説明

木材難燃化用化粧シートおよび難燃化された木製化粧ボード

【課題】 可燃性の木製板を化粧しながらも難燃化するために用いられるシート(木材難燃化用化粧シート)、および当該化粧シートを用いることにより化粧とともに難燃化された難燃性の木製化粧ボードを提供する。
【解決手段】木材難燃化用化粧シートとして、少なくとも5μmの厚みを有する銅箔表面に、接着層およびシート状基材を介して、石灰含有組成物から形成される化粧層が200μm以下の厚みで積層されてなることを特徴とするシートを用いる。当該シートを貼着することで可燃性の木製板を、化粧しながら難燃化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁材や天井材などの可燃性の木製建材を化粧しながらも難燃化するために用いられるシート(木材難燃化用化粧シート)、および当該化粧シートを用いることにより難燃化された木製の化粧ボードに関する。また本発明は、可燃性の木製建材を化粧しながら難燃化する方法、言い換えれば、可燃性の木製建材を材料として難燃性の化粧ボードを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、壁面材、天井表面材、柱被覆材および可動間仕切り等の建築内装材などを難燃化するための方法がいくつか検討され、開発されている。例えば、可燃性の木製基材と化粧材の間にアルミニウム箔等の金属箔を挿入することによる防火性の化粧材が幾つか報告されている。具体的には、特許文献1には、表装材/紙/アルミニウム箔/ベニヤ板から構成される不燃性新建材が、また特許文献2には、UV塗装層/化粧シート/アルミ箔/基板から構成される化粧板が提案されている。また、木製の板材表面にアルミニウム箔中間層を形成しただけでは耐熱性が十分でないとの理由で、特許文献3には、基礎板材/金属箔(銅箔、またはアルミ箔と銅箔の積層)/化粧材の上に、さらに紫外線硬化型硬質塗膜を順次積層させた耐熱性化粧板が、特許文献4には、木質系基材、アルミニウム箔、および化粧材の積層体において、木質系基材とアルミニウム箔の間および化粧材とアルミニウム箔の間に、それぞれ粉末無垢物質が混入分散され且つ水溶性接着剤を浸透させた化学繊維紙を積層させた耐熱性化粧板が、特許文献5には、アルミニウム箔を貼着する基材として防火薬剤含浸処理合板を使用することが、さらに特許文献6には、アルミニウム箔等の金属箔を、木製基材に直接貼着させるのではなく、不燃ボードを介して木製基材に貼着することによって不燃性を担保させた不燃複合板が記載されている。
【0003】
しかし、特許文献5に記載されるように、木製基材に有機物系の薬剤を含浸させて防燃処理することで木製基材を難燃化する場合、木材の良さが極端に失われ、更にコスト高になるという問題がある。またかかる方法は、使用する木製基材の種類によって品質にばらつきが生じ、難燃保証が得られない場合があるといった問題がある。また特許文献4や6の方法は、化学繊維紙や不燃ボードを必要とし構造が複雑となるとともに、それに応じてコスト高になるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−102943号公報
【特許文献2】特開平02−175240号公報
【特許文献3】特開平09−216308号公報
【特許文献4】特開平08−1865号公報
【特許文献5】特開昭50−31012号公報
【特許文献6】特開2009−34898号公報
【特許文献7】特開2007−30416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、可燃性の木材を、薬剤などを含浸させて難燃処理することなく、化粧すると同時に難燃化し、建築基準法に基づいた所定の難燃基準に適合した難燃性の木製化粧ボートを製造する方法を提供することを目的とする。
【0006】
また本発明は、可燃性の木材を、薬剤などを含浸させて難燃処理することなく、化粧すると共に難燃化するために用いられる、木材難燃化用化粧シート、並びに当該化粧シートを用いることによって難燃化された木製の化粧ボード、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために検討を重ねているなかで、可燃性の木製板の表面にアルミ箔を貼着して作成した積層物は、特許文献7に記載されているように、不燃材料の基準(試験時間20分、最大発熱速度200kW/m2以下、総発熱量8MJ/ m2以下)または準不燃材料の基準(試験時間10分、最大発熱速度200kW/m2以下、総発熱量8MJ/ m2以下)を満たすことが確認されたものの、化粧仕上げする目的でアルミ箔の表面に化粧シートを貼るなど、アルミ箔の表面を覆ってしまうと、アルミ箔の厚みを50μmまで厚くしても、難燃性の基準(試験時間5分、最大発熱速度200kW/m2以下、総発熱量8MJ/ m2以下)すら合格しない場合があるなど、製品間で防火性能にバラツキが生じることを見出した。
【0008】
壁面材、天井表面材、柱被覆材および可動間仕切り等の建築内装材に求められる防火性は、居住者を火災からより安全に守るためにも、製品間でバラツキが生じないことが必要で、全製品において100%確保されなくてはならない。
【0009】
本発明者は、可燃性の木製板を化粧仕上げしながら、バラツキなく安定して難燃化することのできる木材難燃化用化粧シートの開発を目指して鋭意検討をしていたところ、金属箔の表面に接着層とシート状基材を介して、石灰含有組成物から形成される化粧層を積層してなる化粧シートにおいて、金属箔として、熱伝導率が401W/m・k、溶融温度が約1084℃である銅箔を、好ましくは最低5μmの厚みで用い、且つ化粧層をできるだけ薄く、好ましくは乾燥厚が200μm以下になるように積層することで、上記課題が達成でき、可燃性の木製板を化粧仕上げしながら、バラツキなく安定して難燃化することができることを見出した。
【0010】
また当該難燃性化粧ボードの製造に使用される化粧シートは、シンプルな構成からなり、可撓性を有する薄層シートとして簡単に製造することができるため、安価に大量生産が可能で、且つロール状にコンパクトに包装した状態で市場に供給することが可能である。このため、本発明の化粧シートを用いた難燃化技術によれば、工場のみならず、現場において、簡便に可燃性木製板(天井や壁材などの木製建材)を化粧仕上げしながら難燃化処理することが可能である。
