説明

木柄と包丁とそれらの製造方法

【課題】柄部のホゾ穴に水が滞留したとしても、雑菌の発生を抑えて衛生的な木柄と、それを備えた包丁と、それらの製造方法とを提供する。
【解決手段】この木柄は、木製の柄部3を有し、この柄部3の先端3aに有底のホゾ穴4を設けるとともに、ホゾ穴4を含む先端3aから柄尻3dまでを抗菌剤6”に浸漬し、この抗菌剤6”を浸漬した部分のうちのホゾ穴4と柄尻3dとを避けて耐水処理を施したものであって、その柄部3のホゾ穴4に、口輪5’の開口部7を介して、刃体1の中子2を嵌合することで、包丁を完成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に衛生的な木柄と包丁とそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に包丁は、刃先の形状、使用目的によって、例えば、刃先の峰が厚く、全体が重たいことを利用して上方から振り下ろして魚を骨ごとたたき切るように使用される出刃包丁、野菜・根菜などを調理する薄刃包丁、刺身・お造りなどを調理する柳刃包丁など多種に分類されている。これらの包丁は、目的・用途に応じて鋼鉄やステンレス鋼等により刃体を形成し、これに木製の柄等を取り付けて構成されている。
【0003】
図5は従来の一例における柄部を備えた包丁の構造を示す斜視図、図6は図5の柄部の部分断面拡大図である。
【0004】
従来の包丁は、例えば図5および図6に示すように、柄部3の先端3aにホゾ穴4を穿設し、その先端3aに成形された段部3bに口輪5を嵌着した後、刃体1の中子2を嵌合してなるもので、この柄部3における握り部3cには、蝋、あるいは、クリアラッカーなどの塗装が施されている。
【0005】
ところで、包丁は、使用時に水洗を繰り返し、あるいは、調理の最後には必ず洗浄して収納するが、柄が木製である場合、柄部3の先端3aに口輪5を嵌着しているものの、その大きな開口部9からホゾ穴4に水が入り込み、この結果、柄部3が水を吸収する。そして、柄部3は、水による急激な膨張、乾燥に伴う収縮から材料の劣化を生起して、刃体1に対する柄部の取替えの時期を早める。また、柄部3が腐食したり、さらには、柄部3のホゾ穴4に嵌合された、刃体1の中子2が腐食したりする。従って、包丁の使用時あるいは使用後にあっては水を十分に拭き取ることが必要となる。
【0006】
また、柄部3に水が付着すると滑り易くなり、このため柄部3を強く握りしめることが必要になり、これに伴って、その使い易さ、すなわち、使い勝手が低下することになる。特に、上記した出刃包丁のように上方から振り下ろして使用するに際しては、例えば柄部3に付着した水を十分に拭き取る作業が必要となり、また、柄部3が手から抜けないように強く握りしめる必要があって、疲労の原因ともなっている。
【0007】
このため、例えば特許文献1,2では、柄部3の先端3aから柄尻3dの全表面に亘って、水が浸透しない性質を持つ塗料6による塗装を施している。これにより、柄部3が腐食したり、柄部3のホゾ穴4に嵌合された、刃体1の中子2が腐食したりすることが少なくなり、また柄部3に水が付着しにくくなり、このため柄部3を強く握りしめることが不要になる。これに伴って、その包丁や柄の寿命が長くなり、使い易さ、すなわち、使い勝手が向上する、と記載されている。
【特許文献1】特開2002−239950号公報
【特許文献2】特開2003−080163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、前記特許文献1,2の包丁では、柄部3の先端3aから柄尻3dの全表面に亘って、水が浸透しない性質を持つ塗料6による塗装を施しているから、柄部3に水が付着しにくくなるものの、一旦ホゾ穴4に水が入り込むと、そのホゾ穴4から水がまったく出なくなる。このため、柄部3が腐食したり、柄部3のホゾ穴4に嵌合された、刃体1の中子2が腐食したりすることがあり、また柄部3がホゾ穴4に入った水を吸収して急激に膨張し、使い勝手が低下することがある。また、ホゾ穴4に水が滞留することから、その部分に雑菌が発生する。これが調理時に食品に滴下して不衛生なものとなる。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ホゾ穴に水が滞留したとしても雑菌の発生を抑えて衛生的な木柄と、それを備えた包丁と、それらの製造方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、木製の本体を有し、該本体の先端に有底のホゾ穴を設けるとともに、前記ホゾ穴を含む先端から柄尻までを抗菌剤に浸漬したことを特徴とする木柄に関するものである。
