説明

末端にフェノール性水酸基を有する可溶性多官能ビニル芳香族共重合体及びその製造方法

【課題】優れた耐熱性と耐熱分解性とを有し、硬化性に優れ、接着性などの機能付与可能な官能基を末端に持ち、かつ成形加工性に優れる制御された分子量分布と溶剤可溶性を兼ね備えた多官能ビニル芳香族共重合体を得る。
【解決手段】ジビニル芳香族化合物及びモノビニル芳香族化合物を共重合して得られる共重合体であって、その末端基の一部にフェノール性水酸基を導入し、かつ、ペンダントビニル基を有する繰り返し単位の含有量を10〜90モル%とすることで、耐熱性や接着性等に優れた末端にフェノール性水酸基を有する可溶性多官能ビニル芳香族共重合体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末端にフェノール性水酸基を有する可溶性多官能ビニル芳香族重合体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
反応活性のある不飽和結合を有する単量体の多くは、不飽和結合が開裂して、連鎖反応を起こす触媒と適切な反応条件を選択することによりポリマーを生成することができる。このような不飽和結合を有する単量体を代表する汎用的な単量体としてスチレン、アルキルスチレン及びアルコキシスチレン等のビニル芳香族化合物を挙げることができる。そして、このようなビニル芳香族化合物を単独で又はこれらを共重合させることにより多種多様な樹脂が合成されている。
【0003】
しかし、このようなビニル芳香族化合物から得られる重合体の用途は主に、比較的安価な民生機器の分野に限られており、電気・電子分野におけるプリント配線基板のような高機能で高度の熱的・機械的特性が要求される先端技術への適用はほとんどない。その理由としては、耐熱性あるいは耐熱分解性といった熱的特性と溶剤可溶性あるいはフィルム成形性といった加工性を同時に満足させることができないことがあげられる。
【0004】
このような従来のビニル芳香族系重合体の欠点を解決する方法として、特許文献1にはジビニル芳香族化合物(a)及びモノビニル芳香族化合物(b)を有機溶媒中、ルイス酸触媒及び特定構造の開始剤の存在下、20〜100℃の温度で重合させることによって得られる可溶性多官能ビニル芳香族共重合体が開示されている。また、特許文献2には4級アンモニウム塩の存在下で、ルイス酸触媒及び特定構造の開始剤により、ジビニル芳香族化合物(a)を20〜100モル%含有してなる単量体成分を20〜120℃の温度でカチオン重合させることにより制御された分子量分布を有する可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の製造方法が開示されている。これら2つの特許で開示されている技術によって得られる可溶性多官能ビニル芳香族共重合体は溶剤可溶性及び加工性に優れ、これを使用することによってガラス転移温度の高い耐熱性に優れた硬化物を得ることができる。しかし、これらの技術によって得られる可溶性多官能ビニル芳香族共重合体は高いガラス転移温度を持つ硬化物を与えるという点では耐熱性に優れた重合体であると言うことはできるものの、耐熱変色性やアウトガスの発生という観点から見ると、近年の鉛フリー半田に対応した高いプロセス温度に対する耐熱分解性は十分ではなく、300℃近傍の高い熱履歴によって、フクレや変色などの不良が生ずるケースがあった。更に、これらの技術によって得られた可溶性多官能ビニル芳香族共重合体は金属との接着性を与える極性基を有していないために、金属配線との接着性が十分でないという問題点も有していた。
【0005】
一方、特許文献3には、イソブチレンを含有するカチオン重合性モノマーを開始剤兼連鎖移動剤として作用する特定構造のハロゲン含有有機化合物、及びルイス酸の存在下に低温でリビングカチオン重合を行うことにより、末端にイソブチリル基を有するイソブチレン系重合体を合成し、更にルイス酸存在下で、この末端にイソブチレン基を有するイソブチレン系重合体と特定構造のフェノール系化合物とのフリーデルクラフツ型反応を行うことによって、停止末端に水酸基を有するイソブチレン系重合体の製造方法が開示されている。しかしながら、当該技術によって合成された末端にイソブチレンを有するイソブチレン重合体は、多官能ビニル芳香族化合物を使用していないことに起因して、ペンダントビニル基を有しておらず、このため成形品のガラス転移温度が低く、電気・電子分野のような高機能で高度の熱的・機械的特性が要求される先端技術分野に適用できないという問題点があった。また、末端に1分子当り1.1個以上の官能基を導入するためには、開始剤として多官能の特殊な化合物を使用する必要があった。
【0006】
従って、上記の従来技術の種々の問題点を解決し、高い熱履歴に対しても優れた耐熱性と耐熱分解性とを有し、硬化性に優れたビニル基をペンダント位に持ち、接着性などの機能付与可能な官能基を末端に持ち、なおかつ成形加工性に優れる制御された分子量分布と溶剤可溶性を兼ね備えた多官能ビニル芳香族共重合体はこれまでに存在しなかった。
【0007】
【特許文献1】特開2004−123873号公報
【特許文献2】特開2005−213443号公報
【特許文献3】特開平4−20501号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高い熱履歴に対しても優れた耐熱性を有し、硬化性に優れたペンダント位のビニル基を持ち、加工性に優れる制御された低分子量と溶剤可溶性を兼ね備え、末端に接着性等の機能付与可能なフェノール性水酸基を有する多官能ビニル芳香族共重合体とこの共重合体を高効率に製造する製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ジビニル芳香族化合物(a)20〜99モル%及びモノビニル芳香族化合物(b)80〜1モル%を共重合して得られる共重合体であって、その末端の一部に重合添加剤(c)に由来するフェノール性水酸基を有し、かつ、ジビニル芳香族化合物(a)に由来する下記式(a1)
