記載され、JP6−8409Bにはフェノール変性クマロン・インデン樹脂が記載され、JP10−235612Aにはフェノール性化合物が記載されているが、これらを木材腐朽菌の繁殖防止の有効成分とする試みについては記載されていない。しかしながら、JP2002−205301Aは、石油樹脂を防腐剤の固定化剤として配合することが、JP10−235612Aにはアラルキルフェノール等のポリアルキレンオキシドの付加物を非イオン性界面活性剤として使用して防腐剤を乳化させることが記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、木材防腐剤分野において、クレオソート油と代替可能な程度に、褐色腐朽菌、白色腐朽菌のような木材腐朽菌に対する良好な防腐効果があり、環境汚染の少ない木材防腐剤を提供することを目的とする。また、本発明は、褐色腐朽菌、白色腐朽菌のような木材腐朽菌に対する良好な防腐効果があり、人体や環境に害の少ない木材防腐剤用の添加剤を提供することである。他の目的は、塗布のみで木材防腐剤としての性能を発揮させるため、木材への浸透性が優れる木材防腐剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、a)フェノール類とアルケニル芳香族炭化水素を酸触媒の存在下で反応させて得られるフェノール系オリゴマー又はb)インデン類及びスチレン類を主成分とする芳香族炭化水素オレフィンと、フェノール類、ベンゾフラン類、チオフェン類及びベンゾチオフェン類から選ばれる含酸素又は硫黄化合物を酸触媒の存在下で反応させて得られる芳香族オレフィン系オリゴマーを、木材腐朽菌の繁殖防止の有効成分として配合してなる木材防腐剤である。
【0009】
フェノール系オリゴマーとしては、下記式(I)
(Ar1−R1−)mAr2−OH (I)
(式中、Ar1は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基を示し、R1は炭素数2〜5の脂肪族炭化水素基を示し、mは1〜4の数を示し、Ar2は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基を示す)で表される化合物を主成分とするものが好ましく例示される。また、芳香族オレフィン系オリゴマーとしては、クマロン樹脂又はインデン‐クマロン樹脂が好ましく例示される。
【0010】
また、本発明は、フェノール系オリゴマーと芳香族オレフィン系オリゴマーを併用する前記の木材防腐剤である。更に、本発明は、褐色腐朽菌及び白色腐朽菌以外の木材腐朽菌の繁殖防止に対して有効な成分を更に含む前記の木材防腐剤である。また、本発明は、前記のフェノール系オリゴマー又は芳香族オレフィン系オリゴマーからなる木材防腐剤用の添加剤、更には木材防腐性能を有するオリゴマーである。
更に、本発明は、木材腐朽菌の繁殖防止の有効成分となるオリゴマーを、芳香族炭化水素又は脂環式炭化水素を溶剤に溶解させた木材防腐剤、あるいは有機溶剤と界面活性剤を含む乳化液に溶解させた水溶性の木材防腐剤である。
【0011】
まず、本発明の木材防腐剤において、褐色腐朽菌、白色腐朽菌のような木材腐朽菌に対する良好な防腐効果があり、有効成分として配合されるフェノール系オリゴマー又は芳香族オレフィン系オリゴマーについて説明する。以下、上記フェノール系オリゴマー及び/又は芳香族オレフィン系オリゴマーを総称してオリゴマーともいう。
【0012】
フェノール系オリゴマーは、フェノール類とアルケニル芳香族炭化水素を酸触媒の存在下で反応させて得られるオリゴマーである。
【0013】
有利には、フェノール類と、フェノール類1モルに対し1〜10モル、好ましくは1〜5モル、より好ましくは1.1〜3モルのアルケニル芳香族炭化水素を酸触媒の存在下に反応させて得られる重量平均分子量が200〜1000のスチレン化フェノール類又はこれを主成分とするオリゴマーからなるものである。かかる反応で得られるオリゴマーの主成分は上記式(I )で表されるが、アルケニル芳香族炭化水素のホモオリゴマーが含まれてもよい。上記式(I)において、Ar1はC6〜C10の芳香族炭化水素基を示すが、好ましくはフェニル基又はメチル置換フェニル基であり、より好ましくはフェニル基である。mは1〜4であるが、立体障害によりmを3以上にすることは困難であること、mの数が増えてくると粘度が上昇して、木材中への浸透力が低下するため、平均(数平均)のmは1〜3、好ましくは1.1〜3、より好ましくは1.5〜2.5の範囲である。なお、式(I)において、mが1〜3である化合物のいずれかを単独で使用しても、これらの化合物の2以上の混合物で使用しても効果に大きな差はない。Ar2はC6〜C10の芳香族炭化水素基を示すが、好ましくはm+1価のベンゼン環又はメチル置換ベンゼン環であり、より好ましくはベンゼン環である。
