説明

材料の高密度酸化法及びデバイス

【課題】従来困難とされてきた高品質の酸化物を低温域の条件下で位置選択的乃至は空間選択的に形成できる手法を確立する。
【解決手段】波長190nm以下の光3を、マスク2を被覆した被酸化固体材料1に対して照射する。そして、被酸化固体材料1の露光した部分に、高品質の酸化物4に改質する。また、光3を集光レンズ5を介して被酸化固体材料1に集光照射することで、被酸化固体材料1に対して酸化物4を位置選択的に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料の酸化法及びデバイス作製法に係り、特に固体材料、液体材料、溶液材料乃至は液体中に分散させた材料などの被酸化材料に、波長190nm以下の光を照射することにより、従来困難とされてきた高品質の酸化物を低温域の条件下で形成することが可能な材料の高密度酸化法及びデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々のエレクトロニクス、オプトエレクトロニクス、フォトニクスなどの分野において、高品質の酸化物は必要不可欠である。現在、高品質の酸化物を作製する場合は、被酸化物を雰囲気を高温状態として高温条件下において形成することが多い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述したように酸化物を作製するためには、高温条件下で形成するため、酸化物を用いるデバイスの大きさや重さ、性能や形成位置などを制限していた。従って、従来のよりも低温域で高品質の酸化物を形成する手法の確立が望まれていた。
【0004】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、高品質の酸化物を従来よりも低温域の条件下で位置選択的乃至は空間選択的に形成できる材料の高密度酸化法及び、それを利用したデバイスを提供することを目的とする。
【0005】
本発明のその他の目的や新規の特徴は後述の実施の形態において明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1記載の材料の高密度酸化法は、波長190nm以下の光を被酸化固体材料に照射し、該光を照射した部分に酸化物を形成することを特徴としている。
【0007】
請求項2記載の材料の高密度酸化法は、波長190nm以下の光を被酸化液体材料に照射し、該光を照射した部分に酸化物を形成することを特徴としている。
【0008】
請求項3記載のデバイスは、請求項1記載の高密度酸化法により形成された酸化物を用いたことを特徴としている。
【0009】
請求項4記載のデバイスは、請求項2記載の高密度酸化法により形成された酸化物を用いたことを特徴としている。
【0010】
請求項5記載のデバイスは、請求項1記載の高密度酸化法において、位置選択的に酸化物が形成されたことを特徴としている。
【0011】
請求項6記載のデバイスは、請求項2記載の高密度酸化法において、位置選択的乃至は空間選択的に酸化物が形成されたことを特徴としている。
【0012】
請求項7記載の材料の高密度酸化法は、被酸化固体材料からなる薄膜乃至は被酸化液体材料からなる薄液膜に、波長190nm以下の光を照射し、酸化物薄膜を形成することを特徴としている。
【0013】
請求項8記載のデバイスは、請求項7記載の高密度酸化法と、既存の化学エッチングとを組み合わせることにより、前記酸化物薄膜を位置選択的に形成することを特徴としている。
【0014】
請求項9記載のデバイスは、請求項7記載の高密度酸化法と、既存の薄膜乃至は薄膜形成法とを組み合わせることにより、前記酸化物薄膜を積層させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高品質の酸化物を従来よりも低温域の条件下で位置選択的乃至は空間選択的に形成することにより、酸化物を基礎とした高機能デバイスの作製法を確立でき、エレクトロニクス、オプトエレクトロニクス及びフォトニクス分野でのデバイス作製の基盤技術として利用可能であるなど多機能マイクロ/ ナノデバイス作製のための必要不可欠な技術となる。また本発明は、これら分野にとどまらず、今後マイクロ・ナノマシーニング技術を利用して発展するデバイス作製の分野に多大に利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る材料の高密度酸化法及びデバイスを実施するための最良の形態について、添付する図面を参照しながら詳細に説明する。図1(a)〜(c)は本発明に係る第1形態の材料の高密度酸化法を説明するための概略説明図であり、図2(a)〜(c)は本発明に係る第2形態の材料の高密度酸化法を説明するための概略説明図であり、図3(a)、(b)は本発明に係る材料の高密度酸化法の他の実施例を説明するための概略説明図であり、図4は本発明に係る材料の高密度酸化法によって形成された酸化アルミニウム薄膜の実験結果を示す写真である。
