説明

木粉高充填樹脂成形体及び屋外設置用構造物

【課題】熱可塑性合成樹脂における微視的なクリープ現象の発生を抑制することで、水分の多い屋外で用いた場所でもクラックの発生が起こりにくい木粉高充填樹脂成形体と屋外設置用構造物を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂に木粉と架橋剤を配合させて配合成分を架橋させることで、熱可塑性樹脂の各分子鎖間の結合が多くなり、それぞれがより強固に結合する。木粉を取り巻く熱可塑性樹脂の各分子鎖間結合が強固になることで、吸湿による木粉の膨張が抑制され、木粉高充填樹脂成形体の吸水性を低下できる。このため、熱可塑性樹脂100重量部に対して木粉65〜400重量部を高充填されていても、吸水による寸法変化やクラックの発生を起こりにくくできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋外で好適に使用される屋外設置用構造物と、これを形成する合成樹脂に木粉が高充填されて形成された木粉高充填樹脂成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂に木粉を配合させた木質感を有する樹脂成形体については種々の発明が開示されている。
【0003】
例えば特許文献1においては、木材を用いてなる粉状体と、熱可塑性樹脂とを混合して木質成形材を形成する木質成形材の製造方法において、

前記粉状体及び前記熱可塑性樹脂に加えて、白色顔料と、着色剤と、白色系の体質顔料とを混合することを特徴とする木質成形材の製造方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2007−185890号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
木粉を配合させた樹脂成形体を水分に多く接触する場所で使用すると、配合された木粉が水分を吸収して膨潤し、体積が膨張することから合成木材内で微少な内部応力が発生される。かかる内部応力が長期に亘って働き続けると、樹脂成形体内部における歪みが増大するクリープ現象を発生させ、これにより更に木粉への水分の吸収が促進される。この様な現象が持続的に生じることで寸法変化が大きくなり、視認されるまでの大きさとなるとクラックが発生したり、強度の低下及び美観の悪化を招いたりする恐れがある。
特許文献1の中では、吸水若しくは吸湿による木質成形材の寸法の変化等を抑制するために、吸湿して膨潤する傾向の小さな酸性白土を体質顔料として用いる事項について記載されているが、この方法では木材を用いた粉状体の吸湿について抑制することができず、成形材全体の吸水性低減の方法として効果が小さいという問題点があった。
【0006】
そこで本発明は、配合した木粉の吸水による膨潤を抑制して吸水性を低減させた木粉高充填樹脂成形体と、これを用いて形成した屋外設置用構造物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は以下のような構成としている。
すなわち本発明に係る木粉高充填樹脂成形体は、熱可塑性樹脂に木粉を配合し押出成形により成形された樹脂成形体であって、
該樹脂成形体は前記熱可塑性樹脂100重量部に対して前記木粉が65〜400重量部含有され、
且つ前記樹脂成形体には架橋剤が配合されて前記の配合成分を架橋させ、吸水性を低下させたことを特徴としている。
【0008】
熱可塑性樹脂100重量部に対して65〜400重量部の木粉を高充填して押出成形した木粉高充填樹脂成形体は、熱可塑性樹脂に対して比較的安価な木粉の配合量を大きくしていることでコストを低減できるとともに、剛性を高め、曲げ応力などの特性をより木材に近いものにすることができる。
又、かように木粉を高充填すれば、前述のように吸水性による劣化が危惧されるが、本発明においては架橋剤を配合することにより、以下の様に吸水性を低下できる。
すなわち、本発明に係る木粉高充填樹脂成形体によれば、架橋剤を配合させて押出成形により成形して前記樹脂成形体の配合成分を架橋させるので、熱可塑性樹脂の各分子鎖間の結合が多くなり、それぞれがより強固に結合する。木粉を取り巻く熱可塑性樹脂の各分子鎖間結合が強固になることで、吸湿による木粉の膨張が抑制され、木粉高充填樹脂成形体の吸水性を低下できる。
また、架橋剤を配合させて押出成形により成形して前記樹脂成形体の配合成分を架橋させるので、木粉を構成するセルロースなどが有する水酸基に熱可塑性樹脂の分子鎖が架橋し、木粉と熱可塑性樹脂の結合を強固にする効果も得ることができる。この効果により、吸湿による木粉の膨張がより抑制され、木粉高充填樹脂成形体の吸水性を低下できる。
【0009】
また、熱可塑性樹脂に木粉と架橋剤とを配合して、前記木粉高充填樹脂成形体より木粉の含有割合が小さい木粉低充填合成樹脂層を前記木粉高充填樹脂成形体の外側に設けて木粉高充填樹脂成形体を形成すれば、木粉を高充填することで木粉高充填樹脂成形体の表面にスキン層が生じやすくなる傾向が木粉低充填合成樹脂層を設けることで抑制され、高い木質感を得ることができる。
また、配合した木粉による吸水がより小さな層が外側に設けられるので、前記の木粉高充填樹脂成形体の吸水性を低減できる。
また、木粉低充填合成樹脂層を、熱可塑性熱可塑性樹脂100重量部に対して木粉を11〜65重量部含有させて形成すれば、木質感を損なわず高品質な木粉高充填樹脂成形体を形成することができる。
