説明

末端反応性アクリル系ポリマーからなる粘着剤組成物およびその用途

【課題】本発明は末端に二重結合を有し、かつ分子量の大きい末端反応性アクリル系ポリマーを用いることで、たとえば表示装置に貼着する機能性フィルムを長期間安定に貼着した状態を保持できる粘着剤として使用可能な粘着剤組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の粘着剤組成物は、(a)(メタ)アクリル系モノマー100重量部、(b)(メタ)アクリル系ポリマー10〜400重量部からなる粘着剤組成物であって、前記(メタ)アクリル系ポリマー(b)のGPC測定による重量平均分子量が5〜80万であり、かつ、前記(メタ)アクリル系ポリマー(b)が、式(1)で表される末端基を1ポリマーあたり0.3〜1個有することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系ポリマーおよびアクリル系モノマーからなる粘着剤組成物において、アクリル系ポリマー中に特定の量の末端反応性アクリル系ポリマーを含有する粘着剤組成物、ならびにこれからなる粘着剤層を有する粘着シートおよびアクリル系粘着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
粘着剤は、従来よりゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、エポキシ系粘着剤、ビニルエステル系粘着剤、シリコーン系粘着剤などが使用されている。なかでも(メタ)アクリル系粘着剤は、耐候性および酸化劣性に優れ、種々の分野における用途に活用されている。たとえば、両面テープや梱包テープ、ゴミ取りローラーなどの家庭製品の用途、自動車や家電製品の部品組み立てや部品固定用の工業用テープなどの工業的用途が挙げられ、幅広い分野で用いられている。
【0003】
このような粘着剤は、その多くが紙、プラスチックフィルム、織布、不織布、発泡体などの支持体の片面もしくは両面にコートされた態様で粘着製品として使用される。こうした粘着製品はさまざまな使用環境下においてハガレや浮き、発泡、フクレ等の不具合が起こらないことが要求される。
【0004】
アクリル系粘着剤において、前記のような不具合を解消するためには、凝集力、接着力、応力緩和性などの性能をバランスよく有している必要がある。
また、粘着製品は平面だけでなく、表面に凹凸を有する被着体や曲面を有する被着体に貼り付けられたり、貼り合わせ時に変形を伴うようなフィルム等の可撓性を有する基材にコートされて使用されることがある。このような粘着剤層に応力がかかるような貼り付け条件においてはさらに高いレベルの粘着性能が必要とされており、さまざまな試行錯誤が行われている。
【0005】
例えば、特許文献1には、アクリル系ポリマーの分子量を50万〜150万という高分子量にすることで、接着強度、凝集力、耐熱性、及び、応力緩和性のバランスに優れる粘着剤が得られることが開示されている。
【0006】
しかしながら、粘着剤ポリマーを高分子量にするだけでは、曲面貼り付けのような大きな応力がかかる状態では、充分な応力緩和効果は得られず、また、高分子量ポリマーの製造は、重合操作が難しく、特別な重合条件や装置が必要になるといった問題がある。さらには、高分子量ポリマーは非常に高粘度であるため、塗工に適した粘度に調製するために多量の有機溶剤で希釈する必要があるため、コストが高く、また、溶剤の乾燥に多大なエネルギーが必要となるといった問題もあった。
【0007】
また、特許文献2には、反応性の高い水酸基をポリマー中に有する重量平均分子量5000〜30万のアクリル系ポリマーと二官能を主体とする多官能イソシアネート化合物を配合した粘着剤が開示されている。この粘着剤においては、比較的低分子量のポリマーと多官能イソシアネート化合物を反応させることにより、アクリル系ポリマーを連結し鎖延長(分子量増大)している。これによって、高分子量ポリマーの特性である高い凝集力、応力緩和性等が得られるというものである。
【0008】
しかしながら、このようなポリマー鎖中に官能基を有するポリマーと、多官能モノマーとの反応では、ポリマーの鎖長が延長されると同時に、三次元的な架橋によるゲル化反応
が同時に起こってしまうため、高分子量ポリマーを使用したときと同様の性能は得られない。また、水酸基とイソシアネート基との反応は空気中の水分の影響を受けやすいことから、環境の変化によっては安定した特性が得られにくいといった問題もあった。
【0009】
また、特許文献3には、分子量が数百〜数万程度の分子末端に反応性官能基を有するマクロモノマーとアクリル系モノマーとを光重合した分子量30万以下の凝集力、粘着力の高い粘着剤が開示されている。この発明においては、マクロモノマーが粘着剤ポリマーと結合しながらミクロ相分離構造をとることで、低分子量でありながら高い凝集力、粘着力が得られている。
【0010】
しかしながら、通常のマクロモノマーは反応性が不安定であるため、モノマーと反応しないフリーのマクロモノマーが残存したり、低分子量の粘着剤ポリマーが生成してしまったりして、これらが粘着剤からブリードしてしまうおそれがあった。また、ミクロ相分離構造を形成させるためには、マクロモノマーとアクリルモノマーの組成は大きく異なっている必要があり、それぞれの相溶性を考慮して選択する必要があり、その選択が困難であり、応用範囲が狭い。さらには、アクリル粘着剤の透明性を損なうおそれや、粘着特性の安定化が困難であるといった問題もあった。
【0011】
このように反応性を有するポリマー(マクロモノマー)を使用することで、高分子量ポリマーの有する凝集力や粘着力を発現したり、その他さまざまな機能を得ようとする試みが行われているが、マクロモノマーとその他のモノマーとの重合反応性が充分でなかったり、マクロモノマーの分子量が低いために重合して得られるポリマーの分子量があまり上がらないなど、未だ充分な性能が得られていない。
【0012】
通常、マクロモノマーは、例えば、イオン重合を中心とするリビング重合法、またはラジカル重合を中心とする連鎖移動重合法で製造されている(例えば特許文献4)。しかしながらいずれの製造方法も、まず、官能基を有する開始剤や連鎖移動剤を使用してポリマーの末端に官能基を形成し、次いで、その末端官能基ポリマーとその官能基と反応性を有する基と重合性不飽和基を有する化合物を反応させることで、ポリマーの末端に重合性不飽和基を付加するという二段階反応であり、製造工程が複雑であり好ましくない。
