説明

杭穴充填物の採取装置

【課題】拡大根固め部の水平方向の任意な位置で充填物を採取して、拡大根固め部の性能をより正確に把握する。
【解決手段】上端に連結部14を有する基部11に支持片16を突設して、腕杆20の基端部21を軸止し、腕杆20の先端部22に収容容器25を取り付け、採取装置本体10とする。採取装置本体10の連結部14を地上からのロッド3に連結して、採取装置1とする(a)。採取装置1は腕杆20が下方に垂れた状態で、杭穴31の軸部32(径D)内を通過して(a)、拡大根固め部33の採取位置で、腕杆20を回動して水平状態とし、穴壁34付近の充填物を採取できる(b)。収容容器25の開口部26を開いて充填物を採取した後、開口部26を塞ぎ、腕杆20を下に垂れた状態に戻して、地上に引き上げできる(a)。腕杆20を斜めにすれば、任意の位置の充填物を採取できる(c)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、セメントミルクやソイルセメントなどが充填された杭穴から充填物を地上へ取り出すための杭穴充填物の採取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤を掘削して形成した杭穴内に既製杭を埋設して基礎杭構造を構成するに際して、支持地盤に形成される根固め部の強度が、基礎杭構造に影響を与えている。通常、根固め部は、地上からセメントミルクを注入し、杭穴残留物である掘削泥土と混練してソイルセメントを生成しており、より大きな強度を求める場合には、掘削泥土をセメントミルクに置換していた。
【0003】
このような杭穴充填物の強度を確認する手段として、セメントミルクやソイルセメントなどの充填物の状況が地上から確認できないため、充填物が固化した後に、地上10〜70mの地中まで穴を空けてボーリングにより採取することがなされていた。このボーリングによる方法では、時間、費用などの面で負担が多いので、固化前の充填物を杭穴内から採取して、地上で固化させて、現実の杭穴根固め部の性能を推定することがなされている(特許文献1、特許文献2)。
【0004】
第1の発明では、ロッドの下端に充填物を採取できるホッパーを取り付けて構成していた(特許文献1)。この発明は、杭穴底付近の根固め部から充填物を採取することを目的として構成された。また、第2の発明は、未固結充填物を採取する場合、杭穴の深さ方向での充填物の性能を確認するために、逆止弁を設けたパイプ基材を多数直列につなげて、様々な深さから未固結資料を採取することも提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−73360
【特許文献2】特開2010ー59619
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記従来の技術では、特許文献1では、根固め部で一番重要と考えれている杭穴の底部に着目して、杭穴の底から充填物を採取することを目的とした。また、その後、根固め部の底だけでなく深さ方向での充填物の性能のバラツキも確認できるように特許文献2が提案されている。
【0007】
しかし、昨今、より大きな強度が基礎杭構造に求められており、そのために根固め部の周辺での充填物の性能を確認する手段が求められており、前記両発明では、杭穴根固め部の穴壁の周辺から充填物を採取することは難しかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこでこの発明では、ロッドに連結する基部に回動する腕杆を設け、腕杆の先端に収容容器を設けたので、前記問題点を解決した。
【0009】
即ちこの発明は、地上から杭穴根固め部に至る長さのロッドの下端部に、採取装置本体を設けて、以下のように構成することを特徴とする杭穴充填物の採取装置である。
(1) 前記採取装置本体は、基部に腕杆の基端部を回転自在に取り付け、該腕杆の先端部に、地上からの操作で開閉できる収容容器を設けて構成する。
(2) 前記採取装置本体は、第1状態で前記ロッドに沿って配置され、第2状態で前記腕杆が可動して、前記収容容器を前記ロッドから遠い位置に配置する。
【0010】
また、前記において、以下のように構成した杭穴充填物の採取装置である。
