説明

板状多孔品の成形方法及び成形装置

【課題】しわ、破断等の不具合が生じることなく、板状多孔品を成形する。
【解決手段】ロール型21を構成する上型23(下型22)は、基準直径の円筒面と、この円筒面に対する高低差が同一となる凸部23H及び凹部23Lを備えている。そして、凸部23H及び凹部23Lは、基準直径の円筒面の、円周方向に一定のピッチで交互に、かつ、軸方向に一定の幅で交互に配置される態様で構成されている。そして、基準直径の円筒面と、この円筒面に対する高低差が同一の凸部23H及び凹部23Lとで、ロール表面が3階層をなすものである。このロール型21に板状素材Wを連続的に送り込むことで、板状素材Wの表裏両側に、板状素材の平面からの突出量が表裏両側で同一となる突出部を突出させ、かつ、表裏両側の突出部の境界部分をせん断し、板状素材Wの平面と交差する方向の開口を成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池ガス流路形成部材等の板状多孔品の成形方法及び成形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、板状素材に部分的にせん断加工を施し、該板状素材の平面と交差する方向の開口を多数成形してなる板状多孔品を精密に成形し、様々な用途部品へと応用することが行われている。
例えば、燃料電池の、セパレータを含む複数のセル構成部材間に配置され、セパレータに隣接するガス流路を形成するための、ガス流路形成部材として、板状多孔品が用いられている。図6に示されるように、この燃料電池は、複数種類のセル構成部材が積層されることによって、セル(単セル)10が構成され、なおかつ、セル10が複数枚積層された燃料電池スタック11を構成することで、必要な電圧が確保されるものである。セル11の構造例としては、図7に示されるように、膜電極接合体12(Membrane Electrode Assembly:以下、「MEA」という。)がセルの厚み方向の中心部に配置され、その両面に、ガス拡散層14(アノード側/カソード側のガス拡散層14A、14C)、ガス流路形成部材16(アノード側/カソード側のガス流路形成部材16A、16C)、セパレータ18が夫々配置された構造となっている。なお、MEA12とガス拡散層14とが一体となった形態を、膜電極ガス拡散層接合体(MEGA:Membrane Electrode &Gas Diffusion Layer Assembly)と称することもある。
【0003】
そして、図7のようにガス流路形成部材16がセパレータ18と別体構造をなすセル構造においては、ガス流路形成部材16を構成する構造物として、従来からエキスパンドメタル等の板状多孔品が用いられている(例えば、特許文献1参照)。又、ガス流路形成部材16がセパレータ18と一体、若しくは、セパレータ18の機能を兼備する構造例も用いられている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−108573号公報
【特許文献2】特開2004−90078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、板状多孔品の一例であるエキスパンドメタルは、メッシュ状の開口が、いわゆる千鳥配置された連続構造をなしている。このエキスパンドメタルは、上記特許文献1にも開示されているように、板状素材を送りながら金型によって一段づつ切れ込みを入れることにより、メッシュが形成されるという、いわゆる逐次成形金型を用いた工法が一般的である。この、逐次成形金型を用いる工法は、金型の開閉による一段づつの成形作業のタイミングに合わせて、板状素材を間欠的に金型へと送り込むものであることから、板状多孔品の製造効率は、金型の開閉サイクルと、板状素材の間欠的な送り込み速度とによっても左右されるものとなる。
【0006】
なお、特許文献2には、ロール成形によって、燃料電池のガス流路形成部材を成形する技術について開示されているが、ここで開示されるガス流路形成部材は、エキスパンドメタルのごとき板状多孔品と異なり、開口部を有していないものである。本発明者らは、開口部を有するガス流路成形部材を、ロール成形により加工する技術について鋭意研究を進めているが、その過程で次のような点が問題となった。
【0007】