【化1】

(式中、R1は炭素数6〜30の芳香族炭化水素基を示す。)で表される未反応のビニル基を含有する構造単位の含有量が10〜90モル%であることを特徴とする末端にフェノール性水酸基を有する可溶性多官能ビニル芳香族共重合体である。
【0010】
この可溶性多官能ビニル芳香族共重合体は、数平均分子量Mnが500〜100000であり、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比で表される分子量分布(Mw/Mn)が10.0以下であることが好ましい。また、フェノール性水酸基の末端への導入量(a1)が2.2個/分子以上であることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、
(A)ルイス酸触媒
(B)エステル化合物から選ばれる一種以上の助触媒
(C)フェノール系化合物から選ばれる一種以上の重合添加剤
の存在下で、ジビニル芳香族化合物を20〜99モル%及びモノビニル芳香族化合物を80〜1モル%含有してなる単量体成分を、誘電率2.0〜15.0の溶媒に溶解させた均一溶媒中、20〜120℃の温度で重合させることを特徴とする上記の可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の製造方法である。
【0012】
ここで、ルイス酸触媒としては、金属フッ化物又はその錯体が好ましい。助触媒としては、酢酸エチル、酢酸プロピル及び酢酸ブチルからなる群から選ばれる1種以上のエステル化合物が好ましい。重合添加剤としては、フェノール、アルキルフェノール、ジアルキルフェノール、フェニルフェノール、アルキルフェニルフェノール、ナフトール及びアルキルナフトールからなる群から選ばれる1種以上のフェノール性水酸基を有するフェノール系化合物が好ましい。
【0013】
以下、本発明の末端にフェノール性水酸基を有する可溶性多官能ビニル芳香族共重合体(以下、本発明の共重合体ともいう。)及びその製造方法について詳しく説明する。
【0014】
本発明の共重合体は、ジビニル芳香族化合物及びモノビニル芳香族化合物を共重合して得られる共重合体であって、その末端基の一部にフェノール性水酸基を有し、かつ、ジビニル芳香族化合物(a)に由来する上記式(a1)で表される未反応のビニル基を含有する構造単位の含有量が10〜90モル%である末端にフェノール性水酸基を有する可溶性多官能ビニル芳香族共重合体である。ここで、可溶性とはトルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、ジクロロエタン又はクロロホルムに可溶であることを意味する。
【0015】
本発明の共重合体は、ジビニル芳香族化合物を含む単量体を共重合して得られるものであるので、分岐構造又は架橋構造を有するが、かかる構造の存在量は可溶性を示す程度に制限される。したがって、上記式(a1)で表される未反応のビニル基を含有する構造単位を一定量有する多官能ビニル芳香族共重合体となっている。式(a1)で表される構造単位中の未反応のビニル基はペンダントビニル基ともいい、これは重合性を示すため、更なる重合処理により重合し、溶剤不溶の熱硬化樹脂を与えることができる。更に、本発明の共重合体は、末端に重合添加剤に由来するフェノール性水酸基を有する。そして、末端にフェノール性水酸基を有しない共重合体及びその製造方法は、上記特許文献1、2等で公知であるので、それらの記載を参照することにより理解される。
【0016】
本発明の共重合体は、重合体の末端の一部にフェノール性水酸基を有しているが、この末端のフェノール性水酸基の量としては2.2(個/分子)以上導入されていることが好ましい。より好ましくは、2.5(個/分子)以上、特に好ましくは3.0(個/分子)以上である。本発明の共重合体の末端にフェノール性水酸基が導入されることによって、接着性が向上した成形品を得ることができる。末端のフェノール性水酸基の量の上限には制限はないが、好ましくは100(個/分子)以下、より好ましくは20(個/分子)以下である。
【0017】
本発明の共重合体は、ジビニル芳香族化合物由来のペンダントビニル基と共に、末端の一部にフェノール性水酸基が導入されるよう共重合して得られる。通常、モノビニル芳香族化合物を重合させることによって得られる直鎖状のポリマーの場合、末端は開始末端及び停止末端の2つであるため、本発明のようにフェノール系化合物の存在下で、ルイス酸触媒を使用したカチオン重合法を行うと、フェノール性水酸基は停止末端に1つしか入らない。しかし、本発明の末端にフェノール性水酸基を有する可溶性多官能ビニル芳香族共重合体では、単量体成分としてジビニル芳香族化合物を使用しているため、重合反応の過程において、成長ポリマー鎖中に組込まれたジビニル芳香族化合物のもう一つのビニル基の一部が重合反応を受けるために、構造中に分岐を生成する。
【0018】
分岐の反応を模式化した反応式を図1に示す。分岐が1つできると、末端は、開始末端2つ及び停止末端2つの合計4つとなり、フェノール性水酸基末端は2つ入ることが可能となる。このように、本発明では、重合過程において、成長ポリマー鎖が他のポリマーのペンダントビニル部分への重合反応を起すことによって、分岐を生成し、末端の数を増大させるという独創的な重合方法によって、フェノール性水酸基末端を1分子に2個以上導入することが可能になったのである。
