説明

杭の継手装置

【課題】少ない部品で構成し、しかも外れる虞がなく強固な接続が可能な杭の継手装置を得る。
【解決手段】上杭1aの下端部に取り付けた端板12aと、下杭1bの上端部に取り付けた端板12bとを当接させた状態で端板12a、12b同士を固定保持することで上杭1aと下杭1bを接続するための継手装置であって、前記端板12a、12bは、それぞれ上杭1a、下杭1bの下端から円環状に外方に延在するテーパ面12a(1)、12b(1)を有し、このテーパ面12a(1)、12b(1)の上下面を、その周縁部に外嵌する継手リング14の内周面から端板の前記周縁部分に向かって移動自在に取り付けられた割リング16a、16bでその上下面から係止保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートパイルなどの既製杭を長手方向に接続する継手装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既製杭の接続は、従来から溶接による接続が広く行われてきたが、溶接作業は、工事現場で行うため品質管理上の問題や天候や施工のし難さ等の問題がある。
そこで、溶接によらない杭の接続構造として、予め製造しておいた部材を用いて上下のコンクリートパイルを機械的に接続する継手装置が用いられてきている。
具体的には、例えば、図5に示すように、上側の杭101aの下端に端板102aを取り付け、その端板102aと下側の杭101bの上端に取り付けた端板102bとを、円周方向に複数分割された円筒状の内リング109で外嵌し、内リング109は円周を複数分割してあり、内リング109を円筒状の外リング111で締め付けて内面に上記円錐台状の座105a、105bに当接して両端板を引き寄せて杭101a,101bを圧着させ、上下の杭を接続する継手装置が知られている(特許文献1参照)。
この継手装置では、内リング109の外面は杭の長手方向にテーパが付されており、外リング111はこのテーパに対応するテーパを有し、施工時には、予め下側の杭101bに取り付けておいた外リング111を、矢印112で示す杭の長手方向に移動することによって、テーパにより内リング109を端板102a、102bに圧着し、上側及び下側の杭101a、101bを接続するようになっている。なお、内リング109の外面と外リング111の内面には、鋸歯状の断面を有し互いに噛み合う円周突条を形成してあり、それによって、係合した内リング109と外リング111が緩まないようにしている。
【0003】
また、他の継手装置としては、特許文献2に記載された杭の継手装置が知られている。この継手装置は、図6に示すように、接続対象となるコンクリート本体201の端部に端板202と、端板202の内面側の所定位置に突設された円筒側板203からなる継手部材Bを固着して杭Aを構成し、継手部材Bには端板202の外周面にテーパ部202aを形成すると共に外面にガイドピン204を嵌合するピン穴204を形成し、更に円筒側板203に所定のピッチで複数のネジ穴206を形成し、円筒側板203の内周面側であってネジ穴206に対応する位置には、継手部材Bに充填されるモルタルがネジ穴206に浸入することを防止するため該ネジ穴206を閉塞するための閉塞部材となる盲プレート207が溶接されている。
端板202の外周のテーパ部を、円弧状で複数に分割した接続片209の内面のテーパ部207aに係合させて配置し、接続片209のボルト穴210にワッシャー212を装着すると共に、六角ボルト211を挿通して継手部材Bのネジ穴206に螺合し、それによって、上下のコンクリート杭を接続するようになっている。
【0004】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載された継手装置は、いずれも構造が複雑あるいは部品点数が多いため、製造に手間が掛かり製造コストが嵩むという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第2551790号公報
【特許文献2】特開平10−298978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであって、構成部品を少なく、したがって安価で、しかも上下杭を強固に接続が可能な杭の継手装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、上杭の下端部及び下杭の上端部に、それぞれの端部の外周に沿って環状に突出するように取り付けた上下の端板を備え、上下の端板を当接させた状態で端板同士を固定保持することで上杭と下杭を接続する継手装置であって、前記端板部分に外嵌する継手リングの内周面内に収納され、かつ前記端板部分に向かって駆動されて前記当接した端板の前記環状部分の上下面を拘束する端板固定保持手段を有することを特徴とする杭の継手装置である。
(2)本発明は、上記(1)の杭の継手装置において、前記端板は、それぞれが取り付けられる上下の杭の端部よりも大径に形成されており、その周縁部に前記端板固定保持手段と係合する係合面が形成されていることを特徴とする杭の継手装置である。
(3)本発明は、上記(1)又は(2)の杭の継手装置において、前記端板固定保持手段は、前記継手リング内周に沿って形成された上下2条の溝に収容された複数の割リングから成ることを特徴とする杭の継手装置である。
