説明

木製コンクリート型枠

【課題】表面が損傷した使い古しの木製コンクリート型枠を再生し易くし、その再生使用によって建築工事現場における型枠保管スペースが少なくて済むようにする。
【解決手段】厚み(s)が9〜15mmの合板11の裏面に桟木12を取り付けて補強した木製コンクリート型枠13において、厚紙10の表裏に厚みが30〜100μmのポリオレフィンまたはポリエステルフイルム14・15を密着積層して成る総厚み(t)2.2〜4.2mm・嵩比重0.7〜0.8g/cm3 の紙板16を、合板11の表面に重ね合わせ、釘脚17の長さ(h)が合板11と紙板16の合計厚みよりも長く、釘脚17の断面における最大寸法(f)が1.5mm以下のU字形タッカ釘20を、桟木12に沿って150〜250mmの間隔(L)をもって、紙板16の表面から桟木12に向けて打ち込み、そのU字形タッカ釘20によって紙板16を合板11に釘打ち固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合板の裏面に桟木を取り付けて成る木製コンクリート型枠(以下、木製型枠と言う。)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビル工事では、階下のコンクリート打設に使用した木製型枠は、それを取り外して階上のコンクリート打設へと順次繰り返して循環使用される。そのようにして幾度となく繰り返し使用された木製型枠の合板の表面にはコンクリート残滓が固着しており、更に繰り返して使用するときは、そのコンクリート残滓による凹凸が転写されてコンクリート打設面の仕上がりが悪くなる。その繰り返し使用し得るコンクリート打設回数は一般に5〜7回とされ、その耐用回数を超えて使用された木製型枠は廃棄処分となる。
このため、高層ビル工事では、その廃棄処分となる数を見込んだ多量の木製型枠が施工現場に運び込まれることになり、その保管スペースの確保に苦慮することになる。
【0003】
木製型枠の耐用回数を増やすため、又、コンクリート打設面から剥離し易くするために、セメントが接着し難いポリオレフィンフイルムを合板の表面に接着積層することが試みられている(例えば、特許文献1、2参照)。そのポリオレフィンフイルムの合板への接着積層は、ポリオレフィン樹脂を加熱溶融してTダイ・ラミネーターから合板の表面へと押し出して融着させ、プレスロールによって圧着して行なわれる。その場合、加熱溶融したポリオレフィンフイルムが冷却することなく融着するようにするために、ポリオレフィン樹脂の溶融温度まで合板が予備加熱される。
【0004】
ポリオレフィンフイルムを合板の表面に接着積層する方法としては、ポリオレフィンフイルムを一旦補強紙に接着積層し、その補強紙を介して合板の表面に接着する方法も知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
【特許文献1】特開昭59−145865号公報
【特許文献2】特開平08−021084号公報
【特許文献3】特開平02−144471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
木製型枠に積層されたポリオレフィンフイルムは、移動、積み上げ、保管、組み立て等の木製型枠を繰り返し使用する過程において、僅かに付着したコンクリート残滓や木製型枠角部等に擦られて微細孔や擦過痕が生じ易く、そこに固着したコンクリート残滓が更なる微細孔や擦過痕を生み、遂には、ポリオレフィンフイルムの機能が失われて破棄せざるを得なくなる。
【0007】
勿論、損傷したポリオレフィンフイルムを貼り替えることも考えられるが、損傷したポリオレフィンフイルムは破れ易く、合板から綺麗に剥離することは出来ない。
仮に、綺麗に剥離することが出来たとしても、ポリオレフィンフイルムを合板に接着積層するためには、Tダイ・ラミネーターやプレスロール、予備加熱装置等の大型装置を必要とするので、工事現場でポリオレフィンフイルムを貼り替えることは出来ず、専門メーカーに頼らざるを得なくなる。しかし、その使い古しの木製型枠の回収、清掃、運送、保管によって再生木製型枠がコスト高になる。そして、使い古しの木製型枠を廃棄するにしてもコストが掛かり、又、公害問題にもなりかねない。