【0013】
また、このような二段階反応で得られる末端不飽和基を有するマクロモノマーは、その他のモノマーとの重合反応時において反応性に劣るといった問題もあった。さらには、重合性不飽和基を付加させる反応において未反応の末端官能基が残ったり、副反応による副生成物が存在したりと品質に関する問題も多かった。
【0014】
近年、モノマーを高温、しかも反応容器内にビニルモノマーを連続的に供給して重合させる連続重合反応で、マクロモノマーを製造する方法が提案されている(特許文献5参照)。この方法であると、1段階の反応で反応性が高く副生成物も少ない良好なマクロモノマーが得られる。しかしながら、反応温度が180℃〜500℃と非常に高温であるため、反応性ポリマーの分子量が数千〜数万程度となってしまうため、このマクロモノマーとその他のモノマーとを共重合したポリマーは充分な分子量が得られない。また、高温での反応を行うための特別な装置が必要となってしまうといった問題もあった。
【特許文献1】特開平01−178567号公報
【特許文献2】特開平9−235539号公報
【特許文献3】特開平04−366103号公報
【特許文献4】特開昭60−133007号公報
【特許文献5】特表2001−512753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明は末端に二重結合を有し、かつ分子量の大きく、重合反応性の高い末端反応性アクリル系ポリマーを用いることで、長期間安定に貼着した状態を保持できる粘着剤として使用可能な粘着剤組成物を提供することを目的としている。
【0016】
また本発明は、上記のような粘着剤組成物を粘着剤層として用いた粘着シート、および該粘着剤組成物を用いた粘着剤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の粘着剤組成物は、
(a)(メタ)アクリル系モノマー 100重量部
(b)(メタ)アクリル酸エステルを主モノマーとする(メタ)アクリル系ポリマー 10〜400重量部からなる粘着剤組成物であって、
前記(メタ)アクリル系ポリマー(b)のGPC測定による重量平均分子量が5〜80万であり、
かつ、前記(メタ)アクリル系ポリマー(b)が、式(1)で表される末端基を1ポリマーあたり0.3〜1個有することを特徴としている。
【0018】
【化1】

式(1)中、R1は炭素数1〜12のアルキル基またはアリール基であり、R2は水素原子、またはメチル基であり、R3は水素原子、または炭素数1〜12のアルキル基あるい
はアリール基である。
【0019】
前記(メタ)アクリル系モノマー(a)と、前記(メタ)アクリル系ポリマー(b)を構成するモノマーとの合計100重量部中、(メタ)アクリル酸エステルを60重量部以上含有するのが望ましい。
【0020】
本発明のアクリル系粘着剤および粘着シートは、前記粘着剤組成物からなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の粘着剤組成物は、末端に二重結合を有し、かつ分子量の大きい末端反応性アクリル系ポリマーを含有しており、重合過程において他のモノマーとの反応性が高い。このため、より高分子量のポリマーを容易に得ることができ、これからなる粘着シートおよび粘着剤は耐熱性および粘着性の保持力に優れる。
【0022】
また、上記末端反応性アクリル系ポリマーが有する末端二重結合を発端として、分岐構造が構築されるので、応力緩和性(曲面貼り付け性)に優れた粘着剤および粘着シートを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に本発明の粘着剤組成物、およびこの粘着剤組成物を用いた粘着剤層を有する粘着シート、ならびにアクリル系粘着剤について具体的に説明する。
なお、本明細書において「(メタ)アクリル系」とは、「アクリル系」または「メタアクリル系」を意味する。
【0024】
また、本明細書において「末端反応性アクリル系ポリマー」とは、分子末端にアクリル系モノマーから誘導される末端基を有し、該末端基が重合可能な二重結合を有するアクリル系ポリマーを意味する。
【0025】
<粘着剤組成物>
本発明の粘着剤組成物は、(a)(メタ)アクリル系モノマーと(b)(メタ)アクリル系ポリマーとから形成されてなる。
【0026】
《(a)(メタ)アクリル系モノマー》
(a)(メタ)アクリル系モノマーとは、(メタ)アクリル系ポリマーを形成する単量体であり、具体的には、たとえば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ペンチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸の炭素数1〜15の直鎖、分岐鎖又は環状アルキルエステル;
(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸フェニル等の(メタ)アクリル酸アリール;
(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−メトキシブチル、(メタ)アクリル酸4−メトキシブチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシエステル;
(メタ)アクリル酸エチレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール等の(メタ)アクリル酸アルキレングリコール;
(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシ−3−クロロプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル等の水酸基含有モノマー;
(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸β−カルボキシエチル、(メタ)アクリル酸5−カルボキシペンチル、コハク酸モノ(メタ)アクリロイルオキシエチルエステル、ω−カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等のカルボキシル基含有モノマー;