(4)本発明は、上記(1)ないし(3)のいずれかの杭の継手装置において、前記上下の端板及び上下の割リングのそれぞれの摺接面は、同じ角度のテーパ面として形成されていることを特徴とする杭の継手装置である。
(5)本発明は、上記(1)ないし(4)のいずれかの杭の継手装置において、前記継手リングを前記下杭又は上下の杭に固定するための取付手段を備えたことを特徴とする杭の継手装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の杭の継手装置によれば、簡易な構成でしかも熟練を要することなく、また、現場での天候に左右されることもなく、上杭と下杭を常に確実かつ強固に接続できると共に、一旦接続した杭同士は緩む虞はない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係る杭の継手装置の断面図である。
【図2】割リングの平面図である。
【図3】継手リングを取り付けた下杭に上杭を取り付ける前の状態を示す斜視図である。
【図4】接続後における継手装置の斜視図である。
【図5】従来の継手装置の要部断面図である。
【図6】従来の別の継手装置の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態に係る杭の継手装置を添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る杭の継手装置の断面図である。
上杭1aは、例えば、被覆金属円筒10aと、この被覆金属円筒10aの下端に接続された円盤状の鉄製の端板12aとからなり、被覆金属円筒10aの下端部は縮径され円周補強溝が形成されている。
【0011】
端板12aは、金属、例えば鉄製で上杭1aの被覆金属円筒10aの縮径した下端に溶着され、上杭1aの縮径された下端部からその外周に沿って円環状に突出している。
端板12aの円環状に突出した外周部分は図示のように半径方向外方に向かって斜め下方に傾斜した傾斜面(円錐台形状)12(1)aとなっている。
【0012】
下杭1bは、図1に示すように、上杭1aを丁度上下逆にした構成となっている。即ち、下杭1bの縮径された上端部には下側の端板12bが取り付けられている。つまり、各杭の両端部に端板を例えば溶接により取り付けておくことにより杭を接続継手により連続して接続することができる。
【0013】
継手装置を構成する継手リング14は円筒状をなし(図3参照)、その内周面には上下2条の、断面が例えば略矩形の溝14a、14bが円周に沿って形成されている。この円周溝14a、14bには、前記環状部分の上下面を拘束する端板固定保持手段である、例えば、図2に示すようにそれぞれ4個の割リング16a、16bが嵌合されている。割リング16a、16bは、図1に示すように、前記溝14a、14bに対応して断面略矩形であり、その内面側即ち、図1の左側の上下面は面取り加工が施され、テーパ面16a(1)、16a(2)、16b(1)、16b(2)となっている。図1中、割リング16aの先端下側のテーパ面16a(2)は、端板12aの上側のテーパ面12a(1)と同じ傾斜角のテーパ面に形成されており、同様に、割リング16bの先端上側のテーパ面16b(2)も、端板12bの下側のテーパ面12b(1)と同じ傾斜角のテーパ面に形成されている。これにより、後述するように、割リング16a、16bをそれぞれ被覆金属円筒10a、10bの縮径された周面に向かって推進させるとき、割リング16a、16bがそれぞれ端板12a、12bの上下面に沿って円滑に移動できるようになっている。
なお、上記溝14a、14bの断面形状、及び割リング16a、16bの断面形状は矩形に限らず、要は割リング16a、16bが上記溝14a、14bから突出して上下の端板12a、12bを拘束できれば任意の形状でよい。また、16a(1)、16b(1)は必ずしもテーパ面である必要はないが、テーパ面にしてあった方が人や他の部材に当たったときに損傷を与えることが抑制され安全である。
【0014】
図1から明らかなように、継手リング14には、継手リング14の外周面から上記溝14a、14bまで延びたネジ溝15a、15bが、本実施形態ではそれぞれ12個(1リング当たり3個)継手リング14の半径方向に形成されており、そのネジ溝15a、15bには、それぞれ推進ボルト18a、18bが螺合されている。推進ボルト18a、18bの先端は、上記割リング16a、16bの裏面(又は外周面)に当接し、推進ボルト18a、18bを継手リング14の外周側から工具等により回転駆動することにより、割リング16a、16bは、溝14a,14b内の収納位置から、その先端が溝14a、14bから突出して端板12a、12bの上記テーパ面12a(1)、12b(1)に沿って継手リング14内方の突出又は拘束位置まで駆動される。
【0015】
図中、番号20は、継手リング14を下杭1bの端板12bのネジ孔に取り付けた取付ボルトを示す。継手リング14は、取付ボルト20を端板12bのネジ孔に螺合することにより下杭1bに位置固定される。
ピン22は、下杭1bの端板12bに設けたピン孔24bに挿入され、後述するように下杭1bに対して上杭1aを取り付ける際に、上杭1aの端板12aの下面に設けたピン孔24aに挿入することにより、上杭1aと下杭1bの位置決めを行うためのものである。
【0016】
図2は、本実施形態に係る割リングの平面図である。