【0010】
また、前記木粉高充填樹脂成形体を用いて屋外設置用構造物を形成すれば、雨天時や河川付近など湿気の多い状況でも、高い木質感と耐久性とを両立させることができ好ましい。前記の屋外設置用構造物としては、テラス、バルコニー、デッキ材、床材、駅前広場や公園の遊歩道、池や泉水等に懸かる木橋、自然公園内の湿地等に渡された木道、ベンチ、などを好適に形成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る木粉高充填樹脂成形体と屋外設置用構造物によれば、配合した木粉による吸水性を低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施の形態を図面に基づき具体的に説明する。
図1は本発明に係る木粉高充填樹脂成形体の実施の一形態を示す図であり、図2は本発明に係る木粉高充填樹脂成形体の配合成分と吸水性と曲げ特性を表す表であり、図3は本発明に係る木粉高充填樹脂成形体の実施の他の一形態を示す図であり、図4は本発明に係る屋外設置用構造物の実施の一形態を示す図である。
【0013】
図面において、1は木粉高充填樹脂成形体1である。
木粉高充填樹脂成形体1は、断面矩形を形成する板枠部11内にリブ部12により二個の中空部13が設けられたものであり、板枠部11及びリブ部12は熱可塑性樹脂を45重量部、木粉を55重量部、架橋剤を0.08重量部配合して、押出成形により成形されたものである。
【0014】
ここで、板枠部11の断面矩形における四隅を形成している角部14については、樹脂成形品として成形後の内部応力の発生が不可避なものであり、常時角部14を形成する板枠部11を押し広げる方向Y1に応力が生じている。板枠部11を形成する合成樹脂中の木粉に水分が吸収されると、上述の如く微視的なクリープ現象が発生してクラックが発生しやすくなるが、この様な応力が生じている角部14の内側においてとりわけクラックの発生が起こりやすくなる。
【0015】
木粉高充填樹脂成形体1において、含まれる木粉の量が少ないと、木粉が水分を含んで膨潤する度合いが小さくクラックが発生する恐れは殆どないが、熱可塑性樹脂100重量部に対して前記木粉が65重量部以上含有されるとクラックの発生が懸念される状態となる。熱可塑性樹脂100重量部に対して木粉の配合量が400重量部を上回ると、成形時の流動性が極めて悪化し、押出成形すること自体が極めて困難な状態となる。
木粉高充填樹脂成形体1を構成する配合成分に架橋剤を配合することで、熱可塑性樹脂の各分子鎖間の結合が多くなり、それぞれがより強固に結合する。木粉を取り巻く熱可塑性樹脂の各分子鎖間結合が強固になることで、吸湿による木粉の膨張が抑制され、木粉高充填樹脂成形体の吸水性が低下する。
また、木粉を構成するセルロースなどが有する水酸基に熱可塑性樹脂の分子鎖が架橋し、木粉と熱可塑性樹脂の結合を強固にする効果も得ることができる。
また、木粉を構成するセルロースなどが有する水酸基に熱可塑性樹脂の分子鎖や他の木粉が架橋し、水酸基が失われることによって、木粉の親水性が低減して木粉高充填樹脂成形体の吸水性が低下する効果も期待できる。
【0016】
木粉高充填樹脂成形体1の形成に用いられる熱可塑性合成樹脂としては、押出成形可能な熱可塑性樹脂であれば特に限定されるものではなく、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド(ナイロン)、ポリアセタール,ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチック・ポリスチレン、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、ポリエーテルニトリル等を用いることができる
【0017】
また木粉については、熱可塑性樹脂100重量部に対して65〜400重量部配合でき、押出成形により著しい焦げや変成等が発生しないものであれば特に限定されるものではないが、スギ、ヒノキ、ベイツガ等がよく使用され、その粒径は20〜100メッシュ程度のものが好適である。木粉は熱可塑性樹脂100重量部に対して65〜400重量部配合されるが、最も好適な配合割合は熱可塑性樹脂100重量部に対して100〜150重量部である。
【0018】
また架橋剤については、木粉高充填樹脂成形体1を構成する熱可塑製樹脂を架橋させうるものであれば特に限定されるものではないが、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステル、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド等の有希過酸化物を好適に用いることができ、中でもジクミルパーオキサイドなどのジアルキルパーオキサイドを好適に用いることができる。
架橋剤の配合量は、選択した架橋剤に応じて調整するが、熱可塑性樹脂と木粉との合計を100重量部としたときに、0.01〜0.4重量部を配合し、好適には0.02〜0.2重量部を配合する。
架橋剤の配合量が0.01重量部以下では架橋による吸水性低下の効果を十分に得られない。また、配合量を0.4重量部以上とすれば、架橋により粘度が上がりすぎ、成形が困難となる。
【0019】
図2は本発明に係る木粉高充填樹脂成形体の配合成分と吸水性と曲げ特性を表す表である。