【0011】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の態様を包含するものである:
I.木材難燃化用化粧シート
(I-1)少なくとも5μmの厚みを有する銅箔表面に、接着層およびシート状基材を介して、石灰含有組成物から形成される化粧層が200μm以下の厚みで積層されてなることを特徴とする、木材難燃化用化粧シート。
(I-2)銅箔の厚みが少なくとも9μmである、(I-1)に記載する木材難燃化用化粧シート。
(I-3)化粧層の厚みが100μm以下である、(I-1)または(I-2)に記載する木材難燃化用化粧シート。
(I-4)化粧層の表面が防汚処理されてなることを特徴とする、(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載する木材難燃化用化粧シート。
(I-5)銅箔面側に、更に接着層を介して離型紙が積層されてなる、(I-1)乃至(I-4)のいずれかに記載する木材難燃化用化粧シート。
【0012】
II.難燃性化粧ボードおよびその製造方法
(II-1)可燃性木製板の表面に、(I-1)乃至(I-5)のいずれかに記載する木材難燃化用化粧シートが貼着されてなる、難燃性の木製化粧ボード。
(II-2)可燃性木製板の表面に、(I-1)乃至(I-5)のいずれかに記載する木材難燃化用化粧シートを貼着する工程を有する、難燃性の木製化粧ボードの製造方法。
【0013】
III.可燃性木製板の難燃化方法
(III-1)可燃性木製板の表面に、(I-1)乃至(I-5)のいずれかに記載する木材難燃化用化粧シートを貼着する工程を有する、可燃性木製板を化粧仕上げしながら難燃化する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の化粧シートによれば、これを可燃性の木製板の表面に貼着することより、コーンカロリーメーター試験(ISO 5660)に準拠した「発熱性試験方法」において、建築基準法に基づく難燃基準(試験時間5分間、総発熱量8MJ/ m2以下、最大発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2以下、裏面まで貫通する亀裂や穴が生じない)に適合した難燃ボードを、化粧仕上げしながら製造することができる。特に当該化粧シートを用いることにより、使用する木製板に起因する防火性能のバラツキという問題がなく、安定して難燃性を保証した難燃性化粧ボードを製造することができる。
【0015】
また当該化粧シートは、基本的に、銅箔、接着層、シート状基材および石灰含有組成物から形成される化粧層といったシンプルな構成を有するため、可撓性を有する薄層シートとして簡単に製造することができる。このため、安価に大量生産することが可能で、且つロール状にコンパクトに包装した状態で保存でき、市場に供給することができる。従って、本発明の化粧シートを用いた難燃化技術によれば、工場のみならず、現場において、簡便に可燃性の木製板(例えば、天井や壁材などの木製の建築材料)を難燃化することが可能である。
【0016】
本発明の化粧シートを貼付することによって製造される本発明の難燃性化粧ボードは、不燃および準不燃という防火基準は満たさないものの、難燃基準を満たした難燃材料として、建築基準法において内装制限を受ける特殊建築物にも広く使用することができる(令128条の4、令129条)。具体的には、劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場;病院、診療所、ホテル、旅館、共同住宅、寄宿舎;百貨店、マーケット、展示場、カフェ、飲食店;およびマンションやアパートといった大規模建築物などの特殊建築物においても、その居室の内装材料として広く使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
I.木材難燃化用化粧シート
本発明の木材難燃化用化粧シート(以下、単に「化粧シート」ともいう)は、基本的に、銅箔、接着層、シート状基材および石灰含有組成物から形成される化粧層が200μm以下の厚みで順次積層されてなる構成を有することを特徴とする。
【0018】
本発明が対象とする「木材」には、一本の原木から角材や板を必要な寸法に切り出した無垢材のみならず、小さな木の破片や薄い板を集めて接着剤で貼り付けて大きな寸法の部材にした木質材料も含まれる。
【0019】
化粧シートに使用される銅箔は、木材を難燃化するという目的を達成するうえでは少なくとも5μm以上の厚みを有するものであればよい。好ましくは9μm以上である。難燃化という目的を達成するうえで、その厚みの上限は特に制限されない。しかし、化粧シートを保存したり流通するうえではロール状にコンパクトに包装できることが好ましく、また木材に貼着するうえでは適度に薄くて可撓性を有することが好ましい。この観点から、銅箔の厚みの上限としては20μm以下、好ましくは18μm以下、より好ましくは15μm以下を挙げることができる。
【0020】
なお、銅箔は、腐食防止のため、予めバイヤー性の高い防食用のアンカーコート剤でコート処理されていてもよい。
【0021】
シート状基材としては、紙または不織布等が挙げられる。前記紙または不織布には、紙間強化紙、和紙、洋紙(上質紙、中質紙等)、クラフト紙、薄葉紙または樹脂含浸紙、並びに、ポリエステル不織布、ポリエステル/パルプ不織布、ビニロン混抄不織布等の各種不織布などが包含される。繊維質シートの坪量は、制限されないが5〜100g/m程度、好ましくは10〜70g/m程度を挙げることができる。
【0022】
接着層は、前述する銅箔とシート状基材とを接着一体化するための層であればよい。好ましくは、銅箔との相性がよく、また銅箔の腐食を抑え、反りを抑える程度の接着作用を有するものである。接着層の厚さは、制限されないが、通常1〜10μm、好ましくは1〜5μm、より好ましくは1〜3μmである。
【0023】