すなわち、板状素材に開口部を形成するためには、板状素材を部分的にせん断し、せん断により生じる端部に曲げ加工又はしぼり加工を施す必要がある。しかも、ガス流路形成部材としての良好なガス流路を確保するために、図8(a)に示されるように、ガス流路形成部材14には、ガス流路の巨視的なガス流れ方向又はそれと直交する方向に隣接する開口部Opを、少量づつ位相をずらした態様で成形する必要がある。このため、開口部Opの位相差が異なるガス流路形成部材を形成するためには、夫々専用の成形用ロール型が必要となる。或いは、外周端に台形状の開口部Opを成形するための形状を有する円盤状型部材を、回転軸に複数挿通し積層することによりロール型を構成する場合には、少なくとも回転軸と円盤状型部材との円周方向の位置決めを行うための、キーの位置変更が必要となる。しかも、このキー位置は、開口部Opのズレ量に対応するものであり、ミクロン単位の精度が要求される場合もあることから、成形型の製造コストの増大を来たすものともなる。
【0008】
又、ロール成形の場合には、図8(b)に示されるように、板状素材Wがロール型に対して連続的に送り込まれることで、図中の矢印Aで示される方向に成形が進み、開口部Opが連続的に形成されて行く。この際に、変形後の板状素材Wの台形状の開口上部と下部とで、変形量が異なること等から、板状素材Wの、次の瞬間の開口部Op成形箇所(点線枠Bで示される)には、大きさの異なる引張力FL、FSが加わることとなる。その結果、ロール成形された製品には、しわ、破断、局所的な板厚の減少等の不具合が、顕著に発生することとなる。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、成形型のコストを増大させること無く、又、製品にしわ、破断、局所的な板厚の減少等の不具合が生じることなく、効率的に板状多孔品を成形することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0010】
(1)板状素材に対し、ロール型を用いて部分的にせん断加工を施し、前記板状素材の平面と交差する方向の開口を多数成形する板状多孔品の成形方法(請求項1)。
本項に記載の板状多孔品の成形方法は、ロール型に板状素材を連続的に送り込み、板状素材に部分的にせん断加工を施すことで、板状素材の平面と交差する方向の開口を多数成形し、板状素材から板状多孔品への連続成形を行うものである。
【0011】
(2)上記(1)項において、前記せん断加工を施す際に用いるロール型を、基準直径の円筒面と、該円筒面に対する高低差が同一となる凸部及び凹部とを備え、該凸部及び凹部が、前記基準直径の円筒面の、円周方向に一定のピッチで交互に、かつ、軸方向に一定の幅で交互に配置される態様で構成し、該ロール型を用いて、前記板状素材の表裏両側に、前記板状素材の平面からの突出量が表裏両側で同一となる突出部を突出させ、かつ、該表裏両側の突出部の境界部分をせん断することにより、前記板状素材の平面と交差する方向の開口を成形する板状多孔品の成形方法(請求項2)。
【0012】
本項に記載の板状多孔品の成形方法は、板状素材に対し上記(1)のせん断加工を施す際に、ロール型を用いることで、板状多孔品の連続成形を行うものである。しかも、このロール型を、基準直径の円筒面と該円筒面に対する高低差が同一となる凸部及び凹部を備え、該凸部及び凹部は、前記基準直径の円筒面の、円周方向に一定のピッチで交互に、かつ、軸方向に一定の幅で交互に配置される態様で構成するものである。従って、このロール型は、基準直径の円筒面と、該円筒面に対する高低差が同一の凸部及び凹部とで、ロール表面が3階層をなすものとなる。かかるロール型に板状素材を連続的に送り込むことで、凸部及び凹部により板状素材に曲げ加工又はしぼり加工を施し、板状素材の表裏両側に、板状素材の平面からの突出量が表裏両側で同一となる突出部を突出させる。しかも、曲げ加工又はしぼり加工と共に、表裏両側の突出部の境界部分をせん断することにより、板状素材の平面と交差する方向の開口を成形するものである。
このようにして成形した板状多孔品は、板状素材の平面が残る部分と、その平面の表裏両面に同一の突出量で突出する突出部とで、3階層をなすものとなる。しかも、このような3階層構造を成形することで、板状素材がロール型に対して連続的に送り込まれて成形が進み、開口部が連続的に形成されて行く際に、板状素材の開口部成形箇所には、均等に引張力が加わることとなる。なお、本項により得られる板状多孔品は、3階層を構成する板状素材の平面が残る部分が、必ずしも面状である必要はなく、例えば線状(断面視で点状)であっても良い。
【0013】
