説明

未硬化セメント組成物の製造方法

【課題】 高価なセルロース系高分子化合物やアクリル系高分子化合物を用いること無く、粘性の付与された未硬化セメント組成物を製造できる未硬化セメント組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、ポリカルボン酸系減水剤を用いて練り混ぜを行うことにより未硬化セメント組成物を調製する第1混練工程と、該第1混練工程にて得られた未硬化セメント組成物にナフタレン系減水剤又はメラミン系減水剤を添加して練り混ぜを行う第2混練工程とを実施することを特徴とする未硬化セメント組成物の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未硬化のセメントミルク、モルタル又はコンクリート等の未硬化セメント組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントミルク、モルタル又はコンクリート等の未硬化セメント組成物は、密度が1g/cm3である水に対して水の2〜3倍程度の密度を有するセメント等の結合材、粗骨材、細骨材等の材料を任意の配合で混合した混合物であるため、練混ぜ水の量が多いと、密度差によって混合物中のこれらの材料と水とが分離して水が表面に浮いてくる所謂ブリージング等の材料分離を生じ易い。材料分離が生じると、硬化物の沈下あるいはひび割れが生じ、さらに硬化物強度が低下するという問題がある。
これら材料分離が低減化された未硬化セメント組成物として、例えば特許文献1には、水溶性高分子化合物を添加してコンクリート組成物に粘性を付与することで材料分離が低減化されてなるものが提案されている。
また特許文献2には、水溶性高分子化合物と高性能AE高性能減水剤とを併用することで、材料分離が低減化されてなるものも提案されている。
【0003】
より具体的に説明すると、例えば、PC構造物(プレストレスコンクリート)においては、シース管内に挿入され緊張定着されたPC鋼材に付着性を付与するために、シース管内に未硬化セメント組成物たるグラウト材(無収縮モルタル)を充填することが知られている。
この種のグラウト材は、流動性が高く、可使時間が120分程度と長く、施工適正を有するものであり、PC構造物、特にシース管のような極めて密閉された空間に充填するのに使用される。
ここでグラウト材は、粘性が低いと、シース管内でグラウト材の先端部が先流れしてシース管内に残留空気が生じるので、シース管の適切な位置に排気孔を設置することが必須要件となる。
また充填されたグラウト材はシース管内にある残留水で希釈され、その部分は硬化後、シース管内において空洞(欠陥部)が形成される原因となる。
これに対して、グラウト材の粘性が高い場合には、グラウト材がシース管内の残留水で希釈される部分がなく、従って、排出側のグラウト材濃度を注入側のグラウト材濃度と同じになるまで注入を続けるという手間が省け、グラウト材の施工管理及び品質管理が容易となり、注入時のグラウト材のロスも少なくなるという利点がある。
また、このようなグラウト材は、通常、粘性が高いとポンプの注入圧を増す必要があることは勿論であるが、シース管が曲線に配置されている場合等に於いて、高粘性型であれば下り勾配下でも全断面を充満しながら流れるため充填性が向上することから、充填性を最重要視する場合には、高粘性のグラウト材が要求される場合も少なくない。
この高粘性のグラウト材では、高粘性であるが故にシース管の全断面を充満しながら流れ、その結果、グラウト材の充填性が向上しコンクリートとの一体化が図られる。
また水中用のコンクリートに於いては、フレッシュコンクリートの水中への打込み時に水中での材料分離の抵抗性を著しく高めるために増粘剤を使用した未硬化セメント組成物たる水中不分離性コンクリートがある。水中不分離性コンクリートは、高い流動性によって充填性やセルフレベリング性に優れ、ブリージングがほとんど生じない等の特徴を併せ持った海洋構造物の建設には不可欠な資材となっている。
【0004】