【0014】
フェノール類としては、フェノール又はアルキルフェノールが例示される。アルキルフェノールとしては、炭素数1〜6の低級アルキル基が1〜3個置換したクレゾール、キシレノール、t-ブチルフェノール等が例示されるが、好ましくはフェノール又はクレゾールである。アルケニル芳香族炭化水素としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン等が例示されるが、好ましくはスチレンである。これらフェノール類及びアルケニル芳香族炭化水素原料は高純度品であってもよいが、これらを主として含む混合物であってもよい。
【0015】
酸触媒としては、硫酸、燐酸、塩酸等の無機酸、しゅう酸、トルエンスルホン酸等の有機酸、シリカ-アルミナ、ゼオライト、イオン交換樹脂、酸性白土等の固体酸、トリフルオロ硼素等のルイス酸などが使用でき、その使用量は、酸触媒の種類によって異なるが、一般に反応原料の0.5〜20重量%程度である。
【0016】
フェノール類とアルケニル芳香族炭化水素の反応は、使用する原料、触媒によって反応条件が異なるが、反応温度が50〜150℃、反応時間が0.5〜5時間程度が一般的である。また、必要によりトルエン等の反応溶剤を使用することができる。反応は、反応したフェノールとアルケニル芳香族炭化水素のモル比が上記の範囲となるまで行うことがよい。反応終了後、酸触媒を除去し、蒸留により反応溶剤などの低沸点物を溜出させることにより、フェノール系オリゴマーを得ることができる。原料として不純物を含むものを使用したり、反応性を有する溶剤を使用したりすると、少量の他の成分が残留物中に含まれるが差し支えない。また、反応条件によっては、スチレンオリゴマーが生成したりすることがあるが、少量であれば差し支えない。このフェノール系オリゴマーは、常温液状から軟化点が100℃の範囲にあることがよい。なお、本発明で使用するフェノール系オリゴマーは、上記方法によって得られるフェノール系オリゴマーに限られるものではない。
【0017】
芳香族オレフィン系オリゴマーは、インデン類及びスチレン類を主成分とする芳香族炭化水素オレフィン類とクマロン類等を酸触媒の存在下で反応させて得られるものであり、代表的にはクマロン樹脂、インデン−クマロン樹脂と称される樹脂(以下、これらを総称してクマロン樹脂等という)及びクマロン樹脂等を変性した変性樹脂がある。なお、本発明でいう芳香族オレフィン系オリゴマーは、含酸素化合物又は含硫黄化合物を合計でその構造単位中に3wt%以上、好ましくは5〜40wt%含む必要があり、石油樹脂やインデン樹脂等と称せられるものは、本発明でいう芳香族オレフィン系オリゴマーには含まない。また、主成分とはそれら1種又はそれらの合計が50モル%以上、好ましくは70モル%以上となるものをいう。
【0018】
クマロン樹脂等は、広く知られている樹脂であり、通常、インデン類及びスチレン類を主成分とする芳香族炭化水素オレフィンとクマロン類のような含酸素オレフィンを、酸触媒の存在下で反応させて得られる。工業的には、タール系の130〜200℃留分を原料とし、この中に含まれているインデン、スチレン等の芳香族炭化水素オレフィン及びクマロン等の含酸素オレフィンを、酸触媒の存在下で反応させて得られる。タール工業ハンドブックによれば、クマロン樹脂の製造に使用される一般的な精製原料組成は、ベンゼン、トルエン、キシレン及びトリメチルベンゼンが合計で34%、スチレンが12.5%、クマロンが5.5%、2,3-ヒドロインデンが5.5%、インデンが34.5%、ナフタレンが3.0%、その他が5.0%であると記載されている。
【0019】