(3)上記(2)項において、前記せん断加工を施す際に用いる前記ロール型を、外周端に前記凸部及び凹部が一定のピッチで交互に形成された、複数の円盤状型部材を、軸部材に挿通し積層して構成する板状多孔品の成形方法(請求項3)。
本項に記載の板状多孔品の成形方法は、せん断加工を施す際に用いるロール型を、外周端に凸部及び凹部が一定のピッチで交互に形成された、複数の円盤状型部材を、軸部材に挿通し積層して構成するものである。
【0014】
(4)上記(3)項において、前記複数の円盤状型部材を、前記軸部材に挿通し積層する際に、隣接する前記円盤状型部材同士で表裏反転する態様とすることで、前記凸部及び凹部が前記基準直径の円筒面の軸方向に交互に配置されることとなるように、前記円盤状型部材と前記軸部材との円周方向の位置決めを行うためのキーと、前記円盤状型部材の外周端に形成された前記凸部及び凹部との位置関係を定めて、前記円盤状型部材を構成する板状多孔品の成形方法(請求項4)。
本項に記載の板状多孔品の成形方法は、円盤状型部材と軸部材との円周方向の位置決めを行うためのキーと、円盤状型部材の外周端に形成された凸部及び凹部との位置関係を、隣接する円盤状型部材同士で表裏反転するように積層することで、凸部及び凹部が基準直径の円筒面の軸方向に交互に配置されるように構成したものである。これにより、ロール型は、一種類の円盤状方部材のみによって、基準直径の円筒面と該円筒面に対する高低差が同一となる凸部及び凹部を備え、該凸部及び凹部は、基準直径の円筒面の、円周方向に一定のピッチで交互に、かつ、軸方向に一定の幅で交互に配置される態様となる。
【0015】
(5)上記(3)(4)項において、前記円盤状型部材の間に、スペーサーを配置する板状多孔品の成形方法(請求項5)。
本項に記載の板状多孔品の成形方法は、円盤状型部材の間にスペーサーを配置することで、ロール型の基準直径の円筒面の、軸方向に一定の幅で交互に形成される凸部及び凹部に、スペーサーの厚み分の間隔を持たせるものである。これにより、ロール型に対向する型若しくはダイとの間で、前記板状素材に必要な形状の凸部及び凹部を成形するに適した、クリアランスを確保するものである。
【0016】
(6)上記(1)から(5)項において、前記ロール型と、ゴムダイとを組合せて、前記せん断加工を行う板状多孔品の成形方法(請求項6)。
本項に記載の板状多孔品の成形方法は、ロール型に板状素材を連続的に送り込み、板状素材Wに対してゴムダイにて圧力を付与することで、ロール型の凸部及び凹部の形状に倣うように、板状素材及びゴムダイを変形させる。そして、板状素材の表裏両側に、板状素材の平面からの突出量が表裏両側で同一となる突出部を突出させ、かつ、該表裏両側の突出部の境界部分をせん断することにより、板状素材の平面と交差する方向の開口を成形するものである。
【0017】
(7)燃料電池のセパレータを含む複数のセル構成部材間に配置され前記セパレータに隣接するガス流路を成形するための、ガス流路形成部材の成形方法であって、上記(1)から(6)のいずれか1項の板状多孔品の成形方法により、板状素材の表裏両側に、前記板状素材の平面からの突出量が表裏両側で同一となるように突出して、セル状態で隣接するセル構成部材と接触する接触面を形成し、かつ、該接触面を構成する表裏両側の突出部の境界部分をせん断することにより、前記板状素材の平面と交差する方向の開口を成形すると共に、表側の接触面と裏側の接触面とを、ガス流路の巨視的なガス流れ方向に対し平行又は交差する連結面によって連結し、なおかつ、該連結面を、各々、ガス流路の巨視的なガス流れ方向又はそれと直交する方向に隣接する同士の位相が一致する態様へと加工する成形方法(請求項7)。
本項に記載の燃料電池ガス流路形成部材の成形方法は、燃料電池のセパレータを含む複数のセル構成部材間に配置されセパレータに隣接するガス流路を形成するための、上記特徴を有するガス流路形成部材を成形する際に、上記(1)から(6)のいずれか1項記載の板状多孔品の成形方法にて得られる所定の作用を奏するものである。
【0018】
(8)板状素材に対し、部分的にせん断加工を施し、前記板状素材の平面と交差する方向の開口を多数成形してなる板状多孔品の成形装置であって、ロール型を含み、該ロール型は、基準直径の円筒面と該円筒面に対する高低差が同一となる凸部及び凹部を備え、該凸部及び凹部は、前記基準直径の円筒面の、円周方向に一定のピッチで交互に、かつ、軸方向に一定の幅で交互に形成されている板状多孔品の成形装置(請求項8)。
【0019】
