材料の定量分析の方法
【課題】材料の定量分析の方法。
【解決手段】材料上に電子ビームを衝突させる材料の定量分析の方法及び装置を説明する。この方法は、電子ビームとの相互作用による、材料の第一の領域から受け取った低損失電子(LLE)を検出し、対応するLLEデータを生成するステップを含む。この方法はさらに、電子ビームとの相互作用による、材料の第一の領域と重なる第二の領域から受け取ったX線を検出し、対応するX線データを生成し、LLEデータをX線データと一緒に分析して第一の領域の組成を表す組成データを生成するステップを含む。
【解決手段】材料上に電子ビームを衝突させる材料の定量分析の方法及び装置を説明する。この方法は、電子ビームとの相互作用による、材料の第一の領域から受け取った低損失電子(LLE)を検出し、対応するLLEデータを生成するステップを含む。この方法はさらに、電子ビームとの相互作用による、材料の第一の領域と重なる第二の領域から受け取ったX線を検出し、対応するX線データを生成し、LLEデータをX線データと一緒に分析して第一の領域の組成を表す組成データを生成するステップを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に電子ビーム技術を用いた材料の定量分析法に関する。対応する装置も提供される。本発明は、走査型電子顕微鏡SEM)において具体的用途を有し、X線と電子からの情報を組み合わせることにより試料の高空間解像度分析を達成するための手段を提供する。
【背景技術】
【0002】
走査型電子顕微鏡(SEM)は微細構造観察のための一般的道具である。この技術では、通常約1keVと20keVの間のエネルギーを有する精細に集束させた電子ビーム(プローブ)で試料表面を走査する。当該表面の各プローブ位置において、従来、信号は様々な型の検出器で計測される。一般的に、散乱電子及びX線を検出し、各信号について、当該表面上の走査されたプローブ位置に対応する位置で信号強度が変調することを利用して試料の拡大画像を作成する。各プローブ位置において、散乱電子及びX線のエネルギースペクトルは、試料表面及びその下にあるバルク材料の組成及び構造により決定される。現在のSEMを利用した組成分析は、最も一般的にはX線検出により行われている。
【0003】
特許文献1は、後方散乱電子(BE)の全強度が試料の原子番号に影響されるという事実を利用した分析技術を説明している。後方散乱電子は、電子ビームとの相互作用の結果として試料から後方に散乱された高エネルギー電子である。多くの画像化用途で使用されるのは、後方散乱電子よりむしろ二次電子であるが、後方散乱電子はそのエネルギーを分析して電子ビームが相互作用する材料の部分の組成に関するいくつかの情報を得ることができる点で有益である。
【0004】
BE信号強度を同じ入射ビーム電流に対する基準材料による信号強度と比較することにより、その試料の有効原子番号が基準材料よりも高いか低いかを決定できる。一連の基準材料により較正曲線を作成することができ、未知の試料の有効原子番号をBE信号強度から決定できる。さらに、後方散乱電子に関する有効原子番号は化学組成から予測できるので、観測した信号を材料の「推測の」組成を確認するのに使用できる。推測組成は試料のX線分析結果を用いて得ることができ、関連する元素濃度についての情報を与える。
【0005】
電子を用いた分析の問題の一つは、高エネルギーの電子が試料内部で散乱し表面の下に貫入することである。このことにより、電子が到達する領域全体にわたってX線が発生する。例えば15keVの入射ビームは、純粋シリコンでは約3000nmの深度及び同様の寸法の横方向領域から、SiのK−X線を発生させる。従ってこれらの条件では、X線からの分析情報の空間解像度は3000nm程度となる。例えば、図1は炭素基板11上のシリコンの1000nm径の粒子10を示し、多くの電子が基板に到達し、そこで当該粒子を表さないX線を発生させることを示す。図1において、入射集束電子ビームを1で示す。後方散乱電子(BE)として真空内に散乱されて戻った電子を2で示す。粒子10内の電子の軌跡から発生するX線を3で示す。基板11内の電子軌跡が基板からのX線を発生させる。電子は粒子10の外に散乱されるため、X線信号は粒子10からの信号と基板11からの信号との組み合わせになる。図1において縦軸のメモリはマイクロメートル単位であることに留意されたい。
【0006】
BE信号に寄与するためには、電子は試料から後方に散乱してBE検出器に到達しなければならない。これらの電子のほとんどは1000nm未満の深度及び類似の横方向領域から来るものである。従って、これらの条件では、BE信号により与えられる分析情報は1000nm程度の空間解像度を有する。X線分析の場合のように、対象が分析空間解像度より小さい場合は、当該対象により生成される信号は当該対象の材料を正しく表さないことになる。そのため、特許文献1により説明される後方散乱電子に基づく方法は、15keVの入射電子を使用して寸法が1000nmよりはるかに小さい対象を分析するには通常は適さないことになる。
【0007】
特許文献2は、小さい対象については、BEカウント数は研究対象の物理的寸法に依存することを認め、規格化された後方電子散乱カウント数を材料の有効原子番号及び研究対象の物理的寸法の双方の関数として示す参照表を使用している。また特許文献2は、入射電子ビームの高いエネルギーにより関心ある構造部の周囲の領域からX線が放射され、X線を放射する領域のサイズは後方散乱電子を生成する領域より著しく広いことを認めている。従って、特許文献2においては、結果として得られるX線スペクトルは補正係数表を用いて構造サイズに対する補正を行うことができず、また化学元素を特定する手段がない。さらに、特許文献2は、小さい対象の下の基板が観測されたBE信号に与える影響について言及していない。対象が入射電子に対して部分的に透明である場合は、全BE信号は、対象の材料、対象の寸法及び下の基板の材料に依存することになる。
【0008】
特許文献2の実用的な実施に対しては、基板がシリコンであることが多いが、これはその用途が一般的にシリコンを用いる半導体ウェハ上の微小対象を分析することであるためである。しかし、基板を変更した場合は、BE信号を対象寸法に関連させる参照表を修正してシリコン以外の基板の異なる電子散乱特性に対して補正しなければならず、これは相当な付加的労力を必要とする。
【0009】
特許文献1及び特許文献2の両方においては、全BE信号が特性決定に使用される。SEM内で用いられるBE検出器は、通常、固体検出器、シンチレータ/光電子増倍管検出器及びマイクロチャネルプレート検出器であり、検出器内で解放された総電流の連続的な読み取りが行われる「アナログ」モードで使用される。固体検出器においては、検出器に衝突する単一電子が解放する電荷は、入射電子のエネルギーにおおよそ比例するので、計測された全電流は検出器に衝突する後方散乱電子の速度のみでなく後方散乱電子のスペクトル分布にも依存する。同様に、電流計測に基づくBE検出器の全ての型は、入射電子のカウント率とともに入射電子のエネルギースペクトルにある程度依存する結果をもたらす。従って、ある材料の理論的に予測されるBE信号を計算するためには、当該BE検出器の正確なエネルギー応答の特性を明らかにする必要がある。検出器に衝突する電子がない場合は、検出器の電子回路はオフセット電流を示すが、これは時間とともに変動し得る。従って、いかなる較正方法についても、それぞれの計測の前にオフセット電流を補償することが重要である。さらに、計測した電流値は、電子増幅システムの利得にも依存するが、これも変動し得る。検出器のエネルギー依存性、オフセット電流の変動及び利得の変動により後方散乱電子による材料の特性決定が実際には困難になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第4559450号明細書
【特許文献2】米国特許第6753525号明細書
【特許文献3】米国特許第5357110号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】E. Paparazzo著「Reflected electron energy loss microscopy (REELM) studies of metals, semiconductors and insulators」、Journal of Electron Spectroscopy and Related Phenomena 143、2005年、219−231頁。
【非特許文献2】J. L. Pouchou著「X-ray microanalysis of stratified specimens」、Analytica Chimica Acta, 283、1993年、81−97頁。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特に1000ナノメートル未満の小さい寸法の対象の分析が必要な場合、組成情報を取得するのに後方散乱電子及びX線技術を使用することに関連する多くの問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第一の態様により、本発明者は電子ビームを材料に衝突させる材料の定量分析の方法であって、電子ビームとの相互作用による材料の第一の領域から受けとる低損失電子(LLE)を検出して対応するLLEデータを生成し、電子ビームとの相互作用による材料の第一の領域と重なる第二の領域から受け取るX線を検出して対応するX線データを生成し、当該LLEデータを当該X線データとともに分析して第一の領域の組成を表す組成データを生成するステップを含む方法を提供する。
【0014】
本発明者は、非常に小さい寸法の対象(各々が好ましくは1000nm未満でありより好ましくは100nm未満である、少なくとも一つ、場合により二つ若しくは三つの寸法を有する)の組成情報を取得するのに低損失電子(LLE)を使用することには多大な利益があることを理解した。この理由は、LLEの使用により電子ビームとの相互作用体積(第一の領域)が非常に小さくなり、従ってそのような小さな体積から情報を取得してこれを、他の電子の軌跡により生じた大きな相互作用体積(第二の領域)から取得されたX線情報と合わせて使用することが可能になり、その結果、小さなLLE相互作用体積、すなわち「第一の領域」、の組成に関する情報が得られるためである。
【0015】
本発明の文脈において、LLEは入射ビームのエネルギーに近いエネルギーを有する電子と定義することができ、これは、材料との相互作用においてそれら電子は少量のエネルギーを失うにすぎないことを意味する。材料を横断する際に、電子は材料及び電子エネルギーに依存する率でエネルギーを損失する。より大きい原子番号の材料あるいはより低い入射ビームエネルギーでは、エネルギー損失率がより大きくなる。典型的な事例では、エネルギー損失率が10eV毎nmである場合、損失が500eV未満のLLEが材料内を移動するのは50nm以下であり、LLE信号を生成する領域のサイズを支配するのは最大損失エネルギーである。部分的エネルギー損失が入射ビームエネルギーの小部分に限定される場合は、LLE信号を生成する領域は全BE信号を生成する領域より実質的に小さくなる。従って、本発明の目的のためにはLLEは入射ビームエネルギーの少なくとも80%の最大エネルギーを有する。
【0016】
本発明において、本発明者は、全BE信号を用いるのではなく、エネルギーフィルタリング機能を有する検出器を使用し、小部分のエネルギーを損失した電子のみを検出するようにした。表面近くの電子軌跡の初期段階で試料から後方散乱された電子は、最初のビームエネルギーに近いエネルギーを有するために「低損失電子」(LLE)である。これらのLLEは入射ビームに近い浅い領域から発生する信号を生ずる。例えば、15keVの入射電子が純粋なSi試料に衝突すると、損失エネルギーが500eV未満のほとんどの電子は100nm程度の深度及び空間的広がりから出現することになる。従って、エネルギーフィルタリング機能を使用することにより、LLE信号は全BE信号より遥かに小さい対象を表すことができるので、対象のサイズに対する補正を行うための参照表の使用を必要とせず、また基板の影響を補償する必要がない。
【0017】
従って、第一の領域はLLEが取得される領域と考えることができる。従って、第一の領域は、通常第二の領域よりも体積が実質的に小さく、また第二の領域内に含まれる。分析の段階において、通常LLEデータは第一の領域にある元素を表す有効原子番号を得るように処理される。これは、例えば一連の既知の材料を使用して較正曲線を作成することによって達成できる。従って、この技術は特許文献1に類似のものと考えることができるが、典型的にはそのような較正曲線を作成するために、特許文献1とは異なり、エネルギーフィルタリング機能を使用して、ある特定の閾値以上のエネルギーを損失した全ての電子を除外することにより確実にLLEのみを処理するようにする。検出器内の変換器で生成される総電流を計測するよりも、個々の電子をカウントする検出器を使用することが好ましい。「パルスモード」検出プロセスで電子の離散的カウント法を使用することにより、「アナログ」あるいは連続モード検出システムを悩ませる変動し得る変換効率、変動し得るオフセット電流及び変動し得る利得の問題を回避できる。そのような較正曲線の一例を図2に示す。
【0018】