(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等のアミノ基含有モノマー;
(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有モノマー;
(メタ)アクリル酸グリシジルエーテル等のエポキシ基含有モノマーなどが挙げられる。
【0027】
なかでも、粘着物性を容易に制御できる観点から、アルキル基の炭素数が4〜8のアクリル酸アルキルエステル、およびアクリル酸アリールから選ばれる1種又は2種以上を混合して使用することが好ましい。
【0028】
また、水酸基含有モノマー、カルボキシル基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、アミド基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー等の官能基含有モノマーは、架橋剤を添加した際の架橋点としても作用することから、目的に応じて適宜使用される。このような官
能基含有モノマーは(a)(メタ)アクリル系モノマー及び(b)(メタ)アクリル系ポリマーを構成するモノマーの合計100重量部中、0〜10重量部の割合で使用することが好ましい。
【0029】
さらに、本発明の効果を損なわない範囲において、アクリル系モノマー以外のその他のモノマーを使用することもできる。その他のモノマーとしては、酢酸ビニル、スチレン、酢酸アリル、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸等が挙げられる。
【0030】
《(b)(メタ)アクリル系ポリマー》
(b)(メタ)アクリル系ポリマーとは、(メタ)アクリル酸エステルを主モノマーとするモノマー組成物を重合させることにより得られるポリマーを意味し、該モノマー組成物100重量%中には(メタ)アクリル酸エステルが50重量%以上含まれる。
【0031】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、上述の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アリールエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシエステル等が挙げられる。なかでも、炭素数4〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルを用いるのが、粘着物性を好適な範囲に調整する上で好ましい。
【0032】
(b)(メタ)アクリル系ポリマーを形成するモノマー組成物に含有される(メタ)アクリル酸エステル以外のモノマーとしては、上述の(a)(メタ)アクリル系モノマーとして用いられるものであれば特に制限はない。
【0033】
このような(メタ)アクリル系ポリマー(b)は、後述する(メタ)アクリル系モノマー(a)と(メタ)アクリル系ポリマーとの組成物を一括で製造する場合においては、(メタ)アクリル系モノマー(a)と(メタ)アクリル系ポリマー(b)を構成するモノマーとの合計であるモノマー組成物100重量%中、主モノマーとして(メタ)アクリル酸エステルを50重量%以上含むことにより得ることができる。また、該モノマー組成物100重量%中、(メタ)アクリル酸エステルを60重量%以上、好ましくは70重量%以上含有していると、重合反応性および得られる粘着剤の透明性等が向上する。
【0034】
(b)(メタ)アクリル系ポリマーのGPC測定による重量平均分子量は5万〜80万、好ましくは5万〜70万である。
GPC測定による重量平均分子量が5万未満であると、得られる粘着剤ポリマーの分子量が低くなってしまい、充分な性能が得られない。また、該重量平均分子量が80万を超えると、(メタ)アクリル系ポリマー(b)に含まれる末端に二重結合を有する末端反応性ポリマーの重合反応性が低くなり、分岐構造を有する粘着剤ポリマーが得られにくくなる。
【0035】
本発明の粘着剤組成物は、(a)(メタ)アクリル系モノマー100重量部に対し、(b)(メタ)アクリル系ポリマーを、通常10〜400重量部、好ましくは20〜300重量部の量で配合する。上記範囲の量で配合することにより、例えば本件の粘着剤組成物を光重合反応させる場合においても、塗工作業性が良好で、得られる粘着剤の分子量を適当な範囲に調整することができる。
【0036】
《末端反応性アクリル系ポリマー》
本発明の粘着剤組成物は、さらに上記(b)(メタ)アクリル系ポリマー中に、式(1)で表される末端基を1ポリマー鎖あたり0.3〜1個有している。すなわち、本件の(メタ)アクリル系ポリマー(b)中には、式(1)で表される末端基を有する末端反応性アクリル系ポリマーが含有されている。
【0037】
【化2】

式(1)中、R1は炭素数1〜12のアルキル基またはアリール基であり、R2は水素原子、またはメチル基であり、R3は水素原子、または炭素数1〜12のアルキル基あるい
はアリール基である。ここで、アルキル基は直鎖状であっても分岐を有していてもよく、またアルキル基およびアリール基は置換されていてもよい。なお、上記アルキル基またはアリール基には、本発明の目的を損なわない範囲で、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、硫黄原子などの炭素以外の原子が含まれていてもよい。
【0038】
本件の(メタ)アクリル系ポリマー(b)中に含まれる、末端反応性アクリル系ポリマーは、末端に位置するモノマー繰り返し単位が二重結合を有している。
従来、末端に二重結合を有するポリマーを得るには、たとえば、まず、官能基を有する開始剤または連鎖移動剤を使用して、モノマーの重合反応中にポリマー鎖の末端の一方に官能基を導入させ、次いで、前記官能基と反応性を有する基と不飽和二重結合とを有する化合物を反応させるという方法が用いられていた。このような方法としては、末端にカルボキシル基を有するポリマーにグリシジルメタクリレートを反応させる方法が広く知られている。しかしながら、これらの方法で得られるポリマーは、ポリマー主鎖と末端二重結合との間に不要な連結基を有しているため、末端二重結合と他の重合性モノマーとの反応性が低く、また、良好な分岐構造を有するポリマーとすることができないおそれがあった。
【0039】