本項に記載の板状多孔品の成形装置は、ロール型によって、板状多孔品の連続成形を行うものである。このロール型は、基準直径の円筒面と該円筒面に対する高低差が同一となる凸部及び凹部を備え、該凸部及び凹部は、基準直径の円筒面の、円周方向に一定のピッチで交互に、かつ、軸方向に一定の幅で交互に形成されている。従って、このロール型は、基準直径の円筒面と、該円筒面に対する高低差が同一の凸部及び凹部とで、ロール表面が3階層をなすように構成されたものである。かかるロール型に板状素材を連続的に送り込むことで、凸部及び凹部により板状素材に曲げ加工又はしぼり加工を施し、板状素材の表裏両側に、板状素材の平面からの突出量が表裏両側で同一となる突出部を突出させる。しかも、曲げ加工又はしぼり加工と共に、表裏両側の突出部の境界部分をせん断することにより、板状素材の平面と交差する方向の開口を成形するものである。
このロール型により成形される板状多孔品は、板状素材の平面が残る部分と、その平面の表裏両面に同一の突出量で突出する突出部とで、3階層をなすものとなる。しかも、このような3階層構造は、板状素材がロール型に対して連続的に送り込まれて成形が進み、開口部が連続的に形成されて行く際に、板状素材の開口部成形箇所には、均等に引張力が加わることとなる。なお、本項により成形される板状多孔品は、3階層を構成する板状素材の平面が残る部分が、必ずしも面状である必要はなく、例えば線状(断面視で点状)であっても良い。
【0020】
(9)上記(8)項において、前記ロール型は、外周端に前記凸部及び凹部が一定のピッチで交互に形成された、複数の円盤状型部材が、軸部材に挿通され積層されてなる板状多孔品の成形装置(請求項9)。
本項に記載の板状多孔品の成形装置は、外周端に凸部及び凹部が一定のピッチで交互に形成された複数の円盤状型部材を、軸部材に挿通し積層することにより、ロール型が構成されるものである。
【0021】
(10)上記(9)項において、前記複数の円盤状型部材を、前記軸部材に挿通し積層する際に、隣接する前記円盤状型部材同士で表裏反転する態様とすることで、前記凸部及び凹部が前記基準直径の円筒面の軸方向に交互に配置されることとなるように、前記円盤状型部材と前記軸部材との円周方向の位置決めを行うためのキーと、前記円盤状型部材の外周端に形成された前記凸部及び凹部との位置関係を定めて、前記円盤状型部材が構成されている板状多孔品の成形装置(請求項10)。
本項に記載の板状多孔品の成形装置は、円盤状型部材と軸部材との円周方向の位置決めを行うためのキーと、円盤状型部材の外周端に形成された凸部及び凹部との位置関係を、隣接する円盤状型部材同士で表裏反転するように積層することで、凸部及び凹部が基準直径の円筒面の軸方向に交互に配置されるように構成したものである。これにより、ロール型は、一種類の円盤状方部材のみによって、基準直径の円筒面と該円筒面に対する高低差が同一となる凸部及び凹部を備え、該凸部及び凹部は、基準直径の円筒面の、円周方向に一定のピッチで交互に、かつ、軸方向に一定の幅で交互に配置される態様となる。
【0022】
(11)上記(9)(10)項において、前記円盤状型部材の間に、スペーサーが配置されている板状多孔品の成形装置(請求項11)。
本項に記載の板状多孔品の成形装置は、円盤状型部材の間にスペーサーが配置されることで、ロール型の基準直径の円筒面の、軸方向に一定の幅で交互に形成される凸部及び凹部に、スペーサーの厚み分の間隔を持たせるものである。これにより、ロール型に対向する型若しくはダイとの間で、前記板状素材に必要な形状の凸部及び凹部を成形するに適した、クリアランスを確保するものである。
【0023】
(12)上記(8)から(11)項において、前記ロールと組合せて用いるゴムダイを含む板状多孔品の成形装置(請求項12)。
本項に記載の板状多孔品の成形装置は、ロール型の凸部及び凹部の形状に倣うように、ロール型に連続的に送り込まれた板状素材及びゴムダイを変形させる。そして、板状素材の表裏両側に、板状素材の平面からの突出量が表裏両側で同一となる突出部を突出させ、かつ、該表裏両側の突出部の境界部分をせん断することにより、板状素材の平面と交差する方向の開口を成形するものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明はこのように構成したので、成形型のコストを増大させること無く、又、製品にしわ、破断、局所的な板厚の減少等の不具合が生じることなく、効率的に板状多孔品を成形することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態に係る板状多孔品の成形方法により得られる板状多孔品を示すものであり、(a)は斜視図、(b)は正面図、(c)はC−C線における断面図、(d)は(b)の一部拡大図である。