図2は10keVの入射電子に関する例示的な較正曲線を与える。LLE信号は、8keVを超えるエネルギーを有し、従って2keVの最大損失を有する後方散乱電子から収集され、次に検出された電子数を試料に衝突した入射電子の分率として表す。実際には、LLE信号のある一貫した計測値を入射ビーム電流のある一貫した計測値に対する比として表し、ビーム電流に依存しない規格化LLE信号を与える方法を用いる。それぞれが異なる原子番号Zを有する複数の純粋元素の試料を使用して較正曲線上の点を取得することができる。未知の試料に10keVのビームを照射するとき、規格化LLE信号はある有効Z値に変換される。試料が幾つかの元素から構成されている可能性がある場合でも、LLE信号はある有効原子番号又は有効Zに変換され、これは複数元素試料と同じLLE信号を与える純粋な単一元素材料の原子番号である。
【0019】
化合物と同じLLE信号強度を与える純粋な単一元素材料の有効Zは、代替的に、例えば特許文献1で説明された簡単な近似法を使用して、構成元素の濃度を使用する物理的理論から計算することができる。
【0020】
元素は既知であるが相対的濃度は未知である化合物の場合は、LLE信号は、計測されたLLE信号に一組の未知の濃度を関連付ける一つの数学的等式を効率的に与える。
【0021】
従って、典型的には当該LLEデータは、第一の領域内に元素のどの可能な組み合わせが存在するかを識別するように処理され、これに対して理論的計算がLLE信号から計測されたのと同じ有効原子番号を与えることになる。ほとんどの場合、第一の領域の組成を決定しようとするとき、第一の領域の材料の可能な候補として多くの材料が識別される。通常、当該方法は、LLEデータに基づいて、第一の領域の多くの可能な候補材料から一つの候補材料を選択するステップを含む。かかる候補材料のそれぞれは、例えば較正曲線から得られるのと実質的に同じ有効原子番号を有することになる。
【0022】
電子検出器がビームエネルギーに近い一連のエネルギーバンドの強度を計測することができる場合、これらのバンドの強度比から組成に関する付加的情報を決定できる(例えば、非特許文献1参照)。これは候補材料の選択のための付加的あるいは代替的方法を提供する。
【0023】
LLEを使用して高空間解像度の分析情報を取得できるが、LLE信号には元素含有率の詳細は含まれない。対照的に、試料内で散乱された電子により誘導されるX線スペクトルは、化学元素の存在についての情報を明らかにするが、その情報体積はLLE信号のものより遥かに大きい。
【0024】
次に図3を参照すると、第一の領域15及び第二の領域16が示されている。少量のエネルギーのみを損失した電子は、小さな斜線付きの領域15(第一の領域)のみと相互作用したことになる。従って、LLE情報体積は集束入射電子ビームの広がりに近い空間的広がりを有する。X線は、試料に貫入しその内部全体に散乱する電子の全軌跡に沿って発生する。従って、第二の領域16として示されるX線情報体積は、通常、集束電子ビーム1の寸法より遥かに大きな寸法を有する。
【0025】
通常、第二の領域は第一の領域より相当に大きいが、第二の領域から取得される情報は可能な候補材料のリストを絞るのに使用できる。例えば、これを達成するため、本方法はさらに該候補材料についての、第一の領域のみから得たものとしての模擬X線データを計算するステップを含むことができる。このことは、第一の領域と実質的に同じ厚さを有する第一の領域の材料の膜のみが存在すると仮定することにより達成することができる。その後、模擬X線データ及び物理的計測で得られたX線データを比較して、第一の領域の計測X線データに対するどの元素の寄与がそのX線データ内で実際に検出できるかを決定することができる。
【0026】
従って、本方法は、対応する組成データを有する候補材料の組を形成するように選択された異なる多くの候補材料について繰り返すことができ、その際、ある特定の候補材料のX線データに存在しない一つ又はそれ以上の元素の寄与が検知された場合は、当該の特定の候補材料はその組には含めない。このように、候補材料の組の数はLLEデータのみを使用して選択したものより相当に減らすことができる。多くの場合、材料候補の組は単一の候補材料まで絞り込むことができる。
【0027】
模擬X線データを生成する必要の無い代替的な方法では、第二の領域内に存在する元素を識別するようにX線データを分析する。LLEデータに基づいて第一領域について、各々が一つ又はそれ以上の元素からなる多くの候補材料が選択される。その後、X線データにより識別された元素と各候補材料内の元素とを比較し、それらの間の共通の元素を識別する。該候補材料は次に比較によってランク付けされる。
【0028】
例えば、ある候補材料が三つの元素を有し、その各々がX線データ内でも識別される場合、この候補材料は「3」とランク付けすることができる。X線データ内にかかる元素の二つのみが見出される場合には「2」とランク付けされ、以下同様である。この方法は、従って、LLEデータ及びX線データを使用して候補材料の組を選択するためのより早くかつより単純な方法を提供する。
【0029】
さらに、本発明は、ビーム位置に対する材料上の特定の位置で行われる分析に限定されないことに留意されたい。典型的には、本方法は、多くの異なる位置に対してLLEデータ及びX線データを取得しその各位置において当該分析方法を実行するように、電子ビームと材料を相対的に移動させるステップをさらに含む。このことは、走査型電子顕微鏡において好都合に実行することができるが、他の電子顕微鏡を使用することもできる。従って、その異なる位置は集合的に視野領域を形成するよう配置され、ここで本方法は各位置の組成データを表す画像データを形成するステップをさらに含む。得られた情報は、電子ビームを使用して得られる他の情報に加えて使用することができることに留意されたい。例えば、本方法は、各位置に対して、低損失電子ではない電子からの付加的な後方散乱電子データを取得し、当該後方散乱電子データを処理してさらに別の組成情報を取得するステップをさらに含むことができる。このさらに別の組成情報は、画像データと組み合わせて、例えば画像内で付加的特徴あるいは付加的組成情報を示す高解像度の画像データを生成することができる。
【0030】
必須ではないが、本方法は典型的には、当該画像をユーザに表示するさらに別のステップを含む。
【0031】
本発明は小さい対象の分析に役立つものであるが、本明細書においてかかる対象は実際に材料内の層を含み得ることを認識されたい。
【0032】
材料が複数の層を含み、入射電子ビームが当該層の表面とおよそ平行になるよう配置される場合において、本方法は
i)各層の組成データを定めるステップと、
ii)当該組成データを使用して各層に対する有効原子番号を計算するステップと、
iii)各層の少なくとも一つの電子ビーム位置からのX線放射を模擬X線データとしてシミュレートするステップと、
iv)各電子ビーム位置について低損失電子及びX線を検出するステップと、
v)検出されたX線データと模擬X線データを比較するステップと、
vi)検出されたLLEデータに基づいて有効原子番号を計算するステップと、
vii)ステップ(v)で計算された有効原子番号をステップ(ii)で計算された有効原子番号と比較するステップと、
viii)組成データを調整し、この調整された組成データを定められた組成データとして使用して、ステップ(i)乃至(vii)を各比較の結果の差が所定の閾値に達するまで反復するステップと、
をさらに含むことができる。
【0033】
この反復技術は複数層試料の組成を決定することを可能にする。通常比較ステップの結果の数値的尺度として性能指数が用いられ、この性能指数は通常、プロセスを最も可能性の高い解に集束させるように最大化もしくは最適化される。
【0034】
入射電子ビームを層に対してほぼ垂直に配置して、入射ビームが複数層のうちの最初の層に入射し、他の層はそれにもかかわらず第二の領域に入るようにすることも可能である。従って本方法は、第一の層の組成を取得するのに使用でき、次にこの組成が他の技術により得られる情報に加えて情報を与えることができ、これによりその構造を全体としてその組成及び層の厚さにより決定することが可能になる。
【0035】
理解されるように、組成情報は、通常、第一の領域内の材料内の元素の各々の識別情報と、それらの相対的量とを含む。
【0036】
LLEによる分析情報を使用して、浅い深度からの詳細情報を与え、異なる組成の材料の空間的広がりの境界を定めることができる。この付加的情報を用いて、X線検出器からの低空間解像度かつ高深度情報が材料組成の微細スケール変化の位置を突き止めるのに不十分である場合の分析上の問題を解決することができる。
【0037】
本発明の第二の態様により、本発明者は材料の定量分析を行うための装置を提供し、本装置は、
電子ビームを材料の試料上に衝突させるのに用いる電子ビーム発生器と、
電子ビームとの相互作用による、材料の第一の領域からの低損失電子を受け取り検出するように配置され、対応するLLE信号を生成する低損失電子(LLE)検出器と、
電子ビームとの相互作用による、材料の第一の領域と重なる第二の領域からのX線を受け取り検出するように配置され、対応するX線信号を生成するX線検出器と、
LLE信号を表すLLEデータを、X線信号を表すX線データとともに分析して第一の領域の組成を表す組成データを生成するように適合されたプロセッサと、
を備える。
【0038】
説明したように、本発明は電子顕微鏡内での使用に役立つものであり、従って該装置は電子顕微鏡、典型的には走査型電子顕微鏡(SEM)を備えることが好ましい。低損失電子のみを分析する点、及び、典型的には、受け取った複数の電子の結果として生成される総電流の計測ではなく個々の低損失電子をカウントする点で、標準的な散乱電子検出器とは異なる低損失電子検出器を使用することが好ましい。従って低損失電子検出器は使用中パルスモードで操作されることが好ましく、その場合各入射電子がエネルギー及び利得に依存する大きさのパルス出力を生成し、また、エネルギー及び利得と無関係に各入射電子に対して単一のカウントが記録されるようにパルスを検出するための適切な閾値が使用される。当該装置は第一の態様による本方法を実行するために使用することが好ましいことを理解されたい。
【0039】
さらに、当該装置自体が分析を実行するためのプロセッサを含むことは必須ではないことを理解されたい。通常このことは、当該の電子ビーム装置を動作させる、SEMコンピュータのようなコンピュータを使用することで達成できる。しかし、当然のことであるが、データ処理は遠隔で、例えばX線及びLLEデータを伝送できる任意のネットワーク上で実行することも可能である。
【0040】
従って、本発明は、SEMなどの装置における定量分析情報を、X線解析又は従来の後方散乱電子組成分析で達成されるよりもはるかに高い空間解像度で供給する方法を提供する。さらに、X線解析又は後方散乱電子組成分析で達成されるよりもはるかに浅い深度における材料の分析情報が得られる。
次に、本発明による方法及び装置を使用するいくつかの実施例を添付の図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】試料の上の電子ビーム入射の結果としての後方散乱電子及びX線の発生を示す。
【図2】LLE関数を原子番号に関連付ける較正曲線ある。
【図3】第一及び第二の相互作用領域の概略図である。
【図4a】第一領域からのX線が検出可能であるかどうかを計算する技術を示す。
【図4b】第一領域からのX線が検出可能であるかどうかを計算する技術を示す。
【図4c】第一領域からのX線が検出可能であるかどうかを計算する技術を示す。
【図5】本方法を使用した候補材料の選択を示す流れ図である。
【図6】複数層試料に関連する本方法の使用法を示す。
【図7】図6に関連する方法をより詳しく示す。
【図8】図6及び図7の方法に関連する流れ図である。
【図9】酸化シリコン層で覆われたシリコン基板に関連する方法の使用法を示す。
【図10】本方法を実行するための装置の例示的な配置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
次に、高空間解像度で材料の特定を行う本発明の様々な例示的用途を説明する。本発明は、X線及びLLE分析器を使用し、それぞれからのデータを処理して、従来技術を著しく上回る利益を実現するものである。
【実施例1】
【0043】
第一の実施例は、LLE及びX線データを組み合わせて、X線励起体積(第二の領域)よりも小さい対象の材料を特定する方法を説明する。図4a、図4b及び図4cは、LLE及びX線信号を生成する電子の軌跡を示す試料の断面を示す。電子エネルギー損失が小さいほど、LLE信号の情報体積(第一の領域)が小さくなる。例えば、100eV又はそれ以下のエネルギー損失に対して、情報体積は典型的には直径10nm程度のものである。表面に直径10nm以上の小さい対象が埋め込まれている場合、LLE信号はこの小さい対象を構成する材料を表すことになる。このことは図4aに示すが、集束電子ビームの直径は10nmより小さいことに留意されたい。しかし、X線は電子軌跡全体に沿って(第二の領域内で)放射されるため、X線スペクトルはこの小さい対象とその周辺のマトリックス材料との両方からの材料を表す。対象の元素組成が既知の場合には、第一の領域内の対象と同じ材料の真空中に保持された薄膜に対するX線収率を計算することにより、元素による放射ラインのそれぞれの強度の保守的推計値を計算することができる。これを図4bに示す。この仮想薄膜の厚さは第一の領域、すなわち、選択されたLLEが取得される領域(これは図4aと図4bを比較することにより分かる)の深さに設定される。浅い深度に対しては、材料の励起堆積は小さい対象の体積より大きくならない。