そして、これらの未硬化セメント組成物に於いては、上述の如く増粘剤として水溶性高分子が添加されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2549593号公報
【特許文献2】特開平3−237049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の未硬化セメント組成物は、増粘剤として使用される水溶性高分子がメチルセルロース等のセルロース系高分子化合物やアクリル系の高分子化合物等であり極めて高価な材料であることから、大幅なコストアップが避けられないという問題を有している。
【0007】
上記問題点に鑑み、本発明の課題は、高価なセルロース系高分子化合物やアクリル系高分子化合物を用いること無く、比較的粘性が高い未硬化セメント組成物を製造できる未硬化セメント組成物の製造方法を提供することとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記のような課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、一般的なコンクリート製造に使用されるセメント分散剤(高性能減水剤、高性能AE減水剤、減水剤)を2種類併用する方法を見いだした。即ち、所定のポリカルボン酸系減水剤を使用して材料が均一になるように練り混ぜを行って未硬化セメント組成物を得、更に、この未硬化セメント組成物に、所定の異なる1種類のセメント分散剤(高性能減水剤、高性能AE減水剤、減水剤)を添加して更に練り混ぜを行うことで、セメント組成物の粘度が上昇し、材料分離抵抗性や充てん性能が改善されることを見出した。そして、更に鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至ったのである。
即ち、本発明は、ポリカルボン酸系減水剤を用いて練り混ぜを行うことにより未硬化セメント組成物を調製する第1混練工程と、該第1混練工程にて得られた未硬化セメント組成物に、ナフタレン系減水剤又はメラミン系減水剤を添加して練り混ぜを行う第2混練工程とを実施することを特徴とする未硬化セメント組成物の製造方法を提供する。
斯かる未硬化セメント組成物は、第2混練工程によって、ナフタレン系減水剤又はメラミン系減水剤が混ざることとなり、それによって、その作用は明確ではないが、粘性が増すこととなる。
従って、セルロース系高分子化合物やアクリル系高分子化合物を用いること無く、粘性が高い未硬化セメント組成物を製造することができる。
尚、ポリカルボン酸系減水剤に対して、ナフタレン系減水剤又はメラミン系減水剤を同時に添加すると減水剤同士が反応し、可塑化して大きなダマができ、分散性能が著しく低下して材料が均一に混合されなくなることから、流動性のみならず硬化物の強度も低下することとなる。
【0009】
本発明に於いては、前記第1混練工程で使用するポリカルボン酸系減水剤の質量に対して、前記第2混練工程で使用するナフタレン系減水剤又はメラミン系減水剤の添加量を外割り質量比率(固形分換算)で0.01〜0.1質量%(即ち、ポリカルボン酸系減水剤の固形分質量100に対するナフタレン系減水剤又はメラミン系減水剤の固形分質量)とするのが好ましい。
斯かる方法によれば、十分に粘性の高いものとすることができる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、高価なセルロース系高分子化合物やアクリル系高分子化合物が用いられていなくとも、比較的粘性が高い未硬化セメント組成物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい態様について説明する。
本発明は、ポリカルボン酸系減水剤を用いて練り混ぜを行うことにより未硬化セメント組成物を調製する第1混練工程と、該第1混練工程にて得られた未硬化セメント組成物にナフタレン系減水剤又はメラミン系減水剤を添加して練り混ぜを行う第2混練工程とを実施して未硬化セメント組成物を製造する方法である。
ここで、未硬化セメント組成物としては、セメントミルク、モルタル、コンクリートを挙げることができる。
【0012】