【図2】図1に示される板状多孔品を示すものであり、(a)はその一部の斜視図、(b)はその成形時の様子を模式的に示すものである。
【図3】本発明の実施の形態に係る板状多孔品の成形装置を構成する、ロール型の一例を示すものであり、(a)はその成形時の様子を模式的に示す斜視図、(b)は(a)のC部を切り出し、拡大図示したものである。
【図4】図3に示されるロール型を構成する、円盤状型部材の平面図と、その一部の拡大図である。
【図5】図3に示されるロール型に、ゴムダイを組合せた場合の、成形時の様子を示す断面図である。
【図6】従来の燃料電池スタックの立体模式図である。
【図7】図6に示される燃料電池スタックを構成するセルの、構成部材を示す模式図である。
【図8】従来の板状多孔品の成形方法により得られる板状多孔品を示すものであり、(a)はその一部の斜視図、(b)はその成形時の様子を模式的に示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づいて説明する。なお、従来技術と同一部分若しくは相当する部分については同一符号で示し、詳しい説明を省略する。
【0027】
本発明の実施の形態では、図1に示されるような形状を有する板状多孔品20を成形するものである。この板状多孔品20は、燃料電池のガス流路形成部材であり、表裏両側に、セル状態で隣接するセル構成部材、具体的にはガス拡散層14及びセパレータ18(図7)との接触面である、平坦面20a、20bが規則的に突出している。又、この平坦面を構成する表裏両側の突出部の、境界部分をせん断することにより、板状素材W(図2(b)参照)の平面と交差する方向の開口Opを成形するものである。又、表側の平坦面20aと裏側の平坦面20bとが、ガス流路の巨視的なガス流れ方向に対し平行又は交差する面20c、20d、20e、20fによって連結され、かつ、同一面上に隣接する平坦面20g同士が連結されている。
【0028】
更に、表裏両側に突出する平坦面20a、20bと、表側の平坦面20aと裏側の平坦面20bとを連結する、ガス流路の巨視的なガス流れ方向に対し平行又は交差する面20c、20d、20e、20fとが、各々、ガス流路の巨視的なガス流れ方向又はそれと直交する方向に隣接する同士の位相が一致する態様となるように、形成されたものである。従って、板状多孔品20は、板状素材Wの平面が残る部分(平坦面20g)と、その平面の表裏両面に同一の突出量で突出する突出部(平坦面20a、20b)とで、3階層をなすものとなる。図示の板状多孔品20では、3階層を構成する板状素材のうち、同一面上に隣接する平坦面20gが面状をなしているが、この部分は必ずしも面状である必要はなく、本形状を維持するために最小限必要な構成として、例えば線状(断面視で点状)であっても良い。なお、図示の例では、板状多孔品20を構成する板状素材Wの厚みは、0.1mmとなっている。
【0029】
また、図2(a)の例では、板状多孔品20を構成する板状素材の平面と交差する方向の開口Opが、ガス流路の巨視的なガス流れ方向(図2(a)の左から右に向かう方向)と直交する方向を向くように配置されたものである。この場合、板状多孔品20により構成されるガス流路を流れるガスは、図中矢印GFで示されるように、ガス流路の巨視的なガス流れ方向に対し交差する面20c、20d、20e、20fを迂回するように蛇行しながら、このガス流路を流れるものとなる。
【0030】
かかる板状多孔品20を成形するために、本発明の実施の形態では、図3(a)に示されるロール型21を用いて、板状素材Wに対し、部分的にせん断加工を施し、板状素材Wの平面と交差する方向の開口Opを多数成形するものである。図3(a)のロール型21は、下型22、上型23の何れも円筒状をなしている。又、図示の例では、下型22は、金型又はゴムダイであり、上型23は金型となっている。
この上型23は、図4に示される円盤状型部材26を、複数、軸部材28(図3(a))に挿通し積層することにより構成されるものである。又、円盤状型部材26の外周端には、凸部26H及び凹部26Lが、一定のピッチで交互に形成されている。そして、基準直径D26Mの円筒面26Mと、基準直径の円筒面26Mに対する高低差yが同一となる、凸部23H(直径:D26M+y)及び凹部23L(直径D26M−y)を備えることで、上型23のロール表面は、3階層をなすものである。