これに対し、本発明に用いられる末端反応性アクリル系ポリマーは、その末端が式(1)で表されるように、該末端基の一方が上記(メタ)アクリル系モノマー由来の二重結合であり、かつ該モノマーが不要な連結基なしに付加重合によってポリマー主鎖に結合している。
【0040】
そのため、該末端の二重結合は重合反応性が高く、さらに本件粘着剤組成物中に含まれる該末端反応性アクリル系ポリマーを含有する(メタ)アクリル系ポリマー(b)は高分子量であるので、本件の粘着剤組成物を用いれば、粘着性能に優れた粘着剤および粘着シートを製造することができる。特に、この末端基が発端となって容易に分岐構造を形成するので、本発明の粘着剤組成物から得られる粘着剤および粘着シートは応力緩和性(曲面貼り付け性)にも優れている。
【0041】
前記式(1)で表される末端基は、(b)(メタ)アクリル系ポリマー中、通常0.3〜1個/ポリマー、好ましくは0.4〜1個/ポリマー、より好ましくは0.5〜1個/ポリマーの割合で含有される。反応性の高い末端二重結合を上記の割合で含有する、高分子量の(メタ)アクリル系ポリマーを用いることにより、本発明の粘着性組成物、ならびにこれから得られる粘着剤および粘着シートの特性を充分に保持することができる。
【0042】
<粘着剤組成物の製造方法>
本発明の粘着剤組成物を製造する方法には、(メタ)アクリル系モノマーを部分重合し、(メタ)アクリル系モノマー(a)と(メタ)アクリル系ポリマー(b)との混合物を一括で製造する方法、ならびに(メタ)アクリル系ポリマー(b)中の末端反応性ポリマー、および(メタ)アクリル系ポリマー中の末端基を有さないポリマーをそれぞれ作製し、これらと(メタ)アクリル系モノマー(a)とを混合する方法が挙げられるが、製造の簡便性の観点から一括で製造する方法が好ましい。
【0043】
つまり、(メタ)アクリル酸エステルを50重量%以上含有するアクリル系モノマー組成物を部分重合させて、末端反応性アクリル系ポリマーを含む(b)(メタ)アクリル系ポリマーと(a)(メタ)アクリル系モノマーとを一度に得る。
【0044】
ここで、末端反応性アクリル系ポリマーを含む(メタ)アクリル系ポリマー(b)は、構成単位となるモノマーを反応装置に仕込み、窒素置換を行った後、50℃〜180℃の反応温度条件下において塊状重合反応を行うことによって製造できる。一般に、反応温度が低いほど得られる末端反応性アクリル系ポリマーの分子量は大きくなるが、生成される末端二重結合の量が減少する。逆に、反応温度が高いほど得られる末端反応性アクリル系ポリマーの分子量は小さくなるが、末端二重結合の量は増加する。本件発明においては、反応温度を50℃〜180℃の範囲にすることで、分子量が大きく、末端に二重結合を有するポリマーを得ることができる。
【0045】
また、前記重合反応においては、ノルマルドデシルメルカプタン(NDM)、α−メチルスチレンなどの分子量調整剤、トルエンなどの有機溶媒を実質的に含有させずに重合反応を行う。NDMなどの分子量調整剤やトルエンなどの有機溶媒を使用しないで、比較的低温で塊状重合反応を行うことにより、ポリマー鎖の成長停止を引き起こす連鎖移動反応を生じさせることなく、高分子量のポリマーが得られ、さらに、ポリマーを高分子量に維持しながら、ポリマー末端ラジカルが前々ユニットのα位の水素を引き抜くback biting反応(1,5hydrogen abstruction)を引き起こし、β切断を経て末端二重結合が生成される。
【0046】
この末端反応性ポリマーを生成するための重合反応においては、ラジカル発生剤となる熱分解型の開始剤を使用しないのが望ましく、使用する場合にも下記に示すとおり制限的な量とする。このようにすることで、塊状重合反応において、重合熱による反応温度が上昇しすぎることを回避し、高分子量で末端に二重結合を有するポリマーを製造することができる。
【0047】
開始剤を使用しない場合には、熱重合が速やかに進行するように反応温度を選択する。開始剤を使用しない場合の反応温度は通常90℃〜180℃、好ましくは100℃〜170℃である。反応温度が高すぎると、得られる末端反応性ポリマーの分子量が小さくなるため、これを用いて得られる粘着剤は、凝集力が劣るものとなるおそれがある。また、得られる粘着剤は分岐構造を有するものの、末端反応性ポリマーの分子量が小さいことから応力緩和性が充分に得られないおそれもある。
【0048】
一方、反応温度が低すぎると、末端二重結合の生成量が低減したり、反応温度が速やかに進行せず反応に時間がかかるといった問題が生じる。
さらに、開始剤を使用する場合には、重合反応が暴走しないように反応温度(反応開始温度および最高温度)を選択し、開始剤添加量を調整する。開始剤を使用する場合の反応開始温度は通常50〜100℃、好ましくは50〜90℃、最高温度は通常110〜180℃、好ましくは120〜170℃である。開始剤の添加量は、反応温度における開始剤の半減期とも関係するが、通常は0.0001〜1重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%である。
【0049】
このようにして形成される、分子末端に重合可能な二重結合を有する末端反応性アクリル系ポリマーを含む(メタ)アクリル系ポリマー(b)の重量平均分子量(Mw)は、通常は5万〜80万、好ましくは5万〜70万の範囲内にあり、従来公知の末端反応性アクリル系ポリマーに比べて格段に高い分子量を有している。このような重量平均分子量(M
w)は、たとえばゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)などを用いて測定することができる。
【0050】
このようにして得られる末端反応性アクリル系ポリマーを含む(メタ)アクリル系ポリマー(b)は、たとえば、1H−NMRスペクトルなどにより測定して、1ポリマー鎖あ
たりの末端二重結合量を算出することができる。
【0051】
また、上述したように、(b)(メタ)アクリル系ポリマーは、別途重合した、他の(メタ)アクリル系ポリマーを混合して調整してもよい。この際、上述の式(1)で表される末端二重結合が(b)(メタ)アクリル系ポリマー中に、0.3〜1個/ポリマーの量で含有されるよう、他の(メタ)アクリル系ポリマーの混合量を選択する。
【0052】