この内、重合性成分はスチレン、インデン及びクマロンであるから、クマロン樹脂等は、クマロン類単位5〜20wt%、スチレン類単位20〜30wt%及びインデン類単位60〜70wt%程度で、数平均分子量200〜1000程度のものである。しかしながら、インデン類、クマロン類及びスチレン類を所定量配合したり、インデン類、クマロン類及びスチレン類のいずれかの含有量を増やしたり、減らしたりして製造する方法も採用できる。ところで、このタール系の130〜200℃留分には、インデン類、クマロン類及びスチレン類の他に、フェノール類、チオフェン類やベンゾチオフェン類等が含まれることがある。これらは、クマロン樹脂等を製造する際、樹脂の構成単位として取り込まれる。これらのクマロン類以外の含酸素化合物又は含硫黄化合物から生じる単位を、芳香族オレフィン系オリゴマー中に存在させることは望ましいことであり、クマロン類に加えてこれらを1wt%以上、好ましくは5wt%以上存在することは有利である。なお、インデン類、クマロン類、スチレン類、フェノール類、チオフェン類やベンゾチオフェン類ベンゾフラン類としては、クマロン、インデン、スチレン、フェノール、チオフェン、ベンゾチオフェンの他に、これらのメチル置換体等がある。
【0020】
芳香族オレフィン系オリゴマーは、インデン類及びスチレン類を主成分とする芳香族炭化水素オレフィンと、フェノール類、チオフェン類、ベンゾチオフェン類及びクマロン類から選ばれる含酸素化合物又は含硫黄化合物の1種以上を含む一定量以上含む原料を酸触媒の存在下で反応させて得られるものであることが望ましい。かかる芳香族オレフィン系オリゴマーは、上記のようにクマロン樹脂等と称されるものを含むが、含酸素化合物又は含硫黄化合物を積極的に芳香族炭化水素オレフィン原料に配合して酸触媒の存在下で反応させて得られるものであることが望ましい。
【0021】
フェノール類としては、上記と同様なものが使用できる。芳香族炭化水素オレフィンに、所定量のフェノール類、ベンゾチオフェンやクマロン等を配合して、酸触媒の存在下で反応させると、フェノール類はオレフィンではないので、フェノール類単位は芳香族オレフィン系オリゴマーの末端に存在する。ベンゾチオフェンやクマロン等は重合性の芳香族オレフィン類の1種でもあるので、オリゴマー鎖の中間又は末端に存在し得る。フェノール類やベンゾチオフェンやクマロン等で変性した変性樹脂は、その官能基により、防腐剤としての作用を高めるものと推定される。変性率は、芳香族オレフィン系オリゴマー中に、これらの含酸素化合物及び含硫黄化合物から生じる単位が3〜50wt%、好ましくは5〜30wt%含まれる程度がよい。
【0022】
芳香族オレフィン系オリゴマーの製造方法は、酸触媒を使用する重合方法を採用でき、酸触媒としては、上記と同様なものが使用できる。また、クマロン樹脂等は市販品を使用することもでき、この場合は、含酸素化合物及び含硫黄化合物から生じる単位が3wt%以上含まれるクマロン樹脂等を使用することが好ましい。
【0023】
本発明で使用する芳香族オレフィン系オリゴマーの代表的な構造式は、下記式(II)で表すことができる。
【化1】

【0024】
ここで、Rはフェノール、アルキルフェノール等のフェノール類から生じる成分であることが好ましいが、チオフェン類、ベンゾチオフェン、アルキルチオフェン、アルキルベンゾチオフェン等のチオフェン類やベンゾフラン類であってもよい。そして、木材中への薬剤の浸透を考えれば分子量的には、400を下回るものが理想的であるが、溶剤で希釈して粘度を下げればより高い分子量であってもよい。この化合物に関しては、その化合物を構成する成分のほとんどが芳香族化合物であり、疎水性が強いことが考えられるが、リグニンに対しても強く結合する部分が、好まれることは言うまでもない。このリグニンと強く結合する部分としては、Rとして存在するフェノール、クレゾール又はキシレノールが好ましく挙げられる。また、疎水性部分を形成するものとしては、インデン、クマロン、スチレンやそれらのアルキル置換体から生じる成分が好まれる。なお、n、m及びoは各構成成分の存在モル比を示す。
【0025】
フェノール系オリゴマーは、分子中に少なくとも1個の水酸基と芳香環のような疎水性を有する基を持っており、木材に吸収されたときに水酸基部分は、木材のリグニンの水酸基と水素結合を作り、残存する芳香環部分は水に対する疎水性の部分を形成すると推定される。リグニンと結びついた水酸基部分は、褐色腐朽菌、白色腐朽菌の攻撃を跳ね返し、疎水性部分は、褐色腐朽菌、白色腐朽菌の好む高い水分環境を、疎水性を持たせることにより水分の少ない、すなわち褐色腐朽菌、白色腐朽菌の攻撃を受けない環境を作り出す作用を有するものと推定される。また、式(II)で表されるような末端に含酸素化合物又は含硫黄化合物から生じる単位が存在すると、同様な効果を奏するものと推定される。