【0019】
本発明の共重合体は、20〜99モル%のジビニル芳香族化合物(a)と1〜80モル%のモノビニル芳香族化合物(b)を共重合して得られるものであるので、ほぼこの単量体の組成比にジビニル芳香族化合物(a)由来の構造単位とモノビニル芳香族化合物(b)由来の構造単位を有する。本発明の共重合体はジビニル芳香族化合物(a)由来の構造単位を全ての単量体由来の構造単位に対して、25〜95モル%含んでいることが好ましい。より好ましくは30〜90モル%である。使用するジビニル芳香族化合物(a)由来の構造単位が10モル%未満であると、硬化物の耐熱性が不足するので、好ましくない。また、ジビニル芳香族化合物(a)由来の構造単位が99モル%を越えると、成形加工性が低下するので好ましくない。
【0020】
ジビニル芳香族化合物(a)は、本発明の共重合体を分岐又は架橋させると共に、ペンダントビニル基を生じさせ、この共重合体を熱硬化する際に耐熱性を発現させるための架橋成分として重要な役割を果たす。
【0021】
ジビニル芳香族化合物(a)の例としては、ジビニルベンゼン(m−及びp−両方の異性体)、ジビニルナフタレン(各異性体を含む)、ジビニルビフェニル(各異性体を含む)等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、コスト及び入手の容易さの観点からはジビニルベンゼン(m−及びp−両方の異性体)、より高度の耐熱性が求められる場合は、ジビニルナフタレン(各異性体を含む)、ジビニルビフェニル(各異性体を含む)が好ましく使用される。
【0022】
上記式(a1)で表される構造単位は、ジビニル芳香族化合物(a)から生じるものであるので、ジビニル芳香族化合物(a)から式(a1)におけるR1を理解することができる。すなわち、ジビニル芳香族化合物としてジビニルベンゼンを使用した場合は、R1はフェニレン基であり、ジビニルビフェニル等他のジビニル芳香族化合物もこれらから2つのビニル基を除いて生じる残基と理解される。なお、ジビニル芳香族化合物(a)から生じる構造単位には、主鎖中の二重結合等が考えられ、式(a1)で表される構造単位や分岐構造単位には限られない。
【0023】
モノビニル芳香族化合物(b)はジビニル芳香族化合物(a)と共に使用されて、本発明の共重合体の溶剤可溶性及び加工性を改善する。
【0024】
モノビニル芳香族化合物(b)の例としては、スチレン、核アルキル置換モノビニル芳香族化合物、α−アルキル置換モノビニル芳香族化合物、β−アルキル置換スチレン、アルコキシ置換スチレン等があるが、これらに制限されるものではない。重合体のゲル化を防ぎ、溶媒への溶解性、加工性の改善するために、特にスチレン、エチルビニルベンゼン(m−及びp−両方の異性体)、エチルビニルビフェニル(各異性体を含む)がコスト及び入手の容易さの観点から、好まれて使用される。
【0025】
また、本発明の共重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、モノビニル芳香族化合物(a)、はジビニル芳香族化合物(b)由来の構造単位の他に、トリビニル芳香族化合物、トリビニル脂肪族化合物やジビニル脂肪族化合物及びモノビニル脂肪族化合物等のその他の単量体成分(c)由来の構造単位を導入することができる。
【0026】
その他の単量体成分(c)の具体例としては、1,3,5−トリビニルベンゼン、1,3,5−トリビニルナフタレン、1,2,4−トリビニルシクロへキサン、エチレングリコールジアクリレート、ブタジエン等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。これらは単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。その他の単量体成分(c)に由来する構造単位は単量体成分(a)由来の構造単位及び単量体成分(b)由来の構造単位の総量に対して30モル%未満の範囲内で使用される。
【0027】
本発明の共重合体の数平均分子量Mn(ここで、Mnはゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定される標準ポリスチレン換算の数平均分子量である)は500〜100000が好ましく、より好ましくは700〜50000であり、更に好ましくは1000〜20000である。Mnが500未満であると可溶性多官能ビニル芳香族重合体の粘度が低すぎるため、厚膜の形成が困難になるなど、加工性が低下し、また、Mnが100000以上であると、ゲルが生成しやすくなり、また、粘度が高くなるため、フィルム等に成形した場合、外観の低下を招くので好ましくない。Mnと重量平均分子量Mwより求められる分子量分布(Mw/Mn)の値は10.0以下、好ましくは5.0以下である。Mw/Mnが10.0を超えると、末端にフェノール性水酸基を有する可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の加工特性の悪化、ゲルの発生といった問題点を生ずる。
【0028】
本発明の共重合体は、上記単量体を、(A)ルイス酸触媒、(B)エステル化合物から選ばれる一種以上の助触媒(C)フェノール系化合物から選ばれる一種以上の重合添加剤存在下でカチオン共重合させることにより得ることができる。
【0029】
次に、本発明の製造方法について説明する。本発明の製造方法では、ジビニル芳香族化合物(a)を、20〜99モル%、好ましくは25〜95モル%、より好ましくは30〜90モル%と、モノビニル芳香族化合物を80〜1モル%、好ましくは75〜5モル%、より好ましくは70〜10モル%を含有する単量体成分を共重合させる。この際、上記したようにその他の単量体成分(c)を30モル%未満使用することができる。