一括で粘着剤組成物を製造する場合、重合されなかったモノマー残部が(a)(メタ)アクリル系モノマーとなるので、重合率9〜80%になるように重合反応を行うことで、本件発明の(a)(メタ)アクリル系モノマーと(b)(メタ)アクリル系ポリマーとを含有する粘着剤組成物を調製することができる。各成分が所望の量で含有される重合率を達成するために、反応温度、反応時間を選択することが好ましい。
【0053】
また、重合後に(メタ)アクリル系モノマーを添加、または揮発させることで所望の量に調整することもできる。このようにして得られた粘着剤組成物は、25℃において通常0.1〜100Pa・s、好ましくは0.5〜30Pa・sの範囲内の粘度を有する粘稠な液体である。
【0054】
《その他の成分》
なお、本発明の粘着剤組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内の量で、通常の粘着剤を製造する際に用いられる添加剤を配合してもよい。添加剤としては、たとえば、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、シリカ、クレー、タルク、酸化チタンなどの無機物、カラスバルーン、シラスバルーン、セラミックバルーンなどの無機中空体、ナイロンビーズ、アクリルビーズ、シリコンビーズなどの有機物、塩化ビニリデンバルーン、アクリルバルーンなどの有機中空体から選ばれる充填剤;発泡剤;染料;顔料;シランカップリング剤;重合禁止剤;安定剤などが挙げられる。
【0055】
<粘着剤層および粘着シート>
上記のようにして得られた本発明の粘着剤組成物を用いて、粘着シートの粘着剤層を形成することができる。
【0056】
すなわち、(b)(メタ)アクリル系ポリマーは、その一部または全部に、分子末端に重合可能な二重結合を有する末端反応性アクリル系ポリマーを含有している粘稠な液体であり、これと(a)(メタ)アクリル系モノマーとを含有させ、適宜重合開始剤を添加して本発明の粘着剤組成物とし、さらに重合を進行させる。
【0057】
本発明の粘着シートでは、支持体の少なくとも一方の表面に上記粘着剤組成物を塗布して粘着剤層を形成する。ここで、本発明の粘着剤組成物には、反応開始剤を配合することが好ましく、光重合開始剤を配合することが特に好ましい。
【0058】
このような光重合開始剤の例としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、o−ベンゾイル安息香酸メチル−p−ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、α−メチルベンゾインなどのベンゾイン類、
ベンジルジメチルケタール、トリクロルアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フ
ェニル(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、α-ヒドロキシ-α、α´-ジメチル-アセ
トフェノン、メトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン
、2-ヒドロキシ-2-シクロヘキシルアセトフェノンなどのアセトフェノン類、
2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、2−ヒドロキシ−4'−イソプロピル
−2−メチルプロピオフェノンなどのプロピオフェノン類、
ベンゾフェノン、メチルベンゾフェノン、p−クロルベンゾフェノン、p−ジメチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類、
2−クロルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン類、
ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−(エトキシ)−フェニルホスフィンオキサイドなどのアシルホスフィンオキサイド類、ベンジルジメチルケタール等のケタール類、アシルホスフィノキシド、アシルホスフォナートなどを挙げることができる。これらは1種単独であるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0059】
また、上記のような光重合開始剤とともに、あるいは光重合開始剤の代わりに、熱重合開始剤、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、
1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)バラレート、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチ
ルパーオキシベンゾエート、アセチルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,3,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイドおよび2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m-トルイルパーオキサイド等が過酸化物化合物、アゾビスイソブチロニトリ
ル、ジメチルアゾイソブチロニトリル、2,2´-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチ
ルバレロニトリル、2,2´-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物などを配合することもできる。
【0060】
このような重合開始剤は、(a)(メタ)アクリル系モノマーと(b)(メタ)アクリル系ポリマーとの合計100重量部に対して、通常0.005〜3重量部、好ましくは0.01〜2重量部の範囲内の量で使用する。
【0061】
また、本発明の粘着剤組成物には、架橋剤を配合することが好ましい。架橋剤を配合することにより、粘着剤層に三次元架橋構造が形成され、粘着剤層の凝集力が高くなる。
本発明で使用することができる架橋剤の例としては、エポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、金属キレート架橋剤などを挙げることができる。ここで使用されるエポキシ系架橋剤の具体例としては、ビスフェノールA、エピクロルヒドリン型のエポキシ系樹脂、エチレングリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジクリシジルアニリン、ジアミングリシジルアミン、N,N,N',N'−テトラグリシジル−m−キリレンジアミン、1,3−ビス(N,N'−ジアミングリシジルアミノメチル)シクロヘキサンを挙げることができる。