前記第1混練工程において、使用しうるポリカルボン酸系減水剤としては、日本工業規格JIS A 6204「コンクリート用化学混和剤」の化学混和剤の性能による区分で「高性能減水剤」「高性能AE減水剤」「減水剤」及び塩化物イオン(C1-)量による区分で「I種(塩化物イオン量=0.02kg/・以下)」に規定される性能及び品質を保有するものであれば、市販のいずれの銘柄でも使用することができる。
例えば、ポリカルボン酸系エーテル系の複合物、ポリカルボン酸系エーテル系及び架橋ポリマーの複合体、ポリカルボン酸系エーテル系及び配向ポリマーの複合物、ポリカルボン酸系エーテル系及び高変性ポリマーの複合物、ポリエーテルカルボン酸系高分子化合物、マレイン酸共重合物、マレイン酸エステル共重合物、マレイン酸誘導体共重合物、カルボキシル基含有ポリエーテル系、末端スルホン基を有するポリカルボン酸基含有多元ポリマー、ポリカルボン酸系グラフトポリマー、ポリカルボン酸及び変性リグニン、ポリカルボン酸エーテル系ポリマー等を基剤とする減水剤が使用できる。
【0013】
前記ナフタレン系減水剤としては、日本工業規格JIS A 6204「コンクリート用化学混和剤」の化学混和剤の性能による区分で「高性能減水剤」「高性能AE減水剤」「減水剤」、塩化物イオン(C1-)量による区分で「I種(塩化物イオン量=0.02kg/・以下)」に規定される性能及び品質を保有するものであれば、市販のいずれの銘柄でも使用することができる。
例えば、変性リグニンにアルキルアリルスルホン酸(ナフタレンスルホン酸)及び活性持続ポリマーを加えたもの、ポリアルキルアリルスルホン酸塩及び反応性高分子、アルキルアリルスルホン酸塩高縮化合物及び特殊スルホン酸基カルボキシル基含有多元ポリマー、アルキルナフタレンスルホン酸塩及び特殊界面活性剤、アルキルアリルスルホン酸塩変性リグニン共縮合物と変性リグニン誘導体及びアルキルアリルスルホネート等を基剤とする減水剤が使用できる。
【0014】
前記メラミン系減水剤としては、日本工業規格JIS A 6204「コンクリート用化学混和剤」の化学混和剤の性能による区分で「高性能減水剤」「高性能AE減水剤」「減水剤」、塩化物イオン(C1-)量による区分で「I種(塩化物イオン量=0.02kg/・以下)」に規定される性能及び品質を保有するものであれば、市販のいずれの銘柄でも使用することができる。
例えば、変性メチロールメラミン縮合物及び水溶性特殊高分子化合物、スルホン化メラミン高縮合物等を基剤とする高性能減水剤が使用できる。
【0015】
未硬化セメント組成物として、未硬化のセメントミルクを製造する場合、前記第1混練工程に於いては、前記ポリカルボン酸系減水剤以外に混練されるものとして、セメント、水、その他の混和材料を挙げることができる。
また、未硬化のモルタルを製造する場合には、前記ポリカルボン酸系減水剤以外に混練されるものとして、セメント、細骨材、その他の混和材料を挙げることができる。
更に、未硬化のコンクリートを製造する場合には、前記減水剤以外に混練されるものとして、セメント、粗骨材、細骨材、その他の混和材料を挙げることができる。
【0016】
前記セメントとしては、普通、中庸熱、低熱、早強、超早強、耐硫酸塩等の各種ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント等の各種混合セメント、アルミナセメント、11CaO・7Al23・CaX2系超速硬セメント(XはF等のハロゲン元素)、カルシウムサルフォアルミネート(アーウィン)系セメント等の超速硬セメント等を使用することができる。
【0017】
粗骨材、細骨材としては、天然産及び人工品のいずれも産地や種類に関係なく任意の市販品を1種類以上選択して使用することができる。
【0018】