【0030】
本発明の製造方法で用いられる(A)ルイス酸触媒としては、金属イオン(酸)と配位子(塩基)からなる化合物であって、電子対を受け取ることのできるものであれば特に制限なく使用できる。ルイス酸触媒の中でも共重合体の耐熱分解性の観点から、特にB、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Ti、W、Zn、Fe及びV等の2〜6価の金属フッ化物が好ましい。上記の触媒は、特に制限されるものではなく、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の共重合体の分子量及び分子量分布の制御及び重合活性の観点から、三フッ化ホウ素のエーテル(ジエチルエーテル、ジメチルエーテル等)錯体が最も好ましく使用される。
【0031】
(B)助触媒としてはエステル化合物から選ばれる1種以上が挙げられる。その中で、重合速度及び重合体の分子量分布制御の観点から炭素数4〜30のエステル化合物が好適に使用される。入手の容易さの観点から、酢酸エチル、酢酸プロピル及び酢酸ブチルが好適に使用される。
【0032】
(C)重合添加剤は重合反応時に重合活性種との間で連鎖移動反応を起こし、本発明の共重合体の末端に、接着性等の機能付与を可能にするフェノール性水酸基を導入する役割を果たす化合物である。
【0033】
上記重合添加剤としては、フェノール系化合物であれば特に制限はないが、フェノール、アルキルフェノール、ジアルキルフェノール、フェニルフェノール、アルキルフェニルフェノール、ナフトール、アルキルナフトール等の炭素数6〜30のフェノール性水酸基を有する芳香族炭化水素化合物からなる群から選ばれる1種以上の重合添加剤が挙げられる。これらのフェノール系化合物の内、反応性、入手の容易さの観点から、フェノール及び2,6−キシレノールが好ましく用いられる。
【0034】
上記ルイス酸触媒は重合添加剤1モルに対して、0.001〜10モルの範囲内で用いるが、より好ましくは0.001〜0.01モルである。ルイス酸触媒の使用量が重合添加剤1モルに対して10モルを越えると、重合速度が大きくなりすぎるため、分子量分布の制御が困難となるばかりでなく、フェノール性水酸基の導入量が減少するので好ましくない。
【0035】
上記助触媒は重合添加剤1モルに対して0.001〜10モルの範囲内で使用するが、より好ましくは0.01〜1モルである。重合添加剤1モルに対して助触媒の使用量が10モルを超えると、重合速度が減少し、共重合体の収率が低下するばかりでなく、フェノール性水酸基の導入量が減少するため好ましくない。一方、助触媒の使用量が重合添加剤1モルに対して0.001モル未満であると、重合反応の選択性が低下するため、分子量分布の増大、ゲルの生成、重合速度が増大することに伴う重合反応の制御が困難となる。
【0036】
また、上記重合添加剤は全単量体の合計1モルに対し、0.005〜50モルの範囲内で使用することが好ましく、より好ましくは、0.01〜10モルであり、特に好ましくは0.1〜5モルである。重合添加剤の添加量が単量体1モルに対し、0.005モル未満であると、フェノール性水酸基の導入量が減少し、接着性等の機能が低下するばかりでなく、分子量及び分子量分布が増大し、成形加工性が悪化するので好ましくない。また、重合添加剤の添加量をモノマー1モルに対し50モルを超えて使用すると、得られるポリマー中のペンダントビニル基の含有量が著しく低下するため、共重合体を硬化させて得られる硬化物の耐熱性が低下する。また、生成する共重合体の分子量及び分子量分布が増大するので、成形加工性の観点からも好ましくない。
【0037】
また、重合反応は、生成する可溶性多官能ビニル芳香族共重合体を溶解する誘電率が2〜15である1種以上の溶媒中で行われる。溶媒としては、カチオン重合を本質的に阻害しない化合物であり、かつルイス酸触媒、助触媒、開始剤、単量体及び多官能ビニル芳香族共重合体を溶解して、均一溶液を形成する有機溶媒がよい。溶媒は誘電率が2〜15の範囲内であれば特に制限はなく、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。溶媒の誘電率が2未満であると、分子量分布が広くなるため好ましくなく、15を超えるとゲルが生成しやすくなるので好ましくない。
【0038】
重合活性、溶解性のバランスの観点から溶媒としては、トルエン、キシレン、n−へキサン、シクロへキサン、メチルシクロへキサン及びエチルシクロへキサンが特に好ましい。また、溶媒の使用量は、得られる重合溶液の粘度や除熱の容易さを考慮して、重合終了時において重合溶液中の共重合体の濃度が1〜80wt%、好ましくは5〜60wt%、特に好ましくは7〜50wt%となるように決定される。重合終了時に於ける重合溶液中の共重合体の濃度が1wt%に満たない場合は、重合効率が低いことに起因して、コストの増大を招くため好ましくない。一方、80wt%を越えると、分子量及び分子量分布が増大し、成形加工性の低下を招くので好ましくない。
【0039】
重合温度は20〜120℃の範囲であるが、好ましくは40〜100℃である。重合温度が120℃を超えると、反応の選択性が低下するため、分子量分布の増大やゲルの発生といった問題点が生じ、20℃未満で重合を行うと得られた共重合体の分子量が増大し、成形加工性の低下を招くので好ましくない。
【0040】