【0026】
本発明で使用するフェノール系オリゴマー及び芳香族オレフィン系オリゴマー等のオリゴマーは、褐色腐朽菌及び白色腐朽菌の殺菌又は繁殖防止に有効であり、結果として木材防腐剤用の添加剤として有用である。なお、本発明で使用するオリゴマーは、褐色腐朽菌及び白色腐朽菌以外の木材腐朽菌に対しても有効性が期待できるが、確実を期すためには、特許文献2等により褐色腐朽菌及び白色腐朽菌以外の木材腐朽菌対して有効であることが知られている他の成分を配合した木材防腐剤とすることが有利である。更に、本発明の木材防腐剤には、フェノール系オリゴマー及び芳香族オレフィン系オリゴマーの両者を有効成分として配合することも望ましく、この場合の配合割合は1:9〜9:1(重量比)の範囲がよい。
【0027】
本発明の木材防腐剤は、上記オリゴマーを、溶融させた液又は有機溶剤に溶解した溶液又は有機溶剤と界面活性と水からなる乳化液に溶解させた液として使用される。
【0028】
有機溶剤は、木材防腐剤の粘度を下げ、木材中への含浸を促進するために有用である。
有機溶剤は、オリゴマーの防腐剤性能を高めるような性能、溶剤自体の毒性、木材中への木材防腐剤の浸透性及び溶剤の揮発速度等を考慮選択される。
【0029】
好ましくはメチルナフタレン等の沸点が200〜300℃程度の芳香族炭化水素又はこれを主とする芳香族炭化水素油は、それ自体が防腐作用をも有するため、有利に使用される。その他、石油系の溶剤も使用できる。しかし、これらの芳香族炭化水素溶剤は、臭気がある他、健康に与える影響もあるので、居住用の家に使用することは好まれない。屋外で使用される杭や柵や枕木用の木材防腐用として優れる。
【0030】
また、木材防腐剤の浸透性を向上させるためには、低粘度の溶剤を使用することが望まれる。火災等の安全性を考えた場合、危険度の低い高沸点油(第3石油類以上)のものがよいが、これらを使用すると、防腐剤の粘度が高くなり木材への浸透性が低下する原因となり、また溶剤の揮発性が遅く乾燥に時間を要する。すなわち、長期間にわたり溶剤が揮散することになり、臭気上の問題や長期間蒸気にさらされるため健康の問題も発生する可能性がある。
【0031】
このような観点からは、溶剤としては、速やかに乾燥し、しかも木材防腐剤の粘度を低下させるような溶剤が望ましい。これらの要件を満足する溶剤としては、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素溶剤、軽油、灯油、マシン油のような石油留分、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、テトラヒドロナフタレンが使用できる。しかし、トルエン、キシレン、石油留分はシックハウス症候群の原因物質となる可能性があり、デカヒドロナフタレン、テトラヒドロナフタレンは沸点の関係から蒸発速度が遅いので溶剤としては適切とは言えない。
【0032】
これらのことから、居住用の家や事務所等の建物に用いられる木材防腐剤の溶剤としては、オリゴマーの溶解性が良好で、木材防腐剤として低粘度が期待でき、毒性の低いメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン及びジメチルシクロヘキサン等の炭素数6〜9、好ましくは7〜8の脂環式炭化水素が優れる。
【0033】
溶剤の使用量としては、有効成分であるオリゴマーに対して2〜200倍が望ましく、より好ましくは2〜10倍である。また、有効成分であるオリゴマーの濃度が0.5〜70wt%、好ましくは0.5〜50wt%の範囲にある溶液又は乳化物であることがよい。
【0034】
火災の危険性を少なくするため、木材防腐剤が水を含む乳化液に溶解されたものであることもよい。それは、オリゴマーを適切な有機溶剤にて希釈し、それに界面活性剤を加え水と混ぜることによりエマルジョンとなすことができる。その有機溶剤としては、前記した有機溶剤が同様に使用できる。この場合の有機溶剤の使用量は、オリゴマーに対して同量あるいはそれ以下で使用することが望ましく、より望ましくは50〜100wt%である。
【0035】