その他の混和材料としては、フライアッシュ(石炭灰、日本工業規格JIS A 6201適合品)、シリカフューム(フュームドシリカ、日本工業規格JIS A 6207適合品)、電融ジルコニアを製造する際に副生成物として得られるジルコニア起源シリカ質微粉末、シリカフラワー、合成非晶質シリカ質微粉末、籾殻灰、シリカゲル、沈降性二酸化ケイ素微粉末、セメントキルンダスト、高炉フューム、高炉水砕スラグ微粉末(日本工業規格JIS A 6206適合品)、高炉除冷スラグ微粉末、転炉スラグ微粉末、ニ水石膏、半水石膏、無水石膏、膨張材(エトリンガイト系膨張材、エトリンガイト−生石灰複合型膨張材、日本工業規格JIS A 6202適合品)、石灰石微粉末、生石灰微粉末、ドロマイト微粉末、ナトリウム型ベントナイト、カルシウム型ベントナイト、アタパルジャイト、セピオライト、活性白土、酸性白土、アロフェン、イモゴライト、シラス(火山灰)、シラスバルーン、カオリナイト、メタカオリン(焼成粘土)、合成ゼオライト、人造ゼオライト、人工ゼオライト、モルデナイト、クリノプチロライト等の任意の1種以上を必要に応じて適宜使用することができる。
【0019】
前記第1混練工程に於いて、未硬化のセメントミルクを調整する場合には、水セメント比(質量比)が通常15〜100質量%であり、結合材に対して、前記ポリカルボン酸系減水剤は、固形分換算で、通常0.015〜1.5質量%であり、好ましくは、0.03〜0.9質量%である。更に、その他の混和材料は、通常1〜50質量%である。
また、未硬化のモルタルを調整する場合には、水セメント比(質量比)が通常15〜100質量%であり、結合材に対して、細骨材の含有量は25〜55質量%である。また、前記ポリカルボン酸系減水剤は、固形分換算で、通常0.015〜1.5質量%であり、好ましくは、0.03〜0.9質量%である。更に、その他の混和材料は、1〜50質量%である。
更に、未硬化のコンクリートを調整する場合には、水セメント比(質量比)が通常15〜100質量%でありであり、結合材に対して、細骨材の含有量は10〜20質量%であり、粗骨材の含有量は10〜20質量%である。また、前記ポリカルボン酸系減水剤は、通常0.015〜1.5質量%であり、好ましくは、0.03〜0.9質量%である。更に、その他の混和材料は、通常1〜20質量%である。
【0020】
前記第2混練工程では、第1混練工程にて得られた未硬化セメント組成物にナフタレン系減水剤又はメラミン系減水剤を添加して練り混ぜを行う。
ナフタレン系減水剤又はメラミン系減水剤の添加方法としては、該減水剤をそのまま添加する方法、水に薄めて添加する方法又は該減水剤の配合された未硬化コンクリート組成物(例えば、セメントミルク等)の状態で添加する方法等を採用することができる。
【0021】
前記第2混練工程で添加するナフタレン系減水剤又はメラミン系減水剤の添加量は、第1混練工程にて用いたポリカルボン酸系減水剤の質量に対して、外割り質量比率(固形分換算)で0.01〜0.1質量%とするのが好ましい。
外割り質量比率が0.01質量%未満では、十分な増粘効果が得られ難いため好ましくない。一方、外割り質量比率が0.1質量%を超過すると粘度が著しく高くなってハンドリングが極めて悪くなるため好ましくない。
前記第2混練工程に於いて、ナフタレン系減水剤又はメラミン系減水剤の添加は、複数回に分けて行うのが好ましい。斯かる方法によれば、粘度を調製しつつナフタレン系減水剤又はメラミン系減水剤を添加することができ、所望の粘度に調整しやすいという利点がある。
【実施例】
【0022】
以下に本発明の実施例を挙げ、さらに詳しく本発明を説明する。
[使用材料]
(1)減水剤:3種類(セメントミルク、モルタル、コンクリート試験共通)
・ポリカルボン酸系減水剤(日本シーカ社製、シーカメント1200N、日本工業規格J IS A 6204の高性能減水剤I種に適合、減水剤の主成分=ポリカルボン酸エー テル系化合物、密度=1.08g/cm3、固形分率28質量%)
・ナフタレン系減水剤(花王社製、マイティ150、日本工業規格JIS A 6204 の高性能減水剤I種に適合、減水剤の主成分=ナフタレンスルホン酸・ホルムアルデヒ ド縮合物ナトリウム塩、密度=1.20g/cm3、固形分率=28質量%)
・メラミン系減水剤(花王社製、マイティ150V−2、日本工業規格JIS A 62 04の高性能減水剤I種に適合、減水剤の主成分=メラミンスルホン酸塩、密度=1. 22g/cm3、固形分率=28質量%)