【0031】
又、円盤状型部材26と軸部材28との円周方向の位置決めを行うためのキー26aと、円盤状型部材26の外周端に形成された凸部26H及び凹部26Lとの位置関係を、隣接する円盤状型部材26同士で表裏反転するように積層することで、凸部26H及び凹部26Lが、基準直径D26Mの円筒面の軸方向に交互に配置される態様で、円盤状型部材26が構成されている。図4に示される具体例では、円盤状型部材26は0.5mmの厚みを有し、キー26aの円周方向中央部を通る軸線Zに対し、円周方向の幅XHに形成された凸部26Hの中央部は、1°だけ円周方向(図4の時計回り)にオフセットするように構成されている。又、軸線Zに対し、円周方向の幅XLに形成された凹部26Lの中央部は、1°だけ円周方向(図4の反時計回り)にオフセットするように構成されている。更に、円周方向の幅XMに形成された凸部26Mの中央部が、軸線Z上に位置するものである。一方、円盤状型部材26を挿通する軸部材28(図3(a))には、円盤状型部材26のキー26aが係合するキー溝が、軸方向と平行に形成されている。
従って、複数の円盤状型部材26を、軸部材28に挿通する際に、隣接する円盤状型部材26同士で表裏反転するように積層することで、図3(b)に拡大図示されるように、凸部23H及び凹部23Lは、基準直径D26Mの円筒面の、円周方向に一定のピッチで交互に、かつ、軸方向に一定の幅で交互に配置される態様となる。なお、符号θ1、θ2は、凸部26H又は凹部26Lと、基準直径D26Mの円筒面26Mとをつなぐ傾斜面の傾斜角度を表しており、各々、適切な角度に設定されている。
【0032】
更に、必要に応じて、円盤状型部材26の間にスペーサーを配置して、軸方向に一定の幅で交互に形成される凸部23H及び凹部23Lに、スペーサーの厚み分の間隔を持たせることとしても良い。
なお、下型22についても金型を用いる場合には、この下型22も上型23と同様の構成をなし、上型23に対応する3階層のロール表面を有するものを用いることとなる。一方、下型22にゴムダイを用いる場合には、そのロール表面は単に円筒面であっても良く、又、上型23に対応する3階層のロール表面を有するものであっても良い。
【0033】
又、必ずしも、下型22、上型23の何れも円筒状をなしている必要はなく、図5に模式的に示されるロール型21’のごとく、下型22のみ、凸部22H及び凹部22Lを備えるロール型とし、上型として平坦な帯状のゴムダイ24を組合せることとしても良い。
この場合には、板状素材Wと共に帯状のゴムダイ24を連続的に送り込み、かつ、板状素材Wに対して平坦なゴムダイ24にて圧力Pを付与する。その結果、下型22の凸部22H及び凹部22Lに倣って板状素材W及びゴムダイ24が変形し、板状多孔品20の所定の形状を成形するものとなる。
【0034】
さて、上記構成をなす、本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。
すなわち、本発明の実施の形態では、板状素材Wに対しせん断加工を施す際に、ロール型21(21’)を用いることで、板状多孔品20の連続成形を行うものである。このロール型21を構成する上型23(下型22)は、図4に示される、基準直径D26Mの円筒面26Mと、この円筒面26Mに対する高低差yが同一となる凸部26H(23H)及び凹部26L(23L)を備えている。そして、凸部26H及び凹部26Lは、基準直径D26Mの円筒面26Mの、円周方向に一定のピッチで交互に、かつ、軸方向に一定の幅で交互に配置される態様で構成されている。従って、ロール型21を構成する上型23(下型22)は、基準直径D26Mの円筒面26Mと、この円筒面26Mに対する高低差が同一の凸部26H及び凹部26Lとで、ロール表面が3階層をなすものとなる。
【0035】
かかる上型23(下型22)に板状素材Wを連続的に送り込むことで、凸部26H及び凹部26Lにより板状素材Wに曲げ加工又はしぼり加工を施し、板状素材Wの表裏両側に、板状素材の平面からの突出量が表裏両側で同一となる突出部(平坦面20a、20b)を突出させる。しかも、曲げ加工又はしぼり加工と共に、表裏両側の突出部(平坦面20a、20b)の境界部分をせん断することにより、板状素材Wの平面と交差する方向の開口Opを成形することができる。そして板状多孔品20についても、板状素材Wの平面が残る部分(平坦面20g)と、その平面の表裏両面に同一の突出量で突出する突出部(平坦面20a、20b)とで、3階層をなすものとなる。