【0011】
本発明によれば、木製の本体の先端に有底のホゾ穴が設けられるとともに、前記ホゾ穴を含む先端から柄尻までが抗菌剤に浸漬されたので、その浸漬により本体表面下に浸透した抗菌剤の抗菌作用によって、雑菌の発生を抑えて衛生的な木柄が得られる。
【0012】
請求項2記載の発明のように、前記抗菌剤を浸漬した部分のうちのホゾ穴と柄尻とを避けて耐水処理を施すことが好ましい。
【0013】
請求項2記載の発明によれば、前記抗菌剤を浸漬した部分のうちのホゾ穴と柄尻とを避けて耐水処理を施したことにより、耐水処理を施した本体表面の大半を占める部分からの水の吸収を防止することができるとともに、耐水処理を施していないホゾ穴に水が入ったとしても、その水がホゾ穴からやはり前記耐水処理を施していない柄尻に向けて毛管現象により吸い上げられて外部にて蒸発するので、ホゾ穴内に水が滞留しなくなる。したがって、本体が腐食したり、本体のホゾ穴に嵌合された刃体の中子が腐食したりすることが少なくなり、またホゾ内での雑菌の発生を抑えて衛生的な木柄が得られる。なお、前記浸漬処理により本体の表面下に浸透した抗菌剤は、前記耐水処理された表面上にはほとんど浸出しないことから、木柄の半永久的な抗菌作用を持続することができるようになる。
【0014】
請求項3記載の発明のように、前記ホゾ穴は、前記本体の先端から柄尻手前まで穿設されることが好ましい。
【0015】
請求項3記載の発明によれば、前記ホゾ穴は、前記本体の先端から柄尻手前まで穿設されたので、抗菌剤の浸漬時に、抗菌剤がホゾ穴内に大量に留まり、ホゾ穴から本体内への抗菌剤の浸透量が多くなる。また、ホゾ穴に水が入ったとしても、その水がホゾ穴の底部から柄尻に向けて毛管現象により吸い上げられて外部にて蒸発するが、その吸い上げられる距離が短くなるので、ホゾ穴内の水の蒸発が早くなる。このため、本体が腐食することがより少なくなり、またホゾ穴内での雑菌の発生をさらに効果的に抑えてより衛生的な木柄が得られる。
【0016】
ところで、本発明のごとき木柄においては、本体の先端に刃体の中子を嵌合するのであるが、その本体の先端に水が入りにくくするように合成樹脂製のキャップ状の口輪を設けることが多い。しかし、木柄の乾燥に、自然乾燥ではなく、容器内が家庭用でも180℃、業務用では200℃もの高温になるような食器乾燥器を使用することがあり、耐熱温度が120℃程度の合成樹脂を使用した口輪の耐久性が問題となることがあった。そこで、請求項4記載の発明のように、前記本体の先端に嵌着可能なキャップ状の口輪を、厚さが略0.3mmのステンレス鋼板で形成するとともに、前記口輪の前記本体の先端に対向する部位には、当該部位に挿入されうる刃体の中子の断面形状に対応した開口部を設けることが好ましい。
【0017】
請求項4記載の発明によれば、前記本体の先端に嵌着可能なキャップ状の口輪が、厚さが略0.3mmのステンレス鋼板で形成されるとともに、前記口輪の前記本体の先端に対向する部位には、当該部位に挿入されうる刃体の中子の断面形状に対応した開口部が設けられたので、木柄の乾燥に、前記したような食器乾燥器を使用したとしても、本体の先端に水が入りにくくする機能を長期に亘り維持することができるようになる。このため、本体が腐食することがより少なくなり、また前記した抗菌剤の働きと相俟って、ホゾ穴内での雑菌の発生をさらに効果的に抑えてより衛生的な木柄が得られる。
【0018】
また、使用材料の熱膨張率の差により、本体から口輪が外れてしまうおそれもあった。そこで、請求項5記載の発明のように、前記本体の先端に口輪が嵌着された状態で、該口輪の開口部から前記刃体の中子が圧入されたときに、前記口輪の開口部の周縁部分の少なくとも一部がホゾ穴内に折返されるように、該口輪の断面形状を、前記刃体の中子の断面形状よりも小さく設定することが好ましい。
【0019】