乳化用の界面活性剤としては、ノニオン系の界面活性剤が使用することが望ましく、その界面活性剤としてはポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エーテルである。乳化用の界面活性剤は、オリゴマーの溶剤溶液に対して5〜30wt%程度使用することが望ましく、望ましくは、10〜20wt%である。乳化用の水の量はオリゴマーの0.5〜20wt倍、好ましくは5〜10wt倍程度である。
木材防腐剤が乳化液の液である場合、乳化物中のオリゴマーの量は0.5〜70wt%、好ましくは0.5〜50wt%、有機溶剤の量は1〜15wt%、界面活性剤の量は0.2〜5wt%、水の量は25〜95wt%程度である。
【0036】
本発明の木材防腐剤は、フェノール系オリゴマー及び芳香族オレフィン系オリゴマーのいずれか1種以上を、木材腐朽菌の繁殖防止に有効量以上を含有してなるが、その他の防虫剤等の添加剤を使用することができる。その他の添加剤としては、石油樹脂、ロジン類、ワックス等がある。
【0037】
また、これらの木材防腐剤に更に木材防腐剤性能を上げるために、他の木材防腐剤や木材防腐性能を有する添加剤を組み合わせることやシロアリの害を防ぐ目的にて一般的な防蟻剤を使用できる。そしてまた、油剤又は乳化物に対して顔料や染料によって着色することもできる。
【0038】
本発明の木材防腐剤は、通常、木材に含浸又は塗布させて使用される。含浸は常圧で行う方法でもよいが、加圧注入が効果的である。加圧注入法は、減圧と加圧を組合わせて含浸を促進することがよい。塗付方法には、はけ塗りや吹付けのような方法がある。加圧注入する場合は、必ずしも低粘度である必要はないし、多量に注入可能なので、木材防腐剤中のオリゴマーの濃度は広く変化し得る。例えば、1〜50wt%の範囲で変化し得る。常圧での浸漬、はけ塗りなどの塗布型として使用する場合の木材防腐剤中のオリゴマーの濃度範囲も同様である。
【0039】
木材1m3に対する上記オリゴマーの含浸量は1〜800kg、好ましくは3.5〜350kgの範囲が適当である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
芳香族オレフィン系オリゴマーとしては、いずれも、新日鐵化学社製クマロン樹脂であるエスクロンL−5(25℃粘度0.5PA・s、平均分子量170)とエスクロンL−20(25℃粘度2Pa・s、平均分子量250)を使用した。フェノール系オリゴマーとしては、下記オリゴマーA及びBを使用した。
【0041】
オリゴマーAの合成
フェノールを100部、トルエン150部、三フッ化ホウ素を3部、スチレン200部をフラスコに仕込み、80℃で2時間反応させた。反応終了後、水を加えて触媒をクエンチした。その後、フラスコにコンデンサーを取付け、常圧で蒸留を開始した。トルエンの留出後、未反応のフェノールを回収し、フラスコに残ったオリゴマーは299部であった。
【0042】
オリゴマーBの合成
フェノールを150部、トルエン150部、三フッ化ホウ素を3部、スチレン150部、フラスコに仕込み、80℃で2時間反応させた。反応終了後、水を加えて触媒をクエンチした。その後、フラスコにコンデンサーを取付け、常圧で蒸留を開始した。トルエンの留出後、未反応のフェノールを回収し、フラスコに残ったオリゴマーは299部であった。
【実施例1】
【0043】
上記オリゴマーを、単独で融解又は溶剤に溶解して、木材防腐剤を調製した。溶剤に溶解した場合は、溶剤として純度98%のα−メチルナフタレンと純度98%のβ−メチルナフタレンを1:1に混じて使用し、オリゴマー濃度を50wt%、25wt%及び12.5wt%とした。この木材防腐剤の溶液又は融液に、木口面20×20mm、繊維方向の長さ10mmのスギ二方柾辺材からなる木材試験片を、薬液中に浸せきした後、加圧注入缶内に入れ、約40hPaの減圧下に2時間、0.98MPaの加圧下に2時間維持することにより木材防腐剤を圧入含浸させた。この木片試験片について、JIS K1571にしたがって防腐性能試験を行った。また、供試菌は、オオウズラタケ(Fomitopsis palustris FFPRI 0507)、カワラタケ(Trametes versicolor FFPRI 1030)を用い、腐朽期間は12週間とした。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1において、実験番号16はクレオソート油を使用した例であり、実験番号17は溶剤だけを吸収させた例であり、実験番号18は無処理品の例であり、いずれも比較例である。吸収量は、オリゴマーの含浸量である。