このような3階層構造を成形することで、図2(b)に示されるように、板状素材Wがロール型21(21’)に対して連続的に送り込まれ、図中の矢印Aで示される方向に成形が進み、開口部Opが連続的に形成されて行く際に、変形後の板状素材Wの台形状の開口上部と下部とで、変形量が均一となる。そして、板状素材Wの、次の瞬間の開口部Op成形箇所(点線枠Bで示される)には、均等に引張力Fが加わることとなる。その結果、しわ、破断、局所的な板厚の減少等の不具合が生じることもなく、高品質の製品を得ることが可能となる。
【0036】
又、ロール型21を構成する上型23(下型22)を、外周端に凸部26H及び凹部26Lが一定のピッチで交互に形成された円盤状型部材26を、複数、軸部材28に挿通し積層して構成している。これにより、上型23(下型22)は、基準直径D26Mの円筒面26Mと、この円筒面26Mに対する高低差が同一となる凸部26H(23H)及び凹部26L(23L)を備えたものとなる。
【0037】
又、円盤状型部材26と軸部材28との円周方向の位置決めを行うためのキー26aと、円盤状型部材26の外周端に形成された凸部26H及び凹部26Lとの位置関係を、隣接する円盤状型部材26同士で表裏反転するように積層することで、凸部26H及び凹部26Lが基準直径の円筒面の軸方向に交互に配置されることとなるように、構成している。これにより、上型23(下型22)の、複数の円盤状型部材26を軸部材28に挿通し積層して構成される凸部23H及び凹部23Lは、基準直径D26Mの円筒面26Mの、円周方向に一定のピッチで交互に、かつ、軸方向に一定の幅で交互に形成されたものとなる。
【0038】
又、円盤状型部材26の間にスペーサーを配置することで、上型23(下型22)の基準直径D26Mの円筒面26Mの、軸方向に一定の幅で交互に形成される凸部26H及び凹部26Lに、スペーサーの厚み分の間隔を持たせることも可能である。これにより、上型23と、上型23に対向する下型22との間で、板状素材Wに必要な形状の凸部及び凹部を(平坦面20a、20b)成形するに適した、クリアランスを確保することが可能となる。
又、ロール型21に板状素材Wを連続的に送り込み、図5に示されるように、下型22の凸部22H及び凹部22Lの形状に倣うように、板状素材W及びゴムダイ24を変形させることとしても、板状素材Wの表裏両側に、板状素材の平面からの突出量が表裏両側で同一となる突出部(平坦面20a、20b)を突出させ、かつ、表裏両側の突出部(平坦面20a、20b)の境界部分をせん断することにより、板状素材の平面と交差する方向の開口Opを成形することが可能となる。
【0039】
以上より、本発明の実施の形態によれば、ロール型21(21’)に板状素材Wを連続的に送り込み、板状素材Wに部分的にせん断加工を施すことで、板状素材Wの平面と交差する方向の開口Opを多数成形し、板状素材Wから板状多孔品20への連続成形を行うことが可能となる。
又、本発明の実施の形態によれば、板状多孔品20のごときガス流路形成部材を成形する際に、上記の板状多孔品20の成形方法にて得られる、所定の作用を奏するものとなる。
【0040】
又、本発明の実施の形態では、板状多孔品20の具体例として、燃料電池のガス流路形成部材を例示して説明したが、その他の機能性薄板成形部品の製造にも適用することが可能である。例えば、燃料電池のガス流路形成部材と同様に、流体(ガスや液体)との接触面積確保と強度とが必要な部品として、熱交換器への応用が挙げられる。更なる別例として、板状多孔品20の開口を、特定の形状成形が困難な粉末(触媒等を担持したもの)で満たすことにより、触媒作用を持ち、必要な強度を有する部品を構成することも可能となる。
【符号の説明】
【0041】
20:板状多孔品、20a:表側の平坦面、20b:裏側の平坦面、 20c、20d、20e、20f:ガス流路の巨視的なガス流れ方向に対し平行又は交差する面、20g:同一面上に隣接する平坦面、21:ロール型、22:下型、23:上型、24:ゴムダイ、26:円盤状型部材、26a:キー、26H:凸部、26M:基準直径部、26L:凹部、28:軸部材、W:板状素材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状素材に対し、ロール型を用いて部分的にせん断加工を施し、前記板状素材の平面と交差する方向の開口を多数成形することを特徴とする板状多孔品の成形方法。