以下に実施例と比較例について記載する。
【0020】
実施例1は、 高密度ポリエチレン樹脂45重量部に、ベイツガの木粉(80メッシュ)を55重量部と、架橋剤として2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンを0.05重量部配合したものを原料とし、押出成形により、図1に示した形状の木粉高充填樹脂成形体1を形成した。尚、木粉高充填樹脂成形体の厚みは7mm、幅は200mm、である。また図2において、前記の架橋剤は架橋剤Aとして表記している。
【0021】
実施例2は、架橋剤としてジクミルパーオキサイドを0.08重量部配合した以外は実施例2と同様にして形成した。図2において、前記の架橋剤は架橋剤Bとして表記している。
【0022】
比較例1は、架橋剤を配合させないこと以外は実施例1と同様にして形成した。
【0023】
吸水率の測定方法としては、実施例及び比較例の合成木材を、60℃の温水に20日間浸漬し、浸漬から6,13,20日目に吸水率(浸漬前からの重量増の割合)を測定した。
【0024】
曲げ強さの測定方法としては、JIS K 7171による曲げ試験に従って測定した。
【0025】
曲げ弾性率の測定方法としては、JIS K 7171による曲げ試験に従って測定した。
【0026】
図2に示すように、架橋剤を配合させた実施例1〜2については、配合させていない比較例1と比較して全ての測定において吸水率が低下している。
また、曲げ強さと曲げ弾性率の測定においても、実施例1〜2は比較例1よりも高い値を示している。
【0027】
図3は、本発明に係わる木粉高充填樹脂成形体の実施の他の一形態を示す斜視図である。(イ)は図1の実施形態と同じ配合成分により、断面矩形の板枠部内にリブ部と二個の中空部を備えた木粉高充填樹脂部Cが形成され、その外側には、顔料などにより着色された熱可塑性樹脂を80重量部、木粉を20重量部配合した木粉低充填合成樹脂層2が押出成形時に一体に形成されている。
【0028】
木粉低充填合成樹脂層2の形成に用いられる合成樹脂は、木粉高充填樹脂部Cの形成に用いられる合成樹脂が好適であるが、木粉高充填樹脂部Cの形成に用いられている合成樹脂と相溶性を有するものが、成形時に一体化することができ好ましい。また配合する木粉は顔料等により着色された熱可塑性樹脂100重量部に対して11重量部を下回ると木質感を得ることができなくなり、65重量部を上回ると耐久性の低下を招くこととなる。
かかる木粉高充填樹脂成形体1においては、木粉低充填合成樹脂層2を設けることで、外側からの水分の吸収をより効果的に防ぎ、木粉高充填樹脂成形体1の吸水率を低下させる。
【0029】
図3(ロ)は(イ)とは異なる形状に形成した本発明に係わる木粉高充填樹脂成形体の実施の他の一形態であり、断面中実でプレート状の台形形状である木粉高充填樹脂部Cの周囲に、木粉低充填合成樹脂層2が設けられて形成されている。
【0030】
図4は本発明に係る屋外設置用構造物の実施の一形態を示す図である。
図4に示すようなデッキの床材、柵、支柱、扉など、屋外で用いる物品を本発明に係る木粉高充填樹脂成形体や合成木材を用いて形成すれば、雨天時や河川、池などの付近など、湿気が多い状況でも吸湿による変形などが抑制されるので、高い耐久性と木質感を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る木粉高充填樹脂成形体の実施の一形態を示す図である。
【図2】本発明に係る木粉高充填樹脂成形体の配合成分と吸水性と曲げ特性を表す表である。
【図3】本発明に係る木粉高充填樹脂成形体の実施の他の一形態を示す図である。
【図4】は本発明に係る屋外設置用構造物の実施の一形態を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1 木粉高充填樹脂成形体
11 板枠部
12 リブ部
13 中空部
14 角部
2 木粉低充填合成樹脂層
C 木粉高充填樹脂部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂に木粉を配合し押出成形により成形された樹脂成形体であって、
該樹脂成形体は前記熱可塑性樹脂100重量部に対して前記木粉が65〜400重量部含有され、
且つ前記樹脂成形体には架橋剤が配合されて前記の配合成分を架橋させ、吸水性を低下させたことを特徴とする木粉高充填樹脂成形体。
【請求項2】
請求項1に記載の木粉高充填樹脂成形体の外側に木粉低充填合成樹脂層が設けられ、該木粉低充填合成樹脂層は前記木粉高充填樹脂成形体より木粉の含有割合が小さく、且つ熱可塑性樹脂100重量部に対して前記木粉が11〜65重量部含有され、吸水性を低下させたことを特徴とする木粉高充填樹脂成形体。
【請求項3】
前記木粉高充填樹脂成形体を用いて形成した屋外設置用構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−137480(P2010−137480A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−317770(P2008−317770)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000002462)積水樹脂株式会社 (781)
【Fターム(参考)】