説明

木造部材

【課題】通常時に木材の良さを確保でき、火災時に燃え止まり性能と遮熱性能を発揮させることが可能な木造部材を提供する。
【解決手段】木造部材10を、木材本体部11と木造部材10の表面10aを形成する表面木材部12との間に、不燃材13と発泡層14を積層してなる遮熱部15を介装して形成する。また、遮熱部15は、不燃材13と発泡層14を交互に積層し、木材本体部11の表面11a側と表面木材部12の裏面12b側の厚さ方向T両端側にそれぞれ不燃材13を配して形成する。さらに、木材本体部11の内部と遮熱部15の内部に連設され、遮熱部15を木材本体部11と一体に保持する固定具17を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば建物の構造部材などとして用いられ、火災時に燃え止まり性能と遮熱性能を発揮する木造部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、調湿性、衝撃安全性、断熱性に優れ、心身不調の低減、香りによるリラックス効果、わくわく感の向上、子供たちの情緒安定等に大きな効果をもたらすことから、住宅や児童福祉施設などの建物に木材が多用されている。また、建物などを木造にすると、鉄骨造と比較し、トータルとしての二酸化炭素排出量の削減にも効果があるため、木材を有効利用することが強く求められている。
【0003】
一方、木材(木造部材)1は、図7(a)に示すように火災時に燃え、且つ燃え抜けてしまうことが最大の欠点であり、従来、壁、床、柱、梁などの構造部材として用いる木造部材1に対し、図7(b)に示すように燃え代2を見込んだ燃え代設計が行われてきた。この燃え代設計は、木造部材1の断面寸法の割り増しによって(燃え代2を設けることによって)、火災時の燃焼による構造強度の低下を遅延又は防止するようにし、火災に面していない裏面1aの温度上昇を抑えるようにしたものである。しかしながら、燃え代設計を採用した場合には、燃え代2の分だけ木造部材1の厚みが増すことになるため、コスト高や重量増が生じるという問題があった。また、最近では、木造部材1に対して火災時に燃え続けずに燃え止まることが要求されるようになり、一段と厳しい性能が求められているが、木造部材1の厚みを増すだけでは、火災時に燃え止まることがないため、このような要求に十分に対応することが難しい。
【0004】
これに対し、木材の表面を発泡耐火シートで被覆して遮熱性能を付与したり、木材に不燃性の薬液等を含浸定着させるなどして燃え止まり性能を付与した木造部材を用いることが提案、実施されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−256506号公報
【特許文献2】特開平7−251405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、木材の表面に発泡耐火シートを被覆したり、薬液等を木材に含浸定着させて木造部材を形成した場合には、通常時に木材の良さである調湿性、香り、見た目、肌触り等が失われてしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、通常時に木材の良さを確保でき、火災時に燃え止まり性能と遮熱性能を発揮させることが可能な木造部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0009】
本発明の木造部材は、火災時に燃え止まり性能と遮熱性能を発揮する木造部材であって、木材本体部と木造部材の表面を形成する表面木材部との間に、不燃材と発泡層を積層してなる遮熱部を介装して形成されていることを特徴とする。
【0010】
この発明においては、表面木材部(表面木材)によって木造部材の表面が形成されているため、通常時には、この表面木材部によって調湿性、香り、見た目、肌触り等の木材の良さを確保できる。一方、火災時には、表面木材部が燃えて遮熱部の例えば珪酸ソーダなどの珪酸塩を備えてなる発泡層が加熱されるとともに発泡し、この発泡した発泡層によって木材本体部への熱移動を抑制する遮熱性能が発揮される。また、遮熱部に設けられた例えば珪酸マグネシウムを主成分とする不燃材によって、熱気流が木材本体部側に通過することを抑制でき、この不燃材によっても遮熱性能(遮炎性能)が発揮される。このため、表面木材部は燃え落ちるが、遮熱部によって木材本体部が燃えることを抑制(防止)でき、通常時に木材の良さを確保しつつ、火災時に燃え止まり性能と遮熱性能を発揮させることが可能になる。
【0011】