請求項5記載の発明によれば、前記本体の先端に口輪が嵌着された状態で、該口輪の開口部から前記刃体の中子が圧入されたときに、前記口輪の開口部の周縁部分の少なくとも一部がホゾ穴内に折返されるように、該口輪の断面形状が、前記刃体の中子の断面形状よりも小さく設定されるので、上記ホゾ穴内での口輪の開口部の折返し部分により、口輪が外れにくくなる。
【0020】
請求項6記載の発明のように、前記口輪は、該口輪が前記本体の先端に嵌着されるときに、該本体の先端に向かって開き勝手となるようなテーパ状の断面形状を有するものであることが好ましい。
【0021】
請求項6記載の発明によれば、前記口輪は、該口輪が前記本体の先端に嵌着されるときに、該本体の先端に向かって開き勝手となるようなテーパ状の断面形状を有するものであるので、本体の先端に嵌着し易くなり、しかも嵌着された口輪は外れにくくなる。
【0022】
ところで、前記本体の先端に嵌着される口輪の材料によっては、水分を吸収してそこに雑菌が発生することがある。そこで、請求項7記載の発明のように、前記本体の先端に吸水性の口輪を備えた場合には、該口輪を抗菌剤に浸漬することが好ましい。
【0023】
請求項7記載の発明によれば、前記本体の先端に吸水性の口輪を備えた場合には、該口輪を抗菌剤に浸漬することとしたので、その浸漬により口輪に浸透した抗菌剤の抗菌作用によって、雑菌の発生を抑えて衛生的な木柄が得られる。
【0024】
ところで、木柄の本体材料は白木であることが多い。したがって、仮に床面が白色であるとすると、その床面に包丁を落とした場合に、包丁を発見しにくいため、調理作業を阻害することがある。また、長年の使用により、白木の木柄が黒ずんでくると、木柄の衛生感を損なうことがある。さらに、白木の木柄では、重量感や高級感に欠けるといった問題もある。しかし、木柄の本体表面を有色塗装しただけでは、金属たわしなどでこすられると塗装が剥離してしまう。そこで、請求項8記載の発明のように、前記抗菌剤に有色の塗料を混入しておくことにより、該塗料を抗菌剤とともに前記本体に含浸させることが好ましい。
【0025】
請求項8記載の発明によれば、前記抗菌剤に有色の塗料を混入しておくことにより、該塗料を抗菌剤とともに前記本体に含浸させているので、単純に木柄の本体表面を有色塗装したときのように、金属たわしでこすっても塗装が剥離してしまうことはない。そして、例えば赤色や茶色の塗料を抗菌剤に混入しておけば、仮に白色の床面に包丁を落としたとしても、包丁を簡単に発見できるので、調理作業を阻害することがなくなる。また、黒色の塗料を抗菌剤に混入しておけば、使用により木柄が黒ずんできて衛生感を損なうことがなくなるとともに、木柄の重量感や高級感がかもし出され、これらにより調理意欲が促進されるというメリットがある。
【0026】
また、抗菌剤とともに有色の塗料を本体に含浸させたときには、本体表面で色ムラが生じることがある。また、自然の木目のままの木柄を使用したいといった要請にも応える必要がある。そこで、請求項9記載の発明のように、無色又は有色の塗料を含むシーラーを前記本体に塗布することが好ましい。
【0027】
請求項9記載の発明によれば、無色又は有色の塗料を含むシーラーを前記本体に塗布したので、本体表面での色ムラが生じることがなくなる。そして、例えば赤色や茶色や黒色の塗料を含むシーラーを本体に塗布したとすると、上記したような種々のメリットをより確実に発揮できるようになる。また、無色の塗料を含むシーラーを本体に塗布したとすると、自然の木目のままの木柄が得られ、かかる木柄を使用したいといった要請にも応えることができて便利である。
【0028】
請求項10記載の発明は、該刃体の中子を、前記請求項1〜9のいずれか1項に記載の木柄のホゾ穴に嵌合してなることを特徴とする包丁に係るものである。
【0029】
請求項10記載の発明によれば、刃体の中子が、前記請求項1〜9のいずれか1項に記載の木柄に設けられたホゾ穴に嵌合されたので、ホゾ穴に水が入ったとしても、このホゾ穴に嵌合された、刃体の中子が腐食することが少なくなり、また雑菌の発生を抑えて衛生的な包丁が得られる。
【0030】
請求項11記載の発明は、木製の本体の先端に有底のホゾ穴を設けておき、この本体のホゾ穴を含む先端から柄尻までを抗菌剤で浸漬する工程と、前記抗菌剤を浸漬した部分のうちのホゾ穴と柄尻とを避けて耐水処理を施す工程と、を備えたことを特徴とする木柄の製造方法に係るものである。