(2)セメントミルク試験
・水:上水道水
・セメント:普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント社製、密度=3.15g/c m3、ブレーン比表面積=3300cm2/g、C3S:エーライト含有量=53%)

(3)モルタル試験
・水:上水道水
・セメント:早強ポルトランドセメント(住友大阪セメント社製、密度=3.13g/c m3、ブレーン比表面積=4300cm2/g、C3S:エーライト含有量=66%)
・フライアッシュ:日本工業規格JIS A 6201「コンクリート用フライアッシュ 」I種適合品(日本産、SiO2含有量=62.9%、ブレーン比表面積=3900c m2/g、密度=2.41g/cm3
・膨張材:SACS(住友大阪セメント社製、エトリンガイト系膨張剤、密度=2.93 g/cm3、ブレーン比表面積=4000cm2/g)
・細骨材:岐阜県木曽川産混合珪砂(質量比率で3号珪砂40%+5号珪砂60%の割合 で混合、表乾密度=2.64g/cm3、吸水率=1.1%)
・消泡剤:シーカアンチフォームW(日本シーカ社製、ポリオキシアルキレンアルキルエ ーテル系消泡剤)

(4)コンクリート試験
・水:上水道水
・セメント:低熱ポルトランドセメント(住友大阪セメント社製、密度3.24g/cm 3、C2S:ビーライト含有量=54%)
・ シリカフューム:マイクロシリカ920U(エルケムジャパン社製、中国産、SiO 2含有量=92.9%、BET比表面積=19.0m2/g、密度=2.20g/cm3
・細骨材:茨城県桜川市産硬質砂岩砕砂(日本工業規格JIS A 5005「コンクリ ート用砕石及び砕砂」適合品、表乾密度=2.64g/cm3、吸水率=1.8%、F M=2.61)
・粗骨材:茨城県桜川市産硬質砂岩砕石2005(日本工業規格JIS A 5005「 コンクリート用砕石及び砕砂」適合品、表乾密度=2.65g/cm3、吸水率=0.9%、実績率=61%)
・消泡剤:シーカアンチフォームW(日本シーカ社製、ポリオキシアルキレンアルキルエ ーテル系消泡剤)
【0023】
[配合]
表1に普通ポルトランドセメントを用いた注入用セメントミルクの配合量を示す。
表2に結合材として早強ポルトランドセメント及びフライアッシュを用いた高流動(グラウト用)モルタルの配合量を示す。
表3に結合材として低熱ポルトランドセメント及びシリカフュームを用いた超高強度水中不分離コンクリートの配合表を示す。

【表1】

【表2】

【表3】

【0024】
実施例1〜8、比較例1
(1)セメントミルクの調製
表1の配合でセメントミルクを調製する第1混練工程を実施した。
即ち、各実施例等に於ける練混ぜ量は10リットルとし、20℃恒温室内で容量20リットルの円筒型ポリプロピレン容器と電動式ハンドミキサ(日立製作所製、6.5A、毎分1100回転)を用いた。材料の投入及び練混ぜ手順は、まず練混ぜ水とポリカルボン酸系減水剤を入れてハンドミキサで攪拌しながら普通セメントを投入して120秒間の混練りして未硬化セメントミルクを調整する第1混練工程を実施した。
次いで、第1混練工程で用いたポリカルボン酸系減水剤の質量に対してナフタレン系減水剤又はメラミン系減水剤をそれぞれ外割り固形分質量比率で表4の通り添加して、ハンドミキサで120秒間練混ぜを行って未硬化セメントミルクを調整する第2混練工程を実施した。
第2混練工程後、直ちに下記JAロートの流下時間を測定し、セメントミルクの流動性を評価した。また、セメントミルクのブリージング試験を行った。さらにφ5cm×h10cmの円柱供試体を作製し、材齢7日及び28日で圧縮強度試験を行った。結果を下記表4に示した。
【0025】
<JAロートによるセメントミルクの流動性評価>
土木学会コンクリート標準示方書「PCグラウトの流動性試験方法」(JSCE−F−531−1994)に準じて評価した。

<セメントミルクのブリージング試験>
土木学会コンクリート標準示方書「PCグラウトのブリーディング率および膨張率の試験方法」(ポリエチレン袋方法)(JSCE−F−532−1994)に準じ、練上がり直後から3時間後のブリージング率を測定した。