【0044】
推計値はこの仮想薄膜の模擬X線データとして計算する。推計値は保守的なものであるが、これは実際には対象の下に材料があり、下部からの散乱電子が励起に加わるためである。これを図4cに示す。
【0045】
さらに、対象がLLE情報体積より大きかった場合には、各元素のX線信号はより大いことになる。図4aの試料から得られる全X線スペクトルは、元素のライン放射に対応したピークを有し、統計的カウンティングの効果を示すことになる。小さな元素ピークを検出する能力は、ピークのサイズ並びに背景にある制動放射バックグラウンド及び近くの重なるピークのカウントレベルにより決定される。
【0046】
LLE信号は、精細に集束させた電子プローブに近接した材料を表し、X線発生の体積よりはるかに小さい情報体積を有する。LLE信号は、材料が小さい対象内に集中しても試料表面全体を覆っていても同じになる。基板上の小さい対象(図4a)の各元素のX線信号強度は同じ材料の独立した層(図4b)の信号強度より小さくはならない。候補材料の組成が既知のときは、図4bの配置に対して計算された元素ライン強度と、図4aの配置による観測された全スペクトルのカウンティング統計とを用いて、対象がこの材料からできていたとした場合、どの元素ライン信号がX線スペクトル内に確かに検出されることになるかを知ることができる。対象が図4aにおけるより大きかった場合、強度は図4bにおけるよりもさらに大きいことになる。
【0047】
X線分析に関連するシミュレーション、検出及び信号処理は十分に確立された技術であり、本明細書ではこれらを更には説明しない。
【0048】
現実の試料から計測されたスペクトル及び元素ライン強度の模擬スペクトル(過小評価)を用いて、小さい対象がその候補材料でできていたとした場合に検出されるべき元素がその候補材料中にいくつ存在するかを見出すことができる。
【0049】
これらの元素が検出されるべきであるのに検出されない場合は、その候補材料は検討から除外することができる。
【0050】
LLE情報とX線情報を組み合わせる手順を図5に関連してより詳細に説明する。図5はLLE信号により識別された候補材料を選別するのにX線信号をどのように使用するかを示す流れ図である。材料の有効原子番号Z及び組成を示す材料の総合的なデータベースは、実験により及び又は理論により準備することができる。このことは、図2に関連して前に説明した。小さな対象を高解像度で分析するためには、LLE信号を計測し有効原子番号Zに変換する。次に有効Zを用いて、計測の実験誤差内で同じ有効Zを与えるデータベース内の全ての候補材料を識別する。
【0051】
図5において、材料1から材料4がLLE計測により観測されたものに近い有効Zを与えるものとして識別された。これには、ステップ100で、既知の基準材料にビームをあててLLE信号S0を計測するステップが含まれる。次にこのビームを未知の試料にあててLLE信号Sを計測する(ステップ101)。次にデータベースを検索し、ある特定の許容差内で類似のS/S0を与える候補材料を探す(ステップ102)。
【0052】
LLE計測に対するのと同じ点で対象に衝突する入射電子ビームを用いてX線スペクトルをまた取得する(ステップ103)。次にステップ104において、当該スペクトルをソフトウェアで処理して元素ピークを検出し識別する(図5においては元素F、元素G、元素Hが識別される)。電子は必ず対象を越えて散乱するため、X線スペクトルは対象及び基板のような直近の他の材料からの寄与を含むことになる。類似の有効Zを与えるデータベース内の各候補材料に対して、元素ピークの検出可能性の保守的試験を行う(ステップ105)。ステップ105で、各候補材料について、濃度データ、ビーム電流及び入射エネルギーを用いて、LLE信号の情報深度に等しい厚さの材料の独立薄膜についての元素ピークのスペクトル強度を計算する。次に計測されたX線スペクトルのカウント数を用いて、どの元素ピークが統計的ノイズを超えて検出されるかを計算する。ピークが見出されるはずであるのにその証拠がX線スペクトル内に無い場合は、その材料はステップ106において対象の候補から除外される。
【0053】
図5では、元素B,元素C、元素D及び元素EがX線スペクトル内で検出されないために、材料1、材料2及び材料4が除外される。材料3は残った唯一の候補であり、元素E、元素F、元素Gを含んでいることから、X線スペクトル内で検出された元素HはLLE信号を生成した小さな領域の外部からのものである。X線分析による元素情報はこのように使用され、LLEにより決定された候補の短いリストを限定し、X線分析単独で可能であるよりはるかに高い空間解像度で材料組成を特定するに役立つ。従って寸法が1000nmよりはるかに小さい微小対象の分析を行うことができる。
【実施例2】
【0054】
第二の実施例は、ラスター走査を組み合わせた本発明の使用法を説明する。視野をカバーするラスター上を入射ビームで走査する場合、ラスター内の各点でLLE信号を計測して有効Z値に変換することができる。この有効Zをビーム位置の関数としてプロットすると、視野内における材料の、高解像度の材料コントラストを示す画像が与えられる。同じ視野を、各点でX線スペクトルを計測しながら走査する場合には、低い空間解像の分析情報が得られる。特許文献3は、低空間解像度X線分析情報を後方散乱電子信号のような補助信号と組み合わせて、補助信号の高空間解像度で元素含有率の分析情報を示す複合画像を与える方法を説明している。
本発明者は、同じ方法を用いて超高空間解像度LLE画像を低解像度X線スペクトル画像データと組み合わせることができることを理解した。従って、1000nmよりはるかに小さい空間解像度で組成の詳細を示す高空間解像度画像を得ることができる。上述の第一の実施例の文脈で説明した技術はこの第二の実施例を実施するのにも用いることができる。
【実施例3】
【0055】
第三の実施例は、積層構造体についての情報を得るための本発明の使用法を説明する。 この場合、試料は未知の組成及び厚さの多数の層からなる。垂直断面図はSEMの集束イオンビームエッチング(FIB)により作成することができきる。エッチングされる表面は入射電子ビーム(この場合10keVのビーム)に対して垂直に示す。図6はそのような試料の中の電子軌跡を例示する断面図を示す。図6には層の実際の組成及び厚さが示されており、それらはニッケル(100nm)、アルミニウム(200nm)及び金(50nm)であり、全てこの3層の両側のシリコンの厚い層で挟まれている。
【0056】
集束入射ビームがAu層内にあるとき、LLE信号は層の厚さより薄い小体積により生成されるので、Auのみを表す。しかし、10keVの入射電子は試料内に散乱し、近接するNi、Al及びSiからのX線を励起する。そのような試料を従来のラスター走査で画像化するか、あるいはLLE信号を使用してライン走査を行うと、層間の境界の位置は通常各層からの対比信号で見ることができる。二つの隣接する層が非常に良く似た有効Zを有する場合には、層間の境目は、通常やはりSEMを使用して二次電子(SE)画像で視認できる。従って層の厚さを決定できる。
【0057】
各層内で、高解像度LLE信号は有効Zを与えるが元素含有率は決定できない。しかしながら、各層への入射ビームにより取得されるX線スペクトルは、ビームの下の層だけでなく、横向きに散乱された電子により刺激される全ての層に存在する化学元素の情報を与える。しかし、二つの情報源を組み合わせて全ての層の組成に対する自己矛盾のない解を見出すことができる。このことについて、図7及び図8のフローチャートを参照しながらさらに説明する。
【0058】
図7において、LLE(またはSE)ライン走査信号は種々の層の境目を明らかにする。入射電子ビームが位置3にある場合、LLEを使用して層3の材料の有効Z(「計測Z」)を決定し、これを「ZMeas3」と表す。元素A、B、C、DのX線信号(iA3、iB3、iC3、iD3)を計測する。層3の現在の推定組成(cA3、cB3、cC3、cD3)を使用して層3の予想される有効Z(Zeff3)をシミュレートする。全層の現在の推定組成及び隣接するマトリックス材料m1及びm2(既知)の組成を使用してX線強度sA3、sB3、sC3、sD3をシミュレートする。これを位置2及び位置1の入射ビームを用いて繰り返す。
【0059】
次に図8を参照すると、層の境界を見出しこれらを用いて各層の中央に分析位置1、2、3...を設定する(図7参照)初期ステップがステップ200で実行される。ステップ201では、存在する元素のリストを使用して一組の濃度についての最初の「推測」が各々の層に対して行われる。この推測は、単にX線分析で決定される見かけの組成であり、近接する層からの寄与を含むことを受容したものである。
【0060】
各層の元素の一組の濃度を使用して、ステップ202で当該層上のビームにより取得されるLLE信号から予測される有効Zを計算する。次にステップ203で、各層の濃度、各層の厚さ及び入射電子ビームエネルギーを使用して、各元素の特性ライン放射に対して得られることになるX線信号を、典型的には各層の中央にある一連の分析位置1、2、3...における入射ビームによりシミュレートする。
【0061】
このシミュレーションは、例えばモンテカルロ軌跡モデル化法によって実行できることに留意されたい。
【0062】
ステップ204で、一連の分析位置におけるビームを使用してLLE信号を計測し、さらに各場合にX線スペクトルを記録する。LLE信号は、ステップ205で較正曲線(図2参照)を使用して有効原子番号Zに変換される。X線スペクトルもまた処理されて当該スペクトル内の各元素ラインの計測信号が取得られる(ステップ206)。ステップ202からステップ206までを各分析位置1、2、3...に対して繰り返す。
【0063】
次にステップ207で、理論的X線強度を各分点で観測されたX線スペクトルにおいて計測されたX線強度と比較し、さらに理論的有効Zを計測された有効Zと比較する。これを行うため、性能指数を計算し、理論的予測が観測されたX線強度とどれほど良く一致するかを表す。例えば、これは、全X線ライン信号及び全有効Z信号に対する理論値と計測値の間の相対的差の二乗の和とすることができる。
【0064】
ステップ207で得られた性能指数は、次に各層の元素濃度の新たな推定値の選択に使用される(ステップ208)。
【0065】
次にステップ202からステップ208までの手順を逐次近似サイクル内で繰り返して実行する。実際にはステップ204のデータ取得は繰り返す必要はなく、保存したデータを逐次近似ループ内で使用することができる。従って、種々の層の推測組成は、多層試料の構造及び組成に対する最良の自己矛盾のない解が得られるまで、性能指数を改善するように繰り返して調整される。
【0066】
通常、組成の反復調整には、X線分析情報の横展開を表す近似式を使用し、各元素の空間分布について標準的なデコンボルーション法を使用することにより、情報の不鮮明化を修正する助けとする。有効Zに関する高空間解像度LLE情報は、X線データのデコンボルーションを有効にする強い束縛条件を与える。このようにして、厚さが1000nmよりはるかに薄い層の定量的元素情報を取得できる。
【実施例4】
【0067】
非特許文献2には、X線を使用し、FIB分割を必要としない積層試料のSEM分析技術が説明されている。第四の実施例で、本発明者は、この技術を本発明の方法とどのように組み合わせて分析プロセスを改善できるかを説明する。
【0068】
通常、試料は入射電子ビームに対して垂直に置き、X線検出器を使用して試料の種々の層内に存在する元素からのライン放射の強度を計測する。各層内に存在する元素について予備知識があるときは、X線放射の理論モデル及び逐次近似解法を使用して各層の厚さ及び各層内に存在する元素の組成に関する自己矛盾の無い解を見出すことが、場合により可能となる。しかし、幾つかの場合には、単一のビームエネルギーを使用して取得したスペクトルを用いて解を得ることはできない。場合により複数の入射ビームエネルギーにおけるX線スペクトルからの付加的情報を得て解を得ることは可能であるが、ビームエネルギーの変化毎にビーム電流及び入射ビームの位置が変化する可能性があり、これが複数のビームエネルギー計測の実現を困難にする。従って、単一のビームエネルギーを使用して分析を行うことが非常に望ましい。
【0069】
多くの元素からのX線ラインを励起するためには、SEMのビームエネルギーは典型的には5keVを超えなければならない。しかし、最上層(電子ビームが衝突する層)の厚さが100nm未満のとき、X線は最上層とその下の層との両方から発生する。表面層に存在する元素については、X線ライン強度は当該元素の濃度及び層の厚さの両方の影響を受ける。濃度の増加はより高い強度を与えるが、これは厚さの増加によっても起こり得る。従って、この元素のライン強度の単一計測では、層の元素組成及び厚さの両方を分離することができない。
【0070】
層内の全ての元素が計測可能なX線ラインを放射する場合は、各元素の相対的濃度を見出し、全濃度の和が1になるはずであるという規格化条件を使用して、層の厚さに対する解を見出すことが可能である。しかし、一つの元素が計測可能なラインを有しないか又は一つの元素が表面層より下の試料中にも存在する場合には、表面層の組成及び厚さの両方を分離するのに規格化条件を適用することはできない。