当該接着層に使用される接着剤の例としては、例えば天然糊料、合成糊料(メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメトルセルロースなどのセルロース類、ポリビニルアルコールなどの化学糊)、合成樹脂または無機接着剤をそれぞれ任意に使用することができる。ここで合成樹脂接着剤としては、ウレタン系接着剤、ラテックス系接着剤、酢酸ビニル系接着剤、酢酸ビニル−アクリル共重合体系接着剤、ビニルウレタン系接着剤、ポリエチレンコポリマーなどのポリオレフィン共重合体系接着剤、エチレン−酢酸アクリル共重合体(EAA)系接着剤、エチレン−アクリル酸共重合体系接着剤、ならびにアイオノマー、ポリアミド樹脂、及びウレタン系のドライラミネート用接着剤を挙げることができる。上記酢酸ビニル系接着剤には、酢酸ビニル接着剤だけでなく、ポリ酢酸ビニルを主剤とする接着剤、例えば、硬化機構を組み込んだ水性2液型の接着剤(反応型特殊酢酸ビニル樹脂エマルジョン)等も含まれる。また前記接着脂層として、難燃剤を配合した樹脂を使用することができる。前記難燃剤としては、三酸化アンチモン、燐酸系、ハロゲン系のものが挙げられる。 本発明において化粧層は、石灰、結合剤及び水を含有する石灰含有組成物から形成される化粧層である。かかる化粧層は、例えば、銅箔の表面に接着層を介して積層されたシート状基材上に上記石灰含有組成物を塗布し乾燥して形成することができる。なお、シート状基材は、予め銅箔上に積層されていなくてもよく、シート状基材単体の表面に上記石灰含有組成物を塗布し乾燥して化粧層を形成した後、これを銅箔の表面に、接着層を介して積層することもできる。
【0024】
上記石灰としては、漆喰材料として使用されるものを広く挙げることができる。具体的には水酸化カルシウムを主成分とする消石灰を挙げることができる。その他成分として酸化カルシウムを主成分とする生石灰や炭酸カルシウム(カルサイト、アラゴナイト、バテライト、塩基性炭酸カルシウム及び非晶質炭酸カルシウムなどの沈降炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム)及びドロマイト(CaMg(CO3)2)などを含有していても良い。
【0025】
上記石灰の配合量は、特に制限されないが、石灰含有組成物の固形分中に通常30〜75質量%、好ましくは40〜70質量%、さらに好ましくは45〜65質量%の範囲内とすることが、膜の形成性や膜強度の点から好適である。
【0026】
石灰含有組成物に使用される結合剤としては、特に制限なく、例えば天然糊料(フノリ、海藻糊、銀杏糊など)、合成糊料(化学糊)並びに合成樹脂を、それぞれを任意に使用することができる。なお、合成樹脂としては水溶性又は水分散性樹脂が好ましく、例えばエポキシ樹脂系、アルキド樹脂系、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、ポリビニルアルコール樹脂系、ポリエステル樹脂系、フッ素樹脂系及びシリコン樹脂系などが挙げられ、これらは1種又は2種以上使用することができる。これらのうち、特にアクリル樹脂系が、形成膜の耐アルカリ性等の点から好適に使用できる。
【0027】
上記結合剤の配合量は、特に制限されないが、石灰含有組成物の固形分中に通常2〜50質量%、好ましくは5〜30質量%、さらに好ましくは5〜20質量%の範囲内とすることが、塗布作業性や膜の形成性の点から好適である。
【0028】
石灰含有組成物はさらに顔料を含むものであってもよい。顔料を使用する場合、顔料としては、特に制限なく従来公知のものが使用でき、通常、体質顔料や着色顔料等が挙げられる。
【0029】
着色顔料としては、主に白色顔料、および白以外の有色顔料が挙げられ、特に制限なく適宜選択して使用できる。
【0030】
白色顔料としては、有機顔料及び無機顔料の別を問わないが、好ましくは無機の白色顔料である。具体的には酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、リトポン、鉛白、アンチモン白及びジルコニアよりなる群から選択される少なくとも1種の無機白色顔料を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。好ましくは酸化チタン、または酸化チタンと他の白色顔料との組み合わせである。酸化チタンは、白色顔料としての使用態様を備えるものであれば、ルチル形、アナターゼ形及びブルッカイト形のいずれも使用することができるが、好ましくはルチル形である。
【0031】
白色顔料を使用する場合、その配合量は特に制限されないが、石灰含有組成物の固形分中に通常0.5〜25質量%、好ましくは2.5〜20質量%、さらに好ましくは4〜15質量%の範囲内とすることが、膜の形成性及び隠蔽性の点から好適である。
【0032】
白以外の有色顔料としては、例えばカーボンブラックや酸化鉄(鉄黒)等の黒色顔料;カドミウムレッド、べんがら(赤色酸化鉄)、モリブデンレッド、鉛丹等の赤色顔料;黄鉛(クロムイエロー)、チタンイエロー、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄(黄鉄)、タン、アンチモンイエロー、バナジウムスズイエロー、バナジウムジルコニウムイエローの黄色顔料;酸化クロム、ビリジアン、チタンコバルトグリーン、コバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、ビクトリアグリーン、フタロシアニングリーン等の緑色顔料;群青、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、コバルトシリカブルー、コバルト亜鉛シリカブルー等の青色顔料などを例示することができる。好ましくは、耐アルカリ性の着色顔料であり、より好ましくは、黒色酸化鉄(鉄黒)、べんがら(赤色酸化鉄)、または黄色酸化鉄(黄鉄)などの酸化鉄や群青等の酸化金属、またはカーボンブラックを主成分とする着色顔料である。なお、これらは1種又は2種以上を組み合わせてもよく、所望の色になるように組み合わせや配合割合を適宜調整することができる。
【0033】