【0008】
そこで本発明は、使い古しの木製型枠を工事現場においても再生可能にし、工事現場において木製型枠の保管スペースの確保に苦慮せずに済むようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る木製型枠は、(a) 厚み(s)が9〜15mmの合板11の裏面に桟木12を取り付け補強して成り、(b) 厚紙10の表裏に厚みが30〜100μmのポリエステルフイルムを、好ましくはポリオレフィンフイルム14・15を密着積層して成る総厚み(t)が2.2〜4.2mmの紙板16が合板11の表面に重ね合わされており、(c) 釘脚17の長さ(h)が合板11と紙板16の合計厚み(s+t)よりも長く、釘脚17の断面における最大寸法(太さf)が1.5mm以下のU字形タッカ釘20が紙板16の表面から桟木12に向けて打ち込まれ、U字形タッカ釘20によって紙板16が合板11に釘打ち固定されていることを第1の特徴とする。
【0010】
本発明に係る木製型枠の第2の特徴は、上記第1の特徴に加えて、紙板16の周縁に露出している厚紙10の端面23に撥水剤溶液24が塗着されている点にある。
【0011】
本発明に係る木製型枠の第3の特徴は、上記第1、第2の何れかの特徴に加えて、厚紙10が、複数枚の原紙27を水溶性樹脂28を介して積層して成り、厚紙10の厚みが2〜4mmである点にある。
【0012】
本発明に係る木製型枠の第4の特徴は、上記第1、第2、第3の何れかの特徴に加えて、U字形タッカ釘20の釘頭18が、合板11の稜線21に対して30度〜60度傾斜した方向(θ)に向けられている点にある。
【0013】
本発明に係る木製型枠の第5の特徴は、上記第1、第2、第3、第4の何れかの特徴に加えて、U字形タッカ釘20の釘脚17の長さ(h)が合板11と紙板16の合計厚み(s+t)よりも長く、U字形タッカ釘20が桟木12に沿って紙板16の表面から桟木12に向けて打ち込まれている点にある。
【発明の効果】
【0014】
本発明において、紙板16は、表裏がフイルム14・15で防水処理されており、表裏のフイルム14・15に挟まれた厚紙10に水が滲み込み難い。
又、紙板16を合板11に釘打ち固定するU字形タッカ釘20の釘脚17が細いので、その打ち込まれた釘脚17に沿って釘頭18から厚紙10へと水が滲み込み難い。
このため、打設コンクリートが硬化する水和反応過程において、打設コンクリートの水分を吸収して厚紙10が膨潤・変形するようなことがなく、紙板16が合板11と同等以上の剛性を維持し、平滑な紙板の表面に沿ってコンクリート打設面が平滑に仕上がる。
【0015】
特に、U字形タッカ釘20の釘脚17の長さ(h)を合板11と紙板16の合計厚み(s+t)よりも長くし、U字形タッカ釘20を桟木12に沿って紙板16の表面から桟木12に向けて打ち込むときは、その打ち込まれた釘先19が桟木12に食い込むので、釘先19から厚紙10へと水が滲み込むこともない。
そして、釘先19が食い込んだ桟木12に被覆されているので、釘先19が錆び付いてタッカ釘20が合板から抜き取り難くなることがなく、又、紙板を合板に釘打ち固定するU字形タッカ釘20の釘脚17が断面最大寸法(太さf)が1.5mm以下と極細なので、合板11から受ける抵抗も少なく、タッカ釘20を楽に抜き取ることが出来る。
従って、表面フイルム14が損傷してコンクリート残滓が固着し、木製型枠を廃棄せざるを得なくなったときは、紙板16を反り上げれば、釘脚17が合板11から引き抜かれ、その際、厚紙10の表裏がフイルム14・15に補強されているので、釘頭18によって紙板16に抜け孔が発生するような不具合が回避される。
その際、仮に、釘頭18による抜け孔が紙板16に発生し、タッカ釘20が合板11に取り残されたとしても、その釘脚17と釘脚17の間の隙間22にドライバー等の桿材を差し込めば、その取り残されたタッカ釘20を容易に引き抜くことが出来る。
そして、釘先19が桟木12に食い込んでいるので、合板11の裏面に突き出た釘先19に触れて怪我する危険も回避される。
【0016】
このように、タッカ釘20が引き抜き易く、紙板16が合板11から剥離し易いので、表面フイルム14が損傷したときは、コンクリート打設工事現場において、紙板16を合板11から取り外して新しい紙板に貼り替え、合板11や桟木12が腐食するまで、木製型枠13を再生して繰り返し使用することが出来る。