【0071】
前述の説明からわかるように、LLE信号は浅い表面層に限定されるため、LLE計測によって決定される有効Zは通常表面層の組成を表すが、厚さとは無関係である。元素組成を有効Zに関連付ける等式は、表面層の組成に関する付加的な束縛条件を与え、これが場合により厚さの決定を可能にする。LLE計測とX線計測の組み合わせは、このように単一電子ビーム電圧を使用して薄い表面層の厚さ及び組成の両方を計測する可能性を提示する。
【0072】
図9は、シリコンマトリックス上の厚さ約20nmの酸化シリコン層の厚さ及び組成を計測するのに望ましいこの手法の一実施例を示す。5keVの入射電子ビームにより、X線が広い領域16から発生する。シリコンK強度は薄いSiOx層及びSi基板からの信号の組み合わせであり、純粋Si試料からの強度と類似しており、従ってSiの信号は当該層に関する非常に有益な情報は与えない。酸素K強度は、当該層の厚さにより直接影響され、また酸化物中の酸素の割合にも直接影響される。従って酸素K信号で厚さと組成の両方を決定することはできない。しかし、50eV損失のLLE信号は全体として酸素層内で発生するため、有効ZをLLEの較正曲線から決定する場合には、同じ有効Zを与える酸素の割合を決定することができる。LLE計測により決定された酸化物の組成を用いて、観測された酸素KのX線強度を与えるのに必要な酸化物の厚さをX線信号により決定することができる。
【0073】
図10は本発明を実施するのに適した装置の一般的な配置を示し、この場合走査型電子顕微鏡のチャンバを図示する。一般的に300で示した電子顕微鏡のチャンバは、試料20上に入射する電子ビーム1を有する。入射ビームは、通常1kVから30kVまでの高電圧を使用して加速された電子で構成される。このビーム1は、一般的に21で示す一組の電磁レンズにより集束され試料20に入射する。電子は全て基本的に同じエネルギーで試料に衝突する。試料は通常接地され、入射電子は試料20に貫入し散乱される。従って試料20は、X線とともに電子を放射し、これらがそれぞれ試料20の特性となり、それら特性を計測することにより、上述の実施例で説明したように試料の材料及び構造に関する詳細な情報が与えられる。
【0074】
通常、試料から放射される電子は、図10の矢印22で示すように広い立体角から放射される。電子分析器23は電子を放射する試料20の近傍に配置される。電子分析器23は遅延電場型分析器(RFA)であり、静電場を使って、分析器に集められた放射された電子のエネルギーフィルタリングを行う。通常、かかる電子分析器23は電子ビーム1の一方の側に配置される。当該分析器は通常、当該分析器の動作を制御して受け取った電子の特性である信号を取得するための検出電子回路をもたらす、処理及び制御システム24に接続される。図10に示す通り、当該試料から放射されるX線を検出するために、X線検出器25の形態の第二の検出装置がやはり試料20に隣接して配置される。この検出装置は電子ビーム1の別の側に配置され、同様に制御システム24(図示せず)と通信する。放射されたX線は一般的に図10の26で示す。制御システムはSEMコンピュータ(図示せず)により操作され、このコンピュータ上で都合よく(必須ではないが)本発明の実施における計算を実行することができる。
【0075】
従って、本発明は従来技術による方法及び装置を超える数多くの重要な利点を提供するものであり、その幾つかを以下に挙げる。
a)後方散乱電子ではなくLLEを使用することにより、当技術分野で現在知られているものよりも典型的には一桁高い空間解像度がもたらされる。
b)後方散乱電子ではなくLLEを使用することにより、対象を計測し対象のサイズ又は基板についての補正を行うことを必要としない、微小対象の組成の研究を可能にする。
c)総変換電流の計測(後方散乱電子を計測する標準的方法)ではなく、個々の電子をそれらのエネルギーと関係なくカウントする検出器の可能な使用法により、オフセット及び利得変動の問題を回避し、理論的収率を、検出器のエネルギー変換機能の知識を用いずに予測することを可能にする。
d)LLEデータは小さな情報体積の詳細でない定量的分析情報を提示する。X線データは大きい情報体積の詳細な定量的元素情報を提示する。これら二つを組み合わせることにより、小さな情報体積からの定量的元素情報を与えることができ、従ってより小さい対象を分析することができる。このことは、例えば、重大な欠陥の寸法が100nmよりかなり小さい半導体欠陥の検査のため、並びに、膜厚及び対象の寸法が100nmよりかなり小さいナノテクノロジー用途のために、極めて重要である。
【符号の説明】
【0076】
1:入射集束電子ビーム
2:後方散乱電子(BE)
3:X線
10:粒子
11:基板
15:第一の領域
16:第二の領域
20:試料
21:電磁レンズ
22:矢印
23:電子分析器
24:制御システム
25:X線検出器
26:放射X線
300:電子顕微鏡チャンバ
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に電子ビーム技術を用いた材料の定量分析法に関する。対応する装置も提供される。本発明は、走査型電子顕微鏡SEM)において具体的用途を有し、X線と電子からの情報を組み合わせることにより試料の高空間解像度分析を達成するための手段を提供する。
【背景技術】
【0002】
走査型電子顕微鏡(SEM)は微細構造観察のための一般的道具である。この技術では、通常約1keVと20keVの間のエネルギーを有する精細に集束させた電子ビーム(プローブ)で試料表面を走査する。当該表面の各プローブ位置において、従来、信号は様々な型の検出器で計測される。一般的に、散乱電子及びX線を検出し、各信号について、当該表面上の走査されたプローブ位置に対応する位置で信号強度が変調することを利用して試料の拡大画像を作成する。各プローブ位置において、散乱電子及びX線のエネルギースペクトルは、試料表面及びその下にあるバルク材料の組成及び構造により決定される。現在のSEMを利用した組成分析は、最も一般的にはX線検出により行われている。
【0003】
特許文献1は、後方散乱電子(BE)の全強度が試料の原子番号に影響されるという事実を利用した分析技術を説明している。後方散乱電子は、電子ビームとの相互作用の結果として試料から後方に散乱された高エネルギー電子である。多くの画像化用途で使用されるのは、後方散乱電子よりむしろ二次電子であるが、後方散乱電子はそのエネルギーを分析して電子ビームが相互作用する材料の部分の組成に関するいくつかの情報を得ることができる点で有益である。
【0004】
BE信号強度を同じ入射ビーム電流に対する基準材料による信号強度と比較することにより、その試料の有効原子番号が基準材料よりも高いか低いかを決定できる。一連の基準材料により較正曲線を作成することができ、未知の試料の有効原子番号をBE信号強度から決定できる。さらに、後方散乱電子に関する有効原子番号は化学組成から予測できるので、観測した信号を材料の「推測の」組成を確認するのに使用できる。推測組成は試料のX線分析結果を用いて得ることができ、関連する元素濃度についての情報を与える。
【0005】
電子を用いた分析の問題の一つは、高エネルギーの電子が試料内部で散乱し表面の下に貫入することである。このことにより、電子が到達する領域全体にわたってX線が発生する。例えば15keVの入射ビームは、純粋シリコンでは約3000nmの深度及び同様の寸法の横方向領域から、SiのK−X線を発生させる。従ってこれらの条件では、X線からの分析情報の空間解像度は3000nm程度となる。例えば、図1は炭素基板11上のシリコンの1000nm径の粒子10を示し、多くの電子が基板に到達し、そこで当該粒子を表さないX線を発生させることを示す。図1において、入射集束電子ビームを1で示す。後方散乱電子(BE)として真空内に散乱されて戻った電子を2で示す。粒子10内の電子の軌跡から発生するX線を3で示す。基板11内の電子軌跡が基板からのX線を発生させる。電子は粒子10の外に散乱されるため、X線信号は粒子10からの信号と基板11からの信号との組み合わせになる。図1において縦軸のメモリはマイクロメートル単位であることに留意されたい。
【0006】
BE信号に寄与するためには、電子は試料から後方に散乱してBE検出器に到達しなければならない。これらの電子のほとんどは1000nm未満の深度及び類似の横方向領域から来るものである。従って、これらの条件では、BE信号により与えられる分析情報は1000nm程度の空間解像度を有する。X線分析の場合のように、対象が分析空間解像度より小さい場合は、当該対象により生成される信号は当該対象の材料を正しく表さないことになる。そのため、特許文献1により説明される後方散乱電子に基づく方法は、15keVの入射電子を使用して寸法が1000nmよりはるかに小さい対象を分析するには通常は適さないことになる。
【0007】
特許文献2は、小さい対象については、BEカウント数は研究対象の物理的寸法に依存することを認め、規格化された後方電子散乱カウント数を材料の有効原子番号及び研究対象の物理的寸法の双方の関数として示す参照表を使用している。また特許文献2は、入射電子ビームの高いエネルギーにより関心ある構造部の周囲の領域からX線が放射され、X線を放射する領域のサイズは後方散乱電子を生成する領域より著しく広いことを認めている。従って、特許文献2においては、結果として得られるX線スペクトルは補正係数表を用いて構造サイズに対する補正を行うことができず、また化学元素を特定する手段がない。さらに、特許文献2は、小さい対象の下の基板が観測されたBE信号に与える影響について言及していない。対象が入射電子に対して部分的に透明である場合は、全BE信号は、対象の材料、対象の寸法及び下の基板の材料に依存することになる。
【0008】
特許文献2の実用的な実施に対しては、基板がシリコンであることが多いが、これはその用途が一般的にシリコンを用いる半導体ウェハ上の微小対象を分析することであるためである。しかし、基板を変更した場合は、BE信号を対象寸法に関連させる参照表を修正してシリコン以外の基板の異なる電子散乱特性に対して補正しなければならず、これは相当な付加的労力を必要とする。
【0009】
特許文献1及び特許文献2の両方においては、全BE信号が特性決定に使用される。SEM内で用いられるBE検出器は、通常、固体検出器、シンチレータ/光電子増倍管検出器及びマイクロチャネルプレート検出器であり、検出器内で解放された総電流の連続的な読み取りが行われる「アナログ」モードで使用される。固体検出器においては、検出器に衝突する単一電子が解放する電荷は、入射電子のエネルギーにおおよそ比例するので、計測された全電流は検出器に衝突する後方散乱電子の速度のみでなく後方散乱電子のスペクトル分布にも依存する。同様に、電流計測に基づくBE検出器の全ての型は、入射電子のカウント率とともに入射電子のエネルギースペクトルにある程度依存する結果をもたらす。従って、ある材料の理論的に予測されるBE信号を計算するためには、当該BE検出器の正確なエネルギー応答の特性を明らかにする必要がある。検出器に衝突する電子がない場合は、検出器の電子回路はオフセット電流を示すが、これは時間とともに変動し得る。従って、いかなる較正方法についても、それぞれの計測の前にオフセット電流を補償することが重要である。さらに、計測した電流値は、電子増幅システムの利得にも依存するが、これも変動し得る。検出器のエネルギー依存性、オフセット電流の変動及び利得の変動により後方散乱電子による材料の特性決定が実際には困難になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第4559450号明細書
【特許文献2】米国特許第6753525号明細書
【特許文献3】米国特許第5357110号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】E. Paparazzo著「Reflected electron energy loss microscopy (REELM) studies of metals, semiconductors and insulators」、Journal of Electron Spectroscopy and Related Phenomena 143、2005年、219−231頁。
【非特許文献2】J. L. Pouchou著「X-ray microanalysis of stratified specimens」、Analytica Chimica Acta, 283、1993年、81−97頁。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特に1000ナノメートル未満の小さい寸法の対象の分析が必要な場合、組成情報を取得するのに後方散乱電子及びX線技術を使用することに関連する多くの問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第一の態様により、本発明者は電子ビームを材料に衝突させる材料の定量分析の方法であって、電子ビームとの相互作用による材料の第一の領域から受けとる低損失電子(LLE)を検出して対応するLLEデータを生成し、電子ビームとの相互作用による材料の第一の領域と重なる第二の領域から受け取るX線を検出して対応するX線データを生成し、当該LLEデータを当該X線データとともに分析して第一の領域の組成を表す組成データを生成するステップを含む方法を提供する。