【0062】
イソシアネート系架橋剤の具体例としては、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ナフタリンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、およびそれらをトリメチロールプロパ
ン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールと付加反応させた化合物、これらポリイソシアネート化合物のビュレット型化合物やイソシアヌレート化合物、これらポリイソシアネート化合物と公知のポリエーテルポリオールやポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール等と付加反応させたウレタンプレポリマー型の分子内に2個以上のイソシアネート基を有する化合物を挙げることができる。
【0063】
金属キレート架橋剤の具体例としては、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、スズ、チタン、ニッケル、アンチモン、マグネシウム、バナジウム、クロム、ジルコニウム等の多価金属にアセチルアセトン、アセト酢酸エチル等が配位した化合物を挙げることができる。これらの架橋剤は1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
これらの架橋剤は、(a)(メタ)アクリル系モノマーと(b)(メタ)アクリル系ポリマーとの合計100重量部に対して、通常0.001〜10重量部、好ましくは0.01〜5重量部の範囲内の量で使用される。
【0065】
上記のようにして、調整した塗布液を支持体の表面に塗布する。ここで支持体に特に制限はないが、たとえばPETフィルム、PVCフィルム、TACフィルム、紙、又は、これらをシ
リコーン処理した支持体などを挙げることができる。
【0066】
このような支持体の表面に、上記塗布液を通常5〜3000μm、好ましくは5〜10
00μmの範囲内の厚さに塗布する。
このようにして塗布液を塗布した後、塗布面が空気と接触することによる重合反応阻害を防止するために、塗布面に保護フィルムを貼着することが好ましい。
【0067】
こうして保護フィルムを貼着した後、紫外線あるいは電子線などを照射する。照射時間は、通常0.5〜10分、好ましくは0.5〜5分である。このように支持体上に塗布された粘着剤配合物層には、光重合開始剤、架橋剤、さらには未反応の単量体である(a)(メタ)アクリル系モノマー、分子末端に重合可能な二重結合を有する(b)(メタ)アクリル系ポリマーが含有されており、短時間の光照射により一気にこれらが反応して、堅牢な粘着剤層が形成される。
【0068】
また、本発明の粘着剤組成物をトルエンなどの有機溶剤に分散させ、有機溶剤中で重合させることにより溶剤型のアクリル系粘着剤として使用することもできる。
【実施例】
【0069】
次に本発明の粘着剤組成物および粘着シートについて、実施例を示して具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
なお、以下の条件にしたがって、各評価を行った。
【0070】
<重量平均分子量の測定>
以下に示すGPC装置を用いて測定した。
装置名:東ソー(株)製、HLC−8120
カラム:東ソー(株)製、G7000HXL;7.8mm1D×30cm 1本、GMHXL;7.8mm1D×30cm 2本、G2500HXL;7.8mm1D×30cm 1本
サンプル濃度:1.5mg/cm3になるようにテトラヒドロフランで希釈して用いた。
【0071】
移動用溶媒:テトラヒドロフラン
流量:1.0cm3/min
カラム温度:40℃
<粘度測定>
株式会社トキメック製BM型粘度計を用いて測定した。
【0072】
<SEC−MALS測定>
以下に示すGPC装置を用いて、検出器として多角度光散乱検出器(DAWN−HELEOS、Wyatt製)を用いて、絶対分子量を測定した。
【0073】
装置名:東ソー(株)製、HC−10A
カラム:東ソー(株)製、GMHXL;7.8mm1D×30cm 1本
サンプル濃度:2.5mg/cm3または1.0mg/cm3になるようにテトラヒドロフランで希釈して用いた。
【0074】
移動用溶媒:テトラヒドロフラン
流量:1.0cm3/min
カラム温度:40℃
1H−NMRスペクトル測定>:末端二重結合量の定量
Varian製Inova500分光計を用いて測定し、化学シフトの基準はTMSのシグナルを0.00ppmとした。
末端二重結合によるプロトンのシグナルは、σ=5.5ppmおよびσ=6.2ppmに観測した。
【0075】
このシグナルの面積とσ=4ppmにおけるカルボキシル酸素に隣接するメチレンによるシグナルとの面積比、またはこのシグナルの面積とσ=1ppm付近における末端メチルのシグナルとの面積比を求め、これらの面積比とポリマーの重合度との関係から、1ポリマー鎖当たりの末端二重結合量を算出した。
【0076】
<保持力試験>
粘着シートをステンレス板に貼り付け面積20mm×20mmとなるように貼り付け、80℃にて荷重1kgを掛け、落下までの時間(単位:h)を測定した。
【0077】
<曲面貼り付け>
粘着シートを20mm×50mmに裁断し、φ50のステンレス棒に貼り付け、40℃、72時間後の貼り付け状況を確認した。
【0078】
〔製造例1〕:(メタ)アクリル系ポリマー(b)の分子量の測定および末端基の定量
容量2リットルのフラスコにアクリル酸ブチル(BA):1000gを仕込み、フラス
コ内の空気を窒素ガスで置換した後、分子量調整剤、有機溶媒および熱開始剤を用いることなく、148℃まで加熱した。
【0079】
ゆるやかに反応が開始し、粘度上昇が確認された。続けて148℃に保持したまま2時間反応させた後、25℃まで冷却して減圧乾燥を行うことにより340gのアクリルポリマーAを得た。このアクリル系ポリマーAの分子量はMn9.0万、Mw21万であった。
【0080】
得られた反応性ポリマーAを重クロロホルムに溶解し、1H−NMRを測定した。化学