体質顔料としては、タルク,カオリンクレー,水酸化アルミニウム,炭酸カルシウム(重質炭酸カルシウム、軽質(沈降性)炭酸カルシウム),ベントナイト,硫酸バリウム(沈降性硫酸バリウム、バライト粉)、ホワイトカーボン、シリカなどを例示することができる。これらは1種で又は2種以上組み合わせて使用することができる。その配合量は、特に制限されないが、石灰含有組成物の固形分中に通常1〜50質量%、好ましくは5〜40質量%、さらに好ましくは5〜20質量%の範囲内とすることが、膜の形成性及び経済性の点から好適である。
【0034】
上記石灰含有組成物には、前述する石灰、結合剤、顔料及び水に加えて、さらにキレート剤、アミノ酸またはその塩が配合されていてもよい。これらの成分は、石灰含有組成物から形成される化粧層に可撓性と耐ひび割れ性を付与する目的から、好適に配合される成分である。キレート剤とアミノ酸を組み合わせて用いることが好ましい。
【0035】
ここでキレート化合物は、キレート作用に基づいてカルシウムイオンなどの金属イオンを捕捉ないしは封鎖するイオン封鎖能を有する化合物(イオン封鎖剤)であり、かかる作用を有するものであれば、特にその種類を制限するものではない。通常分子量が2000以下、好ましくは1000以下、より好ましくは700以下、さらに好ましくは600以下、さらにまた好ましくは500以下、特に好ましくは50〜450程度の分子量を有する低分子量のキレート化合物である。 かかるキレート化合物として、カルボン酸系キレート化合物、ホスホン酸系キレート化合物、燐酸系キレート化合物、スルホン酸系キレート化合物、および還元性有機酸系キレート化合物などの有機系キレート化合物;ケイ酸塩、リン酸塩及び硫酸塩といった無機系キレート化合物を挙げることができる。これらのキレート化合物は、いずれも当業界で周知である。
【0036】
制限はされないが、カルボン酸系キレート化合物としては、シュウ酸、プロピオン酸、スピクルスポール酸(spiculisporic acid)、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、マロン酸、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸、アミノ酢酸およびこれらの異性体等のカルボン酸またはその塩;クエン酸、イソクエン酸、酒石酸、グルコン酸、ヘプトグルコン酸、ヒドロキシマロン酸、乳酸、リンゴ酸、グリコール酸、グルクロン酸、β-D-グルコピラヌロン酸、サリチル酸、マンデル酸、グルコヘプタン酸、アラボン酸、およびこれらの異性体等のヒドロキシカルボン酸またはその塩;ニトリル三酢酸(NTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンジアミンコハク酸、ジエチレントリアミノ五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、L-グルタミン酸二酢酸(GLDA)、L-アスパラギン酸二酢酸(ASDA)、1,3-プロパンジアミン四酢酸(PDTA)、ジメルカプトールコハク酸(DMSA)、及びメチルグリシン二酢酸(MGDA)などのアミノカルボン酸またはその塩;ジヒドロキシエチルグリシン(DEG)、トリエタノールアミン(TEA)、N-(2-ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸(HEIDA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン二酢酸(DHEDDA)、及び1,3-ジアミノ-2-ヒドロキシプロパン四酢酸(DPTA-OH)等のヒドロキシアミノカルボン酸またはその塩;カルボキシメチルタルトロン酸(CMT)、及びカルボキシメチルオキシ琥珀酸(CMOS)等のエーテルカルボン酸またはその塩;などを挙げることができる。なお、水中で遊離して上記のカルボン酸となる化合物、例えば水中で遊離してグルコン酸となるグルコノデルタラクトンまたはその塩も本発明でいうカルボン酸系キレート化合物に含まれる。
【0037】
ホスホン酸系キレート化合物としては、フィチン酸、アミノメチレンホスホン酸(NMP)、アミノトリメチルホスホン酸(NTMP)、メチレンホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸等のヒドロキシエタンジホスホン酸(HEDP)、ホスホノブタントリカルボン酸(PBTC)等のホスホノカルボン酸誘導体、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)(EDTMP)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(NTMP)、並びにこれらの塩を挙げることができる。
【0038】
スルホン酸系キレート化合物としては、ジメルカプトプロパノールスルホン酸(DMPS)またはこの塩を挙げることができる。
【0039】
還元性有機酸系キレート化合物としては、クエン酸、イソクエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸などの還元性(抗酸化作用)を有する有機酸ならびにこれらの塩を挙げることができる。
【0040】
無機系キレート化合物としては、メタケイ酸ナトリウム、セスキケイ酸ナトリウムおよびオルソケイ酸ナトリウム等のケイ酸塩;オルソ燐酸ナトリウム、リンピロ燐酸ナトリウム、トリポリ燐酸ナトリウム、テトラ燐酸ナトリウム、ヘキサメタ燐酸ナトリウム等の燐酸塩;硫酸ナトリウムおよびスルファミン酸等の硫酸塩を挙げることができる。好ましくは燐酸塩である。ケイ酸塩は、他の無機系キレート化合物または有機系キレート化合物と組み合わせて使用することが好ましい。
【0041】
上記に掲げる各種化合物の塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩、またはストロンチウム塩などのアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;プロトン化されたアミンまたはプロトン化されたアルカノールアミンの塩;亜鉛や鉄などの金属塩を例示することができる。好ましくはナトリウム塩である。なお、これらの各種キレート化合物は水和物であってもよい。