割リング16aは、鉄等の金属製或いは必要な剛性や強度があれば他の材料でもよく、図示のように半円状のセグメントから成る四つ割りリングとして構成しても、或いはそれよりも多くのセグメントから成る構成としてもよい。また、セグメント同士をヒンジで回動自在に接続した構成としてもよく、要は、継手リング14の上記溝14a、14b内に収納可能で、かつ推進ボルト18a、18bにより、継手リング14の上記溝14a、14b内に収納された状態から、上杭1aと下杭1bのそれぞれの端板12a、12bを上下から挟み込んでその両者を接続できるものであればよい。
【0017】
次に、以上で説明した継手装置による上杭1aと下杭1bの接続について説明する。
図3は、継手リング14を取り付けた下杭1bに上杭1aを取り付ける前の状態を示す斜視図である。
即ち、地中に立設した下杭1bに、その溝内に割リングを収納した継手リング14を嵌め、取付ボルト20で下杭1bの端板12bに位置固定しておく。続いて、例えばクレーンで吊った上杭1aを継手リング14の上方から継手リング14内に下降させ、既に下杭1bの端板12bのピン孔24b(図1)に挿入されたピン22に対し上杭1aの端板12aの下面に形成したピン孔24a(図1)に位置合わせして、その突出した上部を挿入し、このようにして、上杭1aと下杭1bの端板12a、12b同士が当接し、同時にその接合面内における相互の位置決めがなされる。
【0018】
上杭1aと下杭1bとを当接した状態で、次に、継手リング14の外周側から適当な工具により、それぞれ推進ボルト18a、18bを駆動する。推進ボルト18a、18bは、継手リング14の外周面から上記溝14a、14bまで延びたネジ溝15a、15b内を前進し、その先端部で割りリング16a、16bを継手リング14の中心に向かって押し込む。その際、割リング16a、16bはその先端部に形成したテーパ面16a(1)、16b(1)が、端板12a、12bの円周端部のテーパ面12a(1)及び12b(1)に案内されて継手リング14の中心に向かって進み、図1に示すように、上下の端板12a、12bを割リング16a、16bが上下から挟持して、上杭12aと下杭12bとが一体に接続される。
【0019】
図4は、このようにして接続された上杭1aと下杭1bとを示す斜視図である。
なお、以上の説明では、取付ボルト20は、下杭1bの端板12bにのみ設けるものとして説明したが、これに限らず、上杭1aの端板12aにも設けてもよい。それによって、継手装置による上杭1aと下杭1bの接続がより強固なものとなる。
また、取付ボルト20を上杭1aの端板12aに取り付ける場合は、当然のことながら上杭1aと下杭1bを当接した後に行う。
また、ピン22は、一つに限らず、例えば杭の中心からみて放射状に互いに対称となる位置に複数設けることで位置決めが一層確実になる。
【0020】
以上説明したように、本実施形態の杭の継手装置によれば、簡単な構成により上杭1aと下杭1bとを強固に接続でき、しかも現場での作業は上枠と下枠の位置決めとネジの締め付けやネジによる割リング16a、16bの推進のみであるから、熟練を要することなく、また、天候に左右されることなく常に強固な杭の接続が可能である。しかも、一旦接続した杭同士は外力が作用しても従来の摩擦係合した継手装置のように緩む虞がない。
【符号の説明】
【0021】
1a・・・上杭、1b・・・下杭、10a、10b・・・被覆金属円筒、12a、12b・・・端板、14・・・継手リング、14a、14b・・・溝、16a、16b・・・割リング、18a、18b・・・推進ボルト、20・・・取付ボルト、22・・・(位置決め)ピン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上杭の下端部及び下杭の上端部に、それぞれの端部の外周に沿って環状に突出するように取り付けた上下の端板を備え、上下の端板を当接させた状態で端板同士を固定保持することで上杭と下杭を接続する継手装置であって、
前記端板部分に外嵌する継手リングの内周面内に収納され、かつ前記端板部分に向かって駆動されて前記当接した端板の前記環状部分の上下面を拘束する端板固定保持手段を有することを特徴とする杭の継手装置。
【請求項2】
請求項1に記載された杭の継手装置において、
前記端板は、それぞれが取り付けられる上下の杭の端部よりも大径に形成されており、その周縁部に前記端板固定保持手段と係合する係合面が形成されていることを特徴とする杭の継手装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された杭の継手装置において、
前記端板固定保持手段は、前記継手リング内周に沿って形成された上下2条の溝に収容された複数の割リングから成ることを特徴とする杭の継手装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載された杭の継手装置において、
前記上下の端板及び上下の割リングのそれぞれの摺接面は、同じ角度のテーパ面として形成されていることを特徴とする杭の継手装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載された杭の継手装置において、
前記継手リングを前記下杭又は上下の杭に固定するための取付手段を備えたことを特徴とする杭の継手装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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