従って、工事現場において廃棄処分せざるを得ない使い古しの木製型枠の発生枚数が激減し、高層ビル工事においても廃棄処分となる数を見込んだ多量の木製型枠を運び込む必要がなくなり、木製型枠の保管スペースの確保に苦慮せずに済む。
【0017】
本発明に係る木製型枠の表面フイルム14が損傷して取り外された紙板16を粉砕すれば、厚紙10の素材であるパルプ繊維とフイルム14・15の破片とに分別回収することが出来、それらは新たな紙板16の再生資源となり、その取り外した紙板を廃棄せずに済み、廃棄に伴う公害問題も回避される。
【0018】
本発明では、紙板16の厚みtを3mm前後としたので、その端面23から厚紙10へと水が滲み込み難い。特に、その端面23に撥水剤溶液24を塗布するときは、それを吸着したパルプ繊維が撥水剤24と一体になった撥水層25を表裏のフイルム14・15に挟まれた3mm前後の極く狭い隙間に構成し、そこでは撥水層25が表裏のフイルム14・15に密着しているので、端面23からの厚紙10への水の滲み込みは完全に遮断され、その撥水層25が表裏のフイルム14・15の間に極く狭い隙間から剥離することはあり得ない。
従って、打設コンクリートの水分が端面23から滲み込んで厚紙10が膨潤・変形するようなことはなく、コンクリート打設面は紙板16に合わせて平滑に仕上がる。
【0019】
複数枚の原紙27を水溶性樹脂28を介して積層した厚紙10では、紙板16を合板11から取り外すとき、厚紙10の複層構造からして釘頭18による抜け孔が発生し難く、紙板16を反り上げて釘脚17を抜き上げ、合板11から楽に取り外すことが出来る。
【0020】
紙板16を合板11に釘打ち固定するU字形タッカ釘20の釘頭18の長さ方向の向きを、合板11の稜線21に対して30度〜60度傾斜した一定方向(θ)に揃えておくと、その釘頭18の長さ方向に直交する型枠13のコーナー26において、紙板16と合板11の間にナイフやドライバ等の薄板を差し込んで、紙板16を合板11から反り上げれば、そのコーナー部分26のカッタ釘20に隣合うカッター釘20の2本の釘脚17・17も芋蔓式に続けて引き抜かれることになる。
その際、その引抜応力が紙板16から釘頭18の全面に均等に作用するので、釘頭18による紙板16の抜け孔の発生も回避される。
このように、本発明によると、表面フイルム14が損傷した紙板16が合板11から取り外し易く、新しい紙板に貼り替えて木製型枠13を再生し易くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
紙板16の嵩比重は、合板の嵩比重よりも緻密に、概して0.7〜0.8g/cm3 にするとよい。因みに、市販の合板の嵩比重は概して0.5g/cm3 になっている。
桟木12に沿って打ち込むタッカ釘20の打ち込み間隔(L)は150〜250mm間隔にするとよい。
紙板16の端面23に塗着する撥水剤溶液24には、シリコーン系撥水剤、弗素系撥水剤、パラフィン・ワックス系撥水剤等の市販の撥水剤のほか、灯油、軸油、重油、食用油等油剤を使用することが出来る。
紙板16を合板11に釘打ち固定してから撥水剤溶液24を塗布する場合、その撥水剤24が合板11の端面に付着したり、合板11と紙板16の間の隙間に滲み込んでもよい。
その撥水剤24は、表裏のフイルム14・15の間に挟まれた厚紙10の端面23に滲み込んでパルプ繊維と一体になった撥水層25を形成し、その端面23がコンクリート打設面に直接触れることはないので、打設コンクリートの品質が撥水剤24によって損なわれることはない。
【0022】
表裏のフイルム14・15は、ポリエステル系樹脂、好ましくは、ポリオレフィン系樹脂をTダイ・ラミネーターから溶融・押し出して厚紙10の表裏に融着積層するほか、予め成形されたフイルム14・15を厚紙10に加熱して融着することも出来る。
厚紙10やフイルム14・15の貼合面には、プライマー樹脂29(下塗り接着剤皮膜)を積層しておくことが出来る。
そのプライマー樹脂29は、エマルジョンタイプのものであってもよいし、有機溶剤溶解溶液タイプのものであってもよい。