【0014】
本発明者は、非常に小さい寸法の対象(各々が好ましくは1000nm未満でありより好ましくは100nm未満である、少なくとも一つ、場合により二つ若しくは三つの寸法を有する)の組成情報を取得するのに低損失電子(LLE)を使用することには多大な利益があることを理解した。この理由は、LLEの使用により電子ビームとの相互作用体積(第一の領域)が非常に小さくなり、従ってそのような小さな体積から情報を取得してこれを、他の電子の軌跡により生じた大きな相互作用体積(第二の領域)から取得されたX線情報と合わせて使用することが可能になり、その結果、小さなLLE相互作用体積、すなわち「第一の領域」、の組成に関する情報が得られるためである。
【0015】
本発明の文脈において、LLEは入射ビームのエネルギーに近いエネルギーを有する電子と定義することができ、これは、材料との相互作用においてそれら電子は少量のエネルギーを失うにすぎないことを意味する。材料を横断する際に、電子は材料及び電子エネルギーに依存する率でエネルギーを損失する。より大きい原子番号の材料あるいはより低い入射ビームエネルギーでは、エネルギー損失率がより大きくなる。典型的な事例では、エネルギー損失率が10eV毎nmである場合、損失が500eV未満のLLEが材料内を移動するのは50nm以下であり、LLE信号を生成する領域のサイズを支配するのは最大損失エネルギーである。部分的エネルギー損失が入射ビームエネルギーの小部分に限定される場合は、LLE信号を生成する領域は全BE信号を生成する領域より実質的に小さくなる。従って、本発明の目的のためにはLLEは入射ビームエネルギーの少なくとも80%の最大エネルギーを有する。
【0016】
本発明において、本発明者は、全BE信号を用いるのではなく、エネルギーフィルタリング機能を有する検出器を使用し、小部分のエネルギーを損失した電子のみを検出するようにした。表面近くの電子軌跡の初期段階で試料から後方散乱された電子は、最初のビームエネルギーに近いエネルギーを有するために「低損失電子」(LLE)である。これらのLLEは入射ビームに近い浅い領域から発生する信号を生ずる。例えば、15keVの入射電子が純粋なSi試料に衝突すると、損失エネルギーが500eV未満のほとんどの電子は100nm程度の深度及び空間的広がりから出現することになる。従って、エネルギーフィルタリング機能を使用することにより、LLE信号は全BE信号より遥かに小さい対象を表すことができるので、対象のサイズに対する補正を行うための参照表の使用を必要とせず、また基板の影響を補償する必要がない。
【0017】
従って、第一の領域はLLEが取得される領域と考えることができる。従って、第一の領域は、通常第二の領域よりも体積が実質的に小さく、また第二の領域内に含まれる。分析の段階において、通常LLEデータは第一の領域にある元素を表す有効原子番号を得るように処理される。これは、例えば一連の既知の材料を使用して較正曲線を作成することによって達成できる。従って、この技術は特許文献1に類似のものと考えることができるが、典型的にはそのような較正曲線を作成するために、特許文献1とは異なり、エネルギーフィルタリング機能を使用して、ある特定の閾値以上のエネルギーを損失した全ての電子を除外することにより確実にLLEのみを処理するようにする。検出器内の変換器で生成される総電流を計測するよりも、個々の電子をカウントする検出器を使用することが好ましい。「パルスモード」検出プロセスで電子の離散的カウント法を使用することにより、「アナログ」あるいは連続モード検出システムを悩ませる変動し得る変換効率、変動し得るオフセット電流及び変動し得る利得の問題を回避できる。そのような較正曲線の一例を図2に示す。
【0018】
図2は10keVの入射電子に関する例示的な較正曲線を与える。LLE信号は、8keVを超えるエネルギーを有し、従って2keVの最大損失を有する後方散乱電子から収集され、次に検出された電子数を試料に衝突した入射電子の分率として表す。実際には、LLE信号のある一貫した計測値を入射ビーム電流のある一貫した計測値に対する比として表し、ビーム電流に依存しない規格化LLE信号を与える方法を用いる。それぞれが異なる原子番号Zを有する複数の純粋元素の試料を使用して較正曲線上の点を取得することができる。未知の試料に10keVのビームを照射するとき、規格化LLE信号はある有効Z値に変換される。試料が幾つかの元素から構成されている可能性がある場合でも、LLE信号はある有効原子番号又は有効Zに変換され、これは複数元素試料と同じLLE信号を与える純粋な単一元素材料の原子番号である。
【0019】
化合物と同じLLE信号強度を与える純粋な単一元素材料の有効Zは、代替的に、例えば特許文献1で説明された簡単な近似法を使用して、構成元素の濃度を使用する物理的理論から計算することができる。
【0020】
元素は既知であるが相対的濃度は未知である化合物の場合は、LLE信号は、計測されたLLE信号に一組の未知の濃度を関連付ける一つの数学的等式を効率的に与える。
【0021】
従って、典型的には当該LLEデータは、第一の領域内に元素のどの可能な組み合わせが存在するかを識別するように処理され、これに対して理論的計算がLLE信号から計測されたのと同じ有効原子番号を与えることになる。ほとんどの場合、第一の領域の組成を決定しようとするとき、第一の領域の材料の可能な候補として多くの材料が識別される。通常、当該方法は、LLEデータに基づいて、第一の領域の多くの可能な候補材料から一つの候補材料を選択するステップを含む。かかる候補材料のそれぞれは、例えば較正曲線から得られるのと実質的に同じ有効原子番号を有することになる。
【0022】
電子検出器がビームエネルギーに近い一連のエネルギーバンドの強度を計測することができる場合、これらのバンドの強度比から組成に関する付加的情報を決定できる(例えば、非特許文献1参照)。これは候補材料の選択のための付加的あるいは代替的方法を提供する。
【0023】
LLEを使用して高空間解像度の分析情報を取得できるが、LLE信号には元素含有率の詳細は含まれない。対照的に、試料内で散乱された電子により誘導されるX線スペクトルは、化学元素の存在についての情報を明らかにするが、その情報体積はLLE信号のものより遥かに大きい。
【0024】
次に図3を参照すると、第一の領域15及び第二の領域16が示されている。少量のエネルギーのみを損失した電子は、小さな斜線付きの領域15(第一の領域)のみと相互作用したことになる。従って、LLE情報体積は集束入射電子ビームの広がりに近い空間的広がりを有する。X線は、試料に貫入しその内部全体に散乱する電子の全軌跡に沿って発生する。従って、第二の領域16として示されるX線情報体積は、通常、集束電子ビーム1の寸法より遥かに大きな寸法を有する。
【0025】
通常、第二の領域は第一の領域より相当に大きいが、第二の領域から取得される情報は可能な候補材料のリストを絞るのに使用できる。例えば、これを達成するため、本方法はさらに該候補材料についての、第一の領域のみから得たものとしての模擬X線データを計算するステップを含むことができる。このことは、第一の領域と実質的に同じ厚さを有する第一の領域の材料の膜のみが存在すると仮定することにより達成することができる。その後、模擬X線データ及び物理的計測で得られたX線データを比較して、第一の領域の計測X線データに対するどの元素の寄与がそのX線データ内で実際に検出できるかを決定することができる。
【0026】
従って、本方法は、対応する組成データを有する候補材料の組を形成するように選択された異なる多くの候補材料について繰り返すことができ、その際、ある特定の候補材料のX線データに存在しない一つ又はそれ以上の元素の寄与が検知された場合は、当該の特定の候補材料はその組には含めない。このように、候補材料の組の数はLLEデータのみを使用して選択したものより相当に減らすことができる。多くの場合、材料候補の組は単一の候補材料まで絞り込むことができる。
【0027】
模擬X線データを生成する必要の無い代替的な方法では、第二の領域内に存在する元素を識別するようにX線データを分析する。LLEデータに基づいて第一領域について、各々が一つ又はそれ以上の元素からなる多くの候補材料が選択される。その後、X線データにより識別された元素と各候補材料内の元素とを比較し、それらの間の共通の元素を識別する。該候補材料は次に比較によってランク付けされる。
【0028】
例えば、ある候補材料が三つの元素を有し、その各々がX線データ内でも識別される場合、この候補材料は「3」とランク付けすることができる。X線データ内にかかる元素の二つのみが見出される場合には「2」とランク付けされ、以下同様である。この方法は、従って、LLEデータ及びX線データを使用して候補材料の組を選択するためのより早くかつより単純な方法を提供する。
【0029】
さらに、本発明は、ビーム位置に対する材料上の特定の位置で行われる分析に限定されないことに留意されたい。典型的には、本方法は、多くの異なる位置に対してLLEデータ及びX線データを取得しその各位置において当該分析方法を実行するように、電子ビームと材料を相対的に移動させるステップをさらに含む。このことは、走査型電子顕微鏡において好都合に実行することができるが、他の電子顕微鏡を使用することもできる。従って、その異なる位置は集合的に視野領域を形成するよう配置され、ここで本方法は各位置の組成データを表す画像データを形成するステップをさらに含む。得られた情報は、電子ビームを使用して得られる他の情報に加えて使用することができることに留意されたい。例えば、本方法は、各位置に対して、低損失電子ではない電子からの付加的な後方散乱電子データを取得し、当該後方散乱電子データを処理してさらに別の組成情報を取得するステップをさらに含むことができる。このさらに別の組成情報は、画像データと組み合わせて、例えば画像内で付加的特徴あるいは付加的組成情報を示す高解像度の画像データを生成することができる。
【0030】
必須ではないが、本方法は典型的には、当該画像をユーザに表示するさらに別のステップを含む。
【0031】
本発明は小さい対象の分析に役立つものであるが、本明細書においてかかる対象は実際に材料内の層を含み得ることを認識されたい。
【0032】
材料が複数の層を含み、入射電子ビームが当該層の表面とおよそ平行になるよう配置される場合において、本方法は
i)各層の組成データを定めるステップと、
ii)当該組成データを使用して各層に対する有効原子番号を計算するステップと、
iii)各層の少なくとも一つの電子ビーム位置からのX線放射を模擬X線データとしてシミュレートするステップと、
iv)各電子ビーム位置について低損失電子及びX線を検出するステップと、
v)検出されたX線データと模擬X線データを比較するステップと、
vi)検出されたLLEデータに基づいて有効原子番号を計算するステップと、
vii)ステップ(v)で計算された有効原子番号をステップ(ii)で計算された有効原子番号と比較するステップと、
viii)組成データを調整し、この調整された組成データを定められた組成データとして使用して、ステップ(i)乃至(vii)を各比較の結果の差が所定の閾値に達するまで反復するステップと、
をさらに含むことができる。
【0033】
この反復技術は複数層試料の組成を決定することを可能にする。通常比較ステップの結果の数値的尺度として性能指数が用いられ、この性能指数は通常、プロセスを最も可能性の高い解に集束させるように最大化もしくは最適化される。
【0034】
入射電子ビームを層に対してほぼ垂直に配置して、入射ビームが複数層のうちの最初の層に入射し、他の層はそれにもかかわらず第二の領域に入るようにすることも可能である。従って本方法は、第一の層の組成を取得するのに使用でき、次にこの組成が他の技術により得られる情報に加えて情報を与えることができ、これによりその構造を全体としてその組成及び層の厚さにより決定することが可能になる。
【0035】
理解されるように、組成情報は、通常、第一の領域内の材料内の元素の各々の識別情報と、それらの相対的量とを含む。
【0036】
LLEによる分析情報を使用して、浅い深度からの詳細情報を与え、異なる組成の材料の空間的広がりの境界を定めることができる。この付加的情報を用いて、X線検出器からの低空間解像度かつ高深度情報が材料組成の微細スケール変化の位置を突き止めるのに不十分である場合の分析上の問題を解決することができる。
【0037】
本発明の第二の態様により、本発明者は材料の定量分析を行うための装置を提供し、本装置は、
電子ビームを材料の試料上に衝突させるのに用いる電子ビーム発生器と、
電子ビームとの相互作用による、材料の第一の領域からの低損失電子を受け取り検出するように配置され、対応するLLE信号を生成する低損失電子(LLE)検出器と、
電子ビームとの相互作用による、材料の第一の領域と重なる第二の領域からのX線を受け取り検出するように配置され、対応するX線信号を生成するX線検出器と、
LLE信号を表すLLEデータを、X線信号を表すX線データとともに分析して第一の領域の組成を表す組成データを生成するように適合されたプロセッサと、
を備える。
【0038】