【0031】
請求項11記載の発明によれば、木製の本体の先端に有底のホゾ穴が設けられ、この本体のホゾ穴を含む先端から柄尻までが抗菌剤で浸漬され、前記抗菌剤が浸漬された部分のうちのホゾ穴と柄尻とを避けて耐水処理が施されることにより、耐水処理を施した本体表面の大半を占める部分からの水の吸収を防止することができるとともに、耐水処理を施していないホゾ穴に水が入ったとしても、その水がホゾ穴からやはり前記耐水処理を施していない柄尻に向けて毛管現象により吸い上げられて外部にて蒸発する。これにより、ホゾ穴に水が滞留しにくくなるので、本体が腐食することが少なくなり、また雑菌の発生を抑えて衛生的な木柄が得られる。また、仮にホゾ穴内に水が滞留したとしても、前記抗菌剤の浸漬によってホゾ穴内面に浸透した抗菌剤の抗菌作用により、ホゾ穴内での雑菌の発生を抑えて衛生的な木柄が得られる。
【0032】
請求項12記載の発明のように、刃体の中子を、前記請求項11記載の木柄のホゾ穴に嵌合してなることが好ましい。
【0033】
請求項12記載の発明によれば、刃体の中子が、前記請求項11記載の木柄のホゾ穴に嵌合してなるものであるので、ホゾ穴に水が入ったとしても、このホゾ穴に嵌合された、刃体の中子が腐食したりすることが少なくなり、また雑菌の発生を抑えて衛生的な包丁が得られる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、木製の本体の先端に有底のホゾ穴が設けられるとともに、前記ホゾ穴を含む先端から柄尻までが抗菌剤に浸漬されたので、その浸漬により本体表面下に浸透した抗菌剤の抗菌作用によって、雑菌の発生を抑えて衛生的な木柄が得られる。
【0035】
請求項10記載の発明によれば、刃体の中子が、前記請求項1〜9のいずれか1項に記載の木柄に設けられたホゾ穴に嵌合されたので、ホゾ穴に水が入ったとしても、このホゾ穴に嵌合された、刃体の中子が腐食することが少なくなり、また雑菌の発生を抑えて衛生的な包丁が得られる。
【0036】
請求項11記載の発明によれば、木製の本体の先端に有底のホゾ穴が設けられ、この本体のホゾ穴を含む先端から柄尻までが抗菌剤で浸漬され、前記抗菌剤が浸漬された部分のうちのホゾ穴と柄尻とを避けて耐水処理が施されることにより、耐水処理を施した本体表面の大半を占める部分からの水の吸収を防止することができるとともに、耐水処理を施していないホゾ穴に水が入ったとしても、その水がホゾ穴からやはり前記耐水処理を施していない柄尻に向けて毛管現象により吸い上げられて外部にて蒸発する。これにより、ホゾ穴に水が滞留しにくくなるので、本体が腐食することが少なくなり、また雑菌の発生を抑えて衛生的な木柄が得られる。また、仮にホゾ穴内に水が滞留したとしても、前記抗菌剤の浸漬によってホゾ穴内面に浸透した抗菌剤の抗菌作用により、ホゾ穴内での雑菌の発生を抑えて衛生的な木柄が得られる。
【0037】
請求項12記載の発明によれば、刃体の中子が、前記請求項11記載の木柄のホゾ穴に嵌合してなるものであるので、ホゾ穴に水が入ったとしても、このホゾ穴に嵌合された、刃体の中子が腐食したりすることが少なくなり、また雑菌の発生を抑えて衛生的な包丁が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
(実施形態1)
図1は本発明の実施形態1に係る柄部3を備えた包丁の構成を示す斜視図、図2はその部分断面拡大図である。
【0039】
図1、図2に示すように、本実施形態1に係る包丁の基本的な構造は、従来と同様に、鋼鉄製又はステンレス鋼製の刃体1を有しており、この刃体1には中子2が連続して形成されている。そして、この中子2を柄部(本体に相当する。)3に差し込み嵌合するようになっている。
【0040】
柄部3は、例えば朴(ほう)などの白木を切削加工して断面小判状に形成し、ペーパー仕上げしたものであり、その先端3a側には、若干縮径させた段部3bが形成されている。この先端3a側から断面略長四角状のホゾ穴4が穿孔されており、前記段部3bに口輪5’を嵌着した後、前記刃体1の中子2を嵌合するようになっている。なお、柄部3の材料は桜材などであってもよいし、断面形状は多角形やその他の異形などであってもよい。
【0041】