また、本発明の木造部材において、前記遮熱部は、前記発泡層が珪酸塩を備えて形成され、前記不燃材と前記発泡層を交互に積層して形成されていることが望ましい。
【0012】
この発明においては、発泡層が例えば珪酸ソーダなどの珪酸塩を備えて形成されているため、火災時に加熱されるとともに確実に発泡層が発泡して遮熱性能を発揮させることができる。また、この発泡層と不燃材が交互に積層されているため、火災時に、木造部材の表面側(加熱側)の発泡層と不燃材から順次遮熱性能を発揮することになる。これにより、火災時に、確実に遮熱部が燃え止まり性能と遮熱性能を発揮して木材本体部が燃えることを抑制(防止)できる。
【0013】
さらに、本発明の木造部材において、前記遮熱部は、前記木材本体部の表面側と前記表面木材部の裏面側の厚さ方向両端側にそれぞれ前記不燃材を配して形成されていることがより望ましい。
【0014】
この発明においては、表面木材部の裏面側の厚さ方向一端側に不燃材が設けられていることにより、高温の熱気流が遮熱部を通過することを確実に抑制できる。また、木材本体部の表面側の厚さ方向他端側に不燃材が設けられていることにより、火災発生から遮熱部が高温で長時間曝された場合においても、木材本体部に熱気流が達することを確実に抑制できる。これにより、より確実に遮熱部が燃え止まり性能と遮熱性能を発揮して木材本体部が燃えることを抑制(防止)できる。
【0015】
また、本発明の木造部材においては、前記木材本体部の内部と前記遮熱部の内部に連設され、前記遮熱部を前記木材本体部と一体に保持する固定具が具備されていることがさらに望ましい。
【0016】
この発明においては、遮熱部が木材本体部と固定具によって一体に保持されているため、火災時に木材本体部から遮熱部が脱落することを防止できる。また、固定具が木材本体部の内部と遮熱部の内部に連設され、表面木材部に連設されていないため、通常時に木造部材(表面木材部)の見た目等の木材の良さを損なうこともない。
【0017】
さらに、本発明の木造部材においては、前記木材本体部と前記遮熱部、前記遮熱部と前記表面木材部、前記遮熱部の前記不燃材と前記発泡層がそれぞれ、接着剤を用いて一体に接着されていることが望ましい。
【0018】
この発明においては、木材本体部と遮熱部と表面木材部とを接着剤によって確実に一体化して木造部材を形成することが可能になる。また、この接着剤が耐熱性を備えていることによって、火災時においても一体性を確保することが可能になる。一方、火災時に遮熱部に燃え止まり性能と遮熱性能を発揮させるためには、木造部材の供用時(通常時)に遮熱部の発泡層の含水状態を維持することが必要になる。これに対し、遮熱部の不燃材と発泡層を接着剤で一体化することで、発泡層が接着剤等で保護され、且つその含水率を長期にわたって好適に維持することが可能になる。これにより、火災時に遮熱部に燃え止まり性能と遮熱性能を確実に発揮させることが可能になる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の木造部材によれば、通常時には、表面木材部によって調湿性、香り、見た目、肌触り等の木材の良さを確保でき、火災時には、遮熱部の発泡層の発泡と不燃材の熱気流の遮断によって燃え止まり性能と遮熱性能を発揮させることが可能になる。そして、このような木造部材は、表面木材部や遮熱部(不燃材及び発泡層)の厚さを小さくして形成でき、また、特に発泡層の主要材に水より安いとされる珪酸ソーダなどの珪酸塩を適用することで安価となり、従来の燃え代設計による場合と比較し、大幅に低コスト化及び軽量化を図ることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る外壁相当の木造部材を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る間仕切壁相当の木造部材を示す図である。
【図3】ISO834の標準加熱温度曲線の加熱による試験に用いた本発明に係る外壁相当の木造部材を示す図である。
【図4】図3の木造部材の試験結果を示す図である。
【図5】ISO834の標準加熱温度曲線の加熱による試験に用いた本発明に係る間仕切壁相当の木造部材を示す図である。
【図6】図5の木造部材の試験結果を示す図である。
【図7】従来の木造部材を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図1から図6を参照し、本発明の一実施形態に係る木造部材について説明する。本実施形態は、火災時に片側から加熱を受けることが想定される外壁などに用いる木造部材に関するものである。
【0022】