(1) 杭穴を、軸部(径D)の下端に続き拡径した根固め部(径D)を形成して構成する。
(2) 採取装置本体は、第1状態で前記杭穴軸部の径Dより小さな径に納まり、第2状態で腕杆が前記杭穴軸部の径Dより大きくかつ根固め部の径Dより小さくなるように形成する。
【0011】
また、前記において、採取装置本体の基部に、該基部周辺の充填物を採取できる第2収容容器を設けた杭穴充填物の採取装置である。
【発明の効果】
【0012】
この発明の採取装置では、基部に、先端に収容容器を設けた腕杆を回動させることができるので、基部から腕杆の長さに相当する分だけ遠い位置で杭穴充填物を採取できる。従って、拡大根固め部の穴壁付近の充填物を容易に採取することができる。
【0013】
また、採取装置本体を、第1状態で杭穴軸部の径小さくして、第2状態で杭穴軸部の径より大きくかつ根固め部の径小さく形成すれば、杭穴の軸部の穴壁を傷つけることなく、容易に拡大根固め部の穴壁周辺の充填物を採取できる。さらに、採取装置本体の基部周辺にも収容容器を設ければ、拡大根固め部の中心付近と穴壁付近の水平方向で異なる位置から充填物を採取できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、この発明の実施例で、(a)は第1状態、(b)は第2状態、(c)は第3状態を表す。
【図2】図2は、使用状態で、(a)は第1状態、(b)は第2状態を表す。
【図3】図3(a)〜(c)は、実施例の作動を表す。
【図4】図4(a)(b)は、他の実施例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1) 円筒状又は円柱状の基部11の上端に連結部14を形成する。基部11の上端部13に支持片16を突設して、腕杆20の基端部21を軸止し、腕杆20の先端部22に収容容器を取り付ける。以上のようにして、採取装置本体10を形成し、採取装置本体10の連結部14を地上からのロッド3に連結して、採取装置1を構成する(図1(a))。
【0016】
(2) 採取装置1は腕杆20が下方に垂れた状態で、軸11aから収容容器25迄の距離Lとした場合、「L<D」としてあり、採取装置1は杭穴壁を傷つけず、杭穴31の軸部32(径D)内を挿通できる(図1(a))。
【0017】
(3) 採取装置本体1が杭穴31の根固め部33内の採取位置に至ったならば、基部11の中心11aを根固め部33(杭穴31)の中心に位置させ、ロッド3の下降を止めて腕杆20を回動して開いて水平状態とする。この状態で軸11aから収容容器25までの距離Lは、「D÷2<L<D÷2」となっているので、杭穴31の根固め部33の穴壁34付近の充填物を採取できる(図1(b))。
収容容器25の開口部26を開いて充填物を採取したならば、収容容器25の開口部26を塞ぎ、腕杆20を下に垂れた状態に戻せば、杭穴31の軸部32内を通って、採取装置1を地上に引き上げできる(図1(a))。
また、根固め部32の中心部と穴壁34の間の充填物を採取する場合には、腕杆20を斜めまで開いて、軸11aから収容容器25までの距離Lとして(L<L<L)、同様に収容容器25の開口部26を開いて充填物を採取する(図1(c))。
【0018】
(4) 腕杆20の回動、収容容器25の開閉は、地上から腕杆20、収容容器25に接続されたワイヤーなどの操作手段(図示していない)により行われる。
【0019】
(5) 前記において、収容容器20は1つ設けたが、支持片16A、収容容器25A付きの腕杆20Aを、腕杆20等と直径対称に配置して、2つの収容容器25、25Aを設けることもできる(図1(a)鎖線図示16A、20A、25A)。この場合、直径対称以外に、90度位置、120度位置などで配置することもできる(図示していない)。また、収容容器25付き腕杆20を3つ以上設けることもできる。
また、前記において、基部11の下端部に、連結部14と嵌合できる下連結部18を形成することもでき、この場合には、採取装置本体10、10を上下に複数個連結することができ、根固め部33の異なる深さで充填物を採取できる(図1鎖線図示18)。
【実施例1】
【0020】
図面に基づいてこの発明の実施例を説明する。
【0021】
1.採取装置1の構成
【0022】
(1) この発明の採取装置1は、採取装置本体10の上端部に、地上30からのロッド3の下端部4を連結して構成する。