重合反応停止後、共重合体を回収する方法は特に限定されず、例えば、スチームストリッピング法、貧溶媒での析出などの通常用いられる方法を用いればよい。
【発明の効果】
【0041】
本発明により、接着性及び耐熱分解性が改善された末端にフェノール性水酸基を有する可溶性多官能ビニル芳香族共重合体が得られると同時に、当該共重合体を高効率に製造することができる。また、本発明の末端にフェノール性水酸基を有する可溶性多官能ビニル芳香族共重合体は、成形材、シート又はフィルムに加工することができ、低誘電率、低吸水率、高耐熱性等の特性を満足できるプリント配線板関連材料、半導体関連材料又は光学デバイス用透明材料、更には、塗料・インキ、感光性材料、接着剤への適用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
次に、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらにより制限されるものではない。なお、各例中の部はいずれも重量部である。また、実施例中の軟化温度等の測定は以下に示す方法により試料調製及び測定を行った。
【0043】
1)共重合体の分子量及び分子量分布
GPC(東ソー製、HLC−8120GPC)を使用し、溶媒にテトラヒドロフラン、流量1.0ml/min、カラム温度38℃、単分散ポリスチレンによる検量線を用いて行った。
【0044】
2)ポリマーの構造
日本電子製JNM−LA600型核磁気共鳴分光装置を用い、13C−NMR及び1H−NMR分析により決定した。溶媒としてクロロホルム−d1を使用し、テトラメチルシランの共鳴線を内部標準として使用した。
【0045】
3)末端フェノール性水酸基
上記のGPC測定より得られる数平均分子量と1H−NMR測定と元素分析の結果より得られる末端のフェノール性水酸基量とから算出した。
【0046】
4)ガラス転移温度(Tg)及び軟化温度(Sp)測定の試料調製及び測定
乾燥後の厚さが20μmになるように、ガラス基板に共重合体溶液を均一に塗布し、ホットプレートを用いて90分で30分間加熱し、乾燥させた。ガラス基板とともに得られた樹脂膜はTMA(熱機械分析装置)にセットし、窒素気流下、昇温速度10℃/分で220℃まで昇温し、更に220℃で20分間加熱処理することにより残存する溶媒を除去した。ガラス基板を室温まで放冷した後、TMA測定装置中の試料に分析用プローブを接触させ、窒素気流下、昇温速度10℃/分で30℃から360℃までスキャン測定を行い、接線法で軟化温度及びガラス転移温度を求めた。
【0047】
5)耐熱性評価及び耐熱変色性の測定
共重合体をTGA(熱天秤)測定装置にセットし、窒素気流下、昇温速度10℃/分で30℃から320℃までスキャンさせることにより測定を行い、300℃における重量減少を耐熱性として求めるとともに測定後の試料の変色量を目視にて確認し、A:熱変色なし、B:淡黄色、C:茶色、D:黒色に分類することにより耐熱変色性の評価を行った。
【0048】
6)全光線透過率の測定
共重合体を濁度計測定装置にセットし、ハロゲン光を当てることにより測定した。
【実施例1】
【0049】
ジビニルベンゼン4230g(32.4モル)、エチルビニルベンゼン169g(1.35モル)、スチレン1170g(11.3モル)、酢酸エチル158g(1.8モル)、2,6-キシレノール1649g(13.5モル)、トルエン12745gを30Lの反応器内に投入し、70℃で18g(120ミリモル)の三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体を添加し、2時間反応させた。重合溶液を1−ブタノール53.3gで停止させた後、室温で反応混合液を大量のn-へキサンに投入し、共重合体を析出させた。得られた共重合体をn-へキサンで洗浄し、濾別、乾燥、秤量して、共重合体Aを3948g(収率:70.9wt%)得た。
【0050】
得られた共重合体AのMnは2820、Mwは10800、Mw/Mnは3.84であった。13C‐NMR及び1H‐NMR分析を行うことにより、共重合体Aは2,6−キシレノール末端に由来する共鳴線が観察された。共重合体Aの元素分析結果を行った結果、C:88.2wt%、H:7.9wt%、O:3.3wt%であった。元素分析結果と標準ポリスチレン換算の数平均分子量から算出される可溶性多官能ビニル芳香族重合体のフェノール性水酸基の導入量(a)は5.8(個/分子)であった。また、ジビニルベンゼン由来の構造単位を79.2モル%及びスチレンとエチルベンゼン由来の構造単位を合計20.7モル%含有していた。共重合体A中に含まれるビニル基含有量は、32モル%であった。また、TMA測定の結果、Tgは275℃、軟化温度は300℃以上であった。TGA測定の結果、300℃における重量減少は1.5wt%、耐熱変色性はAであった。共重合体Aはトルエン、キシレン、THF、ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルムに可溶であり、ゲルの生成は認められなかった。
【0051】
実施例1で得られた多官能ビニル芳香族共重合体A:4.5重量部、ポリフェニレンエーテルMGC OPE−2ST:18重量部、ゴム成分KRATON GRP6935:11.5重量部、タフテック M1913:4.5重量部、タフテック H1041:4.5重量部、リン−窒素系難燃剤SPB−100:2.5重量部、及び平均粒子径:0.5μmの球状シリカSO−C2: 25.0重量部、熱硬化性樹脂EOCN−1020−65:2.5重量部、シランカップリング剤A−1289:0.5重量部と溶剤としてキシレン:132重量部とを配合して、攪拌後、反応開始剤パーブチルP:0.5重量部及び硬化触媒タフテック H1053:4.5重量部、2E4MZ:0.05を加えて、接着剤用樹脂組成物溶液を調製した。
ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)シートを張りつけた台に、接着剤用樹脂組成物溶液をキャストし、フィルムを得た。得られたフィルムは窒素ガスを流したイナートオーブンで、80℃で10分間乾燥させた。得られたフィルムは約50μmの厚みであり、べたつき等がなく成膜性に優れていた。
このフィルムをポリイミドフィルム(デュポン社製カプトンEN25μm)と銅箔をエッチアウトしたFR−4基板の間に挟みこみ、真空プレス成形機にて180℃、1時間熱硬化させ、積層板を得た。
この積層板のポリイミドフィルムの引き剥がし強さについて試験した結果、引張破断伸びは21.2%、ポリイミドフィルムの引き剥がし強さ:1.02(kN/m)であった。
【実施例2】
【0052】
ジビニルベンゼン4230g(32.4モル)、エチルビニルベンゼン169g(1.35モル)、スチレン1170g(11.3モル)、酢酸ブチル209g(1.8モル)、フェノール2771g(16.5モル)、トルエン11956gを30Lの反応器内に投入し、70℃で8gの三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体を添加し、2.5時間反応させた。重合溶液を1−ブタノール26.7gで停止させた後、室温で反応混合液を大量のn−へキサンに投入し、重合体を析出させた。得られた重合体をn−へキサンで洗浄し、濾別、乾燥、秤量して、共重合体Bを2606g(収率:46.8wt%)得た。
【0053】
得られた共重合体BのMnは1940、Mwは5640、Mw/Mnは2.91であった。13C‐NMR及び1H‐NMR分析を行うことにより、共重合体Bはフェノール末端に由来する共鳴線が観察された。共重合体Bの元素分析結果を行った結果、C:85.8wt%、H:7.2wt%、O:4.7wt%であった。元素分析結果と標準ポリスチレン換算の数平均分子量から算出される可溶性多官能ビニル芳香族重合体のフェノール性水酸基の導入量(a)は4.0(個/分子)であった。また、ジビニルベンゼン由来の構造単位を71.8モル%及びスチレンとエチルベンゼン由来の構造単位を合計28.2モル%含有していた。共重合体B中に含まれるビニル基含有量は、36モル%であった。また、TMA測定の結果、Tgは272℃、軟化温度は300℃以上であった。TGA測定の結果、300℃における重量減少は1.5wt%、耐熱変色性はAであった。濁度計による全光線透過率の測定の結果は88%であった。共重合体Bはトルエン、キシレン、THF、ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルムに可溶であり、ゲルの生成は認められなかった。
【0054】
実施例2で得られた多官能ビニル芳香族共重合体B:8.0重量部、GMA変性E−MA共重合体LOTADER AX8900:2.0重量部と溶剤としてトルエン:150重量部とを配合して、攪拌後、反応開始剤パーブチルP:1.0重量部及びトリフェニルフォスフィンTPP:0.1重量部を加えて、接着剤用樹脂組成物溶液を調製した。
それ以降は実施例1と同様にして積層板を作製し、引張破断伸び及び積層板のポリイミドフィルムの引き剥がし強さについて試験した。その結果、引張破断伸びは97%、ポリイミドフィルムの引き剥がし強さ:0.92(kN/m)であった。
【実施例3】
【0055】
ジビニルベンゼン4230g(32.4モル)、エチルビニルベンゼン169g(1.35モル)、スチレン1170g(11.3モル)、酢酸ブチル155g(1.8モル)、2,6-キシレノール4581g(37.5モル)、トルエン12832gを30Lの反応器内に投入し、80℃で13.7gの三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体を添加し、4時間反応させた。重合溶液を1−ブタノール40.1gで停止させた後、室温で反応混合液を大量のn−へキサンに投入し、重合体を析出させた。得られた重合体をn-へキサンで洗浄し、濾別、乾燥、秤量して、共重合体Dを4979g(収率:89.4wt%)得た。
【0056】
得られた共重合体DのMnは1100、Mwは2300、Mw/Mnは2.10であった。13C‐NMR及び1H‐NMR分析を行うことにより、共重合体Aは2,6−キシレノール末端に由来する共鳴線が観察された。共重合体Dの元素分析結果を行った結果、C:85.0wt%、H:7.9wt%、O:5.3wt%であった。元素分析結果と標準ポリスチレン換算の数平均分子量から算出される可溶性多官能ビニル芳香族重合体のフェノール性水酸基の導入量(a)は3.6(個/分子)であった。また、ジビニルベンゼン由来の構造単位を78.1モル%及びスチレンとエチルベンゼン由来の構造単位を合計21.9モル%含有していた。共重合体D中に含まれるビニル基含有量は、26モル%であった。また、TMA測定の結果、Tgは275℃、軟化温度は300℃以上であった。TGA測定の結果、300℃における重量減少は1.9wt%、耐熱変色性はAであった。共重合体Dはトルエン、キシレン、THF、ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルムに可溶であり、ゲルの生成は認められなかった。
【0057】
実施例3で得られた多官能ビニル芳香族共重合体Dを使用したこと以外は、実施例1と同じ方法で接着剤用樹脂組成物溶液を調製し、積層板を作製し、積層板のポリイミドフィルムの引き剥がし強さについて試験した。その結果、引張破断伸びは7.7%、ポリイミドフィルムの引き剥がし強さ:0.73(kN/m)であった。た。