説明したように、本発明は電子顕微鏡内での使用に役立つものであり、従って該装置は電子顕微鏡、典型的には走査型電子顕微鏡(SEM)を備えることが好ましい。低損失電子のみを分析する点、及び、典型的には、受け取った複数の電子の結果として生成される総電流の計測ではなく個々の低損失電子をカウントする点で、標準的な散乱電子検出器とは異なる低損失電子検出器を使用することが好ましい。従って低損失電子検出器は使用中パルスモードで操作されることが好ましく、その場合各入射電子がエネルギー及び利得に依存する大きさのパルス出力を生成し、また、エネルギー及び利得と無関係に各入射電子に対して単一のカウントが記録されるようにパルスを検出するための適切な閾値が使用される。当該装置は第一の態様による本方法を実行するために使用することが好ましいことを理解されたい。
【0039】
さらに、当該装置自体が分析を実行するためのプロセッサを含むことは必須ではないことを理解されたい。通常このことは、当該の電子ビーム装置を動作させる、SEMコンピュータのようなコンピュータを使用することで達成できる。しかし、当然のことであるが、データ処理は遠隔で、例えばX線及びLLEデータを伝送できる任意のネットワーク上で実行することも可能である。
【0040】
従って、本発明は、SEMなどの装置における定量分析情報を、X線解析又は従来の後方散乱電子組成分析で達成されるよりもはるかに高い空間解像度で供給する方法を提供する。さらに、X線解析又は後方散乱電子組成分析で達成されるよりもはるかに浅い深度における材料の分析情報が得られる。
次に、本発明による方法及び装置を使用するいくつかの実施例を添付の図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】試料の上の電子ビーム入射の結果としての後方散乱電子及びX線の発生を示す。
【図2】LLE関数を原子番号に関連付ける較正曲線ある。
【図3】第一及び第二の相互作用領域の概略図である。
【図4a】第一領域からのX線が検出可能であるかどうかを計算する技術を示す。
【図4b】第一領域からのX線が検出可能であるかどうかを計算する技術を示す。
【図4c】第一領域からのX線が検出可能であるかどうかを計算する技術を示す。
【図5】本方法を使用した候補材料の選択を示す流れ図である。
【図6】複数層試料に関連する本方法の使用法を示す。
【図7】図6に関連する方法をより詳しく示す。
【図8】図6及び図7の方法に関連する流れ図である。
【図9】酸化シリコン層で覆われたシリコン基板に関連する方法の使用法を示す。
【図10】本方法を実行するための装置の例示的な配置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
次に、高空間解像度で材料の特定を行う本発明の様々な例示的用途を説明する。本発明は、X線及びLLE分析器を使用し、それぞれからのデータを処理して、従来技術を著しく上回る利益を実現するものである。
【実施例1】
【0043】
第一の実施例は、LLE及びX線データを組み合わせて、X線励起体積(第二の領域)よりも小さい対象の材料を特定する方法を説明する。図4a、図4b及び図4cは、LLE及びX線信号を生成する電子の軌跡を示す試料の断面を示す。電子エネルギー損失が小さいほど、LLE信号の情報体積(第一の領域)が小さくなる。例えば、100eV又はそれ以下のエネルギー損失に対して、情報体積は典型的には直径10nm程度のものである。表面に直径10nm以上の小さい対象が埋め込まれている場合、LLE信号はこの小さい対象を構成する材料を表すことになる。このことは図4aに示すが、集束電子ビームの直径は10nmより小さいことに留意されたい。しかし、X線は電子軌跡全体に沿って(第二の領域内で)放射されるため、X線スペクトルはこの小さい対象とその周辺のマトリックス材料との両方からの材料を表す。対象の元素組成が既知の場合には、第一の領域内の対象と同じ材料の真空中に保持された薄膜に対するX線収率を計算することにより、元素による放射ラインのそれぞれの強度の保守的推計値を計算することができる。これを図4bに示す。この仮想薄膜の厚さは第一の領域、すなわち、選択されたLLEが取得される領域(これは図4aと図4bを比較することにより分かる)の深さに設定される。浅い深度に対しては、材料の励起堆積は小さい対象の体積より大きくならない。
【0044】
推計値はこの仮想薄膜の模擬X線データとして計算する。推計値は保守的なものであるが、これは実際には対象の下に材料があり、下部からの散乱電子が励起に加わるためである。これを図4cに示す。
【0045】
さらに、対象がLLE情報体積より大きかった場合には、各元素のX線信号はより大いことになる。図4aの試料から得られる全X線スペクトルは、元素のライン放射に対応したピークを有し、統計的カウンティングの効果を示すことになる。小さな元素ピークを検出する能力は、ピークのサイズ並びに背景にある制動放射バックグラウンド及び近くの重なるピークのカウントレベルにより決定される。
【0046】
LLE信号は、精細に集束させた電子プローブに近接した材料を表し、X線発生の体積よりはるかに小さい情報体積を有する。LLE信号は、材料が小さい対象内に集中しても試料表面全体を覆っていても同じになる。基板上の小さい対象(図4a)の各元素のX線信号強度は同じ材料の独立した層(図4b)の信号強度より小さくはならない。候補材料の組成が既知のときは、図4bの配置に対して計算された元素ライン強度と、図4aの配置による観測された全スペクトルのカウンティング統計とを用いて、対象がこの材料からできていたとした場合、どの元素ライン信号がX線スペクトル内に確かに検出されることになるかを知ることができる。対象が図4aにおけるより大きかった場合、強度は図4bにおけるよりもさらに大きいことになる。
【0047】
X線分析に関連するシミュレーション、検出及び信号処理は十分に確立された技術であり、本明細書ではこれらを更には説明しない。
【0048】
現実の試料から計測されたスペクトル及び元素ライン強度の模擬スペクトル(過小評価)を用いて、小さい対象がその候補材料でできていたとした場合に検出されるべき元素がその候補材料中にいくつ存在するかを見出すことができる。
【0049】
これらの元素が検出されるべきであるのに検出されない場合は、その候補材料は検討から除外することができる。
【0050】
LLE情報とX線情報を組み合わせる手順を図5に関連してより詳細に説明する。図5はLLE信号により識別された候補材料を選別するのにX線信号をどのように使用するかを示す流れ図である。材料の有効原子番号Z及び組成を示す材料の総合的なデータベースは、実験により及び又は理論により準備することができる。このことは、図2に関連して前に説明した。小さな対象を高解像度で分析するためには、LLE信号を計測し有効原子番号Zに変換する。次に有効Zを用いて、計測の実験誤差内で同じ有効Zを与えるデータベース内の全ての候補材料を識別する。
【0051】
図5において、材料1から材料4がLLE計測により観測されたものに近い有効Zを与えるものとして識別された。これには、ステップ100で、既知の基準材料にビームをあててLLE信号S0を計測するステップが含まれる。次にこのビームを未知の試料にあててLLE信号Sを計測する(ステップ101)。次にデータベースを検索し、ある特定の許容差内で類似のS/S0を与える候補材料を探す(ステップ102)。
【0052】
LLE計測に対するのと同じ点で対象に衝突する入射電子ビームを用いてX線スペクトルをまた取得する(ステップ103)。次にステップ104において、当該スペクトルをソフトウェアで処理して元素ピークを検出し識別する(図5においては元素F、元素G、元素Hが識別される)。電子は必ず対象を越えて散乱するため、X線スペクトルは対象及び基板のような直近の他の材料からの寄与を含むことになる。類似の有効Zを与えるデータベース内の各候補材料に対して、元素ピークの検出可能性の保守的試験を行う(ステップ105)。ステップ105で、各候補材料について、濃度データ、ビーム電流及び入射エネルギーを用いて、LLE信号の情報深度に等しい厚さの材料の独立薄膜についての元素ピークのスペクトル強度を計算する。次に計測されたX線スペクトルのカウント数を用いて、どの元素ピークが統計的ノイズを超えて検出されるかを計算する。ピークが見出されるはずであるのにその証拠がX線スペクトル内に無い場合は、その材料はステップ106において対象の候補から除外される。
【0053】
図5では、元素B,元素C、元素D及び元素EがX線スペクトル内で検出されないために、材料1、材料2及び材料4が除外される。材料3は残った唯一の候補であり、元素E、元素F、元素Gを含んでいることから、X線スペクトル内で検出された元素HはLLE信号を生成した小さな領域の外部からのものである。X線分析による元素情報はこのように使用され、LLEにより決定された候補の短いリストを限定し、X線分析単独で可能であるよりはるかに高い空間解像度で材料組成を特定するに役立つ。従って寸法が1000nmよりはるかに小さい微小対象の分析を行うことができる。
【実施例2】
【0054】
第二の実施例は、ラスター走査を組み合わせた本発明の使用法を説明する。視野をカバーするラスター上を入射ビームで走査する場合、ラスター内の各点でLLE信号を計測して有効Z値に変換することができる。この有効Zをビーム位置の関数としてプロットすると、視野内における材料の、高解像度の材料コントラストを示す画像が与えられる。同じ視野を、各点でX線スペクトルを計測しながら走査する場合には、低い空間解像の分析情報が得られる。特許文献3は、低空間解像度X線分析情報を後方散乱電子信号のような補助信号と組み合わせて、補助信号の高空間解像度で元素含有率の分析情報を示す複合画像を与える方法を説明している。
本発明者は、同じ方法を用いて超高空間解像度LLE画像を低解像度X線スペクトル画像データと組み合わせることができることを理解した。従って、1000nmよりはるかに小さい空間解像度で組成の詳細を示す高空間解像度画像を得ることができる。上述の第一の実施例の文脈で説明した技術はこの第二の実施例を実施するのにも用いることができる。
【実施例3】
【0055】
第三の実施例は、積層構造体についての情報を得るための本発明の使用法を説明する。 この場合、試料は未知の組成及び厚さの多数の層からなる。垂直断面図はSEMの集束イオンビームエッチング(FIB)により作成することができきる。エッチングされる表面は入射電子ビーム(この場合10keVのビーム)に対して垂直に示す。図6はそのような試料の中の電子軌跡を例示する断面図を示す。図6には層の実際の組成及び厚さが示されており、それらはニッケル(100nm)、アルミニウム(200nm)及び金(50nm)であり、全てこの3層の両側のシリコンの厚い層で挟まれている。
【0056】
集束入射ビームがAu層内にあるとき、LLE信号は層の厚さより薄い小体積により生成されるので、Auのみを表す。しかし、10keVの入射電子は試料内に散乱し、近接するNi、Al及びSiからのX線を励起する。そのような試料を従来のラスター走査で画像化するか、あるいはLLE信号を使用してライン走査を行うと、層間の境界の位置は通常各層からの対比信号で見ることができる。二つの隣接する層が非常に良く似た有効Zを有する場合には、層間の境目は、通常やはりSEMを使用して二次電子(SE)画像で視認できる。従って層の厚さを決定できる。
【0057】
各層内で、高解像度LLE信号は有効Zを与えるが元素含有率は決定できない。しかしながら、各層への入射ビームにより取得されるX線スペクトルは、ビームの下の層だけでなく、横向きに散乱された電子により刺激される全ての層に存在する化学元素の情報を与える。しかし、二つの情報源を組み合わせて全ての層の組成に対する自己矛盾のない解を見出すことができる。このことについて、図7及び図8のフローチャートを参照しながらさらに説明する。
【0058】
図7において、LLE(またはSE)ライン走査信号は種々の層の境目を明らかにする。入射電子ビームが位置3にある場合、LLEを使用して層3の材料の有効Z(「計測Z」)を決定し、これを「ZMeas3」と表す。元素A、B、C、DのX線信号(iA3、iB3、iC3、iD3)を計測する。層3の現在の推定組成(cA3、cB3、cC3、cD3)を使用して層3の予想される有効Z(Zeff3)をシミュレートする。全層の現在の推定組成及び隣接するマトリックス材料m1及びm2(既知)の組成を使用してX線強度sA3、sB3、sC3、sD3をシミュレートする。これを位置2及び位置1の入射ビームを用いて繰り返す。
【0059】
次に図8を参照すると、層の境界を見出しこれらを用いて各層の中央に分析位置1、2、3...を設定する(図7参照)初期ステップがステップ200で実行される。ステップ201では、存在する元素のリストを使用して一組の濃度についての最初の「推測」が各々の層に対して行われる。この推測は、単にX線分析で決定される見かけの組成であり、近接する層からの寄与を含むことを受容したものである。
【0060】
各層の元素の一組の濃度を使用して、ステップ202で当該層上のビームにより取得されるLLE信号から予測される有効Zを計算する。次にステップ203で、各層の濃度、各層の厚さ及び入射電子ビームエネルギーを使用して、各元素の特性ライン放射に対して得られることになるX線信号を、典型的には各層の中央にある一連の分析位置1、2、3...における入射ビームによりシミュレートする。