本実施形態の木造部材10は、図1に示すように、木材本体部(内部木材)11と木造部材10の表面10a(12a)を形成する表面木材部(表面木材)12との間に、不燃材13(13a、13b、13c)と発泡層14(14a、14b)を積層してなる遮熱部15を介装して形成されている。
【0023】
木材本体部11は、その厚さ(a)が10mm程度以上あればよい。一方、表面木材部12は、その厚さが任意に設定され、例えば、木造部材10を建物の構造部材の一部として用いる場合には、木材本体部11の厚みを必要な強度に応じて増し、これに加えて、表面木材部12の厚みを増した場合には、表面木材部12を燃え代分や構造上の補強要素として利用できる。構造部材の一部でない場合には、表面木材部12の厚さを数mm程度にすればよい。
【0024】
本実施形態の遮熱部15は、2つの発泡層14(14a、14b)を備え、不燃材13(13a、13b、13c)と発泡層14(14a、14b)を交互に積層して形成されている。すなわち、この遮熱部15は、2つの発泡層14(14a、14b)の間に1つの不燃材13(13b)を介装し、木材本体部11の表面11a側と表面木材部12の裏面12b側の厚さ方向T両端15a、15b側にそれぞれ不燃材13(13a、13c)を配して形成されている。
【0025】
ここで、不燃材13は、珪酸マグネシウムを主成分とするものであり、例えば1枚の厚さが1mm程度以下の不燃紙などが適用される。そして、このような不燃材13は、約1000℃の高温で加熱されても、発泡層14に癒着するなどして亀裂やひび割れが生じにくいものとされ、火災時に加熱側から非加熱側に熱気流が流通することを抑制(防止)する。
【0026】
発泡層14は、炭酸カルシウム等の無機剤や有機剤を珪酸ソーダ(珪酸塩)に混入したものであり、弾力性を有し、破損しにくいものである。なお、発泡層14は、珪酸ソーダの他に、例えば珪酸カリウム、珪酸リチウムなどの珪酸塩を備えて形成してもよい。また、各発泡層14(14a、14b)は、厚さが2〜3mm程度とされ、100℃前後で加熱されるとともに発泡してその厚さが数cmとなり、さらに発泡とともに略透明から白色に近い色に変色する。なお、発泡層14の発泡厚は、一般に、700℃程度まで維持され、高温で加熱されても大きく低減することがない。そして、各発泡層14は、加熱により発泡するとともに遮熱性能を発揮し、発泡層14の裏面の温度ひいては非加熱側となる遮熱部15の裏面15bの温度を木材の燃焼が進まない温度に維持する。ここで、発泡厚を維持できる温度が高い発泡層14を用いるほど、非加熱側となる裏面の温度を低減させることができるため、例えば炭酸カルシウム等の無機剤とともにガラス繊維を珪酸ソーダ(珪酸塩)に混入するなどして、発泡層14の発泡厚を維持できる温度を高めるようにすることが好ましい。
【0027】
なお、不燃材13や発泡層14の厚さ、数、配置は必ずしも上記のように限定しなくてもよく、木造部材10の用途(設置場所など)、必要耐火性能などに応じて適宜設定すればよい。
【0028】
一方、本実施形態の木造部材10においては、木材本体部11と遮熱部15(不燃材13c)、遮熱部15(不燃材13a)と表面木材部12、遮熱部15の隣り合う不燃材13と発泡層14がそれぞれ、接着剤16を用いて一体に接着されている。この接着剤16としては、耐熱性を有する接着剤、例えば石膏系接着剤、珪酸塩系接着剤などを用いることが好ましいが、耐熱性を有する接着剤を不燃材13と発泡層14の接着にのみ用い、木材本体部11と遮熱部15、表面木材部12と遮熱部15の接着には、通常の木工用の接着剤、例えばレゾルシノール樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、メラミン樹脂系接着剤、酢酸ビニル樹脂系接着剤、水性高分子・イソシアネート樹脂系接着剤などを用いるようにしてもよい。
【0029】
また、本実施形態の木造部材10においては、木材本体部11の内部と遮熱部15の内部に連設され、遮熱部15を木材本体部11と一体に保持する例えばステーブルなどの固定具17が具備されている。すなわち、この固定具17は、その一端を遮熱部15内に配し、木造部材10の表面を形成する表面木材部12に連設されていない。このため、表面木材部12の表面に固定具17の一端を露出させることなく木造部材10が形成され、木造部材10(表面木材部12)の見た目を損なうことなく、接着剤16とともに固定具17によって遮熱部15が木材本体部11と一体化されている。
【0030】