【実施例4】
【0058】
ジビニルベンゼン4230g(32.4モル)、エチルビニルベンゼン169g(1.35モル)、スチレン1170g(11.3モル)、酢酸ブチル209g(1.8モル)、フェノール317.3g(1.90モル)、トルエン11956gを30Lの反応器内に投入し、70℃で8gの三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体を添加し、3.25時間反応させた。重合溶液を1-ブタノール26.7gで停止させた後、室温で反応混合液を大量のn-へキサンに投入し、重合体を析出させた。得られた重合体をn-へキサンで洗浄し、濾別、乾燥、秤量して、共重合体Eを1610g(収率:28.9wt%)得た。
【0059】
得られた共重合体EのMnは1980、Mwは5630、Mw/Mnは2.69であった。13C‐NMR及び1H‐NMR分析を行うことにより、共重合体Eはフェノール末端に由来する共鳴線が観察された。共重合体Eの元素分析結果を行った結果、C:90.4wt%、H:8.3wt%、O:1.1wt%であった。元素分析結果と標準ポリスチレン換算の数平均分子量から算出される可溶性多官能ビニル芳香族重合体のフェノール性水酸基の導入量(a)は1.2(個/分子)であった。また、ジビニルベンゼン由来の構造単位を72.1モル%及びスチレンとエチルベンゼン由来の構造単位を合計27.9モル%含有していた。共重合体E中に含まれるビニル基含有量は、41モル%であった。また、TMA測定の結果、Tgは273℃、軟化温度は300℃以上であった。TGA測定の結果、300℃における重量減少は2.3wt%、耐熱変色性はAであった。濁度計による全光線透過率の測定の結果は83%であった。共重合体Eはトルエン、キシレン、THF、ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルムに可溶であり、ゲルの生成は認められなかった。
【0060】
実施例4で得られた多官能ビニル芳香族共重合体E:8.0重量部、GMA変性E−MA共重合体LOTADER AX8900:2.0重量部と溶剤としてトルエン:150重量部とを配合して、攪拌後、反応開始剤パーブチルP:1.0重量部及びトリフェニルフォスフィンTPP:0.1重量部を加えて、接着剤用樹脂組成物溶液を調製した。
それ以降は実施例1と同様にして積層板を作製し、引張破断伸び及び積層板のポリイミドフィルムの引き剥がし強さについて試験した。その結果、引張破断伸びは28%、ポリイミドフィルムの引き剥がし強さ:0.58(kN/m)であった。
【実施例5】
【0061】
ジビニルベンゼン4230g(32.4モル)、エチルビニルベンゼン169g(1.35モル)、スチレン1170g(11.3モル)、酢酸ブチル209g(1.8モル)、フェノール138.6g(0.83モル)、トルエン11956gを30Lの反応器内に投入し、70℃で8gの三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体を添加し、3.25時間反応させた。重合溶液を1−ブタノール26.7gで停止させた後、室温で反応混合液を大量のn−へキサンに投入し、重合体を析出させた。得られた重合体をn−へキサンで洗浄し、濾別、乾燥、秤量して、共重合体Fを1459g(収率:26.2wt%)得た。
【0062】
得られた共重合体FのMnは2010、Mwは5710、Mw/Mnは2.97であった。13C‐NMR及び1H‐NMR分析を行うことにより、共重合体Fはフェノール末端に由来する共鳴線が観察された。共重合体Fの元素分析結果を行った結果、C:91.02wt%、H:8.0wt%、O:0.96wt%であった。元素分析結果と標準ポリスチレン換算の数平均分子量から算出される可溶性多官能ビニル芳香族重合体のフェノール性水酸基の導入量(a)は0.7(個/分子)であった。また、ジビニルベンゼン由来の構造単位を72.6モル%及びスチレンとエチルベンゼン由来の構造単位を合計27.4モル%含有していた。共重合体F中に含まれるビニル基含有量は、42モル%であった。
また、TMA測定の結果、Tgは273℃、軟化温度は300℃以上であった。TGA測定の結果、300℃における重量減少は2.4wt%、耐熱変色性はAであった。濁度計による全光線透過率の測定の結果は70%であった。共重合体Fはトルエン、キシレン、THF、ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルムに可溶であり、ゲルの生成は認められなかった。
【0063】
実施例5で得られた多官能ビニル芳香族共重合体F:8.0重量部、GMA変性E−MA共重合体LOTADER AX8900:2.0重量部と溶剤としてトルエン:150重量部とを配合して、攪拌後、反応開始剤パーブチルP:1.0重量部及びトリフェニルフォスフィンTPP:0.1重量部を加えて、接着剤用樹脂組成物溶液を調製した。
それ以降は実施例1と同様にして積層板を作製し、引張破断伸び及び積層板のポリイミドフィルムの引き剥がし強さについて試験した。その結果、引張破断伸びは14%、ポリイミドフィルムの引き剥がし強さ:0.49(kN/m)であった。
【0064】
比較例1