【0042】
これらのキレート化合物は1種単独で使用することもできるが、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0043】
石灰含有組成物に配合されるキレート化合物の割合は、石灰含有組成物から形成される化粧層に可撓性と耐ひび割れ性を付与する限りにおいて特に制限されず、そのカルシウムイオン封鎖力(捕捉力)に応じて、石灰含有組成物100重量%あたり通常0.01〜5重量%の範囲から適宜選択することができる。制限はされないが、好ましくは0.02〜3重量%、より好ましくは0.05〜2重量%の割合を例示することができる。
【0044】
本発明において使用するアミノ酸には、例えばグリシン、スレオニン、セリン、トリプトファン、チロシン、プロリン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、リジン、アルギニン、アラニン、メチオニン、システイン、フェニルアラニン、ロイシン、バリンおよびイソロイシンなどのタンパク質構成アミノ酸に限らず、それ以外のアミノ酸も含まれる。 これらのアミノ酸はフリーの状態でも塩の形態でも使用することができるが、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、アルギニン、およびリジンなどの酸性または塩基性のアミノ酸は塩の形態で用いることが好ましい。かかる塩としては、アスパラギン酸およびグルタミン酸については、カリウムやナトリウム等のアルカリ金属との塩、マグネシウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属との塩を挙げることができる。またヒスチジン、アルギニンおよびリジンについては、塩酸、硝酸、硫酸およびリン酸などの無機酸との塩;酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、アスコルビン酸などの有機酸との塩を挙げることができる。
【0045】
これらのアミノ酸またはそれらの塩(アミノ酸類)は1種単独で使用することもできるが、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0046】
本発明の石灰含有組成物に配合されるアミノ酸類の割合は、石灰含有組成物から形成される化粧層に可撓性と耐ひび割れ性を付与する限りにおいて特に制限されないが、石灰含有組成物100重量%あたり通常0.001〜10重量%の範囲から適宜選択することができる。好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.05重量%以上である。これらのアミノ酸類は配合量の増加に応じてその効果を増す傾向があるため、上限は特に制限されないが、他成分とのバランスを考慮して10重量%を限度として、好ましくは8重量%以下、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下の割合を例示することができる。 さらに本発明で使用する石灰含有組成物には、その他の任意成分として、本発明の効果を妨げない範囲で、骨材、光触媒、消泡剤、pH調整剤、界面活性剤、防水剤、防汚処理剤等を配合することもできる。
【0047】
ここで骨材としては、制限されないが、例えば珪砂、寒水砂、パーライト,バーミキュライト,シラス球及び汚泥焼成骨材などの再生骨材等の無機質骨材(細骨材)の他、カオリン、ハロイサイト、モンモリロナイト、ベントナイト、ギブサイト、マイカ、セラミックサンド、ガラスビーズ、パーライト、酸性白土、陶石、ロウ石、長石、石灰石、石膏、ドロマイト、マグネサイト、滑石、トルマリン、珪藻土、ゼオライト、鉄粉、フライアッシュなどの天然無機質材料;水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、天然カルシウム等の水不溶性金属水酸化物;トベルモナイトやゾノトライト等のケイ酸カルシウム系水和物;カルシウムアルミネート水和物、カルシウムスルホアルミネート水和物等の各種酸化物の水和物;アルミナ、シリカ、含水ケイ酸、マグネシア、酸化亜鉛、スピネル、合成炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、チタン酸カリウムなどの合成無機質などの粉末状、繊維状もしくは粒状の無機材料を挙げることができる。またかかる骨材とともに、または骨材に代えて、繊維や繊維粉を配合することもできる。かかる繊維としては、従来漆喰材料に使用されている天然繊維やポリエチレンやテトロンなどの化学繊維や小麦ファイバーなどを挙げることができる。天然繊維としては、はますさ、白毛すさ、南京すさ、さらしすさ、油すさ、および紙すさなどを挙げることができる。
【0048】
上記石灰含有組成物から形成される化粧層の厚みは、乾燥塗膜層の厚みとして200μm以下、好ましくは180μm以下である。後述する試験例で示すように、200μmを超えると可燃性木材に対して安定して難燃性能を付与することができない。
【0049】
木材をバラツキなく安定して難燃化するという目的からは、化粧層の厚みは、前述するように200μm以下であればよく、その限りにおいて特に制限されない。しかし、化粧シートの可撓性を維持し、またロール状に梱包する際や木製板に貼付する際に生じ得る化粧層のひび割れを抑えるという点からは、石灰含有組成物の乾燥塗膜層(化粧層)の厚みとして好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは90μm以下を例示することができる。なお、乾燥塗膜層(化粧層)の厚みの下限は、シート状基材が見えない程度の厚みであれば特に制限されず、例えば5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μmを例示することができる。
【0050】