ここで、本実施形態では、木造部材10を火災時に片側から加熱を受けることが想定される外壁などに用いるものとしているため、この木造部材10の加熱側の一面(表面10a)側にのみ遮熱部15と表面木材部12を設けるようにしている。これに対し、図2に示すように両面(一面10aと他面10b、表面)側から加熱を受けることが想定される間仕切壁や床などとして用いる場合や、全表面から加熱を受けることが想定される柱などとして用いる場合には、加熱側の各面10a、10b側にそれぞれ遮熱部15と表面木材部12を設けて、木造部材10が形成される。
【0031】
ついで、上記構成からなる本実施形態の木造部材10の作用及び効果について説明する。
【0032】
まず、本実施形態の木造部材10は、表面木材部12と遮熱部15の不燃材13と発泡層14をそれぞれ数mmの小さな厚さにすることができるため、従来の燃え代設計のように木造部材10の厚みが大きく増すことがない。また、水より安いとされる珪酸ソーダ(珪酸塩)を主要材とした発泡層14を用いて遮熱部15が形成されているため、木造部材10が低コストで形成される。
【0033】
そして、木造部材10は、その表面10aが表面木材部(表面木材)12で形成され、また、固定具17の一端が表面木材部12の表面10aに露出していないため、通常時には、この表面木材部12によって調湿性、香り、見た目、肌触り等の木材の良さが確保される。
【0034】
また、木造部材10の供用時(通常時)には、遮熱部15の発泡層14の乾燥を防ぎ、所定の含水状態(所定の含水率)で維持することが必要になるが、各発泡層14が接着剤16などで挟み込まれるように設けられているため、これら接着剤16などによって発泡層14が保護され、且つその含水率が長期にわたって好適に維持される。
【0035】
一方、火災時には、表面木材部12が加熱されるとともに炭化し、亀裂が入って脱落し、木造部材10に欠損が生じる。このように表面木材部12が脱落することによって遮熱部15が露出して加熱される。このとき、表面木材部12の脱落とともに表面木材部12の裏面側の厚さ方向T一端側に設けられた不燃材13aが露出することになり、この不燃材13aによって、高温の熱気流が遮熱部15を通過することが抑制される。これにより、表面木材部12が脱落するとともに急激に例えば700℃を超えるような高温で発泡層14が加熱されることがない。
【0036】
また、これとともに、不燃材13aを介して徐々に発泡層14aへの熱移動が生じ、この発泡層14aが加熱されてゆく。そして、発泡層14aが、長期にわたって好適に含水状態が維持されているため、100℃前後の温度に達するとともに発泡し、その厚さが数cmになり、また、略透明から白色に近い色に変色する。これにより、遮熱部15の深部(木材本体部11側)への熱移動が抑制される。また、このように発泡層14a(14)が発泡するとともに不燃材13a(13)が癒着し、不燃材13aに亀裂やひび割れがさらに生じにくくなり、熱気流の通過を抑制する効果がさらに継続的に発揮される。
【0037】
このように発泡して熱移動を抑制する発泡層14aが800℃近い高温で長時間継続的に加熱されて多少溶融し、また、不燃材13aも長時間加熱されて徐々に劣化した場合においても、本実施形態の木造部材10は、遮熱部15が不燃材13と発泡層14を交互に積層して形成されているため、木造部材10の表面10a側(加熱側)から順次木材本体部11側に配設された不燃材13b、13cと発泡層14bによって順次熱気流の通過が抑制され、熱移動が抑制される。
【0038】
また、遮熱部15の厚さ方向T他端側(木材本体部11の表面11a側)に不燃材13cが設けられていることで、火災発生から遮熱部15が高温で長時間曝された場合においても、確実に木材本体部11に熱気流が達することが抑制される。
【0039】
これにより、火災によって木造部材10が高温で長時間加熱された場合においても、表面木材部12は燃え落ちるが、遮熱部15によって木材本体部11の表面11aの温度は、木材が燃えることがない低温で維持される。よって、本実施形態の木造部材10は、表面木材部12と遮熱部15までで(木材本体部11の表面11aまでで)燃え止まり、確実に燃え止まり性能と遮熱性能を発揮して、木材本体部11の断面欠損、燃え抜けが生じることが防止される。
【0040】
さらに、本実施形態においては、固定具17によって遮熱部15が木材本体部11と一体に保持されているため、火災時に遮熱部15が加熱され、発泡層14に発泡が生じた場合においても、遮熱部15が木材本体部11の表面11aから脱落することがない。このため、木造部材10が長時間加熱された場合であっても、確実に、燃え止まり性能と遮熱性能を発揮して木材本体部11が燃えることが防止される。
【0041】
ここで、ISO834の標準加熱温度曲線の加熱を行い、本発明の木造部材の優位性を確認した結果を示す。
【0042】