本実施形態1の柄部3では、さらに、前記ホゾ穴4を含む先端3aから柄尻3dまでの全ての表面を、抗菌剤6”をシンナーや水などの薄め液に溶解させた液体に浸漬するようになっている。この浸漬により、抗菌剤6”が柄部3の表面下にまで浸透していく。本発明者による試作経験では、3時間以上の浸漬時間を必要とすることがわかった。
【0042】
そして、適宜乾燥することによりシンナー等を蒸発除去した後に、柄部3の前記浸漬した部分のうちのホゾ穴4と柄尻3dとを避けて、抗菌剤6”の目止め液としてのシーラー6’を2回以上塗布することにより、耐水処理を施すようになっている。なお、前記浸漬処理により柄部3の表面下に浸透した抗菌剤6”は、前記耐水処理された表面上にはほとんど浸出しないことから、シーラー6’にも、抗菌剤6”を入れておくことが好ましい。
【0043】
このように、前記浸漬処理により柄部3の表面下に浸透した抗菌剤6”は、前記耐水処理された表面上にはほとんど浸出しないことから、柄部3の半永久的な抗菌作用を持続することができるようになる。そして、柄部3のホゾ穴4と柄尻3dとを避けて耐水処理を施したことにより、柄部3の使用時に、ホゾ穴4に水が入ったとしても、その水がホゾ穴4から柄尻3dに向けて毛管現象により吸い上げられて外部に出ていき、そこで蒸発するので、ホゾ穴4内に水が滞留しにくくなる。なお、この蒸発によって、水分はなくなるものの、抗菌剤6”は柄部3の表面下に留まることがわかった。抗菌剤6”の粒子径が水の粒子径に比べて大きいため、その抗菌剤6”は前記毛管現象によって吸い上げられることがないからである。
【0044】
前記ホゾ穴4は、いわゆる有底であって、先端3aから柄尻3d手前まで穿設されたものであり、これにより、抗菌剤6”の浸漬時に、抗菌剤6”がホゾ穴4内に大量に留まり、ホゾ穴4から柄部3内への抗菌剤6”の浸透量が多くなるようにしている。また、ホゾ穴4の底部と柄尻3dとの間の距離を短縮して、前記毛管現象をできるだけ起こりやすくしている。
【0045】
前記口輪5’は、例えば合成樹脂製のキャップ状の本体に、刃体1の中子2の幅寸法に略等しい幅を有する断面略長四角状の開口部7を設けている。そして、前記耐水処理を施した柄部3を、適宜乾燥させた後に、口輪5’の本体を、前記段部3bに嵌着するようになっている。これにより、開口部7のまわりの部分で、柄部3のホゾ穴4まわりを略隙間無く覆うことができるので、柄部3の使用中において、そのホゾ穴4から水が極力入りにくくなるようにしている。
【0046】
以下、主に包丁の柄部3の製造方法を説明する。図3は主に包丁の柄部3の製造方法を示す工程図である。
【0047】
図3に示すように、適宜用意した角材を切削加工して、前記段部3b付きの柄部3を形成し、この柄部3の先端3aから柄尻3dにかけて断面長四角状のホゾ穴4を形成した上で、柄部3をさらにペーパーで仕上げ加工する(ステップS1)。
【0048】
このペーパーで仕上げ加工した柄部3を、シンナーなどの薄め液に溶解させた抗菌剤6”を入れた容器に、3時間以上浸漬することにより、抗菌剤6”を柄部3の表面下に十分に浸透させる(ステップS2)。この抗菌剤6”を浸透させた柄部3を、例えば図示しない遠赤外線ヒーターを用いて乾燥させることによりシンナーなどを蒸発除去する(ステップS3)。
【0049】
ついで、柄部3を、その長手方向の軸まわりに回転させながら、抗菌剤6”を含むシーラー6’を、例えば図示しないスプレーガンを用いて、前記柄部3の軸直角方向から、その表面に向けて2回以上吹き付けることにより均一に塗布する(ステップS4)。この場合には、柄部3のホゾ穴4と柄尻3dには、シーラー6’がほとんど付着することがない。このようにして、抗菌剤6”を浸漬した部分のうちのホゾ穴4と柄尻3dとを避けて耐水処理を施すことができる。なお、発明者による試作段階で、シーラー6’の膜厚が非常に薄いので、1回の吹き付けだけでは十分な膜厚が得られないので、2回以上の吹き付けが必要であることがわかった。このシーラー6’を塗布した柄部3を、例えば図示しない遠赤外線ヒーターを用いて乾燥させる(ステップS5)。
【0050】
この柄部3の段部3bに、口輪5’を嵌着する(ステップS6)。しかる後に、刃体1の中子2を、口輪5’の開口部7を介して、柄部3のホゾ穴4に嵌合することにより、包丁として完成させる(ステップS7)。
【0051】