なお、石灰含有組成物から形成される化粧層は、その表面が防汚処理されていてもよい。 ここで防汚処理は、石灰含有組成物に含まれる石灰(好ましくは消石灰)の機能を維持し、且つその質感を損なわずに、化粧層に対して、汚れが付着しにくく、また汚染物が付着した場合であっても容易に除去できるように汚染防止性・除去性を付与するために行われる処理である。当該処理には、石灰含有組成物から形成される化粧層専用の、シリコーン樹脂エマルション、艶消し剤および湿潤剤を含有する防汚処理材が使用される。
【0051】
ここでシリコーン樹脂エマルションとしては、特に制限なく、例えばアルコキシシラン化合物やオルガノシロキサン化合物、またはその縮合物からなるポリシロキサンを含有する従来公知のものが使用できる。シリコーン樹脂エマルションの含有割合は、防汚処理材中に2〜30質量%(固形分)、好ましくは3〜25質量%(固形分)、より好ましくは4〜20質量%(固形分)を挙げることができる。
【0052】
艶消し剤としては、特に制限なく従来公知のものが使用でき、例えばシリカ粉、セラミック粉等の無機粉末;アクリルビーズ、ポリエチレンビーズ、ウレタンビーズ等の樹脂ビーズ;ポリオレフィンワックス及びその誘導体、モンタンワックス及びその誘導体、パラフィンワックス及びその誘導体等のワックス類が挙げられる。通常、上記シリコーン樹脂エマルションの固形分100質量部に対して艶消し剤を5〜200質量部の範囲で配合することが適当である。好ましくは10〜100質量部、より好ましくは10〜50質量部である。
【0053】
湿潤剤としては、通常塗料用途等で使用されるものが制限なく使用でき、例えばアルキルナフタレンスルホン酸ソーダのホルマリン縮合物、低分子ポリアクリル酸塩、低分子量スチレン−マレイン酸共重合体、ポリオキシエチレンの脂肪酸エステルやアルキルフェノールエーテル、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムなどのスルホコハク酸誘導体、ポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドとのブロックポリマー、アルキレンオキシドシラン化合物、アセチレン系アルコール若しくはアセチレン系ジアルコールまたはそれらのポリエーテル化物等を挙げることができる。好ましくは水性塗料に濡れ剤として汎用される非イオン性界面活性剤である。非イオン性界面活性剤としては、グリセリン、ソルビトール、ショ糖などの多価アルコールと脂肪酸がエステル結合したエステル型(または多価アルコール型);高級アルコール也アルキルフェノールなどの水酸基を有する基材に酸化エチレンや酸化プロピレン等を付加させて調製されるエーテル型(POEアルキルエーテル、POEアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール);脂肪酸や多価アルコール脂肪酸エステルに酸化エチレンをふかしたエステル・エーテル型;および脂肪酸アルカノールアミド型の界面活性剤を挙げることができる。なかでも好ましくはポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのエーテル型の非イオン性界面活性剤を挙げることができる。またポリアクリル酸系湿潤剤やポリオキシエチレン系湿潤剤なども処理材塗布時の化粧層面への濡れ性向上の点から好適に使用できる。
【0054】
上記湿潤剤は、防汚処理材100質量%中に、0.1〜1質量%となるような割合で配合することが望ましい。この範囲で配合することにより、防汚処理材で覆われる化粧層面における石灰の機能(抗菌性、防かび性)を大きく損なうことなく、化粧層への汚染物の付着および化粧層内への浸透を抑制することができる。また、上記範囲で配合することにより、化粧層に例えば醤油などの汚染物が付着した場合でも、付着した汚染物を容易に除去することができる。湿潤剤の配合割合として好ましくは、0.2〜0.8質量%、より好ましくは0.4〜0.7質量%である。また防汚処理材に含まれるシリコーン樹脂エマルション100質量部に対する湿潤剤の割合として、0.5〜7質量部、好ましくは0.5〜6質量部、より好ましくは1〜5質量部、さらに好ましくは1〜4質量部、特に好ましくは1〜3質量部を挙げることができる。
【0055】
本発明の防汚処理材には、さらに必要に応じて、例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂などの樹脂成分;上記艶消し剤以外の顔料成分;増粘剤;造膜助剤;紫外線吸収剤;光安定剤;表面調整剤;消泡剤;防腐剤等の塗料用添加剤を適宜配合することできる。
【0056】
上記防汚処理材で処置された化粧層面は、未処理の化粧層面と比較して、汚染物(例えば、醤油、コーヒー、水性ペンの等の水性の汚染物、クレヨンなどの油性の汚染物)の付着やその内部への浸透が格段に抑制され、また付着した場合でも容易に除去することが可能になる。
【0057】
化粧層面への防汚処理材のコーティングは、特に制限なしに従来公知の塗布方法、例えば、ローラ、刷毛、スプレー、またはロールコーティングやフローコーティング等の方法で行うことができる。その塗布時の固形分は40質量%以下、好ましくは3〜30質量%、より好ましくは3〜20質量%に調整し、その塗布量は、通常、20〜200g/m2程度、好ましくは50〜150g/m2程度の範囲とすることが適当である。化粧層中の石灰の機能(抗菌性、防かび性)を維持しながら、上記汚染防止性および汚染除去性を発揮するためには、防汚処理材から形成される塗膜中に含まれるシリコーン樹脂エマルションの固形分が塗布面1mあたり1〜25gとなるような範囲に、塗布量を調整することが好ましい。より好ましくは2〜20g/m、さらに好ましくは6〜15g/mである。
【0058】
さらに本発明の化粧シートは、上記化粧層の反対側の面、すなわち銅箔表面に、さらに接着層を介して離型紙が積層されてなるものであってもよい。ここで接着層としては、離型紙を剥離可能な状態で付着させることができるものであれば特に限定されない。
【0059】
本発明の化粧シートは、上記各層を順次積層することによって簡便に製造することができる。また、本発明の化粧シートは、下記に示すように、可燃性の木製板に貼付して用いられることによって、当該可燃性の木製板をバラツキなく安定して難燃化することができる。
【0060】
II.難燃性化粧ボードおよびその製造方法