ジビニルベンゼン28.2g(0.216モル)、エチルビニルベンゼン1.1g(9ミリモル)、スチレン7.8g(0.075モル)、1-クロロエチルベンゼン(12.0mmol)のジクロロエタン溶液(0.634mmol/mL)23.8g、n-テトラブチルアンモニウム・ブロミド(0.45mmol)のジクロロエタン溶液(0.135mmol/mL)4.2g及びジクロロエタン(誘電率:10.3)189gを300mLのフラスコ内に投入し、70℃で0.45mmolのSnCl4のジクロロエタン溶液(0.068mmol/mL)8.3gを添加し、1時間反応させた。重合反応を窒素でバブリングを行った少量のメタノールで停止させた後、室温で反応混合液を大量のメタノールに投入し、重合体を析出させた。得られた重合体をメタノールで洗浄し、濾別、乾燥、秤量して、共重合体Rを7.07g(収率:27.1wt%)得た。
【0065】
得られた共重合体RのMnは2010、Mwは2780、Mw/Mnは1.6であった。13C‐NMR及び1H‐NMR分析を行うことにより、共重合体Rはジビニルベンゼン由来の構造単位を76.6モル%、エチルベンゼン由来の構造単位を2.3モル%、スチレン由来の構造単位を21モル%含有しており、フェノール末端に由来する共鳴線は観察されなかった。共重合体Rの元素分析結果を行った結果、C:86.8wt%、H:7.4wt%、O:0.3wt%、Cl:5.06wt%であった。元素分析結果と標準ポリスチレン換算の数平均分子量から算出される可溶性多官能ビニル芳香族重合体の末端への塩素の導入量は3.8(個/分子)であった。また、TMA測定の結果、Tgは290℃、軟化温度は300℃以上であった。TGA測定の結果、300℃における重量減少は12.1wt%、耐熱変色性は×であった。濁度計による全光線透過率の測定の結果は52%であった。共重合体Rはトルエン、キシレン、THF、ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルムに可溶であり、ゲルの生成は認められなかった。
【0066】
比較例1で得られた多官能ビニル芳香族共重合体Rを使用したこと以外は、実施例1と同じ方法で接着剤用樹脂組成物溶液を調製し、積層板を作製し、引張破断伸び及び積層板のポリイミドフィルムの引き剥がし強さについて試験した。その結果、引張破断伸びは7%、ポリイミドフィルムの引き剥がし強さ:0.30(kN/m)であった。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】多官能ビニル芳香族共重合体の分岐構造の説明図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジビニル芳香族化合物(a)20〜99モル%及びモノビニル芳香族化合物(b)80〜1モル%を共重合して得られる共重合体であって、その末端の一部に重合添加剤(c)に由来するフェノール性水酸基を有し、かつ、ジビニル芳香族化合物(a)に由来する下記式(a1)
【化1】


(式中、R1は炭素数6〜30の芳香族炭化水素基を示す。)で表される未反応のビニル基を含有する構造単位の含有量が10〜90モル%であることを特徴とする末端にフェノール性水酸基を有する可溶性多官能ビニル芳香族共重合体。
【請求項2】
数平均分子量Mnが500〜100000であり、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比で表される分子量分布(Mw/Mn)が10.0以下であることを特徴とする請求項1に記載の末端にフェノール性水酸基を有する可溶性多官能ビニル芳香族共重合体。
【請求項3】
フェノール性水酸基の末端への導入量(a1)が2.2個/分子以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の末端にフェノール性水酸基を有する可溶性多官能ビニル芳香族共重合体。
【請求項4】
(A)ルイス酸触媒
(B)エステル化合物から選ばれる一種以上の助触媒
(C)フェノール系化合物から選ばれる一種以上の重合添加剤
の存在下で、ジビニル芳香族化合物を20〜99モル%及びモノビニル芳香族化合物を80〜1モル%含有してなる単量体成分を、誘電率2.0〜15.0の溶媒に溶解させた均一溶媒中、20〜120℃の温度で重合させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の末端にフェノール性水酸基を有する可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の製造方法。
【請求項5】
ルイス酸触媒が、金属フッ化物又はその錯体である請求項4に記載の末端にフェノール性水酸基を有する可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の製造方法。
【請求項6】
助触媒が、酢酸エチル、酢酸プロピル及び酢酸ブチルからなる群から選ばれる1種以上のエステル化合物である請求項4又は5に記載の末端にフェノール性水酸基を有する可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の製造方法。
【請求項7】
重合添加剤が、フェノール、アルキルフェノール、ジアルキルフェノール、フェニルフェノール、アルキルフェニルフェノール、ナフトール及びアルキルナフトールからなる群から選ばれる1種以上のフェノール性水酸基を有するフェノール系化合物である請求項4〜6のいずれかに記載の末端にフェノール性水酸基を有する可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−189745(P2008−189745A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−24003(P2007−24003)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】