【0017】
まず、図1を参照しながら、本発明に係る第1形態の材料の高密度酸化法について説明する。第1形態の材料の高密度酸化法は、波長190nm以下の光を、例えばアルミニウム、チタン、鉄、スズ、亜鉛からなる金属薄膜、セラミクス、半導体、生体材料、高分子材料などで構成される被酸化固体材料1に照射する場合の実験概略構成であり、図1(a)に示すように、所望のマスク2を被覆した被酸化固体材料1の表面に波長190nm以下の光3を照射する。そして、光3が露光された部分のみが高品質の酸化物4に改質される。
【0018】
また、190nm以下の光3を出射するレーザ出力装置(不図示)の出力が使用環境や機器劣化などの要因により出力が通常よりも弱い場合は、図1(b)に示すように光3を集光する集光レンズ5で所定出力になるまで集光しながら出力調整を行った状態でマスク2を被覆した被酸化固体材料1の表面に光3を照射する。そして、光3が露光された部分のみが高品質の酸化物4に改質される。
【0019】
さらに、マスク2を被覆せずに被酸化固体材料1の所望の箇所に酸化物4を形成する場合は、図1(c)に示すように、被酸化固体材料1の表面に光3が集光レンズ5を介して集光照射する。そして、光3が集光照射された部分のみが高品質の酸化物4に改質される。
【0020】
次に、図2を参照しながら、本発明に係る第2形態の材料の高密度酸化法について説明する。第2形態の材料の高密度酸化法は、波長190nm以下の光を、例えば被酸化物を含有する液体材料、被酸化物が溶解した溶液材料乃至は液体中に被酸化物を分散させたコロイド状材料などの被酸化液体材料6に照射する場合の実験概略構成であり、図2(a)に示すように容器7に入れた被酸化液体材料6に波長190nm以下の光3を照射する。そして、光3が照射された部分の被酸化物のみが高品質の酸化物4に改質される。
【0021】
また、190nm以下の光3を出射するレーザ出力装置(不図示)の出力が使用環境や機器劣化などの要因により出力が通常よりも弱い場合は、図2(b)に示すように光3を集光する集光レンズ5で所定出力になるまで集光しながら出力調整を行った状態で、被酸化液体材料6に光3を照射する。そして、光3が照射された部分の被酸化物のみが高品質の酸化物4に改質される。
【0022】
さらに、被酸化液体材料6の所望の箇所(例えば被酸化液体材料6の表面)に酸化物4を形成する場合は、図2(c)に示すように、被酸化液体材料6の表面に光3が集光レンズ5を介して集光照射する。そして、光3が集光照射された部分のみが高品質の酸化物4に改質される。
【0023】
なお、上記第2形態における図2(c)の構成の場合、被酸化液体材料6若しくはレーザ出力装置を精密に三次元的に微動可能な構成とすることで、結果的にレーザ3が精密に三次元的に走査されるため、酸化物4を位置選択的乃至は空間選択的に形成することが可能となる。
【0024】
このように、上述した第1形態の材料の高密度酸化法では、波長190nm以下の光3を被酸化固体材料1に照射することにより、被酸化固体材料1の表面を位置選択的に高品質の酸化物に改質することができる。従って、従来のような高温条件下で酸化させる必要がなく、酸化物4を容易に形成することができる。
【0025】
また、第2形態の材料の高密度酸化法では、波長190nm以下の光3を被酸化液体材料6に照射することにより、被酸化液体材料1の表面乃至は内部に高品質の酸化物に改質することができる。従って、第1形態の酸化法と同様に、従来のような高温条件下で酸化させる必要がなく、酸化物4を位置選択的乃至は空間選択的に容易に形成することができる。
【0026】
ところで、上述した第1形態の材料の高密度酸化法では、被酸化固体材料1の表面側(図中上方向)から光3を照射した構成で説明したが、これに限定されることはなく、例えば図3(a)に示すように190nm以下の光3を透過可能な透過性基体8に被酸化固体材料1を形成し、裏面側(図中下方向)から光3を照射する構成でもよい。
【0027】
また、図3(b)に示すように、既存の薄膜乃至は薄膜形成法により基体9上に被酸化固体材料1を薄膜状に形成し、この被酸化固体材料1全体に波長190nm以下の光3を照射させて全て酸化物4に改質する。そして、再度既存の薄膜乃至は薄膜形成法を用いて形成した酸化物4の表面に被酸化固体材料1を薄膜状に形成して光3を照射して酸化物4に改質し、酸化物4を積層させていくことで、所望の厚さの酸化物4を容易に形成することができる。
【0028】