【0061】
このシミュレーションは、例えばモンテカルロ軌跡モデル化法によって実行できることに留意されたい。
【0062】
ステップ204で、一連の分析位置におけるビームを使用してLLE信号を計測し、さらに各場合にX線スペクトルを記録する。LLE信号は、ステップ205で較正曲線(図2参照)を使用して有効原子番号Zに変換される。X線スペクトルもまた処理されて当該スペクトル内の各元素ラインの計測信号が取得られる(ステップ206)。ステップ202からステップ206までを各分析位置1、2、3...に対して繰り返す。
【0063】
次にステップ207で、理論的X線強度を各分点で観測されたX線スペクトルにおいて計測されたX線強度と比較し、さらに理論的有効Zを計測された有効Zと比較する。これを行うため、性能指数を計算し、理論的予測が観測されたX線強度とどれほど良く一致するかを表す。例えば、これは、全X線ライン信号及び全有効Z信号に対する理論値と計測値の間の相対的差の二乗の和とすることができる。
【0064】
ステップ207で得られた性能指数は、次に各層の元素濃度の新たな推定値の選択に使用される(ステップ208)。
【0065】
次にステップ202からステップ208までの手順を逐次近似サイクル内で繰り返して実行する。実際にはステップ204のデータ取得は繰り返す必要はなく、保存したデータを逐次近似ループ内で使用することができる。従って、種々の層の推測組成は、多層試料の構造及び組成に対する最良の自己矛盾のない解が得られるまで、性能指数を改善するように繰り返して調整される。
【0066】
通常、組成の反復調整には、X線分析情報の横展開を表す近似式を使用し、各元素の空間分布について標準的なデコンボルーション法を使用することにより、情報の不鮮明化を修正する助けとする。有効Zに関する高空間解像度LLE情報は、X線データのデコンボルーションを有効にする強い束縛条件を与える。このようにして、厚さが1000nmよりはるかに薄い層の定量的元素情報を取得できる。
【実施例4】
【0067】
非特許文献2には、X線を使用し、FIB分割を必要としない積層試料のSEM分析技術が説明されている。第四の実施例で、本発明者は、この技術を本発明の方法とどのように組み合わせて分析プロセスを改善できるかを説明する。
【0068】
通常、試料は入射電子ビームに対して垂直に置き、X線検出器を使用して試料の種々の層内に存在する元素からのライン放射の強度を計測する。各層内に存在する元素について予備知識があるときは、X線放射の理論モデル及び逐次近似解法を使用して各層の厚さ及び各層内に存在する元素の組成に関する自己矛盾の無い解を見出すことが、場合により可能となる。しかし、幾つかの場合には、単一のビームエネルギーを使用して取得したスペクトルを用いて解を得ることはできない。場合により複数の入射ビームエネルギーにおけるX線スペクトルからの付加的情報を得て解を得ることは可能であるが、ビームエネルギーの変化毎にビーム電流及び入射ビームの位置が変化する可能性があり、これが複数のビームエネルギー計測の実現を困難にする。従って、単一のビームエネルギーを使用して分析を行うことが非常に望ましい。
【0069】
多くの元素からのX線ラインを励起するためには、SEMのビームエネルギーは典型的には5keVを超えなければならない。しかし、最上層(電子ビームが衝突する層)の厚さが100nm未満のとき、X線は最上層とその下の層との両方から発生する。表面層に存在する元素については、X線ライン強度は当該元素の濃度及び層の厚さの両方の影響を受ける。濃度の増加はより高い強度を与えるが、これは厚さの増加によっても起こり得る。従って、この元素のライン強度の単一計測では、層の元素組成及び厚さの両方を分離することができない。
【0070】
層内の全ての元素が計測可能なX線ラインを放射する場合は、各元素の相対的濃度を見出し、全濃度の和が1になるはずであるという規格化条件を使用して、層の厚さに対する解を見出すことが可能である。しかし、一つの元素が計測可能なラインを有しないか又は一つの元素が表面層より下の試料中にも存在する場合には、表面層の組成及び厚さの両方を分離するのに規格化条件を適用することはできない。
【0071】
前述の説明からわかるように、LLE信号は浅い表面層に限定されるため、LLE計測によって決定される有効Zは通常表面層の組成を表すが、厚さとは無関係である。元素組成を有効Zに関連付ける等式は、表面層の組成に関する付加的な束縛条件を与え、これが場合により厚さの決定を可能にする。LLE計測とX線計測の組み合わせは、このように単一電子ビーム電圧を使用して薄い表面層の厚さ及び組成の両方を計測する可能性を提示する。
【0072】
図9は、シリコンマトリックス上の厚さ約20nmの酸化シリコン層の厚さ及び組成を計測するのに望ましいこの手法の一実施例を示す。5keVの入射電子ビームにより、X線が広い領域16から発生する。シリコンK強度は薄いSiOx層及びSi基板からの信号の組み合わせであり、純粋Si試料からの強度と類似しており、従ってSiの信号は当該層に関する非常に有益な情報は与えない。酸素K強度は、当該層の厚さにより直接影響され、また酸化物中の酸素の割合にも直接影響される。従って酸素K信号で厚さと組成の両方を決定することはできない。しかし、50eV損失のLLE信号は全体として酸素層内で発生するため、有効ZをLLEの較正曲線から決定する場合には、同じ有効Zを与える酸素の割合を決定することができる。LLE計測により決定された酸化物の組成を用いて、観測された酸素KのX線強度を与えるのに必要な酸化物の厚さをX線信号により決定することができる。
【0073】
図10は本発明を実施するのに適した装置の一般的な配置を示し、この場合走査型電子顕微鏡のチャンバを図示する。一般的に300で示した電子顕微鏡のチャンバは、試料20上に入射する電子ビーム1を有する。入射ビームは、通常1kVから30kVまでの高電圧を使用して加速された電子で構成される。このビーム1は、一般的に21で示す一組の電磁レンズにより集束され試料20に入射する。電子は全て基本的に同じエネルギーで試料に衝突する。試料は通常接地され、入射電子は試料20に貫入し散乱される。従って試料20は、X線とともに電子を放射し、これらがそれぞれ試料20の特性となり、それら特性を計測することにより、上述の実施例で説明したように試料の材料及び構造に関する詳細な情報が与えられる。
【0074】
通常、試料から放射される電子は、図10の矢印22で示すように広い立体角から放射される。電子分析器23は電子を放射する試料20の近傍に配置される。電子分析器23は遅延電場型分析器(RFA)であり、静電場を使って、分析器に集められた放射された電子のエネルギーフィルタリングを行う。通常、かかる電子分析器23は電子ビーム1の一方の側に配置される。当該分析器は通常、当該分析器の動作を制御して受け取った電子の特性である信号を取得するための検出電子回路をもたらす、処理及び制御システム24に接続される。図10に示す通り、当該試料から放射されるX線を検出するために、X線検出器25の形態の第二の検出装置がやはり試料20に隣接して配置される。この検出装置は電子ビーム1の別の側に配置され、同様に制御システム24(図示せず)と通信する。放射されたX線は一般的に図10の26で示す。制御システムはSEMコンピュータ(図示せず)により操作され、このコンピュータ上で都合よく(必須ではないが)本発明の実施における計算を実行することができる。
【0075】
従って、本発明は従来技術による方法及び装置を超える数多くの重要な利点を提供するものであり、その幾つかを以下に挙げる。
a)後方散乱電子ではなくLLEを使用することにより、当技術分野で現在知られているものよりも典型的には一桁高い空間解像度がもたらされる。
b)後方散乱電子ではなくLLEを使用することにより、対象を計測し対象のサイズ又は基板についての補正を行うことを必要としない、微小対象の組成の研究を可能にする。
c)総変換電流の計測(後方散乱電子を計測する標準的方法)ではなく、個々の電子をそれらのエネルギーと関係なくカウントする検出器の可能な使用法により、オフセット及び利得変動の問題を回避し、理論的収率を、検出器のエネルギー変換機能の知識を用いずに予測することを可能にする。
d)LLEデータは小さな情報体積の詳細でない定量的分析情報を提示する。X線データは大きい情報体積の詳細な定量的元素情報を提示する。これら二つを組み合わせることにより、小さな情報体積からの定量的元素情報を与えることができ、従ってより小さい対象を分析することができる。このことは、例えば、重大な欠陥の寸法が100nmよりかなり小さい半導体欠陥の検査のため、並びに、膜厚及び対象の寸法が100nmよりかなり小さいナノテクノロジー用途のために、極めて重要である。
【符号の説明】
【0076】
1:入射集束電子ビーム
2:後方散乱電子(BE)
3:X線
10:粒子
11:基板
15:第一の領域
16:第二の領域
20:試料
21:電磁レンズ
22:矢印
23:電子分析器
24:制御システム
25:X線検出器
26:放射X線
300:電子顕微鏡チャンバ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料に電子ビームを衝突させる材料の定量分析の方法であって、
前記電子ビームとの相互作用による、前記材料の第一の領域から受け取った低損失電子(LLE)を検出して対応するLLEデータを生成し、
前記電子ビームとの相互作用による、前記材料の前記第一の領域と重なる第二の領域から受け取ったX線を検出して対応するX線データを生成し、
前記LLEデータと前記X線データを、前記第一の領域の組成を表す組成データを生成するように一緒に分析する、
ステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第一の領域は前記第二の領域内に含まれ、前記第二の領域より体積が実質的に小さいことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記低損失電子のエネルギーは、前記電子ビーム内の電子のエネルギーの少なくとも80%であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記分析するステップは、前記LLEデータを処理して前記第一の領域内の元素を表す有効原子番号を得るステップを含むことを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記有効原子番号は、参照表を使用して或いは理論的計算から取得されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記LLEデータに基づいて前記第一の領域の多くの可能な候補材料から候補材料を選択するステップをさらに含むことを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記候補材料について、前記第一の領域のみから受け取ったものとして模擬X線データを計算するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記模擬X線データは、前記第一の領域と実質的に同じ厚さを有する、前記第一の領域の材料の膜のみが存在すると仮定して計算されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記模擬X線データ及び前記X線データは、前記第一の領域からの前記X線データに対するどの元素の寄与が、前記X線データ内で検出可能であるかを判定するように比較されることを特徴とする、請求項7または請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記方法を多くの異なる選択された候補材料に対して繰り返し、対応する組成データを有する候補材料の組を形成するステップをさらに含み、
ある特定の候補材料に関して、一つ又はそれ以上の元素の寄与が検出されるはずであるが、X線データ内に存在しない場合には、前記特定の候補材料は前記組には含められない、
ことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記X線データを分析して前記第二の領域内に存在する元素を識別し、前記LLEデータに基づいて前記第一の領域に対する、各々複数の元素からなる複数の候補材料を選択し、前記X線データと前記候補材料とから識別された共通の元素を比較し、前記比較により候補材料をランク付けするステップをさらに含むことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記低損失電子を前記検出するステップは、パルスカウンティング法を用いて実行されることを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記方法は走査型電子顕微鏡内で実行されることを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記電子ビームと前記材料の間の相対的移動を引き起こして多くの異なる位置からのLLEデータ及びX線データを取得し、それぞれの前記位置において前記方法を実行するステップをさらに含むことを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記異なる位置は視野を集合的に形成するよう配置され、前記方法は各位置の組成データを表す画像データを形成するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