本発明の難燃性の木製化粧ボードは、可燃性の木製板の表面に、前述する本発明の木材難燃化用化粧シートが貼付されてなることを特徴とする。具体的には、可燃性木製板の表面に、当該表面を覆うように、本発明の木材難燃化用化粧シートが貼着されてなることを特徴とする。
【0061】
ここで木製板には、木材からなるボード、または木材を主剤として製造される木質ボード(木材チップなどの圧縮合材等)が含まれる。木材からなるボードとしては、各種の銘木または間伐木等の材木より、例えば2〜5cmの厚さに切削加工された単板(挽板または突板、および間伐板)、LVL(単板積層材)、集成材、および合板(ラワン合板、針葉樹合板)を挙げることができる。木質ボードとしては、パーティクルボード、OSB(oriented Strand Board)、MDF(Medium Density Fiberboard)、ランバーコアボードなどのように、木片や木材の繊維に接着剤を混ぜて圧縮成形したボートを例示することができる。好ましくは木材からなるボードである。
【0062】
ここで木材の樹種も特には限定されないが、例えば、杉、松、檜、楢、欅、桜、楡、黒柿、栃、桂、楓、槐、楠木等:ローズウッド、チーク、マホガニー、コクタン、シタン、バーズアイメープル、アメリカンブラックウォールナット、クラロウォールナット、ラテヌォールナット、クィンスランドウォールナット、ゼブラウッド、マンガシロ、ブラジリアンローズ、カリン(花梨)、バーシモン、シルバーローズ、パルマ、レッドウッド、パープルウッド、シルキーオーク、タイワンクス、チェリー、マグノリヤ、黒レオ(ダオ)、白レオ、サベリ、ブビンカ、マコレ、マドローナー、ミルトル、メープル、アッシン、インブイヤー等を挙げることができる。好ましくは杉および松である。
【0063】
本発明の難燃性の木製化粧ボードは、たとえば以下のいずれかに示す方法により、製造することができる。
【0064】
(a)予めシート状基材の表面に石灰含有組成物を塗布して、シート状基材上に化粧層を作成しておき、次いで押出しラミネート法等を用いて、接着層(接着剤)を介在させて、銅箔の表面に上記「化粧層を有するシート状基材」を積層、貼着して、本発明の木材難燃化用化粧シートを作成し、次いで、これを接着層(接着剤)を介在させて可燃性木製板の表面上に貼着する。
【0065】
(b)可燃性木製板の表面上に、銅箔を接着剤を介在させて貼着し、この上に接着層を介して、(a)に記載する方法で作成した「化粧層を有するシート状基材」を貼着するか、またはシート状基材を貼着し、その表面に石灰含有組成物を塗布して化粧層を形成する。
【0066】
(c)予め、化粧層、シート状基材、接着層および銅箔からなる木材難燃化用化粧シートを製造し、当該化粧シートを可燃性の木製板上に、接着層を介して貼着する。
【0067】
なお、化粧シートを木製板に貼着するために使用される接着剤としては、例えば天然糊料、合成糊料(メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメトルセルロースなどのセルロース類、ポリビニルアルコールなどの化学糊)、合成樹脂または無機接着剤など、化粧シートの接着層に使用される接着剤を同様に用いることができる。
【0068】
かくして調製される本発明の難燃性の木製化粧ボードは、コーンカロリーメーター試験(ISO 5660)に準拠した「発熱性試験方法」において規定されている難燃基準(試験時間5分間、総発熱量8MJ/ m2以下、最大発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2以下、裏面まで貫通する亀裂や穴が生じない)に適合した難燃性を備えた難燃ボードである。なお、上記「発熱性試験方法」は、国土交通省の指定性能評価機関が建築基準法に基づく防火材料などの性能評価・試験を行うために規定された「防耐火性能試験・評価業務方法」に記載されている方法である。
【0069】
なお、上記難燃性の木製化粧ボードの製造方法は、可燃性木製板を化粧しながら、難燃化するためにも好適に使用することができる。よって、上記方法は、可燃性木製板を、化粧仕上げしながら難燃化するための方法として援用することができる。
【実施例】
【0070】
以下、本発明の内容を以下の実験例及び実施例を用いて具体的に説明する。ただし、これらの実施例等は本発明の一態様にすぎず、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0071】
実施例1〜3、比較例1:木材難燃化用化粧シートの調製
下記処方に従って、石灰含有組成物(塗料)を調製した。
【0072】
消石灰 35.0 質量%
グルタミン酸ナトリウム 0.05
グルコン酸ナトリウム 0.2
合成樹脂エマルジョン 5.0
白色顔料 10.0
体質顔料 27.0
増粘剤 適 量
水 残 部
合 計 100.0 質量%。
【0073】
これを紙製のシート状基材(65g/m2)4検体の表面に、それぞれ乾燥塗膜の厚みが250μm(比較例1)、200μm(実施例1)、150μm(実施例2)、および90μm(実施例3)になるように塗布して乾燥させた(化粧層の形成)。斯くして調製したシートのシート状基材面側に、酢酸ビニル系の接着剤(酢酸ビニルエマルジョン)を介して、9μm厚の銅箔を積層し、化粧シートを調製した(比較例1、実施例1〜3)。
【0074】
実施例4〜6、比較例2:難燃性の木製化粧ボードの製造
実施例1〜3および比較例1で調製した化粧シートを、可燃性の杉板(厚み12mm)の一方の表面に、その表面全面が覆われるように酢酸ビニル系の接着剤(酢酸ビニルエマルジョン)を用いて貼着し、木製化粧ボード(実施例4〜6、比較例2)を製造した。なお、杉板は予め40℃で25日間乾燥させておいたものを使用した。
【0075】
試験例1:難燃木質ボードの発熱性試験(難燃性試験)
上記で製造した木製化粧ボード(実施例4〜6および比較例2)を試験体として、ISO5660−1に準拠したコーンカロリメーター試験法に供した。なお、試験体は、製品間のバラツキを評価するために各々10検体ずつ用意して、当該10検体について試験を行った。
【0076】
<試験方法>