この実施形態1によれば、木製の柄部3の先端に有底のホゾ穴4が設けられるとともに、前記ホゾ穴4を含む先端3aから柄尻3dまでが抗菌剤6”に浸漬され、前記抗菌剤6”を浸漬した部分のうちのホゾ穴4と柄尻3dとを避けて耐水処理を施したことにより、ホゾ穴4に水が入ったとしても、その水がホゾ穴4から柄尻3dに向けて毛管現象により吸い上げられて外部にて蒸発するので、柄部3が腐食することが少なくなり、またホゾ穴4内での雑菌の発生を抑えて衛生的な木柄が得られる。また、仮にホゾ穴4内に水が滞留したとしても、そのホゾ穴4内面に浸透した抗菌剤6”の抗菌作用により、ホゾ穴4内での雑菌の発生を抑えて衛生的な木柄が得られる。
【0052】
そして、刃体1の中子2が、口輪5’の狭い開口部7を介して、この柄部3に設けられたホゾ穴4に嵌合されたので、ホゾ穴4に水が入りにくくなっているが、ホゾ穴4に水が入ったとしても、上記したように水が滞留しにくくなっているから、柄部3のホゾ穴4に嵌合された、刃体1の中子2が腐食することが少なくなり、また雑菌の発生を抑えて衛生的な包丁が得られる。仮にホゾ穴4に水が滞留したとしても、上記したように、そのホゾ穴4内面に浸透した抗菌剤6”の抗菌作用により、ホゾ穴4内での雑菌の発生を抑えて衛生的な包丁が得られる。
【0053】
なお、上記実施形態1では、柄部3の抗菌剤6”を浸漬した部分のうちのホゾ穴4と柄尻3dとを避けて耐水処理を施すこととしているが、例えば柄部3の握り部3cを避けて耐水処理を施すこととしてもよい。その場合、ホゾ穴4に水が入ったとしても、その水がホゾ穴4から握り部3cに向けて毛管現象により吸い上げられて外部にて蒸発するので、柄部3が腐食することが少なくなり、またホゾ穴4内での雑菌の発生を抑えて、衛生的な木柄が得られる。
【0054】
また、上記実施形態1では、特に柄部3のホゾ穴4は柄尻3d手前まで穿設されているものとしたが、各種包丁の刃体1の中子2の長さの相違を考慮して、通常は、ホゾ穴4は深目に設定されているので、わざわざホゾ穴4の深さをより深く設定する必要はない。そのような場合でも、ホゾ穴4に水の毛管現象により吸い上げられる距離は短いものとなり、ホゾ穴4内の水の蒸発が早くなる。このため、柄部3が腐食することが少なくなり、またホゾ穴4内での雑菌の発生を効果的に抑えてより衛生的な木柄が得られる。
【0055】
また、上記実施形態1では、柄部3の段部3bに嵌着可能な口輪5’として、例えば合成樹脂製のキャップ状の本体に、刃体1の中子2が挿入可能な断面略長四角状の開口部7を設けているが、従来のように、大きな開口部9を有する口輪5を用いることとしてもよい。その場合には、柄部3のホゾ穴4まわりの隙間が大きくなって、そのホゾ穴4から水が入りやすくはなるものの、上記抗菌剤6”の抗菌作用により、仮にホゾ穴4に水が滞留したとしても、雑菌の発生を抑えて衛生的な木柄が得られる。
【0056】
また、上記実施形態1では、口輪5’は合成樹脂製としているが、金属製や水牛角製であってもよい。特に、水牛角製の口輪5’の場合には、水が吸着してそこから雑菌が発生することがあるので、その口輪をも抗菌剤6”に浸漬することが好ましい。具体的には、口輪5’を、水で希釈した抗菌剤6”を入れた容器に浸漬して、乾燥させることとする。このようにして、口輪5’を抗菌剤6”に浸漬することにより、口輪5’に浸透した抗菌剤6”の抗菌作用によって、雑菌の発生を抑えて衛生的な木柄が得られる。
【0057】
(実施形態2)
ところで、木柄の柄部3の乾燥には、自然乾燥が推奨されるところであるが、近年、食器乾燥器により乾燥することが多くなっている。この食器乾燥器は、容器内が家庭用でも180℃、業務用では200℃もの高温になるから、耐熱温度が120℃程度の合成樹脂を使用した口輪5’の耐久性が問題となることがある。また、使用材料の熱膨張率の差により、柄部3から口輪5’が外れてしまうおそれもある。この実施形態2は、そのような不具合を解消するものであり、以下説明する。
【0058】
図4はステンレス製の薄板を用いた口輪5”の構造を示す図であって、(a)は正面図、(b)は側断面図である。以下、金属性の口輪のうち、特に錆のでないステンレス製の薄板を用いた場合の口輪5”について説明する。なお、図4(a)(b)では、説明の便宜上、口輪5”の板厚や折返し量、口輪5”と柄部3の段部3bとのテーパ角度などを、それぞれ誇張している。
【0059】