表1から実験番号1〜15で使用したオリゴマーのすべてにおいて、重量減少率が3%を下回っており、防腐効果があることが確認できた。
【実施例2】
【0046】
エスクロンL-20を20部使用し、上記オリゴマーAを30部使用し、これをメチルシクロヘキサン50部に溶解させて木材防腐剤を調製した。
【実施例3】
【0047】
エスクロンL-20を20部使用し、上記オリゴマーAを30部使用し、これにメチルシクロヘキサン10部を加え良く攪拌し均質にした後、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを10部加えて混合し、更に150部の水を加えて乳化させて木材防腐剤を調製した。
【0048】
実施例2及び3で得た木材防腐剤に、木口面20×5mm、繊維方向の長さ40mmで、20×40mmの面がまさ目面であるスギ辺材からなる木片を常圧で浸漬させた。この木片について、実施例1と同様にして防腐性能試験を行った。結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0050】
木材腐朽菌(褐色腐朽菌、白色腐朽菌)の繁殖防止に有効で、環境汚染の少ない(水質汚濁や廃材処理時の汚染)木材防腐剤を与える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール類とアルケニル芳香族炭化水素を酸触媒の存在下で反応させて得られるフェノール系オリゴマー、又はインデン類及びスチレン類を主成分とする芳香族炭化水素オレフィンと、フェノール類、クマロン類、チオフェン類及びベンゾチオフェン類から選ばれる含酸素又は硫黄化合物を酸触媒の存在下で反応させて得られる芳香族オレフィン系オリゴマーを木材腐朽菌の繁殖防止の有効成分として配合してなる木材防腐剤。
【請求項2】
フェノール系オリゴマーが、下記式(I)
(Ar1−R1−)mAr2−OH (I)
(式中、Ar1は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基を示し、R1は炭素数2〜5の脂肪族炭化水素基を示し、mは1〜4の数を示し、Ar2は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基を示す)で表される化合物を主成分とするものである請求項1に記載の木材防腐剤。
【請求項3】
芳香族オレフィン系オリゴマーが、クマロン樹脂又はインデン‐クマロン樹脂である請求項1に記載の木材防腐剤。
【請求項4】
フェノール系オリゴマーと芳香族オレフィン系オリゴマーを併用する請求項1に記載の木材防腐剤。
【請求項5】
木材腐朽菌が、褐色腐朽菌及び白色腐朽菌である請求項1に記載の木材防腐剤。
【請求項6】
褐色腐朽菌及び白色腐朽菌以外の木材腐朽菌の繁殖防止に対して有効な成分を更に含む請求項1〜5のいずれかに記載の木材防腐剤。
【請求項7】
請求項1に記載のフェノール系オリゴマー又は芳香族オレフィン系オリゴマーからなる木材防腐剤性能を有するオリゴマー。
【請求項8】
請求項7に記載の木材防腐剤性能を有するオリゴマーからなる木材防腐剤用の添加剤。
【請求項9】
請求項1に記載の木材防腐剤において、フェノール系オリゴマー又は芳香族オレフィン系オリゴマーを合計で0.5〜70wt%の濃度で有機溶剤又は有機溶剤、水及び界面活性剤からなる乳化液に溶解してなる木材防腐剤。
【請求項10】
木材に圧入、塗布又は含浸させて使用する請求項1に記載の木材防腐剤。
【請求項11】
有機溶剤が、芳香族炭化水素又は脂環式炭化水素である請求項9に記載の木材防腐剤。

【国際公開番号】WO2005/035210
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【発行日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514634(P2005−514634)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015068
【国際出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000225142)奈良県 (42)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】