<圧縮強度試験>
日本工業規格JIS A 1108「コンクリートの圧縮試験方法」に準拠して行った。
【0026】
【表4】

【0027】
表4より、実施例1〜4は、本発明に示す範囲内で、第2混練工程においてナフタレン系減水剤あるいはメラミン系減水剤を、第1混練工程で用いたポリカルボン酸系減水剤の質量に対する外割り質量比率で0.01質量%及び0.1質量%添加した場合である。表4の試験結果より、実施例1〜4は、ブリージング率が0%で材料分離はなく、流動性の指標となるJAロート流下時間も約7〜13秒と問題なく、さらに圧縮強度も材齢28日で35N/mm2前後と良好な強度が発現していることが分かる。
一方、実施例5、7は、第2混練工程においてナフタレン系減水剤あるいはメラミン系減水剤を、第1混練工程で用いたポリカルボン酸系減水剤の質量に対する外割り質量比率で0.005質量%添加した場合である。表4の試験結果より、実施例5及び7では、流動性の指標となるJAロート流下時間が約5秒と優れ、圧縮強度も材齢28日で35〜36N/mm2と実施例1〜4と同等以上発現しているが、十分な粘性が得られていなかったため、ブリージング率は5%と材料分離が生じていることが分かる。
実施例6及び8は、第2混練工程においてナフタレン系減水剤あるいはメラミン系減水剤を、第1混練工程で用いたポリカルボン酸系減水剤の質量に対する外割り質量比率で0.2質量%添加した場合である。表4の試験結果から実施例6及び8では、ブリージング率は0%で材料分離はないが、粘性が過大となったため、流動性の指標となるJAロート流下時間は約30秒を大きく超えた。また圧縮強度も実施例1〜4より大幅に低下した。
比較例1は、本発明に示す範囲外で、第2混練工程においてナフタレン系減水剤あるいはメラミン系減水剤を添加しなかった場合である。表4の試験結果より、比較例1では、流動性の指標となるJAロート流下時間が約4秒と優れているが、粘性が極めて低いためブリージング率が19%と極めて大きく、材料分離が激しかったため、注入用セメントミルクとして問題があることが分かる。なお、圧縮強度は、材料分離が激しく供試体を作製できなかったため、測定を行えなかった。
【0028】
実施例9〜16、比較例2
(2)モルタル試験
表2の配合で未硬化のモルタルを調製する第1混練工程を実施した。
即ち、各実施例等に於ける練混ぜ量は15リットルとし、20℃恒温室内で容量20リットルの円筒型ポリプロピレン容器と電動式ハンドミキサ(日立製作所製、6.5A、毎分1100回転)を用いた。材料の投入及び練混ぜ手順は、まず練混ぜ水とポリカルボン酸系減水剤、消泡剤を投入してハンドミキサで攪拌しながら早強セメント、フライアッシュ、細骨材の順番で投入して120秒間の混練りして未硬化セメントモルタルを調整する第1混練工程を実施した。
次いで、第1混練工程で用いたポリカルボン酸系減水剤の質量に対してナフタレン系減水剤及びメラミン系減水剤の群から選ばれた1種の減水剤をそれぞれ外割り質量比率で表5の通り添加して、ハンドミキサで180秒間練混ぜを行って未硬化モルタルを調整する第2混練工程を実施した。
尚、第1混練工程に於けるポリカルボン酸系減水剤の添加量は、結合材(セメント+フライアッシュ)質量に対して0.48質量%一定とした。また消泡剤の添加量(原液質量)は、結合材質量に対して0.03質量%一定とした。また、第1混練工程に於ける減水剤及び消泡剤は、練混ぜ水とみなした。
第2混練工程終了後、直ちに下記J14ロートの流下時間を測定し、モルタルの流動性を評価した。また、水平及び角度45度に傾けたシース管を模擬した内径φ50mmの透明塩化ビニール製パイプを用いた模擬注入試験を行った。さらにφ5cm×h10cmの円柱供試体を作製し、材齢7日及び28日で圧縮強度試験を行った。結果を下記表5に示した。
【0029】
<J14ロートによるモルタルの流動性評価試験>
土木学会コンクリート標準示方書「PCグラウトの流動性試験方法」(JSCE−F−531−1994)に準じて評価した。