すなわち、そのような場合には、例えば図4(a)(b)に示すように、柄部3の先端3aに嵌着可能なキャップ状の口輪5”を、厚さが略0.3mmのステンレス鋼板で形成するとともに、口輪5”のうち柄部3の先端3aに対向する部位には、当該部位に挿入されうる刃体1の中子2の断面形状に対応した開口部7を設けることとする。
【0060】
具体的には、柄部3の先端3aに口輪5”が嵌着された状態で、この口輪5’の開口部7から刃体1の中子2が圧入されたときに、前記口輪5”の開口部7の周縁部分の少なくとも一部がホゾ穴4内に折返されるように、該口輪5”の断面形状を、刃体1の中子2の断面形状よりも小さく設定する。
【0061】
また、口輪5”は、該口輪5”が柄部3の先端3aに嵌着されるときに、該柄部3の先端3aに向かって開き勝手となるようなテーパ状の断面形状を有するものである。このとき、柄部3の段部3bも同様のテーパ状の断面形状を有するものであることが好ましい。
【0062】
ここで、ステンレス鋼の厚さを略0.3mmとしたのは、本発明者の経験値に基づくものであり、具体的には、0.2mmよりも薄いものではプレス加工で破断することがあり、0.4mmよりも厚いものでは前記開口部7での折返しがうまくいかないからである。
【0063】
これによれば、木柄の乾燥に、前記したような食器乾燥器を使用したとしても、柄部3の先端3dに水が入りにくくする機能を長期に亘り維持することができるようになる。このため、柄部3が腐食することがより少なくなり、また前記した抗菌剤6”の働きと相俟って、ホゾ穴4内での雑菌の発生をさらに効果的に抑えてより衛生的な木柄が得られるようになる。
【0064】
また、上記ホゾ穴4内での口輪5”の開口部7の折返し部分により、口輪5”が外れにくくなる。さらに、口輪5”は、該口輪5’が柄部3の先端3aに嵌着されるときに、該柄部3の先端3aに向かって開き勝手となるようなテーパ状の断面形状を有するものであるので、柄部3の先端3aから段部3bにかけて嵌着し易くなり、しかも嵌着された口輪5”は外れにくくなるといったメリットもある。
【0065】
(実施形態3)
ところで、上記実施形態1では、木柄の柄部3は、例えば朴(ほう)などの白木であるとしている。したがって、仮に床面が白色であるとすると、その床面に包丁を落とした場合に、包丁を発見しにくいため、調理作業を阻害することがある。また、長年の使用により、白木の柄部3が黒ずんでくると、その衛生感を損なうことがある。さらに、白木の柄部3では、重量感や高級感に欠けるといった問題もある。しかし、木柄の柄部3の表面を有色塗装しただけでは、金属たわしなどでこすられると塗装が剥離してしまう。そこで、この実施形態3では、前記抗菌剤6”に有色の塗料を混入しておくことにより、該塗料を抗菌剤6”とともに柄部3に含浸させることとした。
【0066】
本実施形態3では、このように前記抗菌剤6”に有色の塗料を混入しておくことにより、該塗料を抗菌剤6”とともに木柄の柄部3に含浸させると、単純に柄部3の表面を有色塗装したときのように、金属たわしでこすっても塗装が剥離してしまうことはない。そして、例えば赤色や茶色の塗料を抗菌剤6”に混入しておけば、仮に白色の床面に包丁を落としたとしても、包丁を簡単に発見できるので、調理作業を阻害することがなくなる。また、黒色の塗料を抗菌剤6”に混入しておけば、使用により木柄が黒ずんできて衛生感を損なうことがなくなるとともに、木柄の重量感や高級感がかもし出され、これらにより調理意欲が促進されるというメリットがある。
【0067】
しかし、抗菌剤6”とともに有色の塗料を柄部3に含浸させたときには、柄部3の表面で色ムラが生じることがある。また、上記実施形態1において、シーラー6’を塗布するときに、自然の木目のままの木柄を使用したいといった要請にも応える必要もある。そこで、本実施形態3では、無色又は有色の塗料を含むシーラー6’を前記柄部3に塗布することとした。
【0068】
このように無色又は有色の塗料を含むシーラー6’を前記柄部3に塗布したとすると、柄部3の表面での色ムラが生じることがなくなる。そして、例えば赤色や茶色や黒色の塗料を含むシーラー6’を柄部3に塗布したとすると、本実施形態3の上記したような種々のメリットをより確実に発揮できるようになる。また、無色の塗料を含むシーラー6’を柄部3体に塗布したとすると、自然の木目のままの木柄が得られ、かかる木柄を使用したいといった要請にも応えることができて便利である。