シフトの基準はTMSのシグナルを0.00ppmとした。1H−NMRスペクトルを図
1に示す。
【0081】
末端二重結合由来のプロトンのシグナル(σ=5.5ppmおよびσ=6.2ppm)とカルボキシル酸素に隣接するメチレンのプロトンシグナル(σ=4ppm付近)および
末端メチルのプロトンシグナル(σ=1ppm付近)の面積比は、2.77/1998/3000であり、1プロトン当たりに換算すると1.39/999/1000であった。つまり、モノマー1000ユニット当たり1.39個の二重結合を有することがわかる。
【0082】
さらに、数平均分子量Mnが9.0万、BAの分子量が128.17であることから、アクリルポリマーAの1ポリマー鎖あたりの平均モノマーユニット数は702であり、1
ポリマー鎖当たりの末端二重結合数は0.98個/ポリマーであった。
【0083】
〔実施例1〕:粘着剤組成物1の調整
容量2リットルのフラスコにアクリル酸ブチル(BA):970g、アクリル酸(AA
):30gを仕込み、フラスコ内の空気を窒素ガスで置換した後、80℃に加熱して、分
子量調整剤、有機溶媒を用いることなく熱開始剤である2,2-アゾビス(4-メトキシ-2,4-
ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)製):0.025gを投入した。
【0084】
熱開始剤を投入後、すぐに反応が開始し重合熱による温度上昇が確認されたが、冷却操作は行わずに反応を続行させた。
反応系の温度が118℃に達した後、反応は終了した。続けて外部から強制冷却操作を行い、25℃まで冷却して粘着剤組成物1を得た。この粘着剤組成物1はモノマー100重量部に対して、ポリマー部が17.6重量部であり、粘着剤組成物1の粘度は3.7Pa・s、ポリマー部のMnは28万、Mwは70万であった。
【0085】
このポリマー部について、NMR測定を行い、製造例1と同様の方法により末端二重結合量を定量したところ、0.51個/1ポリマー鎖であった。
〔実施例2〕:粘着剤組成物2の調整
容量2リットルのフラスコにアクリル酸ブチル(BA):910g、アクリル酸メチル
(MA):50g、アクリル酸(AA):30g、アクリル酸2−ヒドロキシエチル(2HEA):10gを仕込み、フラスコ内の空気を窒素ガスで置換した後、分子量調整剤、有機溶媒および熱開始剤を用いることなく、148℃まで加熱した。ゆるやかに反応が開始し、粘度上昇が確認された。続けて148℃に保持したまま2時間反応させた後、25℃まで冷却して粘着剤組成物2を得た。この粘着剤組成物2はモノマー100重量部に対して、ポリマー部が49.3重量部であり、粘着剤組成物2の粘度は2.6Pa・s、ポリマー部のMnは11万、Mwは28万であった。
【0086】
このポリマー部について、NMR測定を行い、製造例1と同様の方法により末端二重結合量を定量したところ、0.93個/1ポリマー鎖であった。
〔実施例3〕粘着剤組成物3の調整
容量2リットルのフラスコにアクリル酸ブチル(BA):970g、アクリル酸(AA
):30gを仕込み、フラスコ内の空気を窒素ガスで置換した後、窒素ガスによる加圧を
行い、分子量調整剤、有機溶媒および熱開始剤を用いることなく、180℃まで加熱した。ゆるやかに反応が開始し、粘度上昇が確認された。続けて180℃に保持したまま2時間反応させた後、25℃まで冷却したのち、減圧乾燥により未反応モノマーの一部を除去し粘着剤組成物3を得た。この粘着剤組成物2はモノマー100重量部に対して、ポリマー部が300重量部であり、粘着剤組成物3の粘度は7.4Pa・s、ポリマー部のMnは3.1万、Mwは5.6万であった。
【0087】
このポリマー部について、NMR測定を行い、製造例1と同様の方法により末端二重結合量を定量したところ、1.00個/1ポリマー鎖であった。
〔比較例1〕:粘着剤組成物4の調整
容量2リットルのフラスコにアクリル酸ブチル:970g、アクリル酸(AA):30g、分子量調整剤であるノルマルドデシルメルカプタン(NDM):0.1gを仕込み、フラスコ内の空気を窒素ガスで置換した後、50℃に加熱して、熱開始剤である2,2-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)製):0.025gを投入した。
【0088】
熱開始剤を投入後、3分後に反応が開始し重合熱による温度上昇が確認されたが、冷却操作は行わずに反応を続行させた。
反応系の温度が121℃に達した後、反応は終了した。
【0089】
次いで、冷媒として、アクリル酸ブチル(BA):194g、アクリル酸(AA):6gを添加して反応系の温度を100℃以下に急冷するとともに、外部から強制冷却操作を行い、反応系の温度を25℃まで冷却して粘着剤組成物4を得た。
【0090】
この粘着剤組成物4は、モノマー100重量部に対して、ポリマー部が25重量部であり、粘着剤組成物4の粘度は6.5Pa・s、ポリマー部のMnは34万、Mwは73万であった。
【0091】
このポリマー部について、NMR測定を行い、製造例1と同様の方法により末端二重結合量を定量したところ、0.08個/1ポリマー鎖であった。
〔比較例2〕:粘着剤組成物5の調整
実施例1で得られた粘着剤組成物1を100g取り、さらにアクリル酸ブチル(BA):97g、アクリル酸(AA):3gを添加して、モノマー100重量部に対して、ポリマー部が8.1重量部、粘度が1.0Pa・sの粘着剤組成物5を得た。
【0092】
〔比較例3〕:粘着剤組成物6の調整
容量2リットルの耐圧フラスコにアクリル酸ブチル:970g、アクリル酸(AA):
30gを仕込み、フラスコ内の空気を窒素ガスで置換した後、窒素加圧下で250℃に加
熱して、熱開始剤を投入せずに熱重合を行った。
【0093】
そのまま反応系の温度を250℃に保持し、0.5時間反応を続行させ、次いで反応系の温度を25℃まで冷却して粘着剤組成物6を得た。
この粘着剤組成物5は、モノマー100重量部に対して、ポリマー部が42.9重量部であり、粘着剤組成物6の粘度は0.05Pa・s、ポリマー部のMnは2000、Mwは3700であった。
【0094】
このポリマー部について、NMR測定を行い、製造例1と同様の方法により末端二重結合量を定量したところ、0.81個/1ポリマー鎖であった。
〔比較例4〕:粘着剤組成物7の調整
容量5リットルのフラスコにアクリル酸ブチル(BA):970g、アクリル酸(AA