図3は、試験に用いた外壁相当の木造部材10を示し、図4は、この外壁相当の木造部材10を一面10a(12a)側から標準加熱温度曲線の30分加熱で加熱した際の木材本体部11の表面11a(計測点1)と木材本体部11の裏面11b(10b)(計測点2)における温度を計測した結果を示している。なお、この試験で用いた図3の木造部材10は、2つの発泡層(珪酸ソーダ層)14(14a、14b)の間に1枚の不燃材13(13b)を介装して遮熱部15が形成され、表面木材部12の裏面12b側と木材本体部11の表面11a側には不燃材13(13a、13c)を設けていない。また、試験に用いた木造部材10は、幅30cm、高さ30cmで、木材本体部11を厚さ9.6mmのスギ合板、表面木材部12を厚さ3.2mmのスギ単板とし、発泡層14の厚さを2.0mm、不燃材13の厚さを1.0mmに設定して形成した。また、接着剤16には、耐熱性を有する接着剤を用いている。
【0043】
そして、図3の外壁相当の木造部材10に標準加熱温度曲線の30分加熱を行った場合には、図4に示すように、木材本体部11の表面11a(計測点1)及び木造部材10の裏面10b(計測点2)の温度上昇が140℃以下に大幅に抑えられ、遮熱部15が燃え止まり性能と遮熱性能を発揮し、木材本体部11が燃えることを確実に防止できることが実証された。
【0044】
一方、図5は、試験に用いた間仕切壁相当の木造部材10を示し、図6は、この間仕切壁相当の木造部材10を一面(表面)10a(12a)側から標準加熱温度曲線の60分加熱で加熱した際の加熱側の木材本体部11の表面11a(計測点1)と非加熱側の表面木材部12の表面12a(木造部材10の他面(表面)10b)(計測点2)における温度を計測した結果を示している。なお、この試験で用いた図5の木造部材10は、2つの発泡層14(14a、14b)の間に1枚の不燃材13(13b)を介装し、表面木材部12の裏面12b側に不燃材13(13a)を設け、木材本体部11の表面11a側には不燃材13(13c)を設けていない。また、この間仕切壁相当の木造部材10は、表面木材部12と遮熱部15をそれぞれ備える一対の木材本体部11の裏面11b同士を木工用の接着剤16で接着して形成されている。そして、試験に用いた木造部材10は、幅30cm、高さ30cmで、木材本体部11を厚さ19.2mmのスギ合板(9.6mmの厚さのものを2枚接着)、表面木材部12を厚さ3.2mmのスギ単板とし、発泡層14の厚さを2.5mm、不燃材13の厚さを1.0mmに設定して形成した。また、木材本体部11と遮熱部15と表面木材部12には、耐熱性を有する接着剤16を用いている。
【0045】
そして、図5の間仕切壁相当の木造部材10に標準加熱温度曲線の60分加熱を行った場合には、図6に示すように、加熱側の木材本体部11の表面11a(計測点1)及び木造部材10の他面10b(計測点2)の温度上昇が大幅に抑えられ、遮熱部15が燃え止まり性能と遮熱性能を発揮し、木材本体部11が燃えることを確実に抑制できることが実証された。
【0046】
したがって、本実施形態の木造部材10においては、表面木材部12によって木造部材10の表面(一面10a(他面10b))が形成されているため、通常時には、この表面木材部12によって調湿性、香り、見た目、肌触り等の木材の良さを確保できる。一方、火災時には、表面木材部12が燃えて遮熱部15の発泡層14が加熱されるとともに発泡し、この発泡した発泡層14によって木材本体部11への熱移動を抑制する遮熱性能が発揮される。また、遮熱部15に設けられた不燃材13によって、熱気流が木材本体部11側に通過することを抑制でき、この不燃材11によっても遮熱性能(遮炎性能)が発揮される。このため、表面木材部12は燃え落ちるが、遮熱部15によって木材本体部11が燃えることを抑制(防止)でき、通常時に木材の良さを確保しつつ、30分耐火や60分耐火等の要求に応じた燃え止まり性能と遮熱性能を発揮させる(確保する)ことが可能になる。
【0047】
また、本実施形態の木造部材10は、表面木材部12や遮熱部15(不燃材13及び発泡層14)の厚さを小さくして殆んど厚みを増すことなく形成でき、さらに、発泡層14の主要材が水より安いとされる珪酸ソーダなどの珪酸塩であり、安価であるため、従来の燃え代設計による場合と比較し、大幅に低コスト化及び軽量化を図ることが可能である。
【0048】
そして、このように低コスト化及び軽量化を図り、木材の長所を消さずに火災時の燃え止まり性能と遮熱性能を確保できることで、建物への木材利用の促進を支援でき、環境に大きく貢献することが可能になる。
【0049】