プライマー樹脂29は、それを加熱溶融してTダイ・ラミネーターから厚紙10やフイルム14・15へと押し出して融着させ、プレスロールによって圧着して接着積層することも出来る。
【0023】
紙板16の厚み(t)は3mmにするとよい。そうすると、通常コンパネと称される公称厚み(s)が9mm、12mm、或いは、15mmの合板11、好ましくは公称厚み(s)が9mmのものを使用するとき、合板11と紙板16との合計厚み(s+t)がコンパネの公称厚み(12mm)に等しくなり、在来の木製型枠の合板に紙板16を取り付けたと言う理由で、本発明の木製型枠13で仕切られるコンクリート打設スペース内の寸法(内法)を、紙板16の厚み(t)に応じて計算し設定し直さずに済むので、コンクリート打設スペースを設計する上で好都合である。
【0024】
タッカ釘20には、釘脚17の公称寸法hと釘頭18の公称寸法wが、それぞれ13mm×4mm、13mm×9mm、19mm×4mm、19mm×9mmの市販品を使用することが出来る。
その市販品のタッカ釘の奥行き寸法(f)が1.2mm前後、その肉厚寸法(e)が0.7mm前後、断面積が1mm2 以下(0.8mm2 前後)と極細なので、釘脚17に沿って厚紙10へと水が滲み込み難く、損傷した紙板16を合板11から取り外して新しい紙板に貼り替えるときには楽にタッカ釘20を抜くことが出来、それが市販品であることからして安価に入手することが出来、本発明を実施する上で頗る好都合である。
タッカ釘20は、自動釘打機(エアタッカ)を使用して、紙板16の表面から桟木12に向けて打ち込むことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る木製コンクリート型枠の斜視図である。
【図2】本発明に係る木製コンクリート型枠の要部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0026】
10:厚紙
11:合板
12:桟木
13:型枠
14:フイルム
15:フイルム
16:紙板
17:釘脚
18:釘頭
19:釘先
20:タッカ釘
21:稜線
22:隙間
23:端面
24:撥水剤溶液
25:撥水層
26:コーナー
27:原紙
28:水溶性樹脂
29:プライマー樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 厚み(s)が9〜15mmの合板(11)の裏面に桟木(12)を取り付けて補強した木製コンクリート型枠(13)において、
(b) 厚紙(10)の表裏に厚みが30〜100μmのポリオレフィンまたはポリエステルフイルム(14・15)を密着積層して成る総厚み(t)が2.2〜4.2mmの紙板(16)が、合板(11)の表面に重ね合わされており、
(c) 釘脚(17)の断面における最大寸法(f)が1.5mm以下のU字形タッカ釘(20)によって紙板(16)が合板(11)に釘打ち固定されていることを特徴とする木製コンクリート型枠。
【請求項2】
紙板(16)の周縁に露出している厚紙(10)の端面(23)に撥水剤溶液(24)が塗着されていることを特徴とする前掲請求項1に記載の木製コンクリート型枠。
【請求項3】
厚紙(10)が複数枚の原紙(27)を水溶性樹脂(28)を介して積層して成り、厚紙(10)の厚みが2〜4mmであることを特徴とする前掲請求項1と2の何れかに記載の木製コンクリート型枠。
【請求項4】
U字形タッカ釘(20)の釘頭(18)が、合板(11)の稜線(21)に対して30度〜60度傾斜した方向(θ)に向けられていることを特徴とする前掲請求項1と2と3の何れかに記載の木製コンクリート型枠。
【請求項5】
U字形タッカ釘(20)の釘脚(17)の長さ(h)が合板(11)と紙板(16)の合計厚み(s+t)よりも長く、U字形タッカ釘(20)が桟木(12)に沿って紙板(16)の表面から桟木(12)に向けて打ち込まれていることを特徴とする前掲請求項1と2と3と4の何れかに記載の木製コンクリート型枠。

【図1】
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【図2】
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