【請求項2】
前記せん断加工を施す際に用いるロール型を、基準直径の円筒面と、該円筒面に対する高低差が同一となる凸部及び凹部とを備え、該凸部及び凹部が、前記基準直径の円筒面の、円周方向に一定のピッチで交互に、かつ、軸方向に一定の幅で交互に配置される態様で構成し、
該ロール型を用いて、前記板状素材の表裏両側に、前記板状素材の平面からの突出量が表裏両側で同一となる突出部を突出させ、かつ、該表裏両側の突出部の境界部分をせん断することにより、前記板状素材の平面と交差する方向の開口を成形することを特徴とする請求項1記載の板状多孔品の成形方法。
【請求項3】
前記せん断加工を施す際に用いる前記ロール型を、外周端に前記凸部及び凹部が一定のピッチで交互に形成された、複数の円盤状型部材を、軸部材に挿通し積層して構成することを特徴とする請求項2記載の板状多孔品の成形方法。
【請求項4】
前記複数の円盤状型部材を、前記軸部材に挿通し積層する際に、隣接する前記円盤状型部材同士で表裏反転する態様とすることで、前記凸部及び凹部が前記基準直径の円筒面の軸方向に交互に配置されることとなるように、
前記円盤状型部材と前記軸部材との円周方向の位置決めを行うためのキーと、前記円盤状型部材の外周端に形成された前記凸部及び凹部との位置関係を定めて、前記円盤状型部材を構成することを特徴とする請求項3記載の板状多孔品の成形方法。
【請求項5】
前記円盤状型部材の間に、スペーサーを配置することを特徴とする請求項3又は4記載の板状多孔品の成形方法。
【請求項6】
前記ロール型と、ゴムダイとを組合せて、前記せん断加工を行うことを特徴とする1から5のいずれか1項記載の板状多孔品の成形方法。
【請求項7】
燃料電池のセパレータを含む複数のセル構成部材間に配置され前記セパレータに隣接するガス流路を成形するための、ガス流路形成部材の成形方法であって、
前記1から6のいずれか1項記載の板状多孔品の成形方法により、
板状素材の表裏両側に、前記板状素材の平面からの突出量が表裏両側で同一となるように突出して、セル状態で隣接するセル構成部材と接触する接触面を形成し、かつ、該接触面を構成する表裏両側の突出部の境界部分をせん断することにより、前記板状素材の平面と交差する方向の開口を成形すると共に、表側の接触面と裏側の接触面とを、ガス流路の巨視的なガス流れ方向に対し平行又は交差する連結面によって連結し、なおかつ、該連結面を、各々、ガス流路の巨視的なガス流れ方向又はそれと直交する方向に隣接する同士の位相が一致する態様へと加工することを特徴とする成形方法。
【請求項8】
板状素材に対し、部分的にせん断加工を施し、前記板状素材の平面と交差する方向の開口を多数成形してなる板状多孔品の成形装置であって、
ロール型を含み、該ロール型は、基準直径の円筒面と該円筒面に対する高低差が同一となる凸部及び凹部を備え、該凸部及び凹部は、前記基準直径の円筒面の、円周方向に一定のピッチで交互に、かつ、軸方向に一定の幅で交互に配置されていることを特徴とする板状多孔品の成形装置。
【請求項9】
前記ロール型は、外周端に前記凸部及び凹部が一定のピッチで交互に形成された、複数の円盤状型部材が、軸部材に挿通され積層されてなることを特徴とする請求項8記載の板状多孔品の成形装置。
【請求項10】
前記複数の円盤状型部材を、前記軸部材に挿通し積層する際に、隣接する前記円盤状型部材同士で表裏反転する態様とすることで、前記凸部及び凹部が前記基準直径の円筒面の軸方向に交互に配置されることとなるように、
前記円盤状型部材と前記軸部材との円周方向の位置決めを行うためのキーと、前記円盤状型部材の外周端に形成された前記凸部及び凹部との位置関係を定めて、前記円盤状型部材が構成されていることを特徴とする請求項9記載の板状多孔品の成形装置。
【請求項11】
前記円盤状型部材の間に、スペーサーが配置されていることを特徴とする請求項9又は10記載の板状多孔品の成形装置。
【請求項12】
前記ロールと組合せて用いるゴムダイを含むことを特徴とする8から11のいずれか1項記載の板状多孔品の成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−103231(P2013−103231A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246721(P2011−246721)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】