):30g、酢酸エチル300g、トルエン700gを仕込み、フラスコ内の空気を窒素
ガスで置換した後、70℃に加熱して、熱開始剤である2,2-アゾビス(4-メトキシ-2,4-
ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)製):1.0gを投入した。
【0095】
熱開始剤を投入後、すぐに反応が開始し重合熱による温度上昇が確認された。冷却操作を行うことにより反応温度を75℃に保ち、5時間反応を行った。直ちに酢酸エチル2000gを投入し、冷却することにより反応を終了した。この反応液を加熱乾燥することにより950gのポリマーBを得た。このポリマーBのMnは9.3万、Mwは35万であった。
【0096】
また、ポリマーBについて、NMR測定を行い、製造例1と同様の方法により末端二重結合を定量したところ、0.09個/1ポリマー鎖であった。
得られたポリマーB43g、アクリル酸ブチル(BA)96g、アクリル酸(AA)4gを混合して、粘着剤組成物7を調製した。
【0097】
この粘着剤組成物7はモノマー100重量部に対して、ポリマー部が43重量部、粘着剤組成物7の粘度は2.5Pa・sであった。
上記のようにして得られた粘着剤組成物の配合量およびその特性を表1に示す。
【0098】
【表1】

粘着剤配合物1M〜7Mの調整
上記粘着剤組成物1〜7、各々100gに対し、チバスペシャルティケミカルズ(株)製 光開始剤イルガキュア2020−0.5gを添加混合し、粘着剤配合物1M〜7Mを調整した。
【0099】
〔実施例4〜6および比較例5〜8〕
上記で得られた粘着剤配合物1M〜7Mを厚さが25μmとなるよう188μmPETフィルム上に塗布し、さらにその上にPETセパレータをラミネートして空気を遮断した。このPETセパレータの上からUVランプを用いて強度25mW/cm2の光を2分間
照射することによって粘着剤配合物を重合硬化させることによって粘着シート1S〜7Sを得た。
【0100】
得られた粘着シートについてGPC測定を行い、PSt換算による相対分子量およびSEC−MALSにより絶対分子量を求めた。結果を表2に示す。
【0101】
【表2】

この結果から、本発明の粘着剤組成物は、硬化後においてGPC測定によるPSt換算相対分子量と絶対分子量とに差が生じ、分岐構造を有していることがわかる。したがって、これから得られる粘着シートは応力緩和性(曲面貼り付け)を良好なものとすることができる。
【0102】
粘着剤配合物1N〜7Nの調整
上記粘着剤組成物1〜7、各々100gに対し、チバスペシャルティケミカルズ(株)製 光開始剤イルガキュア2020−0.5g、綜研化学(株)製 エポキシ系架橋剤 E−100X:0.05gを添加混合し、粘着剤配合物1N〜7Nを調整した。
【0103】
〔実施例7〜9および比較例9〜12〕
上記で得られた粘着剤配合物1N〜7Nを厚さが25μmとなるよう188μmPET
フィルム上に塗布し、さらにその上にPETセパレータをラミネートして空気を遮断した。このPETセパレータの上からUVランプを用いて強度25mW/cm2の光を2分間照射することによって粘着剤配合物を重合硬化させることによって粘着シート1T〜7Tを得た。
【0104】
得られた粘着シートについて粘着物性を評価した。結果を表3に示す。
【0105】
【表3】

実施例7〜9は耐熱保持力および曲面貼り付け性ともに良好な結果を示したが、比較例9〜12は、耐熱保持力が不充分であったり、または曲面貼り付け性能が不充分であったりして、バランスの良い特性を発揮できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の粘着剤組成物は、分子末端に重合可能な二重結合を1ポリマー鎖あたり0.3
〜1個の量で含有しているので、この粘着剤組成物を用いて粘着剤層を形成すると、凝集力が高く、耐熱接着性に優れる高分子量の粘着剤が効率的に得られる。また、モノマーとの重合反応性良好であるためポリマーが分岐構造を有し、応力緩和性に優れた粘着剤となる。このような粘着剤は、平面への貼着だけでなく、凹凸面、曲面に対しても優れた接着力を示し、幅広い分野において活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】製造例1により得られた(メタ)アクリル系ポリマー(b)の1H−NMRスペクトル図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)(メタ)アクリル系モノマー 100重量部
(b)(メタ)アクリル酸エステルを主モノマーとする(メタ)アクリル系ポリマー 10〜400重量部からなる粘着剤組成物であって、
前記(メタ)アクリル系ポリマー(b)のGPC測定による重量平均分子量が5〜80万であり、
かつ、前記(メタ)アクリル系ポリマー(b)が、式(1)で表される末端基を1ポリマーあたり0.3〜1個有することを特徴とする粘着剤組成物;
【化1】

(式(1)中、R1は炭素数1〜12のアルキル基またはアリール基であり、R2は水素原子、またはメチル基であり、R3は水素原子、または炭素数1〜12のアルキル基あるい
はアリール基である。)。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル系モノマー(a)と、前記(メタ)アクリル系ポリマー(b)を構成するモノマーとの合計100重量%中、(メタ)アクリル酸エステルを60重量%以上含有することを特徴とする請求項1に記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の粘着剤組成物より得られる粘着剤。
【請求項4】
請求項1または2に記載の粘着剤組成物より得られる粘着剤層を有する粘着シート。

【図1】
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【公開番号】特開2008−266514(P2008−266514A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−114231(P2007−114231)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(000202350)綜研化学株式会社 (135)
【Fターム(参考)】