【0023】
(2) 下端部12が丸まった円柱状の基部11の上端に、ロッド3と連結するための連結部14を連設する。基部11の上端部13に水平方向の支持片16を突設して、支持片16の先端部に、腕杆20の基端部21を軸17で回転自在に取り付ける。従って、腕杆20は、下方に垂れた状態から約180度回転して、上方に向けた状態まで回動できる。また、腕杆20は、常時は下方に垂れた状態となるように、バネなどにより付勢されている(図2(a))。
また、腕杆20の先端部22に箱状の収容容器25を固定する。収容容器25は、腕杆20が下に垂れた状態で外側に向けた方向(腕杆20が水平の状態で上に向けた方向)に開口部26を有し、開口部26には、腕杆20の長さ方向で、腕杆20の基端部21側に向けてスライドして開口する蓋27を取り付けてある。蓋27は、常時は閉じているように、バネなどにより付勢されている。
以上のようにして、採取装置本体10を構成する(図2(a))。
【0024】
(3) 連結するロッド3の下端部4の外壁に係止突起5を突設して、腕杆20の中間部に第1ワイヤー6の先端部6aを固定して、第1ワイヤー6の中間部を係止突起5に通した後に、第1ワイヤー6の基端部6bを地上30に位置させる。
また、蓋27の基端側(腕杆20の基端側)に第2ワイヤー7の先端部7aを固定して、第2ワイヤー8の中間部を係止突起5に通した後に、第2ワイヤー7の基端部7bを地上30に位置させる。
【0025】
(4)以上のようにして、この発明の採取装置1を構成する(図2)。
【0026】
2.採取装置1の使用
【0027】
(1) 通常の方法で、径Dの軸部32の先端に径Dの拡大根固め部33からなる杭穴31を掘削し、拡大根固め部33内にセメントミルクを注入して、掘削泥土と撹拌混合して根固め液(杭穴充填物)を形成する。なお、拡大根固め部33内にセメントミルクを静かに注入して、拡大根固め部33内の掘削泥土をセメントミルクに置換することもでき、根固め液の構成は任意である。
【0028】
(2) 続いて、採取装置1を、必要長さのロッド3を連結しながら、採取装置本体10部分を杭穴31(拡大根固め部33)の軸(平面視で杭穴31の中心位置)に合わせて挿入して、拡大根固め部33の採取予定位置に至らせる(図2(a))。この際、腕杆20は常に閉じた状態に付勢されているので埋設時に開くことがないので、採取装置1は杭穴の軸部(軸径のD)以内に納まり、軸部32の穴壁を傷つけることはない。
【0029】
(3) 続いて、地上30で第1ワイヤー6を引いて、腕杆20を水平状態とすれば、収納容器25は基部11の軸11aから水平距離Lの位置にあり(L<D÷2)、拡大根固め部33の穴壁34の周辺部に至る(図2(b))。
この状態で、地上30で第2ワイヤー7を引けば、蓋17がスライドして収容容器25が開口して、開口部26から充填物が収容容器25内に入る(図2(b))。
【0030】
(4) 充填物の採取が完了したならば、第2ワイヤー7、第1ワイヤー6の順に緩めれば、蓋27が収容容器25の開口部26を塞ぎ、収容容器25を密封して、腕杆20は下に垂れた状態に戻る(図2(a))。従って、この状態で、採取装置1は杭穴31の軸部の軸径Dより小さいので、ロッド3を引き上げれば、軸部32の穴壁を傷つけることなく採取装置1を地上30に回収できる。この際、腕杆20や蓋27が作動しないように、採取装置本体10とワイヤー6、7の相対位置を動かさないように注意する。
【0031】
(5) 続いて、採取装置1の収容容器25内から収容した充填物を取り出して、所定の供試体容器に入れて、固化させて、強度試験などを行う。
【0032】
(6) また同時に、採取装置1を地上30に引き上げたならば、速やかに、通常の方法により、杭穴31内に既製杭を埋設して、根固め液が固化したならば基礎杭構造を構成する(図示していない)。
【0033】
(7) また、前記において、採取装置本体10部分を拡大根固め部33の軸(平面視で中心位置)に合わせて挿入して使用したが、設置位置は任意であり、軸から偏心させて使用することもできる(図示していない)。
【0034】
3.他の実施例
【0035】