<モルタルのブリージング試験>
土木学会コンクリート標準示方書「PCグラウトのブリーディング率および膨張率の試験方法」(ポリエチレン袋方法)(JSCE−F−532−1994)に準拠して、練上がり直後から3時間後のブリージング率を測定した。

<モルタルの模擬注入試験>
平成13年10月日本道路公団監修(財)高速道路技術センター「PC橋の耐久性向上に関する設計・施工マニュアル」に準拠して練り上り直後に行った。

<圧縮強度試験>
日本工業規格JIS A 1108「コンクリートの圧縮試験方法」に準拠して行った。
【0030】
【表5】

【0031】
表5より、実施例9〜12は、第2混練工程においてナフタレン系減水剤あるいはメラミン系減水剤を、第1混練工程で用いたポリカルボン酸系減水剤の質量に対する外割り質量比率で0.01質量%及び0.1質量%添加した場合である。表5の試験結果より、実施例9〜12は、ブリージング率が0%で材料分離はなく、流動性の指標となるJ14ロートの流下時間も約11〜15秒と問題なく、さらに模擬注入試験も水平及び45度傾斜いずれの場合も良好な充填状態であった。圧縮強度も材齢28日で115N/mm2前後と良好な強度が発現していることが分かる。
一方、実施例13及び15は、第2混練工程においてナフタレン系減水剤あるいはメラミン系減水剤を、第1混練工程で用いたポリカルボン酸系減水剤の質量に対する外割り質量比率で0.005質量%添加した場合である。表5の試験結果より、実施例13及び15では、流動性の指標となるJ14ロートの流下時間も約10秒と優れ、圧縮強度も材齢28日で約115N/mm2と実施例9〜12と同等以上発現しているが、十分な粘性が得られていなかったため、ブリージング率が0.2〜0.3%とわずかに材料分離が発生しており、さらに模擬注入試験でも水平は良好な充填状態であったが45度傾斜では、粘性が低いことに起因する先走り(充填部に空気が残留してしまう充填不良)が発生した。
実施例14及び16は、第2混練工程においてナフタレン系減水剤あるいはメラミン系減水剤を、第1混練工程で用いたポリカルボン酸系減水剤の質量に対する外割り質量比率で0.2質量%添加した場合である。表5の試験結果から実施例14及び16では、粘性が極めて過大となったため、J14ロートによる流動性評価、ブリージング試験、注入試験、圧縮強度試験は行うことができなかった。
比較例2は、本発明に示す範囲外で、第2混練工程においてナフタレン系減水剤あるいはメラミン系減水剤を添加しなかった場合である。表5の試験結果より、比較例2では、流動性の指標となるJ14ロートの流下時間も約8秒と優れ、圧縮強度も材齢28日で約120N/mm2と実施例5〜8より高く発現しているが、粘性が極めて低いためブリージング率が0.8%と材料分離しており、さらに模擬注入試験でも水平及び45度傾斜では、粘性が低いことに起因する先走り(充填部に空気が残留してしまう充填不良)が発生し、注入用のモルタルとして問題があることが分かる。
【0032】
実施例17〜24、比較例3
(3)コンクリート試験
表3の配合で未硬化のコンクリートを調製する第1混練工程を実施した。
即ち、各実施例等に於ける練混ぜ量は30リットルとし、20℃恒温室内で容量55リットルのニ軸強制練りミキサ(大平洋機工製SD−55型、モータ出力3.7kW)を用いた。材料の投入及び練混ぜ手順は、まず粗骨材、低熱セメント、シリカフューム、細骨材の順番で投入して空練りを15秒間行い、次に練混ぜ水、ポリカルボン酸系減水剤、消泡材を投入して540秒間の本練りを行って第1混練工程を実施した。
次いで、第1混練工程で用いたポリカルボン酸系減水剤に対してナフタレン系減水剤及びメラミン系減水剤の群から選ばれた1種の減水剤をそれぞれ外割り質量比率で表6の通り添加して、コンクリートミキサで120秒間練混ぜを行った。
尚、第1混練工程に於けるポリカルボン酸系ポリカルボン酸系減水剤の添加量(質量)は、結合材(セメント+シリカフューム)質量に対して0.75質量%一定とした。また消泡剤の添加量(原液質量)は、結合材質量に対して0.03質量%一定とした。なお、第1混練工程に於けるポリカルボン酸系減水剤及び消泡剤は、練混ぜ水とみなした。
第2混練工程終了後、直ちにフレッシュコンクリート試験を実施し、圧縮強度測定用のφ10cm×h20cm円柱供試体を作製した。フレッシュコンクリートは、スランプフロー、空気量を測定し、また水中不分離性を測定した。さらにコンクリートが硬化後、圧縮強度を測定した。圧縮強度の材齢は7日、28日とした。
【0033】
<スランプフロー測定>
土木学会コンクリート標準示方書の水中不分離性コンクリートのスランプフロー試験方法(JSCE‐F503‐1990)に則して行った。
<空気量測定>
日本工業規格JIS A 1118「フレッシュコンクリートの空気量の容積による試験方法(容積方法)」に則して実施した。
<水中不分離コンクリートの圧縮強度試験>
土木学会コンクリート標準示方書の水中不分離性コンクリートの圧縮強度試験方法(JSCE‐F504‐1990)に則して水中にコンクリートを投入して水中供試体を作製し、気中で作製した供試体との強度比を測定した。なお、土木学会水中不分離性コンクリートの基準では、水中気中強度比は材齢7日及び28日において、いずれも80%以上と規定されている。
<圧縮強度試験>
日本工業規格JIS A 1108「コンクリートの圧縮試験方法」に則して行った。
【0034】
【表6】