各試験体(寸法99mm×99mm)(実施例4〜6、比較例2)(n=10)を水平に置き、その上方からコーン型の電気ヒーターにより50kW/m2の輻射加熱(ヒーター温度700.3℃)を与え(排気流量:0.24 m3/sec、排気温度:17.4℃、排気圧力:145.636Pa)、電気スパークの口火により着火させ、燃焼性を発熱量により判定し、下記の基準に従って防火性能を評価した。発熱量は燃焼ガス分析による酸素消費量から求めた。試験体の亀裂や溶融については目視により評価した。
【0077】
判定基準(難燃性)
1.加熱開始後5分間の総発熱量が、8MJ/m2以下であること。
2.加熱開始後5分間、防火上有害な裏面まで貫通する亀裂及び穴がないこと。
3.加熱開始後5分間、最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えないこと。
【0078】
実施例4〜6の試験体について試験した結果の代表例を表1に示す。
【0079】
【表1】

また、実施例4〜6および試験例2について、各々10検体ずつコーンカロリメーター試験法に供し、10検体中、難燃基準に合格した割合を表2に示す。
【0080】
【表2】

表1および2に示すように、厚み9μmの銅箔を用い、石灰含有組成物から形成した化粧層の厚みを200μm以下に調整した化粧シートを貼着した木製板(実施例4〜6)は、10検体中10検体が安定して難燃性能を示した。これに対して、化粧層の厚みが250μmの化粧シートを貼着した木製板(比較例2)は、10検体のうち3検体が難燃基準を満たさず、製品によってバラツキが生じることが判明した。このことから、銅箔を覆う化粧層(被覆層)の厚みを200μm以下、好ましくは180μm以下と薄くするほうが、化粧ボード内に熱が籠もることを有意に防止することができ、熱が籠もることによって生じる可燃性木製板の熱分解、並びにそれによる可燃性ガスの放出が有意に抑制できることが判明した。但し、木製板への貼着容易性、および貼着時にひび割れが発生しにくいという点から、化粧シートの化粧層の乾燥厚は150μm以下、好ましくは100μm以下にするほうが望ましいと思われた。
【0081】
実施例7〜9、比較例3:木材難燃化用化粧シートの調製
実施例1〜3で使用した石灰含有組成物(塗料)を紙製のシート状基材(65g/m2)の表面に乾燥塗膜の厚みが250μm(比較例3)、200μm(実施例7)、150μm(実施例8)、および90μm(実施例9)となるように塗布して乾燥させた。次いで、当該乾燥塗膜の表面に下記処方からなる防汚処理材を、70g/m2の割合で塗布した(防汚処理化粧層の形成)。
【0082】
シリコン樹脂エマルション(固形分40%)30.0 質量%
濡れ剤(ノニオン性界面活性剤) 0.6
艶消し剤(シリカ粒子) 2.0
増粘剤 0.4
消泡剤 1.0
水 残 部
合 計 100.0 質量%。
【0083】
斯くして調製したシートのシート状基材面側に、酢酸ビニル系の接着剤(酢酸ビニルエマルジョン)を介して、5μm厚の銅箔を積層し、化粧シートを調製した(比較例3、実施例7〜9)。
【0084】
実施例10〜12、比較例4:難燃性の木製化粧ボードの製造
実施例7〜9および比較例3で調製した化粧シートを、可燃性の杉板(厚み12mm)の一方の表面に、その表面全面が直接覆われるように酢酸ビニル系の接着剤(酢酸ビニルエマルジョン)を用いて貼着し、木製化粧ボード(実施例10〜12、比較例4)を製造した。なお、杉板は予め40℃で25日間乾燥させておいたものを使用した。
【0085】
試験例2:難燃木質ボードの発熱性試験(難燃性試験)
上記で製造した木製化粧ボード(実施例10〜12および比較例4)を試験体として、試験例1の方法に従って、ISO5660−1に準拠したコーンカロリメーター試験法に供した。なお、試験体は、製品間のバラツキを評価するために各々10検体ずつ用意して、当該10検体について試験を行った。10検体中、難燃基準に合格した割合を表3に示す。
【0086】
【表3】

表3に示すように、厚み5μmの銅箔を用い、石灰含有組成物から形成した化粧層の厚みを200μm以下に調整した化粧シートを貼着した木製板(実施例10〜12)は、10検体中10検体が安定して難燃性能を示した。これに対して、化粧層の厚みが250μmの化粧シートを貼着した木製板は、10検体のうち半数が難燃基準を満たさず、製品によってバラツキが生じることが判明した。このことから、厚み5μmの銅箔を用いた場合も、試験例1と同様に、銅箔を覆う化粧層(被覆層)の厚みを200μm以下、好ましくは180μm以下と薄くするほうが、化粧ボード内に熱が籠もることを有意に防止することができ、化粧ボード内に籠もった熱によって可燃性の木製板が熱分解し、可燃性ガスが表面に放出することを抑制できることが判明した。また、化粧層表面に施した防汚処理は、難燃性の評価に影響を与えないことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも5μmの厚みを有する銅箔表面に、接着層およびシート状基材を介して、石灰含有組成物から形成される化粧層が200μm以下の厚みで積層されてなることを特徴とする、木材難燃化用化粧シート。
【請求項2】
銅箔面側に、更に接着層を介して離型紙が積層されてなる、請求項1に記載する木材難燃化用化粧シート。
【請求項3】
可燃性木製板の表面に、請求項1または2に記載する木材難燃化用化粧シートが貼着されてなる、難燃化された木製化粧ボート。
【請求項4】
可燃性木製板の表面に、請求項1または2に記載する木材難燃化用化粧シートを貼着する工程を有する、難燃化された木製化粧ボートの製造方法。
【請求項5】
可燃性木製板の表面に、請求項1または2に記載する木材難燃化用化粧シートを貼着する工程を有する、可燃性木製板を化粧しながら難燃化する方法。

【公開番号】特開2010−260310(P2010−260310A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114704(P2009−114704)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【出願人】(599085541)ヒメノイノベック株式会社 (10)
【Fターム(参考)】