(1) 前記実施例において、腕杆20の回動を操作する第1ワイヤー6と、蓋27の開閉を操作する第2ワイヤー7とを設けたが、腕杆20の回動と蓋27の開閉を第1ワイヤー6で操作することもできる(図3)。腕杆20、蓋27は前記実施例と同様の構造であり、腕杆20は垂れた状態、蓋27は閉じた状態に付勢され、第1ワイヤー6の先端部6aを蓋27の基端側に連結されている(図3(c))。なお、蓋27の付勢は腕杆20の付勢よりもより強く作用するように形成されている。
この場合、採取装置本体10が拡大根固め部33の採取位置に達したならば、第1ワイヤー6をゆっくり引くと先ず腕杆20が水平方向となるように回動して(図3(a))、更に第1ワイヤー6を引くと、次ぎに蓋27がスライドして収容容器25の開口部26が開いて、充填物を収容容器25内に収容できる(図3(b))。収容が完了したならば、第1ワイヤー6の引きを解除すれば、蓋27が戻り開口部26を塞ぎ、腕杆20は下に垂れた状態に戻る(図3(c))。
【0036】
(2) また、前記実施例において、採取装置本体10の基部11に、さらに収容容器25Bを直接に取り付けることもできる。この場合には、前記同様の蓋27の開閉機構を設け(図示していない)、拡大根固め部33の中心側と杭穴壁34側の二箇所から充填物を採取できる(図4(a))。
【0037】
(3) また、前記実施例において、採取装置本体10の基部11を円柱状としたが、中間部に円筒状の収容容器25Cを設けて、収容容器25Cの開口26を開閉できる円筒状の蓋27Cを被せることもできる(図4(b))。蓋27は、基部11に沿って配置する操作棒28を地上から昇降操作して行うことができるので、この場合にも拡大根固め部33の中心側と杭穴壁34側の二箇所から充填物を採取できる(図4(b))。
【0038】
(4) また、前記実施例において、腕杆20は支持片16の軸17周りに180度回動できる構造としたが、回動角度は他の角度とすることもできる(図示していない)。例えば、腕杆20が下方に垂れた状態(または他の位置)から30度、60度、90度などに規制するようにストッパーを設けることもできる。
【符号の説明】
【0039】
1 採取装置
3 ロッド
4 ロッドの下端部
5 係止突起
6 第1ワイヤー
7 第2ワイヤー
10 採取装置本体
11 基部
11a 基部の軸
12 基部の下端部
13 基部の上端部
14 連結部
16、16A 支持片
17 支持片の軸
18 下連結部
20、20A 腕杆
21 腕杆の基端部
22 腕杆の先端部
25、25A、25B、25C 収容容器
26 収容容器の開口部
27 収容容器の蓋
28 操作棒
30 地上
31 杭穴
32 杭穴の軸部
33 杭穴の拡大根固め部
34 拡大根固め部の穴壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上から杭穴根固め部に至る長さのロッドの下端部に、採取装置本体を設けて、以下のように構成することを特徴とする杭穴充填物の採取装置。
(1) 前記採取装置本体は、基部に腕杆の基端部を回転自在に取り付け、該腕杆の先端部に、地上からの操作で開閉できる収容容器を設けて構成する。
(2) 前記採取装置本体は、第1状態で前記ロッドに沿って配置され、第2状態で前記腕杆が可動して、前記収容容器を前記ロッドから遠い位置に配置する。
【請求項2】
以下のように構成した請求項1記載の杭穴充填物の採取装置。
(1) 杭穴を、軸部(径D)の下端に続き拡径した根固め部(径D)を形成して構成する。
(2) 採取装置本体は、第1状態で前記杭穴軸部の径Dより小さな径に納まり、第2状態で腕杆が前記杭穴軸部の径Dより大きくかつ根固め部の径Dより小さくなるように形成する。
【請求項3】
採取装置本体の基部に、該基部周辺の充填物を採取できる第2収容容器を設けた請求項1記載の杭穴充填物の採取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−214297(P2011−214297A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82925(P2010−82925)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000176512)三谷セキサン株式会社 (91)
【Fターム(参考)】