【0035】
表6より、実施例17〜20は、第2混練工程においてナフタレン系減水剤あるいはメラミン系減水剤を、第1混練工程で用いたポリカルボン酸系減水剤の質量に対する外割り質量比率で0.01質量%及び0.1質量%添加した場合である。表6の試験結果より、実施例17〜20は、流動性の指標となるスランプフローの平均値は約77〜83cm、空気量も約2〜3%と問題なく、さらに水中気中強度比は、材齢7日及び28日において、いずれも80%以上と規格を満たしていることが分かる。
一方、実施例21及び23は、第2混練工程においてナフタレン系減水剤あるいはメラミン系減水剤を、第1混練工程で用いたポリカルボン酸系減水剤の質量に対する外割り質量比率で0.005質量%添加した場合である。表6の試験結果より、実施例21及び23では、流動性の指標となるスランプフローの平均値は約88〜89cm、空気量も約1.5%と問題なかったが、水中気中強度比は、全て規格値を下回っていた。
実施例22及び24は、第2混練工程においてナフタレン系減水剤あるいはメラミン系減水剤を、第1混練工程で用いたポリカルボン酸系減水剤の質量に対する外割り質量比率で0.2質量%添加した場合である。表6の試験結果から実施例22及び24では、粘性が極めて過大となったため、スランプフロー、空気量、圧縮強度試験は行うことができなかった。
比較例3は、本発明に示す範囲外で、第2混練工程においてナフタレン系減水剤あるいはメラミン系減水剤を添加しなかった場合である。表6の試験結果より、比較例3では、流動性の指標となるスランプフローの平均値は約93cm、空気量0.9%と問題なかったが、水中気中強度比は、全て規格値を下回っているため、水中不分離コンクリートとして問題があることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカルボン酸系減水剤を用いて練り混ぜを行うことにより未硬化セメント組成物を調製する第1混練工程と、該第1混練工程にて得られた未硬化セメント組成物にナフタレン系減水剤又はメラミン系減水剤を添加して練り混ぜを行う第2混練工程とを実施することを特徴とする未硬化セメント組成物の製造方法。
【請求項2】
前記第1混練工程で使用する減水剤に対して、前記第2混練工程で使用する減水剤の添加量を外割り質量比率で0.01〜0.1質量%とする請求項1記載の未硬化セメント組成物の製造方法。

【公開番号】特開2011−201126(P2011−201126A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70331(P2010−70331)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】