また、発泡層14と不燃材13が交互に積層されていることで、火災時に、木造部材10の表面10a側(加熱側)の発泡層14と不燃材13から順次遮熱性能を発揮することになる。これにより、火災時に、確実に遮熱部15が燃え止まり性能と遮熱性能を発揮して木材本体部11が燃えることを抑制(防止)できる。
【0050】
さらに、表面木材部12の裏面12b側の厚さ方向T一端側に不燃材13(13a)が設けられていることにより、高温の熱気流が遮熱部15を通過することを確実に抑制できる。また、木材本体部11の表面11a側の厚さ方向T他端側に不燃材13(13c)が設けられていることにより、火災発生から遮熱部15が高温で長時間曝された場合においても、木材本体部11に熱気流が達することを確実に抑制できる。これにより、より確実に遮熱部15が燃え止まり性能と遮熱性能を発揮して木材本体部11が燃えることを抑制(防止)できる。
【0051】
また、遮熱部15が木材本体部11と固定具17によって一体に保持されているため、火災時に木材本体部11から遮熱部15が脱落することを防止できる。また、固定具17が木材本体部11の内部と遮熱部15の内部に連設され、表面木材部12に連設されていないため、通常時に木造部材10(表面木材部12)の見た目等の木材の良さを損なうこともない。
【0052】
さらに、木材本体部11と遮熱部15と表面木材部12とを接着剤16によって確実に一体化して木造部材10を形成することが可能になる。また、この接着剤16が耐熱性を備えていることによって、火災時においても一体性を確保することが可能になる。さらに、遮熱部15の不燃材13と発泡層14を接着剤16で一体化することで、発泡層14が接着剤16などで保護され、且つその含水率を長期にわたって好適に維持することが可能になる。これにより、火災時に遮熱部15に燃え止まり性能と遮熱性能を確実に発揮させることが可能になる。
【0053】
以上、本発明に係る木造部材の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0054】
10 木造部材
10a 表面(一面)
10b 裏面(他面)
11 木材本体部(内部木材)
11a 表面
11b 裏面
12 表面木材部(表面木材)
12a 表面
12b 裏面
13 不燃材(不燃紙)
14 発泡層
15 遮熱部
15a 表面
15b 裏面
16 接着剤
17 固定具
T 厚さ方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
火災時に燃え止まり性能と遮熱性能を発揮する木造部材であって、
木材本体部と木造部材の表面を形成する表面木材部との間に、不燃材と発泡層を積層してなる遮熱部を介装して形成されていることを特徴とする木造部材。
【請求項2】
請求項1記載の木造部材において、
前記遮熱部は、前記発泡層が珪酸塩を備えて形成され、前記不燃材と前記発泡層を交互に積層して形成されていることを特徴とする木造部材。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の木造部材において、
前記遮熱部は、前記木材本体部の表面側と前記表面木材部の裏面側の厚さ方向両端側にそれぞれ前記不燃材を配して形成されていることを特徴とする木造部材。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の木造部材において、
前記木材本体部の内部と前記遮熱部の内部に連設され、前記遮熱部を前記木材本体部と一体に保持する固定具が具備されていることを特徴とする木造部材。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の木造部材において、
前記木材本体部と前記遮熱部、前記遮熱部と前記表面木材部、前記遮熱部の前記不燃材と前記発泡層がそれぞれ、接着剤を用いて一体に接着されていることを特徴とする木造部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−236255(P2010−236255A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85001(P2009−85001)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人科学技術振興機構、地域イノベーション創出研究開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(391054512)三生技研株式会社 (2)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】