以下、上述した材料の高密度酸化法について、実施例に基づき説明する。なお、下記の各実施例は、本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に徴して設計変更することは何れも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0029】
〔実施例〕
上述した第1形態における材料の高密度酸化法の実験概略構成において、光3として波長157nmのF2 レーザを用いた。レーザ照射部分でのエネルギー密度は、約50mJ/cm2 /pulse一定とした。また、パルス繰り返し周波数は10Hz一定とした。被酸化固体材料1はシリカガラス基板上に真空蒸着によって形成されたアルミニウム薄膜(膜厚約10nm)を用い、実験は大気中で行った。
【0030】
上記条件において、光3であるF2 レーザが照射された領域は、透明性を有する酸化アルミニウム(Al2 3 )層に改質された。そして、この改質された層の化学組成及び結合状態は、X線光電子分光により分析した結果、形成された酸化物4である酸化アルミニウム層が、酸或いはアルカリに対して耐性があることがわかった。
【0031】
従って、アルミニウム薄膜を位置選択的に改質した後、酸或いはアルカリで化学エッチングすることにより、図4に示すように基板上の任意の位置に透明性酸化アルミニウム膜を選択的に形成することができた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の材料の高密度酸化法によって作製されるデバイスは、被酸化固体材料1若しくは被酸化液体材料6に、波長190nm以下の光を照射することにより、従来困難とされてきた高品質の酸化物を従来よりも低温域の条件下において位置選択的乃至は空間選択的に形成することが可能となる。この結果、エレクトロニクス、オプトエレクトロニクス或いはフォトニクス分野でのデバイス作製に適用可能になるなど、その用途は 電気、電子のみならずあらゆる分野で有用である。
【0033】
以上、本願発明における最良の形態について説明したが、この形態による記述及び図面により本発明が限定されることはない。すなわち、この形態に基づいて当業者等によりなされる他の形態、実施例及び運用技術等はすべて本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】(a)〜(c) 本発明に係る第1形態の材料の高密度酸化法を説明するための概略説明図である。
【図2】(a)〜(c) 本発明に係る第2形態の材料の高密度酸化法を説明するための概略説明図である。
【図3】(a)、(b) 本発明に係る材料の高密度酸化法の他の実施例を説明するための概略説明図である。
【図4】本発明に係る材料の高密度酸化法によって形成された酸化アルミニウム薄膜の実験結果を示す写真である。
【符号の説明】
【0035】
1 被酸化固体材料
2 マスク
3 光
4 酸化物
5 集光レンズ
6 被酸化液体材料
7 容器
8 透過性基体
9 基体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長190nm以下の光を被酸化固体材料に照射し、該光を照射した部分に酸化物を形成することを特徴とする材料の高密度酸化法。
【請求項2】
波長190nm以下の光を被酸化液体材料に照射し、該光を照射した部分に酸化物を形成することを特徴とする材料の高密度酸化法。
【請求項3】
請求項1記載の高密度酸化法により形成された酸化物を用いたことを特徴とするデバイス。
【請求項4】
請求項2記載の高密度酸化法により形成された酸化物を用いたことを特徴とするデバイス。
【請求項5】
請求項1記載の高密度酸化法において、位置選択的に酸化物が形成されたことを特徴とするデバイス。
【請求項6】
請求項2記載の高密度酸化法において、位置選択的乃至は空間選択的に酸化物が形成されたことを特徴とするデバイス。
【請求項7】
被酸化固体材料からなる薄膜乃至は被酸化液体材料からなる薄液膜に、波長190nm以下の光を照射し、酸化物薄膜を形成することを特徴とする材料の高密度酸化法。
【請求項8】
請求項7記載の高密度酸化法と、既存の化学エッチングとを組み合わせることにより、前記酸化物薄膜を位置選択的に形成することを特徴とするデバイス。
【請求項9】
請求項7記載の高密度酸化法と、既存の薄膜乃至は薄液形成法とを組み合わせることにより、酸化物薄膜を積層させることを特徴とするデバイス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−72694(P2009−72694A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−243997(P2007−243997)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(390014306)防衛省技術研究本部長 (169)
【Fターム(参考)】