各位置に対して、低損失電子ではない電子から付加的な後方散乱電子データを取得し、前記後方散乱電子データを処理して更に別の組成情報を取得し、前記更に別の組成情報を前記画像データと組み合せて高解像度の画像データを生成するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記材料は複数の層を含み、前記入射電子ビームは前記層の表面に対して近似的に平行に配置されることを特徴とする、請求項14から請求項16までのいずれかに記載の方法。
【請求項18】
i)各層の組成データを定め、
ii)前記組成データを用いて各層の有効原子番号を計算し、
iii)前記X線放射を、各層の少なくとも一つの電子ビーム位置からの模擬X線データとしてシミュレートし、
iv)各電子ビーム位置に対する前記低損失電子及びX線を検出し、
v)前記検出されたX線データと前記模擬X線データを比較し、
vi)前記検出されたLLEデータに基づいて有効原子番号を計算し、
vii)ステップ(v)における前記計算された有効原子番号をステップ(ii)における前記計算された有効原子番号と比較し、
viii)前記組成データを調整し、該調整された組成データを前記定められた組成データとして使用して、各比較の結果の差が所定の閾値に達するまでステップ(i)からステップ(vii)までを繰り返す、
ステップをさらに含むことを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記比較の結果の数値的尺度として性能指数が定義されることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記材料は複数の層を含み、前記入射電子ビームは前記複数の層の第一の層に入射するように、前記層に対して近似的に垂直に配置されることを特徴とする、請求項14から請求項16までのいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記方法は前記第一の層の組成を取得するのに使用されることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記組成データは、前記第一の領域の前記元素組成データと前記第一の領域内の前記元素の相対量とを含むことを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記第一の領域は、少なくとも一つの1000nm未満の寸法を有することを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
材料の定量分析を実施するための装置であって、
電子ビームを前記材料の試料の上に衝突させるのに用いる電子ビーム発生器と、
前記電子ビームとの相互作用による、前記材料の第一の領域からの低損失電子(LLE)を受け取って検出するように配置され、対応するLLE信号を生成する低損失電子検出器と、
前記電子ビームとの相互作用による、前記材料の前記第一の領域と重なる第二の領域からのX線を受け取って検出するように配置され、対応するX線信号を生成するX線検出器と、
前記LLE信号を表すLLEデータを、前記X線信号を表すX線データと一緒に分析して、前記第一の領域の組成を表す組成データを生成するように、適合されたプロセッサと、
を備えることを特徴とする装置。
【請求項25】
前記装置は電子顕微鏡を含むことを特徴とする、請求項24に記載の装置。
【請求項26】
前記低損失電子検出器は使用中パルスモードで操作されることを特徴とする、請求項24又は請求項25に記載の装置。
【請求項1】
材料に電子ビームを衝突させる材料の定量分析の方法であって、
前記電子ビームとの相互作用による、前記材料の第一の領域から受け取った低損失電子(LLE)を検出して対応するLLEデータを生成し、
前記電子ビームとの相互作用による、前記材料の前記第一の領域と重なる第二の領域から受け取ったX線を検出して対応するX線データを生成し、
前記LLEデータと前記X線データを、前記第一の領域の組成を表す組成データを生成するように一緒に分析する、
ステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第一の領域は前記第二の領域内に含まれ、前記第二の領域より体積が実質的に小さいことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記低損失電子のエネルギーは、前記電子ビーム内の電子のエネルギーの少なくとも80%であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記分析するステップは、前記LLEデータを処理して前記第一の領域内の元素を表す有効原子番号を得るステップを含むことを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記有効原子番号は、参照表を使用して或いは理論的計算から取得されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記LLEデータに基づいて前記第一の領域の多くの可能な候補材料から候補材料を選択するステップをさらに含むことを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記候補材料について、前記第一の領域のみから受け取ったものとして模擬X線データを計算するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記模擬X線データは、前記第一の領域と実質的に同じ厚さを有する、前記第一の領域の材料の膜のみが存在すると仮定して計算されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記模擬X線データ及び前記X線データは、前記第一の領域からの前記X線データに対するどの元素の寄与が、前記X線データ内で検出可能であるかを判定するように比較されることを特徴とする、請求項7または請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記方法を多くの異なる選択された候補材料に対して繰り返し、対応する組成データを有する候補材料の組を形成するステップをさらに含み、
ある特定の候補材料に関して、一つ又はそれ以上の元素の寄与が検出されるはずであるが、X線データ内に存在しない場合には、前記特定の候補材料は前記組には含められない、
ことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記X線データを分析して前記第二の領域内に存在する元素を識別し、前記LLEデータに基づいて前記第一の領域に対する、各々複数の元素からなる複数の候補材料を選択し、前記X線データと前記候補材料とから識別された共通の元素を比較し、前記比較により候補材料をランク付けするステップをさらに含むことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記低損失電子を前記検出するステップは、パルスカウンティング法を用いて実行されることを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記方法は走査型電子顕微鏡内で実行されることを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記電子ビームと前記材料の間の相対的移動を引き起こして多くの異なる位置からのLLEデータ及びX線データを取得し、それぞれの前記位置において前記方法を実行するステップをさらに含むことを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記異なる位置は視野を集合的に形成するよう配置され、前記方法は各位置の組成データを表す画像データを形成するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
各位置に対して、低損失電子ではない電子から付加的な後方散乱電子データを取得し、前記後方散乱電子データを処理して更に別の組成情報を取得し、前記更に別の組成情報を前記画像データと組み合せて高解像度の画像データを生成するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記材料は複数の層を含み、前記入射電子ビームは前記層の表面に対して近似的に平行に配置されることを特徴とする、請求項14から請求項16までのいずれかに記載の方法。
【請求項18】
i)各層の組成データを定め、
ii)前記組成データを用いて各層の有効原子番号を計算し、
iii)前記X線放射を、各層の少なくとも一つの電子ビーム位置からの模擬X線データとしてシミュレートし、
iv)各電子ビーム位置に対する前記低損失電子及びX線を検出し、
v)前記検出されたX線データと前記模擬X線データを比較し、
vi)前記検出されたLLEデータに基づいて有効原子番号を計算し、
vii)ステップ(v)における前記計算された有効原子番号をステップ(ii)における前記計算された有効原子番号と比較し、
viii)前記組成データを調整し、該調整された組成データを前記定められた組成データとして使用して、各比較の結果の差が所定の閾値に達するまでステップ(i)からステップ(vii)までを繰り返す、
ステップをさらに含むことを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記比較の結果の数値的尺度として性能指数が定義されることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記材料は複数の層を含み、前記入射電子ビームは前記複数の層の第一の層に入射するように、前記層に対して近似的に垂直に配置されることを特徴とする、請求項14から請求項16までのいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記方法は前記第一の層の組成を取得するのに使用されることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記組成データは、前記第一の領域の前記元素組成データと前記第一の領域内の前記元素の相対量とを含むことを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記第一の領域は、少なくとも一つの1000nm未満の寸法を有することを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
材料の定量分析を実施するための装置であって、
電子ビームを前記材料の試料の上に衝突させるのに用いる電子ビーム発生器と、
前記電子ビームとの相互作用による、前記材料の第一の領域からの低損失電子(LLE)を受け取って検出するように配置され、対応するLLE信号を生成する低損失電子検出器と、
前記電子ビームとの相互作用による、前記材料の前記第一の領域と重なる第二の領域からのX線を受け取って検出するように配置され、対応するX線信号を生成するX線検出器と、
前記LLE信号を表すLLEデータを、前記X線信号を表すX線データと一緒に分析して、前記第一の領域の組成を表す組成データを生成するように、適合されたプロセッサと、
を備えることを特徴とする装置。
【請求項25】
前記装置は電子顕微鏡を含むことを特徴とする、請求項24に記載の装置。
【請求項26】
前記低損失電子検出器は使用中パルスモードで操作されることを特徴とする、請求項24又は請求項25に記載の装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図4c】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図4c】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公表番号】特表2010−530533(P2010−530533A)
【公表日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512769(P2010−512769)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【国際出願番号】PCT/GB2008/002124
【国際公開番号】WO2008/155560
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(508340042)オックスフォード インストルメンツ アナリティカル リミテッド (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【国際出願番号】PCT/GB2008/002124
【国際公開番号】WO2008/155560
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(508340042)オックスフォード インストルメンツ アナリティカル リミテッド (2)
【Fターム(参考)】
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