【0069】
また、上記実施形態1では、木柄の柄部3に抗菌剤6”を浸漬しており、この実施形態3では、有色の塗料を抗菌剤6”に混入させているが、その応用例として、抗菌剤6”を柄部3に含浸させるとともに、別途に有色の塗料を柄部3に含浸させるようにしてもよい。ただし、その場合には工程数が増加するため経済的とはいえない。さらなる応用例として、有色の塗料を単体で木柄の柄部3に含浸させることや、さらに無色又は有色の塗料を含むシーラーを前記柄部3に塗布することとしてもよいのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施形態1に係る柄部を備えた包丁の構造を示す斜視図である。
【図2】図1の柄部の部分断面拡大図である。
【図3】主に包丁の柄部の製造方法を示す工程図である。
【図4】ステンレス製の薄板を用いた口輪の構造を示す図であって、(a)は正面図、(b)は側断面図である。
【図5】従来の一例における柄部を備えた包丁の構造を示す斜視図である。
【図6】図5の柄部の部分断面拡大図である。
【符号の説明】
【0071】
1 刃体
2 中子
3 柄部(本体に相当する。)
4 ホゾ穴
5’,5” 口輪
6’ 抗菌剤、シーラー
6” 抗菌剤
7 開口部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
木製の本体を有し、該本体の先端に有底のホゾ穴を設けるとともに、前記ホゾ穴を含む先端から柄尻までを抗菌剤に浸漬したことを特徴とする木柄。
【請求項2】
前記抗菌剤を浸漬した部分のうちのホゾ穴と柄尻とを避けて耐水処理を施したことを特徴とする請求項1記載の木柄。
【請求項3】
前記ホゾ穴は、前記本体の先端から柄尻手前まで穿設されたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の木柄。
【請求項4】
前記本体の先端に嵌着可能なキャップ状の口輪を、厚さが略0.3mmのステンレス鋼板で形成するとともに、前記口輪の前記本体の先端に対向する部位には、当該部位に挿入されうる刃体の中子の断面形状に対応した開口部を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の木柄。
【請求項5】
前記本体の先端に口輪が嵌着された状態で、該口輪の開口部から前記刃体の中子が圧入されたときに、前記口輪の開口部の周縁部分の少なくとも一部がホゾ穴内に折返されるように、該口輪の断面形状を、前記刃体の中子の断面形状よりも小さく設定したことを特徴とする請求項4記載の木柄。
【請求項6】
前記口輪は、該口輪が前記本体の先端に嵌着されるときに、該本体の先端に向かって開き勝手となるようなテーパ状の断面形状を有するものであることを特徴とする請求項4又は5記載の木柄。
【請求項7】
前記本体の先端に吸水性の口輪を備え、該口輪を抗菌剤に浸漬したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の木柄。
【請求項8】
前記抗菌剤に有色の塗料を混入しておくことにより、該塗料を抗菌剤とともに前記本体に含浸させたことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の木柄。
【請求項9】
無色又は有色の塗料を含むシーラーを前記本体に塗布したことを特徴とする請求項2又は8記載の木柄。
【請求項10】
刃体の中子を、前記請求項1〜9のいずれか1項に記載の木柄のホゾ穴に嵌合してなることを特徴とする包丁。
【請求項11】
木製の本体の先端に有底のホゾ穴を設けておき、この本体のホゾ穴を含む先端から柄尻までを抗菌剤で浸漬する工程と、
前記抗菌剤を浸漬した部分のうちのホゾ穴と柄尻とを避けて耐水処理を施す工程と、
を備えたことを特徴とする木柄の製造方法。
【請求項12】
刃体の中子を、前記請求項11記載の木柄のホゾ穴に嵌合してなることを特徴とする包丁の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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